(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036067
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】ハイエントロピー合金の製造方法、ハイエントロピー合金の使用方法、ハイエントロピー合金触媒、およびハイエントロピー合金
(51)【国際特許分類】
C22B 5/02 20060101AFI20240308BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20240308BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20240308BHJP
C22B 61/00 20060101ALI20240308BHJP
C22C 19/03 20060101ALI20240308BHJP
B22F 9/20 20060101ALI20240308BHJP
C22C 5/04 20060101ALN20240308BHJP
【FI】
C22B5/02
C22C30/00
C22B1/00 101
C22B61/00
C22C19/03 Z
B22F9/20 Z
C22C5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140779
(22)【出願日】2022-09-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.公開日:2021年11月20日 掲載アドレス:https://doi.org/10.1016/j.ijhydene.2021.10.260 内容:INTERNATIONAL JOURNAL OF HYDROGEN ENERGY47 (2022) 3722-3732(水素エネルギー国際誌)“Molten salt synthesis of high-entropy alloy AlCoCrFeNiV nanoparticles for the catalytic hydrogenation of p-nitrophenol by NaBH▲4▼”(NaBH▲4▼による4-ニトロフェノールの接触水素化のためのハイエントロピー合金AlCoCrFeNiVナノ粒子の溶融塩合成) 2.公開日:2021年9月8日 掲載アドレス:http://www3.scej.org/meeting/52f/abst/VT107.pdf 内容:化学工学会第52回秋季大会(2021)講演予稿集 “酸化物前駆体の低温還元で得られたハイエントロピー合金触媒の水素化活性の評価” 3.発表日:2021年9月22日(開催期間 2021年9月22日~24日) 集会名:化学工学会第52回秋季大会(2021) 開催場所:オンライン・オンサイト併用開催(オンサイト会場:岡山大学 津島キャンパス) 内容:口頭発表“酸化物前駆体の低温還元で得られたハイエントロピー合金触媒の水素化活性の評価”
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 4.公開日:2021年11月26日 掲載アドレス: https://confit.atlas.jp/guide/event/hessecsj2021/subject/11B01/class?cryptoId= 内容:2021合同WEB討論会講演予稿集 “溶融塩ヒドリド還元法を用いた金属酸化物前駆体の直接還元による合金ナノ構造体の合成とその応用” 5.発表日:2021年12月9日(開催期間 2021年11月29日~12月10日) 集会名:2021合同WEB討論会 ▲~▼ 第41回水素エネルギー協会大会,2021HESS特別講演会,第45回電解技術討論会 -ソーダ工業技術討論会-▲~▼ 開催場所:オンライン開催 内容:口頭発表“溶融塩ヒドリド還元法を用いた金属酸化物前駆体の直接還元による合金ナノ構造体の合成とその応用” 6.公開日:2022年7月6日 掲載アドレス:https://magazine.scej.org/articles/6553/ 内容:化学工学7号電子版 “CaH▲2▼を還元剤に用いた溶融塩中でのナノ構造合金の合成とその触媒応用” 7.公開日:2022年3月2日 掲載アドレス:http://www3.scej.org/meeting/87a/abst/PC253.pdf 内容:化学工学会第87回年会講演予稿集 “ハイエントロピー合金触媒を用いた水環境汚染の浄化”
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 8.発表日:2022年3月17日(開催期間 2022年3月16日~3月18日) 集会名:化学工学会第87回年会 開催場所:オンライン・オンサイト併用開催(オンサイト会場:神戸大学 鶴甲第1キャンパス) 内容:口頭発表“ハイエントロピー合金触媒を用いた水環境汚染の浄化” 9.公開日:2022年7月4日 掲載アドレス: https://www.jswe.or.jp/extra/wet2022-online/pw/information.html 内容:The Water and Environment Technology Conference WET2022-online(水と環境技術の国際会議 WET2022-オンライン)講演予稿集 “Hydrogenation Reaction of Azo-Dyes by High Entropy Alloy Catalysts”(ハイエントロピー合金触媒によるアゾ色素の水素化反応) 10.発表日:2022年7月10日(開催期間 2022年7月9日~7月10日) 集会名:The Water and Environment Technology Conference WET2022-online(水と環境技術の国際会議 WET2022-オンライン) 開催場所:オンライン開催 内容:ポスター発表 “Hydrogenation Reaction of Azo-Dyes by High Entropy Alloy Catalysts”(ハイエントロピー合金触媒によるアゾ色素の水素化反応)
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】小林 靖和
【テーマコード(参考)】
4K001
4K017
【Fターム(参考)】
4K001AA42
4K001BA19
4K001CA09
4K001CA15
4K001HA02
4K001HA07
4K001HA12
4K017AA04
4K017BA01
4K017BA02
4K017BA03
4K017BA04
4K017BA06
4K017BA07
4K017BA10
4K017CA07
4K017EH18
4K017FA03
4K017FB03
4K017FB08
4K017FB10
(57)【要約】
【課題】簡便、低コストで製造可能なハイエントロピー合金の製造方法の提供、当該ハイエントロピー合金の使用方法の提供、ハイエントロピー合金触媒の提供、新規なハイエントロピー合金の提供である。
【解決手段】第4-6周期、第3-12族の遷移金属、アルミニウム、ケイ素、および、ランタノイドからなる群から選択される5種以上の金属の塩を、溶媒の存在下、混合液を得る工程、前記混合液を乾燥、加熱して酸化物前駆体を得る工程、前記酸化物前駆体と、CaH2、Ca、MgH2、Mgから選択される少なくとも一つの還元剤と、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の溶融塩と、を不活性ガスの存在下、加熱、還元してハイエントロピー合金を得る工程、を備えるハイエントロピー合金の製造方法である。前記ハイエントロピー合金を、液相での水素化反応の触媒に用いてもよい。また、前記方法により新規なハイエントロピー合金を作製できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第4-6周期、第3-12族の遷移金属、アルミニウム、ケイ素、および、ランタノイドからなる群から選択される5種以上の金属の塩を、溶媒の存在下、混合液を得る工程と、
前記混合液を乾燥、加熱して酸化物前駆体を得る工程と、
前記酸化物前駆体と、水素化カルシウム、カルシウム、水素化マグネシウム、マグネシウムから選択される少なくとも一つの還元剤と、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の溶融塩と、を、不活性ガスの存在下、加熱、還元してハイエントロピー合金を得る工程と、
を備えるハイエントロピー合金の製造方法。
【請求項2】
前記混合液を得る工程は、前記金属の塩とキレート試薬とを溶媒の存在下、混合して混合液を得る工程である、請求項1に記載のハイエントロピー合金の製造方法。
【請求項3】
前記混合液を得る工程は、前記金属の塩と前記金属(前記金属の塩の金属を除く)の酸化物とを溶媒の存在下、混合して混合液を得る工程である、請求項1に記載のハイエントロピー合金の製造方法。
【請求項4】
前記金属は、Ni、Fe、Cr、Co、Al、Mn、Ti、V、Zr、Ir、Pd、Pt、Rh、Ru、Au、Ag、Y、Ga、Ln、Ce、Pr、Nd、Smから選択される、請求項1に記載のハイエントロピー合金の製造方法。
【請求項5】
前記選択される5種以上の金属のうち少なくとも一つは貴金属であり、前記混合液を得る工程は、さらにカルシウム塩を混合して混合液を得る工程である、請求項2に記載のハイエントロピー合金の製造方法。
【請求項6】
請求項2に記載のハイエントロピー合金の製造方法によりハイエントロピー合金を製造し、前記ハイエントロピー合金を液相での水素化反応の触媒に用いる、ハイエントロピー合金の使用方法。
【請求項7】
前記液相での水素化反応は、ニトロ基またはイミンの水素化によるアミンの合成反応である、請求項5に記載のハイエントロピー合金の使用方法。
【請求項8】
原子組成比が、
AlCoCrFeNiV、AlCoCrFeNi、CoFeNiTiCr、CoFeNiTiV、Al0.2Co1.5CrFeNi1.5Ti0.5、(Ti0.5Zr0.5)(Cr0.25Mn0.25Fe0.25Ni0.25)2のうちいずれか一つの式で表される、ハイエントロピー合金を含む、液相水素化反応用のハイエントロピー合金触媒。
【請求項9】
前記液相水素化反応が、ニトロ基またはイミンの水素化によるアミンの合成反応である、請求項8に記載のハイエントロピー合金触媒。
【請求項10】
原子組成比が、
CeMnFeCoNiZn、または
(La0.2Ce0.2Pr0.2Nd0.2Sm0.2)MnFeCoNiZn、または
(Y0.2La0.2Ce0.2Pr0.2Nd0.2)Ga2Ni3
の式で表される、ハイエントロピー合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイエントロピー合金の製造方法、ハイエントロピー合金の使用方法、ハイエントロピー合金触媒、および新規なハイエントロピー合金に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新しい合金材料としてハイエントロピー合金(High Entropy Alloy:以下、HEAという)が注目されている。HEAは、5成分系以上の多成分系合金で、種々の元素が結晶格子にランダムに配置される、すなわち配置のエントロピーが高くなるというものであり、かつ基本的に単一相の不規則固溶体から成っている。HEAは、(a)ギブスの自由エネルギー式における混合エントロピー項が負に増大することに起因する混合状態の安定化、(b)複雑な微細構造による拡散遅延、(c)構成原子のサイズ差に起因する高格子歪みに起因する高硬度化や機械的特性の温度依存性低下、(d)多種元素共存による複合影響(カクテル効果とも言う)による耐食性の向上などの特性を有している。そして、HEAは、優れた腐食及び酸化耐性を有していることや、優れた摩擦耐性があることなどから、様々な用途での応用が検討されている。例えば、主な用途としては、形状記憶合金として、医療器具や構造材料の他、3D金属プリンターなどの新応用分野への展開、触媒材料としての利用など様々な分野に応用されている。
【0003】
このようなハイエントロピー合金の製造方法として、原料を混合、溶解して粉砕する物理的な方法や、金属溶湯脱成分法を利用した化学的な方法がある。物理的な方法として、例えば、特許文献1には、原料混合溶解工程とアトマイズ工程と混合粉末用意工程と積層造形工程と擬溶体化熱処理工程等の工程によりハイエントロピー合金を製造することが開示されている。また、特許文献2には、元素粉末や予め合金化された粉末を均質な合金が形成されるまでボールミルで粉砕する機械的合金化技術によって固体合金を得ることが開示されている。
【0004】
そして、金属溶湯脱成分法を利用した化学的な方法として、各元素の前駆合金を準備し、アーク融解で溶かして各成分を混合し、固化後の合金から、薄板状の前駆体を切り出して特定の金属から成る金属浴に、前駆体を浸すことで、ポーラス金属を得ることが開示されている(特許文献3-4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-114948号公報
【特許文献2】特表2022-530648号公報
【特許文献3】特開2020-125523号公報
【特許文献4】国際公開第2011/092909号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
物理的な方法では、原料の混合、溶解の工程において、通常、構成金属を高温(2000℃ほど)で溶解して混合する必要があるため、高周波溶解炉などの高温耐性の大型・大規模装置が必要である。また、原料となる金属として高価な純金属を使用するものであり、さらに、製造工程数も多く、作業負担やコストの増加を引き起こしたり、各工程において、例えば粉砕工程などでは不純物の混入のリスクが生じる可能性もある。そして、化学的な方法においても、原料となる金属として高価な純金属を使用することや、混合熱や融点を考慮して各工程で用いる金属を選択するという複雑な工程を経ること、さらに製造工程数が多いという問題がある。
【0007】
このようなHEAは種々の触媒材料としての用途拡大も期待されており、また、今後、ハイエントロピー合金の新たな用途を模索するべく、新規なハイエントロピー合金の開発も望まれるところである。本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、簡便、低コストでハイエントロピー合金を製造できる、ハイエントロピー合金の製造方法や当該ハイエントロピー合金の使用方法を提供することである。また、ハイエントロピー合金触媒や新規なハイエントロピー合金の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、各金属元素の塩やその水和物の酸化物前駆体をアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む溶融塩中で水素化カルシウム(CaH2)、カルシウム(Ca)などを還元剤に用いて、加熱、還元することで、ハイエントロピー合金が一段反応で得られることを見いだし、本発明を完成させた。そして、この方法により、ハイエントロピー合金触媒や新規なハイエントロピー合金を製造した。
【0009】
本発明は、下記(1)-(5)に記載のハイエントロピー合金の製造方法に関する。
(1)第4-6周期、第3-12族の遷移金属、アルミニウム、ケイ素、および、ランタノイドからなる群から選択される5種以上の金属の塩を、溶媒の存在下、混合液を得る工程と、前記混合液を乾燥、加熱して酸化物前駆体を得る工程と、前記酸化物前駆体と、水素化カルシウム、カルシウム、水素化マグネシウム、マグネシウムから選択される少なくとも一つの還元剤と、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の溶融塩と、を不活性ガスの存在下、加熱、還元してハイエントロピー合金を得る工程と、を備えるハイエントロピー合金の製造方法。
(2)前記混合液を得る工程は、前記金属の塩とキレート試薬とを溶媒の存在下、混合して混合液を得る工程である、前記(1)に記載のハイエントロピー合金の製造方法。
(3)前記混合液を得る工程は、前記金属の塩と前記金属(前記金属の塩の金属を除く)の酸化物とを溶媒の存在下、混合して混合液を得る工程である、前記(1)に記載のハイエントロピー合金の製造方法。
(4)前記金属は、Ni、Fe、Cr、Co、Al、Mn、Ti、V、Zr、Ir、Pd、Pt、Rh、Ru、Au、Ag、Y、Ga、Ln、Ce、Pr、Nd、Smから選択される、前記(1)に記載のハイエントロピー合金の製造方法。
(5)前記選択される5種以上の金属のうち少なくとも一つは貴金属であり、前記混合液を得る工程は、さらにカルシウム塩を混合して混合液を得る工程である、前記(2)に記載のハイエントロピー合金の製造方法。
【0010】
また、本発明は、下記(6)および(7)に記載のハイエントロピー合金の使用方法、下記(8)および(9)に記載のハイエントロピー合金触媒や下記(10)に記載の新規化合物に関する。
(6)前記(2)に記載のハイエントロピー合金の製造方法によりハイエントロピー合金粉末を製造し、前記ハイエントロピー合金を液相での水素化反応の触媒に用いる、ハイエントロピー合金の使用方法。
(7)前記液相での水素化反応は、ニトロ基またはイミンの水素化によるアミンの合成反応である、前記(6)に記載のハイエントロピー合金の使用方法。
(8)原子組成比が、AlCoCrFeNiV、AlCoCrFeNi、CoFeNiTiCr、CoFeNiTiV、Al0.2Co1.5CrFeNi1.5Ti0.5、(Ti0.5Zr0.5)(Cr0.25Mn0.25Fe0.25Ni0.25)2のうちいずれか一つの式で表される、ハイエントロピー合金を含む、液相水素化反応用のハイエントロピー合金触媒。
(9)前記液相水素化反応が、ニトロ基またはイミンの水素化によるアミンの合成反応である、前記(8)に記載のハイエントロピー合金触媒。
(10)原子組成比が、CeMnFeCoNiZn、または(La0.2Ce0.2Pr0.2Nd0.2Sm0.2)MnFeCoNiZn、または(Y0.2La0.2Ce0.2Pr0.2Nd0.2)Ga2Ni3の式で表される、ハイエントロピー合金。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡便、低コストでハイエントロピー合金を製造できる、ハイエントロピー合金の製造方法および当該ハイエントロピー合金の使用方法を提供できる。また、ハイエントロピー合金触媒や新規なハイエントロピー合金を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1のHEA粉末のX線回折パターンおよび走査電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図2】実施例2のHEA粉末のX線回折パターンおよびSEM画像である。
【
図3】実施例3のHEA粉末のX線回折パターンおよびSEM画像である。
【
図4】実施例4のHEA粉末のX線回折パターンおよびSEM画像である。
【
図5】実施例5のHEA粉末のX線回折パターンおよびSEM画像である。
【
図6】実施例6のHEA粉末のX線回折パターンおよびSEM画像である。
【
図7】実施例7のHEA粉末のX線回折パターンおよびSEM画像である。
【
図8】実施例8のHEA粉末のX線回折パターンである。
【
図9】実施例9のHEA粉末のX線回折パターンである。
【
図10】実施例10のHEA粉末のX線回折パターンである。
【
図11】実施例11のHEA粉末のX線回折パターンである。
【
図12】実施例12のHEA粉末のX線回折パターンである。
【
図13】実施例13のHEA粉末のX線回折パターンである。
【
図14】実施例14のHEA粉末のX線回折パターンである。
【
図15】実施例15のHEA粉末のX線回折パターンである。
【
図16】実施例1のHEA粉末を触媒に用いた水素化反応におけるp-ニトロフェノールの濃度の時間変化を示したグラフである。
【
図17】実施例2のHEA粉末を触媒に用いた水素化反応におけるp-ニトロフェノールの濃度の時間変化を示したグラフである。
【
図18】実施例3のHEA粉末を触媒に用いた水素化反応におけるp-ニトロフェノールの濃度の時間変化を示したグラフである。
【
図19】実施例4のHEA粉末を触媒に用いた水素化反応におけるp-ニトロフェノールの濃度の時間変化を示したグラフである。
【
図20】実施例5のHEA粉末を触媒に用いた水素化反応におけるp-ニトロフェノールの濃度の時間変化を示したグラフである。
【
図21】実施例6のHEA粉末を触媒に用いた水素化反応におけるp-ニトロフェノールの濃度の時間変化を示したグラフである。
【
図22】実施例7のHEA粉末を触媒担体に用いた水素化反応におけるp-ニトロフェノールの濃度の時間変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態によるハイエントロピー合金の製造方法は、原料となる各金属元素の塩やその水和物の酸化物前駆体を、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む溶融塩中で水素化カルシウム(CaH2)やカルシウムなどを還元剤に用いて還元する方法であって、ハイエントロピー合金が一段反応で得られるものである。そして、この方法により、新規なハイエントロピー合金を製造できる。なお、本明細書中、数値範囲を示す場合は、上限および下限を含むものとする。
【0014】
ハイエントロピー合金とは、5成分系以上の多成分系合金で、かつ基本的に単一相の不規則固溶体合金であり、かつギブスの自由エネルギー式における混合エントロピー項が負に増大することに起因して混合状態が安定化される合金である。平衡状態で形成される安定相は、ギプスの自由エネルギー(ΔG)が最小となる場合に与えられる。熱力学的に、ΔGはΔG=ΔH-TΔSで与えられ、エントロピー(ΔS)が増加すると、ΔGは低下する。ランダムな理想溶体の混合エントロピー項は次式で与えられる。
【数1】
ここで、Rはガス定数、Nは成分の数、ciは成分iの割合である。この式から明らかなように、等原子組成の合金で最もエントロピーが高くなり、成分数の増加とともにエントロピーが増加する。そのため、混合エントロピー項が負に増大することに起因して混合状態が安定化される場合に得られる合金を、ハイエントロピー合金とする。また、規則的な結晶構造を有する金属間化合物合金においても、ある格子点が多成分金属元素によって占められ、混合エントロピー項の寄与によりその混合状態が安定化された合金の場合も、ハイエントロピー合金に該当する。そのため、混合エントロピー項の寄与がない2種類または3種類の元素からなる一般的な合金とは区別されるものである。例えば、ハイエントロピー合金は、それぞれの元素が単独では異なる結晶構造を有する場合であっても、混合エントロピー項の寄与により安定化された各元素がランダムに混ざった単一の構造を有する固溶体合金であり、単純な体心立方構造(BCC)や面心立方構造(FCC)を、代表的な結晶構造とする。そして、ハイエントロピー合金は、一般的な合金に比べて、多くの成分が密に詰まった構造を有しており、強度も大きく、物理的あるいは化学的に優れた特異な物性を有する。
また、ハイエントロピー合金は、最小で5種類の複数の元素から構成されるものであり本実施形態では、各構成元素は最大で50原子数%(モル%)、最小で5原子数%含まれる。ハイエントロピー合金は、ギブスの自由エネルギー式における混合エントロピー項が負に増大することに起因して混合状態が安定化される合金である。また、必ずしも単一相の固溶体となる合金だけではなく、混合エントロピー項の寄与により安定化された単一相の金属間化合物が含まれる。
【0015】
そして、本実施形態のハイエントロピー合金の製造方法は、原料となる5種以上の金属の塩を、溶媒の存在下、混合液を得る工程と、前記混合液を乾燥、加熱して酸化物前駆体を得る工程と、前記酸化物前駆体と、CaH2、Ca、MgH2、Mgから選択される少なくとも一つの還元剤と、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の溶融塩と、を不活性ガスの存在下、加熱、還元してハイエントロピー合金を得る工程と、を備えるものである。
ハイエントロピー合金の構成元素としては、周期表の第4-6周期、第3-12族の遷移金属、アルミニウム、ケイ素、および、ランタノイドからなる群から選択される金属である。アルミニウム、ケイ素は遷移金属ではないが、ハイエントロピー合金(固溶体あるいは金属間化合物)を形成する構成元素に成り得るという点で、上記遷移金属と共通するものである。また、ケイ素は厳密に言えば非金属であるが、上記遷移金属およびアルミニウムとは、他金属元素と合金(固溶体あるいは金属間化合物)を形成するという共通な性質を有するものであることから、本明細書では金属に含めるものとしている。
例えば、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、金(Au)、イリジウム(Ir)、Y(イットリウム)、ガリウム(Ga)、ランタン(Ln)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)などから選択される。なお、選択される数としては、5種以上であれば上限は限定されないが、数が多くなると混合液を得る工程において、溶解しづらくなることから、5-10種類程度が好ましい。また、各構成元素は最大で35原子数%(モル%)であってもよい。
【0016】
そして、本実施形態によれば、上記金属の塩やその水和物を原料として用いることを特徴としている。従来のハイエントロピー合金の製造においては、原料となる金属として高価な純金属を使用するものであったが、原料となる金属の塩やその水和物は入手も容易であり、かつ安価であることから、低コスト化が図れるものである。
【0017】
金属の塩としては、これら金属の硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、塩化物などの無機塩の他に、アルコキシド、酢酸塩、シュウ酸塩などの有機塩がある。無機塩の場合、多くの硝酸塩あるいは塩化物は溶解性かつ安価に入手可能であり、好適である。例えば、原料となる金属がアルミニウムの場合、Al(NO3)3・9H3O、コバルトの場合、Co(NO3)3・6H2O、クロムの場合Cr(NO3)3・9H2O、鉄の場合Fe(NO3)3・9H2O、ニッケルの場合Ni(NO3)2・6H2Oなどの硝酸塩の水和物がある。また、バナジウムやロジウムの場合、安価に入手可能なVCl3 、RhCl3などの塩化物が好ましい。また、TiやSiは入手可能な可溶性化合物という理由から、金属アルコキシドを用いるとよい。金属アルコキシドは、ゾルゲル法でよく用いられる塩である。なお、Alも金属アルコキシドを用いてもよい。上記の塩は、水和物であっても構わない。入手可能な可溶性化合物であれば、いずれの塩でも構わない。
【0018】
そして、金属の塩やその水和物とキレート試薬とを溶媒の存在下、混合して混合液を得る。溶媒としては、イオン交換水、蒸留水、グリセリン, アルコール(特に、エタノール)とグリコール(特に、エチレングリコール 、プロピレングリコール)、標準的な有機溶媒(THF、 アセトン、トルエン)などがある。この中でも、取り扱いやすく、かつ、安価に入手可能という理由から、蒸留水やエタノールが望ましい。
また、キレート試薬は、溶液内の金属イオンとキレート錯体を形成する有機化合物であり、標準的な安全性の高いものとして、エチレンジアミン四酢酸、クエン酸、フィチン酸、グルコン酸などがある。キレート試薬により、ゾルゲル法の錯体重合法を用いて均一な複合金属酸化物の粉末を得ることができる。キレート試薬は、複数の金属の合計モル数の1倍から1.5倍のモル数とすればよい。
【0019】
一方、合金の構成元素数が多くなると(例えば6、7種類以上)、原料によっては水やアルコールなどの溶媒に不溶であるなど、全ての金属を溶解させた均一な溶液を得ることが難しい場合がある。その場合は、一部の金属(一種類が望ましい)については塩の代わりに微細な酸化物の粉末を懸濁させた懸濁液を調製するとよい(含浸法)。この場合、キレート試薬は不要であるが、例えば、酸化物の量が少なく均一な懸濁液の調製が困難な場合などでは、キレート試薬を使用するとよい。キレート試薬を使用することで、金属が均一に分散した前駆体が得られる効果がある。また、酸化物の粉末は、入手可能な可溶性化合物が限定的である元素を対象にする理由からSiO2やTiO2やCeO2等を用いるとよい。
【0020】
そして、混合液を乾燥、加熱することで、酸化物前駆体を得ることができる。加熱は、一段階で行ってもよいが、複数段階を経てもよい。例えば、低温で仮焼成した後に、焼成試料を乳鉢等内で乳棒等を用いて均一に粉砕混合し、その後、高温で本焼成することで、元素が均一に分散した酸化物前駆体が得られるため、好ましい。
加熱温度は、概ね300-800℃とするとよいが、金属元素以外の不純物(キレート試薬など)を燃焼により除去する、あるいは、金属元素が均一に分散した酸化物前駆体が得られるという理由から、400―600℃が好ましい。また、加熱時間は、加熱温度にもよるが、0.5―10時間程度、好ましくは3―6時間程度にするとよい。
【0021】
その後、酸化物前駆体と還元剤と溶融塩源とを混合し、不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウムなど)の存在下、加熱して還元することで、HEA粉末が得られる。なお、還元後に生成物を洗浄することで不純物(LiCl、CaCl2、CaH2、CaOなど)を除去できる。還元時の加熱温度は、溶融塩の種類によって異なるが、溶融温度以上の温度である必要があり、概ね300-1000℃、好ましくは550-800℃とするとよい。
また、先に溶融塩源を加熱して、溶けた状態で酸化物前駆体と還元剤とを加えてもよいし、溶融塩源と酸化物前駆体または還元剤を混合、加熱してから残りの還元剤または酸化物前駆体を加える方法でもよい。
溶融塩が、混合溶融塩の場合は、単独の溶融塩に比べて融点が低くなるため、例えば600℃未満の温度でも溶解する。溶融塩は溶媒として作用し、溶融塩中で、酸化物前駆体は還元剤により還元される。当該溶融塩還元法により、上述した物理的な方法(2000℃程度)に比べて、低温の温和な条件でHEA粉末を得ることができる。酸化物前駆体は溶融塩還元法によって還元の後すぐさま合金化し、金属状態を経由することで、大きい比表面積を有する、微粒子の合金粉末となる。加熱時間は、加熱温度にもよるが、0.5―10時間程度、好ましくは3―6時間程度にするとよい。加熱温度が低いと(例えば550℃程度)加熱時間を多くする必要があるが(例えば10時間程度)、加熱温度が高いと(例えば700-800℃程度)加熱時間を少なくできる(例えば2時間程度)。
【0022】
そして、還元剤には、水素化カルシウムや金属カルシウムや水素化マグネシウムや金属マグネシウムなどを用いるとよい。これらの還元剤は、溶融塩中で強力な還元作用を示すものである。還元剤は、単独で用いてもよいし、複数用いても良い。複数用いる場合は、予めそれらを混合するか、酸化物前駆体と溶融塩との混合時に別々に添加してもよい。
特に、CaH2は室温大気下で安定な粉末であり、比較的安全に取り扱えるので好ましい。CaH2を還元剤に用いる場合、CaH2が酸化物前駆体に含まれる酸素と反応してCaOになることを利用して、酸化物前駆体に含まれる酸素のモル数の等モル以上のCaH2を使用する。好ましくは、還元剤は、酸化物前駆体に対して、重量比で0.1―4倍、好ましくは1―2倍程度使用するとよい。
【0023】
溶融塩としては、アルカリ金属ハロゲン化物やアルカリ土類金属ハロゲン化物やこれらの混合物が用いられる。アルカリ金属ハロゲン化物としては、LiF、NaF、KF、RbF、CsF、LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl、LiBr、NaBr、KBr、RbBr、CsBr、LiI、NaI、KI、RbI、CsI等の化合物を使用することができる。そして、アルカリ土類金属ハロゲン化物としては、MgF2、CaF2、SrF2、BaF2、MgCl2、CaCl2、SrCl2、BaCl2、MgBr2、CaBr2、SrBr2、BaBr2、MgI2、CaI2、SrI2、BaI2等の化合物を使用することができる。
【0024】
上記化合物は単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。また、これらの化合物の組み合わせ、及び組み合わせる化合物の数、混合比等も限定されることはなく、大気下において安定で扱いやすい、あるいは、安価に入手可能であることに応じて適宜選択することができる。この他にも、AlCl3、ZnCl2など、比較的卑な金属のハロゲン化物であっても使用することができる。
【0025】
特に、本実施形態において使用される溶融塩は、LiCl、CaCl2などの単独の溶融塩やLiCl及びKClの混合溶融塩、LiCl及びCaCl2の混合溶融塩を用いるのが好ましい。また、単独の溶融塩よりも、混合溶融塩の方が、融点が低くなるため、低温で反応を起こすことができる。したがって、合金が形成される温度が低い場合は(例えば、遷移金属酸化物などの還元されやすい酸化物を原料に含むもの)、混合溶融塩を用いることが好ましい。例えば、LiCl及びCaCl2の混合溶融塩の融点は、470℃であることから、550℃程度の低温でも反応させることができる。
【0026】
上記方法により作製したHEAは、大きい比表面積を有する、微粒子の合金粉末である。このような合金粉末は、形状記憶合金として、医療器具や構造材料の他、3D金属プリンターの造形用の材料や、触媒材料などの種々の利用が想定される。例えば、形状記憶合金や3D金属プリンターに用いる場合、非常に小さい微粒子であるという特長を生かして、複雑な形状の材料や型の製造が可能となる。そして、このHEAは大きい比表面積を有することから、特に、触媒材料としては、触媒自体または担体として利用できる。例えば、AlCoCrFeNiV、CrMnFeCoNi、AlCoCrFeNi、CoFeNiTiCr、CoFeNiTiV、Al0.2Co1.5CrFeNi1.5Ti0.5などのHEA粉末は、主に高強度や耐食性や耐熱性などが必要とされる構造材料として使用されているものであるが、CrMnFeCoNiは下記(C)の反応でも触媒として利用されており、これらのHEA粉末は液相での水素化反応の触媒として利用できるものである。また、これらのHEA粉末は、HEA粉末自体が触媒として機能するものであるが、触媒担体として利用しても良い。
【0027】
例えば、液相での水素化反応の例として、以下に示す。
(A)アルケン(二重結合)やアルキン(三重結合)のアルカンへの変換
(B)ベンジル基の脱保護(アルコールと保護基であるベンジル基の化合物を水素化により、ベンジル基を外してアルコールを得る。)
(C)ニトロ基やイミンを水素化し、アミンを得る。
(D)芳香族ハロゲンの水素化による、脱ハロゲン化反応
(E)アルデヒドやケトンの水素化による、アルコールまたはメチレンの合成
また、(Ti0.5Zr0.5)(Cr0.25Mn0.25Fe0.25Ni0.25)2は、触媒の担体として、Ni、Pd、Ptなどの水素化用金属触媒を担持させることで、液相での水素化反応の触媒として利用できる。この合金がそれ自体は触媒とならない理由は、以下のように考えられる。この合金は、TiとZrを含んでいるが、これらの元素は周期律表の左側に位置し、酸素との相互作用が強く、酸化皮膜を形成しやすい。このことから、構成元素のCr、Mn、Fe、Niの活性な遷移金属が表面に露出しにくいことがいえる。
そして、特に、有機合成において、(C)のニトロ基の水素化は一般的な反応であり、汎用性が高い応用用途である。例えば、p-ニトロフェノールからp-アミノフェノールへの水素化反応があり、還元剤としては、NaBH4、水素ガス、LiAlH4等が使用される。
【0028】
さらに、上記方法により、CeMnFeCoNiZn、(La0.2Ce0.2Pr0.2Nd0.2Sm0.2)MnFeCoNiZn、(Y0.2La0.2Ce0.2Pr0.2Nd0.2)Ga2Ni3等の新規なHEAも作製できる。これらのHEAは、希土類元素(Ce、Ln、Pr、Nd、Sm、Y)を含んでおり、上記した(Ti0.5Zr0.5)(Cr0.25Mn0.25Fe0.25Ni0.25)2よりもさらに塩基性金属の性質を有するものである。また、大きい比表面積を有する。したがって、触媒あるいは塩基性の担体としての利用が可能である。すなわち、(Ti0.5Zr0.5)(Cr0.25Mn0.25Fe0.25Ni0.25)2と同様に、CeMnFeCoNiZn、(La0.2Ce0.2Pr0.2Nd0.2Sm0.2)MnFeCoNiZn、(Y0.2La0.2Ce0.2Pr0.2Nd0.2)Ga2Ni3等の新規なHEAを触媒担体として利用することができる。また、その場合、塩基性金属の性質が強いことから、塩基性金属を含む担体としての応用が好適である。例えば、Niなどの水素化用金属触媒を担持させることで、上記液相での水素化反応の他に、一酸化炭素あるいは二酸化炭素の水素化による炭化水素あるいは含酸素炭化水素の合成に適用できるといえる。例えば、一酸化炭素の水素化によるメタン合成に適用できる。
【0029】
さらに、上記方法により、IrPdPtRhRu、IrRhRuCoNi、AuPdPtRhRu、IrNiPtRhCo、RuRhPdAgIrPtAu等の貴金属を含むHEAも作製できる。これらのHEA粉末は、電極触媒として使用されており、例えばアンモニアの電気分解の触媒として利用できる。また、これらのHEA粉末は、HEA粉末自体が触媒として機能する。
なお、貴金属(Ir、Pd、Pt、Rh、Ru、Auなど)は安定なため、溶融塩還元法において500℃程度で焼成しても酸化物になりにくい場合がある。そこで、貴金属を含むHEAの作製には、原料にCa(NO3)2やCaCl2 、(CH3COO) 2Caなどのカルシウム塩を適量(例えば、Ca=30mol%)加えて焼成すると、CaOと貴金属の複合酸化物(あるいはCaO中に貴金属が分散した化合物)が得られ、酸化物前駆体の粉体が得られやすくなるので、好ましい。なお、添加したCaは、最終工程のNH4Cl水溶液などの洗浄液で洗浄すれば、除去されるため、合金中に残ることはない。
【0030】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【実施例0031】
(実施例1)
蒸留水中にAl(NO3)3・9H3O(富士和光純薬株式会社製、純度99%)、Co(NO3)3・6H2O(富士和光純薬株式会社製、純度98%)、Cr(NO3)3・9H2O(ナカライテスク株式会社製、純度98%)、Fe(NO3)3・9H2O(富士和光純薬株式会社製、純度99%)、Ni(NO3)2・6H2O(富士和光純薬株式会社製、純度99.9%)、VCl3(メルク社製、純度97%)、クエン酸(富士和光純薬株式会社製)を、モル比で Al/Co/Cr/Fe/Ni/V/クエン酸 =1/1/1/1/1/1/7.2の割合になるように溶解し、ホットプレート上で蒸発乾固させた。その後、250℃で2時間仮焼成した。焼成試料を、乳鉢内で乳棒を用いて砕いて混合し、粉状に粒度をほぼ均一にしてから再度500℃で2時間焼成することで酸化物前駆体(AlCoCrFeNiV(Pre))を得た。得られた酸化物前駆体とCaH2(ナカライテスク株式会社製)とLiCl-CaCl2(富士和光純薬株式会社製、モル比1:1)とを重量比で2/6/3の割合で混合し、SUS製の管状炉内において(他の実施例においても同様)、アルゴン雰囲気下、550℃(還元温度)で10時間加熱することで溶融塩還元した。なお、LiClとCaCl2の混合溶融塩源は、乳鉢内で乳棒を用いて混合することで調製した。
そして、最後に、0.1MのNH4Cl水溶液および蒸留水で生成物を洗浄することで不純物(LiCl、CaCl2、CaH2、CaOなど)を除去し、HEA粉末AlCoCrFeNiVを得た。なお、以下の実施例において、特に断り書きのない限り、実施例1と同様の方法および条件でHEA粉末を作製した。また、共通する化合物は同じ試薬を用いた。
【0032】
図1には、HEA粉末のX線回折パターンおよびSEM画像を示す。X線回折パターンは、X線回折装置(株式会社リガク製、Mini Flex 600)を用いて、下記条件により測定した。
条件:X線源 CuKα、出力 40KV、15mA
また、SEM画像は、走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-7800F)により測定した。
図1からも、単一のBCC構造が確認され、単一相の固溶体合金であることがいえる。また、SEM画像から、1-10μmやそれ以下の微粒子からなる微細構造が確認された。そして、窒素吸着実験によりBET比表面積を求めたところ、比表面積は33.4m
2/gであった。この結果から、得られたHEA粉末は、微細な構造を有しているといえる。なお、窒素吸着実験は、不活性ガス流通下200℃で30分間サンプルを乾燥させた後に液体窒素温度において窒素の吸着量を測定した。
【0033】
(実施例2)
蒸留水中にCr(NO
3)
3・9H
2O、Mn(NO
3)
2・6H
2O(富士和光純薬株式会社製)、Fe(NO
3)
3・9H
2O、Co(NO
3)
2・6H
2O、Ni(NO
3)
2・6H
2O、クエン酸を、モル比で Cr/Mn/Fe/Co/Ni/クエン酸 =1/1/1/1/1/7.2の割合になるように溶解し、ホットプレート上で蒸発乾固させた。その後、250℃で2時間仮焼成した。焼成試料を砕いて、粒度をほぼ均一にしてから再度500℃で2時間焼成することで酸化物前駆体(CrMnFeCoNi(Pre))を得た。得られた酸化物前駆体とCaH
2とLiClとをモル比で2/6/3の割合で混合し、窒素雰囲気下において700℃で2時間加熱することで溶融塩還元した。最後に、0.1MのNH
4Cl水溶液および蒸留水で生成物を洗浄することで不純物を除去し、HEA粉末CrMnFeCoNiを得た。
図2には、HEA粉末のX線回折パターンおよびSEM画像を示す。
図2から、単一のFCC構造が確認され、単一相の固溶体合金であることがいえる。また、SEM画像から、1-10μmやそれ以下の微粒子からなる微細構造が確認された。そして、比表面積は12.1m
2/gであった。この結果から、得られたHEA粉末は、微細な構造を有しているといえる。なお、上記X線回折パターン、SEM画像、比表面積等は、実施例1と同様の方法および条件で測定した。このことは以下の実施例においても共通する。
【0034】
(実施例3)
蒸留水中にAl(NO
3)
3・9H
2O、Co(NO
3)
2・6H
2O、Cr(NO
3)
3・9H
2O、Fe(NO
3)
3・9H
2O、Ni(NO
3)
2・6H
2O、クエン酸を、モル比で Al/Co/Cr/Fe/Ni/クエン酸 =1/1/1/1/1/7.2の割合になるように溶解し、ホットプレート上で蒸発乾固させた。その後、250℃で2時間仮焼成した。焼成試料を砕いて、粒度をほぼ均一にしてから再度500℃で2時間焼成することで酸化物前駆体(AlCoCrFeNi(Pre))を得た。得られた酸化物前駆体とCaH
2とLiCl-CaCl
2とをモル比で2/6/3の割合で混合し、アルゴン雰囲気下において550℃で10時間加熱することで溶融塩還元した。最後に、0.1MのNH
4Cl水溶液および蒸留水で生成物を洗浄することで不純物を除去し、HEA粉末AlCoCrFeNiを得た。
図3には、HEA粉末のX線回折パターンおよびSEM画像を示す。
図3から、単一のBCC構造が確認され、単一相の固溶体合金であることがいえる。また、SEM画像から、1-10μmやそれ以下の微粒子からなる微細構造が確認された。そして、比表面積は67.5m
2/gであった。この結果から、得られたHEA粉末は、微細な構造を有しているといえる。
【0035】
(実施例4-5)
エタノール中にCo(NO3)2・6H2O、Fe(NO3)3・9H2O、Ni(NO3)2・6H2O、[(CH3)2CHO]4Ti](富士和光純薬株式会社製)、Cr(NO3)3・9H2O、VCl3、クエン酸を、モル比で Co/Fe/Ni/Ti/CrまたはV/クエン酸 =1/1/1/1/1/6の割合になるようにホットプレート上で溶解し、65℃の乾燥器内で蒸発乾固させた。その後、250℃で2時間仮焼成した。焼成試料を砕いて、粒度をほぼ均一にしてから再度500℃で2時間焼成することで酸化物前駆体(CoFeNiTiCr(Pre)またはCoFeNiTiV(Pre))を得た。得られた酸化物前駆体とCaH2とLiClとをモル比で2/6/3の割合で混合し、窒素雰囲気下において800℃で2時間加熱することで溶融塩還元した。最後に、0.1MのNH4Cl水溶液および蒸留水で生成物を洗浄することで不純物を除去し、HEA粉末CoFeNiTiCr(実施例4)、HEA粉末CoFeNiTiV(実施例5)を得た。
【0036】
図4-5には、HEA粉末のX線回折パターンおよびSEM画像を示す。実施例4では、
図4から、単一のFCC構造が確認され、単一相の固溶体合金であることがいえる。また、SEM画像から、1-10μmやそれ以下の微粒子からなる微細構造が確認された。そして、比表面積は23.1m
2/gであった。この結果から、得られたHEA粉末は、微細な構造を有しているといえる。さらに、実施例5では、
図5から、単一のFCC構造が確認され、単一相の固溶体合金であることがいえる。また、SEM画像から、1-10μmやそれ以下の微粒子からなる微細構造が確認された。そして、比表面積は22.1m
2/gであった。この結果から、得られたHEA粉末は、微細な構造を有しているといえる。
【0037】
(実施例6)
蒸留水中にAl(NO
3)
3・9H
2O、Co(NO
3)
2・6H
2O、Cr(NO
3)
3・9H
2O、Fe(NO
3)
3・9H
2O、Ni(NO
3)
2・6H
2O、TiCl
4、クエン酸を、モル比で Al/Co/Cr/Fe/Ni/Ti/クエン酸 =0.2/1.5/1/1/1.5/0.5/7.2の割合になるように溶解し、ホットプレート上で蒸発乾固させた。その後、250℃で2時間仮焼成した。焼成試料を砕いて、粒度をほぼ均一にしてから再度500℃で2時間焼成することで酸化物前駆体(Al
0.2Co
1.5CrFeNi
1.5Ti
0.5(Pre))を得た。得られた酸化物前駆体とCaH
2とLiClとをモル比で2/6/3の割合で混合し、窒素雰囲気下において600℃で2時間加熱することで溶融塩還元した。最後に、0.1MのNH
4Cl水溶液および蒸留水で生成物を洗浄することで不純物を除去し、HEA粉末Al
0.2Co
1.5CrFeNi
1.5Ti
0.5を得た。また、還元温度を800℃(加熱時間は2時間)とした場合においても、同様にHEA粉末Al
0.2Co
1.5CrFeNi
1.5Ti
0.5を得た。
図6には、HEA粉末のX線回折パターンおよびSEM画像を示す。
図6から、還元温度が600℃(
図6(A))、800℃(
図6(B))においても単一のFCC構造が確認され、単一相の固溶体合金であることがいえる。また、SEM画像から、1-10μmやそれ以下の微粒子からなる微細構造が確認された。そして、比表面積は91.7m
2/g(600℃)、13.6m
2/g(800℃)であった。この結果から、得られたHEA粉末は、微細な構造を有しているといえる。
【0038】
(実施例7)
蒸留水中にTiO
2(堺化学工業株式会社製)、ZrO(NO
3)
2・2H
2O(富士和光純薬株式会社製)、Cr(NO
3)
3・9H
2O、Mn(NO
3)
2・6H
2O、Fe(NO
3)
3・9H
2O、Ni(NO
3)
2・6H
2O、クエン酸を、モル比で Ti/Zr/Cr/Mn/Fe/Ni/クエン酸=1/1/1/1/1/1/7.2の割合になるように溶解し、ホットプレート上で蒸発乾固させた。その後、250℃で2時間仮焼成した。焼成試料を砕いて、粒度をほぼ均一にしてから再度500℃で2時間焼成することで酸化物前駆体((Ti
0.5Zr
0.5)(Cr
0.25Mn
0.25Fe
0.25Ni
0.25)
2(Pre))を得た。得られた酸化物前駆体とCaH
2とLiClとをモル比で2/6/3の割合で混合し、窒素雰囲気下において800℃で2時間加熱することで溶融塩還元した。最後に、0.1MのNH
4Cl水溶液および蒸留水で生成物を洗浄することで不純物を除去し、HEA粉末(Ti
0.5Zr
0.5)(Cr
0.25Mn
0.25Fe
0.25Ni
0.25)
2(組成はTiZrCrMnFeNi)を得た。
図7には、HEA粉末のX線回折パターンおよびSEM画像を示す。
図7から、六方最密充填構造が確認され、金属間化合物を形成していることがいえる。XRD測定結果より、作製した(Ti
0.5Zr
0.5)(Cr
0.25Mn
0.25Fe
0.25Ni
0.25)
2は、TiCr
2と同様の六方晶系の結晶構造を有しており、混合エントロピー項の寄与により安定化された単一相の金属間化合物が形成している。また、SEM画像から、1-10μmやそれ以下の微粒子からなる微細構造が確認された。そして、比表面積は22.5m
2/gであった。この結果から、得られたHEA粉末は、微細な構造を有しているといえる。
【0039】
(実施例8)
蒸留水中にCe(NO
3)
3・6H
2O(富士和光純薬株式会社製)、Mn(NO
3)
2·6H2O、Fe(NO
3)
3・9H
2O、Co(NO
3)
2・6H
2O、Ni(NO
3)
2・6H
2O、Zn(NO
3)
2・6H
2O(富士和光純薬株式会社製)、クエン酸を、モル比で Ce/Mn/Fe/Co/Ni/Zn/クエン酸 =1/1/1/1/1/1/7.2の割合になるように溶解し、ホットプレート上で蒸発乾固させた。その後、250℃で2時間仮焼成した。焼成試料を砕いて、粒度をほぼ均一にしてから再度500℃で2時間焼成することで酸化物前駆体(CeMnFeCoNiZn(Pre))を得た。得られた酸化物前駆体とCaH
2とLiClとをモル比で2/6/3の割合で混合し、窒素雰囲気下において800℃で2時間加熱することで溶融塩還元した。最後に、0.1MのNH
4Cl水溶液および蒸留水で生成物を洗浄することで不純物を除去し、新規なHEA粉末CeMnFeCoNiZnを得た。
図8には、HEA粉末のX線回折パターンおよびSEM画像を示す。
図8から、単一のFCC構造が確認され、単一相の固溶体合金であることがいえる。また、比表面積は51.2m
2/gであった。この結果から、得られたHEA粉末は、微細な構造を有しているといえる。
【0040】
(実施例9)
蒸留水中にLa(NO
3)
3・6H
2O(富士和光純薬株式会社製)、Ce(NO
3)
3・6H
2O、Pr(NO
3)
3・nH
2O(富士和光純薬株式会社製)、Nd(NO
3)
3・6H
2O(富士和光純薬株式会社製)、Sm(NO
3)
3・6H
2O(富士和光純薬株式会社製)、Mn(NO
3)
2·6H
2O、Fe(NO
3)
3·9H
2O、Co(NO
3)
2・6H
2O、Ni(NO
3)2・6H
2O、Zn(NO
3)
2・6H
2O、クエン酸を、モル比で La/Ce/Pr/Nd/Sm/Mn/Fe/Co/Ni/Zn/クエン酸 =0.2/0.2/0.2/0.2/0.2/1/1/1/1/1/7.2の割合になるように溶解し、ホットプレート上で蒸発乾固させた。その後、250℃で2時間仮焼成した。焼成試料を砕いて、粒度をほぼ均一にしてから再度500℃で2時間焼成することで酸化物前駆体((La
0.2Ce
0.2Pr
0.2Nd
0.2Sm
0.2)MnFeCoNiZn(Pre))を得た。得られた酸化物前駆体とCaH
2とLiClとをモル比で2/6/3の割合で混合し、窒素雰囲気下において800℃で2時間加熱することで溶融塩還元した。最後に、0.1MのNH
4Cl水溶液および蒸留水で生成物を洗浄することで不純物を除去し、新規なHEA粉末(La
0.2Ce
0.2Pr
0.2Nd
0.2Sm
0.2)MnFeCoNiZnを得た。
図9には、HEA粉末のX線回折パターンおよびSEM画像を示す。
図9から、単一のFCC構造が確認され、単一相の固溶体合金であることがいえる。また、比表面積は25.8m
2/gであった。この結果から、得られたHEA粉末は、微細な構造を有しているといえる。
【0041】
(実施例10)
蒸留水中にY(NO
3)
3・nH
2O(富士和光純薬株式会社製)、La(NO
3)
3・6H
2O、CeO
2(メルク社製)、Pr(NO
3)
3・nH
2O(富士和光純薬株式会社製)、Nd(NO
3)
3・6H
2O、Ga(NO
3)
3・nH
2O(富士和光純薬株式会社製)、Ni(NO
3)
2・6H
2O、クエン酸を、モル比でY/La/Ce/Pr/Nd/Ga/Ni/クエン酸=0.2/0.2/0.2/0.2/0.2/2/3/7.2の割合になるように溶解し、ホットプレート上で蒸発乾固させた。その後、250℃で2時間仮焼成した。焼成試料を砕いて、粒度をほぼ均一にしてから再度500℃で2時間焼成することで酸化物前駆体((Y
0.2La
0.2Ce
0.2Pr
0.2Nd
0.2)Ga
2Ni
3(Pre))を得た。得られた酸化物前駆体とCaH
2とLiClとをモル比で2/6/3の割合で混合し、アルゴン雰囲気下において600℃で2時間加熱することで溶融塩還元した。最後に、0.1MのNH
4Cl水溶液および蒸留水で生成物を洗浄することで不純物を除去し、新規なHEA粉末(Y
0.2La
0.2Ce
0.2Pr
0.2Nd
0.2)Ga
2Ni
3を得た。
図10には、HEA粉末のX線回折パターンおよびSEM画像を示す。
図10から、六方最密充填構造が確認され、金属間化合物を形成していることがいえる。また、比表面積は19.9m
2/gであった。この結果から、得られたHEA粉末は、微細な構造を有しているといえる。また、LnGa
2Ni
3(Ln=La、Ce、Pr、Nd)のヘルマン・モーガン記号と空間群番号はP62mと189であり、XRD測定結果より、作製した(Y
0.2La
0.2Ce
0.2Pr
0.2Nd
0.2)Ga
2Ni
3は、LnGa
2Ni
3と同様のP62mと189を有する単一相の結晶構造を有しており、混合エントロピー項の寄与により安定化された単一相の金属間化合物が形成している。
【0042】
(実施例11)
蒸留水中にIrCl
3・nH
2O(東京化成工業株式会社製)、(NH
4)
2PdCl
4(富士和光純薬株式会社製)、H
2PtCl
6・6H
2O(富士和光純薬株式会社製)、RhCl
3(田中貴金属工業株式会社製)、RuCl
3・nH
2O(富士和光純薬株式会社製)、Ca(NO
3)
2・4H
2O(富士和光純薬株式会社製、30mol%を添加)、クエン酸を、モル比で Ir/Pd/Pt/Rh/Ru/クエン酸=1/1/1/1/1/7.2の割合になるように溶解し、ホットプレート上で蒸発乾固させた。その後、250℃で2時間仮焼成した。焼成試料を砕いて、粒度をほぼ均一にしてから再度500℃で2時間焼成することで酸化物前駆体(IrPdPtRhRu(Pre))を得た。得られた酸化物前駆体とCaH
2とLiClとをモル比で2/6/3の割合で混合し、アルゴン雰囲気下において600℃で2時間加熱することで溶融塩還元した。最後に、0.1MのNH
4Cl水溶液および蒸留水で生成物を洗浄することで不純物を除去し、HEA粉末IrPdPtRhRuを得た。
図11には、HEA粉末のX線回折パターンおよびSEM画像を示す。
図11から、単一のFCC構造が確認され、単一相の固溶体合金であることがいえる。また、比表面積は32.6m
2/gであった。この結果から、得られたHEA粉末は、微細な構造を有しているといえる。
【0043】
(実施例12)
蒸留水中にIrCl
3・nH
2O、RhCl
3(田中貴金属工業株式会社製)、RuCl
3・nH
2O(富士和光純薬株式会社製)、Co(NO
3)
2・6H
2O、Ni(NO
3)
2・6H
2O、Ca(NO
3)
2・4H
2O、クエン酸を、モル比でIr/Rh/Ru/Co/Ni/クエン酸=1/1/1/1/1/7.2の割合になるように溶解し、ホットプレート上で蒸発乾固させた。その後、250℃で2時間仮焼成した。焼成試料を砕いて、粒度をほぼ均一にしてから再度500℃で2時間焼成することで酸化物前駆体(IrRhRuCoNi(Pre))を得た。得られた酸化物前駆体とCaH
2とLiClとをモル比で2/6/3の割合で混合し、アルゴン雰囲気下において600℃で2時間加熱することで溶融塩還元した。最後に、0.1MのNH
4Cl水溶液および蒸留水で生成物を洗浄することで不純物を除去し、HEA粉末IrRhRuCoNiを得た。
図12には、HEA粉末のX線回折パターンおよびSEM画像を示す。
図12から、単一のFCC構造が確認され、単一相の固溶体合金であることがいえる。また、比表面積は69.9m
2/gであった。この結果から、得られたHEA粉末は、微細な構造を有しているといえる。
【0044】
(実施例13)
蒸留水中にHAuCl
4・4H
2O(富士和光純薬株式会社製)、(NH
4)
2PdCl
4(富士和光純薬株式会社製)、H
2PtCl
6・6H
2O(富士和光純薬株式会社製)、RhCl
3、RuCl
3・nH
2O、Ca(NO
3)
2・4H
2O、クエン酸を、モル比でAu/Pd/Pt/Rh/Ru/クエン酸=1/1/1/1/1/7.2の割合になるように溶解し、ホットプレート上で蒸発乾固させた。その後、250℃で2時間仮焼成した。焼成試料を砕いて、粒度をほぼ均一にしてから再度500℃で2時間焼成することで酸化物前駆体(AuPdPtRhRu(Pre))を得た。得られた酸化物前駆体とCaH
2とLiClとをモル比で2/6/3の割合で混合し、アルゴン雰囲気下において600℃で2時間加熱することで溶融塩還元した。最後に、0.1MのNH
4Cl水溶液および蒸留水で生成物を洗浄することで不純物を除去し、HEA粉末AuPdPtRhRuを得た。
図13には、HEA粉末のX線回折パターンおよびSEM画像を示す。
図13から、単一のFCC構造が確認され、単一相の固溶体合金であることがいえる。また、比表面積は50.2m
2/gであった。この結果から、得られたHEA粉末は、微細な構造を有しているといえる。
【0045】
(実施例14)
蒸留水中にIrCl
3・nH
2O、Ni(NO
3)
2・6H
2O、H
2PtCl
6・6H
2O、RhCl
3・3H
2O、Co(NO
3)
2・6H
2O、Ca(NO
3)
2・4H
2O、クエン酸を、モル比でIr/Ni/Pt/Rh/Co=1/1/1/1/1/7.2の割合になるように溶解し、ホットプレート上で蒸発乾固させた。その後、250℃で2時間仮焼成した。焼成試料を砕いて、粒度をほぼ均一にしてから再度500℃で2時間焼成することで酸化物前駆体(IrNiPtRhCo(Pre))を得た。得られた酸化物前駆体とCaH
2とLiClとをモル比で2/6/3の割合で混合し、アルゴン雰囲気下において600℃で2時間加熱することで溶融塩還元した。最後に、0.1MのNH
4Cl水溶液および蒸留水で生成物を洗浄することで不純物を除去し、HEA粉末IrNiPtRhCoを得た。
図14には、HEA粉末のX線回折パターンおよびSEM画像を示す。
図14から、単一のFCC構造が確認され、単一相の固溶体合金であることがいえる。また、比表面積は25.5m
2/gであった。この結果から、得られたHEA粉末は、微細な構造を有しているといえる。
【0046】
(実施例15)
蒸留水中にRuCl
3-nH
2O、RhCl
3・3H
2O、(NH
4)
2PdCl
4、AgNO
3(富士和光純薬株式会社製)、IrCl
3·nH
2O、H
2PtCl
6・6H
2O、HAuCl
4・4H
2O、Ca(NO
3)
2・4H
2O、クエン酸を、モル比でRu/Rh/Pd/Ag/Ir/Pt/Au=1/1/1/1/1/1/1/7.2の割合になるように溶解し、ホットプレート上で蒸発乾固させた。その後、250℃で2時間仮焼成した。焼成試料を砕いて、粒度をほぼ均一にしてから再度500℃で2時間焼成することで酸化物前駆体(RuRhPdAgIrPtAu(Pre))を得た。得られた酸化物前駆体とCaH
2とLiClとをモル比で2/6/3の割合で混合し、アルゴン雰囲気下において600℃で2時間加熱することで溶融塩還元した。最後に、0.1MのNH
4Cl水溶液および蒸留水で生成物を洗浄することで不純物を除去し、HEA粉末RuRhPdAgIrPtAuを得た。
図15には、HEA粉末のX線回折パターンおよびSEM画像を示す。
図15から、単一のFCC構造が確認され、単一相の固溶体合金であることがいえる。また、比表面積は34.2m
2/gであった。この結果から、得られたHEA粉末は、微細な構造を有しているといえる。
【0047】
表1には、上記実施例1-15で作製したHEA粉末についてまとめた結果を示す。
【表1】
上記結果から、各金属元素の塩やその水和物の酸化物前駆体を、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む溶融塩中で水素化カルシウム(CaH
2)やカルシウムなどを還元剤に用いて加熱、還元するという簡便な方法により、概ね比表面積10m
2/gや20m
2/g以上の大きい比表面積を有する、概ね1-10μm以下の微粒子の合金粉末が得られることが確認された。
このように、本実施例のHEA粉末によれば、微細加工が要求される構造材料や3D金属プリンターにも適用できるものである。また、大きい比表面積や微粒子であることが要求される触媒材料としても好適である。以下に、実施例1-7で得られたHEA粉末を、ニトロ基の水素化によるアミンの合成反応の触媒として用いた例を示す。
【0048】
(実施例16)
実施例1-6で得られたHEA粉末をp-ニトロフェノールからp-アミノフェノールへの水素化反応に用いて、HEA触媒活性を評価した。p-ニトロフェノール(極大吸収波長:401nm)は水素化反応によりp-アミノフェノール(極大吸収波長:303nm)へ変化する。
ガラス管にHEA粉末(100mg)、14mMのp-ニトロフェノール溶液1mL、0.42MのNaBH
4溶液1mL、蒸留水7mLを加えて加熱し、水素化反応を開始した。なお、反応温度(加熱温度)は各HEA粉末に応じて、約20-60℃の範囲内で設定した。上記実験の方法および条件は、全ての実施例において共通するものであるが、実施例1-3では、複数の反応温度で実施し、実施例4-6では、反応温度を50℃で実施した。なお、HEA粉末はp-ニトロフェノールに対して、重量比で1-500倍、好ましくは10-100倍程度加えるとよい。
反応開始から一定時間毎にガラス管から試験液を100-500μL分取し5mLメスフラスコで(蒸留水を加えて)希釈した後、UV-Vis分光光度計(株式会社島津製作所製、UV-1280)を用いて300-500nmの吸光度を測定し、p-ニトロフェノールおよびp-アミノフェノールの濃度変化を測定した。その結果を
図16-21に示す。
図16-21はそれぞれ実施例1-6に対応しているものである。
【0049】
これらの結果から、HEA触媒によってp-ニトロフェノールの水素化反応が進行したことが示された。また、実施例1-3で得られたHEA粉末においては、どの温度においても活性効果が認められ、特に高温になるにつれ濃度が大きく減少しており、反応速度が向上することが確認された。そして、概ね10-30分程度の短時間でp-ニトロフェノールのほぼ全てまたは大部分がp-アミノフェノールに変換したことが分かった。
そして、これらの結果から、得られたHEA触媒が優れた液相水素化活性を示すことが確認された。不均一系触媒反応においては、触媒の表面で反応が進行する。そのため、高い比表面積を有する触媒の利用が好ましい。本実施例で得られたHEA触媒の高い比表面積が水素化反応に有効に作用している結果が示された。特に、最も比表面積が大きい600℃で還元して得られたAl
0.2Co
1.5CrFeNi
1.5Ti
0.5触媒(実施例6)が最も早い反応速度を示したことから(
図21)、Al
0.2Co
1.5CrFeNi
1.5Ti
0.5が好適であるといえる。また、AlCoCrFeNi(実施例3、
図18)においても、3分以内にほぼ全量が反応したことから、好ましいといえる。特に実施例3では、反応温度が比較的低くても(38℃)、良好な結果となった。
【0050】
また、実施例7で得られたHEA粉末は、10wt%のNiを担持させたNi担持触媒として、HEA触媒活性を評価した。Ni担持触媒は、以下の方法により作製した。
蒸留水中に実施例7で得られたHEA粉末((Ti0.5Zr0.5)(Cr0.25Mn0.25Fe0.25Ni0.25)2)を懸濁させ、その後、Ni(NO3)2・6H2Oを、重量比でHEA/Ni=9/1の割合になるように溶解し、ホットプレート上で蒸発乾固させた。その後、アルゴン流通下500℃で1時間加熱して、10wt%のNiを担持させたNi担持触媒を得た。
【0051】
そして、Ni担持触媒(100mg)および実施例7で得られたHEA粉末(100mg)についても、実施例1-6で得られたHEA粉末と同様の方法および条件で、HEA触媒活性を評価した(反応温度は50℃)。その結果を
図22に示す。この結果から、HEA粉末のみでは触媒活性はほとんどみられなかったが、Ni担持触媒とすることで、短い反応時間で良好な触媒活性が確認できた。
【0052】
(実施例17)
実施例8-15で得られたHEA粉末の結晶子径を、各XRD測定結果から、シェラー式を用いて算出した結果を表2に示す。
【表2】
【0053】
表2からも、実施例8-15で得られたHEA粉末は、ナノサイズの微粒子の合金粉末であることがいえる。そして、実施例8-10で得られたHEA粉末は、大きい比表面積やナノサイズの微粒子が要求される触媒材料としても好適である。なお、実施例11-15で得られたHEA粉末については、算出限界が3-5nm付近であり、定量的な結晶子径は明確に示せないが、幅が広いピークがXRDにおいて観測されていることから、5nmよりも小さい結晶子が形成していることは明確である。そして、実施例11-15で得られたHEA粉末は、アンモニアの電気分解の触媒などの電極触媒として利用できるものである。