(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035391
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】交流電圧波形生成装置
(51)【国際特許分類】
H10N 60/10 20230101AFI20240307BHJP
H03K 3/80 20060101ALI20240307BHJP
H03K 3/38 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
H01L39/22 K
H03K3/80
H03K3/38 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139820
(22)【出願日】2022-09-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「IoT社会実現のための革新的センシング技術開発/革新的センシング基盤技術開発/超微小ノイズ評価技術開発/量子現象に基づくトレーサビリティが確保されたワイヤレス機器校正ネットワークの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 道隆
(72)【発明者】
【氏名】金子 晋久
(72)【発明者】
【氏名】浦野 千春
【テーマコード(参考)】
4M113
5J300
【Fターム(参考)】
4M113AC44
4M113AD21
5J300UA01
5J300WD00
(57)【要約】
【課題】精度の良い交流電圧波形を生成する新規な交流電圧波形生成装置を提供すること。
【解決手段】本交流電圧波形生成装置は、(A)第1の周波数と同一又は近似の第2の周波数の信号を、時間変化する第3の周波数且つある位相で変調した第1の信号が入力され、バイアス駆動される1又は複数段のジョセフソン素子を含む第1のジョセフソン素子列と、(B)第1の周波数の信号又は第1の周波数の信号を第3の周波数且つ上記ある位相とは逆位相で変調した信号である第2の信号が入力され、バイアス駆動される1又は複数段のジョセフソン素子を含む第2のジョセフソン素子列とを有する。そして、第1のジョセフソン素子列の出力電圧と第2のジョセフソン素子列の出力電圧との電圧差に対応し且つ上記時間変化に応じた第3の信号を出力するものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の周波数と同一又は近似の第2の周波数の信号を、時間変化する第3の周波数且つある位相で変調した第1の信号が入力され、バイアス駆動される1又は複数段のジョセフソン素子を含む第1のジョセフソン素子列と、
前記第1の周波数の信号又は前記第1の周波数の信号を前記第3の周波数且つ前記ある位相とは逆位相で変調した信号である第2の信号が入力され、バイアス駆動される1又は複数段のジョセフソン素子を含む第2のジョセフソン素子列と、
を有し、
前記第1のジョセフソン素子列の出力電圧と前記第2のジョセフソン素子列の出力電圧との電圧差に対応し且つ前記時間変化に応じた第3の信号を出力する
交流電圧波形生成装置。
【請求項2】
前記第1の信号と前記第2の信号とから前記第3の信号を再現した第4の信号を生成し、前記第3の信号の理想的な信号を生成する校正部
をさらに有する請求項1の交流電圧波形生成装置。
【請求項3】
前記第4の信号と前記第3の信号とに基づき、前記第1の信号と前記第2の信号とのうち少なくともいずれかを補正するように、前記第1の信号及び前記第2の信号を生成する信号発生器を制御する制御部
をさらに有する請求項2記載の交流電圧波形生成装置。
【請求項4】
前記校正部は、
前記第1の信号の周波数と前記第2の信号の周波数との差の周波数を有する第5の信号を生成するミキサ回路と、
前記第5の信号における単位時間当たりのパルス数の時間変化を表す第6の信号を出力する手段と、
前記第6の信号に基づき前記第4の信号を生成する手段と、
を有する請求項2記載の交流電圧波形生成装置。
【請求項5】
前記第1のジョセフソン素子列においてバイアス駆動されるジョセフソン素子の段数と、前記第2のジョセフソン素子列においてバイアス駆動されるジョセフソン素子の段数とが同じである
請求項1記載の交流電圧波形生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電圧波形を生成する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器等の信頼性及び安全性を担保するためには、それらの製造過程やメンテナンス時の電気測定におけるトレーサビリティを確保することが求められている。特に、微小な電気量を用いるセンサ機器等を精密に評価するためには、高精度な交流微小基準信号源が求められる。
【0003】
このような課題に対して、ジョセフソン効果を用いた電圧標準を用いた方法や、熱電変換素子を用いた交直変換標準、半導体信号発生器を用いる方法などが知られている。しかし、2番目及び3番目の方法においては、測定精度や振幅、帯域などにおいてトレードオフが存在したり、環境依存性やドリフト特性等による信頼性の低下やそれを補うための校正作業の負荷が大きいといった問題がある。
【0004】
また、最初の方法においては、直流電圧標準としての技術は確立している一方で、交流電圧に関しては今だ研究開発の段階であり、従来提案されている手法では、やはり測定精度や振幅、帯域などにおいてトレードオフが存在したり、高価な高周波機器を用いるためシステムが大掛かりになる、といった問題がある。
【0005】
具体的には、量子化された交流電圧を発生させる方法には、任意の電圧を発生可能なプログラマブル型ジョセフソン電圧標準のバイアス電流を高速で制御して交流波形を発生させる方法(例えば非特許文献1及び特許文献2)や、マイクロ波の代わりに高速パルス列を用いるパルス駆動型ジョセフソン電圧標準(例えば特許文献1)などが実現されているが、スイッチングエラーが大きい、出力振幅の下限が大きい、高価で複雑なGHz帯の制御回路系を要するといった課題を有する。
【0006】
なお、交流では無く直流電圧を発生させる場合には、2つのジョセフソン素子列に互いに異なる第1及び第2の周波数のマイクロ波を入力して第1の周波数と第2の周波数との差に対応する単位電圧の整数倍の直流電圧を出力する方式が知られている(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-148271号公報
【特許文献2】特開2010-199343号公報
【特許文献3】米国特許第7557600号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】C.A.Hamilton,C.J.Burroughs,and R.L.Kautz, "Josephson D/A Converter with Fundamental Accuracy", IEEE Transactions on instrumentation and measuerement,vol.44,no.2,pp.223-225,April 1995.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、一側面によれば、精度の良い交流電圧波形を生成する新規な交流電圧波形生成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかる交流電圧波形生成装置は、(A)第1の周波数と同一又は近似の第2の周波数の信号を、時間変化する第3の周波数且つある位相で変調した第1の信号が入力され、バイアス駆動される1又は複数段のジョセフソン素子を含む第1のジョセフソン素子列と、(B)第1の周波数の信号又は第1の周波数の信号を第3の周波数且つ上記ある位相とは逆位相で変調した信号である第2の信号が入力され、バイアス駆動される1又は複数段のジョセフソン素子を含む第2のジョセフソン素子列とを有する。そして、第1のジョセフソン素子列の出力電圧と第2のジョセフソン素子列の出力電圧との電圧差に対応し且つ上記時間変化に応じた第3の信号を出力するものである。
【発明の効果】
【0011】
一側面によれば、精度の良い交流電圧波形を生成することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、第1の実施の形態に係る交流電圧波形生成装置の構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、バイアス駆動されたジョセフソン素子列の一例を示す図である。
【
図3】
図3(a)乃至(e)は、第1の実施の形態に係る交流電圧波形生成装置の動作を説明するための信号波形を表す図である。
【
図4】
図4は、周波数変調に用いる、時間変化するΔf(t)の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、第1の実施の形態の変形1の構成例を示す図である。
【
図6】
図6は、第2の実施の形態に係る交流電圧波形生成装置の構成例を示す図である。
【
図7】
図7(a)乃至(e)は、第2の実施の形態に係る交流電圧波形生成装置の動作を説明するための信号波形を表す図である。
【
図8】
図8は、第2の実施の形態に係る交流電圧波形生成装置の出力波形の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、第3の実施の形態に係る交流電圧波形生成装置の構成例を示す図である。
【
図10】
図10(a)及び(b)は、第3の実施の形態に係る交流電圧波形生成装置の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施の形態1]
本実施の形態では、ジョセフソン接合に周波数fのマイクロ波を印加すると、(h/2e)fに比例する電圧が得られるというジョセフソン効果を用いるものである。なお、hはプランク定数であり、eは素電荷である。本実施の形態では、ジョセフソン素子列に印加するバイアス電流については変化させることは無く、一方のジョセフソン素子列に印加するマイクロ波の周波数を時間変化させることにより当該時間変化に応じた出力電圧変化を得るものであり、他方のジョセフソン素子列に印加するマイクロ波の周波数を固定することで、オフセットを調整する。
【0014】
本実施の形態に係る交流電圧波形生成装置の構成例を
図1に示す。交流電圧波形生成装置は、2つの信号を生成する信号発生器1と、ジョセフソン素子列2a及び2bと、キャパシタC1乃至C4とを含む。信号発生器1の第1のチャネルChAには、キャパシタC1と、ジョセフソン素子列2aと、キャパシタC2とが直列に接続されている。なお、キャパシタC2の一端は接地されている。同様に、信号発生器1の第2のチャネルChBには、キャパシタC3と、ジョセフソン素子列2bと、キャパシタC4とが直列に接続されている。なお、キャパシタC4の一端は接地されている。また、キャパシタC2の他端とキャパシタC4の他端は、接続されている。また、ジョセフソン素子列2aの出力端子は、キャパシタC1との接続部分に接続されており、ジョセフソン素子列2bの出力端子は、キャパシタC3との接続部分に接続されており、これらの出力端子の間に、目的とする出力電圧が生じる。
【0015】
なお、ジョセフソン素子列2a及び2bは、基本形態としては、
図2に示すように、複数のジョセフソン素子21乃至27(
図2中×印。個数は7個に限定されない)が直列に接続され、両端に電流源29が接続されてバイアス駆動されるものである。但し、ジョセフソン素子1つの場合もある。また、例えば2
n(nは自然数)毎にジョセフソン素子をグループ化して、各グループについてバイアス駆動できるようにしたものでも実質的に同じである。但し、本実施の形態では、全てのグループ、すなわち全てのジョセフソン素子をバイアス駆動する。
【0016】
次に、
図3(a)乃至(e)と
図4を用いて
図1に示した交流電圧波形生成装置の動作について説明する。信号発生器1は、周波数f
Bの信号を、時間変化する周波数Δf(t)で周波数変調することで得られる周波数f
A(=f
B+Δf(t))の信号を生成して、第1のチャネルChAに出力する。例えば、時間変化する周波数Δf(t)は、
図4に示すように時間変化する。
図4の例では、周波数Δf(t)は、周期Tを有する正弦波であり、振幅はΔf
maxである。すなわち、Δf
maxsin(2πt/T)という曲線に沿って周波数が変化するものである。これによって、第1のチャネルChAに出力する信号の周波数f
Aは、時間変化するものになり、模式的に示せば、
図3(a)に示すような信号である。なお、
図3(a)乃至(e)で、縦軸は振幅を表しており、横軸は時間を表している。また、信号発生器1は、固定の周波数f
Bの信号を生成して、第2のチャネルChBに出力する。例えば、
図3(b)に示すような信号である。
【0017】
このような周波数f
Aの信号を、ジョセフソン素子列2aに印加すると、周波数f
Bに応じたオフセットを有し、且つΔf(t)に応じて時間変化する電圧V
A=N(h/2e)(f
B+Δf(t))が出力端子に生ずる。なお、Nは、直列に接続されたジョセフソン素子の数である。例えば、ジョセフソン素子列2aの出力端子の電圧V
Aは、
図3(c)に示すような信号である。一方、周波数f
Bの信号を、ジョセフソン素子列2bに印加すると、周波数f
Bに応じたオフセットを有する電圧V
B=N(h/2e)f
Bが出力端子に生ずる。ジョセフソン素子列2bの出力端子は、負極側なので、出力端子の電圧V
Bは、
図3(d)に示すような信号である。
【0018】
図3(c)及び(d)のような電圧が各々の出力端子に生じるので、両出力端子間の電圧Vout=V
A-V
B=N(h/2e)Δf(t)が得られるようになる。すなわち、第1のチャネルChAに現れるオフセットがキャンセルされて、
図3(e)に示すような電圧Voutが得られるようになる。
【0019】
このようにすれば、従来のプログラマブル型ジョセフソン接合アレイによる交流電圧生成では避けられない量子化誤差やトランジェントエラー、出力周波数の上限などの欠点を回避できる。また、従来のパルス駆動型ジョセフソン接合アレイによる交流電圧生成で用いられる高価な高速パルスパターン発生器を用いることはなく、パルス信号の分散特性に起因した接合数の上限を回避できる。さらに、単に1入力型のジョセフソン素子列に入力する高周波信号を周波数変調するだけの場合に生じる余分な直流のオフセット電圧を、正確にキャンセルすることが可能である。すなわち、精度の高い交流電圧波形を生成することが出来る。
【0020】
なお、Δf(t)については、Δfmaxsin(2πt/T)というような正弦波を一例にして示したが、各種三角波や矩形波、その他の時間変化する任意の波形であっても良い。
【0021】
[実施の形態1の変形例1]
図5に示すように、ジョセフソン素子2a及び2bの接続態様を変更しても、同様の出力電圧Voutを得ることが出来る。すなわち、ジョセフソン素子列2bについての出力端子をキャパシタC4との接続部分に接続し、ジョセフソン素子列2aとキャパシタC2との接続部分とジョセフソン素子列2bとキャパシタC3との接続部分を接続するものである。このようにしても、
図3(a)乃至(d)に示すような信号が得られ、出力電圧Voutも同様に得られる。
【0022】
[実施の形態1の変形例2]
上で述べた第1の実施の形態では、信号発生器1が、第2のチャネルChBには、固定の周波数fBを出力していたが、本実施の形態では、信号発生器1が、周波数fBの信号を、周波数Δf(t)で且つ第1のチャネルChAにおける周波数変調とは逆位相で周波数変調することで得られる周波数fC(=fB-Δf(t))の信号を、第2のチャネルChBに出力する。
【0023】
このようにすれば、ジョセフソン素子列2aの出力端子には、第1の実施の形態と同様の電圧VA=N(h/2e)(fB+Δf(t))が出力されるが、ジョセフソン素子列2bの出力端子には、電圧VB=N(h/2e)(fB-Δf(t))が出力される。よって、両出力端子間の電圧である出力電圧は、Vout=VA-VB=2N(h/2e)Δf(t)となる。すなわち、2倍の振幅の出力電圧を得ることが出来るようになる。このようにすれば、信号発生器1の周波数変調幅に上限がある場合でも、実質的に上限値の2倍の変調幅を得ることができる。
【0024】
[実施の形態1の変形例3]
上では、出力電圧Voutのオフセットをキャンセルする場合を示したが、意図してオフセットを生じさせるようにしても良い。例えば、第1のチャネルChAについて、周波数fBを周波数Δf(t)で周波数変調するようにしていたが、この周波数fBの代わりに、当該周波数fBと近似する周波数fDを周波数変調するようにしても良い。このようにすれば、N(h/2e)(fD-fB+Δf(t))という出力電圧が得られるようになるので、(fD-fB)に応じたオフセットが生じる。なお、一般にジョセフソン素子が応答できるマイクロ波の周波数は、ジョセフソン周波数と呼ばれる素子固有の周波数およびその整数倍の周波数に近い有限の範囲に限られており、ここで“近似する周波数”と呼ぶのは、その範囲内であることを意味する。
【0025】
また、Δf(t)を、Δf(t)+Δfconstにすることで、N(h/2e)Δfconstというオフセットを生じさせることが出来る。
【0026】
場合によっては、第2のチャネルChBで、周波数fBと近似する周波数fDの信号を出力するようにしても、同様の効果を得ることが出来る。
【0027】
場合によっては、ジョセフソン素子2aとジョセフソン素子2bとで、直列に接続するジョセフソン素子の数が異なる場合には、1段につき(h/2e)fBのオフセットを生じさせることができる。また、グループ毎にバイアス駆動が出来るようなジョセフソン素子列の場合には、全てのグループをバイアス駆動をするのではなく、一部のグループのみをバイアス駆動すれば、バイアス駆動しなかった分だけオフセットを生じさせることが出来る。
【0028】
[実施の形態2]
第1の実施の形態では、信号発生器1が出力する2つの信号に歪みが生じないとした場合を示しているが、実際には歪みが生ずる場合がある。これを校正する場合についての構成を、
図6に示す。
図6は、
図1に示した交流電圧波形生成装置に校正部3を接続する場合を示しており、校正部3は、ミキサ回路31と、パルス計数部32と、演算部33とを含む。ミキサ回路31は、信号発生器1から第1のチャネルChAへの出力信号と信号発生器1から第2のチャネルChBへの出力信号とが入力されて、それらの信号の周波数差の信号を出力する。
図7(a)は、信号発生器1から第1のチャネルChAへの出力信号を模式的に表しており、
図3(a)で示した信号と同じである。
図7(b)は、信号発生器1から第2のチャネルChBへの出力信号を模式的に示しており、
図3(b)で示した信号と同じである。ミキサ回路31は、
図7(c)に示すように、
図7(a)で示した信号の周波数と
図7(b)で示した信号の周波数との差に対応する周波数を有する信号を出力する。第1の実施の形態の例では、f
Aとf
Bとの差であるΔf(t)という周波数の信号が出力される。なお、
図7(a)乃至(d)の各々において、縦軸は振幅を表しており、横軸は時間を表している。
【0029】
パルス計数部32は、ミキサ回路31の出力信号における単位時間当たりのパルス数(すなわちパルス密度)の時間変化を表すデジタル信号を出力する。
図7(d)に、パルス計数部32の出力信号の一例を示したもので、パルス有りが「1」、パルス無しを「0」を表しており、周波数が高い部分では「1」が多くなり、周波数が低い部分では「0」が多くなる。なお、パルス計数部32は、パルス計数回路、A/D変換器、又はオシロスコープで実現される。
【0030】
演算部33は、パルス計数部32からの出力信号、すなわちパルス密度の時間変化に基づき、パルス密度変調のような演算にて、ジョセフソン素子列2a及び2bの出力端子間の電圧Voutを再現する信号を生成すると共に、理想的な出力電圧Voutを表す信号を生成して出力する。例えば、表示装置に表示したり、記憶装置に記録したりする。例えば、
図7(e)に示すような、ジョセフソン素子列2a及び2bの出力端子間の電圧Voutを再現する信号を生成する。電圧Voutの再現信号と電圧Voutの理想的な信号とを重ねて表示することで、再現信号の状態を把握することが出来る。例えば、
図8に示すように、再現信号(ここでは測定値と示す)を実線で表し、理想的な信号を点線で示している。このように、例えば信号発生器1からの出力に歪みがあるため、
図8に示すような信号の乖離が生じていることが分かる。
【0031】
[実施の形態3]
第2の実施の形態では、校正部3にて、再現信号と理想的な信号とを生成して出力することで、ジョセフソン素子列2a及び2bの出力端子間の電圧Voutの状態を校正することが出来るが、再現信号と理想的な信号との差に応じて、当該差が無くなるように信号発生器1を制御するようにしても良い。例えば、本実施の形態では、
図9に示すような構成を採用する。
【0032】
図9で示した装置では、演算部33の代わりに、演算部33の機能と制御部331とを有する演算部33bを採用している。制御部331は、再現信号の電圧Voutaと理想的な信号の電圧Voutbとの差であるΔV(=Vouta-Voutb)に応じた周波数Δf
controlを算出して、当該Δf
controlにて信号発生器1に、周波数f
A又は周波数f
Bを補正するように指示する。
【0033】
例えば、Voutb<Voutaである場合には、信号発生器1は、第1のチャネルChAのための周波数fAを下げるために、周波数Δf(t)よりΔfcontrolだけ低い周波数Δf’(t)で周波数変調するようにし、周波数fAよりΔfcontrolだけ低い周波数の信号を生成する。Voutb>Voutaである場合には、これの反対の処理を行えば良い。
【0034】
例えば、
図10(a)に示すように、実線で表される再現信号(図では測定値と表されている)と点線で表される理想的な信号とに差が生じると、
図10(b)に示すように、その差を解消するように自動的に補正が行われるようになる。よって、ジョセフソン素子列2a及び2bの出力端子間には、精度の良い交流電圧波形が生成されるようになる。
【0035】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものでは無い。例えば、ジョセフソン素子列以外の構成は一例であって、同様の機能を有する別の装置又は回路構成を採用しても良い。また、上で述べた変形例や実施の形態については、その目的に応じて、一部の技術要素を削除したり、それらを組み合わせたりすることもある。
【0036】
以上述べた実施の形態をまとめると以下のようになる。
【0037】
本実施の形態に係る交流電圧波形生成装置は、(A)第1の周波数と同一又は近似の第2の周波数の信号を、時間変化する第3の周波数且つある位相で変調した第1の信号が入力され、バイアス駆動される1又は複数段のジョセフソン素子を含む第1のジョセフソン素子列と、(B)第1の周波数の信号又は第1の周波数の信号を第3の周波数且つ上記ある位相とは逆位相で変調した信号である第2の信号が入力され、バイアス駆動される1又は複数段のジョセフソン素子を含む第2のジョセフソン素子列とを有する。そして、第1のジョセフソン素子列の出力電圧と第2のジョセフソン素子列の出力電圧との電圧差に対応し且つ上記時間変化に応じた第3の信号を出力するものである。
【0038】
このようにすれば、第3の周波数の時間変化に応じた交流電圧波形が精度良く生成されるようになる。なお、時間変化は、例えば正弦波であるが、これに限定されず、予め定められた曲線に沿って周波数が変化すればよい。交流電圧波形にオフセットを生じさせない場合には、例えば、第1の周波数と第2の周波数が同一とし、第3の周波数をゼロを中心として時間変化させれば、第1の信号の周波数は、第1の周波数を中心周波数として時間変化するものとなる。一方、オフセットを生じさせるのであれば、第1の周波数と第2の周波数とを異ならせるか、第3の周波数をゼロではない有限の周波数を中心として時間変化させたり、バイアス駆動されるジョセフソン素子の段数を異ならせるようにする。
【0039】
なお、上記交流電圧波形生成装置は、(C)第1の信号と第2の信号とから第3の信号を再現した第4の信号を生成し、第3の信号の理想的な信号を生成する校正部をさらに有ようにしても良い。出力電圧の状態を校正できるようになる。
【0040】
さらに、上記交流電圧波形生成装置は、(D)第4の信号と第3の信号とに基づき、第1の信号と第2の信号とのうち少なくともいずれかを補正するように、第1の信号及び第2の信号を生成する信号発生器を制御する制御部をさらに有するようにしても良い。出力電圧の歪みをフィードバックにより補正するものである。
【0041】
なお、上で述べた校正部は、(c1)第1の信号の周波数と第2の信号の周波数との差の周波数を有する第5の信号を生成するミキサ回路と、(c2)第5の信号における単位時間当たりのパルス数の時間変化を表す第6の信号を出力する手段(例えばパルス計数部)と、(c3)第6の信号に基づき第4の信号を生成する手段(例えば演算部)とを有するようにしても良い。
【0042】
また、第1のジョセフソン素子列においてバイアス駆動されるジョセフソン素子の段数と、第2のジョセフソン素子列においてバイアス駆動されるジョセフソン素子の段数とが同じである場合もある。素子自体の段数が同じ場合と、バイアス駆動される素子の段数が同じ場合がある。
【符号の説明】
【0043】
1 信号発生器 2a,2b ジョセフソン素子列
3 校正部 31 ミキサ回路 32 パルス計数部 33 演算部 331 制御部