(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035172
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】シリコンエッチング液およびその製造方法、基板の処理方法、並びにシリコンデバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/308 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
H01L21/308 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023139142
(22)【出願日】2023-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2022136456
(32)【優先日】2022-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】人見 達矢
(72)【発明者】
【氏名】清家 吉貴
(72)【発明者】
【氏名】野呂 幸佑
(72)【発明者】
【氏名】沖村 孝史郎
【テーマコード(参考)】
5F043
【Fターム(参考)】
5F043AA02
5F043BB02
(57)【要約】
【課題】半導体デバイス等の製造時に、シリコンを高速でウェットエッチングすることのできる新しい薬液を提供する。
【解決手段】次亜ハロゲン酸イオンを0.05~5mmol/Lの範囲で含み、24℃でのpHが12.5以上のアルカリ性水溶液からなる、シリコンエッチング液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜ハロゲン酸イオンを0.05~5mmol/Lの範囲で含み、
24℃でのpHが12.5以上のアルカリ性水溶液からなる、シリコンエッチング液。
【請求項2】
第四級アンモニウムイオンを含む、請求項1記載のシリコンエッチング液。
【請求項3】
Ag、Al、Ba、Ca、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、K、Li、Mg、Mn、Na、Ni、Pb、及びZnの各金属の含有量がそれぞれ1質量ppm以下である、請求項1又は2に記載のシリコンエッチング液。
【請求項4】
金属を実質的に含まない、請求項3に記載のシリコンエッチング液。
【請求項5】
水酸化第四級アンモニウム、及び次亜ハロゲン酸第四級アンモニウム塩及び水を混合する混合工程を含む、請求項1又は2に記載のシリコンエッチング液の製造方法。
【請求項6】
Si面を有する基板に、請求項1又は2に記載のシリコンエッチング液を接触させ、前記Si面をエッチングする工程を含む、基板の処理方法。
【請求項7】
請求項6に記載の基板の処理方法を工程中に含む、シリコンデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種シリコンデバイスを製造する際の表面加工、エッチング工程で使用されるシリコンエッチング液およびその製造方法、基板の処理方法、並びにシリコンデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン(Si)は、その優れた機械特性、および電気特性から様々な分野に応用されている。機械特性を利用して、バルブ;ノズル;プリンタ用ヘッド;並びに流量、圧力及び加速度等の各種物理量を検知するための半導体センサ(例えば半導体圧力センサのダイヤフラムや半導体加速度センサのカンチレバーなど)等に応用されている。また、電気特性を利用して、金属配線の一部、ゲート電極等の材料としてメモリデバイスやロジックデバイス等といった種々の半導体デバイスに応用されている。
【0003】
半導体デバイスの製造におけるシリコンの加工は、主にエッチング処理により行われる。エッチング方法としてはRIE(反応性イオンエッチング)やALE(原子層エッチング)等のドライエッチングや、酸性水溶液またはアルカリ性水溶液によるウェットエッチング等がある。ウェットエッチングは、加工の微細性の点ではドライエッチングには劣る場合が多いものの、同時に加工できる面積が広く、また同時に複数枚のウェハを処理できるため生産性の点ではドライエッチングに優っており、中でもアルカリ性水溶液によるウェットエッチングは、不要なシリコン層全体をエッチングにより除去する場合等、生産性が重視されるプロセスにおいて好適に用いられている。
【0004】
生産性が高い、すなわちシリコンを高速で除去できるエッチング液はいくつか提案されている。例えば、アルカリ化合物と酸化剤とフッ酸化合物とを水中に含有させ、そのpHを10以上に調液したエッチング薬液が提案されている(特許文献1参照)。また、他には、アルカリ化合物、フッ化物イオン源、及び酸化剤源を含み、pHが7未満のエッチン
グ薬液(特許文献2参照)や、有機アルカリ溶液とハロゲンとを連続的に静止型混合器に供給して混合し、生じるハロゲン酸素酸を連続的に得ることによりエッチング薬液を得る方法(特許文献3参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-135081号公報
【特許文献2】特開2012-238849号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2021/0403323号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、ウェットエッチング工程の生産性はエッチング速度を上昇させることで改善する。そして半導体チップ等の生産においては、シリコンをウェットエッチングする場合でも、製造する半導体チップの構造等により、常に同じようなエッチング液が適用できるとは限らず、状況に応じて選択ができるよう技術の豊富化が求められている。
【0007】
したがって、本発明の目的は、新たな技術的構成による、高いシリコンエッチング速度をもつ新規なアルカリ性エッチング液およびその製造方法、基板の処理方法、並びにシリコンデバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するため、鋭意検討を行った。そして、次亜ハロゲン酸イオンを特定の濃度範囲でアルカリ性水溶液に含有させることによりシリコンエッチング速度が飛躍的に上昇することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明の要旨は以下の通りである。
項1 次亜ハロゲン酸イオンを0.05~5mmol/Lの範囲で含み、
24℃でのpHが12.5以上のアルカリ性水溶液からなる、シリコンエッチング液。項2 第四級アンモニウムイオンを含む、項1記載のシリコンエッチング液。
項3 Ag、Al、Ba、Ca、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、K、Li、Mg、Mn、Na、Ni、Pb、及びZnの各金属の含有量がそれぞれ1質量ppm以下である、項1又は2に記載のシリコンエッチング液。
項4 金属を実質的に含まない、項3に記載のシリコンエッチング液。
項5 水酸化第四級アンモニウム、及び次亜ハロゲン酸第四級アンモニウム塩及び水を混合する混合工程を含む、項1~4のいずれか1項に記載のシリコンエッチング液の製造方法。
項6 Si面を有する基板に、項1~4のいずれか1項に記載のシリコンエッチング液を接触させ、前記Si面をエッチングする工程を含む、基板の処理方法。
項7 項6に記載の基板の処理方法を工程中に含む、シリコンデバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、次亜ハロゲン酸イオンを特定の濃度範囲で含有させることでシリコンのウェットエッチングを高いエッチング速度で行うことができる。そのため、処理対象の材質などにより、従来からある高速化技術(エッチング液)を適用しにくい場合などでも、本発明によれば高速でエッチングすることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「以上、以下」を意味しており、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において「A又はB」の表現は、「A及びBからなる群から選択される少なくとも1つ」と読み替えることができる。
また、本明細書では複数の実施形態を説明するが、適用できる範囲で各実施形態における種々の条件を互いに適用し得る。
また、エッチング液に含まれる成分Cについて、「成分CがDを含む」と表現した場合、「エッチング液は、成分Cとして、少なくともDを含む」と読み替えることができる。
また、本明細書において、適用可能な範囲で「含有量」を「濃度」と言い換えてよく、また、「濃度」を「含有量」と言い換えてもよい。
【0012】
(エッチング液)
本発明の一実施形態に係るシリコンエッチング液(以下、単に「エッチング液剤」とも記し、また、「エッチング剤」や「エッチング薬液」と称してもよい)は、半導体チップの製造等に際してシリコン(結晶性シリコン、又はアモルファスシリコン等)のエッチングに用いるものである。シリコンのエッチングは酸条件で行うものと、アルカリ条件で行うものとがあるが、本実施形態に係るエッチング液はアルカリ性水溶液であり、アルカリ条件でエッチングするためのものである。
【0013】
シリコンのエッチングでは、アルカリ濃度が高い(そのためアルカリ性が高い)ほどエッチング速度が速くなる傾向にある。本実施形態に係るエッチング液はpH(24℃)が12.5以上と強いアルカリ性をもつ。当該pHは、好ましくは13.0以上、より好ま
しくは13.2以上、さらに好ましくは13.3以上、特に好ましくは13.4以上である。他方、アルカリ性が強いほど漏洩などを生じた際の危険性が高く、また液性をアルカリ性とするために配合する成分は、有害性が高い傾向にあり、さらには比較的高価でもある。このような観点から、当該pHは、14.0以下であってよく、13.7以下でもよく、13.6以下でもよい。本実施形態に係るエッチング液は後述する次亜ハロゲン酸イオンを含有するため、同等のpHであっても従来のエッチング液よりはシリコンのエッチング速度が速い。なおこのpHは、ガラス電極法により24℃で測定した値を指す。
【0014】
エッチング液がこのようなpHであるということは、エッチング液中には多量(上記pHを示す量)の水酸化物イオンが存在するということを意味する。さらに当然、水酸化物イオンに対するカウンターカチオンが存在する。ここで、後述するようにエッチング液は金属を含まないことが好ましく、この観点からは、カウンターカチオンがNa+又はK+等の金属カチオンでないことが好ましい。即ち、エッチング液中にカウンターカチオンとして好ましく存在し得るカチオンは、アンモニウムイオン等の非金属カチオンである。
【0015】
当該非金属カチオンは特段制限されず、例えば、無置換のアンモニウムイオン、第一級アンモニウムカチオン、第二級アンモニウムカチオン、第三級アンモニウムカチオン、又は第四級アンモニウムカチオン等が挙げられる。エッチング液は強い塩基性であり、無置換のアンモニウムイオン、第一級アンモニウムカチオン、第二級アンモニウムカチオン、又は第三級のアンモニウムイオンの場合、遊離のアンモニア又はアミンの形態をとり系外に揮発してしまう恐れなどがあるため、カウンターカチオンは第四級アンモニウムイオンであることが特に好ましい。
【0016】
第四級アンモニウムイオンを具体的に例示すると、テトラメチルアンモニウムイオン、エチルトリメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、トリメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウムイオン、ジメチルビス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムイオン、またはメチルトリス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムイオン、フェニルトリメチルアンモニウムイオン、又はベンジルトリメチルアンモニウムイオン等が挙げられる。
【0017】
第四級アンモニウムイオンは、サイズが小さいほどエッチング速度が上がる傾向にあり、上記のなかでも総炭素数が8以下の第四級アンモニウムイオンが好ましく、さらには総炭素数が6以下の第四級アンモニウムイオン(テトラメチルアンモニウムイオン、又はエチルトリメチルアンモニウムイオン等)が特に好ましい。
【0018】
なお当然のことながら、このようなカウンターカチオンは、水酸化物イオンのカウンターイオンであるだけでなく、後述する次亜ハロゲン酸イオンのカウンターイオンでもあり得、さらにエッチング液が他の陰イオンを含む場合には、そのカウンターイオンでもあり得る。
【0019】
またこのようなカウンターカチオンは、単一の種類で存在してもよいし、複数種で存在していてもよい。
【0020】
本実施形態に係るエッチング液の最大の特徴は、次亜ハロゲン酸イオンを0.05~5mmol/Lの範囲で含む点にある。次亜ハロゲン酸イオンを含有することにより、含有しない場合に比べてシリコンエッチング速度、特にシリコンの(100)面および(110)面のエッチング速度が向上する。一方で、含有量が多すぎてもエッチング速度が低下してしまう。これは酸化剤である次亜ハロゲン酸イオンが多すぎると、シリコン表面が強く酸化されてしまい、アルカリ条件下でエッチングされ難くなってしまうためであると推測される。
【0021】
エッチング液における次亜ハロゲン酸イオンの含有量は、好ましくは0.1mmol/L以上、より好ましくは0.2mmol/L以上、さらに好ましくは0.3mmol/L以上、特に好ましくは0.5mmol/L以上であり、また、好ましくは4.5mmol/L以下、より好ましくは4.0mmol/L以下、さらに好ましくは2.5mmol/L以下、特に好ましくは2.0mmol/L以下である。なお次亜ハロゲン酸イオン濃度は、滴定法により把握できる。
【0022】
当該次亜ハロゲン酸イオンとしては、次亜塩素酸イオン(ClO-)、次亜臭素酸イオン(BrO-)、又は次亜ヨウ素酸イオン(IO-)等が挙げられ、安定性の観点から、特に次亜塩素酸イオン又は次亜臭素酸イオンであることが好ましい。
【0023】
エッチング液中に存在する水酸化物イオン及び次亜ハロゲン酸イオンのカウンターイオンが第四級アンモニウムイオンである場合、その含有量は、通常、次亜ハロゲン酸イオンの含有量、及びアルカリ性にするために用いた水酸化第四級アンモニウムの含有量となる。従って、第四級アンモニウムイオンの含有量は、通常、40~1200mmol/Lであり、好ましくは60~800mmol/Lであり、より好ましくは80~600mmol/Lであり、さらに好ましくは100~400mmol/Lである。
なお、この含有量の範囲は、エッチング液中のカチオン(カウンターカチオン)の含有量の範囲として扱うこともできる。
【0024】
半導体チップの製造においては、エッチング液などの処理液が金属を含んでいると、該金属が被処理体(エッチング対象のシリコン面に限らない)に悪影響を与える場合が多い。
【0025】
そのためエッチング液中の金属の濃度は少ないことが好ましい。
具体的に、エッチング液は、Ag、Al、Ba、Ca、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、K、Li、Mg、Mn、Na、Ni、Pb、及びZnの各金属の含有量がそれぞれ1質量ppm以下であることが好ましく、これらの各金属の含有量がそれぞれ1質量ppb以下であることがより好ましく、これらの各金属を実質的に含まないことがさらに好ましい。なおここに列記した各金属、つまり、Ag、Al、Ba、Ca、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、K、Li、Mg、Mn、Na、Ni、Pb、及びZnは、半導体製造に用いる薬液において、品質に影響を与えると目されている金属である。さらには、エッチング液は、列記した各金属に限らず全ての金属について各金属を実質的に含まないことが特に好ましく、全ての金属の含有量が検出限界未満であることが殊更特に好ましい。
本明細書において、「実質的に含まない」とは、不可避的不純物以外に含んでいないことを意味する。つまり、不可避不純物としては含まれ得ることを意味する。
【0026】
エッチング液中の金属の濃度は、例えば、ICP発光分析やICP-MS分析により測定することができる。
【0027】
エッチング液は、通常アルカリ性の水溶液であり、この場合には水が含まれる。水が含まれるとエッチングが好ましく行われる。他の成分の種類や量にもよるが、一般的には、エッチング液における水の割合は30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましく、75質量%以上であることが特に好ましく、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよい。また、該割合は、他の成分を必要量含有できる限り上限は特に定められないが、通常は99.5質量%以下でよく、99質量%以下であれば十分である。
【0028】
シリコンエッチング液には、シリコンエッチング液、特にアルカリ性水溶液からなるシリコンエッチング液に含まれる公知の成分がさらに含有されていてもよい。この場合、シリコンのエッチング速度を低下させるような成分であっても、なんらかの目的をもって配合する必要がある場合には、上記のとおり次亜ハロゲン酸イオンを含有させることでエッチング速度を向上させることができる。よって当該その他の成分の配合によるエッチング速度低下の影響を低減できる。ただし次亜ハロゲン酸イオンは酸化力が高いため、酸化されやすい成分は保存安定性の観点から含まれていない方がよい。
【0029】
他方、半導体チップの製造においてシリコンをエッチングする際には、二酸化ケイ素部分(面)や窒化ケイ素部分(面)はエッチングしたくない場合が多い。従って、エッチング液には、アルカリ性条件下で二酸化ケイ素(SiO2)や窒化ケイ素(SiN)のエッチングを促進するような成分は含まれていないことが好ましい。このような成分の代表的なものとしてはフッ化物イオンがある。なお、塩化物イオンや臭化物イオン等の他のハロゲンイオンは含まれていてもよい。
【0030】
エッチング液は、配合される全ての成分が溶解している均一な溶液であることが好ましい。さらに、エッチング時の汚染を防ぐ観点から、200nm以上のパーティクルが100個/mL以下であることが好ましく、50個/mL以下であることがより好ましく、10個/mL以下であることが特に好ましくい。
【0031】
(製造方法)
上述したエッチング液の製造方法は特に限定されるものではなく、例えば、アルカリ性とするための成分としての各種アルカリ化合物と、次亜ハロゲン酸イオンの供給源としての次亜ハロゲン酸塩と、任意成分である水と、を混合する混合工程、特にこれらの成分が所定の含有量となるように混合する工程を含む方法が挙げられる。該混合工程では、該アルカリ化合物と該次亜ハロゲン酸塩とが均一になるように水に溶解させることが好ましい。なお、この方法は、上記の混合工程以外の工程を有していてもよい。
【0032】
混合工程において、各成分を混合する方法は特段制限されず、公知の方法により混合することができる。混合の条件も特段制限されず、温度や圧力等の任意の条件を採用することができ、常温や常圧で行うことができる。
【0033】
前記の通り、上記のエッチング液は金属を含まないことが好ましいため、アルカリ化合物としてNaOHやKOHなどの金属水酸化物を使うことは好ましくない。
【0034】
従って、エッチング液をアルカリ性とするために含まれるアルカリ化合物としては、アンモニア、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、又は水酸化第四級アンモニウム類が好ましく、pHを12.5以上、特に13.0以上としやすい点で、水酸化第四級アンモニウム類が好ましい。
【0035】
当該水酸化第四級アンモニウムを具体的に例示すると、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)、エチルトリメチルアンモニウムハイドロオキサイド(ETMAH)、テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラブチルアンモニウムハイドロオキサイド、トリメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウムハイドロオキサイド(水酸化コリン)、ジメチルビス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムハイドロオキサイド、またはメチルトリス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムハイドロオキサイド、フェニルトリメチルアンモニウムハイドロオキサイド、又はベンジルトリメチルアンモニウムハイドロオキサイド等を挙げることができる。
【0036】
なおこれら水酸化第四級アンモニウムは、全量がエッチング液中で解離して、水酸化物イオンと、カウンターカチオンである第四級アンモニウムイオンとして存在していることが通常である。
【0037】
このような水酸化第四級アンモニウムは、前述したような金属不純物や不溶性の不純物が可能な限り少ないものを用いることが好ましく、必要に応じて市販品を再結晶、カラム精製、イオン交換精製、又は濾過処理等により精製して使用できる。アルカリ化合物として水酸化第4級アンモニウムを採用する場合、その種類によっては半導体製造用として極めて高純度なものが製造及び販売されており、そのようなものを用いることが好ましい。なお半導体製造用の高純度水酸化第四級アンモニウムは、水溶液などの溶液として販売されているのが一般的である。シリコンエッチング液の製造にあたっては、この溶液をそのまま水や他の配合成分等と混合すればよい。
【0038】
なおエッチング液のpHを12.5以上にするのに必要な水酸化第四級アンモニウムの量は、他の成分の種類や配合量にもよるが、通常35mmol/L以上である。水酸化第四級アンモニウムの量が多いとアルカリ性が高くなり、当該量は、50mmol/L以上が好ましく、100mmol/L以上がより好ましく、150mmol/L以上が特に好ましい。また、当該量は、1200mmol/L以下でよく、1000mmol/L以下でもよく、800mmol/L以下でも十分な性能を得ることができる。
【0039】
使用する次亜ハロゲン酸アンモニウム塩としても非金属塩を用いることが好ましい。具体的には、各種アンモニウム塩がより好ましく、なかでも第四級アンモニウム塩が特に好ましい。より具体的に例示すると、次亜塩素酸又は次亜臭素酸の、テトラメチルアンモニウム塩、エチルトリメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、フェニルトリメチルアンモニウム塩、又はベンジルトリメチルアンモニウム塩等を使用することができる。
【0040】
当該次亜ハロゲン酸アンモニウム塩の配合割合が、事実上、エッチング液に含まれる次亜ハロゲン酸イオンの濃度を決定する。従って、その配合量は、調製するエッチング液1Lあたり0.05~5mmolとすることが好ましい。当該配合量は、より好ましくは0.1mmol/L以上、特に好ましくは0.2mmol/L以上であり、また、好ましくは2.5mmol/L以下、特に好ましくは2.0mmol/L以下である。
【0041】
水を用いる場合、水もまた不純物が少ない高純度のものを使用することが好ましい。不純物の多寡は電気抵抗率で評価でき、具体的に、水の電気抵抗率は、0.1MΩ・cm以上であることが好ましく、15MΩ・cm以上であることがより好ましく、18MΩ・cm以上であることが特に好ましく、また、上限は特段設定を要しない。このような不純物の少ない水は、半導体製造用の超純水として容易に製造及び入手できる。さらに超純水であれば、電気抵抗率に影響を与えない(寄与が少ない)不純物も著しく少なく、適性が高い。
【0042】
なお次亜ハロゲン酸塩は、次亜ハロゲン酸第四級アンモニウム塩等が挙げられ、例えば水酸化第四級アンモニウム等の塩基性水溶液にハロゲンを加えることなどで得ることができる。即ち、水酸化第四級アンモニウムの水溶液に、塩素(Cl2)、又は臭素(Br2)等を加えることで、それぞれ、次亜塩素酸第四級アンモニウム塩水溶液又は次亜臭素酸第四級アンモニウム塩水溶液を製造できる。
【0043】
従って、前記水酸化第四級アンモニウムの高純度水溶液と高純度ハロゲンとから、金属の濃度を低減させた、次亜ハロゲン酸イオンを含むアルカリ性水溶液を製造できる。この方法では、製造原料の使用量を調整して、直接、所定の濃度範囲にあるエッチング液を製
造することもできる。あるいは、このようにして得た次亜ハロゲン酸アンモニウム塩水溶液に、水酸化第四級アンモニウム及び/又は水を加えて濃度を調整してエッチング液を製造することもできる。
【0044】
また前述したように、必要に応じて半導体製造用薬液の成分と知られている各種化合物を配合してもよいが、次亜ハロゲン酸イオンは酸化力が高いため、酸化されやすい成分は保存安定性の観点から配合を避ける方がよい。
【0045】
また、エッチング液には、テトラメチルアンモニウムクロライド、エチルトリメチルアンモニウムアイオダイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、又はデシルトリメチルアンモニウムブロミド等の第4級アンモニウムのハロゲン塩を配合してもよい。なお、このような成分が含まれる場合、第四級アンモニウムイオンの含有量は、これらに由来する分だけさらに増える。
【0046】
なお、前述したように、エッチング液はフッ化物イオンを含まないことが好ましく、そのため半導体製造用薬液の成分と知られている化合物であっても、フッ化アンモニウム、又はテトラメチルアンモニウム・フルオリド等のフッ化物は配合しないことが好ましい。また、同様にPF6塩、BF4塩等も配合しないことが好ましい。
【0047】
エッチング液の製造においては、各成分を混合溶解させたのち、数nm~数十nmのフィルターを通し、パーティクルを除去することも好ましい。必要に応じ、フィルター通過処理は複数回行ってもよい。
【0048】
さらに、高純度窒素ガス等の不活性ガスでのバブリングにより溶存酸素を減らすなど、その他、半導体製造用薬液の製造において、必要な物性を得るために行われる公知の種々の処理を施すことができる。
【0049】
混合と溶解(及び保存)にあたっては、半導体製造用薬液の容器や装置の内壁として公知である材料、具体的にはポリフルオロエチレンや高純度ポリプロピレンなど、エッチング液中に汚染物質が溶出し難い材料で形成又はコーティングなどされた容器や装置を用いることが好ましい。これら容器や装置は、予め洗浄しておくことも好適である。
【0050】
(用途及び使用方法)
上述したシリコンエッチング液は、シリコンウェハ、シリコン単結晶膜、ポリシリコン膜、又はアモルファスシリコン膜を含む各種シリコン複合半導体デバイス(シリコンデバイス)の製造時の各段階における基板のエッチング処理に用いることができる。なお、シリコン単結晶膜は、エピタキシャル成長によって作られたものを含む。
【0051】
即ち、シリコン(Si)面を有する基板に、上述したシリコンエッチング液を接触させることにより、当該Si面をエッチングする処理が行なえる。本発明の別の実施形態である基板の処理方法は、Si面を有する基板に、上述したシリコンエッチング液を接触させ、前記Si面をエッチングする工程を含むことを特徴とする。なお、この基板の処理方法は、該工程以外の工程を有していてもよい。さらに、本発明の更に別の実施形態であるシリコンデバイスの製造方法は、該基板の処理方法を工程中に含むことを特徴とする。なお、このシリコンデバイスの製造方法は、該工程以外の工程を有していてもよい。
他方、任意で配合される成分にもよるが、エッチング液は、通常、二酸化ケイ素(SiO2)や窒化ケイ素(SiN)をエッチングしない。従って、エッチング液を用いた処理の対象物としては、被処理面に窒化ケイ素面および/または二酸化ケイ素面と、シリコン(シリコン単結晶、ポリシリコン、及びアモルファスシリコンを含む)面とを有する基板等が挙げられる。処理の対象物は、各種金属膜などを含んでいてもよい。例えば、処理の
対象物としては、シリコンおよび二酸化ケイ素を交互に積層したものや、シリコン単結晶上にポリシリコン、窒化ケイ素、又は二酸化ケイ素を使ってパターン形成された構造体などが挙げられる。
【0052】
シリコンエッチング液を用いた基板処理方法としては、例えば、基板を水平姿勢に保持する基板保持工程と、当該基板の中央部を通る、鉛直な回転軸線まわりに前記基板を回転させながら、前記基板の主面にエッチング液を供給する処理液供給工程とを含む方法が挙げられる。
【0053】
シリコンエッチング液を用いた他の基板処理方法としては、例えば、複数の基板を直立姿勢で保持する基板保持工程と、処理槽に貯留された本発明のエッチング液に前記基板を直立姿勢で浸漬する工程とを含む方法が挙げられる。
【0054】
好ましい実施形態では、シリコンエッチング液は、シリコンウェハ、特に窒化ケイ素および/または二酸化ケイ素を含む各種シリコン複合半導体デバイスをエッチングする際に、エッチング液を供給して、シリコン膜を選択的にエッチングする工程を含むシリコンデバイスの製造に用いる。
【0055】
シリコンエッチング液を用いたエッチングの際のシリコンエッチング液の温度は、所望のエッチング速度、エッチング後のシリコンの形状や表面状態、生産性などを考慮して20~95℃の範囲から適宜決定すればよいが、35~90℃の範囲とするのが好適である。また、エッチングする時間は特段制限されず、エッチング液の量やエッチング対象物のサイズ等に応じて適宜設定することができる。エッチング量のコントロールや生産性の観点から、10秒以上120分以下であることが好ましく、20秒以上90分以下であることがより好ましく、30秒以上60分以下であることが特に好ましい。
【0056】
シリコンエッチング液を用いたエッチングの際には、真空下又は減圧下での脱気もしくは不活性ガスによるバブリングを行いながらエッチングを行うことができる。このような操作によりエッチング中の溶存酸素の上昇を抑えること、又は当該溶存酸素を低減することができる。
【0057】
シリコンエッチング液を用いたエッチングに際しては、被エッチング物をエッチング液に浸漬するなどして接触させるだけでもよいが、被エッチング物に一定の電位を印加する電気化学エッチング法を採用することもできる。
【0058】
エッチング液は、例えば、ゲートラストプロセスによる半導体製造フローにおいて、ポリシリコンのダミーゲートが絶縁膜である窒化ケイ素および二酸化ケイ素で囲まれた構造を設けたデバイス構造からシリコンのみを選択的に除去できるため、ゲート構造の形成に寄与できる。従って、上述した通り、シリコンウェハ、シリコン単結晶膜、ポリシリコン膜、又はアモルファスシリコン膜をエッチングする工程を含むシリコンデバイス等の半導体デバイス(シリコンデバイス)の製造におけるエッチング液として、上述したシリコンエッチング液を好適に用いることができる。
【実施例0059】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
実施例、比較例での実験方法及び評価方法は以下の通りである。
【0061】
(略号)
用いた化合物の略号は以下の通りである。
【0062】
TMAH:水酸化テトラメチルアンモニウム
TMAClO:次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム塩
TMABrO:次亜臭素酸テトラメチルアンモニウム塩
H2O2:過酸化水素
TMAClO4:過塩素酸テトラメチルアンモニウム塩
NH4NO3:硝酸アンモニウム
【0063】
(エッチング液の調製方法)
TMAH水溶液(2730mmol/L)を超純水で希釈して薬液が均一になるように混合した後、各種酸化剤を入れて、表1に示す各実施例及び比較例に係る各エッチング液の組成となるように調製した。なお、調製に用いた各酸化剤の形態は以下のとおりである。
【0064】
<調製に用いた各酸化剤の形態>
TMAClO水溶液:230mmol/L水溶液
TMABrO水溶液:95mmol/L水溶液
H2O2水溶液:10300mmol/L水溶液
TMAClO4:単一の粉末
NH4NO3:単一の粉末
【0065】
なお、比較例4を除き、いずれの実施例、比較例も、アルカリ化合物である水酸化テトラメチルアンモニウムをエッチング液中の濃度が260mmol/L(2.38質量%)となるように調整して配合した。比較例4は、アルカリ化合物である水酸化テトラメチルアンモニウムをエッチング液中の濃度が11mmol/L(0.1質量%)となるように調整して配合した。
【0066】
(エッチング薬液のpHの測定方法)
堀場製作所製卓上pHメータF-73、及び堀場製作所製pH電極フラットISFETpH電極0040-10Dを用いて24℃の温度条件下で測定した。
【0067】
(エッチング速度(単位:nm/min)の評価方法)
まず、Si(100)面、Si(110)面、Si(111)面の各結晶面に対するエッチング速度を求めるため下記3種のSi基板を用意した。
【0068】
基板A:基板の表裏面がSi(100)面の鏡面である2cm角単結晶シリコン基板(SUMTECサービス製)、
基板B:基板の表裏面がSi(110)面の鏡面である2cm角単結晶シリコン基板(SUMTECサービス製)、
基板C:基板の表裏面がSi(111)面の鏡面である2cm角単結晶シリコン基板(エナテック製)
【0069】
それぞれエッチング処理前に島津製作所製電子天秤AUW220Dを用いてg単位で小数点5桁まで重量を測定した。
【0070】
70℃に加温したエッチング液100mlに各Si基板を10分間浸してエッチング処理を行った。その後、超純水で洗浄した後、乾燥させた。
【0071】
上記エッチング処理後の各基板をエッチング処理前と同様に重量測定した。エッチング
前後の重量変化と、一般的な単結晶シリコンの密度の値である2.329g/cm3を用いて、下記式(1)により基板片面当たりのエッチング速度を算出した。なお、下記式(1)における「エッチング速度」の単位は「nm/min」であり、「基板表裏面の面積」の単位は「cm2」であり、単結晶シリコンの密度を示す値である「2.329」の単位は「g/cm3」であり、「エッチング前後の重量変化」の単位は「g」であり、「エッチング時間」の単位は「min」である。
【0072】
エッチング速度=基板表裏面の面積×107/2.329/エッチング前後の重量変化/エッチング時間 (1)
【0073】
(評価)
参考例(TMAH水溶液)に比べて、シリコンのエッチング速度が何倍になったかで以下の評価を与えた。
【0074】
S:1.50倍以上
A:1.30倍以上、1.50倍未満
B:0.80倍以上、1.30倍未満
C:0.80倍未満
【0075】
そして総合評価として、(100)面、(110)面のいずれもSである場合を「特優」、いずれかでもSであれば「優」、いずれかでもAであれば「良」、いずれもBである場合を「並」(特に効果なし)、それ以外は「不可」とした。
【0076】
なお参考までに、(111)面のエッチング速度倍率についても上記と同様にS~Cの評価を記している。
【0077】
参考例
260mmol/LのTMAH水溶液を用いて、シリコンのエッチング速度を評価した。結果を表1に示す。
【0078】
実施例1
TMAH濃度260mmol/L、次亜塩素酸イオン濃度0.8mmol/Lの水溶液を用いてシリコンのエッチング速度を評価した。結果を表1に示す。この実験例では、(100)面および(110)面のいずれもSであり、総合評価は「特優」であった。なおこの組成では、(111)面のエッチング速度も約1.3倍(A相当)に向上しており、総合的に極めて優れていた。
【0079】
実施例2、比較例1~3
次亜塩素酸イオンの濃度を表1に示すように変化させたエッチング液を調製し、評価を行った。結果を合わせて表1に示す。
【0080】
この濃度範囲では、次亜塩素酸イオンの濃度が高くなるほどエッチング速度が低くなる傾向がみてとれ、濃度を8mmol/Lとした比較例1では未添加の場合と大差がなくなり、さらに多くした比較例2、3ではむしろ悪化していた。
【0081】
比較例4
TMAH濃度を8.7mmol/L、次亜塩素酸イオンの濃度を表1に示すように変化させたエッチング液を調製し、評価を行った。結果を合わせて表1に示す。
【0082】
実施例3~4、比較例5~6
次亜塩素酸イオンに替え、次亜臭素酸イオンを含むエッチング液を調製し評価を行った。濃度と評価結果を表1に示す。この例でも、次亜臭素酸イオンの濃度が低いものは極めて優れた性能を示していたが、次亜臭素酸イオンの濃度が高くなるほどエッチング速度が低くなる傾向があった。
【0083】
比較例7~8
次亜塩素酸イオンに替え、過酸化水素を含むエッチング液を調製し評価を行った。濃度と評価結果を表1に示す。
【0084】
比較例9~10
次亜塩素酸イオンに替え、過塩素酸イオンを含むエッチング液を調製し評価を行った。濃度と評価結果を表1に示す。
【0085】
比較例11~13
次亜塩素酸イオンに替え、硝酸イオンを含むエッチング液を調製し評価を行った。濃度と評価結果を表1に示す。
【0086】
なお、全ての実施例及び比較例において、エッチング液中の金属濃度については、いずれの金属も濃度は1質量ppb%以下であった。
【0087】