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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035252
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20240306BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C30B29/36 A
H01L21/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136724
(22)【出願日】2022-08-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1. 発行日:令和3年10月24日 刊行物:13▲th▼ European conference on Silicon Carbide and Related Materials(ECSCRM2021)の予稿集、電子ファイルをUSBメモリに格納して配布 公開者:佐沢洋幸、山口博隆、児島一聡、山口浩 内容: 「3C-SiC with less rotational variants mixing grown on 4H-SiC C-face substrate by CVD」 (講演番号We-P-51)のタイトルで、4H-SiC基板のC面上にCVD法により互いに回転した関係にある結晶の発生を抑制した3C-SiCエピタキシャル結晶層を成長させる研究について公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2. 発表日:令和3年10月27日(開催期間:令和3年10月24日~28日) 集会名:13▲th▼ European conference on Silicon Carbide and Related Materials(ECSCRM2021) 開催場所:Vinci International Convention Centre,26 Boulevard Heurteloup 37000 Tours,フランス 公開者:佐沢洋幸、山口博隆、児島一聡、山口浩 内容:演題「3C-SiC with less rotational variants mixing grown on 4H-SiC C-face substrate by CVD」 (講演番号:We-P-51)にて、「4H-SiC基板のC面上にCVD法により互いに回転した関係にある結晶の発生を抑制した3C-SiCエピタキャル結晶層を成長させる技術をポスターにて公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 3. 発行日:令和4年5月23日 刊行物:Applied Physics Letters 120,212102(2022) オンライン発行(https://doi.org/10.1063/5.0090083) 公開者:佐沢洋幸、山口博隆 内容:タイトル「High-mobility 2D electron gas in carbon-face 3C-SiC/4H-SiC heterostructure with single domain 3C-SiC layer」にて、「4H-SiC基板のステップ制御したC面上にエピタキャル結晶させた3C/4Hヘテロ構造が、高電子移動度を示したことを公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】佐沢 洋幸
【テーマコード(参考)】
4G077
5F045
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB01
4G077AB02
4G077AB06
4G077AB08
4G077BE08
4G077DB04
4G077DB07
4G077EE03
4G077HA06
5F045AA03
5F045AB06
5F045AC01
5F045AC07
5F045AD16
5F045AD17
5F045AD18
5F045AF02
5F045AF13
5F045EB13
5F045EB15
(57)【要約】
【課題】双晶の生成が抑制された結晶性の良好な3C-SiC単結晶層を備える半導体装置を提供する。
【解決手段】第1の主面を有する4Hまたは6Hの単結晶のSiC基板11と、上記第1の主面上に設けられた単結晶の3C-SiC層12と、を備え、上記第1の主面11aは、(0001)面または(000-1)面から所定の方向に所定の角度で傾斜してステップが形成され、上記ステップの高さは上記SiC基板の結晶構造の1単位セル長さである、半導体装置が提供される。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の主面を有する4Hまたは6Hの単結晶のSiC基板と、
前記第1の主面上に設けられた単結晶の3C-SiC層と、を備え、
前記第1の主面は、(0001)面または(000-1)面から所定の方向に所定の角度で傾斜してステップが形成され、前記ステップの高さは前記SiC基板の結晶構造の1単位セル長さである、半導体装置。
【請求項2】
前記第1の主面は(000-1)面から所定の方向に所定の角度で傾いたオフ面であり、
前記所定の方位が<01-10>方向から±10度以内の範囲であり、
前記所定の角度が(000-1)面から0.05度以上0.24度以下の範囲である、請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記SiC基板は4H-SiC基板である、請求項1または2記載の半導体装置。
【請求項4】
前記3C-SiC層は、前記4H-SiC基板との界面に室温において電圧を印加しない状態で2次元電子ガスが誘起されてなる、請求項3記載の半導体装置。
【請求項5】
前記3C-SiC層は、前記4H-SiC基板との界面に室温においてホール移動度が400cm2/Vs以上である、請求項3記載の半導体装置。
【請求項6】
前記3C-SiC層は、厚さが200nm以下である、請求項1または2記載の半導体装置。
【請求項7】
前記3C-SiC層は、双晶の混入比が10%以下である、請求項1または2記載の半導体装置。
【請求項8】
当該3C-SiC層は、111反射におけるロッキングカーブの半値全幅値が70秒以下である、請求項1または2記載の半導体装置。
【請求項9】
前記第1の主面は(0001)面から所定の方向に所定の角度で傾いたオフ面であり、
前記所定の方位が<01-10>方向から±10度以内の範囲であり、
前記所定の角度が(0001)面から0.05度以上0.24度以下の範囲である、請求項1記載の半導体装置。
【請求項10】

前記SiC基板は4H-SiC基板である、請求項9記載の半導体装置。
【請求項11】
前記3C-SiC層は、室温においてP型の導電型を示す、請求項9または10記載の半導体装置。
【請求項12】
前記3C-SiC層は、室温においてホール移動度が15cm2/Vs以上であり、シート抵抗値が30000Ω/□以下である、請求項9または10記載の半導体装置。
【請求項13】
前記3C-SiC層は、室温に対して100℃のシートキャリア濃度の増加が500%以下である、請求項9または10記載の半導体装置。
【請求項14】
前記3C-SiC層は、厚さが200nm以下である、請求項9または10記載の半導体装置。
【請求項15】
(0001)面または(000-1)面から所定の方向に所定の角度で傾いた第1の主面を有する4Hまたは6Hの単結晶のSiC基板を準備する工程と、
前記SiC基板の前記第1の主面を、水素を含むガス雰囲気下でエッチング処理を行って、前記第1の主面におけるステップの高さを前記SiC基板の結晶構造の1単位セル長さとする工程と、
前記エッチング処理後の第1の主面上に、単結晶の3C-SiC層をエピタキシャル成長する工程と、を含む半導体装置の製造方法。
【請求項16】
前記エッチング処理は、1300℃よりも高い温度に保持することを含む、請求項15記載の半導体装置の製造方法。
【請求項17】
前記エッチング処理は、35kPaに保持することを含む、請求項15記載の半導体装置の製造方法。
【請求項18】
前記第1の主面は(000-1)面から所定の方向に所定の角度で傾斜したオフ面であり、
前記所定の方位が<01-10>方向から±10度以内の範囲であり、
前記所定の角度が(000-1)面から0.05度以上0.24度以下の範囲である、請求項15~17のうちいずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項19】
前記SiC基板は4H-SiC基板である、請求項18記載の半導体装置の製造方法。
【請求項20】
前記第1の主面は(0001)面から所定の方向に所定の角度で傾いたオフ面であり、
前記所定の方位が<01-10>方向から±10度以内の範囲であり、
前記所定の角度が(0001)面から0.05度以上0.24度以下の範囲である、請求項15~17のうちいずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項21】
前記SiC基板は4H-SiC基板である、請求項20記載の半導体装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板上にエピタキシャル結晶成長させた単結晶の半導体層を有する半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiC単結晶は、様々なポリタイプ(結晶多形)を取り得るが、3C(立方晶)-SiC単結晶は、トランジスタのチャネル材料、窒化ガリウム単結晶をエピタキシャル成長するための基板、水分解触媒などとして利用されている。これらの3C(立方晶)-SiC単結晶は、Si基板や4H(六方晶)-SiC基板上に熱CVD(化学気相成長法)などの手法でエピタキシャル成長して製造される。
【0003】
Si基板や4H-SiC基板上にエピタキシャル成長された3C-SiC単結晶層は結晶品質に問題があることが多い。Si基板上に成長する場合、Siと3C-SiCの格子定数の違いにより、3C-SiC単結晶層に転位が発生しやすい。4H-SiC基板上に成長する場合、主面が(0001)や(000-1)の基板上の成長では、3C-SiCは、面内で互いに60度回転した関係にある2種の結晶(以下、この2つの結晶をX、Yとも称する。)が成長する。XとYが隣り合って成長したものを双晶と呼ぶ。XとYが隣接する界面は結晶欠陥となることが知られている。双晶のない結晶を得るために、XとYの結晶の成長速度の差を利用し、長時間成長することにより、どちらか一方が全面を覆うようにしむけ、最表面層において双晶のない結晶を形成する手法がある(例えば非特許文献1参照。)。この手法を用いると成長層は厚膜となる。通常、薄くても1μm程度は必要となる。そのためコスト高である。また、成長初期段階の成長膜には双晶と欠陥が残留するため、トランジスタのチャネルとして利用すると特性の劣化が著しい。
【0004】
4H-SiC基板を用いて、(0001)面および(000-1)面を特定の方向に特定の角度傾斜した面に3C-SiC単結晶層を成長させることが知られている(例えば、特許文献1および2、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-178762号公報
【特許文献2】特開平11-162850号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K. Nishino et al., Jpn. J. Appl. Phys (1997) vol. 36, 5202
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2では、4H-SiC基板を用いて、(0001)面および(000-1)面を特定の方向に特定の角度傾斜した面を800℃以上1300℃以下まで加熱することで、結晶成長表面が√3×√3表面再配列構造になるように清浄化することで、良好な結晶性の3C-SiC単結晶層をエピタキシャル成長させることが開示されているが、双晶の生成の抑制については記載されていない。
【0008】
本発明の目的は、双晶の生成が抑制された結晶性の良好な3C-SiC単結晶層を備える半導体装置およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、第1の主面を有する4Hまたは6Hの単結晶のSiC基板と、上記第1の主面上に設けられた単結晶の3C-SiC層と、を備え、上記第1の主面は、(0001)面または(000-1)面から所定の方向に所定の角度で傾斜してステップが形成され、上記ステップの高さは上記SiC基板の結晶構造の1単位セル長さである、半導体装置が提供される。
【0010】
上記態様によれば、4Hまたは6Hの単結晶のSiC基板の(0001)面または(000-1)面から所定の方向に所定の角度で傾斜した第1の主面にSiC基板の結晶構造の1単位セル長さの高さのステップが形成されているので、ステップ端を挟む2つのテラスのSi-C原子対の配向方向が揃っているので、その上にエピタキャル成長した3C-SiC層のSi-C原子対の配向方向も揃って形成される。これによって、3C-SiC層の双晶の生成が抑制され良質の単結晶の3C-SiC層を有する半導体装置を提供することができる。
【0011】
本発明の他の態様によれば、(0001)面または(000-1)面から所定の方向に所定の角度で傾いた第1の主面を有する4Hまたは6Hの単結晶のSiC基板を準備する工程と、上記SiC基板の前記第1の主面を、水素を含むガス雰囲気下でエッチング処理を行って、上記第1の主面におけるステップの高さを上記SiC基板の結晶構造の1単位セル長さとする工程と、上記エッチング処理後の第1の主面上に、単結晶の3C-SiC層をエピタキシャル成長する工程と、を含む半導体装置の製造方法が提供される。
【0012】
上記他の態様によれば、(0001)面または(000-1)面から所定の方向に所定の角度で傾いた第1の主面を有する4Hまたは6Hの単結晶のSiC基板を用いて、第1の主面を、水素を含むガス雰囲気下でエッチング処理することで1単位セル長さの高さのステップが形成され、ステップ端を挟む2つのテラスのSi-C原子対の配向方向が揃う。その上に3C-SiC層をエピタキシャル成長させることで、3C-SiC層のSi-C原子対の配向方向がSiC基板のSi-C原子対の配向方向に揃って形成される。これによって、3C-SiC層の双晶の生成が抑制された良質の単結晶の3C-SiC層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態に係る半導体装置の構成を示す断面図である。
図2】4H-SiC基板の主面上の3C-SiC層のエピタキシャル成長の説明図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る半導体装置の製造方法のフローチャートである。
図4】水素エッチング処理後の4H-SiC基板の主面(オフ面)のAFM断面プロファイルである。
図5】3C-SiC層の113反射におけるX線回折φスキャンを示す図である。
図6】実施例2の断面TEM写真である。
図7】実施例1および比較例1の3C-SiC層のホール移動度とシートキャリア濃度の温度変化を示す図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る半導体装置の構成を示す断面図である。
図9】本発明の第3実施形態に係る半導体装置の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。なお、複数の図面間において共通する要素については同じ符号を付し、その要素の詳細な説明の繰り返しを省略する。
【0015】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る半導体装置の構成を示す断面図である。図1を参照するに、半導体装置10は、4Hまたは6Hの単結晶のSiC基板(4H-SiCまたは6H-SiC基板)11と、その主面11a上に単結晶の3C-SiC層12とを備える。3C-SiC、4H-SiC、6H-SiCの3C-、4H-、6H-の表記は、Ransdellの表記法によるものであり、冒頭の数字は、六方最密充填構造における3種類の原子(Si-C原子対)の占有位置である“A”、“B”および“C”の(0001)方向の1単位セルの数を示す。3C-および4H-の“C”および“H”は、各々cubic(立方晶)、hexagonal(六方晶)を表す。3C-SiCは、(0001)方向の1単位セルが、A、B、Cの順で構成され、4H-SiCは、A、B、C、Bの順で構成され、6H-SiCはA、B、C、A、C、Bで構成される。SiC基板11の主面(オフ面)11aは(000-1)面から所定の方位に所定の角度で傾いたオフ面である。所定の方位(すなわち傾斜方位)は、<01-10>方向から±10度以内の範囲であり、好ましくは±7度以内の範囲であり、さらに好ましくは±5度以内の範囲であり、最も好ましくは±3度以内の範囲である。所定の角度(すなわち傾斜角度)は、(000-1)面から0.05度以上0.24度以下の範囲であり、好ましくは0.06度以上0.20度以下の範囲であり、さらに好ましくは0.08度以上0.19度以下の範囲であり、最も好ましくは0.11度以上0.17度以下の範囲である。<01-10>方向は、6つの等価な方向、すなわち[10-10]、[1-100]、[0-110]、[-1010]、[-1100]および[01-10]方向を表す。3C-SiC層12は、SiC基板11の主面(オフ面)11aに略(111)面が接合する。
【0016】
SiC基板11の主面(オフ面)11aは、3C-SiC層12の境界において、ステップが形成されている。ステップの高さはSiC基板の結晶構造の1単位セル長さである。すなわち、SiC基板11が4H-SiC単結晶基板の場合は、1単位セル長さが1.0nmであり、SiC基板11が6H-SiC単結晶基板の場合は、1単位セル長さが1.5nmである。
【0017】
SiC基板11の主面(オフ面)11aの傾斜角度は、隣接するステップの距離、すなわちテラス間隔とステップの高さを求めることで特定できる。これらは、半導体装置10の断面の透過電子顕微鏡像(TEM像)もしくは、製造途中であればSiC基板11の主面(オフ面)11aをAFMで観察することにより特定できる。
【0018】
図2は、4H-SiC基板の主面上の3C-SiC層のエピタキシャル成長の説明図である。図2は、[11-20]方向から見た断面模式図である。図2中の斜線は結晶軸を示し、太矢印はその配列方向を示す。図2(a)を参照するに、本実施形態の半導体装置10は、4H-SiC基板11の主面(オフ面)11aにはステップ11sが形成されている。ステップ11sは、その高さ(両矢印で示す。)が1単位セル長さであり、ステップ11sを挟むテラス11t1とのテラス11t2とでは、Si-C原子対の配列方向が揃っている。主面11a上にエピタキシャル成長で形成された3C-SiC層12のSi-C原子対の配列方向がSiC基板11のSi-C原子対の配列方向に整合して揃って形成される。これにより、3C-SiC層12は、Si-C原子対の配列方向がステップ11sを挟む両側で同じ方向になり、双晶の生成が抑制され、単一ドメインとなる。なお、SiC基板11が6H-SiC単結晶基板の場合も同様に3C-SiC層12がエピタキシャル成長し、双晶の生成が抑制され、単一ドメインが形成される。
【0019】
一方、図2(b)に示すように、本実施形態に含まれない半導体装置100は、4H-SiC基板101の主面(オフ面)が例えば(000-1)面から<11-20>の方位に傾いている場合、ステップ101sの高さ(両矢印で示す。)が半単位セル長さになり、ステップ101sを挟むテラス101t2およびテラスt3とでSi-C原子対の配列方向が互いに異なる。主面101a上にエピタキシャル成長で形成された3C-SiC層102のSi-C原子対の配列方向が互いに異なって双晶が生成され、その結晶粒界102bが形成される。3C-SiC層102にはマルチドメインが形成される。
【0020】
図1に戻り、3C-SiC層12は、トランジスタの相互コンダクタンスと発生する電子濃度の兼ね合いから厚さが200nm以下であることが好ましく、図2(a)で説明したように、4H-SiC基板の主面上に単一ドメインで結晶性の良好な3C-SiC層12を形成できるので、厚さが2nm~100nmであることがより好ましい。
【0021】
4Hまたは6Hの単結晶のSiC基板11は半絶縁性であり、その上にエピタキシャル成長した3C-SiC層12は、実施例において述べるが、室温において、SiC基板11との界面に電圧を印加しない状態で2次元電子ガスが誘起される。
【0022】
3C-SiC層12は、室温において、SiC基板11との界面においてホール移動度が400cm2/Vs以上であることがトランジスタの動作速度を上げる観点で好ましい。
【0023】
3C-SiC層12は、図2(a)で説明したように、4H-SiC基板の主面上に単一ドメインで結晶性の良好な3C-SiC層12を形成できるので、双晶の混入比が10%以下であることが好ましい。なお、双晶の混入比は、X線回折φスキャンにより、3C-SiC層の113反射の回折信号強度を計測し、以下の式1により混入比を求める。
混入比(%)=(一方の双晶からの113反射回折信号強度)/(両方の双晶からの113反射回折信号強度の合計/2)×100 ・・・(1)
【0024】
3C-SiC層12は、X線回折装置による3C-SiCの111反射におけるロッキングカーブ(ωスキャン)の半値全幅値(FWHM)が70秒以下であることが、結晶性が良好な点で好ましい。
【0025】
図3は、本発明の第1実施形態に係る半導体装置の製造方法のフローチャートである。図3図1および図2と合わせて参照しつつ、第1実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明する。
【0026】
最初に、4Hまたは6Hの単結晶のSiC基板11を準備する(S100)。具体的には、4Hまたは6Hの単結晶のSiC基板11は、その主面が(000-1)面(C面)から、所定の方向に所定の角度で傾いたオフ面である。主面は、所定の方位が<01-10>方向から±10度以内の範囲であり、所定の角度が(000-1)面から0.05度以上0.24度以下の範囲である。このような4Hまたは6Hの単結晶のSiC基板は、インゴットを上記方位および上記角度に有するようにワイヤーソーによってスプライシングおよび研磨したものを用いればよい。
【0027】
次いで、水素を含むガス雰囲気下でSiC基板11の主面をエッチング処理する(S110)。具体的には、S100で準備した単結晶SiC基板を洗浄(例えば、RCA洗浄)した後、熱CVD装置の反応炉内に単結晶SiC基板を載置し、反応炉内を減圧しながら水素ガスを(例えば圧力が5kPa~50kPa(好ましくは(15kPa~25kPa)になるように)導入し、例えば基板温度1280℃~1470℃、好ましくは1300℃~1450℃、さらに好ましくは1320℃~1430℃、最も好ましくは1340℃~1410℃の範囲に設定し、基板温度の保持時間は1分以上2時間以下、好ましくは5分以上1時間以下、さらに好ましくは10分以上45分以下、最も好ましくは15分以上30分の間保持して、熱エッチング法により主面(オフ面)のエッチング処理を行う。
【0028】
このエッチング処理により、図2(a)に示したように、主面(オフ面)11aにはステップの高さが4Hまたは6Hの単結晶のSiC基板の結晶構造の1単位セル長さであるステップが形成される。
【0029】
次いで、SiC基板の主面11a上に熱CVD法により単結晶の3C-SiC層12をエピタキシャル成長させる(S120)。具体的には、S110のエッチング処理の雰囲気ガスを排気した後(好ましくは直後)に、ホットウォール型熱CVD装置の反応炉内に原料ガスを導入する。シリコン(Si)源にはSiH4、Si26を用いることができ、炭素(C)源にはC38を用いることができる。キャリアガスとしてH2を導入し、例えば基板温度は、1280℃~1470℃の範囲から選択することができ、好ましくは1300℃~1450℃の範囲から選択し、さらに好ましくは1320℃~1430℃の範囲から選択し、最も好ましくは1340℃~1410℃の範囲から選択して、SiC基板および反応炉内壁を加熱して、3C-SiC層12をエピタキシャル成長させる。原料ガスのC原子とSi原子との比率(C/Si比)は、0.8~5の範囲に設定することが好ましい。C/Si比の制御は原料ガスの流量比によって制御することができ、総流量に制限はないが、3C-SiC層12の成長速度を1μm/Hr~6μm/Hrの範囲とすることが好ましい。3C-SiC層12の厚さは、例えば反応時間によって制御する。原料ガスはCH3、C25、H2SiCl2でもよく、キャリアガスはArでもよい。これにより、3C-SiC層12は、4Hまたは6Hの単結晶のSiC基板の主面上に、図2(a)に示したように、ステップ11sを挟むテラス11t1とテラス11t2とではSi-C原子対の配列方向(太い矢印)がそろって形成され、単結晶の単一ドメインの3C-SiC層12が形成される。
【0030】
なお、このような4Hまたは6H-SiC単結晶基板/3C-SiC単結晶層のエピタキシャルウェハにトランジスタやダイオードを形成する場合は、公知の半導体プロセスを用いることができる。
【0031】
[実施例1および2]
主面(オフ面)が(000-1)面から[01-10]の方位に0.14°傾いた4H-SiC単結晶基板(サイズ5mm×5mm)を準備した。半絶縁性の4H-SiC単結晶基板をアセトン中で10分間超音波処理した後、RCA洗浄を行った。ホットウォール型熱CVD装置の反応炉に洗浄後の4H-SiC基板を載置し、水素ガスを導入し、基板温度を1380℃に設定し30分間水素エッチング処理を行った。反応炉内の水素ガス導入量を保ったまま、直ぐに原料ガスとしてC38、SiH4をC/Si比が0.85となるように流量比を設定して、基板温度1380度で1分間および20秒間、3C-SiC層をエピタキシャル成長させ、3C-SiC層の厚さが30nm(実施例1)、10nm(実施例2)のエピタキシャルウェハを得た。
【0032】
[比較例1]
比較例1は、主面(オフ面)が(000-1)面から[11-20]の方位に0.14°傾いた4H-SiC基板(サイズ5mm×5mm)を用いた以外は実施例と同様にしてエピタキシャルウェハを形成した。3C-SiC単結晶層の厚さが30nmのもの比較例1とした。
【0033】
図4は、水素エッチング処理後の4H-SiC基板の主面(オフ面)のAFM像(上図)および断面プロファイル(下図)である。図4(a)は実施例、図4(b)が比較例である。
【0034】
図4(a)を参照するに、実施例の水素エッチング処理後の[01-10]の方位に0.14°傾いた主面(オフ面)には、高さが1nmのステップが形成されていることが分かる。4H-SiC単結晶のc軸の長さが1.008nmであるから、ステップは1単位セル長さの高さを有することが分かる。一方、図4(b)を参照するに、比較例の水素エッチング処理後の[11-20]の方位に0.14°傾いた主面(オフ面)には、高さが0.5nmのステップが形成されており、ステップは0.5単位セル長さの高さを有することが分かる。
【0035】
図5は、3C-SiC層の113反射におけるX線回折φスキャングラフである。図5(a)は実施例1、図5(b)が比較例1である。ロッキングカーブの測定は、X線回折装置(線源:Cu、結晶モノクロメータ:Ge220、Cu Kα線)を用いて、3C-SiC 113反射に対してチルト(ψ)角を29.29°から29.69°まで0.2°刻みで変えながら面内スキャン(φスキャン)を行ってφスキャングラフを得た。
【0036】
図5(a)を参照するに、実施例1の3C-SiC層の113反射におけるφスキャンは、61°、181°および301°にピークが現れ、3つのピークが観測された。3C-SiC単結晶の113反射は3回回転対称を有する。3つのピークのみが観測されたので、実施例1の3C-SiC層は、単一ドメインで形成されており、つまり双晶の形成が抑制されていることが分かる。一方、図5(b)を参照するに、比較例1の3C-SiC単結晶層の113反射におけるφスキャンは、2°、62°、122°、182°、242°および302°にピークが現れ、6つのピークが観測された。これにより、比較例1は、3C-SiC単結晶層が互いに60°面内に回転したマルチドメインで形成されており、つまり双晶が形成されていることが分かる。
【0037】
3C-SiC層の111反射のロッキングカーブ(ωスキャン)を測定した。実施例1の半値全幅値が8.7秒であり、これは極めて小さく、4H-SiC単結晶基板上に非常に良質の単結晶の3C-SiC層が形成されていることを示している。
【0038】
図6は、実施例2の断面TEM写真である。図6は、4H-SiC単結晶基板(“4H”で示す。)とその上の3C-SiC層(“3C”で示す。)の[000-1]方向の断面図である。図6を参照するに、4H-SiC単結晶基板と3C-SiC層との境界にヘテロ界面が形成されていることが分かる。さらに、3C-SiC層は、それぞれ粒のように見えるSi原子(あるいはSi原子-C原子対)が整然と配列しており、3C-SiC単結晶層が極薄くても結晶性が極めて良質であることを示しており、従来は3C-SiCの良質の結晶を得るために数μm程度の厚膜を形成していたが、その必要がないことが分かる。
【0039】
図7は、実施例1および比較例1の3C-SiC層のホール移動度とシートキャリア濃度の温度変化を示す図である。ホール移動度とシートキャリア濃度は、ホール効果測定装置(東陽テクニカ社製モデルResiTest8300)を用いて測定した。
【0040】
図7を参照するに、ホール移動度μHは、室温(297K)において、実施例1(●で示す。)は780cm2/Vsであり、比較例1(○で示す。)の190cm2/Vsよりも極めて高いことが分かる。
【0041】
実施例1のシートキャリア濃度(▲で示す。)は、20K~560Kの測定範囲でほぼ一定であることが分かる。これは多数キャリアが縮退した電子であることを示す。実施例1の測定したホール移動度μHが室温(297K)で780cm2/Vsと不純物バンドに存在する電子のホール移動度の一般的値(最高でも10cm2/Vs程度)よりも極めて高いことを考慮すると、電子は、4H-SiC単結晶基板との界面の3C-SiC層に2次元電子ガスが誘起されていると推察される。
【0042】
[実施例3~7および比較例2~3]
(000-1)面からの傾斜方位および傾斜角度を異ならせた4H-SiC単結晶基板を用いて、実施例1と同じ方法で4H-SiC単結晶基板上に3C-SiC層をエピタキシャル成長させ、3C-SiC層の双晶の混入比および111反射のロッキングカーブの半値全幅値を実施例1と同様にして計測した。
【表1】
【0043】
実施例3~7は比較例2~3と比較して、双晶の混入比が極めて小さく、111反射のロッキングカーブの半値全幅値も極めて小さいことが分かった。実施例3~5では、傾斜角度が0.05~0.24°の範囲では0.14°で最小になっており、0.14°付近の範囲(例えば0.11度以上0.17度以下)が最も好ましいことが分かる。
【0044】
なお、実施例1~7および比較例1~3では、4H-SiC単結晶基板を用いたが、その代わりに6H-SiC単結晶基板を用いた場合も同様の結果が得られることが推察される。
【0045】
[第2実施形態]
図8は、本発明の第2実施形態に係る半導体装置の構成を示す断面図である。図8を参照するに、半導体装置20は、4Hまたは6Hの単結晶のSiC基板21と、その主面21a上に単結晶の3C-SiC層22とを備える。SiC基板21の主面(オフ面)21aは(0001)面(Si面)から所定の方向に所定の角度で傾いたオフ面である。所定の方位は、<01-10>方向から±10度以内の範囲であり、所定の角度が(000-1)面から0.05度以上0.24度以下の範囲である。このSiC基板21の主面21aは、3C-SiC層12の境界において、ステップが形成されている。ステップの高さはSiC基板の結晶構造の1単位セル長さである。すなわち、SiC基板11が4H-SiC単結晶基板の場合は、1単位セル長さが1.0nmであり、SiC基板11が6H-SiC単結晶基板の場合は、1単位セル長さが1.5nmである。
【0046】
第2実施形態に係る半導体装置20は、オフ面が(0001)面(Si面)から上記のように所定の方向に所定の角度で傾いた面である以外は、図1に示した第1実施形態に係る半導体装置10と同様であり、その製造方法も同様である。以下、第1実施形態と異なる事項のみを説明し、同様な事項の説明を省略する。
【0047】
3C-SiC層22は、トランジスタの相互コンダクタンスと電子濃度の兼ね合いから厚さが200nm以下であることが好ましく、厚さが2nm~100nmであることがより好ましい。
【0048】
4Hまたは6Hの単結晶のSiC基板21は半絶縁性であり、その上にエピタキシャル成長した3C-SiC層22は、室温においてP型の導電型を示す。3C-SiC層22は、室温においてホール移動度が15cm2/Vs以上であり、シート抵抗値が30000Ω/□以下である。3C-SiC層22は、室温に対して100℃のシートキャリア濃度の増加が500%以下である。
【0049】
[実施例8]
主面(オフ面)が(0001)面から[01-10]の方位に0.08°傾いた4H-SiC単結晶基板(サイズ5mm×5mm)を準備した。半絶縁性の4H-SiC単結晶基板をアセトン中で10分間超音波処理した後、RCA洗浄を行った。ホットウォール型熱CVD装置の反応炉に洗浄後の4H-SiC基板を載置し、水素ガスを導入し、基板温度を1370℃に設定し30分間水素エッチング処理を行った。反応炉内の水素ガス導入量を保ったまま、直ぐに原料ガスとしてC、SiHをC/Si比が1となるように流量比を設定して、基板温度1370度で22秒間、3C-SiC層をエピタキシャル成長させ、3C-SiC層の厚さが30nmのエピタキシャルウェハを得た。
【0050】
この処理とは別個に、同じ性状を有する基板を別に用意し、上記と同じ操作により水素エッチングを施したのち冷却し、取り出して水素エッチング処理済みの4H-SiC単結晶基板を用意した。
【0051】
[比較例4]
比較例は、主面(オフ面)が(0001)面から[11-20]の方位に0.076°傾いた4H-SiC基板(サイズ5mm×5mm)を用いた以外は実施例8と同様にしてエピタキシャルウェハを形成した。3C-SiC単結晶層の厚さが30nmのものを比較例4とした。この処理とは別個に、同じ性状を有する基板を別に用意し、上記と同じ操作により水素エッチングを施したのち冷却し、取り出して水素エッチング処理済みの4H-SiC単結晶基板を用意した。
【0052】
水素エッチングの後、冷却して取り出した水素エッチング処理済みの4H-SiC単結晶基板の表面に形成されているステップ高さは、実施例8において1nmであり、比較例4においては0.5nmだった。それぞれ1単位セル高さ、0.5単位セル高さに相当する。
【0053】
3C-SiC層の双晶の混入比は、実施例8において0.22%であり、比較例4において48%だった。
【0054】
[第3実施形態]
図9は、本発明の第3実施形態に係る半導体装置の構成を示す断面図である。図9を参照するに、半導体装置30は、4H-SiCまたは6H-SiC基板11と、その主面11a上に単結晶の3C-SiC層12と、3C-SiC層12上にオーミック電極31,32およびショットキー電極33とを備える。4H-SiCまたは6H-SiC基板)11と3C-SiC層12との主面11aでの接合は、第1実施形態の半導体装置10と同様であり、4H-SiCまたは6H-SiC基板11のC面と3C-SiC層12のSi面が接合している。主面11aの3C-SiC層12側には2次元電子ガスが発生している。半導体装置30は、オーミック電極31をソース電極、オーミック電極32をドレイン電極、ショットキー電極33をゲート電極とすることで、ソース電極31から2次元電子ガスを通ってドレイン電極32に流れる電流をゲート電極33で制御するトランジスタを構成できる。
【0055】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された本発明の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0056】
10,20,30 半導体装置
11,21 SiC基板
12,22 3C-SiC層

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9