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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037205
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】アルミニウム基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 21/00 20060101AFI20240312BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20240312BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C22B21/00
B22F9/00 A
C22B7/00 F
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141840
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000241485
【氏名又は名称】豊田通商株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519016181
【氏名又は名称】豊通スメルティングテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八百川 盾
(72)【発明者】
【氏名】箕浦 琢真
(72)【発明者】
【氏名】日比 加瑞馬
(72)【発明者】
【氏名】高野 航
(72)【発明者】
【氏名】高須 俊輔
【テーマコード(参考)】
4K001
4K017
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001BA22
4K001KA08
4K001KA13
4K017AA02
4K017BA01
4K017EK08
(57)【要約】
【課題】Al基粒子を効率的または簡易的に得ることができる製造方法を提供する。
【解決手段】本発明によれば、Al基箔を溶融塩に接触させることにより、溶融塩中にAl基粒子(液相)が分散した粒子分散溶融塩(Al基材の一例)が得られる。粒子分散溶融塩を経由すれば、例えば、Al基粒子(固相)からなるAl基粉末(Al基材の一例)が効率的または簡易的に得られる。Al基粒子群を分級すれば、所望の粒度分布のAl基粉末を得ることもできる。Al基箔は、例えば、その厚さが0.5mm以下さらには0.1mmである。Al基箔は、細断された箔片として溶融塩に供給されるとよい。これにより、微細な粒子を含む粒度分布のAl基粉末が得られ易くなる。溶融塩は、例えば、NaClとKClを含む混合塩を用いるとよい。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム基箔を溶融塩に接触させてアルミニウム基粒子を得るアルミニウム基材の製造方法。
【請求項2】
アルミニウム基箔を溶融塩層へ入れて溶融させる溶融工程と、
該溶融工程後に得られたアルミニウム基粒子を収集する収集工程と、
を備えるアルミニウム基材の製造方法。
【請求項3】
前記アルミニウム基箔は、細断された箔片からなる請求項1または2に記載のアルミニウム基材の製造方法。
【請求項4】
前記アルミニウム基箔は、厚さが0.1mm未満である請求項1または2に記載のアルミニウム基材の製造方法。
【請求項5】
前記溶融塩は、混合塩からなる請求項1または2に記載のアルミニウム基材の製造方法。
【請求項6】
前記混合塩は、NaClとKClを含む請求項5に記載のアルミニウム基材の製造方法。
【請求項7】
前記アルミニウム基粒子は、液相粒子であり、
前記アルミニウム基材は、該液相粒子が前記溶融塩中に分散してなる粒子分散溶融塩である請求項1または2に記載のアルミニウム基材の製造方法。
【請求項8】
前記アルミニウム基粒子は、液相粒子であり、
前記アルミニウム基材は、該液相粒子から得られたアルミニウム基溶湯である請求項1または2に記載のアルミニウム基材の製造方法。
【請求項9】
前記アルミニウム基粒子は、液相粒子が凝固した固相粒子であり、
前記アルミニウム基材は、前記溶融塩が凝固した凝固塩中に該固相粒子が分散してなる粒子分散凝固塩である請求項1または2に記載のアルミニウム基材の製造方法。
【請求項10】
前記アルミニウム基粒子は、液相粒子が凝固した固相粒子であり、
前記アルミニウム基材は、該固相粒子からなるアルミニウム基粉末である請求項1または2に記載のアルミニウム基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム基材の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
純アルミニウム(Al)やAl合金は、種々の製品や分野で用いられる。例えば、純AlやAl合金からなるAl基粒子(粉末)は、複合材原料(熱伝導性フィラー、導電性フィラー等の充填材または母材)、焼結原料、化学反応原料(テルミット反応剤等)、顔料などに利用される。
【0003】
Al基粉末は、一般的に、下記の非特許文献1にもあるように、Al基溶湯の噴霧(アトマイズ法)、Al基溶湯の分散(メルトスピン法)、Al基溶湯の飛散(メルトエクストラクション法)、Al基片の粉砕(ボールミル法、アトライタ法)等により製造される。さらに近年では、溶融塩を用いたAl基粒子の製造方法も提案されており、下記の特許文献に関連する記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-191148
【特許文献2】特開2009-215569
【特許文献3】特開2017-20062
【特許文献4】特表2018-511776
【特許文献5】特表2019-502890
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】岩尾修、アルミニウム粉末の製造法、軽金属(1987)646-655
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、塩化アルミニウムの溶融塩を溶融ナトリウムへ注入して、塩化ナトリウムで被覆されたアルミニウム粒子を得ている。還元剤である金属ナトリウムは、安全性やコスト等の観点から利用し難い。
【0007】
特許文献2では、反応媒体となる溶融塩中で、金属A粒子と金属Aよりも貴な金属Bのイオンとを置換反応させて、金属Bが金属A粒子に析出および拡散した合金粒子を得ている。但し、Al基粒子に関する具体的な記載は特許文献2にない。
【0008】
特許文献3~5には、溶融塩を用いた溶解方法等に関する記載がある。いずれの特許文献にも、Al基粒子に関する具体的な記載はない。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、従来とは異なる新たな方法により、アルミニウム基粒子を得る方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、溶融塩(溜)へAl基箔を投入すると、凝集した溶湯(塊)とならず分散粒(液相)となることを新たに見出した。この発見を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0011】
《アルミニウム基材の製造方法》
(1)本発明は、アルミニウム基箔を溶融塩に接触させてアルミニウム基粒子を得るアルミニウム基材の製造方法である。
【0012】
本発明は、例えば、アルミニウム基箔を溶融塩層へ入れて溶解させる溶融工程と、該溶融工程後に得られたアルミニウム基粒子を収集する収集工程と、を備えるアルミニウム基材の製造方法でもよい。
【0013】
(2)本発明の製造方法によれば、アルミニウム基粒子(Al基粒子)またはAl基粒子に基づくアルミニウム基材(Al基材)を簡易的、効率的または高歩留まりで得ることができる。
【0014】
ちなみに、溶融塩を構成する代表的な金属元素(例えばNa、K、Mg、Ca等/特定金属元素)がハロゲン化物(例えば塩化物や臭化物等)となるときの標準生成自由エネルギーは、Alが酸化物となるときの標準生成自由エネルギーよりも遙かに小さい。このため本発明の製造方法によれば、アルミニウム基箔(Al基箔)にあった酸化物(表面にある酸化膜等)の少なくとも一部が除去(還元)されたAl基粒子が得られる。またAl基粒子は、溶融塩またはその凝固塩(膜状を含む)に包囲された状態である限り、酸化が抑制された状態となる。このため本発明の製造方法によれば、酸化物等を含まない精製されたAl基粒子を得ることもできる。
【0015】
さらにAl基箔から得られるAl基粒子(液相)は、溶融塩中で球状化し易い。このため本発明の製造方法によれば、粒形状が揃った(球形化した)Al基粒子からなるAl基材を得ることもできる。
【0016】
《Al基粒子/Al基材》
(1) Al基粒子は、液相状態でも、固相状態でも、固液共存状態(半溶融状態)でもよい。
【0017】
液相のAl基粒子が集合(収集)した粒子群またはその結合(連結)から得られるAl基溶湯は、Al基材の一形態となり得る。具体的にいうと、Al基粒子が液相粒子であり、この液相粒子から得られたAl基溶湯を、本発明に係るAl基材として把握してもよい。
【0018】
固相のAl基粒子が集合(収集)した粒子群から得られるAl基粉末も、Al基材の一形態となり得る。具体的にいうと、Al基粒子は液相粒子が凝固した固相粒子であり、この固相粒子から得られたAl基粉末を、本発明に係るAl基材として把握してもよい。
【0019】
(2)Al基粒子は、溶融塩やその凝固塩と分別(分離、抽出、捕集、回収等)された状態でなくてもよい。つまり、Al基粒子と溶融塩および/または凝固塩とが共存した物も、Al基材の一形態となり得る。
【0020】
例えば、Al基粒子が液相粒子であり、この液相粒子が溶融塩中に分散してなる粒子分散溶融塩を、Al基材として把握してもよい。また、Al基粒子は、液相粒子が凝固した固相粒子であり、溶融塩が凝固した凝固塩中にその固相粒子が分散してなる粒子分散凝固塩を、Al基材として把握してもよい。さらに、溶融塩の種類(温度)を調整して、例えば、Al基粒子の固相粒子が溶融塩中に分散した粒子分散溶融塩を、Al基材として把握することもできる。
【0021】
なお、粒子分散溶融塩または粒子分散凝固塩は、独立した取引対象として把握されてもよいし、Al基溶湯やAl基粉末等を得るための一時的(暫定的)な中間物(中間原料等)として把握されてもよい。
【0022】
(3)Al基箔から得られたAl基粒子を経由して形成されたAl基鋳塊、Al基鋳物(最終品、中間品等)、Al基焼結体(素材、製品)、Al基複合体(素材、製品)、粉末等も、Al基材の具体例として把握されてもよい。なお、Al基材の一例である粉末は、粒子形態が維持される充填材等に用いられる他、溶解される溶湯原料、成形や焼成される焼結原料等に用いられてもよい。
【0023】
《その他》
(1)本明細書でいう「収集」は、複数の粒子(液相粒子または固相粒子)が存在している状態である。また「分散」は、その複数の粒子が他の媒体(溶融塩または凝固塩)中に存在している状態である。いずれの場合も、その程度や形態等を問わない。
【0024】
(2)本明細書でいう濃度、組成、粒度分布は、特に断らない限り、対象物(溶湯、粒子等)の全体に対する質量割合(質量%)で示す。適宜、質量%を単に「%」で示す。
【0025】
(3)特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は、下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1A】Al基箔片(0.018mm厚×25mm角)の写真である。
図1B】Al基箔片(0.3mm厚×1mm幅)の写真である。
図1C】Al基箔片(0.3mm厚×3mm角)の写真である。
図2】Al基粒子(粉末)の製造過程を例示した模式図である。
図3】原料であるAl基箔片の形態(厚さ・大きさ)と得られたAl基粒子の形態(写真)との対応を示す一覧表である。
図4】Al基箔片(0.011mm厚×25mm角)から得られたAl基粒子のSEM像である。
図5】原料であるAl基箔片(25mm角)の厚さと得られたAl基粒子の粒度分布との関係を示す棒グラフである。
図6A】原料であるAl基箔片(0.3mm厚さ)の大きさと得られたAl基粒子の粒度分布との関係を示す棒グラフである。
図6B】原料であるAl基箔片(0.1mm厚さ)の大きさと得られたAl基粒子の粒度分布との関係を示す棒グラフである。
図6C】原料であるAl基箔片(0.018mm厚さ)の大きさと得られたAl基粒子の粒度分布との関係を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、方法的な構成要素であっても物(例えば、Al基粒子、Al基材)に関する構成要素ともなり得る。
【0028】
《Al基箔》
(1)原料となるAl基箔には、Al基材(板材、鋳塊等)を所望厚さに加工(圧延等)したものを用いてもよいし、既に箔状にされているAl基材をそのまま用いてもよい。Al基材は、市場や工場等から回収した廃材やその再生材(塊状、板状、箔状等)でもよい。回収または再生したAl基箔は、そのまま利用されてもよいし、インク除去や洗浄等の前処理、厚さ調整等がなされてもよい。樹脂等でラミネートされたAl基箔は、そのまま溶融塩に加えられてもよいし、ラミネート層を除去して溶融塩に加えられてもよい。Al基箔には、皺、折れ、曲がり等があってもなくてもよい。
【0029】
(2)Al基箔は、純アルミニウム(純Al)でも、アルミニウム合金(Al合金)でもよい。成分組成の異なるAl基箔が混在した状態で用いられてもよい。原料となるAl基箔の成分組成が、得られるAl基粒子の成分組成に反映される。このため、原料となるAl基箔の成分や配合等を調整して、所望成分のAl基粒子を得てもよい。
【0030】
(3)Al基箔の厚さや大きさは適宜選択される。所望するAl基粒子群(粉末)の粒度分布に応じて、溶融塩に加えるAl基箔(箔片)の厚さや大きさ(厚さ以外のサイズ)を調整してもよい。この際、厚さおよび/または大きさが異なるAl基箔(箔片)を混在させてもよい。通常、Al基箔(箔片)が薄い程および/または小さい程、細かい(小径な)Al基粒子の割合が多くなる。逆に、Al基箔(箔片)が厚い程および/または大きい程、粗い(大径な)Al基粒子の割合が多くなる。
【0031】
Al基箔の厚さは、例えば、その上限値(~以下さらには~未満となる閾値)が0.5mm、0.3mm、0.2mm、0.1mm、0.07mm、0.03mm、0.02mmである。敢えていうと、その下限値(~以上さらには~超となる閾値)は、例えば、0.001mm、0.005mmさらには0.008mmである。Al基箔の厚さは、マイクロメータ等により測定される。Al基箔の厚さには±10%程度のバラツキがあってもよい。任意な数箇所(例えば10箇所)で測定した厚さの算術平均値を、適宜、Al基箔の厚さとしてもよい。特に断らない限り、本明細書でいう「箔」は、厚さが0.5mm以下(0.2mm以下さらには0.1mm未満)である場合を意味する。
【0032】
箔片の大きさは、例えば、最大長が200mm、150mm、100mm、50mm、30mm、20mm、10mm、5mm、1mmである。その最小長は、例えば、10mm、5mm、1mmさらには0.5mmである。箔片の厚さに応じて、箔片の大きさを調整してもよい。例えば、薄いときは大きい箔片を用いてもよいし、厚いときは小さい箔片を用いてもよい。なお、箔片は、例えば、Al基箔(原料)をシュレッダー等により細断して得られる。
【0033】
《溶融塩》
溶融塩は、例えば、安定な金属ハロゲン化物(特に塩化物および/または臭化物)を原料とすればよい。ハロゲン化物を構成する金属元素は、例えば、Ca、Na、Li、Sr、K、Mg、Cs、Ba等の一種以上である。特にNaおよび/またはKのハロゲン化物は、安価で安定しており、溶融塩に好適である。
【0034】
溶融塩の原料配合(成分調整)により、その温度が調整されてもよい。溶融塩の温度は少なくとも、Al基箔の溶融温度以上(超)とされるとよい。溶融塩は、単層に限らず、複層でもよい。溶融塩は、少なくともAl基箔の浸漬に十分な深さまたは量がある溶融塩溜(槽)であるとよい。なお、通常、Al基粒子(液相)は、密度差により、溶融塩の下方で滞留または沈降する。
【0035】
《Al基粒子》
(1)Al基粒子の粒サイズ(粒形状に依らず「粒径」という。)は、一定でも分布していてもよい。薄く小さいAl基箔片を溶融させるほど、微細なAl基粒子が多い粒度分布が生じ易い。
【0036】
Al基粒子は、Al基箔(片)から得られたままの液相粒子または固相粒子でもよいし、粒子同士が連結(結合)して一体化(大径化)または合金化した液相粒子または固相粒子でもよい。Al粒子は、そのまま利用されてもよいし、粒度調整(分級)されても利用されてもよい。本発明の製造方法によれば、粒度1.7mm超のAl基粒子からなるAl粉末を得ることもできるし、粒度0.1mm未満のAl基粒子からなるAl粉末を得ることもできる。
【0037】
なお、本明細書でいう粉末の粒度(または粒径)は、特に断らない限り、篩い分けにより特定され、その篩いの公称目開き(メッシュサイズ)により表現される(JIS Z 8801準拠)。粒度α~β(α<β)は、公称目開きαμmの篩いを通過せず、公称目開きβμmの篩いを通過した粒子(群)からなることを意味する。粒度α~は、公称目開きαμmの篩いを通過しなかった粒子(群)からなることを意味する。粒度~βは、公称目開きβμmの篩いを通過した粒子(群)からなることを意味する。液相粒子の粒径は、熱収縮分を除けば、固相粒子の粒径とほぼ等しいと考えられる。
【0038】
(2)Al基粒子やAl基材には、種々の用途がある。例えば、その一形態であるAl基粉末(固相粒子)なら、母材(樹脂、異種金属、セラミックス等)中に分散させて複合材を構成する充填材(熱伝導性フィラー、導電性フィラー等)、焼結材の原料粉末(主元素粉末または合金元素粉末等)、化学反応(テルミット反応等)を生じさせる原料(還元剤等)、塗料に添加される顔料などに利用され得る。
【実施例0039】
Al基箔を溶融塩へ加えてAl基粒子(液相粒子)を製造し、それらを凝固させた。このような具体例に基づいて本発明をより詳しく説明する。
【0040】
《試料の製作》
(1)原料
原料として、寸法(大きさ(平面的なサイズ)と厚さ)が異なる種々の箔片を用意した。いずれの箔片も純Al(JIS 1000系/純度99%以上)からなる大きさ100mm×100mm以上の箔(Al基箔)を用いた。箔の厚さは、0.011mm、0.018mm、0.025mm、0.05mm、0.1mm、0.3mmまたは0.8mmのいずれかとした。
【0041】
箔片のサイズは、25mm角(略正方形)、3mm角、5mm幅(長さ25mm)、1mm幅(長さ25mm)とした。5mm幅と1mm幅はいずれも、25mm角の箔片を所定幅にさらに細断してサイズ調整した。
【0042】
箔または箔片の切断(細断)は、いずれも大気雰囲気中で金属用ハサミを用いて行なった。こうして種々の箔片を得た。その一部の外観を図1A図1Cに示した。
【0043】
(2)溶融塩
カリウム塩化物とナトリウム塩化物の混合塩(KCl-44質量%NaCl):100gをアルミナ製のるつぼ(株式会社ニッカトー製B3)に入れて、700℃まで炉加熱した。こうして混合塩からなる溶融塩(層、溜)を得た。
【0044】
(3)溶融工程
図2に示すように、箔片(2.5g)を溶融塩(100g)へ投入して溶融させる工程を、各箔片毎に行なった。この工程中に撹拌は行なわず、各箔片が溶融塩中に分散、溶融するまで静置(約10分間程度)した。
【0045】
(4)収集工程
溶融工程後のるつぼを炉外で放冷し(冷却工程)、溶融塩(粒子分散溶融塩)を凝固させた(凝固工程)。るつぼから取り出した凝固物(粒子分散凝固塩)を水洗した(水洗工程/塩除去工程)。塩分の除去後に残存した粒子をろ過、乾燥した(濾別工程、乾燥工程)。こうして得られた各箔片に対応する粒子群を図3にまとめて示した。
【0046】
(5)分級工程
各粒子群を篩により分級した。篩には、開口寸法(メッシュサイズ)が1.7mm、0.85mm、0.425mm、0.212mm、0.106mmの5種類を用いた。各粒子群の粒度分布(質量割合)を、図5図6A図6C(これらを併せて単に「図6」という。)に示した。図5は、原料に用いた箔片(25mm角)の厚さと得られた粒子群の粒度分布との関係を示す。図6は、その箔片の大きさとその粒度分布との関係を示す。
【0047】
(6)比較試料
上述した溶融塩(100g)を入れたるつぼへAl塊(50g)を投入して、Al塊を溶融させた。溶融塩中にできたAl溶湯(塊)をアルミナ製棒で撹拌し、溶融塩中にAl溶湯を粒状に分散させた。上述した方法と同様にして、そのるつぼを放冷して得られた凝固物を水洗した後、得られた粒子をろ過、乾燥および分級した。
【0048】
《観察》
0.011mm厚×25mm角の箔片を用いて得られた粒子(粒度:~0.212mm) を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したSEM像とその拡大像を図4に示した。
【0049】
《評価》
(1)粒子形状
図4から明らかなように、Al基箔片を溶融塩に接触させて得られるAl基粒子は、溶融工程中に撹拌しなくても、ほぼ球状となることがわかった。なお、比較試料のAl基粒子の形状は、やや扁平した球状であった。
【0050】
(2)粒度分布
図5から明らかなように、薄いAl基箔を用いるほど、微細な粒子を多く含む粒度分布が得られた。逆に、厚いAl基箔を用いるほど、粒径の大きな粒子を多く含む粒度分布が得られた。
【0051】
図6Aから明らかなように、0.3mm厚以上(超)のAl基箔を用いると、その大きさに依らず、粒径の大きい粒子が安定して得られた。厚いAl基箔(片)は、各端面から徐々に溶け、球状化前に他のAl基粒子(液相)と結合する機会が多くなったためと考えられる。なお、比較試料のAl基粒子は、その殆どが粒度1.7mm超であった。
【0052】
図6B図6Cから明らかなように、Al基箔の厚さや箔片の大きさにより、粒度分布を調整できることがわかった。例えば、薄く小さい箔片を用いると、比較的細かい粒子を多く含む粒度分布の粉末が得られた。薄く小さい箔片は、短時間内に溶融して球状化し、分散し易くなったためと考えられる。このような傾向は、Al基箔の厚さが0.1mm以下(さらには未満)またはAl基箔片の幅が1mm以下(さらには未満)で顕著であった。
【0053】
ちなみに、粒径(直径)がおおよそ2mm以下のAl基粒子(液相)は、一体化し難く、溶融塩中で分散状態を維持し易かった。
【0054】
このように、本発明によれば、Al基箔を用いることにより、Al基粒子が溶融塩に分散した粒子分散溶融塩が得られる。さらに、その粒子分散溶融塩から、所望のAl基材(粉末等)を効率的または簡易的に得ることもできる。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C