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特開2024-34975プローブ複合体、特定微生物の検出剤、特定微生物の検出方法、前記プローブ複合体の使用、前記プローブ複合体に含まれる第一のプローブ又は第二のプローブの使用、及び特定微生物の分離方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034975
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】プローブ複合体、特定微生物の検出剤、特定微生物の検出方法、前記プローブ複合体の使用、前記プローブ複合体に含まれる第一のプローブ又は第二のプローブの使用、及び特定微生物の分離方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6876 20180101AFI20240306BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20240306BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240306BHJP
   C12N 1/02 20060101ALI20240306BHJP
   C07K 4/00 20060101ALI20240306BHJP
   C12Q 1/6888 20180101ALI20240306BHJP
   C12Q 1/6841 20180101ALN20240306BHJP
   C12Q 1/6818 20180101ALN20240306BHJP
【FI】
C12Q1/6876 Z ZNA
C12Q1/04
C12N15/11 Z
C12N1/02
C07K4/00
C12Q1/6888 Z
C12Q1/6841 Z
C12Q1/6818 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139584
(22)【出願日】2022-09-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、創発的研究支援事業「難培養微生物の完全利用に向けた生細胞特異的識別・培養基盤技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モリ テツシ
(72)【発明者】
【氏名】村岡 貴博
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QQ42
4B063QR32
4B063QR56
4B063QR75
4B063QS03
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
4B065AA01X
4B065AA26X
4B065BA25
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA15
4H045BA17
4H045BA54
4H045EA50
4H045EA65
4H045FA33
(57)【要約】
【課題】生きている微生物内に存在する任意の塩基配列の有無を検出する新しいプローブ複合体を提供すること。
【解決手段】(i)ペプチド核酸及び標識物質を含む第一のプローブと、前記ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸及び前記標識物質に対するクエンチャーを含む第二のプローブとを含み、前記第一のプローブ及び前記第二のプローブの少なくとも一方は膜透過性ペプチドを含む、又は、(ii)ペプチド核酸及びクエンチャーを含む第一のプローブと、前記ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸及び標識物質を含む第二のプローブとを含み、前記クエンチャーは前記標識物質に対するクエンチャーであり、前記第一のプローブ及び前記第二のプローブの少なくとも一方は膜透過性ペプチドを含む、プローブ複合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ペプチド核酸及び標識物質を含む第一のプローブと、前記ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸及び前記標識物質に対するクエンチャーを含む第二のプローブとを含み、前記第一のプローブ及び前記第二のプローブの少なくとも一方は膜透過性ペプチドを含む、又は、
(ii)ペプチド核酸及びクエンチャーを含む第一のプローブと、前記ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸及び標識物質を含む第二のプローブとを含み、前記クエンチャーは前記標識物質に対するクエンチャーであり、前記第一のプローブ及び前記第二のプローブの少なくとも一方は膜透過性ペプチドを含む、プローブ複合体。
【請求項2】
前記第一のプローブは、膜透過性ペプチドと、ペプチド核酸と、標識物質とを含み、
前記第二のプローブは、前記ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸と、クエンチャーとを含む、請求項1に記載のプローブ複合体。
【請求項3】
前記膜透過性ペプチドは、
4個~26個のそれぞれ独立して選択される式(I)のアミノ酸残基を連続して含む第一の膜透過性ペプチド、及び、式(II)のアミノ酸残基を含む第二の膜透過性ペプチドの少なくとも一方を含む、請求項1に記載のプローブ複合体。
【化1】

〔前記式(I)及び式(II)中、nは独立して1~4の整数であり、アミノ酸残基は(R)体又は(S)体のいずれであってもよい。式(II)中、mは1~5の整数、R及びRはそれぞれ独立に疎水性置換基を表す。式(I)及び式(II)中、*で表される部位は、隣接する部位との結合部位を表す。〕
【請求項4】
前記第一の膜透過性ペプチドは、
4個~26個の連続したジアミノプロピオン酸残基である、
4個~26個の連続したジアミノブタン酸残基である、又は、
4個~26個の連続したジアミノペンタン酸残基である、
請求項3に記載のプローブ複合体。
【請求項5】
前記第二の膜透過性ペプチドは、(Xa-Xb-Xc)で表される繰り返し単位を含む、請求項3に記載のプローブ複合体。
〔Xaは、ジアミノプロピオン酸残基、ジアミノブタン酸残基、ジアミノペンタン酸残基、又はリジン残基を表す。Xb及びXcはそれぞれ独立して、グリシン残基、トリプトファン残基、メチオニン残基、プロリン残基、フェニルアラニン残基、アラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、又はイソロイシン残基を表す。mは1~5の整数を表す。〕
【請求項6】
前記ペプチド核酸は、微生物内に存在する核酸の塩基配列とハイブリダイズする塩基配列を有し、前記ペプチド核酸の長さは5mer~30merである、請求項1に記載のプローブ複合体。
【請求項7】
前記ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸の長さは5mer~20merであり、前記ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸の塩基配列中の5mer以上の連続領域Aは、前記ペプチド核酸の塩基配列中の5mer以上の連続領域Bと80%以上の配列相補性を有する、請求項1に記載のプローブ複合体。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のプローブ複合体を含む、特定微生物の検出剤。
【請求項9】
前記特定微生物が、真正細菌及び古細菌を含む原核生物、並びに微細藻類、原生生物、菌類、真菌、酵母、及び粘菌を含む真核の微生物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項8に記載の検出剤。
【請求項10】
前記特定微生物が、エンテロバクター属の細菌、シトロバクター属の細菌、パントエア属の細菌、アシネトバクター属の細菌、及びエスケリキア属の細菌、並びにハプト藻綱の微生物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項8に記載の検出剤。
【請求項11】
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のプローブ複合体を、微生物内に導入することと、微生物内に導入された前記標識物質が発するシグナルを検出することとを含む、前記ペプチド核酸とハイブリダイズする核酸塩基配列を有する特定微生物の検出方法。
【請求項12】
前記特定微生物が、真正細菌及び古細菌を含む原核生物、並びに微細藻類、原生生物、菌類、真菌、酵母、及び粘菌を含む真核の微生物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項11に記載の検出方法。
【請求項13】
特定微生物を検出するための、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のプローブ複合体、前記プローブ複合体に含まれる第一のプローブ又は第二のプローブの使用。
【請求項14】
前記特定微生物が、真正細菌及び古細菌を含む原核生物、並びに微細藻類、原生生物、菌類、真菌、酵母、及び粘菌を含む真核の微生物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項13に記載のプローブ複合体、前記プローブ複合体に含まれる第一のプローブ又は第二のプローブの使用。
【請求項15】
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のプローブ複合体を用いて2種以上の微生物を含む微生物群から特定微生物を検出することと、
前記特定微生物を前記微生物群から分離することと、
を含む、特定微生物の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プローブ複合体、特定微生物の検出剤、特定微生物の検出方法、前記プローブ複合体の使用、前記プローブ複合体に含まれる第一のプローブ又は第二のプローブの使用、及び特定微生物の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、新規な微生物を発見するには、微生物を種レベルで選別できる単離培養法が優先的に利用されてきた。しかし単離培養法は、各微生物の特徴に合わせた煩雑な培養条件の調整及び最適化が必要である。つまり、最適化された微生物の培養条件が見つからない限り、環境中に存在する有用な難培養微生物を入手することはできない。
【0003】
微生物を種特異的に染色及び標識できる手法として、Fluorescence in situ Hybridization法(FISH法)が知られている。FISH法は、目的の微生物種の16S rRNAにハイブリダイズできる特異的DNAプローブ又は特異的RNAプローブを、測定用ウェル等に固定化された微生物叢と混合して、微生物内に導入する。前記特異的プローブには蛍光物質が修飾されているため、微生物叢における目的の微生物種の有無を、蛍光の有無によって確認することができる。FISH法は微生物を単離培養する工程を含まないことから、最適な培養条件が分からない微生物を発見することができる。
【0004】
上記FISH法を原理として改良された手法として、例えば、Live-FISH法、PNA-FISH法、及びQuickFISH法が挙げられる。
Live-FISH法は、特異的DNAに蛍光物質を標識したプローブを用いる。Live-FISH法は、微生物を測定ウェル等に固定化する工程が無い代わりに、ケミカルトランスフォメーション、つまり塩化カルシウム中で微生物にヒートショックを与えることで、16S rRNAにハイブリダイズできる特異的DNAプローブを、微生物内に導入する。例えば、非特許文献1では、Bacillus属細菌、Ruegeria属細菌、又はPseudovibrio属細菌などに対して、16S rRNAにハイブリダイズする特異的DNAプローブをLive-FISH法により導入している。
【0005】
PNA-FISH法は、特異的なペプチド核酸(Peptide Nucleic Acid;PNA)に蛍光物質を標識させたプローブを用いることで、FISH法と同様、固定化された微生物の染色法として応用されている。PNA-FISH法は、主に血中病原菌の同定方法として知られている。
【0006】
QuickFISH法は、上記PNA-FISH法を改良したものである。QuickFISH法は、特異的PNAに蛍光物質を標識したプローブと、前記特異的PNAと相補的な配列を有する核酸及び前記蛍光物質を消光できるクエンチャーを有するプローブとが形成する複合体を用いる方法である。複合体形成時、つまり、前記特異的PNAが前記核酸とハイブリダイズしている時は、クエンチャーと蛍光物質が近接するので蛍光は発しない。前記複合体を55℃で熱処理することで、前記特異的PNAとクエンチャーを有するプローブを解離させる。そして、前記複合体を室温(20℃~25℃)に戻すが、この際に、前記特異的PNAが目的の固定化された微生物種内に存在する核酸とハイブリダイズし、クエンチャーと蛍光物質が離隔することにより蛍光を発する。
【0007】
また、非特許文献2では、N末端側から、リジン残基-フェニルアラニン残基-フェニルアラニン残基、の繰り返し単位を連続して3個含み、さらに、前記連続した繰り返し単位のC末端側に1個のリジン残基が付加されたペプチド(KFF)Kを用いている。そして、lacZのアンチセンスとなるように設計したPNAに、前記ペプチドを付加させたプローブを大腸菌内に導入することで、lacZの遺伝子発現を抑制できたことを確認している。
【0008】
非特許文献3では、膜透過性ペプチド、標的核酸とハイブリダイズするDNA、標識物質及びクエンチャーを組み込んだ一分子プローブを用いた標的核酸の検出方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Batani, G., Bayer, K., Boge, J., Hentschel, U., and Thomas, T. (2019). Fluorescence in situ hybridization (FISH) and cell sorting of living bacteria. Sci Rep 9, 18618.
【非特許文献2】Good, L., Awasthi, S.K., Dryselius, R., Larsson, O., and Nielsen, P.E. (2001). Bactericidal antisense effects of peptide-PNA conjugates. Nature Biotechnology 19, 360-364.
【非特許文献3】Rachel L. H., Maggie C. Y. L. V., Esta van H., Errol C., Jan-G V., Anjali T., Thomas L. K., Christina J. D., Gary S. L., Tullis C. O., (2020). Microbial Ecology 84, 182-197.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記した先行技術文献によると、FISH法、PNA-FISH法及びQuickFISH法では、測定前に測定用ウェル等に微生物を固定化する工程を含む。Live-FISH法では、ケミカルトランスフォメーションにより60%以上が死菌となり、生菌かつ特異的DNAプローブを導入できた細菌の割合は1%未満であり、微生物に対するダメージが非常に大きい。また、ケミカルトランスフォメーションは一部の微生物種のみにしか利用できないため、微生物種に対する汎用性は低い。
【0011】
上述の通り、上記非特許文献1及び非特許文献2に記載の発明では、生きている微生物内に存在する任意の塩基配列の有無を特異的に検出することができていない。
【0012】
また、非特許文献3に記載の発明では、1分子中に多数の分子設計が必要であり、且つ、標的核酸とハイブリダイズする力が低い等の観点から、新たなプローブの開発が期待される。
【0013】
本開示は、上記に鑑みなされたものであり、生きている微生物内に存在する任意の塩基配列の有無を検出する新しいプローブ複合体とその使用、前記プローブ複合体に含まれる第一のプローブ又は第二のプローブの使用、特定微生物の検出剤、特定微生物の検出方法、及び特定微生物の分離方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> (i)ペプチド核酸及び標識物質を含む第一のプローブと、前記ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸及び前記標識物質に対するクエンチャーを含む第二のプローブとを含み、前記第一のプローブ及び前記第二のプローブの少なくとも一方は膜透過性ペプチドを含む、又は、(ii)ペプチド核酸及びクエンチャーを含む第一のプローブと、前記ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸及び標識物質を含む第二のプローブとを含み、前記クエンチャーは前記標識物質に対するクエンチャーであり、前記第一のプローブ及び前記第二のプローブの少なくとも一方は膜透過性ペプチドを含む、プローブ複合体。
<2> 前記第一のプローブは、膜透過性ペプチドと、ペプチド核酸と、標識物質とを含み、前記第二のプローブは、前記ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸と、クエンチャーとを含む、上記<1>に記載のプローブ複合体。
<3> 前記膜透過性ペプチドは、4個~26個のそれぞれ独立して選択される式(I)のアミノ酸残基を連続して含む第一の膜透過性ペプチド、及び、式(II)のアミノ酸残基を含む第二の膜透過性ペプチドの少なくとも一方を含む、上記<1>又は<2>に記載のプローブ複合体。
【化1】

〔前記式(I)及び式(II)中、nは独立して1~4の整数であり、アミノ酸残基は(R)体又は(S)体のいずれであってもよい。式(II)中、mは1~5の整数、R及びRはそれぞれ独立に疎水性置換基を表す。式(I)及び式(II)中、*で表される部位は、隣接する部位との結合部位を表す。〕
<4> 前記第一の膜透過性ペプチドは、4個~26個の連続したジアミノプロピオン酸残基である、4個~26個の連続したジアミノブタン酸残基である、又は、4個~26個の連続したジアミノペンタン酸残基である、上記<3>に記載のプローブ複合体。
<5> 前記第二の膜透過性ペプチドは、(Xa-Xb-Xc)で表される繰り返し単位を含む、上記<3>に記載のプローブ複合体。
〔Xaは、ジアミノプロピオン酸残基、ジアミノブタン酸残基、ジアミノペンタン酸残基、又はリジン残基を表す。Xb及びXcはそれぞれ独立して、グリシン残基、トリプトファン残基、メチオニン残基、プロリン残基、フェニルアラニン残基、アラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、又はイソロイシン残基を表す。mは1~5の整数を表す。〕
<6> 前記ペプチド核酸は、微生物内に存在する核酸の塩基配列とハイブリダイズする塩基配列を有し、前記ペプチド核酸の長さは5mer~30merである、上記<1>~<5>のいずれか1つに記載のプローブ複合体。
<7> 前記ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸の長さは5mer~20merであり、前記ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸の塩基配列中の5mer以上の連続領域Aは、前記ペプチド核酸の塩基配列中の5mer以上の連続領域Bと80%以上の配列相補性を有する、上記<1>~<6>のいずれか1つに記載のプローブ複合体。
<8> 上記<1>~<7>のいずれか1つに記載のプローブ複合体を含む、特定微生物の検出剤。
<9> 前記特定微生物が、真正細菌及び古細菌を含む原核生物、並びに微細藻類、原生生物、菌類、真菌、酵母、及び粘菌を含む真核の微生物からなる群より選択される少なくとも1種である、上記<8>に記載の検出剤。
<10> 前記特定微生物が、エンテロバクター属の細菌、シトロバクター属の細菌、パントエア属の細菌、アシネトバクター属の細菌、及びエスケリキア属の細菌、並びにハプト藻綱の微生物からなる群より選択される少なくとも1種である、上記<8>に記載の検出剤。
<11> 上記<1>~<7>のいずれか1つに記載のプローブ複合体を、微生物内に導入することと、微生物内に導入された前記標識物質が発するシグナルを検出することとを含む、前記ペプチド核酸とハイブリダイズする核酸塩基配列を有する特定微生物の検出方法。
<12> 前記特定微生物が、真正細菌及び古細菌を含む原核生物、並びに微細藻類、原生生物、菌類、真菌、酵母、及び粘菌を含む真核の微生物からなる群より選択される少なくとも1種である、上記<11>に記載の検出方法。
<13> 特定微生物を検出するための、上記<1>~<7>のいずれか1つに記載のプローブ複合体、前記プローブ複合体に含まれる第一のプローブ又は第二のプローブの使用。
<14> 前記特定微生物が、真正細菌及び古細菌を含む原核生物、並びに微細藻類、原生生物、菌類、真菌、酵母、及び粘菌を含む真核の微生物からなる群より選択される少なくとも1種である、上記<13>に記載のプローブ複合体、前記プローブ複合体に含まれる第一のプローブ又は第二のプローブの使用。
<15> 上記<1>~<7>のいずれか1つに記載のプローブ複合体を用いて2種以上の微生物を含む微生物群から特定微生物を検出することと、前記特定微生物を前記微生物群から分離することと、を含む、特定微生物の分離方法。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、生きている微生物内に存在する任意の塩基配列の有無を検出する新しいプローブ複合体とその使用、前記プローブ複合体に含まれる第一のプローブ又は第二のプローブの使用、特定微生物の検出剤、特定微生物の検出方法、及び特定微生物の分離方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示のSPLASH法の原理図である。
図2】プローブ複合体(i)の第一のプローブの一態様である(KFF)3K-eg1-PNA-K-FAMの模式図である。
図3】プローブ複合体(i)の第一のプローブの一態様である(DabFF)3Dab-システイン残基-PNA-K-FAMの模式図である。
図4】プローブ複合体(i)の第二のプローブの一態様の模式図である。
図5】プローブ複合体1の模式図である。
図6】プローブ複合体2の模式図である。
図7】種々の長さのDNAオリゴマーを含むプローブ複合体1の熱安定性の測定結果を示すグラフである。
図8】DNAオリゴマーのミスマッチ塩基数がプローブ複合体1の熱安定性に与える影響の測定結果を示すグラフである。
図9】プローブ複合体2の熱安定性の測定結果を示すグラフである。
図10】プローブ複合体1と種々の由来のRNAとを混合した際の蛍光強度を測定した結果を示すグラフである。
図11】プローブ複合体1を用いた微生物の特異的検出を示す顕微鏡写真である。
図12】プローブ複合体2を用いた微生物の特異的検出を示す顕微鏡写真である。
図13】プローブ複合体2導入時の微生物の生死割合を示す顕微鏡写真である。なお生死判別はトリパンブルーを用い、矢印は死菌を示す。
図14-1】CPPのみ又はCPP無しのプローブを用いたEscherichia coliへの導入を確認した顕微鏡写真である。
図14-2】CPPのみ又はCPP無しのプローブを用いたAcinetobacter radioresistensへの導入を確認した顕微鏡写真である。
図14-3】CPPのみ又はCPP無しのプローブを用いたPantoea agglomeransへの導入を確認した顕微鏡写真である。
図15】微細藻類への蛍光標識されたCPPの導入を確認した顕微鏡写真である。
図16】実施例10における複数の微生物を含む混合物下での顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本開示は以下の形態に限定されるものではない。以下の開示において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示を制限するものではない。
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本文中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において組成物中の各成分の含有率は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率を意味する。
本開示において「デオキシリボ核酸」をDNAとも称す。
本開示において「リボ核酸」をRNAとも称す。
本開示において「ペプチド核酸」をPNAとも称す。
本開示において「生きている微生物内に存在する任意の塩基配列の有無を検出すること」を、便宜上、「生きている微生物を検出する」ともいう。
【0018】
本開示において、ペプチドは、特に記載のない限り、記載されたペプチドの左側がアミノ酸残基のN末端側を示し、記載されたペプチドの右側がアミノ酸残基のC末端側を示す。
本開示において、例えば「Dab9-K-FAM」と「(Dab)9K-FAM」は同一の分子である。また、「Dab9-K-FAM」を「Dab9(FAM)」と略称する場合がある。
本開示において、「Orn9-K-FAM」と「(Orn)9K-FAM」は同一の分子である。また、「Orn9-K-FAM」を「Orn9(FAM)」と略称する場合がある。
本開示において、「Dap9-K-FAM」と「(Dap)9K-FAM」は同一の分子である。また、「Dap9-K-FAM」を「Dap9(FAM)」と略称する場合がある。
本開示においてアミノ酸又はアミノ酸残基の表示は、当業者で通常用いられているとおりに、和名、1文字の略号、又は3文字の略号で表すことがある。そのほか、本開示において、2,3-ジアミノプロピオン酸は、Dap又はDprと略することがある。本開示において、2,4-ジアミノブタン酸は、Dab又はDbuと略することがある。本開示において、2,5-ジアミノペンタン酸は、Ornと略することがある。本開示において、リジンは、Kと略することがある。本開示において、フェニルアラニンは、Fと略することがある。
【0019】
≪プローブ複合体≫
本開示のプローブ複合体は、(i)ペプチド核酸及び標識物質を含む第一のプローブと、前記ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸及び前記標識物質に対するクエンチャーを含む第二のプローブとを含み、前記第一のプローブ及び前記第二のプローブの少なくとも一方は膜透過性ペプチドを含む、又は、本開示のプローブ複合体は、(ii)ペプチド核酸及びクエンチャーを含む第一のプローブと、前記ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸及び標識物質を含む第二のプローブとを含み、前記クエンチャーは前記標識物質に対するクエンチャーであり、前記第一のプローブ及び前記第二のプローブの少なくとも一方は膜透過性ペプチドを含む。
【0020】
本開示に係るプローブ複合体は、上記構成を有することにより、生きている微生物内に存在する任意の塩基配列の有無を検出することができる。
【0021】
ペプチド核酸は、通常、同じ配列相補性を有するデオキシリボ核酸に比べて、特定の微生物内に含まれるリボ核酸に対する結合安定性が高い。そのため、微生物内に含まれる種々の塩基配列の中でもリボ核酸に対してより高い結合安定性でハイブリダイズする。また、ペプチド核酸は、デオキシリボ核酸に比べて、微生物内に導入された後も分解されにくい。また、ペプチド核酸とリボ核酸とがハイブリダイズした複合体は、デオキシリボ核酸とリボ核酸とがハイブリダイズした複合体に比べて、熱安定性が高い傾向にある。
【0022】
本開示のプローブ複合体は、さらに、検出精度に優れるという副次的効果も有する。例えば、従来の非特許文献3等に記載の手法では、プローブに含まれるデオキシリボ核酸が長いと高次構造を持つ塩基配列(例えば16S rRNA)へ結合しにくいと予想される。そのため、微生物種の特異的な識別という点で改善の余地がある。
一方、本開示に係るプローブ複合体は、微生物内に存在する任意の塩基配列とハイブリダイズする因子として、デオキシリボ核酸よりもリボ核酸に対する結合安定性の高いペプチド核酸を用いている。そのため、微生物内に存在する任意の塩基配列とハイブリダイズするデオキシリボ核酸のみを用いているプローブに比べて、プローブの長さが比較的短くて済み、高次構造を持つ塩基配列(例えば16S rRNA)に対しても立体障害の影響を受けにくく、相互作用しやすい。また、微生物内に導入したときに、ペプチド核酸と微生物内に存在する任意の塩基配列とがハイブリダイズした複合体がより安定に存在でき、プローブ由来の標識のシグナルがより正確に検出されやすい。
【0023】
本開示のプローブ複合体は、さらに、生きている微生物を検出した後に、生きて検出された微生物をそのまま分離できるという副次的効果も有する。従来の上記非特許文献1~2に記載の手法では、測定の過程にて微生物が固定化や化学処理等により死菌化される確率が高い。一方で、本開示に係るプローブ複合体を用いると、検出した後の微生物も生存率が高い傾向にあり、特定微生物を生きている状態で分離できる。
【0024】
本開示のプローブ複合体を用いた、微生物内に存在する任意の塩基配列の有無を、微生物を生きた状態に維持したまま高効率で特異的に検出する方法を、SPecific Live ASsortment Hybridization法(以下、SPLASH法ともいう。)と名付けた。
図1は、SPLASH法による検出原理の一例を示す模式図である。
図1に示す例示的なプローブ複合体は、膜透過性ペプチド(以下、CPPともいう。)、PNA、及び蛍光物質(標識物質の一例)を含む特異的プローブと、前記PNAとハイブリダイズするDNAオリゴマー及びクエンチャーを含むクエンチャープローブから構成されている。
図示はしないが、図1における微生物は、「前記プローブ複合体に含まれるPNAの塩基配列」とハイブリダイズする塩基配列を含む。
図示はしないが、図1における微生物内に存在する「前記プローブ複合体に含まれるPNAの塩基配列」とハイブリダイズする塩基配列は、RNAである。
【0025】
図1では、予め、特異的プローブとクエンチャープローブとを混合し、特異的プローブにおけるPNAとクエンチャープローブにおけるDNAオリゴマーとをハイブリダイズさせることで、プローブ複合体を形成している。プローブ複合体の状態では、蛍光物質とクエンチャーが近接しているため、蛍光物質は消光(つまり、クエンチ)されている。
【0026】
図1では、プローブ複合体と微生物とを混合する。すると、プローブ複合体は、微生物の細胞膜を透過する膜透過性ペプチドを介して微生物内に導入される。
前記膜透過性ペプチドはほとんど全ての微生物に対して膜透過性に優れるため、プローブ複合体の導入時に、プローブ複合体を膜透過させるために微生物を加熱する又は固定することを必要としない。さらにPNAは電荷を有さないため、微生物膜を透過しやすい。
図示はしないが、プローブ複合体と微生物とを混合したときのインキュベート時間は、特に制限されず、30分~数時間でよい。また、混合温度は、対象とする微生物の最適温度に応じて調整してよい。
【0027】
プローブ複合体が導入された微生物は、通常、PNAに対する結合安定性がDNAよりも、微生物内に存在するRNAの方が高いことから、特異的プローブのPNAは、クエンチャープローブのDNAオリゴマーとのハイブリダイズを解消し、前記微生物内に存在するRNAに対して新たにハイブリダイズする。つまり、競合的ハイブリダイゼーション(Probe Displacement Hybridization)が起こる。特異的プローブとクエンチャープローブが解離すると、特異的プローブに含まれる蛍光物質からクエンチャープローブに含まれるクエンチャーが遠ざかることから、クエンチャーによる標識阻害が解消され、蛍光物質が蛍光を発する。
【0028】
図1では、微生物内に存在する「前記プローブ複合体に含まれるPNAの塩基配列」とハイブリダイズする塩基配列がRNAであるが、少なくとも一部のプローブ複合体において特異的プローブと微生物内の核酸とのハイブリダイズが起こればよいことから、本開示はこれに限定されず、前記塩基配列はDNAであってもよい。
【0029】
なお、プローブ複合体に含まれるPNAとハイブリダイズする塩基配列が微生物内に存在しない場合は、プローブ複合体におけるPNAとDNAオリゴマーとのハイブリダイズは維持される。つまり、蛍光物質とクエンチャーが近接した状態が維持されるため、蛍光物質は消光された状態を保つ。
【0030】
上記のように、図1に示すプローブ複合体では、生きている微生物内に存在する任意の塩基配列を有する核酸の有無を検出することができる。
なお本開示において、微生物内に存在する任意の塩基配列とは、DNAの塩基配列であってもよく、RNAの塩基配列であってもよい。
【0031】
上述の通り、本開示のプローブ複合体を用いた検出は、予め微生物を酸処理等で死菌化せずに、生きている微生物を用いて測定することができるが、具体的には、試料中の総微生物細胞数のうち生細胞の割合が、Live-FISH法、PNA-FISH法、又はQuickFISH法を用いて核酸検出を行った場合の割合(生細胞数/総微生物細胞数)よりも有意に高いことが好ましい。前記割合の具体的な値は、微生物の種類によって異なるが、10%以上の数の微生物細胞が生きていることがより好ましく、50%以上の数の微生物細胞が生きていることがさらに好ましく、80%以上の数の微生物細胞が生きていることがいっそう好ましく、90%の数の微生物細胞が生きていることがよりいっそう好ましい。本開示において微生物叢とは、微生物の集団をいい、一種の微生物のみが含まれていてもよく、複数種の微生物が含まれていてもよい。本開示において微生物が生きているとは、微生物膜が破れておらず、微生物を至適条件に供したときに微生物が増殖又は増大できることをいい、仮死状態及び休眠状態を含む。
【0032】
本開示のプローブ複合体を用いた上記検出は高効率なものであるが、具体的には、プローブ複合体においてCPPを用いない場合の検出効率よりも高いことが好ましい。微生物細胞への導入効率は微生物の種類によって異なるが、試料中の総微生物細胞数のうち10%以上の数の微生物細胞内にプローブ複合体を導入できることが好ましく、50%以上の数の微生物細胞内にプローブ複合体を導入できることがより好ましく、80%以上の数の微生物細胞内にプローブ複合体を導入できることがさらに好ましく、90%の数の微生物内にプローブ複合体を導入できることが特に好ましい。
微生物細胞への導入効率は、例えば、フローサイトメーターにより確認できる。
【0033】
また、微生物細胞内に目的の塩基配列が存在した場合に、10%以上の確率で当該微生物細胞内の標識を検出できることが好ましく、50%以上の確率で当該微生物細胞内の標識を検出できることがより好ましく、80%以上の確率で当該微生物細胞内の標識を検出できることがさらに好ましく、90%の確率で当該微生物細胞内の標識を検出できることが特に好ましい。
微生物細胞内の標識の検出割合は、例えば、フローサイトメーターにより確認できる。
【0034】
上述のとおり、本開示のSPLASH法について図1に沿って説明したが、上記説明はSPLASH法の一つの利用例であって、SPLASH法の利用例はこれに限定されるものではない。さらに上記メカニズムは推察であり、本開示は上記メカニズムに拘束されるものではない。
【0035】
本開示のプローブ複合体は、下記(i)又は(ii)である:
(i)ペプチド核酸及び標識物質を含む第一のプローブと、前記ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸及び前記標識物質に対するクエンチャーを含む第二のプローブとを含み、前記第一のプローブ及び前記第二のプローブの少なくとも一方は膜透過性ペプチドを含む、
(ii)ペプチド核酸及びクエンチャーを含む第一のプローブと、前記ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸及び標識物質を含む第二のプローブとを含み、前記クエンチャーは前記標識物質に対するクエンチャーであり、前記第一のプローブ及び前記第二のプローブの少なくとも一方は膜透過性ペプチドを含む。
【0036】
一態様として、本開示のプローブ複合体は、上記(i)であることが好ましく、
第一のプローブは、膜透過性ペプチドと、ペプチド核酸と、標識物質とを含み、第二のプローブは、前記ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸と、クエンチャーとを含む構成であることがより好ましい。
上記(i)の構成であると、微生物内に存在する任意の塩基配列とペプチド核酸とがハイブリダイズしたときに、標識のシグナルがONになることから、検出容易性により優れる。
【0037】
<膜透過性ペプチド>
本開示において、膜透過性ペプチド(以下、CPPともいう。)とは、微生物細胞の細胞膜を透過して微生物細胞内に侵入する能力を有するペプチドを意味する。
【0038】
膜透過性ペプチドが細胞膜を透過する微生物の種類は特に制限されず、真正細菌及び古細菌を含む原核生物、並びに微細藻類、原生生物、菌類、真菌、酵母、及び粘菌を含む真核の微生物(つまり、真核微生物)等の公知の微生物が挙げられる。
【0039】
前記膜透過性ペプチドは、微生物の細胞膜透過性により優れる観点から、4個~26個のそれぞれ独立して選択される式(I)のアミノ酸残基を連続して含む第一の膜透過性ペプチド、及び、式(II)のアミノ酸残基を含む第二の膜透過性ペプチドの少なくとも一方を含むことができる。
【0040】
【化2】
【0041】
上記式(I)及び式(II)中、nは独立して1~4の整数であり、アミノ酸残基は(R)体又は(S)体のいずれであってもよい。式(II)中、mは1~5の整数、R及びRはそれぞれ独立に疎水性置換基を表す。式(I)及び式(II)中、*で表される部位は、隣接する部位との結合部位を表す。
【0042】
以下、「4個~26個のそれぞれ独立して選択される式(I)のアミノ酸残基を連続して含む膜透過性ペプチド」を「第一の膜透過性ペプチド」とも称す。
以下、「式(II)のアミノ酸残基を含む膜透過性ペプチド」を「第二の膜透過性ペプチド」とも称す。
【0043】
(第一の膜透過性ペプチド)
第一の膜透過性ペプチドは、4個~26個のそれぞれ独立して選択される式(I)のアミノ酸残基を連続して含むことができる。
式(I)中、nは独立して1~4の整数であり、アミノ酸残基は(R)体又は(S)体のいずれであってもよい。
式(I)中、*で表される部位は、隣接する部位との結合部位を表す。なお、隣接する部位とは、隣接するアミノ酸残基、末端保護基、N末端の水素原子、C末端のヒドロキシ基、又は、後述するリンカー等の式(I)のアミノ酸残基に隣接する構造を表す。
【0044】
【化3】
【0045】
例えば、n=1である場合、式(I)のアミノ酸残基は、2,3-ジアミノプロピオン酸(Dap)の(R)体又は(S)体となる。
例えば、n=2である場合、式(I)のアミノ酸残基は、2,4-ジアミノブタン酸(Dab)の(R)体又は(S)体となる。
例えば、n=3である場合、式(I)のアミノ酸残基は、2,5-ジアミノペンタン酸(Orn)の(R)体又は(S)体となる。
例えば、n=4である場合、式(I)のアミノ酸残基は、リジン(K)の(R)体又は(S)体となる。
【0046】
第一の膜透過性ペプチドは、微生物の細胞膜をより高い効率及び低い毒性で膜透過する観点からは、(S)-2,5-ジアミノペンタン酸(Orn)、(R)-2,5-ジアミノペンタン酸(Orn)、(S)-2,4-ジアミノブタン酸(Dab)、(R)-2,4-ジアミノブタン酸(Dab)、(S)-2,3-ジアミノプロピオン酸(Dap)、(R)-2,3-ジアミノプロピオン酸(Dap)、(S)-リジン(K)、及び(R)-リジン(K)からなる群より独立して選択される4個~26個の連続したアミノ酸残基からなることが好ましい。
【0047】
本開示において、複数の選択肢から選択されるアミノ酸残基が、所定の個数連続することが記載されている場合、連続するアミノ酸残基に含まれる各アミノ酸残基は、前記複数の選択肢から選択される限りは、互いに同じであっても異なっていてもよく、その一例として、同じアミノ酸残基が所定の個数連続している場合も含まれる。
【0048】
第一の膜透過性ペプチドのアミノ酸配列は、例えば、下記の配列であってもよい。
X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7-X8-X9-X10-X11-X12-X13-X14-X15-X16-X17-X18-X19-X20-X21-X22-X23-X24-X25-X26
【0049】
上記配列中、
X1~X3は、それぞれ独立して、(S)-リジン(K)、(R)-リジン(K)、(S)-2,5-ジアミノペンタン酸(Orn)、(R)-2,5-ジアミノペンタン酸(Orn)、(S)-2,4-ジアミノブタン酸(Dab)、(R)-2,4-ジアミノブタン酸(Dab)、(S)-2,3-ジアミノプロピオン酸(Dap)もしくは(R)-2,3-ジアミノプロピオン酸(Dap)であり、
X4~X26は、それぞれ独立して、存在しないか、又は、(S)-リジン(K)、(R)-リジン(K)、(S)-2,5-ジアミノペンタン酸(Orn)、(R)-2,5-ジアミノペンタン酸(Orn)、(S)-2,4-ジアミノブタン酸(Dab)、(R)-2,4-ジアミノブタン酸(Dab)、(S)-2,3-ジアミノプロピオン酸(Dap)もしくは(R)-2,3-ジアミノプロピオン酸(Dap)である。
【0050】
第一の膜透過性ペプチドは、4個~26個のそれぞれ独立して選択される式(I)のアミノ酸残基を連続して含むペプチドであれば、特に制限されるものではないが、膜透過性をより向上させる観点からは、
5個~26個のそれぞれ独立して選択される式(I)のアミノ酸残基を連続して含むペプチドであることが好ましく、
6個~26個のそれぞれ独立して選択される式(I)のアミノ酸残基を連続して含むペプチドであることがより好ましく、
6個~20個のそれぞれ独立して選択される式(I)のアミノ酸残基を連続して含むペプチドであることがさらに好ましい。
【0051】
第一の膜透過性ペプチドを構成するアミノ酸残基の立体異性体は、特に制限されるものではなく、膜透過性ペプチドを構成するアミノ酸残基の全てが(R)体若しくは(S)体であってもよいし、又は(R)体と(S)体とが混在していてもよい。
【0052】
第一の膜透過性ペプチドは、膜透過性をより向上させる観点からは、4個~26個の連続したアミノ酸残基からなるものであることが好ましく、5個~26個の連続した同じアミノ酸残基からなるものであることがより好ましく、6個~26個の連続した同じアミノ酸残基からなるものであることがさらに好ましく、6個~15個の連続した同じアミノ酸残基からなるものであることが特に好ましい。
【0053】
第一の膜透過性ペプチドは、上記式(I)のアミノ酸残基を含み、且つ、微生物膜透過性を保持するものであれば、任意のアミノ酸配列を有するペプチドであってよい。
【0054】
第一の膜透過性ペプチドは、膜透過性をより向上させる観点からは、
少なくとも4個の連続したOrn、Dab又はDapを含むことが好ましく、
少なくとも4個の連続したOrn又はDabを含むことがより好ましく、
5個~26個の連続したOrn又はDabを含むことがさらに好ましく、
6個~26個の連続したOrn又はDabを含むことが特に好ましく、
6個~15個の連続したOrn又はDabを含むことが顕著に好ましい。
【0055】
第一の膜透過性ペプチドは、膜透過性をより向上させる観点からは、
4個~26個の連続したジアミノプロピオン酸残基であることが好ましく、
4個~26個の連続したジアミノブタン酸残基であることが好ましく、又は、
4個~26個の連続したジアミノペンタン酸残基であることが好ましい。
【0056】
第一の膜透過性ペプチドは、膜透過性をより向上させる観点からは、
5、6、7、8、9、10、11若しくは12個の連続した(S)-Ornからなるもの、
5、6、7、8、9、10、11若しくは12個の連続した(S)-Dabからなるもの、
又は、9個の連続した(S)-Dapからなるものであることが好ましい。
【0057】
第一の膜透過性ペプチドは、6、7、8、9、10、11若しくは12個の連続した(S)-Ornからなるもの、又は、6、7、8、9、10、11若しくは12個の連続した(S)-Dabからなるものであることがより好ましい。
【0058】
第一の膜透過性ペプチドは、8、9、10、11若しくは12個の連続した(S)-Ornからなるもの、又は、6、7、8、9、10、11若しくは12個の連続した(S)-Dabからなるものであることがさらに好ましい。
【0059】
第一の膜透過性ペプチドの例として、Dab9量体(Dab又は(Dab)ともいう)及びOrn9量体(Orn又は(Orn)ともいう)のアミノ酸配列、並びに、他の第一の膜透過性ペプチドの例として、Orn6量体~12量体、Dab4量体~12量体、15量体、19量体及びDap9量体のアミノ酸配列を以下に示す。
【0060】
Dap :Dap-Dap-Dap-Dap-Dap-Dap-Dap-Dap-Dap
【0061】
Dab :Dab-Dab-Dab-Dab
Dab :Dab-Dab-Dab-Dab-Dab
Dab :Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab
Dab :Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab
Dab :Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab
Dab :Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab
Dab10 :Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab
Dab11 :Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab
Dab12 :Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab
Dab15 :Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab
Dab19 :Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab-Dab
【0062】
Orn :Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn
Orn :Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn
Orn :Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn
Orn :Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn
Orn10 :Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn
Orn11 :Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn
Orn12 :Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn-Orn
【0063】
上記の第一の膜透過性ペプチドの具体例における立体異性体は、Orn、Dab及びDapの全てが(R)体若しくは(S)体であってもよいし、又は(R)体と(S)体とが混在していてもよいが、Orn、Dab及びDapの全てが(S)体であることが好ましい。
【0064】
第一の膜透過性ペプチドは、膜透過性をより向上させる観点からは、9個の連続した(S)-Ornからなるもの、又は、9個の連続した(S)-Dabからなるものであることが特に好ましい。
【0065】
一態様として、第一の膜透過性ペプチドは、前記4個~26個のそれぞれ独立して選択される式(I)のアミノ酸残基からなるブロックを複数有し、前記複数のブロックの間の少なくとも1カ所に、前記式(I)のアミノ酸残基以外のアミノ酸残基を1個又は2個以上連続して含む態様であってもよい。この場合、前記式(I)のアミノ酸残基以外のアミノ酸残基は、アルギニン(Arg)残基を含んでいてもよく、後述する疎水性アミノ酸残基を含んでいてもよい。
【0066】
(第二の膜透過性ペプチド)
第二の膜透過性ペプチドは、式(II)のアミノ酸残基を含む。
式(II)中、nは独立して1~4の整数であり、アミノ酸残基は(R)体又は(S)体のいずれであってもよい。
式(II)中、mは1~5の整数、R及びRはそれぞれ独立に疎水性置換基を表す。
式(II)中、*で表される部位は、隣接する部位との結合部位を表す。なお、隣接する部位とは、隣接するアミノ酸残基、末端保護基、N末端の水素原子、C末端のヒドロキシ基、又は、後述するリンカー等の式(II)のアミノ酸残基に隣接する構造を表す。
【0067】
【化4】

【0068】
式(II)中、nは独立して1~4の整数であり、膜透過性をより向上させる観点からは、2~4の整数であることが好ましく、2であることがより好ましい。
式(II)中、mは1~5の整数であり、膜透過性をより向上させる観点からは、2~4の整数であることが好ましく、2~3の整数であることがより好ましい。
【0069】
式(II)中、R及びRは、それぞれ独立に疎水性置換基を表す。
【0070】
で表される疎水性置換基とは、Rが置換する炭素原子の両端に位置するNH及びC=Oを含むアミノ酸残基(NH-C(R)-C(=O))が、疎水性アミノ酸に由来するアミノ酸残基であることを意味する。
で表される疎水性置換基とは、Rが置換する炭素原子の両端に位置するNH及びC=Oを含むアミノ酸残基(NH-C(R)-C(=O))が、疎水性アミノ酸に由来するアミノ酸残基であることを意味する。
【0071】
疎水性アミノ酸とは、疎水性インデックス(hi)が-2以上のアミノ酸を意味する。本開示に係る疎水性アミノ酸は、疎水性インデックス(hi)が-2以上のアミノ酸であれば特に限定されないが、具体的な疎水性アミノ酸としては、グリシン(hi=-0.4)、トリプトファン(hi=0.9)、メチオニン(hi=1.9)、プロリン(hi=-1.6)、フェニルアラニン(hi=2.8)、アラニン(hi=1.8)、バリン(hi=4.2)、ロイシン(hi=3.8)、イソロイシン(hi=4.5)等が挙げられる。上記の中でも、疎水性アミノ酸は、フェニルアラニンであってもよいが、他の疎水性アミノ酸でもよい。なお疎水性インデックスとは、Kyte&Doolittleによるインデックス(Kyte J & Doolittle R F, 1982. J Mol Biol, 157:105-132)である。
【0072】
第二の膜透過性ペプチドは、(Xa-Xb-Xc)で表される繰り返し単位を含むことが好ましい。ここで、Xaは、ジアミノプロピオン酸残基、ジアミノブタン酸残基、ジアミノペンタン酸残基、又はリジン残基を表す。Xb及びXcはそれぞれ独立して、グリシン残基、トリプトファン残基、メチオニン残基、プロリン残基、フェニルアラニン残基、アラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、又はイソロイシン残基を表す。mは1~5の整数を表す。
【0073】
第二の膜透過性ペプチドは、膜透過性をより向上させる観点からは、(Xa-Xb-Xc)で表される繰り返し単位を含み、Xaは、ジアミノプロピオン酸残基、ジアミノブタン酸残基、ジアミノペンタン酸残基、又はリジン残基を表し、Xb及びXcは、フェニルアラニン残基を表し、かつ、mは3を表すことが好ましい。
第二の膜透過性ペプチドは、(Xa-Xb-Xc)で表される繰り返し単位のC末端側に、さらに、ジアミノプロピオン酸残基、ジアミノブタン酸残基、ジアミノペンタン酸残基、アルギニン残基、又はリジン残基を1個含んでいてもよい。
【0074】
第二の膜透過性ペプチドを構成するアミノ酸残基の立体異性体は、特に制限されるものではなく、膜透過性ペプチドを構成するアミノ酸残基の全てが(R)体若しくは(S)体であってもよいし、又は(R)体と(S)体とが混在していてもよい。
【0075】
第二の膜透過性ペプチドの例として、Dap1量体とフェニルアラニン2量体とからなる繰り返し単位が3回連続してなる配列(DapFF)、前記配列(DapFF)のC末端側にさらにDap1量体が付加された配列(DapFF)Dap、Dab1量体とフェニルアラニン2量体とからなる繰り返し単位が3回連続してなる配列(DabFF)、前記配列(DabFF)のC末端側にさらにDab1量体が付加された配列(DabFF)Dab、Orn1量体とフェニルアラニン2量体とからなる繰り返し単位が3回連続してなる配列(OrnFF)、前記配列(OrnFF)のC末端側にさらにOrn1量体が付加された配列(OrnFF)Orn、K1量体とフェニルアラニン2量体とからなる繰り返し単位が3回連続してなる配列(KFF)、及び、前記配列(KFF)のC末端側にさらにK1量体が付加された配列(KFF)Kの、各アミノ酸配列を以下に示す。そのほか、繰り返し単位の回数が2回及び4回の各アミノ酸配列についても以下に示す。
【0076】
(DapFF)2 :Dap-F-F-Dap-F-F(配列番号1)
(DapFF)3 :Dap-F-F-Dap-F-F-Dap-F-F(配列番号2)
(DapFF)4 :Dap-F-F-Dap-F-F-Dap-F-F-Dap-F-F(配列番号3)
(DapFF)2Dap :Dap-F-F-Dap-F-F-Dap(配列番号4)
(DapFF)3Dap :Dap-F-F-Dap-F-F-Dap-F-F-Dap(配列番号5)
(DapFF)4Dap :Dap-F-F-Dap-F-F-Dap-F-F-Dap-F-F-Dap(配列番号6)
(DabFF)2 :Dab-F-F-Dab-F-F(配列番号7)
(DabFF)3 :Dab-F-F-Dab-F-F-Dab-F-F(配列番号8)
(DabFF)4 :Dab-F-F-Dab-F-F-Dab-F-F-Dab-F-F(配列番号9)
(DabFF)2Dab :Dab-F-F-Dab-F-F-Dab(配列番号10)
(DabFF)3Dab :Dab-F-F-Dab-F-F-Dab-F-F-Dab(配列番号11)
(DabFF)4Dab :Dab-F-F-Dab-F-F-Dab-F-F-Dab-F-F-Dab(配列番号12)
(OrnFF)2 :Orn-F-F-Orn-F-F(配列番号13)
(OrnFF)3 :Orn-F-F-Orn-F-F-Orn-F-F(配列番号14)
(OrnFF)4 :Orn-F-F-Orn-F-F-Orn-F-F-Orn-F-F(配列番号15)
(OrnFF)2Orn :Orn-F-F-Orn-F-F-Orn(配列番号16)
(OrnFF)3Orn :Orn-F-F-Orn-F-F-Orn-F-F-Orn(配列番号17)
(OrnFF)4Orn :Orn-F-F-Orn-F-F-Orn-F-F-Orn-F-F-Orn(配列番号18)
(KFF)2 :K-F-F-K-F-F(配列番号19)
(KFF)3 :K-F-F-K-F-F-K-F-F(配列番号20)
(KFF)4 :K-F-F-K-F-F-K-F-F-K-F-F(配列番号21)
(KFF)2K :K-F-F-K-F-F-K(配列番号22)
(KFF)3K :K-F-F-K-F-F-K-F-F-K(配列番号23)
(KFF)4K :K-F-F-K-F-F-K-F-F-K-F-F-K(配列番号24)
【0077】
上記の第二の膜透過性ペプチドにおける立体異性体は、F、K、Orn、Dab及びDapのうち存在するものに相当するアミノ酸残基の全てが(R)体若しくは(S)体であってもよいし、又は(R)体と(S)体とが混在していてもよいが、F、K、Orn、Dab及びDapのうち存在するものに相当するアミノ酸残基の全てが(S)体であることが好ましい。
【0078】
第二の膜透過性ペプチドは、全てのアミノ酸残基が(S)体である(DabFF)Dabであってもよく、全てのアミノ酸残基が(S)体である(KFF)Kであってもよく、全てのアミノ酸残基が(S)体である(DabFF)Kであってもよく、又は、全てのアミノ酸残基が(S)体である(KFF)Dabであってもよい。
【0079】
第二の膜透過性ペプチドは、上記式(II)のアミノ酸残基を含み、且つ、微生物膜透過性を保持するものであれば、任意のアミノ酸配列を有するペプチドであってよい。
【0080】
一態様として、第二の膜透過性ペプチドは、式(II)のアミノ酸残基からなるブロックを複数有し、前記複数のブロックの間の少なくとも1カ所に、前記式(II)のアミノ酸残基以外のアミノ酸残基を1個又は2個以上連続して含む態様であってもよい。この場合、前記式(II)のアミノ酸残基以外のアミノ酸残基は、リジン(Lys)残基又はアルギニン(Arg)残基を含んでいてもよく、前述した疎水性アミノ酸残基を含んでいてもよい。
【0081】
本開示のCPPは、第一の膜透過性ペプチド及び第二の膜透過性ペプチドの少なくとも一方のみを含んでいてもよく、第一の膜透過性ペプチド及び第二の膜透過性ペプチドの両方を含んでいてもよい。CPPが第一の膜透過性ペプチド及び第二の膜透過性ペプチドの両方を含む場合、両者は、後述するその他のアミノ酸残基を介していてもよい。
【0082】
本開示のCPPは、微生物膜透過性に影響がない限り、式(I)のアミノ酸残基及び式(II)のアミノ酸残基以外のその他のアミノ酸残基が含まれていてもよい。
前記その他のアミノ酸残基を含む場合、前記その他のアミノ酸残基は、特に制限されるものではないが、1個~5個の任意のアミノ酸残基であることが好ましい。
前記その他のアミノ酸残基は、例えば、リジン(Lys)残基又はアルギニン(Arg)残基であってもよく、前述した疎水性アミノ酸残基であってもよい。
前記その他のアミノ酸残基の存在位置は、膜透過性ペプチドの末端、複数の式(I)のアミノ酸残基の間、複数の式(II)のアミノ酸残基の間、及び、式(I)のアミノ酸残基と式(II)のアミノ酸残基との間のいずれであってもよい。その他のアミノ酸残基は、置換基として標識分子等を有していてもよい。
【0083】
本開示のCPPは、当技術分野で公知の方法により調製することができる。例えば、固相ペプチド合成法、又は、非天然アミノ酸をポリペプチドに導入するための遺伝子組換え法(例えば、Taira, H. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 2008, 374, 304-308、Noren, C.J. et al., Science 244:182-188, 1989、特許第4917044号など)を利用できる。K、F、Dab、Orn及びDapは、市販品として入手可能である。
【0084】
本開示のCPPは、通常の固相合成法により高い収率で容易に合成でき、大量生産も可能である。
【0085】
本開示に係るCPPは、導入対象の化合物(例えば、PNA、標識物質、DNA及びクエンチャーから選ばれる分子)と連結して微生物と接触させることにより、その化合物を微生物内に導入することができる。すなわち、CPPは、微生物内へ様々な物質を運ぶベクター又はキャリアとして機能する。なお、導入対象の化合物とは、前記CPP以外の化合物である。
【0086】
以上、本開示のCPPについて好ましい態様を挙げたが、本開示のプローブ複合体に用いるCPPは、上記で例示したCPPに限定されず、微生物膜透過性に影響がない限り、既知のCPPを用いることもできる。
【0087】
<ペプチド核酸>
本開示において、ペプチド核酸(以下、PNAともいう。)とは、N-(2-アミノエチル)グリシン分子同士が、カルボキシ基とエチル基上のアミノ基とのアミド結合で結合して主鎖を構成したペプチド構造を有し、主鎖上のもう一方の窒素原子に、メチレンカルボニル結合を介して、側鎖としてプリン環又はピリミジン環が結合しているものをいう。以降、特に断りがない限り、PNAの主鎖におけるN末端側が、側鎖の塩基配列における5’末端側であり、PNAの主鎖におけるC末端側が、側鎖の塩基配列における3’末端側である。
【0088】
ペプチド核酸は、微生物内に存在する核酸の塩基配列とハイブリダイズする塩基配列を有することが好ましく、微生物内に存在する核酸の塩基配列とより安定にハイブリダイズする観点から、前記ペプチド核酸の長さは5mer~30merであることが好ましい。
【0089】
微生物は、真正細菌及び古細菌を含む原核生物、並びに微細藻類、原生生物、菌類、真菌、酵母、及び粘菌を含む真核の微生物(真核微生物)を含む。
【0090】
検出対象となる微生物内に存在する核酸とは、DNAであってもよく、RNAであってもよいが、RNAであることが好ましい。核酸同士がハイブリダイズする結合の強さは、PNAとDNAとの結合よりも、PNAとRNAとの結合の方が強いためである。
【0091】
検出対象となる前記DNAは、遺伝子のコード領域、遺伝子の非コード領域、又は調節領域等のいずれであってもよいが、種特異的な微生物の検出を行う観点からはrDNA又はITS領域であることが好ましく、ある目的の遺伝子を発現する微生物の検出を行う観点からはコード領域のDNAであることが好ましい。
なおrDNAとは、リボソームRNA(rRNA)をコードしているDNAである。検出対象となる前記rDNAの種類は、種特異的な微生物の検出を行う観点から、原核生物及び古細菌の16S rDNA、又は真核微生物の18S rDNAであることが好ましい。
なおITS領域(Internal Transcribed Spacer;内部転写領域)とは、種間での多型性が高く、近縁種を識別可能な同定マーカー遺伝子として有用な領域である。検出対象となる前記ITS領域の種類は、真核生物のリボソームDNAにおいて、18S rDNAと5.8S rDNAの間に存在するITS1領域又は5.8S rDNAと26S rDNAの間に存在するITS2領域のいずれであってもよく両方であってもよい。
【0092】
検出対象となる前記RNAは、mRNA、rRNA、tRNA、snRNA、snoRNA、miRNA、siRNA、piRNA、又はncRNA等のいずれであってもよいが、種特異的な微生物の検出を行う観点からは、rRNA又はITS領域から転写されたRNA等の微生物種特異的なRNA配列であることが好ましく、又は、ある目的の遺伝子を発現する微生物の検出を行う観点からはmRNAであることが好ましい。検出対象となる前記rRNAの種類は、種特異的な微生物の検出を行う観点から、原核生物及び古細菌の16S rRNA、又は真核微生物の18S rRNAであることが好ましい。
【0093】
本開示において、「核酸Xと核酸Yとがハイブリダイズする」とは、核酸Xと核酸Yとが、相補的塩基対形成により結合することを意味する。核酸Xと核酸Yとは、細胞への導入操作を行う際の条件においてハイブリダイゼーションするものであればよい。つまり、ハイブリダイゼーションのときの温度、時間、又は溶媒等の条件は、導入操作の対象となる細胞が死滅しない条件であって、核酸Xと核酸Yとがハイブリダイゼーションできれば特に限定されない。ハイブリダイゼーションは、例えば0℃~80℃の温度条件下で評価してもよく、50℃~60℃の温度条件下で評価してもよく、10℃~50℃の条件下で評価してもよく室温で評価してもよい。より具体的には実施例に記載の条件(0.5×PBS buffer中で、4時間、30℃の条件)で評価することができる。より安定的なハイブリダイゼーションをする核酸を探索する目的では、既知のストリンジェントなハイブリダイゼーション条件から選定してもよく、例えば、42℃において、50%(v/v)ホルムアミド、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%フィコール、0.1%のポリビニルピロリドン、50mMリン酸ナトリウムバッファー(pH6.5)、150mMの塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウムが共存する条件下でハイブリダイズ可能な条件を用いてもよい。
【0094】
本開示において、「ハイブリダイズする」核酸Xと核酸Yの組み合わせにおいては、核酸X中の5mer以上の連続領域Aと、核酸Y中の5mer以上の連続領域Bとが、80%以上の配列相補性を有することが好ましい。つまり、核酸X中の5mer以上の連続領域Aに含まれる塩基数のうち、80%以上の数の塩基が、核酸Y中の5mer以上の連続領域Bに含まれる塩基と、相補的塩基対を形成することが好ましい。前記配列相補性(言い換えると、相補鎖との配列同一性)は、ハイブリダイズのしやすさの観点から、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましい。このような配列相補性条件を満たす核酸X中の連続領域Aは、5mer~核酸Xの塩基数であってもよく、5mer~20merであってもよい。核酸Y中の連続領域Bは、5mer~核酸Yの塩基数であってもよく、5mer~20merであってもよい。核酸X中の連続領域A及び核酸Y中の連続領域Bの長さの下限値は5merであってもよく、6merであってもよく、7merであってもよく、8merであってもよく、9merであってもよく、10merであってもよい。核酸X中の連続領域A及び核酸Y中の連続領域Bの長さの上限値は、核酸Xの長さ及び核酸Yの長さのうち短い方の塩基数であってもよく、20merであってもよく、18merであってもよく、15merであってもよく、13merであってもよく、10merであってもよい。これらの上限値と下限値は、自由な組み合わせで組み合わせることができる。
PNAと、検出対象となる微生物内に存在する核酸とは、上記のようなハイブリダイゼーション特性を有することが好ましく、また、上記のような配列相補性条件を満たす連続領域を有していることが好ましい。
【0095】
本開示において、塩基の配列相補性の算出は、Biomatter社が提供している配列情報マルチ解析ソフトウエアGeneious Primeを用いて行うことができる。
【0096】
本開示において、PNAの長さは、微生物内に存在する核酸の塩基配列と特異的にハイブリダイズする観点からは長いほうが好ましく、微生物内に導入されやすい観点からは短いほうが好ましい。本開示において、PNAの長さは、5mer~30merが好ましく、5mer~25merがより好ましく、5mer~20merがさらに好ましく、8mer~15merが特に好ましく、10mer~12merがより一層好ましい。微生物内へ高効率で導入できる(DabFF)DabなどのCPPが付加されたPNAである場合は、PNAの長さは、5mer~30merが好ましく、5mer~25merがより好ましく、5mer~20merがさらに好ましく、10mer~15merが特に好ましく、より塩基長が長いPNA(つまり、より特異性を有するPNA)を設計することができる。PNAは、DNA及びRNAと比較して、高い配列特異性を有しているため、短い長さのPNAでも十分に特異性を有し、より長いPNAにすることで、さらに特異性を上げることができる。
【0097】
<標識物質>
標識物質の種類は特に制限されず、蛍光分子等の公知の標識物質を適用できる。
【0098】
標識物質は、例えば、検出感度、材料設計容易性、及び後述するクエンチャーとの標識能のON/OFF調整のしやすさ等の観点から、蛍光分子を含むことが好ましい。
蛍光分子は、励起光で照射されることにより蛍光を発する分子であれば何でもよく、例えば、Cy3、Cy5、FITC、TRITC、Rhodamine、TAMRA、Alexa Fluor、Texas Red、FAM、APC、PE、ATTO、DyLightなど公知の蛍光分子を用いることができる。
【0099】
標識物質は、蛍光分子を任意の位置に付加しやすい観点から、アミノ酸残基の側鎖又は末端アミノ酸残基のアミノ基若しくはカルボキシ基に、蛍光分子が結合しているものが好ましい。具体的には、前記標識物質としては、リジン残基の側鎖上のアミノ基に置換した5(6)-カルボキシフルオレセイン、又は、アルギニン残基の側鎖上のアミノ基に置換した5(6)-カルボキシフルオレセインが好ましく、5(6)-カルボキシフルオレセインが側鎖上のアミノ基に置換したリジン残基がより好ましい。なお5(6)-カルボキシフルオレセインが側鎖上のアミノ基に置換したリジン残基がペプチド鎖末端のアミノ酸残基である場合、前記リジン残基は末端保護基(例えばC末端へのアミノ保護基、N末端へのアセチル保護基等)を有していてもよい。つまり、前記リジン残基がプローブのC末端のアミノ酸残基の場合、さらにリジン残基のC末端側に、アミノ基などの末端保護基を有していてもよい。なお以下に、側鎖上のアミノ基が5(6)-カルボキシフルオレセインに置換され、さらにC末端側に末端保護基としてアミノ基を有するリジン残基の構造式を示す。なお式中、*は、隣接する化学構造との結合部位を示す。本開示において、5(6)-カルボキシフルオレセインは、5(6)-FAM又はFAMともいう。以下の構造式に示すような、側鎖上のアミノ基が5(6)-カルボキシフルオレセインに置換されたリジンを、K-FAM又はK(FAM)とも表す。標識物質が置換したアミノ酸残基は、例えば、PNAのN末端側又はC末端側に付加することができる。
【0100】
【化5】
【0101】
<ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸>
ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸は、ペプチド核酸と少なくとも1つ以上の塩基でハイブリダイズするものであれば、特に制限されない。
【0102】
ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸の長さは、ハイブリダイズのしやすさの観点から、5mer~20merであることが好ましい。
ペプチド核酸と前記ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸は、上記のようなハイブリダイゼーション特性を有することが好ましく、また、上記のような配列相補性条件を満たす連続領域を有していることが好ましい。
例えば、前記ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸の塩基配列中の5mer以上の連続領域Aは、前記ペプチド核酸の塩基配列中の5mer以上の連続領域Bと80%以上の配列相補性を有することが好ましい。
【0103】
ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸は、PNA中の5mer以上の連続領域Aと、前記DNA中の5mer以上の連続領域Bとが、80%以上の配列相補性を有することが好ましい。つまり、前記PNA中の5mer以上の連続領域Aに含まれる塩基数のうち、80%以上の数の塩基が、前記DNA中の5mer以上の連続領域Bに含まれる塩基と、相補的塩基対を形成することが好ましい。前記配列相補性は、ハイブリダイズのしやすさの観点から、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましい。
【0104】
本開示における塩基の配列相補性の算出は、Biomatter社が提供している配列情報マルチ解析ソフトウエアGeneious Primeを用いて行うことができる。
【0105】
本開示のPNAとハイブリダイズするDNAの長さは、PNAとのハイブリダイズ状態を維持してプローブ複合体として安定できる観点から、長いほうが好ましく、微生物内に存在する任意の塩基配列とのハイブリダイズへ移行しやすい観点からは、ある程度短いほうが好ましい。本開示のPNAとハイブリダイズするDNAの長さは、5mer~20merが好ましく、6mer~15merがより好ましく、7mer~12merがさらに好ましい。本開示のPNAとハイブリダイズするDNAの長さは、前記PNAの長さを上限とするのがよい。
【0106】
本開示のPNAと、前記PNAとハイブリダイズするDNAとは、上記相補性条件を満たす連続領域を含んでいればよく、上記相補性条件を満たさない余分な塩基配列が含まれていてもよい。
【0107】
本開示のPNAと、前記PNAとハイブリダイズするDNAとのミスマッチ塩基数は、プローブ複合体として安定できる観点から、1mer~3merが好ましく、1mer又は2merがより好ましく、1merがさらに好ましい。
【0108】
<クエンチャー>
本開示において、クエンチャーとは、前記標識物質の標識効果を、抑制又は消去することができる物質をいう。
本開示において、標識物質に対するクエンチャーとは、前記標識物質の標識効果を、抑制又は消去することができるクエンチャーをいう。
本開示においてクエンチャーは、標識物質が蛍光物質である場合、前記蛍光分子から発される蛍光を、抑制又は消光できる物質である。
【0109】
本開示における標識物質が蛍光物質である場合、クエンチャーは、前記標識物質の標識効果を、抑制又は消去することができる物質であれば特に限定されず、例えば、Black Hole Quencher-1(BHQ-1)又はBlack Hole Quencher-2(BHQ-2)などの公知の市販されているものを用いることができる。なかでも、標識物質がFAMである場合、クエンチャーはBHQ-1が好ましい。標識物質がTAMRA(5(6)-カルボキシテトラメチルローダミン)である場合、クエンチャーはBHQ-2が好ましい。
以下、クエンチャーを「Q」と示し、クエンチャープローブを「Q1」と示すことがある。
【0110】
<プローブ複合体(i)>
本開示のプローブ複合体は、
(i)ペプチド核酸及び標識物質を含む第一のプローブと、前記ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸及び前記標識物質に対するクエンチャーを含む第二のプローブとを含み、前記第一のプローブ及び前記第二のプローブの少なくとも一方は膜透過性ペプチドを含むプローブ複合体(プローブ複合体(i))であってもよい。
【0111】
本開示のプローブ複合体(i)は、
第一のプローブと第二のプローブとを含む複合体であって、前記第一のプローブが、膜透過性ペプチドと、ペプチド核酸と、標識物質とを含み、前記第二のプローブが、前記ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸と、クエンチャーとを含む複合体(プローブ複合体(i-a))であってもよい。
また、本開示のプローブ複合体(i)は、
第一のプローブと第二のプローブとを含む複合体であって、前記第一のプローブが、ペプチド核酸と、標識物質とを含み、前記第二のプローブが、膜透過性ペプチドと、前記ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸と、クエンチャ―とを含む複合体(プローブ複合体(i-b))であってもよい。
【0112】
(第一のプローブ)
プローブ複合体(i)において、第一のプローブは、PNAと、標識物質と、を少なくとも含み、さらに、プローブ複合体(1-a)の場合にはCPPを含む。プローブ複合体(i)の第一のプローブにおいて、CPPと、PNAと、標識物質との連結順は特に限定されないが、第一のプローブのN末端側から、CPP、PNA、標識物質の順で連結されていることが好ましい。
【0113】
プローブ複合体(i)の第一のプローブは、上記のCPP、PNA、及び標識物質に加えて、リンカーを有していてもよい。リンカーは、CPPとPNAの間、又はPNAと標識物質の間を連結していてもよい。プローブ複合体(i)の第一のプローブにおけるリンカーとしては、エチレングリコール1(eg1又はoリンカーともいう。)、又は、システイン残基が挙げられるがこれらに限定されない。なおeg1リンカーの構造式を以下に示す。なお式中、*は、隣接する化学構造との結合部位を示す。下記の構造式中、左側が他のペプチド鎖のC末端側と結合する側を示し、右側が他のペプチド鎖のN末端側と結合する側を示す。
【0114】
【化6】
【0115】
プローブ複合体(i)の第一のプローブにおいては、N末端側から、CPP-eg1-PNA-標識物質、又は、CPP-システイン残基-PNA-標識物質、の順で連結されていることが好ましい。
【0116】
プローブ複合体(i)の第一のプローブにおいては、図2に示すように、N末端側から、(KFF)3K-eg1-PNA-K-FAMであることが、微生物内に存在する任意の塩基配列の有無を、微生物を生きた状態に維持したまま高効率で特異的に検出することができる観点から、好ましい。なお図中、Oは、eg1であることを示す。又は、プローブ複合体(i)の第一のプローブにおいては、図3に示すように、N末端側から、(DabFF)3Dab-システイン残基-PNA-K-FAMであることが、微生物内に存在する任意の塩基配列の有無を、微生物を生きた状態に維持したまま高効率で特異的に検出することができる観点から、好ましい。
【0117】
(第二のプローブ)
プローブ複合体(i)の第二のプローブは、ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸と、クエンチャーとを含む。プローブ複合体(i)の第二のプローブにおいて、PNAとハイブリダイズするDNAと、クエンチャーとの連結順は特に限定されないが、第二のプローブの5’末端側から、クエンチャー、PNAとハイブリダイズするDNA、の順で連結されていることが好ましい。
【0118】
プローブ複合体(i)の第二のプローブは、上記のPNAとハイブリダイズするDNA、及びクエンチャーに加えて、リンカーを有していてもよい。リンカーは、PNAとハイブリダイズするDNAと、クエンチャーと、の間を連結していてもよい。
本開示において、第二のプローブは、図4に示すように、5’末端側から、クエンチャー-PNAとハイブリダイズするDNA、の順で連結されていることが好ましい。なお図中、Qは、クエンチャーを示す。
【0119】
<プローブ複合体(ii)>
本開示のプローブ複合体は、
(ii)ペプチド核酸及びクエンチャーを含む第一のプローブと、前記ペプチド核酸とハイブリダイズするデオキシリボ核酸及び標識物質を含む第二のプローブとを含み、前記クエンチャーは前記標識物質に対するクエンチャーであり、前記第一のプローブ及び前記第二のプローブの少なくとも一方は膜透過性ペプチドを含む、プローブ複合体(プローブ複合体(ii))であってもよい。
【0120】
本開示のプローブ複合体(ii)は、
第一のプローブと第二のプローブとを含む複合体であって、前記第一のプローブが、CPPと、PNAと、クエンチャーとを含み、前記第二のプローブが、前記PNAとハイブリダイズするDNAと、標識物質とを含む複合体(プローブ複合体(ii-a))であってもよい。
また、本開示のプローブ複合体(ii)は、
第一のプローブと第二のプローブとを含む複合体であって、前記第一のプローブが、PNAと、クエンチャーとを含み、前記第二のプローブが、CPPと、前記PNAとハイブリダイズするDNAと、標識物質とを含む複合体(プローブ複合体(ii-b))であってもよい。
【0121】
プローブ複合体(ii)において、第一のプローブにおける各構成要素の連結順、及び第二のプローブにおける各構成要素の連結順は、上記プローブ複合体(i)の場合と同様、特に限定されない。第一のプローブにおいては、第一のプローブのN末端側から、CPP、PNA、クエンチャー、の順で連結されていることが好ましい。第二のプローブにおいては、第二のプローブの5’末端側から、標識物質、PNAとハイブリダイズするDNA、の順で連結されていることが好ましい。
プローブ複合体(ii)の第一のプローブ及び第二のプローブにおいては、上記のCPP、PNA、クエンチャー、PNAとハイブリダイズするDNA、標識物質に加えて、これらの構成要素同士を連結するリンカーを有していてもよい。リンカーの例も、上記プローブ複合体(i)におけるリンカーと同様に、エチレングリコール1(eg1又はoリンカーともいう。)、又は、システイン残基が挙げられるがこれらに限定されない。
【0122】
(その他)
本開示の第一のプローブ及び第二のプローブがプローブ複合体を形成する時に、前記第一のプローブ又は前記第二のプローブに含まれる標識物質及びクエンチャーが近接するように、前記第一のプローブ及び前記第二のプローブを設計されていることが好ましい。これにより、本開示の第一のプローブ又は第二のプローブがプローブ複合体を形成しているときに、クエンチャーによって標識物質の標識効果を抑制又は消去することができる。
【0123】
本開示の第一のプローブ又は第二のプローブには、さらに、タンパク質、CPP、ペプチド、アミノ酸、核酸、ペプチド核酸、無機物、有機金属化合物、有機化合物、高分子、ナノ粒子、糖若しくは標識物質、又は、ミセル若しくはリポソームの一方を含む分子集合体等が付加されていてもよい。例えば、本開示のプローブ複合体(i)の第一のプローブ、又は本開示のプローブ複合体(ii)の第一のプローブにおいて、N末端側及びC末端側の両方にCPPを有していてもよい。例えば、本開示のプローブ複合体(i)の第一のプローブ、又は本開示のプローブ複合体(ii)の第二のプローブにおいて、N末端側及びC末端側の両方に標識物質を有していてもよい。
【0124】
本開示の第一のプローブ又は第二のプローブのN末端側又はC末端側には、さらに、保護基が付加されていてもよい。保護基は、例えば、アセチル基、カルボキシ基、又はアミノ基であってもよい。なお本開示のプローブの配列の表記において、保護基を省略して記載する場合がある。例えば、側鎖上のアミノ基が5(6)-カルボキシフルオレセインに置換され、さらにC末端側に末端保護基としてアミノ基を有するリジン残基を、[K-FAM]又は [K-FAM]-NH2と表記することがある。
【0125】
本開示のプローブ複合体は、公知の技術を組み合わせることで作製することができる。CPPは、通常のペプチド合成方法を利用することができる。PNAは、通常のペプチド核酸合成方法を利用することができる。標識物質は、市販のものを利用することができる。PNAとハイブリダイズするDNAは、通常の核酸合成方法を利用して作製することができる。クエンチャーは、市販のものを利用することができる。
例えば、CPP及びPNAは、eg1を介して連結することができ、又は、あらかじめCPPのC末端側をチオエステル化して、PNAのN末端側にシステイン残基を付加して、これらをトランスチオエステル化することで、CPPとPNAを結合することができる。
【0126】
≪特定微生物の検出剤≫
本開示に係る特定微生物の検出剤は、本開示に係るプローブ複合体を含む。
【0127】
本開示に係る特定微生物の検出剤によれば、本開示のプローブ複合体が微生物内に導入され、微生物内に目的の塩基配列がある場合に、プローブ複合体は自発的に第一のプローブと第二のプローブに解離して標識物質の標識が発するシグナルが検出される。その結果、生きている微生物内に存在する任意の塩基配列の有無を検出することができる。
【0128】
本開示に係る特定微生物の検出剤におけるプローブ複合体の好ましい態様は、本開示に係るプローブ複合体における好ましい態様と同様である。
【0129】
特定微生物は、検出容易性の観点から、真正細菌及び古細菌を含む原核生物、並びに微細藻類、原生生物、菌類、真菌、酵母、及び粘菌を含む真核の微生物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0130】
細菌(真正細菌)は、細胞膜の外側に外膜を有するか否かで、グラム陰性細菌とグラム陽性細菌とに分類されるが、本開示に係るプローブ複合体は、グラム陰性細菌とグラム陽性細菌の両方の細菌に対して、検出剤として適用できる。
【0131】
細菌としては、特に限定されないが、例えば、パントエア属、エンテロバクター科、シトロバクター属、シネコシスティス属、シュードモナス属、アシネトバクター属又はバチラス属等の細菌が挙げられるがこれらに限定されない。
エンテロバクター科の細菌としては、例えば、エスケリキア属、エルシニア属、セラチア属、トラブルシエラ属、エンテロバクター属又はプロテウス属等に属する細菌が挙げられる。
パントエア属に属する細菌としては、特に限定されないが、例えば、パントエア・アグロメランス等が挙げられる。アシネトバクター属に属する細菌としては、特に限定されないが、例えば、アシネトバクター・ラジオレジステンス等が挙げられる。エスケリキア属に属する細菌としては、特に限定されないが、例えば、エスケリキア・コリ等が挙げられる。
【0132】
古細菌としては、特に限定されないが、例えば、好熱好酸菌などが含まれるクレン古細菌門、亜硝酸古細菌などが含まれるタウム古細菌門、高度好塩菌、メタン菌、超好熱菌、及び好熱好酸菌などが含まれるユーリ古細菌門等が挙げられる。古細菌としては、特に、メタノバクテリウム属又はハロコックス属が好ましい。
【0133】
微細藻類としては、特に限定されないが、例えば、藍色植物門、灰色植物門、紅色植物門、緑色植物門、クリプト植物門、ハプト植物門、不等毛植物門、渦鞭毛植物門、ユーグレナ植物門、又はクロララクニオン植物門等が挙げられる。微細藻類としては、特に、ハプト藻綱又はボトリオコッカス属が好ましい。ハプト藻綱としては、イソクリシス属が好ましい。
【0134】
菌類(真菌)としては、特に限定されないが、例えば、キノコ・カビ、単細胞性の酵母、鞭毛を持った遊走子などの多様な形態を示す真核の微生物等が挙げられる。
【0135】
酵母としては、特に限定されないが、例えば、分裂酵母、出芽酵母等が挙げられる。
【0136】
粘菌としては、特に制限されないが、例えば、細胞性粘菌、真正粘菌、原性粘菌等が挙げられる。
【0137】
上記の中でも、前記特定微生物は、エンテロバクター属の細菌、シトロバクター属の細菌、パントエア属の細菌、アシネトバクター属の細菌、エスケリキア属の細菌、微生物有用性化合物を産生する細菌、及び腸内細菌に病原性細菌の細菌、並びに、ハプト藻綱の微生物であることが好ましく、エンテロバクター属の細菌、シトロバクター属の細菌、パントエア属の細菌、アシネトバクター属の細菌、及びエスケリキア属の細菌、並びに、ハプト藻綱の微生物からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0138】
本開示の検出剤は、本開示に係るプローブ複合体を1種用いていればよく、本開示に係るプローブ複合体を2種以上併用していてもよい。本開示に係るプローブ複合体以外のその他のプローブを含んでいてもよい。
例えば、PNAの塩基配列が異なるもの、又は、異なる波長で発光する蛍光分子など、複数種類のプローブ複合体を組み合わせることで、複数種の微生物を同時に検出する検出剤としてもよい。
また、多数の種類の微生物が存在する試料の中から、特定微生物を検出する場合には、プローブ複合体を2種以上併用することが好ましい。多数の種類の微生物を含む試料の中には、特定微生物を検出するための目的となる塩基配列と類似した塩基配列を有する他の微生物が混在している可能性があることから、その場合には、1種類のプローブ複合体を用いただけでは、特定微生物でない微生物も誤って検出してしまう可能性がある。そのため、特定微生物を検出するための目的となる塩基配列を2か所以上設定し、それらの塩基配列に相補性のある配列を有する2種以上のプローブ複合体を用いることで、より高い精度で特定微生物を検出することが可能となる。
【0139】
本開示の検出剤は、本開示に係るプローブ複合体以外にも、さらに、溶媒、タンパク質、ペプチド、核酸、ペプチド核酸、無機物、有機金属化合物、有機化合物、高分子、ナノ粒子、糖若しくは標識物質、又は、ミセル若しくはリポソームの一方を含む分子集合体等と一緒に用いられてもよい。
【0140】
≪特定微生物の検出方法≫
本開示に係る特定微生物の検出方法は、本開示に係るプローブ複合体を、微生物内に導入することと、微生物内に導入された前記標識物質が発するシグナルを検出することとを含む、前記ペプチド核酸とハイブリダイズする核酸塩基配列を有する特定微生物の検出方法である。
【0141】
本開示に係る特定微生物の検出方法によれば、本開示のプローブ複合体が微生物内に導入され、微生物内に目的の塩基配列がある場合に、プローブ複合体は自発的に第一のプローブと第二のプローブに解離して標識物質の標識が発するシグナルが検出される。その結果、生きている微生物内に存在する任意の塩基配列の有無を検出することができる。
【0142】
特定微生物は、検出容易性の観点から、真正細菌及び古細菌を含む原核生物、並びに微細藻類、原生生物、菌類、真菌、酵母、及び粘菌を含む真核の微生物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0143】
本開示において、プローブ複合体を微生物内に導入する手法とは、プローブ複合体を微生物内に導入することができれば、特に限定されない。
本開示において、プローブ複合体を微生物内に導入する手法は、本開示のプローブ複合体を微生物と接触させることができれば、特に限定されない。
【0144】
本開示において「接触」は、微生物とプローブ複合体とが接触する条件に置くことを指し、当業者であれば明確に理解することができる。
プローブ複合体と微生物とを接触させる手段は、特に制限されず、使用する微生物の種類、プローブ複合体に含まれる化合物の種類などに応じて、当業者であれば適当な条件で実施することができる。例えば、プローブ複合体と微生物とを接触させる手段としては、下記(1)~(3)等の手法が挙げられる。
(1)微生物を、プローブ複合体を添加した培地中で培養する手法。
(2)微生物を、プローブ複合体を含む溶液中に添加若しくは浸漬する手法。
(3)微生物上に、プローブ複合体を積層させる手法。
【0145】
プローブ複合体と微生物とを接触させる際の具体的な条件、つまり、微生物とプローブ複合体との接触時間、量、回数、温度、pH、光、塩濃度、添加物濃度等は、公知の条件に基づいて適宜設計してよい。
【0146】
プローブ複合体と微生物とを接触させる際の温度等の条件としては、対象となる微生物が死滅しない条件であって、プローブ複合体が前記微生物に導入される条件が好ましい。プローブ複合体と微生物とを接触させる際の条件は、例えば0℃~80℃の温度条件下で接触させてもよく、50℃~60℃の温度条件下で接触させてもよく、10℃~50℃の条件下で接触させてもよい。なお微生物が生きた状態に維持したまま本開示のプローブ複合体を導入する観点から、プローブ複合体と微生物とを、室温で接触させることが好ましい。本開示における室温としては、10℃~40℃が好ましく、15℃~35℃がより好ましく、20℃~30℃がさらに好ましい。ただし、本開示のプローブ複合体を微生物内に導入する手法において、任意の塩基配列を有する微生物の至適温度が上記のような室温ではない場合、前記微生物の至適温度を勘案して、プローブ複合体の導入時の温度を適宜決定することができる。
【0147】
接触させるプローブ複合体は、1種類でもよいし、又は複数種類を組み合わせてもよい。複数種類のプローブ複合体を組み合わせることで、例えば、複数種の微生物を同時に検出する、又は、より精度の高い特定微生物の検出方法とすることができる。
【0148】
本開示において、微生物内に導入された前記標識物質が発するシグナルを検出する手法とは、微生物内に導入された前記標識物質が発するシグナルを検出することができれば、その方法は特に限定されない。例えば、標識物質が蛍光分子である場合、透過型蛍光顕微鏡又は落射型蛍光顕微鏡を用いて、特定波長の励起光を照射し、蛍光を検出することができる。その他、フローサイトメトリーを用いて蛍光を検出してもよい。
【0149】
本開示の検出方法における特定微生物とは、本開示の前記検出剤に記載の特定微生物と同様のものをいう。
≪プローブ複合体の用途≫
本開示のプローブ複合体、前記プローブ複合体に含まれる第一のプローブ又は第二のプローブは、それぞれ特定微生物を検出するために使用することができる。
【0150】
本開示に係るプローブ複合体の使用における特定微生物とは、本開示に係る検出剤に記載の特定微生物と同様のものをいう。
【0151】
特定微生物は、検出容易性の観点から、真正細菌及び古細菌を含む原核生物、並びに微細藻類、原生生物、菌類、真菌、酵母、及び粘菌を含む真核の微生物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0152】
≪特定微生物の分離方法≫
本開示の特定微生物の分離方法は、本開示のプローブ複合体を用いて2種以上の微生物を含む微生物群から特定微生物を検出することと、前記特定微生物を前記微生物群から分離することと、含む、分離方法である。
本開示の特定微生物の分離方法によれば、生きている特定微生物内に存在する任意の塩基配列の有無を検出した後に、前記生きている特定微生物を分離することができる。
【0153】
本開示に係る特定微生物の分離方法におけるプローブ複合体の好ましい態様は、本開示に係るプローブ複合体における好ましい態様と同様である。
本開示に係る特定微生物の分離方法における特定微生物の好ましい態様は、本開示に係る検出剤における特定微生物の好ましい態様と同様である。
【0154】
特定微生物を前記微生物群から分離する方法は、特に制限されず、フローサイトメトリー法、限界希釈法、マイクロマニピュレーション法、マイクロ流体デバイスによる自動分離法等の公知の分離方法が適用できる。上記の中でも、分離方法としては、特定微生物の検出と分離を同じ装置で行える効率性、特定微生物の細胞生存率の低下を小さく抑える観点などから、フローサイトメトリー法が好ましい。
【実施例0155】
以下に実施例を例示し、本開示を具体的に説明するが、この実施例は単に本開示の説明のために提供するものであり、本出願において開示する発明の範囲を制限したりするものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
【0156】
[実施例1]特異的プローブの合成
下記2種類の配列の膜透過性ペプチド(CPP)をそれぞれ準備した。
(KFF)K :KFFKFFKFFK(配列番号23)
(DabFF)Dab:DabFFDabFFDabFFDab(配列番号11)
【0157】
PNAの塩基配列は、Pantoea agglomerans NBRC102470の塩基配列とハイブリダイズするようにGeneious Primeを用いてデザインし、オンラインデータベース(SILVA rRNAデータベース内のTest Probe機能)を参考に選定し、10merのPNAである5'-ccccatcgcc-3'(配列番号25)を採用した。
【0158】
(特異的プローブ1の合成)
前記PNAのN末端側(つまり5’末端側)に、エチレングリコール1(eg1)リンカーを付加させ、さらに前記eg1リンカーの先のN末端側にCPPを付加させた。続いて、PNAのC末端側(つまり3’末端側)に、5(6)-カルボキシフルオレセイン(FAM)が側鎖に付加されたリジン(K-FAM)を結合させたものを、ペプチド固相合成法にて得た。なお、合成はPanagene社に委託した。
上記操作により、以下に示す特異的プローブ1を得た。なお以下に示す特異的プローブ1において、左側がN末端側(つまり5’末端側)である。
特異的プローブ1:5'-[(KFF)3K]―[eg1]―[PNA]―[K-FAM]-3'
【0159】
(特異的プローブ2の合成)
前記PNAのN末端側(つまり5’末端側)に、システインを付加させ、さらに前記システインのN末端側にCPPを付加させた。続いて、PNAのC末端側(つまり3’末端側)に、5(6)-カルボキシフルオレセイン(FAM)が側鎖に付加されたリジン(K-FAM)を結合させたものを、ペプチド固相合成法にて得た。なお、合成はPanagene社に委託した。
上記操作により、以下に示す特異的プローブ2を得た。なお以下に示す特異的プローブ2において、左側がN末端側である。
特異的プローブ2:5'-[(DabFF)3Dab]―[システイン残基]―[PNA]―[K-FAM]-3'
【0160】
[実施例2]クエンチャープローブ1の合成
実施例1で得られた特異的プローブ1及び特異的プローブ2中で使用されているPNAにハイブリダイズするDNAオリゴマーとして、8merの5'-ggcgatgg-3'をデザインした。そして、前記DNAオリゴマーの5’末端側に前記FAMを消光できるBHQ-1クエンチャー(ファスマック社製)を結合させた。なおクエンチャープローブ1の合成はファスマック社に委託した。上記操作により、以下に示すクエンチャープローブ1を得た。なお以下に示すクエンチャープローブ1は、左側が3’末端側である。
クエンチャープローブ1:[3'-ggtagcgg-5']―[BHQ-1]
【0161】
[実施例3]プローブ複合体1及びプローブ複合体2の作製
特異的プローブ1及びクエンチャープローブ1を、モル比1:1の割合で、50%リン酸バッファー溶液(PBS、pH7.4)中、室温、及び20分間の条件で混合し、プローブ複合体1を作製した。また、特異的プローブ2及びクエンチャープローブ1を、モル比1:1の割合で、50%リン酸バッファー溶液(PBS、pH7.4)中、室温、及び20分間の条件で混合し、プローブ複合体2を作製した。作製したプローブ複合体1の模式図を図5に示し、プローブ複合体2の模式図を図6に示す。なお図5及び図6中、Kはリジン残基を表し、Fはフェニルアラニン残基を表し、Dabはジアミノブタン酸残基を表す。5’は、塩基配列の5’末端側を表し(つまりPNAにおいて、塩基配列の5’末端側はペプチドのN末端側となる。)、3’は、塩基配列の3’末端側を表す(つまりPNAにおいて、塩基配列の3’末端側はペプチドのC末端側となる。)。図5中、Oはeg1リンカーを表す。
【0162】
[実施例4]特異的プローブ及びクエンチャープローブが形成するプローブ複合体の熱安定性の検証
(種々の長さのDNAオリゴマーを含むプローブ複合体1の熱安定性の評価)
クエンチャープローブ1が有する8merの5'-ggcgatgg-3'の塩基配列のうち、8塩基(5'-ggcgatgg-3')、7塩基(5'-ggcgatg-3')、6塩基(5'-ggcgat-3')、又は4塩基(5'-ggcg-3')をDNAオリゴマーとしたクエンチャープローブを用いて熱解離曲線を作成した。特異的プローブ1及び各クエンチャープローブをそれぞれ等量混合し、最終濃度が0.2μMになるように、塩基長が異なるDNAオリゴマーについてそれぞれ(計4種類)のプローブ複合体1を調整した。各プローブ複合体を含むそれぞれの50%PBS溶解液を、StepOne PlusRT-PCR(Applied Biosystems社)にセットし、25℃から約85℃まで温度を上昇させ、0.3℃毎に相対蛍光強度(%)を測定した。FAMからの蛍光を測定するために、蛍光の測定はStepOne Plusに搭載されている4色フィルタのうち、500nm~520nmの蛍光を読み取るフィルタを使用した。評価数値として蛍光が最も明るい数値を100%の蛍光強度と設定した。
【0163】
種々の長さのDNAオリゴマーについての各プローブ複合体1の熱安定性の測定結果を示すグラフを、図7に示す。クエンチャープローブ中のDNAオリゴマーの塩基長が短くなるに従って、25℃におけるバックグラウンドの相対蛍光強度に増加が見られ、つまり熱安定性が低下していた。一方でPNAと相補的な6塩基~8塩基のDNAオリゴマーを有するクエンチャープローブは、特異的プローブ1との結合力が高く、25℃~85℃において、プローブ複合体1の形成及び解離が確認できた(解離曲線が得られた)。
【0164】
(DNAオリゴマーのミスマッチ塩基数がプローブ複合体1の熱安定性に与える影響の評価)
PNAの塩基配列に相補的である8塩基のうち、1塩基ミスマッチを含む塩基配列(5'-gacgatgg-3')、2塩基ミスマッチを含む塩基配列(5'-gatgatgg-3')、3塩基ミスマッチを含む塩基配列(5'-gataatgg-3')、若しくは4塩基ミスマッチを含む塩基配列(5'-gataatag-3')をDNAオリゴマーとしたクエンチャープローブを用いて熱解離曲線を作成した。特異的プローブ1及び各クエンチャープローブをそれぞれ等量混合し、最終濃度が0.2μMになるように、ミスマッチ塩基数が異なるDNAオリゴマーについてそれぞれ(計4種類)のプローブ複合体1を調整した。各プローブ複合体を含むそれぞれの50%PBS溶解液を、StepOne PlusRT-PCR(Applied Biosystems社)にセットし、25℃から約85℃まで温度を上昇させ、0.3℃毎に相対蛍光強度(%)を測定した。FAMからの蛍光を測定するために、蛍光の測定はStepOne Plusに搭載されている4色フィルタのうち、500nm~520nmの蛍光を読み取るフィルタを使用した。評価数値として蛍光が最も明るい数値を100%の蛍光強度と設定した。
【0165】
DNAオリゴマーのミスマッチ塩基数がプローブ複合体1の熱安定性に与える影響の測定結果を示すグラフを、図8に示す。各クエンチャープローブと特異的プローブ1とのミスマッチの数が2つ以上存在した場合、熱安定性が大きく失われた。一方で1塩基ミスマッチのクエンチャープローブは、特異的プローブ1との結合力を有しており、25℃~85℃において、プローブ複合体1の形成及び解離が確認できた(解離曲線が得られた)。
【0166】
(プローブ複合体2の熱安定性の評価)
特異的プローブ2及びクエンチャープローブ1が形成するプローブ複合体2の熱安定性の評価においては、特異的プローブ2及び5'-ggcgatgg-3'で示される8merの塩基配列を有するクエンチャープローブを等量混合し、最終濃度が0.5μMになるようにプローブ複合体2を調整した以外は、前記したプローブ複合体1の熱安定性の評価と同様に相対蛍光強度(a.u.)を測定した。なお相対蛍光強度(a.u.)は、最も高く得られた蛍光強度を1としたときの相対的な数値として示した。プローブ複合体2の熱安定性の測定結果を示すグラフを図9に示す。図中、Qはクエンチャーを表す。なお前記したプローブ複合体1の熱安定性の評価と本評価とでは、特異的プローブの最終濃度が異なるが、解離曲線の形状に影響はない。クエンチャープローブは、特異的プローブ2との結合力を有していたため、25℃~85℃において、プローブ複合体2の形成及び解離が確認できた(解離曲線が得られた)。
【0167】
[実施例5]プローブ複合体1とRNAとの置換反応の評価
プローブ複合体1とRNAとの置換反応を評価するため、RNAとして、Pantoea agglomerans NBRC102470の16S rRNA塩基配列を基にした40塩基の人工RNA(配列番号26)、Lactobacillus plantarum EW-pの16S rRNA塩基配列を基にした人工RNA(配列番号27)、Escherichia coli ATCC10798の16S rRNA塩基配列を基にした人工RNA(配列番号28)、Proteus hauseri NBRC3851の16S rRNA塩基配列を基にした人工RNA(配列番号29)、Yersinia bercovieri NBRC105717の16S rRNA塩基配列を基にした人工RNA(配列番号30)、及びEdwardsiella ictaluri NBRC105724の16S rRNA塩基配列を基にした人工RNA(配列番号31)を合成した。50%PBSで希釈した0.4μMの特異的プローブ1及び5'-ggcgatgg-3'で示される8merの塩基配列を有するクエンチャープローブの等量混合液に対して、0.4μMの上記合成RNAをそれぞれ等量添加して25℃で1時間静置した後、上記したRT-PCRを利用して相対蛍光強度(a.u.)を測定した。
【0168】
配列番号26:5'-ggggaggaaggcgaugggguuaauaaccuuaucgauugac-3'
配列番号27:5'-ucuguuguuaaagaagaacauaucugagaguaacuguuca-3'
配列番号28:5'-ggggaggaagggaguaaaguuaauaccuuugcucauugac-3'
配列番号29:5'-ggggaggaagguguuaagauuaauacucuuagcaauugac-3'
配列番号30:5'-gaggaggaaggcagucguguuaauagcacgauugauugac-3'
配列番号31:5'-agggaggaaggugugagcguuaauagcguucacaauugac-3'
【0169】
プローブ複合体1とRNAとを混合した際の蛍光強度を測定した結果を示すグラフを図10に示す。図中、No RNAは合成RNAを添加していないネガティブコントロールであることを表す。図中、各合成RNAにおける相対蛍光強度(a.u.)は、ネガティブコントロールにおける蛍光強度を1としたときの相対的な数値として示した。プローブ複合体1にP. agglomeransの合成RNAを添加した場合は、ネガティブコントロールに対して3.8倍の相対蛍光強度であった。一方で、プローブ複合体1にその他の合成RNAを添加した場合は、ネガティブコントロールに対して0.6倍~1.2倍の相対蛍光強度であった。よって、作製したプローブ複合体1は、ターゲットとするP. agglomeransの16S rRNA塩基配列と置換反応を起こし、つまりP. agglomeransを特異的に検出することができた。
【0170】
[実施例6]蛍光顕微鏡によるプローブ複合体1を用いた微生物の特異的検出の確認
(プローブ複合体1の微生物への導入)
以下3種類の菌体、Pantoea agglomerans(NBRC102470)、Acinetobacter radioresistens(NBRC102413)、又はEscherichia coli K-12(ATCC10798)それぞれに対して、Pantoea agglomeransに特異的である特異的プローブ1(CPP-PNA10Panto-FAM)、又はプローブ複合体1(CPP-PNA10Panto-FAM+Q1)を個別に導入した。なお実施例6においてCPPは(KFF)3Kを用いている。特異的プローブ1(CPP-PNA10Panto-FAM)の詳細な構造は、NH2-(KFF)3K-eg1-ccccatcgcc-K(FAM)-NH2であり、つまり(KFF)3KのN末端側には保護基を有さず、K(FAM)のC末端側には保護基としてアミノ基を有する。なおQ1はクエンチャープローブを示す。
具体的な導入方法は以下のとおりである。3mLのルリアベルターニ(LB)培養液中で16時間~18時間30℃で振とう培養したそれぞれ3種の菌体培養液から、各200μLずつ菌体培養液を分取した。前記分取した菌体培養液を、7500g、20℃、及び5分の条件で遠心分離した後、上清を除き、200μLの0.5×PBS bufferを用いて菌体を3回洗浄した。50μLの前記特異的プローブ5μM又は前記プローブ複合体5μMを、4時間30℃の条件で前記3種の菌体にそれぞれ添加した。なおネガティブコントロールは、前記3種の菌体に0.5×PBSのみを添加した。
【0171】
(微生物の特異的検出)
蛍光顕微鏡によるプローブ複合体1を用いた微生物の特異的検出を行った。なお蛍光の観察は以下のとおりに行った。蛍光顕微鏡は、OLYMPUS社のBX53正立顕微鏡を使用し、蛍光顕微鏡の光源装置は、OLYMPUS社のU-HGLGPSを使用した。顕微鏡観察で用いた励起/吸収フィルタは、OLYMPUS社の蛍光ミラーユニットで、FAMからの蛍光を測定するためのU-FBWA(緑色蛍光専用)とトリパンブルーの存在を検出するためのU-FGW(赤色蛍光専用)の2種類を使用した。画像の撮影はPC上で行い、比較対象となるサンプルの露出時間は揃えて撮影した。
【0172】
プローブ複合体1を用いた微生物の特異的検出を示す顕微鏡写真を図11に示す。なお図中、各菌種の左側図は蛍光の観察であることを表し、右側図は明視野における観察であることを表す。
ネガティブコントロールにおいては、P. agglomerans、A. radioresistens、及びE. coliのいずれの菌種も蛍光を発さず、つまり自家蛍光を示さなかった。特異的プローブ1(CPP-PNA10Panto-FAM)のみを導入したサンプルにおいては、全ての菌種からFAMからの蛍光が確認された。つまり特異的プローブ1は全ての菌種内に導入されたが、微生物種特異的な検出は出来なかったことが確認できた。プローブ複合体1(CPP-PNA10Panto-FAM+Q1)を導入したサンプルにおいては、A. radioresistens及びE. coliではFAMからの蛍光を示さなかったものの、P. agglomeransのみがFAMからの蛍光を発した。つまり、プローブ複合体1は微生物種特異的に染色したことが確認できた。
【0173】
なおネガティブコントロール又は特異的プローブ1を導入したサンプルにおいてはトリパンブルー染色を行ったが、赤色蛍光は確認できなかった。つまり、特異的プローブ1の導入による微生物の死は確認できなかった。
【0174】
[実施例7]蛍光顕微鏡によるプローブ複合体2を用いた微生物の特異的検出の確認
(プローブ複合体2の微生物への導入)
以下3種類の菌体、Pantoea agglomerans(NBRC102470)、Acinetobacter radioresistens(NBRC102413)、又はEscherichia coli K-12(ATCC10798)に対して、Pantoea agglomeransに特異的である特異的プローブ2(CPP-PNA10Panto-FAM)、又は前記特異的プローブを含むプローブ複合体2(CPP-PNA10Panto-FAM+Q1)を導入した。なお実施例7においてCPPは(DabFF)3Dabを用いている。
詳細な導入方法は、実施例6に記載の導入方法と同様である。なおネガティブコントロールは、前記3種の菌体に0.5×PBSのみを添加した。
【0175】
(微生物の特異的検出)
蛍光顕微鏡によるプローブ複合体2を用いた微生物の特異的検出を行った。蛍光の観察方法は、緑色蛍光及び赤色蛍光のうち緑色蛍光のみを測定したこと以外は実施例6に記載の方法と同様である。
【0176】
プローブ複合体2を用いた微生物の特異的検出を示す顕微鏡写真を図12に示す。なお図中、BFは明視野における観察であることを表し、Greenは緑色蛍光の観察であることを表す。
ネガティブコントロールにおいては、P. agglomerans、A. radioresistens、及びE. coliのいずれの菌種も蛍光を発さず、自家蛍光を示さなかった。特異的プローブ2(CPP-PNA10Panto-FAM、図中のSpecific Probe)のみを導入したサンプルにおいては、全ての菌種から蛍光が確認された。つまり特異的プローブ2は全ての菌種内に導入されたことが確認できたが、微生物種特異的な検出は出来なかったことが確認できた。プローブ複合体2(CPP-PNA10Panto-FAM+Q1、図中のProbe Complex)を導入したサンプルにおいては、A. radioresistens及びE. coliでは蛍光を示さなかったものの、P. agglomeransのみが蛍光を発した。つまり、プローブ複合体2は微生物種特異的に染色したことが確認できた。
【0177】
[実施例8]プローブ複合体2導入時の微生物の生死割合の判定
(微生物のトリパンブルー染色)
プローブ複合体2導入時の微生物の生死割合の判定は、トリパンブルーを用いて行った。実施例7においてプローブ複合体2を導入したP. agglomeransに対して、0.4%のトリパンブルーを添加して最終濃度0.1%になるように調整し、蛍光顕微鏡にて微生物を観察した。蛍光の観察方法は、実施例6に記載の方法と同様である。
【0178】
プローブ複合体2導入時の微生物の生死割合を示す顕微鏡写真を図13に示す。なお図中、白い矢印で示された細胞はトリパンブルー染色により赤色蛍光を発した細胞であり、死細胞であることを意味する。図中、矢印で示されていない細胞は緑色蛍光を発した細胞であり、生細胞であることを意味する。つまり、複合体プローブ2を導入されたP. agglomeransのうち約90%程度は生きていることを確認できた。
【0179】
[比較例1]CPPのみ又はCPP無しのプローブを用いた微生物への導入の確認
(微生物への導入)
以下3種類の菌体、Pantoea agglomerans(NBRC102470)、Acinetobacter radioresistens(NBRC102413)、又はEscherichia coli K-12(ATCC10798)に対して、Pantoea agglomeransに特異的であるPNA及び標識物質を有するC-PNA-K-FAM、CPPを有する(DabFF)3Dab-NH2、又は、CPP、Pantoea agglomeransに特異的であるPNA、及び標識物質を有する(DabFF)3Dab-PNA-K-FAMを導入した。なおC-PNA-K-FAMの表記のうちC-はN末端のアミノ酸残基(システイン)を意味し、(DabFF)3Dab-NH2の表記のうち-NH2はC末端側の保護基(アミノ基)を意味する。
詳細な導入方法は、実施例6に記載の導入方法と同様である。なおネガティブコントロールは、前記3種の菌体に0.5×PBSのみを添加した。
【0180】
(微生物の検出)
蛍光顕微鏡による微生物の検出を行った。蛍光の観察方法は、緑色蛍光及び赤色蛍光のうち緑色蛍光のみを測定したこと以外は実施例6に記載の方法と同様である。
CPPのみ又はCPP無しのプローブを用いた微生物への導入を確認した顕微鏡写真を図14-1~図14-3に示す。図14-1は、Escherichia coliへの導入を確認した顕微鏡写真である。図14-2は、Acinetobacter radioresistensへの導入を確認した顕微鏡写真である。図14-3は、Pantoea agglomeransへの導入を確認した顕微鏡写真である。なお図14-1~図14-3中、BFは明視野における観察であることを表し、Greenは緑色蛍光の観察であることを表す。
ネガティブコントロールにおいては、P. agglomerans、A. radioresistens、及びE. coliのいずれの菌種も蛍光を発さず、つまり自家蛍光を示さなかった。P. agglomeransに特異的であるPNA及びCPPを有する(DabFF)3Dab-PNA-K-FAMを導入したサンプルにおいては、全ての菌種から蛍光が確認された。つまり(DabFF)3Dab-PNA-K-FAMが全ての菌種内に導入されたことが確認できた。一方で、P. agglomeransに特異的であるPNAを有するPNA-K-FAM、及びCPPを有する(DabFF)3Dab-NH2を導入したサンプルにおいては、蛍光を発しなかった。
【0181】
[実施例9]微細藻類への蛍光標識されたCPPの導入の確認
(微生物への導入)
Tisochrysis luteaに対して、蛍光標識されたCPPである (DabFF)3K-FAM(ファスマック社製)を導入した。なおTisochrysis luteaは、真核の微生物であって、さらに微細藻類のうちハプト藻綱に分類される。
詳細な導入方法は、微細藻類の培養のための液をMA-ESM培地としたこと、微細藻類培養液の遠心分離を100g、20℃、及び5分の条件としたこと、及び遠心分離後の菌体洗浄においてMA-ESM培地を用いたこと以外は、実施例6に記載の導入方法と同様である。なおネガティブコントロールは、前記微細藻類に対してMA-ESM培地のみを添加した。MA-ESM培地とは、人工海水(Marine Art SF-1,大阪薬研,大阪)と海産藻類用培地であるESM培地とを混合した微量栄養素富化培地である。
【0182】
(微生物の検出)
蛍光顕微鏡による微生物の検出を行った。蛍光の観察方法は、実施例6に記載の方法と同様である。
微細藻類への蛍光標識されたCPPの導入を確認した顕微鏡写真を図15に示す。なお図15中、BFは明視野における観察であることを表し、Redは赤色蛍光の観察であることを表し、Greenは緑色蛍光の観察であることを表す。
ネガティブコントロールにおいては、Tisochrysis luteaは赤色蛍光(つまり自家蛍光)を示したが、緑色蛍光を示さなかった。一方で、(DabFF)3K-FAMを導入したTisochrysis luteaにおいては、赤色蛍光(つまり自家蛍光)及びFAMによる緑色蛍光が確認された。つまり(DabFF)3K-FAMがTisochrysis lutea内に導入されたことが確認できた。
【0183】
[実施例10]
(特異的プローブ3の合成)
PNAの塩基配列を、Enterobacter hormaecheiのITS配列とハイブリダイズするようにGeneious Primeを用いてデザインした、10merのPNAである5'-tagtcacctc-3'を採用した以外は、特異的プローブ1と同様の手法により、特異的プローブ3を得た。
特異的プローブ3:5'-[(KFF)3K]―[eg1]―[PNA]―[K-FAM]-3'
【0184】
(クエンチャープローブ2の合成)
上記特異的プローブ3に含まれるPNAにハイブリダイズするDNAオリゴマーとして、9merの5'-gaggtgact-3’を用いた以外は、クエンチャープローブ1と同様の手法として、クエンチャープローブ2を得た。
クエンチャープローブ2:[5'-gaggtgact-3']―[BHQ-1]
【0185】
(プローブ複合体3の作製)
特異的プローブ1とクエンチャープローブ1の代わりに、特異的プローブ3とクエンチャープローブ2をそれぞれ用いた以外は、プローブ複合体1と同様の手法として、プローブ複合体3を得た。
【0186】
(複数の微生物を含む混合物下におけるプローブ複合体3の特定微生物への導入)
以下3種類の菌体、Enterobacter hormaechei(NBRC105718)、Citrobacter werkmanii(NBRC105721)、又はEscherichia coli K-12(ATCC10798)を混合した菌体混合物に対して、Enterobacter hormaecheiに特異的である特異的プローブ3を導入した。
【0187】
具体的な導入方法は以下のとおりである。
ルリアベルターニ(LB)培養液中でそれぞれ一晩培養した上記3種類の菌体を、100 μL/sampleを使用することを目安にして、各サンプルを別々のエッペンチューブに分注し遠心分離(7,500g、20℃、10分)を行い、菌体を回収した。次に、回収した菌体を、PBSに懸濁させ、遠心分離(7,500g、20℃、5分)を3回繰り返し行い、菌体を洗浄した。洗浄後、ペレット状の各3種の菌体を1:1:1(溶液ボリューム)で混合し、3菌種の混合菌体サンプルを得た。得られた混合菌体サンプルを、特異的プローブ3のみの溶液(5μM、0.5×PBS溶液)50μL、プローブ複合体3の溶液(5μM、0.5×PBS溶液)50μL、又は、0.5×PBS溶液単体(ネガティブコントロール)50μLと混合し、懸濁液を30℃で4時間インキュベートした。インキュベート後、PBSを用いた洗浄工程を3回繰り返し行い、菌体組成物を得た。
【0188】
上記で得られたプローブ複合体3を導入した菌体組成物について、蛍光顕微鏡による特定微生物の特異的検出を行った。なお蛍光の観察は以下のとおりに行った。蛍光顕微鏡は、OLYMPUS社のBX53正立顕微鏡を使用し、蛍光顕微鏡の光源装置は、OLYMPUS社のU-HGLGPSを使用した。顕微鏡観察で用いた励起/吸収フィルタは、OLYMPUS社の蛍光ミラーユニットで、FAMからの蛍光を測定するためのU-FBWA(緑色蛍光専用)とトリパンブルーの存在を検出するためのU-FGW(赤色蛍光専用)の2種類を使用した。画像の撮影はPC上で行い、比較対象となるサンプルの露出時間は揃えて撮影した。結果を図16に示す。
なお、上記プローブ複合体3の微生物への導入における、プローブ複合体3の部分を、特異的プローブ3の溶液(5μM、0.5×PBS溶液)、又は、0.5×PBS溶液単体(ネガティブコントロール)に置き換えて、得られた菌体組成物についても、蛍光顕微鏡観察の結果を合わせて図16に示す。
【0189】
図16は、実施例10における複数の微生物を含む混合物下での顕微鏡写真である。図中、各菌種の右側図は蛍光の観察であることを表し、左側図は明視野における観察であることを表す。
図16に示すように、ネガティブコントロールの場合は、緑蛍光の細菌が確認されなかった。特異的プローブ3のみが導入された場合は、細菌種問わず、緑蛍光を示す細菌が多数認められた。プローブ複合体3が導入された場合は、一部の細菌のみが緑蛍光を示すことが認められた。
【0190】
[実施例11]
(複数の微生物を含む混合物下における特定微生物の検出と分離)
前記特異的プローブ3が導入された3種類の菌体の混合組成物から、Enterobacter hormaecheiを分離した。具体的な分離方法は以下のとおりである。
前記プローブ複合体3が導入された菌体組成物について、菌体組成物内の緑蛍光を示す微生物の分布を、フローサイトメーターで分析した。フローサイトメーターはオンチップ・バイオテクノロジーズ社のものを利用した。
なお、上記プローブ複合体3の特定微生物への導入における、プローブ複合体3の部分を、特異的プローブ3の溶液(5μM、0.5×PBS溶液)、又は、0.5×PBS溶液単体(ネガティブコントロール)に置き換えて、得られた菌体組成物についても、同様にフローサイトメーターで分析した。
【0191】
図示はしないが、蛍光顕微鏡観察の結果と同様に、フローサイトメーターによる分析においても、ネガティブコントロールの場合は、緑蛍光の細菌が確認されなかった。特異的プローブ3のみが導入された場合は、細菌種問わず、緑蛍光を示す細菌が多数認められた。プローブ複合体3が導入された場合は、一部の細菌のみが緑蛍光を示すことが認められた。
【0192】
プローブ複合体3が導入された3種類の菌体の混合組成物から、フローサイトメーターにより、緑蛍光を示す細菌を選出して分離し、これをLBアガープレートに播種した。播種した菌体を、30℃で3日間培養した。得られたコロニーから、ランダムに27個のコロニーを選出し、16S rRNA解析により微生物種の同定を行った。その結果、前記選出したコロニーに、特定微生物であるEnterobacter hormaecheiが含まれており、特定微生物が分離できたことを確認した。
上記結果から、複数の微生物を含む混合物下においても、本開示のプローブ複合体を用いることで、特定微生物の検出に加えて、分離と同定が可能であることが示唆された。
【0193】
上述の通り、実施例のプローブ複合体は、生きている微生物内に存在する任意の塩基配列の有無を検出することができた。また、実施例のプローブ複合体は、検出した微生物を、生きている状態で単離することができた。
【産業上の利用可能性】
【0194】
本開示のプローブ複合体は、生きている微生物内に存在する任意の塩基配列の有無を検出することができる。そのため、例えば、難培養微生物に含まれる16S rRNAを基にPNAを設計したプローブ複合体とすることにより、前記難培養微生物を培養せずとも生きた状態で検出したり、検出後に分離したりすることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14-1】
図14-2】
図14-3】
図15
図16
【配列表】
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