(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037114
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】受精卵ゲノム編集用デバイス
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240311BHJP
C12M 1/42 20060101ALI20240311BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20240311BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240311BHJP
C12N 5/16 20060101ALN20240311BHJP
【FI】
C12M1/00 A ZNA
C12M1/42
G01N37/00 101
C12N15/09 100
C12N5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141791
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】317012880
【氏名又は名称】株式会社セツロテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】平野 研
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕紀子
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA24
4B029BB11
4B029DC07
4B029DG08
4B029GB10
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AB02
4B065AC20
4B065BA03
4B065BD50
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】
ゲノム編集に限らず受精卵操作は熟練者(胚培養士という資格があるほど)による手作業が基本であるため、時間と人的コストを必要とし多品種少量生産となっているのが現状である。
【解決手段】
本発明の目的は、内部に少なくとも1つの凹部型フローセルを備えるデバイス用の基板であって、上記凹部型フローセルは、第一区画と、第二区画と、上記第一区画と接続する第一接続口及び上記第二区間と接続する第二接続口を備える接続区画と、を備え、上記第一区画は、上記第一区画内に及び/又は外へ流体と複数の標的細胞が移動可能に構成された第一開口部を備え、上記第二区画は、上記第二区画内に及び/又は外へ上記流体が移動可能に構成された第二開口部と、上記第二接続口から流入する上記標的細胞を一列に捕獲するように構成され且つ上記流体が通過するように構成された細胞捕獲柵と、を備える、基板を提供することである。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に少なくとも1つの凹部型フローセルを備えるデバイス用の基板であって、
前記凹部型フローセルは、
第一区画と、
第二区画と、
前記第一区画と接続する第一接続口及び前記第二区間と接続する第二接続口を備える接続区画と、
を備え、
前記第一区画は、前記第一区画内に及び/又は外へ流体と複数の標的細胞が移動可能に構成された第一開口部を備え、
前記第二区画は、
前記第二区画内に及び/又は外へ前記流体が移動可能に構成された第二開口部と、
前記第二接続口から流入する前記標的細胞を一列に捕獲するように構成され且つ前記流体が通過するように構成された細胞捕獲柵と、
を備える、
基板。
【請求項2】
前記第二区画は、前記第二接続口を規定する一対の縁を備え、
前記細胞捕獲柵は、
2つの末端を有する先端柵と、
前記先端柵の各末端とそれぞれの縁の間に延在する2つの側柵と、
を備える、
請求項1に記載の基板。
【請求項3】
前記第一区画は、
前記第一開口部と前記第一接続口との間に延在する主流路と、
前記第一区画内に又は外へ前記流体と前記複数の標的細胞が移動可能に構成された少なくとも1つの副開口部と、
前記主流路と前記副開口部との間に延在する副流路と、
を備え、
前記副流路は、前記副流路を流れる前記流体が主流路を流れる前記流体に対して流体力学的絞込みを発生せることが可能なように前記主流路に接続されている、
請求項1に記載の基板。
【請求項4】
前記主流路は、前記第一接続口に向かって先細りとなるテーパー領域を備える、請求項3に記載の基板。
【請求項5】
前記第一区画は、前記流体中の異物を捕獲するためのフィルターを備える、請求項1に記載の基板。
【請求項6】
前記凹部型フローセルは、前記第一区画と流体連通する第三区画を更に備え、
前記第三区画は、前記細胞捕獲柵に捕獲された前記複数の標的細胞を回収するように構成された第三開口部を備える、
請求項1に記載の基板。
【請求項7】
前記凹部型フローセルは、前記第一区画と流体連通する第四区画を更に備え、
前記第四区画は、前記第四区画内に及び/又は外へ試薬が移動可能に構成された第四開口部を備える、
請求項1に記載の基板。
【請求項8】
請求項1に記載の基板と、
前記基板上に配置する電極セットと、
前記電極セットを挟むように前記基板上に配置されたカバーを備え、
前記基板と前記カバーは、前記基板と前記カバーの間から流体がもれないように一体化されている、デバイス。
【請求項9】
請求項1に記載の基板における前記凹部型フローセルに対応する凹凸を備える、鋳型。
【請求項10】
請求項1に記載の基板と、
電極セットが備わるカバーと、
を含む、デバイス製造キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受精卵ゲノム編集用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
受精卵のゲノム編集は、創薬分野での疾病モデル動物や、畜産動物などの作出で用いられている。ゲノム編集に限らず受精卵操作は熟練者(胚培養士という資格があるほど)による手作業が基本であるため、時間と人的コストを必要とし多品種少量生産となっているのが現状である。
【0003】
特許文献1は、電極スリット上に細胞を載せてエレクトロポレーションを行うためのエレクトロポレーション用チャンバーを開示する。特許文献2は、細胞を流しながらエレクトロポレーションを行うチャンバーが開示されている。特許文献3は、試料を単位処理するフローエレクトロポレーション法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-118291
【特許文献2】特表平11-502133
【特許文献3】特表2008-509653
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1が開示する技術は、手動で細胞を電極スリットに載せる操作を要求するものであり、実験結果が技術者のスキルに依存する問題が存在していた。
【0006】
特許文献2が開示する技術は、細胞を流しながらエレクトロポレーションを行うものであり、未処理の細胞が存在する問題が存在していた。
【0007】
特許文献3が開示する技術は、標的細胞を含む流体の種類をチャンバー内で変更できない問題が存在していた。
【0008】
上記問題により、安定した実験結果を得ることが難しく、また、従来技術は、拡張性が乏しいため改良工程を加えることも困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本研究者らは、鋭意研究の末、上記問題を解消したデバイスの開発に成功した。
【0010】
本発明の目的は、
内部に少なくとも1つの凹部型フローセルを備えるデバイス用の基板であって、
上記基板は、凹部型フローセルを備え、
上記凹部型フローセルは、
第一区画と、
第二区画と、
上記第一区画と接続する第一接続口及び上記第二区間と接続する第二接続口を備える接続区画と、
を備え、
上記第一区画は、上記第一区画内に及び/又は外へ流体と複数の標的細胞が移動可能に構成された第一開口部を備え、
上記第二区画は、
上記第二区画内に及び/又は外へ上記流体が移動可能に構成された第二開口部と、
上記第二接続口から流入する上記標的細胞を一列に捕獲するように構成され且つ上記流体が通過するように構成された細胞捕獲柵と、
を備える、
基板
を提供することである。
【0011】
本基板を備えるデバイスを用いることで、(1)流体と標的細胞の移動を自動で行うことができ、(2)均一の電場条件を受精卵に提供することでエレクトロポレーションの効率を上げることができ、(3)デバイス内で流体の置換を行うことができる。また、細胞を流しながらエレクトロポレーションを行うものとは異なり、高価なゲノム編集用溶液を流し続ける必要が無い。
【0012】
上記第二区画は、上記第二接続口を規定する一対の縁を備えていてもよい。
上記細胞捕獲柵は、2つの末端を有する先端柵と、上記先端柵の各末端とそれぞれの縁の間に延在する2つの側柵と、を備えていてもよい。
【0013】
上記第一区画は、
上記第一開口部と上記第一接続口との間に延在する主流路と、
上記第一区画内に又は外へ上記流体と上記複数の標的細胞が移動可能に構成された少なくとも1つの副開口部と、
上記主流路と上記副開口部との間に延在する副流路と、
を備えていてもよい。
上記副流路は、上記副流路を流れる上記流体が主流路を流れる上記流体に対して流体力学的絞込みを発生せることが可能なように上記主流路に接続されていてもよい。
【0014】
上記主流路は、上記第一接続口に向かって先細りとなるテーパー領域を備えていてもよい。
【0015】
上記第一区画は、上記流体中の異物を捕獲するためのフィルターを備えていてもよい。
【0016】
上記凹部型フローセルは、上記第一区画と流体連通する第三区画を更に備えていてもよい。
上記第三区画は、上記細胞捕獲柵に捕獲された上記複数の標的細胞を回収するように構成された第三開口部を備えていてもよい。
【0017】
上記フローセルは、上記第一区画と流体連通する第四区画を更に備えていてもよい。
上記第四区画は、上記第四区画内に及び/又は外へ試薬が移動可能に構成された第四開口部を備えていてもよい。
【0018】
本発明の別の目的は、
上記基板と、
上記基板上に配置する電極セットと、
上記電極セットを挟むように上記基板上に配置されたカバーを備え、
上記基板と上記カバーは、上記基板と上記カバーの間から流体がもれないように一体化されている、デバイス
を提供することである。
【0019】
本発明の別の目的は、
上記基板における上記凹部型フローセルに対応する凹凸を備える、鋳型。
を提供することである。
【0020】
本発明の別の目的は、
上記基板と、
電極セットが備わるカバーと、
を含む、デバイス製造キット
を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、第一実施形態にかかるデバイス1000の平面斜視図である。
【
図2】
図2は、第一実施形態にかかるデバイス1000の展開平面斜視図である。
【
図3】
図3は、第一実施形態にかかるデバイス1000の底面斜視図である。
【
図4】
図4Aは、平面側視点における第一実施形態にかかるデバイス1000の凹部型フローセル1010の線図である。
図4Bは、平面側視点における別の実施形態にかかる凹部型フローセル1011の線図である。
【
図5】
図5は、
図4に示す接続区画1300の拡大線図である。
【
図6】
図6は、
図4に示す第一区画1100の拡大線図である。
【
図7】
図7は、平面側視点における第一副開口部1141と第二副開口部1142を備える第一区画1100の拡大線図である。
【
図8】
図8は、平面側視点におけるフィルター領域1170に含まれる複数のフィルター部1171の線図である。
【
図9】
図9は、平面側視点における細胞捕獲柵1400の部分拡大線図である。
【
図10】
図10は、平面側視点における細胞捕獲柵1400の部分拡大線図である。
【
図11】
図11は、平面側視点における細胞捕獲柵1400の外側領域に配置された複数の支柱1240の線図である。
【
図12】
図12は、平面側視点における第一実施形態にかかる基板1002上に配置された電極セット1003を示す。
【
図13】
図13は、平面側視点における第二実施形態にかかる凹部型フローセル2010の線図である。
【
図14】
図14は、平面側視点における第三実施形態にかかる凹部型フローセル3010の線図である。
【
図15】
図15は、平面側視点における第四実施形態にかかる凹部型フローセル4010の線図である。
【
図16】
図16は、第五実施形態にかかるデバイス5000の展開平面斜視図である。
【
図18】
図18Aは、支柱の設計図である。
図18Bは、細胞捕獲柵の柱の設計図である。
図18Cは、フィルター部の設計図である。
【
図19】
図19Aは、得られた基板における凹部型フローセルの第二区画の電子顕微鏡写真である。
図19Bは、第一区画(写真左側)、第二区画(写真右側)及び狭小の接続区画(第一区画と第二区画の間)の電子顕微鏡写真である。
図19Cは、細胞捕獲柵の拡大電子顕微鏡写真である。
【
図20】
図20は、電極付きカバーと基板が結合されたデバイスの写真である。
【
図21】
図21は、製造したデバイスを用いた、受精卵のゲノム編集の自動化装置の概略図である。
【
図22】
図22は、細胞捕獲柵において一列に捕獲された受精卵の写真である。
【
図23】
図23は、第三区画を備えるデバイスの基板の設計図である。
【
図24】
図24は、第三区画及び第四区画を備えるデバイスの基板の設計図である。
【
図25】
図25Aは、チャンバー柵の突起部の設計図である。
図25Bは、流路柵の突起部の設計図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
定義
便宜上、本願で使用される特定の用語は、ここに集めている。別途規定されない限り、本願で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。文脈で別途明記されない限り、単数形「a」、「an」及び「the」は複数の言及を含む。
【0023】
本発明で示す数値範囲及びパラメーターは、近似値であるが、特定の実施例に示されている数値は可能な限り正確に記載している。しかしながら、いずれの数値も本質的に、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を含んでいる。また、本明細書で使用する「約」という用語は、一般に、所与の値又は範囲の10%、5%、1%又は0.5%以内を意味する。或いは、用語「約」は、当業者が考慮する場合、許容可能な標準誤差内にあることを意味する。
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、例示であって、本発明の範囲は、以下の実施形態で示すものに限定されない。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑をさけるために、適宜説明を省略する。
【0025】
用語「流路幅」は、流体が流れる方向に対して直交する方向に位置する流路の側面間の距離を意味する。
【0026】
第一実施形態
デバイス1000
図1は、本実施形態にかかるデバイス1000の平面斜視図である。
図2は、本実施形態にかかるデバイス1000の展開平面斜視図である。本実施形態にかかるデバイス1000は、カバー1001と、基板1002と、エレクトロポレーション用電極セット1003(第一電極1003Aと第二電極1003B)を備える。
【0027】
電極セット1003は、カバー1001と基板1002との間に位置する。本実施形態にかかるデバイスは、内部に少なくとも1つのフローセル1010を備える。フローセル1010は、基板1002の表面1002Aに設けられた凹部(本願においては、凹部型フローセル1010とも称する)をカバー1001で覆うことによってデバイス内部に形成される。凹部の深さ(流路深さとも称する)は、使用する標的細胞の直径に応じて変更可能である。標的細胞の直径は、例えば、FACS解析により求めることができる。凹部の深さは、例えば、標的細胞の直径プラス標的細胞の直径の0から50%の深さであってもよい。例えば、標的細胞の直径が100μmの場合、凹部の深さは、100から150μmとすることができる。凹部の深さは、凹部型フローセル1010全体に渡って一定の深さであってもよく、凹部型フローセル1010における特定の領域(例えば、標的細胞が通過する領域)のみの深さ(例えば、標的細胞の直径)を一定にしてもよい。
【0028】
図3は、本実施形態にかかるデバイス1000の底面斜視図である。第一開口部1110、第二開口部1210及び副開口部1140は、基板1002の表面1002Aと裏面1002Bの間を通じた開口であり、デバイス1000のフローセル1010と流体連通している。電極セット1003を備えるカバー1001と基板1002は、カバー1001と基板1002の間から流体が流出しないように(例えば、O
2プラズマ処理によって)接合される。カバー1001と基板1002を接合しても、電極セット1003の一部は、デバイス1000外に露出している。流体は、デバイス1000のフローセル1010内に流すことが可能な液体を意味し、デバイス1000のフローセル1010に細胞を流す場合は、流体は、細胞に適した緩衝液(バッファー)や培地であることが好ましい。
【0029】
基板1002の素材は、例えば、ポリジメチルポリシロキサン(PDMS)であってもよい。基板1002は、基板1002の凹部型フローセル1010に対応する凹凸を備える鋳型を用いて製造することができる。鋳型は、例えば、シリコンウェハ上に製造することができる。シリコンウェハの鋳型は、レジスト塗布工程、マスク露光工程、現像工程、ドライエッチング工程(シリコン深堀り工程)、レジスト除去工程、離型剤処理工程により製造することができる。製造したシリコンウェハの鋳型に基づいてPDMSによるモールディング(型取り)を行い、PDMS製の基板1002を得ることができる。
【0030】
カバー1001の素材は、ガラスであってもよい。電極セット1003の素材は、金であってもよい。電極セット1003付きカバー1001は、スライドガラスに金を蒸着することによって製造することができる。具体的には、電極セット1003付きカバー1001は、レジスト塗布工程、マスク露光工程、現像工程、金属蒸着工程、レジスト除去工程により製造することができる。
【0031】
標的細胞(例えば約1μmから約100μm)は、該デバイスに導入可能な培養細胞から個体由来の単離細胞まで広く各種の細胞が対象となり、例えば、哺乳動物(例えば、マウス、ブタ、イヌ、ウシ及びヒト)の受精卵、体外培養胚、幹細胞、がん細胞、初代細胞、血液細胞、リンパ球細胞や、植物プロトプラスト、真核生物(例えば、酵母、真菌類)、原核生物(例えば、大腸菌)を挙げることができる。ある実施形態において、哺乳動物は、哺乳動物(ヒトを除く)である。
【0032】
凹部型フローセル1010
図4Aは、平面側視点の凹部型フローセル1010の線図である。
図4Aに示す凹部型フローセル1010は、第一区画1100と、第二区画1200と、第一区画1100と接続し且つ第二区間1200と接続する接続区画1300を備える。第一区画1100は、接続区画1300を介して第二区間1200と流体連通している。
【0033】
接続区画1300
図5は、
図4Aに示す接続区画1300の拡大線図である。2本の波線は、省略部分との境界を示す。接続区画1300は、第一区画1100と接続する第一接続口1310と、第二区間1200と接続する第二接続口1320と、を備える。第二区画1200は、第二接続口を規定する一対の縁1320A、1320Bを備える。縁1320A、1320Bは、細胞捕獲柵1400と接続している。接続区画1300は、第一接続口1310と第二接続口1320との間隙の区画であり、例えば、間隙距離を調整することによりデバイス全体の大きさの調整に用いることができる。
【0034】
第一接続口1310と第二接続口1320との間の距離(即ち、流路方向の接続区間1300の長さ)は、自由に設定することができ、例えば、50から600μmであってもよく、後述する通り、0μmとすることもできる。また、接続区間1300の幅(即ち、流路幅)は、標的細胞が通過できる大きさである必要があり、例えば、90から200μm、好ましくは90から150μm、より好ましくは100から125μm(例えば、100又は120μm)であってもよい。
【0035】
凹部型フローセル1011
図4Bは、平面側視点の凹部型フローセル1011の線図である。
図4Bに示す凹部型フローセル1011は、第一接続口1310と第二接続口1320との間の距離が0μmの場合のフローセルを示している。説明の便宜のために、凹部型フローセル1011においては、接続区間1300は、接続口1301としている。凹部型フローセル1011は、第一区画1100は、第一区画1100と第二区画1200の間に位置する接続口1301を介して第二区画1200と直接接続(流体連通)している。言い換えれば、接続口1301は、第一接続口1310と第二接続口1320が重なっている状態、即ち、第一接続口1310と第二接続口1320との間の距離(即ち、流路方向の接続区間1300の長さ)が0μmの状態であるといえる。
【0036】
以下、接続区画1300を備える凹部型フローセル1010について詳述する。接続口1301を備える凹部型フローセル1011の実施形態は、「接続区画」を備えないが、「第一接続口」を「第一区画側の接続口」と、「第二接続口」を「第二区画側の接続口」と、読み替えることで理解できるであろう。
【0037】
第一区画1100
図6は、
図4Aに示す第一区画1100の拡大線図である。第一区画1100は、第一開口部1110と第一接続口1310との間に延在する主流路1120と、少なくとも1つの副開口部1140と、主流路1120と副開口部1140との間に延在する副流路1130と、を備える。第一開口部1110は、第一区画1100内に及び/又は外へ流体と複数の標的細胞が移動可能に構成されている。
【0038】
副開口部1140は、第一区画1100内に又は外へ流体と複数の標的細胞が移動可能に構成されている。
【0039】
主流路1120は、第一開口部1110と接する近位流路1120Aと、第一接続口1310と接する遠位流路1120Cと、近位流路1120Aと遠位流路1120Cの間に位置する中間流路1120Bを備える。副流路1130は、主流路1120の中間流路1120Bに接続している。主流路1120の長さは、例えば、3000から10000μmとすることができる。主流路1120の幅は、例えば、1000から2000μmとすることができる。主流路1120の深さは、例えば、100から150μmとすることができる。
【0040】
副流路1130は、副流路1130を流れる流体が主流路1120を流れる流体に対して流体力学的絞込みを発生せることが可能なように主流路1120に接続されている。言い換えれば、副流路1130は、主流路1120を流れる流体に対する「流体力学的絞込み」の発生を阻害しないように主流路1120に接続している。
【0041】
図6に示す副流路1130は、第一副流路1131と第二副流路1132を含む。第一副流路1131の長さは、例えば、5000から15000μmとすることができる。第一副流路1131の幅は、例えば、500から1000μmとすることができる。第一副流路1131の深さは、例えば、100から150μmとすることができる。第二副流路1132の長さ、幅及び深さは、それぞれ、第一副流路1131の長さ、幅及び深さと同じであることが好ましい。
【0042】
図6に示す主流路1120は、中間流路1120Bの各側面において、それぞれ第一合流口1151と、第一合流口1151に対向する第二合流口1152を備える。第一副流路1131は、副開口部1140から延在し、第一合流口1151に接続している。第二副流路1132は、副開口部1140から延在し、第二合流口1152に接続している。
【0043】
図6に示す主流路1120は、第一接続口1310に向かって流路幅が先細りとなるテーパー領域1160を備えている。テーパー領域1160は、遠位流路1120Cの一部分又は全体を占めていてもよく、近位流路1120Aの一部分又は全部を占めていてもよい。
【0044】
本実施形態において、第一開口部1110からの流体の流れをサンプルストリームと称し、副流路1130の流体の流れをシースストリームと称する。「流体力学的絞込み」(ハイドロダイナミックフォーカシング)は、サンプルストリームの圧力よりもシースストリームの圧力の方が大きい場合に生じるサンプルストリームの狭小化を意味する。本実施形態において、狭小化されたサンプルストリームは、標的細胞が一列に流れる程度に狭小化されたストリームである(以下、コアストリームと称する)。従って、副流路1130は、副流路1130を流れる流体が主流路1120を流れる流体のサンプルストリームをコアストリームとすることが可能なように主流路1120に接続されている。「流体力学的絞込み」は、担体流体に同伴された微細粒子(例えば、細胞)を解析するフローサイトメトリーにおいても用いられている技術であり、「流体力学的絞込み」の条件は、当業者であれば、公知技術(例えば、特開昭53-119086)に基づいて決定することができる。
【0045】
主流路1120を流れる流体は層流であることが好ましい。また、副流路1130の流体は、層流として主流路1120を流れる流体と合流することが好ましい。ここでいう「層流」は、上述の「流体力学的絞込み」の発生を阻害する乱流が生じない流体の流れを意味する。
【0046】
少なくとも1つの副開口部1140は、複数の副開口部1140(第一副開口部1141と第二副開口部1142)を備えてもよい。
図7は、2つの副開口部1140(第一副開口部1141と第二副開口部1142)を備える第一区画1100の拡大線図である。第一副開口部1141は、第一副流路1131と接続しており、第二副開口部1142は、第二副流路1132と接続している。
【0047】
第一区画1100は、異物によりフローセルの目詰まりを防止することなどを目的として、流体中の異物を捕獲するためのフィルター領域1170を備えていてもよい。フィルター領域1170は、近位流路1120Aに配置されていることが好ましい。
図8は、平面側視点のフィルター領域1170に含まれる複数のフィルター部1171の線図である。フィルター部1171の高さは、流路深さと略同じであってもよい。標的細胞を通過させつつ異物を捕獲することができるように、フィルター部1171の形状、寸法及び数並びにフィルター部1171間の間隔及びフィルター部1171と流路の側面との間隔を設定することができる。標的細胞の直径に基づいて、フィルター部1171の形状、寸法及び数並びにフィルター部1171間の間隔及びフィルター部1171と流路の側面との間隔を設定してもよい。例えば、異物として空気中を漂っている衣服等の線維等がデバイスのセットアップの際に偶然に混入することがある。この場合、線維が流路全体を塞ぐことがあることから、フィルター部を設置するフィルター領域1170の流路幅よりもフィルター部1171の間隔が小さければよく、且つ、標的細胞が通過できる間隔であればよく、例えば標的細胞の直径と同じにできる。フィルター部1171の直径は、流路内の流体抵抗を小さくする観点から小さい方が望ましいが、一方で、直径が小さくなるとフィルター部1171の機械的強度が下がるため、流れの力により壊れない大きさにする必要がある。流路方向のフィルター部1171の段数は、確実に異物を捕捉するために2段以上とすることが望ましいが、この限りではない。
【0048】
例えば、フローセルの素材をポリジメリルシロキサンとし、フィルター領域1170の流路幅が5300μm、標的細胞の直径が100μmの場合、フィルター部1171は、直径100から300μm(例えば、直径200μm)の円柱形状を有し、流路幅方向のフィルター部1171間の間隔及びフィルター部1171と流路の側面との間隔を200から400μm(例えば、300μm)、流路方向のフィルター部1171間の間隔を400から600μm(例えば、500μm)としてもよい。
【0049】
第二区画1200
再度、
図4A及び5を参照する。第二区画1200は、第二開口部1210と、接続区画1300と接続するチャンバー1220と、第二開口部1210とチャンバー1220の間に位置する第二流路1230と、を備える。第二開口部1210は、第二区画1200内に及び/又は外へ流体が移動可能に構成されている。第二区画1200のチャンバー1220は、細胞捕獲柵1400を備える。細胞捕獲柵1400は、第二接続口1320から流入する標的細胞を一列に捕獲するように構成され且つ流体が通過するように構成されている。第二開口部1210は、チャンバー1220と直接接続していてもよい。本願明細書において、細胞捕獲柵1400と第二接続口1320によって規定される領域(即ち、標的細胞が一列に捕獲される区画)を細胞捕獲領域1430と称する。本願明細書において、チャンバー1220から細胞捕獲柵1400及び細胞捕獲領域1430を除いた領域をチャンバー領域1221と称する(また、細胞捕獲柵1400の外側領域1221とも称することができる)。
【0050】
細胞捕獲柵1400
図4A及びBの通り、細胞捕獲柵1400は、2つの末端1410A、1410Bを有する先端柵1410と2つの側柵1420A、1420Bを備える。
図5の通り、2つの側柵1420A、1420Bは、第二接続口1320のそれぞれの縁1320A、1320Bから延在する。
図5に示す側柵1420Aの一部は、縁1320Aと物理的に一体化しているが、物理的に一体化していなくてもよい。側柵1420Bと縁1320Bについても同じことが当てはまる。
【0051】
図9は、先端柵1410の各末端1410A、1410Bから延在する2つの側柵1420A、1420Bの部分拡大線図である。細胞捕獲柵1400は、少なくとも5つの柱1401から構成される。柱1401の高さは、流路深さと略同じであってもよい。
【0052】
標的細胞を一列に捕獲するように、柱1401の形状及び寸法並びに柱1401間の間隔を設定することができる。2つの側柵1420A、1420Bは、並行となるように柱1401を配置することが好ましい。柱1401間の間隔は、標的細胞が通ることができない間隔であれば、標的細胞に応じて任意の間隔であってもよい。それぞれの側柵1420A、1420Bにおいて互いに隣接する柱1401間の間隔は、例えば、標的細胞の直径の40、35、30、25、20、15、10、5又は1%であって、これらのうち任意の値の2点間の範囲内であってもよい。また、先端柵1410互いに隣接する柱1401間の間隔は、例えば、標的細胞の直径の40、35、30、25、20、15、10、5又は1%であって、これらのうち任意の値の2点間の範囲内であってもよい。また、
【0053】
例えば、標的細胞の直径が100μmの場合、標的細胞を一列に捕獲するための柱1401の形状及び寸法並びに柱1401間の間隔を以下のように設定することができる。流路方向の柱1401の長さは、20から60μm(例えば、30μm)であり、流路幅方向の柱1401の長さは50から100μm(例えば、60μm)であってもよい。流路幅方向の側柵1420A、1420Bの柱1401間の間隔は、20から40μm(例えば、30μm)であってもよい。側柵1420Aと側柵1420Bとの間の間隔は、90から200μm、好ましくは90から150μm、より好ましくは100から125μm(例えば、100又は120μm)であってもよい。標的細胞の直径が100μm以外の場合は、100μmに対する標的細胞の直径の比率を算出し、当該比率に基づいて、標的細胞に適した柱1401の形状及び寸法並びに柱1401間の間隔を算出することができる。
【0054】
先端柵1410の柱1401の配置は、特に限定するものではないが、半円配置であってもよく(
図9)、線形配置であってもよい(
図10)。例えば、標的細胞の直径が100μmの場合、先端柵1410の柱1401間の間隔は、半円配置場合、1から10μm(例えば、5又は6μm)であってもよい。先端柵1410の各末端1410A、1410Bの柱1401と各側柵1420A、1420Bの柱1401との間の間隔は、半円配置場合、1から10μm(例えば、5又は6μm)であってもよい。先端柵1410の柱1401間の間隔は、線形配置場合、30から70μm(例えば、45又は60μm)であってもよい。先端柵1410の各末端1410A、1410Bの柱1401と各側柵1420A、1420Bの柱1401との間の間隔は、線形配置場合、30から70μm(例えば、45又は60μm)であってもよい。柱1401間の間隔は、細胞捕獲領域1430に近接する柱1401間の間隔を基準に測定される。
【0055】
第二区画1200は、複数の支柱1240を備えていてもよい。
図11は、平面側視点の細胞捕獲柵1400の外側領域(即ち、チャンバー領域1221)に配置された複数の支柱1240の線図を示す。複数の支柱1240は、カバー1001から第二区画1200に加えられる外力による細胞捕獲柵1400の破損又は変形を防ぐことができる。支柱1240の高さは、流路深さと略同じであってもよい。外力による細胞捕獲柵1400の破損又は変形を防ぐことができ、且つ流体の流れを妨げないように、支柱1240、寸法及び数並びに支柱1240間の間隔を設定することができる。たとえば、支柱1240は、直径100から300μm(例えば、直径200μm)の円柱形状を有していてもよい。流路幅方向の支柱1240間の間隔は、200から400μm(例えば、170μm)であってもよい。流路方向の支柱1240間の間隔は、400から600μm(例えば、560μm)であってもよい。
【0056】
電極セット1003
図12は、基板1002上に配置された電極セット1003を示す。なお、説明の便宜のために
図12ではカバー1001を除いて示している。電極セット1003は、細胞捕獲柵1400の長手方向軸と略平行となるように細胞捕獲柵1400を挟むように配置され、且つ、細胞捕獲柵1400と接触しないように、基板1002上に配置される。電極セット1003は、第一電極1003Aと第二電極1003Bを有する。電極セット1003は、細胞捕獲柵1400の外側領域1221(チャンバー領域1221)を部分的に覆うように配置されるように、基板1002上に配置されてもよい。各電極1003A、1003Bは、それぞれ側柵1420A、1420Bに対向するように配置されている。電極セット1003の素材は、限定するものではないが、金でできていてもよい。各電極の形状は、エレクトロポレーションに影響を与えない範囲で、変更可能である。
【0057】
デバイス1000の使用方法
流体及び標的細胞を送ることが可能なポンプを第一開口部1110、副開口部1140及び第二開口部1210に接続する。副開口部1140が第一副開口部1141と第二副開口部1142を備える場合は、第一副開口部1141と第二副開口部1142は、別々のポンプを接続するのが好ましい。第二開口部1210に接続するポンプは、流体を送ることが可能なポンプであってもよい。第二開口部1210に接続するポンプは、エア圧力無脈動ポンプ制御系ポンプであることが好ましい。第二開口部1210に接続するポンプとしてエア圧力無脈動ポンプ制御系ポンプを用いる場合は、第二区画1200からの廃液を貯留する容器は、密閉容器とする。エア圧力無脈動ポンプ制御系ポンプにより密閉容器内の陽圧を制御することで、流体の流速を制御することができる。流体の流速の制御は、第二開口部1210と密閉容器との間にフローセンサを設け、フローセンサによって測定された流体の流速に基づいて密閉容器内の圧力を制御することで達成することができる。第一開口部1110から第二開口部1210に流体が流れるように1又は複数のポンプを稼働させる。細胞捕獲柵1400へ受精卵を移送する際の流体の流速は、100から200μl/minとすることができる。副開口部1140に接続したポンプの流速は、副流路1130を流れる流体が主流路1120を流れる流体に対して流体力学的絞込みを発生せるために必要な流速に調整する。例えば、副開口部1140に接続したポンプの流速は、第一開口部1110に接続したポンプの流速よりも速い。標的細胞を第一開口部1110に接続したポンプからデバイス1000内に流す。細胞捕獲柵1400内に標的細胞が一列に捕獲された後、標的細胞の供給を停止する。副流路1130に接続したポンプからデバイス1000内に試薬を流し、チャンバー1220内を試薬で満たす。試薬は、例えば、細胞溶液を置換するための洗浄溶液やゲノム編集因子を含むゲノム編集溶液を挙げることができる。電極セットに所定の電圧を印加してエレクトロポレーションを実行する。エレクトロポレーション中は、デバイス1000内の流体の流れを完全に停止してもよく、細胞捕獲柵1400内に標的細胞が留まる程度に流体を流してもよい。エレクトロポレーション後は、チャンバー1220内の試薬が流れるまで流体を流し、回収用の溶液に置換してもよい。第二開口部1210から副開口部1140に流体及び細胞が流れるように各ポンプを稼働させる。細胞捕獲柵1400から受精卵を回収する際の流体の流速は、100から800μl/minとすることができる。副開口部1140が第一副開口部1141と第二副開口部1142を備える場合は、第一副開口部1141か第二副開口部1142のいずれかに接続したポンプを稼働させてもよい。副開口部1140から標的細胞を回収する。
【0058】
第二実施形態
凹部型フローセル2010
図13は、別の実施形態にかかる凹部型フローセル2010の線図を示している。本実施形態にかかる凹部型フローセル2010は、第一区画2100と流体連通する第三区画2500を備えている点で第一実施形態にかかる凹部型フローセル1010と異なる。
【0059】
第三区画2500は、第三開口部2510を備える。第三開口部2510は、細胞捕獲柵2400に捕獲された複数の標的細胞を回収するように及び/又は細胞捕獲柵2400へゲノム編集用溶液を導入するように構成されている。第三開口部2510は、第三流路2520を介して副流路2130の第二副流路2132と流体連通している。第三開口部2510は、第三流路2520を介して副流路2130の第一副流路2131と流体連通していてもよい。
【0060】
第三開口部2510から標的細胞を回収する場合は、流体及び標的細胞を送ることが可能なポンプを第三開口部2510に接続し、第二開口部1210から第三開口部2510に流体及び細胞が流れるように各ポンプを稼働させる。
【0061】
第三実施形態
凹部型フローセル3010
図14は、別の実施形態にかかる凹部型フローセル3010の線図を示している。本実施形態にかかる凹部型フローセル3010は、第一区画3100と流体連通する第三区画3500と、第一区画3100と流体連通する第四区画3600を備えている点で第一実施形態にかかる凹部型フローセル1010と異なる。
【0062】
第三区画3500は、第三区画3500内に及び/又は外へ流体が移動可能に第三開口部3510と、副流路3130の第二副流路3132と流体連通している第三流路3520と、第三開口部3510と第三流路3520との間に位置する細胞回収チャンバー3530と、を備える。第三区画3500は、副流路3130の第一副流路3131と流体連通していてもよい。細胞回収チャンバー3530は、第三流路3520から第三開口部3510への標的細胞の移動を遮断するように構成され且つ流体が通過するように構成されたチャンバー柵3540を備える。また、第三区画3500は、並列して複数個設置してもよい。
【0063】
第四区画3600は、第四区画3600内に及び/又は外へ試薬が移動可能に構成された第四開口部3610と、副流路3130の第二副流路3132と流体連通している第四流路3620と、第四開口部3610と第四流路3620との間に位置する試薬チャンバー3630と、を備える。第四区画3600は、副流路3130の第一副流路3131と流体連通していてもよい。第四流路3620は、第四流路3620と副流路3130の第二副流路3132との境界線上に標的細胞の移動を遮断するように構成され且つ流体が通過するように構成された流路柵3640を備える。また、第三区画3600は、並列して複数個設置してもよい。
【0064】
チャンバー柵3540及び流路柵3640の構成は、側柵1420A、1420Bと同じ構成とすることができる。
【0065】
使用の際には、第三開口部3510に流体を送ることが可能なポンプを接続し又は/及び第三開口部3510を解放し、第四開口部3610に流体及び試薬を送ることが可能なポンプを接続する。
【0066】
第四開口部3610に接続したポンプから試薬チャンバー3630内に試薬を流し、試薬チャンバー3630を試薬で満たす。細胞捕獲柵3400内に標的細胞が一列に捕獲され、標的細胞の供給が停止した後、第四開口部3610に接続したポンプから試薬チャンバー3630内に所定の溶液(例えば、水溶液に溶解しないパラフィン)を流し、試薬チャンバー3630の試薬をチャンバー3220へ移動させる。
【0067】
細胞捕獲柵3400から第三開口部3510の細胞回収チャンバー3530へ標的細胞を回収する場合は、第二開口部3210から第三開口部3510に流体及び細胞が流れるように各ポンプを稼働させる。細胞回収チャンバー3530から副開口部3140へ標的細胞を移動させて、標的細胞を回収する場合は、第三開口部3510から副開口部3140に流体及び細胞が流れるように各ポンプを稼働させる。
【0068】
第四実施形態
凹部型フローセル4010
図15は、別の実施形態にかかる凹部型フローセル4010の線図を示している。本実施形態にかかるフローセル4010は、第一区画4100において、第一開口部4110と第一接続口4310との間に延在する主流路4120と、第一区画4100内に又は外へ流体が移動可能に構成された少なくとも1つの第一開口部4110のみを備えている。
【0069】
使用の際には、本実施形態にかかる凹部型フローセル4010は、第一開口部4110から第一区画4100内に標的細胞を一列して流入させることができる装置(例えば、フローサイトメーター)と接続してもよく、個々の細胞が間隔をあけて流れてくるように細胞溶液を希釈させて第一開口部4110から第一区画4100内に流入させてもよい。
【0070】
チャンバー4220内に試薬を導入する場合は、第一開口部4110に接続した上記装置からチャンバー4220内に試薬を流し、チャンバー4220を試薬で満たす。
【0071】
細胞捕獲柵4400から標的細胞を回収する場合は、第二開口部4210から第一開口部4110に流体及び細胞が流れるようにポンプ及び上記装置を稼働させる。
【0072】
第五実施形態
図16は、別の実施形態にかかるデバイス5000の展開平面斜視図である。デバイス5000は、2つの凹部型フローセル5010(第一凹部型フローセル5011と第二凹部型フローセル5012)と、第一電極5003A、第二電極5003B及び第三電極5003Cを備える電極セット5003を備える点で第一実施形態にかかるデバイス1000と異なる。
【0073】
第一凹部型フローセル5011及び第二凹部型フローセル5012は、第一実施形態にかかる凹部型フローセル1010と同じ構成を有する。
【0074】
第一凹部型フローセル5011と第二凹部型フローセル5012の間の電極(第二電極5003B)を共通にすることによって、電極の数をへらすことができる。
【実施例0075】
実施例1
1-1 デバイスの作製
図17に示すフローセルを備えるデバイスの基板を製造した。製造したデバイスは、2つのフローセルを備える。
図18Aは、支柱の形状を示す。
図18Bは、細胞捕獲柵の柱の形状を示す。
図18Cは、フィルター部の形状を示す。凹部の深さは、100μmとした。細胞捕獲柵の側柵間の間隔は、100μmとした。
【0076】
デバイスの基板は、デバイスの基板の鋳型から製造した。鋳型は、4インチシリコンウェハ基板(厚さ:1000μm±25μm、面方位100、P型、≧1Ω・cm)上に製造した。シリコンウェハの鋳型は、硫酸過水により洗浄を行った後、レジスト塗布工程、マスク露光工程、現像工程、ドライエッチング工程(シリコン深堀り工程)、レジスト除去工程、離型剤処理工程により製造した。また左記工程は全てイエロークリーンルーム内で実施された。
【0077】
1-2 レジスト塗布工程
具体的には、レジスト塗布工程では、硫酸過水により洗浄を行ったシリコンウェハ基板上にポジ型フォトレジストAZP4620(AZ Electronic Materials社製)をスピンコーター(ミカサ社製 1H-DX2)により3500rpm、30秒にて塗布し、その後110℃で10分間のプリベークを行った。
【0078】
1-2 マスク露光工程
マスク露光工程では、左記レジスト塗布済みのシリコンウェハ基板とフローチャンバーのデザインが描画されたフォトマスクを片面マスクアライナ(ミカサ社製MA-10型)にセットし、1200mJ/cm2でghi線により露光した。フォトマスクは、事前に5インチマスクブランク(クリーンサアフェイス技術社製 CBL5006Du-AZP)上にフローチャンバーのデザインをマスクレス露光装置(大日本化研社製 MX-1204)により描画し、現像液 NMD-3(東京応化工業社製)による現像の後、クロムエッチング(林純薬社製 Crエッチング液TK)を行い、硫酸過水によるレジスト除去兼マスク洗浄を行うことにより作製したものを用意した。
【0079】
1-3 現像工程
現像工程では、露光されたシリコンウェハ基板は、現像液NMD-3(東京応化工業社製)により現像を行い、100℃、5分間のポストベークを施した。
【0080】
1-4 ドライエッチング工程
ドライエッチング工程では、左記現像されたシリコンウェハ基板をシリコン深掘りエッチング装置(SPPテクノロジーズ社製 MUC-21 ASE Pegasus)にセットし、深さが100μmとなるまでC4F8, SF6, O2ガスによりボッシュプロセスにてシリコンエッチングをPC制御の下で実行した。
【0081】
1-5 レジスト除去工程
レジスト除去工程では、左記ドライエッチング済みのシリコンウェハ基板上のレジストを硫酸過水により除去した後、基板上の残渣レジストを除去するために反応性イオンエッチング装置(サムコ社製 RIE-10NR)によりO2アッシングを行った。離型剤処理では、0.1%(vol/vol)バリヤコートNo.6(信越シリコーン社製)をスピンコーターで3000rpm、30秒で塗布した後、70℃、2分間ベークした。
【0082】
1-6 デバイス基板
デバイス基板は、上述の工程により作製したシリコンウェハ上の鋳型より作製した。具体的には、はじめにシリコーンエラストマーである熱硬化型PDMS(ポリジメチルシロキサン)(ダウコーニング社製 Silgard 184)の主材と硬化剤を重量比10:1で混合し調製した。該調製済みPDMSを該鋳型へ流し込み、100℃、30分加熱することでPDMSを熱硬化させた。熱硬化したPDMSを鋳型より剥離することで、モールディング(型取り)によりPDMS製の基板を得た。
【0083】
図19Aは、得られた基板における凹部型フローセルの第二区画の走査型電子顕微鏡写真を示している。
図19Bは、第一区画(写真左側)、第二区画(写真右側)及び狭小の接続区画(第一区画と第二区画の間)の走査型電子顕微鏡写真を示している。
図19Cは、細胞捕獲柵の拡大した走査型電子顕微鏡写真を示している。
【0084】
1-7 電極付きカバー
電極付きカバーは、スライドガラスに金を蒸着することによって製造した。電極付きカバーは、レジスト塗布工程、マスク露光工程、現像工程、金属蒸着工程、レジスト除去(リフトオフ)工程により製造した。また左記工程の内、金属蒸着工程以外は、全てイエロークリーンルーム内で実施された。
【0085】
1-8 レジスト塗布工程
具体的には、レジスト塗布工程では、硫酸過水により洗浄を行ったスライドガラス(松浪硝子工業社製、76×26mm、厚さ1.0から1.2mm)上にポジ型レジストTSMR-V90(東京応化工業社製)をスピンコーター(ミカサ社製 1H-DX2)により2000rpm、30秒にて塗布し、その後110℃で8分間のプリベークを行った。
【0086】
1-9 マスク露光工程
マスク露光工程では、左記レジスト塗布済みのスライドガラスと電極のデザインが描画されたフォトマスクを片面マスクアライナ(ミカサ社製MA-10型)にセットし、200mJ/cm2でi線により露光した。フォトマスクは、事前に5インチマスクブランク(クリーンサアフェイス技術社製 CBL5006Du-AZP)上に電極のデザインをマスクレス露光装置(大日本化研社製 MX-1204)により描画し、現像液 NMD-3(東京応化工業社製)による現像の後、クロムエッチング(林純薬社製 Crエッチング液TK)を行い、硫酸過水によるレジスト除去兼マスク洗浄を行うことにより作製したものを用意した。
【0087】
1-10 現像工程
現像工程では、露光されたスライドガラスは、現像液NMD-W(東京応化工業社製)により現像を行った後、超純水により3回洗浄を行った。
【0088】
1-11 金属蒸着工程
金属蒸着工程では、真空蒸着装置(アルバック社製)に左記現像済みスライドガラスをセットした後、クロムと金をタングステンボートに載せ80Aの一定電流で加熱し、クロム、金の順に重ねて蒸着した。蒸着金属膜の厚さは、成膜コントローラー(アルバック社製)により各々の膜厚が約100nmとなるように制御した。
【0089】
1-12 レジスト除去工程
レジスト除去工程では、左記蒸着済みスライドガラスをN,N-ジメチルホルムアミドに2分間浸しレジストを溶解させることで、リフトオフ法によりレジスト除去に伴い電極の金属パターンをスライドガラス上に形成した。その後、エタノールにより3回洗浄した後、風乾した。
【0090】
1-13 デバイス
図20は、電極付きカバーと基板が結合されたデバイスを示している。該デバイスは、PDMS基板と電極付きスライドガラスの各々の接合面にO
2プラズマを照射し(サンユー電子社製 SC-708、1kV、10mA)、照射後1分以内に貼り合わせることで永久接合し、一体化させた。
【0091】
実施例2
マウス受精卵の整列配置
2―1 精子の採取
本実施例に用いた上記マウス受精卵は、以下の通り調製したものを用いた。1匹の2から3ヶ月齢の成熟雄マウス(日本SLC C57L/6N系統)を、頚椎脱臼により中枢神経を破壊し安楽死させた。その後、精巣上体尾部のみを切り取り、濾紙上で血液や脂肪を除去した。ノエス剪刀で尾部中央の精巣上体管を切開し、精巣上体管尾部表面を軽く押さえることにより、精巣上体管切開部から精子塊を押しだし採取した。精子塊を、CO2インキュベーター(37℃, 5% CO2, 95% air)内で温めた精子前培養培地(CARD FERTIUP(登録商標)マウス精子前培養培地:九動株式会社)に導入し、継続してCO2インキュベーター中で37℃、30-60分間の前培養に供した。
【0092】
2―2 卵子の採取
妊馬血清性性腺刺激ホルモンを腹腔内注射後46から48時間後にヒト絨毛性性腺刺激ホルモンを腹腔内注射し過排卵処理を施した雌マウス(日本SLC C57L/6N系統)をヒト絨毛性性腺刺激ホルモン腹腔内注射15から17時間後に頸椎脱臼により中枢神経を破壊し安楽死させた。卵管のみを切り出し、濾紙上で血液や脂肪を除去した。卵管を受精用培地mHTF(ミネラルオイルで培地を覆ったディッシュ)のミネラルオイル部分に入れ、ピンセットで卵管を押しつけることにより固定し、精密ピンセットで膨大部の卵管壁を引き裂き、放出した卵子塊をmHTFに入れた。CO2インキュベーター内に静置し、30-60分間の前培養に供した。
【0093】
2―3 媒精処理
上述前培養した精子懸濁液1-10μlを上述前培養した卵子を含む受精用培地に添加した。媒精が終了した受精用培地をCO2インキュベーター内に戻し、培養した。媒精から3時間後、形態的に正常な卵子のみを光学顕微鏡で確認して選別し、ガラスキャピラリーを用いて受精卵をKSOM培地で洗浄した。洗浄を3回繰り返し、後述する自動化装置に供する直前に、洗浄された受精卵をガラスキャピラリーで回収し、M2培地(アーク・リソース株式会社製)に懸濁した。
【0094】
2―4 自動化処理(デバイス洗浄~受精卵導入~ゲノム編集溶液導入)
図21は、製造したデバイスを用いた、マウス受精卵のゲノム編集の自動化装置の概略図を示している。デバイスを用いたゲノム編集の自動化処理工程では、受精卵等溶液のセット工程、デバイス洗浄工程、受精卵導入工程、ゲノム編集用溶液導入工程、エレクトロポレーション工程、回収工程により実施した。
【0095】
また、
図21中の溶液バルブAからCは1-6方ロータリー自動切り替えバルブ((株)フロム社製)、溶液バルブD及びEは6方スイッチング自動切り替えバルブ((株)フロム社製)、送液ポンプはペリスタポンプ(アトー(株))、エア圧力無脈動ポンプ制御系ポンプ本体はElveFlow Microfluidic Pump(ELVESYS社製 AF1-Dual)、同エアバルブ1及び2は電動汎用エアバルブ、フローセンサはElveFlow Microfluidic Flow Sensor(ELVESYS社製 MFS)であり、フローセンサを除いて、いずれもUSBケーブル、パラレルケーブル等によりデスクトップPCもしくはマイクロチップコンピュータ(Arduino Uno)に接続されている。フローセンサは、エア圧力無脈動ポンプ制御系ポンプ本体に接続されている。デバイスの電極部には、エレクトロポレーション用電源(ベックス社製 CUY21 EDITII)を接続した。
【0096】
2―5 受精卵等溶液のセット工程
具体的には、受精卵等溶液のセット工程では、はじめに溶液バルブAの入力ポート4に5mLのディスポーザブルシリンジ(テルモ社製)の外筒のみを筒先が下となるように垂直かつデバイス設置位置よりも物理的に高い位置にセットした。該ディスポシリンジに1mLのM2培地を満たし、上述M2培地に懸濁した約100μlのマウス受精卵溶液をゆっくりと導入した。
【0097】
2―6 デバイス洗浄工程
デバイス洗浄工程では、自動化装置にデバイスをセットした後、溶液バルブA(入力ポート1)、溶液バルブB(入力ポート1)、溶液バルブC(入力ポート1)をセットし、デバイスの第一開口部及び副開口部と70%(vol/vol)エタノールのボトルとの配管が通じるように設定した。また、溶液バルブD(入力ポート2)とドレイン(廃液ボトル)とが通じるように設定した。この配管接続設定にて送液ポンプを流速3mL/min、3分間作動させ、デバイスの第一開口部及び副開口部からフローセル内全体に70%(vol/vol)エタノールを送り、第二開口部から排出し、フローセル内の洗浄を行った。その後すぐに、培地への溶液置換に先立ち、溶液バルブA(入力ポート2)のみを切り替え、同じ送液条件にて第一開口部及び副開口部から超純水をフローセル内全体に通液させ、溶液置換を行った。続いて、M2培地へ溶液置換を行うため、溶液バルブA(入力ポート3)のみを切り替え、同じ送液条件にて第一開口部及び副開口部からM2培地をフローセル内全体に通液させた。
【0098】
2―7 受精卵導入工程
受精卵導入工程では、副開口部方向へ受精卵溶液が流れ込まないように溶液バルブCにおいて入力ポート2(止栓)に設定した。その上で、溶液バルブBにおいて入力ポート4(受精卵溶液)に設定しデバイスの第一開口部から細胞捕獲柵へ流速180μl/minで受精卵を導入した。受精卵溶液はデバイス上部に設置されており、重力(位置エネルギー)により受精卵溶液をデバイス内に導入する際、受精卵溶液の流速を制御するために、エア圧力無脈動ポンプ制御系ポンプ本体を陽圧制御モードとし、エアバルブ1を開、エアバルブ2を閉とした。これにより、ドレイン用密閉容器内の陽圧を制御することで、該陽圧力と受精卵溶液の位置エネルギーとのバランスによりデバイスに導入される受精卵溶液の流速を制御した。陽圧力の制御は、デバイスの第二開口部と溶液バルブDの入力ポート2の間にフローセンサを設置することで流速をモニタし、エア圧力無脈動ポンプ制御系ポンプ本体へ流速信号を帰還させるフィードバック制御により行った。マウス受精卵は、細胞捕獲柵において一列に捕獲された(
図22)。
【0099】
2―8 ゲノム編集用溶液導入工程
ゲノム編集用溶液導入工程では、溶液バルブEにおける液クロ用サンプルループ(10μl容量)にゲノム編集用溶液が満たされるように導入した。ゲノム編集用溶液は、Cas9タンパク質(200ng/μL)、crRNA(200ng/μL)、tracrRNA(200ng/μL)の組成とした。マウス受精卵におけるゲノム編集はCRISPR/Cas9法を用いて実施した。具体的には、野生型マウス受精卵のFgf10遺伝子にindelsを導入することを目的とした。CRISPR/Cas9とFgf10遺伝子を認識しindelsするためのcrRNA(5’-GGAGAGGACAAAAAACAAGAGUUUUAGAGCUAUGCU-3’ (配列番号:1))、tracrRNA(5’-AGCAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGCUUU-3’ (配列番号:2))はIDT社の化学合成品を使用した。
【0100】
2―9 エレクトロポレーション工程
エレクトロポレーション工程では、溶液バルブBを入力ポート3にセットし、かつ溶液バルブEの6方スイッチングバルブをスイッチングさせ、ゲノム編集因子を含むゲノム編集用溶液のサンプルループが第一開口部へと通じるように設定した。この状態で溶液バルブE(入力ポート3)に接続したシリンジポンプ((株)ワイエムシィ社製 YSP-201)により50mLシリンジ内のM2培地を流速50μl/minで排出し、サンプルループ内のゲノム編集用溶液を押し出す要領で第一開口部を第一開口部から注入し、第二区画のチャンバーをゲノム編集溶液で満たした。チャンバー内を満たすゲノム編集溶液と電気的に接した電極セットにエレクトロポレーション用電源から電圧を印加し、ゲノム編集因子をエレクトロポレーションにより受精卵へ導入した。エレクトロポレーションは、10Hz、デューティー比3%の矩形パルスを、1セットあたり+50V 1パルス、-50V 1パルスを、合計3セット印加することで行った。
【0101】
2―10 回収行程
回収行程では、エレクトロポレーション後、溶液バルブAを入力ポート3に、溶液バルブB及びCを入力ポート1にし、デバイスの第一開口部及び副開口部からフローセル内全体に流速約180μl/minでM2培地を送り、第二開口部から排出し、フローセル内の溶液置換を行った。続いて、第一開口部方向へ受精卵が流れ込まないように溶液バルブBにおいて入力ポート2(止栓)に設定した。その上で、溶液バルブCにおいて入力ポート6(回収容器)に設定した。同時に、エア圧力無脈動ポンプ制御系ポンプ本体を陽圧制御モードとし、エアバルブ(1)を閉、エアバルブ(2)を開とした。これにより、回収用M2培地の密閉容器内を陽圧とし、第二開口部から第一開口部へのM2培地の流れを生じさせた。このときの流速を500μl/minにフローセンサでフィードバック制御し、細胞捕獲柵内のゲノム編集済み受精卵を第一開口部、溶液バルブC(入力ポート6)を経由して、回収容器(2.0mL エッペンドルフチューブ)に約1mL回収した。
【0102】
2―11 ゲノム編集効率評価
回収したゲノム編集済みの受精卵をキャピラリーにて、事前にCO2インキュベーター(CO2濃度 5%、37℃)中で平衡化されたKSOM培地に移し、該CO2インキュベーター中で24から72時間培養した。培養により得られた2細胞期から桑実胚よりDNAを抽出し、ゲノム編集の標的遺伝子領域をPCR法で増幅させた。PCR条件は、KOD FX Neo(TOYOBO KFX-201)、mfgf10-Fw primer:5’-TGACTCTTCTGTTGTTAGCGTTG-3’ (配列番号:3)、mfgf10-Rev primer:5’-ACATCCAAAGCCTTCCTTCC-3’ (配列番号:4)を用いて、以下のPCRサイクル条件にて行った。最初に98℃2分で変性後、以下のサイクルを40回行った。変性温度:98℃10秒、アニーリング温度:65℃30秒、伸長反応温度:68℃40秒。増幅させた標的遺伝子領域をサンガーシーケンスもしくはNGS(次世代シーケンス)を用いて解析することで、ゲノム編集効率を評価した。
【0103】
3回実施したゲノム編集の結果、50%、60%、100%のゲノム編集効率を得た。現在用いている手作業とほぼ同等の効率を得た。
【0104】
実施例3
図23に示すフローセルを備えるデバイスの基板を製造した。製造方法は、実施例1の製造方法と同じとした。実施例3の基板は、実施例1の基板同様、受精卵を細胞捕獲柵において一列に捕獲することができた(不図示)。実施例3におけるエレクトロポーションの条件は、実施例2の条件と同じとした。
【0105】
マウス受精卵を細胞捕獲柵において一列に捕獲後に、第三開口部(
図21において、溶液バルブEのポート2(溶液出口)を第三開口部に接続を変更している)からゲノム編集因子を含むゲノム編集用溶液を注入した。エレクトロポレーション後、デバイスの第二開口部からフローセル内にM2培地を送り溶液置換を行い、第三開口部からバッファーとゲノム編集済みの受精卵を回収した。これによって、受精卵を含むバッファーを回収することができた(不図示)。
【0106】
実施したゲノム編集の結果、75%のゲノム編集効率を得た。現在用いている手作業とほぼ同等の効率を得た。
【0107】
実施例4
図24に示すフローセルを備えるデバイスの基板を製造した。
図25Aは、チャンバー柵の突起部の形状を示す。
図25Bは、流路柵の突起部の形状を示す。製造方法は、実施例1の製造方法と同じとした。実施例4の基板は、実施例1の基板同様、受精卵を細胞捕獲柵において一列に捕獲することができた(不図示)。
【0108】
ゲノム編集因子を含むゲノム編集溶液を第四開口部から注入し、試薬チャンバーをゲノム編集溶液7μLで満たした。流動パラフィンをシリンジポンプにより第四開口部から注入し(
図21において、シリンジポンプの溶液をM2培地から流動パラフィンに変更し、且つ、シリンジポンプの接続先を第四開口部に変更した。また左記により
図21の溶液バルブEは使用していない)、試薬チャンバーのゲノム編集溶液を第二区画のチャンバーに移動させ、第二区画のチャンバーをゲノム編集溶液で満たした。実施例4におけるエレクトロポーションの条件は、実施例2の条件と同じとした。
【0109】
エレクトロポレーション後、デバイスの第二開口部からフローセル内にバッファーを送り、解放した(何も接続していない)第三開口部からバッファーを排出しつつ、細胞回収チャンバー内にゲノム編集済みの受精卵を一時的に留めた。受精卵の導入、エレクトロポレーション、細胞回収チャンバー内への受精卵の回収というサイクルを複数回続けた。
【0110】
第三開口部から細胞回収チャンバー内にバッファーを送り、副開口部からバッファーとゲノム編集済みの受精卵を回収した。これによって、上記サイクルを連続して実行することができた(不図示)。
【0111】
実施したゲノム編集の結果、63%のゲノム編集効率を得た。現在用いている手作業とほぼ同等の効率を得た。