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特開2024-35152塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子、その製造方法、医薬組成物、及びその作製キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035152
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子、その製造方法、医薬組成物、及びその作製キット
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/32 20060101AFI20240306BHJP
   C07K 14/80 20060101ALI20240306BHJP
   C07K 14/79 20060101ALI20240306BHJP
   C07K 14/50 20060101ALI20240306BHJP
   C07K 14/57 20060101ALI20240306BHJP
   C07K 14/51 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 38/47 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 38/40 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 38/22 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 38/21 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20240306BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20240306BHJP
   A61P 17/00 20060101ALN20240306BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20240306BHJP
【FI】
C01B25/32 Z
C07K14/80
C07K14/79
C07K14/50
C07K14/57
C07K14/51
A61K38/17
A61K38/47
A61K38/40
A61K38/22
A61K38/21
A61K47/36
A61K9/10
A61K9/16
A61P17/00
A61P35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023137952
(22)【出願日】2023-08-28
(31)【優先権主張番号】P 2022137523
(32)【優先日】2022-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】中村 真紀
(72)【発明者】
【氏名】大矢根 綾子
(72)【発明者】
【氏名】分領 和歌子
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA16
4C076AA31
4C076CC18
4C076CC27
4C076EE30F
4C076FF16
4C084AA01
4C084CA18
4C084DA24
4C084DB54
4C084DB60
4C084DC22
4C084DC50
4C084MA21
4C084MA41
4C084NA20
4C084ZA89
4C084ZB26
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA18
4H045DA89
4H045EA20
4H045FA10
(57)【要約】
【課題】分散性を有しながら、所望量の塩基性タンパク質を効率よく担持させ、塩基性タンパク質の放出機能を付与した、塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子、その製造方法、及びその作製キットを提供する。
【解決手段】塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子は、リン酸カルシウムと、負電荷を有する分散剤と、塩基性タンパク質と、を含み、塩基性タンパク質は、前記ナノ粒子の表面及び内部に担持されている。塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の製造方法は、カルシウムイオン含有液、リン酸イオン含有液、塩基性タンパク質、及び、負電荷を有する分散剤を混合及び撹拌し、過飽和溶液を調製することを含む。塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の作製キットは、カルシウムイオン含有液と、リン酸イオン含有液と、塩基性タンパク質と、負電荷を有する分散剤と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸カルシウムと、負電荷を有する分散剤と、塩基性タンパク質と、を含む、塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子であって、
前記塩基性タンパク質は、前記塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の表面及び内部に担持されている、塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子。
【請求項2】
前記分散剤がグリコサミノグリカンである、請求項1に記載の塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子。
【請求項3】
前記分散剤がヘパリンである、請求項1又は2に記載の塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子。
【請求項4】
前記塩基性タンパク質がシトクロムc、リゾチーム、ラクトフェリン、線維芽細胞増殖因子-2、骨形成タンパク質-2、又はインターフェロンγである、請求項1又は2に記載の塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子。
【請求項5】
前記塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の、流体力学的径が30nm以上500nm以下である、請求項1又は2に記載の塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子。
【請求項6】
前記塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の、ゼータ電位が-5mV以下である、請求項1又は2に記載の塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子。
【請求項7】
カルシウムイオン含有液、リン酸イオン含有液、塩基性タンパク質、及び、負電荷を有する分散剤を混合及び撹拌し、過飽和溶液を調製することを含む、塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
前記撹拌の後に、前記過飽和溶液をエージングすることを更に含む、請求項7に記載の塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
前記エージングを1時間以上24時間以下行う、請求項8に記載の塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子を含む、医薬組成物。
【請求項11】
カルシウムイオン含有液と、
リン酸イオン含有液と、
塩基性タンパク質と、
負電荷を有する分散剤と、
を含む、塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の作製キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子、その製造方法、医薬組成物、及びその作製キットに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの歯や骨の主要無機成分であるリン酸カルシウムは、生体親和性に優れること、生体吸収性を示すこと、弱酸性条件下で血清イオンに分解すること、ある種の薬物を担持及び放出できること等から、安全性の高い薬物送達担体としての応用が期待されている。リン酸カルシウムを分散性ナノ粒子とすることで、静脈内又は動脈内注射等による生体内投与、体内循環、患部への送達、細胞への取込、一部の血管壁の通過等が可能となることから、種々の薬物を担持させたリン酸カルシウムナノ粒子の研究がこれまで行われている。
【0003】
薬物送達用のリン酸カルシウムナノ粒子は、生体内投与や細胞への取込の際に、ナノサイズ(流体力学的径30nm以上500nm以下)の大きさを持ち、溶媒中で分散状態を保つことが望ましい。リン酸カルシウムと薬物の複合ナノ粒子に分散性を持たせるために、界面活性剤等の有機分子を表面に吸着させる方法が報告されているが、生体内に投与する上での安全性に懸念のある分子が使用されることがあった。それに対し、生体内に投与可能な認可済み薬剤や生体分子(タンパク質、核酸、多糖等)を分散剤として含む、分散性リン酸カルシウムナノ粒子も報告されている。
【0004】
そのような分散性リン酸カルシウムナノ粒子として、例えば、分散剤としてタンパク質(酸性タンパク質のアルブミン)を含むリン酸カルシウム粒子(非特許文献1)、DNAを含むリン酸カルシウム粒子(非特許文献2)、ヘパリンを含むリン酸カルシウム粒子(非特許文献3)、ヒアルロン酸を含むリン酸カルシウム粒子(非特許文献4)等が報告されている。また、特許文献1には、有機物に被覆された無機ナノ粒子及び分散剤を含む分散性リン酸カルシウムナノ粒子が開示されている。
【0005】
近年、薬物として、遺伝子組み換え技術等を利用して製造されるサイトカイン、抗体等のタンパク質が注目されている。中でも塩基性タンパク質の中に、有効性の高い有望タンパク質が散見され、うちいくつかは承認済みバイオ医薬品の有効成分として臨床応用されている。ただし、塩基性タンパク質の多くは安定性に劣り失活し易い上に、比較的高価である。従って、塩基性タンパク質送達用の分散性リン酸カルシウムナノ粒子を作製する際には、塩基性タンパク質を極力失活させることなく、所望量を効率よく(高回収率で)、分散性リン酸カルシウムナノ粒子に担持させることが求められる。また、得られた粒子を生体に使用するためには、原料及び生成粒子に含まれる全成分について、高い安全性が求められる。
【0006】
安全性の高い原料から、塩基性タンパク質を含むリン酸カルシウム複合体を得る手法として、生体内環境に近い反応液(リン酸カルシウム過飽和溶液)を利用する手法が知られており、得られた複合体が活性を保持した塩基性タンパク質を長期間にわたって放出することも報告されている(非特許文献5)。しかしながら、これらの手法において、反応液に添加された塩基性タンパク質のうち、リン酸カルシウム複合体に担持される塩基性タンパク質の割合(担持効率、又は回収率)は必ずしも高くない(非特許文献6)。
【0007】
塩基性タンパク質を高効率に(高い回収率で)リン酸カルシウムと複合化し、複合粒子とする手法として、塩基性タンパク質又はその会合体をリン酸イオンによりマイナスに帯電させた後、リン酸カルシウム水溶液と反応させる手法が報告されている(特許文献2)。この手法では、塩基性タンパク質又はその会合体をマイナスに帯電させることで分散性及び安定性を与えているが、リン酸カルシウムと複合化した後の、塩基性タンパク質含有リン酸カルシウム粒子の分散性やタンパク質活性については何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-043798号公報
【特許文献2】特開2004-168739号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Rodio M et al., “Facile fabrication of bioactive ultra-small protein-hydroxyapatite nanoconjugates via liquid-phase laser ablation and their enhanced osteogenic differentiation activity.”, Journal of Materials Chemistry B, Vol. 5, pp. 279-288, 2017.
【非特許文献2】Oyane A et al., “Controlled superficial assembly of DNA-amorphous calcium phosphate nanocomposite spheres for surface-mediated gene delivery.”, Colloids and Surfaces B: Biointerfaces, Vol. 141, pp. 519-527, 2016.
【非特許文献3】Liang P et al., “Facile preparation of heparin/CaCO3/CaP hybrid nano-carriers with controllable size for anticancer drug delivery.”, Colloids and Surfaces B: Biointerfaces, Vol. 102, pp. 783-788, 2013.
【非特許文献4】Chen Z et al., Controlled mineralization by extracellular matrix: monodisperse, colloidally stable calcium phosphate-hyaluronan hybrid nanospheres, Chemical Communications, Vol. 46, pp. 1278-1280, 2010.
【非特許文献5】Tsurushima H et al., “Enhanced bone formation using hydroxyapatite ceramic coated with fibroblast growth factor-2”, Acta Biomaterialia, Vol. 6, pp. 2751-2759, 2010.
【非特許文献6】Oyane A et al., “Enhanced immobilization of acidic proteins in the apatite layer via electrostatic interactions in a supersaturated calcium phosphate solution”, Acta Biomaterialia, Vol. 7, pp. 2969-2976, 2011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のように、活性を保持した塩基性タンパク質を放出できる塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子を、安全な原材料から効率よく、すなわち、タンパク質収率が良好な条件で作製することは容易ではない。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、分散性を有しながら、所望量の塩基性タンパク質を効率よく担持させ、塩基性タンパク質の放出機能を付与した、塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子、前記粒子の製造方法、及び作製キットを提供する。また、前記塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子を用いた医薬組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1) リン酸カルシウムと、負電荷を有する分散剤と、塩基性タンパク質と、を含む、塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子であって、
前記塩基性タンパク質は、前記塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の表面及び内部に担持されている、塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子。
(2) 前記分散剤がグリコサミノグリカンである、(1)に記載の塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子。
(3) 前記分散剤がヘパリンである、(1)又は(2)に記載の塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子。
(4) 前記塩基性タンパク質がシトクロムc、リゾチーム、ラクトフェリン、線維芽細胞増殖因子-2、骨形成タンパク質-2、又はインターフェロンγである、(1)~(3)のいずれか一つに記載の塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子。
(5) 前記塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の、流体力学的径が30nm以上500nm以下である、(1)~(4)のいずれか一つに記載の塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子。
(6) 前記塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の、ゼータ電位が-5mV以下である、(1)~(5)のいずれか一つに記載の塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子。
(7) カルシウムイオン含有液、リン酸イオン含有液、塩基性タンパク質、及び、負電荷を有する分散剤を混合及び撹拌し、過飽和溶液を調製することを含む、塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の製造方法。
(8) 前記撹拌の後に、前記過飽和溶液をエージングすることを更に含む、(7)に記載の塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の製造方法。
(9) 前記エージングを1時間以上24時間以下行う、(8)に記載の塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の製造方法。
(10) (1)~(6)のいずれか一つに記載の塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子を含む、医薬組成物。
(11) カルシウムイオン含有液と、リン酸イオン含有液と、塩基性タンパク質と、負電荷を有する分散剤と、を含む、塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の作製キット。
【発明の効果】
【0013】
上記態様の塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子、塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の製造方法、及び塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の作製キットによれば、所望量の塩基性タンパク質を効率よく担持させ、塩基性タンパク質の放出機能を付与した、塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子を提供することができる。上記態様の医薬組成物は、前記塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子を含み、分散性を有しながら、所望量の塩基性タンパク質が効率よく担持されており、生体内環境において、活性を保持した塩基性タンパク質を所望の挙動で放出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1で作製された試料の走査電子顕微鏡(SEM)画像である。
図2】実施例1で作製された試料の透過電子顕微鏡(TEM)画像(1~3段目の左側及び中央の画像)、制限視野電子回折(SAED)パターン(1~3段目の右側の画像)、並びに、カルシウム(Ca)、リン(P)、硫黄(S)、及び窒素(N)の元素分布を示す走査透過電子顕微鏡(STEM)-エネルギー分散型X線分光(EDX)画像(4段目の画像)である。
図3】実施例1で作製された試料のシトクロムc担持効率を示すグラフである。
図4】実施例1で作製された試料のEDXスペクトルである。
図5】実施例1で作製された試料の動的光散乱法(DLS)による粒子径分布を示すグラフである。
図6】実施例1で作製された試料の電気泳動光散乱法(ELS)によるゼータ電位を示すグラフである。
図7】実施例2で作製された試料のSEM画像である。
図8】実施例2で作製された試料のシトクロムc担持量(左)と担持効率(右)を示すグラフである。
図9】実施例2で作製された試料のCa含有量(1段目の左)、P含有量(1段目の右)、S含有量(2段目の左)、ヘパリン担持量(2段目の右)、S/Caモル比(3段目の左)、及びCa/Pモル比(3段目の右)を示すグラフである。
図10】実施例3で作製された試料のSEM画像である。
図11】実施例3で作製された試料のシトクロムc担持効率を示すグラフである。
図12】実施例4で作製された試料のSEM画像である。
図13】実施例4で作製された試料のシトクロムc担持効率を示すグラフである。
図14】実施例5で作製された試料のリゾチーム担持効率及びアルブミン担持効率を示すグラフである。
図15】実施例5で作製された試料のDLSによる粒子径分布を示すグラフである。
図16】実施例5で作製された試料のELSによるゼータ電位を示すグラフである。
図17】実施例6で作製された試料のSEM画像である。
図18】実施例6で作製された試料のラクトフェリン担持効率(左)と担持量(右)を示すグラフである。
図19】実施例7で作製された試料の線維芽細胞増殖因子-2(FGF-2)の放出挙動を示すグラフである。
図20】実施例8で作製された試料の骨形成タンパク質-2(BMP-2)の放出挙動を示すグラフ(左)と、その縦軸方向を拡大したグラフ(右)である。
図21】実施例10で作製された試料の線維芽細胞増殖因子-2(FGF-2)の放出挙動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
≪塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子≫
本実施形態の塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子(以下、単に「本実施形態の粒子」と称する場合がある)は、リン酸カルシウムと、負電荷を有する分散剤と、塩基性タンパク質と、を含む。
【0016】
本実施形態の粒子は、リン酸カルシウムを主成分とするマトリックスを主骨格とし、塩基性タンパク質を粒子の表面及び内部に、分散剤を粒子の少なくとも表面に担持している。すなわち、分散剤は粒子の表面のみに担持されていてもよく、粒子の表面及び内部の両方に担持されていてもよい。
【0017】
発明者らは、負電荷を有する分散剤が粒子の少なくとも表面に担持されることで、粒子同士が反発しあい、粒子を分散することができ、さらに、負電荷を有する分散剤と塩基性タンパク質との静電相互作用により、分散性粒子への塩基性タンパク質の担持効率を向上できるばかりか、分散性粒子における塩基性タンパク質の担持量や放出挙動を制御及び向上できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0018】
すなわち、本実施形態の粒子は、分散性を有しながら、所望量の塩基性タンパク質が効率よく担持されており、しかも、活性を保持した塩基性タンパク質の放出機能を有するものである。
【0019】
また、本実施形態の粒子は、塩基性タンパク質が内部にも十分量担持されることから、後述する実施例に示すように、一定の期間持続的に活性を保持した塩基性タンパク質を放出するよう、放出機能を制御及び向上することができる。
【0020】
次いで、本実施形態の粒子の各構成成分について以下に詳細を説明する。
【0021】
<リン酸カルシウム>
リン酸カルシウムの組成及び結晶構造は限定されない。リン酸カルシウムは、少なくともリン酸イオンとカルシウムイオンを含む化合物であって、非晶質リン酸カルシウムであってもよく、結晶質のリン酸カルシウム化合物であってもよく、或いは、それらの混在物であってもよい。
【0022】
結晶質のリン酸カルシウム化合物としては、例えば、水酸アパタイト、炭酸アパタイト、α-リン酸三カルシウム、β-リン酸三カルシウム、又はリン酸八カルシウム等が挙げられるが、これに限定されない。
【0023】
生成直後は非晶質リン酸カルシウムであって、その後の洗浄、乾燥、又は保管中或いは分散液中で自発的に結晶化するもの、或いはエージング処理、水熱処理等を追加することによって人為的に結晶化させたり、結晶性を高めたものであってもよい。リン酸カルシウムは一般に、非晶質よりも結晶質のものの方が、また結晶質リン酸カルシウムであれば結晶性が高い程、溶解度が低下することから、結晶構造をコントロールすることにより、生体内における安定性及び溶解速度を調整することができる。これによって、後述する実施例に示すように、塩基性タンパク質の放出挙動を制御及び向上、すなわち、放出期間を延長することができる。
【0024】
また、上記のリン酸カルシウムには、リン酸イオン、カルシウムイオン以外の1種又は複数種のイオン、例えば、水酸化物イオン、フッ化物イオン等が更に含まれていてもよい。或いは、リン酸イオンやカルシウムイオンの一部が、他のイオン、例えば炭酸イオン、亜鉛イオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオン等で置換されたものであってもよい。また、粒子の機能性、例えば、特定の細胞や疾患部位への送達効率の向上等をさらに高める目的で、無機イオン以外の成分が更に含まれていてもよい。
【0025】
<分散剤>
本実施形態の粒子は、分散剤を含むことで、溶液中で安定に分散させることができる。
【0026】
分散剤としては、水溶液中で負の電荷を有する水溶性物質であればよく、リン酸カルシウム及び塩基性タンパク質と強い相互作用、すなわち親和性を有し、且つ、弱酸性から弱アルカリ性までのpHが中性付近の水溶液中で粒子に大きな負のゼータ電位を与える極性官能基を有する有機分子であることが好ましい。そのような極性官能基としては、中性付近の水溶液中で負電荷を持つカルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SO )、硫酸基(-O-SO )、又はリン酸基等の酸性官能基が挙げられる。分散剤には、単一の極性官能基が1個以上含まれていてもよく、複数の極性官能基がそれぞれ1個以上含まれていてもよい。これらの極性官能基とリン酸カルシウムとの相互作用により、粒子の少なくとも表面に分散剤が担持され、該粒子に-5mV以下、好ましくは-10mV以下、より好ましくは-14mV以下のゼータ電位を与えることができる。上記上限値以下のゼータ電位を有することで、粒子は相互反発によって水溶液中で分散状態を維持することができる。
【0027】
分散剤は、上記の要件を満たし、且つ、生体内で代謝分解される非毒性分子であることが望ましい。このような分散剤として、生体内に投与可能な承認済み医薬品や生体分子を好適に用いることができる。具体的には、ある種の酸性タンパク質(例えば、アルブミン等)、低分子医薬品(例えば、アデノシン三リン酸等)、グリコサミノグリカン(ムコ多糖類)及びその類似物質が挙げられる。グリコサミノグリカンとしては、例えば、ヒアルロン酸、コンドロイチン4-硫酸、コンドロイチン6-硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン等が挙げられる。中でも、ヘパリンが特に好ましい。ヘパリン、より正確には、ヘパリンナトリウムやヘパリンカルシウムは、医薬品(注射薬)として国内で承認されている。しかも、ある種の塩基性タンパク質、例えば、線維芽細胞増殖因子-2(FGF-2)等に対し極めて高い親和性及び結合力を示し、当該塩基性タンパク質を安定化する効果をも持つ。
【0028】
分散剤の重量平均分子量は、例えば、1000~30000であることが好ましく、例えば、1000~3500、3000~5500、4000~10000、4500~25000、及び10000~30000のいずれかであってもよい。このような分散剤は、比較的容易に入手できる。
このような重量平均分子量の分散剤は、グリコサミノグリカンであることが好ましく、ヘパリン(例えば、ヘパリンナトリウム、ヘパリンカルシウム等)であることがより好ましい。このような重量平均分子量のヘパリンは、例えば、低分子量ヘパリン、又は低分子量ではない通常の分子量のヘパリンとして、入手が可能である。
【0029】
本明細書において、「重量平均分子量」とは、特に断りのない限り、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により測定されるポリスチレン換算値である。
【0030】
<塩基性タンパク質>
塩基性タンパク質としては、等電点が7.0以上、好ましくは8.0以上、より好ましくは8.5以上である水溶性タンパク質であればよい。等電点の上限値は、特に限定されない。例えば、等電点は、12.0以下であってもよい。塩基性タンパク質の等電点が上記下限値以上であることで、分散剤との静電相互作用により、反応液中の該塩基性タンパク質を効率よく、或いは、良好な収率で粒子に担持させることができる。また、後述する実施例に示すように、反応液中の塩基性タンパク質の濃度やエージング時間を調節することによって、生成粒子における該塩基性タンパク質の担持量及び放出挙動を制御及び向上することができる。
【0031】
塩基性タンパク質は、上記の要件を満たし、且つ、生物に対して有益な薬理学的活性を示す塩基性タンパク質であることが望ましい。具体的には、例えば、FGF-2(等電点:9.6)、骨形成タンパク質-2(BMP-2)(等電点:8.5)、インターフェロンγ(IFN-γ)(等電点:10.0)等のサイトカイン;シトクロムc(等電点:10.1)等のヘムタンパク質;リゾチーム(等電点:10.7)等の酵素;ラクトフェリン(等電点:8.8)等の糖タンパク質;トラスツズマブ(等電点:8.7)、デノスマブ(等電点:8.3)等の抗体等が挙げられるが、これらに限定されない。薬理学的活性を示す塩基性タンパク質としては、生体内に投与可能な承認済みのタンパク質医薬品を好適に用いることができる。中でも、FGF-2は、ナノグラムオーダーの極微量でも薬理学的活性を示し、しかもヘパリン等のムコ多糖類に対し極めて高い親和性及び結合力を示すことから、特に好適に用いることができる。
【0032】
<粒子の物性>
本実施形態の粒子は、流体力学的径がナノサイズの分散性粒子である。具体的には、動的光散乱法(DLS)により測定された流体力学的径が、30nm以上500nm以下であることが好ましく、50nm以上300nm以下であることがより好ましく、100nm以上200nm以下であることがさらに好ましい。粒子が上記下限値以上の流体力学的径を持つことで、生体内投与された際に腎臓からすぐには排泄されずに体内循環することが可能となる。また、粒子が上記上限値以下の流体力学的径を持つことで、静脈内又は動脈内注射等による生体内投与や細胞への取込、一部の血管壁の通過等が可能となる。
【0033】
本実施形態における分散性粒子とは、少なくとも30分間、水溶液中で分散状態を維持でき、凝集や沈降を起こさない粒子を言う。分散状態の維持は、目視及びDLSによる粒子径分布により確認される。生成直後、又は溶媒(水溶液)に再懸濁させた後から30分後に、超音波照射やボルテックス(Vortex)等により振動を与えることで、分散状態となる粒子であってもよい。ナノサイズの分散性粒子となることで、静脈内又は動脈内注射等による生体内投与や細胞への取込、一部の血管壁の通過、患部への送達等が可能となる。粒子を分散させる溶媒としては、粒子のマトリックスを構成するリン酸カルシウムの化学的安定性や安全性の観点から、弱酸性から弱アルカリ性までの中性程度の水溶液が好ましい。
【0034】
本実施形態の粒子のゼータ電位は、-5mV以下であることが好ましく、-10mV以下であることがより好ましく、-14mV以下であることがさらに好ましい。ゼータ電位が上記上限値以下であることで、粒子は相互反発によって水溶液中での分散状態を維持することができる。一方で、ゼータ電位の下限値は特に限定されない。
【0035】
本実施形態の粒子において、分散剤及び塩基性タンパク質の担持量は、粒子の化学分析結果から算定することができる。例えば、後述する実施例に示すように、カルシウム1モル当たりの分散剤担持量及び塩基性タンパク質担持量として表すことができる。
【0036】
カルシウム1モル当たりの分散剤の担持量は、5g以上200g以下であることが好ましく、10g以上100g以下であることがより好ましく、20g以上50g以下であることがさらに好ましい。カルシウム1モル当たりの分散剤担持量が上記下限値以上であることで、粒子の少なくとも表面に分散剤がより十分量担持され、これにより大きな負のゼータ電位を与えられた粒子は相互反発によって分散状態を維持することができる。また、分散剤と塩基性タンパク質との静電相互作用によって、反応液中の該塩基性タンパク質を効率よく、或いは、良好な収率で粒子に担持させることができる。つまり、粒子に分散剤を担持させることで、塩基性タンパク質の担持効率を向上させることができる。さらに、反応液中の塩基性タンパク質の濃度や反応時間を調節することによって、生成粒子における該塩基性タンパク質の担持量並びに放出挙動を制御及び向上することができ、十分量の塩基性タンパク質を担持させ、長期間放出させることが可能となる。一方、カルシウム1モル当たりの分散剤担持量が上記上限値以下であることで、粒子の主成分(マトリックス)をリン酸カルシウムとすることができる。
【0037】
カルシウム1モル当たりの塩基性タンパク質の担持量は、0.001g以上であればよい。カルシウム1モル当たりの塩基性タンパク質担持量が上記下限値以上であることで、薬理学的作用を与えるのに必要な量の塩基性タンパク質が粒子に担持される。また、生体内環境において、担持された塩基性タンパク質を適当な挙動で放出させることができる。最適な塩基性タンパク質の担持量は、塩基性タンパク質の種類や使用目的によって異なるため、当業者が適宜選択できる。塩基性タンパク質の担持量を向上させるための手法としては、適切な分散剤を粒子に担持させる方法、反応液中の塩基性タンパク質の濃度を高める方法、反応時間を延長する(後述のエージング時間を延長する)方法、が有効である。一方、カルシウム1モル当たりの塩基性タンパク質担持量の上限値は、粒子の主成分(マトリックス)がリン酸カルシウムとなる範囲であれば特に限定されない。例えば、カルシウム1モル当たりの塩基性タンパク質担持量は、500g以下であってもよい。
【0038】
本実施形態の粒子において、塩基性タンパク質の担持効率は、反応液に添加された塩基性タンパク質のうち、粒子に担持される塩基性タンパク質の割合(%)で示すことができる。負電荷を有する分散剤と塩基性タンパク質との静電相互作用により、塩基性タンパク質の担持効率は、分散剤不使用時よりも高めることができる。例えば、後述の実施例に示すように、分散剤使用時では分散剤不使用時よりも、塩基性タンパク質の担持効率を1.5倍以上170倍以下に高めることができる。また、後述のエージング時間を延長することでも塩基性タンパク質の担持効率を高めることができる。担持効率が高まることで、比較的高価な塩基性タンパク質であっても、無駄なく使用することができる。
【0039】
≪塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の製造方法≫
本実施形態の塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の製造方法(以下、「本実施形態の製造方法」と称する場合がある)は、
カルシウムイオン含有液、リン酸イオン含有液、塩基性タンパク質、及び、負電荷を有する分散剤を混合及び撹拌し、反応液(以下、「過飽和溶液」と称する場合がある)を調製すること(以下、「過飽和溶液調製工程」と称する場合がある)を含む。
【0040】
本実施形態の製造方法によれば、分散性を有しながら、所望量の塩基性タンパク質が効率よく担持され、且つ、活性を保持した塩基性タンパク質の放出機能を有する塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子が簡易に得られる。
【0041】
次いで、本実施形態の製造方法の各工程について、以下に詳細を説明する。
【0042】
<過飽和溶液調製工程>
カルシウムイオン含有液、リン酸イオン含有液、塩基性タンパク質、及び、負電荷を有する分散剤を混合及び撹拌し、リン酸カルシウムに対して過飽和な水溶液、すなわち、過飽和溶液を調製する。
【0043】
カルシウムイオン含有液としては、カルシウムイオンを含む水溶液であれば特に限定されないが、例えば、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、乳酸カルシウム、クエン酸カルシウム等のカルシウム塩の水溶液や、カルシウムイオンを含む輸液製剤等が挙げられる。
【0044】
リン酸イオン含有液としては、リン酸イオンを含む水溶液であれば特に限定されないが、例えば、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二カルシウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素カルシウム等のリン酸塩の水溶液や、リン酸緩衝生理食塩水、リン酸イオンを含む輸液製剤等が挙げられる。
【0045】
塩基性タンパク質としては、上記「塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子」において例示されたものを、カルシウムイオン含有液又はリン酸イオン含有液に溶解して使用することができる。或いは、他の溶媒に溶解して使用することもできる。他の溶媒としては、塩基性タンパク質を溶解する水溶液であれば特に限定されないが、塩基性タンパク質の活性保持に適した水溶液であることが好ましい。そのような水溶液としては、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水等が挙げられる。他の溶媒に、分散剤等の成分がさらに含まれていてもよい。
【0046】
分散剤としては、上記「塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子」において例示された分散剤をカルシウムイオン含有液又はリン酸イオン含有液に溶解して使用することができる。或いは、他の溶媒に溶解して使用することもできる。他の溶媒としては、分散剤を溶解する水溶液であれば特に限定されないが、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、注射用水、超純水等が挙げられる。他の溶媒に、塩基性タンパク質等の成分がさらに含まれていてもよい。
【0047】
過飽和溶液調製工程では、上記成分の混合時に、必要に応じて、pH調整剤を加えてもよい。
【0048】
pH調整剤としては、過飽和溶液のpHを中性付近に調節できるpH緩衝剤を用いてもよく、過飽和溶液のpHを高めることのできるアルカリ化剤を用いてもよい。アルカリ化剤としては、脱炭酸によって溶液のpHを高めることのできる、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、又は炭酸水素イオンを含む輸液製剤等が挙げられる。
【0049】
例えば、過飽和溶液の原料として、カルシウムイオンを含む輸液製剤、リン酸イオンを含む輸液製剤、分散剤として、ヘパリンナトリウムの注射液、塩基性タンパク質として、FGF-2の製剤を用いることにより、既に医薬品としての製造販売承認を受けて臨床応用されている原料のみを使用して、本実施形態の粒子を作製することができる。このような粒子には、生体内への投与に不適格な成分は含まれず、無菌性、エンドトキシンフリーといった安全性も担保されていることから、臨床応用のためのハードルが低い。
【0050】
過飽和溶液調製工程において、上記原料を混合する順序は特に限定されない。ただし、カルシウムイオン含有液とリン酸イオン含有液を混合してリン酸カルシウムナノ粒子を先に析出させ、析出反応がほぼ完了した後に、すなわち、過飽和度が低下し、飽和状態に近い溶液となった後に、塩基性タンパク質や分散剤を添加及び混合しても、これらは粒子の表面に吸着するのみとなってしまうことから、効率が良好な担持や大量担持は困難となる。よって、リン酸カルシウム析出反応が開始される段階で、塩基性タンパク質及び分散剤が反応液中に共存していることが望ましい。これによって、リン酸カルシウムの核形成及び成長反応に平行して、リン酸カルシウムのマトリックス中に塩基性タンパク質及び分散剤が担持されていく。こうして形成される粒子においては、粒子表面だけでなく内部にまで塩基性タンパク質及び分散剤が担持されることから、単なる表面吸着に比べて高効率な担持が可能となり、また担持量を大きく向上させることも可能となる。安定性に劣る塩基性タンパク質を内部に担持することで、その失活を抑制する効果もある。さらに、後述するように、リン酸カルシウムマトリックスの構造制御によって、粒子からの塩基性タンパク質の放出挙動を制御及び向上することも可能となる。
【0051】
過飽和溶液中のカルシウムイオン、リン酸イオン、分散剤、及び塩基性タンパク質の濃度は、それらの種類、及び反応条件等により適当な濃度範囲が異なるため、当業者が適宜選択することができる。カルシウムイオン及びリン酸イオンの濃度は、ナノサイズの粒子が分散性を保ちながら必要量生成するように、当業者が適宜選択することができる。分散剤の濃度は、粒子の分散性が維持できる濃度となるように、当業者が適宜選択することができる。塩基性タンパク質の濃度は、粒子に所望の量の塩基性タンパク質を担持できる濃度となるように、当業者が適宜選択することができる。
【0052】
過飽和溶液調製工程に限定されず、本実施形態の製造方法において温度条件は、過飽和溶液の凝固点以上沸点以下の温度であればよい。ただし、過飽和溶液中でのリン酸カルシウムの析出速度と粒径制御性のバランス、塩基性タンパク質の活性保持等の観点から、温度としては、0℃以上50℃以下であることが好ましく、20℃以上37℃以下がより好ましく、室温(25℃)付近であることが特に好ましい。
【0053】
過飽和溶液調製工程では、上記原料を混合した溶液を撹拌し、過飽和溶液を得る。撹拌方法としては、ボルテックス等を用いた方法が挙げられるが、過飽和溶液中の原料成分を溶解及び均一化できる方法であって、塩基性タンパク質を完全失活させてしまうような方法でなければ特に限定されない。撹拌による溶液の均一化効果、塩基性タンパク質の活性保持等の観点から、撹拌時間は、例えば、10秒間以上10分間以下、好ましくは20秒間以上5分間以下、より好ましくは30秒間以上1.5分間以下とすることができる。
【0054】
<エージング工程>
本実施形態の製造方法は、過飽和溶液調製工程で調製した過飽和溶液をエージングすること(以下、「エージング工程」と称する場合がある)を更に含むことができる。
【0055】
エージング工程の方法は特に限定されないが、過飽和溶液を振とうする方法、過飽和溶液をマグネチックスターラー等で撹拌する方法、過飽和溶液を静置する方法等が挙げられる。
【0056】
過飽和溶液を振とうする方法でエージング工程を行う場合、振とう速度は、特に限定されないが、例えば、50rpm以上300rpm以下、好ましくは100rpm以上200rpm以下とすることができる。
【0057】
エージング工程において、エージング時間は、0時間以上の任意の時間とすることができ、例えば、1時間以上24時間以下とすることができるが、これに限定されない。ただし、塩基性タンパク質の活性保持、製造効率等の観点から、48時間以下であることが好ましく、24時間以下であることがより好ましい。エージング時間を延長することで、塩基性タンパク質の担持効率を高め、生成粒子の塩基性タンパク質の担持量を向上させ、さらに、粒子からの塩基性タンパク質の放出挙動を向上させる(放出期間を長期化する)ことができる。
【0058】
エージング時間によって、生成粒子の組成(塩基性タンパク質の担持量等)だけでなく、形態及び構造も制御することができる。例えば、後述する実施例に示した条件において、エージング時間が0時間である場合には、SEM観察像で測定された一次粒子径が50nm未満である略球状の、非晶質のリン酸カルシウムからなるナノ粒子が得られる。なお、ここでいう「略球状」とは、完全な球状ではないが、球として認識可能な形状を意味するものである。一方で、エージング時間が24時間以上である場合には、異方性を持ったアパタイト結晶からなるナノ粒子が得られる。粒子のマトリックスであるリン酸カルシウムがこのように構造変化(非晶質→アパタイト)することで、粒子の溶解速度が低下し、内部に担持された塩基性タンパク質がより長期間に渡って持続的に放出されるようになる。一方で、エージング時間0時間で得られた非晶質リン酸カルシウムからなるナノ粒子は、速やかに溶解することで、担持された塩基性タンパク質を一気に放出する。このように、ナノ粒子の構造制御によって、塩基性タンパク質の放出挙動を制御及び向上することが可能である。
【0059】
本実施形態の製造方法によれば、エージング工程の有無やエージング時間の長短によらず、塩基性タンパク質の薬理学的活性は完全には失われず、粒子は、活性を保持した塩基性タンパク質を放出することができる。放出された塩基性タンパク質の薬理学的活性は、細胞等を用いたin vitro実験で確認することができるが、より簡易的な手法として、抗体を使った免疫学的測定法であるEnzyme-Linked Immuno Sorbent Assay(ELISA)法を用い、予備的に確認することもできる。抗体が結合できないほどに構造変化し失活したFGF-2は、ELISA法で検出されなくなるためである。例えば、後述する実施例において、FGF-2を担持させたナノ粒子(エージング時間24時間)から、ナノグラムオーダー(数ng/mL)のFGF-2が長期間放出されることが、ELISA法によって確認されている。この結果は、ナノ粒子から放出されたFGF-2の活性保持と、リン酸カルシウムマトリックスによるFGF-2の内包(粒子内部への担持)、それによるFGF-2保護効果を示唆している。なお、FGF-2はこの程度の極低濃度でも、有益な薬理学的活性を示すことが知られている。
【0060】
本実施形態の製造方法によれば、例えば、水を含んで湿潤状態となっている塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子が得られる。このような湿潤状態の塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子は、乾燥させることなく、そのまま目的とする用途で用いることができる。湿潤状態の塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子は、例えば、水又は水溶液に対する分散性が高い。
【0061】
≪医薬組成物≫
本実施形態の医薬組成物は、上述した塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子を含む。
【0062】
本実施形態の医薬組成物は、上述した塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子を含むことから、分散性を有しながら、所望量の塩基性タンパク質が効率よく担持されており、活性を保持した塩基性タンパク質を放出する機能を有する。本実施形態の医薬組成物は、上述した塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子に含まれる塩基性タンパク質の種類を適宜選択することで、各種疾患を治療又は予防するための医薬組成物として利用することができる。
【0063】
本実施形態の医薬組成物は、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、ショ糖、乳糖、サッカリン、マルチトール等の安定化剤;酢酸ナトリウム等の緩衝剤;EDTA等のキレート剤;酸化防止剤;防腐剤等が挙げられる。
【0064】
一実施形態において、上述した医薬組成物を、機械器具、及び加工細胞等からなる群より選ばれる1種以上と組み合わせて、コンビネーション製品としてもよい。コンビネーション製品の形態としては、セット製品、キット製品が挙げられる。例えば、粒子の凍結乾燥粉体、分散用水溶液(注射液等)、シリンジ等からなるキット製品であってもよく、或いは、予め粒子と分散用水溶液が個別に充填されたプレフィルドシリンジのようなキット製品であってもよい。また、使用時に粒子を作製することのできる、粒子の原料、シリンジ等からなるキット製品であってもよい。これらの形態の医薬組成物に、さらに多孔質人工骨等の機械器具を組み合わせたセット製品であってもよい。
【0065】
また、コンビネーション製品の形態としては、セット製品、キット製品の他、粒子と一体不可分な医療機器等であってもよい。なお、粒子を表面に固定化した人工骨や、粒子を内包した人工真皮等の粒子と一体不可分な医療機器である場合に、粒子の分散性は損なわれるが、活性を保持した塩基性タンパク質の放出機能を十分に発揮することができる。
【0066】
本実施形態の医薬組成物は、上述した塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子と、上記添加剤を適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で製剤化することができる。
【0067】
或いは、本実施形態の医薬組成物は、上述した塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子と、上記添加剤に加えて、機械器具、及び、加工細胞等からなる群より選ばれる1種以上を適宜組み合わせて、要求される用量形態を含むコンビネーション製品として製品化することができる。
【0068】
適用する対象としては、限定されるものではないが、例えば、ヒト、サル、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、及びそれらの細胞等が挙げられる。中でも、哺乳動物又は哺乳動物細胞が好ましく、ヒト又はヒト細胞が特に好ましい。
【0069】
使用方法は、例えば、髄腔内注射、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射等の他、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、又は経口的に当業者に公知の方法により行なうことができる。
【0070】
本実施形態の医薬組成物において、その使用量は、ナノ粒子に含まれる塩基性タンパク質の種類や担持量、対象の疾患、使用する部位、使用方法等により変動する。当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。
【0071】
本実施形態の医薬組成物の適用対象に対する使用は、単回の使用でもよく、複数回の使用であってもよい。複数回の使用である場合は、例えば、2時間以上12時間以下の期間毎、毎日、又は2日、1週間、数週間、1か月若しくは数か月に1回等の頻度で使用することができる。
【0072】
≪塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の作製キット≫
本実施形態の塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の作製キット(以下、「本実施形態の作製キット」と称する場合がある)は、カルシウムイオン含有液と、リン酸イオン含有液と、塩基性タンパク質と、負電荷を有する分散剤と、を含む。
【0073】
本実施形態の作製キットによれば、分散性を有しながら、所望量の塩基性タンパク質が効率よく担持され、活性を保持した塩基性タンパク質を放出する機能を有する塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子が得られる。
【0074】
カルシウムイオン含有液としては、上記「塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の製造方法」において、カルシウムイオンを含む溶液として例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0075】
リン酸イオン含有液としては、上記「塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の製造方法」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0076】
塩基性タンパク質及び負電荷を有する分散剤としては、上記「塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0077】
本実施形態の作製キットは、pH調整剤を更に含んでもよい。pH調整剤としては、上記「塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の製造方法」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【実施例0078】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0079】
[実施例1]
(シトクロムc含有リン酸カルシウムナノ粒子)
本実施例では、塩基性タンパク質としてシトクロムc(等電点:10.1)を、分散剤としてヘパリンを用い、シトクロムc含有リン酸カルシウムの分散性ナノ粒子を作製した。また、ヘパリンを添加せずに作製した粒子との比較を行った。
【0080】
1.試料の作製
塩化カルシウム溶液(500mM、塩化Ca補正液1mEq/mL(大塚製薬株式会社))、リン酸水素二カリウム溶液(500mM、リン酸2カリウム注20mEqキット「テルモ」(テルモ株式会社))、生理食塩水(0.9w/v%、大塚生食注(大塚製薬株式会社))は、無菌性及びエンドトキシンフリーといった安全性の担保されている医療用注射液を用いた。炭酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社)、ヘパリンナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社)は一般用試薬を用い、それぞれ、超純水、生理食塩水に溶解させた溶液を用いた。炭酸ナトリウム溶液の濃度は500mM、ヘパリンナトリウム溶液の濃度は5mg/mLであった。まず、塩化カルシウム溶液、ヘパリンナトリウム溶液、生理食塩水を容量比で8:25:17の割合で混合したA液を調製した。A液中のカルシウムイオン濃度は80mM、A液中のヘパリン濃度は2.5mg/mLであった。リン酸水素二カリウム溶液、炭酸ナトリウム溶液、生理食塩水を容量比で4:4:17の割合で混合したB液を調製した。B液中のリン酸イオン濃度は80mM、B液中の炭酸ナトリウム濃度:80mMであった。また、シトクロムc(ナカライテスク株式会社)の濃度をふって生理食塩水に溶解させた溶液をC液とした。各C液中のシトクロムc濃度は0、2、又は8mg/mLであった。15mLチューブに、B液1mL、C液1mL、A液2mLの順に加え、1分間ボルテックスで撹拌した後、振とう機(25℃、150rpm)で0時間又は24時間振とうさせた。振とう時間0時間では振とうせずに撹拌後すぐ、振とう時間24時間では振とう後に、遠心操作により析出物を回収した。以下、得られた試料をC液中のシトクロムc濃度を用いて、それぞれHep-Cyt0、Hep-Cyt2、Hep-Cyt8とした。また、比較として、ヘパリンを添加せずに調製した、すなわち、塩化カルシウム溶液、生理食塩水を容量比で4:21の割合で混合したA液を用いて、同様に試料を作製した。得られた試料をそれぞれCyt0、Cyt2、Cyt8とした。
【0081】
2.試料の評価
得られた試料について、その構造、組成、及び分散性を、走査電子顕微鏡(SEM)観察、透過電子顕微鏡(TEM)観察、エネルギー分散型X線分光法(EDX)、制限視野電子回折法(SAED)、紫外可視分光法(UV)、動的光散乱法(DLS)、電気泳動光散乱法(ELS)により調べた。SEM観察、EDXにおいては、試料をシリコン基板上で乾燥させた。また、SEM観察実施前に、試料に金を蒸着した。TEM観察、SAEDにおいては、試料をグリッド上で乾燥させた。UVにおいては、遠心操作後の上澄みを希釈した液(以下、「上澄み希釈液」という)を測定に用い、4mLの反応液から得られた試料中のシトクロムc担持量を算出した。具体的には、上澄み希釈液の吸光度(409nm)を測定し、検量線を用いて上澄みに含まれるシトクロムc量を算出し、反応液中のシトクロムc量との差分を担持量として算出した。シトクロムcの担持効率は、「(試料に担持されたシトクロムc量)/(反応液中のシトクロムc量)×100(%)」として算出した。DLS、ELSにおいては、4mLの反応液から得られた試料を超純水10mLに懸濁し、粒子径分布測定及びゼータ電位測定を行った。
【0082】
3.評価結果
SEM観察の結果、振とう時間0時間で得られた試料は、一次粒子径が50nmに満たない球形に近い形状(略球状)のナノ粒子であった(図1上段)。一方、振とう時間24時間で得られた試料は、不定形のナノ粒子であった(図1下段)。TEM観察の結果、振とう時間0時間で得られたHep-Cyt0は、一次粒子径が約20~30nmの略球状のナノ粒子であり、振とう時間24時間で得られたHep-Cyt0、Hep-Cyt8は、境界の不明瞭な不定形ナノ粒子であった(図2)。
【0083】
振とう時間0時間、24時間に関わらず、ヘパリンを添加して得られた粒子である、Hep-Cyt2、及びHep-Cyt8のシトクロムc担持効率は、ヘパリンを添加せずに得られた比較用粒子であるCyt2、及びCyt8と比べて、3倍以上に上昇した(図3)。これは、負電荷を有するヘパリンと塩基性タンパク質であるシトクロムcの静電相互作用によるものと考えられた。また、振とう時間が0時間から24時間となると、シトクロムc担持効率はさらに上昇した。
【0084】
EDXによる元素分析の結果、Hep-Cyt0、Hep-Cyt2、及びHep-Cyt8のいずれの粒子からもカルシウム(Ca)、リン(P)、酸素(O)の大きなピークが検出された。このことから、これらの粒子の主成分はリン酸カルシウムであると考えられた(図4)。さらに、ヘパリンとシトクロムcに含まれる硫黄(S)の小さなピークも検出された。なお、後述する実施例2の高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)により、Sのピークは主にヘパリンに由来であると判明した。
【0085】
振とう時間24時間で得られたHep-Cyt8の走査透過電子顕微鏡(STEM)-EDXによる元素分布では、Ca、Pの存在する箇所にSに加えて窒素(N)の分布も観察された(図2)。Nは主にシトクロムcに由来する元素であることから、ヘパリンとシトクロムcがある程度均一にリン酸カルシウムナノ粒子に担持されていることが示唆された。
【0086】
DLSによる粒子径分布測定の結果、振とう時間0時間、24時間に関わらず、ヘパリンを添加して得られた粒子、Hep-Cyt0、Hep-Cyt2、Hep-Cyt8では、平均粒子径が100~200nm程度となり、数百ナノメートルサイズの分散性粒子として存在することが確認された(図5)。一方で、ヘパリンを添加せずに得られた比較用粒子、Cyt0、Cyt2、Cyt8では、水中で沈降しやすく、信頼できる粒子径分布は得られなかった。
【0087】
また、ヘパリンを添加して得られた粒子のゼータ電位は、-22~-15mVと比較的大きな負の値となった(図6)。負電荷を有するヘパリンが粒子表面に存在することで、粒子に負のゼータ電位を与えたと考えられる。そして、粒子表面の負電荷により、粒子間に静電的反発が生じ、粒子の分散性に寄与したと考えられる。一方、ヘパリンを添加せずに得られた比較用粒子のゼータ電位は、+4~+8mVと比較的小さな正の値となり、粒子表面の電荷が分散性を維持するには充分でないことが示唆された。
【0088】
以上より、リン酸カルシウムナノ粒子にシトクロムcとヘパリンを共担持させる際、ヘパリンはシトクロムcの担持効率向上及び生成粒子の分散性向上に大きく寄与することが示された。
【0089】
[実施例2]
(シトクロムc濃度の変化)
本実施例では、シトクロムc濃度を変化させて試料を作製した。
【0090】
1.試料の作製
C液中のシトクロムc濃度を、実施例1の0、2、8mg/mLに加えて1、3、5mg/mLと変化させた以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。以下、得られた試料をC液中のシトクロムc濃度を用いて、それぞれHep-Cyt0、Hep-Cyt1、Hep-Cyt2、Hep-Cyt3、Hep-Cyt5、Hep-Cyt8とした。
【0091】
2.試料の評価
得られた試料について、その構造、組成、及び分散性を、SEM観察、UV、DLS、ELS、ICP-OESにより調べた。SEM観察、UV、DLS、ELSにおいては、実施例1と同様に評価を行った。ICP-OESにおいては、試料を塩酸で溶解させた溶液を測定に用い、4mLの反応液から得られた試料中のCa、P、S含有量を算出した。また、一定濃度のヘパリンナトリウム溶液及びシトクロムc溶液もSのみ測定を行い、得られたS含有量及びUVより得られたシトクロムc担持量から、試料中のヘパリン担持量を算出した。
【0092】
3.評価結果
SEM観察の結果、C液中のシトクロムc濃度に関わらず、振とう時間0時間で得られた試料は、一次粒子径が50nmに満たない略球状のナノ粒子であり(図1及び図7のそれぞれ上段)、振とう時間24時間で得られた試料は、不定形のナノ粒子であった(図1及び図7のそれぞれ下段)。
【0093】
C液中のシトクロムc濃度が増加するにつれて、シトクロムc担持量は増加し、シトクロムc担持効率は低下した(図8)。すなわち、C液中のシトクロムc濃度を適切に設定することで、粒子中のシトクロムc担持量を制御できることが分かった。
【0094】
ICP-OESによる化学分析から算出したCa、P、S含有量、ヘパリン担持量、S/Ca、Ca/Pモル比を図9に示す。Ca、P含有量は、振とう時間0時間と振とう時間24時間で15%以内の変化であり、大きな変化はなかった。一方、S含有量及びヘパリン担持量は、振とう時間24時間で約40~60%の増加があり、明らかな増加が見られた。振とう時間24時間では、ヘパリンがより多く担持されたためと考えらえる。それに伴い、S/Caモル比も振とう時間0時間では約0.08であるのに対して、振とう時間24時間では約0.12であり、大きくなった。また、Ca/Pモル比は、振とう時間0時間では1.47~1.58であり、1.60以下であったのに対し、振とう時間24時間では1.63~1.67であり、1.60以上であった。これは、振とう中にリン酸カルシウムの結晶構造が変化したためと考えられる。実際、振とう時間0時間で得られたHep-Cyt0のSAEDパターンでは、非晶質リン酸カルシウムに起因するブロードのリングが観察された(図2)。一方、振とう時間24時間で得られたHep-Cyt0、Hep-Cyt8のSAEDパターンでは、結晶質リン酸カルシウムの一種であるアパタイトの結晶構造に起因する2つのリングが観察された(図2)。なお、水中におけるリン酸カルシウムの結晶構造変化(非晶質から結晶質への変化)は良く知られている現象であり、本反応においても同様の現象により、振とう時間0時間と振とう時間24時間で異なる結晶構造を示す粒子が得られたと考えられる。
【0095】
また、図8ならびに図9の結果より、粒子に含まれる分散剤及び塩基性タンパク質の割合は、カルシウム1モル当たりの分散剤担持量として20g以上33g以下、カルシウム1モル当たりの塩基性タンパク質担持量として、4g以上36g以下(Hep-Cyt0を除く)であった。
【0096】
DLSによる粒子径分布測定の結果、いずれの粒子も、平均粒子径が100~200nm程度となり、数百ナノメートルサイズの分散性粒子として存在することが確認された。また、ゼータ電位は、-22~-14mVと比較的大きな負の値となった。
【0097】
以上より、今回変化させた濃度の範囲内では、シトクロムc濃度を変化させても生成粒子は分散性を保持でき、シトクロムc濃度を変化させることで、粒子中のシトクロムc担持量を制御できることが示された。
【0098】
[実施例3]
(ヘパリン濃度の変化)
本実施例では、ヘパリン濃度を変化させて試料を作製した。
【0099】
1.試料の作製
A液中のヘパリン濃度を実施例1の2.5mg/mLに加えて、1.0、2.0、3.0mg/mLと変化させた以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。C液中のシトクロムc濃度は2mg/mL、振とう時間は0時間とした。以下、得られた試料をA液中のヘパリン濃度を用いて、Hep1.0-Cyt2、Hep2.0-Cyt2、Hep2.5-Cyt2(実施例1のHep-Cyt2と同じ)、Hep3.0-Cyt2とした。
【0100】
2.試料の評価
得られた試料について、その構造、組成、及び分散性を、実施例1と同様に、SEM観察、UV、DLS、ELSにより調べた。
【0101】
3.評価結果
SEM観察の結果、A液中のヘパリン濃度に関わらず、得られた試料は一次粒子径が50nmに満たない略球状のナノ粒子であった(図10)。シトクロムc担持効率は、ヘパリン濃度が増加するにつれてわずかに上昇した(図11)。
【0102】
DLSによる粒子径分布測定の結果、いずれの粒子も、平均粒子径が100~200nm程度となり、数百ナノメートルサイズの分散性粒子として存在することが確認された。また、ゼータ電位は、-17~-16mVと比較的大きな負の値となった。
【0103】
以上より、今回変化させた濃度の範囲内では、ヘパリン濃度はシトクロムc担持効率や粒子分散性に大きな影響を与えないことが示された。
【0104】
[実施例4]
(振とう時間の変化)
本実施例では、振とう時間を変化させて試料を作製した。
【0105】
1.試料の作製
反応液の振とう時間を、実施例1の0、24時間に加えて1、3、6、48、75時間と変化させた以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。C液中のシトクロムc濃度は2mg/mLとした。
【0106】
2.試料の評価
得られた試料について、その構造、組成、及び分散性を、実施例1と同様に、SEM観察、UVにより調べた。
【0107】
3.評価結果
SEM観察の結果、振とう時間0、1、3、6時間で得られた試料は、一次粒子径が50nmに満たない略球状のナノ粒子であり、振とう時間24時間で得られた試料は、不定形のナノ粒子であった(図12)。振とう時間6時間から24時間にかけて形状が不定形に変化すると考えられた。
【0108】
シトクロムc担持効率は、振とう時間0時間から24時間では、振とう時間が増加するにつれて上昇したが、24時間以降はほぼ同じであった(図13)。
【0109】
以上より、振とう時間が24時間あれば、シトクロムcを充分に担持できることが示された。
【0110】
[実施例5]
(塩基性タンパク質リゾチームと酸性タンパク質アルブミンの比較)
本実施例では、塩基性タンパク質としてリゾチーム(等電点:10.7)を、酸性タンパク質としてアルブミン(等電点:4.7)を用いて試料を作製した。
【0111】
1.試料の作製
実施例1のシトクロムcの代わりに、リゾチーム(富士フイルム和光純薬株式会社)又はアルブミン(富士フイルム和光純薬株式会社)を使用した以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。C液中のリゾチーム濃度及びアルブミン濃度はそれぞれ2mg/mLとした。以下、得られた試料をリゾチーム(Lyz)又はアルブミン(Alb)の略称を用いて、それぞれHep-Lyz2、Hep-Alb2とした。比較として、ヘパリンを添加せずに調製したA液を用いて、同様に試料を作製した。得られた試料をそれぞれLyz2、Alb2とした。
【0112】
2.試料の評価
得られた試料について、その組成、及び分散性を、実施例1と同様に、UV、DLS、ELSにより調べた。UVにおいては、上澄み希釈液の吸光度測定の際、リゾチームでは281nm、アルブミンでは278nmの波長を使用した。
【0113】
3.評価結果
振とう時間0時間、24時間に関わらず、ヘパリンを添加せずにリゾチームのみを添加して得られた比較用粒子であるLyz2のリゾチーム担持効率は1%以下であった。これに対し、ヘパリンとリゾチームを添加して得られた粒子であるHep-Lyz2のリゾチーム担持効率は、振とう時間0時間では30%、振とう時間24時間では67%と、大幅に上昇した(図14)。シトクロムcの場合と同様に、ヘパリンはリゾチームの担持効率向上に寄与していると考えられる。一方で、ヘパリンを添加せずにアルブミンのみを添加して得られた比較用粒子であるAlb2のアルブミン担持効率は、振とう時間0時間では83%、振とう時間24時間では95%であった。これに対し、ヘパリンとアルブミンを添加して得られた粒子であるHep-Alb2のアルブミン担持効率は、振とう時間0時間では4%、振とう時間24時間では22%となり、Alb2のアルブミン担持効率よりも大幅に低下した(図14)。ヘパリン存在下では、酸性タンパク質であるアルブミンと負電荷を有するヘパリンとの間に静電的反発が生じ、アルブミン担持効率が低下したと考えられる。
【0114】
DLSによる粒子径分布測定の結果、ヘパリンを添加して得られた粒子であるHep-Lyz2、及びHep-Alb2では、平均粒子径が100~200nm程度となり、数百ナノメートルサイズの分散性粒子として存在することが確認された(図15)。一方で、ヘパリンを添加せずに得られた比較用粒子であるLyz2、及びAlb2では、水中で沈降しやすく、信頼できる粒子径分布は得られなかった。
【0115】
また、ヘパリンを添加して得られた粒子のゼータ電位は、-21~-17mVと比較的大きな負の値となった。これに対し、ヘパリンを添加せずに得られた比較用粒子のゼータ電位は、-4~+6mVと絶対値が比較的小さくなった(図16)。
【0116】
以上より、塩基性タンパク質のリゾチームでは、シトクロムcの場合と同様に、ヘパリンの共担持により担持効率が向上するのに対し、酸性タンパク質のアルブミンでは、ヘパリンの共担持により担持効率が低下することが示された。また、共担持するタンパク質の塩基性、酸性に関わらず、ヘパリンは生成粒子の分散性向上に寄与することが示された。
【0117】
[実施例6]
(ラクトフェリン含有リン酸カルシウムナノ粒子)
本実施例では、塩基性タンパク質としてラクトフェリン(等電点:8.8)を用いて試料を作製した。
【0118】
1.試料の作製
実施例1のシトクロムcの代わりに、ラクトフェリン(富士フイルム和光純薬株式会社)を使用し、C液中のラクトフェリン濃度を0、2、5、10、20、又は30mg/mLとした以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。なお、振とう時間は24時間とした。以下、得られた試料をC液中のラクトフェリン濃度を用いて、それぞれHep-LF0、Hep-LF2、Hep-LF5、Hep-LF10、Hep-LF20、Hep-LF30とした。比較として、ヘパリンを添加せずに調製したA液を用いて、C液中のラクトフェリン濃度2、5、又は10mg/mLとして、同様に試料を作製した。得られた試料をそれぞれLF2、LF5、LF10とした。
【0119】
2.試料の評価
得られた試料について、その構造、組成、及び分散性を、実施例1及び実施例2と同様に、SEM観察、UV、ICP-OES、DLS、ELSにより調べた。UVにおいては、上澄み希釈液の吸光度測定の際、279nmの波長を使用した。
【0120】
3.評価結果
SEM観察の結果、得られた試料は不定形のナノ粒子であった(図17)。ヘパリンを添加して得られた粒子であるHep-LF2、Hep-LF5、及びHep-LF10のラクトフェリン担持効率は、ヘパリンを添加せずに得られた比較用粒子であるLF2、LF5、及びLF10と比べて上昇した(図18左)。また、ヘパリンを添加して得られた粒子では、C液中のラクトフェリン濃度が増加するにつれて、ラクトフェリン担持量は増加し、ラクトフェリン担持効率は低下した(図18)。
【0121】
ヘパリンを添加して得られた粒子において、ICP-OESによる化学分析から算出したCa含有量及びヘパリン担持量は、Ca含有量が104μmol以上112μmol以下、ヘパリン担持量が2.7mg以上3.7mg以下であった。これらと図18のラクトフェリン担持量の結果より、粒子に含まれる分散剤及び塩基性タンパク質の割合は、カルシウム1モル当たりの分散剤担持量として26g以上33g以下、カルシウム1モル当たりの塩基性タンパク質担持量として44g以上136g以下(Hep-LF0を除く)であった。
【0122】
DLSによる粒子径分布測定の結果、ヘパリンを添加して得られた粒子では、平均粒子径が100~200nm程度となり、数百ナノメートルサイズの分散性粒子として存在することが確認された。一方で、ヘパリンを添加せずに得られた比較用粒子では、水中で沈降しやすく、信頼できる粒子径分布は得られなかった。
【0123】
また、ヘパリンを添加して得られた粒子のゼータ電位は、-25~-14mVと比較的大きな負の値となった。一方、ヘパリンを添加せずに得られた比較用粒子のゼータ電位は、+2~+3mVと比較的小さな正の値となった。
【0124】
以上より、塩基性タンパク質としてラクトフェリンをヘパリンと共担持させる場合でも、ヘパリンはラクトフェリンの担持効率向上及び生成粒子の分散性向上に大きく寄与することが示された。
【0125】
[実施例7]
(線維芽細胞増殖因子-2(FGF-2)含有リン酸カルシウムナノ粒子)
本実施例では、塩基性タンパク質としてFGF-2(等電点:9.6)を用いて試料を作製した。
【0126】
1.試料の作製
実施例1のシトクロムcの代わりに、FGF-2を使用し、C液中のFGF-2濃度を10、20、又は50μg/mLとした以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。なお、FGF-2として、遺伝子組み換え技術を利用して製造されたFGF-2であるトラフェルミン製剤(褥瘡及び皮膚潰瘍治療剤であるフィブラスト、科研製薬株式会社製)を用いた。
【0127】
2.試料の評価
4mLの反応液から得られた試料を超純水5mLに懸濁し、その分散性を、DLS、ELSにより調べた。また、4mLの反応液から得られた試料を細胞培養用の培地(DMEM/F-12、Sigma社製、20mL)に懸濁し、懸濁後すぐ(0時間)、並びに、37℃で24、又は48時間静置後に培地中に放出されたFGF-2の濃度をEnzyme-Linked Immuno Sorbent Assay(ELISA)で測定して、放出挙動評価を行なった。
【0128】
3.評価結果
DLSによる粒子径分布測定の結果、いずれの試料も、平均粒子径が100~200nm程度となり、数百ナノメートルサイズの分散性粒子として存在することが確認された。また、ゼータ電位は、-24~-17mVと比較的大きな負の値となった。
【0129】
培地中でのFGF-2放出挙動評価の結果、振とう時間0時間で得られた試料では、懸濁直後の培地中に14~70ng/mLのFGF-2が検出された。しかし、いずれの試料でも、24、48時間後にはほとんどFGF-2が検出されなくなった(図19左)。これは、培地中に放出されたFGF-2が構造変化を起こしたことによると考えられる(FGF-2は、培地中で構造変化を起こし、ELISAで検出される濃度が急減することが知られている)。従って、振とう時間0時間で得られた試料では、FGF-2が試料より速やかに放出されたものの、持続的なFGF-2の放出はなかったと考えられた。一方、振とう時間24時間で得られた試料では、24、48時間後であっても、FGF-2が放出初期と同程度の濃度で検出された(図19右)。このことから、FGF-2の放出が、24、48時間後でも継続していたと考えられた。よって、振とう時間24時間で得られた試料では、長時間の反応によって、粒子内部にも多くのFGF-2が担持されたと考えられる。
【0130】
以上より、振とう時間によってFGF-2の放出挙動が大きく異なること、振とう時間24時間で得られた粒子では、FGF-2を少なくとも48時間にわたって放出できることが示された。
【0131】
[実施例8]
(骨形成タンパク質-2(BMP-2)含有リン酸カルシウムナノ粒子)
本実施例では、塩基性タンパク質としてBMP-2(等電点:8.5)を用いて試料を作製した。
【0132】
1.試料の作製
実施例1のシトクロムcの代わりに、BMP-2を使用し、C液中のBMP-2濃度を20、50、又は100μg/mLとした以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。振とう時間は24時間とした。なお、BMP-2として、遺伝子組み換え技術を利用して製造されたBMP-2製剤(Infuse Bone Graft X Small Kit、Medtronic製)を用いた。
【0133】
2.試料の評価
得られた試料について、その分散性を、実施例1と同様に、DLS、ELSにより調べた。また、得られた試料を凍結乾燥後、細胞培養用の培地(αMEM、ナカライテスク株式会社製)に懸濁し(0.5mg/mL)、懸濁後すぐ(0日)、並びに、37℃で1、3、7、14、又は21日静置後に培地中に放出されたBMP-2の濃度をELISAで測定して、放出挙動評価を行なった。
【0134】
3.評価結果
DLSによる粒子径分布測定の結果、いずれの試料も、平均粒子径が100~200nm程度となり、数百ナノメートルサイズの分散性粒子として存在することが確認された。また、ゼータ電位は、-21~-19mVと比較的大きな負の値となった。
【0135】
培地中でのBMP-2放出挙動評価の結果、0~21日後において、0.65~2.3ng/mL(C液中のBMP-2濃度20μg/mLの条件で作製した粒子)、1.5~15ng/mL(C液中のBMP-2濃度50μg/mLの条件で作製した粒子)、8.4~89ng/mL(C液中のBMP-2濃度100μg/mLの条件で作製した粒子)の範囲でBMP-2の放出が確認された(図20)。このことから、BMP-2の放出が、21日間にわたり継続していたと考えられた。実施例7では、振とう時間24時間で得られた粒子において、少なくとも2日間(48時間)の塩基性タンパク質(FGF-2)の放出が確認されており、本実施例の振とう時間24時間で得られた粒子についても同様の継続的な放出挙動を示したと考えられる。なお、図20の右側のグラフは、左側のグラフの縦軸方向を拡大したものである。
【0136】
以上より、BMP-2とヘパリンを共担持させたリン酸カルシウムナノ粒子において、BMP-2を継続的に(少なくとも21日間)放出できることが示された。
【0137】
[実施例9]
(ヘパリンの種類の変更)
本実施例では、分散剤として低分子量ヘパリンを用いて試料を作製した。
【0138】
1.試料の作製
実施例1のヘパリンナトリウム(一般用試薬)の代わりに、低分子量ヘパリンのナトリウム塩(医療用注射液のエノキサパリンナトリウム、平均分子量:約4500(3800~5000)、クレキサン皮下注キット2000IU(サノフィ株式会社))を使用した以外は、実施例1と同様にして試料を作製した。A液中の低分子量ヘパリンの濃度は250IU/mLとし、C液中のシトクロムc濃度は2mg/mLとした。なお、振とう時間は24時間とした。
【0139】
2.試料の評価
得られた試料について、その組成、及び分散性を、実施例1と同様に、UV、DLS、ELSにより調べた。
【0140】
3.評価結果
シトクロムc担持効率を算出した結果、76%となった。この値は、ヘパリンを分散剤として添加して得られた粒子(76%、Hep-Cyt2、実施例1)と同等であり、分散剤を添加せずに得られた粒子(22%、Cyt2、実施例1)の3倍以上であった。
【0141】
DLSによる粒子径分布測定の結果、平均粒子径が90nm程度となり、百ナノメートルサイズに近い分散性粒子として存在することが確認された。また、ゼータ電位は、-18mVと比較的大きな負の値となった。
【0142】
以上より、分散剤として低分子量ヘパリンを用いても、シトクロムcの担持効率向上及び生成粒子の分散性向上に大きく寄与することが示された。
【0143】
[実施例10]
(FGF-2含有リン酸カルシウムナノ粒子におけるヘパリンの種類の変更)
本実施例では、塩基性タンパク質としてFGF-2を、分散剤として低分子量ヘパリンを用いて試料を作製した。
【0144】
1.試料の作製
実施例7のヘパリンナトリウムの代わりに、低分子量ヘパリンのナトリウム塩(実施例9と同じ)を使用した以外は、実施例7と同様にして試料を作製した。A液中の低分子量ヘパリンの濃度は250IU/mLとし、C液中のFGF-2濃度は50μg/mLとした。なお、振とう時間は24時間とした。
【0145】
2.試料の評価
得られた試料について、その分散性を、実施例1と同様に、DLS、ELSにより調べた。また、得られた試料を凍結乾燥後、細胞培養用の培地(DMEM/F-12、Sigma社製)に懸濁し(1mg/mL)、懸濁後すぐ(0日)、並びに、37℃で1、4、8、11、又は14日静置後に培地中に放出されたFGF-2の濃度をELISAで測定して、放出挙動評価を行なった。
【0146】
3.評価結果
DLSによる粒子径分布測定の結果、平均粒子径が270nm程度となり、数百ナノメートルサイズの分散性粒子として存在することが確認された。また、ゼータ電位は、-14mVと比較的大きな負の値となった。
【0147】
培地中でのFGF-2放出挙動評価の結果、0~14日後において、0.35~0.85ng/mLの範囲でFGF-2の放出が確認された(図21)。このことから、FGF-2の放出が、14日間にわたり継続していたと考えられた。実施例7では、振とう時間24時間で得られた粒子において、少なくとも2日間(48時間)のFGF-2の放出が確認されており、本実施例の振とう時間24時間で得られた粒子についても同様の継続的な放出挙動を示したと考えられる。
【0148】
以上より、FGF-2と低分子量ヘパリンを共担持させたリン酸カルシウムナノ粒子において、FGF-2を継続的に(少なくとも14日間)放出できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本実施形態の塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子、塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の製造方法、及び塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子の作製キットによれば、所望量の塩基性タンパク質を効率よく担持させ、塩基性タンパク質の放出機能を付与した、塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子を提供することができる。本実施形態の医薬組成物は、前記塩基性タンパク質含有分散性リン酸カルシウムナノ粒子を含み、分散性を有しながら、所望量の塩基性タンパク質が効率よく担持されており、生体内環境において、活性を保持した塩基性タンパク質を所望の挙動で放出することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21