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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035808
(43)【公開日】2024-03-14
(54)【発明の名称】外接歯車ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04C 2/18 20060101AFI20240307BHJP
【FI】
F04C2/18 321C
F04C2/18 311B
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023134426
(22)【出願日】2023-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2022139753
(32)【優先日】2022-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100103137
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 滋
(74)【代理人】
【識別番号】100145838
【弁理士】
【氏名又は名称】畑添 隆人
(72)【発明者】
【氏名】山本 江
(72)【発明者】
【氏名】中村 仁彦
(72)【発明者】
【氏名】駒形 光夫
(72)【発明者】
【氏名】吉野 一郎
(72)【発明者】
【氏名】地崎 潤
【テーマコード(参考)】
3H041
【Fターム(参考)】
3H041AA02
3H041BB02
3H041CC04
3H041CC07
3H041DD03
3H041DD11
3H041DD23
3H041DD27
(57)【要約】
【課題】
外接歯車ポンプにおいて、歯車歯先における、隙間と摩擦のトレードオフの問題を解決する。
【解決手段】
一対の歯車3の歯先が近接する内面を備え、歯車3を収容する内部空間を備えた可動ケーシング2と、可動ケーシング2の外面に対向する内面を備え、可動ケーシング2を収容する収容部を備えた外側ケーシング1と、可動ケーシング2の内部空間は、吸入口側の低圧部位2Aと、吐出口側の高圧部位2Bと、を含み、可動ケーシング2は、外側ケーシング1の収容部内において、可動ケーシング2の内部空間内の流体の圧力差に起因する歯車の偏心による歯先の移動に応じて、歯先から逃げる方向に可動である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の吸入口と吐出口とを備えたケーシングと、
前記ケーシングに収容された一対の歯車と、
を備えた外接歯車ポンプにおいて、
前記ケーシングは、
前記一対の歯車の歯先が近接する内面を備え、前記一対の歯車を収容する内部空間を備えた可動ケーシングと、
前記可動ケーシングの外面に対向する内面を備え、前記可動ケーシングを収容する収容部を備えた外側ケーシングと、からなり、
前記可動ケーシングの前記内部空間には、前記歯車の回転時に、吸入口側には低圧部位が、吐出口側には高圧部位が形成され、
前記可動ケーシングは、前記外側ケーシングの前記収容部内において、可動ケーシングの内部空間内の流体の圧力差に起因する歯車の偏心による歯先の移動に応じて、前記歯先から逃げる方向に可動である、
外接歯車ポンプ。
【請求項2】
前記可動ケーシングの外面と前記外側ケーシングの内面との隙間には流体が充填されており、
前記可動ケーシングには、可動ケーシングの内部空間内の前記低圧部位と前記高圧部位との圧力差によって生じる第1の力と、前記可動ケーシングと前記外側ケーシングの隙間内の流体の圧力差によって生じる第2の力が作用し、
前記第2の力によって、前記第1の力を少なくとも部分的にキャンセルするようになっている、
請求項1に記載の外接歯車ポンプ。
【請求項3】
前記可動ケーシングの外側には、前記内部空間内の前記高圧部位の外側に位置して、当該高圧部位と連通することで高圧の流体が充填された高圧室が形成されており、前記高圧室内の流体の圧力を利用することで、前記第2の力を生成するようになっている、
請求項2に記載の外接歯車ポンプ。
【請求項4】
前記可動ケーシングの前記内部空間は、吸入口側の低圧部位と、吐出口側の高圧部位と、を含み、
前記可動ケーシングの外面と前記外側ケーシングの内面との隙間は、前記内部空間内の前記低圧部位の外側に位置し、当該低圧部位と連通する低圧の第1室と、前記高圧部位の外側に位置し、当該高圧部位と連通することで前記高圧室を形成する第2室と、中間圧の流体で満たされた中間圧部と、からなり、前記第1室、前記第2室、前記中間圧部は、シール材によって仕切られており、
前記第1室と前記第2室との圧力差によって前記第2の力が生じる、
請求項3に記載の外接歯車ポンプ。
【請求項5】
前記可動ケーシングの前記内部空間には、前記低圧部位と前記高圧部位との間に位置して中間圧部位が形成されており、
前記可動ケーシングの外面と前記外側ケーシングの内面との隙間の前記中間圧部は、前記可動ケーシングの前記内部空間の前記中間圧部位と連通している、
請求項4に記載の外接歯車ポンプ。
【請求項6】
前記第1の力は、前記可動ケーシングの前記内部空間における圧力分布に基づいて推定される、
請求項2に記載の外接歯車ポンプ。
【請求項7】
前記第1室は、前記可動ケーシングの前記低圧部位の外面を形成する第1面を備え、
前記第2室は、前記可動ケーシングの前記高圧部位の外面を形成する第2面を備え、
前記第2の力は、前記第1面及び前記第2面の面積によって調整可能である、
請求項4に記載の外接歯車ポンプ。
【請求項8】
前記外接歯車ポンプは、内面が前記歯車の側面に近接する一対の側板を備え、
前記一対の側板は前記可動ケーシングと一体化されており、前記可動ケーシングと一体で可動である、
請求項1~7いずれか1項に記載の外接歯車ポンプ。
【請求項9】
前記側板の外面は、前記隙間を介して前記外側ケーシングと近接しており、
前記隙間には中間圧の流体が充填されている、
請求項8に記載の外接歯車ポンプ。
【請求項10】
前記外接歯車ポンプは、内面が前記歯車の側面に近接する一対の側板を備え、
前記一対の側板は前記可動ケーシングと一体化されており、
前記中間圧部には、前記側板の外面と前記外側ケーシングの内面との間の隙間が含まれている、
請求項5に記載の外接歯車ポンプ。
【請求項11】
一対の歯車が収容される内部空間を備えた内側の可動ケーシングと、
可動ケーシングが収容される収容部を備えた外側ケーシングと、
からなり、
前記可動ケーシングは、前記一対の歯車の歯先が近接する内面を備えた周壁と、前記歯車の側面に近接する内面を備えた一対の側壁と、から箱型に形成されており、
前記可動ケーシングの前記内部空間には、前記歯車の回転時に、吸入口側には低圧部位が、吐出口側には高圧部位が形成され、
前記可動ケーシングの前記側板の外面と前記外側ケーシングの内面との間の隙間には、中間圧の流体が充填されている、
外接歯車ポンプ。
【請求項12】
前記可動ケーシングの前記内部空間には、前記低圧部位と前記高圧部位との間に位置して中間圧部位が形成されており、
前記可動ケーシングの外面と前記外側ケーシングの内面との隙間の前記中間圧部は、前記可動ケーシングの前記内部空間の前記中間圧部位と連通している、
請求項11に記載の外接歯車ポンプ。
【請求項13】
前記可動ケーシングの外面と前記外側ケーシングの内面との隙間は、前記内部空間内の前記低圧部位の外側に位置し、当該低圧部位と連通する低圧の第1室と、前記高圧部位の外側に位置し、当該高圧部位と連通することで前記高圧室を形成する第2室と、前記内部空間内の前記中間圧部位と連通する中間圧部と、からなり、前記第1室、前記第2室、前記中間圧部は、シール材によって仕切られており、
前記可動ケーシングには、可動ケーシングの内部空間内の前記低圧部位と前記高圧部位との圧力差によって生じる第1の力と、前記第1室と前記第2室との圧力差によって生じる第2の力が作用し、
前記可動ケーシングは、前記外側ケーシングの前記収容部内において、可動ケーシングの内部空間内の流体の圧力差に起因する歯車の偏心による歯先の移動に応じて、前記歯先から逃げる方向に可動である、
請求項12に記載の外接歯車ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外接歯車ポンプに係り、詳しくは、油圧機械、油圧ポンプ、油圧アクチュエータ、ロボットアクチュエータ等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
外接歯車ポンプでは、回転体である歯車とケーシング間の隙間が重要となる。歯車ポンプの内部隙間には、軸方向の歯車とケーシングの間の隙間である軸方向隙間と、歯車歯先とケーシングの間の隙間である歯先隙間がある(図1)。外接歯車ポンプにおいて、高圧力が発生すると歯車とケーシングとの間の軸方向隙間と歯先隙間において内部漏れが生じ、圧力低下の原因となる。一方、隙間を無くすように設計すると歯車とケーシングの間に摩擦が生じ、ポンプの効率を低下させる。
【0003】
外接歯車ポンプでは、歯車の軸に対して高圧から低圧側へ偏心力が働くため、図2に示すように歯先が微小変位しケーシングと接触するリスクがある。これは歯車のギア軸(駆動軸、従動軸)とベアリング間のクリアランスや、圧力差による軸のたわみなどによって起きる(図3参照)。これに対して、歯先隙間を大きくすれば、内部漏れ増加の要因となる。従って、歯先隙間を小さくしつつ、摩擦を低減することが重要となる。すなわち、歯車歯先における、隙間と摩擦のトレードオフの問題を解決することが重要である。
【0004】
軸方向隙間については、可動側板を用いて隙間の削減を行う方法(非特許文献1)や、高剛性なセラミックス補強により固定側板の変形による隙間拡大を防ぐ方法(非特許文献2)などが提案されている。しかしながら、固定側板型の歯車ポンプにおいて、固定側板の補強手段を採用しない場合には、ケーシング内の内圧によってケーシングが膨張し、歯車とケーシング間の軸方向隙間が増大し、内部漏れが増加するおそれがある。
【0005】
上述のように、従来の外接歯車ポンプの構造において、歯先の隙間が小さいと圧力差による偏心などで歯先がケーシングに接触し、大きい摩擦が発生する。反対に歯先の隙間が大きいと歯先における摩擦は回避できるが、内部漏れが増加するおそれある。また、固定側板を採用した外接歯車ポンプにおいて、内圧によってケーシングが膨張し、歯車とケーシング間の隙間が増大、内部漏れが増加するおそれがある。
【0006】
また、外接歯車ポンプを備えた油圧アクチュエータは故障しにくいため、大型の建設機械などで広く使われているが、重量出力比を損なうことなくロボットに搭載できるサイズに小型軽量化することが困難であった。歯車とケーシング間の隙間に関する上記課題を解決することは、油圧ポンプの小型軽量化を実現する上でも重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】E. Koc, C. J. Hooke, “An experimental investigation into the design and performance of hydrostatically loaded floating wear plates in gear pumps,” Wear, Vol.209, pp. 184-192, 1997.
【非特許文献2】M. Komagata, T. Ko, Y. Nakamura, “Design and Development of Compact Ceramics Reinforced Pump with Low Internal Leakage for Electro-Hydrostatic Actuated Robots,” Advances in Mechanism and Machine Science, Vol. 73, pp. 2439-2448, 2019.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、適切な歯車・ケーシング間隙間を備えた外接歯車ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明が採用した技術手段は、
流体の吸入口と吐出口とを備えたケーシングと、
前記ケーシングに収容された一対の歯車と、
を備えた外接歯車ポンプにおいて、
前記ケーシングは、
前記一対の歯車の歯先が近接する内面を備え、前記一対の歯車を収容する内部空間を備えた可動ケーシングと、
前記可動ケーシングの外面に対向する内面を備え、前記可動ケーシングを収容する収容部を備えた外側ケーシングと、からなり、
前記可動ケーシングの前記内部空間には、前記歯車の回転時に、吸入口側には低圧部位が、吐出口側には高圧部位が形成され、
前記可動ケーシングは、前記外側ケーシングの前記収容部内において、可動ケーシングの内部空間内の流体の圧力差に起因する歯車の偏心による歯先の移動に応じて、前記歯先から逃げる方向に可動である、
外接歯車ポンプ、である。
典型的には、前記流体は、作動油である。
【0010】
1つの態様では、前記可動ケーシングの外面と前記外側ケーシングの内面との隙間には流体が充填されており、
前記可動ケーシングには、可動ケーシングの内部空間内の前記低圧部位と前記高圧部位との圧力差によって生じる第1の力と、前記可動ケーシングと前記外側ケーシングの隙間内の流体の圧力差によって生じる第2の力が作用し、
前記第2の力によって、前記第1の力を少なくとも部分的にキャンセルするようになっている。
【0011】
1つの態様では、前記可動ケーシングの外側には、前記内部空間内の前記高圧部位の外側に位置して、当該高圧部位と連通することで高圧の流体が充填された高圧室が形成されており、前記高圧室内の流体の圧力を利用することで、前記第2の力を生成するようになっている。
【0012】
1つの態様では、前記可動ケーシングの前記内部空間は、吸入口側の低圧部位と、吐出口側の高圧部位と、を含み、
前記可動ケーシングの外面と前記外側ケーシングの内面との隙間は、前記内部空間内の前記低圧部位の外側に位置し、当該低圧部位と連通する低圧の第1室と、前記高圧部位の外側に位置し、当該高圧部位と連通することで前記高圧室を形成する第2室と、中間圧の流体で満たされた中間圧部と、からなり、前記第1室、前記第2室、前記中間圧部は、シール材によって仕切られており、
前記第1室と前記第2室との圧力差によって前記第2の力が生じる。
1つの態様では、前記可動ケーシングの前記内部空間には、前記低圧部位と前記高圧部位との間に位置して中間圧部位が形成されており、
前記可動ケーシングの外面と前記外側ケーシングの内面との隙間の前記中間圧部は、前記可動ケーシングの前記内部空間の前記中間圧部位と連通している。
後述する実施形態では、外接歯車ポンプは、電気静油圧アクチュエータ(EHA)などに使われる閉油圧回路に採用される油圧ポンプであるが、外接歯車ポンプが開油圧回路を備えている場合には、前記中間圧部位に、予め中間圧(例えば、チャージ圧)に加圧された流体を封入するようにしてもよい。
【0013】
1つの態様では、前記第1の力は、前記可動ケーシングの前記内部空間における圧力分布に基づいて推定される。
【0014】
1つの態様では、前記第1室は、前記可動ケーシングの前記低圧部位の外面を形成する第1面を備え、
前記第2室は、前記可動ケーシングの前記高圧部位の外面を形成する第2面を備え、
前記第2の力は、前記第1面及び前記第2面の面積によって調整可能である。
【0015】
1つの態様では、前記外接歯車ポンプは、内面が前記歯車の側面に近接する一対の側板を備え、
前記一対の側板は前記可動ケーシングと一体化されており、前記可動ケーシングと一体で可動である。
1つの態様では、前記側板の外面は、前記隙間を介して前記外側ケーシングと近接しており、
前記隙間には中間圧の流体が充填されている。
1つの態様では、前記側板の外面と前記外側ケーシングの内面との間の隙間は、前記中間圧部の部分である。
【0016】
本発明が採用した技術手段は、
一対の歯車が収容される内部空間を備えた内側の可動ケーシングと、
可動ケーシングが収容される収容部を備えた外側ケーシングと、
からなり、
前記可動ケーシングは、前記一対の歯車の歯先が近接する内面を備えた周壁と、前記歯車の側面に近接する内面を備えた一対の側壁と、から箱型に形成されており、
前記可動ケーシングの前記内部空間には、前記歯車の回転時に、吸入口側には低圧部位が、吐出口側には高圧部位が形成され、
前記可動ケーシングの前記側板の外面と前記外側ケーシングの内面との間の隙間には、中間圧の流体が充填されている、
外接歯車ポンプ、である。
1つの態様では、前記可動ケーシングの前記内部空間には、前記低圧部位と前記高圧部位との間に位置して中間圧部位が形成されており、
前記可動ケーシングの外面と前記外側ケーシングの内面との隙間の前記中間圧部は、前記可動ケーシングの前記内部空間の前記中間圧部位と連通している。
【0017】
1つの態様では、前記可動ケーシングの外面と前記外側ケーシングの内面との隙間は、前記内部空間内の前記低圧部位の外側に位置し、当該低圧部位と連通する低圧の第1室と、前記高圧部位の外側に位置し、当該高圧部位と連通することで前記高圧室を形成する第2室と、前記内部空間内の前記中間圧部位と連通する中間圧部と、からなり、前記第1室、前記第2室、前記中間圧部は、シール材によって仕切られており、
前記可動ケーシングには、可動ケーシングの内部空間内の前記低圧部位と前記高圧部位との圧力差によって生じる第1の力と、前記第1室と前記第2室との圧力差によって生じる第2の力が作用し、
前記可動ケーシングは、前記外側ケーシングの前記収容部内において、可動ケーシングの内部空間内の流体の圧力差に起因する歯車の偏心による歯先の移動に応じて、前記歯先から逃げる方向に可動である。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、外接歯車ポンプの歯車に隣接するケーシングを歯先方向に可動とすると共に、可動ケーシングの内部空間の圧力差によって可動ケーシングに働く偏心力をバランスすることで、歯車歯先における、歯先隙間と摩擦のトレードオフの問題を解決し、歯先の摩擦と隙間を小さくする構造を提供する。
本発明では、可動ケーシングと外側ケーシングの間の空間を中間圧の流体で満たすことにより、可動ケーシングの側板が過度に膨れて軸方向の隙間が拡大することを防止し、軸方向隙間における漏れを低減する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】一般的な外接歯車ポンプにおける内部隙間を示す図であり、(a)は軸方向隙間、(b)は歯先隙間を表す。
図2】一般的な外接歯車ポンプの断面図であり、差圧が発生した時に歯車軸が偏心し、歯先がケーシング内面と接触する様子を表す。
図3】差圧に起因する歯車軸の偏心を説明する図である。
図4】本実施形態に係る外接歯車ポンプを示す図である。
図5図4のA矢視図である。
図6図4のB矢視図である。
図7】可動ケーシング内側に働く力を説明する図である。
図8】可動ケーシング外側に働く力を説明する図である。上下方向の力のみを表示しており、左右方向の力は省略されている。
図9】可動ケーシングに働く圧力のバランシングのための構造の概念図である。
図10】推定した可動ケーシング内面に働く圧力の分布を示す図である。
図11】本実施形態に係る外接歯車ポンプの断面図である。
図12】本実施形態に係る可動ケーシングと一対の歯車からなるユニットを示す図である。
図13】上図は、本実施形態に係る外側ケーシングをギア軸に垂直な面で断面してなる図、下図は、同外側ケーシングをギア軸に沿って断面してなる図である。
図14】本実施形態に係る外側ケーシングと可動ケーシングとからなる外接歯車ポンプの断面図(ギア軸に垂直な面)である。
図15】中間圧の導入による膨張防止を説明する図である。
図16】本実施形態に係る軸方向隙間の決定を説明する図である。
図17】本実施形態に係る外接歯車ポンプの最大圧の計測結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[A]本実施形態に係る外接歯車ポンプの全体構成
本実施形態に係る外接歯車ポンプは、電気静油圧アクチュエータ(EHA)などに使われる閉油圧回路に採用される油圧ポンプである。なお、本発明は開油圧回路にも採用され得る点に留意されたい。図4図6を参照しつつ、本実施形態に係る外接歯車ポンプのケーシングは、外側ケーシング1と、内側の可動ケーシング2と、からなる。可動ケーシング2には、駆動歯車である第1歯車3Aと従動歯車である第2歯車3Bからなる一対の歯車3が収容されている。可動ケーシング2が外側ケーシング1の収容部に収容された状態において、可動ケーシング2の外面と外側ケーシング1の内面との間には空間(隙間)が形成されており、可動ケーシング2は、外側ケーシング1の収容部内で可動である。本実施形態では、歯車3はインボリュート歯車である。外側ケーシング1及び可動ケーシング2はアルミ合金から形成されている。可動ケーシング2には、滑り性に優れるテフロン含有無電解ニッケルメッキが施されている。
【0021】
本実施形態に係る外接歯車ポンプは油圧ポンプであり、作動流体は作動油である。可動ケーシング2の内部空間には、一対の歯車3の回転によって、作動油の吸入側に低圧部位2A、作動油の吐出側に高圧部位2Bが形成され、低圧部位2Aと高圧部位2Bとの間に位置して中間圧部位2Cが形成される。歯車3の回転時において、中間圧部位2Cの作動油の圧力である中間圧は、高圧部位2Bの作動油の圧力よりも低く、低圧部位2Aの作動油の圧力よりも高い。1つの態様では、中間圧は、チャージ圧相当の圧力である。なお、中間圧の作動油の圧力は必ずしもチャージ圧や高圧部圧力と低圧部圧力の平均値に厳密に一致する必要はない。
【0022】
可動ケーシング2の外面と外側ケーシング1の内面との間の空間は、可動ケーシング2の外側(作動油の吸入側)に形成される低圧部4と、可動ケーシング2の外側(作動油の吐出側)に形成される高圧部5と、低圧部4及び高圧部5を除く隙間である中間圧部6と、からなり、低圧部4と中間圧部6はシール材としてのOリング7で仕切られており、高圧部5と中間圧部6はシール材としてのOリング7で仕切られている。低圧部4は、可動ケーシング2の内部空間の低圧部位2Aと連通しており、高圧部5は、可動ケーシング2の内部空間の高圧部位2Bと連通している。中間圧部6は、可動ケーシング2の所定部位に形成した連通孔8によって、可動ケーシング2の内部空間の中間圧部位2Cと連通しており、中間圧部6には、中間圧の作動油が充填されている。図面では、説明の都合上、高圧側、低圧側を特定しているが、本実施形態に係る外接歯車ポンプは、可逆であり、高圧側と低圧側が入れ替わり得る点に留意されたい。すなわち、ポンプが逆転すると、吸入側(吸入口)と吐出側(吐出口)が入れ替わり、可動ケーシング2の外側の低圧部と高圧部が入れ替わり、可動ケーシング2の内側の高圧部位と低圧部位が入れ替わる。
【0023】
図12に示すように、本実施形態に係る可動ケーシング2は、四周壁を備えた周壁部20と、一対の側板21と、から箱状に形成されている。周壁部20は、一対の歯車3を収容する内部空間と、一対の歯車3の歯先が近接する内面と、を備えている。周壁部20には、周壁部20の内部空間を塞ぐように、一対の側板21が固定されている。可動ケーシング2の内部空間は、周壁部20の内面と、一対の側板21の内面と、から囲まれた空間である。
【0024】
図11図13に示すように、本実施形態に係る外側ケーシング1は、本体部1Aと、第1側部1Bと、第2側部1Cと、からなる。本体部1Aは、可動ケーシング2を収容する内部空間と、可動ケーシング2の周壁部20の外面に近接する内面を備えている。第1側部1B、第2側部1Cは、本体部1Aの内部空間に収容された可動ケーシング2を封入するように、本体部1Aに固定されている。
【0025】
第1歯車3Aの駆動軸30Aは、一対の側板21を貫通して、第1側部1B、第2側部1Cにニードルベアリング31によって回転可能に支持されており、駆動軸30Aの一端側は、外側ケーシング1(第1側部1B)の外側に突出している。第2歯車3Bの従動軸30Bは、図12に示すように一対の側板21を貫通して、図11に示すように第1側部1B、第2側部1Cにニードルベアリング31によって回転可能に支持されている。第1歯車3Aの駆動軸30A及び第2歯車3Bの駆動軸30Bは、可動ケーシング1(側板21)において、軸受用ボール32によって回転可能に支持されている。図中、33はパッキングであり、34はガスケットである。図12に示すように、本実施形態に係る箱状の可動ケーシング2において、一方の側板21から、駆動軸30A、従動軸30Bがそれぞれ突出しており、他方の側板(図12では図示せず)から駆動軸30A、従動軸30Bがそれぞれ突出している。
【0026】
可動ケーシング2の周壁部20は、作動油の吸入側に位置し、第1歯車3A及び第2歯車3Bの歯先に近接する第1内面を備えた第1壁200と、作動油の吐出側に位置し、第1歯車3A及び第2歯車3Bの歯先に近接する第2内面を備えた第2壁201と、第1歯車3Aの歯先に近接する第3内面(歯先の移動軌跡に沿った円弧面ないし湾曲面)を備えた第3壁202と、第2歯車3Bの歯先に近接する第4内面(歯先の移動軌跡に沿った円弧面ないし湾曲面)を備えた第4壁203と、備えている。第1壁200と第2壁201は対向している。第3壁202と第4壁203は対向している。
【0027】
第1壁200の外面には、2つの円形状の凹部204が形成されおり、凹部204の底面2040には孔部205が形成されており、孔部205を介して、凹部204と周壁部20の内部空間の低圧部位2Aとが連通するようになっている。可動ケーシング2が外側ケーシング1の収納部に収納された状態において、凹部204内の空間は、Oリング7によって閉塞されており、第1室として低圧部4を形成するようになっている。凹部204の底面2040は、可動ケーシング2の外側(吸入側)に形成される低圧部4の加圧面40を形成している。
【0028】
第2壁201の外面には、2つの円形状の凹部206が形成されおり、凹部206の底面2060には孔部207が形成されており、孔部207を介して、凹部206と周壁部20の内部空間の高圧部位2Bとが連通するようになっている。可動ケーシング2が外側ケーシング1の収納部に収納された状態において、凹部206内の空間は、Oリング7によって閉塞されており、第2室として高圧部5を形成するようになっている。凹部206の底面2060は、可動ケーシング2の外側(吐出側)に形成される高圧部5の加圧面50を形成している。
【0029】
周壁部20の第3壁202、第4壁203には、孔部208が形成されており、可動ケーシング2が外側ケーシング1の収納部に収納された状態において、孔部208を介して、周壁部20の外部空間(中間圧部6)と内部空間(中間圧部位2C)とが連通するようになっている。孔部208は連通孔8(図4図5図8参照)を形成している。
【0030】
本実施形態では、側板21は、複数本の六角穴付きボルト209によって、周壁部20に固定されることで、外側ケーシング1が組み立てられる。側板21は、第1歯車3A及び第2歯車3Bの側面に近接する内面210(図11図15図16参照)と、可動ケーシング2の外面の一部を形成する外面211と、を備えている。側板21には、周壁部20の第3壁202、第4壁203に寄った位置に孔部212が形成されており、孔部212を介して、可動ケーシング2の内部空間と外部空間とが連通するようになっている。孔部212は連通孔8(図4図5図8参照)を形成している。
【0031】
外側ケーシング1は、図13に示すように可動ケーシング2を収容する収容部を備え、この収容部は、可動ケーシング2を収容する内部空間を備えた本体部1Aの内面(第1面10、第2面11、第3面12、第4面13)と、第1側部1Bの内面14と、第2側部1Cの内面15と、によって形成されている。
【0032】
外側ケーシング1の収容部に可動ケーシング2が収容された状態において、本体部1Aの内面は、可動ケーシング2の周壁部20の外面に近接している。本体部1Aの内面は、可動ケーシング2の周壁部20の第1壁200の外面に対向する第1面10と、可動ケーシング2の周壁部20の第2壁201の外面に対向する第2面11と、可動ケーシング2の周壁部20の第3壁202の外面に対向する第3面12と、可動ケーシング2の周壁部20の第4壁203の外面に対向する第4面13と、を備えている。外側ケーシング1の第1側部1Bの内面14は、一方の側板21の外面211に近接しており、第1側部1Cの内面15は、他方の側板21の外面211に近接している。
【0033】
本実施形態において、外側ケーシング1の本体部1Aの第1面10を形成する第1壁には、2つの筒状の流路要素16が設けてあり、第2面11を形成する第2壁には、2つの筒状の流路要素17が設けてある。流路要素16は、作動油の吸入口を形成しており、本体部1Aの第1面10を形成する第1壁を貫設しており、内部空間に向かって拡径する円錐形状を備えており、流路要素16の内側端部は、第1面10よりも内部空間に突出している。流路要素17は、作動油の吐出口を形成しており、本体部1Aの第2面11を形成する第2壁を貫設しており、内部空間に向かって拡径する円錐形状を備えており、流路要素17の内側端部は、第2面11よりも内部空間に突出している。
【0034】
外側ケーシング1の収容部に可動ケーシング2が収容された状態において、本体部1Aの第1面10と周壁部20の第1壁200の外面が近接しており、流路要素16の内側端部は、第1壁200に形成した円形状の凹部204内に位置している。本体部1Aの第2面11と周壁部20の第2壁201の外面が近接しており、流路要素17の内側端部は、第2壁201に形成した円形状の凹部206内に位置している。
【0035】
本実施形態では、外側ケーシング1は、本体部1A、第1側部1B、第2側部1C、2つの流路要素16、2つの流路要素17を組み立てることで形成されている。可動ケーシング2は、外側ケーシング1の収容部において、少なくともY方向(図14参照)に移動可能であればよいが、外側ケーシング1の収容部に可動ケーシング2を収容した状態において、流路要素16、流路要素17と可動ケーシング2との嵌め合い部位に例えば、Oリング7の噛み込みが発生しない程度の隙間(例えば、0.15mm前後)が形成されるようにし、可動ケーシング2の過拘束を防止している。この隙間によって、可動ケーシング2はXZ方向にもわずかに遊びがある。なお、図14図16において、一対の歯車3の2本の軸30A、30Bの中心を結んだ直線をX方向、2本の軸の中心を通る平面に対して垂直方向をY方向、2本の軸の中心の方向をZ方向とする。
【0036】
既述のように、本実施形態では、外側ケーシング1の収容部に可動ケーシング2が収容された状態において、可動ケーシング2の外面と外側ケーシング1の内面とは近接しており、空間(隙間)が形成されており、この空間は、低圧部4と、高圧部5と、中間圧部6と、から形成されている。
【0037】
低圧部4は、可動ケーシング2の周壁部20の第1壁200の外面の円形状の凹部204と流路要素16の内部空間との間に形成される空間である。流路要素16の内側端部が凹部204内に位置した状態において、内側端部と凹部204との間にOリング7が設けてあり、凹部204と中間圧部6と仕切ることで、低圧部4としての第1室が形成されている。
【0038】
高圧部5は、可動ケーシング2の周壁部20の第2壁201の外面の円形状の凹部206と流路要素17の内部空間との間に形成される空間である。流路要素17の内側端部が凹部206内に位置した状態において、内側端部と凹部206との間にOリング7が設けてあり、凹部206と中間圧部6と仕切ることで、高圧部5としての第2室が形成されている。
【0039】
中間圧部6は、可動ケーシング2の外面と外側ケーシング1の内面との間の空間において、低圧部4及び高圧部5を除く隙間であり、低圧部4と中間圧部6はOリング7によって仕切られており、高圧部5と中間圧部6はOリング7によって仕切られている。中間圧部6は、可動ケーシング2の周壁部20の第3壁202、第4壁203に形成された孔部208と、可動ケーシング2の側板21に形成された孔部212を介して、可動ケーシング2の内部空間の中間圧部位2Cと連通している。
【0040】
より具体的には、中間圧部6は、可動ケーシング2の周壁部20の第1壁200の外面(第1平面)と外側ケーシング1の本体部1Aの第1面10との間(凹部204、筒状部材16、Oリング7により形成される第1室を除く)の隙間、可動ケーシング2の周壁部20の第2壁201の外面(第2平面)と外側ケーシング1の本体部1Aの第2面11との間(凹部206、筒状部材17、Oリング7により形成される第2室を除く)の隙間、可動ケーシング2の周壁部20の第3壁202の外面(第3面)と外側ケーシング1の本体部1Aの第3面12との間の隙間、可動ケーシング2の周壁部20の第4壁203の外面(第4面)と外側ケーシング1の本体部1Aの第4面13との間の隙間、可動ケーシング2の一方の側板21の外面211と外側ケーシング1の第1側部1Bの内面14との間の隙間、可動ケーシング2の他方の側板21の外面211と外側ケーシング1の第2側部1Cの内面15との間の隙間を含み、これらの隙間は連通しており、中間圧の作動油が充填されている。
【0041】
[B]歯車歯先における、隙間と摩擦のトレードオフの問題を解決する構造
外接歯車ポンプにおいて、歯車3の回転時には、可動ケーシング2の内部空間には、吸入口側の低圧部位2Aと、吐出口側の高圧部位2Bと、低圧部位2Aと押圧部位2Bとの間の中間圧部位2Cと、が形成される。歯車3の回転により生じる高圧側と低圧側の圧力差が大きいほど歯車3を支える回転軸(駆動軸30A、従動軸30B)に大きな偏心力が高圧側から低圧側へ働く。従来機構では、歯車を収納しているケーシングは固定されており、歯車の偏心により低圧側でケーシングに歯先が押し付けられ、摩擦の原因となっていた(図2図3参照)。
【0042】
もし、歯車が偏心したときに歯先に隣接するケーシングが歯車によって押されて抵抗なく動くことができる構造であれば、摩擦は小さくなり歯先の隙間も小さくできると考えられる。そこで、歯車歯先に接するケーシングを可動とし、圧力のバランシングを行う設計手法を提案する。圧力のバランシングのために、歯先の圧力分布に基づくケーシング内部の負荷を推定し、ケーシング外部の相殺力を決定する。
【0043】
本実施形態では、一対の歯車を収容するケーシング自体を作動油の流路内に配置することで歯先方向における移動を許容し、歯車の偏心による歯先移動量に応じてケーシングが移動する機構により歯先摩擦を低減するようになっている。ここで、一対の歯車を収容するケーシングを可動とした場合に、歯車ポンプ駆動時に可動ケーシング2の内部空間の圧力は一対の歯車によって高圧部位2Bと低圧部位2Aに分けられ、この圧力差によって可動ケーシング2に、低圧部位2Aから高圧部位2Bの方向に偏心力が働く。これにより歯車の歯先に可動ケーシング内面が押し付けられ、摩擦が生じ得る。
【0044】
外接歯車ポンプの駆動時において、歯先摩擦を低減させる、もしくは理想的に0とするためには、可動ケーシング2に加わる負荷を見かけ上0にできれば、歯先との接触が生じると可動ケーシング2がその分だけ移動するような機構を実現できる。外接歯車ポンプのケーシングを外側ケーシングと内側ケーシングに分けて、内側ケーシングを油中に浮かせる。こうすることで、内側ケーシングを仮想的無負荷状態として、歯車の変位(Y方向)に伴って移動できるようにし、歯先隙間が狭い状態における歯先での摩擦を回避することができる。
【0045】
仮想的無負荷状態を実現するために、内側ケーシング内外の圧力バランスを行う構造を採用する。可動ケーシング2には、ケーシング内部の圧力差によって生じる第1の力(図7に矢印で示す)と、その逆方向に、ケーシング外部の圧力差によって生じる第2の力(図8に矢印で示す)の2つの力が働き、第1の力と第2の力の大きさを等しくすることができれば、2つの力の影響を相殺して見かけ上無負荷状態を実現することができる。
【0046】
第1の力は、ケーシング内部の歯先の圧力分布によって決まる。第1の力の推定値に基づき、可動ケーシング2の外面が作動油と接する面積(加圧面40の面積、加圧面50の面積)を設計することで最適な第2の力を得ることができ、可動ケーシング2の仮想的無負荷状態を実現することができる。
【0047】
図12に示す態様では、加圧面40の面積は、2つの円形状の凹部204の底面2040の面積の合計、加圧面50の面積は、2つの円形状の凹部206の底面2060の面積の合計である。本実施形態に係る外接歯車ポンプにおいて、吸入側と吐出側は任意に変わり得るため、加圧面40の面積と加圧面50の面積は同一となっている。
【0048】
図12図13に示す態様において、外接歯車ポンプの可動ケーシング2は2つの吸入口、2つの吐出口を備えている。各吸入口は、流路要素16と凹部204の底面2040に形成した孔部205のセットからなり、各吐出口は、流路要素17と凹部206の底面2060に形成した孔部207のセットからなり、可動ケーシング2は、2セットの吸入口、2セットの吐出口を備えている。本実施形態に係る外接歯車ポンプにおいて、2つの流路要素16は、共通の1つの外側ケーシング2の吸入口に連通しており、2つの流路要素17は、共通の1つの外側ケーシング2の吐出口に連通している。
【0049】
本実施形態では、2つの円形状の凹部204、2つの流路要素16、2つの円形状の凹部206、2つの流路要素17を設けることで、十分な加圧面40(底面2040)の面積、加圧面50(底面2060)の面積を確保するようにしている。なお、本実施形態では、複数の面から加圧面40、50を形成しているが、所定の第2の力を生成できるものであれば、1つの面から加圧面40、50を形成してもよく、あるいは、3つ以上の面から加圧面40、50を形成してもよい。
【0050】
図10に示すように、可動ケーシングに働く偏心力F(第1の力)に拮抗する力(第2の力)を可動ケーシング2の外側に加えることで、可動ケーシング2に働く合力及びそれによる摩擦トルクをゼロにする。具体的には図9に示すように可動ケーシングの外側の空間(低圧部4、高圧部5)に作動油を導入する。図9において、可動ケーシング2の内部空間は、一対の歯車3によって、低圧部位2Aと高圧部位2Bに分けられており、低圧部位2Aの作動油は、可動ケーシング2の外側の低圧部4(第1室)に導入され、高圧部位2Bの作動油は、可動ケーシング2の外側の高圧部5(第2室)に導入される。低圧部4、高圧部5に導入された作動油は、低圧部位2A、高圧部位2B内の作動油によって押される力に拮抗するように働く。ただし、可動ケーシング2の外側の領域(中間圧部6)の圧力は一定であると考える。
【0051】
図12に示すように、本実施形態に係る可動ケーシング2の外面は、周壁部20の外面と、一対の側板21の外面211と、からなる。周壁部20の外面は、第1壁200の外面(第1面)と、第2壁201の外面(第2面)と、第3壁202の外面(第3面)と、第4壁203の外面(第4面)と、からなる。第1壁200の外面(第1面)は第1平面と、円形状の凹部204の底面2040(低圧の加圧面40)と、からなる。第2壁201の外面(第2面)は第平面と、円形状の凹部206の底面2060(高圧の加圧面50)と、からなる。周壁部20の外面(第1平面、第2平面、第3面、第4面)及び側板21の外面211は中間圧が作用する面(中間圧部6に面する)である。可動ケーシング2の内部空間の内面は、凹部204の底面2040に対応する低圧面と、凹部206の底面2060に対応する高圧面と、低圧面と高圧面との間に位置する円弧面ないし湾曲面と、からなり、湾曲面は、歯先圧力分布に従う面である。
【0052】
可動ケーシングに働く内圧による偏心力の推定について説明する。図10のような長円形状の可動ケーシング内で、歯車が回転し差圧ΔPを発生している状況を想定する。可動ケーシング内面に働く圧力から偏心力を計算する。歯車の歯先に隣接する可動ケーシングの内面の圧力分布Prは角度θの関数として以下のように表される。
ここで低圧側の圧力をP0、高圧側の圧力はP0+ΔPとした。P(θ)は歯先の圧力分布を表す。圧力分布が高圧から低圧にかけて一定の勾配で減少すると仮定すると、
となる。歯先圧力分布の実験結果(A.Corvaglia, M. Rundo, P. Casoli and A. Lettini,“Evaluation of Tooth Space Pressure and Incomplete Filling in External Gear Pumps by Means of Three-Dimensional CFD Simulations,”Energies, Vol. 14, No.2, 342, 2021.)では圧力上昇部の勾配がほぼ一定であるためこのような仮定をおいた。このとき低圧側の歯先がケーシング内面に押し付けられる力は
と表せる。ただしlは歯車間距離、dは歯車の厚み、rはケーシング内径を表す。この偏心力に拮抗する力を外側から与える設計とする。
【0053】
図7図8に示すような圧力バランスが働くことを期待した設計を行う。低圧部4(第1室)、高圧部5(第2室)に導入された作動油によって可動ケーシング2が押される力と、可動ケーシング内部の作動油によって可動ケーシング2に働く力がバランスするように円形状の凹部204、206の底面2040、2060の面積を設計する。具体的には、底面2040、2060の面積をSとすると、バランスの条件式は以下となる。
従って、式(3)より、Sは以下のように求められる。
【0054】
[C]固定側板型ギアポンプの問題である、内圧による隙間拡大を解決する構造
本実施形態では、可動ケーシング2と外側ケーシング1の間の空間を中間圧の作動油で満たすことにより、軸方向についても可動ケーシング2の浮動状態を実現している。これにより、軸方向の隙間が過度に膨れ上がることを防ぎ、同時に外側ケーシング1と可動ケーシング2の間が中間圧の作動油で潤滑されることにより、摩擦を低減させるようになっている。一般的な固定側板型のポンプでは、内圧の上昇に伴い、ケーシングが膨張し、歯車とケーシング間の隙間が増大する。これにより、内部漏れが増加してしまう。本実施形態では、内側ケーシングの外周部を中間圧の作動油で満たすことで、内側ケーシング内外での圧力差を減らし、膨張変形を防止する。一方で外側ケーシングが内圧によって膨張し得るが、これは内部漏れに影響しない。なお、歯車歯先における、隙間と摩擦のトレードオフの問題を解決するのみであれば、外側ケーシング1の内面と可動ケーシング2の外面との隙間(低圧部4及び高圧部5を除く)に充填される流体は、中間圧の作動油以外の流体、例えば、気体(例えば大気圧の空気)であってもよい。
【0055】
図16を参照しつつ、軸方向の歯車とケーシングの間の隙間である軸方向隙間の決定について説明する。一対の歯車のギア軸(駆動軸30A、従動軸30B)は、外側ケーシング1の第1側部1B、第2側部1Cにおいて、ニードルベアリング31によって軸支されており、ニードルベアリング31によって、外側ケーシング1に対するギア軸のXY方向変位が拘束されている。可動ケーシング内部にある軸受用ボール32はスラストベアリングの役割を担っており、ギア軸に対する可動ケーシング2のZ方向変位を拘束する。一方で、ラジアル方向(XY方向)には遊びがある。可動ケーシング2の側板21の内面210には、ギア軸の挿通部に隣接して、リング状の溝部が形成されており、図16において、この溝部の深さをDで示す。また、軸方向隙間をG1で示し、軸受用ボール32の直径をdで示す。
軸方向隙間G1=軸受用ボール32の直径d-溝部の深さDとなり、
軸方向隙間の寸法を、2部品の公差により決定することができ、最適な軸方向隙間をミクロン単位で厳密に決定することが可能である。
【0056】
[D]摩擦と内部漏れの評価
本実施形態に係る外接歯車ポンプについて、差圧約13MPa時の摩擦トルクと内部漏れ抵抗を測定し、従来のケーシング固定タイプの外接歯車ポンプと比較した。結果を表1に示す。
【表1】
ケーシング固定タイプのものに比べて、摩擦は小さいが、内部漏れが大きい結果となった。
【0057】
本実施形態に係る外接歯車ポンプの内部漏れによる損失について補足する。差圧Δp=13×10-6[Pa]の時の内部漏れ流量q[m3/s]に対し、内部漏れ抵抗kL=1.6×1012[Pa・s/m3]は次式で定義される。
内部漏れ損失は、
で計算される。Δp=14MPaの時でも内部漏れ抵抗がΔp=13MPaのときとほとんど同じ値であるとみなせると仮定した場合、損失は約123Wと見積もられるが、これはモータ定格出力(2,310W)の5%程度になる。このレベルの内部漏れは、本実施形態に係る外接歯車ポンプがEHAモジュールの要素として採用される場合において許容範囲であると考えられる。
【0058】
本実施形態に係る外接歯車ポンプについて、最大圧の計測を行った。結果を図17に示す。目標最大圧14MPを十分に達成できることが確認された。
【符号の説明】
【0059】
1 外側ケーシング
2 可動ケーシング(内側ケーシング)
20 周壁部(周壁)
204 円形状の凹部
2040 凹部の底面(加圧面)
206 円形状の凹部
2060 凹部の底面(加圧面)
208 孔部(挿通孔)
212 孔部(挿通孔)
21 側板(側壁)
3 歯車
3A 駆動歯車
3B 従動歯車
4 低圧部
40 加圧面
5 高圧部
50 加圧面
6 中間圧部
7 Oリング(シール部材)
8 連通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17