(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035940
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】可塑性注入材の品質指標取得方法、及び、可塑性注入材の施工管理方法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20240308BHJP
【FI】
E02D3/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140584
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391051049
【氏名又は名称】株式会社エステック
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】佐野 匠
(72)【発明者】
【氏名】小野 博文
(72)【発明者】
【氏名】小松 桃子
(72)【発明者】
【氏名】吉原 正博
【テーマコード(参考)】
2D040
【Fターム(参考)】
2D040AA01
2D040AB01
2D040CD01
2D040GA01
(57)【要約】
【課題】流水下における可塑性注入材の水中不分離性を評価することができる可塑性注入材の品質指標取得方法及び可塑性注入材の施工管理方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る可塑性注入材の品質指標取得方法測定用供試体は、可塑性注入材の測定用及び投入用供試体を作製する工程(1)、供試体を作製してから所定時間経過させる工程(2)、測定用供試体のベーンせん断強さを測定する工程(3)、投入用供試体を所定の流速に調整された流水下に投入する工程(4)、流水下に投入し、所定時間が経過した後、流水の水質を測定する工程(5)を含み、測定したベーンせん断強さ及び流水の水質に基づき、流水が所望の水質を満足するときの供試体のベーンせん断強さを可塑性注入材の品質指標として採用し、測定用及び投入用供試体を作製してからの経過時間と流水下における流速と流水の水質と可塑性注入材の品質指標であるベーンせん断強さとの関係を取得する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可塑性注入材の品質指標を取得する方法であって、
下記工程(1)~(5)を含み、
下記工程(3)及び(5)において測定した測定用供試体のベーンせん断強さ、及び、流水の水質に基づき、流水が所望の水質を満足するときの測定用供試体のベーンせん断強さを、可塑性注入材の品質指標として採用し、
測定用供試体及び投入用供試体を作製してからの経過時間と、流水下における流速と、流水の水質と、可塑性注入材の品質指標であるベーンせん断強さと、の関係を取得する、可塑性注入材の品質指標取得方法。
(1)可塑性注入材のベーンせん断強さ測定のための測定用供試体及び流水に投入するための投入用供試体を作製する工程。
(2)測定用供試体及び投入用供試体を作製してから所定時間経過させる工程。
(3)前記工程(2)において所定時間経過した測定用供試体のベーンせん断強さを測定する工程。
(4)前記工程(2)において所定時間経過した投入用供試体を所定の流速に調整された流水下に投入する工程。
(5)前記工程(4)において投入用供試体を流水下に投入し、所定時間が経過した後、流水の水質を測定する工程。
【請求項2】
前記工程(5)における流水の水質の測定が、浮遊物質量、濁度、色度及びpHの少なくともいずれか1つを測定する、
請求項1に記載の品質指標取得方法。
【請求項3】
可塑性注入材を施工箇所に注入する施工において、請求項1又は2に記載の品質指標取得方法により取得した品質指標に基づき、可塑性注入材の施工を管理する方法であって、
下記工程(11)~(13)を含む、可塑性注入材の施工管理方法。
(11)前記施工箇所の流水環境下における流速を決定する工程。
(12)前記品質指標に基づき、前記施工箇所において要望される流水の水質を満足するときの、可塑性注入材のベーンせん断強さを決定する工程。
(13)前記品質指標に基づき、前記工程(11)において決定した流水の流速において、可塑性注入材を形成してから、前記工程(12)において決定した可塑性注入材のベーンせん断強さが得られるまでの最短時間を求める工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑性注入材の品質指標取得方法、及び、可塑性注入材の施工管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空隙や空洞等の施工箇所に注入する注入材として、セメントを含む注入材が知られている。かかる注入材を目的の空隙、空洞等の施工箇所に注入し且つ硬化するまでの間に周囲に漏れないようにするために、注入材は施工するまでは十分な流動性を有し、施工後には周囲に流れ出さないようにゲル状に凝集する性質、すなわち、可塑性を有することが要求される。
【0003】
そのような可塑性を有する注入材(以下、「可塑性注入材」と記載することがある。)としては、例えば、特許文献1に記載されているような可塑化材を含むものがある。
【0004】
特許文献1に記載の可塑性注入材はセメントミルクと、可塑化材としてのベントナイトとを含むベントナイトミルクの2液から構成されている。セメントミルクとベントナイトミルクとを攪拌混合することで、セメントミルク中のセメントから溶出したカルシウムイオンによってベントナイトが急速に凝集し、可塑性が得られる。
【0005】
ところで、可塑性注入材が施工されるトンネル背面等の空洞内には、湧水等により水が存在することが多い。そのため、可塑性注入材は、水に対して成分の溶出、材料の分離が生じない(以下、「水中不分離性」と記載することもある。)ものが望まれている。非特許文献1には、可塑性注入材の水中不分離性を評価する試験法が記載されている。より詳しくは、可塑性注入材を静水中へ配置し、可塑性注入材が配置された静水の水質(pH、濁度等)の変化割合を求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社「矢板工法トンネルの背面空洞注入工 設計・施工要領」、平成18年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、可塑性注入材が施工される箇所の水は、滞水した静水の状態であることは少なく、ほとんどの場合、流水の状態である。非特許文献1に記載の試験は、静水中にて行われるため、可塑性注入材が施工される環境と試験の環境とが大きく異なる。そのため、可塑性注入材が流水下に配された場合、流水が可塑性注入材に与える影響がどの程度か不明であり、可塑性注入材から成分の溶出、材料の分離が生じてしまう虞がある。そして、可塑性注入材からの成分の溶出、材料の分離が生じた場合、溶出した成分、分離した材料が可塑性注入材の施工箇所の水を汚染してしまう。よって、流水下において可塑性注入材からの成分の溶出、材料の分離を評価できる新たな方法が求められている。
【0009】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、流水下における可塑性注入材の水中不分離性を評価することができる可塑性注入材の品質指標取得方法及び該方法によって得られた品質指標に基づいて可塑性注入材の施工管理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る可塑性注入材の品質指標取得方法は、可塑性注入材の品質指標を取得する方法であって、
下記工程(1)~(5)を含み、
下記工程(3)及び(5)において測定した測定用供試体のベーンせん断強さ、及び、流水の水質に基づき、流水が所望の水質を満足するときの測定用供試体のベーンせん断強さを、可塑性注入材の品質指標として採用し、
測定用供試体及び投入用供試体を作製してからの経過時間と、流水下における流速と、流水の水質と、可塑性注入材の品質指標であるベーンせん断強さと、の関係を取得する。
(1)可塑性注入材のベーンせん断強さ測定のための測定用供試体及び流水に投入するための投入用供試体を作製する工程。
(2)測定用供試体及び投入用供試体を作製してから所定時間経過させる工程。
(3)前記工程(2)において所定時間経過した測定用供試体のベーンせん断強さを測定する工程。
(4)前記工程(2)において所定時間経過した投入用供試体を所定の流速に調整された流水下に投入する工程。
(5)前記工程(4)において投入用供試体を流水下に投入し、所定時間が経過した後、流水の水質を測定する工程。
【0011】
本発明に係る品質指標取得方法は、斯かる構成により、流水下における可塑性注入材の水中不分離性を評価することができる。
【0012】
本発明に係る品質指標取得方法は、上記工程(5)における流水の水質の測定が、浮遊物質量、濁度、色度及びpHの少なくともいずれか1つを測定してもよい。
【0013】
本発明に係る品質指標取得方法は、斯かる構成により、流水の水質をより正確に把握することができる。
【0014】
本発明に係る可塑性注入材の施工管理方法は、可塑性注入材を施工箇所に注入する施工において、上記の品質指標取得方法により取得した品質指標に基づき、可塑性注入材の施工を管理する方法であって、
下記工程(11)~(13)を含む。
(11)前記施工箇所の流水環境下における流速を決定する工程。
(12)前記品質指標に基づき、前記施工箇所において要望される流水の水質を満足するときの、可塑性注入材のベーンせん断強さを決定する工程。
(13)前記品質指標に基づき、前記工程(11)において決定した流水の流速において、可塑性注入材を形成してから、前記工程(12)において決定した可塑性注入材のベーンせん断強さが得られるまでの最短時間を求める工程。
【0015】
本発明に係る可塑性注入材の施工管理方法は、斯かる構成により、流水下における可塑性注入材の水中不分離性を評価した品質指標に基づき、可塑性注入材の施工を管理することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、流水下において可塑性注入材の水中不分離性を評価できる可塑性注入材の品質指標取得方法及び該方法によって得られた品質指標に基づく可塑性注入材の施工管理方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本実施形態に係る可塑性注入材の品質指標取得方法、及び、可塑性注入材の施工管理方法について説明する。
【0019】
<可塑性注入材の品質指標取得方法>
本実施形態に係る可塑性注入材の品質指標取得方法は、下記工程(1)~(5)を含み、下記工程(3)及び(5)において測定した測定用供試体のベーンせん断強さ、及び、流水の水質に基づき、流水が所望の水質を満足するときの測定用供試体のベーンせん断強さを、可塑性注入材の品質指標として採用し、
測定用供試体及び投入用供試体を作製してからの経過時間と、流水下における流速と、流水の水質と、可塑性注入材の品質指標であるベーンせん断強さと、の関係を取得する。
【0020】
(1)可塑性注入材のベーンせん断強さ測定のための測定用供試体及び流水に投入するための投入用供試体を作製する工程。
(2)測定用供試体及び投入用供試体を作製してから所定時間経過させる工程。
(3)前記工程(2)において所定時間経過した測定用供試体のベーンせん断強さを測定する工程。
(4)前記工程(2)において所定時間経過した投入用供試体を所定の流速に調整された流水下に投入する工程。
(5)前記工程(4)において投入用供試体を流水下に投入し、所定時間が経過した後、流水の水質を測定する工程。
【0021】
工程(1)では、可塑性注入材の測定用供試体及び投入用供試体を作製する。測定用供試体は、後述する工程(3)におけるベーンせん断強さ測定のための供試体である。また、投入用供試体は、後述する工程(4)において流水下に投入するための供試体である。
【0022】
測定用供試体及び投入用供試体は可塑性注入材から形成される。測定用供試体及び投入用供試体を形成する可塑性注入材は、空隙や空洞等に注入して施工するものであれば、特に限定はない。可塑性注入材としては、セメント系、非セメント系どちらでもよく、可塑性注入材がセメント系の場合、エア系、非エア系どちらでもよい。さらに、可塑性注入材は、一液系でもよく、例えば、二液系のような複数の液体を混合させるものでもよい。
【0023】
工程(1)では、一つの態様において、二液系の可塑性注入材の測定用供試体及び投入用供試体を作製する。二液系の可塑性注入材は、例えば、セメント及び水から構成されるA液と、ベントナイト及び水から構成されるB液とが混合されて形成される。したがって、二液系の可塑性注入材の測定用供試体及び投入用供試体は、A液とB液を混合して作製される。
【0024】
工程(2)は、測定用供試体及び投入用供試体を作製してから所定時間経過させる工程である。測定用供試体及び投入用供試体は、作製してから時間が経過することで固化する。本実施形態に係る可塑性注入材の品質指標取得方法では、測定用供試体及び投入用供試体を作製してからの経過時間に応じて、ベーンせん断強さの測定及び所定の流速の流水下で水質の測定を行う。そうすることで、供試体のベーンせん断強さと、所定の流速の流水下における供試体の水中不分離性と、を相関させることができる。
【0025】
また、測定用供試体及び投入用供試体を作製してから経過させる時間は、特に限定はない。測定用供試体及び投入用供試体を形成する可塑性注入材に応じて適宜選択してもよい。作製してから経過させる時間としては、例えば、5分、15分、30分、45分、60分、75分等が挙げられる。上述したように本実施形態に係る可塑性注入材の品質指標取得方法は、測定用供試体及び投入用供試体を作製してからの経過時間に応じて供試体のベーンせん断強さと、所定の流速の流水下における供試体の水中不分離性と、を相関させる。そのため、ベーンせん断強さの測定及び所定の流速の流水下で水質の測定は、複数の前記経過時間で行われる。ベーンせん断強さの測定及び所定の流速の流水下で水質の測定を何点の経過時間で行うかは特に限定はないが、少なくとも3点の経過時間で測定を行うことが好ましい。
【0026】
工程(3)では、工程(2)で所定時間経過した測定用供試体のベーンせん断強さを測定する。測定用供試体のベーンせん断強さの測定は、ベーンせん断試験によって行われる。なお、ベーンせん断試験で測定されるせん断力は、モールの応力円から一軸圧縮強度と関連付けられる。すなわち、せん断力は、一軸圧縮強度の1/2に相当する。
【0027】
本実施形態に係る可塑性注入材の品質指標取得方法におけるベーンせん断試験は、例えば、ミニチュアベーン1を使用する。
【0028】
図1に、ミニチュアベーン1の一例を示す。
図1に示す例では、ミニチュアベーン1は、ロッド2と、ロッド2の一方側に設けられたベーンブレード3と、ロッド2の他方側に設けられたトルク計4とを備える。ベーンブレード3は、長方形の4つの羽根を十字に組み合わせたものである。
【0029】
ベーンせん断試験は、測定用供試体にミニチュアベーン1のベーンブレード3を垂直に所定位置まで押し込み、回転させたときの抵抗値から供試体の強度、すなわちベーンせん断強さを測定する。
【0030】
したがって、工程(3)では、測定用供試体を作製して所定時間経過した供試体のベーンせん断強さが測定される。なお、一般的な可塑性注入材を用いた場合、工程(2)での経過時間が長いほどベーンせん断強さは大きくなる。
【0031】
工程(4)では、工程(2)で所定時間経過した投入用供試体を所定の流速に調整された流水下に投入する。
【0032】
投入用供試体が投入される流水は、流水の流速を所定の流速に制御できれば特に限定はない。所定の流速に流水を制御する装置として、例えば回流水槽を用いてもよい。回流水槽では、水槽内の水を所定の流速で一定方向に回流させる。
【0033】
工程(4)で投入用供試体が投入される流水の流速は、好ましくは、0.1m/s以上1.0m/s以下である。この範囲のうち複数点、少なくとも3点の流速でベーンせん断強さの測定及び流水下で水質の測定を行うのが好ましい。
【0034】
工程(5)では、工程(4)において投入用供試体を流水下に投入し、所定時間が経過した後、流水の水質を測定する。
【0035】
投入用供試体が流水により、投入用供試体から成分の溶出、材料の分離が生じると流水の水質に変化が生じる。工程(5)では、投入用供試体へ流水が与える影響を調べるために、投入用供試体を流水へ投入してから所定時間経過後の流水の水質を測定する。
【0036】
投入用供試体を投入してから流水の水質を測定するまでの時間は、特に限定はなく、適宜決定すればよい。当該時間としては、例えば、1分、2分、3分、4分、5分等が挙げられる。
【0037】
流水の水質の測定は、可塑性注入材から成分が溶出、材料の分離が生じた際に、水質に影響を与える項目について測定すればよい。成分の溶出、材料の分離によって影響を与える項目としては、例えば、浮遊物質量、濁度、色度、pH等が挙げられる。そのため、工程(5)において流水の水質の測定は、成分の溶出、材料の分離によって影響を与える浮遊物質量、濁度、色度、pH等のいずれか一つを測定してもよく、二つ以上の複数を測定してもよい。なお、水質の測定は公知の方法で行えばよく、例えば、ろ過装置を用いた浮遊物質の重量測定、濁度、色度計による測定、分光光度計による測定、pH計による測定等が挙げられる。
【0038】
本実施形態に係る可塑性注入材の品質指標取得方法は、上述の工程(3)及び(5)において測定した測定用供試体のベーンせん断強さ、及び、流水の水質に基づき、流水が所望の水質を満足するときの測定用供試体のベーンせん断強さを、可塑性注入材の品質指標として採用する。
【0039】
測定用供試体及び投入用供試体は、作製してからの経過時間が同じタイミングで、ベーンせん断測定及び流水への投入が行われる。したがって、測定用供試体と投入用供試体は、同一の固化状態であると考えられる。よって、測定用供試体及び投入用供試体を作製してからの経過時間に基づいて測定用供試体のベーンせん断強さと投入用供試体による水質との関係を取得できる。
【0040】
例えば、測定用供試体及び投入用供試体を作製して5分経過させて、測定用供試体をベーンせん断測定し、投入用供試体を流水へ投入する。その場合、作製して5分経過した測定用供試体のベーンせん断強さの値と、投入用供試体を投入した流水の水質を測定した値と、が関連付けられる。
【0041】
そして、測定用供試体及び投入用供試体を作製してからの経過時間を変えて、測定用供試体のベーンせん断強さの測定と流水の水質の測定を行うことで、各経過時間に応じて測定用供試体のベーンせん断強さの値と流水の水質の測定した値とを関連付けることができる。
【0042】
測定用供試体のベーンせん断強さと流水の水質との関係を取得したことにより、測定用供試体のベーンせん断強さを可塑性注入材の品質指標として採用できる。品質指標である可塑性注入材のベーンせん断強さを測定することで、可塑性注入材が流水下に投入された際、流水の水質に影響を与えるかどうかを判断できる。
【0043】
本明細書において、水質を満足するとは、流水の水質の測定において測定した値が、あらかじめ決めた値の範囲内にあることをいう。あらかじめ決められる値は、水質を測定する項目ごとに決定する。各項目で決定される値は、特に限定はないが、例えば、生活環境の保全上に関する環境基準に基づいて決定してもよい。浮遊物質量であれば、工程(5)による測定値と投入用供試体を投入する前の値との差が、例えば、25mg/l未満であれば、水質を満足するとしてもよい。濁度であれば、当該差が、例えば、2度未満であれば水質を満足するとしてもよい。色度であれば、当該差が、例えば、0.5度未満であれば水質を満足するとしてもよい。pHであれば、当該差が、例えば、0.2未満であれば水質を満足するとしてもよい。
【0044】
上述したように、測定用供試体及び投入用供試体を作製してからの経過時間に基づいて、測定用供試体のベーンせん断強さと流水の水質は関連付けられる。その際、流水の流速によって投入用供試体からの流水の水質に与える影響は変わる。したがって、流水の流速を変化させて、測定用供試体及び投入用供試体を作製してからの経過時間ごとに、測定用供試体のベーンせん断強さと流水の水質を測定することで、各流速において、当該経過時間に基づいて測定用供試体のベーンせん断強さと流水の水質を関連付けることができる。
【0045】
よって、本実施形態に係る可塑性注入材の品質指標取得方法は、測定用供試体及び投入用供試体を作製してからの経過時間と、流水下における流速と、流水の水質と、可塑性注入材の品質指標であるベーンせん断強さと、の関係を取得する。
【0046】
本実施形態に係る可塑性注入材の品質指標取得方法は、流水下における可塑性注入材の水中不分離性を評価することができる。
【0047】
<可塑性注入材の施工管理方法>
本実施形態に係る可塑性注入材の施工管理方法は、上述の品質指標取得方法により取得した品質指標に基づき、可塑性注入材の施工を管理する方法であって、下記工程(11)~(13)を含む。
【0048】
(11)前記施工箇所の流水環境下における流速を決定する工程。
(12)前記品質指標に基づき、前記施工箇所において要望される流水の水質を満足するときの、可塑性注入材のベーンせん断強さを決定する工程。
(13)前記品質指標に基づき、前記工程(11)において決定した流水の流速において、可塑性注入材を形成してから、前記工程(12)において決定した可塑性注入材のベーンせん断強さが得られるまでの最短時間を求める工程。
【0049】
工程(11)では、可塑性注入材の施工箇所の流水環境下における流速を決定する。上述の可塑性注入材の品質指標取得方法で取得した可塑性注入材のベーンせん断強さと流水の流速、及び流水の水質との関係を用いるために、流水環境にある前記施工箇所の流水の流速を決定する。
【0050】
流速の決定は、可塑性注入材の施工箇所における流水環境にある流水の流速を測定することで行う。流速の測定は、特に限定はなく、公知の方法で行うことができる。流速の測定としては、例えば、電磁流速計を用いた測定、プロペラ流速計を用いた測定、浮子を用いた測定等が挙げられる。
【0051】
工程(12)では、品質指標に基づき、施工箇所において要望される流水の水質を満足するときの、可塑性注入材のベーンせん断強さを決定する。
【0052】
上述の品質指標取得方法によって、測定用供試体及び投入用供試体を作製してからの経過時間と、流水下における流速と、流水の水質と、可塑性注入材の品質指標であるベーンせん断強さの関係が取得されている。取得した関係から、可塑性注入材が注入される施工箇所における流水の水質を満足する可塑性注入材のベーンせん断強さを求めることができる。より詳しくは、工程(11)において決定した流速における流水の水質を満足するベーンせん断強さの値を流水の水質と可塑性注入材のるベーンせん断強さとの関係から求める。
【0053】
決定するベーンせん断強さは、流水の水質を満足させるベーンせん断強さであれば特に限定はない。可塑性注入材の施工時間の観点から、決定するベーンせん断強さは、好ましくは、当該水質を満足させるベーンせん断強さのうち最小のものである。
【0054】
工程(13)では、品質指標に基づき、工程(11)において決定した流水の流速において、可塑性注入材を形成してから、工程(12)において決定した可塑性注入材のベーンせん断強さが得られるまでの最短時間を求める。
【0055】
可塑性注入材が工程(12)において決定した可塑性注入材のるベーンせん断強さになるまでの時間は、上述した品質指標取得方法により取得した関係から求めることができる。工程(11)及び工程(12)によって、可塑性注入材が注入される流水環境下の施工箇所での必要なベーンせん断強さは決定されている。そして、可塑性注入材のベーンせん断強さが決定したベーンせん断強さになるまでの最短時間は、上述した品質指標取得方法における測定用供試体を作製してからの経過時間と測定用供試体のベーンせん断強さとの関係から求めることができる。
【0056】
本実施形態に係る可塑性注入材の施工管理方法は、流水下における可塑性注入材の水中不分離性を評価した品質指標に基づき、可塑性注入材の施工を管理することができる。
【実施例0057】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
[可塑性注入材の品質指標の取得]
<測定用供試体及び投入用供試体の作製>
表1に示す成分及び配合量で、A液及びB液をそれぞれ作製した。具体的には、A液は、環境温度20℃において、ハンドミキサを用いて550rpmで3分間練り混ぜることにより作製した。B液は、練り混ぜ時間を10分間としたこと以外は、A液と同様に作製した。次に、体積比でA液:B液が1:2になるようにB液の容器内にA液を投入し、ハンドミキサを用いて550rpmで20秒間練り混ぜ、円柱形状の測定用供試体及び投入用供試体(直径56.4mm、高さ45.6mm)を作製した。
【0059】
各成分の詳細を以下に示す。
A材:超速硬セメント(住友大阪セメント社製)
遅延剤:オキシカルボン酸(市販品)
A液流動化剤:ポリカルボン酸系高性能減水剤(市販品)
B材:ベントナイト(市販品、膨潤度20ml/2g以上)
B液流動化剤:ポリアクリル酸塩系分散剤(市販品)
【0060】
【0061】
測定用供試体及び投入用供試体の作製後、5分、15分、30分、45分、60分、75分経過した測定用供試体及び投入用供試体をそれぞれ、下記ベーンせん断強さの測定及び流水の水質の測定に用いた。
【0062】
<ベーンせん断強さの測定>
測定用供試体のベーンせん断強さの測定は、ベーンせん断試験で行った。ベーンせん断試験は、ブレード幅15mm×長さ30mm、またはブレード幅30mm×長さ60mmのミニチュアベーンを用いた。測定用供試体にベーンブレードを垂直に所定位置まで押し込み、回転させたときの抵抗値からベーンせん断強さを測定した。
【0063】
<流水の水質測定>
以下に流水の水質測定に用いた機器及び測定条件を示す。
・回流水槽(丸東製作所株式会社製)
流速:0.1~1.0m/s
水温:17±3℃
水深:8cm
水量:約0.034m3
・浮遊物質量(SS)測定:携帯型濁度/SS/汚泥界面計(東亜ディーケーケー社製)
・色度測定:ポータブル色度計(日本電色工業社製)
・pH測定、濁度測定:簡易ポータブル多項目水質計(東亜ディーケーケー社製)
【0064】
流水の水質測定は、以下の手順で行った。
[1]投入用供試体を回流水槽へ投入。
[2]投入用供試体の投入後2分間流水にさらす。
[3]投入用供試体を回流水槽から取り出す。
[4]回流水槽の流水の浮遊物質量(SS)、濁度、色度、及びpHを測定。
[5]回流水槽の流水の流速を0.1~0.3m/s増加させる。
[6][1]~[5]を繰り返す。
【0065】
作製した測定用供試体及び投入用供試体を用いて、ベーンせん断試験及び流水の水質測定を行った。結果を表2、表3に示す。
【0066】
【0067】
【0068】
測定用供試体のベーンせん断強さの測定及び投入用供試体が投入された流水の水質測定をすることで、測定用供試体及び投入用供試体を作製してからの経過時間、流水下における流速、流水の水質、及び可塑性注入材のベーンせん断強さの関係を取得することができた。
【0069】
また、それらの関係から測定用供試体のベーンせん断強さを流水下における可塑性注入材の品質指標として採用できることが示された。
【0070】
また、測定用供試体及び投入用供試体を作製してからの経過時間、流水下における流速、流水の水質、及び可塑性注入材のベーンせん断強さの関係を取得することで、可塑性注入材のベーンせん断強さを品質指標として可塑性注入材の施工管理も可能となる。
【0071】
例えば、可塑性注入材の施工箇所における流水の流速が0.5m/sであるとし、流水の水質を満足する基準を浮遊物質量(SS)が25mg/l未満とする。その場合、表2及び表3から、流水の流速0.5m/sでは、ベーンせん断強さの値が0.48kN/m2の時、SSの値は、55mg/l(経過時間15分)となり、ベーンせん断強さの値が0.57kN/m2の時、SSの値は、22mg/l(経過時間30分)となる。そうするとこの可塑性注入材は、流水の流速が0.5m/sであるとき水質を満足するベーンせん断強さは0.57kN/m2以上となる。
【0072】
したがって、可塑性注入材の施工箇所において、可塑性注入材のベーンせん断強さが0.57kN/m2以上の値であれば、施工箇所における流水環境へ影響を及ぼさない。
【0073】
さらに、測定用供試体を作製してからの経過時間と測定用供試体のベーンせん断強さの関係も取得されているので、可塑性注入材の施工箇所において流水の水質を満足させるのに必要なベーンせん断強さになるまでの最短時間を決定できる。上記の場合では、流水の水質を満足するベーンせん断強さの値は0.57kN/m2以上であって、当該ベーンせん断強さの値となる最短時間は30分と決定できる。よって、可塑性注入材の施工を適切に管理できる。