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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036138
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】熱化学電池用電極
(51)【国際特許分類】
   H01M 14/00 20060101AFI20240308BHJP
【FI】
H01M14/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140881
(22)【出願日】2022-09-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/体温でIoTデバイスを駆動する熱化学電池の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】郷田 隼
(72)【発明者】
【氏名】高松 雄輝
(72)【発明者】
【氏名】小野 博信
(72)【発明者】
【氏名】鴻巣 修
(72)【発明者】
【氏名】平田 和久
(72)【発明者】
【氏名】桐原 和大
(72)【発明者】
【氏名】衛 慶碩
(72)【発明者】
【氏名】向田 雅一
【テーマコード(参考)】
5H032
【Fターム(参考)】
5H032AA08
5H032AS06
5H032BB06
5H032HH04
(57)【要約】
【課題】高効率な熱化学電池を得るための方法を提供する。
【解決手段】電極基板、酸化グラフェン層、及び、導電性高分子層をこの順で有することを特徴とする熱化学電池用電極。また、本発明の熱化学電池用電極を含んで構成されることを特徴とする熱化学電池。更に、電極基板に、酸化グラフェン水分散液を接触させて酸化グラフェン層を形成する工程、及び、該酸化グラフェン層上に、導電性高分子溶液を塗布して導電性高分子層を形成する工程を含むことを特徴とする熱化学電池用電極の製造方法。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極基板、酸化グラフェン層、及び、導電性高分子層をこの順で有することを特徴とする熱化学電池用電極。
【請求項2】
前記電極基板は、耐屈曲半径が10mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱化学電池用電極。
【請求項3】
前記電極基板は、水の接触角が40°以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱化学電池用電極。
【請求項4】
前記酸化グラフェン層は、その平均厚みが1~5nmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱化学電池用電極。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の熱化学電池用電極を含んで構成されることを特徴とする熱化学電池。
【請求項6】
電極基板に、酸化グラフェン水分散液を接触させて酸化グラフェン層を形成する工程、及び、該酸化グラフェン層上に、導電性高分子溶液を塗布して導電性高分子層を形成する工程を含むことを特徴とする熱化学電池用電極の製造方法。
【請求項7】
前記酸化グラフェン層を形成する工程で得られた酸化グラフェン層を水洗する工程を更に含むことを特徴とする請求項6に記載の熱化学電池用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱化学電池用電極に関する。より詳しくは、熱化学電池用電極、熱化学電池、熱化学電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の消費はますます加速しており、再生可能資源由来のエネルギー生産の増加が強く望まれている。このような状況下、体温や排熱等の熱エネルギーから電気エネルギーを生成できる熱化学電池が注目され、種々の研究がなされている。
【0003】
例えば非特許文献1では、フェリシアン/フェロシアン水溶液中にグアニジニウム及び尿素を添加した電解質を用いることにより、高いゼーベック係数を有する熱化学電池が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Duan, J. et al. Aqueous thermogalvanic cells with a high See beck coefficient for low-grade heat harvest. Nature communications, 2018, 9, 514
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱化学電池に用いられる電極(特に、フレキシブル電極)は、電解質との接触抵抗(界面抵抗とも言う)が大きく、そのままでの使用が困難であった。また、界面抵抗(すなわち界面抵抗率)を小さくする目的で導電性高分子を電極上に製膜することが考えられるが、親水性である導電性高分子を、疎水性の電極上に製膜することが困難であった(例えば、図2参照)。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものでもあり、高効率な熱化学電池を得るための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、高効率な熱化学電池を得るための方法について種々検討し、電極基板、酸化グラフェン層、及び、導電性高分子層をこの順で有する熱化学電池用電極とすると、酸化グラフェン層上に導電性高分子を製膜可能となり、電解質との接触抵抗を小さいものとすることができることを見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明(1)は、電極基板、酸化グラフェン層、及び、導電性高分子層をこの順で有することを特徴とする熱化学電池用電極である。
【0009】
本発明(2)は、上記電極基板が、耐屈曲半径が10mm以下である本発明(1)の熱化学電池用電極である。
【0010】
本発明(3)は、上記電極基板が、水の接触角が40°以上である本発明(1)又は(2)の熱化学電池用電極である。
【0011】
本発明(4)は、上記酸化グラフェン層が、その平均厚みが1~5nmである本発明(1)~(3)のいずれかの熱化学電池用電極である。
【0012】
本発明(5)は、本発明(1)~(4)のいずれかに記載の熱化学電池用電極を含んで構成されることを特徴とする熱化学電池である。
【0013】
本発明(6)は、電極基板に、酸化グラフェン水分散液を接触させて酸化グラフェン層を形成する工程、及び、該酸化グラフェン層上に、導電性高分子溶液を塗布して導電性高分子層を形成する工程を含むことを特徴とする熱化学電池用電極の製造方法である。
【0014】
本発明(7)は、上記酸化グラフェン層を形成する工程で得られた酸化グラフェン層を水洗する工程を更に含むことを特徴とする本発明(6)に記載の熱化学電池用電極の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の熱化学電池用電極により、電解質との接触抵抗を小さいものとすることができ、高効率な熱化学電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、電極基板、酸化グラフェン層、及び、導電性高分子層をこの順で有する熱化学電池用電極における、酸化グラフェン層の膜密着効果を示す模式図である。
図2図2は、電極基板上に、導電性高分子溶液を塗布できたとしても簡単に凝集・剥離していたことを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において段落に分けて記載される個々の本発明の好ましい特徴を2つ以上組み合わせた形態も、本発明の好ましい形態である。
【0018】
<熱化学電池用電極>
本発明の熱化学電池用電極は、電極基板、酸化グラフェン層、及び、導電性高分子層をこの順で有する。
以下では、酸化グラフェン層、電極基板、導電性高分子層の順で説明する。
【0019】
(酸化グラフェン層)
酸化グラフェン層は、酸化グラフェンを含んで構成される層である。酸化グラフェンは極性(親水性)化合物であり、親水性を活かして導電性高分子と充分に相互作用可能であり、また、その薄片形状から、電極基板のような疎水性基材とも分子間力で充分に相互作用可能である。このように、酸化グラフェン層は、膜密着効果を発揮でき、電極基板と導電性高分子層との間の橋渡し的な役割を担う(例えば、図1参照。)。また、酸化グラフェン層は、耐水性・安定性が高く、導電性高分子溶液の塗布時に流れ出したり、混ざったり、反応したりすることが充分に抑制される。更に、酸化グラフェンは、本質的に導電性を有するので、本発明の熱化学電池用電極において導電の妨げにならない。
【0020】
上記酸化グラフェンは、グラフェン等の黒鉛質の炭素材料を酸化することにより酸素が結合したもの(該炭素材料に酸素が結合したもの)であり、該酸素は黒鉛質の炭素材料に対しカルボキシル基、カルボニル基、水酸基、エポキシ基等の置換基として存在している。
なお、一般的にグラフェンとは、sp結合で結合した炭素原子が平面的に並んだ1層からなるシートをいい、グラフェンシートが多数積層されたものはグラファイトといわれるが、本発明における酸化グラフェン(酸化グラフェン層)には、炭素原子1層のみからなるシートだけではなく、2層~100層程度積層した構造を有するものも含まれる。該酸化グラフェン(酸化グラフェン層)は、炭素原子1層のみからなるシートであるか、又は、2層~20層程度積層した構造を有するものであることが好ましく、炭素原子1層のみからなるシートであることがより好ましい。
上記酸化グラフェンは、更に、硫黄含有基、窒素含有基等の官能基を有していてもよいが、全構成元素に対する炭素、水素、及び、酸素の構成元素としての含有率が97モル%以上であることが好ましく、99モル%以上であることがより好ましく、酸化黒鉛が炭素、水素、及び、酸素のみを構成元素とするものであることが更に好ましい。
【0021】
上記酸化グラフェンは、還元型の酸化グラフェンであってもよい。還元型の酸化グラフェンは、例えば、酸化グラフェン層を形成した後、酸化グラフェン層中の酸化グラフェンから親水性の官能基が脱離して還元する工程を経て得られるものである。還元する工程は、後述する。
【0022】
上記酸化グラフェンは、酸素原子数に対する炭素原子数の比(C/O)が5.5以下であることが好ましい。該比は、5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましい。また、該比は、1以上であることが好ましい。
酸素原子数に対する炭素原子数の比は、XPS測定で得られるO1s領域の全ピーク面積とC1s領域の全ピーク面積との比率により確認することができる。
【0023】
上記酸化グラフェン層中、酸化グラフェンの質量割合は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。中でも、酸化グラフェン層が、実質的に酸化グラフェンからなるものであることが最も好ましい。
なお、酸化グラフェン層が酸化グラフェン以外の成分を含む場合、当該成分としては、導電助剤、バインダー、着色剤、溶媒等が挙げられる。
【0024】
上記酸化グラフェン層は、その平均厚みが1~5nmであることが好ましい。酸化グラフェン層の平均厚みが5nm以下であることで、本発明の熱化学電池用電極の抵抗をより小さくするとともに、透明な層とすることができる。該平均厚みは、4nm以下であることがより好ましい。
上記平均厚みは、原子間力顕微鏡または、走査型電子顕微鏡を用いて、酸化グラフェン層において無作為に選択した5点の厚みを測定し、その平均値を求めることにより測定することができる。
【0025】
(電極基板)
上記電極基板としては、公知の種々の電極基板を使用でき、これにより、本発明の熱化学電池用電極の導電性、強度を充分なものとすることができる。中でも、上記電極基板は、耐屈曲半径が10mm以下であるフレキシブル基板が好ましい。
上記耐屈曲半径は基板を任意の半径を持つ金属棒に沿わして90°折り曲げ後、折り曲げ前後での導電性が90%以上を維持している場合の、その時の半径を言う。
上記フレキシブル基板としては、例えば、白金、金、銅、銀等の金属膜、酸化インジウムスズ(ITO)膜、酸化インジウム亜鉛(IZO)膜、黒鉛膜、グラフェン膜、カーボンナノチューブ膜等が挙げられ、中でも金属膜、酸化インジウムスズ(ITO)膜、黒鉛膜、グラフェン膜が好ましい。
【0026】
上記電極基板は、親水化処理、酸化処理、コロナ放電処理等の表面処理をしていてもよいし、していなくてもよい。
上記電極基板は、水の接触角が40°以上であることが好ましい。該接触角は、50°以上であることがより好ましく、60°以上であることが更に好ましく、70°以上であることが特に好ましい。
上記電極基板は、このように表面が疎水性であっても、薄片形状である酸化グラフェン層と充分に相互作用することができる。
上記接触角は、液滴法によって測定することができる。
【0027】
上記電極基板の平均厚みは、100μm以上、50mm以下であることが好ましい。該平均厚みは、500μm以上であることがより好ましい。また、該平均厚みは、10mm以下であることがより好ましい。
上記平均厚みは、ノギスを用いて、電極基板において無作為に選択した5点の厚みを測定し、その平均値を求めることにより測定することができる。
【0028】
(導電性高分子層)
導電性高分子層は、導電性高分子を含んで構成される層である。
本明細書中、導電性高分子は、製膜時の導電性が1S/cm以上となる高分子が好ましい。該導電性は、10S/cm以上であることがより好ましく、100S/cm以上であることが更に好ましい。該導電性は、その上限値は特に限定されないが、通常は10000S/cm以下である。
【0029】
上記導電性高分子としては、例えば、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリナフタレン、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリスチレンスルホナート(PSS)、ポリスチレンスルホナート(PEDOT/PSS)等が挙げられ、これらの1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、PEDOT/PSSが好ましい。
【0030】
上記導電性高分子は、その重量平均分子量が500~100000であることが好ましく、1000~10000であることがより好ましく、1200~5000であることがさらに好ましい。重量平均分子量が500未満であると、導電性組成物とした場合に要求される粘度を確保することができないことや、塗膜を形成した場合の導電性が低下することがある。
上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で溶媒としてテトラヒドロフランを用いて測定を行い、ポリスチレン換算により求められる値である。
【0031】
上記導電性高分子層中、導電性高分子の質量割合は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。中でも、導電性高分子層が、実質的に導電性高分子からなるものであることが最も好ましい。
なお、導電性高分子層が導電性高分子以外の成分を含む場合、当該成分としては、導電助剤、導電性高分子以外の高分子(バインダー)、着色剤、溶媒等が挙げられる。
【0032】
上記導電性高分子層の平均厚みは、10nm以上、100μm以下であることが好ましい。該平均厚みは、50nm以上であることがより好ましい。また、該平均厚みは、10μm以下であることがより好ましい。
上記平均厚みは、ノギスまたは、触針式段差計を用いて、電極基板において無作為に選択した5点の厚みを測定し、その平均値を求めることにより測定することができる。
【0033】
本発明の熱化学電池用電極は、上記電極基板と、上記酸化グラフェン層との間に、更に、導電性の疎水性材料からなる層を有していてもよい。また、本発明の熱化学電池用電極は、上記酸化グラフェン層と、上記導電性高分子層との間に、更に、導電性の親水性材料からなる層を有していてもよい。
中でも、本発明の熱化学電池用電極は、電極基板、酸化グラフェン層、及び、導電性高分子層のみからなることが好ましい。
【0034】
<熱化学電池>
本発明は、本発明の熱化学電池用電極を含んで構成される熱化学電池でもある。
本発明の熱化学電池は、更に、本発明の熱化学電池用電極以外の電極を含んでいてもよい。
本発明の熱化学電池用電極以外の電極は、例えば、上述した電極基板又は上述した導電性高分子からなる電極等が挙げられる。該電極は、プラスチックフィルム等の基材上に形成されていてもよい。
【0035】
本発明の熱化学電池は、通常、更に電解液を含む。電解液は、ゲル電解質中に含まれるものであってもよい。
【0036】
上記電解質は、酸化還元対(レドックス対)を含むことが好ましい。使用される酸化還元対としては、金属元素、ハロゲン元素が挙げられ、例えば、鉄(II)イオン/鉄(III)イオン、コバルト(II)イオン/コバルト(III)イオン、ヨウ化物イオン/三ヨウ化物イオン等が好ましい。
【0037】
上記電解液に含まれる酸化還元対の濃度は、好ましくは0.1mol/L以上であり、より好ましくは0.2mol/L以上である。また、該濃度は、好ましくは1.0mol/L以下であり、より好ましくは0.7mol/L以下である。
【0038】
上記電解液に含まれる溶媒は、特に限定されないが、水、有機溶媒、水と有機溶媒の混合溶媒等が使用できる。有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;n-ブチルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ダイアセトンアルコール、エチルセロソルブ等のアルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート等のエステル系溶媒;ケトン系溶媒;カーボネート系溶剤;ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒等が挙げられ、これらの1種類又は2種類以上を用いることができる。酸化還元対の溶解性の観点から、少なくとも水が含まれていることが好ましい。上記水の含有量は、溶媒中、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、更に好ましくは95質量%以上であり、特に好ましくは100質量%である。
上記電解液は、更に、カオトロピック剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0039】
<熱化学電池用電極の製造方法>
本発明の熱化学電池用電極の製造方法は、電極基板に、酸化グラフェン水分散液を接触させて酸化グラフェン層を形成する工程、及び、該酸化グラフェン層上に、導電性高分子溶液を塗布して導電性高分子層を形成する工程を含む。
【0040】
(電極基板に、酸化グラフェン水分散液を接触させて酸化グラフェン層を形成する工程)
電極基板に、酸化グラフェン水分散液を接触させる方法(接触方法)は、特に限定されないが、電極基板を、酸化グラフェン水分散液中に含浸させる方法、電極基板に、酸化グラフェン水分散液をスピンコートする方法が好適なものとして挙げられる。これにより、電極基板上に、上述した超薄膜の酸化グラフェン層を形成することができる。
電極基板を、酸化グラフェン水分散液中に含浸させる場合、含浸時間は、5秒以上、5時間以下とすることができる。
【0041】
上記酸化グラフェン水分散液は、酸化黒鉛を水中に分散させ、超音波処理やホモジナイザー処理等によってその層間を剥離させたり、酸化グラフェンを水中に分散させたりして得ることができる。水分散媒は、有機分散媒を一部に含む水系分散液であってもよいが、水のみからなることが好ましい。
上記酸化グラフェン水分散液中の酸化グラフェンの濃度は、10mg/L以上であることが好ましい。該濃度は、30g/L以下であることが好ましく、20g/L以下であることがより好ましく、10g/L以下であることが更に好ましい。
【0042】
上記酸化グラフェン層を形成する工程は、例えば、5~80℃でおこなうことが好ましく、10~50℃でおこなうことがより好ましい。
【0043】
(酸化グラフェン層上に、導電性高分子溶液を塗布して導電性高分子層を形成する工程)
導電性高分子溶液の塗布は、スピンコート法、ロールコーティング法、スプレーコーティング法、含浸法等の公知の方法を用いることができる。これにより、酸化グラフェン層上に、導電性高分子層を好適に形成することができる。
導電性高分子溶液の溶媒としては、水、有機溶媒、水と有機溶媒の混合液を使用できる。有機溶媒としては、アルコール系溶媒を好適に使用できる。該溶媒は、水又は水と有機溶媒の混合液であることが好ましく、水であることがより好ましい。
導電性高分子溶液中の導電性高分子の濃度は、0.1g/L以上であることが好ましく、1g/L以上であることがより好ましい。該濃度は、100g/L以下であることが好ましく、50g/L以下であることがより好ましい。
上記導電性高分子層を形成する工程は、例えば、5~80℃でおこなうことができ、10~50℃でおこなうことが好ましい。
【0044】
(酸化グラフェン層を形成する工程で得られた酸化グラフェン層を水洗する工程)
本発明の製造方法は、上記酸化グラフェン層を形成する工程で得られた酸化グラフェン層を水洗する工程を更に含むことが好ましい。これにより、酸化グラフェン層を炭素原子1層のみからなるシートとすることができる。
なお、上記酸化グラフェン層を水洗する工程は、上述した、酸化グラフェン層上に、導電性高分子溶液を塗布して導電性高分子層を形成する工程の前におこなうことが好ましい。
【0045】
水洗の方法としては、特に限定されず、酸化グラフェン層に水を噴射、噴霧、浸漬すること等が挙げられ、これらの方法を併用してもよいし、複数回繰り返してもよい。
上記酸化グラフェン層を水洗する工程は、例えば、5~80℃でおこなうことができ、10~50℃でおこなうことが好ましい。
【0046】
本発明の製造方法は、上記酸化グラフェン層を形成する工程で得られた酸化グラフェン層を乾燥する工程を更に含むことが好ましい。これにより、酸化グラフェン層と導電性高分子層との相互作用がより強くなる。
なお、上記酸化グラフェン層を乾燥する工程は、上述した、酸化グラフェン層を水洗する工程をおこなう場合は、酸化グラフェン層を水洗する工程の前におこなってもよく、水洗する工程の後におこなってもよいが、酸化グラフェン層を水洗する工程の前におこなうことがより好ましい。
【0047】
上記酸化グラフェン層を乾燥する工程は、例えば、30~200℃でおこなうことができ、50~90℃でおこなうことが好ましい。乾燥時間は、例えば、10分~10時間であることが好ましく、30分~8時間であることがより好ましい。
【0048】
本発明の製造方法は、更に、上記酸化グラフェン層を形成する工程の後、酸化グラフェン層中の酸化グラフェンを還元する工程を含んでいてもよい。還元する工程としては、NaBH、LiAlH等の還元剤を使用する方法、電解還元で還元する方法、光照射により還元する方法、150℃以上で0.1時間以上加熱することで還元する方法等を用いることができる。
本発明の製造方法は、上述した以外に、例えば、導電性高分子層を乾燥する工程等を含んでいてもよい。
【0049】
本発明の製造方法は、空気中で行ってもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。また、加圧条件下、常圧条件下、減圧条件下のいずれで行ってもよいが、上記酸化グラフェン層を乾燥する工程は、常圧条件下又は減圧条件下でおこなうことが好ましい。
【0050】
なお、上記酸化グラフェンは、黒鉛を、Hummers法、Brodie法、Staudenmaier法等のいずれの方法における黒鉛の酸化方法を用いたり、Hummers法における酸化方法を採用した、黒鉛と硫酸とを含む混合液に過マンガン酸塩を添加する方法を用いたりして得ることができる。更に、必要に応じて、酸化反応停止工程、濃縮工程、精製工程、剥離工程等をおこなうことができる。
【実施例0051】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0052】
界面抵抗は、電解液中に保持したふたつの電極間距離を変化させて電気抵抗を測定することで評価した。電極間距離と電気抵抗の傾きより電解液の電気抵抗が求められ、また電極間距離を0に外挿した時の電気抵抗値を2で除することで界面抵抗の値とした。界面抵抗の値を、電解質溶液と電極との界面面積で除したものを、界面抵抗率とした。
【0053】
(実施例1)
グラファイトシート(導電性フレキシブル基材、水の接触角80°、耐屈曲半径10mm以下)を酸化グラフェンの水分散液(濃度:10mg/L)に3分間含浸させ、水洗、乾燥をおこない、次いで、PEDOT/PSSの溶液を塗布した。
得られた積層体は、酸化グラフェン層の厚みが1nmであり、また、酸化グラフェン層中の酸化グラフェンの酸素原子数に対する炭素原子数の比(C/O)が1.85であった。また、得られた積層体について界面抵抗率を測定したところ、1.8Ω・cmであった。
【0054】
(比較例1)
実施例1で用いたグラファイトシートについて界面抵抗率を測定したところ、2.4Ω・cmであった。
【0055】
(比較例2)
実施例1で用いたグラファイトシートにPEDOT/PSS溶液を直接塗布しようと試みたが、溶液が弾かれ、塗布不可能であった。
【0056】
グラファイトシートは、導電性を有するが界面抵抗が高い。グラファイトシート上に、酸化グラフェン層を介してPEDOT/PSSを製膜することで、界面抵抗率を2.4Ω・cmから1.8Ω・cmまで大幅に低減することができた。
【符号の説明】
【0057】
1:導電性高分子層
2:酸化グラフェン層
3:電極基板
図1
図2