(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036869
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】感圧導電性エラストマー、感圧導電性エラストマーの製造方法及び圧力センサ
(51)【国際特許分類】
G01L 1/20 20060101AFI20240311BHJP
【FI】
G01L1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141397
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】390034728
【氏名又は名称】イナバゴム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118393
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 康裕
(72)【発明者】
【氏名】新原 ▲晧▼一
(72)【発明者】
【氏名】関野 徹
(72)【発明者】
【氏名】中山 忠親
(72)【発明者】
【氏名】三好 孝典
(72)【発明者】
【氏名】後藤 知代
(72)【発明者】
【氏名】岡本 吉久
(72)【発明者】
【氏名】河原 宏太郎
(72)【発明者】
【氏名】濱橋 喜幸
(72)【発明者】
【氏名】上田 恒徳
(72)【発明者】
【氏名】浪岡 純矢
(57)【要約】
【課題】 加圧していない時は高い電気抵抗値を示し、加圧している時は圧力が大きいほど低い電気抵抗値を示し、膜厚が薄くても高ダイナミックレンジを達成することができる感圧導電性エラストマー、感圧導電性エラストマーの製造方法及び圧力センサを提供する。
【解決手段】本発明の薄膜状感圧導電性エラストマーは、非導電性エラストマー中に導電性粒子が分散された薄膜状感圧導電性エラストマーであって、前記薄膜状感圧導電性エラストマーは、前記導電性粒子よりも平均粒径が大の非導電性樹脂粒子を含み、一方の表面が前記非導電性樹脂粒子によって凹凸状に形成されていることを特徴とする。この場合、前記非導電性樹脂粒子は形状が不定形のものであることが好ましい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非導電性エラストマー中に導電性粒子が分散された薄膜状感圧導電性エラストマーであって、
前記薄膜状感圧導電性エラストマーは、前記導電性粒子よりも平均粒径が大の非導電性樹脂粒子を含み、一方の表面が前記非導電性樹脂粒子によって凹凸状に形成されていることを特徴とする、薄膜状感圧導電性エラストマー。
【請求項2】
前記非導電性樹脂粒子は形状が不定形のものであることを特徴とする、請求項1に記載の薄膜状感圧導電性エラストマー。
【請求項3】
前記非導電性樹脂粒子は、前記薄膜状感圧導電性エラストマーの少なくとも一方の表面側に偏在した状態で、前記薄膜状感圧導電性エラストマー中に含有されていることを特徴とする、請求項1に記載の薄膜状感圧導電性エラストマー。
【請求項4】
前記薄膜状感圧導電性エラストマーは、合成樹脂フィルムの表面に設けられていることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の薄膜状感圧導電性エラストマー。
【請求項5】
非導電性エラストマー中に導電性粒子が分散された薄膜状感圧導電性エラストマーの製造方法であって、
前記非導電性エラストマーと、前記導電性微粒子と、前記導電性粒子よりも粒径が大の非導電性樹脂粒子とを溶剤の存在下で撹拌混合して前記非導電性エラストマー、前記導電性微粒子、前記非導電性樹脂粒子、及び、前記溶剤とからなるスラリーを調製する工程と、
前記スラリーを基体上に薄膜状に塗布した後に乾燥して前記溶剤を除去して前記非導電性樹脂粒子によって表面が凹凸状となるようにする工程と、
を備えることを特徴とする、薄膜状感圧導電性エラストマーの製造方法。
【請求項6】
非導電性エラストマー中に導電性粒子が分散された薄膜状感圧導電性エラストマーの製造方法であって、
前記非導電性エラストマーと前記導電性微粒子とを溶剤の存在下で撹拌混合して前記非導電性エラストマー、前記導電性微粒子、及び、前記溶剤とからなるスラリーを調製する工程と、
前記前記スラリーを基体上に薄膜状に塗布した後に、前記導電性粒子よりも粒径が大の非導電性樹脂粒子を散布し、次いで乾燥することにより前記非導電性樹脂粒子によって表面が凹凸状となるようにする工程と、
を備えることを特徴とする、薄膜状感圧導電性エラストマーの製造方法。
【請求項7】
柔軟性を有するシートの表面に互いに絶縁された状態で配置された複数の薄膜状導電性部材と、前記複数の薄膜状導電性部材の表面に、前記複数の薄膜状導電性部材間に跨がるように配置された請求項1に記載の薄膜状感圧導電性エラストマーとを備える圧力センサであって、
前記薄膜状感圧導電性エラストマーは、前記前記非導電性樹脂粒子によって凹凸状に形成されている面が前記複数の薄膜状導電性部材と対向するように配置されていることを特徴とする、圧力センサ。
【請求項8】
柔軟性を有する第1のシートの表面に互いに絶縁された状態で配置された複数の薄膜状導電性部材と、
柔軟性を有する第2のシートの表面に互いに絶縁された状態で配置された複数の薄膜状導電性部材と、を有し、
前記第1のシートの複数の薄膜状導電性部材と前記第2のシートの複数の薄膜状導電性部材とが互いに交差するように対向配置され、前記第1のシートの複数の薄膜状導電性部材と前記第2のシートの複数の薄膜状導電性部材の両者に挟まれるように配置された請求項1に記載の薄膜状感圧導電性エラストマーとを備える圧力センサであって、
前記薄膜状感圧導電性エラストマーは、前記前記非導電性樹脂粒子によって凹凸状に形成されている面が前記第1のシートの複数の薄膜状導電性部材又は前記第2のシートの複数の薄膜状導電性部材と対向するように配置されていることを特徴とする、圧力センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加圧していない時は高い電気抵抗値を示し、加圧している時は圧力が大きいほど低い電気抵抗値を示し、膜厚が薄くても高ダイナミックレンジの感圧導電性エラストマー、感圧導電性エラストマーの製造方法及び圧力センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧力の大きさを測定する圧力センサとして、ひずみゲージを用いる方式や、チタン酸ジルコン酸鉛などの圧電セラミックスを用いる方式などが知られている。これらの方式は、一般に剛性の高い材料で形成されているため、形状の自由度が低いという課題がある。
【0003】
これに対し、形状の自由度が高い圧力センサとして、ゴムやエラストマーなどに導電性樹脂粒子を分散させた感圧導電性エラストマーを用いる方式のものが知られている。この感圧導電性エラストマーは、導電性フィラーとしてのナノメータサイズの導電性粒子と、耐久性及び再現性を確保するための非導電性フィラーとしてのナノメータサイズの非導電性粒子と含んでいる。この感圧導電性エラストマーは、加圧していないとき、すなわち変形していないときは高い電気抵抗値を示すが、圧力を受けて圧縮変形すると、導電性粒子間の距離が短くなり、導電性粒子同士による導通経路が生じて電気抵抗値が低くなる。
【0004】
この導通経路は、受けている圧力が大きいほど多く形成されるため、受けている圧力が大きいほど電気抵抗値が低くなる。そのため、この感圧導電性エラストマーの電気抵抗値を測ることで、この感圧導電性エラストマーが受けている圧力の大きさを知ることができるようになる。この様な感圧導電性エラストマーを用いると、形状の自由度が高く、柔軟性に優れた圧力センサを得ることができるようになる。
【0005】
圧力センサにとって感圧部材である感圧導電性エラストマーの薄膜化は重要な課題である。感圧導電性エラストマーを薄膜化できれば、圧力センサに柔軟性を付与することができるうえに小型化できるので、狭小部に装着することができるようになり、圧力センサを製品に組み込む際の形状設計の自由度が高くなるからである。また、圧力センサをウェアラブル端末に組み込む場合を考慮すると、薄型化することにより、装着感が少なくなるという恩恵も得られる。そのため、厚さが0.3mm(300μm)以下の薄膜状とした感圧導電性エラストマーも開発されている。
【0006】
たとえば、特許文献1には、非導電性エラストマー中に、ナノメータサイズの導電性フィラーと、シランカップリング等で表面処理したナノメータサイズのセラミック粒子と、を溶媒中に分散させた混合物をステンレス基板上に製膜した後に溶媒を留去した後に硬化させ、厚さ125μmの感圧導電性エラストマーを得た例が示されている(実施例3参照)。
【0007】
また特許文献2には、加熱硬化型シリコーンゴムと、ナノメータサイズのカーボンブラック粒子と、ナノメータサイズの疎水性シリカ粒子と、ナノメータサイズの中空シリカ粒子とを溶媒を用いてスラリー状材料を調製し、ドクターブレード法により厚さ100μmの高分子フィルム上にコーティングし、硬化させることにより厚さ125μmのシート状感圧導電性エラストマーを得た例が示されている(実施例1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007-220481号公報
【特許文献2】特開2018-111218号公報
【特許文献3】特開2021-122925号公報
【特許文献4】特開2021-162385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1及び2に開示されている感圧導電性エラストマーによれば、厚さが100~125μmと非常に薄いことから、この感圧導電性エラストマーを用いた圧力センサに柔軟性を付与することができ、しかも小型化できるので狭小部に装着することができるようになり、また圧力センサを製品に組み込む際の形状設計の自由度が高くなるという優れた効果を奏することができるようになる。
【0010】
しかしながら、感圧導電性エラストマーの厚さが薄くなると、圧力が加わった際の厚さの変化が少なくなるので、電気抵抗値の変化が少なくなってダイナミックレンジが小さくなってしまう。このような感圧導電性エラストマーの厚さを薄くした際のダイナミックレンジの低下は、厚さを300μm以下とした場合、特に厚さを200μm以下とした場合に顕著となる。
【0011】
発明者等は、感圧導電性エラストマーの厚さを200μm以下とした場合の圧力センサのダイナミックレンジを向上させるべく種々検討を重ねた結果、感圧導電性エラストマー中に存在させる非導電性フィラーとしての非導電性粒子のサイズをナノメータサイズから遙かに大きく、マイクロメータサイズとすることにより解決することができることを見出し、本発明を完成するに到ったのである。
【0012】
すなわち、本発明は、加圧していない時は高い電気抵抗値を示し、加圧している時は圧力が大きいほど低い電気抵抗値を示し、膜厚が200μm以下と薄くてもダイナミックレンジが大きい感圧導電性エラストマー、感圧導電性エラストマーの製造方法及び圧力センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様の薄膜状感圧導電性エラストマーは、非導電性エラストマー中に導電性粒子が分散された薄膜状感圧導電性エラストマーであって、前記薄膜状感圧導電性エラストマーは、前記導電性粒子よりも平均粒径が大の非導電性樹脂粒子を含み、一方の表面が前記非導電性樹脂粒子によって凹凸状に形成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の薄膜状感圧導電性エラストマーにおける「薄膜状」という用語は、膜状圧力センサとして一般的に使用されている厚さが300μm以上のものを排除する意味で用いられており、臨界的限度ではないが、厚さが200μm以下のものを指し示すものとして用いられている。また、本発明の薄膜状感圧導電性エラストマーにおける「非導電性樹脂粒子によって凹凸状に形成されている」という用語は、ミクロ的に見ると非導電性エラストマー中に導電性粒子が分散された感圧導電性エラストマーも表面には少なくとも導電性粒子の存在に起因する凹凸形状が形成されるが、これよりも凹部と凸部の段差が大きく、少なくとも凸部に非導電性樹脂粒子が存在している状態のものを示しており、非導電性樹脂粒子の表面が剥き出しの状態のものや導電性粒子を含む非導電性エラストマーで被覆されている状態のものも含む意味で用いられている。
【0015】
係る態様の薄膜状感圧導電性エラストマーを用いて圧力センサを形成する場合、凹凸状に形成されている表面が圧力センサの一対の電極の少なくとも一方の表面に接するように配置される。そうすると、圧力無印加時には一対の電極間の抵抗が非常に大きくなり、また、圧力が印加された場合には、印加された圧力の大きさに対応して薄膜状感圧導電性エラストマーの厚さが減少して一対の電極間の抵抗値が低下していくが、圧力の検出限界(一対の電極間の抵抗値の変化が検出し難くなる圧力)が非導電性樹脂粒子を含んでいない場合や非導電性樹脂粒子のサイズが導電性微粒子と同程度のナノメータサイズである従来例の場合と比して大きくなるので、ダイナミックレンジが大きくなる。
【0016】
なお、係る態様の薄膜状感圧導電性エラストマーにおいては、非導電性エラストマーとしては圧力センサに用いられている周知の樹脂成分のうちから適宜に選択して使用することができ、たとえば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メタクリレート樹脂、フェノール樹脂、シリコーンゴムなどが挙げられる。これらの樹脂成分は1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらのうち、他の成分との親和性の観点から、特にシリコーンゴムが好ましい。
【0017】
また、係る態様の薄膜状感圧導電性エラストマーにおいては、導電性樹脂粒子としては、カーボンブラック、グラファイト、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄粉及び金属酸化物である導電性酸化錫や導電性酸化チタン等の導電剤などを用いることができる。これらは1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの非導電性エラストマーとの混和性、分散性の観点から、ナノメータサイズの炭素粒子が好ましい。ナノメータサイズの炭素粒子としては、カーボンブラック、球状炭素粒子、針状炭素粒子、板状炭素粒子、中空シェル構造炭素粒子などが挙げられる。
【0018】
導電性樹脂粒子としてこれらのナノメータサイズの炭素粒子を用いると、薄膜状感圧導電性エラストマーの機械的強度が高くなり、繰り返しの圧縮変形に対する電気抵抗値変化の再現性や、繰り返しの圧縮変形に対する耐久性が良好となる。これは、ナノメータサイズの炭素粒子がシリコーンゴム内で独特な形状の粒子ネットワーク構造を形成するためである。一方、土状黒鉛や鱗状黒鉛など、マイクロメータサイズの炭素粒子を用いると、ナノメータサイズの炭素粒子と比較して導電性を発現させるのに必要な配合量が多くなり、また、薄膜状感圧導電性エラストマー中に均質に分散させることが困難となるので、薄膜状感圧導電性エラストマーの伸びや引っ張り強度などに悪影響を及ぼしてしまうので、好ましくない。
【0019】
なお、導電性樹脂粒子の平均粒径は、5~500nmのものが用いられ、好ましくは10~100nmのもの、より好ましくは20~50nmである。導電性樹脂粒子の平均粒径が5nm未満であると、導電性樹脂粒子の均一分散が困難になると共に、薄膜状感圧導電性エラストマーの電気抵抗値変化が小さくなる。また、導電性樹脂粒子の粒径が500nmを超えると、薄膜状感圧導電性エラストマーの繰り返しの圧縮変形に対する電気抵抗値変化の再現性や繰り返しの圧縮変形に対する耐久性が悪くなる。
【0020】
また、導電性樹脂粒子の配合割合は、0.5~20wt%の範囲で用いられ、好ましくは0.7~10wt%、より好ましくは1~5wt%である。導電性樹脂粒子の配合割合が0.5wt%未満であると、薄膜状感圧導電性エラストマーの電気抵抗値が高くなりすぎる。また、導電性樹脂粒子の配合割合が20wt%を超えると、薄膜状感圧導電性エラストマーの伸びや弾性が低下すると共に、無加圧時の薄膜状感圧導電性エラストマーの絶縁性が保たれ難くなる。
【0021】
また、係る態様の薄膜状感圧導電性エラストマーは、非導電性樹脂粒子として導電性粒子よりも平均粒径が大のものを含んでいる。この非導電性樹脂粒子は、としては、シリコーン系、ウレタン系などのエラストマーやアクリル系、スチレン系、ポリアミド系などの樹脂からなる粒子を用いることができる。
【0022】
この非導電性樹脂粒子の平均粒径は、導電性粒子の場合よりも大でマイクロメータサーズのものが好ましく、たとえば5~120μmのもの、好ましくは30~100μmのもの、より好ましくは50~80μmのものが用いられる。非導電性樹脂粒子の平均粒径が120μmを越えると、粒径が200μmを越える成分も含まれる可能性があり、非導電性樹脂粒子が薄膜状感圧導電性エラストマーの上下表面を貫通してしまうことがあり、圧力印化時に薄膜状感圧導電性エラストマーに変形が生じ難くなってダイナミックレンジが小さくなってしまう。非導電性樹脂粒子の平均粒径が5μm未満であると、圧力印化時に薄膜状感圧導電性エラストマーが変形した際、非導電性樹脂粒子同士が接触しても滑りやすくて変形抑制に繋がらず、同じくダイナミックレンジが小さくなる。
また、係る態様の薄膜状感圧導電性エラストマーにおいては、前記非導電性樹脂粒子は形状が不定形のものとすることが好ましい。
【0023】
非導電性樹脂粒子の形状が不定形であると、薄膜状感圧導電性エラストマーに圧力が印加されて非導電性樹脂粒子同士が接触した際、非導電性粒子同士が滑らずに接触した状態を維持しやすくなる。そのため、圧力センサを形成した場合には、球状ないし定型状の非導電性樹脂粒子を用いた場合よりも圧力の検出上限が大きくなり、ダイナミックレンジが大きくなる。
【0024】
また、係る態様の薄膜状感圧導電性エラストマーにおいては、前記非導電性樹脂粒子は、前記薄膜状感圧導電性エラストマーの少なくとも一方の表面側に偏在した状態で、前記薄膜状感圧導電性エラストマー中に含有されているものとしてもよい。
【0025】
非導電性樹脂粒子を薄膜状感圧導電性エラストマーの少なくとも一方の表面側に偏在した状態とすれば、容易に薄膜状感圧導電性エラストマーの一方の表面に凹凸状に形成することができるようになる。
係る態様の薄膜状感圧導電性エラストマーにおいては、前記薄膜状感圧導電性エラストマーが合成樹脂フィルムの表面に設けられているものとしてもよい。
【0026】
合成樹脂フィルムは、柔軟でありながら感圧導電性エラストマーよりも強度が高い。そのため、係る態様の薄膜状感圧導電性エラストマーにおける合成樹脂フィルムは、薄膜状感圧導電性エラストマー製造時の基材として用いることができるほか、圧力センサとした際の表面保護部材としても機能する。
【0027】
なお、この合成樹脂フィルムの材質としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニルやポリビニルアルコールなどのビニル系樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル系樹脂、ポリアクリル酸メチルやポリメタクリル酸エチルなどのアクリル系樹脂、ポリスチレンなどのスチレン系樹脂、ポリカーボネートやセロファンなどのエラストマー系樹脂等を用いることができる。この合成樹脂フィルムの厚さは50~125μmが好ましく、より好ましくは75~100μmである。この合成樹脂フィルムの厚さが厚すぎると、圧力が印加された際の追従性が悪くなり、荷重と抵抗値の相関性が不良となる。また、合成樹脂フィルムが薄すぎる場合には、耐久性が不足する。
【0028】
本発明の別の態様の薄膜状感圧導電性エラストマーの製造方法は、非導電性エラストマー中に導電性粒子が分散された薄膜状感圧導電性エラストマーの製造方法であって、前記非導電性エラストマーと、前記導電性微粒子と、前記導電性粒子よりも粒径が大の非導電性樹脂粒子とを溶剤の存在下で撹拌混合して前記非導電性エラストマー、前記導電性微粒子、前記非導電性樹脂粒子、及び、前記溶剤とからなるスラリーを調製する工程と、前記スラリーを基体上に薄膜状に塗布した後に乾燥して前記溶剤を除去して前記非導電性樹脂粒子によって表面が凹凸状となるようにする工程と、を備えることを特徴とする。
【0029】
本発明のさらに別の態様の薄膜状感圧導電性エラストマーの製造方法は、非導電性エラストマー中に導電性粒子が分散された薄膜状感圧導電性エラストマーの製造方法であって、前記非導電性エラストマーと前記導電性微粒子とを溶剤の存在下で撹拌混合して前記非導電性エラストマー、前記導電性微粒子、及び、前記溶剤とからなるスラリーを調製する工程と、前記前記スラリーを基体上に薄膜状に塗布した後に、前記導電性粒子よりも粒径が大の非導電性樹脂粒子を散布し、次いで乾燥することにより前記非導電性樹脂粒子によって表面が凹凸状となるようにする工程と、を備えることを特徴とする。
【0030】
係る態様の薄膜状感圧導電性エラストマーの製造方法によれば、前述した効果を奏することができる薄膜状感圧導電性エラストマーを容易に製造することができるようになる。なお、このようにして製造された薄膜状感圧導電性エラストマーは、前記基体から剥離して、ないし前記基体と共に、使用してしてもよい。
【0031】
本発明のさらに別の態様の圧力センサは、柔軟性を有するシートの表面に互いに絶縁された状態で配置された複数の薄膜状導電性部材と、前記複数の薄膜状導電性部材の表面に、前記複数の薄膜状導電性部材間に跨がるように配置された前記の薄膜状感圧導電性エラストマーとを備える圧力センサであって、前記薄膜状感圧導電性エラストマーは、前記前記非導電性樹脂粒子によって凹凸状に形成されている面が前記複数の薄膜状導電性部材と対向するように配置されていることを特徴とする。
係る態様の圧力センサによれば、前述した効果を奏することができる平面状圧力センサが得られる。
【0032】
本発明のさらに別の態様の圧力センサは、柔軟性を有する第1のシートの表面に互いに絶縁された状態で配置された複数の薄膜状導電性部材と、柔軟性を有する第2のシートの表面に互いに絶縁された状態で配置された複数の薄膜状導電性部材と、を有し、前記第1のシートの複数の薄膜状導電性部材と前記第2のシートの複数の薄膜状導電性部材とが互いに交差するように対向配置され、前記第1のシートの複数の薄膜状導電性部材と前記第2のシートの複数の薄膜状導電性部材の両者に挟まれるように配置された前記の薄膜状感圧導電性エラストマーとを備える圧力センサであって、前記薄膜状感圧導電性エラストマーは、前記前記非導電性樹脂粒子によって凹凸状に形成されている面が前記第1のシートの複数の薄膜状導電性部材又は前記第2のシートの複数の薄膜状導電性部材と対向するように配置されていることを特徴とする。
係る態様の圧力センサによれば、前述した効果を奏することができるマトリクス状圧力センサが得られる。
【発明の効果】
【0033】
以上述べたように、本発明によれば、加圧していない時は高い電気抵抗値を示し、加圧している時は圧力が大きいほど低い電気抵抗値を示し、膜厚が薄くても高ダイナミックレンジを達成することができる感圧導電性エラストマー、感圧導電性エラストマーの製造方法及び圧力センサが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1Aは実施例1の製造工程を順次説明するための流れ図であり、
図1Bはドクターブレード式コーターにより高分子フィルムの表面にスラリー状材料を塗布する工程ドクターブレード式コーターの概略断面図である
【
図2】
図2Aはドクターブレード式コーターにより高分子フィルム表面に塗布された直後の実施例1に対応する拡大模式断面図であり、
図2Bは硬化後の
図2Aに対応する箇所の拡大模式断面図である
【
図3】実施例1の薄膜状感圧導電性エラストマー表面の電子顕微鏡写真である。
【
図4】比較例1の薄膜状感圧導電性エラストマー表面の電子顕微鏡写真である。
【
図5】比較例2の薄膜状感圧導電性エラストマー表面の電子顕微鏡写真である。
【
図6】
図6Aは実施例1の薄膜状感圧導電性エラストマー表面の表面近傍の拡大模式断面図であり、
図6Bは比較例1の薄膜状感圧導電性エラストマー表面の表面近傍の拡大模式断面図である。
【
図7】実施例1、比較例1及び2の薄膜状感圧導電性エラストマーにおける印加された圧力と電気抵抗との関係を示すグラフである。
【
図8】(a)~(e)はそれぞれ実験例1~5の薄膜状感圧導電性エラストマーの表面画像を示し、(a’)~(e’)はそれぞれ画像処理により非導電性樹脂粒子の占める輪郭を強調表示した画像である。
【
図9】実施例2及び3の薄膜状感圧導電性エラストマーにおける印加された圧力と電気抵抗との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の具体的実施形態を、製造方法を中心に、図面を参照しながら説明する。ただし、以下に示す各種実施例は、本発明の技術思想を具体化するための例を示すものであって、本発明をこれらの実施例に示したものに特定することを意図するものではない。本発明は特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものにも等しく適用し得るものである。
【0036】
[実施例1]
まず、
図1及び
図2を参照しながら実施例1にかかる薄膜状感圧導電性エラストマーの製造工程を詳細に説明する。なお、
図1Aは実施例1の製造工程を順次説明するための流れ図であり、
図1Bはドクターブレード式コーターにより高分子フィルムの表面にスラリー状材料を塗布する工程ドクターブレード式コーターの概略断面図である。
図2Aはドクターブレード式コーターにより高分子フィルム表面に塗布された直後の拡大模式断面図であり、
図2Bは硬化後の
図2Aに対応する箇所の拡大模式断面図である。
【0037】
実施例1の薄膜状感圧導電性エラストマーは次のようにして調製した。非導電性エラストマーとしては1液型の加熱硬化型シリコーンゴム(信越化学工業株式会社製、商品名:KE-1830)を用いた。導電性微粒子としてはナノメータサイズのカーボンブラック粒子(デンカ株式会社製、商品名:デンカブラック)を用いた。非導電性樹脂粒子としては平均粒径が30μmのシリコーンレジンパウダー(日興リカ株式会社製、商品名:MSP-150)を用いた。この平均粒径が30μmのシリコーンレジンパウダーは、形状が「不定形」のもので、粒度分布が125μm以下のものである。
【0038】
感圧導電性エラストマーを作成するには、
図1Aに示したように、まず自転式超音波分散装置(株式会社シンキー製、分散ナノ太郎(商品名))11中に1.5gの導電性微粒子としてのナノメータサイズカーボンブラック粒子と、2.5gの非導電性樹脂粒子としてのシリコーンレジンパウダーと、42gの溶媒としてのn-ヘキサンを加えて十分に混合し、次いで25gの非導電性エラストマーとしての1液型の加熱硬化型シリコーンゴム(液状)を添加し、自転公転式分散装置(株式会社シンキー製、あわとり錬太郎(商品名))12によって十分に分散させ、粘性のあるスラリー状材料13を得た。
【0039】
次いで、
図1Bに示したように、このスラリー状材料13を、ドクターブレード14を有する吐出口15が形成された容器16内に注入し、この容器16をポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂からなる厚さ100μmの高分子フィルム17上に配置し、この容器16を高分子フィルム17に沿って移動させるか、あるいは高分子フィルム17を吐出口15から離れる方向へローラなどで移動させることにより、高分子フィルム17の上面にスラリー状材料13の薄膜状コーティング18を形成する。このとき、薄膜状コーティング18の厚さは約500μmとなるようにした。この薄膜状コーティング18が形成された高分子フィルム17の拡大模式縦断面を
図2Aに示した。なお、
図2Aにおける参照符号19は導電性微粒子としてのナノメータサイズカーボンブラック粒子を示し、参照符号20は非導電性樹脂粒子としてはシリコーンレジンパウダーを示している。
【0040】
その後室温で30分放置して溶媒を揮発させたあと、120℃に維持されたオーブン中で1時間硬化させ、実施例1の薄膜状感圧導電性エラストマー18’を作成した。得られた薄膜状感圧導電性エラストマー18’が形成された高分子フィルム17の拡大模式縦断面を
図2Bに示した。得られた実施例1の薄膜状感圧導電性エラストマー18’は、表面が凹凸状となっており、凸部には表面が薄い非導電性エラストマーで被覆された状態の非導電性樹脂粒子19が観察された。硬化後の薄膜状感圧導電性エラストマー18’は、高分子フィルムの表面から計って凸部の一番高い部分までの厚さは約125μmであった。なお、
図2Bにおいては、凸部の非導電性樹脂粒子19を覆っている導電性エラストマーは図示省略した。
【0041】
[比較例1]
比較例1の薄膜状感圧導電性エラストマーは、非導電性樹脂粒子としてのシリコーンレジンパウダーを添加しなかった以外は実施例1の薄膜状感圧導電性エラストマーの場合と同様にして作成した。得られた比較例1の薄膜状感圧導電性エラストマーは、表面が実質的に平坦となっており、高分子フィルムを除外した厚さは約100μmであった。
【0042】
[比較例2]
比較例2の薄膜状感圧導電性エラストマーは、特許文献2の実施例1の場合と同様にして作成した。すなわち、非導電性エラストマーとして50gの1液型の加熱硬化型シリコーンゴム(信越化学工業株式会社製、商品名:KE-1830)を、導電性微粒子として2.2gのナノメータサイズカーボンブラック粒子(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、商品名:EC600JD)を、非導電性樹脂粒子として0.75gの疎水性ナノメータサイズシリカ粒子(日本アエロジル株式会社製、商品名:RX50)と0.35gの中空ナノメータサイズシリカ粒子(日鉄鉱業株式会社製、商品名:シリナックス)と、溶媒としてn-ヘキサン1200mLを用いた。
【0043】
まず、ナノサイズカーボンブラック粒子、疎水性ナノサイズシリカ粒子および中空ナノサイズシリカ粒子を混合して撹拌した混合物を、硬化前の非導電性エラストマーをn-ヘキサンに溶かした溶液に配合した後、ホモジナイザーによる超音波分散を60分間行い、十分に分散させた。次に、エバポレーターにより205hPaで溶媒除去を375秒間行うことで、混合物から溶媒をある程度取り除き、粘性のあるスラリー状とした。このスラリー状材料に、自転公転式撹拌脱泡機による3分間の分散工程を施し、再び分散させた。このスラリー状材料を、実施例1の場合と同様のドクターブレード法により、PET樹脂からなる厚さ100μmの高分子フィルム表面にコーティングし、最後に室温で30分放置して溶媒を揮発させたあと、恒温恒湿槽(温度90℃、湿度30%)に投入して12時間硬化させることで、比較例2の薄膜状感圧導電性エラストマーを作成した。
【0044】
得られた比較例2の薄膜状感圧導電性エラストマーは、高分子フィルムを除外した厚さが約100μmであり、ミクロ的に見ると表面に微細な凹凸が見られたが、実施例1のものよりも遙かに小さく、実質的に平坦な表面となっていた。
なお、実施例1、比較例1及び2の薄膜状感圧導電性エラストマーの作成時の各成分含有量を表1に纏めて示した
【0045】
【0046】
また、実施例1、比較例1及び2の薄膜状感圧導電性エラストマーの表面の1000倍拡大画像(デジタルマイクロスコープ 株式会社キーエンス製 VHX-8000)を表面粗さの各種パラメータと共に
図3~
図5に示した。また、
図3~
図5における各表面粗さのパラメータの一覧を表2に纏めて示した。
【0047】
【0048】
図3~
図5に示した結果から、実施例1の薄膜状感圧導電性エラストマーの最大高さSz及び最大山高さSpは比較例1及び2のものよりも大幅に大きくなっており、さらに実施例1の薄膜状感圧導電性エラストマーの最大谷深さSvも比較例1及び2のものよりも大幅に大きくなっていることが分かる。このことは実施例1の薄膜状感圧導電性エラストマーの方が比較例1及び2の薄膜状感圧導電性エラストマーよりも表面の凹凸が大きく、高さ及び深さともに大きくなっていることを示しているものである。
【0049】
[感圧特性の測定]
上述のようにして作成された実施例1、比較例1及び2の薄膜状感圧導電性エラストマーを用いて、次のようにして感圧特性を測定した。まず、別のPETからなる高分子フィルムの表面に距離1mmだけ離間させて平行に一対の薄膜電極を形成した。そして、実施例1、比較例1及び2の薄膜状感圧導電性エラストマーのそれぞれについて、高分子フィルムが付着していない側が一対の薄膜電極に接触するようにして載置して、実施例1、比較例1及び2の圧力センサを得た。
【0050】
実施例1の圧力センサの表面近傍の拡大模式断面図を
図6Aに示し、比較例1及び2の圧力センサの薄膜電極表面近傍の拡大模式断面図を
図6Bに示した。なお、
図6A及び
図6Bにおいては、
図2A及び
図2Bに示したものと同一の構成部分には同一の参照符号を付与してその詳細な説明を省略する。
【0051】
実施例1の圧力センサ21A及び21Bは、基体となる高分子フィルム22の表面に形成された薄膜電極23の表面に、薄膜状感圧導電性エラストマー18’の非導電性樹脂粒子20によって凹凸状に形成されている側の表面が対向するように配置されている。そうすると、圧力センサ21A及び21Bに圧力が印加されていない状態では、薄膜状感圧導電性エラストマー18’の凸状部分が薄膜電極23と接触するが、凹状部分は薄膜電極と接触しない部分が生じるので、薄膜状感圧導電性エラストマー18’と薄膜電極23との間に空隙Sが形成される。
【0052】
そのため、実施例1の圧力センサ21A及び21Bでは、圧力が印加されていない状態では一対の電極間の抵抗は非常に大きくなり、また高分子フィルム側から圧力が印加されると、薄膜状感圧導電性エラストマー18’が変形して徐々に薄膜電極23と接触するから、凹部の薄膜状感圧導電性エラストマー18’の実質的に全てが薄膜電極23と接するまではその接触面積に対応して一対の電極間の抵抗が小さくなる。凹部の薄膜状感圧導電性エラストマー18’の実質的に全てが薄膜電極23と接した後は、印加される圧力に対応して薄膜状感圧導電性エラストマー18’の厚さが薄くなり、さらに一対の電極間の抵抗の低下に繋がる。
【0053】
それに対し、比較例1及び2の圧力センサ21C及び21Dでは、薄膜状感圧導電性エラストマー18’の表面は実質的に平坦面となっているので、
図3Bに示したように、圧力が印加されていない状態でも薄膜状感圧導電性エラストマー18’の表面が薄膜電極23の表面と接触しているので、圧力が印加されていない時の一対の電極間の抵抗は実施例1の場合よりも小さくなり、さらに印加される圧力に対応して薄膜状感圧導電性エラストマー18’の厚さが薄くなって電極間の抵抗の低下に繋がる。そのため、比較例1及び2の圧力センサ21C及び21Dのダイナミックレンジは、実施例1の圧力センサ21A及び21Bの場合よりも小さくなる。逆に言うと、実施例1の圧力センサ21A及び21Bのダイナミックレンジは、比較例1及び2の圧力センサ21C及び21Dのものよりも大きくなることが分かる。
【0054】
上述した実施例1、比較例1及び比較例2の圧力センサ21A~21Dのそれぞれについて、印加された圧力と電気抵抗との関係を
図7に示した。
図7に示した結果から、以下のことが分かる。すなわち、薄膜状感圧導電性エラストマー中に非導電性樹脂粒子が含まれていない比較例1の圧力センサでは加重が100gを越える当たりから加重の増大とともに抵抗値が増大しており、実質的に抵抗値~加重を測定することが困難となっており、圧力センサを形成した場合の実用性は認められなくなっている。また、薄膜状感圧導電性エラストマー中に導電性粒子とほぼ同程度のナノメータサイズの非導電性粒子が含まれている比較例2の圧力センサでは、加重が250g程度までは10KΩ~0.3KΩの範囲で抵抗値が変化しているが、それよりも加重が大きくなってもほとんど抵抗値が変化していない。したがって、高荷重域では圧力センサとしての使用が難しい。
【0055】
これに対し、薄膜状感圧導電性エラストマー中に導電性粒子よりも平均粒径が大の非導電性樹脂粒子を含んでおり、表面が非導電性樹脂粒子によって凹凸状に形成されている実施例1の圧力センサでは、加重が40gより小さい範囲でわずかに加重と抵抗値の関係が崩れているが、加重が40gより大きい範囲では加重が2000gに到るまで、加重の増大と共に抵抗値が大きく変化していることが認められ、高ダイナミックレンジの圧力センサを形成することができることが確認できた。また、比較例2と比べても、低荷重域での抵抗値の変化も大きいことから、低荷重域用の圧力センサとしても精度のよいものを実現することができる。
【0056】
[実験例1~5(比較例3~4、実施例2及び3)]
実施例1では、非導電性エラストマーと、導電性微粒子と、導電性粒子よりも粒径が大の非導電性樹脂粒子とを溶剤の存在下で撹拌混合して調整したスラリーを用いて薄膜状感圧導電性エラストマーを形成した例を示した。しかし、本発明の薄膜状感圧導電性エラストマーは、一方の表面が前記非導電性樹脂粒子によって凹凸状に形成されていれば所定の作用効果を奏する。そのため、非導電性エラストマーと導電性微粒子とを溶剤の存在下で撹拌混合してスラリーを調製し、このスラリーを基体上に薄膜状に塗布した後に、導電性粒子よりも粒径が大の非導電性樹脂粒子を散布し、次いで乾燥することにより表面が凹凸状となるようにしても、所定の作用効果を奏する薄膜状感圧導電性エラストマーを得ることができる。
【0057】
この場合、非導電性樹脂粒子は非導電性エラストマーと導電性微粒子とにより形成された導電性エラストマー中に実質的に均質に分散されているわけではないし、しかも非導電性樹脂粒子を導電性エラストマーの表面に完全に均質に散布することも困難であるから、非導電性樹脂粒子と非導電性エラストマー及び非導電性樹脂粒子との相対的含有割合ないし添加割合を特定することは困難である。そのため、非導電性樹脂粒子は導電性エラストマーの表面にのみ存在しているから、以下では、実験例として複数の薄膜状感圧導電性エラストマーを調製し、これらの薄膜状感圧導電性エラストマーの表面画像から相対的な非導電性樹脂粒子の占める面積の割合を求め、その面積の割合と感圧特性について検討した。
【0058】
まず、非導電性樹脂粒子を添加しなかった以外は実施例1の場合と同様にして調製したスラリー状材料を用い、同じく実施例1の場合と同様にして高分子フィルム上に薄膜状コーティングを形成し、乾燥前の薄膜状コーティングの表面に実施例1で用いたのと同様の非導電性樹脂粒子を意図的にばらつきが生じるように散布し、乾燥することにより各種実験に使用する薄膜状感圧導電性エラストマーを作成した。そして、この薄膜状感圧導電性エラストマーから、非導電性樹脂粒子の占める面積が大きい部分から5mm×5mmのサイズに切り出して実験例1の薄膜状感圧導電性エラストマーを得た。また、同様にして非導電性樹脂粒子の占める面積がそれぞれ異なるように選別して同サイズの実験例2~5の4種類の薄膜状感圧導電性エラストマーを得た。
【0059】
実験例1~5の5種類の薄膜状感圧導電性エラストマーについて、実施例1の場合と同様の装置を用いて表面画像を測定し、さらに、この画像を画像処理することにより非導電性樹脂粒子の占める輪郭を検出した。このようにして得られた実験例1~5の表面画像及び非導電性樹脂粒子の占める輪郭を検出した画像を
図8に纏めて示した。なお、
図8において、(a)~(e)はそれぞれ実験例1~5の薄膜状感圧導電性エラストマーの表面画像を示し、(a’)~(e’)はそれぞれ実験例1~5の表面画像(a)~(e)に対して画像処理により非導電性樹脂粒子の占める輪郭を強調表示した画像である。
【0060】
そして、
図8の(a’)~(e’)の画像から、まず、導電性エラストマー部分の面積を求め、計算により薄膜状感圧導電性エラストマーの面積(25mm
2)に対する非導電性樹脂粒子の占める面積の割合を計算した。結果をまとめて表3に示した。
【0061】
【0062】
また、このようにして作成した実験例1~5のそれぞれの薄膜状感圧導電性エラストマーについて、実施例1、比較例1及び比較例2の場合と同様にして圧力センサを作成し、印加された圧力と電気抵抗との関係を測定したところ、実験例1~3の場合については絶縁体となり、実験例4及び5の圧力センサについては一応の感圧特性が測定された。
図9に実施例2及び3の圧力センサにおける印加された圧力と電気抵抗との関係を示した。また、以下においては、実験例1~3のものをそれぞれ順に比較例3~5と称し、実験例4及び5のものをそれぞれ順に実施例2及び3と称することとする。
【0063】
図9に示したように、実施例2及び3の圧力センサの場合は、
図7に示した比較例2の圧力センサの場合よりもダイナミックレンジが大きくなっており、良好な感圧特性が得られていることが確認できた。また、比較例3~5と実施例2及び3の結果を内挿的に対比すると、臨界的限度は明確ではないが一応薄膜状感圧導電性エラストマーの面積に対する非導電性樹脂粒子の占める面積の割合が20%を越えると絶縁体として挙動し、5%未満であると比較例2の場合と同様の挙動をするようになることが分かる。従って、好ましい薄膜状感圧導電性エラストマーの面積に対する非導電性樹脂粒子の占める面積の割合は、5%~20%であると推測された。これにより、実施例2及び3の薄膜状感圧導電性エラストマーを用いても高ダイナミックレンジの圧力センサを形成することが出来ることが分かる。
【符号の説明】
【0064】
11…自転式超音波分散装置
12…自転公転式分散装置
13…スラリー状材料
14…ドクターブレード
15…容器
16…吐出口
17…高分子フィルム
18…薄膜状コーティング
18’…薄膜状感圧導電性エラストマー
19…導電性微粒子
20…非導電性樹脂粒子
21A~21D…圧力センサ
22…高分子フィルム
23…薄膜電極
S…空隙