(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035494
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】ナノ免疫療法用高分子ミセル型医薬
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20240307BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240307BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240307BHJP
A61K 31/195 20060101ALI20240307BHJP
A61K 31/4412 20060101ALI20240307BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20240307BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240307BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240307BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P35/00 ZNA
A61P43/00 105
A61K31/195
A61K31/4412
A61K9/107
A61K47/34
A61K47/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139984
(22)【出願日】2022-09-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)ウェブサイトの掲載日 令和4年(2022年)6月15日 (2)ウェブサイトのアドレス https://aacrjournals.org/cancerres/article/82/12_Supplement/6381/703794 (3)公開者 ミロフォラ パナギ、フォティオス ミュペクリス、チェン ペンウェン、クリソヴァランティス ヴォウトウリ、中川 泰宏、ジョン マーティン、広井 徹郎、橋本 弘子、石井 源一郎、小嶋 基寛、片岡 一則、オラシオ カブラル、及びトリアンタフィロス スティリアノポロス (4)公開された発明の内容 ミロフォラ パナギ、フォティオス ミュペクリス、チェン ペンウェン、クリソヴァランティス ヴォウトウリ、中川 泰宏、ジョン マーティン、広井 徹郎、橋本 弘子、石井 源一郎、小嶋 基寛、片岡 一則、オラシオ カブラル、及びトリアンタフィロス スティリアノポロスが、上記アドレスのウェブサイトで公開されたAmerican Association for Cancer Research,Volume 82,Issue 12_Supplement,Abstract 6381にて、オラシオ カブラル、チェン ペンウェン、中川 泰宏、ジョン マーティン、テオドラ クラシア、トリアンタフィロス スティリアノプロス、ペトリ パパフィリップ、フォティオス ミュペクリス及びミロフォラ パナギが発明した、「腫瘍微小環境のリプログラミング及びナノ免疫療法の強化における高分子ミセルの優れた効果」(Superior effects of polymeric micelles in reprogramming tumor microenvironment and enhancing nano-immunotherapy)について公開した。
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】522350678
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ キプロス
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】オラシオ カブラル
(72)【発明者】
【氏名】チェン ペンウェン
(72)【発明者】
【氏名】中川 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】ジョン マーティン
(72)【発明者】
【氏名】テオドラ クラシア
(72)【発明者】
【氏名】トリアンタフィロス スティリアノプロス
(72)【発明者】
【氏名】ペトリ パパフィリップ
(72)【発明者】
【氏名】フォティオス ミュペクリス
(72)【発明者】
【氏名】ミロフォラ パナギ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076BB13
4C076CC26
4C076CC27
4C076EE23F
4C076EE26F
4C076EE49F
4C076FF16
4C084AA17
4C084MA22
4C084MA66
4C084NA05
4C084ZB21
4C084ZB26
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC17
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA22
4C086MA66
4C086NA05
4C086ZB21
4C086ZB26
4C206AA01
4C206AA02
4C206GA07
4C206GA33
4C206MA02
4C206MA05
4C206MA42
4C206MA86
4C206NA05
4C206ZB21
4C206ZB26
(57)【要約】
【課題】ポリマーミセル型医薬組成物の提供。
【解決手段】親水性ポリマー鎖セグメントと疎水性ポリマー鎖セグメントとのブロック共重合体に抗線維症薬が内包された、ポリマーミセル型医薬組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性ポリマー鎖セグメントと疎水性ポリマー鎖セグメントとのブロック共重合体に抗線維症薬が内包された、ポリマーミセル型医薬組成物。
【請求項2】
抗線維症薬がトラニラスト又はピルフェニドンである請求項1に記載のポリマーミセル型医薬組成物。
【請求項3】
親水性ポリマー鎖セグメントがポリエチレングリコールである、請求項1に記載のポリマーミセル型医薬組成物。
【請求項4】
ブロック共重合体が、次式(I):
【化13】
〔式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子、若しくは置換されていてもよい炭素数1~12の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、又はアジド、アミン、マレイミド、リガンド若しくは標識剤を表し、R
30はメチレン基又はエチレン基を表し、R
31は、未置換の又はアミノ基若しくはカルボキシル基で置換された炭素数4~16の環状構造を有するアルキル基、炭素数6~20のアリール基又は炭素数7~20のアラルキル基を表す。
L
1は、NH、CO、又は下記式(11):
-(CH
2)
p1-NH- (11)
(式中、p1は1~6の整数を表す。)
で示される基、若しくは下記式(12):
-L
2a-(CH
2)
q1-L
3a- (12)
(式中、L
2aは、OCO、OCONH、NHCO、NHCOO、NHCONH、CONH又はCOOを表し、L
3aは、NH又はCOを表す。q1は1~6の整数を表す。)
で示される基を表し、
m
1は、1~500の整数を表し、n
1は1~500の整数を表す。〕
で示されるものである、請求項1に記載の高分子ミセル型医薬組成物。
【請求項5】
ブロック共重合体が、次式(II):
【化14】
で示されるものである請求項4に記載の高分子ミセル型医薬組成物。
【請求項6】
ブロック共重合体が、次式(III):
【化15】
[式中、R
3は、水素原子、又は置換若しくは非置換の炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~20のアリール基又は炭素数7~20のアラルキル基を表し、R
4は、置換若しくは非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~12のアルキル基を表し、R
50は、-(CH
2)
p1-R
51(R
51は炭素数6~20のアリール基又は炭素数7~20のアラルキル基を表し、p1は1~6の整数を表す。)で示される基を表し、R
60は、次式:
【化16】
(R
61及びR
62は、それぞれ独立して炭素数1~6の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、p2は、1~6の整数を表す。)で示される基を表し、R
70は、次式:
【化17】
(R
71は、水素原子、又は炭素数1~12の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を表し、p3は1~500の整数を表す。)で示される基を表す。n
2、m
2及びm
3は、それぞれ独立して1~500の整数を表す。「/」の表記は、その左右に示された(m
2+m
3)個の各モノマー単位の配列順序が任意であることを表す。]
で示されるものである、請求項1に記載の高分子ミセル型医薬組成物。
【請求項7】
抗腫瘍薬として使用される、請求項1に記載の高分子ミセル型医薬組成物。
【請求項8】
腫瘍剛性を低下させる、請求項7に記載の高分子ミセル型医薬組成物。
【請求項9】
腫瘍微小環境をリプログラミングする、請求項7に記載の高分子ミセル型医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍微小環境をリプログラミングする、ナノ免疫療法用高分子ミセル型医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ免疫療法は、ナノ粒子アルブミン結合パクリタキセルと免疫チェックポイント(ICB)遮断薬であるアテゾリズマブとの併用により、トリプルネガティブ乳癌においてすでに実証されている1-3(非特許文献1-3)。この治療法は、癌患者の転帰を改善する可能性が高い。
しかしながら、この方法による治療レジメンは完全治癒には至らず、生存期間中央値は2年未満である。治療成績の低下の原因は、ナノ粒子および抗体の送達を阻害し、腫瘍の進行、転移および薬剤耐性を促す低酸素および免疫抑制状態を誘発する腫瘍微小環境(TME)の異常によって引き起こされるものによる可能性が高い4-6(非特許文献4-6)。
【0003】
トリプルネガティブ乳癌におけるTME異常には、癌関連線維芽細胞(CAF)、コラーゲンおよびヒアルロン酸に豊富な密集した腫瘍間質空間が含まれ、腫瘍の硬化および機械的力の蓄積を引き起こす7-11(非特許文献7-11)。TME内にこのような機械的力が加わると腫瘍血管圧迫をもたらし、したがって、組織酸素化および薬物送達を制限する機能不全血管系の生成をもたらす12、13(非特許文献12、13)。このような線維形成性腫瘍型における薬物療法の有効性を改善することを目的とする確立された手法は、TMEの「正常化」である5(非特許文献5)。腫瘍間質の構造成分を正常化することにより、腫瘍血管の異常を修復し、潅流を改善し、同時にTMEにおけるナノ医薬の送達を促進する14-17(非特許文献14-17)。TMEの正常化能力を有する新たな種類の分子は、「機械的治療」である16(非特許文献16)。これらの薬剤は腫瘍機構を調節して、腫瘍血管を減圧し、潅流を改善するために、剛性を軽減し、腫瘍内機械的力を低減する。機械療法は、細胞外基質成分またはCAF 14-16(非特許文献14-16)を標的とすることによって作用する。
【0004】
これまでのところ、機械療法の使用は主に、既に承認されている薬物の再利用を伴う。前臨床試験で試験された薬物のクラスには、抗線維化剤、抗高血圧薬およびコルチコステロイドが含まれる。第一種の薬剤から、日本と韓国で承認された抗線維症薬であるtranilastと、特発性肺線維症の治療で世界的に承認された抗線維症薬であるピルフェニドンの再利用に成功した18,19(非特許文献18、19)。これらの薬剤は硬さおよび機械的力を低減し、腫瘍潅流を改善し、CAFに影響を及ぼすことによって化学療法およびナノ医療の有効性を有意に増強することができた。第二のクラスの薬剤から、アンギオテンシン受容体遮断薬であるロサルタンを再利用することによるCAFの再プログラミングは化学およびナノ医薬の送達を改善し、トラニラストおよびピルフェニドンの作用と同様に増強した15,20,21(非特許文献15、20、21)。ボセンタンはまた、機械療法として作用するために最近使用された別の降圧剤である22(非特許文献22)。
【0005】
一方、コルチコステロイドであるデキサメタゾンは、シスプラチンナノ担体の送達および有効性を改善した23(非特許文献23)。さらに、機械療法は乳癌における免疫刺激およびICBの有効性を改善することが示されており、一方、トラニラストとナノ免疫療法との併用は、トリプルネガティブ乳癌のモデルにおいて、完全な腫瘍退縮をもたらすことがさらに示されている24-27(非特許文献24-27)。
【0006】
機械療法薬として再利用された薬物はすでに臨床に到達しており、硬い線維形成性腫瘍に罹患している患者の治療計画に追加される可能性が高い16(非特許文献16)。実際、第II相試験において、抗高血圧薬ロサルタンは、化学放射線後に外科的切除が成功した膵がんの割合を増加させ、現在、化学放射線および免疫療法による臨床試験が行われている(clinicaltrials.gov identifier NCT03563248) 28(非特許文献28)。
【0007】
しかしながら、これらの機械療法剤は、全身性の有害作用を受け、用量制限を設定する。副作用には、トラニラストによるロサルタン、肝臓および腎臓の損傷に対する低血圧、デキサメタゾンによる免疫抑制などがある。ナノ粒子製剤へのこれらの薬剤の組み込みは、改善された薬物動態特性および選択的腫瘍内蓄積のために、そして腎クリアランスを回避するために、投与される機械療法薬の用量を劇的に減少させることによって、有害作用を防止することができた。
【0008】
最近の報告では、高分子製剤またはリポソーム製剤に充填されたアンギオテンシン受容体遮断薬がTMEをリプログラミングし、免疫療法およびナノ医療を改善することが示されている29,30(非特許文献29、30、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】1.Schmid, P. et al. Atezolizumab and Nab-Paclitaxel in Advanced Triple-Negative Breast Cancer. N Engl J Med, doi:10.1056/NEJMoa1809615 (2018).
【非特許文献2】2.Adams, S. et al. Atezolizumab Plus nab-Paclitaxel in the Treatment of Metastatic Triple-Negative Breast Cancer With 2-Year Survival Follow-up: A Phase 1b Clinical Trial. JAMA Oncol 5, 334-342, doi:10.1001/jamaoncol.2018.5152 (2019).
【非特許文献3】3.Martin, J. D., Cabral, H., Stylianopoulos, T. & Jain, R. K. Improving cancer immunotherapy using nanomedicines: progress, opportunities and challenges. Nature Reviews Clinical Oncology 17, 251-266 (2020).
【非特許文献4】4.Jain, R. K. & Stylianopoulos, T. Delivering nanomedicine to solid tumors. Nat Rev Clin Oncol 7, 653-664, doi:nrclinonc.2010.139 [pii] 10.1038/nrclinonc.2010.139 (2010).
【非特許文献5】5.Stylianopoulos, T., Munn, L. L. & Jain, R. K. Reengineering the Physical Microenvironment of Tumors to Improve Drug Delivery and Efficacy: From Mathematical Modeling to Bench to Bedside. Trends Cancer 4, 292-319, doi:10.1016/j.trecan.2018.02.005 (2018).
【非特許文献6】6.Martin, J. D., Seano, G. & Jain, R. K. Normalizing Function of Tumor Vessels: Progress, Opportunities, and Challenges. Annu Rev Physiol 81, 505-534, doi:10.1146/annurev-physiol-020518-114700 (2019).
【非特許文献7】7.Stylianopoulos, T. et al. Causes, consequences, and remedies for growth-induced solid stress in murine and human tumors. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 109, 15101-15108, doi:10.1073/pnas.1213353109 (2012).
【非特許文献8】8.Nia, H. T., Munn, L. L. & Jain, R. K. Physical traits of cancer. Science 370, doi:10.1126/science.aaz0868 (2020).
【非特許文献9】9.Voutouri, C. & Stylianopoulos, T. Evolution of osmotic pressure in solid tumors. J Biomech 47, 3441-3447, doi:10.1016/j.jbiomech.2014.09.019S0021-9290(14)00485-0 [pii] (2014).
【非特許文献10】10.Kalli, M. & Stylianopoulos, T. Defining the Role of Solid Stress and Matrix Stiffness in Cancer Cell Proliferation and Metastasis. Front Oncol 8, 55, doi:10.3389/fonc.2018.00055 (2018).
【非特許文献11】11.Voutouri, C. & Stylianopoulos, T. Accumulation of mechanical forces in tumors is related to hyaluronan content and tissue stiffness. PLoS One 13, e0193801, doi:10.1371/journal.pone.0193801 (2018).
【非特許文献12】12.Stylianopoulos, T. et al. Coevolution of solid stress and interstitial fluid pressure in tumors during progression: Implications for vascular collapse. Cancer research 73, 3833-3841, doi:10.1158/0008-5472.can-12-4521 (2013).
【非特許文献13】13.Chauhan, V. P. et al. Compression of pancreatic tumor blood vessels by hyaluronan is caused by solid stress and not interstitial fluid pressure. Cancer Cell 26, 14-15, doi:10.1016/j.ccr.2014.06.003S1535-6108(14)00263-3 [pii] (2014).
【非特許文献14】14.Olive, K. P. et al. Inhibition of Hedgehog signaling enhances delivery of chemotherapy in a mouse model of pancreatic cancer. Science 324, 1457-1461, doi:1171362 [pii] 10.1126/science.1171362 (2009).
【非特許文献15】15.Chauhan, V. P. et al. Angiotensin inhibition enhances drug delivery and potentiates chemotherapy by decompressing tumor blood vessels. Nature Communications 4, 10.1038/ncomms.3516 (2013).
【非特許文献16】16.Sheridan, C. Pancreatic cancer provides testbed for first mechanotherapeutics. Nat Biotechnol 37, 829-831, doi:10.1038/d41587-019-00019-2 (2019).
【非特許文献17】17.Martin, J. D., Miyazaki, T. & Cabral, H. Remodeling tumor microenvironment with nanomedicines. Wiley Interdiscip Rev Nanomed Nanobiotechnol 13, e1730, doi:10.1002/wnan.1730 (2021).
【非特許文献18】18.Papageorgis, P. et al. Tranilast-induced stress alleviation in solid tumors improves the efficacy of chemo- and nanotherapeutics in a size-independent manner. Sci Rep 7, 46140, doi:10.1038/srep46140 (2017).
【非特許文献19】19.Polydorou, C., Mpekris, F., Papageorgis, P., Voutouri, C. & Stylianopoulos, T. Pirfenidone normalizes the tumor microenvironment to improve chemotherapy. Oncotarget 8, 24506-24517, doi:10.18632/oncotarget.15534 (2017).
【非特許文献20】20.Diop-Frimpong, B., Chauhan, V. P., Krane, S., Boucher, Y. & Jain, R. K. Losartan inhibits collagen I synthesis and improves the distribution and efficacy of nanotherapeutics in tumors. Proc Natl Acad Sci U S A 108, 2909-2914 (2011).
【非特許文献21】21.Zhao, Y. et al. Losartan treatment enhances chemotherapy efficacy and reduces ascites in ovarian cancer models by normalizing the tumor stroma. Proc Natl Acad Sci U S A 116, 2210-2219, doi:10.1073/pnas.1818357116 (2019).
【非特許文献22】22.Voutouri, C. et al. Endothelin Inhibition Potentiates Cancer Immunotherapy Revealing Mechanical Biomarkers Predictive of Response. Advanced Therapeutics 2000289 (2021).
【非特許文献23】23.Martin, J. D. et al. Dexamethasone Increases Cisplatin-Loaded Nanocarrier Delivery and Efficacy in Metastatic Breast Cancer by Normalizing the Tumor Microenvironment. ACS Nano 13, 6396-6408, doi:10.1021/acsnano.8b07865 (2019).
【非特許文献24】24.Chen, I. X. et al. Blocking CXCR4 alleviates desmoplasia, increases T-lymphocyte infiltration, and improves immunotherapy in metastatic breast cancer. Proc Natl Acad Sci U S A, doi:10.1073/pnas.1815515116 (2019).
【非特許文献25】25.Panagi, M. et al. TGF-β inhibition combined with cytotoxic nanomedicine normalizes triple negative breast cancer microenvironment towards anti-tumor immunity. Theranostics 10, 1910-1922, doi:10.7150/thno.36936 (2020).
【非特許文献26】26.Mpekris, F. et al. Normalizing the Microenvironment Overcomes Vessel Compression and Resistance to Nano-immunotherapy in Breast Cancer Lung Metastasis. Advanced Science (2020).
【非特許文献27】27.Martin, J. D. et al. A Microenvironment Normalizing Schedule of Dexamethasone Potentiates Immune Checkpoint Blockade in Metastatic Murine Cancer. under review (2020).
【非特許文献28】28.Murphy, J. E. et al. Total Neoadjuvant Therapy With FOLFIRINOX in Combination With Losartan Followed by Chemoradiotherapy for Locally Advanced Pancreatic Cancer: A Phase 2 Clinical Trial. JAMA Oncol 5, 1020-1027, doi:10.1001/jamaoncol.2019.0892 (2019).
【非特許文献29】29.Xia, T. et al. Losartan loaded liposomes improve the antitumor efficacy of liposomal paclitaxel modified with pH sensitive peptides by inhibition of collagen in breast cancer. Pharm Dev Technol 23, 13-21, doi:10.1080/10837450.2016.1265553 (2018).
【非特許文献30】30.Chauhan, V. P. et al. Reprogramming the microenvironment with tumor-selective angiotensin blockers enhances cancer immunotherapy. Proc Natl Acad Sci U S A 116 10674-10680 (2019).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記背景のもと、硬く線維形成性の腫瘍に罹患している患者に有効な医薬の開発が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的のために、トラニラストの機械療法特性を利用して、トラニラスト内包高分子ミセルを開発し、遊離薬物より効率的に、はるかに低い用量で、TME正常化を誘導し、ナノ免疫療法の有効性を改善する可能性を探索した。その結果、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 親水性ポリマー鎖セグメントと疎水性ポリマー鎖セグメントとのブロック共重合体に抗線維症薬が内包された、ポリマーミセル型医薬組成物。
[2] 抗線維症薬がトラニラスト又はピルフェニドンである[1]に記載のポリマーミセル型医薬組成物。
[3] 親水性ポリマー鎖セグメントがポリエチレングリコールである、[1]に記載のポリマーミセル型医薬組成物。
[4] ブロック共重合体が、次式(I):
【化1】
〔式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子、若しくは置換されていてもよい炭素数1~12の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、又はアジド、アミン、マレイミド、リガンド若しくは標識剤を表し、R
30はメチレン基又はエチレン基を表し、R
31は、未置換の又はアミノ基若しくはカルボキシル基で置換された炭素数4~16の環状構造を有するアルキル基、炭素数6~20のアリール基又は炭素数7~20のアラルキル基を表す。
L
1は、NH、CO、又は下記式(11):
-(CH
2)
p1-NH- (11)
(式中、p1は1~6の整数を表す。)
で示される基、若しくは下記式(12):
-L
2a-(CH
2)
q1-L
3a- (12)
(式中、L
2aは、OCO、OCONH、NHCO、NHCOO、NHCONH、CONH又はCOOを表し、L
3aは、NH又はCOを表す。q1は1~6の整数を表す。)
で示される基を表し、
m
1は、1~500の整数を表し、n
1は1~500の整数を表す。〕
で示されるものである、[1]に記載の高分子ミセル型医薬組成物。
[5]ブロック共重合体が、次式(II):
【化2】
で示されるものである[4]に記載の高分子ミセル型医薬組成物。
[6] ブロック共重合体が、次式(III):
【化3】
〔式中、R
3は、水素原子、又は置換若しくは非置換の炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~20のアリール基又は炭素数7~20のアラルキル基を表し、R
4は、置換若しくは非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~12のアルキル基を表し、R
50は、-(CH
2)
p1-R
51(R
51は炭素数6~20のアリール基又は炭素数7~20のアラルキル基を表し、p1は1~6の整数を表す。)で示される基を表し、R
60は、次式:
【化4】
(R
61及びR
62は、それぞれ独立して炭素数1~6の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、p2は、1~6の整数を表す。)で示される基を表し、R
70は、次式:
【化5】
(R
71は、水素原子、又は炭素数1~12の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を表し、p3は1~500の整数を表す。)で示される基を表す。n
2、m
2及びm
3は、それぞれ独立して1~500の整数を表す。「/」の表記は、その左右に示された(m
2+m
3)個の各モノマー単位の配列順序が任意であることを表す。〕
で示されるものである、[1]に記載の高分子ミセル型医薬組成物。
[7] 抗腫瘍薬として使用される、[1]に記載の高分子ミセル型医薬組成物。
[8] 腫瘍剛性を低下させる、[7]に記載の高分子ミセル型医薬組成物。
[9] 腫瘍微小環境をリプログラミングする、[7]に記載の高分子ミセル型医薬組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、抗線維症薬を内包したミセル型医薬組成物が提供される。本発明の医薬組成物は、線維形成性腫瘍に対する治療に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】トラニラスト内包ミセル(トラニラスト/m)の特徴付け。(a)トラニラスト/m調製の模式図。ミセルは、水性条件下でPEG-PBLGおよびトラニラストを混合することによって自己集合させた。(b)動的光散乱(DLS)によって決定されるトラニラスト/mのサイズ分布。(c)透過電子顕微鏡観察。(d)トラニラストベースで2mg/kgトラニラスト/mの静脈内注射後の血漿濃度の時間依存的減衰。平均値±標準偏差(n=4)で示した。(e)HPLCによって測定される時間4T1由来CAFによるトラニラスト取り込み。(f)遊離トラニラストまたはPEG-PBLGトラニラスト内包ミセルとインキュベーションした後(24時間および48時間、0.01および10mg/ml濃度)、4T1乳房腫瘍から単離されたCAFによって分泌された訓化培地におけるTGF-β発現を定量化した。(g)標準化対照としてGAPDHを用いたqPCRによるTGF-βのmRNA発現レベル、および(h)肺腺癌(LUAD)患者から単離したCAFによって分泌された訓化培地中のTGF-β1タンパク質濃度。遊離トラニラストまたはPEG-PBLGトラニラスト内包ミセルとインキュベートした後(0.01mg/mlの濃度で6、24および48時間)、TGF-β mRNAおよびタンパク質を定量した。試料あたり3連で行い、2回の独立した実験を行った。データは平均± SEとして示す。統計分析は、Studentのt検定を用いて、遊離トラニラスト群をトラニラスト/m群と比較することによって行った(*、p<0.05)。
【
図2】遊離トラニラストおよびトラニラスト/mのTMEに対する正常化効果。(a)遊離トラニラスト200mg/kg(毎日、口腔内)、遊離トラニラスト2mg/kg(毎日、i.v.)、トラニラスト/m 4mg/kg(毎日、i.v.)およびトラニラスト/m 2mg/kg(毎日、i.v.)(n=4マウス)で処理されたE0771がんにおけるウィックインニードル技術を用いた間隙流体圧(IFP)の定量化。(b)0.1mm/分の歪み速度で30%の最終歪みへの非拘束圧縮後のE0771腫瘍弾性率のEx vivo定量(n=3~4マウス)。(c)抗コラーゲンI(緑色)抗体およびDAPI(青色)で染色した腫瘍組織切片の代表的な蛍光画像。スケールバー100μm。(d)図に示す処理がされたコラーゲンI染色について陽性の面積分率の定量。(e)抗ヒアルロナン(赤色)抗体およびDAPI(青色)で染色した腫瘍組織切片の代表的蛍光画像。(f)図に示す処理がされたヒアルロン酸染色について陽性の面積分率の定量。(g)内皮細胞マーカー抗CD31(赤色)およびビオチン化レクチン(緑色)を用いたE0771腫瘍組織の免疫蛍光染色を、CD31およびレクチンタンパク質(黄色)の共局在化によって示される血管潅流の尺度として示す。(h)異なる処置群における潅流血管画分は、CD31陽性染色に正規化された。データは平均値±標準誤差で示す。統計解析は、投与群と対照*との比較、およびトラニラスト/m 2mg/kg投与群と他のすべての投与群**との比較を、Student’s t検定を用いて行った(n=3、N=3~4像場)。
【
図3】トラニラストミセルはエピルビシンミセルの効果を増強し、肺転移を減少させる。(a)試験治療プロトコル。動物にトラニラスト/m 2mg/kgを6日間毎日静脈内注射し、その後EPI/m 6mg/kgを2回投与した(E0771腫瘍では18日目と22日目、4T1腫瘍では17日目と21日目)。トラニラスト/m, EPI/mまたは両者の併用投与を行ったマウスの同所性E0771(b)および4T1(c)乳癌原発腫瘍増殖。(d)異なる治療後のE0771腫瘍の代表的超音波エラストグラフィーヒートマップ。青色は柔組織を示し、赤色は硬組織を示す。破線の黒線は、腫瘍縁を示す(n=4~5匹のマウス、マウス当たりN=2画像フィールド)。(e)超音波エラストグラフィーを用いた治療中のE0771腫瘍における弾性係数値。(f)ブアン液中での固定およびヘマトキシリン-エオシン染色したE0771腫瘍担癌マウスの肺の代表的画像。表面肺転移は黒矢印でマークされている。(G)試験終了時の肉眼的E0771自然肺転移形成の定量化。データは、平均± SEとして示す。統計解析は投与群と対照*との比較、及びトラニラスト/m-EPI/m併用群と他のすべての投与群**との比較を、Student’s t検定を用いて行った(n=5~6)。
【
図4】トラニラストミセルは、ナノ免疫療法の有効性を有意に改善する。(a)ナノ免疫療法におけるトラニラストミセルの影響に関する治療手順を検討する。E0771腫瘍の腫瘍体積(b)および腫瘤(c)。6および15mg/kgのEPI/m化学療法は、免疫療法およびトラニラスト処置と組み合わせた場合、有意な抗腫瘍効果を示した(n=10マウス)。(d)治療の完了時(21日目)に超音波エラストグラフィーで測定した腫瘍弾性率値。(n=5匹のマウス、N=1匹のマウスにつき2の画像フィールド)。(e)治療開始前の弾性率に応じた試験終了時の原発腫瘍体積の相対的変化を、治療開始前の腫瘍体積と比較した(R
2 =0.77、最良適合線がどの程度適合するかの定量化可能な解析、データーに適合)。データは平均± SEとして示す。統計解析は、Student’s検定を用いて、処置群を対照*およびトラニラスト/m-ICB-EPI/m 15mg/kgと**他の全ての処置群と比較することによって行った。
【
図5】ナノ免疫療法と組み合わされたトラニラストミセルは、腫瘍免疫原性を増強する。フローサイトメトリーによって測定される、(a)腫瘍内CD45
+ CD3
+ CD4
+(SP、単一陽性)細胞集団の割合、および(b)様々な処置群において生細胞上でゲートされた腫瘍内CD45
+CD3
+ CD8(SP、単一陽性)細胞集団の割合。(c)免疫抑制性CD4
+調節性T細胞(Treg)に対する細胞傷害性CD8
+T細胞の比率は、トラニラスト/m-ICB-EPI/m併用処置後に有意に上昇する(n=5~9)。CD45
+リンパ球上でゲーティングされたFoxp3
+ CD127
lo CD25
hi CD4 SPとして定義される。(d)腫瘍内MDSC(CD45
+CD11b GR1
+)および(e)TAM(CD45
+ CD11b
+ GR1
- F4/80)の割合は、CD45リンパ球でゲートした。(f)抗腫瘍M1様TAM(CD11b
+ GR1
-F4/80
+ CD206
- MCHII
+)の割合は、全TAM集団にゲートした。データは平均± SEとして示す。統計解析は、Student’s t検定を用いて、処置群を対照*と比較することによって行った。
【
図6】トラニラストエピルビシンミセルの組み合わせは、全生存期間を延長し、免疫記憶を増強する。(a)考慮される種々の処置(n=10マウス)についてのカプラン・マイヤー生存曲線。矢印は、113日目のマウスの生存率(SF)を示す。統計解析は、Student’s t検定を用いて、処置群を対照*およびトラニラスト/m-ICB-EPI/m 15mg/kg組合せと**他の全ての処置群と比較するログランク検定によって行った。(b)0日目(n=3~5マウス)に接種したE0771細胞にナイーブな対照マウスと比較して、E0771癌細胞で再投与した生存E0771保有マウスの個々の腫瘍増殖曲線。(c)試験エンドポイントでE0771細胞を再投与し、H&Eを介して組織微小転移について評価したマウスから肺を切除した。
【
図7】トラニラスト/mとナノ免疫療法との併用によって誘発される抗腫瘍応答の特異性および寿命。(a)考慮される種々の処置についてのカプラン・マイヤー生存曲線(n=7~8マウス)。矢印は、90日目のマウスの生存率(SF)を示す。統計解析は、Student’s t検定を用いて、処置群と対照*、およびトラニラスト/m-ICB-ドキシル併用と**他の全ての処置群と比較するログランク検定によって行った。C57BL/6メスマウスに5×10
4個のE0771細胞を0日目に同所的に注射し、続いて図に示す通りに処置した。原発性腫瘍を21日目に外科的に除去し、マウスの生存率を毎日モニターした。90日目に、トラニラスト/m-ドキシル(n=3)およびトラニラスト/m-ICB-ドキシル(n=7)群の生存マウスを、最初の注射の対向部位において5×10
4個のE0771細胞で再投与した。同年齢のナイーブマウス群は、対照として並行してチャレンジした。130日目に、無腫瘍マウスおよびナイーブマウスの群を、無関係なMCA205線維肉腫細胞株(2.5×10
5細胞)と並行して、右側腹部に皮下注射によってチャレンジした。(b-d)未処置マウス(b)、E0771(左)およびMCA205(右)腫瘍細胞でチャレンジしたトラニラスト/m-ドキシル群(c)およびトラニラスト/m-ICB-ドキシル群(d)の治癒マウスの個々の成長曲線。無腫瘍マウスの数もまた、各試験において示される。
【
図11】In vitroでの特性評価におけるトラニラストミセルを示す。(a)3つの異なる反応バッチから調製したトラニラスト/mの代表的な動的光散乱(DLS)の結果。サンプルは、同等のサイズ分布を共有した。(b)トラニラスト/mの異なるバッチの特徴付け。(c)長時間貯蔵時のトラニラスト/mの安定性を示すDLS測定結果。Tranilast/mは純水中でインキュベートし、4℃で保存した。データは平均値±標準偏差(n=3)で示した。(d)PBSおよび50%血清中のより低い濃度(ミセルベースで0.1mg/ml)に希釈した後のトラニラスト/mの平均サイズの時間依存的変化。データは平均値±標準偏差(n=3)で示した。(e)散乱光強度によって定義される臨界ミセル濃度(CMC)。(f)37℃で20%血清を含むPBS(pH 7.4)中の異なるミセル濃度でのトラニラスト/mの薬物放出プロファイル。データは平均値±標準偏差(n=3)で示した。
【
図12】トラニラストミセル処理は腫瘍の増殖および血管新生を妨げることなく、腫瘍の剛性を低減し、血管の直径を増大させる。(a)異なる処置後の11日間にわたる同所性E0771腫瘍増殖(n=4マウス)。(b)E0771の前日(12日)、処置中(14日)、および6日間の治療終了時(18日)に超音波弾性装置を用いて測定した弾性係数値(n=8マウス、マウス当たりN=2個の画像領域)。(c)原子間力顕微鏡法による治療完了時のE0771腫瘍の弾性係数のナノスケール変化の評価。(d) 異なる処置の後、RT-qPCRによって評価したE0771腫瘍におけるCol1A1、およびヒアルロナンシンターゼ2(HAS2)および3(HAS3)の相対的mRNA発現レベル(n=3マウス、N=2~3技術的反復)。データは平均値±標準誤差で示した。統計解析は、Student’s t検定を用いて行った。(e)抗CD31内皮細胞マーカーを用いたE0771腫瘍試料の免疫染色後のCD31面積画分の定量化。(f)図に示されるように処置されたE0771腫瘍の血管直径の定量化。データは平均± SEとして示す。統計解析は、Student’s t検定を用いて、処置群と対照*との比較、およびトラニラスト/m 2mg/kgと他の全ての処置群**(n=3匹、N=3~4の像視野)との比較によって行った。(g)トラニラスト/mの2mg/kg(毎日)および4mg/kg(2日毎)の投与スケジュールによって投与されたトラニラストの平均腫瘍内濃度(無次元単位で)の時間的変動についての数学的モデル予測。ミセルの投与は12日目に開始し、治療プロトコル(
図8)に従って3サイクルを行った。
【
図13】Cy5-ミセルを注射して24時間後の対照およびトラニラスト/m処置マウス(n=4~5マウス)におけるミセルの腫瘍組織分布。
【
図14】トラニラストミセルはエピルビシンミセルの効果を増強し、肺転移を減少させる。トラニラスト/m 2mg/kg、EPI/m 6mg/kgまたはそれらの組み合わせで処置されたマウスにおける、同所性E0771(a)および4T1(b)乳癌原発腫瘍塊。動物は、6日間のトラニラスト/mの毎日の静脈内注射および2回のEPI/mの用量を受けた(E0771腫瘍モデルでは18日目および22日目、ならびに4T1腫瘍モデルでは17日目および21日目)。(c)代表的な超音波エラストグラフィーヒートマップは異なる処置後の4T1腫瘍を示し、青色はコンプライアント組織を示し、赤色は硬い組織を示す。破線の黒線は、腫瘍マージンを示す(n=4~5、N=2画像フィールド/マウス)。(d)超音波エラストグラフィーを用いた4T1腫瘍における弾性率の値。(e)4T1腫瘍モデルの肺におけるマクロ転移の定量化。データは平均± SEとして示す。統計解析は、Student’s t検定を用いて、対照*およびトラニラスト/m-EPI/mの組合せを、他の全ての処置群と**比較することによって行った(n=5マウス)。
【
図15】E0771および4T1担癌マウスにおける、脾臓および胸腺の質量測定。有意な体重減少(a、d)、脾臓質量(b、e)および胸腺質量(c、f)は、研究エンドポイントでマウスのいずれにおいても検出されなかった(n=3~7マウス)。統計解析はStudent's t検定により行った。
【
図16】(a)化学療法および免疫療法処置前の14日目のE0771腫瘍における腫瘍弾性率(n=5マウス、マウスあたりN=2画像視野)。(b)処置プロトコルの完了時に測定されたマウスの質量は、対照マウスの質量に対して正規化された。有意な動物体重減少は検出されなかった。データは平均± SEとして示す。統計解析は、Student's t検定を用いて、処置群を対照*と比較することによって行った。
【
図17】(a)トラニラストミセルがナノ免疫療法に及ぼす影響に関する試験治療プロトコール。(b)示されるように処置されたE0771腫瘍の切除後の腫瘍体積および(c)塊。トラニラスト処置は、ドキシルおよびICBの抗腫瘍活性を増強する(n=8マウス)。(d)任意の治療前(11日目)、トラニラスト/mの3日後、ICBまたはドキシル治療前(14日目)、およびナノおよび免疫療法の3回の投与後(21日目)のE0771腫瘍における腫瘍弾性率。トラニラスト/mを3日間毎日、そして3日毎に与えたドキシルとICBの用量の間で投与した(n=16マウス)。データは平均± SEとして示す。統計解析は、スチューデントt検定を用いて、処置群を対照*と比較することによって行った。(e)治療開始前の弾性率に応じた、治療開始前の腫瘍体積(EPI/m、ドキシル)と比較した、試験終了時の原発腫瘍体積の相対的変化(R
2=0.66、最良適合線がどの程度適合するかの定量可能な解析、データーに適合)。
【
図18】(a)CAFマーカー抗αSMA(緑色)および増殖マーカー抗Ki67(赤色)を用いたE0771腫瘍組織の免疫蛍光染色。(b)DAPI核染色に正規化したαSMA陽性画分の定量。(c)全αSMA陽性染色に対して正規化されたCAF増殖の尺度としてのαSMAおよびKi67マーカーについて二重陽性の面積の定量化。画像取得のために、共焦点顕微鏡Leica STELLARISを使用し、マウスあたり1つの組織切片を評価し、全部で22~30の画像視野を捕捉した。データは平均± SEとして示す。統計解析は、スチューデントt検定を用いて、処置群を対照*(n=4マウス、スケールバー200nm)と比較することによって行った。
【
図19】E0771腫瘍におけるT免疫表現型決定のためのフローサイトメトリーゲーティング戦略。
【
図20】E0771保有マウスの肺は生存し、肉眼的転移の証拠はなかった。トラニラスト/m-ICB-EPI/m 15mg/kg処置群の生存者のうちの3人の肺を収集して、転移の存在を確認した。
【
図21】PD内包[BzMA
36-co-DEAEMA
6]-b-HEGMA
89ミセルの調製法を示す図。(A)メタノール(MeOH)中のピルフェニドン(PD)の検量線。(B)ミセルへのPD-ローディングの模式的手順。
【
図22】PD/DiR内包[BzMA
36-co-DEAEMA
6]-b-HEGMA
89ミセルの調製法を示す図。(A)アセトン中のDiRの検量線。(B)ミセルへのPD/DiR-ローディングの模式的手順。
【
図23】10mg/kgのピルフェニドン/m i.v.の静脈内注射後の血中濃度の時間依存的減衰。
【
図24】遊離ピルフェニドンおよびピルフェニドン/mの、腫瘍(A)体積、(B)SWEで測定した弾性率、(C, D)CEUSで測定した潅流、(E)ウィックインニードル法で測定した間質液圧および(F)マウス質量に対する効果。
【
図25】コラーゲンレベルに対する遊離ピルフェニドンおよびピルフェニドン/mの効果。
【
図26】ヒアルロン酸濃度に対する遊離ピルフェニドンおよびピルフェニドン/mの効果。
【
図27】対照マウス、およびピルフェニドン/m処置マウスにおけるDiRミセル注射後のミセル分布。
【
図28】ピルフェニドンミセルの抗腫瘍効果。ピルフェニドンミセルは、(A)E0771および(B)4T1腫瘍における免疫療法の有効性を、腫瘍増殖速度の遅延または腫瘍体積の減少によって有意に改善する。
【
図29】ピルフェニドンミセルの抗腫瘍効果。ピルフェニドンミセルは、原発腫瘍量を減少させることによって、(A)E0771および(B)4T1腫瘍における免疫療法の有効性を有意に改善する。
【
図30】癌細胞の移植後10、13および21日目にSWEで測定した(A)E0771および(B)4T1腫瘍弾性率に対する免疫療法効果。
【
図31】CD3 T細胞、およびそれに続く表現型であるCD4
SP、CD8
SP、CD4CD127
loCD25
hiFoxp3 Tregを同定するために使用されるフローサイトメトリーゲーティングストラテジー。
【
図32】(A-C)免疫細胞集団および(D)免疫抑制Tregに対する細胞傷害性CD8の比に対する処置の効果。
【
図33】処置されたE0771腫瘍からのフローサイトメトリー分析によって同定された、選択された細胞サブセットの頻度。
【
図34】MDSC、並びにマクロファージ表現型であるCD138
+CD206
-(M1様)およびCD138
-CD206
+(M2様)を同定するために使用されるフローサイトメトリーゲーティングストラテジー。
【
図35】(A)MDSC、(B)全体のマクロファージ、(C)M2様マクロファージおよび(D)M1様マクロファージ集団における処置の効果。
【
図36】(A)E0771および(B)4T1腫瘍において考慮される種々の処置についてのカプラン・マイヤー生存曲線。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.概要
本発明は、親水性ポリマー鎖セグメントと疎水性ポリマー鎖セグメントとのブロック共重合体に抗線維症薬(例えばトラニラスト又はピルフェニドン)が内包された、ポリマーミセル型医薬組成物に関する。本発明の医薬組成物は、腫瘍微小環境(TME)をリプログラミングして、ナノ免疫療法の効果を増強することができる。
【0017】
機械療法による腫瘍微小環境(TME)のリプログラミングは、線維形成性腫瘍の新規治療法として期待される。しかしながら、当該療法に使用される薬物は重度の有害作用を引き起こす可能性がある。ナノ粒子への薬物の組み込みは、高用量の全身性の有害作用および腫瘍標的化の欠如を減少させる。
【0018】
本発明では、線維形成性腫瘍の微小環境をリプログラミングすることに対し、以前に報告された効果を増強することを目的として、機械療法剤トラニラストを内包した高分子ミセルを開発した。本発明者らは、トラニラスト‐ミセルが、乳癌の前臨床モデルにおいて、遊離トラニラストと比較してはるかに低い用量で、間質および血管異常を回復できることを実証した。トラニラスト-ミセルは、処置の3日以内に腫瘍剛性を低下させ、潅流および100nm粒子の送達を有意に改善した。
ここで、「リプログラミング」とは、腫瘍が成長している正常な臓器に近づける(正常化を含む)ために、ECMレベルを下げ、生理機能(血管機能を含む)を変化させることを意味する。
【0019】
潅流およびドラッグデリバリーの改善は細胞傷害性エピルビシンナノ医療の治療効果を促進し、肺転移の形成を減少させるだけでなく、免疫チェックポイント遮断薬である抗PD1および抗CTLA‐4抗体に対する免疫応答性環境の確立を容易にする。抗腫瘍免疫原性の獲得は、主としてキラーT細胞の高い浸潤および免疫抑制性調節性T細胞の枯渇によって媒介され、それに伴って腫瘍関連マクロファージのM1表現型への分極が改善される。さらに、リプログラミングされた腫瘍において細胞傷害性ナノ医薬と免疫療法を組み合わせることにより、免疫記憶を装備する長期持続性の抗腫瘍反応が得られるという証拠を得た。したがって、術前補助療法の最前線にTMEリプログラミングを導入して標準治療を補完することで、以前はこのような治療レジメンに対する反応が限られていた進行癌に対して治療効果を与えることができる。
【0020】
本発明者は、トラニラスト等の抗線維症薬を内包したポリマーミセルを開発し、トラニラストの機械療法特性を利用して、遊離薬物よりも効率的に、そしてはるかに低い用量で、TME正常化を誘導するかどうかの可能性を探索した。2つの同系トリプルネガティブ乳房腫瘍モデル(4T1およびE0771)を用いて、トラニラストミセルは遊離型薬物の100倍低い用量で投与した場合であっても、遊離型トラニラストよりも有効であることが明らかにされた。トラニラストのミセル処方物はまた、エピルビシンミセルの送達および効果を改善し、免疫チェックポイント耐性を克服し、腫瘍免疫原性を誘導し、そして治癒に導くナノ免疫療法の効力を改善することが見出された。
【0021】
2.ブロックコポリマー
本発明の高分子ミセル型医薬組成物は、疎水性ポリマー鎖セグメント(疎水性セグメントともいう)と親水性ポリマー鎖セグメント(親水性セグメントともいう)とを有するブロックコポリマーを含有する。そして親水性セグメントが外側に、疎水性セグメントが内側に配置され、薬物を内核に内包して水性媒体中でミセルを形成する。ミセルを形成するための水性媒体としては、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、酢酸緩衝液等の水性緩衝液が挙げられる。
【0022】
本発明において使用されるブロックコポリマーの親水性セグメントとしては、任意の親水性ポリマー、例えば、ポリ エチレングリコール、ポリサッカライド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリルアミド、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、ポリアミノ酸、ポリリンゴ酸などが挙げられるが、ポリエチレングリコールであることが好ましい。
【0023】
本発明において使用されるブロックコポリマーの疎水性セグメント(カチオン性高分子)は、代表的にはポリアミノ酸からなり、当該ポリアミノ酸は、アミノ酸の側鎖に環式構造を有する疎水性基が導入された疎水性誘導体由来の繰り返し単位を含有する。
環式構造を有するアミノ酸の疎水性誘導体は、例えばアスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸の疎水性誘導体であり、当該酸性アミノ酸側鎖のカルボキシル基に環式構造を有する疎水性基が導入される。
【0024】
上記環式構造を有する疎水性基は、単環式構造を有する基であっても多環式構造を有する基であってもよく、特に限定されるものではない。本発明においては、芳香族基、脂環式基を用いることができ、例えば、炭素数4~16(以下、「C4-16」と表記する。他の炭素数もこれに準じて同様に表記する。)の環状構造を有するアルキル基、C6-20のアリール基、C7-20のアラルキル基などが用いられる。
【0025】
本発明において使用されるブロックコポリマーとしては、例えば、下記一般式(I)で示されるブロックコポリマーが好ましく挙げられる。
【化6】
【0026】
上記式(I)において、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、若しくは置換されていてもよいC1-12の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、又はアジド、アミン、マレイミド、リガンド若しくは標識剤などの官能基を表す。
上記C1-12の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、デシル基及びウンデシル基等が挙げられる。また上記アルキル基の置換基としては、例えば、アセタール化ホルミル基、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、アミノ基、C1-6のアルコキシカルボニル基、C2-7のアシルアミド基、シロキシ基、シリルアミノ基、及びトリアルキルシロキシ基(各アルキルシロキシ基は、それぞれ独立に、C1-6である)等が挙げられる。
【0027】
リガンド分子は、特定の生体分子を標的とする目的で使用される化合物を意味し、例えば、抗体、アプタマー、タンパク質、アミノ酸、低分子化合物、生体高分子のモノマーなどが挙げられる。標識剤としては、例えば希土類蛍光標識剤、クマリン、ジメチルアミノスルホニルベンゾオキサジアゾール(DBD)、ダンシル、ニトロベンゾオキサジアゾール(NBD)、ピレン、フルオレセイン、蛍光タンパク質などの蛍光標識剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
R30はメチレン基又はエチレン基を表す。
R31は未置換の又はアミノ基若しくはカルボキシル基で置換されたC4-16の環状構造を有するアルキル基、C6-20のアリール基又はC7-20のアラルキル基を表す。
L1は、NH、CO、又は下記式(11):
-(CH2)p1-NH- (11)
(式中、p1は1~6の整数を表す。)
で示される基、若しくは下記式(12):
-L2a-(CH2)q1-L3a- (12)
(式中、L2aは、OCO、OCONH、NHCO、NHCOO、NHCONH、CONH又はCOOを表し、L3aは、NH又はCOを表す。q1は1~6の整数を表す。)
で示される基を表す。
【0029】
またmは、1~500の整数を表す。
nは、PEG部分の繰り返し単位数(重合度)を表し、より具体的には1~500 (好ましくは100~400、より好ましくは200~300)の整数を表す。
【0030】
一般式(I)で示される疎水性セグメント(ポリカチオン部分)の分子量(Mn)は、限定はされないが、23,000~45,000であることが好ましく、より好ましくは28,000~34,000である。また、個々のブロック部分については、PEG部分の分子量(Mw)は、8,000~15,000であることが好ましく、より好ましくは10,000~12,000であり、ポリカチオン部分の分子量(Mn)は、全体で15,000~30,000であることが好ましい。
【0031】
本発明においては、好ましくは下記式(II)に示すPEG-PBLGを使用することができる。
【化7】
【0032】
例えばPBLGの重合度は10~120であり、好ましくは40である。
一般式(I)で示されるブロックコポリマーの製造方法は、限定はされないが、例えば、R1とPEG鎖のブロック部分とを含むセグメント(PEGセグメント)を予め合成しておき、このPEGセグメントの片末端(R1と反対の末端)に、所定のモノマーを順に重合し、その後必要に応じて側鎖をカチオン性基を含むように置換又は変換する方法、あるいは、上記PEGセグメントと、カチオン性基を含む側鎖を有するブロック部分とを予め合成しておき、これらを互いに連結する方法などが挙げられる。当該製法における各種反応の方法及び条件は、常法を考慮し適宜選択又は設定することができる。
【0033】
さらに、本発明において使用されるブロックコポリマーは、下記一般式(III)で示すものを挙げることができる。
【化8】
【0034】
式IIIにおいて、R
3は、水素原子、又は置換若しくは非置換の炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~20のアリール基又は炭素数7~20のアラルキル基を表し、R
4は、置換若しくは非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~12のアルキル基を表し、R
50は、-(CH
2)
p1-R
51(R
51は炭素数6~20のアリール基又は炭素数7~20のアラルキル基を表し、p1は1~6の整数を表す。)で示される基を表し、R
60は、次式:
【化9】
(R
61及びR
62は、それぞれ独立して炭素数1~6の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、p2は、1~6の整数を表す。)で示される基を表し、R
70は、次式:
【化10】
(R
71は、水素原子、又は炭素数1~12の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を表し、p3は1~500の整数を表す。)で示される基を表す。n
2、m
2及びm
3は、それぞれ独立して1~500の整数を表す。「/」の表記は、その左右に示された(m
2+m
3)個の各モノマー単位の配列順序が任意であることを表す。
ここで、炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~20のアリール基又は炭素数7~20のアラルキル基は、それぞれの基の炭素原子又は水素原子が、イオウ(S)原子、窒素(N)原子などのヘテロ原子で置換されていてもよい。
【0035】
本発明の一態様では、R3及びR4は、2-シアノ-2-プロピルベンゾチオエート由来の基が挙げられる。例えばR3はベンゾチオエート基、又は硫黄原子で置換された炭素数7のアラルキル基が挙げられ、R4は例えば2-シアノ-2-プロピル基、又はNで置換された炭素数4~6のアルキル基が挙げられる。
また本発明の一態様では、R50は、炭素数7のアラルキル基を例示することができる。
また本発明の一態様では、R60は、R61及びR62がともにエチル基のものを例示できる。
【0036】
本発明の一態様では、例えばメタクリレート系モノマー単位を構成成分とし、モノマー単位n2とm2から構成されるランダムな第一のブロックと、m3モノマー単位のみから構成される第二のブロックとから構成されるブロックコポリマーであることが好ましい。この場合、最初にユニットn2とm2からなるランダム共重合体を調製し、このランダム共重合体を、ユニットm3のみからなる第2ブロックの成長のためのマクロ連鎖移動剤として使用することができる。
本発明においては、実施例2で示す、[BzMA-co-DEAEMA]-b-HEGMAであることが好ましい。
【0037】
3.ミセルに内包する抗線維症薬
抗線維症薬は、特発性肺線維症などの治療薬であり、ピルフェニドン、ニンテダニブ等が知られている。また、抗アレルギー剤として使用されるトラニラストも、線維芽細胞の増殖を伴う肥厚性斑痕やケロイドに対して有効であり、肺線維症が抑制されることが知られている。従って、本発明においては、トラニラストを抗線維症薬として使用することができる。
本発明においては、ミセルに内包する抗線維症薬として、ピルフェニドン、ニンテダニブ、トラニラストを挙げることができる。
【0038】
4.医薬組成物
本発明の医薬組成物は、抗腫瘍療法等に用いることができる。従って本発明は、本発明の医薬組成物を対象に投与する工程を含む、腫瘍の治療方法を提供することもできる。
【0039】
本発明の医薬組成物において、対象となる腫瘍は、特に限定されるものではない。例えば、脳腫瘍(下垂体腺腫、神経膠腫)、頭頸部癌、頚癌、顎癌、口腔癌、唾液腺癌、舌下腺癌、耳下腺癌、鼻腔癌、副鼻腔癌、喉頭癌、食道癌、肺癌、乳癌、膵臓癌、胃癌、胆道癌(胆管癌、胆嚢癌)小腸又は十二指腸癌、大腸癌、膀胱癌、腎癌、肝癌、前立腺癌、子宮癌(子宮頸癌、子宮体癌)、卵巣癌、甲状腺癌、咽頭癌、肉腫(例えば、骨肉腫、軟骨肉腫、カポジ肉腫、筋肉腫、血管肉腫、線維肉腫など)、悪性リンパ腫(ホジキン型リンパ腫、非ホジキン型リンパ腫)、白血病(例えば、慢性骨髄性白血病(CML)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ球性白血病(CLL)及び急性リンパ性白血病(ALL)、リンパ腫、多発性骨髄腫(MM)、骨髄異型成症候群などを含む)、皮膚癌、メラノーマなどを挙げることができる。
【0040】
上記医薬組成物については、薬剤製造上一般に用いられる賦形剤、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤及び等張化剤等を適宜選択して使用し、常法により調製することができる。
【0041】
本発明の医薬組成物の投与形態としては注射が挙げられ、通常の静脈内、動脈内等の全身投与のほか、筋肉、関節内、皮下、皮内等に局所投与することができる。この場合、通常は単位投与量アンプル又は多投与量容器の形態で提供され、使用する際に適当な担体、例えば滅菌水で再溶解させる粉体であってもよい。また、これらの剤形に対し、製剤上一般に使用される添加剤を含有させることもできる。その投与量は、治療目的、ミセルの形態、投与対象の年齢、投与経路、投与回数により異なり、広範囲に変えることができ、本発明の医薬組成物に含まれる抗線維症薬の量は、当業者であれば適宜設定することができる。例えば、本発明の医薬組成物の有効量と適切な希釈剤及び薬理学的に使用し得る担体との組合せとして投与される有効量は、一回につき体重1kgあたり適宜定めることができ、1日間から数週間間隔で投与される。
【実施例0042】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
[実施例1] トラニラスト内包ミセル医薬の検討
【0043】
I.実験1-1
<材料および方法>
細胞培養
4T1(ATCC(登録商標)CRL-2539(商標))およびE0771(94A001、CH3 BioSystems)マウス乳腺癌細胞株を、それぞれATCCおよびCH3 BioSystemsから購入した。細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS、FB-1001H、バイオ血清)および1%抗生物質(A5955、Sigma)を補充したRoswell Park Memorial Institute培地(RPMI-1640、LM-R1637、バイオ血清)中、37℃/5% CO2で維持した。
【0044】
薬物及び試薬
エピルビシン・ミセル(EPI/m)
EPI/mは、以前の報告35に従って調製した。具体的には、PEG-ポリ(アスパラギン酸-ヒドラジド-エピルビシン)のメタノール溶液を丸底フラスコ中で蒸発させた。得られた薄膜をHEPESで溶媒和し、超音波処理してEPI/mを生成した。EPI/mのサイズは、Zetasizer Nano ZS(Malvern Instruments, UK)を用いてDLSにより決定した。遠心フィルターユニット(分子量カットオフ(MWCO):3万Da)を用いてミセルを精製した。薬物内包は、1N HClを添加することによってポリマーから薬物を完全に切断した後、HPLCによって評価した。内包は、1mgのミセル当たり0.15mgのエピルビシンとして計算した。
【0045】
トラニラスト(Rizaben, Kissei Pharmaceutical, Japan)を1% NaHCO3(33.3mg/ml)に溶解し、70℃で1時間インキュベートした。ICBマウスモノクローナルPD-1(CD279、クローンRMP1-14)およびマウスモノクローナルCTLA-4(CD152、クローン9D9)をBioXCellから購入した。
【0046】
トラニラスト/m
ミセルは、THF(50ml)中で100mgのPEG-b-ポリ(ベンジル-L-グルタミン酸)コポリマー(PEG-PBLG)(PEGのMw:12,000; PBLGブロックの重合度: 40)および25mgのトラニラストを混合することによって調製した。次いで、ロータリーエバポレーターを使用することによって混合物中のTHFを蒸発させ、ポリマーおよびトラニラストを、MilliQ水(100ml)に再懸濁して、トラニラスト/mを形成した。ミセルを超音波処理し、0.22μmフィルターを用いて濾過した。
【0047】
次いで、ミセルをMilliQ(膜のMWCO:3,000Da)に対して透析し、精製した。トラニラスト/mの直径をDLSによって評価した。ミセルのZ電位を測定するために、ミセル濃度を10mMリン酸緩衝液(pH 7.4)中で希釈してて0.5mg/mlに固定し、折り畳まれたキャピラリーゼータ細胞を有するゼータサイザーNano ZSを使用することによって表面電荷を測定した。
【0048】
ミセル中のトラニラストの薬物内包について、1mLのミセルを凍結乾燥して1mL当たりの総ミセル重量を計算し、続いてサンプルをアセトニトリルに再溶解し、UV分光計(JASCO, Japan)を用いて340nmでのトラニラストのUV吸光度を評価することによって測定した。
【0049】
バッチ間の変動性を評価するために、3つの異なるバッチのトラニラスト/mを調製し、上記と同じ方法によって特徴付けた。ミセルの長期保存安定性は、水中でトラニラスト/mを1mg/mlの最終濃度に希釈し、4℃で1ヶ月間維持することによって決定した。ミセルのサイズ分布は、DLS測定によって毎週評価した。
【0050】
次に、循環中の生理的環境を模倣するために、等張条件(PBS)および50%血清下でミセルの安定性を評価した。ミセルを、50% FBSを含有するPBSまたはPBSのいずれかで、ミセルベースで0.1mg/mlの最終濃度に希釈した。試料は体温と同様に37℃に保った。トラニラスト/mのサイズを、異なる時点での動的光散乱測定によって24時間モニターし、前述のように安定性を評価した。
【0051】
トラニラスト/mの臨界ミセル濃度(CMC)は、報告された光散乱プロトコー31ルに従って測定した。すなわち、トラニラスト/m(純水中、ミセルベースで1mg/ml)を純水中でミセルベースで1~64μg/mlの範囲の濃度に連続的に希釈した。
試料を、532nmレーザーを備えたZetasizer(Malvern Instruments Limited, U.K.)にロードし、散乱光を173°の角度で検出した。
【0052】
薬物放出プロファイルのさらなる特徴付けは、透析法によって行った。具体的には、トラニラスト/m(ミセルベースで1mg/ml)を、20%血清を含有する1mlのPBS(pH 7.4)中で、CMC(4μg/ml)未満、CMC(8μg/ml)付近およびCMC(32μg/ml)より上の最終濃度に希釈した。次いで、試料を透析バッグ(MWCO: 1万Da)に充填し、20%血清を含有する99mlのPBS(pH 7.4)に対して37℃で透析した。所定時点(2、4、8および24時間)において、透析バッグ内のミセル溶液から100μlをサンプリングし、400μlのDMSOと混合した。その後、採取した試料を0.45μmのフィルターで濾過した。その後、フィルタされたサンプルをHPLCシステム(列: TSKgel ODS-100V 5μm;移動相: DMF;検出器:340nmでのUV吸光度)にロードし、トラニラスト濃度を決定した。
【0053】
同系腫瘍モデルおよび治療プロトコル
マウス乳房腫瘍の同所性モデルは、すべて、8週齢のBALB/cおよびC57BL/6雌マウスの第3乳房脂肪体に、無血清培地40μL中に5×104 4T1またはE0771癌細胞を移植することによって作製した。マウスはキプロス神経遺伝学研究所から購入した。全てのin vivo実験は、キプロス共和国および欧州連合の動物福祉規則およびガイドライン(European Directive 2010/63/EEおよび動物の保護と福祉のためのキプロス法、法律1994-2013)に従って実施し、全ての学術機関の動物研究を監視するキプロスの国家当局であるキプロス獣医学委員会によって取得および承認された(No CY/EXP/PR.L2/2018、CY/EXP/PR.L14/2019、CY/EXP/PR.L15/2019、CY/EXP/PR.L03/2020)。
【0054】
原発腫瘍の増殖に対する各治療の抑制効果を、腫瘍容積によりモニターした。腫瘍の平面寸法(x、y)はデジタルキャリパーを用いて2~3日ごとに測定し、腫瘍体積は楕円体の体積から推定し、第3の寸法zがxyに等しいと仮定した。
【0055】
統計分析
データは、標準誤差を有する平均として提示される。統計学的有意性を検討するため、Student’s t検定を用いて群間を比較した。統計分析は、処置群と対照*との比較、およびトラニラスト/m 2mg/kgまたはトラニラスト/m-EPI/m 6mg/kgもしくは15mg/kg群と、他のすべての投与群**との比較を行った。p値が0.05以下を統計学的に有意とみなした。
【0056】
II.実験1-2
腫瘍微小環境の再プログラミングおよびナノ免疫療法の増強における高分子ミセルの優れた効果
<材料および方法>
CAFの初代培養
CAFは、米国国立がんセンター病院東部の外科的に切除された肺腺がん患者から入手した。5mm3の大きさを有する腫瘍を小片に切断し、10%ウシ胎児血清(FBS)および1%ペニシリンおよびストレプトマイシンを含む2mlの最低必須培地α(αMEM)を含む10cmのディッシュ上に播種した。組織を接着性線維芽細胞で囲んだ後に除去し、線維芽細胞をさらに数日間培養した。線維芽細胞が80%コンフルエントに達した段階で細胞を採取し、1×104細胞/cm2の濃度で再播種した。CAFは、5%のCO2を含む大気中、37℃で培養した。標本採取は、国立がんセンターの施設内審査委員会(IRB No. 2005-043)によって承認された。
【0057】
インビトロでのトラニラスト処理
腺癌を確立し、インビトロアッセイに使用した。
ELISAアッセイ:8×104細胞のCAFを、10% FBSを添加した1mlαMEM中(24ウェルプレート)、37℃、5%CO2で24時間維持した。培地吸引後、CAFを、0.01mg/mlの最終濃度で無血清培地溶液中に希釈した1mlの遊離トラニラストまたはPEG-PBLGミセルのいずれかと共にインキュベートした。また、未処理対照条件(薬物を含まないCAF)は、バックグラウンド較正に使用した。培養上清中の分泌されたTGF-βを、ヒトTGF-β1 ELISAキット(KE00002、プロテインテック社)を用いて、製造業者の説明書に従って6、24および48時間で測定した。
【0058】
RNA単離、gDNA除去、cDNA合成、およびリアルタイムPCR
ヒトCAFまたはE0771腫瘍組織から、NucleoSpin RNA Plus (MACHEREY-NAGEL)を使用して全RNAを単離し、gDNA Eraser (TaKaRa)を有するPrimeScript RT試薬キットを使用してgDNA除去およびcDNA合成を行った。リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応は、TB Green Prime Ex TaqII (TaKaRa)を用いて行った。Thermal Cycler Dice Real Time System III (TaKaRa)を用いて、95℃30秒、95℃5秒、60℃30秒、95℃15秒、60℃30秒、95℃15秒、ステップ2~3、40サイクルの条件で反応を行った。
【0059】
リアルタイムPCR解析と群間遺伝子発現変化のΔΔCt 法を用いて、算出を行った。GAPDH (ヒト遺伝子発現用)およびβアクチン(マウス遺伝子発現用)の発現に基づいて、相対的遺伝子発現を正規化した。qPCR分析のために、処理ごとに3つの生物学的試料を使用し、各試料について2~3回繰り返した。遺伝子発現解析に用いた特異的ヒトプライマーは、以下の通りである。
【0060】
TGF‐βプライマー: フォワード5'‐TCCTGGCGATACCTCAGCAA‐3'(配列番号1)およびリバース5'-GCTAAGGCGAAAGCCCTCAA‐3'(配列番号2)
GAPDHプライマー: フォワード5'‐GCACCGTCAAGGCTGAGAAC‐3'(配列番号3)および リバース5'‐TGGTGAAGACGCCAGTGGA‐3’(配列番号4)
【0061】
遺伝子発現分析に用いた特異的マウスプライマーは以下の通りである。
Col1A1: フォワード5’-GAGCGGAGAGTACTGGATCG-3’(配列番号5)、リバース5’-GTTCGGGCTGATGTACCAGT-3’(配列番号6)
HAS2: フォワード5’-ATAAGCGGTCCTCTGGGAAT-3’(配列番号7)、リバース5’-CCTGTTGGTAAGGTGCCTGT-3’(配列番号8)
HAS3: フォワード5’-TTCCAAACCTCAAGGTGGTC-3’(配列番号9)、リバース5’-TGCTACGCCACACAAAGAAG-3’(配列番号10)
B-actin: フォワード5’-GACGGCCAGGTCATCACTAT-3’(配列番号11)、リバース5’-AAGGAAGGCTGGAAAAGAGC-3’(配列番号12)。
【0062】
4T1 CAFからの細胞取り込みおよびTGF-β分泌
4T1 CAFは、原発性マウス4T1腫瘍から単離した。同所性4T1腫瘍(平均腫瘍体積約200 mm3)を有するBALB/c雌マウスから腫瘍を採取した。腫瘍を細切し、0.1%I型コラゲナーゼ、10% FBSおよび1%ペニシリンおよびストレプトマイシンを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)培地で37℃で3時間消化した。細胞懸濁液を100μmストレーナーを通して濾過し、遠心分離した。
【0063】
次いで、ペレットを補完RPMI1640培地に再懸濁し、フラスコ中で培養した。フラスコ底部に20分以内に付着した細胞をCAFとして認識し、浮遊細胞を除去した。この単離プロセスを3回繰り返して、精製CAFを得た。CAFによるトラニラストまたはトラニラスト/mの細胞取り込みを検出するために、CAFを24ウェルプレート(1ウェルあたり1mlの培地中に106細胞)に播種し、トラニラストまたはトラニラスト/m(10μg/mlトラニラスト当量)と共にインキュベートした。所定時点で、培養培地を除去し、細胞を1mlのDMSO中に回収した。
【0064】
懸濁試料を37℃で30分間超音波処理した後、遠心(10000g×10分)して細胞破砕物を除去し、HPLCシステム(固相: TSKgel ODS‐100V 5μm;移動相: DMF;検出器: UV吸光度340nm)にロードした。TGF-β分泌を測定するために、CAFを96ウェルプレート(ウェルあたり100μlの培地中に2×10 4個の細胞)に播種し、トラニラストまたはトラニラスト/m(10、0.1mg/mlトラニラスト当量)と共にインキュベートした。24または48時間のインキュベーション後、培養上清を回収し、ELISAキットによるTGF-βコンサーテーションを測定した。
【0065】
同系腫瘍モデルおよび治療プロトコル
トラニラスト用量反応試験
C57BL/6雌マウスに対し、同所性のE0771腫瘍を体積100mm3まで増大させ、治療前に以下の5群(1群あたりn=5)にランダム化した。
対照、遊離トラニラスト200mg/kg、遊離トラニラスト2mg/kg、トラニラスト/m 4mg/kgおよびトラニラスト/m 2mg/kg。
【0066】
1% NaHCO
3(対照)および200mg/kgの遊離トラニラストはガベージを介して投与し、2mg/kgの遊離トラニラストは静脈内(i.v.)で毎日6日間投与した。4mg/kgのトラニラスト/mは1日おきに静脈内投与し(合計3回の注射)、2mg/kgのトラニラスト/mは毎日6日間投与した。治療プロトコルを
図8に示す。
【0067】
同所性乳癌モデルにおけるエピルビシンの抗腫瘍活性
4T1およびE0771腫瘍細胞の調製および接種は上記のように行った。腫瘍が100 mm3の平均体積に達したところで以下のように4つの群(群あたりn=10)に分けた。
対照(NaHCO3)、トラニラスト/m(2mg/kg)、EPI/m(6mg/kg)およびトラニラスト/m-EPI/m。
【0068】
NaHCO
3およびトラニラスト/mは、マウスの静脈内に毎日6日間投与した。腫瘍が平均体積300 mm
3に達した段階で尾静脈注射によりEPI/mを2回投与した(すなわち、E0771腫瘍では18日目および22日目、4T1腫瘍では17日目および21日目)。対照群の腫瘍が800 mm
3まで増殖した後、原発腫瘍および肺臓を摘出し、さらなるプロセシングまで-80
oCで1x PBS中に保存した。治療プロトコルを
図9に示す。
【0069】
同所性乳癌モデルにおける免疫療法の抗腫瘍活性
100 mm3のE0771腫瘍を有するマウスを以下の群(n=8~10/群)に無作為化して各試薬を投与した。
NaHCO3/IgG(対照群、i.v.)、
トラニラスト/m(2mg/kg、i.v.)、
EPI/m(6または15mg/kg、i.v.)またはドキシル(3mg/kg)、
抗PD-1(10mg/kg)/抗CTLA-4(5mg/kg)、
トラニラスト/m-EPI/m(6または15mg/kg)またはトラニラスト/m-ドキシル(3mg/kg)、
トラニラスト/m-抗PD-1(10mg/kg)/抗CTLA-4(5mg/kg)、
抗PD-1(10mg/kg)/抗CTLA-4(5mg/kg)-EPI/m(6または15mg/kg)、または
トラニラスト/m-抗PD-1(10mg/kg)/抗CTLA-4(5mg/kg)-ドキシル(3mg/kg)。
【0070】
NaHCO
3およびトラニラスト/mのマウスへの尾部静脈注射は、3日間(第11日、第12日および第13日)行った。図#3のスキームに示されるように、EPI/mは静脈内投与し、他方、ICBカクテルは、そのIgG希釈剤が3日毎(14、17および20日目)に腹腔内(i.p.)に投与した。15、16、18および19日目には、トラニラスト/mの第2ラウンドの注射を行った。処置プロトコールの完了後1日間、平均600mmの
3の原発腫瘍を除去し、さらなる実験に供した。治療プロトコルを
図10に示す。
【0071】
マウスE0771再投与
トラニラスト/m-ICB-EPI/m試験における免疫学的記憶の評価:
薬物処置後に完全な反応を示したマウスが免疫学的記憶を示したかどうかを調べるために、本発明者らは、最初の処置から115日後にE0771癌細胞(5×104細胞)の同所性接種をマウスに再投与した。対照群として、本発明者らは、トラニラスト/m-ICB-EPI/m処置群の生存マウスと同じ年齢の5匹のマウスを使用した。
【0072】
トラニラスト/m‐ICB‐ドキシル試験における免疫学的記憶の評価:
トラニラスト/m‐ドキシル‐ICB(n=8)およびトラニラスト/m‐ドキシル(n=3)併用療法群由来の無腫瘍マウスに、初回腫瘍注射から90日後にE0771TNBC細胞を対側乳房脂肪パッド(左)に、そして130日後にMCA205線維肉腫細胞(2.5×105)を右側腹部にチャレンジした。同年齢のナイーブC57BL/6マウスに、MCA205またはE0771腫瘍細胞を皮下注射して、これを対照として使用した。
【0073】
同所性乳癌原発腫瘍におけるトラニラストミセルの蓄積
100mm3の同所性4T1腫瘍を有するBALB/c雌マウスを2群(1群あたりn=5マウス)に無作為化し、NaHCO3(対照)または2mg/kgのトラニラスト/mで5日間処置した。処置の6日目に、全てのマウスにCy5標識トラニラスト/m(2mg/kg)を静脈内注射し、イソフルランで麻酔し、640nm励起および710nm発光波長で5秒間、20%励起パワーで走査した。ナノ粒子の生体内分布は、AMI-HTイメージングシステムを用いて、注入後3、6、12および24時間で評価した。次いで、マウスから原発腫瘍を抽出し、画像化した。
【0074】
血漿サンプル中のトラニラストの検出
トラニラスト/mを、4匹のBALB/cマウス(9週間、雌)に尾静脈(トラニラストベースで2mg/kg)で注射した。所定の時点(0.5、2、6、10および24時間)で、マウスを3%イソフルラン酸素流中で麻酔し、50μlの血液試料を眼窩後に採取し、予めヘパリン処理したチューブに保存した。500g×15分で血液を遠心分離した後、血漿サンプルを採取した。血漿サンプルをDMSOで5倍希釈し、次に0.45μmフィルターに通してHPLC(固体相: TSKgel ODS-100V 5μm、移動相: DMF、検出器: UV吸着340nm)に取り込み、トラニラスト濃度を検出した。
【0075】
間質液圧
組織液圧(IFP)はマウスにアベルチンを腹腔内注射し、腫瘍切除の前に麻酔した後、先に記載したウィック・イン・ニードル法を用いてインビボで測定した3。
【0076】
原子間力顕微鏡(AFM)
用量反応試験の完了後、E0771腫瘍を、以前に設計されたプロトコール3にいくつかの修正を加えてAFM試験で分析した。具体的には、試料を採取し、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Complete Mini, Roce Dianostics GmbH、10ml当たり1錠)を補充した氷冷PBSに直ちに移した。次いで、各試料を、2成分の速乾性エポキシ接着剤の薄層を有する35mmプラスチック細胞培養ペトリディッシュ上に固定化した。ディッシュにプロテアーゼ阻害剤カクテルを添加したPBSを充填し、組織分解4, 5を避けるために4℃で保存した。
【0077】
AFM測定は、市販のAFMシステム(Molecular Imaging-Agilent PicoPlus AFM)を用いて、腫瘍除去の1~72時間後に実施し、剛性プロファイルの変化を防止した。測定は、窒化ケイ素カンチレバー(MLCT-Bio、カンチレバーD、Bruker Company)を用いて行った。最大荷重力を1.8nNに設定し、カンチレバーの正確なばね定数kを熱同調法を用いて測定し、ペトリディッシュを無限剛性標準物質6として用いて、たわみ感受性を測定した。試料当たり10~15個の20×20μm2の異なった力マップ(force map)(16×16点格子)を記録することにより、AFM計測を行った。これは画素寸法1.25μmのマップ当たり256個の力変位曲線(試料当たり3840個までの力変位曲線)に対応する。収集された力マップはヘルツモデルを用いて試料のヤング率を計算するために、AtomicJ 7によって分析した。
【0078】
Ex-vivo弾性測定
トラニラストの用量反応試験のために、E0771腫瘍の弾性率を、非拘束圧縮実験プロトコールを用いて測定した。原発腫瘍または肉眼的に転移性の結節の切除後、標本を高精度機械試験システム(Instron, 5944, Norwood, MA, USA)に載せ、0.1mm/分の歪み速度で30%の最終歪みに圧縮した。原発腫瘍標本の大きさは3×3×2mm(長さ×幅×厚さ)であり、全腫瘍サイズの約1/3に等しいが、転移性結節はサイズが小さいために全体として試験した。重要なことに、腫瘍周辺からの組織は、誤った結論を導く可能性があるコラーゲン被膜に対応する測定を行うことを避けるために除外した。弾性率は、25~30%ひずみ領域での応力‐ひずみ曲線の傾きから計算した8。
【0079】
In vivo弾性測定
In vivoで腫瘍の弾性特性を評価するために、臨床走査用に承認されているeL18-4リニアアレイを備えたPhilips EPIQ Elite Ultrasoundスキャナーで剪断波エラストグラフィーを使用した。この手法は、音波プッシュパルスを用いて組織にせん断波を適用した後に、二次元弾性係数カラーマップを生成する9。エラストグラフィ撮像を実行するとき、最適せん断波伝播の信頼度マップ強調がされた領域が生成され、剛性値マップにわたる品質の指標を提供する。従って、最も高いせん断波品質を有する関心領域(ROI)の領域の弾性率値を得た。結果に示される弾性率値は、腫瘍領域(ROI)内の平均である。
【0080】
EPI/m試験のために、E0771腫瘍の剪断波イメージングは、トラニラスト/mおよびEPI/m処置の前に、E0771については処置後11日目、18日目および24日目に、そして4T1モデルについては11日目、17日目および24日目に行った。トラニラスト/m-EPI/m(またはドキシル)-ICB試験のためのE0771腫瘍の超音波イメージングは、エピルビシンミセル投与前に、エピルビシン処置後14日目および21日目に実施した。組織弾性に対するエピルビシンミセルおよびICBの複合効果を評価するために、任意の処置および腫瘍除去の前に超音波を実施した。
【0081】
蛍光免疫組織化学
腫瘍試料を1×PBS中で10分間2回洗浄し、4% PFAと共に4℃で一晩インキュベートした。固定液を吸引し、試料を1x PBS中で10分間2回洗浄した。固定された組織を、クライオモールド(Tissue-Tek)中の最適切断温度化合物中に包埋し、-20℃で完全に凍結した。Tissue-Tek Cryo3(SAKURA)を用いて、横断30μm厚の腫瘍切片作製した。陽性荷電HistoBond顕微鏡スライド(Marienfeld)を使用して、腫瘍あたり4つの組織切片を結合させた。
【0082】
コラーゲンIおよびヒアルロン酸検出のために、腫瘍切片をブロッキング溶液(10%ウシ胎児血清、3%ロバ血清、1× PBS)中で2時間インキュベートし、次いでウサギ抗コラーゲンI(ab4710、Abcam、1:100)およびヒツジ抗ヒアルロン酸(ab53842、Abcam、1:100)一次抗体で4℃で一晩免疫染色した。翌日、スライドを1x PBS中で洗浄し、Alexa Fluor-647抗ウサギIgG(h+L)(A21244、Invitrogen、1:400)およびAlexa Fluor-488 IgG(h+L)(A11015、Invitrogen、1:400)二次抗体およびDAPI染色(Sigma、1:100の1mg/mLストック)と共に、室温(RT)にて暗所で2時間インキュベートした。切片を、ProLong gold antifade mountant(Invitrogen)を使用して顕微鏡スライド上に載せ、ガラスカバースリップで覆った。
【0083】
E0771原発性腫瘍の機能的血管系は、アベルチン(200mg/kg)の腹腔内注射、および100μlのビオチン化リコペルシコンエスクレンタムレクチン(7分間体中に分布)4mg/kg、B-1175、Vector Labs)の心臓内注射によるマウスの麻酔後に評価した。次に、マウスから切除した腫瘍を固定し、IHC解析を行った。血管数は内皮マーカーCD31(MEC13.3、BD Pharmingen、1:100)の陽性染色から測定し、潅流血管画分は、レクチンおよびCD31重複染色対CD31陽性染色の比として決定した。CD31シグナルは、Alexa Fluor-647 Goat Anti-Rat IgG(H+L)(A21247, Invitrogen, 1:400)二次抗体およびStreptavidin Alexa Fluor 488コンジュゲート(S11223, Invitrogen, 1:1000)を用いたレクチン染色により検出した。
【0084】
CAF評価のために、E0771腫瘍を固定し、連続するアルコールステップおよびキシレンで脱水した。その後、腫瘍をパラフィンに包埋した。7μmのパラフィン組織切片を、ミクロトーム(Accu-Cut SRM 200 Rotary Microtome, SAKURA)を用いて作製し、水中に広げ、37℃で一晩乾燥させた。次いで、切片を脱パラフィンし、組織学のために日常的に処理されるように再水和した。CAF増殖は、抗原回収およびブロッキング(10% FBS、1×PBS中3%ロバ血清)後のαSMA(ab5694、Abcam、1:50)タンパク質およびビオチン化Ki67(13-5698-82、Invitrogen、1:100)の存在について免疫染色することによって評価した。
【0085】
一次抗体と共に4で一晩インキュベートした後、組織切片をTBS-T中で洗浄し、(A31572, Invitrogen, 1:400)およびストレプトアビジンAlexa Fluor 488コンジュゲート(S11223, Invitrogen, 1:1000)およびDAPI染色と共に室温で2時間インキュベートした。次いで、組織切片を顕微鏡スライド上に載せ、STELLARIS 5共焦点顕微鏡を用いて写真を撮影した。マウスごとに1つの腫瘍切片を評価し、組織切片ごとに22~30の画像視野を捕捉した。単一の組織切片から生成された全画像フィールドの平均信号強度を定量化のために使用した。
【0086】
組織学的画像
腫瘍切片の腫瘍内部および周辺の染色画像は、Olympus BX53蛍光顕微鏡を使用して、10倍の倍率で取得した。定量化を可能にするために、同じ染色画像を同じ設定で撮影した。画像は、MATLAB(登録商標)(MathWorks, Inc., Natick, MA, USA)におけるカスタムアルゴリズムおよび組み込み(built-in)アルゴリズムを用いて分析した。
【0087】
肺転移の定量
処置プロトコール(
図9)の完了後、肺を切除し、ブアン液中で72時間固定し、肺表面転移を淡黄色で同定した。全ての可視化された表面転移を、マスキング計数によって定量化した。
【0088】
ヘマトキシリンおよびエオシン
試験エンドポイントでE0771細胞を再投与したマウスから切除した肺を4% PFAに固定し、一連の段階的エタノール洗浄により脱水し、パラフィンに包埋した。マイクロトーム(Accu-Cut SRM 200 Rotary Microtome, SAKURA)を用いて、横断7μm厚の組織切片を作製し、水中に平らにし、37℃で一晩乾燥させた。次いで、切片を脱パラフィンし、再水和し、Harrisヘマトキシリン(Sigma)で10分間染色し、次いで、それらがピンクになるまでエオシン(Sigma)と共にインキュベートした。
【0089】
フローサイトメトリー
処置の21日目に、E0771乳房腫瘍(処置群あたりn=5~10)を1x PBS中で採取し、細かい断片に細かく刻み、Accumax(Millipore)と共に1時間、室温でエンドオーバーエンドシェーカーでインキュベートした。10% FBSおよび1%抗生物質/抗真菌溶液を含有するRPMI培地を添加して酵素消化を停止した。得られた組織ホモジネートを40μmのセルストレイナーを通して濾過し、単一細胞懸濁液を回収し、カウントした。次いで、細胞懸濁液を、生細胞のゲーティングのために、固定可能な生存性色素(Invitrogen)と共にインキュベートした。
【0090】
ラット抗マウスCD16/CD32 mAb(BD Bioscience)と共に室温で10分間インキュベートした後、非特異的抗体結合をブロックした。試料当たり1×106個の細胞を、様々な蛍光色素コンジュゲート抗体で標識し、洗浄し、1% BSA、1×PBS緩衝液に再懸濁した。実験に用いた抗マウス抗体は以下の通りである。
CD4-AF700(GK1.5、BioLegend)、CD127-APC(A7R34、BioLegend)、CD8a-V450(53-6.7、eBioscience)、CD45-V500(30-F11、BD Bioscience)、CD25-PE-Cy7(PC61.5、BD Bioscience)、CD3-PE/Dazzle 594(145-2C11、BD Bioscience)、CD11b-e450(M1/70、eBioscience)、Gr-1-PE(RB6-8C5、BioLegend)、F4/80-APC(BM8、BioLegend)、CD206-PE-Cy7(C068C2、BioLegend)、MHCII-FITC(M5/115.2.BioLegend)。
【0091】
フローサイトメトリーデータは、BD FACSAriaTMIIIフローサイトメーターを使用して得られ、BD FACS Suiteソフトウェアを使用して分析した。提示されたデータは単一の生細胞を代表するものである。
【0092】
実験1-2における参考文献
1. Wong, C. et al. Multistage nanoparticle delivery system for deep penetration into tumor tissue. Proceedings of the National Academy of Sciences 108, 2426-2431 (2011).
2. Popovic, Z. et al. A nanoparticle size series for in vivo fluorescence imaging. Angewandte Chemie 122, 8831-8834 (2010).
3. Stylianou, A., Lekka, M. & Stylianopoulos, T. AFM assessing of nanomechanical fingerprints for cancer early diagnosis and classification: from single cell to tissue level. Nanoscale 10, 20930-20945 (2018).
4. Tian, M. et al. The nanomechanical signature of liver cancer tissues and its molecular origin. Nanoscale 7, 12998-13010 (2015).
5. Plodinec, M. et al. The nanomechanical signature of breast cancer. Nature nanotechnology 7, 757-765 (2012).
6. Stylianou, A., Gkretsi, V., Patrickios, C. S. & Stylianopoulos, T. in Fibrosis 453-489 (Springer, 2017).
7. Hermanowicz, P., Sarna, M., Burda, K. & Gabrys, H. AtomicJ: an open source software for analysis of force curves. Rev. Sci. Instrum. 85, 063703 (2014).
8. Voutouri, C. & Stylianopoulos, T. Accumulation of mechanical forces in tumors is related to hyaluronan content and tissue stiffness. PloS one 13, e0193801 (2018).
9. Sigrist, R. M., Liau, J., El Kaffas, A., Chammas, M. C. & Willmann, J. K. Ultrasound elastography: review of techniques and clinical applications. Theranostics 7, 1303 (2017).
【0093】
III.結果
トラニラストミセルの特徴付け、並びにヒトおよびマウスCAFにおける線維症シグナル伝達の低減能
PEG-b-ポリ(ベンジル-L-グルタミン酸)コポリマー(PEG-PBLG)(PEGのMw:12,000;PBLGブロックの重合度: 40)およびテドラヒドロフラン(THF)中のトラニラストを混合することによって、トラニラスト内包ミセルを調製した(
図1a)。次に、混合物中のTHFをロータリーエバポレーターを用いて蒸発させ、MilliQ水を用いてポリマーおよびトラニラストを再懸濁して、トラニラスト内包ミセル(トラニラスト/m)を形成した。ミセルを超音波処理し、0.22μmフィルターを用いて濾過した。ミセル中に内包されなかった遊離トラニラストは、水に対する透析により除去した。ミセルを動的光散乱
31で評価したところ、平均粒径が約95nm、多分散指数が0.12に近く、バッチ間のばらつきは最小であった(
図1b)。また、異なるバッチ間において同様の薬物内包効率および薬物/ミセル比が観察された(
図11a~b)。。
【0094】
pH 7.5でのミセルのZ電位は、中性(-0.74 mV)に近いと決定された。ミセル中のトラニラストの薬物内包は、340nmでのトラニラストのUV吸光度を使用することにより、トラニラストの重量/PEG-PBLG比の重量で10%であると計算された。
さらに、ミセルは、4℃で4週間にわたって高い安定性を示し、サイズおよび多分散性指数値は元の値に似ており、溶液中に沈殿は示さなかった(
図11c)。サイズの適切な安定性はまた、PBSおよび50%血清条件の両方においてより低濃度への希釈後に確認された(
図11d)。これは、生理学的環境における上記ミセルの安定性をさらに支持するものである。
【0095】
次に、散乱光強度を測定することにより、ミセルの臨界ミセル濃度(ミセル構造を維持するために必要な最低濃度)を調べた。その結果、トラニラスト/mが8μg/mlの濃度(ミセルベース)になるまで直線的に低下したことを見出した。より低い濃度では、計数率対ミセル濃度の勾配が変化した(
図11e)。
臨界ミセル濃度が決定されたため、8μg/ml以下またはそれ以上の濃度が薬物放出に影響を及ぼすかどうかを調べた。この目的のために、本発明者らは、20%血清を含むPBS中、37℃で透析法により3つの異なる濃度(4,8および32μg/ml)でのトラニラスト放出を調べた。特に、トラニラストは、ミセルを4μg/mlで使用した場合、ミセルから急速に放出されたが、24時間のインキュベーション後、32μg/mlの濃度で10%未満の薬物放出が観察された。これらのデータは、臨界ミセル濃度を超える濃度が薬物放出を制限し、インビボ適用に適していることを示す。
【0096】
本発明者らは、ミセルの透過型電子顕微鏡観察を1%n酢酸で染色した後に行い (
図1c)、続いて血中トラニラスト/mの半減期を測定した。ミセルは遊離薬物と同じ動態を示さないので、ミセルに含まれるトラニラストの血漿クリアランスプロファイルをHPLCを用いて評価した(
図1d)。α相の半減期は約5.3時間であり、β相の半減期は約21.2時間であった。さらに、Vdは0.93mlと計算された。遊離トラニラストの薬物動態は以前に研究されており
32、遊離トラニラストの初回投与量の約98%が静脈内注射後2時間以内に消失することが示されている。したがって、本発明者らのトラニラスト/mは、薬物の血液循環およびバイオアベイラビリティを有意に改善すると言える。
【0097】
次いで、本発明者らは、遊離トラニラストと比較して、トラニラストを送達し、CAFにおけるTGF-β発現を阻害するためのPEG-PBLGミセル製剤の有効性を検討した。本発明者らは肺腺癌患者またはマウス乳房腫瘍(4T1)のいずれかからCAFを単離し、それらを遊離薬物またはTranilast/mのいずれかで異なるインキュベーション時間で処理した。
【0098】
その結果、トラニラスト/mは、マウスCAFにおいてインキュベーション時間とは無関係に、細胞取り込みを増加させ(
図1e)、TGF‐β濃度をより効果的に抑制する(
図1f)ことを示した。RT-qPCR法およびELISA法により、トラニラスト/mで処理したヒトCAFでは、遊離薬物と比較してTGF-β濃度が最も低下していることが確認された(
図1gおよびh)。
【0099】
トラニラスト/mの毎日の投与は、TME機械的調節および腫瘍潅流を最適化する
本発明者は、トラニラスト/mは、遊離トラニラストよりも有意に低い量を投与した場合でも、腫瘍間質の正常化を増強し得るという仮説を立て、その検証を行った。
同系同所性のトリプルネガティブ乳房腫瘍を有するマウスに遊離トラニラストまたはトラニラスト/mのいずれかを投与した。遊離トラニラストは、200mg/kgの最適用量で経口的に毎日18, 25、または2mg/kgの用量で静脈内注射(i.v.)により毎日投与した。トラニラスト/mは、2mg/kgの毎日投与または4mg/kgの隔日投与の2つのプロトコルに従ってi.v.投与した。6日間の治療終了時にはすべてのi.v.プロトコルを通して同用量のトラニラストが投与された。
【0100】
これまでの結果と一致して、トラニラストの用量はいずれも腫瘍体積に有意な影響を及ぼさなかった(
図12a)。先ず、TMEの正常化に対する種々のトラニラスト処置の効果を、物理的特性、特に間質液圧(IFP)および組織剛性の観点で調べた。2つのTranilast/mプロトコルから、本発明者らは1日2mg/kg用量のみが、それぞれ、ウィックインニードル技術およびex vivoストレス-歪み実験によって測定されるように、IFPおよび腫瘍弾性率を減少させることを見出した(
図2a、b)。
【0101】
組織におけるこれら2つの物理的性質の減少は、200mg/kgで経口投与した遊離トラニラストによって引き起こされた減少と比較して統計学的に有意であったが、遊離トラニラストの静脈内注射は影響を及ぼさなかった。
【0102】
腫瘍の弾性特性の変化をさらに試験するために、本発明者らは、剪断波エラストグラフィー(SWE)を用いたトラニラスト治療中の腫瘍剛性をモニターした(
図12b)。トラニラスト処置の開始前(癌細胞の移植後12日目)に、全てのグループからの腫瘍は、約30kPaの平均弾性率の変化を示さなかった。しかし、処置の終わりに、SWEで測定した弾性率値は、ex vivo応力‐歪実験で得られたものと定量的に類似していた。2mg/kgのトラニラスト/mを受けた群は、他の全ての群と比較して、弾性率の統計的に有意な減少を有した。実験終了時に原子間力顕微鏡およびナノメカニカル分析を実施し、200mg/kg遊離薬物および2mg/kgトラニラスト/mのみが腫瘍の硬さの低減に効果を有することが肉眼的観察により確認された(
図12c)。
【0103】
本実施例で考察した腫瘍モデル等の線維形成性腫瘍における間質液圧の上昇と剛性は、ヒアルロン酸とコラーゲンレベルに大きく依存する
33,34。蛍光免疫染色を用いて、これら2つの重要な構造成分の濃度を評価した(
図2c-f)。実際、ヒアルロン酸とコラーゲンIのタンパク質レベル(
図2d、f)とmRNA発現
図12c)の減少が認められた。有意に、本発明者らは、トラニラスト/m処置が遊離トラニラストと比較してコラーゲンレベルをより効果的に抑制することを示した。腫瘍の組成および剛性におけるこれらの変化を考慮して、本発明者らは、血管潅流の異常が回復されるのであろうと推論した。
【0104】
抗CD31抗体および潅流動物に投与したビオチン化Lycopersicon esculentum lectinと相互作用するストレプトアビジン結合体を用いた内皮細胞の免疫染色により、血管潅流の改善が確認された(
図2g, h)。この血管機能の増強は、血管直径の増加とも関連していたが(
図12f)、一方、全CD31シグナルに一貫した変化は認められず、トラニラスト/mが新しい血管の新規形成よりもむしろ血管減圧を促進することによってそれらの効果を発揮することを示した(
図12e)。血管直径および潅流血管面積の増加は、遊離薬物と比較して2mg/kgトラニラスト/mで統計的に有意であった。
【0105】
最後に、本発明者らは、トラニラスト/mの高用量であるが低頻度の用量が低用量および高頻度の投与と比較して、TMEの調節に影響を及ぼさないという知見についての説明を提供することを目的とした。本発明者らは以前に開発した腫瘍
35へのナノ粒子送達の数学的模型を用い、トラニラスト/m投与の実験プロトコールをシミュレートした。3サイクルの治療後、トラニラストの腫瘍内濃度は、4mg/kgトラニラスト/m(
図12g)と比較して、2mg/kgトラニラスト/mの場合により持続的であり、より高いレベルであった。これは、より高用量でより低頻度が正常化効果を誘導することができないことについての合理的な説明となる。
【0106】
以上のことから、トラニラストミセルは腫瘍微小環境への正常化をより効果的に引き起こし、トラニラスト投与の量を2桁減少させることができると結論付けることができる。
【0107】
トラニラストミセルは細胞毒性ナノ医療の均一な蓄積および抗腫瘍効果を増強し、肺転移を減少させる
続いて、本発明者らは、トラニラスト/mがナノ粒子製剤の送達および抗腫瘍効果を改善する能力について検討した。以前の研究において、100nmより大きい粒子の腫瘍内送達は、腫瘍部位への粒子の運搬を阻害する血管の非効率、および腫瘍へのそれらの深い浸透を阻害する密な細胞外マトリクスのために、困難であることを見出した36-38。
【0108】
本実施例では、全身蛍光イメージングを用いて100nmミセルの送達を調べた。具体的には、4T1腫瘍を有するBALB/cマウスを、トラニラスト/m(2mg/kg、毎日)または対照のいずれかで6日間前処置し、次いで、同じ組成のCy5標識のトラニラスト不含ミセルの静脈内注射を行った。トラニラスト/m処置は、腫瘍部位におけるミセルの増加およびより均一な蓄積をもたらし(
図13)、線維形成性腫瘍へのナノ製剤の送達を最適化する際の正常化剤としての重要性が強調される。
【0109】
次に、Tranilast/mと組み合わせた100nmエピルビシン内包ミセル(EPI/m)の細胞毒性効果を調べた。EPI/m (NC-6300としても知られている)は前臨床試験において様々な固形腫瘍に対して高有効性および安全性を示しており、現在、第I/II相臨床試験(NCT03168061)
39において評価されている。4T1およびE0771の両方の同所性腫瘍モデルを用い、治療プロトコルを
図3aに示す。
【0110】
マウスをトラニラスト/mまたは対照で6日間毎日処置し、次いで6mg/kgのEPI/mの2用量を投与した。トラニラスト/m-EPI/mの併用はE0771および4T1モデルの両方において原発腫瘍の増殖を50%以上抑制したが、一方、単独療法は有意な増殖阻害効果を誘導することができなかった(
図3b、cおよび
図14a、b)。さらに、超音波エラストグラフィー
22を用いて、E0771および4T1腫瘍の弾性率がそれぞれ20および15kPaに有意に低下したので、トラニラスト/m処置によって引き起こされる腫瘍剛性の低下をインビボで確認した。本発明者らはまた、EPI/m単独療法後に剛性の5~10%の減少を観察したが、これはおそらく、細胞を直接死滅させ、腫瘍内細胞含有量を減少させるそのようなアントラサイクリンの細胞毒性能力によって説明される(
図3d、e、および
図14c、d)。
【0111】
以前の研究によれば、EPI/mは血管系
40を介してリンパ節転移を直接的に標的とすることができ、したがって、本発明者らはトラニラスト/mをEPI/mと組み合わせることが、肺大転移の生成を阻害し得ると仮定した。EPI/m単独療法は抗転移作用を示さなかったが、トラニラスト/mとの併用はE0771および4T1腫瘍モデルの両方において顕著な低発生率を誘導し(
図3f、gおよび
図14e)、体重、脾臓重量および胸腺重量によって示されるように、有意な毒性を示さなかった(
図155)。これらの観察は、トラニラスト/mによって誘導される腫瘍微小環境の正常化がEPI/m送達を促進し、転移性乳房腫瘍モデルにおける抗腫瘍効果を増強することを示唆する。
【0112】
トラニラストミセルはナノ免疫療法の有効性を改善する
多くの癌の低酸素微小環境が癌細胞が免疫監視を逃れ、免疫細胞の死滅可能性を減弱させることを可能にする不十分な免疫原性を特徴とすることを考慮して
3,5,6,41、本発明者らは、同所性E0771腫瘍におけるトラニラストミセルと共にエピルビシンナノ医療と組み合わせた免疫チェックポイントブロッカー(ICB)の抗腫瘍効力を探索した。ネオアジュバント設定と同様に、単剤療法または併用療法として、対照溶液(抗IgG、NaHCO
3、1xPBS)、トラニラスト/m(2mg/kg)、ICBカクテル(5mg/kg抗CTLA4、10mg/kg抗PD-1)およびEPI/mを2種類の用量(6または15mg/kg)で処置した(
図4a)。
【0113】
その結果、単独療法投与は腫瘍増殖および質量測定によって示されるように、抗腫瘍応答は不十分であった。ICBとEPI/m(6または15mg/kg)またはトラニラスト/mとの併用は、未処理対照群と比較して、それぞれ腫瘍体積の約20%および50%の減少に相当する治療効果を示した(
図4b)。
【0114】
いずれかの用量のEPI/mとのトラニラスト/mの同時投与は、6mg/kgの併用処置(約65%の腫瘍退縮)でトラニラスト/m-ICB-EPI/mで観察されたものと同様に、より強力な抗腫瘍活性を誘導した。
【0115】
トラニラスト/mと、ICB、EPI/m、またはこれら2剤の組み合わせとの相乗効果は、腫瘍量の減少にも明らかであった(
図4c)。さらに、超音波エラストグラフィーを用いて腫瘍剛性を測定し、ICBおよびEPI/mの有効性の変化がTMEのこの物理的パラメータに関連することを確認した。トラニラスト/mを受けた全てのマウスは、約20kPaの弾性率に対応する組織剛性の同じ減少を示した。この減少はICBおよび/またはEPI-m処置を通して一定のままであり、ICBもEPI-mも単独では支持腫瘍間質組成物に機械的に介入することができないという本発明者らの結論をさらに支持した(
図4d、
図16a)。いずれの動物も、異なる処置後に有意な体重減少を示さなかった(
図16b)。
【0116】
EPI/mが現在臨床評価中であることを考慮して、転移性乳癌のための既に承認されたナノ医薬であるドキシルの組合せが同様の抗腫瘍応答を示すかどうかを調べた。注目すべきことに、本発明者らはトラニラスト/mが腫瘍体積の減少(
図17a~c)によって実証されるように、ICBおよびドキシル抗腫瘍活性の両方を増強し、また、ドキシルまたはEPI/mのいずれかとトラニラスト/mとの組合せも、各研究の未処置対照と比較して、腫瘍体積を67%減少させたことを見出した。
【0117】
超音波エラストグラフィーを用いて組織の硬さをモニタリングし、治療中の腫瘍の機械的特性の変化を確認した(
図17d)。これらの結果に基づいて、本発明者らは、腫瘍の弾性率が治療に対する腫瘍の応答と相関し、したがって、治療予測のための潜在的な機械的バイオマーカーになると仮定した。これを探索するために、本発明者らは、処置開始前に測定された腫瘍の弾性率の関数として、処置開始前の腫瘍体積と比較した、様々な治療の終了時の腫瘍体積の相対的変化をプロットした。エピルビシンミセル試験単独(
図4e)またはエピルビシンミセルとドキシル試験の両方の結果(
図17e)からのデータを考慮しても、ナノ医療(EPI/mおよびドキシル)または免疫療法のいずれか、またはこれら2つの組み合わせのいずれかの治療の有効性と腫瘍剛性の線形相関が存在する。
【0118】
最後に、トラニラスト処理がCAF活性に直接的な影響を及ぼすかどうかを調べた。これは、細胞外マトリックスのリモデリングを介して報告された腫瘍剛性の低下を引き起こす可能性がある。腫瘍切片を用いて、本発明者らは、CAFを、α平滑筋アクチン(αSMA)、腫瘍微小環境において筋線維芽細胞において高度に発現されるタンパク質、および増殖マーカーKi67で標識した。実際、本発明者らの知見は、トラニラスト/m単独または併用療法がCAFの集団および増殖の両方を減少させることを示す(
図18)。
【0119】
トラニラストミセルを細胞傷害性ナノ医療と組み合わせることは、T細胞浸潤を増強する
血管機能性および組織酸素化が免疫細胞浸潤および活性の増加
25に関連することを考慮して、本発明者らは、正常化腫瘍における免疫療法と併用した15mg/kgでのEPI/mの強力な抗腫瘍反応が腫瘍免疫原性の水準に依存するかどうかを調べた。フローサイトメトリー解析により、トラニラストによる腫瘍微小環境の初回刺激はCD4
+およびCD8
+ T細胞の蓄積とそれに伴う細胞傷害性/調節性T細胞比率の上昇によって示されるように、免疫療法の抗腫瘍反応を増強することが明らかになった(
図5、
図19)。
【0120】
特に、免疫刺激に対するこの効果は、エピルビシン共投与時により強くなり、このことは、対照腫瘍の「cold」の免疫排除表現型を高度に免疫原性に戻すことにおけるそのような併用治療の可能性を示す。したがって、トラニラストミセルの正常化効果は細胞傷害性ナノ医薬品の標的化送達を最適化する戦略としてだけでなく、免疫療法に対する腫瘍感作を増強するために免疫抑制腫瘍床を遮断するためにも使用できる。これは、骨髄由来抑制細胞(MDSC)の減少によって支持される(
図5d)。一方、腫瘍関連マクロファージ(TAM)のレベルは異なる処置で同じままであるが、免疫刺激性M1様亜集団への特異的分極はトラニラスト/m-ICB-EPI/m 15mg/kg処置マウスで増加する(
図5e、f)。
【0121】
トラニラストエピルビシンミセルの組み合わせは、全体の生存を増加させ、免疫記憶を誘導する
原発性腫瘍増殖および免疫原性データは細胞傷害性ナノ医療を正常化腫瘍における免疫療法と組み合わせることが、抗腫瘍免疫防御の回復を促進することを示した。この相乗効果が生存転帰と正の相関を示すかどうかを試験するために、本発明者らは治療プロトコルの完了後に原発腫瘍を外科的に切除し、治療中に潜在的に生じた自然転移に対するマウスの生存を評価することを目的とした。本発明者らはトラニラスト/m、15mg/kgでのEPI/mおよびICBカクテルとの併用処置がマウスの生存を有意に延長し、10匹中9匹が115日間生存し、一方、EPI/mのより低い用量(6mg/kg)は生存をより低い程度まで改善し、10匹中3匹が生存したことを見出した(
図6a)。
【0122】
転移形成の阻害における併用治療の有効性を検証するために、エピルビシンの高用量を投与されたマウス3匹から、肺における表面巨大転移を調べたが、その証拠は見出さなかった(
図20)。トラニラスト/m-ICB-EPI/m 6mg/kgおよび15mg/kg処置群の残りの3匹および6匹のマウスを、それぞれ、E0771細胞の第2の接種で再投与し、それらの個々の増殖速度を、同じ年齢の5匹の健康な対照マウスと比較した。注目すべきことに、腫瘍は全ての対照で発生したが、最初の実験で生存した併用処置マウスでは発生しなかった(
図6b)。
【0123】
最後に、再投与27日後に、ヘマトキシリンおよびエオシンによる組織染色によって肺転移を評価した(
図6c)。転移性病変は、有意に対照群でのみ検出され、マウスがエピルビシンとICBの併用治療後に持続的な長期抗腫瘍応答と免疫記憶の獲得を達成したことを示した。
【0124】
トラニラスト/mとナノ免疫療法との併用によって誘発される抗腫瘍応答の特異性および寿命の仮説をさらに裏付けるために、本発明者らは、エピルビシン治療をドキシルで置き換えた独立した生存試験を行った。この試験のために、マウスに5×10
4個のE0771細胞を0日目に同所的に注射し、以前と同じ処置プロトコールに従って処置した(
図10を参照)。21日目に原発腫瘍を摘出し、動物の生存率をモニターした。トラニラスト/m、ICBおよびドキシル単独療法ならびにICB-ドキシル併用療法による治療は、対照群と比較して、生存優位性または腫瘍退縮ももたらさなかった(
図7a)。
【0125】
トラニラスト/m-ICBによる処置は有意な利益を提供したが、マウスが完全な応答を達成するのに十分な強さではなかった。対照的に、トラニラスト/mとドキシルとの組み合わせはより強力な効果をもたらし、マウスの半数は完全な応答を示し、一方、3つ全ての薬物での処置は100%の生存をもたらす。90日目に、トラニラスト/m-ドキシルおよびトラニラスト/m-ドキシル-ICB併用群からの全ての生存マウスを、8匹のナイーブマウスの群と一緒に、E0771細胞でチャレンジした。予想通り、全ての未処置マウスが死亡した。最初のE0771チャレンジを生き残ったトラニラスト/m-ドキシル群の3匹のマウスのうち2匹は再チャレンジに対して抵抗性であったが、三重併用処置群の全てのマウスはE0771細胞を首尾よく拒絶した。130日目に、無関係のMCA205線維肉腫腫瘍株由来の2.5×10
5個の細胞を皮下注射して、無腫瘍マウスを再度チャレンジした。一群の未処置マウスを並行してチャレンジした。特に、いずれの群のマウスも、この無関係な腫瘍株を拒絶することができず、このことは、長期免疫記憶獲得が腫瘍特異的であることを示している(
図7b-d)。
【0126】
<考察>
がんにおける物理的微小環境の関与についての認識が高まっており、がんの物理的特性の起源および結果についていくつかの知見が得られている8,34,42。これらの知見は、細胞傷害性治療の前に、特異的な機械的治療法の使用を伴う機械的TMEの調節を含む新たな標的および治療方針をもたらした5,16。
【0127】
局所進行膵癌患者を対象としたロサルタンと化学放射線療法との併用療法の最初の成功例は、癌治療を改善するための新しい治療法の有用性を強調している16,28。科学的研究は、現在、患者特異的治療のためのTMEの機械的側面のモニタリング、ならびに機械療法および治療戦略の最適化された使用のための予測バイオマーカーの開発を含む、機械療法の最適化された使用に焦点を当てるべきである。
【0128】
この方向に向かって、本発明者らは、機械療法的トラニラストのミセルナノ製剤を開発した。2つの同系トリプルネガティブ乳房腫瘍モデル(4T1およびE0771)を用いると、トラニラストミセルは、遊離薬物の用量よりも100倍低い用量で投与された場合でも、遊離トラニラストよりも有効であることが見出された。トラニラストのミセル製剤はまた、エピルビシンミセルおよびドキシルの送達および有効性を増強し、免疫チェックポイント耐性を克服し、腫瘍免疫原性を誘導し、治療につながるナノ免疫療法の有効性を改善することが見出された。
【0129】
トラニラストは白血球減少症を誘発し、これは、不良な免疫チェックポイント抑制転帰を予測する43。トラニラストを、白血球減少症も誘発する化学療法と併用することにより、免疫チェックポイント阻害の有効性をさらに低下させることができる。したがって、全身作用を制限する化学免疫療法のための腫瘍正常化治療戦略を開発することは、医学的に緊急の課題である。
ナノキャリアは、腫瘍における選択的蓄積を介して遊離薬物によって誘発される毒性を減少させることができる44。
【0130】
本実施例では、PEG‐b‐ポリ(ベンジル‐L‐グルタミン酸)共重合体を用いてミセルに内包したトラニラスト(トラニラスト/m)を開発し、それが標準化に必要な用量を低減できるかどうかを試験した。さらに、好中球減少症45,46を制限するエピルビシン化学療法(EPI/m)のpH感受性ミセル製剤とトラニラストミセルを組み合わせた。
予期せぬことに、本発明者らは、トラニラスト内包ミセルが遊離トラニラストと比較して、乳房腫瘍モデルにおいて改善された正常化効果を誘導し、100倍の用量減少を可能にすることを見出した。トラニラストは、ヒトにおける約5時間の推定血中半減期を有する小分子であり47、これは、マウスではるかに短いと予想される。
【0131】
トラニラストをミセルに組み込むことにより、終末消失相の半減期を21.2時間まで有意に増加させることができ、その薬物動態特性をかなり改善した。ミセルは機械的腫瘍微小環境を正常化することができ、また、エピルビシンミセル蓄積を増強し、均一な腫瘍内ナノ粒子微小分布を達成し、トラニラストの癌関連線維芽細胞取り込みを増加させ、TGF-βシグナル伝達の減少をもたらした。トラニラストミセルは腫瘍誘発性免疫抑制シグナル伝達を阻害し、免疫「cold」な固形腫瘍におけるT細胞浸潤を増加させることが見出され、TGF-β標的化が、免疫チェックポイント遮断療法抵抗性を克服するための有望な戦略であることを示した。
【0132】
ICBは高分子(抗体)であり、腫瘍へのそれらの浸透も剛性によって損なわれることにさらに言及すべきであり、その結果、ナノ医薬と同様に、剛性が低下すると、それらは腫瘍をより良好に浸透する。重要なことに、トラニラストミセルをナノ免疫療法と組み合わせると、最高用量のエピルビシンミセルを投与された10匹のマウスのうち9匹、およびドキシルを投与された7匹のマウスのうち7匹において完全な治癒がもたらされた。これらの結果は、ナノ免疫療法の有効性を改善する機械療法の高い可能性を強調する。
【0133】
さらに、本発明者らの試験は、本発明者らの以前の知見22と同様に、腫瘍剛性に対する機械療法剤の影響をモニタリングし、またナノ医療、免疫療法、およびこれら2つの併用の治療成績を予測するため、臨床的に適用された超音波せん断波エラストグラフィーの適用性を示した。さらに、超音波とは別に、磁気共鳴エラストグラフィーは、脳腫瘍に焦点を当てて腫瘍の硬さを定量化することができる48。したがって、確立されたイメージング技術で測定された腫瘍剛性は免疫予測因子として考慮され、ナノおよび免疫療法に対する応答の潜在的なバイオマーカーとして、および機械療法治療の有効性をモニタリングするために有用である。
【0134】
<背景技術及び実施例1における参考文献>
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【0135】
[実施例2]
ピルフェニドン内包ミセル医薬の検討
<材料及び方法>
細胞培養
4T1(ATCC CR-2539)およびE0771(94A001, CH3 BioSystems)の乳癌細胞株は、10%のウシ胎児血清 (FBS, FB-1001H, biosera)および1%の抗生物質(A5955, Sigma)を補ったRoswell Park Memorial Institute Memodia Institute(RPMI-1640, LM-R1637, biosera)に保持した。細胞株は37℃で5% CO2中に保存した。
【0136】
薬物および試薬
医薬品:
ピルフェニドン(Esbriet(登録商標), Roche Pharmaceuticals, Switzerland)を60℃で30分間加温して滅菌水に可溶化した。免疫チェックポイント阻害剤マウスモノクローナルPD-1(CD279、クローンRMP1-14)およびマウスモノクローナルCTLA-4(CD152、クローン9D9)をBioXCellから購入し、InVivoPure pH 7.0希釈緩衝液で希釈した。
【0137】
試薬:
重合溶媒として使用したベンゼン(Fluka、≧99.5%)および酢酸エチル(Sharlau)をCaH2(Merck、99.9%)上で貯蔵し、重合反応の直前に減圧下で蒸留した。エタノール(Sharlau、96%)、n-ヘキサン (LabScan、99%)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)Biosera、10x)および重水素化クロロホルムCDCl3(Sharlau、99.8原子% D)はそのまま使用した。
酸化アルミニウム活性化(Sigma-aldrich)、水素化カルシウム粉末(0~0.2mm)、CaH2(Sigma-aldrich、≧90%)は、さらに精製することなく使用した。
【0138】
テトラヒドロフラン(THF)中に希釈した後の、HEGMA(ヘキサ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート)(Aldrich)とも略されるポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート(PEGMA)を、塩基性アルミナカラムに通した。THFを蒸発除去し、HEGMAをさらに精製することなく使用した。2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート(DEAEMA)( Aldrich、95%)を最初に塩基性アルミナカラムに通し、CaH2上に貯蔵し、最後に50℃で減圧蒸留した。メタクリル酸ベンジル(BzMA)(Sigma-Aldrich、96%)をCaH2上に貯蔵し、重合反応の直前に高純度N2ガスで30分間バブリングした。ラジカル開始剤2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)(AIBN、Sigma-Aldrich、95%)をエタノールから2回再結晶した。2-シアノ-2-プロピルベンゾジチオエート(シアノ-CTA)(Sigma-Aldrich、>97%)を、さらなる精製なしに連鎖移動剤(CTA)として使用した。
【0139】
ピルフェリドン(PD)(エスブリートカプセル、267mg)を使用前に以下のように再結晶した:エスブリート粉末(0.3192g)を丸底フラスコ(25mL)に入れ、ここでエタノール(16mL)を加え、混合物を室温および暗条件下で7日間撹拌した。得られた溶液を濾紙を用いて濾過し、不溶性固体を除去した。その後、濾液を丸底フラスコ(25mL)に移し、ロータリーエバポレーターを用いて蒸発させた。淡黄色様の油状物を生成し、それを室温で2週間、真空下で2時間、フュームフード内で乾燥させ、白色黄色の粉末を得た。
【0140】
本実施例で調製したすべての化合物の化学構造の特性評価のために、超シールド磁石を備えたAvance Brucker 500MHz分光計を使用した。1H‐NMRスペクトルは、内標準として使用したテトラメチルシラン(TMS)とともにCDCl3中で得た。
ポリマーの分子量(MW)および分子量分布(MWD)は、Polymer Standards Service(PSS)によって供給される装置を使用して、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって決定した。すべての測定は、Styragel HR 3およびStyragel HR 4カラムを使用して室温で実施した。検量線は、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)標準品を用いて行った。
【0141】
ミセルの合成
1. BzMA-coDEAEMAランダムコポリマーの合成
ランダムBzMA-co-DEAEMAコポリマーの調製のために従った重合手順は、以下の通りである。
シアノ-CTAを使用前に高真空下で約5分間乾燥した。乾燥窒素雰囲気下に維持した丸底フラスコ(100mL)中で、シアノ-CTA(147.1mg、0.665mmol)およびAIBN(33.8mg、0.206mmol)を新たに蒸留した酢酸エチル(38mL)に溶解した。モノマーDEAEMA(2.67mL、13.3mmol)およびBzMA(9.0mL、53.2mmol)をシリンジを用いてフラスコに移した。得られた液を、3回の凍結減圧解凍サイクルにより脱気し、乾燥窒素雰囲気下に置き、65℃で21時間加熱した。反応物を室温まで冷却することにより、重合を停止させた。生成したランダムコポリマー(9.67g、重合収率82%、橙色)をn-ヘキサン中での沈殿によって回収し、真空下で24時間乾燥させた。
【0142】
SEC結果:
Mn = 7538g mol-1、Mw = 9799g mol-1、Mz = 12253g mol-1、D= 1.30
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ(ppm)= 0.85(b', 3H, br), 0.95(b, 3H, br), 1.45(a', 2H, br), 1.80(a, 2H, br), 3.10(e, 4H, br), 3.30(d, 2H, br), 4.80(c', 2H, br), 5.20(c, 2H, s), 7.25-7.40(g-k, 5H, s).
【0143】
合成スキーム:RAFTによるBzMA-co-DEAEMAランダムコポリマーの調製のための合成方法に従った。
【化11】
【0144】
2.[BzMA-co-DEAEMA]-b-HEGMAジブロックコポリマーの合成
得られたBzMA-co-DEAEMAランダムコポリマーの連鎖成長は、モノマーHEGMAの添加によって達成された。[BzMA-co-DEAEMA]-b-HEGMAジブロックコポリマーの製造のために従った合成方法は、以下の通り例示される。
マクロ連鎖移動剤(macro-CTA)、[BzMA36-co-DEAEMA6](Mn
SEC= 7538g mol-1、1.50g、0.20mmol)を丸底フラスコ(50mL)に入れ、乾燥窒素雰囲気下で新しく蒸留したベンゼン(14mL)に溶解した。次いで、ベンゼンおよびHEGMA(5.37g、0.0179mmol)に溶解したAIBN(10mg、0.062mmol)を、シリンジを介してフラスコに移した。3回の凍結減圧解凍サイクルにより脱気し、65℃で21時間、窒素雰囲気下に置いた。反応物を室温まで冷却することにより、重合を停止させた。生成したジブロックコポリマー(6.17g、重合収率87%、ピンク色)をロータリーエバポレーターで濃縮し、次いでn-ヘキサン中での沈殿によって回収した。最後に、ジブロックコポリマーを真空中で24時間乾燥させた。
【0145】
SEC: Mn = 31685g mol-1、Mw = 63693g mol-1、Mz = 97169g mol-1、D = 2.01
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ(ppm)= 0.70-1.0(b, b',b'', 9H, br), 1.70-1.90(a, a',a'', 6H, br), 2.10-2.20(d-e, 6H, s), 3.40(n, 3H, s), 3.70(m, l, 4H, s), 4.10(c', 2H, br), 4.90(c, 2H, s), 7.30-7.40(g-k, 5H, s).
【0146】
合成スキーム:RAFTによる[BzMA-co-DEAEMA]-b-HEGMAジブロックコポリマーの調製のための合成方法に従った。
【化12】
【0147】
3. ポリマー薬物送達担体の合成。
3.1 PD内包[BzMA
36
-co-DEAEMA
6
]-b-HEGMA
89
ミセルの調製(図21)
ジブロックコポリマー[BzMA
36-co-DEAEMA
6]-b-HEGMA
89(MW=34155gmol
-1、75mg、0.0022mmol)をスクリューキャップ付きバイアル(20mL)に入れ、室温で攪拌条件下でPBS(15mL)に溶解した。その後、溶液を濾紙を用いて2回濾過し、遊離のランダムコポリマー残渣を除去した。次いで、再結晶化PD(9mg、0.0485mmol)を濾過したミセル溶液に添加し、超音波浴に1時間入れた。次いで、混合物を室温で暗条件下で撹拌した。その後、混合物を0.45μmのセルロース酢酸フィルターを用いてろ過した。最後に、得られた溶液(8mL)をPBS(1.2L)に対して2kDaの分子カットオフを有するSlide-A-Lyzer透析膜で透析し、未結合のPD薬物を除去した。PD内包は、ミセル溶液のUV-visスペクトルを311nm(PDの特徴的な吸収波長)で測定することによって定量化した。高分子ミセルに内包されたPDの濃度は、既知濃度(62.5mg L
-1-0.488mg L
-1)のPD溶液の吸光度を測定することによって構築された吸光度対濃度検量線から決定した(
図21)。
【0148】
3.2.PD/DiR内包[BzMA
36
-co-DEAEMA
6
]-b-HEGMA
89
ミセルの調製(図22)
ピルフェニドン(PD)と蛍光造影剤1,1'-ジオクタデシルテトラメチルインドトリカルボシアニンヨウ化物(DiR)を、油/水乳化法を用いて[BzMA
36‐co-DEAEMA
6]‐b-HEGMA
89ジブロック共重合体ミセルに充填した
1。0.5mgをアセトン溶液(2mL)に溶解することにより、PDのストック溶液(0.25g L
-1)を調製した。DiR (ストック溶液から1.5mL)および再結晶PD(9mg、0.0485mmol)粉末を、6mLのアセトンおよび7.5mLのPBS中の[BzMA
36-co-DEAEMA
6]-b-HEGMA
89 ジブロックコポリマー(37.5mg、0.011mmol)を含む溶液に添加した。得られたエマルジョンを室温で暗所で一晩撹拌し、アセトンを蒸発させた。不溶性の遊離DiRおよびPDを、1000gで10分間の遠心分離によって除去した。
【0149】
次いで、ミセル水溶液を、0.45μmのセルロースアセテートフィルターを通して濾過した。可溶性遊離DiRおよびPDを、2KDaの分子カットオフを有する透析チューブSlide-A-Lyzerを用いて、PBS(200mL)中での限外濾過によってミセルから除去した。ミセル溶液のUV-visスペクトルを、750nm(DiRの特徴的な吸収波長)および311nm(PDの特徴的な吸収波長)で測定することによって、それぞれDiR内包およびPD内包の両方を決定した。高分子ミセルに充填されたDiRの濃度は、アセトン中で調製された既知濃度(1.56mg L
-1、0.0976mg L
-1)のDiR溶液の吸光度を測定することによって構築された吸光度対濃度検量線から決定した(
図22)。
【0150】
血液中のピルフェニドンミセルの検出。
ピルフェニドン/mを、4匹のBALB/cマウス(8週間、雌)に尾静脈(ピルフェニドンベースで10mg/kg)を介して注射した。所定の時点(注射後0.5、1、2、4、9および24時間)で、マウスを3%イソフルラン酸素流中で麻酔し、50μlの血液試料を後眼窩から採取し、AMI-HTイメージングシステムを用いて、745nm励起および870nm発光波長で60秒間、20%励起パワーでスキャンした。マウスの血液中のピルフェニドン/mの半減期は約27時間であった(
図23)。
【0151】
同系腫瘍モデルおよび治療プロトコル
ピルフェニドン用量反応試験
同系同所性マウス乳癌モデルを、40μlの無血清培地中の5×104 4T1を、6~8週齢BALB/cマウスの第3乳房脂肪体に移植することによって作製した。腫瘍平均体積が150mm3に達したところで、以下の5群(各群n=7)に無作為化した。
対照群(H2O、強制経口)、遊離ピルフェニドン500mg/kg(経口、強制経口)、遊離ピルフェニドン5mg/kg(静脈内注射、静脈内)、ピルフェニドンミセル(ピルフェニドン/m)5mg/kgおよびピルフェニドン/m 10mg/kg(静脈内)。
治療は5日間毎日繰り返した。
【0152】
同所性乳房腫瘍モデルにおける免疫療法の抗腫瘍活性
4T1およびE0771同系腫瘍モデルは、それぞれ6週齢BALB/cおよびC57BL/6メスマウスの乳房脂肪体に、40μlの無血清培地中の5×104 4T1または5×104 E0771マウス乳癌細胞のいずれかを同所移植することによって作製した。腫瘍の大きさが平均150mmに達したところで、以下の群(各群n=10)に無作為に割り付けた。
H2O/IgG(対照群、i.p.)、ピルフェニドン/m(10mg/kg、i.v.)、免疫チェックポイント阻害剤-ICI(抗PD-1(10mg/kg)および抗CTLA-4(5mg/kg)のカクテル、i.p.)およびピルフェニドン/m+ICI。
【0153】
マウスをピルフェニドン/mで3日間(すなわち、癌細胞の移植後10、11および12日目)処置した。ICIカクテルおよびIgGアイソタイプ対照は、ピルフェニドン/mでの前処置(すなわち、13、16および19日目)の後、3日毎に与えた。マウスに対し、14、15、17および18日目にピルフェニドン/m注射の第2サイクルを行った。処置プロトコールの完了の2日後、原発腫瘍を除去し、さらなる分析のために保存した。
【0154】
腫瘍の平面寸法(x、y)を、デジタルキャリパーを用いて2または3日毎にモニターし、腫瘍体積を楕円体の体積から推定し、第3の寸法zが次式:
【数1】
と等しいと仮定した。
【0155】
動物の生存は、処置開始後の死亡時間に基づいて定量化した[1]。すべてのin vivo実験は、キプロス共和国および欧州連合の動物福祉規則およびガイドライン(European Directive 2010/63/EEおよびCyprus Legislation for protection and weal of animals, Laws 1994-2013)に準拠して、キプロス獣医学サービス委員会によって取得され、承認されたすべての学術機関の動物研究を監視するためのライセンス(No CY/EXP/PR.L2/2018, CY/EXP/PR.L14/2019, CY/EXP/PR.L15/2019)に基づいて実施された。
【0156】
同所性乳癌原発腫瘍におけるピルフェニドンミセルの蓄積
100 mm3の同所性E0771腫瘍を有するBALB/c雌マウスを2群(1群あたりn=4マウス)に無作為化し、H2O(対照)または10mg/kgのピルフェニドン/mで5日間毎日処置した。6日目に、全てのマウスにDiR標識ピルフェニドン/m(10mg/kg)を静脈内注射し、イソフルランで麻酔し、745nm励起および870nm発光波長で5秒間、20%励起パワーで走査した。ナノ粒子の生体内分布を、AMI-HTイメージングシステムを用いて、注入後3、6、および24時間で評価した。
【0157】
間質液圧
間質液圧(IFP)はマウスをAvertinの腹腔内注射で麻酔した後、腫瘍切除の前に、以前に記載されたウィック・イン・ニードル技術を用いてインビボで測定した[2]。
腫瘍剛性および潅流モニタリング
腫瘍の弾性率および潅流を、それぞれ超音波せん断波エラストグラフィー(SWE)および造影超音波(CEUS)でモニタリングした。
【0158】
SWEは、以前の研究[51]に従って、線形アレイトランスデューサ(eL18-4)を使用するPhilips EPIQ Elite Ultrasoundシステムを採用した。この方法は、音響プッシュパルスを介してせん断波速度を生成し、カラーマップされたエラストグラム(kPa)を生成し、赤は硬組織および青組織を示す。信頼度表示は、ユーザ定義関心領域(ROI)のせん断波品質の基準としても使用される。腫瘍領域の平均値は、デフォルトスキャナ設定の下でシステムによって自動的に生成され、kPaで表される。使用した設定は、周波数10MHz、電力52%、Bモードゲイン22dB、ダイナミックレンジ62dBであった。SWEを各腫瘍の2つの異なる平面で実施し、両平面の平均値を本発明者らの分析に使用した。
【0159】
造影剤のボーラス注射後の腫瘍関連血管潅流を評価するために、CEUSを用いた(平均直径2.5μmのリン脂質シェルによってカプセル化された六フッ化硫黄マイクロバブルのSonoVue 8μl、後眼窩投与)。リニアアレイトランスデューサL12-5を用いて、腫瘍の超音波走査を行った。コントラスト第1高調波信号は、0.06の機械的インデックスを有する8MHzで受信した。全被験動物について、焦点深度を3cmに設定し、腫瘍の全深度の測定が可能となるようにした。ゲインは、各記録に対して90%に設定した。Bモードイメージングを用いて腫瘍領域を発見する際に、焦点を各被験動物について最適化し、標準化した。
【0160】
気泡補充の可視化を可能にするために、腫瘍組織中のマイクロバブルを最大コントラスト強度まで破壊するために、高い機械的指標を用いたフラッシュ撮像の後に、リアルタイム電力変調イメージングを開始した。画像分析は、超音波定量化および分析ソフトウェア(QLAB、Phillips Medical Systems)を用いてオフラインで行った。生成された時間強度曲線から、本発明者らは、潅流の測定として、平均通過時間(MTT)および血流に関連するピーク強度上昇時間(RT)に達するのに必要な時間を使用した[3~5]。正規化潅流面積は、関心領域(ROI)における腫瘍の総面積当たりの気泡シグナルを有する面積として、ピーク強度時間における画像から計算した。
【0161】
各超音波適用の前に、マウスをアベルチン(200mg/kg)の腹腔内注射によって麻酔し、超音波ゲルを画像化領域に適用して、下にある組織上のトランスデューサのいかなる圧力も防止した。
【0162】
蛍光免疫組織化学
腫瘍を切除し、1×PBS中で10分間2回洗浄し、4% PFA中で4℃で一晩インキュベートした。試料を1xPBS中で10分間2回洗浄し、アルコールおよびキシレンの連続工程で脱水し、最後にパラフィン中に包埋した。ミクロトーム(Accu-Cut SRM 200 Rotary Microtome, SAKURA)を用いて、パラフィン包埋組織の連続切片(7μm)を作製した。切片を水中に平らにし、37℃で一晩乾燥させ、脱パラフィンし、再水和した。
【0163】
ヒアルロン酸結合タンパク質の染色および定量
抗原回収は、組織切片で行い(TriSodium Citrateを用いたマイクロ波熱処理、pH 6、20分間)、1x TBS/0.025% Triton X-100(TBS-T)で洗浄し、ブロッキング溶液(2% BSA、0.2% Triton 100x)中、常温(RT)で2時間インキュベートした。その後、スライドをビオチン化ヒアルロナン結合タンパク質(b-HABP、AMS.HKD-BC41、amsbio 1:100)と共に4℃で一晩インキュベートした。次に、切片を、ストレプトアビジン-FITCコンジュゲート(SA1001、Invitrogen 1:1000)およびDAPI核染色と共に、室温で2時間暗所でインキュベートした。
【0164】
すべての染色された組織切片について、共焦点zスタックを、20x対物レンズを用いてLeica STELLARIS顕微鏡上で1μmのz間隔で取得した。組織切片全体を、LAS X Navigatorのスパイラルスキャン機能を用いて撮像した。ヒアルロナンの面積分率の定量は、DAPI染色陽性のピクセル数に対して正規化された一次抗体を含まない対照スライドを用いて決定された閾値を超えるシグナル強度を有する免疫蛍光画像のピクセル数として定量化した。
【0165】
コラーゲン染色および定量
組織切片を脱パラフィンし、再水和した。次いで、それらをPicrosirius redに室温で1時間浸漬した。次に、組織切片を、2種類の酢酸、続いて無水エタノール中でリンスした。その後、組織学のためにDPXマウンタント(Sigma-Aldrich)を装着した。面積分率は、総組織面積で割った、コラーゲン線維を表す赤色面積として決定した腫瘍内部および周辺からの画像は、Olympus BX53顕微鏡を用いて20倍の倍率で取得した。定量化を可能にするために、同じ染色の画像を同じ設定で撮影した。画像は、MATLAB(MathWorks, Inc., Natick, MA, USA)におけるカスタムアルゴリズムおよび組み込みアルゴリズムを用いて分析した。
【0166】
フローサイトメトリー
処置の21日目に、E0771乳房腫瘍(処置群あたりn=6~10)を冷RPMI中で採取し、細かい断片に細かく刻み、1mlの再構成Liberase TL(腫瘍あたり0.5mg、Roche)と共に、37℃で30分間、エンドオーバーエンドシェーカー上でインキュベートした。酵素消化は、10% FBSおよび1%抗生物質/抗真菌溶液を含有するRPMI培地の添加によって停止した。得られた組織ホモジネートを40μmのセルストレーナーを通して濾過し、単一細胞懸濁液を回収し、計数した。次いで、細胞懸濁液を、生細胞のゲーティングのために、固定可能な生存性色素(Invitrogen)と共にインキュベートした。非特異的抗体結合を、ラット抗マウスCD16/CD32 mAb(BD Bioscience)と室温で10分間インキュベートした後、ブロックした。
【0167】
1試料当たり1×106個の細胞を、様々な蛍光色素コンジュゲート抗体で標識し、洗浄し、0.5% BSA、1×PBS緩衝液に再懸濁した。実験に用いた抗マウス抗体は以下の通りである。
CD4-PerCP-Cy5.5 (GK1.5, BioLegend), CD8a-V450 (53-6.7, eBioscience), Foxp3-FITC (FJK-16s, Invitrogen), CD45-V500 (30-F11, BD Bioscience), CD25-PE-Cy7 (PC61.5, BD Bioscience), CD3-PE (145-2C11, BD Bioscience), CD11b-e450 (M1/70, eBioscience), F4/80-APC (BM8, BioLegend), CD206-PE-Cy7 (C068C2, BioLegend), CD127-APC (A7R34, BioLegend), Gr-1-PE (RB6-8C5, BioLegend), CD38-PerCP-Cy5.5 (90, BioLegend)。
【0168】
フローサイトメトリーデータは、BD FACSLyric(商標)IIIフローサイトメーターを使用して得られ、BD FACS Suiteソフトウェアを使用して分析した。提示されたデータはシングル、生細胞を代表するものである。
【0169】
統計解析
データは、標準誤差を有する平均として提示される。統計的有意性を評価するために、Student’s t検定を用いて群を比較した。統計解析は、対照*およびピルフェニドン/mまたはピルフェニドン/m+ICI群を有する処置群を、全ての他の処置群**と比較することによって行った。0.05以下のp値を統計的に有意であるとみなした。
【0170】
<結果>
1. ピルフェニドン/mの毎日の投与は、TME機械的モジュレーション(mechano-modulation)および腫瘍潅流を最適化する
次に、本発明者らは、ピルフェニドン/mが遊離薬物の量よりも有意に低い量で投与された場合、腫瘍間質の正常化を誘導し得るという仮説を試験した。同系の同所性トリプルネガティブ乳房腫瘍を有するマウスを、遊離ピルフェニドンまたはピルフェニドン/mのいずれかで処置した。遊離ピルフェニドンは、500mg/kgの用量で毎日経口投与[6]または5mg/kgの用量で静脈内注射(i.v.)により投与した。ピルフェニドン/mは、毎日5mg/kgまたは10mg/kgの用量で、すなわち、強制経口投与による遊離薬物投与の100および50倍低い用量で、静脈内投与した。いずれの用量も、腫瘍体積およびマウス質量に有意な影響を及ぼさなかった(
図24)。
【0171】
TMEの正常化に及ぼす種々のピルフェニドン治療の効果を、最初に、物理的性質、特に間質液圧および組織剛性との関連で調査した。10mg/kgのピルフェニドン/mを投与した群は、他のすべての群と比較して、間質液圧および弾性係数の統計的に有意な減少を示した(
図25)。ピルフェニドン/mによる物理的性質の減少は、腫瘍潅流の増加をもたらす。本発明者はさらに、CEUS治療中の腫瘍潅流をモニタリングした。
【0172】
本実施例で考察した腫瘍モデルのような線維形成性腫瘍における間質液圧の上昇と硬直は、ヒアルロン酸およびコラーゲンレベルに大きく依存する。蛍光免疫染色を用いて、これら2つの重要な構造成分のレベルを評価した。実際に、本発明者らは遊離薬物と同様のピルフェニドン/mでの処置後に、ヒアルロン酸およびコラーゲンIタンパク質レベルの減少を見出した(
図25、
図26)。
【0173】
2. Pirfenidoneミセルは免疫療法の抗菌効果を高める
次に、免疫療法の抗腫瘍効果を改善するピルフェニドン/mの能力を検討した。先ず、全身蛍光イメージングを用いてピルフェニドン/mの薬物送達の改善能を試験した。具体的には、4T1腫瘍を有するBALB/cマウスを、ピルフェニドン/m(10mg/kg、i.v.)または対照のいずれかで6日間前処置し、次いで、同じ組成のDiR標識のピルフェニドン不含ミセルの静脈内注射を行った。ピルフェニドン前処理は、腫瘍部位におけるDiR標識ミセルの増加したより均一な蓄積をもたらした(
図27)。
【0174】
そこで、本発明者らは、同所性乳房腫瘍におけるピルフェニドンミセルと併用した免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の抗腫瘍効果を検討した。対照液(抗IgG、H
2O)、ピルフェニドン/m(10mg/kg)、ICIカクテル(5mg/kg抗CTLA4、10mg/kg抗PD-1)およびピルフェニドン/mとICIとの併用療法で処置した。
その結果、免疫療法単独では抗腫瘍効果は認められなかった。ICIとピルフェニドン/mとの併用は、単独療法と比較して抗腫瘍活性を増加させた(
図28、
図29)。
【0175】
また、免疫療法単独では、対照群と比較して、SWEで測定された腫瘍弾性特性に効果がなかった(
図30)。さらに、ピルフェニドン/mによる免疫療法の併用治療は、ピルフェニドン/m単独療法と比較して、腫瘍剛性に対して同じ効果を有した(
図30)。
【0176】
3. ピルフェニドンミセルを免疫療法と組み合わせると、T細胞浸潤が増強される
腫瘍潅流が免疫細胞浸潤および活性の増加に関連することを考慮して、本発明者らは、免疫療法によるピルフェニドン/mの強力な抗腫瘍応答が腫瘍免疫原性のレベルに依存するかどうかを検討した。フローサイトメトリー分析の結果、ICI処理により免疫細胞の腫瘍内動員および免疫抑制性Tregに対する細胞傷害性CD8の比を増加させることが明らかとなった(
図31~
図33)。Tregのレベルは、いずれの処置に対しても変化せず、ICI効果が主にCD8集団に依存することを示す。
【0177】
ピルフェニドンミセルの正常化効果は、免疫療法の標的化送達を最適化するための戦略としてだけでなく、免疫療法に対する腫瘍感作を増強するために免疫抑制腫瘍床を遮断するためにも使用することができ、これは骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)の減少によって支持される。免疫療法は免疫抑制性MDSCの腫瘍内レベルを低下させるが、ピルフェニドン/mとの組み合わせはこの効果を増強する。
M2様表現型(C、CD38
-CD206
+)の減少および抗腫瘍M1様表現型(CD38
+ CD206
-)のアップレギュレーションによって示されるように(
図34、
図35)、ICI処置は全マクロファージレベルに影響を及ぼさないが、それらの免疫抑制表現型を復帰させる。
【0178】
4. ピルフェニドンミセルおよび免疫療法の併用は全生存期間を延長する
原発性腫瘍増殖および免疫原性データは、ピルフェニドンミセルをICIと組み合わせることが治療結果を増強することを示した。この相乗効果が生存転帰と正の相関を示すかどうかを試験するために、本発明者らは治療プロトコルの完了後に原発腫瘍を外科的に切除し、治療中に潜在的に生じた自然転移に対するマウスの生存を評価することを目的とした。
その結果、本発明者らはピルフェニドン/mとICIカクテルとの併用処置が両方の癌細胞株においてマウスの生存を有意に延長したが、単独療法のみでは効果がなかったことを見出した(
図36)。特に、E0771腫瘍については、コンビナトリアル処置を受けた全てのマウスが生存していた。
【0179】
<実施例2における参考文献>
1. Chauhan, V.P., et al., Angiotensin inhibition enhances drug delivery and potentiates chemotherapy by decompressing tumor blood vessels.Nature Communications, 2013.4(2516): p. 10.1038/ncomms.3516.
2.Stylianopoulos, T., et al., Causes, consequences, and remedies for growth-induced solid stress in murine and human tumors.2012年米国科学アカデミー議事録。109(38): p. 15101-15108.
3.Averkiou, M., et al., Evaluation of Perfusion Quantification Methods with Ultrasound Contrast Agents in a Machine-Perfused Pig Liver.Ultraschall Med, 2018.39(1): p. 69-79.
4.Dietrich, C.F., et al., An EFSUMB introduction into Dynamic Contrast-Enhanced Ultrasound (DCE-US) for quantification of tumour perfusion.Ultraschall Med, 2012.33(4): p. 344-51.
5.Xin, L., et al., Parameters for Contrast-Enhanced Ultrasound (CEUS)of Enlarged Superficial Lymph Nodes for Evaluation of Therapeutic Response in Lymphoma: A Preliminary Study.Med Sci Monit, 2017.23: p. 5430-5438.
6.Polydorou, C., et al., Pirfenidone normalizes tumor microenvironment to improve chemotherapy.Oncotarget, 2017.8(15): p. 24506-24517.