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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036560
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】ワーク分割装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20240308BHJP
【FI】
H01L21/78 R
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024016561
(22)【出願日】2024-02-06
(62)【分割の表示】P 2023032102の分割
【原出願日】2016-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(72)【発明者】
【氏名】清水 翼
(57)【要約】
【課題】チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題と、分割後のチップ同士の接触に起因するチップの品質低下の問題とを同時に解消することができるワーク分割装置を提供する。
【解決手段】ワーク分割装置(10)において、ダイシングテープにおけるワークの貼付面と反対側の裏面側に配置されたエキスパンドリングを、ダイシングテープに対して相対的に近づく方向に移動させることにより、ダイシングテープのうちフレームの内縁部よりも内側の環状部領域をエキスパンドリングによって押圧して、ダイシングテープを拡張し、ダイシングテープにおけるワークの貼付面と同一側に配置された拡張規制リング(16)を、環状部領域のうちエキスパンドリングの押圧位置よりも外側の位置に当接させて、環状部領域のうち拡張規制リングに当接された当接部を境として外周側に位置する外周側領域の拡張を規制する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの外径よりも大きい内径を有するリング状のフレームにダイシングテープの外周部が固定され、前記ダイシングテープに貼付された前記ワークを分割予定ラインに沿って個々のチップに分割するワーク分割装置において、
前記ダイシングテープにおける前記ワークの貼付面と反対側の裏面側に配置され、前記フレームの内径よりも小さく、かつ前記ワークの外径よりも大きい開口部を有するリング状に形成されたエキスパンドリングであって、前記ダイシングテープに対し相対的に近づく方向に移動されることにより前記ダイシングテープを押圧して拡張するエキスパンドリングと、
前記ダイシングテープにおける前記ワークの貼付面と同一側に配置され、前記フレームの内径よりも小さく、かつ前記エキスパンドリングの外径よりも大きい開口部を有するリング状に形成された拡張規制リングであって、前記ダイシングテープの拡張の際に前記ダイシングテープに当接されて前記ダイシングテープのうち前記拡張規制リングに当接された当接部を境として外周側に位置する外周側領域の拡張を規制する拡張規制リングと、
前記ダイシングテープにおける前記ワークの貼付面と反対側の裏面側に配置され、前記フレームの内径よりも大きいリング状に形成され、前記ダイシングテープの拡張状態を保持する拡張保持リングと、
を備える、ワーク分割装置。
【請求項2】
前記フレームを固定するフレーム固定部材を有し、
前記拡張規制リングは、前記外周側領域の拡張を規制する位置で前記フレーム固定部材に着脱自在に固定される、請求項1に記載のワーク分割装置。
【請求項3】
前記フレーム固定部材は、前記フレームの内径よりも大きい開口部を有するリング状に構成され、
前記拡張規制リングは、前記フレーム固定部材の前記開口部の内周面に装着される、請求項2に記載のワーク分割装置。
【請求項4】
前記フレーム固定部材には、前記拡張規制リングを着脱自在に固定する固定部材が設けられる、請求項2又は3に記載のワーク分割装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワーク分割装置及びワーク分割方法に係り、特に、半導体ウェーハ等のワークを分割予定ラインに沿って個々のチップに分割するワーク分割装置及びワーク分割方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体チップ(以下、チップと言う。)の製造にあたり、ダイシングブレードによるハーフカット或いはレーザ照射による改質領域形成により予めその内部に分割予定ラインが形成された半導体ウェーハ(以下、ウェーハと言う。)を、分割予定ラインに沿って個々のチップに分割するワーク分割装置が知られている(特許文献1等参照)。
【0003】
図12は、ワーク分割装置によって分割される円盤状のウェーハ1が貼付されたウェーハユニット2の説明図であり、図12(A)はウェーハユニット2の斜視図、図12(B)はウェーハユニット2の縦断面図である。
【0004】
ウェーハ1は、片面に粘着層が形成された厚さ約100μmのダイシングテープ(拡張テープ又は粘着シートとも言う。)3の中央部に貼付され、ダイシングテープ3は、その外周部が剛性のあるリング状のフレーム4に固定されている。
【0005】
ワーク分割装置では、ウェーハユニット2のフレーム4が、二点鎖線で示すフレーム固定部材(フレーム固定機構とも言う。)7に当接されて固定される。この後、ウェーハユニット2の下方から二点鎖線で示すエキスパンドリング(突上げリングとも言う。)8が上昇移動され、このエキスパンドリング8によってダイシングテープ3が押圧されて放射状に拡張される。このときに生じるダイシングテープ3の張力が、ウェーハ1の分割予定ライン5に付与されることにより、ウェーハ1が個々のチップ6に分割される。分割予定ライン5は、互いに直交するX方向及びY方向に形成されている。分割予定ライン5に関して、X方向と平行な本数とY方向と平行な本数とが同数の場合であって、それぞれの方向の間隔が等しい場合には、分割されたチップ6の形状は正方形となる。また、X方向と平行な本数とY方向と平行な本数とが異なる場合であって、それぞれの方向の間隔が等しい場合には、分割されたチップ6の形状は長方形となる。
【0006】
ところで、ダイシングテープ3はヤング率が低く柔軟な部材である。このため、ウェーハ1を個々のチップ6に円滑に分割するためには、ダイシングテープ3を冷却し、ダイシングテープ3のバネ定数を大きくした状態でダイシングテープ3を拡張することが考えられる。
【0007】
特許文献2のテープ拡張装置(ワーク分割装置)は、冷気供給手段を備えている。特許文献2によれば、冷気供給手段を作動して、処理空間内に冷気を供給し、処理空間内を例えば0℃以下に冷却することにより、ダイシングテープを冷却している。
【0008】
一方、特許文献3のチップ分割離間装置(ワーク分割装置)では、ダイシングテープに異方性があることに着目し、その異方性を加味してダイシングテープを一様にエキスパンドさせるために、フィルム面支持機構を備えている。このフィルム面支持機構は、円周方向において独立した複数の支持機構を備え、複数の支持機構の相対的な高さを個別に制御してダイシングテープの張力を調整することにより、ダイシングテープのX方向の伸びとY方向の伸びを独立して制御している。
【0009】
ここで、本願明細書において、ダイシングテープ3のうち、ウェーハ1が貼付される平面視円形状の領域を中央部領域3Aと称し、中央部領域3Aの外縁部(ウェーハ1の外縁部)とフレーム4の内縁部との間に備えられる平面視ドーナツ形状の領域を環状部領域3Bと称し、フレーム4に固定される最外周部分の平面視ドーナツ形状の領域を固定部領域3Cと称する。環状部領域3Bが、エキスパンドリング8に押圧されて拡張される領域である。
【0010】
なお、ウェーハ1の分割に要する力は、すなわち、ウェーハ1を分割するために環状部領域3Bに発生させなければならない張力は、分割予定ライン5の本数が多くなるに従って高くしなければならないことが知られている。分割予定ライン5の本数について、例えば、直径300mmのウェーハ1でチップサイズが5mmの場合には約120本(XY方向に各60本)の分割予定ライン5が形成され、チップサイズが1mmの場合は約600本の分割予定ライン5が形成される。よって、環状部領域3Bに発生させなければならない張力は、チップサイズが小さくなるに従って高くしなければならない。
【0011】
一方、ワーク分割装置の分野では、エキスパンドリングによって拡張されたダイシングテープの拡張状態を保持することにより、分割後のチップ同士の接触に起因するチップの品質低下を防止することも要求される。
【0012】
この要求を満足するワーク分割装置として、サブリングを備えたワーク分割装置が特許文献4に開示されている。特許文献4のサブリングは、エキスパンドリングによって拡張されたダイシングテープを拡張した状態で保持する機能を有し、フレームの内径よりも大径に構成されている。サブリングは、ダイシングテープの裏面側からダイシングテープに向けて上昇されてフレームを通過した直後に、ダイシングテープの外周部とフレームの表面との間に挿入される。これにより、エキスパンドリングによるダイシングテープの拡張が終了しても、ダイシングテープの拡張状態が保持される。このようにダイシングテープの拡張状態を保持すれば、ダイシングテープの弛みを阻止することができるので、チップ同士の接触に起因するチップの品質低下を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2016-149581号公報
【特許文献2】特開2016-12585号公報
【特許文献3】特許第5912274号公報
【特許文献4】特開2013-51368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、直径300mmのウェーハ1がマウントされるフレーム4の内径(フレームの内縁部の径)は、SEMI規格(G74-0699 300mmウェーハに関するテープフレームのための仕様)により350mmと定められている。この規格により、図13のウェーハユニット2の縦断面図の如く、ウェーハ1の外縁部とフレーム4の内縁部との間には、25mmの幅寸法を有する環状部領域3Bが存在することになる。また、図14(A)、(B)で示すワーク分割装置の要部縦断面図の如く、フレーム4を固定するフレーム固定部材7は、エキスパンドリング8によって拡張される環状部領域3Bに接触しないように、矢印Aで示すダイシングテープ3の面内方向において環状部領域3Bから外方に離間した位置に設置されている。
【0015】
このため、エキスパンドリング8の上昇動作によって生じるウェーハ1を分割する力は、(i)環状部領域3Bの全領域を拡張する力、(ii)ウェーハ1をチップ6に分割する力、(iii) 隣接するチップ6とチップ6との間のダイシングテープ3を拡張する力の3つの力に分解される。
【0016】
図15(A)~(E)に示すワーク分割装置の動作図の如く、ダイシングテープ3の環状部領域3Bにエキスパンドリング8が当接し、エキスパンドリング8の上昇動作によってダイシングテープ3の拡張が始まると(図15(A))、まず最もバネ定数の低い環状部領域3Bの拡張が始まる(図15(B))。これにより、環状部領域3Bに張力が発生し、この張力がある程度高まると、高まった張力がウェーハ1に伝達されてウェーハ1のチップ6への分割が始まる(図15(C))。ウェーハ1が個々のチップ6に分割されると、環状部領域3Bの拡張とチップ間のダイシングテープ3の拡張とが同時に進行する(図15(D)~(E))。
【0017】
従来のワーク分割装置では、直径300mmのウェーハ1において、チップサイズが5mm以上の場合には、環状部領域3Bで発生した張力により、個々のチップ6に問題無く分割することができた。しかしながら、ウェーハ1に形成される回路パターンの微細化に伴いチップサイズがより小さい1mm以下のチップも現れてきた。この場合、ウェーハ1を分割する分割予定ライン5の本数が増大することに起因して、ウェーハ1の分割に要する力が大きくなり、環状部領域3Bの拡張による張力以上の力が必要となる場合があった。そうすると、図16のウェーハユニット2の縦断面図の如く、エキスパンドリング8による拡張動作が終了しても、ウェーハ1に形成された分割予定ライン5の一部が分割されずに未分割のまま残存するという問題が発生した。
【0018】
このような分割予定ライン5の未分割の問題は、ダイシングテープ3の拡張量や拡張速度を増加させても解消することはできない。例えば、ダイシングテープ3の拡張量を増やした場合には、環状部領域3Bが塑性変形を始めてしまうからである。塑性変形中の環状部領域3Bのバネ定数は、弾性変形中のバネ定数よりも小さいことから、環状部領域3Bの弾性変形を超えた領域では、ウェーハ1を個々のチップ6に分割する張力は発生しない。一方、ダイシングテープ3の拡張速度を増やした場合でも、環状部領域3Bの一部分が塑性変形を始めてしまうので、ウェーハ1を個々のチップ6に分割する張力は発生しない。これはダイシングテープ3の周波数応答が低いため、ダイシングテープ3の全体に時間差なく力が伝達しないからである。
【0019】
分割予定ライン5の未分割の問題を解消するために特許文献2では、ダイシングテープを冷却し、ダイシングテープのバネ定数を大きくすることで対応しているが、近年の1mm以下の小チップに対しては十分な効果を得ることができない。
【0020】
また、特許文献3のチップ分割離間装置は、ダイシングテープのX方向の伸びとY方向の伸びを独立して制御することはできるが、環状部領域の拡張による張力以上の力をウェーハに付与することができないので、分割予定ラインの未分割の問題を解消することはできない。
【0021】
また、特許文献1から3のワーク分割装置では、特許文献4のようなサブリングを備えていないため、分割後のチップ同士の接触に起因するチップの品質低下の問題を招くおそれがある。このように従来のワーク分割装置には、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割の問題を解消しつつ、分割後のチップ同士の接触に起因するチップの品質低下の問題を解消することができるものはなく、そのような装置を実現することが望まれていた。
【0022】
本発明はこのような問題に鑑みて成されたものであり、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題と、分割後のチップ同士の接触に起因するチップの品質低下の問題とを同時に解消することができるワーク分割装置及びワーク分割方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明のワーク分割装置は、本発明の目的を達成するために、ワークの外径よりも大きい内径を有するリング状のフレームにダイシングテープの外周部が固定され、ダイシングテープに貼付されたワークを分割予定ラインに沿って個々のチップに分割するワーク分割装置において、ダイシングテープにおけるワークの貼付面と反対側の裏面側に配置され、フレームの内径よりも小さく、かつワークの外径よりも大きい開口部を有するリング状に形成されたエキスパンドリングであって、ダイシングテープに対し相対的に近づく方向に移動されることによりダイシングテープを押圧して拡張するエキスパンドリングと、ダイシングテープにおけるワークの貼付面と同一側に配置され、フレームの内径よりも小さく、かつエキスパンドリングの外径よりも大きい開口部を有するリング状に形成された拡張規制リングであって、ダイシングテープの拡張の際にダイシングテープに当接されてダイシングテープのうち拡張規制リングに当接された当接部を境として外周側に位置する外周側領域の拡張を規制する拡張規制リングと、拡張規制リングを外周側領域の拡張を規制する位置から退避移動させる拡張規制リング移動機構と、ダイシングテープにおけるワークの貼付面と反対側の裏面側に配置され、フレームの内径よりも大きい弾性変形可能な嵌合部を有するリング状に形成された拡張保持リングであって、拡張規制リング移動機構によって拡張規制リングを外周側領域の拡張を規制する位置から退避させた後、嵌合部がフレームの表面に嵌合することによりダイシングテープの拡張状態を保持する拡張保持リングと、を備える。
【0024】
本発明のワーク分割装置によれば、外周側領域の拡張を規制する位置に拡張規制リングを位置させた状態で、エキスパンドリングをダイシングテープに対し相対的に近づく方向に移動させ、ダイシングテープをエキスパンドリングによって押圧してダイシングテープの拡張を開始すると、ダイシングテープの拡張の際にダイシングテープが拡張規制リングに当接する。このとき、ダイシングテープは、拡張規制リングに当接した当接部を境界として、外周側に位置する外周側領域と、内周側に位置する内周側領域とに分けられる。そして、ダイシングテープが拡張規制リングに当接した以降のエキスパンドリングによる拡張動作では、外周側領域の拡張が拡張規制リングによって規制されながら、内周側領域のみが拡張されていく。つまり、ダイシングテープのバネ定数よりも大きくなった内周側領域のバネ定数の張力がワークに付与される。これにより、ワークに付与される張力が増大するので、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題を解消することができる。そして、チップの分割が終了すると、拡張保持リング移動機構によって拡張規制リングを、外周側領域の拡張を規制する位置から退避させ、その後、拡張保持リングの嵌合部をフレームの表面に嵌合させてダイシングテープの拡張状態を保持する。これにより、本発明によれば、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題と、分割後のチップ同士の接触に起因するチップの品質低下の問題とを同時に解消することができる。
【0025】
本発明の一態様は、フレームを固定するフレーム固定部材を有し、拡張規制リングは、外周側領域の拡張を規制する位置でフレーム固定部材に着脱自在に固定されることが好ましい。
【0026】
本態様によれば、拡張規制リングをフレーム固定部材に固定することで、拡張規制リングを、外周側領域の拡張を規制する位置にて確実に固定することができるので、ダイシングテープの拡張規制を確実に行うことができる。
【0027】
本発明の一態様は、フレーム固定部材は、フレームの内径よりも大きい開口部を有するリング状に構成され、拡張規制リングは、フレーム固定部材の開口部の内周面に装着されることが好ましい。
【0028】
本発明の一態様によれば、外周側領域の拡張を規制する適正な位置に位置拡張規制リングを装着することができる。
【0029】
本発明の一態様は、フレーム固定部材には、拡張規制リングを着脱自在に固定する固定部材が設けられることが好ましい。
【0030】
本発明の一態様によれば、拡張規制リングをフレーム固定部材に固定部材によって固定することができる。
【0031】
本発明のワーク分割方法は、本発明の目的を達成するために、ワークの外径よりも大きい内径を有するリング状のフレームにダイシングテープの外周部が固定され、ダイシングテープに貼付されたワークを分割予定ラインに沿って個々のチップに分割するワーク分割方法において、ダイシングテープにおけるワークの貼付面と反対側の裏面側に配置されたエキスパンドリングを、ダイシングテープに対して相対的に近づく方向に移動させることにより、ダイシングテープのうちワークの外縁部とフレームの内縁部との間の環状部領域をエキスパンドリングによって押圧して、ダイシングテープを拡張する拡張工程と、拡張工程が行われているとき、ダイシングテープにおけるワークの貼付面と同一側に配置された拡張規制リングを、ダイシングテープの環状部領域のうちエキスパンドリングの押圧位置よりも外側の位置に当接させて、環状部領域のうち拡張規制リングに当接された当接部を境として外周側に位置する外周側領域の拡張を規制する拡張規制工程と、拡張規制リングを外周側領域の拡張を規制する位置から退避させる拡張規制リング退避工程と、拡張工程によって拡張されたダイシングテープの拡張状態を拡張保持リングによって保持する拡張状態保持工程と、を備える。
【0032】
本発明のワーク分割方法によれば、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題と、分割後のチップ同士の接触に起因するチップの品質低下の問題とを同時に解消することができる。
【0033】
本発明の一態様は、拡張工程が行われた後、拡張規制リング退避工程が行われ、拡張規制リング退避工程が行われた後、拡張状態保持工程が行われることが好ましい。
【0034】
本発明の一態様は、ダイシングテープにおけるワークの貼付面と反対側の裏面側に拡張保持リングが配置され、拡張状態保持工程は、拡張保持リングを、ダイシングテープに対して相対的に近づく方向に移動させることにより、拡張保持リングの外周部に形成された弾性変形可能な嵌合部をフレームの表面に嵌合させてダイシングテープの拡張状態を保持することが好ましい。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題と、分割後のチップ同士の接触に起因するチップの品質低下の問題とを同時に解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】実施形態のワーク分割装置の分割ステージの要部構造図
図2図1に示した分割ステージの要部拡大斜視図
図3】拡張途中の環状部領域の形状を示したウェーハユニットの断面図
図4】拡張保持リングによるダイシングテープの拡張状態を示した縦断面図
図5図4の要部拡大断面図
図6】ワーク分割装置の制御系を示したブロック図
図7】ウェーハ分割方法の一例を示したフローチャート
図8】ワーク分割装置の動作説明図
図9】ワーク分割装置の動作説明図
図10】拡張規制リングを使用しないときと使用したときの環状部領域及び内周側領域の拡張率を示したグラフ
図11】拡張規制リングを使用しないときと使用したときのチップの分割率を示したグラフ
図12】ウェーハが貼付されたウェーハユニットの説明図
図13】ウェーハユニットの縦断面図
図14】ワーク分割装置の要部側面図
図15】ワーク分割装置の動作図
図16】ウェーハが分割されたウェーハユニットの縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、添付図面に従って本発明に係るワーク分割装置及びワーク分割方法の好ましい実施形態について詳説する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲であれば、以下の実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0038】
図1は、実施形態に係るワーク分割装置10に備えられた分割ステージの要部縦断面図であり、図2は、分割ステージの要部拡大斜視図である。なお、ワーク分割装置10によって分割処理されるウェーハユニットのサイズは限定されるものではないが、実施形態では、図13に示した直径300mmのウェーハ1がマウントされたウェーハユニット2を例示する。
【0039】
図2の如く、ワーク分割装置10は、分割予定ライン5が形成されたウェーハ1を分割予定ライン5に沿って個々のチップ6に分割する装置である。分割予定ライン5は、互いに直交するX方向及びY方向に複数本形成される。実施形態では、X方向と平行な分割予定ライン5の本数と、Y方向と平行な分割予定ライン5の本数とがそれぞれ300本でそれぞれの間隔が等しいウェーハ1、すなわち、チップサイズが1mmのチップ6に分割されるウェーハ1を例示する。
【0040】
ウェーハ1は図1図2の如く、フレーム4に外周部が固定されたダイシングテープ3の中央部に貼付される。ダイシングテープ3は、ウェーハ1が貼付される平面視円形状の中央部領域3A、及び中央部領域3Aの外縁部(ウェーハ1の外縁部)とフレーム4の内縁部との間の平面視ドーナツ形状の環状部領域3Bを有する。
【0041】
ウェーハ1の厚さは、例えば50μm程度である。また、ダイシングテープ3としては、例えばPVC(polyvinyl chloride:ポリ塩化ビニール)系のテープが使用される。なお、ウェーハ1をDAF(Die Attach Film)等のフィルム状接着材を介してダイシングテープ3に貼付してもよい。フィルム状接着材としては、例えばPO(polyolefin:ポリオレフィン)系のものを使用することができる。
【0042】
ワーク分割装置10は、フレーム4を固定するフレーム固定部材7(図14図15参照)と、ダイシングテープ3の環状部領域3Bに下方側から当接されてダイシングテープ3を押圧して拡張するエキスパンドリング14と、エキスパンドリング14によるダイシングテープ3の拡張の際にダイシングテープ3が当接される拡張規制リング16と、エキスパンドリング14によって拡張されたダイシングテープ3の拡張状態を保持する拡張保持リング18と、を備える。
【0043】
フレーム固定部材7は、ダイシングテープ3におけるウェーハ1の貼付面と同一側に配置され、その下面7Aにフレーム4が固定される。また、フレーム固定部材7は、エキスパンドリング14によって拡張される環状部領域3Bに接触しないように、矢印Aで示すダイシングテープ3の面内方向において環状部領域3Bから外方に離間した位置に設置されている。
【0044】
図2の如く、フレーム固定部材7の形状は、フレーム4の内径(350mm)よりも大きい、例えば直径361mmの開口部7Bを有するリング状であるが、その形状は特に限定されるものではない。フレーム固定部材7としては、例えば、開口部7Bを有する矩形状の板状材を例示することもでき、フレーム4の外周に沿って所定の間隔で配置された複数の固定部材からなるフレーム固定部材を例示することもできる。これらの固定部材の内接円が、開口部7Bの直径と等しく設定される。
【0045】
エキスパンドリング14は、ダイシングテープ3におけるウェーハ1の貼付面と反対側の裏面側に配置され、フレーム4の内径(350mm)よりも小さく、かつウェーハ1の外径(300mm)よりも大きい拡張用開口部(開口部)14Aを有するリング状に形成される。エキスパンドリング14は、ダイシングテープ3に対して相対的に近づく方向に移動自在に配置される。具体的には、エキスパンドリング14は、ダイシングテープ3の環状部領域3Bの裏面を押圧して環状部領域3Bを拡張する拡張位置(図1の二点鎖線で示す位置)と、拡張位置から下方に退避した退避位置(図1の実線で示す位置)との間で上下方向に移動自在に配置される。
【0046】
また、ワーク分割装置10には、エキスパンドリング14を拡張位置と退避位置との間で上下移動させるエキスパンドリング移動機構20が備えられている。エキスパンドリング移動機構20の一例として、送りネジ装置を例示するが、これに代えてエアシリンダ装置等のアクチュエータを使用することもできる。退避位置に位置されているエキスパンドリング14をエキスパンドリング移動機構20によって拡張位置に向けて移動させると、エキスパンドリング14は、環状部領域3Bに向けて矢印B方向に上昇移動される。これによって、環状部領域3Bの裏面がエキスパンドリング14に押圧されて放射状に拡張される。なお、エキスパンドリング14を固定して、ウェーハユニット2を矢印C方向に下降移動させることにより、環状部領域3Bをエキスパンドリング14によって押圧してもよい。環状部領域3Bは、エキスパンドリング14による拡張の際に、拡張規制リング16に当接される。
【0047】
拡張規制リング16は、ダイシングテープ3におけるウェーハ1の貼付面と同一側に配置され、フレーム4の内径(350mm)よりも小さく、かつエキスパンドリング14の外径よりも大きい拡張規制用開口部(開口部)16Aを有するリング状に形成される。
【0048】
拡張規制リング16は、ダイシングテープ3の拡張の際にダイシングテープ3が当接される拡張規制位置(外周側領域3Eの拡張を規制する位置:図1の実線で示す位置)と、拡張規制位置から上方に退避した退避位置(図1の二点鎖線で示す位置)との間で上下移動自在に配置される。なお、外周側領域3Eについては後述する。
【0049】
また、ワーク分割装置10には、拡張規制リング16を拡張規制位置と退避位置との間で移動させる拡張規制リング移動機構22が備えられている。拡張規制リング移動機構22の一例として、エアシリンダ装置を例示するが、これに代えて送りネジ装置等のアクチュエータを使用することもできる。
【0050】
また、拡張規制リング16は、拡張規制位置でフレーム固定部材7の開口部7Bの内周面に着脱自在に装着されることが好ましい。これにより、拡張規制リング16を、外周側領域3Eの拡張を規制する適正な位置に装着することができる。また、拡張規制リング16は、拡張規制位置で、固定部材によりフレーム固定部材7に固定される。固定部材は特に限定されるものでないが、一例として複数のピン24を使用した固定部材を例示することができる。この固定部材は、開口部7Bの内周面にピン24を突没自在に配置し、突出したピン24に嵌合される穴部26を拡張規制リング16の外周面に形成している。すなわち、この固定部材によれば、拡張規制リング16が開口部7Bの内周面に装着されると、フレーム固定部材7からピン24が突出して、拡張規制リング16の穴部26に嵌合する。これにより、拡張規制リング16を、フレーム固定部材7の開口部7Bの内周面に固定することができる。なお、フレーム固定部材7に対する拡張規制リング16の固定位置は、開口部7Bの内周面に限定されるものではなく、外周側領域3Eの拡張を適正に規制することが可能な位置であればよく、例えばフレーム固定部材7の表面を固定位置としてもよい。
【0051】
ここで、フレーム固定部材7は、ワーク分割装置10の固定構造物に固定されている。これにより、拡張規制位置に位置されてフレーム固定部材7にピン24を介して固定された拡張規制リング16は、拡張規制位置で確実に固定される。後述する図3のように、ダイシングテープ3の拡張の際に環状部領域3Bが拡張規制リング16に当接し、外周側領域3Eの拡張を拡張規制リング16によって規制する。このため、拡張規制リング16は環状部領域3Bから力を受ける。このとき、拡張規制リング16が環状部領域3Bからの力によって上方に位置ずれすると、外周側領域3Eの拡張規制を適切に行うことができなくなるが、実施形態では、拡張規制位置で拡張規制リング16がフレーム固定部材7にピン24を介して確実に固定されるため、環状部領域3Bからの力による位置ずれを防止することができ、外周側領域3Eの拡張規制を適切に行うことができる。なお、固定部材であるピン24によって拡張規制リング16をフレーム固定部材7に固定することなく、不図示の固定部材をよって拡張規制リング16を拡張規制位置に固定してもよい。
【0052】
図3は、エキスパンドリング14によって拡張途中の環状部領域3Bの形状を示したウェーハユニット2の縦断面図である。
【0053】
図3に示すように、エキスパンドリング14による環状部領域3Bの拡張の際に、環状部領域3Bが拡張規制リング16に当接される。具体的には、拡張規制リング16の裏面側の内縁部16Bに環状部領域3Bが当接される。すなわち、拡張規制リング16は、環状部領域3Bのうちエキスパンドリング14の押圧位置よりも外側の位置に当接される。
【0054】
実施形態では、図1の如く、拡張規制用開口部16Aの径が338mmに設定されている。これにより、拡張規制リング16によって拡張が規制される外周側領域3Eの幅寸法が6mmに設定され、環状部領域3Bのうち外周側領域3Eを除く内周側領域3Fの幅寸法が19mmに設定される。
【0055】
ここで、環状部領域3Bのうち拡張規制リング16によって拡張が規制されない内周側領域3Fが、ウェーハ1の分割に実質的に寄与する領域となる。すなわち、内周側領域3Fの幅寸法を小さくするに従って、内周側領域3Fのバネ定数が大きくなるので、内周側領域3Fからウェーハ1に付与する張力を増大することができる。よって、内周側領域3Fの幅寸法は、分割予定ライン5の本数等で規定される分割条件に応じて設定することが好ましい。
【0056】
ダイシングテープ3の拡張状態を保持する拡張保持リング18は、ダイシングテープにおけるウェーハ1の貼付面と反対側の裏面側に配置される。また、拡張保持リング18は、外径がフレーム4の内径(350mm)よりも小さく、内径がエキスパンドリング14の外径よりも大きい本体リング28と、本体リング28の外周部に装着されて、外径(351.3mm)がフレーム4の内径(350mm)よりも大きい弾性変形可能なリング状の嵌合部30と、を有する。
【0057】
図4は、拡張保持リング18によってダイシングテープ3の拡張状態が保持された縦断面図である。図5は、図4の要部拡大断面図である。
【0058】
図4図5の如く、拡張保持リング18の嵌合部30は、実線で示す嵌合位置でフレーム4の表面4Aにダイシングテープ3の環状部領域3Bを介して嵌合する。これにより、ダイシングテープ3の拡張状態が拡張保持リング18によって保持される。
【0059】
拡張保持リング18は、拡張保持前においては、図4図5の実線で示す嵌合位置から下方の待機位置(図1の実線で示す位置)に待機されており、拡張保持時に待機位置から嵌合位置に拡張保持リング移動機構32によって上昇移動される。拡張保持リング移動機構32の一例として、送りネジ装置を例示するが、これに代えてエアシリンダ装置等のアクチュエータを使用することもできる。拡張保持リング移動機構32によって拡張保持リング18が上昇されると、嵌合部30がフレーム4の下面に当接した後、嵌合部30がフレーム4の内周面に押されて弾性変形しながら上昇し、嵌合部30がフレーム4の内周面を通過した位置で拡張保持リング18の上昇が停止される。これによって、嵌合部30が図4図5の如く嵌合位置でフレーム4の表面4Aに嵌合される。なお、拡張保持リング18を固定して、ダイシングテープ3側を拡張保持リング18に近づける方向に移動させてもよい。すなわち、拡張保持リング18をダイシングテープ3に対して相対的に近づく方向に移動させて、嵌合部30をフレーム4の表面4Aに嵌合させればよい。
【0060】
エキスパンドリング14を駆動するエキスパンドリング移動機構20、拡張規制リング16を駆動する拡張規制リング移動機構22、及び拡張保持リング18を駆動する拡張保持リング移動機構32は、図6の制御系のブロック図の如く、ワーク分割装置10を統括制御する制御部34によって、その動作が制御されている。
【0061】
以下、制御部34によるワーク分割方法の一例を説明する。
【0062】
まず、制御部34は、拡張規制リング移動機構22を制御して拡張規制リング16を拡張規制位置に位置させた状態で、エキスパンドリング移動機構20を制御してエキスパンドリング14を拡張位置に移動させる。次に、制御部34は、拡張規制リング移動機構22を制御して拡張規制リング16を退避位置に移動させる。次に、制御部34は、拡張保持リング移動機構32を制御して拡張保持リング18を嵌合位置に移動させる。次に、制御部34は、エキスパンドリング移動機構20を制御してエキスパンドリング14を退避位置に移動させる。
【0063】
次に、図7のフローチャート、図8(A)~(D)及び図9(E)~(H)に示すワーク分割装置10の動作説明図に従って、上述したワーク分割方法を具体的に説明する。
【0064】
まず、図7のステップS100の配置工程において、図8(A)の如く、エキスパンドリング14をエキスパンドリング移動機構20によって退避位置に配置させ、拡張規制リング16を拡張規制リング移動機構22によって拡張規制位置に配置させ、拡張保持リング18を拡張保持リング移動機構32によって待機位置に配置させる。このとき、拡張規制リング16を、ピン24を介してフレーム固定部材7に固定する。
【0065】
次に、図7のステップS110の固定工程において、図8(B)の如く、ウェーハユニット2のフレーム4をフレーム固定部材7に固定する。
【0066】
次に、図7のステップS120の拡張開始工程において、図8(C)の如く、エキスパンドリング移動機構20によってエキスパンドリング14を、図8(A)の退避位置から拡張位置に向けて矢印B方向に上昇移動させ、環状部領域3Bの全領域の拡張を開始する。なお、不図示の冷却手段によって環状部領域3Bを予め低温に冷却し、環状部領域3Bのバネ定数を予め上げておいてもよい。冷却手段としては、環状部領域3Bに接触して冷却する接触式のもの、又は冷気を環状部領域3Bに噴射して冷却する風冷式のものを例示することができる。
【0067】
次に、図7のステップS130の拡張規制工程において、図8(D)の如く、エキスパンドリング14の上昇移動量が、フレーム4の厚さを超えると、環状部領域3Bが拡張規制リング16に当接する。このとき、図3の如く環状部領域3Bは、拡張規制リング16の内縁部16Bに当接した当接部3Dを境界として、外周側に位置する外周側領域3Eと、内周側に位置する内周側領域3Fとに分けられる。そして、環状部領域3Bのうち、外周側領域3Eの拡張が拡張規制リング16によって規制される。なお、S130の拡張規制工程は、S120の拡張開始工程からS140の分割工程に至るまでの拡張工程が行われるときに行われる工程である。つまり、拡張工程とは、S120の拡張開始工程、S130の拡張規制工程及びS140の分割工程を含む固定である。
【0068】
次に、図7のステップS140の分割工程において、図9(E)の如く、エキスパンドリング14の上昇移動を続行し、環状部領域3Bのうち、図3の外周側領域3Eを除く内周側領域3Fの拡張を継続して行うことにより、ウェーハ1を個々のチップ6に分割する。この後、エキスパンドリング14が拡張位置に到達したところで、エキスパンドリング14の上昇移動を停止する。つまり、この時点で拡張固定が終了する。
【0069】
S140の分割工程において、環状部領域3Bが拡張規制リング16の内縁部16Bに当接した以降のエキスパンドリング14による拡張動作では、外周側領域3Eの拡張が拡張規制リング16によって規制されながら、内周側領域3Fのみが拡張されていく。つまり、環状部領域3Bのバネ定数よりも大きくなった内周側領域3Fのバネ定数の張力がウェーハ1に付与される。
【0070】
具体的に説明すると、ウェーハ1の分割に寄与する環状部領域3Bの長さが25mm(環状部領域3Bの幅寸法)から19mm(内周側領域3Fの幅寸法)に短くなるので、バネ定数はそれに反比例して増大する。これにより、内周側領域3Fのみを拡張しても、内周側領域3Fのバネ定数は環状部領域3Bのバネ定数よりも大きいので、チップサイズが小チップ(1mm)であっても個々のチップ6に分割するだけの張力をウェーハ1に付与することができる。よって、ワーク分割装置10によれば、チップサイズが小チップ(1mm)の場合に生じる分割予定ラインの未分割問題を解消することができる。
【0071】
なお、環状部領域3Bの粘着層に線接触される拡張規制リング16の内縁部16Bには、一例として算術平均粗さ(Ra)が1.6(μm)となる表面加工が施されている。これにより、内縁部16Bと環状部領域3Bとの間の摩擦力によって、内縁部16Bと環状部領域3Bとが相対的に滑ることを防止することができる。また、内縁部16Bには、一例としてC0.2の面取り加工が行われている。これにより、環状部領域3Bから拡張力を受けた際に、その反力で環状部領域3Bが破れることを防止することができる。
【0072】
S140の分割工程が終了すると、図7のステップS150の拡張規制リング退避工程において、図9(F)の如く、エキスパンドリング14を拡張位置に配置させた状態で、拡張規制リング16を拡張規制リング移動機構22によって退避位置に移動させる。
【0073】
次に、図7のステップS160の拡張状態保持工程において、図9(G)の如く、拡張保持リング18を拡張保持リング移動機構32によって待機位置から嵌合位置に向けて上昇させて、拡張保持リング18の嵌合部30を嵌合位置でフレーム4の表面4Aに嵌合させてダイシングテープ3の拡張状態を保持する。すなわち、実施形態のワーク分割装置10では、拡張工程が行われた後、S150の拡張規制リング退避工程が行われ、S150の拡張規制リング退避工程が行われた後、S160の拡張状態保持工程が行われる。
【0074】
次に、図7のステップS170のエキスパンドリング退避工程において、図9(H)の如く、エキスパンドリング14をエキスパンドリング移動機構22によって退避位置に向けて下降移動させ、退避位置に配置する。このとき、ダイシングテープ3は、エキスパンドリング14による拡張は解除されるが、フレーム4の表面4Aに拡張保持リング18の嵌合部30が嵌合されているので、弛むことなく拡張状態が保持される。これにより、拡張されたダイシングテープ3が弛むことによって生じるチップ6同士の接触を防止することができるので、チップ6の品質低下を防止することができる。
【0075】
上記の如く実施形態のワーク分割装置10によるワーク分割方法によれば、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ラインの未分割問題と、分割後のチップ同士の接触に起因するチップの品質低下の問題とを同時に解消することができる。
【0076】
なお、実施形態のワーク分割方法では、S120の拡張開始工程からS140の分割工程に至るまでの拡張工程が行われた後、S150の拡張規制リング退避工程が行われ、S150の拡張規制リング退避工程が行われた後、S160の拡張状態保持工程が行われるが、この工程に限定されるものではない。たとえば、S120の拡張開始工程からS140の分割工程に至るまでの拡張工程が行われた後、S160の拡張状態保持工程を行い、S160の拡張状態保持工程を行った後、S150の拡張規制リング退避工程を行ってもよい。この場合、拡張保持リング18でダイシングテープ3の拡張状態を保持する際に、拡張規制位置にある拡張規制リング16に嵌合部30が衝突する。このため、実施形態の拡張保持リング18では、S160の拡張状態保持工程を行った後、S150の拡張規制リング退避工程を行うことはできないが、例えば、特開2009-253071号公報に開示されたテープ拡張保持リングを使用することにより、S160の拡張状態保持工程を行った後、S150の拡張規制リング退避工程を行うことができる。特開2009-253071号公報に記載のテープ拡張保持リングは、ダイシングテープにおけるウェーハの貼付面と同一側に配置され、昇降機構によってテープ拡張保持リングが上昇位置から下降位置に押し下げられる。これにより、拡張状態のダイシングテープが、ダイシングテープの下方に位置したリングとテープ拡張保持リングとで挟み込まれて拡張状態が保持される。そして、この拡張状態を保持した工程の後、S150の拡張規制リング退避工程を行うことができる。
【0077】
また、ワーク分割方法は、上記の例に限定されない。例えば、エキスパンドリング14を退避位置に移動させた後に(S170)、拡張保持リング18を嵌合位置に移動させてもよい(S160)。この分割方法の場合、ダイシングテープ3は、エキスパンドリング14を退避位置に移動させた直後に一旦弛むが、拡張保持リング18を嵌合位置に移動させることで、ダイシングテープ3を再度拡張し、この拡張状態を保持することができる。この分割方法の場合は、ダイシングテープ3が急激に弛むことに起因するチップ6同士の衝突を緩和させるために、エキスパンドリング14の退避位置への移動速度を低速に制御することが好ましい。
【0078】
ここで本発明の効果を確認するために、本発明者が行った実験結果について説明する。
【0079】
図10のグラフには、図13のウェーハユニット2に対し、拡張規制リングを使用しないときの環状部領域の拡張率(径350mm)と、拡張規制リングを使用したときの内周側領域の拡張率であって、その拡張規制用開口部の径を346mm、342mm、338mmに設定したときの拡張率とが示されている。なお、図10の「MD(Machine Direction)」とは、ダイシングテープ3の製造時の送り方向に平行な方向であって、バネ定数の小さい方向である。また、「CD(Cross Direction)」とは、MDと直交する方向であって、バネ定数の大きい方向である。
【0080】
図10の実験結果によれば、拡張規制リングを使用しないときの環状部領域の拡張率が「MD」では6.1%、「CD」では6.0%であった。これに対して、拡張規制用開口部の径を346mm、342mm、338mmと小さくしていくに従って、内周側領域の拡張率が「MD」では6.8%、7.5%、8.4%に上昇し、「CD」では7.2%、7.5%、8.1%に上昇した。つまり、拡張規制用開口部の径を小さくするに従い、チップの分割能力が向上することを確認できた。
【0081】
図11のグラフには、図13のウェーハユニット2に対し、拡張規制リングを使用しないときのチップの分割率(径350mm)と、拡張規制リングを使用したときのチップの分割率であって、その拡張規制用開口部の径を338mmに設定した場合の分割率が示されている。なお、図11の「DAF有り」の分割率とは、DAFを介してウェーハ1をダイシングテープ3に貼付したときのチップ6の分割率であり、また、「DAF無し」の分割率とは、ウェーハ1をダイシングテープ3に直接貼付したときのチップ6の分割率である。
【0082】
図11の実験結果によれば、拡張規制リングを使用しないときのチップ6の分割率が「DAF有り」では15.0%、「DAF無し」では41.0%であった。これに対して、拡張規制用開口部の径が338mmの拡張規制リングを使用したときのチップ6の分割率が「DAF有り」では61.0%に上昇し、「DAF無し」では100%に上昇した。つまり、「DAF有り」であっても「DAF無し」であっても、拡張規制リングを使用することにより、チップ6の分割能力が向上することを確認できた。
【0083】
上記の実験結果から、実施形態のワーク分割装置10によれば、拡張規制リング16によって外周側領域3Eの拡張を規制し、内周側領域3Fのみを拡張させることで、環状部領域3Bよりも拡張率が増加し、ウェーハ1に付与する張力を増大させることができるので、チップサイズが小チップの場合に生じる分割予定ライン5の未分割問題を解消できることを確認できた。
【符号の説明】
【0084】
1…ウェーハ、2…ウェーハユニット、3…ダイシングテープ、3A…中央部領域、3B…環状部領域、3C…固定部領域、3D…当接部、3E…外周側領域、3F…内周側領域、4…フレーム、5…分割予定ライン、6…チップ、7…フレーム固定部材、8…エキスパンドリング、10…ワーク分割装置、14…エキスパンドリング、14A…拡張用開口部、16…拡張規制リング、16A…拡張規制用開口部、16B…内縁部、18…拡張保持リング、20…エキスパンドリング移動機構、22…拡張規制リング移動機構、24…ピン、26…穴部、28…本体リング、30…嵌合部、32…拡張保持リング移動機構、34…制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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