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特開2024-3684フォトニック結晶及び赤外線光デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003684
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】フォトニック結晶及び赤外線光デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0232 20140101AFI20240105BHJP
   H01L 33/44 20100101ALI20240105BHJP
   H01L 33/10 20100101ALI20240105BHJP
【FI】
H01L31/02 D
H01L33/44
H01L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103000
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】諸原 理
【テーマコード(参考)】
5F149
5F241
5F849
【Fターム(参考)】
5F149BA09
5F149BB20
5F149CB09
5F149CB10
5F149CB11
5F149DA39
5F149GA04
5F149GA06
5F149HA20
5F149LA01
5F149XB05
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5F241CB36
5F241FF16
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5F849CB10
5F849CB11
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5F849GA04
5F849GA06
5F849HA20
5F849LA01
5F849XB05
(57)【要約】
【課題】中赤外域で広く利用可能なフォトニック結晶及び赤外線光デバイスが提供される。
【解決手段】フォトニック結晶は、不純物濃度が互いに異なる複数の領域で構成される周期構造を有し、構成材料がAlGaIn1-x-yAsSb1-z(0≦x+y≦0.5、0≦z≦1.0)である。周期構造は、同一平面にない異なる3つの方向に周期性を持ってよい。さらに、構成材料がAlGaIn1-x-yAsSb1-z(0≦x+y≦0.5、0≦z≦0.5)であってよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物濃度が互いに異なる複数の領域で構成される周期構造を有し、
構成材料がAlGaIn1-x-yAsSb1-z(0≦x+y≦0.5、0≦z≦1.0)である、フォトニック結晶。
【請求項2】
前記周期構造は、同一平面にない異なる3つの方向に周期性を持つ、請求項1に記載のフォトニック結晶。
【請求項3】
前記構成材料がAlGaIn1-x-yAsSb1-z(0≦x+y≦0.5、0≦z≦0.5)である、請求項1又は2に記載のフォトニック結晶。
【請求項4】
前記周期構造は、低屈折率領域と高屈折率領域からなり、
前記低屈折率領域は、1.0×1018/cm以上の不純物濃度を持つN型半導体領域を含み、
前記高屈折率領域は、P型半導体領域、真性半導体領域及び前記低屈折率領域のN型半導体領域より不純物濃度の低いN型半導体領域のうち少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載のフォトニック結晶。
【請求項5】
前記低屈折率領域は、3.0×1018/cm以上の不純物濃度を持つN型半導体領域を含む、請求項4に記載のフォトニック結晶。
【請求項6】
前記高屈折率領域は、P型半導体領域、真性半導体領域及び3.0×1017/cm未満の不純物濃度を持つN型半導体領域のうち少なくとも1つを含む、請求項4に記載のフォトニック結晶。
【請求項7】
基板上に設けられ、前記基板の一方の主面の平面方向に周期性を持つ周期構造を有する、請求項1又は2に記載のフォトニック結晶。
【請求項8】
基板と、
赤外線の受光又は発光を行う受発光層と、
請求項1又は2に記載のフォトニック結晶と、を備える、赤外線光デバイス
【請求項9】
前記フォトニック結晶の構成材料のバンドギャップが、前記受発光層のバンドギャップよりも大きい、請求項8に記載の赤外線光デバイス。
【請求項10】
赤外線を出射する、又は、入射する入出射面を有し、前記フォトニック結晶が前記受発光層に対して前記入出射面の側に形成されている、請求項8に記載の赤外線光デバイス。
【請求項11】
前記フォトニック結晶が、前記入出射面に形成されている、請求項10に記載の赤外線光デバイス。
【請求項12】
前記フォトニック結晶と前記受発光層との距離が、前記受発光層のバンドギャップに対応する光の波長の1波長以内である、請求項8に記載の赤外線光デバイス。
【請求項13】
赤外線を出射する、又は、入射する入出射面を有し、前記フォトニック結晶が前記受発光層に対して前記入出射面の反対側に形成されている、請求項8に記載の赤外線光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フォトニック結晶及び赤外線光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に波長が2μm以上の長波長帯の赤外線は、その熱的効果及びガスによる赤外線吸収の効果から、人体を検知する人感センサ、非接触温度センサ及びガスセンサ等に使用されている。特に2~15μm程度の波長を有する、短波長から、中波長、長波長赤外線の領域(中赤外域と称する)の赤外線は、気体分子が特有の吸収帯を示すことから、非分散赤外吸収式のガス濃度測定装置に用いられてきた。その中で、赤外線光デバイスは、ガス濃度測定器の検出分解能及び消費電力といった主要性能を大きく左右する重要な部材であり、所望の波長における高い発光強度又は受光感度を有する赤外線光デバイスが求められてきた。ここで、光デバイスは発光素子又は受光素子を意味する。例えば、発光素子として発光ダイオード(LED)が用いられる。また、例えば、受光素子としてフォトダイオード(PD)が用いられる。このような半導体を用いた赤外線光デバイスは、材料設計により、所望の波長帯での受発光が可能であり、ガス濃度測定器に用いられてきた。
【0003】
しかしながら、現在のところ、特に赤外線光デバイスを用いた分析機器は広く普及するに至っていない。その理由の一つとして、公知の赤外線光デバイスでは十分な発光強度又は受光感度が得られないために、分析機器全体として十分な信号強度(S/N比)が得られないことが挙げられる。
【0004】
一般にLEDの発光強度が小さくなる原因の一つとして、光取り出し効率が小さいことが挙げられる。光取り出し効率を上げる方法として、光の波長程度の周期を有するフォトニック結晶を用いる手法が知られている。フォトニック結晶は周期的な屈折率分布を持つ結晶であり、光子エネルギーに対してバンド構造が形成されているという特徴を持つ。フォトニック結晶のバンド構造を適切に設計することで、所望の波長の透過率又は反射率を制御することができる。
【0005】
例えば特許文献1は、光出射面にフォトニック結晶を形成することで、LEDの光取り出し効率を向上する手法を開示する。また特許文献2は、発光層に対して光出射面と反対の面に反射型フォトニック結晶を形成することで、光取り出し効率を向上する手法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013/008556号
【特許文献2】国際公開第2015/133000号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フォトニック結晶周期構造は、異なる屈折率を有する2つの構造体の界面において形成され、主にピラー構造又はホール構造からなる凹凸を有することが一般的である。しかしながら凹凸を形成するためにドライエッチングを使用することが多く、被エッチング層がダメージを受け光デバイスの特性が低下するという問題がある。また化合物半導体層の表面に凹凸を形成するため、半導体表面の保護膜形成における被覆性及び均一性に問題が生じ得る。
【0008】
本開示はこのような事情を鑑みてされたものであって、中赤外域で広く利用可能なフォトニック結晶及び赤外線光デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本開示の一実施形態に係るフォトニック結晶は、
不純物濃度が互いに異なる複数の領域で構成される周期構造を有し、
構成材料がAlGaIn1-x-yAsSb1-z(0≦x+y≦0.5、0≦z≦1.0)である。
【0010】
(2)本開示の一実施形態として、(1)において、
前記周期構造は、同一平面にない異なる3つの方向に周期性を持つ。
【0011】
(3)本開示の一実施形態として、(1)又は(2)において、
前記構成材料がAlGaIn1-x-yAsSb1-z(0≦x+y≦0.5、0≦z≦0.5)である。
【0012】
(4)本開示の一実施形態として、(1)から(3)のいずれかにおいて、
前記周期構造は、低屈折率領域と高屈折率領域からなり、
前記低屈折率領域は、1.0×1018/cm以上の不純物濃度を持つN型半導体領域を含み、
前記高屈折率領域は、P型半導体領域、真性半導体領域及び前記低屈折率領域のN型半導体領域より不純物濃度の低いN型半導体領域のうち少なくとも1つを含む。
【0013】
(5)本開示の一実施形態として、(4)において、
前記低屈折率領域は、3.0×1018/cm以上の不純物濃度を持つN型半導体領域を含む。
【0014】
(6)本開示の一実施形態として、(4)又は(5)において、
前記高屈折率領域は、P型半導体領域、真性半導体領域及び3.0×1017/cm未満の不純物濃度を持つN型半導体領域のうち少なくとも1つを含む。
【0015】
(7)本開示の一実施形態として、(1)から(6)のいずれかにおいて、
基板上に設けられ、前記基板の一方の主面の平面方向に周期性を持つ周期構造を有する。
【0016】
(8)本開示の一実施形態に係る赤外線光デバイスは、
基板と、
赤外線の受光又は発光を行う受発光層と、
(1)から(7)のいずれかのフォトニック結晶と、を備える。
【0017】
(9)本開示の一実施形態として、(8)において、
前記フォトニック結晶の構成材料のバンドギャップが、前記受発光層のバンドギャップよりも大きい。
【0018】
(10)本開示の一実施形態として、(8)又は(9)において、
赤外線を出射する、又は、入射する入出射面を有し、前記フォトニック結晶が前記受発光層に対して前記入出射面の側に形成されている。
【0019】
(11)本開示の一実施形態として、(10)において、
前記フォトニック結晶が、前記入出射面に形成されている。
【0020】
(12)本開示の一実施形態として、(8)から(11)のいずれかにおいて、
前記フォトニック結晶と前記受発光層との距離が、前記受発光層のバンドギャップに対応する光の波長の1波長以内である。
【0021】
(13)本開示の一実施形態として、(8)又は(9)において、
赤外線を出射する、又は、入射する入出射面を有し、前記フォトニック結晶が前記受発光層に対して前記入出射面の反対側に形成されている。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、中赤外域で広く利用可能なフォトニック結晶及び赤外線光デバイスを提供することができる。赤外線光デバイスについては、中赤外の波長域において強い発光特性又は受光特性を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、フォトニック結晶の構成及び形成方法を例示する図である。
図2図2は、フォトニック結晶における領域の配置及び形状を例示する図である。
図3図3は、フォトニック結晶における領域の配置及び形状を例示する図である。
図4図4は、フォトニック結晶における領域の形状を例示する図である。
図5図5は、フォトニック結晶における領域の形状を例示する図である。
図6図6は、フォトニック結晶における2水準の領域を例示する図である。
図7図7は、フォトニック結晶における2水準の領域を例示する図である。
図8図8は、フォトニック結晶の構成及び形成方法を例示する図である。
図9図9は、フォトニック結晶における点欠陥を例示する図である。
図10図10は、赤外線光デバイスにおけるフォトニック結晶の配置を例示する図である。
図11図11は、赤外線光デバイスにおけるフォトニック結晶の配置を例示する図である。
図12図12は、赤外線光デバイスにおけるフォトニック結晶の配置を例示する図である。
図13図13は、赤外線光デバイスにおけるフォトニック結晶の配置を例示する図である。
図14図14は、InSb層の屈折率のn型不純物濃度に対する依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態が説明される。ただし、図面は模式的なものである。例えば厚み、長さ、周期等は現実のものと異なる。本開示の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、様々な変更を加えることができる。以下の実施形態は、本開示の内容を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが解決手段に必須であるとは限らない。
【0025】
<フォトニック結晶>
本実施形態に係るフォトニック結晶は、AlGaIn1-x-yAsSb1-z(0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0≦x+y≦0.5、0≦z≦1.0)を含み、不純物濃度が互いに異なる複数の領域で構成される周期構造を有する。本開示の発明者らは、中赤外域において、材料に不純物ドープを行い、不純物濃度(キャリア濃度)を制御することで、屈折率を広く制御することができることを発見した。ここでキャリア濃度は、不純物濃度と活性化率により決まる。
【0026】
低屈折率領域は、1.0×1018/cm以上の不純物濃度を持つN型半導体領域を含んで形成される。
【0027】
また高屈折率領域は、P型半導体領域、真性半導体領域及びN型半導体領域のうち少なくとも1つを含んで形成される。ここで高屈折率領域としてN型半導体領域を用いる場合に、低屈折率領域のN型半導体領域よりも不純物濃度の低いN型半導体領域を用いることができる。P型半導体領域としては、例えば1.0×1016/cmから1.0×1019/cmの不純物濃度を持つ半導体領域を用いることができる。
【0028】
低屈折率領域は、1.5×1018/cm以上の不純物濃度を持つN型半導体領域を含んでよい。さらに、低屈折率領域は、3.0×1018/cm以上の不純物濃度を持つN型半導体領域を含むことが好ましく、4.0×1018/cm以上の不純物濃度とすることで、さらに屈折率を下げることができる。
【0029】
高屈折率領域としてN型半導体領域を用いる場合に、上述のように低屈折率領域の不純物濃度よりも低いことが必要であって、1.5×1018/cm未満の不純物濃度を持つN型半導体領域を含むことがより好ましい。また高屈折率領域は、N型半導体領域の不純物濃度を8.0×1017/cm未満とすることで、さらに屈折率を上げることができる。高屈折率領域は、例えば3.0×1017/cm未満の不純物濃度を持つN型半導体領域を含んでよく、さらに1.0×1017/cm未満の不純物濃度であってよい。
【0030】
これら低屈折率領域と高屈折率領域を周期的に配置した周期構造により、フォトニック結晶を形成することが可能となる。
【0031】
ここで不純物としては、例えばSn、Teがn型ドープの材料として用いられ、Zn、Be、Geがp型ドープの材料として用いられる。またSiは、母体の半導体に応じて、n型又はp型のドープ材料として用いられる。しかしながら不純物の材料は、これらに限定されない。不純物濃度については、例えば二次イオン質量分析法(SIMS)により評価することができる。
【0032】
不純物濃度(すなわち、不純物のドープ濃度)の異なる複数の領域を形成することで、屈折率の異なる領域が形成される。異なる領域は、それぞれ異なる材料であってよいし、不純物のドープ濃度が異なるだけの同じ材料であってよい。
【0033】
本実施形態のように、AlGaIn1-x-yAsSb1-zは基板上に形成することができる。ここで基板としては、例えばSi基板、GaAs基板、InP基板、InSb基板、InAs基板、GaSb基板などを用いることができる。
【0034】
不純物濃度の異なる複数の領域は、例えば以下のように形成することができる。AlGaIn1-x-yAsSb1-zに対して、パターニングしたフォトレジストをマスクとして、イオン注入又は熱拡散処理により不純物が導入される。これにより、所定の不純物をドープした領域を形成することができる(図1)。図1において、マスクは白い小さな四角で示されており、不純物が導入された領域が色付けされて示されている。図2図13においても、不純物が導入された領域は色付けされて示されている。また、不純物の活性化のためのアニール等の処理が行われてよい。これにより、フォトニック結晶が基板上に設けられている場合、基板の一方の主面の平面方向(主面に沿った方向)に周期性を持つ周期構造を容易に形成することができる。これはいわゆる二次元フォトニック結晶に相当する。
【0035】
ここで、図1及び後述する図2図13において共通の直交座標が設定される。本実施形態において、z軸方向は、基板の主面に直交する軸方向である。x軸方向とy軸方向のそれぞれは、上述のフォトニック結晶が周期性を有する方向である。例えば図1においてx軸方向に沿った周期構造が示されており、二次元フォトニック結晶はy軸方向も同様に周期構造を有する(例えば図2参照)。また、本実施形態において、xy平面は基板の主面と平行である。xy平面を正面から見る視線方向を、以下において平面視と称することがある。
【0036】
図1に戻ると、不純物がドープされていない真性半導体であるAlGaIn1-x-yAsSb1-zに対して、フォトレジストをパターニングした後、イオン注入により所定の深さだけn型不純物を導入する。この手法によって、n型不純物が導入された領域を低屈折率領域、n型不純物が導入されていない領域を高屈折率領域としたフォトニック結晶を形成することができる。ここで、不純物が導入される材料を、フォトニック結晶の構成材料と称することがある。本実施形態において、構成材料はAlGaIn1-x-yAsSb1-zである。
【0037】
同様の例として、p型不純物がドープされたp型半導体であるAlGaIn1-x-yAsSb1-zに対して、フォトレジストをパターニングした後、イオン注入により所定の深さだけn型不純物を導入する。この手法によっても、n型不純物が導入された領域を低屈折率領域、n型不純物が導入されていない領域を高屈折率領域としたフォトニック結晶を形成することができる。すなわち、元のp型不純物濃度を上回る濃度のn型不純物を導入することで、低屈折率領域の形成が可能である。
【0038】
不純物をドープした領域又は不純物をドープしない領域は、任意の形状に配列されてよい。例えば不純物をドープした領域が、平面視で正方格子状(図2)に配置されてよいし、三角格子状(図3)に配置されてよい。
【0039】
不純物をドープした領域又は不純物をドープしない領域は、任意の形状をしていてよい。例えば不純物をドープした領域が、平面視で円形(図2及び図3)、三角形(図4)又は四角形(図5)であってよい。
【0040】
不純物をドープした領域又は不純物をドープしない領域は、2水準以上の異なる不純物濃度により形成されていて良い(図6)。
【0041】
例えばドープした領域が平面視で円形に形成されて、その外側に異なる濃度にてドープした領域が平面視で円環状に形成されてよい(図7)。
【0042】
フォトニック結晶が基板上に設けられている場合、基板と垂直方向(z軸方向)にも周期性を持つ周期構造は例えば以下のように形成することができる。上述のように不純物濃度が互いに異なる複数の領域を形成した後に、再び構成材料であるAlGaIn1-x-yAsSb1-zを成長させる。成長の前にCMP(Chemical Mechanical Polishment)などにより表面の平坦化が行われてよい。成長の後に、再び、不純物濃度が互いに異なる複数の領域を形成する。この工程を一定数行うことで、基板と垂直方向にも周期性を持つ周期構造を容易に形成することができる。これはいわゆる三次元フォトニック結晶に相当する(図8)。
【0043】
不純物をドープした領域又は不純物をドープしない領域を下の層と一致させることができる。例えば正方格子状に不純物ドープを施し、構成材料の再成長の後、平面視で下の層と同じ位置に正方格子状に不純物ドープを施すことで、立方格子状の三次元フォトニック結晶を形成することができる。
【0044】
ここで、不純物をドープした領域又は不純物をドープしない領域を、下の層と一致させる必要はない。フォトレジストマスクの設計に応じて不純物ドープの位置を自由に設計することで、三次元フォトニック結晶を任意に設計することができる。例えば体心立方格子状又は六方最密充填構造状の三次元フォトニック結晶を形成することができる。このように、互いに同一平面にない異なる3つの方向に基本並進ベクトルを持つ単位格子からなる周期構造を形成することができる。つまり、三次元フォトニック結晶の周期構造は、同一平面にない異なる3つの方向に周期性を持つように形成される。
【0045】
ここで、フォトレジストマスクの設計により、局所的な不純物ドープの有無を自由に設計することができる。例えば上述のように再成長とドープを繰り返す際に、一層だけ一部分のドープを行わないことで、点欠陥を導入することができる(図9)。この設計によりフォトニック結晶中にいわゆる線欠陥又は点欠陥といった欠陥を導入することができ、光導波路の形成又は光閉じ込めを行うことができる。
【0046】
また、三次元フォトニック結晶の他の形成方法として、再成長を行わずにイオン注入のみで形成する方法が挙げられる。イオン打ち込みはイオン化された不純物を高速に加速し、試料に打ち込むことで不純物をドープする手法である。このとき、加速エネルギーに応じて不純物が打ち込まれる深さが変わる。したがって、異なる加速エネルギーを用いて複数回不純物を打ち込むことで、異なる複数の深さ領域に不純物を打ち込むことができる。これにより再成長を行わずに三次元フォトニック結晶を形成することができる。
【0047】
本実施形態に係るフォトニック結晶は、不純物濃度の互いに異なる複数の領域で構成される周期構造を有する。ただし、本実施形態における周期構造とは、隣り合う複数の領域の位置、大きさ又はドープ濃度の完全な一致を意図するものではない。
【0048】
例えば隣り合う複数の領域の位置又は大きさが変調されてよい。また、上述のように線欠陥又は点欠陥といった欠陥が導入されてよい。ドープ濃度についても同様に、一部だけドープ濃度が変調されてよい。
【0049】
また、本実施形態に係るフォトニック結晶は、AlGaIn1-x-yAsSb1-z(0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0≦x+y≦0.5、0≦z≦1.0)を含む。
【0050】
ここでAlGaIn1-x-yAsSb1-zのAsの組成範囲を狭めることによって、より良い結晶成長が可能となり、赤外線光デバイスの性能向上が得られることから、AlGaIn1-x-yAsSb1-z(0≦x+y≦0.5、0≦z≦0.3)が用いられてよい。またAl及びGaの組成範囲を狭めることによって、より良い結晶成長が可能になり、赤外線光デバイスの性能向上が得られることから、AlGaIn1-x-yAsSb1-z(0≦x+y≦0.3、0≦z≦0.3)が用いられてよい。さらに、AlGaIn1-x-yAsSb1-z(0≦x+y≦0.2、0≦z≦0.2)が用いられてよい。また、例えばGa組成を示すyが0である4元混晶とすることで、より構造を制御し易い、簡便な構造とすることもできる。
【0051】
AlGaIn1-x-yAsSb1-zは、MBE又はMOCVDなど種々の方法で形成することができる。また転位欠陥の低減のために、いわゆる転位フィルタ層が導入されてよい。
【0052】
<赤外線光デバイス>
上述のフォトニック結晶を用いることで、赤外線光デバイスの特性を向上することができる。例えば、発光ダイオード(LED)の発光強度を向上することができる。また、例えばフォトダイオード(PD)の受光感度を向上することができる。ここで、赤外線光デバイスは、赤外線発光素子又は赤外線受光素子であって、これらをまとめた名称である。
【0053】
フォトニック結晶は、屈折率の周期構造を有する。そのため、光波の分散関係はいわゆるフォトニックバンド構造をとる。これは通常の媒質中の分散関係とは大きく異なり、通常の媒質中では見られない様々な機能を発現する。例えば光の伝播が不可能となる波長領域、いわゆるフォトニックバンドギャップを形成することができる。フォトニックバンドギャップは材料の屈折率及び周期構造の周期長等によって定まる。
【0054】
例えば二次元フォトニック結晶の場合、ライトコーンと呼ばれる条件を利用することで、光がフォトニック結晶内に閉じ込められなくなるため、光の取出効率、すなわち光の透過率を向上することができる。以下において、このように透過率を向上する機能を有するフォトニック結晶は「透過型のフォトニック結晶」と称される。
【0055】
例えばフォトニックバンドギャップ内の光は、フォトニック結晶内での伝播が許されない。このようなフォトニック結晶は反射率を向上することができる。以下において、このように反射率を向上する機能を有するフォトニック結晶は「反射型のフォトニック結晶」と称される。
【0056】
本実施形態に係る赤外線光デバイスは、基板と、赤外線の受光又は発光を行う受発光層と、フォトニック結晶と、を備える。フォトニック結晶は、構成材料がAlGaIn1-x-yAsSb1-z(0≦x+y≦0.5、0≦z≦1.0)であり、不純物濃度の互いに異なる複数の領域で構成される周期構造を有する。また、赤外線光デバイスは、赤外線の入出射面を有する。
【0057】
入出射面は、入射面又は出射面であってこれらをまとめた名称である。すなわち、入出射面は、赤外線を出射する出射面、又は、赤外線を入射する入射面である。また受発光層は、受光層又は発光層であってこれらをまとめた名称である。すなわち、受発光層は、発光素子である光デバイスにおいて赤外線の発光を行う発光層、又は、受光素子である光デバイスにおいて赤外線の受光を行う受光層である。
【0058】
フォトニック結晶内での光吸収を抑える為、フォトニック結晶を構成するAlGaIn1-x-yAsSb1-zのバンドギャップが所望の波長に相当するエネルギーより大きいことが好ましい。光デバイスにおいて発光波長又は受光波長は受発光層のバンドギャップに対応することが多い。したがってフォトニック結晶を構成するAlGaIn1-x-yAsSb1-zのバンドギャップが受発光層のバンドギャップよりも大きいことが好ましい。
【0059】
透過型のフォトニック結晶を赤外線の入出射面に形成することで、上述のように光の透過率すなわち光の取出効率を向上し、LEDの発光強度を向上することができる(図10)。PDにおいても空気とデバイスとの屈折率差をなだらかに抑えることができるため、反射が抑えられ受光感度を向上することができる。
【0060】
また透過型のフォトニック結晶は、受発光層に対して入出射面の側に形成されるのであれば、必ずしも入出射面に形成されなくてよい(図11)。例えばデバイス内部の屈折率が大きく異なる材料の界面に透過型フォトニック結晶を形成することで、界面の内部反射を抑えることができる。
【0061】
二次元フォトニック結晶の場合、フォトニックバンドを適切に設計することにより、周期構造が形成された面内に所望の波長の光の定在波を生じさせることができる。
【0062】
このとき受発光層とフォトニック結晶の空間的距離を近くすることで、特性向上が見込める。
【0063】
例えばPDの場合、入射光をフォトニック結晶内の定在波として局在させ、受光層をフォトニック結晶の近傍に配置することで効率良く入射光を吸収し受光感度を向上することができる。例えばLEDの場合、活性層から発せられた光をフォトニック結晶内の定在波として、電場強度を強めることで、パーセル効果により発光層からの発光強度を高めることが可能である。ここで、近傍配置に関して、フォトニック結晶と受発光層との距離が所望の波長の物質内波長で1波長以内にあることが好ましい。上述のように、光デバイスにおいて発光波長又は受光波長は受発光層のバンドギャップに対応することが多い。したがって、換言すると、フォトニック結晶と受発光層との距離が、受発光層のバンドギャップに対応する光の波長の1波長以内であることが好ましい。
【0064】
また、反射型のフォトニック結晶を受発光層に対して赤外線の入出射面とは反対側に形成することで、赤外線光デバイスの特性を向上することができる(図12)。例えばLEDの場合、発光層から発せられた入出射面とは反対側に発せられた光を、反射により再度入出射面側に向けることができるため、発光強度を向上できる。例えばPDの場合、入射光のうち受光層を通り抜けた光を、反射により再度受光層に向けることができるため、受光感度を向上できる。
【0065】
このとき、反射型フォトニック結晶は任意の形状に形成されていてよく、例えばLEDの指向性を高めるために放物面を形成するように配置されていてよい(図13)。
【0066】
(実施例)
図14はInSb層の屈折率のn型不純物濃度に対する依存性を示す。ドーピングはSnを用いて行った。図14に示されるように、n型の不純物濃度、つまりn型キャリア濃度の増加と共に、屈折率が大きく低下する。この傾向は短波長から長波長に向かうにつれて顕著となる。図14の例において、4つの赤外線の波長が示されている。これに対して、p型の不純物濃度については、屈折率の濃度依存性が見られなかった。またInSbに対して、Al、Ga、Asを混晶させた材料についても、同様の傾向が見られた。ここでn型不純物濃度が0となる図14の左端の点は、アンドープのi-InSbの値を示す。
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