(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003639
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】シリコーンフィルム、成形品、音響部材、音響変換器
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240105BHJP
H04R 7/12 20060101ALI20240105BHJP
H04R 7/02 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
C08J5/18 CFH
H04R7/12 K
H04R7/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102919
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】早川 裕子
(72)【発明者】
【氏名】大崎 桂史
【テーマコード(参考)】
4F071
5D016
【Fターム(参考)】
4F071AA67
4F071AC08
4F071AF05Y
4F071AF20Y
4F071AH12
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB03
4F071BB04
4F071BC01
4F071BC12
5D016EC21
(57)【要約】
【課題】成形前の形状保持性、及び、成形時の賦形性を高くしつつ、成形時にフィルムが型に貼りつくのを防止できるシリコーンフィルムを提供すること。
【解決手段】硬化性を有し、少なくとも一方の面の静摩擦係数が3以下である単層のシリコーンフィルムである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性を有し、少なくとも一方の面の静摩擦係数が3以下である単層のシリコーンフィルム。
【請求項2】
ゲル分率が60%以上90%以下である請求項1に記載のシリコーンフィルム。
【請求項3】
下記(a)の粘弾性特性を有する、請求項1又は2に記載のシリコーンフィルム。
(a)測定温度20℃の貯蔵弾性率E’が0.1MPa以上500MPa以下。
【請求項4】
熱硬化性を有する請求項1又は2に記載のシリコーンフィルム。
【請求項5】
架橋構造を有する請求項1又は2に記載のシリコーンフィルム。
【請求項6】
硬化後の状態で、下記(b)~(d)の粘弾性特性を有する請求項1または2に記載のシリコーンフィルム。
(b)測定温度20℃での貯蔵弾性率E’20が0.1MPa以上500MPa以下。
(c)測定温度100℃での貯蔵弾性率E’100が0.1MPa以上500MPa以下。
(d)前記貯蔵弾性率E’20に対する、前記貯蔵弾性率E’100の比(E’100/E’20)が0.2以上1.0以下。
【請求項7】
音響部材用フィルムである請求項1又は2に記載のシリコーンフィルム。
【請求項8】
振動板用フィルムである請求項1又は2に記載のシリコーンフィルム。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のシリコーンフィルムと、該シリコーンフィルムの少なくとも片面に設けられた離型フィルムとを備える、離型フィルム付きシリコーンフィルム。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のシリコーンフィルムを硬化してなる成形品。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のシリコーンフィルムを硬化してなる音響部材。
【請求項12】
請求項1又は2に記載のシリコーンフィルムを硬化してなる振動板。
【請求項13】
請求項11に記載の音響部材を備えた音響変換器。
【請求項14】
請求項12に記載の振動板を備えた音響変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンフィルム、成形品、音響部材、音響変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン、PDA、ノートブックコンピューター、DVD、液晶テレビ、デジタルカメラ、携帯音楽機器等の小型電子機器の普及により、これら電子機器に使用される小型のスピーカー(通常、マイクロスピーカーと呼ばれる)や小型のレシーバ、さらにはマイクロホン、イヤホン等の小型の電気音響変換器の需要が高まっている。これら電気音響変換器に使用される振動板には、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂等が広く使用されている。
【0003】
また、近年、シリコーン樹脂が上記した振動板に使用されることも検討されている。例えば、特許文献1には、離型シートと、未硬化液状シリコーン組成物から成る第1層と、主として熱可塑性ポリウレタンを含む第2層とを順に積層して成る振動板用シート、及びこの振動板用シートを用いた振動板の製造方法が開示されている。特許文献1においては、振動板用シートが金型内にセットされて賦形成形された後、成形物から離型シートを剥離することで振動板が製造されている。特許文献1に記載の振動板用シートは、未硬化液状シリコーン組成物を使用するため、成形時の賦形性を高くすることができ、また、金型への追従性も高くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で提案される振動板用シートは、未硬化液状シリコーン組成物から成り、金型にセットして賦形成形される。そのため、成形後に離型フィルムを剥がす必要があるが、成形時の加熱及び加圧により、離型フィルムが第1層から剥がれにくくなることが多く作業効率が悪くなり、量産化する際に問題となる。
したがって、振動板用シートは、離型フィルムを剥がしたうえで、金型などの型にセットすることが望ましい。しかし、離型フィルムがないと、未硬化液状シリコーン組成物から成る第1層が、金型に貼り付いて、金型から容易に成形品を取り出せないなどの不具合が生じる。さらに、特許文献1の振動板用シートは、離型フィルムがないと、賦形前の形状保持性も低くなる。
そこで、本発明は成形前の形状保持性、及び、成形時の賦形性を高くしつつ、成形時にフィルムが型に貼りつくのを防止できるシリコーンフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、硬化性を有し、少なくとも一方の面の静摩擦係数を制御したフィルムとすることで、上記課題を解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は、以下の[1]~[14]を提供する。
[1]硬化性を有し、少なくとも一方の面の静摩擦係数が3以下である単層のシリコーンフィルム。
[2]ゲル分率が60%以上90%以下である上記[1]に記載のシリコーンフィルム。
[3]下記(a)の粘弾性特性を有する、上記[1]又は[2]に記載のシリコーンフィルム。
(a)測定温度20℃の貯蔵弾性率E’が0.1MPa以上500MPa以下。
[4]熱硬化性を有する上記[1]~[3]のいずれかに記載のシリコーンフィルム。
[5]架橋構造を有する上記[1]~[4]のいずれかに記載のシリコーンフィルム。
[6]硬化後の状態で、下記(b)~(d)の粘弾性特性を有する上記[1]~[5]のいずれかに記載のシリコーンフィルム。
(b)測定温度20℃での貯蔵弾性率E’20が0.1MPa以上500MPa以下。
(c)測定温度100℃での貯蔵弾性率E’100が0.1MPa以上500MPa以下。
(d)前記貯蔵弾性率E’20に対する、前記貯蔵弾性率E’100の比(E’100/E’20)が0.2以上1.0以下。
[7]音響部材用フィルムである上記[1]~[6]のいずれかに記載のシリコーンフィルム。
[8]振動板用フィルムである上記[1]~[6]のいずれかに記載のシリコーンフィルム。
[9]上記[1]~[8]のいずれかに記載のシリコーンフィルムと、該シリコーンフィルムの少なくとも片面に設けられた離型フィルムとを備える、離型フィルム付きシリコーンフィルム。
[10]上記[1]~[8]のいずれかに記載のシリコーンフィルムを硬化してなる成形品。
[11]上記[1]~[8]のいずれかに記載のシリコーンフィルムを硬化してなる音響部材。
[12]上記[1]~[8]のいずれかに記載のシリコーンフィルムを硬化してなる振動板。
[13]上記[11]に記載の音響部材を備えた音響変換器。
[14]上記[12]に記載の振動板を備えた音響変換器。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、成形前の形状保持性、及び、成形時の賦形性を高くしつつ、成形時にフィルムが型に貼りつくのを防止できるシリコーンフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係るマイクロスピーカー振動板1の構造を示す断面図である。
【
図2】本発明の他の一実施形態に係るマイクロスピーカー振動板11の構造を示す断面図である。
【
図3】本発明の他の一実施形態に係るマイクロスピーカー振動板21の構造を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
なお、フィルムとシートとの境界は定かではないため、本発明において、フィルムはシートを包含するものとする。
【0011】
[シリコーンフィルム]
本発明の単層シリコーンフィルム(以下、「本フィルム」と記載することがある。)は、硬化性を有し、少なくとも一方の面の静摩擦係数が3以下であることを特徴とする。
すなわち、本フィルムは、硬化性を有し、少なくとも一部未硬化の部分があることから、賦形性を有し、静摩擦係数が3以下であることから、金型や離型フィルムからの剥離性が良好となる。さらに単層であることから、層間剥離の問題もない。
本発明のシリコーンフィルム、すなわち、フィルム形状を有し、硬化性を有し、少なくとも一方の面の静摩擦係数が3以下であるフィルムを作成する方法としては、放射線を照射していわゆる半架橋構造とすることが好ましい。
【0012】
<放射線>
本発明のフィルムを作製するための放射線としては、本発明の効果を奏する範囲であれば特に限定されず、X線、γ線、電子線、β線、α線、陽子、重陽子、重イオン、中性子線、中間子線等が挙げられる。
放射線量、放射線照射時間については、放射線の種類に応じて、以下に記載するゲル分率、及び/又は貯蔵弾性率の範囲に該当するように調整することが望ましい。
【0013】
<ゲル分率>
本フィルムは、ゲル分率が60%以上90%以下であることが好ましい。ゲル分率がこの範囲であると、適度な硬化性を有し、また、表層部が適度に硬化され、内部が未硬化又は半硬化とすることも可能となり、本発明の効果を示す。以上の観点から、本フィルムのゲル分率は60%以上85%以下であることがより好ましく、65%以上80%以下であることがさらに好ましい。
なお、ゲル分率の測定は実施例に記載の方法で行った。
【0014】
本フィルムに使用されるシリコーンポリマー(ポリオルガノシロキサン)は、例えば、以下の式(i)で表される構造を有する。
RnSiO(4-n)/2 ・・・(i)
ここで、Rは同一又は異なっていてもよい、置換又は非置換の一価炭化水素基、好ましくは炭素原子数1~12、より好ましくは炭素原子数1~8の一価炭化水素基、nは1.95~2.05の正の数である。
【0015】
Rは、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、及びドデシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基、及びヘキセニル基等のアルケニル基、並びにこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をハロゲン原子又はシアノ基等で置換したクロロメチル基、トリフルオロプロピル基、及びシアノエチル基等が挙げられる。
【0016】
また、本発明に係るポリオルガノシロキサンは、分子鎖末端がトリメチルシリル基、ジメチルビニル基、ジメチルヒドロキシシリル基、トリビニルシリル基等で封鎖されていることが好ましい。さらに、ポリオルガノシロキサンは、分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有することが好ましい。具体的には、Rのうち0.001モル%以上、5モル%以下、好ましくは0.005モル%以上、3モル%以下、より好ましくは0.01モル%以上、1モル%以下、特に0.02モル%以上、0.5モル%以下のアルケニル基を有することが好ましく、特にビニル基を有することが最適である。ポリオルガノシロキサンは、基本的には直鎖状であるが、一部分岐していてもよい。また、分子構造の異なる2種、又はそれ以上の混合物でもよい。
【0017】
<静摩擦係数>
本フィルムは、少なくとも一方の面の静摩擦係数が3以下であることが特徴である。静摩擦係数が3以下であることによって、フィルムの取り扱い性が良好となり、例えば、離型フィルム付きの場合は、離型フィルムからの剥離が容易になり、また、剥離時に破れが発生する懸念がなくなる。また、金型からの剥離が容易となり、成形時にフィルムが型に貼りつくのを防止できる。以上の観点から、静摩擦係数は2.8以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましく、2.3以下であることがさらに好ましく、2.1以下であることが特に好ましい。静摩擦係数の下限値については、特に制限はないが、例えば0.3以上でもよいし、0.5以上であってもよいし、0.7以上であってもよい。 上記静摩擦係数は、本フィルムの少なくとも一方の面において3以下であることを要するが、他の面の静摩擦係数は3を超えるものであってもよいし、3以下であってもよい。
なお、静摩擦係数はステンレス板(SUS430)に対して測定される値であり、実施例に記載の方法により得られる値である。
【0018】
静摩擦係数は、フィルムの成形方法、フィルムの材質、表面部分のゲル分率などにより適宜調整可能である。
具体的には、表面形状を適宜調整することで静摩擦係数を調整でき、例えば、表面部分に粗さを付与することによって静摩擦係数を小さくできる。静摩擦係数を調整する方法としては、例えば、サンドブラスト処理、ショットブラスト処理、エッチング処理、彫刻処理、エンボスロール転写、エンボスベルト転写、エンボスフィルム転写、表面結晶化等種々の方法により凹凸を付与する方法が挙げられる。フィルムに対して粒子を添加することでも表面形状を変化させて、静摩擦係数を調整できる。
具体的な一態様としては、表面に凹凸を有する離型フィルム上に、本フィルムを形成するための樹脂組成物をラミネート又は押出してフィルム状にし、これに離型フィルム側から放射線を照射することで、上述のように表層部分を架橋するとともに、離型フィルムの凹凸を転写することで、静摩擦係数が3以下であるフィルムを製造することができる。
【0019】
<粘弾性特性(貯蔵弾性率)>
本フィルムは、下記(a)の粘弾性特性を有することが好ましい。
(a)測定温度20℃、周波数10Hzでの貯蔵弾性率E’が0.1MPa以上500MPa以下。
貯蔵弾性率E’が0.1MPa以上であると、本フィルムが離型フィルムにラミネートされるタイプの場合に、本フィルムが適度な硬さを有することで、離型フィルムからの剥離が容易になり、また、剥離時に破れが発生する懸念がなくなる。また離型フィルムを剥がした後であっても形状を保持することができる。一方、貯蔵弾性率E’が500MPa以下であると、フィルムは適度な柔軟性を有し、成形時の型への追従性や賦形性が良好となる。
以上の観点から、E’は、0.5MPa以上300MPa以下が好ましく、0.8MPa以上200MPa以下がより好ましく、1.0MPa以上100MPa以下がさらに好ましく、1.2以上10MPa以下がよりさらに好ましく、1.5MPa以上5MPa以下が特に好ましい。
【0020】
また、本フィルムは硬化後の状態で、下記(b)~(d)の粘弾性特性を有することが好ましい。
(b)測定温度20℃、周波数10Hzでの貯蔵弾性率E’20が0.1MPa以上500MPa以下。
(c)測定温度100℃、周波数10Hzでの貯蔵弾性率E’100が0.1MPa以上500MPa以下。
(d)上記のE’100/E’20が0.2以上1.0以下。
【0021】
(b)測定温度20℃、周波数10Hzでの貯蔵弾性率E’20が0.1MPa以上であると、硬化後に一定の硬さを有するので、硬化後のハンドリング性などが良好となる。一方、E’20が500MPa以下であると、本フィルムを振動板として用いた際に、振動板の音質及び再生性などの音響特性が優れる傾向となる。音響特性及び硬化後のハンドリング性の観点から、硬化後の20℃での貯蔵弾性率E’20は、1MPa以上400MPa以下がより好ましく、2MPa以上200MPa以下がさらに好ましく、3MPa以上50MPa以下がよりさらに好ましく、4MPa以上10MPa以下が特に好ましい。
【0022】
また、(c)測定温度100℃、周波数10Hzでの貯蔵弾性率E’100が、0.1MPa以上500MPa以下であると、耐熱性が良好となり、高温環境下でも、優れた音響特性が得られることが期待される。音響特性及び硬化後のハンドリング性の観点から、貯蔵弾性率E’100は、1MPa以上400MPa以下であることがより好ましく、2MPa以上200MPa以下であることがさらに好ましく、3MPa以上50MPa以下がよりさらに好ましく、3.5MPa以上10MPa以下が特に好ましい。
【0023】
また、(d)貯蔵弾性率の比(E’100/E’20)を0.2以上1.0以下の範囲内とすることで、温度変化に伴う弾性率変化が小さくなり、耐熱性が良好となる傾向にある。また、加熱した際の弾性率変化が小さいため、高温環境下における音質が低下しにくくなり、低温域から高温域まで音の再生性を優れたものに維持しやすくなる。
以上の観点から、上記比(E’100/E’20)は、0.25以上0.99以下であることがより好ましく、0.3以上0.97以下であることがさらに好ましく、0.35以上0.95以下であることがよりさらに好ましい。
なお、貯蔵弾性率は、200℃で2分間加熱しながら圧力0.2MPaで2枚の平板よりプレス成形する簡易的な方法で硬化させ、実施例に記載の方法で測定した値である。
【0024】
本フィルムは、硬化性を有するフィルムであり、硬化のタイプとしては、光硬化性、湿気硬化性、熱硬化性等のいずれでもよいが、熱硬化性を有することが好ましい。本フィルムは、熱硬化性を有することで、加熱しながら賦形成形する際に硬化させることができるので、賦形性がより一層良好となる。なお、本フィルムは、硬化性を有するので、加熱等の硬化処理をすることでそのゲル分率が上昇するものである。
【0025】
本フィルムは、架橋構造を有することが好ましい。適度な架橋構造を有することで、架橋硬化した際に好適な粘弾性特性を有するフィルムが得やすくなる。また、硬化前(すなわち、成形前)における形状保持性が向上しやすくなる。
本フィルムは、上述のように、表面部分が架橋されていて、内部が未硬化の状態であってもよいが、フィルム全体としては、フィルムの柔軟性、成形時の型への追従性や賦形性を考慮すると、適度な架橋度を有するフィルムであることが好ましい。すなわち、フィルム全体の硬度としては、未架橋フィルムよりも硬く、完全硬化されたフィルムよりも柔らかいフィルムであることが好ましい。
本発明において架橋構造の有無は、縮合型の場合はフィルム中に微量に含まれる未反応の架橋剤と反応後(分解された)架橋剤の存在、付加型の場合は架橋反応に関与したビニル基の存在によって、同定することができる。
【0026】
本フィルムの厚みは、特に限定されないが、5μm以上500μm以下が好ましく、15μm以上400μm以下がより好ましく、30μm以上300μm以下がさらに好ましい。フィルムの厚みがかかる範囲であれば、フィルム製造工程時に厚みブレが少ないフィルムを製造することができ、かつ、例えば、振動板に適した厚みの成形品を製造できる。
【0027】
<引張破断伸度>
本フィルムは、硬化後の状態で、引張破断伸度が100%以上であることが好ましく、200%以上であることがより好ましく、300%以上であることがさらに好ましい。引張破断伸度がかかる範囲にあれば、フィルムの靭性が高くなることで、長時間の振動による破断が起こりにくく、振動板などの音響部材に使用した際の耐久性が優れる傾向となる。なお、引張破断伸度は大きければ大きいほどよく、特に上限は無いが、通常は1500%以下である。
なお、引張破断伸度は、JIS K7161:2014に準じた方法により、引張速度200mm/分、23℃の環境下で、TD(樹脂の流れ方向に直交する方向)について、硬化後の本フィルムが破断したときの伸度を測定することで得られる。
【0028】
本フィルムを形成するための樹脂組成物には、上記ポリオルガノシロキサンに加えて、架橋剤が配合されてもよく、中でも有機過酸化物が配合されることが好ましい。有機過酸化物を配合することで、その後の賦形成形などにおいて、本フィルムを容易に硬化させることができる。
フィルムの柔軟性、成形時の型への追従性や賦形性を考慮すると、適度な架橋度を有するフィルムであることが好ましい。すなわち、硬度としては、未架橋フィルムよりも硬く、完全硬化されたフィルムよりも柔らかいフィルムであることが好ましい。例えば、ゲル分率が所望の範囲内となるように、半硬化の状態であるとよい。
【0029】
有機過酸化物としては、例えばジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン等のアルキル過酸化物、2,4-ジクミルパーオキサイド等のアラルキル過酸化物等の有機過酸化物が挙げられるが、架橋速度や安全性の観点から、アルキル過酸化物、特に、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンが好ましい。
【0030】
本フィルムを形成するための樹脂組成物中の有機過酸化物の配合量は、樹脂組成物全量基準で、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.03質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.05質量%以上4質量%以下がさらに好ましく、0.1質量%以上3質量%以下が特に好ましく、0.3質量%以上2質量%以下がとりわけ好ましい。有機過酸化物の配合量がかかる範囲であれば、十分な硬化速度を有する組成物が安全に得られる傾向となる。
【0031】
本フィルムを形成するための樹脂組成物は、ポリオルガノシロキサンを含むミラブル型であることが好ましい。ミラブル型の樹脂組成物は、未硬化状態(例えば、放射線照射前の未硬化状態)において、室温(25℃)で自己流動性がない非液状(例えば、固体状又はペースト状)ではあるが、後述する混練機によって均一に混合できる。
【0032】
また、本フィルムを形成するための樹脂組成物は、樹脂としてシリコーン樹脂(ポリオルガノシロキサン)以外の樹脂を混合してもよい。
また、本フィルムは充填材を含有していてもよい。充填材としては、セリア(酸化セリウム)、煙霧質シリカ、又は沈降性シリカ等のシリカが好適に挙げられる。本フィルムは、充填材を含有させることで、フィルムの貯蔵弾性率や、引張破断伸度等の機械物性を適切な範囲としやすくなる。また、充填材を使用することで、樹脂組成物の粘度や硬度を調整しやすく、樹脂組成物の流動性や二次加工性のバランスも最適化しやすくなる。さらに、音響部材の設計や音響特性に合わせて硬度を適宜調整しやすくなるといった利点がある。
なお、充填材は、ゲル分率の測定においてはゲル分の一部を構成し、本フィルムのゲル分率は、充填材を含有することで高くなる。充填材を含有することで、ゲル分率が高くなっても、架橋することでゲル分率が高くなる場合と同様に、本フィルムの硬度を高めることができる。
【0033】
本フィルムを形成するための樹脂組成物中の充填材の含有量は、樹脂組成物全量基準で、例えば10質量%以上50質量%以下、好ましくは15質量%以上40質量%以下、より好ましくは20質量%以上35質量%以下である。また、充填材の平均粒子径は、例えば0.01μm以上、20μm以下、好ましくは0.1μm以上、10μm以下、より好ましくは0.5μm以上、5μm以下である。充填材の平均粒子径は、レーザー光回折法等による粒度分布測定装置を用い、メジアン径(D50)として測定することができる。
【0034】
本フィルムを形成するための樹脂組成物は、効果を損なわない範囲で、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、抗菌・防かび剤、帯電防止剤、滑剤、顔料、染料、難燃剤、耐衝撃性改良剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0035】
本発明において、ポリオルガノシロキサンは市販品も使用可能である。また、ポリオルガノシロキサンに加え、セリア系充填材、シリカ系充填材などの添加剤を含有する混合物の市販品を使用してもよい。具体的には、信越化学工業株式会社製の商品名「KE-5550-U」、「KE-597-U」、「KE-594-U」なども使用できる。
【0036】
<離型フィルム付きシリコーンフィルム>
本フィルムは、離型フィルムが付され、離型フィルム付きシリコーンフィルムとして使用されてもよい。離型フィルム付きシリコーンフィルムは、上記した本フィルムと、本フィルムの少なくとも片面に設けられた離型フィルムとを備える。
また、離型フィルム付きシリコーンフィルムにおいては、本フィルムの両面に離型フィルムが設けられることが好ましい。
【0037】
離型フィルムとしては、樹脂フィルムであってもよいし、樹脂フィルムの少なくとも片面が離型処理された離型層を有するフィルムであってもよい。離型フィルムは、離型層を有する場合には、離型層が本フィルムに接触するように本フィルムに積層されるとよい。
離型フィルムに使用される樹脂としては、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ABS樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂などが例示できる。これらの中では、ポリエステル系樹脂が好ましく、中でもポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましい。
離型フィルムの厚さは、特に制限はないが、好ましく5μm以上150μm以下、より好ましくは7μm以上120μm以下、さらに好ましくは10μm以上100μm以下、特に好ましくは10μm以上80μm以下である。
【0038】
本フィルムは、離型フィルムが付されることで、離型フィルムによって保護される。したがって、輸送するときなどに本フィルムに傷が付いたりすることを防止する。なお、離型フィルムは、本フィルムを製造する際に積層される離型フィルムをそのまま使用してもよいし、製造された本フィルムに対して別途積層してもよい。
また本フィルムは、後述する通りに例えば賦形成形などにより成形されるが、離型フィルムは成形時には本フィルムから剥がされたうえで、金型などの型にセットされるとよい。その際に、本フィルムは離型フィルムから破れることなく剥離することができる。
【0039】
<本フィルムの製造方法>
本フィルムは、一般的な成形法により成形することができ、例えば、押出成形等により成形することができる。フィルムを得るための樹脂組成物を下記するように混練等により得て、これを押出成形等により成形すればよい。なお、静摩擦係数を3以下に調整するために、上記したようにフィルムに対してエンボス加工等の後加工を施してもよい。
また、凹凸を有する離型フィルムを用いて、ラミネート成形により、離型フィルムの間又は離型フィルムの上に、樹脂組成物を積層して、静摩擦係数を3以下に調整した離型フィルム付きの本フィルムを得てもよい。
【0040】
各樹脂組成物は、特に限定されないが、例えば樹脂組成物を構成する材料を混練することで得ることができる。混練に使用する混練機としては、単軸又は二軸押出機などの押出機、2本ローラーや3本ローラー等のカレンダーロール、ロールミル、プラストミル、バンバリーミキサー、ニーダー、プラネタリーミキサー等の公知の混練機を用いることができる。
混練温度は、樹脂の種類や混合比率、添加剤の有無や種類に応じて適宜調整されるが、架橋(硬化)を抑制しつつ樹脂の粘度を適度に下げて混練しやすくするため、20℃以上150℃以下であることが好ましく、30℃以上140℃以下であることがより好ましく、40℃以上130℃以下であることがさらに好ましく、50℃以上120℃以下であることが特に好ましく、60℃以上110℃以下であることがとりわけ好ましい。
混練時間は、樹脂組成物を構成する材料が均一に混合される程度であればよく、例えば、数分~数時間、好ましくは5分~1時間である。
【0041】
本フィルムは上記のようにして得られたフィルムに対して、加熱、光照射、湿気付与又はこれらを組み合わせて行うことで、フィルムを部分的に硬化させることができる。本発明においては、フィルム性状を容易に調整できる点、早い速度で大量生産できる点から、放射線により行うことが好ましい。
【0042】
[成形品]
本フィルムは、金型などの型により成形し、かつ硬化されることで成形品に成形することができ、典型的には型により賦形成形して各種の成形品に成形するとよい。硬化は、本フィルムの特性に応じて行うとよく、加熱、光照射、湿気付与又はこれらの組み合わせで行うとよいが、加熱により行うことが好ましい。本フィルムは、振動板用フィルムとして有用であり、本フィルムからなる成形品は振動板等の音響部材として特に有用である。
【0043】
本発明において、上記フィルムから得られる成形品のゲル分率は、80%以上であればよい。ゲル分率が80%以上であると、音響部材に適した貯蔵弾性率と、機械強度とを有する成形品を得やすくなる。成形品のゲル分率は、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。また、成形品のゲル分率は、上限に関して特に限定されず、100%以下であればよいが、一般的には100%より低く、例えば、99%以下であってもよい。なお、成形品のゲル分率とは、成形品全体のゲル分率であり、成形品の厚み方向に均等にサンプリングして測定するとよい。ゲル分率の測定方法の詳細は実施例に記載の通りである。
【0044】
<成形品の製造方法>
成形品は、本フィルムを用いて得ることができる。以下、本フィルムを用いた成形品の製造方法について説明する。
本フィルムから成形品を得る場合には、少なくとも以下の工程1及び工程2を行うことが好ましい。
工程1:本フィルムを加熱して型により成形し、かつ本フィルムを硬化させる工程
工程2:成形かつ硬化された本フィルム(すなわち、成形品)を型から剥がす工程
【0045】
以下、各工程についてより詳細に説明する。
(工程1)
工程1では、本フィルムを加熱して型により成形し、かつ本フィルムを硬化して成形品を成形する。成形品は、型により賦形成形されるとよく、それにより、所望の形状に成形される。工程1における成形は、特に限定されず、真空成形、圧空成形、プレス成形等のいずれかの成形方法により行うとよいが、これらの中では、成形がより簡便な点からプレス成形が好ましい。
【0046】
型としては、成形方法に応じた型を用意すればよいが、型には、製造される成形品の形状に応じた凹凸等を設けるとよい。型としては、典型的には金属製の型(金型)を使用するが、樹脂製の型でもよい。例えば後述のとおり成形品(振動板)がドーム形状又はコーン形状の少なくともいずれかを有するならば、型にはドーム形状又はコーン形状に対応した凹凸を設けるとよい。また、成形品(振動板)が表面にタンジェンシャルエッジを有する場合には、型にはタンジェンシャルエッジに応じた凹凸を設けるとよい。
【0047】
本フィルムは、上記の通り、離型フィルムが付されることがあるが、本フィルムは、上記の通り離型フィルムが剥がされたうえで、型にセットされるとよい。
【0048】
工程1では、加熱した本フィルムを型によって賦形すればよく、例えば、型上に配置した本フィルムを加熱しつつ型により賦形してもよいし、予め加熱した本フィルムを型上に配置し、その後型により賦形してもよいし、これらを組み合わせてもよい。また、本フィルムは、いかなる方法で加熱してもよく、例えば、型上に配置したフィルムを加熱する場合には、型を加熱しその伝熱で加熱してもよいし、他の方法で加熱してもよい。
【0049】
賦形又は硬化時の加熱温度は180℃以上260℃以下であることが好ましく、190℃以上250℃以下であることがより好ましく、200℃以上240℃以下であることがさらに好ましい。賦形又は硬化時の温度がかかる範囲であれば、本フィルムが熱で溶融変形しない範囲で十分な速度で硬化が可能となる傾向がある。
【0050】
賦形時間は、1秒以上5分以下であることが好ましく、5秒以上4分以下であることがより好ましく、10秒以上3分以下であることがさらに好ましく、20秒以上2分以下であることが特に好ましい。賦形時の熱処理時間がかかる範囲であれば、生産性を維持したまま十分に硬化させやすい傾向となる。
なお、本フィルムは、好ましくは賦形しながら硬化されるが、特に限定されず賦形後に硬化されてもよい。なお、賦形時間とは、本フィルムが型内で賦形ないし硬化されている時間をいい、賦形開始前および賦形終了後の型移動時間や、積層体を離型する際の時間は含まないものとする。
【0051】
(工程2)
工程2では、工程1で成形かつ硬化された本フィルムを型から剥がし、成形品を得る。本発明では、本フィルムのゲル分率が一定値未満であるため、賦形性が高く、かつ型へのフィルムの追従性が高い。そのため、成形品は、高い成形精度で製造することができる。
また、本フィルムは、特定の粘弾性特性を有することから、形状保持性が高く、ハンドリング性が良好である。さらに、離型フィルムから剥離する際に破れることがなく、剥離することができ、フィルムの形状を維持したまま金型に容易にセットすることができる。そして、離型フィルムが積層されないことで、成形品から離型フィルムを剥がす工程が省略できるので、量産化もしやすくなる。
【0052】
[用途]
本発明のシリコーンフィルムは、音響部材に好適に使用することができる。具体的には、音響部材用フィルムとして好適に用いることができ、特に振動板用フィルムとして好適に用いることができる。本発明の音響部材、例えば振動板は、本フィルムを硬化してなるものであることが好ましく、具体的には上記した成形品よりなるとよい。音響部材は、振動板、具体的にはスピーカー振動板であることがより好ましく、特に携帯電話等のマイクロスピーカー振動板として好適に使用できる。
【0053】
本フィルムは、適宜成形されることで振動板などの各種の音響部材とすることができる。
音響部材は、例えば、少なくとも一部がドーム形状やコーン形状などを有するとよい。また、音響部材は、表面にタンジェンシャルエッジを有してもよい。ドーム形状またはコーン形状を有し、あるいは、タンジェンシャルエッジを有する場合には、音響部材は、好ましくは振動板、より好ましくはスピーカー振動板に使用される。
【0054】
(振動板)
振動板についてより詳細に説明すると、振動板の形状は特に制限されず、任意であり、円形状、楕円形状、オーバル形状等が選択できる。また、振動板は、一般的に、電気信号などに応じて振動するボディと、ボディの周囲を囲むエッジとを有する。振動板のボディは、通常、エッジにより支持される。振動板の形状は、上記のとおりドーム状、コーン状でもよいし、これらを組み合わせた形状でもよいし、振動板に使用されるその他の形状でもよい。
【0055】
本フィルムは、音響部材の少なくとも一部を形成すればよく、例えば、振動板のボディ又はエッジが本フィルムにより形成され、振動板のエッジ又はボディが別の部材により形成されてもよい。もちろん、ボディ及びエッジの両方が、本フィルムにより一体的に形成されてもよく、振動板全体が、本フィルムにより形成されてもよい。
【0056】
図1は、本発明の一実施形態に係る振動板1の構造を示す図であり、平面視で円形の振動板1を、円の中心線を通る面で切断した断面図である。振動板1はマイクロスピーカー用振動板である。
図1に示すように、振動板1は、ドーム部(ボディ)1aを中心に、ボイスコイル2に取り付ける凹嵌部1b、周縁部(エッジ)1c、および、その外周にフレーム等に貼り付ける外部貼付け部1dを有する。
【0057】
図2は、本発明の他の実施形態に係る振動板11の構造を示す図であり、平面視で円形の振動板11を、円の中心線を通る面で切断した断面図である。振動板11はマイクロスピーカー用振動板である。
図2に示すように、振動板11は、ドーム形状に加工されたドーム部(ボディ)11aを中心に、ボイスコイル2に取り付ける凹嵌部11b、コーン形状に加工されたコーン部11j、および、周縁部(エッジ)11cを有する。振動板11に例示するように、振動板は、一部がドーム形状に加工され、且つ、該一部を除く他の一部がコーン形状に加工されていてもよい。なお、振動板11は、それぞれ周縁部11cを直接フレーム等に取り付けてもよく、他の部材を介してフレーム等に取り付けてもよい。
【0058】
振動板の表面には、上記のとおり、タンジェンシャルエッジを付与してもよい。タンジェンシャルエッジは、例えば、横断面形状がV字状の溝などにより構成されるとよい。
図3には、本発明の他の実施形態に係る振動板21の平面図を示す。振動板21は、円形のドーム部(ボディ)21aの外周縁部に、複数のタンジェンシャルエッジ21eが付与されたタンジェンシャルエッジ部21gと、タンジェンシャルエッジ部21gの外周に配置された複数のタンジェンシャルエッジ21fが付与されたタンジェンシャルエッジ部21hを有する。なお、
図3では、径方向に沿って2つのタンジェンシャルエッジ部が設けられる例を示すが、タンジェンシャルエッジ部は径方向に沿って1つのみであってもよいし、3つ以上設けられてもよい。
【0059】
なお、振動板は、上記の通りスピーカー振動板、中でもマイクロスピーカー振動板であることが好ましい。マイクロスピーカー振動板として好適に使用する観点から、振動板の大きさは、最大径が25mm以下、好ましくは20mm以下であり、また最大径が5mm以上のものが好適に用いられる。なお、最大径とは振動板の形状が円形状の場合には直径、楕円形状やオーバル形状の場合には長径を採用するものとする。
【0060】
振動板は、本フィルム単体により成形されてもよいし、本フィルムと他の部材との複合材により成形されてもよい。例えば、上記のとおりエッジまたはボディのいずれかを他の部材により形成してもよい。
【0061】
さらに、振動板の二次加工適性や防塵性あるいは、音響特性の調整や意匠性向上等のために、振動板の表面にさらに帯電防止剤をコーティングしたり、金属を蒸着したり、スパッタリングしたり、着色(黒色や白色など)したりするなどの処理を適宜行ってもよい。さらに、アルミニウムなどの金属との積層、あるいは、不織布との複合化などを適宜行ってもよい。
【0062】
(音響変換器)
本発明の音響変換器は、上記した音響部材、好ましくは振動板を備える音響変換器である。音響変換器としては、典型的には電気音響変換器であり、スピーカー、レシーバ、マイクロホン、イヤホン等が挙げられる。音響変換器は、これらの中では、スピーカーであることが好ましく、携帯電話等のマイクロスピーカーが好適である。
【実施例0063】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0064】
[評価及び測定方法]
本実施例では、以下の通りに各種物性の測定及びフィルムの評価を行った。
【0065】
(1)表面摩擦係数(静摩擦係数)
各実施例及び比較例で得られた本フィルムの最表裏面それぞれとステンレス板(SUS430)との静摩擦係数を測定した。静摩擦係数は、各実施例及び比較例で得られた熱成形前の本フィルム最表面に対して2回ずつ測定し、これらの平均値より求めた。静摩擦係数の具体的な測定方法は、以下のとおりである。
JIS K7125:1999を参照して、本フィルムの表面とステンレス板とを試験開始前に15秒間接触保持させたのち、以下の条件で縦方向(MD)に測定を実施し、ステンレス板との静摩擦係数を評価した。
・装置:プラスチックフィルムすべり試験機(インテスコ社製)
・滑り片:全質量200g(接触面積が一辺63mmの正方形)
・接触面積:400cm2
・試験速度:100mm/min
・温度:23℃±2℃
・相対湿度:50%±10%
(2)ゲル分率の測定
以下の方法でプレス成形前及びプレス成形後のフィルムのゲル分率を測定した。なお、下記測定方法から明らかなように、ゲル分率は、フィルムに含まれる架橋成分のみならず、充填材などの架橋成分以外の不溶解分もゲル分として含めて算出される。
(1-1)フィルムの厚み方向と平行して均等に切り出してサンプルを約100mg採取して、そのサンプル質量(a)を測定した。
(1-2)採取したサンプルをクロロホルムに23℃の条件で24時間浸漬した。
(1-3)クロロホルム中の固形分を取り出し、50℃で7時間真空乾燥した。
(1-4)乾燥後の固形分の質量(b)を測定した。
(1-5)質量(a)、(b)を用いて、以下の式(vi)に基づいてゲル分率を算出した。
【0066】
【0067】
(3)貯蔵弾性率E’
各実施例、比較例で得られた本フィルムから4mm×8cmの試験片を切り出し、測定試料として得た。その測定試料を用いて、JIS K7244-4:1999に準拠して、粘弾性スペクトロメーター「DVA-200(アイティー計測制御株式会社製)」を用い、測定モードを引張で、周波数10Hz、歪み0.1%、温度範囲0~300℃、加熱速度3℃/minで昇温させ、20℃及び100℃における貯蔵弾性率を測定した。
なお、20℃の貯蔵弾性率の測定は、プレス成形前及びプレス成形後のフィルムに対して行った。また、プレス成形後については、100℃の貯蔵弾性率の測定も行った。
【0068】
(4)ハンドリング性
(4-1)破れの有無
離型フィルム付きフィルムから離型フィルムを手で剥がす工程において、破れの有無を評価した。フィルムが破れることなく離型フィルムを剥がせたものを評価「〇」、離型フィルムにとられてフィルムの一部に破れがあったものを評価「×」とした。
なお、破れの有無以外の各種評価及び測定の際には離型フィルムを剥がした状態の本フィルムを用いた。
(4-2)形状保持性
各実施例、比較例で得られた硬化前の本フィルムについて形状保持性を評価した。離型フィルムから本フィルムを剥がして各種評価や測定に用いる際に、形状が保持されているため容易に操作できたものを評価「〇」、形状が保持できず操作の過程で撓んでフィルム自身が絡まったり切れたりしたものを評価「×」とした。
【0069】
(5)賦形性
各実施例及び比較例で得られた本フィルムから7cm×10cmほどの試験片を切り出し、評価試料とした。予め230℃に加熱した、タンジェンシャルエッジがついたドーム形状の振動板用の金型に評価試料を挟み込んで0.1MPaの圧力でプレスし、加圧した状態で20秒保持してから試料を金型から取り出した。
取り出した後の試料を目視で確認し、金型通りの凹凸が賦形されているものを評価「〇」、金型よりも小さい凹凸しか賦形されていないものや凹凸が賦形されていないものを評価「×」とした。
【0070】
(6)金型貼り付き性
上記の成形性・賦形性の評価と同様に各実施例及び比較例で得られた本フィルムから7cm×10cmほどの試験片を切り出し、評価試料とした。予め230℃に加熱した振動板用の金型に評価試料を挟み込んで0.1MPaの圧力でプレスし、加圧した状態で20秒保持してから試料を金型から取り出した。
金型から評価試料を取り出す際に、評価試料が金型に貼りつかず容易に取り出せたものを評価「〇」、評価試料が金型に貼りつき引っ掛かりがあったものを評価「×」とした。
【0071】
<原料>
・シリコーンゴム(A-1):オルガノポリシロキサンとシリカの混合物。(商品名「KE-597-U」、信越化学工業株式会社製)
・有機過酸化物コンパウンドシリコーンゴム(B-1)、以下単に「有機過酸化物」と記載する。):2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンを約40%含有したシリコーンゴム(商品名「C-8B」、信越化学工業株式会社製)
【0072】
実施例1
原料としてシリコーンゴム(A-1)100質量部と、有機過酸化物(B-1)1質量部を、ミキサーを用いて、温度90℃で5分間混練して、ミラブル型の樹脂組成物(1)を得た。離型フィルムとしてマット面の表面粗さ(Ra)が0.98μmのPETフィルム(1)を用意して、マット面が内側になるように径100mmの2本のカレンダーロールに沿って供給した。離型フィルムの間に、樹脂組成物(1)を投入して、ロール温度90℃でロールにバンクを形成させ、樹脂組成物(1)の厚みが100μmになるように調整して離型フィルム付きのシリコーンフィルムを得た。得られたシリコーンフィルムに対して、放射線を照射した。放射線を照射した後、両面の離型フィルムを剥離して、シリコーンフィルムのサンプルを得た。得られたサンプルを、賦形成形により成形品を製造することを想定して、200℃で2分間加熱しながら圧力0.2MPaで2枚の平板よりプレス成形する簡易的な方法で硬化させた。プレス成形前の本サンプルについて、表面摩擦係数、ゲル分率および貯蔵弾性率を測定し、ハンドリング性、賦形性、金型への貼りつきを評価した。また、プレス成形後の本サンプルについて、ゲル分率、貯蔵弾性率を測定した。結果を表1に記す。
【0073】
比較例1
離型フィルムとして表面粗さ(Ra)が0μmのPETフィルム(2)を用いた以外は実施例1と同様の方法でサンプルを得た。プレス成形前の本サンプルについて、表面摩擦係数、ゲル分率および貯蔵弾性率を測定し、ハンドリング性、賦形性、金型への貼りつきを評価した。また、プレス成形後の本サンプルについて、ゲル分率、貯蔵弾性率を測定した。
【0074】
比較例2
放射線を照射するかわりに、200℃で2分間加熱処理を行った以外は、実施例1と同様の方法でサンプルを得た。プレス成形前の本サンプルについて、表面摩擦係数、ゲル分率および貯蔵弾性率を測定し、ハンドリング性、賦形性、金型への貼りつきを評価した。また、プレス成形後の本サンプルについて、ゲル分率、貯蔵弾性率を測定した。
【0075】
【0076】
表1に示されるように、実施例1の離形フィルム付きシリコーンフィルムは、放射線照射によって半架橋されているため、破れることなく離型フィルムから剥離することができ、離型フィルムを剥がした後でもフィルムの形状が適切に保持されてハンドリング性に優れる。
さらに、プレス成形後(硬化後)のフィルムが、上記した(b)~(d)の粘弾性特性を満たすため、実施例1のフィルムによって振動板を成形すると、音質及び再生性などの音響特性に優れることが期待できる。
【0077】
実施例1で得られた本フィルムについて、上記方法で賦形性を評価したところ、実用性に耐え得る程度の賦形性を示した。
また、実施例1で得られた本フィルムは、金型への貼り付き性評価においても、金型から評価試料を取り出す際に、評価試料が金型に貼りつかず容易に取り出せた。
一方、比較例1のフィルムでは、表面摩擦係数(静摩擦係数)が大きいことから、金型からの脱離が困難であり、取り扱いが難しいことがわかった。また、比較例2のフィルムでは、完全硬化していることから、硬化性を有さず、フィルムが硬く、賦形性が不十分であり、成形性に劣ることがわかった。
本発明のフィルムから得られる成形体は、成形体を製造するに際し、金型から容易に取り出すことができることから、種々の成形体に応用が可能である。特に、振動板として有用であり、産業上の意義は大きい。