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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035634
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】ガス分離膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/06 20060101AFI20240307BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20240307BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20240307BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20240307BHJP
   B01D 71/70 20060101ALI20240307BHJP
   B01D 71/76 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
B01D71/06
B01D69/02
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/70 500
B01D71/76
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140221
(22)【出願日】2022-09-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現」委託研究、産業技術強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】野呂 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】鄭 キン
(72)【発明者】
【氏名】藤川 茂紀
(72)【発明者】
【氏名】セリャンチン ロマン
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006MA06
4D006MA08
4D006MA31
4D006MB03
4D006MB04
4D006MC07X
4D006MC18
4D006MC22
4D006MC30
4D006MC42
4D006MC43
4D006MC49
4D006MC58
4D006MC62
4D006MC65
4D006MC68
4D006NA46
4D006NA49
4D006PA01
4D006PB17
4D006PB62
4D006PB63
4D006PB64
(57)【要約】
【課題】透過性および選択性に優れたガス分離膜を提供すること。
【解決手段】金属有機構造体層および有機高分子膜を含むガス分離膜。(1)有機高分子膜を形成すること、(2)前記有機高分子膜の表面をUV/オゾン処理すること、および(3)LbL(Layer by Layer)法により、金属有機構造体層を前記有機高分子膜上に形成することを含むガス分離膜の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属有機構造体層および有機高分子膜を含むガス分離膜。
【請求項2】
前記金属有機構造体層の金属が、周期表における第四周期元素に属する金属、第五周期元素に属する金属、第六周期元素に属する金属および第七周期元素に属する金属から選択される1種または2種以上のものであることを特徴とする、請求項1に記載のガス分離膜。
【請求項3】
前記金属有機構造体層の金属が、マンガン、クロム、鉄、コバルト、銅、亜鉛、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、カドミウム、ランタン、セリウム、オプラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、オスミウム、イリジウム、白金、水銀、アクチニウム、トリウム、プロトアクチニウム、ウラン、ネプチニウム、プルトニウム、およびレントゲニウムからなる群から選択される1種または2種以上であることを特徴とする、請求項1に記載のガス分離膜。
【請求項4】
金属有機構造体が、
金属有機構造体が、
[Zn(1,2,4,5-テトラキス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン)([5,15-ジ(4-ピリジルアセチル)-10,20-ジフェニル]ポルフィリナト亜鉛-(II))]、
[Zn(5,10,15,20-テトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリン)(4,4’-ビピリジン)]、
[Cu(ナフタレンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]、
[Cu(テトラフルオロベンゼンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]、
[Cu(ナフタレンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]上の[Zn(2,5-ビス(2-メトキシエトキシ)-1,4-ベンゼンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]、
[Cu(ナフタレンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]上の[Cu(テトラフルオロベンゼンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]、
[Fe(ピラジン)[Pt(CN)]]、
[Zr(OH)(2-アミノ-1,4-ベンゼンジカルボキシレート)]、[Zr(OH)(1,4-ベンゼンジカルボキシレート)]、
[Zn(2-メチルイミダゾレート)]、
[Cu(SiF)(4,4’-ビピリジン)]、
[Cu(1,3,5-ベンゼントリカルボキシレート)
[Cu(2-アミノ-1,4-ベンゼンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]+[Cu(1,4-ベンゼンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)、
[Cu(2-フェニルジアゼニル-4,4’-ビフェニルジカルボン酸)((E)-4,4’-(2-(フェニルジアゼニル)-1,4-フェニレン)]、
[Cu(ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸)(4,4’-ビピリジン)]、
[Cu(2-アミノ-1,4-ベンゼンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]、
[Cu((1R,3S)-(+)-カンフォレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]、
[Cu((1R,3S)-(+)-カンフォレート)(4,4’-ビピリジン)]、
[Cu(2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレン)]、
[Cu(1,3,5-ベンゼントリカルボキシレート)]上の[Cu(5,5’,5’’,5’’’-[1,2,4,5-フェニルテトラメトキシ]テトライソフタレート)]、
[Cu(1,3,5-ベンゼントリカルボキシレート)]上の[Cu(1,2,4,5-テトラキス[4-(3’,5’-ジカルボキシ-1,1’-ビフェニル)]-3,6-ジメチルベンゼン)]、
[Zn(1,4-ベンゼンジカルボキシレート)(4,4’-ビピリジン)]、
[Cu(1,4-ベンゼンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]、
[Cu(1,4-ベンゼンジカルボキシレート)]、
[Cu(2,6-ナフタレンジカルボキシレート)]、
[Cu(4,4’-ビフェニルジカルボキシレート)]、
[Cu(パラ-テルフェニルジカルボキシレート)]、
[Cu(パラ-クアテルフェニルジカルボキシレート)]、
[Cu(パラ-ペンタフェニルジカルボキシレート)]、
[Cu(P(EP)2DC)]、
[Cu(樟脳酸)(ジアザビシクロ[2.2.2]-オクタン)]、
[Cu(樟脳酸)(4,4-ビピリジル)]、
[Cu(樟脳酸)(1,4-ビス(4-ピリジル)ベンゼン)]、
[ZnO(3,5-ジアルキルカルボキシピラゾレート)]、
[ZnO(3-メチル-5-イソプロピル-4-カルボキシピラゾレート)]、
[ZnO(3,5-ジエチル-4-カルボキシピラゾレート)]、
[Cu(1,3,5-ベンゼントリカルボキシレート)]、
[Zn(4’,4’’’,4’’’’’,4’’’’’’’-(エテン-1,1,2,2-テトライル)テトラキス(([1,1’-ビフェニル]-4-カルボン酸)))]、
[Ln(1,3,5-ベンゼントリカルボキシレート)]、
[Eu(1,3,5-ベンゼントリカルボキシレート)]、
[Tb(1,3,5-ベンゼントリカルボキシレート)]、
[Ni(1,4-ベンゼンジカルボキシレート)]、
[Co(1,4-ベンゼンジカルボキシレート)]、
Co[Fe(CN)
[Zr(μ3-OH)(μ3O)(OH)(OH(1,3,6,8-テトラキス-(p-ベンゾエート)-ピレン)]および
[CoT(p-CO)PPCo1.5
からなる群から選択される1種または2種以上であることを特徴とする、請求項1に記載のガス分離膜。
【請求項5】
前記有機高分子膜が500~100,000GPUのガス透過度を有することを特徴とする、請求項1に記載のガス分離膜。
【請求項6】
二酸化炭素、酸素および窒素の混合ガスに対して、10を超えるCO/N選択比および5を超えるCO/O選択比を示すことを特徴とする、請求項1に記載のガス分離膜。
【請求項7】
前記有機高分子膜が、ポリシロキサン系高分子、ポリエン系高分子および固有の多孔性を有するスピロ型ラダーポリマーからなる群から選択される1種または2種以上の高分子を含むことを特徴とする、請求項1に記載のガス分離膜。
【請求項8】
前記有機高分子膜が、
式:


[式中、Rは同一または異なり、H、ハロゲン、OH、1~20個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、3~20個の炭素原子を有する脂環式炭化水素基および6~20個の炭素原子を有する芳香族炭化水素基からなる群から選択され、nは10~20,000である]
で表される構造を有する高分子、
ポリ(トリメチルシリルプロピン)、
ポリ(ジフェニルアセチレン)、
ポリ(フェニルアセチレン)、
フルオレニル-ポリ(ジアリールアセチレン)、
ポリ(ジアリールアセチレン)、
ポリ[1-フェニル]-2-(2-フルオレニル)アセチレン、
ポリアセチレン、
ポリ[1-[p-トリメチルシリル]フェニル]-2-(2-フルオレニル)アセチレン、
ポリ[1-フェニル]-2-(2-フェナントリル)アセチレン、
ポリ(4-メチル-2-ペンチン)、
固有の多孔性を有するスピロ型ラダーポリマー、および
ポリ(3-トリシクロノン)
からなる群から選択される1種または2種以上の高分子を含むことを特徴とする、
請求項1に記載のガス分離膜。
【請求項9】
ガス分離膜の製造方法であって、
(1)基体の表面に有機高分子膜を形成すること、
(2)前記有機高分子膜の表面をUV/オゾン処理すること、および
(3)LbL(Layer by Layer)法により、前記有機高分子膜上に金属有機構造体層を形成すること
を含む製造方法。
【請求項10】
前記工程(3)のLbL法が、前記有機高分子膜を金属有機構造体の正電荷成分溶液に浸漬し、負電荷成分溶液に浸漬することを含む成膜サイクルを含むことを特徴とする、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記工程(3)のLbL法が、1~15の成膜サイクルを含むことを特徴とする、請求項9に記載の製造方法。
【請求項12】
さらに、工程(4)として、膜を前記基体から外し、金属有機構造体が成膜されていない側の前記有機高分子膜に対して、1~15の成膜サイクルを行う工程を含むことを特徴とする、請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分離膜に関する。また、本発明は、かかる分離膜の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の原因ガスである二酸化炭素の分離回収は世界を巻き込んだ喫緊の課題である。
二酸化炭素の数ある分離技術の中でも、膜分離は省エネルギー分離、低設備コスト等の優れた利点をもつため、有望視されている。
しかしながら、現状の膜分離技術ではガス透過度およびガス選択性の両方の性質を同時に向上させることが極めて困難であった。すなわち、通常の分離膜では、ガス選択性を高めようとするとガス透過度が著しく低下し、ガス透過度を高めようとするとガス選択性が低下し、両者の関係はトレードオフとなっている(J. Membr. Sci. 2008, 320, 390-400.)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・メンブレン・サイエンス(J. Membr. Sci.)2008, 320, 390-400.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ガス分離膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題に鑑みて鋭意検討した結果、金属有機構造体(metal-organic framework(MOF))層と有機高分子膜とを組み合わせることにより、高いガス透過度と高いガス選択性とを併せ持つガス分離膜を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、金属有機構造体層および有機高分子膜を含むガス分離膜、ならびにかかるガス分離膜の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高いガス透過度と高いガス選択性とを併せ持つガス分離膜を提供することができ、2種以上のガス混合物から特定のガスを効率よく分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】有機高分子膜(Sylgard膜)上に金属有機構造体層(HKUST-1層)を形成したガス分離膜の赤外吸収スペクトルを示すチャートである。
【0008】
図2】有機高分子膜(Sylgard膜)上に金属有機構造体層(HKUST-1層)を形成した各種ガス分離膜のCO/Nガス選択比を示す図である。
【0009】
図3】有機高分子膜(Sylgard膜)上に金属有機構造体層(HKUST-1層)を形成した各種ガス分離膜のCO/Oガス選択比を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のガス分離膜は、金属有機構造体層と有機高分子膜を含む。
本発明のガス分離膜は、高いガス透過度を有することから、混合ガスを効率よく処理することを可能にし得る。さらに、本発明のガス分離膜は、通常の条件下(常温大気圧下)で使用して特定のガスを分離することを可能にし得る。
【0011】
本発明のガス分離膜は、有機高分子膜表面に金属有機構造体層をもつ積層構造を有することを特徴とする。以下に有機高分子膜ならびに金属有機構造体層の態様について述べる。
[金属有機構造体層]
本発明のガス分離膜を構成する金属有機構造体層は、金属有機構造体(metal-organic-framework、MOF)の層である。上記金属有機構造体層は、2種以上のガスの混合物をガス分離膜を透過する方向で通した場合に、2種以上のガスの間の透過量に差を示し得る。すなわち、上記金属有機構造体層は、ガス分離において選択性を有し得る。具体的には、2種以上のガスの混合物を金属有機構造体層に通した場合に、通す前と通した後の2種以上のガス混合物の組成が変化する、換言すれば特定のガスの透過量が他のガスの透過量と比較して小さい金属有機構造体層である。
【0012】
このような金属有機構造体層は、金属有機構造体(metal-organic-framework、MOF)の層を1つまたは2つ以上積層させたものとし得る。
【0013】
金属有機構造体は、金属イオンおよびそれに結合した配位子の複合体とすることができ、金属の種類および配位子の種類によって、直線2配位構造、平面4配位構造、6配位8面体構造、8配位立方体構造などの樣々な構造をとり得る。
【0014】
金属有機構造体に含まれる金属としては、限定されるものではないが、例えば周期表における第四周期元素に属する金属である、マンガン、クロム、鉄、コバルト、銅等の第一遷移金属、および亜鉛、第五周期元素に属する金属である、ルテニウム、パラジウム、ロジウム等の第二遷移金属、およびカドミウム、第六周期元素に属する金属である、ランタノイド金属(ランタン、セリウム、オプラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム等)、ハフニウム、タンタル、タングステン、オスミウム、イリジウム、白金等の第三遷移金属および水銀、ならびに第七周期元素に属する金属である、アクチノイド金属(アクチニウム、トリウム、プロトアクチニウム、ウラン、ネプチニウム、プルトニウム等)、マイトネリウム、レントゲニウム等の第四遷移金属とし得る。金属有機構造体に含まれる金属は、これら群から選択される1種または2種以上のものとし得る。
上記金属としては、好ましくは、第四周期元素に属する金属であり、さらには二価金属であり、より好ましくは亜鉛、または銅とし得る。
【0015】
金属有機構造体に含まれる配位子としては、限定されるものではないが、上記の金属と金属有機構造体を形成する能力を有するものである。また、主骨格内に金属に対する配座部位を有する。例えばベンゼン誘導体、ナフタレン誘導体、ピラジン誘導体、イミダゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ピラゾール誘導体ピリジン誘導体、ビフェニル誘導体、テルフェニル誘導体、クアテルフェニル誘導体、ペンタフェニル誘導体、カンフォレート誘導体、トリフェニレン誘導体、樟脳酸誘導体、ポルフィリン誘導体および金属シアノ誘導体からなる群から選択される1種または2種以上のものとしてよい。
またこれらのうち、一分子中に2~8つの陰イオン性官能基を持つものが好ましく、2~4つの陰イオン性官能基を持つものがさらに好ましく、3つの陰イオン性官能基を持つものがより好ましい。
【0016】
また、金属有機構造体層は、分離対象とするガス種に応じて、構成する金属や配位子を適宜に選択して作製し得る。この時単一の金属および単一の配位子からなる有機金属構造体だけでなく、複数の金属および配位子を用いて金属有機構造体層を形成してもよい。
【0017】
また、金属有機構造体は、その構造内に水分子を保持していてもよい。
金属有機構造体は、水分子を保持することにより、ガス分離の選択性が向上し得るものがある。例えば、金属有機構造体層は、大気中などの水分が存在する環境下に置いた場合は、大気中の水分を吸収することによりガス選択性が高くなり得る。
【0018】
したがって、本発明のガス分離膜は、特殊な環境制御装置などを必要とせず、通常の条件下、すなわち大気圧下、常温で簡便に使用することを可能にし得る。
【0019】
本明細書中において、「大気圧」とは当業者が加圧や減圧等、人為的に圧力を変化させない環境の気圧のことを指しており、典型的には標準気圧1013hPaから±5%の範囲内の気圧を意味している。
【0020】
また、本明細書中において、「常温」とは当業者が加熱や冷却等、人為的に温度を変化させない環境の温度(例えば周囲温度)のことを指しており、典型的には15~35℃、例えば20~30℃または23~27℃の温度を意味している。
【0021】
金属有機構造体としては、限定されるものではないが、例えば[Zn(1,2,4,5-テトラキス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン)([5,15-ジ(4-ピリジルアセチル)-10,20-ジフェニル]ポルフィリナト亜鉛-(II))]、[Zn(5,10,15,20-テトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリン)(4,4’-ビピリジン)]、[Cu(ナフタレンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]、[Cu(テトラフルオロベンゼンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]、[Cu(ナフタレンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]上の[Zn(2,5-ビス(2-メトキシエトキシ)-1,4-ベンゼンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]、[Cu(ナフタレンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]上の[Cu(テトラフルオロベンゼンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]、[Fe(ピラジン)[Pt(CN)]]、[Zr(OH)(2-アミノ-1,4-ベンゼンジカルボキシレート)]、[Zr(OH)(1,4-ベンゼンジカルボキシレート)]、[Zn(2-メチルイミダゾレート)]、[Cu(SiF)(4,4’-ビピリジン)]、[Cu(1,3,5-ベンゼントリカルボキシレート)、[Cu(2-アミノ-1,4-ベンゼンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン))]+[Cu(1,4-ベンゼンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン))]、[Cu(2-フェニルジアゼニル-4,4’-ビフェニルジカルボン酸)((E)-4,4’-(2-(フェニルジアゼニル)-1,4-フェニレン)]、[Cu(ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸)(4,4’-ビピリジン)]、[Cu(2-アミノ-1,4-ベンゼンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]、[Cu((1R,3S)-(+)-カンフォレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]、[Cu((1R,3S)-(+)-カンフォレート)(4,4’-ビピリジン)]、[Cu(2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレン)]、[Cu(1,3,5-ベンゼントリカルボキシレート)]上の[Cu(5,5’,5’’,5’’’-[1,2,4,5-フェニルテトラメトキシ]テトライソフタレート)]、[Cu(1,3,5-ベンゼントリカルボキシレート)]上の[Cu(1,2,4,5-テトラキス[4-(3’,5’-ジカルボキシ-1,1’-ビフェニル)]-3,6-ジメチルベンゼン)]、[Zn(1,4-ベンゼンジカルボキシレート)(4,4’-ビピリジン)]、[Cu(1,4-ベンゼンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]、[Cu(1,4-ベンゼンジカルボキシレート)]、[Cu(2,6-ナフタレンジカルボキシレート)]、[Cu(4,4’-ビフェニルジカルボキシレート)]、[Cu(パラ-テルフェニルジカルボキシレート)]、[Cu(パラ-クアテルフェニルジカルボキシレート)]、[Cu(パラ-ペンタフェニルジカルボキシレート)]、[Cu(P(EP)2DC)]、[Cu(樟脳酸)(ジアザビシクロ[2.2.2]-オクタン)]、[Cu(樟脳酸)(4,4-ビピリジル)]、[Cu(樟脳酸)(1,4-ビス(4-ピリジル)ベンゼン)]、[ZnO(3,5-ジアルキルカルボキシピラゾレート)]、[ZnO(3-メチル-5-イソプロピル-4-カルボキシピラゾレート)]、[ZnO(3,5-ジエチル-4-カルボキシピラゾレート)]、[Cu(1,3,5-ベンゼントリカルボキシレート)]、[Zn(4’,4’’’,4’’’’’,4’’’’’’’-(エテン-1,1,2,2-テトライル)テトラキス(([1,1’-ビフェニル]-4-カルボン酸)))]、[Ln(1,3,5-ベンゼントリカルボキシレート)]、[Eu(1,3,5-ベンゼントリカルボキシレート)]、[Tb(1,3,5-ベンゼントリカルボキシレート)]、[Ni(1,4-ベンゼンジカルボキシレート)]、[Co(1,4-ベンゼンジカルボキシレート)]、Co[Fe(CN)、[Zr(μ3-OH)(μ3-O)(OH)(OH(1,3,6,8-テトラキス-(p-ベンゾエート)-ピレン)]および[CoT(p-CO))PPCo1.5]からなる群から選択される1種または2種以上のものとしてよい。金属有機構造体は、好ましくは、Cu(1,3,5-ベンゼントリカルボキシレート)であり得る。
【0022】
金属有機構造体層は、金属有機構造体(MOF)を1層または2層以上で積層させたものであってよく、限定されるものではないが、例えば2~30層、3~20層、5~15層、7~12層に積層させたものとしてよい。金属有機構造体層の積層数を増加させるとガス選択性が高くなる傾向があるがガス透過性は低くなるため、3~20層または5~15層が好ましい場合があり、7~12層がより好ましい場合がある。
【0023】
金属有機構造体層の厚さは、上記した金属有機構造体層の積層数に関係し、限定されるものではないが、例えば2~1,000nm、2~100nm、2~50nm、2~30nmとしてよい。金属有機構造体層の厚さを2nm以上とすることにより、ガス分離膜のガス分離能および強度を得ることが容易になる。一方、金属有機構造体層の厚さを1,000nm以下とすることにより、ガス透過度が高くなり、ガス分離に要する時間を短くすることができる。
そのため、金属有機構造体層の厚さは、1~500層または1~50層に相当する2~1,000nmまたは2~100nmが好ましく、1~20層または1~15層に相当する2~40nmまたは2~30nmがより好ましい場合があり、1~12層に相当する2~24nmがより好ましい場合がある。
【0024】
金属有機構造体層は、限定されるものではないが、例えば、大気圧下、分離対象とするガス種に対して、常温にて、100~100,000GPU、300~80,000GPU、500~50,000GPU、1,000~30,000GPU、1,000~20,000GPU、1,000~10,000GPU、1,000~3,000GPUのガス透過度を有するものとしてよい。なお、1GPUは7.5×10-12/(m・s・Pa)に相当する。
【0025】
金属有機構造体層のガス透過度を対象となるガスに対して、例えば空気に対して100GPU以上とすることにより、処理する空気の量が多くなり、処理に要する長時間を短くすることができる。一方、金属有機構造体層の二酸化炭素透過度を、空気中の他成分に対して高くすることにより、空気中の二酸化炭素に対して高い分離能を得ることができる。
【0026】
[有機高分子膜]
前記金属有機構造体層の支持体として機能する有機高分子膜は、ガス透過性を有する高分子からなる。有機高分子膜は、ガス透過性を有し、金属有機構造体層を支持し得るものであれば特に限定されない。また、長時間使用しても安定性が高く(即ち、分解や力学的破壊などによる劣化の程度が小さい)、一定の力学的特性およびガス透過性を維持することができものとしてよい。用途による求められる特性に応じて、適宜有機高分子膜を選定して用いることができる。
【0027】
有機高分子膜としては、限定されるものではないが、例えば、天然ゴム、ブタジエン(共)重合体、置換シロキサン(共)重合体、トリアルキルシリルプロピン(共)重合体、ジ置換アセチレン(共)重合体、(ハロゲン置換)ポリイミド、酢酸セルロース、ポリスルホン、ポリカーボネート、テトラフルオロエチレン(共)重合体多孔質膜、ポリオレフィン(共)重合体多孔質膜等が挙げられる。これらの中で、例えば下記構造式で示す置換シロキサン重合体が好適に用いられる。
式:
【化1】



[式中、Rは同一または異なり、H、ハロゲン、OH、1~20個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、3~20個の炭素原子を有する脂環式炭化水素基および6~20個の炭素原子を有する芳香族炭化水素基からなる群から選択され、または、Rは1~5個の炭素原子を有する飽和脂肪族炭化水素基、3~7個の炭素原子を有する脂環式炭化水素基および6~10個の炭素原子を有する芳香族炭化水素基からなる群から選択し得、nは10~20,000である]
で表される構造を有する高分子、
ポリ(トリメチルシリルプロピン)、
ポリ(ジフェニルアセチレン)、
ポリ(フェニルアセチレン)、
フルオレニル-ポリ(ジアリールアセチレン)、
ポリ(ジアリールアセチレン)、
ポリ[1-フェニル]-2-(2-フルオレニル)アセチレン、
ポリアセチレン、
ポリ[1-[p-トリメチルシリル]フェニル]-2-(2-フルオレニル)アセチレン、
ポリ[1-フェニル]-2-(2-フェナントリル)アセチレン、
ポリ(4-メチル-2-ペンチン)、
固有の多孔性を有するスピロ型ラダーポリマー、および
ポリ(3-トリシクロノン)
からなる群から選択される1種または2種以上の高分子からなるものとしてよい。
【0028】
これらは製膜することを目的として、その他材を添加することもできる。例えば、強度を向上させる目的で粒子、繊維、織布等のフィラー類を添加してもよく、成膜性を向上させる目的で可塑剤等を添加してもよい。
【0029】
有機高分子膜は、限定されるものではないが、対象となるガスに対して、例えば空気に対して10~100,000GPU、100~80,000GPU、500~50,000GPU、1,000~30,000GPU、1,000~20,000GPU、2,000~30,000GPU、または2,000~10,000GPUのガス透過度を有するものとしてよい。有機高分子膜のガス透過度は、基本的に高いほうが多くの目的気体を透過させることができるのでスループットの観点からは好ましいが、そのトレードオフとして選択性や膜そのものの強度が低下する傾向にある。したがって、実用上、もしくは金属有機構造体層を構成する工程において必要とされる強度を保つ範囲を考慮すると、上記範囲が好ましい。
【0030】
[ガス分離膜]
本発明のガス分離膜は、有機高分子膜と金属有機構造体層とを組み合わせることにより、高い透過性を維持しつつ高いガス選択性が発現する。分離するべきガスは、本発明のガス分離膜を、有機高分子層側から透過させてもよく、あるいは、金属有機構造体層側から透過させてもよい。好ましくは、金属有機構造体層側から透過させるほうがガス選択性の観点から好ましい。
【0031】
また、ガス分離膜は、有機高分子膜の両面に金属有機構造体層が形成された、および金属有機構造体層の両面に有機高分子膜が形成されたサンドイッチ構造としてもよい。有機高分子膜と金属有機構造体層とは交互に4層以上積層させてもよい。ガス分離膜における金属有機構造体層が多くなるにつれて、ガス選択性が高められ、ガス分離膜の強度が高められて耐久性が増し得る。
【0032】
本発明のガス分離膜は、2種以上のガス混合物から、当該混合物中に含まれる特定のガスを分離することができる、換言すれば特定のガスを選択的に濃縮することができる。このようなガス混合物は、限定されるものではないが、下記に示す選択比が、例えば、5を超える、6を超える、7を超える、8を超える、9を超える、10を超える、15を超える範囲である場合に好適な分離対象となる。
例えば、空気など窒素、酸素および二酸化炭素の混合ガスや、窒素および二酸化炭素の混合ガス、酸素および二酸化炭素の混合ガスが挙げられる。
【0033】
本発明のガス分離膜は、CO・N混合ガスに対しては、例えば、10を超える、11を超える、12を超える、13を超える、15を超える、20を超えるCO/N選択比を示し得る。また、本発明のガス分離膜は、CO・O混合ガスに対しては、例えば、5を超える、6を超える、7を超える、8を超える、9を超える、10を超える、15を超えるCO/N選択比を示し得る。
【0034】
ここで、ガス選択比とは、比較対象となるガス種(例えば空気中の主要構成ガス種である窒素、もしくは酸素)に対する、分離の目的となるガス種(例えば二酸化炭素)の透過量の比である。例えば、COとN混合ガスをガス分離膜に通す場合、Nの透過量に対するCOの透過量の比が、CO/N選択比となる。数値が大きいほど透過度に差が生じている、すなわち目的となるガス種を効率的に分離できることを示している。
すなわち、選択比とは、下記式で示され得る。
選択比=目的となるガス種の透過量(体積)/対象となるガス種の透過量(体積)
【0035】
ガス分離膜の厚さは、限定されるものではないが、例えば10~50,000nm、20~1,000nm、30~100nm、30~50nmとしてよい。ガス分離膜の厚さを10nm以上とすることにより、膜のガス分離能が向上し得、また、ガス分離膜の強度が向上し得、ピンホール等の発生を抑制することができる。一方、ガス分離膜の厚さを50,000nm以下とすることにより、ガス分離膜の厚さに比例してガス選択性が向上し、ガス透過度が高くなり得る。
【0036】
ガス分離膜における金属有機構造体層の厚さと有機高分子膜の厚さの割合は、金属有機構造体層および有機高分子膜を構成する材料により、限定されるものではないが、金属有機構造体層の厚さ:有機高分子膜の厚さとして、例えば1:100,000~100,000:1、1:10,000~10,000:1、1:1,000~1,000:1としてもよい。ガス分離膜における金属有機構造体層の厚さと有機高分子膜の厚さの割合を1:100,000以上とすることにより、ガス選択性が向上し得る。一方、ガス分離膜における金属有機構造体層の厚さと有機高分子膜の厚さの割合を100,000:1以下とすることにより、ガス透過性が向上し得、ひいては実用性が向上し得る。
【0037】
[ガス分離膜の製造方法]
本発明のガス分離膜は、
(1)基体の表面に有機高分子膜を形成すること、
(2)前記有機高分子膜の表面を親水化処理(例えば、UV/オゾン処理)すること、および
(3)LbL(Layer by Layer)法により、前記有機高分子膜上に金属有機構造体層を形成すること
を含む方法により製造する。
上記工程(3)のLbL法は、基材となる有機高分子膜を金属有機構造体の正電荷成分溶液に浸漬し、溶媒(例えば、エタノール)で洗浄し、金属有機構造体の負電荷成分溶液に浸漬し、ついで溶媒(例えば、エタノール)で洗浄することを1サイクルとして含む金属有機構造体層を形成する工程を含む。工程(3)を1サイクルすることにより1層の金属有機構造体層が形成される。
【0038】
LbL法のもう一つの形態として、上記の浸漬法のほかに、正電荷成分溶液と負電荷成分溶液を交互に塗工してもよい。これらは目的とされる分離膜の寸法、生産量、塗工厚、塗工速度、用途等に応じて適宜選択し得る。塗工法としては既存の方法が適用し得る。具体的に挙げれば、スプレー塗工法、ロール塗工法、カーテン塗工法、グラビア塗工法、インクジェット塗工法、浸漬塗工法等であってよい。
【0039】
さらには前処理として、有機高分子膜表面を親水化した後にLbL法を行うことも好適である。これは一般的に疎水性の高い有機高分子膜表面を酸化して活性化、親水性を付与する、もしくは基材表面に付着する有機不純分を除去することを目的としている。具体的には、紫外線照射処理、オゾン酸化処理、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、フレーム処理、電子線照射処理、硝酸等による化学的表面酸化処理等が挙げられ、これらはそれぞれ組み合わせて使用してもよい。
処理後の基材(有機高分子膜)の水に対する接触角が45°以下、35°以下、25°以下であることが好ましい。
【0040】
また、ガス分離膜は、有機高分子膜の両面に金属有機構造体層が形成された、サンドイッチ構造としてもよい。有機高分子膜の両面に金属有機構造体層が形成されることにより、ガス分離膜の強度が高められ、ガス分離膜の耐久性を増し得る。また、ガス分離膜のガス選択性を高め得る。
【0041】
上記の浸漬法による製造方法において工程(3)のLbL法は、有機高分子膜を金属有機構造体の正電荷成分溶液に一定時間、例えば、2~10分、3~7分、4~6分浸漬し、エタノール等の溶媒に一定時間、例えば、2~10分、3~7分、4~6分浸漬して有機高分子膜に結合していない正電荷成分を除去し、次に金属有機構造体の負電荷成分溶液に一定時間、例えば、2~10分、3~7分、4~6分浸漬し、エタノール等の溶媒に一定時間、例えば、2~10分、3~7分、4~6分浸漬して有機高分子膜に金属有機構造体を形成しなかった負正電荷成分を除去することを含む成膜サイクルを含み得る。
【0042】
上記の製造方法において工程(3)のLbL法としては、1~30、1~20、1~15、5~15、5~15、5~10、7~10などの成膜サイクルを含み得る。
【0043】
サンドイッチ構造のガス分離膜は、上述したLbL法にさらに、工程(4)として、製造したガス分離膜を基体から外し、金属有機構造体が成膜されていない側の有機高分子膜(基体に結合していた側の有機高分子膜)に対して、1~15の成膜サイクルを行うことにより製造し得る。
【0044】
なお、上述の本発明は、以下の態様を包含し得ることを確認的に述べておく。
[第1態様]
金属有機構造体層および有機高分子膜を含むガス分離膜。
[第2態様]
前記金属有機構造体層の金属が、周期表における第四周期元素に属する金属、第五周期元素に属する金属、第六周期元素に属する金属および第七周期元素に属する金属から選択される1種または2種以上のものであることを特徴とする、前記第1態様に記載のガス分離膜。
[第3態様]
前記金属有機構造体層の金属が、マンガン、クロム、鉄、コバルト、・銅、亜鉛、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、カドミウム、ランタン、セリウム、オプラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、オスミウム、イリジウム、白金、水銀、アクチニウム、トリウム、プロトアクチニウム、ウラン、ネプチニウム、プルトニウム、およびレントゲニウムからなる群から選択される1種または2種以上であることを特徴とする、前記第1態様または第2態様に記載のガス分離膜。
[第4態様]
金属有機構造体が、
[Zn(1,2,4,5-テトラキス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン)([5,15-ジ(4-ピリジルアセチル)-10,20-ジフェニル]ポルフィリナト亜鉛-(II))]、
[Zn(5,10,15,20-テトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリン)(4,4’-ビピリジン)]、
[Cu(ナフタレンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]、
[Cu(テトラフルオロベンゼンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]、
[Cu(ナフタレンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]上の[Zn(2,5-ビス(2-メトキシエトキシ)-1,4-ベンゼンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]、
[Cu(ナフタレンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]上の[Cu(テトラフルオロベンゼンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]、
[Fe(ピラジン)[Pt(CN)]]、
[Zr(OH)(2-アミノ-1,4-ベンゼンジカルボキシレート)]、[Zr(OH)(1,4-ベンゼンジカルボキシレート)]、
[Zn(2-メチルイミダゾレート)]、
[Cu(SiF)(4,4’-ビピリジン)]、
[Cu(1,3,5-ベンゼントリカルボキシレート)
[Cu(2-アミノ-1,4-ベンゼンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]+[Cu(1,4-ベンゼンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)、
[Cu(2-フェニルジアゼニル-4,4’-ビフェニルジカルボン酸)((E)-4,4’-(2-(フェニルジアゼニル)-1,4-フェニレン)]、
[Cu(ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸)(4,4’-ビピリジン)]、
[Cu(2-アミノ-1,4-ベンゼンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]、
[Cu((1R,3S)-(+)-カンフォレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]、
[Cu((1R,3S)-(+)-カンフォレート)(4,4’-ビピリジン)]、
[Cu(2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレン)]、
[Cu(1,3,5-ベンゼントリカルボキシレート)]上の[Cu(5,5’,5’’,5’’’-[1,2,4,5-フェニルテトラメトキシ]テトライソフタレート)]、
[Cu(1,3,5-ベンゼントリカルボキシレート)]上の[Cu(1,2,4,5-テトラキス[4-(3’,5’-ジカルボキシ-1,1’-ビフェニル)]-3,6-ジメチルベンゼン)]、
[Zn(1,4-ベンゼンジカルボキシレート)(4,4’-ビピリジン)]、
[Cu(1,4-ベンゼンジカルボキシレート)(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)]、
[Cu(1,4-ベンゼンジカルボキシレート)]、
[Cu(2,6-ナフタレンジカルボキシレート)]、
[Cu(4,4’-ビフェニルジカルボキシレート)]、
[Cu(パラ-テルフェニルジカルボキシレート)]、
[Cu(パラ-クアテルフェニルジカルボキシレート)]、
[Cu(パラ-ペンタフェニルジカルボキシレート)]、
[Cu(P(EP)2DC)]、
[Cu(樟脳酸)(ジアザビシクロ[2.2.2]-オクタン)]、
[Cu(樟脳酸)(4,4-ビピリジル)]、
[Cu(樟脳酸)(1,4-ビス(4-ピリジル)ベンゼン)]、
[ZnO(3,5-ジアルキルカルボキシピラゾレート)]、
[ZnO(3-メチル-5-イソプロピル-4-カルボキシピラゾレート)]、
[ZnO(3,5-ジエチル-4-カルボキシピラゾレート)]、
[Cu(1,3,5-ベンゼントリカルボキシレート)]、
[Zn(4’,4’’’,4’’’’’,4’’’’’’’-(エテン-1,1,2,2-テトライル)テトラキス(([1,1’-ビフェニル]-4-カルボン酸)))]、
[Ln(1,3,5-ベンゼントリカルボキシレート)]、
[Eu(1,3,5-ベンゼントリカルボキシレート)]、
[Tb(1,3,5-ベンゼントリカルボキシレート)]、
[Ni(1,4-ベンゼンジカルボキシレート)]、
[Co(1,4-ベンゼンジカルボキシレート)]、
Co[Fe(CN)
[Zr(μ3-OH)(μ3O)(OH)(OH(1,3,6,8-テトラキス-(p-ベンゾエート)-ピレン)]および
[CoT(p-CO)PPCo1.5
からなる群から選択される1種または2種以上であることを特徴とする、前記第1態様~第3態様のいずれかに記載のガス分離膜。
[第5態様]
前記有機高分子膜が500~10,000GPUのガス透過度を有することを特徴とする、前記第1態様~第4態様のいずれかに記載のガス分離膜。
[第6態様]
二酸化炭素、酸素および窒素の混合ガスに対して、10を超えるCO/N選択比および5を超えるCO/O選択比を示すことを特徴とする、前記第1態様~第5態様のいずれかに記載のガス分離膜。
[第7態様]
前記有機高分子膜が、ポリシロキサン系高分子、ポリエン系高分子および固有の多孔性を有するスピロ型ラダーポリマーからなる群から選択される1種または2種以上の高分子からなることを特徴とする、前記第1態様~第6態様のいずれかに記載のガス分離膜。
[第8態様]
前記有機高分子膜が、
式:


[式中、Rは同一または異なり、H、ハロゲン、OH、1~20個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、3~20個の炭素原子を有する脂環式炭化水素基および6~20個の炭素原子を有する芳香族炭化水素基からなる群から選択され、nは10~20,000である]
で表される構造を有する高分子、
ポリ(トリメチルシリルプロピン)、
ポリ(ジフェニルアセチレン)、
ポリ(フェニルアセチレン)、
フルオレニル-ポリ(ジアリールアセチレン)、
ポリ(ジアリールアセチレン)、
ポリ[1-フェニル]-2-(2-フルオレニル)アセチレン、
ポリアセチレン、
ポリ[1-[p-トリメチルシリル]フェニル]-2-(2-フルオレニル)アセチレン、
ポリ[1-フェニル]-2-(2-フェナントリル)アセチレン、
ポリ(4-メチル-2-ペンチン)、
固有の多孔性を有するスピロ型ラダーポリマー、および
ポリ(3-トリシクロノン)
からなる群から選択される1種または2種以上の高分子からなることを特徴とする、
前記第1態様~第7態様のいずれかに記載のガス分離膜。
[第9態様]
ガス分離膜の製造方法であって、
(1)基体の表面に有機高分子膜を形成すること、
(2)前記有機高分子膜の表面を親水化処理(例えば、UV/オゾン処理)すること、および
(3)LbL(Layer by Layer)法により、前記有機高分子膜上に金属有機構造体層を形成すること
を含む製造方法。
[第10態様]
前記工程(3)のLbL法が、前記有機高分子膜を金属有機構造体の正電荷成分溶液に浸漬し、負電荷成分溶液に浸漬することを含む成膜サイクルを含むことを特徴とする、前記第9態様に記載の製造方法。
[第11態様]
前記工程(3)のLbL法が、1~15の成膜サイクルを含むことを特徴とする、前記第9態様または第10態様に記載の製造方法。
[第12態様]
さらに、工程(4)として、膜を前記基体から外し、金属有機構造体が成膜されていない側の前記有機高分子膜に対して、1~15の成膜サイクルを行う工程を含むことを特徴とする、前記第8態様~第11態様のいずれかに記載の製造方法。
【実施例0045】
[実施例1]
[有機高分子膜上に金属有機構造体層(MOF)が形成されたガス分離膜1]
ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSS、シグマ-アルドリッチ社製)15gを溶解した水溶液85mlをガラス基板(アズワン社製)上にのせ、4000rpmで20秒間回転させることにより、犠牲層のスピンコート膜を作製した。
【0046】
Sylgard 184(ポリジメチルシロキサン)(ダウ・ケミカル社製)の主剤0.1gおよび硬化剤1gをヘキサン4.4gに加えてよく混合し、作製した犠牲層上にのせ、4000rpmで、20秒間回転させることにより、本発明における有機高分子膜に相当するSylgardのスピンコート膜を犠牲層の上に作製した。
【0047】
次に、作製したSylgard膜をUV-O処理装置(フィルジェン社製)で10分間処理することにより、表面が親水化されたSylgard膜を得た。
【0048】
次に、(1)MOFの正電荷成分に相当する酢酸銅三水和物(富士フイルム和光純薬社製)のエタノール溶液(1mM)50ml、(2)エタノール、(3)MOFの負電荷成分に相当する1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(シグマ-アルドリッチ社製)のエタノール溶液(1mM)50ml、(4)エタノールに、各5分間、この順序で親水化Sylgard膜を浸す操作を1サイクル処理とし、親水化Sylgard膜を5サイクル処理することにより、金属有機構造体層に相当する[Cu(1,3,5-ベンゼントリカルボン酸)](HKUST-1)膜をSylgard膜上に作製した。
【0049】
その後、作製した基板を水中に置くことにより犠牲層を溶解させ、有機高分子膜に相当するSylgard膜上に金属有機構造体層に相当するHKUST-1層が形成されたガス分離膜を得た。
【0050】
[実施例2]
[有機高分子膜上に金属有機構造体層(MOF)が形成されたガス分離膜2]
有機高分子膜上に金属有機構造体層を形成する操作を10サイクル行う以外は実施例1と同様に方法により、有機高分子膜に相当するSylgard膜上に金属有機構造体層に相当するHKUST-1層が形成されたガス分離膜を得た。
【0051】
[比較例1]
[有機高分子膜からなるガス分離膜]
ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSS、シグマ-アルドリッチ社製)15gを溶解した水溶液85mlをガラス基板(アズワン製)上にのせ、4000rpmで20秒間回転させることにより、犠牲層のスピンコート膜を作製した。
Sylgard 184(ダウ・ケミカル社製)の主剤0.1gおよび硬化剤1gをヘキサン4.4gに加えてよく混合し、作製した犠牲層上にのせ、4000rpmで、20秒間回転させることにより、有機高分子膜に相当するSylgardのスピンコート膜を犠牲層の上に作製した。
その後、作製した基板を水中に置くことにより犠牲層を溶解させ、Sylgard膜からなるガス分離膜を得た。
【0052】
[比較例2]
[親水化有機高分子膜からなるガス分離膜]
比較例1において、犠牲層の上に作製したSylgard膜をUV-O処理装置(フィルジェン社製)で10分間処理することにより、表面が親水化されたSylgard膜を得た。その後、作製した基板を水中に置くことにより犠牲層を溶解させ、親水化Sylgard膜のガス分離膜を得た。
【0053】
[比較例3]
[エタノール処理した親水化有機高分子膜からなるガス分離膜]
比較例2において、UV-O処理装置(フィルジェン社製)で10分間処理したSylgard膜を、エタノール(富士フイルム和光純薬製)溶液に5分間浸した後に乾燥させる操作を10サイクル行うことにより、エタノール処理した親水化Sylgard膜を得た。その後、作製した基板を水中に置くことにより犠牲層を溶解させ、エタノール処理した親水化Sylgard膜のガス分離膜を得た。
【0054】
[ガス分離膜の選択性および透過度の測定]
ガス分離膜における金属有機構造体層の生成は、FT-IR測定機器 iS10(Thermo Scientific社製)を用いて、1000~4000cm-1の範囲で測定した。図1に、CaF基板およびCaF基板上に作製した実施例1、実施例2および比較例1~3のガス分離膜のIRスペクトルを示す。
【0055】
実施例1の5の成膜サイクル処理したガス分離膜は、銅イオンに配位したカルボキシレートアニオン由来のピークが1378cm-1に観測された。この結果は、本サイクル処理により金属有機構造体層(HKUST-1層)が有機高分子膜(Sylgard膜)上に形成されたことを意味している。
【0056】
また、サイクル数が5から10へと増加すると銅イオンに配位したカルボキシレートアニオン由来のピーク強度が増加した。すなわち、サイクル数増加によって、金属有機構造体層(HKUST-1層)の厚さがコントロールできることが示された。
【0057】
ガス透過度の評価は、自作の装置を用いて、ガス流量100 mL/min、室温、差圧法(高圧側:200kPa、低圧側:常圧)によって行った。透過したガスの流量は高精度精密膜流量計SF-2U+ガラス体積管ユニットVO-1U(HORIBA製)を用いて計測した。
【0058】
図2に二酸化炭素の透過度(GPU)と二酸化炭素と窒素の選択比(α(CO/N))との関係を示す。有機高分子膜であるSylgard膜それ自体は二酸化炭素透過度が約2200GPU、二酸化炭素と窒素の選択比(α(CO/N))が約10.2であり、既報の結果とよい一致を示した。Sylgard膜にUV-O処理を施すと、二酸化炭素と窒素の選択比はわずかに向上(約10.9)したが二酸化炭素透過度は低く(約1900GPU)なった。5サイクル処理して作製したSylgard膜は二酸化炭素透過度がさらに低く(約1500GPU)なったが、二酸化炭素と窒素の選択比は同程度(約11.2)であった。
【0059】
10サイクル処理したガス分離膜は二酸化炭素透過度がさらに低くなるものの(約1300GPU)、二酸化炭素と窒素の選択比は約12.6に向上した。
以上の結果から、HKUST-1層は二酸化炭素透過度を若干低下させるものの二酸化炭素と窒素の選択比を向上させることが分かった。また、エタノール処理したSylgard膜において二酸化炭素と窒素の選択比はわずかに向上(約10.7)したことから、サイクル処理による二酸化炭素と窒素の選択比の向上はエタノール処理によるSylgard膜構造変化が原因でないことも明らかとなった。
【0060】
図3に二酸化炭素の透過度(GPU)と二酸化炭素と酸素の選択比(α(CO/O))との関係を示す。Sylgard膜それ自体は二酸化炭素透過度が約2200GPU、二酸化炭素と酸素の選択比は約4.6程度であった。Sylgard膜にUV-O処理を施すと、二酸化炭素と酸素の選択比はほぼ変わらないが(約4.5)二酸化炭素透過度が低くなった(約1900GPU)。5サイクル処理したSylgard膜は二酸化炭素透過度がさらに低く(約1500GPU)なったが、二酸化炭素と酸素の選択比は約5.3に向上した。
【0061】
さらに10サイクル処理したSylgard膜は二酸化炭素透過度はさらに低く(約1300)なったが、二酸化炭素と酸素の選択比が約7.9に向上した。
以上の結果から、HKUST-1層は二酸化炭素透過度を若干低下させるものの二酸化炭素と酸素の選択比を向上させることが分かった。また、エタノール処理したSylgard膜において二酸化炭素と酸素の選択比の向上がみられなかった(4.7程度)ことから、サイクル処理による二酸化炭素と酸素の選択比の向上はエタノール処理によるSylgard膜構造変化が原因でないことも明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の分離膜および分離膜の製造方法は、混合ガスから特定のガスを分離することに利用することができる。例えば、温暖化の原因とされている大気中の二酸化炭素を大気中の酸素や窒素から分離することができ、地球温暖化の抑制に利用することができる。
図1
図2
図3