(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035009
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】変形計測センサ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01B 7/16 20060101AFI20240306BHJP
D04B 1/14 20060101ALI20240306BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
G01B7/16 R
D04B1/14
A61B5/11 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194563
(22)【出願日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2022138635
(32)【優先日】2022-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】泉 小波
【テーマコード(参考)】
2F063
4C038
4L002
【Fターム(参考)】
2F063AA25
2F063BA30
2F063BB02
2F063DA02
2F063DA05
2F063DC08
2F063FA12
2F063KA01
4C038VA04
4C038VB28
4C038VC20
4L002AA01
4L002AA02
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4L002AA04
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4L002AA06
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4L002AA08
4L002AB01
4L002AB02
4L002AC03
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4L002BB02
4L002DA00
4L002EA00
4L002EA06
4L002FA01
4L002FA06
(57)【要約】
【課題】 編み物の一部についての変形の計測を与える、伸縮性を有するウェアラブルな変形計測センサ及びその製造方法の提供。
【解決手段】 編み物の一部の測定箇所についての変形の計測を与える変形計測センサである。編み物を構成する非導電性の一連のニット繊維に局所的に導電性繊維を添えて測定箇所に対応する領域に導電性繊維を与え、領域における編み物の編み糸の連続する方向と交差する方向の両端部に電極部を設ける。製造方法は、編み物を構成する非導電性の一連のニット繊維に局所的に導電性繊維を添えて測定箇所に対応する領域に導電性繊維を与えるように編み込んで領域における編み物の編み糸の連続する方向に交差する方向の両端部を電極部とする編み込み工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
編み物の一部の測定箇所についての変形の計測を与える変形計測センサであって、
前記編み物を構成する非導電性の一連のニット繊維に局所的に導電性繊維を添えて前記測定箇所に対応するセンサ領域に前記導電性繊維を与え、前記センサ領域における前記編み物の編み糸の連続する方向と交差する方向の両端部に電極部を設けたことを特徴とする変形計測センサ。
【請求項2】
前記センサ領域は前記編み糸の連続する方向に伸縮し、伸張したときに前記電極部の間の抵抗値が低下することを特徴とする請求項1記載の変形計測センサ。
【請求項3】
前記センサ領域では、主糸として前記ニット繊維、添糸として前記導電性繊維を用いられて、前記添糸を表側または裏側のどちらか一方に配置させるようにプレーティングによって編み込まれていることを特徴とする請求項2記載の変形計測センサ。
【請求項4】
前記電極部と電気的に接続され導電性を有する接触電極領域を含み、前記接触電極領域は前記添糸を表側に配置させるようにプレーティングによって編み込まれ前記編み糸の連続する方向に伸縮することを特徴とする請求項3記載の変形計測センサ。
【請求項5】
前記ニット繊維は綿、麻、絹、又は、羊毛からなる天然繊維、ポリエステル系樹脂、ナイロン系樹脂、アクリル系樹脂、又は、ポリウレタン系樹脂からなる合成繊維、又はこれらの混合繊維からなることを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載の変形計測センサ。
【請求項6】
編み物の一部の測定箇所についての変形の計測を与える変形計測センサの製造方法であって、
前記編み物を構成する非導電性の一連のニット繊維に局所的に導電性繊維を添えて前記測定箇所に対応するセンサ領域に前記導電性繊維を与えるように編み込んで前記センサ領域における前記編み物の編み糸の連続する方向に交差する方向の両端部を電極部とする編み込み工程と、
を含むことを特徴とする変形計測センサの製造方法。
【請求項7】
前記センサ領域は前記編み糸の連続する方向に伸縮し、伸張したときに前記電極部の間の抵抗値が低下することを特徴とする請求項6記載の変形計測センサの製造方法。
【請求項8】
前記編み込み工程では、前記センサ領域において、主糸として前記ニット繊維、添糸として前記導電性繊維を用い、前記添糸を表側または裏側のどちらか一方に配置させるようにプレーティングによって編み込むことを特徴とする請求項7記載の変形計測センサの製造方法。
【請求項9】
前記変形計測センサは前記電極部と電気的に接続され導電性を有する接触電極領域を含み、前記編み込み工程では前記接触電極領域において前記添糸を表側に配置させるようにプレーティングによって編み込み前記編み糸の連続する方向に伸縮可能とさせることを特徴とする請求項8記載の変形計測センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮性を有するウェアラブルな変形計測センサ及びその製造方法に関し、編み物の一部についての変形の計測を与える変形計測センサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電糸を平織り物や編み物に成形し抵抗値変化などから変形を計測する変形計測センサが提案されている。特に、編み物は、1本の連続した繊維(毛糸など)をループ状に接続して編み上げられており、編み糸の連続する方向の2点間距離に対して繊維の長さを大きく取って冗長性を持たせ、大きな伸縮性を与えられている。かかる編み物を導電性繊維で成形することで変形に追従可能な変形計測センサを得られる。
【0003】
例えば、特許文献1では、導電性の繊維と非導電性の繊維とを混ぜ合わせた混紡糸によって収縮性を有する編み物に編み込んだ導電性編み物からなる変形計測センサが開示されている。かかる導電性編物を測定対象物の測定箇所に追従して変形可能に与えることで、導電性編み物の電気抵抗の変化から測定対象物の変形が検知できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
平織りされた織布からなる衣類などの局所的な変形を計測するには、伸縮性を有するように導電性繊維を成形してなるパッチ状センサを該衣類の計測箇所に部分的に貼付して計測できる。一方、編み物からなる衣類などであれば、伸縮性が大きいため、貼付したパッチ状センサが追従できず、編み物としての変形を拘束し、精確な測定が困難である。また、上記した編み物からなるパッチ状センサを貼付しても、貼付部分の厚みが大きく変化し、やはり精確な測定が出来ない。
【0006】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、編み物の一部についての変形の計測を与える、伸縮性を有するウェアラブルな変形計測センサ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による変形計測センサは、編み物の一部の測定箇所についての変形の計測を与える変形計測センサであって、前記編み物を構成する非導電性の一連のニット繊維に局所的に導電性繊維を添えて前記測定箇所に対応するセンサ領域に前記導電性繊維を与え、前記領域における前記編み物の編み糸の連続する方向と交差する方向の両端部に電極部を設けたことを特徴とする。
【0008】
かかる特徴によれば、伸縮性を有するウェアラブルな変形計測センサとし得るとともに、電極部の間の抵抗値などから編み物の一部についての変形の計測を与えることができる。
【0009】
上記した発明において、前記センサ領域は前記編み糸の連続する方向に伸縮し、伸張したときに前記電極部の間の抵抗値が低下することを特徴としてもよい。また、前記センサ領域では、主糸として前記ニット繊維、添糸として前記導電性繊維を用いられ、前記添糸を表側または裏側のどちらか一方に配置させるようにプレーティングによって編み込まれていることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、伸張に対する抵抗値変化を安定させ得て、編み物の一部についての変形の計測を正確に与え得るのである。
【0010】
上記した発明において、前記電極部と電気的に接続され導電性を有する接触電極領域を含み、前記接触電極領域は前記添糸を表側に配置させるようにプレーティングによって編み込まれ前記編み糸の連続する方向に伸縮することを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、回路部を変形計測センサとは別個に設けることが出来て、ウェアラブル性を損なうことなく、編み物の一部についての変形の計測を与え得るのである。
【0011】
さらに、上記した発明において、前記ニット繊維は綿、麻、絹、又は、羊毛からなる天然繊維、ポリエステル系樹脂、ナイロン系樹脂、アクリル系樹脂、又は、ポリウレタン系樹脂からなる合成繊維、又はこれらの混合繊維からなることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、伸張に対する抵抗値変化を安定させ得て、編み物の一部についての変形の計測を与える。
【0012】
また、本発明による変形計測センサの製造方法は、編み物の一部の測定箇所についての変形の計測を与える変形計測センサの製造方法であって、前記編み物を構成する非導電性の一連のニット繊維に局所的に導電性繊維を添えて前記測定箇所に対応するセンサ領域に前記導電性繊維を与えるように編み込んで前記センサ領域における前記編み物の編み糸の連続する方向に交差する方向の両端部を電極部とする編み込み工程を含むことを特徴とする。
【0013】
かかる特徴によれば、伸縮性を有するウェアラブルな変形計測センサを得ることができるとともに、電極部の間における抵抗値などの電気特性の変化から編み物の一部についての変形の計測を与えることができる。
【0014】
上記した発明において、前記センサ領域は前記編み糸の連続する方向に伸縮し、伸張したときに前記電極部の間の抵抗値が低下することを特徴としてもよい。また、前記編み込み工程では、前記センサ領域において、主糸として前記ニット繊維、添糸として前記導電性繊維を用い、前記添糸を表側または裏側のどちらか一方に配置させるようにプレーティングによって編み込むことを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、伸張に対する抵抗値変化を安定させ得て、編み物の一部についての変形の計測を与える。
【0015】
上記した発明において、前記変形計測センサは、前記電極部と電気的に接続され導電性を有する接触電極領域を含み、前記編み込み工程では前記接触電極領域において前記添糸を表側に配置させるようにプレーティングによって編み込み前記編み糸の連続する方向に伸縮可能とさせることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、回路部を変形計測センサとは別個に設けることが出来て、ウェアラブル性を損なうことなく、編み物の一部についての変形の計測を与え得るのである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明による実施例としての変形計測センサの斜視図である。
【
図2】緯編みの編み糸による編み目の例を示す図である。
【
図3】抵抗値の測定に用いた変形計測センサの外観写真であり、(a)は前身頃、(b)は後身頃をそれぞれ示す。
【
図5】同変形計測センサの伸張率と抵抗値の測定系を示す外観写真である。
【
図6】計測した伸張率と抵抗値との関係を示すグラフである。
【
図7】導電性繊維についてのプレーティングの有無等についての外観を示す写真である。
【
図8】(a)、(b)同変形計測センサを着用したときの動作と抵抗値との関係を経過時間に対応させて示したグラフである。
【
図10】接触電極領域を模した帯状電極の伸張率と抵抗値との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明による1つの実施例である変形計測センサ及びその製造方法について、
図1及び
図2を用いて説明する。
【0018】
図1に示すように、変形計測センサ1は、編み物の一部の測定箇所に対応するセンサ領域2に導電性繊維を与えられたものである。センサ領域2の部分を除くと、編み物を構成する一連の編み糸は非導電性のニット繊維である。非導電性のニット繊維としては、編み物に使用できる糸であればよく、例えば、綿、麻、絹、羊毛等の天然繊維、ポリエステル系、ナイロン系、アクリル系、ポリウレタン系等の樹脂からなるもの、またはそれらの混合繊維のいずれかを好適に使用し得る。そして、変形計測センサ1は、測定箇所についての変形の計測を行うものである。ここでは、胴回り方向の寸法変化を計測する腹巻型の編み物による変形計測センサ1を例として説明する。
【0019】
変形計測センサ1は、無縫製横編み機によって円筒状に編まれた編み物である。つまり、円筒形の円周方向を緯方向として編み糸を緯方向に連続させるように緯編し、編み糸の連続をらせん状に積み重ねるように編むことで、前身頃3及び後身頃4を縫製せずに一続きとした円筒状の腹巻型の変形計測センサ1を得ている。
【0020】
ここで、センサ領域2は、前身頃3の略中央にインターシャによって導電性繊維を加えて長方形に形成されている。例えば、変形計測センサ1である編み物の全体を構成する非導電性の編み糸による一連の繊維に、センサ領域2となる部分において局所的に導電性繊維を添えて編み込むインターシャを行うことで導電性繊維を与えられた領域2が形成される。つまり、センサ領域2(インターシャ部分)とそれ以外の部分(グランド部分)は、異なるキャリア(糸)により編成される。インターシャ部分はグランド部分とタックにより接続される。タックは、両タックでも片タックでも良いが、出タックではなく入タックの方が安定して編成できる。
【0021】
センサ領域2は、使用する編機のゲージに適した太さを有する導電性繊維を使用できるが、編み物全体としての肌触りや伸縮性を同じにすることが好ましい。そこで、本実施例においては、非導電性繊維による主糸に導電性繊維による添糸を加えて編み込むこととした。例えば、複数本取りで編み進めて導電性繊維を添糸として編み込んだり、主糸の1本と導電性繊維を置き換えて編み込んだりして、導電性繊維を加えた影響を小さくすることで他の部分と同等の伸縮性を得ることもできる。なお、編み物全体および領域2を構成する主糸及び添糸は、単数又は複数のいずれであってもよい。
【0022】
センサ領域2には、センサ領域2を構成する導電性繊維において抵抗値を測定するための電極部を2箇所定める。この電極部には予め電極を形成してもよい。ここでは、センサ領域2の紙面上下方向の両端部、すなわち経方向の両端部に電極部5a及び5bを定めた。
【0023】
このとき、
図2を併せて参照すると、変形計測センサ1は、編み糸6の連続する方向を緯方向として編まれている。一方、経方向には編み糸6同士を絡ませて編み目が編成されており、編み糸6を連続させてはいない。つまり、導電性繊維を含むインターシャによるセンサ領域2においては、緯方向の両端で測定する抵抗値は導電性繊維そのものの抵抗の影響が大となり、測定される抵抗値への伸縮の影響は小さいと考えられる。一方、経方向の両端で測定する抵抗値は、経方向に並ぶ導電性繊維同士の接触状態の変化によって変化する。つまり、測定される抵抗値にセンサ領域2の伸縮が大きく影響を与えると考えられる。なお、インターシャ部分では端で折り返された1本の編み糸6同士で経方向に絡まるように編まれるが、1本の導電性繊維としての抵抗値を考慮すると距離が長いため、やはり経方向に並ぶ導電性繊維同士の接触状態の変化が抵抗値の変化に対して支配的に影響を与えるものと思われる。
【0024】
なお、ここでは平編み(メリヤス編み)を図示したが、他の編み方や柄編み等も含めて緯編(横編み)は緯方向への伸縮性に富み、上記したような抵抗値の変化についても同様である。
【0025】
つまり、電極部5a及び5bを経方向の両端に配置することで、センサ領域2の伸縮状態によって電極部5a及び5bの間の抵抗値の変化を比較的大きくすることができる。そして、電極部5a及び5bの間の抵抗値の変化から変形計測センサ1の一部であるセンサ領域2又はセンサ領域2を含む編み物の一部の変形の計測を与えることができる。抵抗値の変化を大とすることで、変形の計測を精確に行い得る。また、変形計測センサ1を腹巻型の編み物としたように、ウェアラブルなセンサとして使用し得る。
【0026】
このような変形計測センサ1は、例えば、上記したようにセンサ領域2に導電性繊維を与えるよう編み込む編み込み工程において、インターシャにより、センサ領域2における編み糸の連続する方向に交差する方向の両端部に電極部5a及び5bを設けるといった製造方法によって得ることができる。
【0027】
また、センサ領域2においては、いわゆるプレーティングを行って、導電性繊維からなる添糸を常に表側、または裏側に配置させるように編み込むようにすることも好ましい。プレーティングを行うことによって、主糸に対する添糸の位置が固定され、導電性繊維によるセンサ領域2の抵抗値の変形計測センサ1毎の固体差が小さくなり、安定した測定値を得ることができる。プレーティングについては公知であるので、ここではその方法についての説明を省略する。
【0028】
なお、変形計測センサ1によれば、編み糸6の連続する方向である緯方向にセンサ領域2を伸張させたときに電極部5a及び5b間の抵抗値が低下する。センサ領域2は、緯方向に伸張することで、導電性繊維の経方向に向いた部分を緯方向へ向けるようにして、経方向に並んだ導電性繊維同士をより平行に近づけて接触面積を増大させるためと考えられる。
【0029】
また、上記した実施例においては、変形計測センサ1は、無縫製横編み機によって円筒状の編み物としたが、一般的な横編み機によってシート状の編み物としてもよい。
【0030】
なお、電極部5a及び5bを経方向の両端に設けたが、上記したように導電性繊維同士の接触状態の変化の影響を受けるように配置できればよいので、長方形のセンサ領域2の対角同士に配置してもよい。つまり、電極部5a及び5bは、センサ領域2において、編み糸6の連続する方向である緯方向に交差する方向の両端に配置されればよい。
【0031】
一方、経編の場合は、編み糸の連続する方向は経方向となるので、電極部の配置は編み糸の連続する経方向に交差する方向の両端とすることで伸縮に対する抵抗値の変化を比較的大きくし得る。
【0032】
[製造試験]
次に、上記した変形計測センサ1を製造し、抵抗値の測定を行った結果について
図3乃至
図8を用いて説明する。
【0033】
図3及び
図4に示すような腹巻型の変形計測センサ1を製造した。製造には、無縫製横編み機MACH2XS-153(株式会社島精機製作所製)を使用した。主糸として1/60番手のポリエステル糸(ECOPET(登録商標)、帝人フロンティア株式会社製)を3本取りして使用した。また、インターシャ部分(センサ領域2の部分)については、同じく主糸を3本取りとし、添糸として70デニール相当の銀メッキ糸(AGposs(登録商標)、ミツフジ株式会社製)1本を用いた。また、主糸3本のうち2本を無縫製横編み機の測長機経由で供給し、主糸の残り1本及び添糸を糸送りローラ経由で供給した。インターシャ部分においては、添糸が表側に来るようにプレーティングを行っている。
【0034】
特に、
図4を参照すると、編成のサイズとしては緯200目、経200目とし、さらに経方向の両端部には編み物の仕上りでの巻回を防止するリブ編み7を加えた。インターシャ部分(センサ領域2)は、緯50目、経150目とした。編み方はメリヤス編みとし、無縫製横編み機では表編として設定した。無縫製横編み機における編成速度は、インターシャ部分において0.6m/s、グランド部分は0.8m/sであり、ループ長を6.2mmに設定した。
【0035】
また、電極部5a及び5bは、センサ領域2の上下に8コースずつインターシャで形成した。電極部は、主糸を2本取りとし、添糸として銀メッキ糸(AGfit(登録商標)、ミツフジ株式会社製)1本を用いた。主糸は測長機経由で、添糸は糸送りローラ経由で供給し、添糸が表になる用プレーティングを行った。電極部の編成速度は0.6m/sであり、ループ長はセンサ領域2の部分よりもプラス0.3~0.5mmとしている。
【0036】
次に、
図5に示すように、周長を任意の寸法に変形可能なプラスチック板による筒状体8の周囲を覆うように作製した変形計測センサを嵌め、周長を変化させたときの変形計測センサ1の伸張率に対する抵抗値の変化をデジタルマルチメータ9で測定した。
【0037】
その結果、
図6に示すように、緯方向の伸張率を大きくすると電極部5a及び5b間の抵抗値を低下させる大凡の比例関係が確認された。なお、同図では、2本ある線の内、点線は、筒状体8の直径を大きくし、センサの伸張率を大きくしたときの抵抗値の変化を示し、実線は、収縮させたときの抵抗値の変化を示している。ここでは、同図に示すように、筒状体8によって変形計測センサ1を伸張率0%から伸長率40%まで伸張させた後、伸長率0%まで収縮させて抵抗値の変化を計測した。
【0038】
使用する主糸、または添糸の種類によっては、同じ伸張率でも伸張時と収縮時とで抵抗値に差を生じることがあるが、伸張率0%まで収縮させたとき(筒状体8を元に戻したとき)には伸張させる前とほとんど同じ抵抗値を得ており、高い再現性を有することも伺える。また、同図は一例であり、抵抗値やゲージ率は変形計測センサ1及びセンサ領域2の編み物としての編成条件により変化する。
【0039】
図7に示すように、センサ領域2について導電性繊維のプレーティングの状態による抵抗値の違いを調査した。同図(a)、(b)、(c)は、それぞれ、導電性繊維を表側に配置するプレーティング、プレーティングなし、導電性繊維を裏側に配置するプレーティングとした変形計測センサ1をそれぞれ3着ずつ製作した。なお、ここでは、センサ領域2は横20目、縦100目とした。
【0040】
伸張率0%での3着の平均抵抗値は、(a)60Ω、(b)200Ω、(c)525Ωとなった。なお、(b)のプレーティングを行わなかった場合については、各センサにおいて伸張率と抵抗値との大凡の比例関係にばらつきを生じないものの、(a)及び(c)と比べて、各センサの抵抗値の固体差が大きかった。これは、プレーティングを行わないと導電性繊維同士の接触状態にばらつきを生じ、一方で、伸張率による接触状態の変化は全体として安定して生じるためであると考えられる。また、プレーティングを行った(a)と(c)の平均抵抗値が大きく異なったが、表側又は裏側の導電性繊維の配置によっても導電性繊維同士の接触状態が異なるものと考えられる。
【0041】
図8に示すように、表側に導電性繊維を配置するプレーティングを行った変形計測センサ1を実際に人が着用し、各動作時におけるセンサ領域2の電極部5a及び5b間の抵抗値を測定した。例えば、同図(a)に示すように、腹巻形状の変形計測センサ1を胸部高さに着用し、座位にて測定した場合、呼吸による胸部の変形を計測することができた。具体的には、着用者が息を吸っているときには、抵抗値が低抵抗側に振れていた。また、同図(b)に示すように、ウエスト部分にセンサ領域2を有するパンツ型の変形計測センサ1を人が着用し、立位と座位とを繰り返した。すると、座位において抵抗値を低くしており、伸張率を大としていることが判った。なお、立位又は座位の同じ姿勢を継続している最中にも抵抗値の上下動が観察されるが、呼吸に伴う寸法変化を計測しているものと考えられる。これらは、伸張率を大きくすることで抵抗値を低下させる大凡の比例関係をよく表している。
【0042】
以上のように、変形計測センサ1によれば、伸縮性を有する腹巻型やパンツ型などのウェアラブルな変形計測センサを得ることができるとともに、電極部の間の抵抗値などから編み物の一部についての変形の計測を与えることができる。例えば、編み物の周長の変化と抵抗値とを対応させておくことで、周長を計測したり、着用した人の屈伸などの動作を計測したりすることができる。なお、変形計測センサとしては、セーター型など他の形状としてもよい。
【0043】
[信号取出例]
上記した衣服などのウェアラブルな変形計測センサでは、センサ信号を処理する回路部をセンサ領域の近傍又は衣服に取り付けると、衣服を着用した被検者の動作などに影響を与えることがある。そこで、センサ領域からの計測信号を接触電極を介して衣服の外部に別個に設けられた回路部に導く例について説明する。
【0044】
図9に示すように、上記したような変形計測センサ1を与えられた衣服11(ここではズボンなどの腰部を表した。)を着用した被検者が椅子10に着座した状態で計測を行うとする。一般的に、着座状態では、椅子10の座面12の左右(
図9(b)のX方向)に腰を動かす動作よりも、前後方向(
図9(b)のY方向)に動かす動作の方が大きくなる。そのため、一対の帯状の接触電極領域15aを前後方向(
図9(b)のY方向)に延びるように衣服11に与えるとともに、この位置に対応するように、二分割された一対の帯状の回路側電極領域15bを左右方向(
図9(b)のX方向)に延びるように椅子10の座面12に与えることが好ましい。被検者が椅子10に着座すると、一対の帯状の接触電極領域15aと一対の帯状の回路側電極領域15bとが接触電極として電気的に接続される。また、被検者が椅子10上でいくらか動いたとしても、接触電極の接触は維持されるのである。
【0045】
ここで、接触電極領域15aも、センサ領域2と同様に、インターシャによって導電性繊維を加えて帯状に形成され、その上で、センサ領域2の電極部5a及び5bと電気的に接続されている。例えば、編み物の全体を構成する非導電性の編み糸による一連の繊維に、接触電極領域15aとなる部分において局所的に導電性繊維を添えて編み込むインターシャを行うことで形成される。なお、接触電極領域15aにおいては、プレーティングを行って、導電性繊維からなる添糸を常に表側に配置させるように編み込んで表面に電極を露出させている。
【0046】
接触電極領域15aは、着座状態では椅子10の座面12とはそれほど大きく相対移動することはないが、編み糸の連続する方向に伸縮するためこの伸縮に伴って抵抗値の変化の小さいことが好ましく、さらには抵抗値に変化のないことがより好ましい。ここで、導電性繊維を含むインターシャによるセンサ領域2でも述べたように、緯方向の両端で測定する抵抗値は導電性繊維そのものの抵抗の影響が大となるから、抵抗値への伸縮の影響を小さくできこれを利用できる。また、経方向の両端で測定する抵抗値は、経方向に並ぶ導電性繊維同士の接触状態の変化によって変化するが、導電性繊維の径を調整することで変化を小さく出来る。
【0047】
図10には、銀メッキ導電繊維であるAGfit(ミツフジ株式会社製、製品名)をニット繊維であるアモッサ(株式会社シモムラ製、製品名)にインターシャで与えた場合の伸長率と抵抗値の関係を示した。ここでは、導電繊維とニット繊維の径を等しくしている。これからもわかるように、40%までの伸縮に伴ってほぼ抵抗値に変化を生じないようにできる。このように、導電繊維とニット繊維の径の比を変化させることで、伸長率に対する抵抗値の変化を制御でき得る。
【0048】
なお、センサ領域2の電極部5a及び5bと接触電極領域15aとの電気的に接続を与える導電部16も上記同様、伸縮する一方、抵抗値に変化を生じないように与えられる。
【0049】
以上、本発明による代表的な実施例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0050】
1 変形計測センサ
2 センサ領域
5a、5b 電極部
6 編み糸
10 椅子
10a 座面
11 衣服(腰部)
12 配線部
13 回路部
15a 接触電極領域
15b 回路側電極領域