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特開2024-37197炭素質材料、蓄電デバイス用負極、蓄電デバイス、及び炭素質材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037197
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】炭素質材料、蓄電デバイス用負極、蓄電デバイス、及び炭素質材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20240312BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240312BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20240312BHJP
   H01G 11/32 20130101ALI20240312BHJP
【FI】
C01B32/05
H01M4/587
H01M4/133
H01G11/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141826
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(72)【発明者】
【氏名】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】西村 尚大
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼井 淳
【テーマコード(参考)】
4G146
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB01
4G146AC13A
4G146AC13B
4G146AC16A
4G146AC16B
4G146AD25
4G146BA11
4G146BA31
4G146BC03
4G146BC23
4G146BC41
4G146BC47
4G146CB11
4G146CB19
4G146CB35
5E078AA01
5E078AA05
5E078AB02
5E078BA16
5E078BA44
5E078BA47
5E078BA53
5E078BB02
5E078BB13
5E078DA03
5E078DA06
5H050AA07
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB07
5H050GA02
5H050GA05
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA13
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】本発明は、負極層として適用される際に、重量あたりの高い放電容量と優れた電流効率を有すると共に、繰り返しの充放電を経ても高い放電容量を維持することができる蓄電デバイスを提供することが可能であり、かつ電極の歩留まりを改善できる塗工性に優れた炭素質材料を提供することを目的とする。
【解決手段】元素分析による、窒素元素含有量が1.0質量%以上であり、酸素元素含有量が0.6質量%以上2.0質量%以下であり、水素元素含有量が0.1質量%以下であり、蛍光X線分析によるリン元素含有量が0.1質量%以上2.0質量%以下である、炭素質材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
元素分析による、窒素元素含有量が1.0質量%以上であり、酸素元素含有量が0.60質量%以上2.0質量%以下であり、水素元素含有量が0.1質量%以下であり、蛍光X線分析によるリン元素含有量が0.1質量%以上2.0質量%以下である、炭素質材料。
【請求項2】
X線回折測定による炭素面間隔(d002)が3.65Å以上である、請求項1に記載の炭素質材料。
【請求項3】
レーザーラマン分光法により観測されるラマンスペクトルにおいて、1360cm-1付近のピークの半値幅の値が210cm-1以上である、請求項1に記載の炭素質材料。
【請求項4】
蓄電デバイスの負極用炭素質材料である、請求項1に記載の炭素質材料。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の炭素質材料を含む、蓄電デバイス用負極。
【請求項6】
請求項5に記載の蓄電デバイス用負極を含む、蓄電デバイス。
【請求項7】
以下の工程:
(1)糖類骨格を有する化合物、及び窒素含有化合物を混合して混合物を得る工程、
(2)前記混合物を、不活性ガス雰囲気下、500~900℃で熱処理して炭化物を得る工程、
(3)前記炭化物を粉砕及び/又は分級する工程
(4)粉砕及び/又は分級された前記炭化物を、不活性ガス雰囲気下、1100~1600℃で熱処理する工程、及び
(5)前記熱処理物にカルボン酸化合物または糖類骨格を有する化合物を混合し、100℃~300℃で熱処理して炭素質材料を得る工程
を少なくとも含み、
(a)前記工程(4)における熱処理よりも前に、糖類骨格を有する化合物、該化合物を含む混合物、又は、該混合物の炭化物と、リン含有化合物とを混合する工程
を含む、請求項1~4のいずれかに記載の炭素質材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素質材料、蓄電デバイス用負極、蓄電デバイス、及び炭素質材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電デバイスは、電気化学的な現象を利用する二次電池及びキャパシタ等のデバイスであり、広く利用されている。例えば、蓄電デバイスの1つであるリチウムイオン二次電池は、携帯電話やノートパソコンのような小型携帯機器に広く用いられている。リチウムイオン二次電池の負極材料としては、黒鉛の理論容量372mAh/gを超える量のリチウムのドープ(充電)及び脱ドープ(放電)が可能な難黒鉛化性炭素が開発され(例えば特許文献1)、使用されてきた。
【0003】
難黒鉛化性炭素は、例えば石油ピッチ、石炭ピッチ、フェノール樹脂、植物を炭素源として得ることができる。これらの炭素源の中でも、例えば糖化合物などの植物由来の原料は、栽培することによって持続して安定的に供給可能な原料であり、安価に入手できるため注目されている。また、植物由来の炭素原料を焼成して得られる炭素質材料には、細孔が多く存在するため、良好な充放電容量が期待される(例えば特許文献1及び特許文献2)。
【0004】
また、リチウムイオン二次電池等の負極として使用され得る炭素質材料として、炭素元素以外の種々の元素を特定量含むように調整した炭素質材料(特許文献3)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/009332号
【特許文献2】国際公開第2019/009333号
【特許文献3】特開2009-200014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~3の炭素質材料では、高い充放電容量を発現する負極材料として使用されることが知られてはいるものの、蓄電デバイスの様々な用途において、負極のさらなる高容量化と電流効率の向上に対する要求はなお存在する。また、繰り返しの充放電を経ても高い放電容量を維持することが求められる。さらに電極として塗工する際に、炭素質材料の凝集等によるブツが電極上に生じることで、電極の歩留まりが低下する可能性があった。したがって、本発明は、負極層として適用される際に、重量あたりの高い放電容量と高い電流効率を有すると共に、繰り返しの充放電を経ても高い放電容量を維持することができる蓄電デバイスを提供することが可能であり、かつ電極の歩留まりを改善できる塗工性に優れた炭素質材料を提供することを目的とする。また、本発明は、そのような炭素質材料を含む蓄電デバイス用負極、及びそのような蓄電デバイス用負極を含む蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意研究した結果、炭素質材料における窒素元素含有量、酸素元素含有量、水素元素含有量、及びリン元素含有量を所定の範囲内とすることによって、重量あたりの高い放電容量と、優れた電流効率を有すると共に、繰り返しの充放電を経ても高い放電容量を維持することが可能な蓄電デバイスに適しており、かつ電極の歩留まりを改善できる塗工性に優れた炭素質材料を得られることが分かった。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕元素分析による、窒素元素含有量が1.0質量%以上であり、酸素量が0.60質量%以上2.0質量%以下であり、水素元素含有量が0.1質量%以下であり、蛍光X線分析によるリン元素含有量が0.1質量%以上2.0質量%以下である、炭素質材料。
〔2〕X線回折測定による炭素面間隔(d002)が3.65Å以上である、〔1〕に記載の炭素質材料。
〔3〕レーザーラマン分光法により観測されるラマンスペクトルにおいて、1360cm-1付近のピークの半値幅の値が210cm-1以上である、〔1〕又は〔2〕に記載の炭素質材料。
〔4〕蓄電デバイスの負極用炭素質材料である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の炭素質材料。
〔5〕〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の炭素質材料を含む、蓄電デバイス用負極。
〔6〕〔5〕に記載の蓄電デバイス用負極を含む、蓄電デバイス。
〔7〕以下の工程:
(1)糖類骨格を有する化合物、及び窒素含有化合物を混合して混合物を得る工程、
(2)前記混合物を、不活性ガス雰囲気下、500~900℃で熱処理して炭化物を得る工程、
(3)前記炭化物を粉砕及び/又は分級する工程
(4)粉砕及び/又は分級された前記炭化物を、不活性ガス雰囲気下、1100~1600℃で熱処理する工程、及び
(5)前記熱処理物にカルボン酸化合物または糖類骨格を有する化合物を混合し、100℃~300℃で熱処理して炭素質材料を得る工程
を少なくとも含み、
(a)前記工程(4)における熱処理よりも前に、糖類骨格を有する化合物、該化合物を含む混合物、又は、該混合物の炭化物と、リン含有化合物とを混合する工程
を含む、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の炭素質材料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、重量あたりの高い放電容量と、優れた電流効率を有すると共に、繰り返しの充放電を経ても高い放電容量を維持することが可能な蓄電デバイスに適しており、電極の歩留まりを改善できる塗工性にも優れた炭素質材料を提供することができる。なお、本明細書中では、初回の電流効率と繰り返し充放電後の容量維持率を掛け合わせたものを全効率と定義し、全効率が高い電池を上記の特性に優れた電池とする。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明を以下の実施形態に制限する趣旨ではない。
【0011】
本明細書において、蓄電デバイスとは、炭素質材料を含有する負極を含み、かつ電気化学的な現象を利用するデバイス全般をいう。具体的には、蓄電デバイスは、例えば、充電により繰り返し使用が可能である、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素二次電池、ニッケルカドミウム二次電池等の二次電池及び電気二重層キャパシタ等のキャパシタ等を含む。これらのうち、蓄電デバイスは、二次電池、特に非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン電池、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池、全固体電池、有機ラジカル電池等)であってよく、中でもリチウムイオン二次電池であってよい。
【0012】
本発明の炭素質材料は、重量あたりの高い放電容量と、優れた電流効率を有すると共に、繰り返しの充放電を経ても高い放電容量を維持することが可能な蓄電デバイスを提供するのに適しているのみでなく、電極の歩留まりを改善できる塗工性にも優れた炭素質材料である。すなわち本発明の炭素質材料は、元素分析による窒素元素含有量が1.0質量%以上であり、酸素量が0.60質量%以上2.0質量%以下であり、水素元素含有量が0.1質量%以下であり、蛍光X線分析によるリン元素含有量が0.1質量%以上2.0質量%以下である。
【0013】
本発明の炭素質材料の蛍光X線分析によるリン元素含有量は0.1質量%以上2.0質量%以下である。リン元素含有量は、炭素質材料を蛍光X線分析して得られる分析値である。リン元素含有量が0.1質量%未満である場合、充放電時にリチウムイオンを吸脱着するサイトが少なくなるため、重量あたりの放電容量及び電流効率を十分に高めることができない。リン元素含有量は、放電容量及び電流効率をより高めやすい観点から、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは0.7質量%以上、さらにより好ましくは0.9質量%以上、とりわけ好ましくは1.2質量%以上である。また、リン元素含有量が2.0質量%を超える場合、リチウムイオンを不可逆的に吸着するサイトが発生しやすくなり、繰り返しの充放電において容量を維持しにくくなり、高い放電容量を維持することが難しくなる。繰り返しの充放電後も高い放電容量を維持しやすい観点から、本発明の炭素質材料の蛍光X線分析によるリン元素含有量は2.0質量%以下であり、好ましくは1.9質量%以下、より好ましくは1.8質量%以下、さらに好ましくは1.75質量%以下である。炭素質材料の蛍光X線分析によるリン元素含有量は、炭素質材料を製造する際に添加され得るリン元素含有化合物の添加量を調整すること、熱処理を施す温度、時間を調整すること等により、上記の範囲に調整することができる。
【0014】
本発明の炭素質材料の元素分析による窒素元素含有量は1.0質量%以上であり、水素元素含有量は0.1質量%以下である。窒素元素含有量及び水素元素含有量は、炭素質材料を元素分析して得られる分析値である。炭素質材料が窒素元素を1.0質量%以上含むと共に、水素元素含有量が0.1質量%以下であることによって、リン元素のみを含む炭素質材料や水素元素含有量が高い炭素質材料に比べて、放電容量と電流効率をさらに高められ、かつ、繰り返しの充放電を経ても高い放電容量を維持することができることを見出した。窒素元素を含まずリン元素を含む炭素質材料においては、リン元素が酸化されやすいことに由来して、電流効率が低下する場合がある。これに対し、窒素元素とリン元素を共に含む炭素質材料は、理由は明らかではないが、リン元素の還元が起きやすく、酸素元素含有量が小さくなる傾向にあり、電流効率を高めることができると考えられる。加えて、窒素元素含有量が1.0質量%未満である場合、炭素面が互いに近接することにより充放電時にリチウムイオンを吸脱着するサイトが少なくなるため、この点でも、重量あたりの放電容量を十分に高めることができないと考えられる。また、水素元素含有量が0.1質量%を超える炭素質材料の場合には、Liイオンと電解液との反応などの副反応が生じやすくなり、その結果、Liイオンの不可逆容量が増加し、繰り返しの充放電を経ても高い放電容量を維持するということが難しくなると考えられる。これに対し、水素元素含有量が0.1質量%以下であることによって、このような副反応を抑制できると考えられる。
【0015】
窒素元素含有量は、放電容量と電流効率をより高めやすい観点から好ましくは1.10質量%以上、より好ましくは1.15質量%以上、さらに好ましくは1.20質量%以上である。また、窒素元素含有量の上限は、充放電を繰り返した時の放電容量低下抑制及び電流効率向上の観点から、好ましくは8.0質量%以下、より好ましくは6.0質量%以下、さらに好ましくは5.0質量%以下、さらにより好ましくは4.0質量%以下、とりわけ好ましくは2.0質量%以下、とりわけより好ましくは1.5質量%以下、ことさら好ましくは1.30質量%以下、ことさらより好ましくは1.28質量%以下である。炭素質材料の元素分析による窒素元素含有量は、炭素質材料を製造する際に添加され得る窒素含有化合物の添加量を調整すること、熱処理を施す温度、時間を調整する等により、上記の範囲に調整することができる。
【0016】
水素元素含有量は、充放電を繰り返した時の放電容量低下抑制及び電流効率向上の観点から、好ましくは0.10質量%以下、より好ましくは0.08質量%以下、さらに好ましくは0.06質量%以下、さらにより好ましくは0.05質量%以下である。また、水素元素含有量の下限は、0質量%以上である。炭素質材料の元素分析による水素元素含有量は、炭素質材料を製造する際に添加され得る窒素含有化合物の添加量やリン含有化合物を調整すること、熱処理を施す温度、時間を調整すること等により、上記の範囲に調整することができる。
【0017】
本発明の炭素質材料の元素分析による酸素元素含有量は、0.60質量%以上2.0質量%以下である。酸素元素含有量を上記の範囲に調整することにより、高い放電容量と、優れた電流効率を有すると共に、繰り返しの充放電を経ても高い放電容量を維持することが可能であるだけでなく、電極の歩留まりを改善できる塗工性に優れた炭素質材料を提供することが可能となる。酸素量の下限は塗工性の観点から、好ましくは0.70質量%以上、より好ましくは0.80質量%以上、さらに好ましくは0.90質量%以上である。また、酸素元素含有量の上限は、放電容量と電流効率向上の観点から、好ましくは4.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、さらに好ましくは2.0質量%以下、さらにより好ましくは1.5質量%以下、とりわけ好ましくは1.0質量%以下である。炭素質材料の元素分析による酸素元素含有量は、炭素質材料を製造する際に添加され得る窒素含有化合物の添加量、添加され得るリン含有化合物の添加量、熱処理を施す温度、時間を調整する等によって調整され、加えて後述する後熱処理によって添加する添加剤の量、熱処理を施す温度、時間を調整することによって、上記の範囲に調整することができる。
【0018】
本発明の炭素質材料のX線回折測定による炭素面間隔(d002)は、炭素面の間隔を広くし、リチウムイオンを効率的に移動させやすくすると共に、微小細孔を十分に発達させクラスター化リチウムの吸蔵サイトを増加させ、重量あたりの放電容量及び電流効率を高めやすい観点から、好ましくは3.65Å以上、より好ましくは3.68Å以上、さらに好ましくは3.70Å以上、さらにより好ましくは3.71Å以上、とりわけ好ましくは3.73Å以上である。また、炭素面間隔(d002)の上限は、d002を適度に小さくすることで炭素質材料の体積を適度に小さくし、体積あたりの実行容量を高め、体積あたりの放電容量を高めやすい観点からは、好ましくは4.00Å以下、より好ましくは3.95Å以下、さらに好ましくは3.90Å以下、さらにより好ましくは3.85Å以下である。炭素面間隔(d002)は、X線回折測定によりBragg式を用いて測定され、具体的には実施例に記載の方法により測定される。炭素面間隔(d002)は、炭素質材料を製造する際に添加され得る窒素含有化合物の添加量を調整すること、熱処理を施す温度、時間を調整すること等により、上記の範囲に調整することができる。
【0019】
本発明の好ましい一態様において、本発明の炭素質材料のレーザーラマン分光法により観測されるラマンスペクトルにおける、1360cm-1付近のピークの半値幅の値は、炭素質材料を用いて作製した電極の放電容量をより高めやすい観点から、好ましくは210cm-1以上、より好ましくは220cm-1以上、さらに好ましくは230cm-1以上、さらにより好ましくは240cm-1以上である。ここで、1360cm-1付近のピークとは、一般にDバンドと称されるラマンピークであり、グラファイト構造の乱れ・欠陥に起因するピークである。1360cm-1付近のピークは、通常、1345cm-1~1375cm-1、好ましくは1350cm-1~1370cm-1の範囲に観測される。該ラマンスペクトルは、ラマン分光器を用いて、例えば実施例に記載の条件にて測定される。1360cm-1付近のピークの半値幅の値は、炭素質材料を製造する際に添加され得る窒素含有化合物の添加量を調整すること、熱処理を施す温度、時間を調整すること等により、上記の範囲に調整することができる。
【0020】
本発明の好ましい一態様において、本発明の炭素質材料のレーザーラマン分光法により観測されるラマンスペクトルにおける、1650cm-1付近のピークの半値幅の値は、炭素質材料を用いて作製した電極の重量あたりの放電容量をより高めやすい観点から、好ましくは98cm-1以上、より好ましくは100cm-1以上、さらに好ましくは101cm-1以上、さらにより好ましくは102cm-1以上である。ここで、1650cm-1付近のピークとは、一般にGバンドと称されるラマンピークであり、グラファイト構造の乱れ・欠陥に起因するピークである。1650cm-1付近のピークは、通常、90cm-1~120cm-1の範囲、好ましくは100cm-1~110cm-1の範囲に観測される。該ラマンスペクトルは、ラマン分光器を用いて、例えば実施例に記載の条件にて測定される。1650cm-1付近のピークの半値幅の値は、炭素質材料を製造する際に添加され得る窒素含有化合物の添加量を調整すること、熱処理を施す温度、時間を調整すること等により、上記の範囲に調整することができる。
【0021】
本発明の炭素質材料において、炭素質材料を用いて得られる負極の電極密度を高めやすく、その結果、重量あたりの放電容量に加えて体積あたりの放電容量も高めやすい観点からは、炭素質材料のブタノール浸漬法による真密度は、好ましくは1.50g/cc以上、より好ましくは1.51g/cc以上、さらに好ましくは1.52g/cc以上、さらにより好ましくは1.55g/cc以上であり、好ましくは1.65g/cc以下、より好ましくは1.64g/cc以下、さらに好ましくは1.62g/cc以下、さらにより好ましくは1.60g/cc以下である。
【0022】
本発明の炭素質材料において、電極密度を高めやすい観点からは、炭素質材料のタップ嵩密度は、好ましくは0.70g/cc以上、より好ましくは0.72g/cc以上、さらに好ましくは0.75g/cc以上、さらにより好ましくは0.78g/cc以上、とりわけ好ましくは0.80g/cc以上である。また、該タップ嵩密度は、電極を作成する際の電解液の吸液性の観点から、好ましくは1.0g/cc以下、より好ましくは0.97g/cc以下、さらに好ましくは0.95g/cc以下、さらにより好ましくは0.93g/cc以下、とりわけ好ましくは0.91g/cc以下である。炭素質材料のタップ嵩密度は、目開き300μmの篩を通して炭素質材料を充填した直径1.8cmの円筒状のガラス製容器を、5cmの高さから自由落下させることを100回繰り返す工程を1セットとして、炭素質材料の体積と質量から求められる密度の変化率が1セットの操作の前後で2%以下となるまで繰り返して測定される。
【0023】
本発明の炭素質材料において、電極密度を高めやすい観点からは、炭素質材料のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積基準粒度分布におけるD20に対するD80の割合D80/D20は、好ましくは3.5以上、より好ましくは4.0以上、さらに好ましくは4.5以上、さらにより好ましくは5.0以上、とりわけ好ましくは5.5以上、とりわけより好ましくは6.0以上であり、同様の観点から、好ましくは18以下、より好ましくは16以下、さらに好ましくは15以下である。D80/D20は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積基準粒度分布は、炭素質材料の分散液を測定試料とし、粒子径・粒度分布測定装置を用いて測定することができ、該粒度分布における、累積体積が80%となる粒子径をD80、累積体積が20%となる粒子径をD20とする。
【0024】
本発明の炭素質材料において、電極密度を高めやすい観点からは、炭素質材料のフロー式粒子像分析装置による投影面積に相当する円の直径が5μm以上の粒子について測定した円形度が、好ましくは0.70以上、より好ましくは0.71以上、さらに好ましくは0.72以上、さらにより好ましくは0.73以上であり、同様の観点から、好ましくは0.99以下、より好ましくは0.98以下、さらに好ましくは0.96以下である。該円形度は、炭素質材料の分散液を測定試料とし、フロー式粒子像分析装置を用いて粒子の投影像を得て、該投影像における1つの粒子について、同じ投影面積を持つ相当円の直径をDμmとし、該粒子像を挟む二本の平行線の距離が最大になる長さをMμmとして、次の式:円形度=(D/M)により粒子あたりの円形度を算出し、該粒子あたりの円形度をDが5μm以上の粒子の例えば5000個以上、好ましくは1万個以上について測定して得た円形度の平均値である。
【0025】
本発明の炭素質材料の製造方法は、上記のような特性を有する炭素質材料が得られる限り特に限定されないが、炭素源となる化合物と窒素含有化合物とを混合し、得られた混合物を500℃以上900℃以下の不活性ガス雰囲気下で熱処理し、その後、粉砕及び/又は分級し、得られた炭化物をさらに1100~1600℃で熱処理し、得られた熱処理物にカルボン酸化合物または糖類骨格を有する化合物を混合し、100℃~300℃で熱処理する方法であって、1100~1600℃での熱処理の前に、リン含有化合物との混合工程を含む方法が挙げられる。原料として使用する炭素源となる化合物は、上記の特性を満たす炭素質材料が得られる限り特に限定されないが、炭素質材料の上記の特性を好ましい範囲に調整しやすい観点から、好ましくは糖類骨格を有する化合物である。したがって、本発明の炭素質材料は、好ましくは糖由来の炭素質材料である。以下において、糖類骨格を有する化合物を炭素源として用いる製造方法について説明する。
【0026】
本発明の好ましい一態様において、本発明の炭素質材料の製造方法は、以下の工程:
(1)糖類骨格を有する化合物、及び窒素含有化合物を混合して混合物を得る工程、
(2)前記混合物を、不活性ガス雰囲気下、500~900℃で熱処理して炭化物を得る工程、
(3)前記炭化物を粉砕及び/又は分級する工程、及び
(4)粉砕及び/又は分級された前記炭化物を、不活性ガス雰囲気下、1100~1600℃で熱処理する工程
(5)前記熱処理物にカルボン酸化合物または糖類骨格を有する化合物を混合し、100℃~300℃で熱処理して炭素質材料を得る工程
を少なくとも含み、
(a)上記工程(4)における熱処理よりも前に、糖類骨格を有する化合物、該化合物を含む混合物、又は、該混合物の炭化物と、リン含有化合物とを混合する工程
を含む。本発明は、上記の炭素質材料の製造方法も提供する。
【0027】
また、本発明は、前記工程(4)を揮発性有機物の存在下で行う、または、前記工程(4)の後に、揮発性有機物の存在下でさらなる熱処理を行う工程(4’)をさらに含む、上記の炭素質材料の製造方法も提供する。なお、工程(4)を揮発性有機物の存在下で行う場合、または工程(4’)を行う場合、熱処理により発生した揮発性有機物に由来する揮発物質が存在するような条件となるように熱処理温度を設定する。揮発性有機物に由来する揮発物質は、工程(4)または工程(4’)において、炭素質材料表面に付着すると考えられるが、本発明はかかるメカニズムに何ら限定されない。
【0028】
工程(1)は、糖類骨格を有する化合物、及び窒素含有化合物を混合して混合物を得る工程である。原料として使用し得る糖類骨格を有する化合物としては、例えばグルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、リボース、グルコサミンなどの単糖類や、スクロース、トレハロース、マルトース、セロビオース、マルチトール、ラクトビオン酸、ラクトサミンなどの二糖、デンプン、グリコーゲン、アガロース、ペクチン、セルロース、キチン、キトサン、オリゴ糖、キシリトールなどの多糖類が挙げられる。糖類骨格を有する化合物として、これらの1種の化合物を使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの糖類骨格を有する化合物の中で、大量入手が容易であるため、デンプンが好ましい。デンプンとしては、コーンスターチ、馬鈴薯デンプン、小麦デンプン、米デンプン、タピオカデンプン、サゴデンプン、甘藷デンプン、マイロスターチ、葛デンプン、わらびデンプン、蓮根デンプン、緑豆デンプン、片栗デンプンが例示される。これらのデンプンは、物理的、酵素的、又は化学的加工を施していてもよく、アルファ化デンプン、リン酸架橋デンプン、酢酸デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、酸化デンプン、デキストリンなどへ加工したデンプンであってもよい。入手性に加えて安価であることから、デンプンとして、コーンスターチ及び小麦デンプン、並びにこれらのアルファ化デンプンが好ましい。
【0029】
本発明の製造方法の好ましい一態様において、炭素質材料から得られる電極の密度を高めやすい観点からは、糖類骨格を有する化合物として、該化合物の粒子の断面を二次電子顕微鏡観察して得た画像において、断面積が3μm以上100μm以下の粒子を任意に20個選択した際に、1μm以上の空隙を有する粒子が、好ましくは3個以下、より好ましくは2個以下、さらに好ましくは1個以下である化合物を用いることが好ましい。このような空隙の少ない化合物を原料として用いて炭化物を製造する場合には、後述する工程(b)のような追加の処理は通常は不要である。
【0030】
工程(1)で使用し得る窒素含有化合物は、窒素原子を分子内に有する化合物であれば特に限定されないが、例えば塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどの無機アンモニウム塩や、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、蓚酸アンモニウム、クエン酸水素二アンモニウムなどの有機アンモニウム塩や、アニリン塩酸塩、アミノナフタレン塩酸塩などの芳香族アミン塩酸塩、メラミン、ピリミジン、ピリジン、ピロール、イミダゾール、インドール、尿素、シアヌル酸、ベンゾグアナミンなどの含窒素有機化合物が挙げられる。窒素含有化合物として、これらの1種の窒素含有化合物を使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの窒素含有化合物の中で、窒素元素が炭素質材料に多く取り込まれやすい観点から、分子内の窒素含有率が高い窒素含有化合物が好ましく、例えばメラミン及び尿素が好ましい。窒素含有化合物は、熱処理過程における糖類化合物との反応の観点からは、揮発温度が好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上である化合物が好ましい。
【0031】
糖類骨格を有する化合物、及び窒素含有化合物の混合割合は特に限定されず、所望の特性を有する炭素質材料が得られるように適宜調整してよい。例えば、窒素含有化合物の量を増やすと、炭素質材料に含まれる窒素元素含有量が多くなる傾向がある。
【0032】
本発明の好ましい一態様において、工程(1)で得られる混合物に含まれる糖類骨格を有する化合物の量は、糖類骨格を有する化合物、及び窒素含有化合物の合計量に基づいて、好ましくは50~99質量%、より好ましくは80~95質量%である。また、該混合物に含まれる窒素含有化合物の量は、糖類骨格を有する化合物、及び窒素含有化合物の合計量に基づいて、好ましくは1~30質量%、より好ましくは3~15質量%である。また、工程(1)において混合する窒素含有化合物の量は、原料として使用する糖類骨格を有する化合物におけるデンプン単糖ユニット1モルに対して、好ましくは0.03~0.30モル、より好ましくは0.05~0.20モル、さらに好ましくは0.07~0.15モルである。
【0033】
工程(1)において、炭素前駆体及び窒素含有化合物を混合して混合物を得る際に、少なくとも1種の架橋剤をさらに混合してもよい。架橋剤は、原料として用いる糖類骨格を有する化合物を架橋可能な化合物であり、糖類化合物の加水分解反応や脱水反応と並行して進行する、糖類化合物の鎖間結合形成反応及び/又は糖類化合物と窒素含有化合物の反応を促進する触媒として作用したり、それ自身が、糖類化合物、及び/又は窒素含有化合物を架橋したりする。糖類骨格を有する化合物は、焼成工程において溶融、融着、発泡等する場合が多く、その結果、得られる炭素質材料は球状ではなく扁平な形状を有する場合が多い。架橋剤を用いて焼成を行う場合、原料同士の融着や発泡を抑制しやすく、その結果、得られる炭素質材料を用いて得られる電極の密度を向上させやすい。
【0034】
架橋剤を使用する場合、その種類は特に限定されないが、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、オレイン酸、などの脂肪族一価カルボン酸、安息香酸、サリチル酸、トルイル酸などの芳香族一価カルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン、フタル酸、テレフタル酸、等の多価カルボン酸;乳酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸等のヒドロキシカルボン酸;エチレンジアミン四酢酸等のカルボン酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等のスルホン酸;グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン等のアミノ酸;塩酸、硫酸等が挙げられる。架橋剤を使用する場合、これらの1種の架橋剤を使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの架橋剤の中で、熱処理して炭化物を得る工程での原料の溶融、発泡の抑制の観点から、多価カルボン酸やヒドロキシカルボン酸が好ましく、中でもコハク酸、アジピン酸、クエン酸がより好ましい。
【0035】
さらに、架橋剤を使用する場合、その量は、混合物に含まれる糖類骨格を有する化合物、窒素含有化合物、及び架橋剤の合計量に基づいて、好ましくは1~30質量%、より好ましくは3~10質量%である。架橋剤を添加する場合、架橋剤の量を増やすと、炭素質材料の真密度が高くなる傾向がある。
【0036】
次に、工程(2)において、工程(1)で得た混合物を、不活性ガス雰囲気下、500~900℃で熱処理して炭化物を得る。工程(2)における熱処理温度は、好ましくは550~850℃、より好ましくは600~800℃である。また、上記の熱処理温度(到達温度)に到達するまでの昇温速度は、50℃/時間以上、好ましくは50℃/時間~200℃/時間である。また、熱処理時間は、到達温度での保持時間が通常5分以上であり、好ましくは5分~2時間、より好ましくは10分~1時間、さらに好ましくは30~1時間である。熱処理温度及び時間が上記の範囲内であれば、糖類骨格を有する化合物の炭化を制御しやすく、炭素質材料の上記の特性値を所望の範囲に調整しやすい。ここで、熱処理温度は、一定の温度であってよいが、上記範囲内であれば特に限定されない。工程(2)を第1焼成工程とも称する。
【0037】
工程(2)は、不活性ガス雰囲気下で行われる。該工程が不活性ガス雰囲気中で行われる限り、不活性ガスの積極的な供給が行われていても、行われていなくてもよい。不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガスが挙げられ、好ましくは窒素ガスである。このような熱処理工程により、炭素質材料を与える前駆体である炭化物が得られる。
【0038】
工程(3)において、得られた炭化物を粉砕及び/又は分級する。粉砕及び分級の方法は特に限定されず、通常の方法、例えばボールミルやジェットミルを用いる方法等により行ってよい。炭化物を粉砕及び/又は分級することにより、工程(2)の熱処理によって生じた凝集物を解砕したり、除去することができる。
【0039】
工程(4)において、粉砕及び/又は分級された炭化物を、不活性ガス雰囲気下、1100~1600℃で熱処理する。工程(4)における熱処理温度は、好ましくは1200~1400℃、より好ましくは1210~1400℃、さらに好ましくは1230~1350℃、さらにより好ましくは1250~1300℃である。なお、本明細書において、1100~1600℃で熱処理するとは、1100~1600℃の温度を1分以上保持することを意味する。上記の熱処理温度(到達温度)に到達するまでの昇温速度は、50℃/時間以上、好ましくは50℃/時間~200℃/時間である。また、熱処理時間は、到達温度での保持時間が、1分以上、好ましくは5分~2時間、より好ましくは10分~1時間、さらに好ましくは10分~30分である。熱処理温度及び時間が上記の範囲内であれば、最終的に得られる炭素質材料の上記の特性値を所望の範囲に調整しやすい。ここで、熱処理温度は、一定の温度であってよいが、上記範囲内であれば特に限定されない。工程(4)を第2焼成工程とも称する。
【0040】
工程(5)において、工程(4)で得られた熱処理物に対し、カルボン酸化合物または糖類骨格を有する化合物を混合し、100℃~300℃で熱処理することにより、本発明の炭素質材料を得ることができる。工程(5)を後熱処理工程とも称する。
【0041】
工程(5)で添加されるカルボン酸化合物は特に限定されないが、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、オレイン酸などの脂肪族一価カルボン酸、安息香酸、サリチル酸、トルイル酸などの芳香族一価カルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、テレフタル酸などの多価カルボン酸、乳酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸などのヒドロキシカルボン酸、エチレンジアミン四酢酸などのカルボン酸が挙げられる。カルボン酸化合物として、これらの1種の化合物を使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの添加剤の中で、熱処理時に揮発しにくいことや混合性を考慮し、アジピン酸、クエン酸、コハク酸がより好ましい。
【0042】
工程(5)で添加する化合物には、糖類骨格を有する化合物を用いることもできる。糖類骨格を有する化合物としては、例えばグルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、リボース、グルコサミンなどの単糖類や、スクロース、トレハロース、マルトース、セロビオース、マルチトール、ラクトビオン酸、ラクトサミンなどの二糖、デンプン、グリコーゲン、アガロース、ペクチン、セルロース、キチン、キトサン、オリゴ糖、キシリトールなどの多糖類が挙げられる。糖類骨格を有する化合物として、これらの1種の化合物を使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの糖類骨格を有する化合物の中で、入手性を考慮すると、グルコース、フルクトース、デンプンがより好ましい。
【0043】
カルボン酸化合物または糖類骨格を有する化合物を添加し熱処理することによる効果の詳細は明らかでないが、カルボン酸化合物または糖類骨格を有する化合物が工程(4)で得られる熱処理物の表面と反応し、表面状態を変えることで塗工性を改善していることが考えられる。
【0044】
工程(5)で添加されるカルボン酸化合物または糖類骨格を有する化合物の量に特に制限はないが、工程(4)で得られる熱処理物に対し5質量%以下が好ましい。添加する化合物の量が多いと、熱処理物の表面で反応するのみでなく、化合物自体の分解物が残存し、炭素質材料の性能低下の要因となる可能性がある。
【0045】
工程(5)における熱処理温度は100℃~300℃である。適切な温度は使用する添加剤により異なるが、通常添加する化合物の融点あるいは分解温度以上の温度で行うことが好ましい。また、上記の熱処理温度(到達温度)に到達するまでの昇温速度は、50℃/時間以上、好ましくは50℃/時間~600℃/時間である。また、熱処理時間は、到達温度での保持時間が通常5分以上であり、好ましくは5分~10時間、より好ましくは10分~5時間、さらに好ましくは30~3時間である。熱処理温度及び時間が上記の範囲内であれば、熱処理物表面への添加した化合物の反応を制御しやすく、炭素質材料の特性値を所望の範囲に調整しやすい。ここで、熱処理温度は、一定の温度であってよいが、上記範囲内であれば特に限定されない。また、工程(5)は不活性ガス雰囲気下で行っても、酸素存在雰囲気下で行ってもよい。
【0046】
本発明の製造方法は、工程(4)において1100~1600℃で熱処理を行う前に、糖類骨格を有する化合物、該化合物を含む混合物、又は、該混合物の炭化物と、リン含有化合物とを混合する工程(a)を含む。工程(a)を含む製造方法により炭素質材料を製造することによって、炭素質材料中にリン元素を含ませることができる。炭素質材料に窒素元素とリン元素が所定の量で存在し、かつ、水素元素含有量を所定の範囲にすることによって、理由は明らかではないが、重量あたりの高い放電容量と、優れた電流効率を有すると共に、繰り返しの充放電を経ても高い放電容量を維持することができる、蓄電デバイスに適した炭素質材料を提供することができる。
【0047】
工程(a)は、工程(1)で使用する糖類骨格を有する化合物とリン含有化合物とを混合することにより行ってもよいし、工程(1)において糖類骨格を有する化合物及び窒素含有化合物を混合して混合物を得る際にリン含有化合物も共に混合することによって行ってもよいし、工程(1)で得た混合物とリン含有化合物とを混合することにより行ってもよいし、工程(2)で得た炭化物とリン含有化合物とを混合することにより行ってもよいし、工程(3)で得た粉砕及び/又は分級された炭化物とリン含有化合物とを混合することにより行ってもよい。
【0048】
工程(a)で使用し得るリン含有化合物は、リン原子を分子内に有する化合物であれば特に限定されないが、例えば無機リン酸、有機リン酸、及びそれらの塩、有機リン、ホスホニウム塩などを使用することができる。リン含有化合物として、1種のリン含有化合物を使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0049】
無機リン酸としては、例えばリン酸、リン酸二水素塩、リン酸二水素アンモニウム、第一リン酸塩、第二リン酸塩、第三リン酸塩、ピロリン酸、ピロリン酸塩、トリポリリン酸、トリポリリン酸塩、亜リン酸、亜リン酸塩、次亜リン酸、次亜リン酸塩、五酸化二リン等が挙げられる。有機リン酸としては、ホスホン酸(ホスホン酸化合物)が挙げられ、ホスホン酸としては、例えば、ニトリロトリスメチレンホスホン酸、ホスフォノブタントリカルボン酸、メチルジホスホン酸、メチレンホスホン酸、エチリデンジホスホン酸、リン酸トリフェニル等が挙げられる。これらのリン酸が塩である場合、塩は、例えばアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩であってもよいし、アンモニウム塩であってもよい。有機リンとしては、例えばトリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンオキシド、トリシクロヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィンオキシド、トリアルキルホスフィン、トリアルキルホスフィンオキシド等が挙げられる。ホスホニウム塩としては、例えばテトラアルキルホスホニウム塩、テトラフェニルホスホニウム塩等が挙げられる。これらの塩は、例えばハロゲン化物であってもよいし、硫酸塩であってもよいし、リン酸塩であってもよいし、酢酸塩であってもよい。これらのリン含有化合物の中で、リン元素が炭素質材料に多く取り込まれやすい観点から、分子内のリン含有率が高いリン酸、リン酸二水素アンモニウムが好ましい。リン含有化合物としては、熱処理過程における糖類化合物との反応の観点からは、揮発温度が好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上である化合物が好ましい。
【0050】
工程(a)においてリン含有化合物を混合する方法も特に限定されず、リン含有化合物が固体の場合、固体状のリン含有化合物と糖類骨格を有する化合物等を混合してもよい。また、リン含有化合物が例えば水溶性の場合には、リン含有化合物の水溶液と糖類骨格を有する化合物等とを混合してもよい。
【0051】
工程(a)において混合するリン含有化合物の量は、最終的に上記範囲のリン元素含有量を有する炭素質材料が得られる限り特に限定されないが、例えば、糖類骨格を有する化合物、及び窒素含有化合物の合計量に基づいて、又は、工程(2)で得た炭化物の量に基づいて、好ましくは0.5~10質量%、より好ましくは0.6~8質量%である。また、工程(a)において混合するリン含有化合物の量は、原料として使用する糖類骨格を有する化合物におけるデンプン単糖ユニット1モルに対して、好ましくは0.001~0.20モル、より好ましくは0.005~0.15モル、さらに好ましくは0.01~0.10モルである。
【0052】
また、工程(4)において、工程(3)から得られた粉砕及び/又は分級した炭化物に揮発性有機物を添加し、工程(4)に供してもよい。揮発性有機物は窒素等不活性ガスにより熱処理をする際(例えば500℃以上)において、ほとんど(例えば80%以上、好ましくは90%以上)炭化せず、揮発する(気化もしくは熱分解し、ガスになる)有機化合物を指す。揮発性有機物としては、特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂、低分子有機化合物が挙げられる。具体的には、熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。なお、この明細書において、(メタ)アクリルとは、メタクリルとアクリルの総称である。また共重合体のような、熱可塑性樹脂を部分的に含有する樹脂であってもよく、このような樹脂としては、アクリロニトリル・塩素化ポリエチレン・スチレン共重合体(ACS樹脂)、アクリロニトリル・アクリル酸エステル・スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル・エチレン・スチレン共重合体(AES樹脂)、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体(SEPS樹脂)、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体(SEBS樹脂)、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体(SIS樹脂)、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体(SBS樹脂)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)などが挙げられる。低分子有機化合物としては、エチレン、プロパン、ヘキサン、トルエン、キシレン、メシチレン、スチレン、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、ピレン等が挙げられる。焼成温度下で揮発し、熱分解した場合に炭素前駆体の表面を酸化賦活しないものが好ましいことから、熱可塑性樹脂としてはポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(メタ)アクリル酸が好ましい。低分子有機化合物としては、さらに安全上の観点から常温下(たとえば20℃)において揮発性が小さいことが好ましく、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、ピレン等が好ましい。このような揮発性有機物を添加すると、本発明の特徴的な構造を維持しながら、水素元素含有量及び酸素元素含有量と比表面積とをより小さくできる点で好ましい。
【0053】
また、揮発性有機物をガス化させて窒素等不活性ガスと混合して、工程(4)に供してもよい。揮発性有機物としては、特に限定されないが、低分子有機化合物が挙げられる。低分子有機化合物としては、エチレン、プロパン、ヘキサン、トルエン、キシレン、メシチレン、スチレン、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、ピレン等が挙げられる。低分子有機化合物としては、窒素等不活性ガスとの混合性の観点から揮発性が大きい化合物が好ましく、エチレン、プロパン、ヘキサン、トルエン等が好ましい。このような揮発性有機物を添加すると、本発明の特徴的な構造を維持しながら、水素元素含有量及び酸素元素含有量と比表面積をより小さくできる点で好ましい。
【0054】
上記のようにして、工程(4)において揮発性有機物を添加する場合、揮発性有機物が、炭素質材料の粒子の表面のラジカル活性点などを失活させると考えられる。このようなラジカル活性点は、通常、空気中の酸素と反応し、炭素質材料の酸素元素含有量を増加させる。本発明の好ましい一実施形態において、炭素質材料の酸素元素含有量が少ない場合、炭素質材料表面のラジカル反応サイトなどが少なく、酸化されにくくなっていると考えられ、繰返しの充放電において反応サイトとなり得るサイトが低減されると考えられる。その結果、炭素質材料のラジカル活性点などを揮発性有機物により失活させた場合には、繰り返しの充放電を経た後でも、より高い放電容量を維持しやすくなると考えられる。
【0055】
また、工程(4)の後に、揮発性有機物質の存在下でさらなる熱処理を行う工程(4’)を行うこともできる。工程(4’)を行う場合、工程(4)で得られた炭素構造を維持させながら、炭素質材料の粒子の表面のラジカル活性点などをさらに低減させることができると考えられる。工程(4’)の熱処理温度は、1200℃未満であり、好ましくは700~1200℃未満、より好ましくは750~1100℃、さらに好ましくは800~1000℃である。工程(4)で得られた炭素構造を維持しやすく、高い放電容量が得られる観点から、工程(4’)の熱処理温度は上記の上限以下であることが好ましい。また、揮発性有機物を十分に分解させ、炭素質材料のラジカル活性点を失活させやすい観点からは、工程(4’)の熱処理温度は上記の下限以上であることが好ましい。工程(4’)の熱処理時間は、到達温度での保持時間が、好ましくは1分~1時間、より好ましくは10分~40分である。熱処理温度及び時間が上記の範囲内であれば、炭素質材料のラジカル活性点などをより低減させることができると考えられ、その結果、繰り返しの充放電を経た後でも、より高い放電容量を維持しやすくなると考えられる。
【0056】
上記の製造方法によって炭素質材料を製造する場合、該製造方法は、工程(1)~(5)に加えて、さらに、糖類骨格を有する化合物、及び窒素含有化合物を混合して混合物を得る工程(1)の前、工程(1)と同時、又は工程(1)の後に、糖類骨格を有する化合物を糊化させる工程(b)をさらに含んでもよい。工程(b)をさらに行う場合には、原料として用いる糖類骨格を有する化合物に含まれる空洞が閉じられ、その結果、最終的に得られる炭素質材料から形成した電極の密度を高めやすく、体積あたりの放電容量を高めやすくなる。
【0057】
工程(b)を行う場合、糊化の方法は特に限定されず、水の存在下で、糖類骨格を有する化合物を、単独で、又は、窒素含有化合物等との任意の混合物の状態で加熱する方法や、糖類骨格を有する化合物を、単独で、又は、窒素含有化合物等との任意の混合物の状態で、衝撃、圧潰、摩擦、及び/又はせん断の作用を有する機械的処理を施す方法が挙げられる。このような熱や外力がかかることにより、糖類骨格を有する化合物に含まれる空洞が閉塞される。上記の工程(b)における糊化は、例えば、糊化後の糖類骨格を有する化合物の粒子の断面を二次電子顕微鏡観察して得た画像において、断面積が3μm以上100μm以下の粒子を任意に20個選択した際に、1μm以上の空隙を有する粒子が所定の量以下、好ましくは3個以下、より好ましくは2個以下、さらに好ましくは1個以下となるまで行うことが好ましい。上記の顕微鏡観察は、糊化後の化合物に含まれる凝集物を粉砕、又は、分級により除去してから行ってよい。工程(b)を行う場合、上記のような工程(1)と任意の工程(b)とを経て得られた混合物を、工程(2)にて熱処理する。したがって、工程(b)を行う場合、該工程(b)は工程(2)の前に行われる工程である。
【0058】
本発明の好ましい一態様において、本発明の製造方法は、工程(b)として次のような工程を含んでよい:
工程(1)の前に、糖類骨格を有する化合物に、該化合物の質量に対して5~50質量%の水を混合し、50~200℃の温度で1分~5時間加熱する工程(b1)、
工程(1)の前に、糖類骨格を有する化合物に、衝撃、圧潰、摩擦、及び/又はせん断の作用を有する機械的処理を施す工程(c1)、
工程(1)と同時に、もしくは工程(1)の後に、糖類骨格を有する化合物を含む混合物に、糖類骨格を有する化合物の質量に対して5~50質量%の水を混合し、50~200℃の温度で1分~5時間加熱する工程(b2)、及び/又は、
工程(1)と同時に、もしくは工程(1)の後に、糖類骨格を有する化合物を含む混合物に、衝撃、圧潰、摩擦、及び/又はせん断の作用を有する機械的処理を施す工程(c2)。
【0059】
工程(b1)は、工程(1)の前に、糖類骨格を有する化合物に、該化合物の質量に対して5~50質量%の水を混合し、50~200℃の温度で1分~5時間加熱する工程である。糖類骨格を有する化合物に水を混合する際の水の量は、一定量以上は必要であるが、炭素質材料を製造する過程において、混合した水を留去させるのに必要なエネルギーを抑制する観点からは少ない方がよく、該化合物の質量に対して5~50質量%、好ましくは10~50質量%、より好ましくは10~30質量%である。また、加熱温度は50~200℃、好ましくは60~180℃、より好ましくは80~180℃である。さらに、加熱時間は1分~5時間、好ましくは3分~1時間、より好ましくは10分~30分である。
【0060】
工程(c1)は、工程(1)の前に、糖類骨格を有する化合物に、衝撃、圧潰、摩擦、及び/又はせん断の作用を有する機械的処理を施す工程である。衝撃、圧潰、摩擦、及び/又はせん断の作用を有する機械的処理において使用される装置としては、例えば粉砕機、押出機、製粉機、摩砕機、混練装置が挙げられる。処理時間等の処理条件は特に限定されないが、例えばボール振動ミルを用いる場合、20Hz、10分の処理条件が挙げられる。
【0061】
工程(b2)は、工程(1)と同時に、もしくは工程(1)の後に、糖類骨格を有する化合物を含む混合物に、糖類骨格を有する化合物の質量に対して5~50質量%の水を混合し、50~200℃の温度で1分~5時間加熱する工程であり、工程(b1)に関して記載した好ましい態様等の記載が同様に当てはまる。
【0062】
工程(c2)は、工程(1)と同時に、もしくは工程(1)の後に、糖類骨格を有する化合物を含む混合物に、衝撃、圧潰、摩擦、及び/又はせん断の作用を有する機械的処理を施す工程であり、工程(c1)に関して記載した好ましい態様等の記載が同様に当てはまる。
【0063】
本発明の炭素質材料、又は本発明の製造方法により得られる炭素質材料は、蓄電デバイス用の負極の活物質として好適に使用することができる。
【0064】
以下において、本発明の炭素質材料を用いて蓄電デバイス用の負極を製造する方法を具体的に述べる。負極は、例えば、炭素質材料に結合剤(バインダー)を添加し、適当な溶媒を適量添加した後、これらを混練し電極合剤を調製する。得られた電極合剤を、金属板等からなる集電板に塗布及び乾燥後、加圧成形することにより、蓄電デバイス用の負極、例えばリチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン電池、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池等の非水電解質二次電池用の負極を製造することができる。
【0065】
本発明の炭素質材料を用いることにより、重量あたりの高い放電容量と、優れた電流効率を有すると共に、繰り返しの充放電を経ても高い放電容量を維持することができる電極(負極)を製造することができる。電極により高い導電性を賦与することが所望される場合、必要に応じて、電極合剤の調製時に導電助剤を添加することができる。導電助剤としては、導電性のカーボンブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、ナノチューブ等を用いることができる。導電助剤の添加量は、使用する導電助剤の種類によっても異なるが、添加する量が少なすぎると期待する導電性が得られないことがあり、多すぎると電極合剤中の分散が悪くなることがある。このような観点から、導電助剤を添加する場合、その量は、活物質(炭素質材料)量+結合剤(バインダー)量+導電助剤量=100質量%としたとき、好ましくは0.5~10質量%、より好ましくは0.5~7質量%、さらに好ましくは0.5~5質量%である。結合剤としては、電解液と反応しないものであれば特に限定されないが、例えばPVDF(ポリフッ化ビニリデン)、ポリテトラフルオロエチレン、及びSBR(スチレン・ブタジエン・ラバー)とCMC(カルボキシメチルセルロース)との混合物等が挙げられる。中でもSBRとCMCとの混合物は、活物質表面に付着したSBRとCMCがリチウムイオン移動を阻害することが少なく、良好な入出力特性が得られるため好ましい。SBR等の水性エマルジョンやCMCを溶解し、スラリーを形成するために、水等の極性溶媒が好ましく用いられるが、PVDF等の溶剤性エマルジョンをN-メチルピロリドン等に溶解して用いることもできる。結合剤の添加量が多すぎると、得られる電極の抵抗が大きくなるため、電池の内部抵抗が大きくなり電池特性を低下させることがある。また、結合剤の添加量が少なすぎると、負極材料の粒子相互間及び集電材との結合が不十分になることがある。結合剤の好ましい添加量は、使用するバインダーの種類によっても異なるが、例えば溶媒に水を使用するバインダーでは、SBRとCMCとの混合物など、複数のバインダーを混合して使用することが多く、使用する全バインダーの総量として0.5~5質量%が好ましく、1~4質量%がより好ましい。一方、PVDF系のバインダーでは好ましくは3~13質量%であり、より好ましくは3~10質量%である。また、電極合剤中の炭素質材料の量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。また、電極合剤中の炭素質材料の量は100質量%以下が好ましく、97質量%以下がより好ましい。
【0066】
本発明の炭素質材料はスラリーを作製した際の分散性に優れており、電極合剤を金属板等からなる集電板に塗布するの際の凝集を抑制することが可能である。
【0067】
電極活物質層は、基本的には集電板の両面に形成されるが、必要に応じて片面に形成されていてもよい。電極活物質層が厚いほど、集電板やセパレータ等が少なくて済むため、高容量化には好ましい。しかし、対極と対向する電極面積が広いほど入出力特性の向上に有利なため、電極活物質層が厚すぎると入出力特性が低下することがある。活物質層の厚み(片面あたり)は、電池放電時の出力の観点から、好ましくは10~80μm、より好ましくは20~75μm、さらにより好ましくは30~75μmである。
【0068】
本発明の炭素質材料を用いた蓄電デバイスは、重量あたりの高い放電容量、及び優れた電流効率を有すると共に、繰り返しの充放電を経ても高い放電容量を維持することができる。本発明の炭素質材料を用いて蓄電デバイス用の負極を形成する場合、正極材料、セパレータ、及び電解液などの電池を構成する他の材料は特に限定されることなく、蓄電デバイスとして従来使用され、あるいは提案されている種々の材料を使用することが可能である。
【0069】
例えば、正極材料としては、層状酸化物系(LiMOと表されるもので、Mは金属:例えばLiCoO、LiNiO、LiMnO、又はLiNiCoMo(ここでx、y、zは組成比を表わす))、オリビン系(LiMPOで表され、Mは金属:例えばLiFePOなど)、スピネル系(LiMで表され、Mは金属:例えばLiMnなど)の複合金属カルコゲン化合物が好ましく、これらのカルコゲン化合物を必要に応じて混合して使用してもよい。これらの正極材料を適当なバインダーと電極に導電性を付与するための炭素材料とともに成形して、導電性の集電材上に層形成することにより正極が形成される。
【0070】
例えば蓄電デバイスが非水電解質二次電池である場合、非水溶媒型電解液は、一般に非水溶媒に電解質を溶解することにより形成される。非水溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、γ-ブチルラクトン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、又は1,3-ジオキソラン等の有機溶媒を、一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、電解質としては、LiClO、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiAsF、LiCl、LiBr、LiB(C、又はLiN(SOCF等が用いられる。
【0071】
また、蓄電デバイスが非水電解質二次電池である場合、非水電解質二次電池は、一般に上記のようにして形成した正極と負極とを必要に応じて透液性セパレータを介して対向させ、電解液中に浸漬させることにより形成される。このようなセパレータとしては、二次電池に通常用いられる不織布、その他の多孔質材料からなる透過性又は透液性のセパレータを用いることができる。あるいはセパレータの代わりに、もしくはセパレータと一緒に、電解液を含浸させたポリマーゲルからなる固体電解質を用いることもできる。
【0072】
本発明の炭素質材料は、例えば自動車などの車両に搭載される蓄電デバイス(典型的には車両駆動用非水電解質二次電池)用の炭素質材料として好適である。本発明において車両とは、通常、電動車両として知られるものや、燃料電池や内燃機関とのハイブリッド車など、特に限定されることなく対象とすることができるが、少なくとも上記電池を備えた電源装置と、該電源装置からの電源供給により駆動する電動駆動機構と、これを制御する制御装置とを備えるものである。車両は、さらに、発電ブレーキや回生ブレーキを備え、制動によるエネルギーを電気に変換して、前記非水電解質二次電池に充電する機構を備えていてもよい。
【実施例0073】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、以下に炭素質材料及びそれを用いた負極の物性の測定方法を記載するが、実施例を含めて、本明細書中に記載する物性及び測定(又は、物性値及び測定値)は、以下の方法により求めた値に基づくものである。
【0074】
(水素、酸素及び窒素元素含有量)
株式会社堀場製作所製、酸素・窒素・水素分析装置EMGA-930を用いて、不活性ガス溶解法に基づいて元素分析を行った。
当該装置の検出方法は、酸素:不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法(NDIR)、窒素:不活性ガス融解-熱伝導法(TCD)、水素:不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法(NDIR)であり、校正は、(酸素・窒素)Niカプセル、TiH(H標準試料)、SS-3(O標準試料)、SiN(N標準試料)で行い、前処理として250℃、約10分で水分量を測定した試料20mgをNiカプセルに取り、元素分析装置内で30秒脱ガスした後に測定した。試験は3検体で分析し、平均値を分析値とした。上記のようにして、試料中の水素、酸素及び窒素元素含有量を得た。
【0075】
(リン元素含有量)
株式会社リガク製。ZSX Primus-μを用いて、蛍光X線分析法に基づいて分析を行った。
上部照射方式用ホルダーを用い、試料測定面積を直径30mmの円周内とした。被測定試料2.0gとポリマーバインダ2.0g(Chemplex社製 Spectro Blend44μ Powder)とを乳鉢で混合し、成形機に入れた。成形機に15tonの荷重を1分間かけて、直径40mmのペレットを作製した。作製したペレットをポリプロピレン製のフィルムで包み、試料ホルダーに設置して測定を行った。X線源は30kV、100mAに設定した。リンKα線の強度からリン元素含有量を求めるため、分光結晶にGe(111)、検出器にガスフロー型比例係数管を使用し、2θが137~144°の範囲を、走査速度4°/分で測定した。
【0076】
(X線回折測定によるBragg式を用いた平均面間隔d002測定)
「株式会社リガク製MiniFlexII」を用い、後述する実施例及び比較例で調製した炭素質材料の粉体を試料ホルダーに充填し、Niフィルターにより単色化したCuKα線を線源とし、X線回折図形を得た。回折図形のピーク位置は重心法(回折線の重心位置を求め、これに対応する2θ値でピーク位置を求める方法)により求め、標準物質用高純度シリコン粉末の(111)面の回折ピークを用いて補正した。CuKα線の波長λを0.15418nmとし、以下に記すBraggの公式によりd002を算出した。
【0077】
【数1】
【0078】
(レーザー散乱法による粒度分布)
炭化物の平均粒子径(粒度分布)は、以下の方法により測定した。試料5mgを界面活性剤(和光純薬工業株式会社製「ToritonX100」)が5質量%含まれた2mL水溶液に投入し、超音波洗浄器で10分以上処理し、水溶液中に分散させた。この分散液を用いて粒度分布を測定した。粒度分布測定は、粒子径・粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製「マイクロトラックMT3300EXII」)を用いて行った。D50は、累積体積が50%となる粒子径であり、この値を平均粒子径として用いた。
【0079】
(ラマンスペクトル)
ラマン分光器(ナノフォトン社製「レーザーラマン顕微鏡Ramanforce」)を用い、炭素質材料である測定対象粒子を観測台ステージ上にセットし、対物レンズの倍率を20倍とし、ピントを合わせ、アルゴンイオンレーザ光を照射しながら測定した。測定条件の詳細は以下のとおりである。得られたラマンスペクトルから、1360cm-1付近のピークの半値幅、及び1650cm-1付近のピークの半値幅を決定した。
アルゴンイオンレーザ光の波長:532nm
試料上のレーザーパワー:100-300W/cm
分解能:5-7cm-1
測定範囲:150-4000cm-1
測定モード:XY Averaging
露光時間:20秒
積算回数:2回
ピーク強度測定:ベースライン補正 Polynom-3次で自動補正
ピークサーチ&フィッテイング処理 GaussLoren
【0080】
(実施例1)
デンプン(コーンスターチ)100質量部とメラミン11.6質量部(デンプン単糖ユニット1モルに対して0.15モル)、アジピン酸7.6質量部(デンプン単糖ユニット1モルに対して0.08モル)、リン酸二水素アンモニウム4質量部(デンプン単糖ユニット1モルに対して0.06モル)をサンプル瓶にいれ振り混ぜることで混合物を得た(工程1及び工程a)。得られた混合物を、窒素ガス雰囲気中、600℃まで昇温した。この際、600℃までの昇温速度は600℃/時間(10℃/分)とした。次いで、窒素ガス気流下、600℃で30分間熱処理し炭化処理を行うことにより炭化物を得た(工程2)。この際、窒素ガスの供給量は、デンプン10gあたり0.5L/分であった。その後、得られた炭化物をボールミルを用いて粉砕することにより、D50が5.5μmの粉砕した炭化物を得た(工程3)。次に、粉砕した炭化物とポリスチレン(積水化成品工業株式会社製、平均粒子径400μm)を、質量比1:0.1となるように100mlの容器にいれ、2Hzで5分間振とうすることにより混合した。得られた混合物を、1250℃まで昇温し、1250℃で30分間熱処理する高温焼成処理を行うことにより熱処理物を得た(工程4)。この際、1250℃までの昇温速度は600℃/時間(10℃/分)とした。上記の昇温及び熱処理は窒素ガス気流下で行った。窒素ガスの供給量は、粉砕した炭化物5gあたり3L/分であった。続いて熱処理物100質量部に対し、1質量部のアジピン酸を添加しサンプル瓶にいれ振り混ぜることで混合し、窒素ガス雰囲気中150℃まで昇温した。この際、150℃までの昇温速度は600℃/時間(10℃/分)とした。150℃で1時間、後熱処理を行うことにより炭素質材料を得た(工程5)。
【0081】
(実施例2)
工程(5)における添加剤をアジピン酸に代えてクエン酸とした以外は実施例1と同様に工程(1)~(5)を行い、炭素質材料を得た。
【0082】
(実施例3)
工程(5)における添加剤をアジピン酸に代えてグルコースとした以外は実施例1と同様に工程(1)~(5)を行い、炭素質材料を得た。
【0083】
(実施例4)
工程(5)における添加剤をアジピン酸に代えてフルクトースとし、工程(5)における熱処理温度を130℃、熱処理時間を3時間とした以外は実施例1と同様に工程(1)~(5)を行い、炭素質材料を得た。
【0084】
(比較例1)
デンプン(コーンスターチ)100質量部とメラミン11.6質量部(デンプン単糖ユニット1モルに対して0.15モル)、アジピン酸7.6質量部(デンプン単糖ユニット1モルに対して0.08モル)、リン酸二水素アンモニウム4質量部(デンプン単糖ユニット1モルに対して0.06モル)をサンプル瓶にいれ振り混ぜることで混合物を得た(工程1及び工程a)。得られた混合物を、窒素ガス雰囲気中、600℃まで昇温した。この際、600℃までの昇温速度は600℃/時間(10℃/分)とした。次いで、窒素ガス気流下、600℃で30分間熱処理することにより炭化処理を行うことにより炭化物を得た(工程2)。この際、窒素ガスの供給量は、デンプン10gあたり0.5L/分であった。その後、得られた炭化物をボールミルを用いて粉砕することにより、D50が5.5μmの粉砕した炭化物を得た(工程3)。次に、粉砕した炭化物およびポリスチレン(積水化成品工業株式会社製、平均粒子径400μm)を、質量比1:0.1となるように100mlの容器にいれ、2Hzで5分間振とうすることにより混合した。得られた混合物を、1250℃まで昇温し、1250℃で30分間熱処理する高温焼成処理を行うことにより炭素質材料を得た(工程4)。この際、1250℃までの昇温速度は600℃/時間(10℃/分)とした。上記の昇温及び熱処理は窒素ガス気流下で行った。窒素ガスの供給量は、粉砕した炭化物5gあたり3L/分であった。
【0085】
(比較例2)
デンプン(コーンスターチ)100質量部とメラミン5.4質量部(デンプン単糖ユニット1モルに対して0.07モル)、アジピン酸3.8質量部(デンプン単糖ユニット1モルに対して0.04モル)、リン酸二水素アンモニウム2質量部(デンプン単糖ユニット1モルに対して0.03モル)をサンプル瓶に入れ振り混ぜることで混合物を得た(工程1及び工程a)。得られた混合物を、窒素ガス雰囲気中、600℃まで昇温した。この際、600℃までの昇温速度は600℃/時間(10℃/分)とした。次いで、窒素ガス気流下、600℃で30分間熱処理し炭化処理を行うことにより炭化物を得た(工程2)。この際、窒素ガスの供給量は、デンプン10gあたり0.5L/分であった。その後、得られた炭化物をボールミルで粉砕することにより、D50が5.5μmの粉砕した炭化物を得た(工程3)。得られた粉砕した炭化物を、1150℃まで昇温し、1150℃で60分間熱処理する高温焼成処理を行うことにより炭素質材料を得た(工程4)。この際、1150℃までの昇温速度は600℃/時間(10℃/分)とした。上記の昇温および熱処理は窒素ガス気流下で行った。窒素ガスの供給量は、粉砕した炭化物5gあたり3L/分であった。
【0086】
(比較例3)
デンプン(コーンスターチ)100質量部とメラミン11.6質量部(デンプン単糖ユニット1モルに対して0.15モル)、アジピン酸7.6質量部(デンプン単糖ユニット1モルに対して0.08モル)、リン酸二水素アンモニウム4質量部(デンプン単糖ユニット1モルに対して0.06モル)をサンプル瓶にいれ振り混ぜることで混合物を得た(工程1及び工程a)。得られた混合物を、窒素ガス雰囲気中、600℃まで昇温した。この際、600℃までの昇温速度は600℃/時間(10℃/分)とした。次いで、窒素ガス気流下、600℃で30分間熱処理することにより炭化処理を行うことにより炭化物を得た(工程2)。この際、窒素ガスの供給量は、デンプン10gあたり0.5L/分であった。その後、得られた炭化物をボールミルで粉砕することにより、D50が5.5μmの粉砕した炭化物を得た(工程3)。得られた粉砕した炭化物を1100℃まで昇温し、1100℃で60分間熱処理する高温焼成処理工程(工程4)を行い、炭素質材料を得た。この際、1100℃までの昇温速度は600℃/時間(10℃/分)とした。上記の昇温及び熱処理は窒素ガス気流下で行った。窒素ガスの供給量は、粉砕した炭化物5gあたり3L/分であった。
【0087】
(比較例4)
デンプン(コーンスターチ)100質量部とメラミン2質量部(デンプン単糖ユニット1モルに対して0.026モル)、アジピン酸7.6質量部(デンプン単糖ユニット1モルに対して0.08モル)、リン酸二水素アンモニウム4質量部(デンプン単糖ユニット1モルに対して0.06モル)をサンプル瓶に入れ振り混ぜることで混合物を得た(工程1及び工程a)。得られた混合物を、窒素ガス雰囲気中、600℃まで昇温した。この際、600℃までの昇温速度は600℃/時間(10℃/分)とした。次いで、窒素ガス気流下、600℃で30分間熱処理することにより炭化処理を行うことにより炭化物を得た(工程2)。この際、窒素ガスの供給量は、デンプン10gあたり0.5L/分であった。その後、得られた炭化物をボールミルで粉砕することにより、D50が5.5μmの粉砕した炭化物を得た(工程3)。得られた粉砕した炭化物を、1200℃まで昇温し、1200℃で60分間熱処理する高温焼成処理を行うことにより炭素質材料を得た(工程4)。この際、1200℃までの昇温速度は600℃/時間(10℃/分)とした。上記の昇温および熱処理は窒素ガス気流下で行った。窒素ガスの供給量は、粉砕した炭化物5gあたり3L/分であった。
【0088】
(電極の作製)
各実施例及び比較例で得た炭素質材料をそれぞれ用いて、以下の手順に従って負極を作製した。
炭素質材料95質量部、導電性カーボンブラック(TIMCAL製「Super-P(登録商標)」)2質量部、カルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部、スチレン・ブタジエン・ラバー(SBR)2質量部及び水90質量部を混合し、スラリーを得た。得られたスラリーを厚さ15μmの銅箔に塗布し、乾燥後プレスして、直径14mmで打ち抜き厚さ45μmの電極を得た。
【0089】
(重量あたりの放電容量及び電流効率)
上記で作製した電極を作用極とし、金属リチウムを対極及び参照極として使用した。溶媒として、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートを、体積比で1:1:1となるように混合して用いた。この溶媒に、LiPFを1mol/L溶解し、電解質として用いた。セパレータにはポリプロピレン膜を使用した。アルゴン雰囲気下のグローブボックス内でコインセルを作製した。
上記構成のリチウム二次電池について、充放電試験装置(東洋システム株式会社製、「TOSCAT」)を用いて、充放電試験を行った。リチウムのドーピングは、活物質質量に対し70mA/gの速度で行い、リチウム電位に対して1mVになるまでドーピングした。さらにリチウム電位に対して1mVの定電圧を印加して、活物質質量に対し2mA/gの速度になった段階でドーピングを終了した。このときの容量を充電容量とした。次いで、活物質質量に対し70mA/gの速度で、リチウム電位に対して1.5Vになるまで脱ドーピングを行い、このとき充電した容量を初期充電容量(mAh)、放電した容量を初期放電容量(mAh)とした。得られた初期充電容量と初期放電容量を、それぞれ負極の重量で除して、得られた値を重量あたりの充電容量(mAh/g)と重量あたりの放電容量(mAh/g)とした(初期充放電の評価)。また、初期放電容量を、初期充電容量で除して、得られた値の百分率を電流効率(%)とした。
【0090】
(繰返しの充放電後の容量維持率及び全効率)
〈繰返しの充放電後の容量維持率〉
上記の初期充放電評価条件を10回繰り返し実施した後に得られた放電容量を繰返しの充放電後の放電容量とした。また、以下の式により繰返しの充放電後の容量維持率を算出した。
繰返しの充放電後の容量維持率(%)=繰返しの充放電後の放電容量(mAh/g)/初期放電容量(mAh/g)×100
【0091】
〈繰返しの充放電後の全効率〉
以下の式により繰り返しの充放電後の全効率を算出した。全効率は初回の充放電による劣化および繰り返しの充放電による劣化の両方を示す指標となる。
全効率(%)=繰返しの充放電後の容量維持率(%)×電流効率(%)/100
【0092】
(塗工性評価)
炭素質材料95質量部、導電性カーボンブラック(TIMCAL製「Super-P(登録商標)」)2質量部、カルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部、スチレン・ブタジエン・ラバー(SBR)2質量部及び水90質量部を混合し、スラリーを得た。得られたスラリーを、ドクターブレードを用いて厚さ15μmの銅箔5枚にそれぞれ10cm×10cmの面積に塗工し、80℃で30分乾燥した。得られた塗工膜を目視観察して確認されたブツの数(5枚平均)が0~1個の場合を◎、2~5個の場合を〇、6個以上の場合を△とした。
【0093】
実施例及び比較例で得た炭素質材料について、上記の測定方法に従い、窒素元素含有量、水素元素含有量、酸素元素含有量(元素分析)、リン元素含有量、炭素面間隔(d002)、1360cm-1付近のピークの半値幅、及び1650cm-1付近のピークの半値幅を測定した結果を表1及び表2に示す。さらに、得られた電池について測定した、重量あたりの放電容量及び電流効率、及び繰返しの充放電後の容量維持率及び全効率、塗工性評価も表2に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
各実施例の炭素質材料を用いて作製した電池は、高い重量あたりの放電容量を有すると共に、優れた電流効率を示したのみならず炭素質材料の塗工性にも優れていた。また、10回の繰返し充放電後も放電容量が高く、容量維持率及び全効率も高い結果を示した。一方で、所定の窒素元素含有量、水素元素含有量、及び/又はリン元素含有量を満たさない、各比較例の炭素質材料を用いて作製した電池では、重量あたりの放電容量や電流効率が十分に高いものではない、又は全効率が低いか、塗工性に改善の余地のある結果であった。