(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037074
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】複合体、骨修復材料、医療機器、複合体の製造方法及び骨欠損部の修復方法
(51)【国際特許分類】
C01B 25/32 20060101AFI20240311BHJP
A61L 27/42 20060101ALI20240311BHJP
C04B 35/447 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
C01B25/32 R
A61L27/42
C01B25/32 V
C01B25/32 B
C04B35/447
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141722
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横井 太史
(72)【発明者】
【氏名】川下 将一
(72)【発明者】
【氏名】藤川 竜一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 知代
(72)【発明者】
【氏名】関野 徹
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB04
4C081BA12
4C081BB08
4C081CF021
4C081CF16
4C081DA01
4C081EA04
(57)【要約】
【課題】割れにくい複合体、その複合体を含む骨修復材料、その複合体を含む医療機器、その複合体の製造方法及び骨欠損部の修復方法の提供。
【解決手段】式(1)で表されるアパタイトと、炭素原子と、を含む複合体。
式(1):Cas(PO4)t(X)u
(式(1)中、XはOH及びCO3からなる群から選択される少なくとも1種を表し、sは8~10の数を表し、tは4~6の数を表し、uは1~2の数を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるアパタイトと、
炭素原子と、
を含む複合体。
式(1):Cas(PO4)t(X)u
(式(1)中、
XはOH及びCO3からなる群から選択される少なくとも1種を表し、
sは8~10の数を表し、
tは4~6の数を表し、
uは1~2の数を表す。)
【請求項2】
前記アパタイトを含む層と、
前記炭素原子を含む層と、
が積層している請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
最大曲げひずみが0.23%以上である請求項1又は請求項2に記載の複合体。
【請求項4】
ヤング率が15GPa以下である請求項1又は請求項2に記載の複合体。
【請求項5】
ビッカース硬度が30kgf/mm2以下である請求項1又は請求項2に記載の複合体。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の複合体を含む骨修復材料。
【請求項7】
請求項6に記載の骨修復材料を含む医療機器。
【請求項8】
下記式(2)で表される化合物を含むリン酸八カルシウムを成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を焼成する工程と、
を有する複合体の製造方法。
式(2):Ca8(HPO4)2-a(Y)a(PO4)4・nH2O
(式(2)中、Yは、2価のカルボン酸イオンを表し、aは、0~1であり、nは0を超える数を表す)
【請求項9】
前記2価のカルボン酸イオンが、イソフタル酸イオン、コハク酸イオン又はスベリン酸イオンである請求項8に記載の複合体の製造方法。
【請求項10】
請求項6に記載の骨修復材料を骨損傷部位に付設することを含む骨損傷部の修復方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合体、骨修復材料、医療機器、複合体の製造方法及び骨欠損部の修復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水酸アパタイト(HAp)などのアパタイトは、骨の無機主成分と組成が類似していることから、医療材料、例えば人工骨等の材料として広く研究されている。
特許文献1には、「ホスホノ酸基およびカルボシキル基をもつリンを含むキレート化剤とカルシウムイオンを含むカルシウム化合物とをリンに対するカルシウムのモル比が1.50~1.67となるように溶媒中で反応させることで有機リン酸カルシウム前駆体を製造する有機リン酸カルシウム前駆体の製造方法であって、前記反応は、重合剤を介さず、100℃~130℃での加熱により生じる、リンを含むキレート化剤のカルボキシル基同士の脱水縮合反応と、リンを含むキレート化剤のホスホノ酸基とカルボキシル基の脱水縮合反応と、を含む有機リン酸カルシウム前駆体を製造する有機リン酸カルシウム前駆体の製造方法。」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アパタイトを含む材料を人工骨等に適用する場合、アパタイトを含む材料は割れにくいことが要求され、近年この要求がより高まっている。
本開示の課題は、割れにくい複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段には、以下の手段が含まれる。
<1> 式(1)で表されるアパタイトと、
炭素原子と、
を含む複合体。
式(1):Cas(PO4)t(X)u
(式(1)中、
XはOH及びCO3からなる群から選択される少なくとも1種を表し、
sは8~10の数を表し、
tは4~6の数を表し、
uは1~2の数を表す。)
<2> 前記アパタイトを含む層と、
前記炭素原子を含む層と、
が積層している<1>に記載の複合体。
<3> 最大曲げひずみが0.23%以上である<1>又は<2>に記載の複合体。
<4> ヤング率が15GPa以下である<1>~<3>のいずれか一つに記載の複合体。
<5> ビッカース硬度が30kgf/mm2以下である<1>~<4>のいずれか一つに記載の複合体。
<6> <1>~<5>のいずれか一つに記載の複合体を含む骨修復材料。
<7> <6>に記載の骨修復材料を含む医療機器。
<8> 下記式(2)で表される化合物を含むリン酸八カルシウムを成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を焼成する工程と、
を有する複合体の製造方法。
式(2):Ca8(HPO4)2-a(Y)a(PO4)4・nH2O
(式(2)中、Yは、2価のカルボン酸イオンを表し、aは、0~1であり、nは0を超える数を表す)
<9> 前記2価のカルボン酸イオンが、イソフタル酸イオン、コハク酸イオン又はスベリン酸イオンである<8>に記載の複合体の製造方法。
<10> <6>に記載の骨修復材料を骨損傷部位に付設することを含む骨損傷部の修復方法。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、割れにくい複合体、その複合体を含む骨修復材料、その複合体を含む医療機器、その複合体の製造方法及び骨欠損部の修復方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】割れ性評価において、合格の判定した場合の試験片及び釘の状態を示す概略側面図である。
【
図2】割れ性評価において、不合格の判定した場合の評価後の試験片の状態を示す概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の一例である実施形態について説明する。これらの説明および実施例は、実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0009】
各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。
組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0010】
<複合体>
本開示に係る複合体は、式(1)で表されるアパタイトと、炭素原子と、を含む。
式(1):Cas(PO4)t(X)u
式(1)中、
XはOH及びCO3からなる群から選択される少なくとも1種を表し、
sは8~10の数を表し、
tは4~6の数を表し、
uは1~2の数を表す。
【0011】
本開示に係る複合体は、上記構成により、割れにくい複合体となる。その理由は、次の通り推測される。
【0012】
式(1)で表されるアパタイトと、炭素原子と、を含むことで、アパタイトの割れやすさを炭素原子が補強するためと推測される。
そのため、本開示に係る複合体は、上記構成により、割れにくい複合体となると推測される。
【0013】
(アパタイト)
複合体は、式(1)で表されるアパタイト(以下式(1)で表されるアパタイトを「特定アパタイト」とも称する)を含む。
式(1):Cas(PO4)t(X)u
式(1)中、
XはOH及びCO3からなる群から選択される少なくとも1種を表し、
sは8~10の数を表し、
tは4~6の数を表し、
uは1~2の数を表す。
【0014】
割れにくい複合体とする観点から、特定アパタイトは式(1-A)で表されるアパタイトであることが好ましい。
式(1-A):Ca10(PO4)6(X)2
式(1-A)中XはOH及びCO3からなる群から選択される少なくとも1種を表す。
【0015】
特定アパタイトとしては、具体的には、Ca10(PO4)6(OH)2、Ca10(PO4)6(CO3)2、及びCa10(PO4)6(OH)(CO3)からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
複合体は、リン酸三カルシウム及びリン酸八カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種を含んでもよい。
ここでリン酸八カルシウムは、後述の式(2)で表される化合物である。
【0017】
リン酸三カルシウムの結晶系は特に限定されず、α-リン酸三カルシウム、α’-リン酸三カルシウム及びβ-リン酸三カルシウムのいずれであってもよい。
【0018】
特定アパタイト、リン酸三カルシウム及びリン酸八カルシウムの合計の含有量は、複合体全体に対して、90質量%以上であることが好ましい。
【0019】
複合体は、下記式(3)で表されるアパタイトを含んでもよい。
式(3):A10(B)6C2
式(3)中、AはSr、Ba、Zn、Mg、Mn、Fe、Ra、Na、K、Al、Y、Ce、Nd、La又はCであり、BはHPO4、PO4、CO3、CrO4、VO4、UO4、SO4、SiO4、GeO4又はCであり、CはOH、OD、F、Cl、Br、BO、CO3又はOである。
【0020】
(炭素原子)
複合体は、炭素原子を含む。
ここで、炭素原子とは、特定アパタイト及び式(3)で表されるアパタイトに含まれる炭素原子以外の炭素原子(以下「特定炭素原子」とも称する)を意味する。
【0021】
特定炭素原子は、リン酸八カルシウムに導入したカルボン酸の熱分解によって生成したものであり、特定炭素原子同士が結合を形成し、炭素原子からなる化合物の状態で存在していることが好ましい。
炭素原子からなる化合物としては、例えば、無定形炭素、グラファイトなどが挙げられる。
【0022】
特定炭素原子の含有量は、複合体全体に対して、1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0023】
(複合体の構造)
本開示に係る複合体は、特定アパタイト(すなわち、式(1)で表されるアパタイト)を含む層と、特定炭素原子を含む層と、が積層していることが好ましい。
本開示に係る複合体が上記積層構造を有することで、より割れにくい複合体となる。その理由としては以下の通り推測される。
複合体に力が加わり、例えば特定アパタイトを含む層に亀裂が生じても、特定炭素原子を含む層が存在することで生じた亀裂が複合体全体に広がりにくくなる。そしてこれらの層が積層していることで、亀裂がより広がりにくくなる。
【0024】
特定アパタイトを含む層は、特定アパタイト以外にリン酸三カルシウム及びリン酸八カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種を含んでもよい。
【0025】
(複合体の最大曲げひずみ)
本開示に係る複合体は、割れにくい複合体とする観点から、最大曲げひずみが0.23%以上であることが好ましく、0.24%以上であることがより好ましく、0.25%以上であることが更に好ましい。
本開示に係る複合体は、最大曲げひずみが0.3%以下であってもよい。すなわち、本開示に係る複合体は、最大曲げひずみが0.23%以上0.3%以下であってもよく、0.24%以上0.3%以下であってもよく、0.25%以上0.3%以下であってもよい。
【0026】
(最大曲げ応力)
本開示に係る複合体は、割れにくい複合体とする観点から、最大曲げ応力が30MPa以下であることが好ましく、1MPa以上20MPa以下であることがより好ましく、2MPa以上15MPa以下であることが更に好ましい。
【0027】
複合体の最大曲げひずみ及び最大曲げ応力の測定手順は以下の通りである。
以下に最大曲げひずみの測定手順について具体的に説明する。
作製した焼成体を縦15mm×幅4mm×厚さ1.2mmの寸法に加工し試験片を作製した。作製した各試験片に対し、支点間距離10mmの条件で曲げ強度試験機(INSTRON5585、INSTRON、マサチューセッツ、米国)を用いて3点曲げ試験を行い、荷重変位を測定する(JISR1601 2008に一部準拠)。
また、超硬合金製丸棒を用いて支点間距離10mmの条件で3点曲げ試験を行い、曲げ治具の荷重変位を取得する。試験片の荷重変位から曲げ治具の荷重変位を差し引く数値処理を行い、測定データを得る。その際、測定データから試験片に荷重がかかる前までの範囲を取り除き、その後6次の多項式を用いて荷重変位曲線を近似し、近似式を算出する。近似式から係数を差し引く。次に、6次の多項式で近似した荷重変位曲線から以下の式を用いて応力-ひずみ曲線を作成する。
曲げひずみ=6hw/L2
曲げ応力=3PL/2bh2
ここで、上記式における変数は以下の通りである。
曲げ荷重:P、支点間距離:L、試験片の幅:b、試験片の厚さ:h、曲げ変位:w
この応力-ひずみ曲線の最大値をそれぞれ最大曲げひずみと最大曲げ応力とする。
【0028】
(複合体のヤング率)
本開示に係る複合体は、割れにくい複合体とする観点から、ヤング率が15GPa以下であることが好ましく、1GPa以上10GPa以下であることがより好ましく、2GPa以上6GPa以下であることが更に好ましい。
【0029】
以下にヤング率の測定手順について具体的に説明する。
最大曲げひずみ及び最大曲げ応力の測定手順と同様にして得られる応力-ひずみ曲線のうち線形性が良好な範囲(すなわち、弾性域)を線形近似し、その傾きからヤング率を算出した。
【0030】
(複合体のビッカース硬度)
本開示に係る複合体は、割れにくい複合体とする観点から、ビッカース硬度が30kgf/mm2以下であることが好ましく、1kgf/mm2以上25kgf/mm2以下であることがより好ましく、5kgf/mm2以上20kgf/mm2以下であることが更に好ましい。
【0031】
複合体のビッカース硬度はJIS R 1610:2003に準じて測定する。
以下にビッカース硬度の測定手順について具体的に説明する。
ビッカース硬度は、ビッカース硬度計(商品名:HMV G30、株式会社島津製作所社製)を用いて、複合体に対して圧子を押し込むことで測定する。押し込み加重:0.05kgf、押し込み時間:15秒の測定条件で測定する。
【0032】
<複合体の製造方法>
本開示に係る複合体の製造方法は、下記式(2)で表される化合物を含むリン酸八カルシウム(以下「特定リン酸八カルシウム」とも称する)を成形して成形体を得る工程(成形工程)と、
成形体を焼成する工程(焼成工程)と、
を有する。
【0033】
(特定リン酸八カルシウム)
特定リン酸八カルシウムは、式(2)で表される化合物を含むリン酸八カルシウムである。
式(2):Ca8(HPO4)2-a(Y)a(PO4)4・nH2O
式(2)中、Yは、2価のカルボン酸イオンを表し、aは、0~1であり、nは0を超える数を表す。
【0034】
ここで2価のカルボン酸イオンとは、カルボキシラートアニオン(-COO-)を2つ有する2価のアニオンである。すなわち、2価のカルボン酸に含まれるカルボキシ基のプロトンが解離して得られる2価のアニオンである。
【0035】
2価のカルボン酸イオンとしては、後述の2価のカルボン酸に含まれるカルボキシ基のプロトンが解離して得られる2価のアニオンが挙げられる。
【0036】
2価のカルボン酸イオンとしては、イソフタル酸イオン、フタル酸イオン、2,2’-ビピリジン-5,5’-ジカルボン酸イオン、マロン酸イオン、コハク酸イオン、グルタル酸イオン、アジピン酸イオン、ピメリン酸イオン、スベリン酸イオン、アゼライン酸イオン、セバシン酸イオン、マレイン酸イオン、フマル酸イオン、リンゴ酸イオン、メルカプトコハク酸イオン、メチルコハク酸イオン、アスパラギン酸イオン、グルタミン酸イオン、などが挙げられる。
【0037】
割れにくい複合体とする観点から、2価のカルボン酸イオンが、イソフタル酸イオン、コハク酸イオン又はスベリン酸イオンであることが好ましい。
【0038】
特定リン酸八カルシウムの具体例としては、例えば、Ca8(HPO4)2(C6H4(COO)2)1(PO4)4・nH2O、Ca8(HPO4)2(C2H4(COO)2)1(PO4)4・nH2O、Ca8(HPO4)2(C6H12(COO)2)1(PO4)4・nH2O等が挙げられる。
上記特定リン酸八カルシウムの具体例を示す式中、nは式(2)におけるnと同義である。
【0039】
(準備工程)
本開示に係る複合体の製造方法は、成形工程の前に、特定リン酸八カルシウムを準備する工程を有してもよい。
特定リン酸八カルシウムを準備する方法としては、2価のカルボン酸と、カルシウム塩と、リン酸と、を反応させる方法が挙げられる。
【0040】
2価のカルボン酸としては、2価の脂肪族カルボン酸及び2価の芳香族カルボン酸が挙げられる。
2価の脂肪族カルボン酸とは、2つのカルボキシ基が飽和脂肪族炭化水素基(アルキル基)又は不飽和脂肪族炭化水素基(アルケニル基、若しくはアルキニル基)に結合した化合物である。
2価の芳香族カルボン酸とは、2つのカルボキシ基が芳香族炭化水素に結合した化合物である。
【0041】
2価の脂肪族カルボン酸が有する炭化水素基(すなわち、飽和脂肪族炭化水素基又は不飽和脂肪族炭化水素基)の炭素数は1以上20以下であることが好ましく、2以上10以下であることがより好ましく、2以上6以下であることが更に好ましい。
2価の芳香族カルボン酸が有する芳香族炭化水素としては、ベンゼン、ナフタレン、フェナントレンなどが挙げられ、ベンゼンであることが好ましい。
【0042】
2価の脂肪族カルボン酸としては、具体的には、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられる。
2価の脂肪族カルボン酸は、側鎖に置換基を有していてもよい。置換基としてはメチル基、メルカプト基、ヒドロキシ基、アミノ基などが挙げられる。
2価の芳香族カルボン酸としては、具体的には、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等が挙げられる。
2価のカルボン酸としては、割れにくい複合体とする観点から、イソフタル酸、コハク酸又はスベリン酸であることが好ましい。
【0043】
カルシウム塩としては、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化カルシウム等が挙げられる。
【0044】
2価のカルボン酸、カルシウム塩及びリン酸の添加量の比(2価のカルボン酸:カルシウム塩:リン酸)は、モル比で、1以上:8:5であることが好ましい。
【0045】
2価のカルボン酸と、カルシウム塩と、リン酸と、を反応させる方法としては、水中に2価のカルボン酸を添加した後、アンモニア水で2価のカルボン酸を含む溶液のpHを5~7に調整し、その後カルシウム塩及びリン酸を添加して撹拌する方法が挙げられる。
上記方法で2価のカルボン酸と、カルシウム塩と、リン酸と、を反応させた後、必要に応じて塩酸等で反応溶液のpHを4~6に調整して余剰のカルシウム塩等を除去したあとで、溶液中に含まれる沈殿をろ過及び乾燥することで、特定リン酸八カルシウムを得ることが好ましい。
【0046】
(成形工程)
成形工程は、特定リン酸八カルシウムを成形して成形体を得る工程である。
特定リン酸八カルシウムを成形する方法としては、例えば、プレス機を用いて特定リン酸八カルシウムを成形する方法が挙げられる。
プレス機としては、特に限定されず、公知のプレス機が使用可能である。プレス機としては、例えば、一軸加圧プレス機、ラバープレス機などが挙げられる。
【0047】
(焼成工程)
焼成工程は、成形体を焼成する工程である。
焼成工程は、成形体を500℃以上1000℃以下の温度で、1時間以上48時間以下の間焼成することが好ましい。
【0048】
焼成工程は、窒素等の不活性ガスを流入しながら行うことが好ましい。
窒素等の不活性ガスの流速は、焼成工程に用いる加熱装置の大きさなどに応じて適宜調整することが好ましい。
加熱装置として、炉内寸法が直径30mm、長さ500mmの管状炉を用いる場合、窒素の流速は10mL/min以上20mL/min以下とすることが好ましい。
【0049】
加熱装置としては、上記温度で成形体を不活性ガス雰囲気中において加熱することができる加熱装置であれば特に限定されないが、マッフル炉、管状炉、雰囲気炉等のバッチ式炉;スクリューコンベヤ炉、トンネル炉、ベルト炉、プッシャー炉、竪型連続炉等の連続炉が挙げられる。
【0050】
<骨修復材料>
本開示に係る骨修復材料は、本開示に係る複合体を含む。
本開示に係る骨修復材料の形状は、特に限定されず、骨の損傷部位に適合する形状とすることが好ましい。
骨修復材料を、損傷した骨の修復に用いる場合、骨の損傷部の形状に適合する形状とすることが好ましい。
【0051】
<骨修復材料を使用した骨損傷部の修復方法>
本開示に係る骨損傷部の修復方法は、骨修復材料を骨損傷部位に付設することを含む。
骨修復材料を骨損傷部位に付設する方法としては、例えば、骨修復材料を骨損傷部位に埋め込む方法、ネジ等の固定器具を使用して骨損傷部位に骨修復材料を固定する方法等が挙げられる。
【0052】
骨修復材料を骨損傷部位に埋め込む方法としては、具体的には、骨損傷部位の形状に適合する形状を有する骨修復材料を骨損傷部位に埋め込む方法、又は骨損傷部位の形状に適合するように骨修復材料を成形した後骨修復材料を骨損傷部位に埋め込む方法が挙げられる。
ネジ等の固定器具を使用して骨損傷部位に骨修復材料を固定する方法としては、例えば、ネジを通す穴を備えた骨修復材料を使用し、骨修復材料の任意の穴にネジを差し込み、骨損傷部位を有する生体に含まれる骨(生体骨)にネジを差し込むことで固定する方法が挙げられる。また、ネジと、後述の架橋部材と、を用いて、骨損傷部位に骨修復材料を固定する方法が挙げられる。
【0053】
<医療機器>
本開示に係る医療機器は、本開示に係る骨修復材料を含む。
本開示に係る医療機器としては、例えば、本開示に係る骨修復材料と、固定器具と、を含むことが好ましい。
固定器具としては、例えば、ネジ、架橋部材などが挙げられる。
ネジの材質は特に限定されず、チタン、チタンを含む合金、セラミックなどが挙げられる。
架橋部材とは、本開示に係る骨修復材料と、生体に含まれる骨(生体骨)と、を架橋するものである。架橋部材は、ネジを差し込む穴を少なくとも2つ以上有することが好ましい。架橋部材による、骨修復材料と、生体骨と、を架橋する方法としては、例えば、架橋部材の任意の穴にネジを差し込み、架橋部材を介して骨修復材料にネジを差し込むことで固定した後、架橋部材の他の穴にネジを差し込み、架橋部材を介して生体骨に固定する方法が挙げられる。
架橋部材は板状であることが好ましい。
架橋部材の材質は特に限定されず、チタン、チタンを含む合金、セラミックなどが挙げられる。
【実施例0054】
以下に実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0055】
<実施例1>
(準備工程)
60℃の超純水100mLに対して、2価の脂肪族カルボン酸としてイソフタル酸25.0mmolを添加し、撹拌した。溶液中にアンモニア水を添加し、溶液のpHを5.5に調整した。続いて、カルシウム塩として炭酸カルシウム8.0mmol及びリン酸5.0mmolを溶液に添加し、60℃で6時間撹拌し、溶液中に沈殿が生じたことを確認した。その後、塩酸を用いて溶液のpHを5.0(60℃)に調整し、60℃で30分間撹拌した。溶液に含まれる沈殿をろ過し、40℃の恒温槽内でろ過した沈殿を乾燥することで特定リン酸八カルシウム(Ca8(HPO4)2(C6H4(COO)2)0.94(PO4)4・nH2O(nは式(2)におけるnと同義である))を得た。
【0056】
(成形工程)
特定リン酸八カルシウムを、プレス機(RIKEN SEIKI社製、品名P-168)を用いて成形し、円盤状の成形体(直径20mm、厚さ2mm)を得た。
【0057】
(焼成工程)
成形体を、管状炉(炉内寸法が直径30mm、長さ500mm。以下同一とする。)の炉内に入れた。炉内の温度を5℃/分の昇温速度で昇温し、1000℃とした。その後、成形体を1000℃で、24時間焼成し、放冷することで複合体を得た。なお、焼成工程において、炉内に流した窒素の流速は15mL/minとした。
【0058】
<実施例2>
焼成工程を下記の通りとしたこと以外は、実施例1と同一の手順で複合体を得た。
(焼成工程)
成形体を、管状炉の炉内に入れた。炉内の温度を5℃/分の昇温速度で昇温し、700℃とした。その後、成形体を700℃で、1時間焼成し、放冷することで複合体を得た。なお、焼成工程において、炉内に流した窒素の流速は15mL/minとした。
【0059】
<実施例3>
焼成工程を下記の通りとしたこと以外は、実施例1と同一の手順で複合体を得た。
(焼成工程)
成形体を、管状炉の炉内に入れた。炉内の温度を5℃/分の昇温速度で昇温し、900℃とした。その後、成形体を900℃で、1時間焼成し、放冷することで複合体を得た。なお、焼成工程において、炉内に流した窒素の流速は15mL/minとした。
【0060】
<実施例4>
焼成工程を下記の通りとしたこと以外は、実施例1と同一の手順で複合体を得た。
(焼成工程)
成形体を、管状炉の炉内に入れた。炉内の温度を5℃/分の昇温速度で昇温し、900℃とした。その後、成形体を900℃で、24時間焼成し、放冷することで複合体を得た。なお、焼成工程において、炉内に流した窒素の流速は15mL/minとした。
【0061】
<実施例5>
焼成工程を下記の通りとしたこと以外は、実施例1と同一の手順で複合体を得た。
(焼成工程)
成形体を、管状炉の炉内に入れた。炉内の温度を5℃/分の昇温速度で昇温し、1100℃とした。その後、成形体を1100℃で、24時間焼成し、放冷することで複合体を得た。なお、焼成工程において、炉内に流した窒素の流速は15mL/minとした。
【0062】
<比較例1>
準備工程において、特定リン酸八カルシウムの代わりにCa10(PO4)6(OH)2を準備し、成形工程において特定リン酸八カルシウムの代わりにCa10(PO4)6(OH)2を使用して成形体を得たこと以外は実施例1と同一の手順で焼成体を得た。
【0063】
<物性値の測定>
各例で得た複合体及び焼成体の最大曲げ応力、最大曲げひずみ、ヤング率及びビッカース硬度を既述の手順に従って測定した。その結果を表1に示す。
【0064】
<割れ性評価>
各例で得た複合体又は焼成体(以下、試験片とする)の中央部に、釘(胴部の太さ1.24mm)を試験片の厚さ方向に打ち込んだ。釘の先端が試験片を貫通したときに、試験片が割れなかった場合「合格」とした。一方、釘を打ち込んだ時に試験片が割れた場合「不合格」とした。
図1に合格と判定した場合の試験片及び釘の状態を示す。
図1中、釘は試験片を貫通しており、試験片は円盤の状態を保っている。
図2に不合格と判定した場合の評価後の試験片の状態を示す。
図2は、釘をA付近に打ち込んだ結果、割れた試験片である。
【0065】
【0066】
表1中、最大曲げ応力、最大曲げひずみ、ヤング率及びビッカース硬度の数値は、各物性値を複数測定した結果を示しており、「±」の右側に記載した数値は、「±」の左側に記載した数値からの標準誤差である。
表1中、「-」は該当する物性値を測定していないことを意味する。
表1中、「アパタイト」は、式(1-A)で表されるアパタイトである。
表1中、「リン酸八カルシウム」は、組成式Ca8(HPO4)2(C6H4(COO)2)0.94(PO4)4・nH2O(nは式(2)におけるnと同義である)で表される化合物である。
【0067】
上記結果から、本実施例の複合体は、比較例の焼成体と比較して割れにくいことがわかる。