(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036877
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】判定方法、処理装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/21 20060101AFI20240311BHJP
【FI】
G01N21/21 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141413
(22)【出願日】2022-09-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度独立行政法人環境再生保全機構 環境研究総合推進費「海洋プラスチックゴミのモニタリング・計測手法等の高度化」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】荒川 久幸
(72)【発明者】
【氏名】山岸 進
(72)【発明者】
【氏名】大沼 美里
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB09
2G059EE02
2G059EE05
2G059FF01
2G059GG01
2G059HH02
2G059JJ19
2G059KK04
2G059MM05
(57)【要約】
【課題】サンプルに含まれるマイクロプラスチックの有無を特定する。
【解決手段】判定方法は、サンプルSの後方散乱光の偏光特性を示すミューラー行列の位相遅れのパラメータRを算出するステップS1と、位相遅れのパラメータRの値から、サンプルSにおけるマイクロプラスチックの有無を判定するステップS2ないしS4を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルの後方散乱光の偏光特性を示すミューラー行列の位相遅れのパラメータを算出するステップと、
前記位相遅れのパラメータの値から、前記サンプルにおけるマイクロプラスチックの有無を判定するステップ
を備える判定方法。
【請求項2】
前記判定するステップは、前記位相遅れのパラメータの値が所定の閾値以上の場合、前記サンプルにマイクロプラスチックが存在すると判定する
請求項1に記載の判定方法。
【請求項3】
前記マイクロプラスチックは、ポリスチレンである
請求項1または2に記載の判定方法。
【請求項4】
サンプルの後方散乱光の偏光特性を示すミューラー行列の位相遅れのパラメータを算出する算出部と、
前記位相遅れのパラメータの値から、前記サンプルにおけるマイクロプラスチックの有無を判定する判定部
を備える処理装置。
【請求項5】
前記判定部は、前記位相遅れのパラメータの値が所定の閾値以上の場合、前記サンプルにマイクロプラスチックが存在すると判定する
請求項4に記載の処理装置。
【請求項6】
前記マイクロプラスチックは、ポリスチレンである
請求項4または5に記載の処理装置。
【請求項7】
コンピュータを、請求項4に記載の処理装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、判定方法、処理装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、海洋に多くのマイクロプラスチックが分布している。これらのマイクロプラスチックによる様々な生物への影響懸念されている。プラスチックの分布および挙動の解明が、急がれている。プラスチックの検出方法としてサンプルをネットで採取する方法がある。しかしながらこの方法では、ネットの目合いよりも微細なサンプルは収集できない、サンプルがネットに接触することにより、サンプルが破壊されるなどの問題がある。
【0003】
一般的に、プラスチックの材質を判別する方法がある(特許文献1参照)。特許文献1は、廃プラスチックボトルに偏光光線を透過させたプラスチックの透過像を、偏光フィルタを介して第1のCCDカメラで撮像した偏光画像と、偏光手段を介さないで第2のCCDカメラで撮像した非偏光画像とを比較する。特許文献1は、廃プラスチックボトルの偏光特性のみに起因する画像濃度パターンに基づいて材質を識別する。
【0004】
測定対象の偏光特性を、ミューラー行列の偏光パラメータで特定する方法がある。ミューラー行列の偏光パラメータが、偏光解消度、位相遅れおよび減衰の3つのパラメータで表現されることが知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Shih-Yau Lu and Russell A. Chipman, Interpretation of Mueller matrices based on polar decomposition, Journal of the Optical Society of America A, Vol. 13, Issue5, pp. 1106-1113, 1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、いずれの文献も、サンプルに含まれるマイクロプラスチックの有無を効率的に特定するものではない。特許文献1に記載の方法は、測定対象が廃プラスチックボトルであり、マイクロプラスチックのような小さいプラスチックを対象としない。非特許文献1は、ミューラー行列の偏光パラメータの要素を特定するにすぎず、マイクロプラスチックの有無を判定するものではない。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、サンプルにおけるマイクロプラスチックの有無を判定可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様の判定方法は、サンプルの後方散乱光の偏光特性を示すミューラー行列の位相遅れのパラメータを算出するステップと、前記位相遅れのパラメータの値から、前記サンプルにおけるマイクロプラスチックの有無を判定するステップを備える。
【0010】
本発明の一態様の処理装置は、サンプルの後方散乱光の偏光特性を示すミューラー行列の位相遅れのパラメータを算出する算出部と、前記位相遅れのパラメータの値から、前記サンプルにおけるマイクロプラスチックの有無を判定する判定部を備える。
【0011】
本発明の一態様のプログラムは、コンピュータを、上記処理装置として機能させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、サンプルにおけるマイクロプラスチックの有無を判定可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る判定方法を説明するフローチャートである。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態に係る処理装置を説明するブロック図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態において、サンプルの後方散乱光から偏光特性を測定するための測定装置の一例を説明する図である。
【
図4】
図4は、ミューラー行列の各要素に対応するMM画像を算出するための算出式を説明する図である。
【
図5】
図5は、ミューラー行列の各要素を算出するために用いられるMM画像の一例を説明する図である。
【
図6】
図6は、ミューラー行列の各要素に対応する画像の一例を説明する図である。
【
図7】
図7は、複数のサンプルについて、ミューラー行列から特定される各パラメータを比較する図である。
【
図8】
図8は、複数のサンプルについて、ミューラー行列の位相遅れのパラメータRを比較する図である。
【
図9】
図9は、複数のサンプルについて、ミューラー行列の偏光解消度のパラメータΔを比較する図である。
【
図10】
図10は、処理装置に用いられるコンピュータのハードウエア構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付し説明を省略する。
【0015】
本発明の実施の形態は、サンプルSにマイクロプラスチックが含まれるか否かを、ミューラー行列の位相遅れのパラメータRの値を基準に、判定する。本発明の実施の形態においてマイクロプラスチックは、ポリスチレン(PS: Polystyrene)である場合について説明するが、これに限らない。例えば、低密度ポリエチレン(LDPE: Low Density Polyethylene)、高密度ポリエチレン(HDPE: High Density Polyethylene)、ポリプロピレン(PP: Polypropylene)、ポリアミド(PA: Polyamide)、ポリ塩化ビニル(PVC: Polyvinyl chloride)、ポリカーボネート(PC: Polycarbonate)、発泡スチロール(Forming PS: Foaming PolyStyrene)、アクリル樹脂(PMMA: Polymethyl methacrylate)およびペット(PET: Polyethylene terephthalate)などの、他の種類のマイクロプラスチックについても適用することができる。
【0016】
(判定方法)
図1を参照して、本発明の実施の形態に係る判定方法を説明する。
図1に示す各ステップは、例えばコンピュータによって処理される。
【0017】
まずステップS1において、サンプルSの後方散乱光の偏光特性を示すミューラー行列の位相遅れのパラメータRを算出する。サンプルSは、測定対象物質を分散させた媒体で、後方散乱光を透過可能な透明性を有する。本発明の実施の形態において測定対象物質は、ポリスチレン等のマイクロプラスチックである。サンプルSの媒体は、例えば海水である。サンプルSの後方散乱光から、ミューラー行列が特定される。ミューラー行列は、サンプルSの後方散乱光の偏光特性を示す。ミューラー行列から、サンプルSの後方散乱光における偏光特性として、位相遅れのパラメータRが特定される。位相遅れのパラメータRの算出方法は、後に詳述する。
【0018】
ステップS2ないしステップS4において、ステップS1で算出された位相遅れのパラメータの値から、サンプルSにおけるマイクロプラスチックの有無を判定する。ステップS2において位相遅れのパラメータRの値が所定の閾値以上であると判定された場合、ステップS3においてサンプルSにマイクロプラスチックが存在すると判定される。ステップS2において位相遅れのパラメータRの値が所定の閾値以上でないと判定された場合、ステップS4においてサンプルSにマイクロプラスチックが存在しないと判定される。
【0019】
(処理装置)
図2を参照して、本発明の実施の形態にかかる処理装置1を説明する。処理装置1は、サンプルSの後方散乱光を撮影した画像データ11を処理して、サンプルSがマイクロプラスチックを含むか否かを判定する。
【0020】
図2に示すように処理装置1は、画像データ11および位相遅れRの各データと、算出部21および判定部22の各機能を備える。各データは、メモリ902またはストレージ903等の記憶装置に記憶される。各機能は、CPU901に実装される。
【0021】
画像データ11は、
図3に示す測定装置50でサンプルの後方散乱光を撮影して得られた画像データ群である。画像データ11は、49の画像のデータを含む。49の画像のデータは、サンプルSに入射する偏光状態生成器54で設定される7種の偏光特性と、サンプルSから出射する偏光状態分析器58で設定される7種の偏光特性の組み合わせに対応する。
【0022】
算出部21は、サンプルSの後方散乱光の偏光特性を示すミューラー行列の位相遅れのパラメータRを算出する。算出部21は、画像データ11の49の画像データから16のMM画像データを生成して、16のMM画像データのそれぞれから、ミューラー行列の16の要素を特定する。算出部21は、特定されたミューラー行列を行列分解して、位相遅れのマトリックスMRを算出する。算出部21は、位相遅れのマトリックスMRから、位相遅れのパラメータRを算出する。位相遅れのパラメータRの算出方法は、後に詳述する。
【0023】
判定部22は、算出部21が算出した位相遅れのパラメータRの値から、サンプルSにおけるマイクロプラスチックの有無を判定する。判定部22は、位相遅れのパラメータRを基準に、サンプルS中にマイクロプラスチック、より具体的にはポリスチレンが含まれるか否かを判定する。位相遅れのパラメータRの値が所定の閾値以上である場合、判定部22は、サンプルSにマイクロプラスチックが存在すると判定する。位相遅れのパラメータRの値が所定の閾値以上でない場合、判定部22は、サンプルSにマイクロプラスチックが存在しないと判定する。
【0024】
このような本発明の実施の形態に係る判定方法は、例えば海中から抽出したサンプルSについて後方散乱画像を撮影して、その画像から、サンプルにマイクロプラスチックが存在するか否かを判定することができる。
【0025】
本発明の実施の形態は、海水をネットで採取して、マイクロプラスチックを抽出することなく、サンプルSにおけるマイクロプラスチックの有無を判定する。従って、ネットの目合いより微細なマイクロプラスチックなどネットで収集できないマイクロプラスチックの有無も判定することができる。またサンプルがネットに接触することがないので、ネットによる抽出時にマイクロプラスチックが破壊されることもない。
【0026】
このような本発明の実施の形態にかかる判定方法は、サンプルSを採取した環境におけるマイクロプラスチックの有無を判断できるので、適切に環境状況を把握することができる。
【0027】
(測定装置)
図3を参照して、本発明の実施の形態において、サンプルの後方散乱光から偏光特定を測定するための測定装置50を説明する。
【0028】
測定装置50は、He-Neレーザー51、減光フィルタ52、デポラライザ53、偏光状態生成器(PSG:Polarization State Generator)54、ビームポケット55、絞り56、マスク57、偏光状態分析器(PSA:Polarization State Analyzer)58およびCCD(Charge Coupled Device)カメラ59を備える。測定装置50は、He-Neレーザー51から出射されたレーザー光をデポラライザ53に通して、レーザー光の偏光を解消する。測定装置50は、偏光が解消されたレーザー光に、偏光状態生成器54で所定の偏光特性を与えて、所定の偏光特性が与えられたレーザー光をサンプルSに照射する。測定装置50は、サンプルSからの後方散乱光に偏光状態分析器58で所定の偏光特性を与えて、所定の偏光特性が与えられた後方散乱光を、CCDカメラ59で撮影する。
【0029】
サンプルS内に設置されたビームポケット55は、サンプルSに入射されたレーザー光の迷光を軽減し、サンプルSによる後方散乱光を検出するために用いられる。減光フィルタ52、反射鏡、絞り56およびマスク57は、サンプルSの後方散乱光をCCDカメラ59で撮影可能にするために、レーザー光または後方散乱光の光軸、光量等を調整するもので、必要に応じて設けられる。
【0030】
偏光状態生成器54および偏光状態分析器58のそれぞれが与える所定の偏光特性は、ミューラー行列に既知である。偏光状態生成器54および偏光状態分析器58のそれぞれに、偏光子なしO、水平偏光子H、垂直偏光子V、45度偏光子P、-45度偏光子M、左方向円偏光子Lおよび右方向円偏光子Rから選択されるいずれか一つの偏光特性が与えられる。測定装置50は、偏光状態生成器54における7つの偏光特性と偏光状態分析器58における7つの偏光特性の49の組み合わせのそれぞれについて、後方散乱光をCCDカメラ59で撮影する。CCDカメラ59で撮影される後方散乱光は、レーザー光が偏光状態生成器54で設定された偏光特性で偏光された光がサンプルSに入射して得られた後方散乱光のうち、偏光状態分析器58で設定された偏光特性を有する成分が取り出されて形成される。撮影された49枚の画像は、画像データ11として
図2に示す処理装置1に格納される。
【0031】
(算出部)
処理装置1の算出部21が、画像データ11からサンプルSのミューラー行列の各要素を算出して、ミューラー行列の各パラメータを算出する処理を説明する。ミューラー行列は、
図4に示すように、4行4列の行列によって特定される。
図4に示す例において、M
ijは、ミューラー行列のi行j列の要素である。
【0032】
一般的に、光の偏光特性は、式(1)に示すように、4要素を持つStokes Vectorで表される。
【0033】
【0034】
光が微粒子により散乱されると、Stokes Vectorの値も変化する。入射光(in)と、入射光の微粒子の散乱による散乱光(out)の関係は、式(2)に示すように、ミューラー行列で表される。
【0035】
【0036】
ミューラー行列の16の要素は、
図4に示すように、測定装置50で撮影された各画像から得られる16のミューラー画像(MM画像)から算出される。MM画像は、測定装置50で撮影された各画像の画素値を演算することにより得られる。
【0037】
図4で、[psg:psa]は、測定装置50で撮影された各画像を特定する識別子である。カッコ内のコロンの前は、偏光状態生成器54に与えられた偏光特性で、コロンの後は、偏光状態分析器58に与えられた偏光特性である。
図4で、[psg:psa]を結ぶ演算記号は、演算記号の前後の各画像の各画素の画素値を、演算記号によって演算することを示す。
【0038】
例えばM
12について説明する。
図4において、M
12に、「[H:O]-[V:O]」が対応づけられる。ミューラー行列の1行2列の要素は、[H:O]-[V:O]が示すMM画像から算出される。[H:O]は、偏光状態生成器54において水平偏光子Hの偏光特性が与えられ、偏光状態分析器58において偏光子なしOの偏光特性が与えられた場合の、サンプルSの後方散乱光の画像である。[V:O]は、偏光状態生成器54において垂直偏光子Vの偏光特性が与えられ、偏光状態分析器58において偏光子なしOの偏光特性が与えられた場合の、サンプルSの後方散乱光の画像である。M
12に対応するMM画像の各画素に、[H:O]の画素値から[V:O]の画素値が減算された値が設定される。
【0039】
算出部21は、ミューラー行列の各要素について、その要素に対応するMM画像からその要素の値を算出する。
【0040】
算出部21は、i行j列の要素に対応する画像M
ijを、M
11で基準化して、m
ijを算出する。基準化により、m
ijの各画素に、M
ijの画素値をM
11の画素値で割った値が設定される。M
12が
図5(a)に示す画像で、M
11が
図5(b)に示す画像の場合、m
12は
図5(c)に示す画像となる。
【0041】
算出部21は、ImageJを用いてm
12における所定範囲の光強度を、ミューラー行列の1行2列の要素として算出する。本発明の実施の形態において所定範囲は、
図5(d)に示すように、直径300ピクセルの円と直径290ピクセルの円の間の円環とする。直径300ピクセルの円の中心と直径290ピクセルの円の中心はともに、後方散乱光の中心に一致する。本発明の実施の形態において、10ピクセルは1mmに対応する。算出部21は、所定範囲の光強度から、1ピクセル当たりの平均の光強度を算出する。算出部21は、1ピクセル当たりの光強度を、ミューラー行列の要素の値とする。
図5に示すように、m
12から算出した1ピクセル当たりの光強度は、ミューラー行列の1行2列の要素の値となる。
【0042】
算出部21は、ミューラー行列の各要素の値を、同様に算出する。
【0043】
図6に、あるサンプルSの後方散乱光について、ミューラー行列の各要素に対応する画像mを示す。なお左上のM
11は、基準化に用いた画像である。サンプルSは、粒径100nm(3100A)のポリスチレン(Thermo Fisher Scientific社製)を、0.33mLに希釈したものである。
【0044】
次に、ミューラー行列から、偏光特性の各パラメータを算出する方法について説明する。
【0045】
ミューラー行列MMは、行列分解により、式(3)の関係を有する(非特許文献1参照)。
【0046】
【0047】
例えば、式(4)のように、ミューラー行列MMから、偏光解消のマトリックスMΔ、位相遅れのマトリックスMRおよび減衰のマトリックスMDが算出される。式(4)に示すミューラー行列MMの各要素の値は、粒径100nmのポリスチレン球(Thermo Fisher Scientific社製)を、蒸留水で0.033 mL/Lに希釈したサンプルSから得た。
【0048】
【0049】
偏光解消のマトリックスMΔから、式(5)に示すように、偏光解消度(net depolarization coefficient)のパラメータΔが算出される。なお式中の”tr”は、トレースであって、対角成分の和である。
【0050】
【0051】
減衰のマトリックスMDから、式(6)で示すように、減衰(diattenuation)のパラメータdが算出される。なお式中のMDijは、減衰のマトリックスMDのi行j列の要素を意味する。
【0052】
【0053】
位相遅れのマトリックスMRから、式(7)で示すように、位相遅れ(retarder)のパラメータRが算出される。位相遅れのパラメータRは、直線偏光の遅れδと回転偏光の遅れψを合わせた遅れである。
【0054】
【0055】
また位相遅れのマトリックスMRから、式(8)ないし式(10)で示すように、直線偏光(linear retardance)の遅れのパラメータδ、回転偏光(optical rotation)の遅れのパラメータψ、および直線偏光の遅れの仰角(Orientation)のパラメータθが算出される。
【0056】
【0057】
(評価)
図7を参照して、種々のサンプルについて、ミューラーマトリックスの各パラメータを算出した結果を示す。
【0058】
図7(a)は、粒径の異なるポリスチレン球(Thermo Fisher Scientific社製)を、1mL/L、0.33mL/L、および0.033mL/Lの各濃度で蒸留水に希釈したサンプルを用いた結果である。
図7(a)は、粒径100nmのポリスチレン球と、粒径1μmのポリスチレン球を、蒸留水で希釈したサンプルの結果である。
【0059】
図7(b)は、鉱物および有機物をそれぞれ希釈したサンプルを用いた結果である。鉱物の一例としてKaolinおよびSiCを、それぞれ蒸留水で0.33ml/Lに希釈したサンプルを用いる。有機物の一例としてPhaeodactylum tricornutum (6.02×10^6 cel/mL)と、Skeletonema costatum((3.68×10^5 cel/mL)を、それぞれ人工海水500mLで培養したサンプルを用いる。
【0060】
図8は、
図7に示す結果のうち、位相遅れのパラメータRに着目して示す。
図8は、鉱物および有機物についての位相遅れのパラメータRの値が0に近い値を取る一方、ポリスチレン球についても位相遅れのパラメータRの値が、粒径に関わらず1に近い値を取ることがわかる。また
図7に示すように、ポリスチレン球の粒径および濃度にかかわらず、概ね1に近い値を取ることがわかる。
【0061】
なお、ポリスチレン球の粒径が1μmで0.033mL/Lの濃度で蒸留水に希釈したサンプルについて、位相遅れのパラメータRの値が低い値を取る。一般的に位相遅れのパラメータRは、純物質の場合、材料の異方性や、光学異性体の偏り、光弾性が影響することが知られている一方、
図7に示す実験条件では、材料の異方性または光学異性体の隔たりは考えにくい。粒径が大きい場合、ポリスチレン球の沈降速度が速いので、サンプル内でポリスチレン球の密度に隔たりが生じ、光弾性により位相遅れのパラメータRが低下した可能性が考えられる。サンプルにおけるポリスチレン球の濃度を均一とすることにより、ポリスチレン球の粒径が1μmで0.033mL/Lの濃度で蒸留水に希釈したサンプルについて、位相遅れのパラメータRの値を1に近くすることが可能になると考えられる。
【0062】
図7に示す結果から、少なくとも、サンプルに含まれるマイクロプラスチック、より具体的にはポリスチレンの粒径が100nm以上1μm以下または濃度が0.33mL/L以上1mL/L以下の場合、位相遅れのパラメータRを基準に、サンプルに含まれるマイクロプラスチックの有無を効率的に判断することが可能になる。
図7によると、粒径が100nmまたは1umのポリスチレンを、1ml/L、0.33mL/Lまたは0.033mL/Lの濃度に希釈したサンプルのうち、粒径が1umのポリスチレンを0.033mL/Lの濃度に希釈したサンプル以外において、位相遅れのパラメータRを基準に、サンプルに含まれるマイクロプラスチックの有無を効率的に判断することが可能になる。
【0063】
また
図8に示す結果から、サンプル中にマイクロプラスチックが存在するか否かを判定するために、位相遅れのパラメータRの閾値として、0.2から0.9のいずれかの値を用いることができる。単一のパラメータでマイクロプラスチックの存在を判定できるので、効率的に海洋状態を把握することが可能になる。
【0064】
図9は、
図7に示す結果のうち、偏光解消度のパラメータΔに着目して示す。
図9に示すように、偏光解消度のパラメータΔは、マイクロプラスチックの粒径および濃度に依存することがわかる。具体的には、偏光解消度のパラメータΔは、マイクロプラスチックの粒径が大きいほど大きく、濃度が高いほど大きい。偏光解消度のパラメータΔから、マイクロプラスチックの粒径または濃度を推測することも可能と考えられる。
【0065】
上記説明した本実施形態の処理装置1は、例えば、CPU(Central Processing Unit、プロセッサ)901と、メモリ902と、ストレージ903(HDD:Hard Disk Drive、SSD:Solid State Drive)と、通信装置904と、入力装置905と、出力装置906とを備える汎用的なコンピュータシステムが用いられる。このコンピュータシステムにおいて、CPU901がメモリ902上にロードされたプログラムを実行することにより、処理装置1の各機能が実現される。
【0066】
なお、処理装置1は、1つのコンピュータで実装されてもよく、あるいは複数のコンピュータで実装されても良い。また処理装置1は、コンピュータに実装される仮想マシンであっても良い。
【0067】
処理装置1のプログラムは、HDD、SSD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、CD (Compact Disc)、DVD (Digital Versatile Disc)などのコンピュータ読取り可能な記録媒体に記憶することも、ネットワークを介して配信することもできる。
【0068】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 処理装置
11 画像データ
21 算出部
22 判定部
50 測定装置
51 He-Neレーザー
52 減光フィルタ
53 デポラライザ
54 偏光状態生成器
55 ビームポケット
56 絞り
57 マスク
58 偏光状態分析器
59 CCDカメラ
S サンプル