(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037148
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】走査要素およびこの走査要素を備えた誘導式位置測定機構
(51)【国際特許分類】
G01D 5/245 20060101AFI20240311BHJP
【FI】
G01D5/245 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023136273
(22)【出願日】2023-08-24
(31)【優先権主張番号】22194068
(32)【優先日】2022-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】390014281
【氏名又は名称】ドクトル・ヨハネス・ハイデンハイン・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】DR. JOHANNES HEIDENHAIN GESELLSCHAFT MIT BESCHRANKTER HAFTUNG
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】マルティン・シュテルケル
(72)【発明者】
【氏名】イェンス-マルティン・ゲーレ
(72)【発明者】
【氏名】トビアス・ヒューブナー
(72)【発明者】
【氏名】エーリヒ・シュトラッサー
(72)【発明者】
【氏名】ヘルベルト・エーダー
(72)【発明者】
【氏名】カイ・ホルシュタイン
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク・エンソルツナー
(72)【発明者】
【氏名】カリン・ジャヌスゼウスキー
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト・ズィーゲル
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA21
2F077CC02
2F077NN16
2F077PP06
2F077PP09
2F077QQ06
2F077TT06
(57)【要約】
【課題】誘導式位置測定機構用の、比較的正確に働き、かつ安価に製造可能な走査要素を提供すること。
【解決手段】本発明は、誘導式位置測定機構用の走査要素(1)であって、励磁トラック(Sa、Si)および受信トラック(Ri、Ra)、金属素材からなる土台(1.3)を有し、かつシールド層構造(1.2)を含む、走査要素(1)に関する。シールド層構造(1.2)は、誘電特性を有する第1の層(1.21)および導電性である第2の層(1.22)を含む。シールド層構造(1.2)は、土台(1.3)と受信トラック(Ri、Ra)との間および/または土台(1.3)と励磁トラック(Sa、Si)との間に配置されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導式位置測定機構用の走査要素(1)であって、
- 励磁トラック(Sa、Si)および受信トラック(Ri、Ra)を含み、
- 金属素材からなる土台(1.3)を有し、かつ
- 少なくとも1つの
- 誘電特性を有する第1の層(1.21)および
- 導電性である第2の層(1.22)を含む、
シールド層構造(1.2)を含み、
前記シールド層構造(1.2)が、
前記土台(1.3)と前記受信トラック(Ri、Ra)との間および/または
前記土台(1.3)と前記励磁トラック(Sa、Si)との間に配置されている、走査要素(1)。
【請求項2】
前記第1の層(1.21)が1mm未満の厚さを有する、請求項1に記載の走査要素(1)。
【請求項3】
前記シールド層構造(1.2)の前記第2の層(1.22)が物理気相成長により施されている、請求項1または2に記載の走査要素(1)。
【請求項4】
前記シールド層構造(1.2)が、誘電性の前記第1の層(1.21)と導電性の前記第2の層(1.22)との間に配置されている第3の層(1.23)を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の走査要素(1)。
【請求項5】
前記走査要素(1)が、第1の導電性の層(1.12)および第2の導電性の層(1.14)を含む多層のセンサ構造(1.1)を有し、少なくとも1つの前記励磁トラック(Sa、Si)および少なくとも1つの前記受信トラック(Ri、Ra)が、前記導電性の層(1.12、1.14)の構造化によって生成されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の走査要素(1)。
【請求項6】
前記第2の導電性の層(1.14)と前記シールド層構造(1.2)との間に絶縁層(1.15)が配置されており、前記絶縁層(1.15)と前記第2の層(1.22)との間に第4の層(1.24)が配置されている、請求項5に記載の走査要素(1)。
【請求項7】
前記シールド層構造(1.2)が、第3の層(1.23)および第4の層(1.24)を有し、前記シールド層構造(1.2)の前記第2の層(1.22)が、前記第3の層(1.23)と前記第4の層(1.24)との間に配置されている、請求項1から6のいずれか一項に記載の走査要素(1)。
【請求項8】
前記シールド層構造(1.2)が、第3の層(1.23)および/または第4の層(1.24)を有し、前記シールド層構造(1.2)の前記第2の層(1.22)が、前記第3の層(1.23)および/または前記第4の層(1.24)に隣接しており、前記第3の層(1.23)および/または前記第4の層(1.24)の材料がクロムを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の走査要素(1)。
【請求項9】
前記層構造(1.2)の前記第1の層(1.21)が少なくとも2.5μmの厚さを有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の走査要素(1)。
【請求項10】
前記走査要素(1)が少なくとも1つの電子部品(1.4)を含み、かつ前記シールド層構造(1.2)が、前記土台(1.3)と少なくとも1つの前記電子部品(1.4)との間に配置されている、請求項1から9のいずれか一項に記載の走査要素(1)。
【請求項11】
少なくとも1つの前記電子部品(1.4)が、前記受信トラック(Ri、Ra)によって受け取られた信号を評価するために用いられる、請求項10に記載の走査要素(1)。
【請求項12】
少なくとも1つの前記電子部品(1.4)が、前記励磁トラック(Sa、Si)に導入可能な励磁電流を発生させるために用いられる、請求項10または11に記載の走査要素(1)。
【請求項13】
前記走査要素(1)が、電子回路に割り当てられている少なくとも1つの電子部品(1.4)を含み、前記回路が、規定通りにグラウンド電位(GND)のための端子として用いられる接続要素(1.7)と電気的に接続されており、前記第2の層(1.22)が前記接続要素(1.7)と電気的に接続されている、請求項1から12のいずれか一項に記載の走査要素(1)。
【請求項14】
前記第2の層(1.22)が、導線(1.6)を介して前記接続要素(1.7)と電気的に接続されており、前記導線(1.6)内で、オーム抵抗(1.6a)とコンデンサ(1.6b)とが並列接続されている、請求項13に記載の走査要素(1)。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の走査要素(1)およびスケール要素(2)を含む誘導式位置測定機構であって、前記走査要素(1)が、前記スケール要素(2)に向かい合って、前記スケール要素(2)に対して相対的に移動可能に配置されている、誘導式位置測定機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スケール要素と走査要素との間の相対的な位置を決定するための請求項1に基づく誘導式位置測定機構用の走査要素およびこのような走査要素を備えた位置測定機構に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導式位置測定機構は、例えば互いに対して相対的に回転可能な機械部分の角度位置を決定するための角度測定機器として使用される。誘導式位置測定機構ではしばしば、励磁トラックおよび受信トラックが例えば導体路の形態で、共通のたいていは多層のプリント基板上に施されており、このプリント基板は、例えば角度測定機器の固定子と固定的に結合されている。このプリント基板に対向してスケール要素が存在し、このスケール要素上には目盛構造が施されており、かつスケール要素は角度測定機器の回転子として用いられる。励磁トラックの励磁導体路に、時間と共に交番する励磁電流が印加されると、受信トラックの受信導体路内で、回転子と固定子との間の相対回転中に角度位置に依存する信号が生成される。これらの信号はその後、評価電子機器内でさらに処理される。
【0003】
このような誘導式位置測定機構はしばしば、電気駆動装置のための測定機器として、相応の機械部分の相対運動または相対位置の決定に用いられる。この場合には、後続電子機器の生成された角度位置値が、駆動装置の制御のために、相応のインターフェイス構成を介して供給される。
【0004】
誘導式位置測定機構はさらに、軸に沿った長手方向変位を直接的に測定するためにもしばしば使用される。これに関しては上記の角度測定機器の場合と同じ測定原理が適用され、ただしこの場合、受信トラックおよび目盛構造は直線的な軸に沿って走る。
【0005】
本出願人のEP3702737A1から、金属素材からなる土台を有する誘導式角度測定機構が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の基礎となる課題は、誘導式位置測定機構用の、比較的正確に働き、かつ安価に製造可能な走査要素を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は本発明により、請求項1の特徴によって解決される。
測定方向に沿った位置を測定するための誘導式位置測定機構に適しており、そのために決定されている走査要素は、少なくとも1つの励磁トラックおよび少なくとも1つの受信トラックを含む。励磁トラックは、1つまたは複数の励磁導体路を含むことができ、受信トラックは、とりわけ第1の受信導体路および任意選択で第2の受信導体路を含み得る。走査要素はさらに、金属素材から製造された土台を有する。走査要素はこれに加え、少なくとも1つの誘電性の第1の層および導電性の第2の層を含むシールド層構造を含む。シールド層構造は、測定方向に垂直な方向に関し、土台と少なくとも1つの受信トラックとの間に配置されている。その代わりにまたはそれに加えて、シールド層構造は、土台と少なくとも1つの励磁トラックとの間に配置されている。
【0009】
測定方向は、直線方向または周方向もしくは接線方向であり得る。励磁トラックおよび受信トラックは、とりわけ測定方向に沿って走る。
本発明のさらなる形態では、第1の層が、1mm未満、とりわけ0.50mm未満、有利には0.10mm未満の厚さを有する。
【0010】
シールド層構造の導電性の第2の層が、物理気相成長により、とりわけシールド層構造の誘電性の第1の層上に施されていることが有利である。
シールド層構造がこれに加えて第3の層および第4の層を有することが有利である。その際、第3の層は、シールド層構造の誘電性の層と導電性の層との間に配置されていてもよい。
【0011】
本発明のさらなる形態では、走査要素が、多層のプリント基板または導体フィルムの構造に対応する多層のセンサ構造を有する。つまりここでは、走査要素の層(Lage)とは(構造化された)層(Schicht)のことである。センサ構造は、少なくとも1つの第1の導電性の層および第2の導電性の層を含む。励磁トラックおよび受信トラックは、これらの導電性の層の構造化によって生成された。したがってセンサ構造は、構造化された導電性の層を含み、これらの層内に、少なくとも1つの励磁トラックおよび少なくとも1つの受信トラックが配置されている。本発明のさらなる形態では、センサ構造は正確に2つの導電性の層を有し、これらの層内を少なくとも1つの励磁トラックおよび少なくとも1つの受信トラックが走る。
【0012】
第2の導電性の層とシールド層構造との間に絶縁層が配置されることが有利である。加えて、この絶縁層と導電性の層との間に第4の層が配置され得る。シールド層構造の導電性の第2の層が、第3の層と第4の層との間に配置されることが有利である。第3の層の材料および/または第4の層の材料はクロムを含み得る。したがって第3および第4の層は、比較的高い導電性を有する材料からなる。ただし、第3の層と第4の層とを合わせて、導電性の層の厚さの50%未満である。
【0013】
シールド層構造の誘電性の第1の層が、少なくとも2.5μm、とりわけ少なくとも5μm、有利には少なくとも20μmの厚さを有することが有利である。
本発明のさらなる形態では、走査要素は、少なくとも1つの電子部品を含み、これに関しシールド層構造、つまり導電性の第2の層は、土台と少なくとも1つの電子部品との間に配置されている。つまりそれに従えばこの実施形態では、シールド層構造、つまり導電性の第2の層は、少なくとも1つの電子部品の領域の下にも広がっている。
【0014】
とりわけ、少なくとも1つの電子部品は、受信トラックによって受け取られた信号を、そこに内包された位置情報に関して評価可能に形成されている。それはつまり、受信トラックによって生成可能で、とりわけ評価回路を構成する少なくとも1つの電子部品によってさらに処理可能な信号である。走査要素は複数の電子部品を有することができ、これらの電子部品は(評価)回路に電気的に接続されている。これらの接続は、とりわけ、相応に構造化された第1および第2の層内を走る導体路として形成されている。
【0015】
本発明の有利な形態では、少なくとも1つの電子部品が、励磁トラックに導入可能な励磁電流の発生または生成に適している。つまり励磁トラックに励磁電流を通電可能であり、励磁電流は、通常は、時間と共に交番する電流強度を有する(交流電流または混合電流)。励磁電流は、少なくとも1つの電子部品によって発生可能であり、つまり励磁電流の軌道は電子部品によって成形可能である。電流強度と電圧強度との間に物理的な関連性が存在することにより、もちろん励磁電圧にも同じ考察が行われ得る。
【0016】
少なくとも1つの電子部品は、走査要素のうち土台とは反対の側に取り付けることができ、したがってそれに応じてセンサ構造および少なくとも1つの電子部品は、土台に対して同じ側に配置されている。
【0017】
電子回路が、導線を介してグラウンド電位に接続可能であることが有利であり(electronic ground)、かつシールド層構造の少なくとも1つの導電性の第2の層は、この導線と電気的に接続している。この導線は、オーム抵抗およびコンデンサを有することができ、このオーム抵抗とコンデンサとは並列接続されている。シールド層構造、とりわけその導電性の第2の層が、中断なく平面的に形成されていることが有利である。シールド層構造の導電性の第2の層がビアを介して導線と接続されていることが有利である。とりわけ、導線は、規定通りにグラウンド電位のための端子として用いられる接続要素と電気的に接続されていてもよい。この場合、第2の層が接続要素と電気的に接続されている。接続要素とは、例えば差込みコネクタの要素、つまりプラグ要素、またはハンダ接続のことであり得る。
【0018】
これに対して土台は、例えば導電性のハウジング、例えばモータハウジングに取り付けることができ、したがって土台はモータハウジングを介して接地されている。土台とシールド層構造の導電性の第2の層とが直接的に相互に電気的に接続されておらず、とりわけ相互に接地されていない場合が特に好ましいことが分かった。
【0019】
シールド層構造は、ノイズ場のシールドに用いられ、これにより受信トラック内および/または励磁トラック内および場合によっては電子部品内でノイズが発生しない。同時にシールド層構造は、このシールド層構造によりそれでも希望信号が必要な強度で受信可能であるように形成されており、したがって正確な位置決定が可能である。
【0020】
土台が0.5mm超の厚さを有することが有利である。
さらなる一態様に基づき、本発明は、走査要素およびスケール要素を備えた誘導式位置測定機構も含み、この走査要素は、スケール要素に向かい合って、スケール要素に対して相対的に移動可能に配置されている。
【0021】
ついでに言えば、シールド層の使用は、光学的な、容量性の、または磁気的な原理に基づいて働く走査要素の場合も、とりわけ走査要素の電子部品のノイズ場からのシールドのために有意義であり得る。
【0022】
本発明の有利な形成形態は従属請求項から読み取れる。
本発明による走査要素のさらなる詳細および利点は、添付の図に基づく一例示的実施形態の以下の説明から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に基づく走査要素1および
図2に基づくスケール要素2を有する位置測定機構を用いて本発明が説明される。位置測定機構を組み立てた状態では、走査要素1とスケール要素2とは軸方向に離隔して向かい合っており、スケール要素2は、走査要素1に対して軸Aの周りを相対的に回転可能に配置されている。軸Aは、
図1および
図2では図平面に直交に方向づけられている。走査要素1はスケール要素2を走査するために用いられる。つまり、この位置測定機構により、スケール要素2の周方向における位置、つまり角度位置または回転位置が決定され得る。
【0025】
図3では、走査要素1の部分領域の断面が示されている。それによれば走査要素1は、第1の導電性の層1.12および第2の導電性の層1.14を有するセンサ構造1.1を含む。第1の導電性の層1.12および第2の導電性の層1.14は、紹介している例示的実施形態では、約12μm厚の銅層として形成されている。第1の導電性の層1.12と第2の導電性の層1.14との間に第1の絶縁層1.11が配置されている。第2の絶縁層1.13および第3の絶縁層1.15も、導電性の層1.12、1.14のそれぞれ第1の絶縁層1.11とは反対の側に配置されている。絶縁層1.11、1.13、1.15は、紹介している例示的実施形態では、それぞれ約20μmの厚さのポリイミドからなる。紹介している例示的実施形態では、センサ構造1.1は非常に薄く形成されており、約100μmの厚さを有し、したがってここでは多層フィルムと言ってもよく、この多層フィルムは、原理的には多層の(フレキシブル)プリント基板に対応する。
【0026】
第1の導電性の層1.12および第2の導電性の層1.14は、
図1に従って励磁トラックSa、Siおよび受信トラックRa、Riが存在するように構造化されている。
両方の励磁トラックSa、Siは、紹介している例示的実施形態では、それぞれ複数の並列している励磁導体路を含む。励磁導体路または励磁トラックSa、Siは、受信トラックRa、Riを包囲しており、かつ軸Aの周りを周方向に沿って走る。
【0027】
受信トラックRa、Riの各々は、紹介している例示的実施形態では、それぞれ4つの受信導体路Rax、Rix(
図1を参照)を含み、受信導体路Rax、Rixは周方向にずれて配置されており、したがってずれに相応して4つの移相した信号をもたらし得る。それぞれの受信トラックRa、Riの受信導体路Rax、Rixは、ビアと結合して、センサ構造1.1の第1の導電性の層1.12内と第2の導電性の層1.14内を交互に走り、したがって交点では望ましくない短絡が回避される。受信導体路Rax、Rixは、実質的に正弦波形にまたは正弦波状に形成されている空間的に周期的な軌道を有する。内側の受信トラックRiの受信導体路Rixは、外側の受信トラックRaの受信導体路Raxとは違う周期長を有する。受信導体路Rax、Rixはそれぞれ、一つには0°および90°の信号、もう一つには45°および135°の信号をもたらすようにずれて電気的に接続されている。0°および90°の信号から第1の位置信号を決定でき、45°および135°の信号から第1の位置信号に対して冗長な第2の位置信号が決定され得る。
【0028】
これに加えて走査要素1は、
図1では概略的にしか図示されていない多数の電子部品1.4を備えた電子回路を有する。電子回路は、紹介している例示的実施形態では、ASICチップも含む。
【0029】
受信導体路Rax、Rixによって受信された信号は、電子回路に、とりわけ評価回路として働く領域に導かれる。
これに加えて走査要素1は、紹介している例示的実施形態では差込みコネクタのピンとして形成されている接続要素1.7を有する。接続要素1.7またはピンは、規定通りに走査要素1の動作中にグラウンド電位GNDに接続するために用いられる。ついでに言えば、差込みコネクタは、多芯出力ケーブルをつなぐために決定されており、なかでも電気エネルギーを走査要素に供給するために、および後続電子機器に信号を伝送するために用いられる。
【0030】
走査要素1は、機械的補強のために、金属素材からなる比較的厚い土台1.3を有し、とりわけ土台1.3は軟質磁性素材から製造され得る。紹介している例示的実施形態では、土台1.3は鋼鉄からなり、1.5mmの厚さを有する。
【0031】
図3に示されるように、土台1.3とセンサ構造1.1との間にシールド層構造1.2が配置される。シールド層構造1.2は、誘電性の、つまり電気絶縁性の第1の層1.21および導電性の第2の層1.22を含む。誘電性の第1の層1.21は土台1.3上に施されており、紹介している例示的実施形態では30μmの厚さのポリイミド層である。
図4に基づき、シールド層構造1.2はこれに加えて第3の層1.23および第4の層1.24を含む。走査要素1の製造の過程で、土台1.3が誘電性の第1の層1.21でコーティングされる。その後、第1の層1.21上に第3の層1.23が施され、この第3の層1.23はクロムからなり、30nmの厚さしかない。クロムからなるこの第3の層1.23上に、銅からなる第2の層が200nmの厚さで施され、この第2の層が、導電性の第2の層1.22である。その後、この第2の層1.22上に第4の層1.24が施され、この第4の層もまたクロムからなり、30nmの厚さを有する。紹介している例示的実施形態では、導電性の第2の層1.22ならびに第3および第4の層1.23、1.24は、物理気相成長(PVD法)によって施された。とりわけここではスパッタリング法または陰極スパッタリング法が実施された。その後、このシールド層構造1.2上に絶縁層1.15が、次いでセンサ構造1.1のさらなるコンポーネントが施される。最後に電子部品1.4の装着が行われる。
【0032】
シールド層構造1.2は、ビア1.5を介して電気導線1.6と接続されている。電気導線1.6は、紹介している例示的実施形態では、オーム抵抗1.6aおよびそれに並列接続されたコンデンサ1.6bを含む。電子部品1.4を含む電子回路は導線1.6を介してグラウンド電位GNDと接続されている。例えば、位置測定機構は、走査要素1に取り付けられた差込みコネクタ1.7(
図1)を介して後続電子機器と接続され得る。このために差込みコネクタ1.7に出力ケーブルがつながれてもよく、この出力ケーブルは、走査要素1の外に配置された後続電子機器のグラウンドまたはアースと電気的に接続された少なくとも1つの芯線を有する。
【0033】
つまり、導電性の第2の層1.22は導線1.6を介し、規定通りにグラウンド電位GNDを有する差込みコネクタ1.7、つまり差込みコネクタ1.7のピンと電気的に接続されており、このグラウンド電位GNDは、紹介している例示的実施形態では0Vである。一方ではコンデンサ1.6bによって高周波ノイズ信号が導出され得、他方ではオーム抵抗1.6aを有する並列枝により、電荷を流し出せることが保証される。これによりノイズエネルギーが、導線1.6を介して(紹介している例示的実施形態ではこれに加えて差込みコネクタ1.7および接続ケーブルを介して)導出される。
【0034】
第3の層1.23および第4の層1.24は、付着促進剤としてまたは酸素バリアとして働く。とりわけ、第4の層1.24により、酸素が絶縁層1.15を越えて導電性の層1.22へと突き進むことが阻止される。酸素は、導電性の層1.22の材料、ここでは銅と反応するであろう。加えてこの反応が、第2の層1.22と第3の層1.23との間および特に第2の層1.22と第4の層1.24との間の付着特性を最小化させるであろう。とりわけ、上記の効果によりシールド機能が損なわれるであろう。
【0035】
導電性の第2の層1.22は、エッチング法により、第2の層1.22の縁が土台1.3の縁に対して後方にずれるように構造化される(
図1を参照)。導電性の第2の層1.22は、土台1.3と、励磁トラックSa、Si、受信トラックRi、Ra、および電子回路の電子部品1.4との間で面全体に広がっている。紹介している例示的実施形態では、第3の層1.23および第4の層1.24が導電性のクロムから製造されてはいるが、シールド作用の本質的な部分は銅からなる第2の層1.22によって達成される。これは一つには、クロムと比べた銅のより高い導電性に起因するが、しかし特に、第3の層1.23および第4の層1.24の厚さ(それぞれ30nm)と比べた第2の層1.22のはるかに大きな厚さ(200nm)に起因する。
【0036】
走査要素1は、導電性の第2の層1.22が土台1.3に対して電気絶縁されて配置されるように、つまり第2の層1.22が土台1.3と電気的に接続しないように形成されている。
【0037】
図2では、円板状の形状を有するスケール要素2が俯瞰図で示されている。スケール要素2は、図示した例示的実施形態ではエポキシ樹脂から製造されている支持体からなり、この支持体上に2つの目盛トラック2.1、2.2が配置されている。目盛トラック2.1、2.2はリング状に形成されており、かつ軸Aに対して同心円状に、異なる直径で支持体上に配置されている。目盛トラック2.1、2.2は、交互に配置された導電性目盛領域2.11、2.21と非導電性目盛領域2.12、2.22とのそれぞれ周期的なシーケンスからなる目盛構造を含む。導電性目盛領域2.11、2.21用の材料として、示した例では銅が支持体上に施された。これに対し非導電性目盛領域2.12、2.22では支持体がコーティングされなかった。2つの目盛トラック2.1、2.2を有する構成により、スケール要素2の角度位置はそれぞれアブソリュート方式で決定され得る。スケール要素2の最も外側の目盛トラック2.1は、円周線に沿ってより多数の目盛領域2.11、2.12を有し、したがって目盛領域2.11、2.12により、角度位置の測定に関するより高い分解能が達成可能である。
【0038】
組み立てられた状態では、走査要素1とスケール要素2とが、(軸Aに関する)軸方向の間隔または軸方向の空隙をあけて向かい合っており、したがってスケール要素2と走査要素1とが相対的に回転すると、受信トラックRa、Riの導体路内で、それぞれの角度位置に依存する信号がそれぞれ誘導効果によって生成可能である。相応の信号が形成される前提条件は、励磁トラックSa、Siが、それぞれ走査される目盛構造の領域内で、時間と共に交番する電磁励起場を生成することである。図示した例示的実施形態では、励磁トラックSa、Siが、平行平面で電流に貫流される複数の単一導体路として形成されている。走査要素1の電子回路は、評価要素としてだけでなく、励磁制御要素としても働き、この励磁制御要素の制御下で励磁電流が発生または生成され、この励磁電流はその後、励磁トラックSa、Siを貫流する。したがって励磁トラックSa、Siは、1つの同じ励磁制御要素によって通電される。
【0039】
励磁トラックSa、Siが通電されると、その周りに管状にまたは円筒形に方向づけられた電磁場を形成する。この生じている電磁場の力線は励磁トラックSa、Siの周りを走り、この力線の方向は、公知のように励磁トラックSa、Si内の電流方向に依存する。導電性目盛領域2.11、2.21の領域で渦電流が誘導され、これにより、それぞれ角度位置に依存した場の変調が達成される。これに相応して受信トラックRa、Riにより、それぞれ相対的な角度位置が測定され得る。受信導体路はそれらの受信トラックRa、Ri内で、それぞれ90°移相した信号をもたらすように配置されており、これにより回転方向の決定も行われ得る。受信トラックRa、Riによって生成される信号は、評価回路によってさらに処理される。
【0040】
土台1.3は金属素材からなり、位置測定機構の動作中に規定通りに、例えば接地された金属ハウジングとの接触により、地電位と電気的に接続されている(
図1を参照)のではあるが、追加的なシールド層構造1.2により、測定信号の有意な改善が達成できた。これに関して重要なのは、一方ではシールド層構造1.2により、ノイズ場に対する良好なシールド作用が達成され、ただし他方ではシールド層構造1.2が、誘導式位置測定機構の希望信号を決定的に弱めてはいけないということである。本発明に基づく走査要素1により、高品質の位置信号が生成され得る。シールド層構造1.2、とりわけ導電性の第2の層1.22は、走査要素1の回路のグラウンド電位GNDと電気的に接続されており、かつ有利には、動作中に接地されている土台1.3と電気的に接続されているのではなく、第1の層1.21によって土台1.3から電気絶縁および離隔されている。
【符号の説明】
【0041】
1 走査要素
1.1 センサ構造
1.12 第1の導電性の層
1.14 第2の導電性の層
1.15 絶縁層
1.2 シールド層構造
1.21 誘電性の第1の層
1.22 導電性の第2の層
1.23 第3の層
1.24 第4の層
1.3 土台
1.4 電子部品
1.5 ビア
1.6 導線/電気導線
1.6a オーム抵抗
1.6b コンデンサ
1.7 接続要素/差込みコネクタ
2 スケール要素
2.1 目盛トラック
2.11 導電性目盛領域
2.12 非導電性目盛領域
2.2 目盛トラック
2.21 導電性目盛領域
2.22 非導電性目盛領域
A 軸
GND グラウンド電位
Ra、Ri 受信トラック
Rax、Rix 受信導体路
Sa、Si 励磁トラック
【外国語明細書】