(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037309
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】メソ細孔を有する非晶質な多孔質体の製造方法および当該多孔質体を触媒に用いた5-ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 25/37 20060101AFI20240312BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20240312BHJP
B01J 37/10 20060101ALI20240312BHJP
B01J 27/18 20060101ALI20240312BHJP
B01J 35/60 20240101ALI20240312BHJP
C07D 307/50 20060101ALI20240312BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
C01B25/37 Z
B01J37/04 102
B01J37/10
B01J27/18 Z
B01J35/10 301G
C07D307/50
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142050
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】陳 鵬茹
(72)【発明者】
【氏名】三村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】日吉 範人
(72)【発明者】
【氏名】山口 有朋
【テーマコード(参考)】
4G169
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA08
4G169AA09
4G169BB08C
4G169BB14A
4G169BB14B
4G169BB14C
4G169BC22A
4G169BC22B
4G169BC22C
4G169BC50A
4G169BC50C
4G169BC51A
4G169BC51C
4G169BD12C
4G169CB21
4G169CB63
4G169CB72
4G169DA05
4G169EB01
4G169EC03Y
4G169EC07Y
4G169EC18Y
4G169EC25
4G169EC26
4G169FA01
4G169FB05
4G169FB10
4G169FC02
4G169FC08
4H039CA42
4H039CH90
(57)【要約】
【課題】環境に負荷を与えず、コストの低減にも寄与する、メソ細孔を有する多孔質体の製造方法および当該多孔質体を触媒に用いて、効率よく5-ヒドロキシメチルフルフラールを製造できる、5-ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法を提供することである。
【解決手段】(a)リン酸と、Sn、Zr、Tiから選択される少なくとも1種の4価の金属のハロゲン化物と、の混合水溶液を作製する工程と、(b)前記混合水溶液を水熱反応に供する工程と、を含み、界面活性剤を使用する工程を含まない、メソ細孔を有する非晶質な多孔質体の製造方法である。また、当該製造方法により製造した多孔質体を触媒に用いて、水とメチルイソブチルケトンの存在下、グルコースから5-ヒドロキシメチルフルフラールを製造する、5-ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)リン酸と、Sn、Zr、Tiから選択される少なくとも1種の4価の金属のハロゲン化物と、の混合水溶液を作製する工程と、(b)前記混合水溶液を水熱反応に供する工程と、を含み、界面活性剤を使用する工程を含まない、メソ細孔を有する非晶質な多孔質体の製造方法。
【請求項2】
前記金属のハロゲン化物が塩化スズ(IV)である、請求項1に記載のメソ細孔を有する非晶質な多孔質体の製造方法。
【請求項3】
PとSnのモル比はP/Snが0.5-1.5の範囲である、請求項2に記載のメソ細孔を有する非晶質な多孔質体の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のメソ細孔を有する非晶質な多孔質体の製造方法により多孔質体を製造し、当該多孔質体を触媒に用いて、水とメチルイソブチルケトンの存在下、グルコースから5-ヒドロキシメチルフルフラールを製造する、5-ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法。
【請求項5】
前記グルコースと前記多孔質体と前記水と前記メチルイソブチルケトンとを120-160℃の温度条件下で加熱処理する、請求項4に記載の5-ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソ細孔を有する多孔質体の製造方法、特に多孔質触媒の製造方法および当該触媒を用いた5-ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メソ細孔を有する多孔質体は、主に吸着材や触媒担体や触媒として、またその他にも分離材やエレクトロニクス材料としての機能が期待されている。
特に、メソ細孔を有する多孔質触媒は、大きな表面積と狭い細孔径分布を有することから、有用な触媒として注目されており、バイオマス変換反応、石油化学、石油精製プロセス用などの種々の用途に利用されている。例えば、非特許文献1-4には、リンとスズを含む多孔質触媒を用いて、グルコースから5-ヒドロキシメチルフルフラール(以下、「HMF」ということもある)を製造することが記載されている。HMFは、樹脂材料、燃料、化成品、界面活性剤、香粧品などの種々の有用な化学物質の原料となるものであり、重要な化学中間体である。また、非特許文献5には、このような多孔質触媒について、メソポーラス構造(メソ細孔を有する多孔体構造をいう)を持つ、リンとスズを含む物質が、触媒作用に非常に有用であることが記載されている。
【0003】
そして、上記したメソ細孔を有する多孔質体は、界面活性剤の作用を利用して合成されている。このような多孔質体においては、比表面積や細孔容積が大きい方が、吸着性能や触媒性能が向上するため、望ましい。例えば、触媒の場合は、一般的に、非特許文献1-5に記載されているように、原料に界面活性剤を添加して作製されるが、比表面積や細孔容積は界面活性剤の種類や有無にも左右され、非特許文献1、3-5においては、界面活性剤の種類や有無などについても検討されている。そして、これらの文献によれば、界面活性剤の使用によって、触媒の比表面積や細孔容積を大きくできることが記載されており、触媒の作製には、界面活性剤の使用が欠かせないものとなっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Qidong Hou et al., Applied Catalysis B: Environmental Volume 224, 2018, p183-193
【非特許文献2】Arghya Dutta et al., ChemSusChem 2014, Volume 7, p925-933
【非特許文献3】Pandian Manjunathan et al., Catal. Sci. Technol., 2021, Volume 11, p272-282
【非特許文献4】Xinqiang Feng et al., Applied Catalysis B: Environmental Volume 259, 2019, 118108
【非特許文献5】Nawal Kishor Mal et al., CHEM. COMMUN., 2002, p112-113
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、このような多孔質体の作製には界面活性剤が使用されているが、界面活性剤の使用は環境に負荷を与えるものであり、またコストもかかるため、好ましくない。なるべく環境に負荷を与えず、コストの低減にも寄与するような作製方法が望まれる。また、5-ヒドロキシメチルフルフラールの製造においても、そのような触媒を用いることが望ましく、かつ効率のよい製造方法が望まれる。
本発明の課題は、環境に負荷を与えず、コストの低減にも寄与する、メソ細孔を有する多孔質体の製造方法および当該多孔質体を触媒に用いて、効率よく5-ヒドロキシメチルフルフラールを製造できる、5-ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究の結果、原料を溶解、混合した後に低温度条件で長時間保持することで、界面活性剤を使用しなくても、メソ細孔の形成が可能であることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち本発明は以下の態様を含む:
本発明の一態様は
(1)(a)リン酸と、Sn、Zr、Tiから選択される少なくとも1種の4価の金属のハロゲン化物と、の混合水溶液を作製する工程と、(b)前記混合水溶液を水熱反応に供する工程と、を含み、界面活性剤を使用する工程を含まない、メソ細孔を有する非晶質な多孔質体の製造方法に関する。
【0008】
また、
(2)前記金属のハロゲン化物が塩化スズ(IV)である、前記(1)に記載のメソ細孔を有する非晶質な多孔質体の製造方法に関する。
(3)PとSnのモル比はP/Snが0.5-1.5の範囲である、前記(2)に記載のメソ細孔を有する非晶質な多孔質体の製造方法に関する。
【0009】
また、本発明は別の態様において、
(4)前記(1)から(3)のいずれか一つに記載の方法によりメソ細孔を有する非晶質な多孔質体を製造し、当該多孔質体を触媒に用いて、水とメチルイソブチルケトンの存在下、グルコースから5-ヒドロキシメチルフルフラールを製造する、5-ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法に関する。
(5)前記グルコースと前記多孔質体と前記水と前記メチルイソブチルケトンとを120-160℃の温度条件下で加熱処理する、前記(4)の5-ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、環境に負荷を与えず、コストの低減にも寄与する、メソ細孔を有する多孔質体の製造方法および当該多孔質体を触媒に用いた、効率のよい5-ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図6】多孔質体(実施例)の高倍率分析画像である。
【
図9】多孔質体の孤立高分散化状態のモデル図である。
【
図10】EDSによる元素マッピングの分析結果である。
【
図11】PとSnの比率を変えた場合の多孔質体の窒素吸脱着等温線図である。
【
図12】PとSnの比率を変えた場合の多孔質体の細孔分布を示したグラフである。
【
図13】5-ヒドロキシメチルフルフラールを製造するフローである。
【
図14】触媒の種類を変えた場合の各触媒の性能を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態のメソ細孔を有する非晶質な多孔質体の製造方法は、(a)リン酸(H3PO4)と、Sn(スズ)、Zr(ジルコニウム)、Ti(チタン)から選択される少なくとも1種の4価の金属のハロゲン化物と、の混合水溶液を作製する工程と、(b)前記混合水溶液を水熱反応に供する工程と、を含み、界面活性剤を使用する工程を含まないものである。前記Sn、Zr、Ti等の金属は、F、Cl、Br、I等のハロゲンと4配位構造をとる(陽イオンとして4+の状態を取る)、4価の金属である。
これら4価の金属のハロゲン化物として、Snのハロゲン化物が溶媒への分散性が良好で、かつ、もう一種の原料であるリン酸との反応性が高いため、特に好ましいが、これらの中でも、原料が入手しやすく、合成反応を安全に、かつ、容易に行うことができ、完成した触媒が安定した性能を発揮できるという理由から、塩化スズ(IV)が好適である。なお、本明細書中、数値範囲を示す場合は、上限および下限を含むものとする。
【0013】
また、メソ細孔とは、IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry:国際純正・応用化学連合)が定める国際基準(IUPAC命名法)に従うと、2-50nmで定義される。メソ細孔を有する多孔質体は、大きな表面積と狭い細孔径分布を有することから、分離材やエレクトロニクス材料を含む種々の材料に使用されるが、特に吸着材や触媒としての利用価値が高い。
【0014】
図1には、本発明の一実施形態の多孔質体を製造するフローを示す。
まず、リン酸を水に溶かしてリン酸水溶液とした後、上記した4価の金属のハロゲン化物を水に溶かして、リン酸水溶液に加える。なお、リン酸は最初から水溶液の状態であってもよい。また、リン酸と4価の金属のハロゲン化物とが水溶液中で混ざればよく、どちらを先に調整しても良いし、加える順番も問わない。
図1では、4価の金属のハロゲン化物として、塩化スズ(IV)を用いた場合を示している。この場合、PとSnのモル比はP/Snが0.5-1.5の範囲となるようにすることが好ましい。P/Snが範囲から外れた場合には、メソポーラス構造が形成しにくく、高表面積も得られにくい、さらに、触媒反応に好適な表面の酸性質が得られにくくなる。そのため触媒性能の向上が望めない。なお、他の金属のハロゲン化物を使用した場合でも、金属とPのモル比は、0.5-1.5の範囲とするとよい。
【0015】
次いで、リン酸と塩化スズ(IV)とを含む水溶液を所定時間室温で撹拌し、よく混合させる。混合時間としては、1-24時間あれば十分である。その後、混合水溶液を90-140℃、好ましくは95-110℃の温度条件下で所定時間、水熱反応に供することで、白色固体が得られる。ここで水熱反応とは、通常、高温高圧下で、主として水を溶媒とした溶液を用いた反応をいう。具体的には、例えば、水溶性の原料を、水に溶解させ水溶液とし、この水溶液を耐圧容器に入れ、自己発生圧下で水の沸点以上の温度で反応させる方法が挙げられる。水熱反応処理は、例えば、オートクレーブ等の密閉が可能な閉鎖空間を有する反応装置内で実施される。また、反応装置内の原料物質や溶液等が接触する内壁はフッ素樹脂等の金属イオンの溶出が無く、耐熱性の高い材料となっていることが好ましい。なお、水熱反応に供する時間としては、3時間から一週間程度が好ましく、48-96時間程度が好ましい。また、水熱反応の温度条件は、100℃程度でもよく、このような低温で長時間保持することにより、界面活性剤を使用することなく、メソ細孔の形成が可能となる。
【0016】
そして、生成した白色固体をろ過し、水とエタノールなどで洗浄して所定時間(例えば一晩程度)室温乾燥した後、高温で熱処理することで(焼成工程)、メソ細孔を有する多孔質体(SnPOと表記)が得られる。この熱処理は、温度条件550-700℃の範囲で、所定温度に達してから1分-24時間程度、好ましくは2-8時間程度行うとよい。その際、所定温度に達するまで単位時間毎に温度を上げる速度を低くすることで、低温から徐々に加熱されて熱による反応が起こるようにするとよい。一定温度に達するまでの温度上昇に要する時間を長くすることで、熱による変化(衝撃)の影響を少なくすることができる。例えば、室温から毎分2-3℃程度で昇温することで焼成条件の550℃―700℃とし、当該温度から一定時間保持するとよい。なお、昇温速度は、小さい方が、化学結合が強固に形成されながら熱膨張も比較的緩やかなので構造が壊れにくいと考えられ、毎分2-3℃程度とすることが好ましい。
【0017】
そして、上記工程を経ることで、メソ細孔を有する非晶質な多孔質体を得ることができる。
当該多孔質体は、例えば、バイオマス変換反応の触媒として利用でき、下記式(1)で示されるようなグルコースからHMFを製造するための触媒として適用できる。多孔質体を触媒として用いることで、ワンポット(一段)反応で、HMFを合成することができる。
【化1】
【0018】
HMFは、グルコースと多孔質体とを水やメチルイソブチルケトン(MIBK)などの有機溶媒に混合して、所定時間加熱することで、得られる。このようにグルコースを溶解しやすい水とMIBKとを同時に使用することで、水中の反応で生成したHMFを速やかに分解が起きにくい安定化した状態に抽出することができる。また、水を溶媒として用いることで、糖が水中に溶解した状態でとどまり続け、有機相への移行が非常に起こりにくいために、水中反応が効果的と言われている糖からHMFへの変換が連続して行われる。また、生成物であるHMFは水中から有機相へと移動するために、水中で起こる重合や分解等の副反応が起こりにくくなる。そして、原料のグルコースには、食品産業等で使用されているブドウ糖(グルコース)のほかに、バイオマス資源中に含まれるセルロースやヘミセルロースの分解反応(解重合反応)によって製造されるグルコースなども効果的に使用することが出来る。多孔質体は、前記焼成工程における焼成後に空気中または大気中に長期間保管しておくことが可能で、保管状態から特段の処理を行うことなくHMFの合成反応に供することができる。
【0019】
また、反応を進行させるための加熱処理は、120-160℃、好ましくは、130-150℃の温度条件下、1-10時間、好ましくは2-6時間程度行うとよい。この反応はグルコースから中間体であるフルクトースを経由してHMFへと至る多段階の逐次反応であるので、長時間すぎると目的生成物の分解や重合、触媒表面への沈着など望ましくない反応や現象が進行し収率の低下を招く。一方、短時間すぎた場合には、原料の反応率が低いので収率が低下する。
そして、加熱処理は、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うことにより、空気の存在による酸化などの悪影響をなくすことが好ましい。
また、加熱処理は公知の種々の方式が適用できるが、代表的な例として回分式(バッチ式)と流通式が挙げられる。回分式の場合は、密閉状態を保ち反応温度で溶媒の水が液体状態にあるようにすることが好ましい。流通式の場合は、圧力調整弁などの機構により内圧を調整し、溶媒の水が液体状態のまま反応装置を通過できるような構造であることが好ましい。
【実施例0020】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
図1のフローに従って、多孔質体を作製した。まず、ビーカーにリン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬特級)(0.575g)と水(7.5mL)を入れて十分に攪拌して均一化した。その後に塩化スズ(塩化すず(IV)五水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製、和光特級))(1.75g)を加えて大気中、室温にて3時間攪拌した。得られた混合液をフロン工業株式会社製テフロン(登録商標)るつぼ(品番:F-1029-06S、容量:100mL)にいれて密閉し、100℃で72時間の加熱(水熱反応)を行った。なお、この段階の加熱中には攪拌は行わなかった。その後、得られた物質を水とエタノールで洗浄した。洗浄後の物質は室温(RT)にて一晩乾燥した後に、空気中において550℃で6時間焼成処理を行った。この際室温から550℃に達するまでは毎分2℃の昇温速度で温度上昇を行った。
【0021】
そして、上記方法により多孔質体(SnPO-1と表記)を得た。なお、SnPOの後ろに付した数値「1」は、PとSnのモル比を示しており、P/Sn=1の場合を示したものである。このことは、以下の実施例にも共通する。また、比較例として、上記工程中、水熱反応を行わずに、その他の条件はSnPO-1の製造条件と同様として、多孔質体(SnPO-1-noHTと表記)を製造した。この多孔質体において、数値の後ろに付した「noHT」は、水熱反応なしの場合を意味しているものである。さらに、比較例として、SnCl4を原料にしてSnO2を作製した。作製方法を以下に示す。
ビーカーにリン酸を入れずに、水だけ(7.5mL)を入れて実験を行った。塩化スズの使用量は2.50gとして、それ以降は実施例1に記載した手順と同様に合成を行った。
【0022】
図2-4には、SnPO-1とSnPO-1-noHTとSnO
2との細孔の状態を分析した結果を示す。
図2には、作製した多孔質体の窒素吸脱着等温線図を示し、
図3には、多孔質体の細孔分布を示し、
図4には、多孔質体のX線回折(XRD)図を示している。
窒素吸脱着等温線図は、日本ベル株式会社製自動比表面積測定装置(BEL SORP Mini)を用いて、120℃にて前処理を行った後に液体窒素温度下で測定を行った。
また、細孔分布は、前記自動比表面積測定装置に付属の専用ソフトウェアを用いてBJH法(Barrett-Joyner-Halenda法)により算出を行った。
さらに、X線回折は、株式会社リガク製SmartLab(登録商標)を用いて、銅をターゲットとして使用し(特性エックス線Cu-Kαを使用)、電圧40kV、電流30mAの条件で分析を行った。
【0023】
図2の窒素吸脱着等温線図から、SnPO-1では、メソポーラス構造を示す吸脱着等温線の形状(IV型)を示していることが分かる。比較例のSnPO-1-noHTとSnO
2ではIV型の形状は見られなかったことから、メソポーラス構造は形成されていないものといえる。また、
図3から、メソ細孔のサイズは、20nm前後に頂点がある比較的整った分布となっている。このメソ細孔は、物質の出入りがしやすく、例えば触媒反応に適しているものと推察できる。そして、
図4のXRD分析結果からも明らかなように、結晶構造はほぼ無定形(非晶質)であった。すなわち、結晶性のバルクSnO
2が存在しないことが確認され、反応の活性点として作用する所望のSn-O-P構造が合成されたものといえる。また、非晶質構造は均質で等方性であり、結晶が存在しないため、結晶粒界や格子欠陥のような、弱い構造が存在しないという利点がある。そして、触媒反応や吸着の際に重要な表面(外部の気体や液体に接する)が均質であるという優れた特長をもつ。
【0024】
表1には、SnPO-1とSnPO-1-noHTの比表面積と細孔容積の分析結果を示す。また、
図5には、走査電子顕微鏡 (SEM)の分析結果((A)SnPO-1、(B)SnPO-1-noHT)を示す。比表面積はBET(Brunauer-Emmett -Teller)法にて、細孔容積はBJH(Barrett-Joyner-Halenda)法により、装置付属のデータ解析ソフトウェアを使用して、
図2の窒素吸脱着等温線の結果を基にして算出した。そして、走査電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、S-4800)による分析は、加速電圧1kVの条件で行った。
【表1】
【0025】
表1からも、SnPO-1はSnPO-1-noHTに比べて表面積が広く、細孔容積が大きく増加していることが分かる。また、
図5からも、水熱反応ありのSnPO-1では、表面に多数の孔が開いていることが確認された。これらの結果から、水熱反応によって、メソ細孔が形成されたものと思われる。さらに、
図6には、高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡(HAADF-STEM) (JEOL製、JEM-ARM200F、加速電圧200kV)によるSnPO-1の分析結果を示す。(A)では左下の白線(スケール)が200nmの長さに相当し、(B)では左下の白線が50nmの長さに相当し、(C)では左下の白線が10nmの長さに相当する。測定原理が異なる
図6からも、多数のランダムな位置に存在する孔の存在が確認されるとともに微細な一次粒子の凝集した多孔質体であることが分かる。
【0026】
また、
図7には、多孔質体のフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)の分析結果を示す。測定には、PerkinElmer社製のFT-IR(Frontier)を用いて、KBrを混合して圧縮することで測定用ペレットを作成して、常温条件で透過法により行った。
図7によれば、SnPO-1では、PとSnが中間にO(酸素)を介した結合を持つことが示されており、すなわち、原料では別々に反応系に投入したPとSnが化学的に反応したことがわかる。従って、PとSnが均一に分散化しているということがいえる。なお、SnPO-1-noHTでも同様の曲線が見られたが、これは十分な時間、室温下で攪拌を行ったことでSn-O-P結合が形成されていることを示しているものと推測される。
【0027】
さらに、
図8には、多孔質体の可視紫外分光法(UV)の分析結果を示す。測定には、株式会社島津製作所製紫外可視分光光度計(UV-2600)を用いて、室温条件で積分球を用いた拡散反射法により行った。
図8によれば、200nm近辺にある鋭く立ち上がったピークがSnの4配位構造に帰属され、他のピークは見られない。これは、Snが原子状で孤立高分散していることを示す結果である。
図9には、孤立高分散化状態のモデル図を示す。
SnO
2ではUV測定において200-280nm付近に吸収が見られ、280nm付近の吸収は6配位または8配位構造に帰属されるものであり、複数のSn原子を含むクラスター状または粒子状のSn酸化物が含まれていることを示している。そのために、完全に原子レベルの孤立高分散化状態にはなっていないことがわかる。
図7のFT-IR分析の結果と併せると、Snが4配位状態を取り孤立高分散化していること(
図9)を確実に証拠づける分析結果であるといえる。SnPO-1-noHTの場合はSnPO-1と比べて、ややブロードな形状となっているが同様の4配位構造はおおよそ形成されていることが分かる。これは上述したように室温下で十分な時間攪拌を行ったことでSnが4配位構造のみを取るようになったということを示すものである。
【0028】
さらに、
図10には、SnPO-1のエネルギー分散型X線分光法(EDS)による元素マッピングの分析結果を示す。測定には、
図6と同じ装置を用いて同条件にて行った。
図10(A)はSnPOのSTEM像であり、(B)はSn、(C)はPの元素マッピング結果である。この結果から、SnやPがほぼ濃淡なく均一に分散化していることが確認できた。
【0029】
(実施例2)
次に、PとSnのモル比を変えて、多孔質体を作製し、性能を評価した。PとSnのモル比は、リン酸と塩化スズ(IV)の量を調整して、P/Sn=0.5、0.75、1.25、1.5とした。なお、リン酸と塩化スズ(IV)の割合(モル比)を変えた以外は、実施例1と同様の方法、条件で製造した。また、PとSnの比率を変える際にはPとSnの物質量(モル)を一定(10mmol)となるように固定して、原料のリン酸と塩化スズの双方の使用量を変化させた。それぞれの使用量については下記の表2にまとめた。
【0030】
【表2】
図11には、各多孔質体の窒素吸脱着等温線図を示し、
図12には、各多孔質体の細孔分布を示す。さらに、表3には、各多孔質体の比表面積と細孔容積の分析結果を示す。これらの測定、分析は、実施例1と同様の装置を用いて、同様の方法、条件により行った。
【表3】
【0031】
PとSnのモル比(P/Sn)が0.5-1.5の範囲内では、
図11からもメソポーラス構造を示す形状の吸脱着等温線(IV型)が得られているので、メソポーラス構造が形成されていることが確認できた。そして、
図12からも、10-50nmにおいて細孔サイズの分布が見られ、比表面積(表3)についても、全ての多孔質体において、水熱反応なし(表1のSnPO-1-noHT)の場合よりも大きくなった。
なお、表中のdは孔の直径を示すものである。記載されている数値は
図12に示してある細孔径分布曲線の頂点の値である。これらの数値は細孔がメソポーラス構造であるものを含んでいることを示している。
【0032】
(実施例3)
このように、上記実施例における多孔質体は比表面積や細孔容積が大きい、メソポーラス構造を有することから、触媒として好適である。そして、この多孔質体は、ルイス酸点とブレンステッド酸点の両方を有しており、大きな分子の出入りがしやすいメソポーラス構造を持っている。従って、特に、ルイスやブレンステッドの酸が必要な反応に高活性触媒として利用できる。
図13には、多孔質体を触媒に用いてグルコースからHMFを製造するフローを示す。なお、図中の「Run for X h:」のXは反応時間を表すものである。本実施例において、触媒には、実施例1で作製したSnPO-1を使用した。
グルコース(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬特級)(使用量:50mg)、触媒(SnPO-1、使用量:50mg)、水(蒸留水)1.0mL、MIBK(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬特級)5.0mLを、反応用の容器(耐圧チューブ(ACE GLASS社製)15mL、径25.4×102mm)に入れて140℃で2時間オイルバスに浸すことによって加熱を行った。その後、空気中にて30分間放冷して反応を終了させた。その後、目的生成物を反応容器内の他の物質と分離、分析するため、以下に記載の工程を行った。
【0033】
反応用の容器(耐圧チューブ)内で静置し、上下二相に分離したことを確認して、シリンジで液を吸引する際に有機相の分析を行う際には針を有機相に入れて吸引し、水相の分析を行う際には針を水相に入れて吸引することで、有機相と水相の生成物を相ごとに取り出して分析した。そして、水相においてはメンブレンフィルター(アドバンテック東洋株式会社(ADVANTEC)製、DISMIC-13HP)を用いて触媒や水相に含まれる固形物をろ過、分離し、フィルターを通過した黄色透明な水溶液を得た。水溶液は、蒸留水で10倍に希釈し高速液体クロマトグラフ装置(HPLC)(株式会社島津製作所製、示差屈折率検出器 (Shimadzu LC RID-10-A)、標準紫外可視分光検出器(SPD-10AVP)、カラム(ICSep Coregel 107 H column))を用いて(カラム温度50℃)、分析した。
また、有機相は、MIBKで10倍に希釈し、水相と同様にメンブレンフィルター(アドバンテック東洋株式会社(ADVANTEC)製、DISMIC-13HP)を用いて触媒や有機相に含まれる固形物をろ過、分離し、フィルターを通過した黄色透明溶液を、ガスクロマトグラフィー(GC)(Agilent社製、7820A、水素炎イオン化検出器 (FID)、分析カラムにDB-WAX(長さ30m×内径0.32mm×膜厚0.5μm)を使用)により分析を行った。
そして、市販試薬を標準物質として検量線を作成し、その検量線により水溶液中の含有濃度を算出した。
【0034】
また、比較例として、実施例1で作製した多孔質体(SnPO-1-noHTとSnO
2)を触媒に用いて、SnPO-1を使用した場合と同様の触媒使用量(50mg)、方法、条件で、グルコースからHMFを製造した。さらに、これらのサンプルについてもSnPO-1を使用した場合と同様の方法、条件でHPLCとGCにより分析した。その結果を
図14に示す。すなわち、
図14は、各触媒(SnPO-1、SnPO-1-noHT、SnO
2)の性能を示したものである。また、転化率、フルクトース、HMFの収率、選択率、炭素バランスなどは以下の式より算出した。
【0035】
【数1】
上記式中、V
0,aq及びV
0,orgは,反応器内に添加した水相及び有機相の体積を示す。また、V
1,aqとV
1,orgは、それぞれ反応後に得られた水相と有機相の体積を示す。C
X0とC
X1は、初期水溶液と最終水溶液のグルコース濃度を示す。C
H,aqおよびC
H,orgは,それぞれ最終水相および有機相中のHMFの濃度である.C
F,aqは最終水相のフルクトースの濃度である。
【0036】
図14からも、触媒にSnPO-1を使用した場合が最も優れた結果となった。この触媒は、比表面積が180m
2/g前後と高い値であり(表1、表3より)、細孔サイズが原料や溶媒の分子の出入りがスムーズな大きさになっていることがいえる。すなわち、
図14の結果は、実施例1における細孔サイズの分析結果と整合性が取れる結果となった。一方、SnPO-1-noHT(水熱反応なし)とPを有しないSnO
2触媒の場合は、HMFの収率も低く、触媒活性が低い結果となった。このことは、細孔サイズおよび比表面積の問題と、ブレンステッド酸点の不足が原因であると推察できる。さらに、選択率が低く、分析困難な生成物が多いことが窺われる。
このように、本実施例によれば、反応温度も比較的低温(140℃程度)でHMFの収率も50%を超える結果となったことから、本実施例における多孔質体は、非常に有用なバイオマス変換反応触媒であるといえる。また、この製造方法によれば、副反応も生じることなく、高効率でHMFを製造することができるものである。
【0037】
さらに、MIBK以外の有機溶媒も用いて、グルコースからHMFを製造した。有機溶媒の種類を変えた以外は、上記MIBKも用いた場合と同じ条件、方法で行った。CPME(シクロペンチルメチルエーテル)、MTHP(4-メチルテトラヒドロピラン)、トルエン(Toluene)、1,4-ジオキサン、1-ブタノールはそれぞれ富士フイルム和光純薬株式会社製の特級品を用いた。その結果を表4に示す。
【表4】
【0038】
上記結果から、MIBKは最大の収率を達成しており、生成したHMFを速やかに水相または水相にある触媒の表面から抽出し、副反応等による副生成物への望ましくない変換を抑制する作用が最大限に発揮されている。
MTHPおよびCPMEは、近年グリーンケミストリーに使用する溶媒として性能の高さが注目されている溶媒である。両者とも分子内にエーテル結合を有するエーテル系溶媒であり、水とは混じらずに二相に分離する。両者の違いはエーテル結合の位置にあるが、両者ともHMF収率への効果的な寄与がMIBKに劣ることが明らかとなった。理由は明確ではないが、フルクトースの残存率が高いため、エーテル系溶媒の下ではフルクトースからHMFへ至る段階で触媒性能が充分に発揮できていない可能性がある。トルエンは、従来から広く用いられている有機溶媒の一つであるが、HMF分子内に存在するOH基の影響で有機相への抽出効率が低いことが理由と考えられる。ジオキサンについては水と混和し1相での反応となるがフルクトースからHMFへ至る段階の触媒性能が充分に発揮できていないのが低収率の理由と考えられる。ブタノールは炭素バランスが低く、分析困難な副生成物が多量に生成しているため、目的生成物に至らない原料、または一度目的生成物になり、その後の逐次的な反応により副生成物が生じたことが、低収率の要因と考えられる。なお、表中の略語において、FAはホルムアルデヒド、LAはレブリン酸を表す。
この結果からも、有機溶媒としてMIBKを使用することで、HMFの収率が良好であることが分かる。したがって、有機溶媒にMIBKを使用することで、効率よくHMFを製造することができるといえる。