(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036970
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】放射線検出装置、制御方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G01T 1/24 20060101AFI20240311BHJP
G01T 1/17 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
G01T1/24
G01T1/17 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141555
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】松永 大輔
(72)【発明者】
【氏名】村田 駿介
(72)【発明者】
【氏名】青山 朋樹
(72)【発明者】
【氏名】大久保 悠史
【テーマコード(参考)】
2G188
【Fターム(参考)】
2G188AA27
2G188BB03
2G188BB15
2G188CC28
2G188DD13
2G188DD38
2G188EE25
2G188FF25
2G188GG09
(57)【要約】
【課題】適切に放射線検出素子を加熱することができる放射線検出装置、制御方法及びコンピュータプログラムを提供する。
【解決手段】放射線検出装置は、放射線検出素子と、供給された電圧に応じて前記放射線検出素子を加熱する加熱部と、前記加熱部へ電圧を供給する電圧供給部とを備える。前記電圧供給部は、所定の上限温度よりも低い温度に前記放射線検出素子を加熱するための電圧を前記加熱部へ供給する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線検出素子と、
供給された電圧に応じて前記放射線検出素子を加熱する加熱部と、
前記加熱部へ電圧を供給する電圧供給部とを備え、
前記電圧供給部は、所定の上限温度よりも低い温度に前記放射線検出素子を加熱するための電圧を前記加熱部へ供給する
ことを特徴とする放射線検出装置。
【請求項2】
前記電圧供給部が前記加熱部へ供給する最大電圧は、当該最大電圧が前記加熱部へ継続的に供給された場合でも前記放射線検出素子の温度が前記上限温度よりも低くなる電圧である
ことを特徴とする請求項1に記載の放射線検出装置。
【請求項3】
前記放射線検出素子の加熱を行うべきか否かを判定する判定部と、
前記判定部が前記放射線検出素子の加熱を行うべきであると判定した場合に、前記放射線検出素子の加熱を行うべきであることを通知する通知部と
を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の放射線検出装置。
【請求項4】
前記放射線検出素子を用いて検出した放射線のスペクトルを生成するスペクトル生成部を更に備え、
前記判定部は、前記スペクトルに基づいて、前記放射線検出素子の加熱を行うべきか否かを判定する
ことを特徴とする請求項3に記載の放射線検出装置。
【請求項5】
前記判定部は、前記放射線検出素子の加熱を行ってから経過した時間に基づいて、前記放射線検出素子の加熱を行うべきか否かを判定する
ことを特徴とする請求項3に記載の放射線検出装置。
【請求項6】
前記判定部は、当該放射線検出装置の動作時間に基づいて、前記放射線検出素子の加熱を行うべきか否かを判定する
ことを特徴とする請求項3に記載の放射線検出装置。
【請求項7】
前記放射線検出素子を内部に収容するハウジングを更に備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有する
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の放射線検出装置。
【請求項8】
内部が減圧される減圧室を更に備え、
前記減圧室は、外部からの放射線が通過する通過部を有し、
前記放射線検出素子は、前記減圧室の内部に配置されており、前記減圧室の外部に位置する試料から発生して前記通過部を通過した放射線が入射され、
前記電圧供給部は、前記減圧室の内部が減圧された状態で、前記放射線検出素子を加熱するための電圧を前記加熱部へ供給する
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載の放射線検出装置。
【請求項9】
前記加熱部はペルチェ素子であり、
放射線検出が行われる際に、前記電圧供給部は、前記放射線検出素子を冷却するための電圧を前記ペルチェ素子へ供給する
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一つに記載の放射線検出装置。
【請求項10】
放射線検出素子と、供給された電圧に応じて前記放射線検出素子を加熱する加熱部と、前記加熱部へ電圧を供給する電圧供給部とを備える放射線検出装置を制御する方法であって、
所定の上限温度よりも低い温度に前記放射線検出素子を加熱するための電圧を前記電圧供給部から前記加熱部へ供給する
ことを特徴とする制御方法。
【請求項11】
放射線検出素子と、供給された電圧に応じて前記放射線検出素子を加熱する加熱部と、前記加熱部へ電圧を供給する電圧供給部とを備える放射線検出装置を制御するコンピュータに、
所定の上限温度よりも低い温度に前記放射線検出素子を加熱するための電圧を前記加熱部へ供給するように前記電圧供給部を制御する
処理を実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を検出するための放射線検出装置、制御方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
X線等の放射線を検出する放射線検出器は、放射線が入射し、放射線に応じた信号を出力する放射線検出素子を有している。例えば、半導体を用いた放射線検出素子がある。放射線検出素子等の放射線検出器内の部品に、ガス又は水分が吸着することがある。例えば、放射線検出素子を真空度の低い雰囲気中で冷却した場合に、空気中のガス又は水分の吸着が発生する。例えば、真空ポンプの潤滑油、試料に由来する水分、又は放射線検出器の部品に用いられている接着剤等の樹脂に含まれるガス若しくは水分が吸着する。ガス又は水分の吸着は、放射線検出器の性能低下の原因となる。性能低下を防止するためには、放射線検出素子を常に真空中又は乾燥空気の中に配置しておく必要があり、放射線検出素子を管理するコストが大きい。
【0003】
放射線検出素子の性能低下を防止する方法として、放射線検出を行う前に、放射線検出素子を加熱する方法がある。加熱によって放射線検出器の内部の温度が上昇し、放射線検出器内の部品に吸着したガス又は水分は離脱し、除去される。放射線検出素子が動作する際には、吸着したガス又は水分は除去されているので、放射線検出器の性能低下は抑制される。特許文献1には、放射線検出素子を加熱する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
放射線検出素子を加熱させる技術では、放射線検出素子を加熱し過ぎる可能性がある。放射線検出素子を加熱し過ぎた場合は、放射線検出素子が損傷することがある。例えば、放射線検出器内の温度を測定する温度センサの不具合により、測定された温度が実際の温度よりも低い場合には、過剰に加熱が行われ、放射線検出素子が損傷するまで温度が上昇することが起こり得る。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、適切に放射線検出素子を加熱することができる放射線検出装置、制御方法及びコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態に係る放射線検出装置は、放射線検出素子と、供給された電圧に応じて前記放射線検出素子を加熱する加熱部と、前記加熱部へ電圧を供給する電圧供給部とを備え、前記電圧供給部は、所定の上限温度よりも低い温度に前記放射線検出素子を加熱するための電圧を前記加熱部へ供給することを特徴とする。
【0008】
本発明の一形態においては、放射線検出装置は、供給された電圧に応じて放射線検出素子を加熱する加熱部を備える。放射線検出装置は、放射線検出素子に吸着したガス又は水分を除去するために、加熱部により放射線検出素子を加熱する。加熱時には、放射線検出装置は、所定の上限温度よりも低い温度に放射線検出素子を加熱するための電圧を加熱部に供給する。放射線検出装置が放射線検出素子を加熱しすぎることが無くなり、放射線検出素子が熱によって損傷することが抑制される。
【0009】
本発明の一形態に係る放射線検出装置では、前記電圧供給部が前記加熱部へ供給する最大電圧は、当該最大電圧が前記加熱部へ継続的に供給された場合でも前記放射線検出素子の温度が前記上限温度よりも低くなる電圧であることを特徴とする。
【0010】
本発明の一形態においては、加熱部へ供給する最大電圧は、当該最大電圧が継続的に供給された場合に放射線検出素子の温度が上限温度よりも低くなる電圧である。このため、加熱部に電圧が供給され続けたとしても、放射線検出素子の温度は上限温度よりも低い。例えば、測定された温度が実際の温度よりも低い場合であっても、過剰な加熱は行われない。従って、放射線検出素子が損傷する温度まで放射線検出素子の温度が上昇することが確実に防止される。
【0011】
本発明の一形態に係る放射線検出装置は、前記放射線検出素子の加熱を行うべきか否かを判定する判定部と、前記判定部が前記放射線検出素子の加熱を行うべきであると判定した場合に、前記放射線検出素子の加熱を行うべきであることを通知する通知部とを更に備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の一形態においては、放射線検出装置は、放射線検出素子の加熱を行うべきか否かを判定し、放射線検出素子の加熱を行うべきであることを通知する。使用者は、放射線検出素子の加熱が必要になったときに、放射線検出素子の加熱を行うべきであることを通知され、適切なタイミングで、放射線検出素子を加熱することを放射線検出装置に指示することができる。放射線検出装置は、適切なタイミングで放射線検出素子を加熱し、放射線検出の精度を保つことができる。
【0013】
本発明の一形態に係る放射線検出装置は、前記放射線検出素子を用いて検出した放射線のスペクトルを生成するスペクトル生成部を更に備え、前記判定部は、前記スペクトルに基づいて、前記放射線検出素子の加熱を行うべきか否かを判定することを特徴とする。
【0014】
本発明の一形態においては、放射線検出装置は、放射線のスペクトルに基づいて、放射線検出素子の加熱を行うべきか否かを判定する。ガス又は水分の吸着によって、放射線検出素子から出力される信号に含まれるノイズが増加し、放射線のスペクトルに含まれるピークの幅は増大し、ピークの強度は低下する。このため、放射線のスペクトルに基づいて、ガス又は水分の吸着の度合いを推測し、放射線検出素子の加熱を行うべきか否かを判定することができる。
【0015】
本発明の一形態に係る放射線検出装置では、前記判定部は、前記放射線検出素子の加熱を行ってから経過した時間に基づいて、前記放射線検出素子の加熱を行うべきか否かを判定することを特徴とする。
【0016】
本発明の一形態においては、放射線検出装置は、経過時間に基づいて、放射線検出素子の加熱を行うべきか否かを判定する。時間の経過に従って、吸着したガス又は水分は蓄積し、放射線検出素子から出力される信号に含まれるノイズはより増加する。このため、経過時間の長さに基づいて、ガス又は水分の吸着の度合いを推測し、放射線検出素子の加熱を行うべきか否かを判定することができる。
【0017】
本発明の一形態に係る放射線検出装置では、前記判定部は、当該放射線検出装置の動作時間に基づいて、前記放射線検出素子の加熱を行うべきか否かを判定することを特徴とする。
【0018】
本発明の一形態においては、放射線検出装置は、動作時間に基づいて、放射線検出素子の加熱を行うべきか否かを判定する。動作時間が長くなるのに従って、吸着したガス又は水分は蓄積し、放射線検出素子から出力される信号に含まれるノイズはより増加する。このため、動作時間の長さに基づいて、ガス又は水分の吸着の度合いを推測し、放射線検出素子の加熱を行うべきか否かを判定することができる。
【0019】
本発明の一形態に係る放射線検出装置は、前記放射線検出素子を内部に収容するハウジングを更に備え、前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有することを特徴とする。
【0020】
本発明の一形態においては、放射線検出素子はハウジングに収容されており、ハウジングには窓材で塞がれていない開口部が設けられている。開口部を通過した放射線が放射線検出素子へ入射し、検出される。放射線検出装置は、エネルギーが低いために窓材を透過することができない放射線を検出することができる。
【0021】
本発明の一形態に係る放射線検出装置は、内部が減圧される減圧室を更に備え、前記減圧室は、外部からの放射線が通過する通過部を有し、前記放射線検出素子は、前記減圧室の内部に配置されており、前記減圧室の外部に位置する試料から発生して前記通過部を通過した放射線が入射され、前記電圧供給部は、前記減圧室の内部が減圧された状態で、前記放射線検出素子を加熱するための電圧を前記加熱部へ供給することを特徴とする。
【0022】
本発明の一形態においては、放射線検出素子は、減圧室の内部に配置されており、減圧室の外部にある試料からの放射線を検出する。放射線検出素子は、減圧室の内部が減圧された状態で加熱される。減圧室内に試料が配置されないので、減圧室の容量が小さく、効率的に減圧が行われる。減圧室の内部が減圧された状態で加熱が行われることによって、ガス又は水分の離脱が効率的に行われる。
【0023】
本発明の一形態に係る放射線検出装置では、前記加熱部はペルチェ素子であり、放射線検出が行われる際に、前記電圧供給部は、前記放射線検出素子を冷却するための電圧を前記ペルチェ素子へ供給することを特徴とする。
【0024】
本発明の一形態においては、加熱部はペルチェ素子である。ペルチェ素子により、放射線検出素子の加熱と冷却との両方を行う。
【0025】
本発明の一形態に係る制御方法は、放射線検出素子と、供給された電圧に応じて前記放射線検出素子を加熱する加熱部と、前記加熱部へ電圧を供給する電圧供給部とを備える放射線検出装置を制御する方法であって、所定の上限温度よりも低い温度に前記放射線検出素子を加熱するための電圧を前記電圧供給部から前記加熱部へ供給することを特徴とする。
【0026】
本発明の一形態に係るコンピュータプログラムは、放射線検出素子と、供給された電圧に応じて前記放射線検出素子を加熱する加熱部と、前記加熱部へ電圧を供給する電圧供給部とを備える放射線検出装置を制御するコンピュータに、所定の上限温度よりも低い温度に前記放射線検出素子を加熱するための電圧を前記加熱部へ供給するように前記電圧供給部を制御する処理を実行させることを特徴とする。
【0027】
本発明の一形態においては、加熱部を備える放射線検出装置は、所定の上限温度よりも低い温度に放射線検出素子を加熱するための電圧を加熱部に供給するように制御される。放射線検出装置が放射線検出素子を加熱しすぎることが無くなり、放射線検出素子が熱によって損傷することが抑制される。
【発明の効果】
【0028】
本発明にあっては、損傷の発生を抑制しながら放射線検出素子を加熱することができる。従って、吸着したガス又は水分を除去するために、適切に放射線検出素子を加熱することができる等、本発明は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】放射線検出装置の機能構成例を示すブロック図である。
【
図2】放射線検出器の構成を示す模式的断面図である。
【
図3】放射線検出素子及びコリメータを示す模式的断面図である。
【
図4】制御部の内部の構成例を示すブロック図である。
【
図5】放射線検出装置が行うクリーニング処理の手順の例を示すフローチャートである。
【
図6】放射線検出装置がクリーニング処理を行うタイミングを判定する処理の第1の例の手順を示すフローチャートである。
【
図7】放射線検出装置がクリーニング処理を行うタイミングを判定する処理の第2の例の手順を示すフローチャートである。
【
図8】放射線検出装置がクリーニング処理を行うタイミングを判定する処理の第3の例の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
図1は、放射線検出装置10の機能構成例を示すブロック図である。放射線検出装置10は、例えば蛍光X線分析装置である。放射線検出装置10は、試料6に電子線又はX線等の放射線を照射する照射部37と、試料6が載置される試料台51と、放射線検出器2と、減圧室52とを備えている。減圧室52は箱状であり、照射部37及び放射線検出器2は減圧室52の内部に配置されている。減圧室52は壁の一部が開口した孔部521を有しており、孔部521は放射線透過膜53で封止されている。放射線透過膜53は、放射線を透過させる薄膜である。減圧室52には、真空ポンプ等の減圧部54が連結されている。減圧部54は、減圧室52の内部を減圧する。
【0031】
試料台51は、減圧室52の外部に配置されている。試料台51は、載置された試料6を、孔部521に対向する位置に保持する。減圧室52の内部が減圧された状態で、照射部37から試料6へ放射線が照射される。照射部37からの放射線は、孔部521を通過し、放射線透過膜53を透過し、試料6へ照射される。試料6では蛍光X線等の放射線が発生し、発生した放射線は、放射線透過膜53を透過し、孔部521を通過し、放射線検出器2へ入射する。放射線検出器2は入射した放射線を検出する。孔部521は通過部に対応する。図中には、放射線を矢印で示している。減圧室52内に試料6が配置されないので、減圧室52の容量が小さく、効率的に減圧が行われる。なお、放射線検出装置10は、試料台51に載置させる方法以外の方法で試料6を保持する形態であってもよい。照射部37又は放射線検出器2の一部が減圧室52の外部に配置されていてもよい。
【0032】
放射線検出器2には、放射線検出素子1、プリアンプ21及び温度センサ22が含まれている。プリアンプ21は、一部が放射線検出器2の内部に含まれ他の部分が放射線検出器2の外部に配置されていてもよい。温度センサ22は、放射線検出器2の内部の温度を測定する。例えば、温度センサ22はサーミスタ又は熱電対を用いて構成されている。放射線検出器2には、放射線検出素子1に放射線検出のために必要な電圧を印加する第1電圧印加部31と、放射線検出器2に含まれる後述するペルチェ素子に電圧を印加する第2電圧印加部32と、信号処理部33とが接続されている。また、第1電圧印加部31は、プリアンプ21が動作するために必要な電圧を、プリアンプ21に印加する。信号処理部33には、分析部34が接続されている。分析部34はコンピュータを用いて構成されている。
【0033】
放射線検出装置10は、制御部4を備えている。制御部4には、照射部37、放射線検出器2、第1電圧印加部31、第2電圧印加部32、信号処理部33、分析部34及び減圧部54が接続されている。制御部4は、照射部37、放射線検出器2、第1電圧印加部31、第2電圧印加部32、信号処理部33、分析部34及び減圧部54の動作を制御する。制御部4は、制御方法を実行する。制御部4及び分析部34には、操作部35及び表示部36が接続されている。操作部35は、使用者からの操作を受け付けることにより、テキスト等の情報の入力を受け付ける。操作部35は、例えばタッチパネル、キーボード又はポインティングデバイスである。表示部36は、画像を表示する。表示部36は、例えば、液晶ディスプレイ又はELディスプレイ(Electroluminescent Display)である。
【0034】
図2は、放射線検出器2の構成を示す模式的断面図である。放射線検出器2は、SDD(Silicon Drift Detector)である。放射線検出器2は、円筒の一端に切頭錐体が連結した形状のハウジング26を備えている。ハウジング26は、板状の底板部にキャップ状のカバーが被さって構成されている。ハウジング26の先端には、開口部261が形成されている。開口部261には窓材を有する窓は設けられておらず、開口部261は塞がれていない。ハウジング26の内側には、放射線検出素子1、コリメータ23、回路基板24、ペルチェ素子25及びコールドフィンガ27が配置されている。ハウジング26は、放射線検出素子1、コリメータ23、回路基板24及びペルチェ素子25を収容している。
【0035】
ペルチェ素子25は、第2電圧印加部32に接続されており、第2電圧印加部32から電圧を印加される。ペルチェ素子25は、電圧を印加されることによって、一端と他端との間に温度差を発生させる。一端は熱を吸収する吸熱端となり、他端は熱を放出する放熱端となる。ペルチェ素子25に印加される電圧の極性が逆になった場合は、吸熱端と放熱端との位置は入れ替わる。
【0036】
放射線検出素子1は、回路基板24の表面に実装されており、開口部261に対向する位置に配置されている。コリメータ23は、放射線検出素子1と開口部261との間に配置されている。主に開口部261を通過して放射線がハウジング26の内側へ入射し、コリメータ23は、放射線の一部を遮蔽する。放射線検出素子1は、コリメータ23で遮蔽されずに入射した放射線を検出する。
【0037】
回路基板24には、回路が形成されており、プリアンプ21及び温度センサ22が実装されている。
図2では、プリアンプ21及び温度センサ22を省略している。温度センサ22は放射線検出素子1の温度を測定してもよい。回路基板24の裏面は、直接に又は介在物を介して、ペルチェ素子25の一端に熱的に接触している。ペルチェ素子25の他端はコールドフィンガ27に熱的に接触している。コールドフィンガ27は、ペルチェ素子25の他端が熱的に接触する平板状の部分と、ハウジング26の底板部を貫通している部分とを有している。
【0038】
回路基板24が熱的に接触しているペルチェ素子25の一端が吸熱端になる場合は、放射線検出素子1の熱は、回路基板24を通じてペルチェ素子25に吸熱される。ペルチェ素子25からコールドフィンガ27へ、コールドフィンガ27を通じて放射線検出器2の外部へ放熱される。このようにして、放射線検出素子1は冷却される。
【0039】
ペルチェ素子25に印加される電圧の極性が逆になった場合は、回路基板24が熱的に接触しているペルチェ素子25の一端が放熱端となる。ペルチェ素子25から回路基板24を通じて放射線検出素子1へ熱が伝わり、放射線検出素子1は加熱される。このようにしてペルチェ素子25は、加熱部として機能する。第2電圧印加部32は、制御部4に制御されてペルチェ素子25に電圧を印加する。第2電圧印加部32は、加熱部であるペルチェ素子25へ電圧を供給する電圧供給部に対応する。
【0040】
放射線検出器2は、ハウジング26の底板部を貫通した複数のリードピン28を備えている。リードピン28は、ワイヤボンディング等の方法で回路基板24に接続されている。第1電圧印加部31による放射線検出素子1への電圧の印加と、第2電圧印加部32によるペルチェ素子25への電圧の印加と、プリアンプ21からの信号の出力とはリードピン28を通じて行われる。温度センサ22は、リードピン28を介して制御部4に接続されている。なお、放射線検出器2は、その他の構成物を更に備えていてもよい。
【0041】
図3は、放射線検出素子1及びコリメータ23を示す模式的断面図である。放射線検出素子1は、シリコンドリフト型放射線検出素子である。放射線検出素子1は、Si(シリコン)からなる板状の半導体部12を備えている。放射線検出素子1は、検出対象の放射線が入射する入射側に位置する入射面11と、入射面11の裏側に位置する電極面16とを有する。入射面11の一部は、コリメータ23で覆われている。半導体部12の入射面11側にある部分には、電極層13が設けられている。
【0042】
半導体部12の電極面16側にある部分には、放射線検出時に信号を出力する電極である信号出力電極15と、平面視で多重の環状になった複数の曲線状電極14とが設けられている。複数の曲線状電極14は信号出力電極15を囲んでおり、信号出力電極15と夫々の曲線状電極14との間の距離は異なる。
図3には四つの曲線状電極14を示しているが、実際にはより多くの曲線状電極14が設けられている。最も内側の曲線状電極14と、最も外側の曲線状電極14とは、第1電圧印加部31に接続されている。また、電極層13は、第1電圧印加部31に接続されている。第1電圧印加部31から曲線状電極14及び電極層13に電圧が印加されることによって、半導体部12の内部には、信号出力電極15に近づくほど電位が高くなる電界(電位勾配)が生成される。
【0043】
放射線検出装置10が放射線検出を行う際には、減圧部54は、減圧室52の内部を減圧する。減圧室52の内部が減圧された状態で、第2電圧印加部32は、放射線検出素子1を冷却するための極性で、電圧をペルチェ素子25に印加し、ペルチェ素子25は放射線検出素子1を冷却する。放射線検出素子1が冷却された状態で、第1電圧印加部31は、放射線検出素子1に電圧を印加する。照射部37から試料6へ放射線が照射され、試料6では蛍光X線等の特性X線が発生し、放射線検出器2へ入射する。特性X線からなる放射線は、主に開口部261を通過し、放射線検出素子1へ入射する。放射線検出素子1へ入射した放射線は、半導体部12へ入射する。放射線は半導体部12内で吸収され、吸収された放射線のエネルギーに応じた量の電子及び正孔が発生する。本実施形態では、半導体部12の内部の電界によって電子が移動し、信号出力電極15へ流入する。信号出力電極15は、流入した電子に応じて電流信号を出力する。
【0044】
信号出力電極15はプリアンプ21に接続されている。信号出力電極15が出力した信号はプリアンプ21へ入力される。プリアンプ21は、電流信号を電圧信号へ変換する。プリアンプ21は信号処理部33に接続されている。プリアンプ21が信号を出力することにより、放射線検出器2は、放射線のエネルギーに応じた強度の信号を信号処理部33へ出力する。
【0045】
信号処理部33は、放射線検出器2が出力した信号を受け付け、信号の強度を検出することにより、放射線検出器2が検出した放射線のエネルギーに対応する信号値を検出する。信号処理部33は、信号値別に信号をカウントし、信号値とカウント数との関係を示すデータを分析部34へ出力する。
【0046】
分析部34は、信号処理部33が出力した信号値とカウント数との関係を示すデータを受け付ける。分析部34は、信号処理部33からのデータに基づいて、放射線検出器2へ入射した放射線のスペクトルを生成する。信号値は放射線のエネルギーに対応し、カウント数は放射線を検出した回数に対応するので、信号値とカウント数との関係から、放射線のスペクトルが得られる。スペクトルは、放射線のエネルギーと強度との関係を示す。放射線検出器2が出力した信号を信号値別にカウントする処理は、信号処理部33ではなく分析部34で行ってもよい。放射線のスペクトルの生成は信号処理部33で行われてもよい。分析部34は、放射線のスペクトルを表したスペクトルデータを記憶する。信号処理部33及び分析部34は、スペクトル生成部に対応する。
【0047】
表示部36は、放射線のスペクトルを表示する。使用者は、試料6から発生した特性X線のスペクトルを確認することができる。分析部34は、更に、放射線のスペクトルに基づいた情報処理を行ってもよい。例えば、分析部34は、試料6からの特性X線のスペクトルに基づいて、試料6に含まれる元素の定性分析又は定量分析を行う。
【0048】
図4は、制御部4の内部の構成例を示すブロック図である。制御部4は、パーソナルコンピュータ等のコンピュータを用いて構成されている。制御部4は、演算部41と、メモリ42と、読取部43と、記憶部44と、インタフェース部45とを備えている。演算部41は、例えばCPU(Central Processing Unit )、GPU(Graphics Processing Unit)、又はマルチコアCPUを用いて構成されている。演算部41は、量子コンピュータを用いて構成されていてもよい。メモリ42は、演算に伴って発生する一時的なデータを記憶する。メモリ42は、例えばRAM(Random Access Memory)である。読取部43は、光ディスク又は可搬型メモリ等の記録媒体40から情報を読み取る。記憶部44は、不揮発性であり、例えばハードディスク又は不揮発性半導体メモリである。
【0049】
演算部41は、記録媒体40に記録されたコンピュータプログラム441を読取部43に読み取らせ、読み取ったコンピュータプログラム441を記憶部44に記憶させる。演算部41は、コンピュータプログラム441に従って、制御部4に必要な処理を実行する。なお、コンピュータプログラム441は、制御部4の外部からダウンロードされてもよい。又は、コンピュータプログラム441は、記憶部44に予め記憶されていてもよい。これらの場合は、制御部4は読取部43を備えていなくてもよい。なお、制御部4は、複数のコンピュータで構成されていてもよい。或いは、制御部4及び分析部34は同一のコンピュータで構成されていてもよい。
【0050】
制御部4には、操作部35及び表示部36が接続されている。放射線検出装置10の他の部分は、インタフェース部45に接続されている。使用者は、操作部35を操作することにより、測定開始の指示等の各種の指示を制御部4へ入力する。制御部4は、操作部35を用いて入力された指示を受け付ける。表示部36は画像を表示する。制御部4は、情報を含む画像を表示部36に表示することにより、放射線検出に必要な情報を出力する。制御部4は、インタフェース部45を通じて、放射線検出装置10の各部から信号を受け付けることにより、制御に必要な情報を受け付ける。制御部4は、インタフェース部45を通じて、放射線検出装置10の各部へ制御信号を送信することにより、各部の動作を制御する。
【0051】
放射線検出装置10では、開口部261は窓材で塞がれておらず、開口部261を通過した放射線が検出される。検出される放射線は窓材を透過する必要が無いので、放射線検出装置10は、低エネルギーの放射線を検出する感度が高い。一方で、開口部261を通過して放射線検出器2の内部へ空気が侵入し、放射線検出素子1、プリアンプ21及び回路基板24等の放射線検出器2内の部品にガス又は水分が吸着し、不具合が発生する可能性がある。例えば、真空度が低い雰囲気中で放射線検出素子1を冷却した場合、又は放射線検出素子1を大気中に放置した場合には、ガス又は水分の吸着が発生することがある。
【0052】
放射線検出素子1にガス又は水分が吸着した場合は、放射線検出素子1が出力する信号に含まれるノイズが増加する。同様に、プリアンプ21又は回路基板24にガス又は水分が吸着した場合でも、出力される信号にノイズが増加する。このように、放射線検出器2内の部品にガス又は水分が吸着した場合は、放射線検出器2が出力する信号に含まれるノイズが増加し、放射線検出の精度が低下する。また、ガス又は水分の吸着は、放射線検出素子1の劣化の原因となる。このため、放射線検出器2内の部品へのガス又は水分の吸着によって、放射線検出装置10の性能が低下する虞がある。
【0053】
放射線検出装置10は、性能の低下を抑制するために、放射線検出素子1を加熱することによってガス又は水分を除去する処理を行う。放射線検出素子1を加熱することによって、放射線検出器2の内部の温度が上昇し、放射線検出素子1等の放射線検出器2内の部品に吸着していたガス又は水分は離脱し、除去される。吸着していたガス又は水分が除去されることによって、放射線検出器2が出力する信号に含まれるノイズは減少し、放射線検出の精度は向上する。放射線検出素子1を加熱することによって、放射線検出器2内の部品に吸着していたガス又は水分を除去する処理を、以下、クリーニング処理と言う。
【0054】
図5は、放射線検出装置10が行うクリーニング処理の手順の例を示すフローチャートである。以下、ステップをSと略す。演算部41がコンピュータプログラム441に従って情報処理を実行することにより、制御部4は以下の処理を実行する。第1電圧印加部31が放射線検出素子1へ電圧を印加していない状態、即ち放射線検出装置10が放射線検出を行っていない状態で、制御部4は、放射線検出素子1を加熱する指示を受け付ける(S11)。S11では、使用者が操作部35を操作することにより、演算部41は、放射線検出素子1を加熱する指示を受け付ける。
【0055】
制御部4は、次に、第2電圧印加部32に、放射線検出素子1を加熱するための電圧をペルチェ素子25へ印加させる(S12)。制御部4は、S12の処理の際に、孔部521が放射線透過膜53で封止された状態で、減圧部54に減圧室52の内部を減圧させる。S12では、減圧室52の内部が減圧された状態で、演算部41は、インタフェース部45から第2電圧印加部32へ制御信号を送信することにより、第2電圧印加部32に、電圧をペルチェ素子25へ印加させる。このとき、演算部41は、放射線検出素子1を加熱するための極性の電圧を、第2電圧印加部32に、ペルチェ素子25へ印加させる。
【0056】
制御部4は、温度センサ22からの信号をインタフェース部45で受け付け、演算部41は、温度センサ22からの信号に基づいて、放射線検出素子1の温度を計測する。S12では、演算部41は、放射線検出素子1の温度が、室温よりも高く、所定の上限温度よりも低くなるように、第2電圧印加部32を制御する。上限温度は、室温よりも高く、放射線検出素子1が損傷する可能性がある温度であり、また、それよりも低い温度では放射線検出素子1が損傷する可能性が低くなる温度である。上限温度は、放射線検出素子1の構造に応じて異なり得る。上限温度は、例えば、120℃である。
【0057】
S12では、演算部41は、温度センサ22を用いて計測した放射線検出素子1の温度に基づいて第2電圧印加部32の動作を制御することにより、放射線検出素子1の温度を制御する。第2電圧印加部32は、放射線検出素子1の温度を上限温度よりも低い80℃等の目標温度に合わせるように、温度センサ22を用いて計測した温度に基づいてフィードバック制御を行いながら、放射線検出素子1を加熱するための極性で、電圧をペルチェ素子25に印加する。例えば、第2電圧印加部32は、温度センサ22を用いて計測した温度が目標温度に近づくように、PID(Proportional Integral Differential)制御により、電圧を調整する。例えば、第2電圧印加部32は、計測した温度が目標温度を下回る状態で電圧をペルチェ素子25に印加し、計測した温度が目標温度を上回る状態で電圧の印加を停止することを繰り返してもよい。
【0058】
また、第2電圧印加部32は、放射線検出素子1を加熱するための極性では、上限温度よりも低い温度に放射線検出素子1を加熱するための電圧をペルチェ素子25に印加する。より詳しくは、第2電圧印加部32がペルチェ素子25に印加する最大電圧は、ペルチェ素子25に継続的に印加された場合に放射線検出素子1の温度が上限温度よりも低くなる電圧である。最大電圧がペルチェ素子25に印加され続け、ペルチェ素子25が放射線検出素子1を加熱し続けた場合に、放射線検出素子1の温度は、上限温度よりも低い温度を保ち続ける。例えば、最大電圧がペルチェ素子25に印加された状態で、ペルチェ素子25から放射線検出素子1へ与えられる熱量と、放射線検出素子1から放熱される熱量とが均衡する。最大電圧は、このような所定の電圧に定められている。最大電圧は、放射線検出素子1の組成若しくは構造又は放射線検出器2の構造に応じて異なり得る。例えば、上限温度及び最大電圧は、実験又は理論計算によって予め定められている。
【0059】
所定の最大電圧は予め記憶部44に記憶されており、S12では、演算部41は、最大電圧以下の電圧をペルチェ素子25に印加するように第2電圧印加部32を制御する。又は、コンピュータプログラム441によって、放射線検出素子1を加熱する際には最大電圧以下の電圧をペルチェ素子25へ印加するように第2電圧印加部32を制御するアルゴリズムが定められている。或いは、第2電圧印加部32は、放射線検出素子1を加熱するための極性では、ペルチェ素子25に印加する電圧が所定の最大電圧以下になるように、予め設定されている。例えば、第2電圧印加部32は、最大電圧を記憶したメモリを有する。
【0060】
S12では、制御部4は、温度センサ22を用いて計測した温度が目標温度である状態を所定時間保つように、放射線検出素子1の温度を制御する。ペルチェ素子25による加熱によって、放射線検出器2の内部の温度が上昇し、放射線検出素子1等の放射線検出器2内の部品に吸着していたガス又は水分は離脱し、除去される。減圧室52の内部が減圧された状態で加熱が行われるので、ガス又は水分の離脱が効率的に行われる。計測した温度が目標温度である時間の合計が所定時間に達した場合に、制御部4は、S12の処理を終了する。S12が終了した後は、制御部4は、クリーニング処理を終了する。制御部4は、クリーニング処理が終了したことを通知する画像を表示部36に表示してもよい。
【0061】
クリーニング処理では、上限温度よりも低い温度に放射線検出素子1を加熱するための電圧がペルチェ素子25に印加されるので、放射線検出装置10が放射線検出素子1を加熱しすぎることが無くなる。放射線検出素子1が損傷する温度まで放射線検出素子1の温度が上昇することが無くなり、放射線検出素子1が損傷することを抑制することができる。損傷の発生を抑制しながら放射線検出素子1を加熱することができるので、放射線検出器2内の部品に吸着したガス又は水分を除去するために、適切に放射線検出素子1を加熱することができる。このため、放射線検出装置10は、安全にクリーニング処理を行うことができる。
【0062】
また、第2電圧印加部32がペルチェ素子25に印加する最大電圧は、継続的に印加された場合に放射線検出素子1の温度が上限温度よりも低くなる電圧であるので、ペルチェ素子25に電圧が印加され続けたとしても、放射線検出素子1の温度は上限温度よりも低い。例えば、温度センサ22の不具合により、制御部4が放射線検出素子1の温度を正確に計測することができない場合であっても、過剰に加熱が行われることはなく、放射線検出素子1の温度は上限温度よりも低く保たれる。このため、放射線検出素子1が損傷する温度まで放射線検出素子1の温度が上昇することが確実に防止され、放射線検出素子1が損傷することを効果的に抑制することができる。
【0063】
放射線検出器2内の部品へのガス又は水分の吸着は、クリーニング処理が行われた後にも発生する。また、ガス又は水分の吸着は、徐々に進行する。このため、クリーニング処理は時折行われることが望ましい。
図6は、放射線検出装置10がクリーニング処理を行うタイミングを判定する処理の第1の例の手順を示すフローチャートである。
【0064】
放射線検出装置10は、放射線のスペクトルを生成する(S21)。S21では、照射部37が放射線を試料6を照射し、放射線検出器2は試料6からの放射線を検出し、信号処理部33は放射線検出器2からの信号を処理し、分析部34は放射線のスペクトルを生成する。例えば、S21では、試料6として標準試料が用いられ、標準試料からの放射線のスペクトルが生成される。
【0065】
制御部4は、生成されたスペクトルに含まれる所定のピークの幅が所定の基準幅よりも大きいか否か、又は所定のピークの強度が所定の基準値未満であるか否かを判定する(S22)。S22では、演算部41は、生成されたスペクトルに含まれる所定のピークの幅を検出し、検出した幅と所定の基準幅とを比較する。又は、演算部41は、生成されたスペクトルに含まれる所定のピークの強度を検出し、検出した強度と所定の基準値とを比較する。所定のピークは、スペクトル中で所定のエネルギーに対応する位置に存在するピークである。所定のピークの位置、基準幅、又は基準値は、予め記憶部44に記憶されている。
【0066】
放射線検出器2内の部品にガス又は水分が吸着した場合は、放射線検出器2が出力する信号に含まれるノイズが増加する。この結果、放射線のスペクトルに含まれるピークの幅は増大し、ピークの強度は低下する。ガス又は水分の吸着が吸着するほど、ピークの幅は増大し、ピークの強度は低下する。このため、スペクトル中のピークの幅又は強度に基づいて、ガス又は水分の吸着の度合いを推測することができる。
【0067】
制御部4は、生成されたスペクトルに含まれるノイズの大きさが所定の閾値以上であるか否かを判定する(S23)。S23では、演算部41は、生成されたスペクトルに含まれるノイズの大きさを計算し、計算したノイズの大きさと所定の閾値とを比較する。例えば、演算部41は、フィルタ処理によりスペクトルからノイズを抽出し、ノイズの振幅の平均をノイズの大きさとして計算する。所定の閾値は予め記憶部44に記憶されている。ガス又は水分の吸着が吸着するほど、ノイズが増加し、ノイズの大きさが増大する。このため、ノイズの大きさに基づいて、ガス又は水分の吸着の度合いを推測することができる。制御部4は、ノイズの大きさが閾値を超過するか否かを判定してもよい。
【0068】
制御部4は、ピークの幅又は強度の判定結果に基づいて、クリーニング処理を行うべきか否かを判定する(S24)。S24では、演算部41は、スペクトルに含まれる所定のピークの幅が基準幅よりも大きい場合にクリーニング処理を行うべきであると判定し、所定のピークの幅が基準幅以下である場合にクリーニング処理を行わなくてもよいと判定する。ピークの幅が基準幅よりも大きい場合は、ノイズが多く、ガス又は水分の吸着の度合いが大きいと推測されるので、クリーニング処理を行うべきであると判定される。
【0069】
又は、S24では、演算部41は、所定のピークの強度が基準値未満である場合にクリーニング処理を行うべきであると判定し、所定のピークの強度が基準値以上である場合にクリーニング処理を行わなくてもよいと判定する。ピークの強度が基準値未満である場合は、ノイズが多く、ガス又は水分の吸着の度合いが大きいと推測されるので、クリーニング処理を行うべきであると判定される。
【0070】
又は、S24では、演算部41は、ノイズの大きさが閾値以上である場合にクリーニング処理を行うべきであると判定し、ノイズの大きさが閾値未満である場合にクリーニング処理を行わなくてもよいと判定する。ノイズの大きさが閾値以上である場合は、ノイズが多く、ガス又は水分の吸着の度合いが大きいと推測されるので、クリーニング処理を行うべきであると判定される。S22~S24の処理は判定部に対応する。
【0071】
クリーニング処理を行うべきである場合は(S24:YES)、制御部4は、クリーニング処理を行うべきであることを使用者へ通知する(S25)。S25では、演算部41は、クリーニング処理を行うべきであることを使用者へ通知するための画像を表示部36に表示させることにより、通知を行う。例えば、「クリーニング処理を行って下さい」又は「放射線検出素子1を加熱して下さい」等のメッセージを含む画像が表示される。S25の処理は通知部に対応する。
【0072】
S25が終了した場合、又はクリーニング処理を行わなくてもよい場合(S24:NO)、制御部4は、クリーニング処理を行うタイミングを判定する処理を終了する。S25が実行された場合に、使用者が操作部35を操作することにより、制御部4は、放射線検出素子1を加熱する指示を受け付け、S11~S12の処理を実行する。S21~S24の処理では、スペクトルに含まれるピークの幅、ピークの強度又はノイズの大きさに基づいた判定の内、何れかを省略してもよい。
【0073】
図7は、放射線検出装置10がクリーニング処理を行うタイミングを判定する処理の第2の例の手順を示すフローチャートである。制御部4は、前回クリーニング処理を行ってから経過した経過時間が所定の基準経過時間を超過したか否かを判定する(S31)。S31では、演算部41は、経過時間を計測し、計測した経過時間と基準経過時間とを比較する。所定の基準経過時間は、予め記憶部44に記憶されている。
【0074】
放射線検出器2内の部品へのガス又は水分の吸着は徐々に進行するので、時間の経過に従って、吸着したガス又は水分は蓄積し、放射線検出器2が出力する信号に含まれるノイズはより増加する。このため、経過時間の長さに基づいて、ガス又は水分の吸着の度合いを推測することができる。
【0075】
制御部4は、経過時間の判定結果に基づいて、クリーニング処理を行うべきか否かを判定する(S32)。S32では、演算部41は、経過時間が基準経過時間を超過している場合にクリーニング処理を行うべきであると判定し、経過時間が基準経過時間以下である場合にクリーニング処理を行わなくてもよいと判定する。経過時間が基準経過時間を超過している場合は、ガス又は水分の吸着の度合いが大きいと推測されるので、クリーニング処理を行うべきであると判定される。S31及びS32の処理は判定部に対応する。
【0076】
クリーニング処理を行うべきである場合は(S32:YES)、制御部4は、クリーニング処理を行うべきであることを使用者へ通知する(S33)。S33では、演算部41は、クリーニング処理を行うべきであることを使用者へ通知するための画像を表示部36に表示させることにより、通知を行う。S33の処理は通知部に対応する。S33が終了した場合、又はクリーニング処理を行わなくてもよい場合(S32:NO)、制御部4は、クリーニング処理を行うタイミングを判定する処理を終了する。S33が実行された場合に、使用者が操作部35を操作することにより、制御部4は、放射線検出素子1を加熱する指示を受け付け、S11~S12の処理を実行する。
【0077】
図8は、放射線検出装置10がクリーニング処理を行うタイミングを判定する処理の第3の例の手順を示すフローチャートである。制御部4は、前回クリーニング処理を行ってから累積した動作時間が所定の基準動作時間を超過したか否かを判定する(S41)。動作時間は、放射線検出装置10が放射線を検出するために動作した時間である。例えば、動作時間は、放射線の検出のために第1電圧印加部31が放射線検出素子1に電圧を印加した時間である。S41では、演算部41は、前回クリーニング処理を行ってから累積した動作時間を計算し、計算した動作時間と基準動作時間とを比較する。所定の基準動作時間は、予め記憶部44に記憶されている。
【0078】
放射線検出器2内の部品へのガス又は水分の吸着は、放射線検出時に放射線検出素子1が冷却されたときに発生し易い。このため、動作時間が長くなるのに従って、吸着したガス又は水分は蓄積し、放射線検出器2が出力する信号に含まれるノイズはより増加する。従って、累積した動作時間の長さに基づいて、ガス又は水分の吸着の度合いを推測することができる。
【0079】
制御部4は、動作時間の判定結果に基づいて、クリーニング処理を行うべきか否かを判定する(S42)。S42では、演算部41は、動作時間が基準動作時間を超過している場合にクリーニング処理を行うべきであると判定し、動作時間が基準動作時間以下である場合にクリーニング処理を行わなくてもよいと判定する。動作時間が基準動作時間を超過している場合は、ガス又は水分の吸着の度合いが大きいと推測されるので、クリーニング処理を行うべきであると判定される。S41及びS42の処理は判定部に対応する。
【0080】
クリーニング処理を行うべきである場合は(S42:YES)、制御部4は、クリーニング処理を行うべきであることを使用者へ通知する(S43)。S43では、演算部41は、クリーニング処理を行うべきであることを使用者へ通知するための画像を表示部36に表示させることにより、通知を行う。S43の処理は通知部に対応する。S43が終了した場合、又はクリーニング処理を行わなくてもよい場合(S42:NO)、制御部4は、クリーニング処理を行うタイミングを判定する処理を終了する。S43が実行された場合に、使用者が操作部35を操作することにより、制御部4は、放射線検出素子1を加熱する指示を受け付け、S11~S12の処理を実行する。
【0081】
S21~S25の処理、S31~S33の処理、又はS41~S43の処理によって、放射線検出装置10は、クリーニング処理が必要になったときに、クリーニング処理を行うべきであることを使用者へ通知する。使用者は、クリーニング処理が必要になったときに、クリーニング処理を行うべきであることを通知され、適切なタイミングで、放射線検出素子1を加熱することを放射線検出装置10に指示することができる。このため、放射線検出装置10は、適切なタイミングでクリーニング処理を行い、放射線検出の精度を保つことができる。また、ガス又は水分の吸着を原因とした放射線検出素子1の劣化を抑制することができる。
【0082】
また、S21~S25の処理では、放射線のスペクトルに基づいてクリーニング処理を行うべきか否かを判定するので、放射線検出装置10は、S21~S25の処理を実行することによって、時間経過によらず、放射線検出器2の状態に応じた判定を行うことができる。例えば、放射線検出装置10は、水分を多く含む試料6を用いた放射線検出を行った場合等、放射線の検出性能が低下したタイミングで、適切にクリーニング処理を行うべきであることを使用者へ通知することができる。なお、S22~S25の処理、S31~S33の処理、又はS41~S43の処理の一部又は全部は、分析部34が実行してもよい。
【0083】
本実施形態では、ペルチェ素子25が加熱部として機能する形態を示したが、放射線検出装置10は、加熱部としてヒータを備える形態であってもよい。この形態では、放射線検出器2の内部に、ペルチェ素子25とは別にヒータが設けられている。ヒータは、第2電圧印加部32に接続されており、第2電圧印加部32から電圧を印加されて発熱する。S12の処理では、制御部4は、第2電圧印加部32に、放射線検出素子1を加熱するための電圧をヒータへ印加させる。ヒータは発熱し、放射線検出素子1を加熱する。このとき、第2電圧印加部32は、放射線検出素子1の温度が所定の上限温度よりも低くなるように、ヒータに電圧を印加する。この形態でも、放射線検出装置10は、損傷の発生を抑制しながら放射線検出素子1を加熱し、放射線検出器2内の部品に吸着したガス又は水分を除去することができる。
【0084】
本実施形態においては、放射線検出素子1を構成する半導体がSiである形態を示したが、放射線検出素子1はSi以外の半導体で構成された形態であってもよい。本実施形態においては、放射線検出素子1がシリコンドリフト型放射線検出素子である形態を示したが、放射線検出素子1は、シリコンドリフト型放射線検出素子以外の半導体製の素子であってもよい。このため、放射線検出器2は、SDD以外の放射線検出器であってもよい。本実施形態においては、試料6が減圧室52の外部に配置される形態を示したが、放射線検出装置10は、試料6が減圧室52の内部に配置される形態であってもよい。
【0085】
本実施形態においては、放射線検出装置10が第1電圧印加部31と第2電圧印加部32とを個別に備える形態を示したが、第1電圧印加部31及び第2電圧印加部32は一体に構成されていてもよい。本実施形態においては、放射線検出器2がコリメータ23を備える形態を示したが、放射線検出器2はコリメータ23を備えていない形態であってもよい。放射線検出器2は、開口部261が設けられておらず、窓材を有する窓を備え、窓を透過した放射線を検出する形態であってもよい。本実施形態においては、放射線検出素子1がハウジング26に収容されている形態を示したが、放射線検出器2は、ハウジング26を備えていない形態であってもよい。本実施形態においては、放射線検出装置10が照射部37を備えている形態を示したが、放射線検出装置10は、照射部37を備えていない形態であってもよい。本実施形態においては、放射線として試料6からの特性X線を検出する形態を示したが、放射線検出装置10は、X線以外の放射線を検出する形態であってもよい。又は、放射線検出装置10は、半導体製の素子以外の放射線検出素子1を用いる形態であってもよい。
【0086】
本発明は上述した実施の形態の内容に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。即ち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0087】
各実施形態に記載した事項は相互に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した独立請求項及び従属請求項は、引用形式に関わらず全てのあらゆる組み合わせにおいて、相互に組み合わせることが可能である。さらに、特許請求の範囲には他の2以上のクレームを引用するクレームを記載する形式(マルチクレーム形式)を用いているが、これに限るものではない。マルチクレームを少なくとも一つ引用するマルチクレーム(マルチマルチクレーム)を記載する形式を用いて記載してもよい。
【符号の説明】
【0088】
1 放射線検出素子
10 放射線検出装置
2 放射線検出器
25 ペルチェ素子(加熱部)
26 ハウジング
261 開口部
31 第1電圧印加部
32 第2電圧印加部
4 制御部
441 コンピュータプログラム
52 減圧室
521 孔部(通過部)
54 減圧部
6 試料