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特開2024-36277光センサ、バッテリーの異常検知システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036277
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】光センサ、バッテリーの異常検知システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20240308BHJP
【FI】
H01M10/48 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027705
(22)【出願日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2022140558
(32)【優先日】2022-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】上田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 英明
(72)【発明者】
【氏名】浅野 実
(72)【発明者】
【氏名】椎野 雅人
(72)【発明者】
【氏名】藤松 拓也
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 淳一
【テーマコード(参考)】
5H030
【Fターム(参考)】
5H030AA06
5H030AA10
5H030AS08
5H030FF27
5H030FF51
5H030FF52
(57)【要約】
【課題】 環境温度の影響を抑制し、感度よく熱異常を検知することが可能な光センサ及びこれを用いたバッテリーの異常検知システムを提供する。
【解決手段】 光センサ1は、温度異常を検知可能であって、主に、電源3、光源5、受光器7、検知部9、プラスチックファイバ11等から構成される。光源3は、例えばLED光源である。光源3には、プラスチックファイバ11の一端が光接続される。また、プラスチックファイバ11の他端には受光器7が光接続される。受光器7には検知部9が接続される。検知部9は、受光器7で受光した光強度に基づいて、異常を検知することが可能である。光センサ1に用いられるプラスチックファイバ11は、25℃かつ使用波長で0.2dB/m以下の損失で光を伝送可能であることが望ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度異常を検知可能な光センサであって、
光源と、
一端が前記光源と光接続されるプラスチックファイバと、
前記プラスチックファイバの他端と光接続される受光器と、
前記受光器で受光した光強度に基づいて異常を検知することが可能な検知部と、
を具備し、
前記プラスチックファイバは、25℃かつ使用する光の波長で0.2dB/m以下の損失で光を伝送可能であることを特徴とする光センサ。
【請求項2】
前記プラスチックファイバは、100℃以上において軟化又は溶融し、前記検知部は、前記プラスチックファイバの軟化又は溶融による光損失の増加によって異常を検知可能であることを特徴とする請求項1記載の光センサ。
【請求項3】
前記プラスチックファイバの外径は、450μm以上1050μm以下であることを特徴とする請求項1記載の光センサ。
【請求項4】
前記光源から出射する光は、波長400nm以上700nm以下であることを特徴とする請求項1記載の光センサ。
【請求項5】
前記検知部は、前記プラスチックファイバの光損失の変化から異常を検知可能であることを特徴とする請求項1記載の光センサ。
【請求項6】
互いに波長の異なる複数の前記光源と、
使用する前記光源を切り替えるスイッチと、
を有し、
前記プラスチックファイバへ入射させる光の波長を切り替えることが可能であることを特徴とする請求項1記載の光センサ。
【請求項7】
前記スイッチを制御する制御部と、
使用する前記プラスチックファイバの種類又は前記プラスチックファイバの最小曲げ半径の情報を入力可能な入力部と、
を有し、
前記制御部は、前記入力部で入力された前記プラスチックファイバの種類又は前記プラスチックファイバの最小曲げ半径に紐づけられた前記光源を選択して、前記スイッチを切り替えることが可能であることを特徴とする請求項6記載の光センサ。
【請求項8】
前記スイッチを制御する制御部と、
使用する前記プラスチックファイバの種類又は前記プラスチックファイバの最小曲げ半径の情報を入力可能な入力部と、
前記光源の波長ごとの光出力の温度依存情報と、前記プラスチックファイバの種類による透過光強度の温度依存情報又は前記プラスチックファイバの曲げ半径による透過光強度の温度依存情報とを有する記憶部を有し、
前記制御部は、前記入力部で入力された情報に基づいて、前記受光器が受光する光強度の温度による影響が最も小さくなる前記光源を選択して、前記スイッチを切り替えることが可能であることを特徴とする請求項6記載の光センサ。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載の光センサを用いたバッテリーの異常検知システムであって、
前記プラスチックファイバが、バッテリーのセルに沿って配置され、
前記検知部は、いずれかの前記セルの温度異常に伴う損失の増加によって、バッテリーの温度異常を検知可能であることを特徴とするバッテリーの異常検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリーの熱異常を検知することが可能な光センサ及びこれを用いたバッテリーの異常検知システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気機器や電気自動車の需要が増加しており、バッテリーについても開発が進んでいる。例えば、リチウムイオンバッテリーは、正極側と負極側を別々の電解液で満たし、これらがセパレータで仕切られた構造を有する。充放電の際には、リチウムイオンがセパレータを通過することで反応が進み、充電及び放電を行うことができる。
【0003】
ここで、何らかの原因(過充電、内部短絡、外部発熱など)がトリガーとなり、電池温度が上昇すると、セパレータのメルトダウンに至る場合がある。セパレータがメルトダウンすると、全面短絡が生じ、セル全体の発熱が進み、いわゆる熱暴走が生じる恐れがある。
【0004】
このような熱暴走に起因して、電気自動車の火災事故も発生しており、例えば、2020年には、国連のUN規則において、乗員室に危険が発生する前に脱出を可能とする時間、又は5分前に事前警告表示を行うことが規定された。このため、バッテリーの異常を迅速に検知することが可能な方法が要求される。
【0005】
このようなバッテリーの異常検知方法としては、例えば、バッテリーの温度を測定する温度センサ、圧力を測定する圧力センサ、およびガス濃度を測定するガスセンサを用いたバッテリー異常検知装置が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2022-529401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、通常、複数のセルが連結されてバッテリースタックが構成され、バッテリーは、複数のバッテリースタックが集合されて構成される。また、セルの温度を測定する温度センサとしては、一般的にセルに接触するサーミスタが使用される。しかし、すべてのセルごとにサーミスタを配置するのは配策面やコスト面から問題がある。
【0008】
これに対し、光ファイバ(光センサ)を用いてスタック全体を一括して温度測定する方法もある。光センサを用いて温度測定を行うことで、セルの個々に温度センサを配置する必要がない。しかし、例えば、後方散乱光を計測するようなOTDRは、どのセルが異常であるかの位置も特定はできるものの、装置が大型であり高価である。
【0009】
一方、光ファイバの透過光の減衰・遮断により異常を検知する光センサを用いれば、どのセルが異常であるかは把握できないが、構造が簡易であり異常検知にも適用可能である。しかし、このような光センサを用いて温度測定を行った際には、周囲の環境温度の変化と、セルの温度異常とを切り分けることができず、精度の良い測定が困難である。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、環境温度の影響を抑制し、感度よく熱異常を検知することが可能な光センサ及びこれを用いたバッテリーの異常検知システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、温度異常を検知可能な光センサであって、光源と、一端が前記光源と光接続されるプラスチックファイバと、前記プラスチックファイバの他端と光接続される受光器と、前記受光器で受光した光強度に基づいて異常を検知することが可能な検知部と、を具備し、前記プラスチックファイバは、25℃で0.2dB/m以下の損失で光を伝送可能であることを特徴とする光センサである。
【0012】
前記プラスチックファイバは、100℃以上において軟化又は溶融し、前記検知部は、前記プラスチックファイバの軟化又は溶融による光損失の増加によって異常を検知可能であることが望ましい。
【0013】
前記プラスチックファイバの外径は、450μm以上1050μm以下であることが望ましい。
【0014】
前記光源から出射する光は、波長400nm以上700nm以下であることが望ましい。
【0015】
前記検知部は、前記プラスチックファイバの光損失の変化から異常を検知可能であってもよい。
【0016】
互いに波長の異なる複数の前記光源と、使用する前記光源を切り替えるスイッチと、を有し、前記プラスチックファイバへ入射させる光の波長を切り替えることが可能であってもよい。
【0017】
前記スイッチを制御する制御部と、使用する前記プラスチックファイバの種類又は前記プラスチックファイバの最小曲げ半径の情報を入力可能な入力部と、を有し、前記制御部は、前記入力部で入力された前記プラスチックファイバの種類又は前記プラスチックファイバの最小曲げ半径に紐づけられた前記光源を選択して、前記スイッチを切り替えることが可能であってもよい。
【0018】
前記スイッチを制御する制御部と、使用する前記プラスチックファイバの種類又は前記プラスチックファイバの最小曲げ半径の情報を入力可能な入力部と、 前記光源の波長ごとの光出力の温度依存情報と、前記プラスチックファイバの種類による透過光強度の温度依存情報又は前記プラスチックファイバの曲げ半径による透過光強度の温度依存情報とを有する記憶部を有し、前記制御部は、前記入力部で入力された情報と、前記記憶部の情報に基づいて、前記受光器が受光する光強度の温度による影響が最も小さくなる前記光源を選択して、前記スイッチを切り替えることが可能であってもよい。
【0019】
第1の発明によれば、光ファイバの一端から光を入射して、他端から出射される光の強度によって温度異常を検知するため、構造が簡易である。また、25℃での光損失が0.2dB/m以下のプラスチックファイバを用いることで、環境温度の変化による影響を低減することができる。このため、精度の良い測定が可能である。
【0020】
また、100℃以上において軟化又は溶融するプラスチックファイバを用いることで、100℃以上において急激な光損失の増加が生じるため、少なくとも100℃以上の温度異常に対して効率よく異常を検知可能である。
【0021】
また、プラスチックファイバの外径が450μm以上であれば、環境温度による影響をより低減することができる。また、プラスチックファイバの外径が1050μm以下であれば、曲げ半径を小さくすることができ、取り回しの自由度を高めることができる。
【0022】
また、光源から出射する光が、波長400nm以上700nm以下であれば、プラスチックファイバでの光損失が低く、例えばこの波長帯ではLEDが安価で入手し易く、さらにLED光源を用いた際に、上記プラスチックファイバはマルチモードで横モードが安定するため、出力が安定しやすい。
【0023】
また、プラスチックファイバの光損失の変化から異常を検知可能とすることで、より異常検知感度を高めることができる。
【0024】
また、互いに波長の異なる複数の光源をスイッチで切り替え可能とすることで、使用するプラスチックファイバの種類や敷設状態等に応じて適切な光源を選択して使用することができる。
【0025】
また、光源等の温度依存情報を記憶部に保存しておき、入力部から所定の条件を入力することで、制御部が適切な光源を選択可能とすることで、入力した条件に基づいて適切な光源を自動で選択することができる。
【0026】
第2の発明は、第1の発明にかかる光センサを用いたバッテリーの異常検知システムであって、前記プラスチックファイバが、バッテリーのセルに沿って配置され、前記検知部は、いずれかの前記セルの温度異常に伴う損失の増加によって、バッテリーの温度異常を検知可能であることを特徴とするバッテリーの異常検知システムである。
【0027】
第2の発明によれば、環境温度の影響を抑制し、感度よくバッテリーの温度異常を検知することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、環境温度の影響を抑制し、感度よく熱異常を検知することが可能な光センサ及びこれを用いたバッテリーの異常検知システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】バッテリー異常検知システム10の構成を示す概略図。
図2】光センサの評価方法を示す図であり、(a)は全体加熱方法を示す図、(b)は局所加熱方法を示す図。
図3】光損失0.665dB/mのプラスチックファイバを用いた光損失評価結果を示す図。
図4】光損失0.411dB/mのプラスチックファイバを用いた光損失評価結果を示す図。
図5】光損失0.164dB/mのプラスチックファイバを用いた光損失評価結果を示す図。
図6】ファイバ損失と-40℃における光出力の関係を示す図。
図7】光ファイバ径と、損失および環境温度による損失変動の関係を示す図。
図8】バッテリー異常検知システム10aの構成を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(第1の実施形態)
以下、本発明の実施の形態にかかるバッテリー異常検知システムについて説明する。図1は、バッテリー異常検知システム10を示す概略図である。バッテリー異常検知システム10は、光センサ1が利用されたものである。光センサ1は、温度異常を検知可能であって、主に、電源3、光源5、受光器7、検知部9、プラスチックファイバ11等から構成される。
【0031】
光源5は、例えばLED光源である。光源5から出射する光は、例えば、プラスチックファイバにおける損失が比較的低い、波長400nm以上700nm以下であることが望ましい。光源5には、プラスチックファイバ11の一端が光接続される。なお、プラスチックファイバ11の詳細は後述する。なお、LED光源自体も環境温度により出力が変化する場合があるので受光器で検出したLED出力が一定になるようにLED駆動電流を調整しても良いし、中身の温度変化が小さい筐体に収納しても良い。
【0032】
プラスチックファイバ11が、バッテリーの複数のセル13(スタック15)に沿って配置される。図示した例では、1本のプラスチックファイバ11が、複数のスタック15に沿って配置される。また、プラスチックファイバ11の他端には受光器7が光接続される。
【0033】
受光器7には検知部9が接続される。検知部9は、受光器7で受光した光強度に基づいて、異常を検知することが可能である。例えば、検知部9は、受光する光の強度をモニタリングして、いずれかのセル13の温度異常に伴う光強度の低下(損失の増加)によって、バッテリーの温度異常を検知可能である。
【0034】
例えば、検知部9は、受光器7で受光した光の光強度があらかじめ設定された光強度を下回った場合(すなわち、プラスチックファイバの光損失が所定以上大きくなった場合)に、バッテリーが異常であると判定する。また、検知部9は、受光器7で受光した光の光強度があらかじめ設定された光強度を上回った場合(すなわち、プラスチックファイバの光損失が所定以上小さくなった場合)に、システムが異常であると判定することもできる。このように、検知部9は、光損失の変化から異常を検知可能である。なお、検知部9は、受光器7で受光した光の光強度の時間当たりの低下率(プラスチックファイバの光損失の時間当たりの増加率)からも、バッテリーの異常を検知してもよい。すなわち、急激に受光器7で受光した光の光強度が低下した場合(プラスチックファイバの光損失が急激に増加した場合)に、バッテリーが異常であると判定してもよい。また、これらの両方によって判断してもよい。
【0035】
ここで、発明者らは、プラスチックファイバ11の温度に対する損失変化に対して、環境温度(すなわち、プラスチックファイバ全体の温度)の変化と、局所温度(すなわち、一つのセルで生じた異常温度)の変化が混在すると、その検知精度が低くなることを見出した。プラスチックファイバ11は、環境温度が上昇すると、コアの屈折率が上昇して、光の閉じ込め効果が変化する。すなわち、環境温度が増加すると、損失が低下する。一方、所定以上の温度となる、コアの変形が進み、これにより損失が大きく増大する。
【0036】
すなわち、発明者らは、環境温度が上昇すると、プラスチックファイバ全体の損失が低下(受光器で受光する光強度が上昇)しているため、局所的な温度上昇に伴う損失の増加の一部が打ち消されてしまい、局所的な温度異常の検出が遅れる要因となることを見出した。そこで、発明者らは、鋭意研究の結果、所定の条件を満たすプラスチックファイバを用いることで、環境温度変化の影響を抑制し、感度よく局所的な温度異常を検出できることを知見した。
【0037】
具体的には、光センサ1に用いられるプラスチックファイバ11は、25℃で0.2dB/m以下の損失で光を伝送可能であることが望ましい。プラスチックファイバ11の光損失特性と環境温度変化に伴う損失変化については詳細を後述する。
【0038】
また、光センサ1に用いられるプラスチックファイバ11としては、100℃以上において軟化又は溶融するものが望ましい。このようなプラスチックファイバ11によれば、100℃を超えると軟化・溶融によって急激に損失が増大するため、検知部9によって異常を検知することが可能である。
【0039】
また、光センサ1に用いられるプラスチックファイバ11の外径は、例えば、450μm以上1050μm以下であることが望ましい。プラスチックファイバ11の外径が450μm未満であると、環境温度に対する影響が大きくなる傾向がある。また、プラスチックファイバ11の外径が1050μmを超えると、曲げ半径が大きくなるため、スタック15に沿った配置に対しての自由度が小さくなる。
【0040】
(プラスチックファイバ11の温度特性の評価結果)
次に、光センサ1を構成するプラスチックファイバについて詳細に説明する。図2は、プラスチックファイバ11の温度特性を評価する評価方法を示す図であり、図2(a)は全体加熱方法を示す図、図2(b)は局所加熱方法を示す図である。
【0041】
まず、図2(a)に示すように、プラスチックファイバ11の全体を一様に加熱した。プラスチックファイバ11の長さは30mとした。プラスチックファイバ11の略全体が加熱器17に接触するようにプラスチックファイバ11を配置し、保温カバー19で覆うことで、全体をほぼ均一な温度で保持した。この状態で加熱器17の温度を変化させて、プラスチックファイバ11の光損失を調査した。すなわち、本試験によって、環境温度による損失への影響を評価した。
【0042】
次に、図2(b)に示すように、プラスチックファイバ11の一部(1cm)のみを加熱器17に接触させた、この状態で加熱器17の温度を変化させて、プラスチックファイバ11の光損失を調査した。すなわち、本試験によって、局所加熱による損失への影響を評価した。
【0043】
図3は、25℃における光損失が0.665dB/mのプラスチックファイバを用いた光損失評価結果を示す図である。この際、使用したプラスチックファイバの外径は125μmである。図中Aは、図2(a)に示す評価結果であり、図中Bは、図2(b)に示す評価結果である。それぞれ、温度変化(横軸)に対する光強度(縦軸)の変化を示す。なお、光強度は、室温での結果を1.0と規格化した値である。
【0044】
図3に示すように、全体加熱(図中A)の結果、温度上昇に伴い光強度が増加した。すなわち、常温時におけるプラスチックファイバへの入射光に対する出射光の損失に対して、高温時におけるプラスチックファイバへの入射光に対する出射光の損失が低下した。これは、前述したように、コアの屈折率の変化に伴うものと考えられる。
【0045】
これに対し、局所加熱(図中B)の結果、100℃を超えたあたりから急激に光強度が低下した。すなわち、常温時におけるプラスチックファイバへの入射光に対する出射光の損失に対して、高温時におけるプラスチックファイバへの入射光に対する出射光の損失が大きく増大した。これは、前述したように、プラスチックファイバの軟化に伴うコアの変形によるものと考えられる。
【0046】
このようなプラスチックファイバを用いて光センサを構成すると、例えば、環境温度が50℃では、常温時と比較して光強度が約1.2倍になる。このため、この状態でセルの一部に温度異常が生じても、光強度が所定以下となるまでに時間を要する。例えば、光強度の規格値が0.8以下となった際に異常と判断するとすれば、環境温度が25℃であれば、110~120℃まで局所加熱があった際に異常と判断できる。
【0047】
しかし、環境温度が50℃では、通常時における光強度の規格値が約1.2であるため、図3における白丸(図中B)がすべて0.2だけ上方にシフトした状態となる。このため、120℃の局所加熱があっても、検出される光強度の規格値が0.8以上となり、異常の判断が遅れることとなる。このように、25℃における光損失0.665dB/m(外径が125μm)のプラスチックファイバでは、精度のよい異常検知が困難である。また、低温側-40℃の光出力の理論値では0.50まで光出力は低下する。-40℃の極寒地では環境温度による光出力低下を熱暴走による光出力低下と誤判別してしまうという問題もある。
【0048】
図4は、同様に、25℃における光損失が0.411dB/mのプラスチックファイバを用いた光損失評価結果を示す図である。この際、使用したプラスチックファイバの外径は250μmである。なお、図3と同様に、図中Aは、図2(a)に示す評価結果であり、図中Bは、図2(b)に示す評価結果であり、温度変化(横軸)に対する光強度(縦軸)の変化を示す。また、光強度は、室温での結果を1.0と規格化した値である。
【0049】
図3における結果と同様に、環境温度変化(図中A)は、温度上昇とともに光強度が増加する傾向がみられた。また、低温側-40℃の光出力の理論値では0.85まで光出力は低下する。ただし、図3における結果と比較して、その傾向はなだらかであった。また、局所加熱による結果は、図3とほぼ同様の傾向を示した。
【0050】
このように、25℃における光損失0.411dB/m(外径が250μm)のプラスチックファイバでは、図3の結果と比較すれば、環境温度の影響を受けにくいといえるが、やはり精度のよい異常検知が困難である。また、-40℃の極寒地では環境温度による光出力低下を熱暴走による光出力低下と誤判別してしまうという問題もある。
【0051】
図5は、同様に、25℃における光損失が0.164dB/mのプラスチックファイバを用いた光損失評価結果を示す図である。この際、使用したプラスチックファイバの外径は500μmである。なお、図3と同様に、図中Aは、図2(a)に示す評価結果であり、図中Bは、図2(b)に示す評価結果であり、温度変化(横軸)に対する光強度(縦軸)の変化を示す。また、光強度は、室温での結果を1.0と規格化した値である。
【0052】
図5に示すように、このプラスチックファイバでは、環境温度変化(図中A)に対して、光強度の変化がほとんどなく一定である傾向がみられた。一方、局所加熱による結果は、図3とほぼ同様の傾向を示した。
【0053】
このように、25℃における光損失0.164dB/m(外径が500μm)のプラスチックファイバでは、環境温度による影響をほとんど受けることなく、温度異常のみを検知できることが分かった。
【0054】
図6にファイバ損失と-40℃における光出力の関係を示す。損失が高い方が-40℃での光出力が減少する傾向にあり、熱暴走による光出力低下と判別できなくなる可能性がある。0.2dB/m以下の低損失では-40℃ではほとんど出力低下が見られないので熱暴走による光出力低下と誤判別することはない。
【0055】
図7は、このようにして評価したプラスチックファイバの損失と環境温度変化による光強度の変動を、ファイバ径に対する傾向としてまとめた図である。図中Cは、プラスチックファイバの25℃における損失(左縦軸)を示し、図中Dは、環境温度変化による光強度の変動(右縦軸)を示す。
【0056】
プラスチックファイバの外径が500μm以下の範囲では、プラスチックファイバの損失と外径との間には相関がみられ、プラスチックファイバの外径が大きくなるほどプラスチックファイバの損失が低下する。また、プラスチックファイバの損失の低下と、環境温度による光強度の変動にも相関がみられ、プラスチックファイバの損失が低くなるほど環境温度による変動が低下する。
【0057】
図より、プラスチックファイバの損失が0.2dB/m以下であれば、環境温度による変動の影響を低減できることがわかる。例えば、一般的には、プラスチックファイバの外径が450μm以上であればこのような損失のプラスチックファイバを得ることができる。
【0058】
なお、500μmの外径のプラスチックファイバと、1000μmの外径のプラスチックファイバでは、損失も環境温度による変動もほとんど変化していない。このため、曲げ半径を考慮すれば、プラスチックファイバの外径は1050μm以下であることが望ましい。すなわち、損失が0.2dB/m以下のプラスチックファイバであれば、バッテリーの異常を効率よく検知することができ、この際、プラスチックファイバの外径が450μm以上1050μm以上であれば、効率よく、所望の損失のプラスチックファイバを得ることができる。なお、プラスチックファイバの材質によっては、上述した外径以外でも損失が0.2dB/m以下とすることもできる。
【0059】
(第2の実施形態)
次に、第2のバッテリー異常検知システムについて説明する。図6は、バッテリー異常検知システム10aを示す概略図である。なお、以下の説明において、第1の実施形態と同様の構成いついては、図1等と同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0060】
バッテリー異常検知システム10aは、バッテリー異常検知システム10と略同様であるが、互いに波長の異なる複数の光源5が用いられる点で異なる。複数の光源5にはスイッチ4が配置され、使用する光源5を切り替えることが可能である。すなわち、スイッチ4を切り替えることで、プラスチックファイバ11へ入射させる光の波長を切り替えることが可能である。
【0061】
スイッチ4には、制御部8が接続される。制御部8は、スイッチ4を制御して、使用する光源5を選択することが可能である。制御部8は、入力部6と記憶部12が接続される。入力部6は、使用するプラスチックファイバ11の種類(径や材質)を入力可能である。なお、入力部6は、予め設定された複数の選択肢から選択可能としてもよい。
【0062】
記憶部12には、光源5の波長ごとの温度と光源5から出力される光出力との関係を示す光源温度依存情報と、プラスチックファイバ11の種類ごとの温度とプラスチックファイバ11を透過する透過光強度との関係を示すプラスチックファイバ温度依存情報が記憶される。
【0063】
例えば、図3図5に示すように、プラスチックファイバ11は、径によって透過光強度の温度依存性が異なる。このため、プラスチックファイバ温度依存情報としては、プラスチックファイバ11の種類ごとに、例えば基準温度(25℃)における透過光強度を基準として、低温(例えば-40℃)における透過光強度及び高温(例えば60℃)における透過光強度の情報が記憶されている。一例を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示すように、25℃における透過光強度を1とした場合、低温時と高温時とでは、透過光強度が変化し、また、その変化量(率)がプラスチックファイバ11の外径によって異なる。
【0066】
同様に、LED光源は、波長によって光出力の温度依存性が異なる。このため、光源温度依存情報としては、光源5ごとに(波長ごとに)、例えば基準温度(25℃)における光出力を基準として、低温(例えば-40℃)における透過光強度及び高温(例えば80℃)における光出力の情報が記憶されている。一例を表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
上述したように、プラスチックファイバ11の透過光強度の温度依存性と光源5による光出力の温度依存性が大きいため、光センサ1による検出精度が温度変化によって低下する。そこで、本実施形態では、使用するプラスチックファイバ11の種類に応じて、使用する光源5を変更することで、この温度変化に伴う精度低下を抑制する。表3には、例として、適切なプラスチックファイバ11の径と使用する光源5の適切な組み合わせを示す一例である。
【0069】
【表3】
【0070】
表3に示すように、プラスチックファイバ11の温度依存性と光源5の温度依存性を乗じると、互いの温度依存性が補償され、単独での温度依存性と比較して温度による変化が小さくなり、光検出精度を高めることができる。例えば、ファイバ外径450μm以上の場合で、青色LED(400~460nm)を組み合わせることで、常温(25℃)での受光器で受光した光強度に比較して-40℃から80℃における周囲温度による変化量を±15%以下(-13%~+12%の範囲に安定させることができる。
【0071】
同様に、ファイバ外径250±13μmの場合には、緑色LED(500~560nm)を組み合わせることで、常温での受光器で受光した光強度に比較して-40℃から80℃における周囲温度による変化量を±5%以下(-13%~0%)の範囲に安定させることができる。
【0072】
同様に、ファイバ外径125±7μmの場合には、赤色LED(630~700nm)を組み合わせることで、常温での受光器で受光した光強度に比較して-40℃から80℃における周囲温度による変化量を-36%~0%の範囲に安定させることができる。
【0073】
このため、使用者は、予め入力部6から、使用するプラスチックファイバ11の径を入力することで、制御部8は、入力部6で入力された情報に基づいて、スイッチ4を切り替えることで、受光器7が受光する光強度の温度による影響が最も小さくなる光源を5選択して、温度による精度の低下を抑制することができる。
【0074】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、例えば、使用するプラスチックファイバ11の径に応じて、温度による精度の低下(ばらつき)を抑制することができる。
【0075】
なお、上述した例では、プラスチックファイバ11の径を入力して、制御部8が使用する光源5を選択したが、光源5の選択を他の情報に基づいて行ってもよい。例えば、プラスチックファイバ11の種類(材質)に応じても、温度による透過光強度の温度依存性が異なる。また、敷設したプラスチックファイバ11の曲げ半径によっても、温度による透過光強度の温度依存性が異なる。
【0076】
この場合、例えば、入力部6から、配置されたプラスチックファイバ11の最小曲げ半径を入力すると、制御部8が入力部6で入力された情報に基づいて、受光器が受光する光強度の温度による影響が最も小さくなる光源5を選択して、スイッチ4を切り替えることができる。このように、記憶部12に、プラスチックファイバ11の曲げ半径ごとの透過光強度の温度依存情報(例えば曲げ半径範囲ごとに、常温時を基準とした低温時と高温時の透過光強度情報)を保存しておけば、プラスチックファイバ11の曲げ半径に基づいて光源5を選択することもできる。
【0077】
なお、上述した例では、記憶部12に、光源5の波長ごとの光出力の温度依存情報と、プラスチックファイバ11の径による透過光強度の温度依存情報又はプラスチックファイバ11の曲げ半径による透過光強度の温度依存情報とが保存される例を示したが、これには限られない。例えば、プラスチックファイバの種類又は曲げ半径を入力した際に、制御部8は、予め紐づけられた光源5を単に選択するようにしてもよい。また、制御部8、入力部6、記憶部12を用いずに、スイッチ4を手動で切り替え可能としてもよい。
【0078】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0079】
1………光センサ
3………電源
4………スイッチ
5………光源
6………入力部
7………受光器
8………制御部
9………検知部
10、10a………バッテリー異常検知システム
11………プラスチックファイバ
12………記憶部
13………セル
15………スタック
17………加熱器
19………保温カバー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8