(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036893
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】ペロブスカイト酸化物の製造方法、ペロブスカイト酸化物前駆体の製造方法、燃料電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 25/00 20060101AFI20240311BHJP
H01M 8/1246 20160101ALI20240311BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20240311BHJP
C04B 35/486 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
C01G25/00
H01M8/1246
H01M8/12 101
C04B35/486
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141433
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】森 昌史
(72)【発明者】
【氏名】松田 マリック隆磨
(72)【発明者】
【氏名】森賀 俊広
(72)【発明者】
【氏名】村井 啓一郎
【テーマコード(参考)】
4G048
5H126
【Fターム(参考)】
4G048AA05
4G048AB02
4G048AC08
4G048AD03
4G048AD08
4G048AE07
5H126BB06
5H126GG13
5H126HH01
5H126HH10
5H126JJ05
5H126JJ08
(57)【要約】
【課題】バリウム成分の揮発を抑制できる低い温度で焼結でき、単一相のペロブスカイト酸化物が得られやすく、原料として使用する希土類元素成分とバリウム成分とジルコニウム成分の割合によって、焼成後の焼結体に含まれるペロブスカイト酸化物の組成を精度よく制御できる製造方法を提供する。
【解決手段】希土類元素のイオンと、バリウムイオンと、ジルコニウムイオンとを含有する原料水溶液を調製し、原料水溶液中の希土類元素のイオンとバリウムイオンとジルコニウムイオンの0.5倍~20倍の水酸化アンモニウムと炭酸水素アンモニウムとを含み、前記水酸化アンモニウム1モルに対する前記炭酸水素アンモニウムのモル数が0.08モル~0.45モルである沈殿剤を、原料水溶液に添加して混合液とすることによりペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させ、ペロブスカイト酸化物前駆体を焼成するペロブスカイト酸化物の製造方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロビウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムから選ばれる1種また2種以上の希土類元素のイオンと、バリウムイオンと、ジルコニウムイオンとを含有する原料水溶液を調製する原料水溶液調整工程と、
前記原料水溶液中の前記希土類元素のイオンと前記バリウムイオンと前記ジルコニウムイオンの合計モル数の0.5倍~20倍の水酸化アンモニウムと炭酸水素アンモニウムとを含み、前記水酸化アンモニウム1モルに対する前記炭酸水素アンモニウムのモル数が0.08モル~0.45モルである沈殿剤を、前記原料水溶液に添加して混合液とすることにより、前記混合液中でペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させる沈殿工程と、
前記ペロブスカイト酸化物前駆体を焼成することにより、ペロブスカイト酸化物を生成させる焼成工程とを有することを特徴とする、ペロブスカイト酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記沈殿工程において、前記ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の前記混合液のpHを9.40~9.80とする、請求項1に記載のペロブスカイト酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記希土類元素がイットリウムである、請求項1に記載のペロブスカイト酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記焼成工程において、前記ペロブスカイト酸化物前駆体を900℃~1300℃の温度で焼成する、請求項1に記載のペロブスカイト酸化物の製造方法。
【請求項5】
スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロビウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムから選ばれる1種また2種以上の希土類元素のイオンと、バリウムイオンと、ジルコニウムイオンとを含有する原料水溶液を調製する原料水溶液調整工程と、
前記原料水溶液中の前記希土類元素のイオンと前記バリウムイオンと前記ジルコニウムイオンの合計モル数の0.5倍~20倍の水酸化アンモニウムと炭酸水素アンモニウムとを含み、前記水酸化アンモニウム1モルに対する前記炭酸水素アンモニウムのモル数が0.08モル~0.45モルである沈殿剤を、前記原料水溶液に添加して混合液とすることにより、前記混合液中でペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させる沈殿工程とを有することを特徴とする、ペロブスカイト酸化物前駆体の製造方法。
【請求項6】
前記沈殿工程において、前記ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の前記混合液のpHを9.40~9.80とする、請求項5に記載のペロブスカイト酸化物前駆体の製造方法。
【請求項7】
前記希土類元素がイットリウムである、請求項5に記載のペロブスカイト酸化物前駆体の製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載のペロブスカイト酸化物前駆体の製造方法により、ペロブスカイト酸化物前駆体を製造する工程と、
前記ペロブスカイト酸化物前駆体を含む電解質材料を成形して焼成することにより、ペロブスカイト酸化物を含む焼結体からなる電解質層を形成する焼成工程を有する、燃料電池の製造方法。
【請求項9】
前記焼成工程において、前記電解質材料を900℃~1300℃の温度で焼成する、請求項8に記載の燃料電池の製造方法。
【請求項10】
前記焼成工程が、第1電極となる電極材料を成形してなる層と、前記電解質材料を成形してなる層と、第2電極となる電極材料を成形してなる層とを、この順に積層して積層体を形成する積層体形成工程と、
前記積層体を焼成することにより、前記第1電極と前記電解質層と前記第2電極とが積層された焼結体を得る積層体焼成工程とを有する、請求項8に記載の燃料電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト酸化物の製造方法、ペロブスカイト酸化物前駆体の製造方法およびこれを用いた燃料電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物型燃料電池(SOFC)は、動作温度が、700℃~1000℃と高温である。このため、固体酸化物型燃料電池(SOFC)では、動作温度を低くすることが要求されている。電解質としてプロトン伝導体電解質を使用したプロトン伝導性セラミック燃料電池(PCFC)は、電解質として酸化物イオン伝導体を使用した固体酸化物型燃料電池と比較して、動作温度を低くできる。また、プロトン伝導性セラミック燃料電池(PCFC)は、高いエネルギー効率が得られる燃料電池として期待されている。
【0003】
従来、プロトン伝導性セラミック燃料電池(PCFC)の電解質に使用されるプロトン伝導体電解質としては、希土類元素を添加したバリウムジルコネートなどのペロブスカイト酸化物が用いられている。ペロブスカイト酸化物からなるプロトン伝導体電解質の製造方法としては、例えば、以下に示す方法がある。
【0004】
特許文献1には、イットリウムがドープされたバリウムセレート-ジルコネート(BCZY)の製造方法が記載されている。具体的には、所定の組成の試片を約1,300℃で約10時間1次か焼し、粉末にした後、再成形した試片を約1,400℃で約10時間2次か焼した結果が記載されている。
図2(a)には、1次か焼のみを経た状態で測定した結果が記載され、バリウムソース(BaCO
3)の未反応相が残存することが記載されている。
図2(b)には、2次か焼まで経た状態で測定した結果が記載され、未反応相が全て除去されたことが記載されている。
【0005】
特許文献2の実施例1には、BaZr0.4Sc0.6O3-δHyで表されるスカンジウム添加ジルコン酸バリウムを調製したことが記載されている。具体的には、原料混合物を含む反応溶液を加熱処理して得た固形物を加熱し、900℃に到達してから10時間焼成した後、粉砕してペレット状に成形し、1,600℃で24時間加熱処理することにより、単一のペロブスカイト構造を有する焼結体を得たことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-190730号公報
【特許文献2】国際公開第2021/085366号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】JCPDS Ref. : Mather, G., Inst. De Ceramica y Vidrio, CSIC,Madrid, Spain ; Antunes, I., Dept. of Materials and Ceramic Engineering, CICECO, Univ. of Aveiro, Portugal ; Fagg, D., Nanotechnology Research Division, Centre of Mechanical Technology and Automation, Univ. of Aveiro, Portugal. Private Communication (2012))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、プロトン伝導体電解質として使用されるペロブスカイト酸化物として、希土類元素を添加したバリウムジルコネートがある。これを含むプロトン伝導性セラミック燃料電池(PCFC)の電解質層を形成する場合、希土類元素を添加したバリウムジルコネートの組成に対応する成分を含む電解質材料を所定の形状に成形し、1,400℃以上の高温で焼成している。これは、希土類元素を添加したバリウムジルコネートが、焼結し難い性質を有するためである。
【0009】
しかしながら、希土類元素を添加したバリウムジルコネート中のバリウム成分は、希土類元素を添加したバリウムジルコネートが1,300℃超の高温になると揮発する。したがって、従来の製造方法では、焼成前の電解質材料と焼成後の焼結体からなる電解質層とでは、バリウム含有量が変化する。このため、電解質材料の原料として使用する元素の割合によって、焼成後の希土類元素を添加したバリウムジルコネートの組成を制御することは困難であり、所望の組成を有する希土類元素を添加したバリウムジルコネートが得られない場合があった。その結果、希土類元素を添加したバリウムジルコネートを、プロトン伝導体電解質として使用したプロトン伝導性セラミック燃料電池において、プロトン伝導性などの特性が不十分となる場合があった。
【0010】
また、プロトン伝導性セラミック燃料電池(PCFC)として、空気極(正極)と、燃料極(負極)と、空気極と燃料極との間に配置された電解質層とを含む積層構造からなるセル部材を有するものがある。このようなプロトン伝導性セラミック燃料電池(PCFC)の電解質層が、希土類元素を添加したバリウムジルコネートを含む場合、以下に示す方法を用いて製造する場合がある。
【0011】
すなわち、空気極(正極)となる電極材料を成形してなる層と、希土類元素を添加したバリウムジルコネートの組成に対応する成分を含む電解質材料を成形してなる層と、燃料極(負極)となる電極材料を成形してなる層とを、この順に積層して積層体とする。その後、積層体を焼成することにより、空気極と電解質層と燃料極とが積層された焼結体を得る。
【0012】
しかしながら、この方法を用いてプロトン伝導性セラミック燃料電池(PCFC)を製造する場合、以下に示す不都合があった。すなわち、積層体の焼成を1,400℃以上の高温で行う必要があるため、積層体の焼結に伴って、希土類元素を添加したバリウムジルコネートからバリウム成分が揮発したり、電解質材料と、空気極(正極)または燃料極(負極)となる電極材料とが反応したりする。その結果、所望の特性を有するプロトン伝導性セラミック燃料電池が得られない場合があった。
【0013】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、バリウム成分の揮発を抑制できる低い温度で焼結でき、単一相のペロブスカイト酸化物が得られやすく、原料として使用する希土類元素成分とバリウム成分とジルコニウム成分の割合によって、焼成後の焼結体に含まれるペロブスカイト酸化物の組成を精度よく制御できる製造方法を提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明は、バリウム成分の揮発を抑制できる低い温度で焼結でき、単一相のペロブスカイト酸化物が得られやすく、原料として使用する希土類元素成分とバリウム成分とジルコニウム成分の割合によって、焼成後の焼結体に含まれるペロブスカイト酸化物の組成を精度よく制御できるペロブスカイト酸化物前駆体を製造する方法、およびこれを用いた燃料電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために、液相法の一つである共沈法に着目し、以下に示すように、鋭意検討した。
本発明者らは、共沈法を用いて、原料水溶液中の元素の割合に対応する均一な元素分布を有する沈殿物からなるペロブスカイト酸化物前駆体を製造できれば、これを焼成することによって低温で焼結でき、所望の組成を有する単一相のペロブスカイト酸化物が得られると考えた。
【0016】
より詳細には、所定の元素を所定の割合で均一な元素分布で含有するペロブスカイト酸化物前駆体は、少ない熱エネルギーで各原子がペロブスカイト結晶構造に配列し、大きさの小さい単一相のペロブスカイト酸化物粒子となる。小さい粒子は、大きい粒子と比較して表面積が大きいため、少ない熱エネルギーで粒子間の接触面積が増加して緻密化し、焼結体となる。したがって、所定の元素を所定の割合で均一な元素分布で含有するペロブスカイト酸化物前駆体は、低温で焼結でき、焼成に伴うバリウム成分の揮発を抑制できる。よって、上記のペロブスカイト酸化物前駆体の組成が、原料水溶液中の元素の割合に対応していれば、原料水溶液中の元素の割合に対応する組成を有する単一相のペロブスカイト酸化物の焼結体が得られると考えた。
【0017】
共沈法では、複数種の元素が溶解している原料溶液中で、複数種の元素の金属塩を同時に析出させることにより、複数種の元素が均一に混合した状態の沈殿物を得る。しかしながら、希土類元素のイオンとバリウムイオンとジルコニウムイオンとを含有する原料水溶液中で、希土類元素成分とバリウム成分とジルコニウム成分とを同時に沈殿させることは困難であった。例えば、原料水溶液中に、沈殿剤として水酸化アンモニウムを添加すると、希土類元素成分およびジルコニウム成分が同時に沈殿する。しかしながら、原料水溶液中に水酸化アンモニウムを添加しても、バリウム成分はほとんど沈殿せず、原料水溶液中に残留する。
【0018】
そこで、本発明者らは、バリウムイオンを含む水溶液中に二酸化炭素を吹き込むことにより、炭酸バリウムの沈殿が生成する性質に着目し、鋭意検討を重ねた。
その結果、上記の原料水溶液中で、希土類元素成分およびジルコニウム成分とともに、バリウム成分を沈殿させるためには、沈殿剤として、原料水溶液中で炭酸イオンとなる化合物を用いることが重要であるという知見を得た。この知見に基づき、本発明者らはさらに検討を重ねた。そして、希土類元素のイオンとバリウムイオンとジルコニウムイオンとを含有する原料水溶液中に、水酸化アンモニウムと炭酸水素アンモニウムとを所定の割合で含有する沈殿剤を添加することにより、希土類元素成分とバリウム成分とジルコニウム成分とを同時に十分に沈殿させることができることを見出した。
【0019】
さらに、本発明者らは、得られた沈殿物を焼成し、バリウム成分の揮発を抑制できる低い温度で焼結でき、単一相のペロブスカイト酸化物が得られやすいことを確認するとともに、焼成後の焼結体に含まれるペロブスカイト酸化物の組成が、原料水溶液中の希土類元素成分とバリウム成分とジルコニウム成分の割合と同等であることを確認し、本発明を想到した。
【0020】
すなわち、本発明は以下の事項に関する。
【0021】
[1] スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロビウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムから選ばれる1種また2種以上の希土類元素のイオンと、バリウムイオンと、ジルコニウムイオンとを含有する原料水溶液を調製する原料水溶液調整工程と、
前記原料水溶液中の前記希土類元素のイオンと前記バリウムイオンと前記ジルコニウムイオンの合計モル数の0.5倍~20倍の水酸化アンモニウムと炭酸水素アンモニウムとを含み、前記水酸化アンモニウム1モルに対する前記炭酸水素アンモニウムのモル数が0.08モル~0.45モルである沈殿剤を、前記原料水溶液に添加して混合液とすることにより、前記混合液中でペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させる沈殿工程と、
前記ペロブスカイト酸化物前駆体を焼成することにより、ペロブスカイト酸化物を生成させる焼成工程とを有することを特徴とする、ペロブスカイト酸化物の製造方法。
【0022】
[2] 前記沈殿工程において、前記ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の前記混合液のpHを9.40~9.80とする、[1]に記載のペロブスカイト酸化物の製造方法。
[3] 前記希土類元素がイットリウムである、[1]に記載のペロブスカイト酸化物の製造方法。
[4] 前記焼成工程において、前記ペロブスカイト酸化物前駆体を900℃~1300℃の温度で焼成する、[1]に記載のペロブスカイト酸化物の製造方法。
【0023】
[5] スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロビウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムから選ばれる1種また2種以上の希土類元素のイオンと、バリウムイオンと、ジルコニウムイオンとを含有する原料水溶液を調製する原料水溶液調整工程と、
前記原料水溶液中の前記希土類元素のイオンと前記バリウムイオンと前記ジルコニウムイオンの合計モル数の0.5倍~20倍の水酸化アンモニウムと炭酸水素アンモニウムとを含み、前記水酸化アンモニウム1モルに対する前記炭酸水素アンモニウムのモル数が0.08モル~0.45モルである沈殿剤を、前記原料水溶液に添加して混合液とすることにより、前記混合液中でペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させる沈殿工程とを有することを特徴とする、ペロブスカイト酸化物前駆体の製造方法。
【0024】
[6] 前記沈殿工程において、前記ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の前記混合液のpHを9.40~9.80とする、[5]に記載のペロブスカイト酸化物前駆体の製造方法。
[7] 前記希土類元素がイットリウムである、[5]に記載のペロブスカイト酸化物前駆体の製造方法。
【0025】
[8] [5]に記載のペロブスカイト酸化物前駆体の製造方法により、ペロブスカイト酸化物前駆体を製造する工程と、
前記ペロブスカイト酸化物前駆体を含む電解質材料を成形して焼成することにより、ペロブスカイト酸化物を含む焼結体からなる電解質層を形成する焼成工程を有する、燃料電池の製造方法。
【0026】
[9] 前記焼成工程において、前記電解質材料を900℃~1300℃の温度で焼成する、[8]に記載の燃料電池の製造方法。
【0027】
[10] 前記焼成工程が、第1電極となる電極材料を成形してなる層と、前記電解質材料を成形してなる層と、第2電極となる電極材料を成形してなる層とを、この順に積層して積層体を形成する積層体形成工程と、
前記積層体を焼成することにより、前記第1電極と前記電解質層と前記第2電極とが積層された焼結体を得る積層体焼成工程とを有する、[8]に記載の燃料電池の製造方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明のペロブスカイト酸化物の製造方法では、希土類元素のイオンと、バリウムイオンと、ジルコニウムイオンとを含有する原料水溶液を調製し、原料水溶液中の希土類元素のイオンとバリウムイオンとジルコニウムイオンの合計モル数の0.5倍~20倍の水酸化アンモニウムと炭酸水素アンモニウムとを含み、前記水酸化アンモニウム1モルに対する前記炭酸水素アンモニウムのモル数が0.08モル~0.45モルである沈殿剤を、原料水溶液に添加して混合液とすることによりペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させ、これを焼成することにより、ペロブスカイト酸化物を生成させる。ペロブスカイト酸化物前駆体は、共沈法を用いて作製した、原料水溶液中の希土類元素のイオンとバリウムイオンとジルコニウムイオンの割合に対応する均一な元素分布を有する沈殿物である。このため、バリウム成分の揮発を抑制できる低い温度で焼結できる。また、原料として使用する希土類元素成分とバリウム成分とジルコニウム成分の割合によって、焼結後のペロブスカイト酸化物の組成を精度よく制御できる。したがって、本発明のペロブスカイト酸化物の製造方法によれば、所望の組成を有する単一相のペロブスカイト酸化物が得られやすい。
【0029】
本発明の燃料電池の製造方法では、上記のペロブスカイト酸化物前駆体を含む電解質材料を成形して焼成することにより、焼結体からなる電解質層を形成する。このため、バリウム成分の揮発を抑制できる低い温度で焼結することにより電解質層を形成できるとともに、単一相のペロブスカイト酸化物を含む電解質層が得られやすい。
また、本発明の燃料電池の製造方法では、バリウム成分の揮発を抑制できる低い温度で焼結することにより電解質層を形成できるため、ペロブスカイト酸化物前駆体の焼結に伴って、ペロブスカイト酸化物から揮発したバリウム成分が電極材料などと反応し、燃料電池の特性を低下させることを防止できる。
【0030】
また、本発明の燃料電池の製造方法では、電解質層の原料として使用する希土類元素成分とバリウム成分とジルコニウム成分の割合によって、焼成後の電解質層に含まれるペロブスカイト酸化物の組成を精度よく制御できる。したがって、本発明の燃料電池の製造方法によれば、所望の組成を有するペロブスカイト酸化物を含む電解質層を有することにより、所望の特性を有する燃料電池が得られやすい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、本実施形態のペロブスカイト酸化物の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図2】
図2は、実施例1、比較例1~比較例5におけるペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の混合液中のバリウムイオン(Ba
2+)の含有量(残存量)を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例1、比較例1~比較例5におけるペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の混合液中のジルコニウムイオン(Zr
4+)の含有量(残存量)を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例1、比較例1~比較例5のペロブスカイト酸化物と、非特許文献1に記載されたBaZr
0.9Y
0.1O
3-δ(BZY-10)で示される化学組成を有するペロブスカイト酸化物のX線回折結果を示したチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明のペロブスカイト酸化物の製造方法、ペロブスカイト酸化物前駆体の製造方法、燃料電池の製造方法について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
【0033】
「ペロブスカイト酸化物の製造方法」
図1は、本実施形態のペロブスカイト酸化物の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
図1に示すように、本実施形態のペロブスカイト酸化物の製造方法は、原料水溶液調整工程S1と、沈殿工程S2と、焼成工程S3とを有する。
【0034】
(ペロブスカイト酸化物)
本実施形態の製造方法を用いて製造するペロブスカイト酸化物は、下記式(1)で示される希土類元素を添加したバリウムジルコネートである。
Ba1-aZr1-xMxO3-δ(1)
(式(1)中のMは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロビウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)から選ばれる1種また2種以上の希土類元素である。a<1、0<x<1、δ<3)
【0035】
ペロブスカイトとは、大きな金属原子がAサイト、小さな金属原子がBサイトに配列する結晶構造をもつ化合物の総称である。式(1)で示されるペロブスカイト酸化物では、イオン半径の大きいバリウムイオンがAサイトに、バリウムイオンと比較してイオン半径の小さいジルコニウムイオンおよび希土類元素イオンがBサイトに配列される。上記式(1)中のaは、バリウム(Ba)がペロブスカイト相として安定に存在可能な不定比組成となる数値である。δは+3価以下の原子を置換する際に、電子的中性を維持するために、ペロブスカイト相から放出される酸素量に相当する酸素欠損量である。式(1)で示されるペロブスカイト酸化物の性質は、Bサイトに配列される希土類元素イオンの種類および量によって異なる。
【0036】
本実施形態の製造方法を用いて製造するペロブスカイト酸化物は、式(1)におけるaが0.2以下のものであることが好ましく、0.15以下のものであることがより好ましい。また、式(1)におけるxが0.01~0.99のものであることが好ましく、0.05~0.95のものであることがより好ましい。
本実施形態の製造方法を用いて製造する好ましいペロブスカイト酸化物としては、具体的には、希土類元素としてイットリウムを含む、BaZr0.9Y0.1O3-δ(BZY-10)、BaZr0.95Y0.05O3-δ(BZY-5)、BaZr0.85Y0.15O3-δ(BZY-15)、BaZr0.8Y0.2O3-δ(BZY-20)などが挙げられる。
【0037】
(原料水溶液調整工程S1)
本実施形態の製造方法における原料水溶液調整工程S1では、希土類元素のイオンと、バリウムイオンと、ジルコニウムイオンとを含有する原料水溶液を調製する。
希土類元素のイオンは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロビウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)から選ばれる1種また2種以上の希土類元素のイオンである。希土類元素のイオンは、本実施形態の製造方法を用いて製造されるペロブスカイト酸化物を含む電解質層に要求される特性などに応じて適宜決定される。
【0038】
上記の希土類元素は、いずれも外側電子配置がs2p6の形になっており、化学的挙動が酷似している。このため、上記の希土類元素のイオンは、いずれも原料水溶液に対して所定の割合で後述する沈殿剤を添加することにより、バリウム成分およびジルコニウム成分とともに十分に沈殿し、原料水溶液中に溶解した状態で残留しにくいものである。
【0039】
本実施形態においては、上記の希土類元素のイオンの中でも、イットリウムイオン、セリウムイオン、イッテルビウムイオンから選ばれる1種または2種以上であることが好ましい。希土類元素のイオンとして、これらの希土類元素のイオンを含む場合、本実施形態の製造方法により得られたペロブスカイト酸化物を含む電解質層が、優れた特性を有するものとなるためである。
希土類元素のイオンは、特に、イットリウムイオンを含むことが好ましい。希土類元素のイオンがイットリウムイオンを含む場合、本実施形態の製造方法により得られたペロブスカイト酸化物を含む電解質層が、より優れた特性を有するものとなるためである。
【0040】
希土類元素のイオンと、バリウムイオンと、ジルコニウムイオンとを含有する原料水溶液は、例えば、所定の濃度で希土類元素のイオンを含む水溶液と、所定の濃度でバリウムイオンを含む水溶液と、所定の濃度でジルコニウムイオンを含む水溶液とをそれぞれ用意し、これらの水溶液を所定の割合で混合する方法を用いて調製できる。このことにより、希土類元素成分とバリウム成分とジルコニウム成分の割合が、目的物であるペロブスカイト酸化物の組成に対応する原料水溶液が得られる。
【0041】
原料水溶液を調製する際に使用する希土類元素のイオンを含む水溶液と、バリウムイオンを含む水溶液と、ジルコニウムイオンを含む水溶液としては、それぞれ硝酸塩、塩化物塩、硫酸塩などの塩の水溶液を用いることができる。本実施形態では、希土類元素のイオンを含む水溶液と、バリウムイオンを含む水溶液と、ジルコニウムイオンを含む水溶液のうち、いずれか1つ以上が硝酸塩の水溶液であることが好ましく、全て硝酸塩の水溶液であることがより好ましい。硝酸塩は、水への溶解性が良好であるため、容易に原料水溶液を調製できる。また、硝酸塩は、焼成工程S3などの熱処理を行うことによって、後述するペロブスカイト酸化物前駆体から容易に除去することができ、不純物成分として残留しないためである。
【0042】
(沈殿工程S2)
次に、原料水溶液に沈殿剤を添加して混合液とすることにより、混合液中でペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させる。
本実施形態の製造方法における沈殿工程S2では、沈殿剤として、原料水溶液中の希土類元素のイオンとバリウムイオンとジルコニウムイオンの合計モル数(以下、「合計モル数」という場合がある。)の0.5倍~20倍の水酸化アンモニウムと炭酸水素アンモニウムとを含み、水酸化アンモニウム1モルに対する炭酸水素アンモニウムのモル数が0.08モル~0.45モルであるものを用いる。このことにより、原料水溶液に含まれる希土類元素成分とバリウム成分とジルコニウム成分とが同時に沈殿し、原料水溶液中の希土類元素のイオンとバリウムイオンとジルコニウムイオンの割合に対応する均一な元素分布を有する沈殿物からなるペロブスカイト酸化物前駆体が得られる。
【0043】
沈殿工程S2では、沈殿剤として使用する水酸化アンモニウムの含有量を多くし、炭酸水素アンモニウムの含有量を少なくするほど、ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の混合液のpHが高くなる。反対に、沈殿剤として使用する水酸化アンモニウムの含有量を少なくし、炭酸水素アンモニウムの含有量を多くするほど、ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の混合液のpHが低くなる。
【0044】
原料水溶液に含まれるジルコニウム成分は、pHが高いほど沈殿しやすい。本実施形態では、沈殿剤として、合計モル数の0.5倍以上の水酸化アンモニウムを含むものを用いる。このため、原料水溶液のpHが十分に高くなり、原料水溶液に含まれる希土類元素成分およびジルコニウム成分を十分に沈殿させることができる。ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後に原料水溶液中に溶解した状態で残留するジルコニウム成分をより一層少なくできるため、水酸化アンモニウムの含有量は、合計モル数の5倍以上であることが好ましく、7倍以上であることがより好ましい。
【0045】
沈殿剤に含まれる水酸化アンモニウムの含有量は、合計モル数の20倍以下である。このため、原料水溶液中において、水酸化アンモニウムを含有することに由来するアンモニウムイオン(NH4+)の濃度が高くなりすぎることがない。よって、アンモニウムイオンと炭酸水素イオン(HCO3
-)とが反応して、炭酸水素アンモニウムからの炭酸水素イオンの生成が阻害されることがなく、炭酸水素イオンから生成する炭酸イオンの濃度を確保できる。その結果、原料水溶液に含まれる希土類元素成分とジルコニウム成分とともに、原料水溶液に含まれるバリウム成分を十分に沈殿させることができる。水酸化アンモニウムの含有量は、より一層、炭酸イオンの濃度が確保されやすくなるため、合計モル数の18倍以下であることが好ましく、15倍以下であることがより好ましい。
【0046】
また、沈殿剤に含まれる炭酸水素アンモニウムの含有量は、水酸化アンモニウム1モルに対して0.08モル以上である。このため、原料水溶液中の炭酸イオン濃度を十分に確保することができ、原料水溶液に含まれる希土類元素成分とジルコニウム成分とともに、原料水溶液に含まれるバリウム成分を十分に沈殿させることができる。ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の原料水溶液中に、溶解した状態で残留するバリウム成分をより一層少なくできるため、炭酸水素アンモニウムの含有量は、水酸化アンモニウム1モルに対して0.09モル以上であることが好ましく、0.10モル以上であることがより好ましい。
【0047】
また、沈殿剤に含まれる炭酸水素アンモニウムの含有量は、水酸化アンモニウム1モルに対して0.45モル以下である。このため、原料水溶液のpHが十分に高くなり、原料水溶液に含まれる希土類元素成分およびジルコニウム成分を十分に沈殿させることができる。ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の原料水溶液中に、溶解した状態で残留するジルコニウム成分をより一層少なくできるため、炭酸水素アンモニウムの含有量は、水酸化アンモニウム1モルに対して0.40モル以下であることが好ましく、0.35モル以下であることがより好ましい。
【0048】
本実施形態の製造方法における沈殿工程S2においては、ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の混合液のpHが9.40~9.80となるようにすることが好ましい。上記の混合液のpHが9.40以上であると、原料水溶液に含まれる希土類元素成分とバリウム成分とともに、原料水溶液に含まれるジルコニウム成分を十分に沈殿させることができ、ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の原料水溶液中に、溶解した状態で残留するジルコニウム成分をより一層少なくできる。ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の混合液のpHは9.45以上であることがより好ましい。ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の混合液のpHが9.80以下であると、炭酸水素アンモニウムを十分に含有させることができ、ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の原料水溶液中に、溶解した状態で残留するバリウム成分をより一層少なくできる。ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の混合液のpHは9.75以下であることがより好ましい。
【0049】
本実施形態の製造方法における沈殿工程S2では、沈殿剤として、水酸化アンモニウムおよび炭酸水素アンモニウムとともに、必要に応じて、希土類元素成分とバリウム成分とジルコニウム成分とが均一に分散されているペロブスカイト酸化物前駆体が得られる範囲内で、その他の沈殿剤を用いてもよい。
その他の沈殿剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、ジエタノールアミンなどが挙げられる。
【0050】
なお、その他の沈殿剤として、水酸化ナトリウムなどのナトリウムを含む化合物を用いると、沈殿物であるペロブスカイト酸化物前駆体中にナトリウムイオンが含まれる場合がある。ペロブスカイト酸化物前駆体中に含まれるナトリウムイオンは、ペロブスカイト酸化物前駆体の焼結性を阻害する場合がある。また、ペロブスカイト酸化物を含む電解質層を製造するための焼結と同時に、電極などの電解質層と一体化される電解質層ではない部材を製造するための焼結を行うと、ペロブスカイト酸化物前駆体から揮発したナトリウムイオンが電極などの部材と反応し、電極などの部材を変質させる要因となる場合がある。また、ペロブスカイト酸化物前駆体中に含まれるナトリウムイオンが、焼結後のペロブスカイト酸化物中に残留すると、ペロブスカイト酸化物を含む電解質層のプロトン伝導性を低下させる場合がある。しかも、ペロブスカイト酸化物前駆体中に含まれるナトリウムイオンは、取り除くことが極めて困難である。したがって、その他の沈殿剤として、ナトリウムを含む化合物を用いないことが好ましい。
【0051】
また、その他の沈殿剤として、ジエタノールアミンなどの有機化合物を用いると、沈殿物であるペロブスカイト酸化物前駆体中に、有機化合物、もしくは有機化合物に由来する物質が含まれる場合がある。このペロブスカイト酸化物前駆体を焼成すると、不純物相を含むペロブスカイト酸化物が生成する場合がある。したがって、その他の沈殿剤として、有機化合物を用いないことが好ましい。
【0052】
本実施形態の製造方法における沈殿工程S2において、原料水溶液に沈殿剤を添加して混合液とする際には、原料水溶液を公知の方法により攪拌しながら沈殿剤を添加することが好ましい。
沈殿剤は、原料水溶液中に全量を一度に添加してもよいし、少量ずつ複数回に分けて添加してもよく、原料水溶液中の希土類元素のイオンとバリウムイオンとジルコニウムイオンの割合に対応するより均一な元素分布を有する沈殿物が得られやすいため、少量ずつ複数回に分けて添加することが好ましい。
また、沈殿剤としての水酸化アンモニウムと炭酸水素アンモニウムは、任意の濃度および割合で混合してから原料水溶液中に添加してもよいし、それぞれ別々に添加してもよい。水酸化アンモニウムと炭酸水素アンモニウムとを別々に原料水溶液中に添加する場合、水酸化アンモニウムと炭酸水素アンモニウムのどちらを先に添加してもよい。
【0053】
(焼成工程S3)
次に、沈殿工程S2において沈殿したペロブスカイト酸化物前駆体を焼成する。ペロブスカイト酸化物前駆体は、焼成する前に、フィルターを用いて原料水溶液を濾過する方法など、公知の方法により原料水溶液から捕集して解砕し、乾燥させることが好ましい。
解砕する方法、乾燥させる方法としては、従来公知の方法を用いることができる。
【0054】
ペロブスカイト酸化物前駆体を焼成する方法としては、例えば、大気雰囲気中、400~1000℃の温度で、0~10時間保持する第一焼成工程を行った後、大気雰囲気中、900~1300℃の温度で、0時間超~10時間以下保持する第二焼成工程を行う方法などを用いることができる。
【0055】
第一焼成工程を行うことにより、ペロブスカイト酸化物前駆体中に含まれる有機物を除去できる。ペロブスカイト酸化物前駆体中に含まれる有機物としては、例えば、上述した原料水溶液調整工程S1において、希土類元素のイオンを含む水溶液と、バリウムイオンを含む水溶液と、ジルコニウムイオンを含む水溶液のうち、いずれか1つ以上として硝酸塩水溶液を用いたことに起因する窒素酸化物などが挙げられる。第一焼成工程においては、500~900℃の温度で、0~5時間保持することがより好ましい。第一焼成工程は、必要に応じて行う工程であり、行わなくてもよい。
【0056】
第二焼成工程は、第一焼成工程超の温度で行われる。第二焼成工程における温度が900℃以上であると、明瞭な結晶性を有するペロブスカイト酸化物の焼結体が得られるため好ましい。第二焼成工程における温度は、第二焼成工程における保持時間を少なくでき、生産性が向上するため、1000℃以上であることが好ましい。
【0057】
ペロブスカイト酸化物前駆体に含まれるバリウム成分は、ペロブスカイト酸化物前駆体の温度が1,300℃超の高温になると揮発する。しかし、本実施形態の製造方法により製造したペロブスカイト酸化物前駆体は、低温で焼結でき、単一相のペロブスカイト酸化物が得られやすいものである。したがって、第二焼成工程における焼成温度をバリウム成分が揮発しにくい温度まで低くできる。第二焼成工程における温度が1300℃以下、好ましくは1200℃以下であると、焼成時にペロブスカイト酸化物前駆体に含まれるバリウム成分が揮発することを効果的に防止できる。その結果、ペロブスカイト酸化物前駆体の原料として使用する原料水溶液中の希土類元素成分とバリウム成分とジルコニウム成分の割合によって、焼成後に得られるペロブスカイト酸化物の組成を精度よく制御できる。
【0058】
第二焼成工程において上記の温度範囲内に保持する時間が0時間超であると、明瞭な結晶性を有するペロブスカイト酸化物を含む焼結体が得られるため好ましい。第二焼成工程における保持時間は、0.5時間以上であることがより好ましい。上記の温度範囲内に保持する時間が10時間以下であると、生産性が良好となるとともに、焼成時にペロブスカイト酸化物前駆体に含まれるバリウム成分が揮発することを、より効果的に防止できる。第二焼成工程における保持時間は、9.5時間以下であることがより好ましい。
以上の工程を行うことにより、ペロブスカイト酸化物が得られる。
【0059】
[ペロブスカイト酸化物前駆体の製造方法、燃料電池の製造方法]
本実施形態の燃料電池の製造方法は、本実施形態のペロブスカイト酸化物前駆体の製造方法により、ペロブスカイト酸化物前駆体を製造する工程と、ペロブスカイト酸化物前駆体を含む電解質材料を成形して焼成することにより、ペロブスカイト酸化物を含む焼結体からなる電解質層を形成する焼成工程とを有する。
本実施形態の燃料電池の製造方法において、ペロブスカイト酸化物前駆体を製造する工程と焼成工程以外の工程は、公知の方法を用いて行うことができる。
本実施形態のペロブスカイト酸化物前駆体の製造方法は、上述した本実施形態のペロブスカイト酸化物の製造方法における原料水溶液調整工程S1と、沈殿工程S2とを有する。
【0060】
(燃料電池)
本実施形態の製造方法を用いて製造する燃料電池は、プロトン伝導性セラミック燃料電池(PCFC)であり、電解質層を形成する電解質材料として、本実施形態の製造方法により製造したペロブスカイト酸化物前駆体を含む電解質材料を用いたものである。したがって、電解質層を形成する電解質材料以外のものは、従来公知のものを用いることができる。
本実施形態の製造方法を用いて製造する燃料電池としては、例えば、第1電極としての空気極(正極)と、第2電極としての燃料極(負極)と、空気極と燃料極との間に配置される電解質層とを有する積層構造からなるセル部材を有するものが挙げられる。セル部材は、積層構造を1層のみ有するものであってもよいし、複数有するものであってもよい。
【0061】
空気極(正極)を形成する空気極材料としては、プロトン伝導性セラミック燃料電池の空気極材料として使用される公知の材料を用いることができ、電極材料と、電解質材料とを含むものを用いることが好ましい。空気極材料として使用できる電極材料としては、例えば、La0.6Ba0.4CoO3-δ、La0.8Sr0.2FeO3-δ、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3-δ、La0.7-0.8Sr0.2-0.3Mn1.02-1.05O3-δ、La2Zr2O7、La5.5WO12-δなどから選ばれる1種また2種以上の複合金属酸化物が挙げられる。空気極材料として使用できる電解質材料としては、プロトン伝導性セラミック燃料電池に使用される公知の電解質材料を用いることができ、本実施形態の製造方法により製造したペロブスカイト酸化物前駆体を含むことが好ましい。
【0062】
燃料極(負極)を形成する燃料極材料としては、プロトン伝導性セラミック燃料電池の燃料極材料として使用される公知の材料を用いることができ、電極材料と、電解質材料とを含むものを用いることが好ましい。燃料極材料として使用できる電極材料としては、例えば、Niおよび/またはNi含有酸化物などが挙げられる。燃料極材料として使用できる電解質材料としては、プロトン伝導性セラミック燃料電池に使用される公知の電解質材料を用いることができ、本実施形態の製造方法により製造したペロブスカイト酸化物前駆体を含むことが好ましい。
空気極(正極)と、燃料極(負極)とは、同じ材料で形成されていてもよいし、それぞれ異なる材料で形成されていてもよい。
【0063】
電解質層を形成する電解質材料は、本実施形態の製造方法により製造したペロブスカイト酸化物前駆体のみであってもよいし、その他に、プロトン伝導性セラミック燃料電池の電解質層に使用される公知の材料を含んでいてもよい。公知の材料としては、例えば、希土類元素を添加したストロンチウムジルコネートなどの電解質が挙げられる。
【0064】
本実施形態の製造方法において使用する空気極材料、燃料極材料および電解質材料は、それぞれ必要に応じて、遷移金属元素を含む酸化物などの焼結助剤など、公知の添加剤を含有していてもよい。
【0065】
本実施形態の製造方法を用いて製造する燃料電池は、空気極と燃料極と電解質層の他に、その他の層を有していてもよい。その他の層としては、例えば、Gd0.1Ce0.9O2、BaZr0.1Ce0.7Y0.1Yb0.1O3-δからなる中間層、Ni、Ag、Au、Ptからなる集電体層などが挙げられる。
本実施形態の製造方法を用いて製造する燃料電池は、ケイ酸塩鉱物であるバーミキュライト、またはガラスなどを主成分とするシール材によって、空気極と電解質層と燃料極とを有する積層構造がシールされていてもよい。
【0066】
本実施形態の燃料電池の製造方法における焼成工程では、ペロブスカイト酸化物前駆体を含む電解質材料を成形して焼成することにより、ペロブスカイト酸化物を含む焼結体からなる電解質層を形成する。
電解質材料に含有されるペロブスカイト酸化物前駆体は、成形する前に、フィルターを用いて原料水溶液を濾過する方法など、公知の方法により原料水溶液から捕集して解砕し、乾燥させることが好ましい。
解砕する方法、乾燥させる方法としては、従来公知の方法を用いることができる。
【0067】
本実施形態における焼成工程では、ペロブスカイト酸化物を含む電解質層を製造するための焼成と同時に、空気極および/または燃料極などの電解質層と一体化される部材であって、電解質層ではない部材を製造するための焼成を行ってもよい。
具体的には、本実施形態の燃料電池の製造方法を用いて、空気極と電解質層と燃料極とを有する積層構造を含む燃料電池を製造する場合、焼成工程において、同時焼成法を用いて製造してもよいし、逐次焼成法を用いて製造してもよい。同時焼成法は、空気極と電解質層と燃料極の各層を形成する材料を積層した後、一括焼成により積層構造を作製する方法である。逐次焼成法は、空気極と電解質層と燃料極の各層を形成する毎に焼成を行う方法である。同時焼成法は、逐次焼成法よりも少ない作業工程で効率よく積層構造を作製できるため、好ましい。
【0068】
本実施形態の焼成工程において同時焼成法を用いる場合、空気極(正極)となる電極材料を成形してなる層と、電解質材料を成形してなる層と、燃料極(負極)となる電極材料を成形してなる層とを、この順に積層して積層体を形成する積層体形成工程と、積層体を焼成することにより、空気極(正極)と電解質層と燃料極(負極)とが積層された焼結体を得る積層体焼成工程とを行う。
【0069】
同時焼成法を用いて製造する場合、積層体を焼成する方法としては、例えば、上述した本実施形態のペロブスカイト酸化物の製造方法における焼成工程S3と同様に、第一焼成工程を行った後、第二焼成工程を行う方法などを用いることができる。
【0070】
逐次焼成法を用いて製造する場合、成形したペロブスカイト酸化物前駆体を含む電解質材料を焼成する方法としては、例えば、上述した本実施形態のペロブスカイト酸化物の製造方法における焼成工程S3と同様に、第一焼成工程を行った後、第二焼成工程を行う方法などを用いることができる。このことにより、ペロブスカイト酸化物を含む電解質層を形成できる。
【0071】
逐次焼成法を用いて製造する場合、空気極(正極)となる電極材料を成形してなる層、および燃料極(負極)となる電極材料を成形してなる層を焼成する方法としては、従来公知の焼成方法を用いることができる。
以上の工程を行うことにより、本実施形態の製造方法により製造したペロブスカイト酸化物を含む電解質層を有するプロトン伝導性セラミック燃料電池(PCFC)が得られる。
【0072】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は、上記の特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例0073】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0074】
「実施例1」
(原料水溶液調整工程S1)
硝酸バリウム19.0068gを蒸留水1Lに溶解し、濃度0.07521mol・Lの硝酸バリウム水溶液を得た。また、硝酸酸化ジルコニウム二水和物29.0005gを蒸留水2Lに溶解し、濃度0.05389mol・Lの硝酸ジルコニウム水溶液を得た。また、硝酸イットリウム六水和物8.3577gを蒸留水1Lに溶解し、濃度0.02167mol・Lの硝酸イットリウム水溶液を作製した。
【0075】
各硝酸塩水溶液の濃度は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)装置(商品名;SPS3500:日立ハイテクサイエンス社製)を用いて測定し、決定した。
硝酸バリウム水溶液201.5mLと、硝酸ジルコニウム水溶液253.5mLと、硝酸イットリウム水溶液70mLとを混合し、スターラーを用いて600rpmで5分間攪拌し、イットリウム成分とバリウム成分とジルコニウム成分の割合が、目的物であるペロブスカイト酸化物(BaZr0.9Y0.1O3-δ)の組成に対応している原料水溶液を作製した。
【0076】
(沈殿工程S2)
沈殿剤として、濃度2.11mol/Lの炭酸水素アンモニウム水溶液と、濃度14.8mol/Lの水酸化アンモニウム水溶液とを用意した。
そして、原料水溶液をスターラーを用いて600rpmで攪拌しながら、原料水溶液中に炭酸水素アンモニウム水溶液15mLを添加し、続いて水酸化アンモニウム水溶液20mLを添加して混合液とし、90℃で45分間保持することによりペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた。炭酸水素アンモニウム水溶液および炭酸水素アンモニウム水溶液は、それぞれスポイトを用いて1滴ずつ滴下する方法により添加した。
【0077】
表1に示すように、沈殿剤として使用した炭酸水素アンモニウムの量は、原料水溶液中のイットリウムイオンとバリウムイオンとジルコニウムイオンの合計モル数の1倍のモル数とした。また、沈殿剤として使用した水酸化アンモニウムの量は、合計モル数の10倍のモル数とした。したがって、水酸化アンモニウム1モルに対する炭酸水素アンモニウムのモル数は0.10モルである。
【0078】
ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の混合液のpHを、以下に示す方法により測定した。その結果、混合液のpHは9.72であった。その結果を表1に示す。
(pH測定)
試験体であるペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の混合液を、スターラーを用いて600rpmで攪拌しながら、30℃でpHの測定を行った。
pHの測定には、ガラス電極式水素イオン濃度指示計(東亜DKK TOADKK製、型式IM-22P、第SS994号)を用いた。測定前に以下に示す方法により校正を行った。まず、中性リン酸塩pH標準液(pH=6.86 at25℃)用いて校正した。次に、フタル酸塩pH標準液(pH=4.01 at25℃)を用いて校正した。その後、ホウ酸塩pH標準液(pH=9.18 at25℃)を用いて校正した。校正終了後、蒸留水でセンサ部先端を洗浄し、測定に使用した。
【0079】
また、ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の混合液に含まれるイットリウムイオン(Y3+)とバリウムイオン(Ba2+)とジルコニウムイオン(Zr4+)の含有量(残存量)を、以下に示す方法により測定した。その結果、イットリウムイオンとジルコニウムイオンについては、検出限界以下であった。バリウムイオンの検出限界は、4×10-10mol/L、ジルコニウムイオンの検出限界は、5×10-9mol/L、イットリウムイオンの検出限界は、2×10-9mol/Lである。
また、バリウムイオンについては、原料水溶液の原料として使用したバリウムイオン量に対する割合(混合液中に残存するBaイオンの含有量(%)={混合液中のイオン量(モル)/原料水溶液中のイオン量(モル)}×100)を算出した。その結果、混合液中に残存するバリウムイオンの含有量は、0.085%であった。その結果を表1に示す。
【0080】
(混合液中に残存するBa2+とZr4+とY3+の含有量の測定)
Ba2+とZr4+とY3+の含有量の測定には、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)装置(商品名;SPS3500:日立ハイテクサイエンス社製)を用いた。
ICP装置により、分析試料に外部からプラズマのエネルギーを与えると、分析試料中に含まれる成分元素(原子)が励起される。ICP装置は、その励起された原子が低いエネルギー準位に戻るときに放出される発光線(スペクトル線)を検出する。そして、検出された発光線の位置(波長)から成分元素の種類を判定し、発光線の強度から各元素の含有量を求める。
【0081】
混合液中に残存するBa2+の含有量を、ICP装置を用いて測定を行うに際しては、既知濃度の3つのBa標準液(49.95ppm、24.975ppm、9.99ppm)とブランク溶液とを用いて、検量線を作成した。
また、Zr4+の含有量を、ICP装置を用いて測定を行うに際しては、既知濃度の3つのZr標準液(10.01ppm、5.005ppm、2.002ppm)とブランク溶液とを用いて、検量線を作成した。
また、Y3+の含有量を、ICP装置を用いて測定を行うに際しては、既知濃度の3つのY標準液(24.925ppm、9.97ppm、4.995ppm)とブランク溶液とを用いて、検量線を作成した。
そして、各分析試料から検出された発光線の強度を、Ba2+とZr4+とY3+それぞれの検量線に当てはめることにより、各溶液中のBa2+とZr4+とY3+の濃度を求めた。
【0082】
(焼成工程S3)
沈殿工程S2においてペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の混合液を、フィルターを用いて濾過することにより、ペロブスカイト酸化物前駆体を捕集した。次に、捕集したペロブスカイト酸化物前駆体をアルミナ乳鉢を用いて15分間解砕した。
解砕したペロブスカイト酸化物前駆体を、高温炉(商品名;HT04/17:Nabertherm社製)を用いて、大気雰囲気中、600℃で2時間保持する第一焼成工程を行った。
第一焼成後のペロブスカイト酸化物前駆体を用いて、200MPaの一軸加圧成型を行うことにより、直径13mmのペレットを得た。得られたペレットを、高温炉(商品名;HT04/17:Nabertherm社製)を用いて、大気雰囲気中、1200℃で5時間保持する第二焼成工程を行った。
以上の工程を行うことにより、実施例1のペロブスカイト酸化物を得た。
【0083】
「比較例1~比較例5」
沈殿工程S2において、沈殿剤として使用した炭酸水素アンモニウムの量および水酸化アンモニウムの量をそれぞれ、原料水溶液中のイットリウムイオンとバリウムイオンとジルコニウムイオンの合計モル数に対する、表1に示すモル数の割合(倍)としたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1~比較例5のペロブスカイト酸化物を得た。
【0084】
比較例1~比較例5において、ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の混合液のpHを、実施例1と同様にして測定した。その結果を表1に示す。
【0085】
また、比較例1~比較例5において、ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の混合液に含まれるイットリウムイオン(Y3+)とバリウムイオン(Ba2+)とジルコニウムイオン(Zr4+)の含有量(残存量)を、実施例1と同様にして測定した。その結果を表1に示す。
なお、バリウムイオンについては、実施例1と同様にして、原料水溶液の原料として使用したバリウムイオン量に対する割合を算出した。
また、ジルコニウムイオンについて、検出限界以下でないものについては、バリウムイオンと同様にして、原料水溶液の原料として使用したジルコニウムイオン量に対する割合を算出した。その結果を表1に示す。
【0086】
【0087】
また、実施例1、比較例1~比較例5におけるペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の混合液中のバリウムイオン(Ba
2+)の含有量(残存量)を
図2に示す。
また、実施例1、比較例1~比較例5におけるペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の混合液中のジルコニウムイオン(Zr
4+)の含有量(残存量)を
図3に示す。
【0088】
表1および
図2に示すように、実施例1では、ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の混合液に含まれるバリウムイオン(Ba
2+)の含有量(残存量)が非常に少なかった。また、表1および
図3に示すように、実施例1では、ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の混合液に含まれるジルコニウムイオン(Zr
4+)の含有量(残存量)が検出限界以下であった。さらに、表1に示すように、実施例1では、ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の混合液に含まれるイットリウムイオン(Y
3+)の含有量(残存量)も検出限界以下であった。
【0089】
これに対し、表1および
図2に示すように、比較例1では、ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の混合液に含まれるバリウムイオン(Ba
2+)の含有量(残存量)が非常に多かった。このことから、沈殿剤として水酸化アンモニウムのみを用いた場合にはバリウム成分を沈殿させることは困難であることが分かる。
【0090】
また、表1および
図3に示すように、比較例3~5では、ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の混合液に含まれるジルコニウムイオン(Zr
4+)の含有量(残存量)が多かった。このことから、沈殿剤として炭酸水素アンモニウムのみを用いた場合、または沈殿剤として炭酸水素アンモニウムと少量の水酸化アンモニウムを用いた場合には、ジルコニウム成分を十分に沈殿させることは困難であることが分かる。
【0091】
「実施例2」
(原料水溶液調整工程S1)
硝酸バリウム水溶液と、硝酸ジルコニウム水溶液と、硝酸イットリウム水溶液とを混合し、イットリウム成分とバリウム成分とジルコニウム成分の割合が、目的物であるペロブスカイト酸化物(BaZr0.95Y0.05O3-δ(BZY-5))の組成に対応している原料水溶液を作製したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2のペロブスカイト酸化物を得た。
【0092】
「実施例3」
(原料水溶液調整工程S1)
硝酸バリウム水溶液と、硝酸ジルコニウム水溶液と、硝酸イットリウム水溶液とを混合し、イットリウム成分とバリウム成分とジルコニウム成分の割合が、目的物であるペロブスカイト酸化物(BaZr0.85Y0.15O3-δ(BZY-15))の組成に対応している原料水溶液を作製したこと以外は、実施例1と同様にして実施例3のペロブスカイト酸化物を得た。
【0093】
「実施例4」
(原料水溶液調整工程S1)
硝酸バリウム水溶液と、硝酸ジルコニウム水溶液と、硝酸イットリウム水溶液とを混合し、イットリウム成分とバリウム成分とジルコニウム成分の割合が、目的物であるペロブスカイト酸化物(BaZr0.8Y0.2O3-δ(BZY-20))の組成に対応している原料水溶液を作製したこと以外は、実施例1と同様にして実施例4のペロブスカイト酸化物を得た。
【0094】
実施例2~実施例4において、ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の混合液に含まれるイットリウムイオン(Y3+)とバリウムイオン(Ba2+)とジルコニウムイオン(Zr4+)の含有量(残存量)を、実施例1と同様にして測定した。その結果を表2に示す。
なお、バリウムイオンについては、実施例1と同様にして、原料水溶液の原料として使用したバリウムイオン量に対する割合を算出した。
【0095】
【0096】
表2に示すように、実施例2~実施例4では、ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の混合液に含まれるバリウムイオン(Ba2+)の含有量(残存量)が非常に少なかった。また、表2に示すように、実施例2~実施例4では、ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の混合液に含まれるジルコニウムイオン(Zr4+)の含有量(残存量)が検出限界以下であった。さらに、表2に示すように、実施例2~実施例4では、ペロブスカイト酸化物前駆体を沈殿させた後の混合液に含まれるイットリウムイオン(Y3+)の含有量(残存量)も検出限界以下であった。
【0097】
また、実施例1および比較例1~比較例5のペロブスカイト酸化物について、X線回折装置(商品名;SmartLab/RA/DX:Rigaku社製)を用いて、X線回折(XRD)測定を行った。その結果を
図4に示す。
図4は、実施例1および比較例1~比較例5のペロブスカイト酸化物のX線回折結果を示したチャートである。
図4には、実施例1および比較例1~比較例5のペロブスカイト酸化物のチャートとともに、非特許文献1に記載されたBaZr
0.9Y
0.1O
3-δ(BZY-10)で示される化学組成を有するペロブスカイト酸化物のX線回折結果を示したチャートも記載した。
【0098】
図4に示すように、実施例1のペロブスカイト酸化物と、非特許文献1に記載されたBaZr
0.9Y
0.1O
3-δ(BZY-10)で示される化学組成を有するペロブスカイト酸化物とでは、X線回折におけるピーク位置が同じである。このことから、実施例1のペロブスカイト酸化物が、BaZr
0.9Y
0.1O
3-δ(BZY-10)で示される化学組成を有する単一相のペロブスカイト酸化物であることが確認できた。
【0099】
また、比較例1~比較例5のペロブスカイト酸化物についても、実施例1のペロブスカイト酸化物と同様に、非特許文献1に記載されたBaZr
0.9Y
0.1O
3-δ(BZY-10)で示される化学組成を有するペロブスカイト酸化物と、X線回折におけるピーク位置が同じであった。しかし、比較例1~比較例5では、
図4に示すように、ZrO
2、Ba
4Y
2O
7、BaCO
3、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)で示される化学組成を有する酸化物に由来する不純物のX線回折ピークも確認された。このことから、比較例1~比較例5のペロブスカイト酸化物は、単一相のペロブスカイト酸化物ではないことが分かった。
本発明の燃料電池の製造方法では、共沈法を用いて析出したペロブスカイト酸化物前駆体を含む電解質材料を成形して焼成する。本発明の燃料電池の製造方法では、バリウム成分の揮発を抑制できる低い温度で焼結できるため、ペロブスカイト酸化物前駆体の原料として使用する希土類元素成分とバリウム成分とジルコニウム成分の割合によって、焼結後のペロブスカイト酸化物の組成を精度よく制御でき、所望の組成を有するペロブスカイト酸化物を含む電解質層を形成できる。よって、本発明によれば、ペロブスカイト酸化物を含む電解質層を有する燃料電池の特性および品質の向上が期待できる。また、本発明の燃料電池の製造方法では、低温で焼結することにより電解質層を形成できるため、焼結に伴って電解質層となる材料から揮発した成分が、電解質層ではない他の部材と反応し、電解質層ではない他の部材の機能を低下させることを防止できる。さらに、低温で焼結できるため、焼結に関わるエネルギーを低減できる。また、焼結に伴って電解質層となる材料から揮発した成分によって、焼結炉内などが汚れることがなく、製造設備の維持・管理が容易となり、設備に関わるコスト低減が図れる。
また、本発明の製造方法により得られたペロブスカイト酸化物前駆体は、プロトン伝導性セラミック燃料電池(PCFC)の電解質層の材料としてだけでなく、電解装置の電解質層の材料としても好ましく用いることができる。