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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035522
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】発光装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/0239 20210101AFI20240307BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20240307BHJP
   H01S 5/024 20060101ALI20240307BHJP
   H01L 33/64 20100101ALI20240307BHJP
【FI】
H01S5/0239
H01L33/50
H01S5/024
H01L33/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140029
(22)【出願日】2022-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】丸谷 幸利
(72)【発明者】
【氏名】三浦 創一郎
【テーマコード(参考)】
5F142
5F173
【Fターム(参考)】
5F142AA02
5F142AA42
5F142BA32
5F142CA02
5F142CB23
5F142CD02
5F142CD18
5F142CE15
5F142CE22
5F142CE32
5F142CF12
5F142CF23
5F142CF25
5F142CF26
5F142DA16
5F142DA45
5F142DA54
5F142DB16
5F142GA06
5F142GA21
5F142GA29
5F173MA10
5F173MC15
5F173MD59
5F173MD64
5F173ME47
5F173ME55
5F173MF03
5F173MF13
5F173MF40
(57)【要約】
【課題】蛍光体の温度消光を抑制するとともに正面輝度が向上する発光装置を提供する。
【解決手段】
発光素子と、蛍光体を含む波長変換部品と、を備え、前記波長変換部品は、前記発光素子から出射される光が入射する光入射面と、前記光入射面と非平行である光出射面と、第一屈折率を有し、前記発光素子から出射される光の少なくとも一部を波長変換する複数の第一部分と、前記第一屈折率よりも小さい第二屈折率を有する第二部分と、を含み、前記複数の第一部分各々の形状は、前記光出射面に向かって延びる板状または柱状である、発光装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子と、
蛍光体を含む波長変換部品と、
を備え、
前記波長変換部品は、
前記発光素子から出射される光が入射する光入射面と、
前記光入射面と非平行である光出射面と、
第一屈折率を有し、前記発光素子から出射される光の少なくとも一部を波長変換する複数の第一部分と、
前記第一屈折率よりも小さい第二屈折率を有する第二部分と、
を含み、
前記複数の第一部分各々の形状は、前記光出射面に向かって延びる板状または柱状である、発光装置。
【請求項2】
平面視において、前記第一部分が周期的に配置されている、請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
周期的に配置された前記第一部分各々に対応して、前記光出射面が周期的な凹凸を有する、請求項2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記第一部分は、単結晶からなる、請求項1に記載の発光装置。
【請求項5】
前記第一部分は、Ce:YAG結晶からなり、前記第二部分は、Al結晶からなる、請求項4に記載の発光装置。
【請求項6】
前記波長変換部品は、前記第一部分及び/又は前記第二部分に接して囲う放熱部品を有する、請求項1に記載の発光装置。
【請求項7】
前記波長変換部品は、
前記光入射面と非平行であり、前記光出射面に対向する接合面と、
前記接合面に接合された光散乱部品と、
を有し、
前記光入射面は、前記光散乱部品に設けられている、請求項1に記載の発光装置。
【請求項8】
前記光散乱部品は、母材と前記母材中に分散されている光散乱粒子とを含み、
前記光散乱部品における、前記光散乱粒子の密度が、前記光入射面から離れるに従い連続的または段階的に増加している、請求項7に記載の発光装置。
【請求項9】
前記発光素子は、複数設けられており、
前記光入射面は、前記発光素子と同数設けられており、
前記光出射面は、1つ設けられている、請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発光素子や半導体レーザ素子から放射される励起光を蛍光体材料からなる粒子を含有する発光体に向けて照射し、可視光を出力することが可能な発光装置が、例えば、特許文献1において示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-177227
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蛍光体材料は、励起光の出力を高くしていくと、それに伴いストークスシフトに起因する蛍光体材料の発熱量が増加する。蛍光体材料の温度が上昇すると、励起光を波長変換する効率が低下する温度消光という現象を起こす。
また、蛍光体材料からなる粒子を含有する発光体からの出射光は、粒子による散乱により、ランバート配光のような広い配光となりやすい。発光装置から出る光が広い配光を有すると、発光装置から出る光が発光装置から出る光として利用されない光を多く含むことになるため、発光装置から出る光の利用効率が低下する。
【0005】
本開示の目的は、蛍光体の温度消光を抑制するとともに正面輝度が向上する発光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の実施形態に係る発光装置は、発光素子と、蛍光体を含む波長変換部品と、を備え、波長変換部品は、発光素子から出射される光が入射する光入射面と、光入射面と非平行である光出射面と、第一屈折率を有し発光素子から出射される光の少なくとも一部を波長変換する複数の第一部分と、第一屈折率よりも小さい第二屈折率を有する第二部分と、を含み、複数の第一部分各々の形状は、光出射面に向かって延びる板状または柱状である。
【発明の効果】
【0007】
蛍光体の温度消光を抑制するとともに正面輝度が向上する発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の第一の実施形態における発光装置の上面視の模式図である。
図2】本開示の第一の実施形態における発光装置の側面視の模式図である。
図3】本開示の第一の実施形態における他の発光装置の上面視の模式図である。
図4】本開示の第一の実施形態におけるさらに他の発光装置の上面視の模式図である。
図5】本開示の第一の実施形態における波長変換部材および放熱部品を出射方向から見た模式図である。
図6図5のVI-VI断面における、波長変換部材および放熱部品の模式図である。
図7】出射方向から見た場合に、本開示の第一の実施形態における波長変換部材の円柱状の第一部分の配置を三角格子配列とする例である。
図8】出射方向から見た場合に、本開示の第一の実施形態における波長変換部材の板状の第一部分および板状の第二部分を交互に積層し配置する例である。
図9】出射方向から見た場合に、正方形の各辺から中心に向かって板状の第一部分および板状の第二部分を交互に配置する例である。
図10A】出射方向から見た場合に、本開示の第一の実施形態における、角柱状の第一部分の配置を正方格子配列とする波長変換部材の作製方法の例に含まれる作製工程の一部を表す模式図である。
図10B】出射方向から見た場合に、本開示の第一の実施形態における、角柱状の第一部分の配置を正方格子配列とする波長変換部材の作製方法の例に含まれる作製工程の一部を表す模式図である。
図10C】出射方向から見た場合に、本開示の第一の実施形態における、角柱状の第一部分の配置を正方格子配列とする波長変換部材の作製方法の例に含まれる作製工程の一部を表す模式図である。
図10D】出射方向から見た場合に、本開示の第一の実施形態における、角柱状の第一部分の配置を正方格子配列とする波長変換部材の作製方法の例に含まれる作製工程の一部を表す模式図である。
図11】本開示の第一の実施形態の変形例における波長変換部材および放熱部品の断面形状の例である。
図12】本開示の第一の実施形態の変形例における光出射面の断面形状の例である。
図13】本開示の第二の実施形態における断面模式図である。
図14】本開示の第二の実施形態の変形例における断面模式図である。
図15】本開示の第二の実施形態の変形例における光散乱部品の製造方法の例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、発明の実施の形態について適宜図面を参照して説明する。ただし、以下に説明する実施の形態は、本開示の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本開示を以下のものに限定しない。また、一の実施の形態において説明する内容は、他の実施の形態にも適用可能である。各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を容易にするため、誇張していることがある。
【0010】
(第一の実施形態)
本開示の第一の実施形態における発光装置100は、図1図2に示されるように、配線パターン12、13を有する基体10と、発光素子20と、波長変換部品50を備える。
発光素子20から出射される光は、基体10の上面に沿う光軸を有し、波長変換部品50に入射する。波長変換部品50から出射する光は、基体10の上面の法線方向に光軸を有している。従って、波長変換部品50が基体10から外れる等の故障の発生時においても、発光素子20から出射される光が発光装置から基体10の上面の法線方向に直接出ていくことはない。波長変換部品50から出射する光は、発光素子20から出射される光と同じ波長の光と発光素子20から出射される光とは異なる波長の光とが混合されている。発光素子20から出射される光がレーザ光である場合、波長変換部品50から出射される光は、発光素子20から出射される光より可干渉性(コヒーレンス)が低下しているので、眼障害を引き起こす可能性が低下する。
【0011】
(基体)
基体10の板状の基材11の上面に、発光素子20と、波長変換部品50の載置領域を備える。図1図2では、発光素子20の載置領域には、発光素子20の直下に位置して発光素子20と電気的に接続される配線パターン12がある。基体10はさらに、外部電源と接続される配線パターン13を備える。図1図2では、発光素子20と配線パターン13、配線パターン12と配線パターン13は、ワイヤ30で接続されている。外部電源と接続される配線パターン13は、基体10の基材11の下面にビアにより接続される配線パターンを有してもよい。配線パターン12、13の配置と数は、適宜変更し得る。基体10の上面に、発光素子20や波長変換部品50を外部からのガス、塵埃、衝撃等から保護する蓋体を設けてもよい。
【0012】
基体10の基材11は、例えば、セラミックスを主材料として形成できる。例えば、セラミックスとして、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、又は炭化ケイ素を用いることができる。なお、基材11は、セラミックスに限らず、良好な熱伝導性を有する他の材料を主材料に用いて形成してもよい。基材11にアルミニウム、銅、等の金属材料を用いる場合は、金属材料の基材11と配線パターン12、13との間に絶縁膜を設け、配線パターン同士の短絡を防止する。
【0013】
(発光素子)
発光素子20は、基体10の上面に載置される。発光素子20の例として、発光ダイオード、スーパールミネッセントダイオード、半導体レーザ、等の固体発光素子が好適に用いられる。発光素子20は、サブマウントを介して基体10の上面に載置されてもよい。図1図2に示される発光素子20は、電極を底面と天面に備えている端面発光型半導体レーザである。図1図2では、発光素子20から波長変換部品50へ照射される励起光の光軸は、基材11の上面と平行である。発光素子20の数は、一個に限られず、複数であってよい。基体10の上面に発光素子20を二個載置する例として発光装置200を図3に、発光素子20を四個載置する例として発光装置300を図4に示す。
【0014】
(波長変換部品)
波長変換部品50は、基体10の上面に載置される。波長変換部品50は、波長変換部材53を備える。図1図2では、波長変換部品50は、波長変換部材53に加え、放熱部品59を含む。図1図2では、発光素子20から出る励起光は波長変換部品50に入り、少なくとも波長変換部材53で波長変換された光を含む出射光が、波長変換部品50から上方へ出射される。波長変換部品50は、発光素子20から波長変換部品50へ照射される励起光が入射する光入射面51と、光入射面51と非平行な光出射面52を有する。図1図2では、光入射面51を含む平面と光出射面52を含む平面は直交する。また後述するように、波長変換部品50は、波長変換部材53に加え、光散乱部品56を含んでもよい。
【0015】
(波長変換部材)
波長変換部材53は、図6に示されるように、発光素子20から照射される励起光101を受ける光入射面側境界面と、波長変換部材53で波長変換された光と励起光の一部とを出射する光出射面側境界面とを有する。光入射面側境界面は、励起光に対して低反射率となる誘電体単層膜、誘電体多層膜、等からなる光学膜を備えてもよい。図6に示される例において、光入射面側境界面に光学膜を設ける場合は、光学膜の外面が、波長変換部品50の光入射面51となる。光入射面側の光学膜は、波長変換部材53によって波長変換された光に対して高反射率であることが好ましい。波長変換部材53の光出射面側境界面には、励起光および波長変換部材53によって波長変換された光に対して低反射率となる誘電体単層膜、誘電体多層膜、等からなる光学膜を備えてもよい。図6に示される例において、光出射面側境界面に光学膜を設ける場合は、光学膜の外面が、波長変換部品50の光出射面52となる。あるいは、光出射面側境界面の光学膜は、励起光に対して高反射率であってもよい。光入射面側境界面と光出射面側境界面以外の波長変換部材53の境界面には、励起光および波長変換部材53によって波長変換された光に対して高反射率となる誘電体多層膜または金属膜、等からなる光学膜を備えてよい。波長変換部材53がこのような特性を有する光学膜を備えることにより、効率よく光出射面52から光が出射され得る。複数の発光素子を設ける場合、光入射面は、発光素子と同数設けられ、光出射面は、1つ設けられる。図1等では、光出射面52の法線方向から見た波長変換部材53の形状は四角形であるが、発光素子が五個の場合は五角形、発光素子が六個の場合は六角形、等のように、光出射面の法線方向から見た波長変換部材の形状を、各発光素子に対応する光入射面を設けられる形状とする。
【0016】
波長変換部材53は、屈折率の高い第一部分54と屈折率の低い第二部分55を含む。第一部分54は、励起光の一部を吸収し、励起光の波長より長い波長の光を発生する。第一部分54は、光出射面側境界面から光出射面側境界面と対向する境界面まで連続して延在する。波長変換部材53が屈折率の高い第一部分54と屈折率の低い第二部分55を含むことにより、励起光が第一部分54と第二部分55との境界で全反射し得るので、第一部分54に閉じ込められ易くなり、波長変換効率が向上する。さらに、第一部分54の内部で波長変換された光も、第一部分54と第二部分55との境界で全反射し得るので、光出射面側境界面へ導光されやすくなる。第一部分54と第二部分55との境界で全反射を繰り返しながら伝搬する光は、空気中に出射される際、波長変換部材53の光出射面側境界面が平らな面である場合に光出射面側境界面の法線から角度θの範囲に出射される。ここで、第一部分54の屈折率(第一屈折率)をn1、第二部分55の屈折率(第二屈折率)をn2 (n2はn1より小さい。n2<n1)とすると、θは以下の式1で表される。
sin2θ=n1 2-n2 2 ・・・(式1)
したがって、等方的な屈折率分布を有する波長変換部材の出射光の配光分布と比べて、屈折率の高い第一部分54と屈折率の低い第二部分55を含む波長変換部材53の出射光の配光分布がより狭くなる。屈折率の高い第一部分54と屈折率の低い第二部分55の屈折率差が小さい方が出射光の配光分布が狭くなる。
例えば図5において、第一部分54にCe:YAG結晶を用い、第二部分55にサファイアを用いる場合、第一部分54を導波する光は、大気中に放出される際、第一部分54の端面の法線から約13度の範囲内に放出されることになるので、等方的な屈折率分布を有する波長変換部材と比較し、配光が狭くなり、正面輝度が増加する。
第一部分54では、波長変換時のストークスシフトに起因する熱が発生する。第二部分55は、第一部分54で発生する熱を伝え、波長変換部材53から外へ放熱することを助ける。第一部分54で温度消光が発生することを抑制するためである。
【0017】
(第一部分)
波長変換部材53の第一部分54は、励起光の一部を吸収し励起光より波長の長い光を発生する。CeドープYAl12結晶(Ce:YAG結晶)、NdドープYAl12結晶(Nd:YAG結晶)、YbドープLuAl12結晶(Yb:LuAG結晶)、等の結晶材料、Ndドープガラス、Ybドープガラス、等の希土類元素添加ガラス、蛍光体結晶粒子を分散した蛍光ガラス(蛍光体分散ガラス)、半導体微結晶を分散した蛍光性量子ドット分散ガラス、蛍光体結晶粒子を析出させた結晶化ガラス(ガラスセラミックスともいう)、サイアロン等の無機蛍光体粒子を分散したセラミックス等が波長変換部材53の第一部分54として用いられ得る。散乱ロスを抑制する場合、第一部分54中にボイドが無いことが好ましい。具体的には、可視光を散乱しない粒径の蛍光微粒子(例、量子ドット、ナノクリスタル)を透明媒体に分散したもの、あるいは、蛍光中心(不純物イオン、例、Ce3+、Eu3+、Nd3+、Yb3+、Pr3+、Cr3+等)を透明な母材(ガラスや結晶)に分散したものが例として挙げられる。内部に光散乱の要因となる界面の無い均質なガラスまたは結晶粒界の無い単結晶等の透明材料であることがより好ましい。第一部分54の屈折率は、第二部分55の屈折率より高い。例えば、第一部分54にCe:YAG結晶を用いる場合、その屈折率は1.82~1.86となる。
【0018】
第一部分54は、第一部分54で発生する熱を第二部分55へ伝えるため、第二部分55と接する面積の第一部分54の体積に対する比が大きい方が好ましい。具体的には、板状、または、柱状(棒状)の形状を第一部分54が有することが好ましい。
【0019】
(第二部分)
波長変換部材53の第二部分55は、第一部分54で発生する熱を伝導し、波長変換部材53から放熱部品等の外部へ放熱することを助ける。屈折率の低い第二部分55が屈折率の高い第一部分54に接して覆うことにより、第一部分54の内部を第一部分54と第二部分55との境界に向かって進む光に対し臨界角を生み出す。第二部分55の材料としては、第一部分54の屈折率より低い屈折率の材料が用いられる。例えば、第二部分55にAl結晶を用いる場合、第二部分55の屈折率は、1.76~1.77である。第一部分54の熱伝導率と第二部分55の熱伝導率とが等しくてもよいが、第一部分54の熱伝導率より第二部分55の熱伝導率が大きいことが好ましい。第一部分54で温度消光が発生することを抑制しやすいからである。第二部分55は、励起光および第一部分54で波長変換された光に対して透光性を有することが好ましい。発光装置の発光効率をよくするためである。
【0020】
例えば、波長変換部材53の第一部分がNdドープガラス等の希土類元素添加ガラスの場合は、波長変換部材53の第二部分55として、シリカガラス等の透明なガラスが使用できる。第二部分55はガラス中に放熱フィラーを分散した高熱伝導粒子/ガラス複合体であってもよい。また、波長変換部材53の第一部分54がCe:YAG結晶からなる場合は、波長変換部材53の第二部分55として、Al結晶(サファイア)が使用できる。サファイアは高融点であり、100℃での熱伝導率が25W/m・KとCe:YAG結晶の熱伝導率(約10.5W/m・K)より良好な熱伝導率を有するからである。
【0021】
波長変換部材53において、出射方向(光出射面に垂直な方向)から見た場合に、光出射面側の光学膜が無い場合は第一部分54が光出射面に達して露出しており、第一部分54が第一部分54を囲む第二部分55の中で格子状に配列する。光出射面側の光学膜がある場合は第一部分54が光出射面側境界面に達している。具体的には、図5に示される波長変換部材53においては、円柱状の第一部分54が第一部分54を囲む第二部分55の中で正方格子配列である配置をとっているが、第一部分54と第二部分55の配置は他の配置であってもよい。図7は、出射方向から見た場合に、円柱状の第一部分54が第一部分54を囲む第二部分55の中で三角格子配列となる例を示す。
【0022】
図8は、出射方向から見た場合に、板状の第一部分54および板状の第二部分55が交互に積層されて配置される例を示す。図9は、出射方向から見た場合に、正方形の各辺から中心に向かって板状の第一部分54と板状の第二部分55とが交互に配置される例を示す。
【0023】
第一部分54において、励起光が吸収され、励起光の波長と異なる波長の光へ変換される際に熱が発生する。熱源となる第一部分54を放熱経路となる第二部分55と接しつつ分散して配置することにより、第一部分54の温度上昇が抑制され、波長変換部材53の波長変換効率の低下が抑制される。言い換えると、第二部分55が波長変換部材53の内部から表面に達するまで存在している。このことにより、波長変換部材53内部の第一部分54で発生した熱を第二部分55が波長変換部材53の表面まで伝熱して波長変換部材53の表面から放熱し、第一部分54での温度消光を抑制することができる。
【0024】
波長変換部材53は、複数の第一部分54と複数の第二部分55とを、光学接着剤を用いて接合、焼結拡散結合法(母材を密着させ、母材の融点以下の温度条件で、塑性変形ができるだけ生じない程度に加圧して、接合面間に生じる原子の拡散を利用して接合する方法)や表面活性化接合(常温直接接合ともいう)等の異種材料との接合方法を用いて形成し得る。また、第一部分54を第二部分55で包んだプリフォームを複数準備しプリフォームの束からなる集合体を形成した後、その集合体を引き延ばし、所望の長さに切断することで、波長変換部材53を形成することもできる。更に、一方向引き下げによる共晶分離構造を利用して、波長変換部材53を形成することもできる。
【0025】
例えば図8に示される波長変換部材53は、第一部分54に用いる複数のCe:YAG単結晶板と、第二部分55に用いる複数のサファイア板とを準備し、それらを交互に積層し、ホットプレスにより一体化して得られる。
【0026】
例えば、図10Dに示される波長変換部材53は、出射方向から見た場合に、本開示の第一の実施形態における波長変換部材の角柱状の第一部分が第一部分を囲む第二部分の中で正方格子配列となる例である。図10Dに示される波長変換部材53は、図8に示される波長変換部材を分割し板状にしたものと、複数のサファイア板40とを準備し、それらを交互に積層し、例えば熱間等方圧加圧法(Hot Isostatic Pressing)で、一体化して得られる。図10Aは、図8に示される波長変換部材と分割線とを表す模式図、図10Bの左側は、図8に示される波長変換部材が分割された、第一部分54及び第二部分55を含む複数の板を示し、図10Bの右側は、複数のサファイア板40を示す。図10Cは、波長変換部材が分割された板とサファイア板40とを交互に積層する模式図である。図10Dは、一体化後の模式図である。
【0027】
波長変換部材53の第一部分54および第二部分55は、回折効果を発揮する周期構造を有することで、効率よく光出射面52から光を出すことができる。例えば、平面視において、柱状の第一部分54が第二部分55中に周期的に配置されたフォトニック結晶、板状の第一部分54と板状の第二部分55が周期的に交互に配置された回折格子などである。
【0028】
波長変換部材53において、複数の同じ厚さの第一部分54および複数の同じ厚さの第二部分55が交互に配置され周期構造を構成する場合において、その周期は、0.2mm以下が好ましく、0.07mm以下がより好ましい。空間周波数が十分高くなり、肉眼では発光面の輝度むら及び色むらが識別不可能となるからである。
【0029】
例えば、板状の第一部分54と板状の第二部分55が周期的に交互に配置された波長変換部材53に、板状の第二部分55に垂直(板の厚さ方向に平行)に光が入射する場合、第一部分54の厚さをd、第二部分55の厚さをdとした時に、以下の式2を満たすことが好ましい。
×n+d×n=m×λ ・・・(式2)
ここで、mは正の整数で、λは入射光の真空中の波長である。
板状の第二部分55に垂直(板の厚さ方向に平行)な方向から角度θ傾いて光が入射する場合、
空気の屈折率を1として、以下の式3を満たすことが好ましい。
×n÷cos(Arcsin(sinθ÷n1))+d×n÷cos(Arcsin(sinθ÷n2))-d2×sinθ×tan(Arcsin(sinθ÷n2))=m×λ ・・・(式3)
ここで、Arcsinは、三角関数sinの逆関数である。
【0030】
(放熱部品)
放熱部品59は、第一部分54及び/又は前記第二部分55に接して囲う。放熱部品59は、良好な熱伝導率を有する材料、例えば、金属、セラミックス、セラミックスと金属の複合体、等を用いて形成されてよい。金属としては、例えば、アルミニウム、銅等が挙げられる。セラミックスとしては、例えば、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム等が挙げられる。結晶シリコン、黒鉛、といった材料や、ダイヤモンド、カーボンナノチューブを含む複合材料を用いて形成されてもよい。良好な熱伝導率を有し、励起光および波長変換部材53で波長変換された光に対し反射率が高い材料が好ましい。発光装置の発光効率を高めるためである。
放熱部品59は基体10と接合される。放熱部品59から基体10へ熱伝導させることで放熱するためである。
【0031】
(第一の実施形態の変形例)
波長変換部材53の形状は、四角柱形状に限られず、三角柱、六角柱、八角柱、などの角柱や円柱、あるいは多面体などの形状をとり得る。図11は、波長変換部材53がプリズム形状の例を示す。励起光および波長変換部材53で波長変換された光を反射し、光出射面側境界面方向への光量を増す。
波長変換部材53の光出射面側境界面に、マイクロレンズアレイなどの光学部品を配置し、出射光の配光分布を制御してもよい。
波長変換部材53の光出射面側境界面が平らな面である場合を図6は示しているが、それに限定されない。図12に示されるように、第一部分54の光出射面側境界面が第二部分55の光出射面側境界面より突出して周期的な凹凸形状を有してよい。この場合、周期的に配置された第一部分54各々に対応して、光出射面が周期的な凹凸を有し得る。光出射面側境界面の形状を適宜設計することにより、出射光の配光分布を狭くすることができる。
【0032】
(第二の実施形態)
図13に示されるように、本開示の第二の実施形態における波長変換部品50は、波長変換部材53、放熱部品59と、光散乱部品56とを備える。
【0033】
(光散乱部品)
図13において、波長変換部品50は、波長変換部材53の下方に光散乱部品56を備える。光入射面と非平行であり光出射面に対向する波長変換部材53の接合面に、光散乱部品56が接合されている。励起光101は光散乱部品56の左方から照射され、光散乱部品56の側面に設けられている光入射面51に入射し、光散乱部品56内部で散乱される。励起光が光散乱部品56内部で散乱すると、波長変換部材53に励起光が入射する際の均斉度が改善する。励起光の均斉度が改善すれば、波長変換部材53中の温度分布の偏りが減少し、波長変換部材53の波長変換効率の低下が抑制される。
【0034】
図14に示されるように、光散乱部品56は、励起光に対し透明な母材57と母材中に分散されている光散乱粒子58とを含む、光散乱粒子と透光材料との複合体である。光散乱粒子58は、球形、楕円体形状、ロッド状、針状、板状、鱗片形状、多面体形状、またはこれらの組合せ形状など様々な形状をとり得る。光散乱粒子58が非等方性形状であり、励起光が光入射面51から光出射面方向に多く散乱されるように光散乱粒子58が配向分布していることが好ましい。励起光の利用効率が向上するからである。
【0035】
図3に示されるように、光入射面が複数ある場合には、各光入射面に応じた光散乱部品56を準備する。
【0036】
図13では、光散乱部品56は波長変換部材53の下方に配置されるが、光散乱部品56を波長変換部材53の上方に配置してもよいし、波長変換部材53の下方と波長変換部材53の上方の両方に配置してもよい。光散乱部品56を波長変換部材53の上方に配置すれば、光出射面52での出射光(励起光および波長変換部材53で波長変換された光の混合光)のムラを抑制することができる。
【0037】
光散乱部品56と波長変換部材53との接合は、光学接着剤を用いて接着、拡散接合、常温直接接合、等の接合技術を用いて行うことができる。
【0038】
(母材)
母材57は、サファイア、光学ガラス、光学用プラスチック材料などの透光材料から成る。
【0039】
(光散乱粒子)
光散乱粒子58は、六方晶窒化ホウ素(h-BN)、雲母、酸化チタン被覆雲母、等の母材と異なる屈折率を有する材料の粒子、または、ボイド、あるいはレーザ光照射による加工変質領域などである。
【0040】
光散乱部品56の作り方は、例えば、ガラス原料を準備し、ガラス原料をガラス粉体とし、ガラス粉体に対して10~30重量%のh-BN板状粒子を振とう混合する。この混合粉体を黒鉛型に投入し、雰囲気加圧焼成炉にて5~10MPa圧力で加圧しながら真空中で10分間焼成する。このようにしてホットプレス法で得られるh-BN/ガラス複合体は、一方向の加圧によりh-BN板状粒子が配向する。
光散乱粒子58が配向分布している光散乱粒子58と透光材料との複合体から、光散乱粒子58の配向分布に応じて、励起光が光入射面51から光出射面方向に多く散乱されるように切断方向を決め、光散乱部品56を切り出す。
【0041】
光散乱部品56の他の作り方は、例えば、層状チタン酸化物から単層剥離された酸化チタンナノシートを、配向させ分散させたガラス塊から切り出す方法である。酸化チタンナノシートは、例えば、[Ti0.87]0.52―や[Ti0.91]0.36―等である。
酸化チタンナノシートの水分散液を準備する。この際、正イオン濃度を適宜調整する。酸化チタンナノシートの静電反発力を利用して層間距離を調整するためである。酸化チタンナノシートの水分散液に外部から磁場を印加し、酸化チタンナノシートを磁束に垂直に配向させる。磁場を保持したまま、金属アルコキシド、例えば、テトラエトキシシランのアルコール溶液を酸化チタンナノシートの水分散液に添加する。この際、適宜pHや温度を調整し、添加物を加える。加水分解と重縮合の反応速度を調節して、均質なゲルを得るためである。加水分解と重縮合の反応が進み湿潤ゲル体が得られたら、磁場を解除する。得られた湿潤ゲル体を、酸化チタンナノシートの配向に対し、所定の角度で分割して複数の湿潤ゲルのシートが得られる。一方で、酸化チタンナノシートを含まない湿潤ゲルのシートも必要に応じ複数準備する。酸化チタンナノシートを含む湿潤ゲルのシートと酸化チタンナノシートを含まない湿潤ゲルのシートを交互に積層し、加圧接着した後、乾燥して、乾燥ゲル体を得る。酸化チタンナノシートを含まない湿潤ゲルのシートが必要ない場合は、酸化チタンナノシートを含む湿潤ゲル体を乾燥して、乾燥ゲル体を得る。乾燥ゲル体を加熱して、シリカガラスのバルク(塊)を得る。シリカガラスのバルクから、光散乱粒子58の配向分布に応じて、励起光が光入射面51から光出射面方向に多く散乱されるように切断方向を決め、光散乱部品56を切り出す。
【0042】
(第二の実施形態の変形例)
第二の実施形態では、波長変換部品50の光散乱部品56中の光散乱粒子の密度分布が均一であるが、光散乱粒子の密度が、光入射面51から離れるに従い連続的または段階的に増加していてもよい。このような光散乱部品56を備える変形例を、図14に示す。波長変換部材53に励起光が入射する際の均斉度をより改善できる。
【0043】
(加工変質領域あるいはボイド)
第二の実施形態の変形例が備える光散乱部品56は、例えば、フェムト秒レーザによる透光体の内部加工により得られる。フェムト秒レーザによる透光体の内部加工により、光散乱部品56の母材57内部に、励起光を散乱する加工変質領域あるいはボイドを形成し、加工変質領域あるいはボイドを、光散乱部品56の母材57の内部に、三次元に分布させる。
加工変質領域あるいはボイドは、フェムト秒レーザ光70の光軸方向の寸法が光軸垂直方向の寸法より長い。
【0044】
平らな上表面を有する透明な母材塊60(母材インゴット)を準備し、フェムト秒レーザ光70の光軸を母材塊60の上表面の法線に平行にし、母材塊60にフェムト秒レーザ光70を照射する。フェムト秒レーザ光70の焦点位置を母材塊60の内部で移動させながら、母材塊60の内部に加工変質領域あるいはボイドを形成し、母材塊60の内部に三次元に分布させる。その後、母材塊60を図15中に示す破線に沿って切断し、直方体形状の光散乱部品56を切り出す。図15に示される例では、母材塊60の表面から45度傾けて切り出している。
【0045】
第二の実施形態の変形例が備える光散乱部品56は、以下のような方法で得てもよい。例えば、酸化チタンナノシートの分散密度がそれぞれρ1、ρ2、ρ3、ρ4、ρ5(ρ1<ρ2<ρ3<ρ4<ρ5)であるガラス塊を準備し、それぞれから所定の寸法のガラスブロックを切り出し、ρ1、ρ2、ρ3、ρ4、ρ5の順に並べて接合する方法である。準備するガラス塊の酸化チタンナノシートの分散密度の種類は、5つに限られない。
【0046】
本開示は、以下の項目に記載の発光装置を含む。
[項目1]
発光素子と、
蛍光体を含む波長変換部品と、
を備え、
前記波長変換部品は、
前記発光素子から出射される光が入射する光入射面と、
前記光入射面と非平行である光出射面と、
第一屈折率を有し、前記発光素子から出射される光の少なくとも一部を波長変換する複数の第一部分と、
前記第一屈折率よりも小さい第二屈折率を有する第二部分と、
を含み、
前記複数の第一部分各々の形状は、前記光出射面に向かって延びる板状または柱状である、発光装置。
[項目2]
平面視において、前記第一部分が周期的に配置されている、項目1に記載の発光装置。
[項目3]
周期的に配置された前記第一部分各々に対応して、前記光出射面が周期的な凹凸を有する、項目2に記載の発光装置。
[項目4]
前記第一部分は、単結晶からなる、項目1乃至項目3のいずれか一項に記載の発光装置。
[項目5]
前記第一部分は、Ce:YAG結晶からなり、前記第二部分は、Al結晶からなる、項目4に記載の発光装置。
[項目6]
前記波長変換部品は、前記第一部分及び/又は前記第二部分に接して囲う放熱部品を有する、項目1乃至項目5のいずれか一項に記載の発光装置。
[項目7]
前記波長変換部品は、
前記光入射面と非平行であり、前記光出射面に対向する接合面と、
前記接合面に接合された光散乱部品と、
を有し、
前記光入射面は、前記光散乱部品に設けられている、項目1乃至項目6のいずれか一項に記載の発光装置。
[項目8]
前記光散乱部品は、母材と前記母材中に分散されている光散乱粒子とを含み、
前記光散乱部品における、前記光散乱粒子の密度が、前記光入射面から離れるに従い連続的または段階的に増加している、項目7に記載の発光装置。
[項目9]
前記発光素子は、複数設けられており、
前記光入射面は、前記発光素子と同数設けられており、
前記光出射面は、1つ設けられている、項目1乃至項目8のいずれか一項に記載の発光装置。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本開示の発光装置は、照明用や投影機用の光源、自動車、船舶、飛行機等の移動体用の前照灯の光源など、種々の光源に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0048】
100、200、300 発光装置
101 励起光
102 出射光
10 基体
11 基材
12、13 配線パターン
20 発光素子
30 ワイヤ
40 サファイア板
50 波長変換部品
51 光入射面
52 光出射面
53 波長変換部材
54 第一部分
55 第二部分
56 光散乱部品
57 母材
58 光散乱粒子
59 放熱部品
60 母材塊
70 フェムト秒レーザ光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図11
図12
図13
図14
図15