(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036971
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】放射線検出装置、制御方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 23/223 20060101AFI20240311BHJP
G01N 23/2252 20180101ALI20240311BHJP
G01T 7/00 20060101ALI20240311BHJP
G01T 1/24 20060101ALN20240311BHJP
【FI】
G01N23/223
G01N23/2252
G01T7/00 A
G01T1/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141556
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】松永 大輔
(72)【発明者】
【氏名】青山 朋樹
(72)【発明者】
【氏名】上野 楠夫
(72)【発明者】
【氏名】村田 駿介
【テーマコード(参考)】
2G001
2G188
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001AA03
2G001BA04
2G001BA05
2G001CA01
2G001DA01
2G001EA03
2G001JA06
2G001JA14
2G188AA27
2G188BB03
2G188CC28
2G188DD13
2G188DD16
(57)【要約】
【課題】ガスセンサを使用せずにガスの充填の程度を判定できる放射線検出装置、制御方法及びコンピュータプログラムを提供する。
【解決手段】放射線検出装置は、内部に試料が配置される試料室と、試料室の内部へ所定のガスを供給するガス供給部と、試料室内に配置されている放射線検出素子と、放射線検出素子の温度を測定するための温度センサと、放射線検出素子の温度を調整する温度調整部と、温度調整部を動作させるための電圧又は電流を温度調整部へ供給する電力供給部と、温度センサを用いて測定された放射線検出素子の温度に基づいて、電力供給部から温度調整部へ供給される電圧又は電流を、制御することにより、放射線検出素子の温度を制御する温度制御部と、温度制御部が放射線検出素子の温度を制御している状態で、電力供給部が温度調整部へ供給する電圧又は電流の値に基づいて、試料室内にガスが充填された程度を判定する判定部とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に試料が配置される試料室と、
前記試料室の内部へ所定のガスを供給するガス供給部と、
前記試料室内に配置されている放射線検出素子と、
前記放射線検出素子の温度を測定するための温度センサと、
前記放射線検出素子の温度を調整する温度調整部と、
前記温度調整部を動作させるための電圧又は電流を前記温度調整部へ供給する電力供給部と、
前記温度センサを用いて測定された前記放射線検出素子の温度に基づいて、前記電力供給部から前記温度調整部へ供給される電圧又は電流を、制御することにより、前記放射線検出素子の温度を制御する温度制御部と、
前記温度制御部が前記放射線検出素子の温度を制御している状態で、前記電力供給部が前記温度調整部へ供給する電圧又は電流の値に基づいて、前記試料室内に前記ガスが充填された程度を判定する判定部と
を備えることを特徴とする放射線検出装置。
【請求項2】
前記ガスの熱伝導率は、大気の熱伝導率よりも高く、
前記温度制御部は、前記放射線検出素子の温度が室温よりも高い又は低い一定温度になるように、前記放射線検出素子の温度を制御し、
前記判定部は、前記電力供給部が前記温度調整部へ供給する電圧又は電流の絶対値が所定の第1閾値まで上昇した場合に、前記試料室内に前記ガスが十分に充填されたと判定し、
前記試料室内に前記ガスが十分に充填されたと前記判定部が判定した場合に、前記温度制御部は、前記放射線検出素子を冷却する
ことを特徴とする請求項1に記載の放射線検出装置。
【請求項3】
前記試料室の内部を減圧する減圧部を更に備え、
前記ガスの熱伝導率は、大気の熱伝導率よりも高く、
前記温度制御部は、前記減圧部が前記試料室の内部の減圧を開始した後に、前記放射線検出素子を冷却し、前記放射線検出素子の温度が室温よりも低い一定温度になるように、前記放射線検出素子の温度を制御し、
前記減圧部は、前記温度制御部が前記放射線検出素子の冷却を開始した後に、前記試料室の内部の減圧を停止し、
前記ガス供給部は、前記減圧部が前記試料室の内部の減圧を停止した後に、前記ガスの供給を開始し、
前記判定部は、前記電力供給部が前記温度調整部へ供給する電圧又は電流の絶対値が所定の第1閾値まで上昇した場合に、前記試料室内に前記ガスが十分に充填されたと判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の放射線検出装置。
【請求項4】
前記ガス供給部は、前記放射線検出素子の温度が前記一定温度になるように前記温度制御部が前記放射線検出素子の温度の制御を開始した後に、前記ガスの供給を開始する
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の放射線検出装置。
【請求項5】
前記温度制御部は、前記放射線検出素子を冷却している状態で、前記電力供給部が前記温度調整部へ供給する電圧又は電流の絶対値が所定の第2閾値まで低下した場合に、前記放射線検出素子の冷却を停止する
ことを特徴とする請求項2乃至4の何れか一つに記載の放射線検出装置。
【請求項6】
前記温度制御部は、前記放射線検出素子の冷却を停止し、前記放射線検出素子の温度が室温よりも高い温度になるように、前記放射線検出素子を加熱し、
前記ガス供給部は、前記温度制御部が前記放射線検出素子を加熱した後で、前記ガスの供給を停止する
ことを特徴とする請求項2乃至5の何れか一つに記載の放射線検出装置。
【請求項7】
内部に試料が配置される試料室と、前記試料室の内部へ所定のガスを供給するガス供給部と、前記試料室内に配置されている放射線検出素子と、前記放射線検出素子の温度を測定するための温度センサと、前記放射線検出素子の温度を調整する温度調整部と、前記温度調整部を動作させるための電圧又は電流を前記温度調整部へ供給する電力供給部とを備える放射線検出装置を制御する方法であって、
前記温度センサを用いて測定された前記放射線検出素子の温度に基づいて、前記電力供給部から前記温度調整部へ供給される電圧又は電流を、制御することにより、前記放射線検出素子の温度を制御し、
前記放射線検出素子の温度を制御している状態で、前記電力供給部が前記温度調整部へ供給する電圧又は電流の値に基づいて、前記試料室内に前記ガスが充填された程度を判定する
ことを特徴とする制御方法。
【請求項8】
内部に試料が配置される試料室と、前記試料室の内部へ所定のガスを供給するガス供給部と、前記試料室内に配置されている放射線検出素子と、前記放射線検出素子の温度を測定するための温度センサと、前記放射線検出素子の温度を調整する温度調整部と、前記温度調整部を動作させるための電圧又は電流を前記温度調整部へ供給する電力供給部とを備える放射線検出装置を制御するコンピュータに、
前記温度センサを用いて測定された前記放射線検出素子の温度に基づいて、前記電力供給部から前記温度調整部へ供給される電圧又は電流を、制御することにより、前記放射線検出素子の温度を制御し、
前記放射線検出素子の温度を制御している状態で、前記電力供給部が前記温度調整部へ供給する電圧又は電流の値に基づいて、前記試料室内に前記ガスが充填された程度を判定する
処理を実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料からの放射線を検出するための放射線検出装置、制御方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
試料から発生する放射線を検出する放射線検出は、検出感度を向上させるために、減圧された雰囲気中で行われることが多い。特許文献1には、放射線検出器の内部を真空にした放射線検出装置が開示されている。試料には、減圧された雰囲気中では破裂するもの等、減圧された雰囲気中に配置できないものがある。このような試料についても高感度の放射線検出を可能にするために、He(ヘリウム)等の所定のガスが充填された試料室内で放射線検出が行われることがある。試料室が所定のガスで充填されたことを確かめるためには、ガスの濃度を測定するためのガスセンサが用いられることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
所定のガスが充填された試料室内で放射線検出を行うためには、放射線検出器の付近でガスの濃度が高いことが必要である。しかし、放射線検出装置では、放射線検出器の付近にはスペースが少なく、ガスセンサを配置することが困難である。また、ガスセンサは真空中で動作できないことがある。減圧をも行う放射線検出装置では、気圧の高低とガスセンサの動作とを同期させることを行う。或いは、ガスセンサが試料及び放射線検出器から隔離されており、ガスセンサの使用時には、ポンプを用いてガスをガスセンサまで引き込むことが行われる。このように、ガスセンサの利用は容易ではない。
【0005】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、ガスセンサを使用せずにガスの充填の程度を判定できる放射線検出装置、制御方法及びコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係る放射線検出装置は、内部に試料が配置される試料室と、前記試料室の内部へ所定のガスを供給するガス供給部と、前記試料室内に配置されている放射線検出素子と、前記放射線検出素子の温度を測定するための温度センサと、前記放射線検出素子の温度を調整する温度調整部と、前記温度調整部を動作させるための電圧又は電流を前記温度調整部へ供給する電力供給部と、前記温度センサを用いて測定された前記放射線検出素子の温度に基づいて、前記電力供給部から前記温度調整部へ供給される電圧又は電流を、制御することにより、前記放射線検出素子の温度を制御する温度制御部と、前記温度制御部が前記放射線検出素子の温度を制御している状態で、前記電力供給部が前記温度調整部へ供給する電圧又は電流の値に基づいて、前記試料室内に前記ガスが充填された程度を判定する判定部とを備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の一形態においては、放射線検出装置は、放射線検出素子の温度を調整するペルチェ素子等の温度調整部へ供給する電圧又は電流の値に基づいて、試料室内に所定のガスが充填された程度を判定する。大気とガスとでは、熱伝導率が異なる。放射線検出素子の周囲にガスがある状態では、放射線検出素子の周囲に大気がある状態に比べて、放射線検出素子での放熱又は吸熱の効率が異なる。放射線検出素子の周囲にガスがある状態では、放射線検出素子の温度を制御するために、温度調整部から放射線検出素子への放熱量又は放射線検出素子から温度調整部への吸熱量を変更する必要がある。このため、試料室内にガスが充填された程度に応じて、温度調整部へ供給される電圧又は電流の値が変化する。従って、放射線検出装置は、温度調整部へ供給する電圧又は電流の値に基づいて、試料室内にガスが充填された程度を判定することができる。
【0008】
本発明の一形態に係る放射線検出装置では、前記ガスの熱伝導率は、大気の熱伝導率よりも高く、前記温度制御部は、前記放射線検出素子の温度が室温よりも高い又は低い一定温度になるように、前記放射線検出素子の温度を制御し、前記判定部は、前記電力供給部が前記温度調整部へ供給する電圧又は電流の絶対値が所定の第1閾値まで上昇した場合に、前記試料室内に前記ガスが十分に充填されたと判定し、前記試料室内に前記ガスが十分に充填されたと前記判定部が判定した場合に、前記温度制御部は、前記放射線検出素子を冷却することを特徴とする。
【0009】
本発明の一形態においては、ガスの熱伝導率は大気の熱伝導率よりも高く、放射線検出装置は、放射線検出素子の温度を一定の温度に保ちながら試料室内へガスを供給する。試料室内のガスが増加するに従って、放射線検出素子での放熱又は吸熱の効率が高くなり、温度調整部による放熱量又は吸熱量を大きくする必要があり、温度調整部へ供給される電圧又は電流の絶対値が上昇する。このため、放射線検出装置は、温度調整部へ供給する電圧又は電流の絶対値が所定の第1閾値まで上昇した場合に、試料室内にガスが十分に充填されたと判定することができる。放射線検出装置は、試料室内にガスが十分に充填されたと判定した場合に、放射線検出素子を冷却する。このため、放射線検出素子等の部品にガス又は水分が吸着することが抑制される。
【0010】
本発明の一形態に係る放射線検出装置は、前記試料室の内部を減圧する減圧部を更に備え、前記ガスの熱伝導率は、大気の熱伝導率よりも高く、前記温度制御部は、前記減圧部が前記試料室の内部の減圧を開始した後に、前記放射線検出素子の温度が室温よりも低い一定温度になるように、前記放射線検出素子を冷却し、前記減圧部は、前記温度制御部が前記放射線検出素子の冷却を開始した後に、前記試料室の内部の減圧を停止し、前記ガス供給部は、前記減圧部が前記試料室の内部の減圧を停止した後に、前記ガスの供給を開始し、前記判定部は、前記電力供給部が前記温度調整部へ供給する電圧又は電流の絶対値が所定の第1閾値まで上昇した場合に、前記試料室内に前記ガスが十分に充填されたと判定することを特徴とする。
【0011】
本発明の一形態においては、ガスの熱伝導率は大気の熱伝導率よりも高く、放射線検出装置は、試料室内を減圧した状態で放射線検出素子を冷却し、その後、減圧を停止し、放射線検出素子の温度を一定の動作温度に保ちながら試料室内へガスを供給する。試料室内のガスが増加するに従って、温度調整部による放熱量又は吸熱量を大きくする必要があり、温度調整部へ供給される電圧又は電流の絶対値が上昇する。このため、放射線検出装置は、温度調整部へ供給する電圧又は電流の絶対値が所定の第1閾値まで上昇した場合に、試料室内にガスが十分に充填されたと判定することができる。放射線検出装置は、試料室内が減圧された状態で放射線検出素子を冷却するので、放射線検出素子等の部品にガス又は水分が吸着することが抑制される。
【0012】
本発明の一形態に係る放射線検出装置では、前記ガス供給部は、前記放射線検出素子の温度が前記一定温度になるように前記温度制御部が前記放射線検出素子の温度の制御を開始した後に、前記ガスの供給を開始することを特徴とする。
【0013】
本発明の一形態においては、放射線検出装置は、放射線検出素子の温度が一定の温度になるように温度制御を開始した後に、試料室内へのガスの供給を開始する。これにより、放射線検出装置は、放射線検出素子の温度を一定温度に保ちながら試料室内へガスを供給することとなり、温度調整部へ供給する電圧又は電流に応じてガスの充填の度合いを判定することができるようになる。
【0014】
本発明の一形態に係る放射線検出装置では、前記温度制御部は、前記放射線検出素子を冷却している状態で、前記電力供給部が前記温度調整部へ供給する電圧又は電流の絶対値が所定の第2閾値まで低下した場合に、前記放射線検出素子の冷却を停止することを特徴とする。
【0015】
本発明の一形態においては、放射線検出装置は、放射線検出素子を冷却している状態で、温度調整部へ供給する電圧又は電流の絶対値が所定の第2閾値まで低下した場合に、放射線検出素子の冷却を停止する。冷却中に試料室内へ大気が侵入した場合、周囲から放射線検出素子へ熱が流入する効率が低下し、温度調整部による必要な吸熱量が減少し、温度調整部へ供給される電圧又は電流の絶対値は低下する。温度調整部へ供給される電圧又は電流の絶対値が第2閾値まで低下した場合は、試料室内へ大気が侵入した可能性があり、放射線検出素子等の部品にガス又は水分が吸着する可能性がある。放射線検出装置は、温度調整部へ供給する電圧又は電流の絶対値が第2閾値まで低下した場合に冷却を停止することにより、部品にガス又は水分が吸着することを抑制する。
【0016】
本発明の一形態に係る放射線検出装置では、前記温度制御部は、前記放射線検出素子の冷却を停止し、前記放射線検出素子の温度が室温よりも高い温度になるように、前記放射線検出素子を加熱し、前記ガス供給部は、前記温度制御部が前記放射線検出素子を加熱した後で、前記ガスの供給を停止することを特徴とする。
【0017】
本発明の一形態においては、放射線検出装置は、放射線検出素子の冷却を停止し、室温よりも高い温度まで放射線検出素子を加熱し、その後、試料室内へのガスの供給を停止する。単に放射線検出素子の冷却を停止するだけの場合に比べて、放射線検出素子の温度の上昇が速くなる。放射線検出素子の温度が、ガス又は水分が吸着することのない温度になるまで、放射線検出装置は、Heの供給を停止することはできない。放射線検出素子の温度の上昇が速くなることによって、Heの供給を停止するまでの時間を短縮することができる。
【0018】
本発明の一形態に係る制御方法は、内部に試料が配置される試料室と、前記試料室の内部へ所定のガスを供給するガス供給部と、前記試料室内に配置されている放射線検出素子と、前記放射線検出素子の温度を測定するための温度センサと、前記放射線検出素子の温度を調整する温度調整部と、前記温度調整部を動作させるための電圧又は電流を前記温度調整部へ供給する電力供給部とを備える放射線検出装置を制御する方法であって、前記温度センサを用いて測定された前記放射線検出素子の温度に基づいて、前記電力供給部から前記温度調整部へ供給される電圧又は電流を、制御することにより、前記放射線検出素子の温度を制御し、前記放射線検出素子の温度を制御している状態で、前記電力供給部が前記温度調整部へ供給する電圧又は電流の値に基づいて、前記試料室内に前記ガスが充填された程度を判定することを特徴とする。
【0019】
本発明の一形態に係るコンピュータプログラムは、内部に試料が配置される試料室と、前記試料室の内部へ所定のガスを供給するガス供給部と、前記試料室内に配置されている放射線検出素子と、前記放射線検出素子の温度を測定するための温度センサと、前記放射線検出素子の温度を調整する温度調整部と、前記温度調整部を動作させるための電圧又は電流を前記温度調整部へ供給する電力供給部とを備える放射線検出装置を制御するコンピュータに、前記温度センサを用いて測定された前記放射線検出素子の温度に基づいて、前記電力供給部から前記温度調整部へ供給される電圧又は電流を、制御することにより、前記放射線検出素子の温度を制御し、前記放射線検出素子の温度を制御している状態で、前記電力供給部が前記温度調整部へ供給する電圧又は電流の値に基づいて、前記試料室内に前記ガスが充填された程度を判定する処理を実行させることを特徴とする。
【0020】
本発明の一形態においては、温度調整部へ供給される電圧又は電流の値に基づいて、試料室内に所定のガスが充填された程度が判定される。放射線検出素子の周囲にガスがある状態では、放射線検出素子の温度を制御するために、温度調整部による放熱量又は吸熱量を変更する必要があり、試料室内にガスが充填された程度に応じて、温度調整部へ供給される電圧又は電流の値が変化する。従って、温度調整部へ供給される電圧又は電流の値に基づいて、試料室内にガスが充填された程度が判定され得る。
【発明の効果】
【0021】
本発明にあっては、ガスセンサを用いることなく、試料室内にガスが充填された程度を判定することが可能となる。ガスセンサを試料室内に配置する必要が無く、放射線検出装置の部品を試料室内に配置することが容易となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】放射線検出装置の機能構成例を示すブロック図である。
【
図2】放射線検出器の構成を示す模式的断面図である。
【
図3】放射線検出素子及びコリメータを示す模式的断面図である。
【
図4】制御部の内部の構成例を示すブロック図である。
【
図5】実施形態1に係る放射線検出装置が実行する処理の第1例の手順を示すフローチャートである。
【
図6】実施形態1に係る放射線検出装置が行う処理の第1例に伴った、放射線検出素子の温度及びペルチェ素子に供給される電圧の時間変化を示す模式的グラフである。
【
図7】実施形態1に係る放射線検出装置が実行する処理の第2例の手順を示すフローチャートである。
【
図8】実施形態1に係る放射線検出装置が行う処理の第2例に伴った、放射線検出素子の温度及びペルチェ素子に供給される電圧の時間変化を示す模式的グラフである。
【
図9】実施形態2に係る放射線検出装置の機能構成例を示すブロック図である。
【
図10】実施形態2に係る放射線検出装置が実行する処理の手順の例を示すフローチャートである。
【
図11】実施形態2に係る放射線検出装置が行う処理に伴った、放射線検出素子の温度及びペルチェ素子に供給される電圧の時間変化を示す模式的グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
<実施形態1>
図1は、放射線検出装置100の機能構成例を示すブロック図である。放射線検出装置100は、例えば蛍光X線分析装置である。放射線検出装置100は、試料6が載置される試料台51と、試料6に電子線又はX線等の放射線を照射する照射部52と、放射線検出器2とを備えている。照射部52から試料6へ放射線が照射され、試料6では蛍光X線等の特性X線が発生し、放射線検出器2は試料6から発生した特性X線を検出する。図中には、放射線及び特性X線を矢印で示している。なお、放射線検出装置100は、試料台51に載置させる方法以外の方法で試料6を保持する形態であってもよい。放射線検出装置100は、放射線を導くための図示しない光学系を試料室5内に備えていてもよい。
【0024】
放射線検出装置100は、試料室5を備えている。試料室5は、箱状であり、開閉可能な蓋部50を有する。蓋部50が閉鎖されることにより、試料室5は密閉される。試料室5の内部には、試料台51と、放射線検出器2とが配置されている。試料台51に試料6が載置されることによって、試料室5の内部に試料6が配置される。照射部52は、試料室5の外部から、試料室5の内部に配置された試料6へ放射線を照射する形態であってもよい。
【0025】
放射線検出器2には、放射線検出素子1、及びプリアンプ21が含まれている。プリアンプ21は、一部が放射線検出器2の内部に含まれ他の部分が放射線検出器2の外部に配置されていてもよい。放射線検出器2には、放射線検出素子1に放射線検出のために必要な電圧を印加する電圧印加部31と、放射線検出器2に含まれる後述するペルチェ素子へ電流及び電圧を供給する電力供給部32と、信号処理部33とが接続されている。また、電圧印加部31は、プリアンプ21が動作するために必要な電圧を、プリアンプ21に印加する。信号処理部33には、分析部34が接続されている。分析部34はコンピュータを用いて構成されている。
【0026】
放射線検出装置100は、制御部4を備えている。制御部4には、照射部52、放射線検出器2、電圧印加部31、電力供給部32、信号処理部33及び分析部34が接続されている。制御部4は、照射部52、放射線検出器2、電圧印加部31、電力供給部32、信号処理部33及び分析部34の動作を制御する。制御部4及び分析部34には、操作部35及び表示部36が接続されている。操作部35は、使用者からの操作を受け付けることにより、テキスト等の情報の入力を受け付ける。操作部35は、例えばタッチパネル、キーボード又はポインティングデバイスである。表示部36は、画像を表示する。表示部36は、例えば、液晶ディスプレイ又はELディスプレイ(Electroluminescent Display)である。
【0027】
試料室5には、試料室5の内部へガス状のHeを供給するガス供給部53が連結されている。ガス供給部53は試料室5の内部へHeを供給し、大気はHeによって押し出されて試料室5から排出され、Heが試料室5内に充填される。例えば、試料室5には、大気が排出されるための排出孔又は圧力弁が設けられている。大気は試料室5と蓋部50との間の隙間から排出されてもよい。蓋部50が開いた状態でHeが供給され、大気が排出されてもよい。ガス供給部53は、例えば、Heが貯留されたガスタンクと、電磁弁とを用いて構成されている。ガス供給部53は、制御部4に接続されている。制御部4は、ガス供給部53の動作を制御する。
【0028】
図2は、放射線検出器2の構成を示す模式的断面図である。放射線検出器2は、SDD(Silicon Drift Detector)である。放射線検出器2は、円筒の一端に切頭錐体が連結した形状のハウジング26を備えている。ハウジング26は、板状の底板部にキャップ状のカバーが被さって構成されている。ハウジング26の先端には、開口部261が形成されている。開口部261には窓材を有する窓は設けられておらず、開口部261は塞がれていない。ハウジング26の内側には、放射線検出素子1、コリメータ23、回路基板24、ペルチェ素子25及びコールドフィンガ27が配置されている。ハウジング26は、放射線検出素子1、コリメータ23、回路基板24及びペルチェ素子25を収容している。
【0029】
ペルチェ素子25は、電力供給部32に接続されており、電力供給部32から電圧及び電流を供給される。ペルチェ素子25は、電圧を供給されることによって、一端と他端との間に温度差を発生させる。一端は熱を吸収する吸熱端となり、他端は熱を放出する放熱端となる。ペルチェ素子25へ供給される電圧の極性及び電流の方向が逆になった場合は、吸熱端と放熱端との位置は入れ替わる。ペルチェ素子25は温度調整部に対応する。
【0030】
放射線検出素子1は、回路基板24の表面に実装されており、開口部261に対向する位置に配置されている。コリメータ23は、放射線検出素子1と開口部261との間に配置されている。主に開口部261を通過して放射線がハウジング26の内側へ入射し、コリメータ23は、放射線の一部を遮蔽する。放射線検出素子1は、コリメータ23で遮蔽されずに入射した放射線を検出する。
【0031】
回路基板24には、回路が形成されており、プリアンプ21及び温度センサ22が実装されている。例えば、温度センサ22はサーミスタ又は熱電対を用いて構成されている。温度センサ22は、放射線検出器2の内部の温度を測定する。温度センサ22は制御部4に接続されている。温度センサ22が放射線検出器2の内部の温度を測定することによって、放射線検出素子1の温度が測定される。回路基板24の裏面は、直接に又は介在物を介して、ペルチェ素子25の一端に熱的に接触している。回路基板24とペルチェ素子25との間には、ペルチェ素子25から発生した放射線を遮蔽するシールドプレートが配置されていてもよい。ペルチェ素子25の他端はコールドフィンガ27に熱的に接触している。コールドフィンガ27は、ペルチェ素子25の他端が熱的に接触する平板状の部分と、ハウジング26の底板部を貫通している部分とを有している。
【0032】
回路基板24が熱的に接触しているペルチェ素子25の一端が吸熱端になる場合は、放射線検出素子1の熱は、回路基板24を通じてペルチェ素子25に吸熱される。ペルチェ素子25からコールドフィンガ27へ、コールドフィンガ27を通じて放射線検出器2の外部へ放熱される。このようにして、ペルチェ素子25は放射線検出素子1を冷却する。
【0033】
ペルチェ素子25へ供給される電圧の極性及び電流の方向が逆になった場合は、回路基板24が熱的に接触しているペルチェ素子25の一端が放熱端となる。ペルチェ素子25が放熱した熱は回路基板24を通じて放射線検出素子1へ伝わり、放射線検出素子1は加熱される。このようにしてペルチェ素子25は、放射線検出素子1を加熱する。電力供給部32は、制御部4に制御されてペルチェ素子25へ電圧及び電流を供給する。
【0034】
放射線検出器2は、ハウジング26の底板部を貫通した複数のリードピン28を備えている。リードピン28は、ワイヤボンディング等の方法で回路基板24に接続されている。電圧印加部31による放射線検出素子1への電圧の印加と、電力供給部32によるペルチェ素子25への電圧及び電流の供給と、プリアンプ21からの信号の出力とはリードピン28を通じて行われる。温度センサ22は、リードピン28を介して制御部4に接続されている。なお、放射線検出器2は、その他の構成物を更に備えていてもよい。
【0035】
図3は、放射線検出素子1及びコリメータ23を示す模式的断面図である。放射線検出素子1は、シリコンドリフト型放射線検出素子である。放射線検出素子1は、Si(シリコン)からなる板状の半導体部12を備えている。放射線検出素子1は、検出対象の放射線が入射する入射側に位置する入射面11と、入射面11の裏側に位置する電極面16とを有する。入射面11の一部は、コリメータ23で覆われている。半導体部12の入射面11側にある部分には、電極層13が設けられている。
【0036】
半導体部12の電極面16側にある部分には、放射線検出時に信号を出力する電極である信号出力電極15と、平面視で多重の環状になった複数の曲線状電極14とが設けられている。複数の曲線状電極14は信号出力電極15を囲んでおり、信号出力電極15と夫々の曲線状電極14との間の距離は異なる。
図3には四つの曲線状電極14を示しているが、実際にはより多くの曲線状電極14が設けられている。最も内側の曲線状電極14と、最も外側の曲線状電極14とは、電圧印加部31に接続されている。また、電極層13は、電圧印加部31に接続されている。電圧印加部31から曲線状電極14及び電極層13に電圧が印加されることによって、半導体部12の内部には、信号出力電極15に近づくほど電位が高くなる電界(電位勾配)が生成される。
【0037】
照射部52から試料6へ放射線が照射され、試料6では蛍光X線等の特性X線が発生し、放射線検出器2へ入射し、放射線検出素子1へ入射する。放射線検出素子1へ入射した放射線は、半導体部12へ入射する。放射線は半導体部12内で吸収され、吸収された放射線のエネルギーに応じた量の電子及び正孔が発生する。本実施形態では、半導体部12の内部の電界によって電子が移動し、信号出力電極15へ流入する。信号出力電極15は、流入した電子に応じて電流信号を出力する。
【0038】
信号出力電極15はプリアンプ21に接続されている。信号出力電極15が出力した信号はプリアンプ21へ入力される。プリアンプ21は、電流信号を電圧信号へ変換する。プリアンプ21は信号処理部33に接続されている。プリアンプ21が信号を出力することにより、放射線検出器2は、放射線のエネルギーに応じた強度の信号を信号処理部33へ出力する。
【0039】
信号処理部33は、放射線検出器2が出力した信号を受け付け、信号の強度を検出することにより、放射線検出器2が検出した放射線のエネルギーに対応する信号値を検出する。信号処理部33は、信号値別に信号をカウントし、信号値とカウント数との関係を示すデータを分析部34へ出力する。
【0040】
分析部34は、信号処理部33が出力した信号値とカウント数との関係を示すデータを受け付ける。分析部34は、信号処理部33からのデータに基づいて、放射線検出器2へ入射した放射線のスペクトルを生成する。信号値は放射線のエネルギーに対応し、カウント数は放射線を検出した回数に対応するので、信号値とカウント数との関係から、放射線のスペクトルが得られる。スペクトルは、放射線のエネルギーと強度との関係を示す。放射線検出器2が出力した信号を信号値別にカウントする処理は、信号処理部33ではなく分析部34で行ってもよい。放射線のスペクトルの生成は信号処理部33で行われてもよい。分析部34は、放射線のスペクトルを表したスペクトルデータを記憶する。
【0041】
表示部36は、放射線のスペクトルを表示する。使用者は、試料6から発生した特性X線のスペクトルを確認することができる。分析部34は、更に、放射線のスペクトルに基づいた情報処理を行ってもよい。例えば、分析部34は、試料6からの特性X線のスペクトルに基づいて、試料6に含まれる元素の定性分析又は定量分析を行う。
【0042】
図4は、制御部4の内部の構成例を示すブロック図である。制御部4は、パーソナルコンピュータ等のコンピュータを用いて構成されている。制御部4は、演算部41と、メモリ42と、読取部43と、記憶部44と、インタフェース部45とを備えている。演算部41は、例えばCPU(Central Processing Unit )、GPU(Graphics Processing Unit)、又はマルチコアCPUを用いて構成されている。演算部41は、量子コンピュータを用いて構成されていてもよい。メモリ42は、演算に伴って発生する一時的なデータを記憶する。メモリ42は、例えばRAM(Random Access Memory)である。読取部43は、光ディスク又は可搬型メモリ等の記録媒体40から情報を読み取る。記憶部44は、不揮発性であり、例えばハードディスク又は不揮発性半導体メモリである。
【0043】
演算部41は、記録媒体40に記録されたコンピュータプログラム441を読取部43に読み取らせ、読み取ったコンピュータプログラム441を記憶部44に記憶させる。演算部41は、コンピュータプログラム441に従って、制御部4に必要な処理を実行する。なお、コンピュータプログラム441は、制御部4の外部からダウンロードされてもよい。又は、コンピュータプログラム441は、記憶部44に予め記憶されていてもよい。これらの場合は、制御部4は読取部43を備えていなくてもよい。なお、制御部4は、複数のコンピュータで構成されていてもよい。或いは、制御部4及び分析部34は同一のコンピュータで構成されていてもよい。
【0044】
制御部4には、操作部35及び表示部36が接続されている。放射線検出装置100の他の部分は、インタフェース部45に接続されている。使用者は、操作部35を操作することにより、測定開始の指示等の各種の指示を制御部4へ入力する。制御部4は、操作部35を用いて入力された指示を受け付ける。表示部36は画像を表示する。制御部4は、情報を含む画像を表示部36に表示することにより、放射線検出に必要な情報を出力する。制御部4は、インタフェース部45を通じて、放射線検出装置100の各部から信号を受け付けることにより、制御に必要な情報を受け付ける。制御部4は、インタフェース部45を通じて、放射線検出装置100の各部へ制御信号を送信することにより、各部の動作を制御する。
【0045】
放射線検出装置100では、開口部261は窓材で塞がれておらず、開口部261を通過した放射線が検出される。検出される放射線は窓材を透過する必要が無いので、放射線検出装置100は、低エネルギーの放射線を検出する感度が高い。また、放射線検出装置100は、放射線の検出感度を向上させるために、ペルチェ素子25により放射線検出素子1を冷却した状態で放射線検出を行う。試料室5内に大気が残留している状態で放射線検出素子1を冷却した場合は、開口部261を通過して放射線検出器2の内部へ大気が侵入し、放射線検出素子1、プリアンプ21及び回路基板24等の放射線検出器2内の部品にガス又は水分が吸着し、不具合が発生する可能性がある。
【0046】
試料室5内にHeが充填されている状態では、放射線検出器2内の部品に吸着するガスはHeであり、水分はほぼ吸着されない。放射線検出器2内の部品に不活性ガスであるHeが吸着したとしても、不具合は発生し難い。従って、放射線検出器2内の部品にガス又は水分が吸着することにより不具合が発生することが抑制される。このため、放射線検出素子1の冷却は、試料室5内にHeが充填されている状態で行われる。He濃度を判定する方法として、低エネルギーの放射線を測定する方法がある。しかしながら、低エネルギーの放射線を測定するためには、放射線検出素子1を冷却する必要がある。試料室5がHeで充填されているか否かが不明である状態では、放射線検出素子1を冷却することができず、放射線検出を行うことができない。
【0047】
本実施形態では、放射線検出装置100は、ペルチェ素子25へ供給される電圧又は電流の値に基づいて、試料室5内にHeが充填された程度を判定する。大気とHeとでは、熱伝導率が異なる。Heの熱伝導率は、大気の熱伝導率よりも高い。放射線検出素子1の周囲にHeがある状態では、放射線検出素子1の周囲に大気がある状態に比べて、放射線検出素子1を室温よりも高い温度に加熱した際に、より高い効率で放射線検出素子1から放熱がなされる。また、放射線検出素子1の周囲にHeがある状態では、放射線検出素子1の周囲に大気がある状態に比べて、放射線検出素子1を室温よりも低い温度に冷却した際に、より高い効率で周囲から放射線検出素子1へ熱が流入する。
【0048】
従って、放射線検出素子1の周囲にHeがある状態では、室温よりも高い又は低い一定の温度に放射線検出素子1の温度を保つためには、放射線検出素子1の周囲に大気がある状態に比べて、ペルチェ素子25による放熱量又は吸熱量を大きくする必要がある。ここで、放熱量及び吸熱量は、単位時間当たりの放熱量及び吸熱量である。ペルチェ素子25へ供給される電圧又は電流の値に応じて、放熱量及び吸熱量は変化する。具体的には、ペルチェ素子25へ供給される電圧又は電流の絶対値が大きいほど、放熱量及び吸熱量は増大する。このため、室温よりも高い又は低い一定の温度を保つように放射線検出素子1の温度を制御した場合は、試料室5内にHeが充填された程度に応じて、放熱量又は吸熱量が変化し、ペルチェ素子25へ供給される電圧又は電流の値は変化する。よって、ペルチェ素子25へ供給される電圧又は電流の値に基づいて、試料室5内にHeが充填された程度を判定することが可能である。
【0049】
制御部4は、放射線検出装置100を制御するための制御方法を実行する。制御部4は、温度制御部及び判定部として機能する。
図5は、実施形態1に係る放射線検出装置100が実行する処理の第1例の手順を示すフローチャートである。以下、ステップをSと略す。演算部41がコンピュータプログラム441に従って情報処理を実行することにより、制御部4は以下の処理を実行する。
図6は、実施形態1に係る放射線検出装置100が行う処理の第1例に伴った、放射線検出素子1の温度及びペルチェ素子25に供給される電圧の時間変化を示す模式的グラフである。横軸は時間を示し、上側のグラフの縦軸は放射線検出素子1の温度を示し、下側のグラフの縦軸はペルチェ素子25に供給される電圧を示す。
図6では、ペルチェ素子25が放射線検出素子1を加熱するときの電圧の値をプラスとし、ペルチェ素子25が放射線検出素子1を冷却するときの電圧の値をマイナスとしている。
【0050】
試料6が試料台51に載置された状態で、制御部4は、放射線検出素子1の加熱を行う(S101)。S101では、演算部41は、インタフェース部45を通じて電力供給部32へ制御信号を送信することにより、電力供給部32に、放射線検出素子1を加熱するための電圧をペルチェ素子25へ供給させる。ペルチェ素子25に供給される電圧の値はプラスとなり、放射線検出素子1の温度は室温から上昇する。制御部4は、温度センサ22からの信号をインタフェース部45で受け付け、演算部41は、温度センサ22からの信号に基づいて、放射線検出素子1の温度を測定する。
【0051】
放射線検出素子1の温度が所定の目標温度に達した後、制御部4は、放射線検出素子1が一定温度になるように、温度制御を行う(S102)。S102では、演算部41は、温度センサ22を用いて測定した放射線検出素子1の温度に基づいて、放射線検出素子1の温度が目標温度に保たれるように、電力供給部32からペルチェ素子25へ供給される電圧を、制御することにより、放射線検出素子1の温度を制御する。目標温度は室温よりも高い温度である。目標温度は予め記憶部44に記憶されている。
【0052】
制御部4は、温度制御を行っている状態で、試料室5内へのHeの供給を開始する(S103)。S103では、演算部41は、インタフェース部45を通じてガス供給部53へ制御信号を送信することにより、ガス供給部53に、Heを試料室5内へ供給させる。例えば、ガス供給部53は電磁弁を開放し、ガスタンクから試料室5内へHeが流入する。
【0053】
制御部4は、温度制御を行っている状態で、電力供給部32からペルチェ素子25へ供給される電圧の値に基づいて、試料室5内にHeが十分に充填されたか否かを判定する(S104)。演算部41は、電力供給部32を制御するための制御信号に基づいて、電力供給部32からペルチェ素子25へ供給される電圧を特定する。又は、演算部41は、電力供給部32からペルチェ素子25へ供給される電圧を測定する。S104では、演算部41は、電力供給部32からペルチェ素子25へ供給される電圧の絶対値が所定の第1閾値まで上昇したか否かを判定する。
【0054】
Heの熱伝導率は大気の熱伝導率よりも高いので、Heの供給が開始された後は、より高い効率で放射線検出素子1から放熱がなされる。放射線検出素子1の温度を目標温度に保つためには、ペルチェ素子25からの放熱量をより大きくする必要がある。このため、Heが供給されるに従って、
図6に示すように、ペルチェ素子25へ供給される電圧の絶対値は、徐々に上昇する。第1閾値は、試料室5内の大気がHeで置換され、Heが試料室5内に十分に充填された状態で、放射線検出素子1の温度を目標温度に保つためにペルチェ素子25へ供給される電圧の絶対値である。第1閾値は予め記憶部44に記憶されている。S104では、演算部41は、電力供給部32からペルチェ素子25へ供給される電圧の絶対値が第1閾値まで上昇した場合に、試料室5内にHeが十分に充填されたと判定する。演算部41は、電力供給部32からペルチェ素子25へ供給される電圧の絶対値が第1閾値に達していない場合に、試料室5内にまだHeが十分に充填されていないと判定する。
【0055】
試料室5内にまだHeが十分に充填されていない場合は(S104:NO)、制御部4は、温度制御を行いながら、S104の処理を繰り返す。試料室5内にHeが十分に充填された場合は(S104:YES)、制御部4は、放射線検出素子1を冷却する(S105)。S105では、演算部41は、電力供給部32に、放射線検出素子1を冷却するための電圧をペルチェ素子25へ供給させる。ペルチェ素子25に供給される電圧の値はマイナスとなり、放射線検出素子1の温度は低下する。演算部41は、温度センサ22からの信号に基づいて、放射線検出素子1の温度を測定する。S105では、演算部41は、放射線検出素子1を動作させることが可能な温度である所定の動作温度まで、放射線検出素子1の温度を低下させる。動作温度の値は記憶部44に予め記憶されている。試料室5内にHeが充填されているので、放射線検出器2内の冷却された部品にガス又は水分が吸着することが抑制される。
【0056】
制御部4は、放射線検出素子1を動作温度まで冷却した状態で、放射線の検出を行う(S106)。例えば、使用者が操作部35を操作することにより、制御部4は、放射線検出の開始の指示を受け付け、S106を実行する。S106では、演算部41は、インタフェース部45を通じて電圧印加部31へ制御信号を送信することにより、放射線検出素子1に電圧を印加するように、電圧印加部31を制御する。放射線検出素子1に電圧が印加されることにより、放射線検出素子1は、放射線を検出することが可能な状態となる。
【0057】
また、S106では、演算部41は、インタフェース部45を通じて照射部52へ制御信号を送信することにより、放射線を照射するように、照射部52を制御する。照射部52は試料6へ放射線を照射し、試料6からは特性X線が発生する。特性X線からなる放射線は放射線検出器2内の放射線検出素子1へ入射し、放射線検出素子1は放射線に応じた電流信号を出力する。前述したように、プリアンプ21は電流信号を電圧信号へ変換し、信号処理部33は放射線のエネルギーに対応する信号値別に信号をカウントし、分析部34は放射線のスペクトルを生成する。このようにして、放射線の検出が行われる。
【0058】
制御部4は、放射線検出素子1を動作温度まで冷却した状態で、電力供給部32からペルチェ素子25へ供給される電圧の絶対値が所定の第2閾値まで低下したか否かを判定する(S107)。第2閾値は、Heが試料室5内に十分に充填された状態で放射線検出素子1の温度を動作温度に保つためにペルチェ素子25へ供給される電圧の絶対値よりも、低い値である。試料室5内へ大気が侵入した場合、大気の熱伝導率はHeの熱伝導率よりも低いので、周囲から放射線検出素子1へ熱が流入する効率が低下する。このため、放射線検出素子1の温度を動作温度に保つために必要なペルチェ素子25による吸熱量は減少し、ペルチェ素子25へ供給される電圧の絶対値は低下する。ペルチェ素子25へ供給される電圧の絶対値が第2閾値まで低下した場合は、試料室5内へ大気が侵入したと推定し得る。第2閾値は予め記憶部44に記憶されている。
【0059】
電力供給部32からペルチェ素子25へ供給される電圧の絶対値が第2閾値まで低下していない場合は(S107:NO)、制御部4は、放射線検出を終了するか否かを判定する(S108)。S108では、例えば、使用者が操作部35を操作することにより、放射線検出を終了する指示を受け付けた場合は、演算部41は、放射線検出を終了すると判定する。例えば、演算部41は、放射線検出を開始してから所定時間が経過した場合に、放射線検出を終了すると判定する。放射線検出をまだ終了しない場合は(S108:NO)、制御部4は、処理をS107へ戻す。
【0060】
電力供給部32からペルチェ素子25へ供給される電圧の絶対値が第2閾値まで低下した場合(S107:YES)、又は放射線検出を終了する場合は(S108:YES)、制御部4は、放射線検出を終了し、放射線検出素子1の冷却を停止し、放射線検出素子1を加熱する(S109)。S109では、演算部41は、電圧印加部31に放射線検出素子1への電圧印加を停止させ、照射部52に放射線の照射を停止させる。また、演算部41は、電力供給部32に、放射線検出素子1を加熱するための電圧をペルチェ素子25へ供給させる。ペルチェ素子25に供給される電圧の値はプラスとなり、放射線検出素子1の温度は動作温度から上昇する。
【0061】
S109では、演算部41は、所定の最終温度まで、放射線検出素子1の温度を上昇させる。最終温度は、放射線検出器2が大気中にあっても放射線検出器2内の部品にガス又は水分が吸着することのない温度である。例えば、最終温度は室温以上の温度である。なお、最終温度は、室温よりも低く、かつ放射線検出器2内の部品にガス又は水分が吸着することのない温度であってもよい。最終温度は、予め記憶部44に記憶されている。
【0062】
放射線検出素子1が動作温度まで冷却された状態でペルチェ素子25へ供給される電圧の絶対値が第2閾値まで低下した場合は、試料室5内へ侵入した大気によって放射線検出器2内の部品にガス又は水分が吸着する可能性がある。放射線検出の終了及び放射線検出素子1の冷却の停止を行うことにより、放射線検出器2内の部品にガス又は水分が吸着することが抑制される。
【0063】
制御部4は、次に、試料室5内へのHeの供給を停止する(S110)。S110では、演算部41は、ガス供給部53に、Heの供給を停止させる。S110が終了した後は、放射線検出装置100は、処理を終了する。
【0064】
放射線検出を終了した後に放射線検出素子1を加熱することによって、単に放射線検出素子1の冷却を停止するだけの場合に比べて、放射線検出素子1の温度の上昇が速くなる。放射線検出素子1の温度が、大気中でも放射線検出器2内の部品にガス又は水分が吸着することのない温度になるまで、Heの供給を停止することはできない。放射線検出素子1の温度の上昇が速くなることによって、Heの供給を停止するまでの時間を短縮することができる。
【0065】
以上のように、放射線検出装置100は、S101~S110の処理により、ペルチェ素子25へ供給される電圧の値に基づいて、試料室5内にHeが充填された程度を判定する。放射線検出装置100は、放射線検出素子1の温度を室温よりも高い一定の目標温度に保ちながら試料室5の内部へHeを供給し、ペルチェ素子25へ供給される電圧の値に基づいて、試料室5内にHeが充填された程度を判定することができる。放射線検出装置100は、放射線検出素子1の温度が目標温度に保たれている状態で試料室5の内部にHeが充填されていることを判定し、その後、放射線検出素子1を冷却する。試料室5の内部にHeが充填された状態で放射線検出素子1が冷却されるので、放射線検出器2内の放射線検出素子1等の部品にガス又は水分が吸着することが抑制される。従って、放射線検出器2内の部品へのガス又は水分の吸着に起因する不具合の発生が抑制される。
【0066】
図7は、実施形態1に係る放射線検出装置100が実行する処理の第2例の手順を示すフローチャートである。処理の第2例では、目標温度を室温よりも低い温度とする。
図8は、実施形態1に係る放射線検出装置100が行う処理の第2例に伴った、放射線検出素子1の温度及びペルチェ素子25に供給される電圧の時間変化を示す模式的グラフである。横軸は時間を示し、上側のグラフの縦軸は放射線検出素子1の温度を示し、下側のグラフの縦軸はペルチェ素子25に供給される電圧を示す。
図8では、ペルチェ素子25が放射線検出素子1を加熱するときの電圧の値をプラスとし、ペルチェ素子25が放射線検出素子1を冷却するときの電圧の値をマイナスとしている。
【0067】
制御部4は、放射線検出素子1の冷却を行う(S201)。S201では、演算部41は、電力供給部32に、放射線検出素子1を冷却するための電圧をペルチェ素子25へ供給させる。ペルチェ素子25に供給される電圧の値はマイナスとなり、放射線検出素子1の温度は室温から低下する。放射線検出素子1の温度が所定の目標温度に達した後、制御部4は、放射線検出素子1が一定温度になるように、温度制御を行う(S202)。S202では、演算部41は、放射線検出素子1の温度が目標温度に保たれるように、放射線検出素子1の温度を制御する。目標温度は室温よりも低い温度であり、放射線検出器2内の部品にガス又は水分が吸着することのない温度である。目標温度は予め記憶部44に記憶されている。或いは、演算部41は、室温に応じて、適切な目標温度を計算する処理を行ってもよい。
【0068】
制御部4は、温度制御を行っている状態で、試料室5内へのHeの供給を開始する(S203)。制御部4は、温度制御を行っている状態で、電力供給部32からペルチェ素子25へ供給される電圧の値に基づいて、試料室5内にHeが十分に充填されたか否かを判定する(S204)。S204では、演算部41は、電力供給部32からペルチェ素子25へ供給される電圧の絶対値が第1閾値まで上昇したか否かを判定する。演算部41は、電圧の絶対値が第1閾値まで上昇した場合に、試料室5内にHeが十分に充填されたと判定し、電圧の絶対値が第1閾値に達していない場合に、試料室5内にまだHeが十分に充填されていないと判定する。
【0069】
試料室5内にまだHeが十分に充填されていない場合は(S204:NO)、制御部4は、温度制御を行いながら、S204の処理を繰り返す。試料室5内にHeが十分に充填された場合は(S204:YES)、制御部4は、放射線検出素子1を更に冷却する(S205)。S205では、演算部41は、電力供給部32に、放射線検出素子1を更に冷却するための電圧をペルチェ素子25へ供給させる。ペルチェ素子25に供給される電圧の絶対値はより大きくなり、放射線検出素子1の温度はより低下する。S205では、演算部41は、動作温度まで放射線検出素子1の温度を低下させる。
【0070】
制御部4は、放射線検出素子1を動作温度まで冷却した状態で、放射線の検出を行う(S206)。制御部4は、放射線検出素子1を動作温度まで冷却した状態で、電力供給部32からペルチェ素子25へ供給される電圧の絶対値が所定の第2閾値まで低下したか否かを判定する(S207)。電力供給部32からペルチェ素子25へ供給される電圧の絶対値が第2閾値まで低下していない場合は(S207:NO)、制御部4は、放射線検出を終了するか否かを判定する(S208)。放射線検出をまだ終了しない場合は(S208:NO)、制御部4は、処理をS207へ戻す。
【0071】
電力供給部32からペルチェ素子25へ供給される電圧の絶対値が第2閾値まで低下した場合(S207:YES)、又は放射線検出を終了する場合は(S208:YES)、制御部4は、放射線検出を終了し、放射線検出素子1の冷却を停止し、放射線検出素子1を加熱する(S209)。ペルチェ素子25に供給される電圧の値はプラスとなり、放射線検出素子1の温度は動作温度から上昇する。S209では、制御部4は、最終温度まで放射線検出素子1の温度を上昇させる。制御部4は、次に、試料室5内へのHeの供給を停止する(S210)。S210が終了した後は、放射線検出装置100は、処理を終了する。
【0072】
放射線検出装置100は、S201~S210の処理によっても、ペルチェ素子25へ供給される電圧の値に基づいて、試料室5内にHeが充填された程度を判定する。放射線検出装置100は、放射線検出素子1の温度を、室温よりも低いものの放射線検出器2内の部品にガス又は水分が吸着することのない目標温度に保ちながら、試料室5内へHeを供給し、試料室5内にHeが充填された程度を判定することができる。放射線検出装置100は、試料室5内にHeが充填されていることを判定した後で、放射線検出素子1を目標温度から冷却するので、放射線検出器2内の放射線検出素子1等の部品にガス又は水分が吸着することが抑制される。
【0073】
以上詳述したごとく、放射線検出装置100は、ペルチェ素子25へ供給される電圧の値に基づき、Heの濃度を測定するためのガスセンサを用いることなく、試料室5内にHeが充填された程度を判定する。ガスセンサを試料室5内に配置する必要が無いので、放射線検出器2等の放射線検出装置100の部品を試料室5内に配置することが容易となる。制御部4は、ガスセンサを制御する必要が無いので、制御部4の機能及び構成を削減することができる。Heの濃度を測定するためのポンプを用いてHeをガスセンサまで引き込む必要が無いので、Heの使用量を削減することができる。
【0074】
<実施形態2>
図9は、実施形態2に係る放射線検出装置100の機能構成例を示すブロック図である。放射線検出装置100は、試料室5の内部を減圧する減圧部54を備えている。例えば、減圧部54は真空ポンプである。減圧部54は制御部4に接続されている。制御部4は減圧部54の動作を制御する。放射線検出装置100は、試料室5の内部の圧力を測定するための圧力センサを備えていてもよい。放射線検出装置100のその他の構成は、実施形態1と同様である。
【0075】
図10は、実施形態2に係る放射線検出装置100が実行する処理の手順の例を示すフローチャートである。
図11は、実施形態2に係る放射線検出装置100が行う処理に伴った、放射線検出素子1の温度及びペルチェ素子25に供給される電圧の時間変化を示す模式的グラフである。横軸は時間を示し、上側のグラフの縦軸は放射線検出素子1の温度を示し、下側のグラフの縦軸はペルチェ素子25に供給される電圧を示す。
図11では、ペルチェ素子25が放射線検出素子1を加熱するときの電圧の値をプラスとし、ペルチェ素子25が放射線検出素子1を冷却するときの電圧の値をマイナスとしている。
【0076】
試料6が試料台51に載置されていない状態で、制御部4は、試料室5内の減圧を行う(S301)。S301では、演算部41は、インタフェース部45を通じて減圧部54へ制御信号を送信することにより、減圧部54に試料室5内を減圧させる。減圧部54は、使用者の操作によって動作を開始してもよい。制御部4は、試料室5内の減圧を行っている状態で、放射線検出素子1の冷却を行う(S302)。S302では、演算部41は、電力供給部32に、放射線検出素子1を冷却するための電圧をペルチェ素子25へ供給させる。ペルチェ素子25に供給される電圧の値はマイナスとなり、放射線検出素子1の温度は室温から低下する。制御部4は、放射線検出素子1の温度を動作温度にまで低下させる。試料室5内は減圧されているので、放射線検出素子1を冷却しても、放射線検出器2内の部品にガス又は水分が吸着することは抑制される。
【0077】
放射線検出素子1の温度が動作温度まで低下した後、制御部4は、放射線検出素子1が一定温度になるように、温度制御を行う(S303)。S303では、演算部41は、温度センサ22を用いて測定した放射線検出素子1の温度に基づいて、放射線検出素子1の温度が動作温度に保たれるように、電力供給部32からペルチェ素子25へ供給される電圧を制御することにより、放射線検出素子1の温度を制御する。
【0078】
制御部4は、温度制御を行っている状態で、試料室5内の減圧を停止する(S304)。S304では、演算部41は、減圧部54を停止する。減圧部54は、使用者の操作によって動作を停止されてもよい。制御部4は、次に、試料室5内へのHeの供給を開始する(S305)。S305では、演算部41は、ガス供給部53に、Heを試料室5内へ供給させる。
【0079】
制御部4は、温度制御を行っている状態で、電力供給部32からペルチェ素子25へ供給される電圧の値に基づいて、試料室5内にHeが十分に充填されたか否かを判定する(S306)。S306では、演算部41は、電力供給部32からペルチェ素子25へ供給される電圧の絶対値が第1閾値まで上昇したか否かを判定する。演算部41は、電圧の絶対値が第1閾値まで上昇した場合に、試料室5内にHeが十分に充填されたと判定し、電圧の絶対値が第1閾値に達していない場合に、試料室5内にまだHeが十分に充填されていないと判定する。試料室5内にまだHeが十分に充填されていない場合は(S306:NO)、制御部4は、温度制御を行いながら、S306の処理を繰り返す。
【0080】
試料室5内にHeが十分に充填された場合は(S306:YES)、試料6が試料室5内に配置される(S307)。S307では、例えば、演算部41は、試料6を試料室5内に配置することを使用者に指示するための画像を表示部36に表示する。使用者は、蓋部50を開放し、試料6を試料台51に載置させ、蓋部50を閉鎖する。このようにして、試料6が試料室5内に配置される。蓋部50が開放されるので、大気が試料室5内へ侵入し、周囲から放射線検出素子1へ熱が流入する効率が低下し、ペルチェ素子25へ供給される電圧の絶対値は低下する。S307が終了した後は、Heの供給が続行され、ペルチェ素子25へ供給される電圧の絶対値は徐々に上昇する。
【0081】
制御部4は、次に、電力供給部32からペルチェ素子25へ供給される電圧の絶対値が第1閾値まで上昇したか否かを判定する(S308)。電圧の絶対値が第1閾値まで上昇していない場合は、制御部4は、S308の処理を繰り返す。電圧の絶対値が第1閾値まで上昇した場合は(S308:YES)、制御部4は、放射線検出素子1を動作温度まで冷却した状態で、放射線の検出を行う(S309)。
【0082】
制御部4は、放射線検出素子1を動作温度まで冷却した状態で、電力供給部32からペルチェ素子25へ供給される電圧の絶対値が所定の第2閾値まで低下したか否かを判定する(S310)。電圧の絶対値が第2閾値まで低下していない場合は(S310:NO)、制御部4は、放射線検出を終了するか否かを判定する(S311)。放射線検出をまだ終了しない場合は(S311:NO)、制御部4は、処理をS310へ戻す。
【0083】
電力供給部32からペルチェ素子25へ供給される電圧の絶対値が第2閾値まで低下した場合(S310:YES)、又は放射線検出を終了する場合は(S311:YES)、制御部4は、放射線検出を終了し、放射線検出素子1の冷却を停止し、放射線検出素子1を加熱する(S312)。ペルチェ素子25に供給される電圧の値はプラスとなり、放射線検出素子1の温度は動作温度から上昇する。S312では、制御部4は、最終温度まで放射線検出素子1の温度を上昇させる。制御部4は、次に、試料室5内へのHeの供給を停止する(S313)。S313が終了した後は、放射線検出装置100は、処理を終了する。
【0084】
実施形態2においては、放射線検出装置100は、S301~S313の処理によって、ペルチェ素子25へ供給される電圧の値に基づいて、試料室5内にHeが充填された程度を判定する。放射線検出装置100は、試料室5内を減圧した状態で放射線検出素子1を冷却し、その後、減圧を停止し、放射線検出素子1の温度を一定の動作温度に保ちながら試料室5の内部へHeを供給する。放射線検出装置100は、ペルチェ素子25へ供給される電圧の値に基づいて、試料室5内にHeが充填された程度を判定することができる。試料室5内が減圧された状態で放射線検出素子1が冷却されるので、放射線検出器2内の放射線検出素子1等の部品にガス又は水分が吸着することが抑制される。従って、放射線検出器2内の部品へのガス又は水分の吸着に起因する不具合の発生が抑制される。
【0085】
実施形態2においても、放射線検出装置100は、Heの濃度を測定するためのガスセンサを用いることなく、試料室5内にHeが充填された程度を判定する。実施形態1と同様に、放射線検出装置100の部品を試料室5内に配置することが容易となり、制御部4の機能及び構成を削減することができる。また、Heの使用量を削減することができる。
【0086】
以上の実施形態1及び2では、電力供給部32からペルチェ素子25へ供給される電圧の値に基づいて試料室5内にHeが充填された程度を判定する形態を示したが、放射線検出装置100は、電力供給部32からペルチェ素子25へ供給される電流の値に基づいて判定を行う形態であってもよい。ペルチェ素子25に供給される電流の絶対値が大きいほど、放熱量又は吸熱量は増大する。S101~S110、S201~S210又はS301~S313と同様の処理を行うことにより、放射線検出装置100は、電力供給部32からペルチェ素子25へ供給される電流の値に基づいて、試料室5内にHeが充填された程度を判定することができる。
【0087】
実施形態1及び2においては、温度調整部をペルチェ素子25とした形態を示したが、放射線検出装置100は、ヒータによって放射線検出素子1を加熱する形態であってもよい。この形態では、放射線検出器2の内部に、ペルチェ素子25とは別にヒータが設けられている。ヒータは、電力供給部32に接続されている。温度調整部はペルチェ素子25及びヒータを含んでいる。電力供給部32は、放射線検出素子1を冷却する際にはペルチェ素子25へ電圧及び電流を供給し、放射線検出素子1を加熱する際にはヒータへ電圧及び電流を供給する。この形態でも、放射線検出装置100は、電力供給部32からペルチェ素子25又はヒータへ供給される電圧又は電流の値に基づいて、試料室5内にHeが充填された程度を判定することができる。
【0088】
実施形態1及び2においては、放射線検出装置100が電圧印加部31と電力供給部32とを個別に備える形態を示したが、電圧印加部31及び電力供給部32は一体に構成されていてもよい。実施形態1及び2においては、制御部4が温度制御部及び判定部として機能する形態を示したが、放射線検出装置100は、電力供給部32が情報処理機能を有し、温度制御部又は判定部としての処理を電力供給部32が実行する形態であってもよい。
【0089】
実施形態1及び2においては、Heを用いる形態を示したが、放射線検出装置100は、試料室5内へ供給するガスとしてHe以外の不活性ガスを用いる形態であってもよい。不活性ガスの熱伝導率が大気の熱伝導率よりも低い形態では、放射線検出装置100は、放射線検出素子1の温度を一定に制御している状態で、電力供給部32から温度調整部へ供給される電圧又は電流の値が閾値まで低下した場合に、試料室5内に不活性ガスが十分に充填されたと判定する。或いは、放射線検出装置100は、試料室5内へ供給するガスとして、Heの代わりに、水素ガスを用いる形態であってもよい。水素ガスの熱伝導率は大気の熱伝導率よりも高い。
【0090】
実施形態1及び2においては、放射線検出素子1を構成する半導体がSiである形態を示したが、放射線検出素子1はSi以外の半導体で構成された形態であってもよい。実施形態1及び2においては、半導体部12がn型の半導体からなり、電極層13及び曲線状電極14がp型の半導体からなる形態を示したが、放射線検出素子1は、半導体部12がp型の半導体からなり、電極層13及び曲線状電極14がn型の半導体からなる形態であってもよい。実施形態1及び2においては、放射線検出素子1がシリコンドリフト型放射線検出素子である形態を示したが、放射線検出素子1は、シリコンドリフト型放射線検出素子以外の半導体製の素子であってもよい。このため、放射線検出器2は、SDD以外の放射線検出器であってもよい。
【0091】
実施形態1及び2においては、放射線検出器2がコリメータ23を備える形態を示したが、放射線検出器2はコリメータ23を備えていない形態であってもよい。放射線検出器2は、開口部261が設けられておらず、窓材を有する窓を備え、窓を透過した放射線を検出する形態であってもよい。実施形態1及び2においては、放射線検出素子1がハウジング26に収容されている形態を示したが、放射線検出器2は、ハウジング26を備えていない形態であってもよい。
【0092】
実施形態1及び2においては、放射線を試料6へ照射し、試料6から発生した放射線を検出する形態を示したが、放射線検出装置100は、試料6を透過又は試料6で反射した放射線を検出する形態であってもよい。放射線検出装置100は、放射線の方向を変更するか又は試料6を移動させることにより試料6を放射線で走査する形態であってもよい。実施形態1及び2においては、放射線検出装置100が照射部52を備えている形態を示したが、放射線検出装置100は、照射部52を備えていない形態であってもよい。実施形態1及び2においては、放射線として試料6からの特性X線を検出する形態を示したが、放射線検出装置100は、X線以外の放射線を検出する形態であってもよい。又は、放射線検出装置100は、半導体製の素子以外の放射線検出素子1を用いる形態であってもよい。
【0093】
本発明は上述した実施の形態の内容に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。即ち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0094】
各実施形態に記載した事項は相互に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した独立請求項及び従属請求項は、引用形式に関わらず全てのあらゆる組み合わせにおいて、相互に組み合わせることが可能である。さらに、特許請求の範囲には他の2以上のクレームを引用するクレームを記載する形式(マルチクレーム形式)を用いているが、これに限るものではない。マルチクレームを少なくとも一つ引用するマルチクレーム(マルチマルチクレーム)を記載する形式を用いて記載してもよい。
【符号の説明】
【0095】
1 放射線検出素子
100 放射線検出装置
2 放射線検出器
21 プリアンプ
22 温度センサ
25 ペルチェ素子(温度調整部)
26 ハウジング
261 開口部
31 電圧印加部
32 電力供給部
4 制御部
441 コンピュータプログラム
5 試料室
53 ガス供給部
54 減圧部
6 試料