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特開2024-35406装備装着支援装置、方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035406
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】装備装着支援装置、方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/08 20120101AFI20240307BHJP
【FI】
G06Q50/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139842
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】506055405
【氏名又は名称】学校法人帝京科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 寛
(72)【発明者】
【氏名】田中 和哉
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC07
(57)【要約】
【課題】装備品を装着して作業を行うユーザに対し装備に関する適切な支援を行う。
【解決手段】ユーザが作業に使用する装備品を表す装備品情報に基づいて上記装備品の複数の装着パターンを選択し、複数の装着パターンにより装備品を装着したときのユーザの重心動揺指標を取得すると共に、ユーザの総重量および重心高さを算出する。そして、倒立振り子モデルをもとに定義される重量と重心位置との関係を表す二次元平面上に、上記重心動揺指標を表す情報をもとにユーザの装着可能範囲を設定し、算出された上記ユーザの総重量および重心高さが上記二次元平面上において上記装着可能範囲に含まれるか否かを判定する。そして、上記複数の装着パターンの中から、ユーザの総重量および重心高さが上記二次元平面上の上記装着可能範囲に含まれ、かつ装着パターンに含まれる装備品の必要度が最大となる最適装着パターンを選択する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザが作業に使用する装備品の属性を表す装備品情報を取得する第1の処理部と、
前記ユーザの属性を表すユーザ情報を取得する第2の処理部と、
前記装備品情報に基づいて、前記装備品の種類とその装着位置との組合せが異なる複数の装着パターンを選択する第3の処理部と、
前記複数の装着パターンに従い前記装備品を装着したときの前記ユーザの重心動揺指標を表す情報を取得する第4の処理部と、
前記複数の装着パターンに従い前記装備品を装着したときの前記ユーザの総重量および重心高さを表す情報を算出する第5の処理部と、
倒立振り子モデルをもとに定義される重量と重心位置との関係を表す二次元平面上に、前記重心動揺指標を表す情報に基づいて前記ユーザの装着可能範囲を設定する第6の処理部と、
前記複数の装着パターンの各々について算出された前記ユーザの総重量および重心高さが、前記二次元平面上において前記装着可能範囲に含まれるか否かをそれぞれ判定する第7の判定処理部と、
前記複数の装着パターンの中から、前記ユーザの総重量および重心高さが前記二次元平面上の前記装着可能範囲に含まれ、かつ前記装着パターンに含まれる前記装備品の必要度が最大となる最適装着パターンを選択する第8の処理部と、
前記最適装着パターンに基づいて装着支援情報を生成し、生成した前記装着支援情報を前記ユーザに提示する第9の処理部と
を具備する装備装着支援装置。
【請求項2】
前記第5の処理部は、前記複数の装着パターンの各々について、前記装備品情報に含まれる前記装備品の重量と、前記ユーザ情報に含まれる前記ユーザの体重とをもとに前記総重量を算出し、かつ前記装備品情報に含まれる前記装備品の装着位置と、前記ユーザ情報に含まれる前記ユーザの重心位置とをもとに前記重心高さを算出する、請求項1に記載の装備装着支援装置。
【請求項3】
前記第8の処理部は、前記装備品情報に含まれる前記装備品の必要度スコアをもとに、前記装着パターンに含まれる前記装備品の必要度スコアの合計値を算出する、請求項1に記載の装備装着支援装置。
【請求項4】
前記第3の処理部は、前記装備品情報に含まれる前記装備品の必要度スコアをもとに、前記装着パターンごとに当該装着パターンに含まれる前記装備品の必要度スコアの合計値を算出し、算出した前記必要度スコアの合計値が予め設定した値より大きい装着パターンを選択する、請求項1に記載の装備装着支援装置。
【請求項5】
情報処理装置が実行する装備装着支援方法であって、
ユーザが作業に使用する装備品の属性を表す装備品情報を取得する過程と、
前記ユーザの属性を表すユーザ情報を取得する過程と、
前記装備品情報に基づいて、前記装備品の種類とその装着位置との組合せが異なる複数の装着パターンを選択する過程と、
前記複数の装着パターンに従い前記装備品を装着したときの前記ユーザの重心動揺指標を表す情報を取得する過程と、
前記複数の装着パターンに従い前記装備品を装着したときの前記ユーザの総重量および重心高さを表す情報を算出する過程と、
倒立振り子モデルをもとに定義される重量と重心位置との関係を表す二次元平面上に、前記重心動揺指標を表す情報に基づいて前記ユーザの装着可能範囲を設定する過程と、
前記複数の装着パターンの各々について算出された前記ユーザの総重量および重心高さが、前記二次元平面上において前記装着可能範囲に含まれるか否かをそれぞれ判定する過程と、
前記複数の装着パターンの中から、前記ユーザの総重量および重心高さが前記二次元平面上の前記装着可能範囲に含まれ、かつ前記装着パターンに含まれる前記装備品の必要度が最大となる最適装着パターンを選択する過程と、
前記最適装着パターンに基づいて装着支援情報を生成し、生成した前記装着支援情報を前記ユーザに提示する過程と
を具備する装備装着支援方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載の装備装着支援装置が具備する第1の処理部乃至第9の処理部のうちの少なくとも1つの処理部による処理を、前記装備装着支援装置が備えるプロセッサに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の一態様は、例えば工事作業者の装備品とその装着の仕方を支援する装備装着支援装置、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、工事作業者や登山者等のように主に野外で活動する人は、多種多様な装備品を装着した状態で作業や歩行を行うことが多い。人がどのような装備品をどのように装着するかは、本人または指導者等の経験に基づくノウハウに頼っているのが現状である。そこで、未経験または経験が不足している人でも、常に適切な装備品を適切に装着できるようにする技術の開発が検討されている。
【0003】
人にとって適切な装備とその装着の仕方を決めるには、人の歩行能力と重量に対するバランス能力を把握する必要がある。人の歩行能力を推定する手法としては、従来、歩行者の歩容を測定する手法が種々提案されている。例えば、特許文献1では、歩行者の歩行中の角速度を計測することで歩行者の股関節角度を判定して、その結果をもとに歩行者の歩行中の重心位置を判定したり、着地時の振動振幅を計測することで足関節角度を判定して、その結果をもとに転倒の危険度を算出する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6183906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来提案されている歩容推定手法は、高齢者や障害者を対象とする転倒予防やリハビリテーションを目的とするものが多く、また健常者を対象とする場合でも荷物を持たずに歩行者単体で歩行する場合を前提とするものが一般的である。このため、仮に従来の歩容推定手法を適用しても、人の歩行能力について推定できても、重量に対するバランス能力までは推定することができず、このため人に対し適切な装備品とその装着の仕方を支援することは困難である。
【0006】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、装備品を装着して作業または歩行を行うユーザに対して装備に関する適切な支援を行えるようにする技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためにこの発明に係る装備装着支援装置または支援方法の一態様は、ユーザが作業に使用する装備品の属性を表す装備品情報を取得すると共に、前記ユーザの属性を表すユーザ情報を取得し、前記装備品情報に基づいて前記装備品の種類とその装着位置との組合せが異なる複数の装着パターンを選択する。そして、先ず前記複数の装着パターンに従い前記装備品を装着したときの前記ユーザの重心動揺指標を表す情報を取得すると共に、そのときの前記ユーザの総重量および重心高さを表す情報を算出し、次に倒立振り子モデルをもとに定義される重量と重心位置との関係を表す二次元平面上に、前記重心動揺指標を表す情報に基づいて前記ユーザの装着可能範囲を設定し、前記複数の装着パターンの各々について算出された前記ユーザの総重量および重心高さが、前記二次元平面上において前記装着可能範囲に含まれるか否かをそれぞれ判定する。そして最後に、前記複数の装着パターンの中から、前記ユーザの総重量および重心高さが前記二次元平面上の前記装着可能範囲に含まれ、かつ前記装着パターンに含まれる前記装備品の必要度が最大となる最適装着パターンを選択し、選択した前記最適装着パターンに基づいて装着支援情報を生成し、生成した前記装着支援情報を前記ユーザに提示するようにしたものである。
【0008】
この発明の一態様によれば、装備品の種類と装着位置によるユーザの重量バランス能力の変化をもとに倒立振り子モデルを逆向きに推定することで、重量および装着位置が最適な装備品が選択され、かつ装備品の必要度をもとに作業に対する必要度合いが高い装備品が優先的に選択される。
【0009】
従って、ユーザは、作業を行う上で最適な装備品とその最適な装着の仕方を認識することが可能となる。この結果、ユーザは、例えば作業に必須な物品については重いものから可能な限り低く装着し、かつ作業に必須でない任意物品についてはユーザの重量バランス能力が許容する範囲で装着することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
すなわち、この発明の一態様によれば、装備品を装着して作業または歩行を行うユーザに対して装備に関する適切な支援を行えるようにする技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、この発明の一実施形態に係る装備装着支援装置を備えるシステムの全体構成の一例を示す図である。
図2図2は、この発明の一実施形態に係る装備装着支援装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図3図3は、この発明の一実施形態に係る装備装着支援装置のソフトウェア構成の一例を示すブロック図である。
図4図4は、図3に示した装備装着支援装置の制御部が実行する装備装着支援処理の処理手順と処理内容の一例を示すフローチャートである。
図5図5は、図3に示した装備装着支援装置に記憶される装備品情報の一例を示す図である。
図6図6は、図3に示した装備装着支援装置により得られる装着パターン別の判定結果の一例を示す図である。
図7図7は、図3に示した装備装着支援装置において装着可否の判定に使用するm-h平面図の一例を示す図である。
図8図8は、倒立振り子モデルの一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照してこの発明に係わる実施形態を説明する。
【0013】
[一実施形態]
(構成例)
(1)システム
図1は、この発明の一実施形態に係る装備装着支援装置を備えるシステムの全体構成の一例を示す図である。
【0014】
図1において、USはこのシステムが提供する支援サービスを受けようとするユーザであり、この例では工事作業者の場合を示している。なお、ユーザUSとしては、他に災害救助や救命救急等に携わる人、高所における工事や清掃作業等を行う人、ポッカや登山者等のように、多種多様な装備品を装着して何らかの活動を行う人であれば如何なる人であってもよい。
【0015】
図1において、TMはユーザ(この実施形態では以後作業者と云う)USまたはその管理者等が使用するユーザ端末を示している。ユーザ端末TMは、例えばパーソナルコンピュータからなり、装備装着支援装置SVとの間でネットワークNWを介して情報データの送受信が可能となっている。
【0016】
ユーザ端末TMは、管理者または作業者自身が装備品および作業者に関する情報等を入力して装備装着支援装置SVへ送信したり、装備装着支援装置SVから送信される装着支援情報を作業者USに提示するために使用される。
【0017】
またユーザ端末TMは、作業者USが装備品を試し装着したときの重心動揺指標の計測データを送信する場合にも使用される。なお、ユーザ端末TMとしては、パーソナルコンピュータ以外に、例えばスマートフォンやタブレット型端末、ウェアラブル端末等のその他の携帯端末が用いられてもよい。
【0018】
ネットワークNWは、例えばインターネットを中核とする広域ネットワークと、この広域ネットワークにアクセスするためのアクセスネットワークとを備える。アクセスネットワークとしては、例えば、有線または無線を使用する公衆データ通信ネットワーク、有線または無線を使用するLAN(Local Area Network)、CATV(Cable Television)ネットワークが使用される。また、ネットワークNWには、地上波または衛星波を使用する放送用の伝送媒体が含まれていてもよい。
【0019】
(2)装備装着支援装置SV
図2はこの発明の一実施形態に係る装備装着支援装置SVのハードウェア構成の一例を示すブロック図、図3は上記装備装着支援装置SVのソフトウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0020】
装備装着支援装置SVは、例えばサーバコンピュータまたはパーソナルコンピュータ等の情報処理装置からなり、例えば現場の工事事務所または建設会社等の管理センタ内に配置される。なお、装備装着支援装置SVの機能を、Webまたはクラウド上に配置されたサーバコンピュータに設けるようにしてもよい。
【0021】
装備装着支援装置SVは、中央処理ユニット(Central Processing Unit:CPU)等のハードウェアプロセッサを使用した制御部1を備え、この制御部1に対し、バス5を介して、プログラム記憶部2およびデータ記憶部3を有する記憶ユニットと、通信インタフェース(以後インタフェースをI/Fと略称する)部4を接続したものとなっている。
【0022】
通信I/F部4は、ネットワークNWにより定義される通信プロトコルに従いユーザ端末TMとの間でデータ通信を行う。
【0023】
プログラム記憶部2は、例えば、記憶媒体としてSSD(Solid State Drive)等の随時書込みおよび読出しが可能な不揮発性メモリと、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリとを組み合わせて構成したもので、OS(Operating System)等のミドルウェアに加えて、一実施形態に係る各種制御処理を実行するために必要なアプリケーション・プログラムを格納する。なお、以後OSと各アプリケーション・プログラムとをまとめてプログラムと称する。
【0024】
データ記憶部3は、例えば、SSD等の随時書込みおよび読出しが可能な不揮発性メモリと、RAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリと組み合わせたもので、その記憶領域には、装備品情報記憶部31と、作業者情報記憶部32と、判定結果記憶部33が設けられる。
【0025】
装備品情報記憶部31は、ユーザ端末TMから入力された装備品の属性情報を記憶するために使用される。作業者情報記憶部32は、ユーザ端末TMから入力された作業者の属性情報を記憶するために使用される。判定結果記憶部33は、制御部1により得られる装着パターンごとの装着可否判定結果を保存するために使用される。
【0026】
制御部1は、一実施形態を実施するために必要な処理機能として、装備品情報取得処理部11と、作業者情報取得処理部12と、重心動揺指標計測制御部13と、装着重量・重心高算出処理部14と、しきい値設定処理部15と、装着可否判定処理部16と、最適装着パターン判定処理部17と、装着支援情報送信処理部18とを備える。これらの処理部11~18は、何れもプログラム記憶部2に格納されたアプリケーション・プログラムを制御部1のハードウェアプロセッサに実行させることにより実現される。
【0027】
なお、上記各処理部11~18の一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0028】
装備品情報取得処理部11は、支援サービスを受けようとする作業者USが装着する可能性がある装備品に関する属性情報を、ユーザ端末USからネットワークNWを介して受信し、受信した上記装備品に関する属性情報を装備品情報記憶部31に装備品リストとして記憶する。装備品に関する属性情報には、例えば、装備品名と、装着可能位置と、重量と、作業に対する必要度合いを表す必要度スコアが含まれる。
【0029】
作業者情報取得処理部12は、支援サービスを受けようとする作業者USに関する属性情報を、ユーザ端末USからネットワークNWを介して受信し、受信した上記作業者に関する属性情報を作業者情報記憶部32に記憶する。作業者に関する属性情報には、例えば作業者の識別情報と、体重と、重心位置(垂直方向の高さ)が含まれる。
【0030】
重心動揺指標計測制御部13は、装備品情報記憶部31に記憶された装備品情報に基づいて各装備品とその装着位置の組合せを表す装着パターンを順次選択し、選択した装着パターンをユーザ端末TMへ送信することにより、作業者USに上記装着パターンに従い装備品を試し装着させる。また重心動揺指標計測制御部13は、上記装着パターンごとに、作業者USが当該装着パターンに従い装備品を試し装着したときの作業者USの重心動揺指標の計測データを取得する。
【0031】
装着重量・重心高算出処理部14は、上記重心動揺指標計測制御部13により選択された装着パターンに含まれる各装備品の重量と装着高さを表す情報を装備品情報記憶部31から読み込む。また装着重量・重心高算出処理部14は、上記作業者情報記憶部32から作業者USの体重および重心位置を表す情報を読み込む。そして装着重量・重心高算出処理部14は、読み込んだ上記各情報をもとに、上記装備品を試し装着した状態における作業者USの総重量と重心高さをそれぞれ算出する。
【0032】
しきい値設定処理部15は、上記重心動揺指標計測制御部13により取得された重心動揺指標を、倒立振り子モデルに基づいて定義される重量mと重心位置hとの関係を表すm-h平面上にプロットすることにより、m-h平面上に装着可能範囲を表すしきい値を設定する。
【0033】
装着可否判定処理部16は、上記装着重量・重心高算出処理部14により算出された作業者USの総重量と重心高さを上記m-h平面上にプロットし、プロットした上記作業者USの総重量と重心高さが、m-h平面上に設定された上記装着可能範囲を表すしきい値の範囲内に含まれるか否か、つまり装着可否を判定する。
【0034】
最適装着パターン判定処理部17は、判定結果記憶部33から各装着パターンについて得られた装着可否の判定結果を読み込む。そして、最適装着パターン判定処理部17は、すべての装着パターンの中から、作業者USの総重量と重心高さのプロット点がm-h平面上の装着可能範囲に含まれ、かつ装備品の必要度スコアの合計値が最大となる装着パターンを、最適装着パターンとして選択する。上記必要度スコアの合計値は、装備品情報記憶部31に記憶された各装備品の必要度スコアをもとに算出される。
【0035】
装着支援情報送信処理部18は、上記最適装着パターン判定処理部17により選択された最適装着パターンに従い装備品の装着を支援するための装着支援情報を生成し、生成した上記装着支援情報を通信I/F部4からユーザ端末TMへ送信する。
【0036】
(動作例)
次に、以上のように構成された装備装着支援装置SVの動作例を説明する。
【0037】
図4は、装備装着支援装置SVの制御部1が実行する装備装着支援処理の処理手順と処理内容を示すフローチャートである。
【0038】
(1)装備品情報および作業者情報の登録
装備装着支援サービスを受けようとする場合、作業者USまたは管理者は、ユーザ端末TMを用いて装備装着支援装置SVに対し先ず装備品登録要求を送信し、続いて装備品の属性情報を送信する。
【0039】
これに対し、装備装着支援装置SVの制御部1は、ステップS10により上記装備品登録要求を重心すると、装備品情報取得処理部11の制御の下、ステップS11において上記装備品の属性情報を通信I/F部4を介して受信し、受信した上記装備品の属性情報を装備品リストとして装備品情報記憶部31に記憶する。
【0040】
図5は、装備品情報記憶部31に記憶される装備品リストの一例を示すものである。同図に示すように、装備品リストとしては、例えば装備品ごとに、その名称と、装着可能位置(高さ)と、重量と、必要度スコアが登録される。
【0041】
次に、作業者USまたは管理者は、ユーザ端末TMを用いて装備装着支援装置SVに対し作業者情報の登録要求を送信し、続いて作業者USの属性情報を送信する。これに対し、装備装着支援装置SVの制御部1は、ステップS12により上記作業者情報の登録要求を受信すると、作業者情報取得処理部12の制御の下、ステップS13において上記作業者の属性情報を通信I/F部4を介して受信し、受信した上記作業者の属性情報を、作業者情報として作業者情報記憶部32に記憶する。作業者情報としては、作業者USの体重と重心位置(垂直方向の高さ)が登録される。
【0042】
(2)重心動揺指標の計測および装着重量・重心高さの算出
上記装備品リストおよび作業者情報の登録が終了すると、装備装着支援装置SVの制御部1は、次に重心動揺指標計測制御部13の制御の下、作業者USについて装着パターンごとの重心動揺指標を計測するための制御を以下のように実行する。
【0043】
すなわち、重心動揺指標計測制御部13は、先ずステップS14において、装備品情報記憶部31に記憶されている装備品リストをもとに、複数の装備品とその装着位置との組合せを表す装着パターンを1つ選択する。そして、ステップS15において、選択した上記装着パターンの指示情報を通信I/F部4からユーザ端末TMへ送信し、これにより作業者USに上記装着パターンに従い装備品を試し装着させる。
【0044】
作業者USまたは管理者は、上記装備品が試し装着された状態で重心動揺指標を計測する。そして、得られた重心動揺指標の計測データをユーザ端末TMに入力して、装備装着支援装置SVに向け送信する。これに対し重心動揺指標計測制御部13は、ステップS16において、上記ユーザ端末TMから送信された重心動揺指標の計測データを通信I/F部4を介して受信する。
【0045】
重心動揺指標は、例えば重心動揺検査の検査項目である、重心動揺面積、総軌跡長、単位面積軌跡長をもとに求めることができる。重心動揺指標の計測手法については、例えば以下の文献に詳しく述べられている。
【0046】
参考文献;「重心動揺検査のQ&A,手引き」、日本平衡神経科学会運営委員会、Equilibrium Res Vol. 55(1) 64-77, 1996、インターネット<URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jser1971/55/1/55_1_64/_pdf/-char/ja>
【0047】
なお、重心動揺指標の計測処理は、外部で行わずに装備装着支援装置SV内で行うことも可能である。
【0048】
装備装着支援装置SVの制御部1は、続いて装着重量・重心高算出処理部14の制御の下、ステップS17において、選択された上記装着パターンに含まれる各装備品の重量と装着高さを表す情報を装備品情報記憶部31から読み込む。またそれと共に、上記作業者情報記憶部32から作業者USの体重および重心位置を表す情報を読み込む。そして、装着重量・重心高算出処理部14は、読み込んだ上記各情報をもとに、上記装備品を試し装着した状態における作業者USの総重量Mと重心高さhをそれぞれ算出する。
【0049】
すなわち、装着重量・重心高算出処理部14は、作業者の体重をm0 、装備品kの重量をmk 、作業者本人の重心位置をh0 、装備品kの重心位置をhk とすると、総重量Mを、例えば
M=m0 +Σmk (1)
により算出する。
【0050】
また装着重量・重心高算出処理部14は、重心高さhを、例えば
h=(m00 +Σmkk )/(m0 +Σmk ) (2)
により算出する。
【0051】
(3)装着可否の判定
上記装着パターンにおける重心動揺指標の計測データの取得と、総重量Mおよび重心高さhの算出処理が終了すると、装備装着支援装置SVの制御部1は、続いて装着可否判定処理部16の制御の下、以下のように装着の可否を判定する。
【0052】
すなわち、装着可否判定処理部16は、先ずステップS18において、計測された上記重心動揺指標を、倒立振り子モデルに基づいて定義される重量mと重心位置hとの関係を表すm-h平面上にプロットする。そして、m-h平面上に装着可能範囲を表すしきい値を設定する。
【0053】
ここで、倒立振り子モデルとは、人の静止立位における重心動揺を表すもので、例えば図8に示すように重量M、重心高さh、足関節トルクTによるフィードバック制御系として表すことができる。
【0054】
一例として、作業者USが装備品kを装着することを考える。作業者USの作業中の落下事故等を防止するため、作業者USの装備品は作業者USの身体にホルダ等で固定することが一般的であるから、装備品kと作業者本人との位置関係は固定されていると仮定することができる。この場合、装備品kを装着した際の重量Mおよび重心高さhは、先に述べた(1) 式および(2) 式により表すことができる。
【0055】
同一の作業者の場合、足関節トルクTについて共通であると見なすことができるから、重心動揺指標は例えば重心動揺面積として表すことができ、重心動揺面積は重量Mと重心位置hとの関数で表すことができる。ここで、重量Mと重心位置hはいずれも単調増加であることが知られている。このため、目標とする重心動揺面積を満たすM,hの範囲をM-h平面上に「装着可能範囲」として示すことができる。図7はその一例を示すもので、Eが「装着可能範囲」である。
【0056】
装着可否判定処理部16は、続いてステップS19において、上記装着重量・重心高算出処理部14により算出された作業者USの総重量Mおよび重心高さhを、上記m-h平面上にプロットする。そして、作業者USの総重量Mおよび重心高さhのプロット点が、m-h平面上に設定された上記装着可能範囲Eに含まれるか否か、つまり装着が可能か否かを判定する。
【0057】
装着可否判定処理部16は、例えば、作業者USの総重量Mおよび重心高さhのプロット点が、図7に示す装着可能範囲E内に含まれている場合には、重心バランスが良く「装着可能」と判定する。これに対し、作業者USの総重量Mおよび重心高さhのプロット点が装着可能範囲E外であれば、重心バランスが悪く「装着不可」と判定する。
【0058】
装着可否判定処理部16は、上記装着可否の判定結果を、先にステップS14において選択された装着パターンの識別情報と対応付けて判定結果記憶部33に保存する。
【0059】
また、それと共に装着可否判定処理部16は、上記装着パターンに含まれる各装備品の必要度スコアの合計値を、装備品情報記憶部31に記憶された装備品リストに基づいて算出し、算出した上記必要度スコアの合計値を装着パターンの識別情報と対応付けて判定結果記憶部33に保存する。
【0060】
図6は、選択した装着パターンP1における装着可否の判定結果を、総重量M、重心高さhおよび必要度スコア合計値の各算出結果と共に示したものである。
【0061】
以上のように、選択した1つの装着パターンP1についての装着可否判定が終了すると、装備装着支援装置SVの制御部1は、ステップS20において、すべての装着パターンに対する装着可否の判定処理が終了したか否かを判定する。そして、未選択の装着パターンが残っていれば、ステップS14に戻って次の装着パターン、例えばパターンP2を選択し、選択したこの装着パターンP2について、上記したステップS15~S20により、装着可否を判定するための一連の処理を再び実行する。
【0062】
以後同様に、装備装着支援装置SVの制御部1は、すべての装着パターンに対する装着可否の判定処理が終了するまで、上記ステップS15~S20による一連の処理を繰り返し実行する。
【0063】
(4)最適装着パターンの選択
装備装着支援装置SVの制御部1は、ステップS20において、すべての装着パターンに対する装着可否の判定処理が終了したと判定すると、最適装着パターン判定処理部17の制御の下、ステップS21において、最適な装着パターンを選択する処理を以下のように実行する。
【0064】
すなわち、最適装着パターン判定処理部17は、判定結果記憶部33から上記すべての装着パターンについて得られた装着可否の判定結果と、必要度スコアの合計値を読み込む。そして、すべての装着パターンの中から、装着可能と判定されかつ装備品の必要度スコアの合計値が最大となる装着パターンを、最適な装着パターンとして選択する。
【0065】
(5)装着支援情報の送信
装備装着支援装置SVの制御部1は、上記最適装着パターンが選択されると、装着支援情報送信処理部18の制御の下、ステップS22において、選択された上記最適装着パターンをもとに、装着対象の装備品のリストとその装着の仕方を表す装着支援情報を生成する。
【0066】
なお、不慣れな作業者でもスムーズに装着できるようにするため、装着支援情報には、例えば装備品の種類とその装着位置に加え、装着順序を案内する情報を含めるようにしてもよく、またその情報の形態としてはテキストデータに代えて或いは加えて、静止画像または動画像を用いるようにしてもよい。
【0067】
装着支援情報送信処理部18は、生成した上記装着支援情報を通信I/F部4から要求元の作業者USが使用するユーザ端末TMに向け送信する。なお、上記装着支援情報を作業者USの識別情報に対応付けてデータ記憶部3の判定結果記憶部33に保存しておき、同一作業者から支援要求が再送信された場合には、保存した上記装着支援情報を読み出して再送するようにしてもよい。
【0068】
作業者USは、装備装着支援装置SVから送られた上記装着支援情報に従い、指定された装備品を身体の指定された重心高さに装着する。
【0069】
(作用・効果)
以上述べたように一実施形態では、装備品リストに基づいて装着パターンを順次選択し、選択した各装着パターンについて、作業者USが装備品を試し装着したときの重心動揺指標の計測データを取得すると共に総重量Mおよび重心高さhを算出する。そして、計測された上記重心動揺指標を、倒立振り子モデルに基づいて定義されるm-h平面にプロットすることにより、m-h平面に装着可能範囲Eを示すしきい値を設定すると共に、算出された上記総重量Mおよび重心高さhを上記m-h平面上にプロットし、プロット点が上記装着可能範囲Eを示すしきい値の範囲内に含まれるか否かを判定する。以上の処理をすべての装着パターンについて繰り返し実行し、その判定結果をもとに、上記すべての装着パターンの中から、作業者USの総重量Mと重心高さhのプロット点がm-h平面上の装着可能範囲E内に含まれかつ装備品の必要度スコアの合計値が最大となる装着パターンを最適装着パターンとして選択し、選択した上記最適装着パターンに基づいて装着支援情報を生成して作業者USに提示するようにしている。
【0070】
すなわち、一実施形態では、装備品の種類と装着位置による作業者USの重量バランス能力の変化をもとに、倒立振り子モデルを逆向きに推定することで、重量および装着位置が最適な装備品を選択し、かつ必要度スコアをもとに作業に対する必要度合いが高い装備品を優先的に選択するようにしている。
【0071】
従って、作業者USは、作業を行う上で最適な装備品とその最適な装着の仕方を認識することが可能となる。この結果、作業者USは、例えば、作業に必須な物品については重いものから可能な限り低く装着し、かつ作業に必須でない任意物品については作業者USの重量バランス能力が許容する範囲で装着することが可能となる。
【0072】
[その他の実施形態]
(1)一実施形態では、装備品のリストをもとにすべての装着パターンを選択してその装着の可否を判定するようにした。しかし、装備品の必要度スコアの合計値が予め設定したしきい値未満となる装着パターンを、選択対象から事前に除外するようにしてもよい。このようにすると、装着パターンの選択数が制限され、作業者の負担を軽減することができる。また、装備装着支援装置SVの制御部の処理負荷を軽減することができる。
【0073】
(2)登録処理された装備品情報を装備品リスト識別情報と紐付けて装備品情報記憶部31に記憶し続けるようにしてもよい。このようにすると、作業者または管理者は、以後上記装備品リスト識別情報を入力するだけで装備品情報を指定することができるようになり、これにより装備品情報の再登録処理を不要にすることができる。
【0074】
(3)最適装着パターンの判定結果を、装備品リストの識別情報および作業者の識別情報に対応付けてデータ記憶部3に保存しておくようにしてもよい。このようにすると、作業者が同一の装備品に対する2回目以降の装着支援を要求する場合には、装備品リストの識別情報および作業者の識別情報を入力するだけで、作業者は上記各識別情報に対応する最適装着パターンに対応する装着支援情報を取得することが可能となる。このようにすると、作業者はその都度装備品を試し装着する必要がなくなり、負担は大幅に軽減される。また装備装着支援装置SVは、その都度装着可否の判定処理を行う必要がなくなり、これにより制御部1の処理負荷を軽減することが可能となる。
【0075】
(4)その他、装備装着支援装置の種類や設置場所、装備装着支援装置が備える処理機能、装着支援処理の処理手順および処理内容、装備品の種類、装着パターンにおける装備品と装着可能位置との組合せの選択方法等についても、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。
【0076】
以上、この発明の実施形態を詳細に説明してきたが、前述までの説明はあらゆる点においてこの発明の例示に過ぎない。この発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、この発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
【0077】
要するにこの発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1…制御部
2…プログラム記憶部
3…データ記憶部
4…通信I/F部
5…バス
11…装備品情報取得処理部
12…作業者情報取得処理部
13…重心動揺指標計測制御部
14…装着重量・重心高算出処理部
15…しきい値設定処理部
16…装着可否判定処理部
17…最適装着パターン判定処理部
18…装着支援情報送信処理部
31…装備品情報記憶部
32…作業者情報記憶部
33…判定結果記憶部
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