(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035424
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】繊維束の欠陥検査方法及び繊維束の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/892 20060101AFI20240307BHJP
D06H 3/08 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
G01N21/892 C
D06H3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139866
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健太
(72)【発明者】
【氏名】森永 雅人
(72)【発明者】
【氏名】富田 晋
(72)【発明者】
【氏名】津田 崇暁
【テーマコード(参考)】
2G051
3B154
【Fターム(参考)】
2G051AA44
2G051AB02
2G051CA03
2G051CA04
2G051CB01
2G051DA06
2G051EA16
3B154AA09
3B154AB03
3B154BA53
3B154BB18
3B154BB47
3B154CA13
3B154DA24
(57)【要約】
【課題】繊維束を製造する工程中に生じる欠陥をいち早く検出できる検査方法の提供。
【解決手段】並列して走行する複数の繊維束の欠陥の検査方法であって、(A)前記複数の繊維束の走行経路の予め割り当てられた領域に測定光を照射する工程と、(B)前記測定光の前記複数の繊維束からの反射光を受光可能な位置に配置された撮像手段により前記領域を撮像する工程と、(C)前記(B)の工程で得られた画像データを処理し、欠陥のデータを得る工程とを有し、前記(C)の工程が、(a)前記(B)の工程で得られた画像データから、繊維束部分と欠陥部分との明暗差に基づき、欠陥を検出する処理と、(b)検出された前記欠陥を、予め設定した1以上の形状特徴に応じた閾値により分類する処理と、(c)検出された前記欠陥の座標を、前記領域における座標と紐づけ、前記欠陥が生じた繊維束を特定する処理と、を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列して走行する複数の繊維束の欠陥の検査方法であって、
(A)前記複数の繊維束の走行経路の予め割り当てられた領域に、測定光を照射する工程と、
(B)前記測定光の照射下で、前記測定光の前記複数の繊維束からの反射光を受光可能な位置に配置された撮像手段により、前記領域を撮像する工程と、
(C)前記(B)の工程で得られた画像データを処理し、欠陥のデータを得る工程と、を有し、
前記(C)の工程が、
(a)前記(B)の工程で得られた画像データから、繊維束部分と欠陥部分との明暗差に基づき、欠陥を検出する処理と、
(b)検出された前記欠陥を、予め設定した1以上の形状特徴に応じた閾値により分類する処理と、
(c)検出された前記欠陥の座標を、前記領域における座標と紐づけ、前記欠陥が生じた繊維束を特定する処理と、を含む、繊維束の欠陥検査方法。
【請求項2】
(D)前記(C)の工程で得られた前記欠陥のデータを記録する工程をさらに有する、請求項1に記載の繊維束の欠陥検査方法。
【請求項3】
前記1以上の形状特徴に応じた閾値が、繊維束の一部の単繊維が切れた又はばらけた形状特徴に応じた閾値を含む、請求項1に記載の繊維束の欠陥検査方法。
【請求項4】
前記1以上の形状特徴に応じた閾値が、繊維束の一部の単繊維が切れて塊となった形状特徴に応じた閾値を含む、請求項1に記載の繊維束の欠陥検査方法。
【請求項5】
前記1以上の形状特徴に応じた閾値が、繊維束の一部の単繊維が切れた15mm以上の長さを有する形状特徴に応じた閾値を含む、請求項1に記載の繊維束の欠陥検査方法。
【請求項6】
前記複数の繊維束それぞれを構成する単繊維の本数が1000~100000本である、請求項1に記載の繊維束の欠陥検査方法。
【請求項7】
前記複数の繊維束の数が10~1000である、請求項1に記載の繊維束の欠陥検査方法。
【請求項8】
複数の繊維束を製造する工程と、
前記複数の繊維束を並列して走行させ、請求項1~7のいずれか一項に記載の繊維束の欠陥検査方法により欠陥を検査する工程と、を有する、繊維束の製造方法。
【請求項9】
前記検査する工程で欠陥が検出された際に、検出された欠陥のデータに応じて、前記製造する工程の条件を変更する、請求項8に記載の繊維束の製造方法。
【請求項10】
前記検査する工程で欠陥が検出された際に、アラームを発する、請求項8に記載の繊維束の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維束の欠陥検査方法及び繊維束の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成繊維は、衣料資材や産業資材に広く使用されている。例えば衣料資材にナイロン繊維やポリエステル繊維が用いられ、高強度のベルトやタイヤコードにアラミド繊維が用いられ、炭素繊維のプレカーサーにポリアクリロニトリル繊維が用いられている。また、このプレカーサーを焼成して得られた炭素繊維は、高機能繊維としてスポーツ、自動車、船舶、土木建築等、様々な分野で用いられている。
これらの繊維は、高い性能が求められる一方で、ユーザーからの需要に応えるべくコストダウンが求められる。コストダウンのために、生産設備の大型化や生産スピードの向上、単位生産機あたりの総繊維数の増加が図られている。
【0003】
しかし、生産設備の大型化や生産スピードの向上は、繊維束の均一処理を一層難しくし、繊維束の軽微な欠陥が重大な問題となる。例えば、プレカーサー製造工程の途中で、単繊維切れ等による毛羽や毛玉、異物付着、厚み斑等の欠陥が生じる場合がある。このような欠陥があると、その繊維を焼成して炭素繊維を製造する際に、ロールに巻き付く等により工程通過性が悪化する場合や、焼成時の異常切断につながる場合がある。また、得られた炭素繊維を用いてプリプレグを製造する際に、開繊性が低下して工程通過性が悪化する場合や、プリプレグに隙間ができてしまい外観品位が低下する場合がある。そのため、繊維束の欠陥は管理すべき重要な項目となっている。
【0004】
特許文献1には、繊維束の幅を超えた範囲に測定光を照射し、その反射光を受光し、反射光に光強度から欠陥を検出する方法が提案されている。
【0005】
特許文献2には、繊維束に照明をあて、カメラにより背景と共に繊維束を撮像し、得られた画像に2値化、細線化等の処理を行うことにより繊維束の欠陥を検出する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-203251号公報
【特許文献2】特開2011-053173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の方法では、繊維束の広い範囲にわたるような異物付着や単繊維の毛羽が絡み合って成長したような大きな欠陥は検出できるが、単繊維の毛羽のような小さな欠陥は検出が困難である。
特許文献2に記載の方法では、カメラから見て繊維束から飛び出したような毛羽や毛玉等は検出できるが、繊維束の幅に収まるような欠陥は検出が困難である。
【0008】
本発明の目的は、繊維束の製造工程中に生じる欠陥をいち早く検出できる欠陥検査方法、及びこの方法を用いた繊維束の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の態様を有する。
[1]並列して走行する複数の繊維束の欠陥の検査方法であって、
(A)前記複数の繊維束の走行経路の予め割り当てられた領域に、測定光を照射する工程と、
(B)前記測定光の照射下で、前記測定光の前記複数の繊維束からの反射光を受光可能な位置に配置された撮像手段により、前記領域を撮像する工程と、
(C)前記(B)の工程で得られた画像データを処理し、欠陥のデータを得る工程と、を有し、
前記(C)の工程が、
(a)前記(B)の工程で得られた画像データから、繊維束部分と欠陥部分との明暗差に基づき、欠陥を検出する処理と、
(b)検出された前記欠陥を、予め設定した1以上の形状特徴に応じた閾値により分類する処理と、
(c)検出された前記欠陥の座標を、前記領域における座標と紐づけ、前記欠陥が生じた繊維束を特定する処理と、を含む、繊維束の欠陥検査方法。
[2](D)前記(C)の工程で得られた前記欠陥のデータを記録する工程をさらに有する、[1]に記載の繊維束の欠陥検査方法。
[3]前記1以上の形状特徴に応じた閾値が、繊維束の一部の単繊維が切れた又はばらけた形状特徴に応じた閾値を含む、[1]又は[2]に記載の繊維束の欠陥検査方法。
[4]前記1以上の形状特徴に応じた閾値が、繊維束の一部の単繊維が切れて塊となった形状特徴に応じた閾値を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の繊維束の欠陥検査方法。
[5]前記1以上の形状特徴に応じた閾値が、繊維束の一部の単繊維が切れた15mm以上の長さを有する形状特徴に応じた閾値を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の繊維束の欠陥検査方法。
[6]前記複数の繊維束それぞれを構成する単繊維の本数が1000~100000本である、[1]~[5]のいずれかに記載の繊維束の欠陥検査方法。
[7]前記複数の繊維束の数が10~1000である、[1]~[6]のいずれかに記載の繊維束の欠陥検査方法。
[8]複数の繊維束を製造する工程と、
前記複数の繊維束を並列して走行させ、[1]~[7]のいずれかに記載の繊維束の欠陥検査方法により欠陥を検査する工程と、を有する、繊維束の製造方法。
[9]前記検査する工程で欠陥が検出された際に、検出された欠陥のデータに応じて、前記製造する工程の条件を変更する、[8]に記載の繊維束の製造方法。
[10]前記検査する工程で欠陥が検出された際に、アラームを発する、[8]又は[9]に記載の繊維束の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、繊維束の製造工程中に生じる欠陥をいち早く検出できる欠陥検査方法、及びこの方法を用いた繊維束の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明で検出対象とする繊維束の欠陥の一例を示す模式図である。
【
図2】本発明で検出対象とする繊維束の欠陥の一例を示す模式図である。
【
図3】本発明で検出対象とする繊維束の欠陥の一例を示す模式図である。
【
図4】欠陥検査装置の一例を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の繊維束の欠陥検査方法は、並列して走行する複数の繊維束について欠陥の検査を行う方法である。
以下、本発明について、実施形態を示して詳細に説明する。
【0013】
(繊維束)
繊維束は、複数の単繊維から構成される。
単繊維の種類は特に限定されないが、好ましい例として、ポリアクリル繊維、ポリエステル繊維、ナイロン系繊維、アラミド繊維、アリレート繊維等の合成繊維、炭素繊維等が挙げられる。
【0014】
1つの繊維束を構成する単繊維の本数は、1000~100000本であることが好ましい。単繊維の本数が1000本以上であれば、生産性を良くすることができ、100000本以下であれば、欠陥を十分に検出することができる。
これらの観点から、繊維束を構成する単繊維の本数は、3000~80000本であることがより好ましく、5000~70000本であることがさらに好ましい。
【0015】
並列して走行する繊維束の数は、10~1000であることが好ましい。繊維束の数が10以上であれば、欠陥を効率よく検出することができ、1000以下であれば、欠陥を十分に検出することができる。
これらの観点から、繊維束の数は、15~800であることがより好ましく、30~500であることがさらに好ましい。
【0016】
繊維束が走行経路の所定の位置を走行することにより、欠陥が生じた繊維束を特定しやすくなる。そこで、走行する複数の繊維束にはそれぞれ、0.01cN/dtex以上の張力を付与することが好ましい。0.01cN/dtex以上の張力を付与することにより、繊維束が蛇行することや数本の単繊維が繊維束から外れることを防止できる。
前記張力は、0.05cN/dtex以上であることがより好ましい。
前記張力の上限は、繊維束が破断しない範囲であればよい。
【0017】
(欠陥)
検出対象である欠陥は、典型的には、繊維束を構成する単繊維に由来する。
従来は、小さな欠陥や、大きくても1本の繊維束の幅に収まるような欠陥は検出が困難であった。本発明によれば、これらの欠陥も検出可能である。そのため、本発明は、これらの欠陥の検出に好適である。
上記のような欠陥の具体例としては、
図1に示すような、繊維束1の一部の単繊維が切れた又はばらけた欠陥11、
図2に示すような、繊維束1の一部の単繊維が切れて塊となった欠陥12、
図3に示すような、繊維束の一部の単繊維が切れた15mm以上の長さを有する欠陥13が挙げられる。
欠陥11のサイズは、主軸長の長さに換算して、例えば1mm以上15mm未満である。欠陥12のサイズは、面積に換算して、例えば1mm
2以上である。
【0018】
(欠陥検査装置)
図4は、本発明の欠陥検査方法に用いられる欠陥検査装置の一例を示す概略側面図である。
この例の繊維束の欠陥検査装置は、
所定の領域(以下、領域Xともいう。)に、測定光L1を照射する照明手段2と、
測定光L1の複数の繊維束1からの反射光L2を受光可能な位置に配置され、領域Xを撮像する撮像手段3と、
撮像手段3で得られた画像データを処理し、欠陥のデータを得るデータ処理手段4と、
データ処理手段4で得られた欠陥のデータを記録する記録手段5と、を有する。
複数の繊維束1は、複数の搬送ロール6により、並列して走行するようになっている。
【0019】
<領域X>
領域Xは、欠陥を検出するために、並列して走行する複数の繊維束1の走行経路に予め割り当てられた領域である。領域Xを割り当てる場所は、カメラの幅方向分解能と必要解像度等を考慮して適宜選定できる。
領域Xの幅、つまり幅方向における領域Xの長さは、領域Xを走行する全ての繊維束1が領域Xに含まれればよい。
【0020】
<照明手段>
照明手段2は、領域Xを含む平面の一方面側に配置されている。撮像手段3も、照明手段2と同様に、領域Xを含む平面の一方面側に配置されている。
領域Xを含む平面とは、複数の繊維束1の走行方向(
図4中の矢印方向)と、複数の繊維束1の並列方向、つまり走行している複数の繊維束1の列を横切る方向(
図4中の奥行方向。以下、幅方向ともいう。)とを含む平面である。
【0021】
複数の繊維束1を含む平面と、測定光L1とがなす角度θ1は、10~90度であることが好ましく、20~65度であることがより好ましい。角度θ1が上記範囲内であれば、対象物が振動したり、対象物そのものの凹凸による写り方が変化したりする影響を受けにくい。
【0022】
照明手段2としては、繊維束1からの十分な反射光が得られるものであれば、照射する測定光の強度、波長ともに限定されない。照明手段2の設置場所、繊維束1の数、照明手段2から繊維束1への距離等により適宜選択することができる。
複数の繊維束1が並列して走行している領域Xで複数の繊維束1のそれぞれについて欠陥を同時に検査する場合には、幅方向において各繊維束1を均一に照明できるものが好ましい。繊維束の数が多い場合は、複数の照明手段2を用いることができる。
【0023】
照明手段2の具体例としては、高周波点灯の蛍光灯、メタルハライドランプ、LED照明、X線、赤外光、紫外光等が挙げられる。また、ハロゲン、LED等の光源からの光を光ファイバーで導いて照射してもよい。
複数の繊維束1が並列して走行している領域Xで複数の繊維束1それぞれ存在する欠陥を同時に検査する場合には、コスト及び保守性の観点から、幅方向に長い高周波蛍光灯やLED照明を用いることが好ましい。
【0024】
<撮像手段>
撮像手段3としては、領域Xからの反射光L2の輝度に関するデータを得ることができるものであればよく、例えば、CCD(Charge Coupled Device)等の、光を受光する受光素子(画素)が直線的又は2次元的に配置されたセンサカメラを採用することができる。特に、広い範囲にわたって多数並列して走行している繊維束のそれぞれについて欠陥を同時に検査する場合は、幅方向分解能に優れ、広範囲の検査が可能である点で、受光素子が直線的に配置されたラインセンサカメラが好ましい。
反射光L2は拡散反射光でもよく、正反射光でもよい。
【0025】
複数の繊維束1を含む平面と、複数の繊維束1の走行方向における領域Xの中心から撮像手段3に延びる平面とがなす角度θ2は、10~90度であることが好ましく、20~65度であることがより好ましい。角度θ2が上記範囲内であれば、対象物が振動したり、対象物そのものの凹凸による写り方が変化したりする影響を受けにくい。
【0026】
<データ処理手段>
データ処理手段4は、撮像手段3で得られた画像データを処理し、欠陥のデータを得る。データ処理手段4における処理については後で詳しく説明する。
データ処理手段4としては、CPU等が挙げられる。
【0027】
<記録手段>
記録手段5は、データ処理手段4で得られた欠陥のデータを記録する。
記録手段5は、さらに、撮像手段3で得られた画像データを記録してもよい。
記録手段5としては、HDD、NAS等が挙げられる。
【0028】
(欠陥検査方法)
図4の欠陥検査装置を用いた欠陥検査方法の一実施形態を説明する。
本実施形態の欠陥検査方法は、以下の(A)~(D)の工程を有する。
(A)照明手段2により、領域Xに測定光L1を照射する工程。
(B)測定光L1の照射下で、撮像手段3により、領域Xを撮像する工程。
(C)データ処理手段4により、(B)の工程で得られた画像データを処理し、欠陥のデータを得る工程。
(D)必要に応じて、(C)の工程で得られた欠陥のデータを記録する工程。
【0029】
<(B)の工程>
精度良く欠陥を検出するためには、検出したい欠陥サイズの5倍以上の分解能で領域Xを撮像することが好ましい。例えば、幅方向、長手方向とも1mmのサイズの欠陥を検出する場合、撮像分解能は、0.2mm以下が好ましく、0.1mm以下が好ましい。
一方、撮像分解能を細かくしすぎると、データ量が多くなり過ぎるため、データの処理速度が遅くなる。よって、撮影分解能は、0.01mm以上が好ましい。0.01mm以上であれば、データ処理速度が遅くなり過ぎず使用できる。
【0030】
繊維束1の走行方向における撮像分解能には、時間当たりの撮像回数が関係する。したがって、検出する欠陥のサイズ、繊維束1の走行速度等に合わせて、時間当たりの撮像回数を調節する。
例えば、検出したい欠陥の、繊維束1の走行方向におけるサイズが1mmであり、繊維束1の走行速度が300m/分(=5000mm/秒)である場合、時間あたりの撮像回数は、25000回/秒以上であることが好ましい。撮像回数が25000回/秒以上であれば、撮像分解能が0.2mm以下となり、上記サイズの欠陥を精度良く検出することが可能となる。
【0031】
工程(B)で得られる画像データは、データ処理手段4に導かれる。
画像データは、格子状に並んだ画素データの集まりである。画素データは、例えば256階調の濃淡データで表されるのが好ましいが、特に限定するものではない。
工程(B)で得られる画像データには少なくとも、繊維束1部分と背景部分とが存在する。繊維束1で照射光L1が反射される一方、背景部分では照射光L1が反射されないため、得られる画像データにおいて、繊維束1部分は背景部分よりも高輝度となる。また、繊維束1上に欠陥が存在すると、欠陥によって照射光L1が散乱されるため、得られる画像データにおいて、繊維束1部分と欠陥部分との間に輝度差(明暗差)が生じる。
【0032】
<(C)の工程>
(C)の工程においてデータ処理手段4は、以下の(a)~(c)の処理を実施する。
(a)(B)の工程で得られた画像データから、繊維束1部分と欠陥部分との明暗差に基づき、欠陥を検出する処理。
(b)(a)の処理で検出された欠陥を、予め設定した1以上の形状特徴に応じた閾値により分類する処理。
(c)(a)の処理で検出された欠陥の座標を、領域Xにおける座標と紐づけ、欠陥が生じた繊維束を特定する処理。
【0033】
[(a)の処理]
上述のとおり、繊維束1が欠陥を含む場合、画像データにおいて、欠陥部分と繊維束1部分との間で明暗差(輝度差)が生じるため、この明暗差に基づき、画像データから欠陥部分を抽出することができる。
(a)の処理では、具体的には、以下の第1のデータ処理手順、第2のデータ処理手順、第3のデータ処理手順、及び第4のデータ処理手順を実施する。但し、第3のデータ処理手順は省略することもできる。
【0034】
第1のデータ処理手順は、(B)の工程で得られた画像データ中の繊維束1部分と欠陥部分との明暗差から、抽出データを得るデータ処理手順である。
(B)の工程で得られた画像データには、繊維束1部分、繊維束1部分に含まれる欠陥部分、背景部分が含まれている。第1のデータ処理手順では、この画像データの中から、繊維束部分と欠陥部分との明暗差を鮮明化し、抽出部データを得る。
明暗差の鮮明化は、具体的には、コントラスト拡張により実施できる。
【0035】
第2のデータ処理手順は、第1のデータ処理手順により得られた抽出部データから、一定の画素数以下のデータを除去し、第1の残存部データを得るデータ処理手順である。
一定の画素数以下のデータを除去することで、ノイズ成分(埃や微細な毛羽等)を除去することができる。除去するデータの画素数の上限は、検出しようとする欠陥の大きさに応じて設定できる。
【0036】
第3のデータ処理手順は、第2のデータ処理手順により得られた第1の残存部データにぼかし処理を行い、第2の残存部データを得るデータ処理手順である。
ここで、ぼかし処理とは、平均化フィルタのことであり、ある正方形範囲(例えば3×3)の中心画素の濃度を、中心画素を含む正方形範囲内の平均濃度に変換する処理のことである。第1の残存部データにぼかし処理を行うことで、ある程度近接する細かな複数の欠陥を1つの欠陥として判定することができる。
【0037】
第4のデータ処理手順は、第2のデータ処理手順により得られた第1の残存部データ、又は第3のデータ処理手順で得られた第2の残存部データ(以下、これらをまとめて残存部データともいう。)を、予め設定した閾値と比較し、欠陥の有無を判定し、欠陥データを得るデータ処理手順である。
第1の残存部データや第2の残存部データには、繊維束に含まれる欠陥である可能性が高い部分が抽出されている。検出すべき欠陥の形状特徴に応じた閾値及び判定条件(閾値を超えた場合は欠陥である、又は閾値以下である場合は欠陥である)を予め設定しておき、残存部データと閾値とを比較することで、欠陥の有無を判定できる。
形状特徴に応じた閾値としては、例えば、残存部データの主軸長の長さが挙げられる。主軸長とは、残存部を最も多く含む外接矩形を描いた場合の長辺長さである。残存部データの主軸長の長さが、予め設定した閾値を超える場合、その残存部データを欠陥と判定することができる。
欠陥と判定された残存部データを欠陥データとする。
【0038】
[(b)の処理]
(b)の処理では、(a)の処理で検出された欠陥を、予め設定した1以上の形状特徴に応じた閾値により分類する。繊維束1の製造工程の条件によって、発生する欠陥の種類(形状特徴)が異なることがある。欠陥を分類しておくことで、繊維束1の製造工程の条件を調整し、繊維束1の品質を高めることができる。
欠陥を分類するための1以上の形状特徴としては、例えば、欠陥データの輝度、主軸長の長さ、画素数が挙げられる。欠陥データの輝度は、欠陥の凹凸を示す。欠陥データの主軸長の長さは、欠陥の最大長さを示す。欠陥データの画素数は、欠陥の面積を示す。第4のデータ処理手順によって得られた欠陥データの輝度、主軸長の長さ、画素数を、予め設定した閾値と比較することで、欠陥データを欠陥の種類ごとに分類することができる。
【0039】
1以上の形状特徴に応じた閾値は、
図1に示すような、繊維束1の一部の単繊維が切れた又はばらけた欠陥11の形状特徴に応じた閾値を含むことが好ましい。
こうした形状の欠陥11が直接、繊維束の品質に影響することは少ないが、その後、製造工程内を走行中に搬送ロールや設備の一部に接触することで摩擦を生じて品質を低下させるような塊状の欠陥に変形する場合がある。よって、繊維束1の品質管理の観点から、欠陥11を検出することが好ましい。
【0040】
1以上の形状特徴に応じた閾値は、
図2に示すような、繊維束1の一部の単繊維が切れて塊となった欠陥12の形状特徴に応じた閾値を含むことも好ましい。
繊維束1に欠陥12が含まれていた場合、その繊維束1を巻き取ったパッケージから糸を巻き出す際に、欠陥12を起点に周辺の繊維束1が絡まることがある。この場合、巻き出した繊維束1の形態が崩れたり、巻き出した繊維束1に欠陥12が残ったりすることで、追加工時の設備にひっかかるおそれがある。よって、様々な欠陥の形態の中でも塊状の欠陥12は、パッケージ化する前に検出し、繊維束パッケージには含まれていない状態とすることが好ましい。
【0041】
1以上の形状特徴に応じた閾値は、
図3に示すような、繊維束1の一部の単繊維が切れた15mm以上の長さを有する欠陥13の形状特徴に応じた閾値を含むことも好ましい。
欠陥13の有無は、単繊維が切れた原因として設備との過剰な接触によるものであるか、繊維束に延伸をかけるような工程で生じたものであるかを判断する補助データとなりうる。そのため、欠陥13が急激に増加した際には、対策を講じる工程を絞り込むことができる。
【0042】
欠陥11の形状特徴に応じた閾値の設定例としては、主軸長の値を1mmとする例が挙げられる。この場合、欠陥データの主軸長の値が上記閾値を超えていれば、その欠陥データを欠陥11に分類する。なお、この場合、検出される欠陥11は欠陥13を内包する。必要に応じて、さらに欠陥13を抽出することができる。
欠陥12の形状特徴に応じた閾値の設定例としては、面積の値を1mm2とする例が挙げられる。この場合、欠陥データの面積の値が上記閾値を超えていれば、その欠陥データを欠陥12に分類する。
欠陥13の形状特徴に応じた閾値の設定例としては、主軸長の値を15mmとする例が挙げられる。この場合、欠陥データの主軸長の値が上記閾値を超えていれば、その欠陥データを欠陥13に分類する。
ただし、閾値は、測定条件によって変動し得る。既知の欠陥を有するサンプルと欠陥のないサンプルについて、検査の測定条件に合わせた条件で得たデータを比較し、当該欠陥の有無を判定できる閾値を設定することができる。
【0043】
[(c)の処理]
(c)の処理では、(a)の処理で検出された欠陥の座標を、領域Xにおける座標と紐づけ、欠陥が生じた繊維束を特定する。
領域Xの幅方向において、複数の繊維束1それぞれが走行する位置はほぼ一定である。欠陥の重心座標が領域Xの幅方向のどの位置にあるかによって、その欠陥を含む繊維束を特定できる。
欠陥が生じた繊維束を特定しておくことで、繊維束1の品質を管理したり、欠陥が生じた繊維束を除去して繊維束の品質を高めたりすることができる。
【0044】
<(D)の工程>
(D)の工程は必須ではないが、繊維束の製造工程では、走行速度が高速であることから、走行する繊維束を目視で確認して欠陥の形態や繊維束の形態を把握することは難しい。そのため、(D)の工程を行うことが好ましい。これにより、目視では確認できなかった欠陥を確認することができ、製造工程の改善や製品の品質向上に活用できる。
欠陥データとともに、撮像手段3によって撮像された画像データを記録しておいてもよい。
【0045】
繊維束は、繊維束の製造工程で製造された後、巻き取られて繊維束パッケージとされることがある。
本実施形態に係る欠陥検査方法によって検査される繊維束は、繊維束の製造工程で製造された後、繊維束パッケージとされる前の繊維束であってもよく、繊維束パッケージから巻きだされた繊維束であってもよい。
【0046】
繊維束の製造時に本発明の欠陥検査方法による検査工程を行うことで、欠陥の有無、欠陥の種類、欠陥が検出された繊維束等を容易に特定することができる。そのため、不良繊維束の外部への流出を防ぐことが可能となる。また、欠陥の分類をすることで、工程の異常発生個所の特定ができやすくなる。したがって、繊維束を製造する工程中に生じる異常をいち早く検知し、これにより繊維束の品質を良好に管理することができ、外観検査だけでない高い品質が得やすくなる。
【0047】
(繊維束の製造方法)
本発明の繊維束の製造方法は、繊維束を製造する工程(製造工程)と、
製造工程で製造された複数の繊維束を並列して走行させ、本発明の繊維束の欠陥検査方法により欠陥を検査する工程(検査工程)と、を有する。
製造工程は、公知の方法により実施できる。
【0048】
本発明の繊維束の製造方法においては、検査工程で欠陥が検出された際に、検出された欠陥のデータに応じて、製造工程の条件を変更することが好ましい。
製造工程の条件によって、発生する欠陥の個数、場所、大きさ、長さ等が変動する。検出工程を行い、検出工程で検出された欠陥のデータに応じて製造工程の条件を変更することで、製造工程の不具合を早期に発見し、工程の改善、条件変更等を行って、品質の良い繊維束を得やすくなる。
【0049】
本発明の繊維束の製造方法においては、検査工程で欠陥が検出された際に、アラームを発することが好ましい。
アラームを発することで、上述のような工程改善等の対応を早急に行うことができる。
アラームは、アラームに素早く対応する観点から、製造装置付近や管理室で、ランプや音で知らせたり、モニターに詳細を表示したりすることが好ましい。
アラームを発する場合、欠陥の種類、頻度によって、アラームの種類を変えるようにしてもよい。
【0050】
検査工程で欠陥が検出された際に、アラームを発し、検出された欠陥のデータに応じて製造工程の条件を変更してもよい。
この場合、本発明の繊維束の製造方法は、検出された欠陥のデータ(個数、場所、大きさ、長さ等)から製造工程の異常を特定し、特定された異常に基づいて製造工程の条件を変更する操作手順を含んでいてもよい。
検査工程において、検出される欠陥の種類の急激な変化や、欠陥の数の急峻な増加があった際にアラームを発し、製造工程の異常を特定し、その異常に応じて製造工程を点検し、適切な処置を施すことで、未然に走行繊維束に欠陥が含まれる時間を短縮することができる。結果、製造工程の稼働時間に対して、欠陥が少ない、もしくは含まない状態で多くの繊維束を製造できることとなる。
【0051】
本発明の繊維束の製造方法により製造された繊維束を用いて得られる繊維束パッケージは、検査工程により、パッケージ内の繊維束に含まれる欠陥の種類や個数、欠陥の位置情報が把握できている。そのため、例えば、繊維束パッケージから繊維束を巻き出して後の工程で使用する場合に、欠陥のない繊維束のみ使用することができ、これまで欠陥が含まれることにより生じていた後の工程のトラブルを未然に防止し、歩留まりを向上させることができる。
【実施例0052】
以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
測定光の照明手段として、京都電気機器社製KDPL2-LK1000Wを使用した。撮像手段として、キーエンス社製ラインカメラXG-HL08M(8192画素)を使用した。データ処理手段及び記録手段として、キーエンス社製画像センサXG-8700Lを使用した。XG-8700LにXG-HL08Mを接続し、撮影画像を全てXG-8700L内のストレージに保存するようにした。
【0054】
図4に示すように、照明手段は、繊維束の走行経路の一方面側に、照明手段の照射部分から領域Xまでの距離が200mm、走行方向に対して45度傾けるように設置した。撮像手段は、繊維束の走行経路の一方面側に、領域Xから撮像手段のレンズ先端までの距離が1500mm、走行方向に対して30度傾けるように設置し、拡散反射で画像を取得した。
(a)の処理の第4のデータ処理手順における形状特徴に応じた閾値としては、主軸長、面積を設定した。(b)の処理において、形状特徴に応じた閾値としては、主軸長、面積を設定した。
【0055】
60000本の単繊維からなるポリアクリロニトリル繊維束(単繊維繊度1.0dtex)の製造工程において3日間、欠陥検査を実施した。
欠陥検査の実施期間中、12本の繊維束を並列して60m/分で走行させ、照明手段で領域Xを照射し、撮像手段で撮像した。このとき、繊維束の走行方向に垂直な方向の撮像分解能が0.1mmとなるように、1秒あたりの撮像回数を10000回とした。
【0056】
撮像により取得した画像データを元に、データ処理手段において、上述の(a)~(c)の処理を行うことで、繊維束ごとに欠陥を検出し、繊維束間の比較、日中及び夜間の変動の監視、経時的な変動の監視を行った。
並行して、目視での欠陥検査を実施したところ、上記の欠陥検査結果と一致した。
【0057】
データ処理手段による、繊維束ごとの欠陥の検出をインラインで実施した。取得した欠陥情報として、欠陥画像や発生した位置、発生時間等を現場のモニターに表示した。
インラインでの結果も、目視での欠陥検査結果と一致した。
【0058】
繊維束の製造工程で、例えば繊維束走行用のロールや、繊維束の走行位置を決めるガイドロール等の表面に傷が入ると、損傷個所に接触する場所の繊維束に欠陥が発生する。
これらの欠陥をインラインで検出することで、欠陥発生を早期に発見できた。そして、異常箇所を適切に処置することにより、工程異常を回避し、歩留まりを向上することができた。