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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037327
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】六方晶窒化ホウ素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/064 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
C01B21/064 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142101
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 諒
(72)【発明者】
【氏名】戸田 健司
(57)【要約】
【課題】潤滑性に優れた六方晶窒化ホウ素を簡便で効率よく得ることができる六方晶窒化ホウ素の製造方法を提供すること。
【解決手段】酸素含有量が0.5質量%以上10.0質量%以下の粗製六方晶窒化ホウ素と二酸化珪素とを混合する混合工程と、得られた混合物を非酸化性ガス雰囲気下、1800~2300℃で焼成する焼成工程とを有する六方晶窒化ホウ素の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素含有量が0.5質量%以上10.0質量%以下の粗製六方晶窒化ホウ素と二酸化珪素とを混合する混合工程と、
得られた混合物を非酸化性ガス雰囲気下、1800~2300℃で焼成する焼成工程と
を有する六方晶窒化ホウ素の製造方法。
【請求項2】
粗製六方晶窒化ホウ素1モルに対して、二酸化珪素0.1モル以上2モル以下を用いる請求項1記載の六方晶窒化ホウ素の製造方法。
【請求項3】
得られた六方晶窒化ホウ素が、珪素を含有する請求項1または2記載の六方晶窒化ホウ素の製造方法。
【請求項4】
珪素の含有量が、上記六方晶窒化ホウ素全体の100質量%未満である請求項3記載の六方晶窒化ホウ素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六方晶窒化ホウ素の製造方法に関し、さらに詳述すると、二酸化珪素をフラックスとした高結晶性の六方晶窒化ホウ素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化ホウ素(以下、h-BNともいう。)は、黒鉛と同様の層状構造を有し、熱伝導性や耐熱性、化学的安定性、固体潤滑性に優れていることから、高温セラミックスや、電子材料の放熱シート樹脂に充填する放熱フィラー等に使用されている。
また、優れた固体潤滑性を持つことから、近年、着色顔料の分散性の向上を目的として、化粧品用の体質顔料に使用されている。
【0003】
h-BNは、黒鉛構造と同様に、ab軸方向に結晶成長することで鱗片状の粒子形状が得られることから、ab軸方向の粒子径を大きくすることで、摩擦係数が減少し、潤滑性が向上するとされている。
【0004】
従来、高純度のh-BN粉末は、ホウ酸や酸化ホウ素等のホウ素化合物と、メラミンや尿素等の窒素含有物質を混合し、アンモニアまたは非酸化性雰囲気下において比較的低温で加熱処理することで結晶性の低い粗製h-BN粉末を合成し、得られた粗製h-BN粉末を高温で加熱処理して未反応のホウ素化合物を揮発除去することで得られている。
しかし、高温での加熱処理によって高純度化したh-BNは、安定であるため、結晶化が抑制され、ab軸方向に十分に結晶成長したh-BNを得ることができなかった。
そこで、特許文献1~3では、ab軸方向の粒子径が大きいh-BNを得る方法として、ホウ素化合物と窒素含有物質との混合粉末または粗製h-BN粉末に、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の添加剤を加えて加熱処理する方法が提案されている。
【0005】
しかし、これらの方法によると、得られたh-BN中に、添加剤または添加剤とホウ素化合物から生成したホウ酸塩が残存しており、潤滑性の低下や、化粧品等に配合した場合、残存物質が汗などの水分と反応することで肌荒れを生じるおそれがある。そのため、これらの残存物質を酸洗浄等によって除去する必要があり、製造工程の複雑化や、完全除去が困難であるといった課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9-263402号公報
【特許文献2】特開平9-295801号公報
【特許文献3】特許第2922096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、潤滑性に優れた六方晶窒化ホウ素を簡便で効率よく得ることができる六方晶窒化ホウ素の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、食品添加剤や化粧品に活用される二酸化珪素と、所定の酸素含有量の粗製h-BN粉末とを混合し、加熱処理することで、ab軸方向の粒子径が大きく成長すると同時に、添加した珪素成分が揮発除去され、潤滑性に優れたh-BN粉末が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
1. 酸素含有量が0.5質量%以上10.0質量%以下の粗製六方晶窒化ホウ素と二酸化珪素とを混合する混合工程と、
得られた混合物を非酸化性ガス雰囲気下、1800~2300℃で焼成する焼成工程と
を有する六方晶窒化ホウ素の製造方法、
2 粗製六方晶窒化ホウ素1モルに対して、二酸化珪素0.1モル以上2モル以下を用いる1記載の六方晶窒化ホウ素の製造方法、
3. 得られた六方晶窒化ホウ素が、珪素を含有する1または2記載の六方晶窒化ホウ素の製造方法、
4. 珪素の含有量が、上記六方晶窒化ホウ素全体の100質量%未満である3記載の六方晶窒化ホウ素の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、粗製h-BNに二酸化珪素をフラックスとして添加して加熱処理することで、フラックス成分由来の粗大粒子を揮発除去しながら、ab軸方向に結晶成長し、潤滑性に優れたh-BN粉末を得ることができる。
また、フラックス成分を残存させた場合、有機バインダーに配合した際に、h-BN粉末の有機バインダーへの親和性向上が期待される。
本発明のh-BN粉末は、熱伝導性や耐熱性が求められる電子材料の放熱シートや、潤滑性が要求されるような離型剤や化粧品用の体質顔料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1~3および比較例1で得られたh-BNの粉末X線回折測定の結果を示すチャートである。
図2】実施例1で得られたh-BN粉末の4000倍の電子顕微鏡像を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔六方晶窒化ホウ素の製造方法〕
本発明のh-BNの製造方法は、下記工程を有することを特徴とする。
(1)酸素含有量が0.5質量%以上10.0質量%以下の粗製h-BNと、二酸化珪素とを混合する混合工程
(2)得られた混合物を非酸化性ガス雰囲気下、1800~2300℃で焼成する焼成工程
【0013】
本発明のh-BNの製造方法において、粗製h-BNと混合された二酸化珪素は、加熱処理工程で粗製h-BNと液相を形成し、この液相中においてh-BNのab軸方向への結晶成長が促進される。
【0014】
(1)混合工程
混合工程は、酸素含有量が0.5質量%以上10.0質量%以下の粗製h-BNと、二酸化珪素とを混合する工程である。
【0015】
[粗製h-BN]
原料である粗製h-BNは、結晶性が低く、通常、BNO、B23等の窒化ホウ素以外の不純物を含んでいるが、本発明で用いる粗製h-BNとしては、酸素含有量が0.5質量%以上10.0質量%以下のものであれば、公知の方法で製造したものや市販品等を特に制限なく使用できる。
【0016】
粗製h-BNの製造方法としては、従来公知の方法に従って、例えば、ホウ素化合物と窒素含有化合物から合成する方法等が挙げられる。
ホウ素化合物の具体例としては、ホウ酸、酸化ホウ素、ホウ砂、ハロゲン化ホウ素、ボラジン、ボロシロキサン等が挙げられ、これらの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
一方、窒素含有化合物の具体例としては、メラミン、尿素、有機アンモニウム塩、アミド化合物等の有機窒素化合物;アンモニアガス、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアンモニウム塩等の無機窒素化合物;窒素ガス、液体窒素等の窒素単体、これらの混合物などが挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
反応方法としては、例えば、所定量のホウ素化合物と所定量の窒素含有化合物とを混合し、得られた混合物を窒素等の不活性ガス雰囲気下にて1000℃以上で加熱処理する方法等が挙げられる。
【0017】
また、市販の粗製h-BNを用いてもよく、市販品としては、例えば、ABN(日新リフラテック(株)製)等が挙げられる。
【0018】
原料の粗製h-BNに含まれる酸素含有量は、h-BNの結晶成長の観点から、0.5質量%以上10.0質量%以下であるが、1.0質量%以上10.0質量%以下が好ましく、1.5質量%以上9.0質量%以下がより好ましく、1.5質量%以上5質量%以下がさらに好ましい。
酸素含有量が上記範囲内である粗製h-BNは、純度が低く、本発明で用いる二酸化珪素と混合して加熱処理した場合、粗製h-BNと二酸化珪素で液相を形成し、h-BNが液相中でab軸方向に結晶成長しやすい。粗製h-BNの酸素含有量が上記下限以下の場合、粗製h-BNの純度が高く、二酸化珪素と液相を形成しないため、液相中におけるh-BNの結晶成長が起きにくくなる。逆に、上記上限を超えると、加熱処理後のh-BNの酸素含有量が高くなり、h-BNの純度が低下する。なお、上記酸素含有量は、酸素・窒素・水素分析装置(EMGA―900、(株)堀場製作所製)により測定した値である。
【0019】
粗製h-BNの形状は特に限定されないが、粉末状のものが好ましく、その粒径についても特に制限はないが、過度に大きいと未反応の粗製h-BNが残存することで潤滑性が低下し、塗布する際の滑らかさが損なわれる場合があることから、粗製h-BNの平均粒径は、5μm以下が好ましく、4.5μm以下がより好ましく、4μm未満がさらに好ましく、3.5μm未満が一層好ましい。粗製h-BNの平均粒径の下限については特に制限はないが、通常1μm以上、好ましくは2μm以上である。なお、上記平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(MASTERSIZER3000、Malvern Panalytical製)にて体積分布を測定し、測定される体積分布50%の粒径をh-BNの平均粒径とした値である。
【0020】
[二酸化珪素]
前述の通り、二酸化珪素(シリカ)は、後述する焼成工程で粗製h-BNと液相を形成し、この液相中でh-BNのab軸方向への結晶成長が促進される。
このような液相を生成させるために用いる二酸化珪素としては、特に制限されず、非晶質シリカでも結晶質シリカでもよく、また、合成シリカ、天然シリカのいずれでもよい。
非晶質シリカとしては、例えば、ヒュームドシリカ、沈降型シリカ等の非晶質合成シリカ;珪藻土、蛋白石等が挙げられる。結晶質シリカとしては、例えば、石英型、トリジマイト型、クリストバライト型等の結晶性合成シリカ;天然の石英、トリジマイト、クリストバライト、珪石、珪砂などが挙げられる。これらは1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、非晶質合成シリカが好ましく、沈降型非晶質合成シリカがより好ましい。
また、二酸化珪素の形状は特に限定されないが、粉末状のものが好ましい。粒子の形状も特に限定されず、球状、粉砕状、無定形のいずれでもよい。平均粒径も特に限定されないが、0.1~50μmが好ましく、0.5~30μmがより好ましい。なお、上記平均粒径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における質量平均値D50(またはメジアン径)として求めた値である。
【0021】
上記二酸化珪素の使用量は、粗製h-BN1モルに対して、0.1モル以上2モル以下が好ましく、より好ましくは0.3モル以上1.7モル以下であり、さらに好ましくは0.5モル以上1.5モル以下である。二酸化珪素の使用量が上記下限未満の場合、一部の粗製h-BNが未反応となり、鱗片状粒子が均一に得られない場合がある。また、二酸化珪素の使用量が上記上限を超えると、液相を形成しなかった二酸化珪素の残存量が多く、摩擦力が大きくなることで潤滑性が低下する場合がある。
【0022】
[その他の添加剤]
本発明のh-BNの製造方法において、上記粗製h-BNと上記二酸化珪素の他に、本発明の効果を損なわない限り、その他の添加物を添加してもよい。その他の添加物としては、カーボンブラック、炭化ホウ素、炭化珪素等の炭化物などの無機物の1種類または2種類以上が挙げられる。これらの化合物を併用することにより、得られるh-BNの潤滑性を損なわずに酸素濃度を低下させ、高純度化を図ることができる。
【0023】
[分散媒]
混合工程では、粗製h-BNと二酸化珪素と必要によりその他の添加剤とを混合する際に、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、分散媒を添加することができる。分散媒の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類;n-ヘプタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類などが挙げられる。これらは1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ケトン類が好ましく、アセトンがより好ましい。
【0024】
[混合方法]
混合方法は特に限定されず、例えば、原料となる粗製h-BNに、二酸化珪素、必要に応じて用いられるその他の添加剤、分散媒を添加して混合する方法等が挙げられる。混合手段も特に限定されず、ボールミル、撹拌型混合器、乳鉢等が挙げられる。
混合方法として、具体的には、例えば、粗製h-BNに対して所定量の二酸化珪素と必要に応じて用いられるその他の添加剤を添加し、粗製h-BNに対して1~5体積倍のアセトン等の分散媒とともにメノウ乳鉢で均一に混合する方法を挙げることができる。
得られた混合物は、好ましくは粉末状またはペースト状であり、50~100℃で乾燥することが好ましい。
【0025】
(2)焼成工程
焼成工程は、混合工程で得られた粗製h-BNと二酸化珪素と必要に応じて用いられるその他の添加剤との混合物を非酸化性ガス雰囲気下にて1800~2300℃で加熱処理する工程である。
【0026】
[非酸化性ガス]
ここで、非酸化性ガスとは、窒素ガス、アルゴンガス、アンモニアガス、水素ガス、一酸化炭素ガス等が挙げられ、これらの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。ここで用いる雰囲気ガスの種類により、得られるh-BNの窒素含有量が異なり、高純度のh-BNを合成するためには、特に、窒素ガスまたは窒素ガスと他のガスを併用した混合ガスが好適に用いられ、窒素ガスがより好ましい。
【0027】
[加熱条件]
加熱処理温度は、1800~2300℃であるが、好ましくは1800~2200℃、より好ましくは1900~2200℃である。加熱処理温度が上記下限未満では、粗製h-BNと二酸化珪素が液相を形成することができず、液相中でのh-BNの結晶成長が不十分となる。加熱処理温度が上記上限を超えると、h-BNが十分に結晶成長する前に液相の揮発や、h-BNの分解などが生じる。
加熱処理時間は、特に限定されないが、好ましくは1時間以上15時間以下であり、より好ましくは1時間以上10時間以下である。加熱処理時間が上記下限未満の場合、結晶成長が不十分となる場合があり、上記上限を超えるとh-BNが分解するおそれがある。
【0028】
[加熱炉]
加熱に用いる加熱炉としては、上記温度に加熱できるものであれば特に限定されず、例えば、ガス炉、電気炉、マッフル炉、レーザー加熱炉等が挙げられる。
加熱処理は、非酸化性ガス雰囲気下で行うため、通常、炉内を真空ポンプで引いた後、非酸化性ガスを所望の圧力まで導入し、所望の温度まで昇温して加熱することが好ましい。したがって、加熱炉は、炉内を真空にできるものであって、非酸化性ガスを炉内に送り込む装置を有するものが好ましく、このような加熱炉としては、例えば、(株)島津製作所製の真空加熱焼成炉VESTA等の真空加熱焼成炉などを用いることができる。
【0029】
[加熱方法]
加熱方法としては、より具体的には、例えば、炉内の真空度を10-1Pa程度まで真空引きした後、非酸化性ガスを0.9MPaまで導入し、加熱処理終了まで導入し続ける。非酸化性ガスの流量は、特に限定されず、炉の大きさにもよるが、0.5L/分以上が好ましい。また、炉内の非酸化性ガスの圧力は、炉内のガス圧により液相の揮発速度が異なるため、大気圧から10MPaが好ましい。
非酸化性ガス導入後は、所定の加熱処理温度まで好ましくは1~50℃/分、より好ましくは5~50℃/分、さらに好ましくは5~20℃/分で昇温し、上記加熱処理時間で加熱した後、好ましくは1~50℃/分、より好ましくは5~50℃/分、さらに好ましくは5~20℃/分で室温まで降温する。
【0030】
〔六方晶窒化ホウ素〕
上記製造方法で得られた六方晶窒化ホウ素は、珪素を含有していてもよい。珪素は、二酸化珪素等として含まれていてもよく、珪素(珪素原子)の含有量は、得られた六方晶窒化ホウ素全体の100質量%未満が好ましく、50質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0031】
また、上記製造方法で得られた六方晶窒化ホウ素の形状は特に限定されないが、粉末状が好ましい。粒子の形状も特に限定されず、鱗片状、涙滴状、板状、球状、針状、無定形等のいずれでもよいが、鱗片状が好ましい。
粒径も特に制限されないが、鱗片状の場合、平均長径は、1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましく、3.5μm以上がさらに好ましく、4μm以上が一層好ましく、また、10μm以下が好ましく、8μm以下がより好ましく、6μm以下がさらに好ましい。アスペクト比も特に限定されないが、100~2000が好ましい。なお、六方晶窒化ホウ素の上記長径およびアスペクト比は、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定した値である。
【実施例0032】
以下、実施例および比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
なお、下記例において、粗製h-BN粉末の酸素含有量は、酸素・窒素・水素分析装置(EMGA―900、(株)堀場製作所製)により測定した値である。
また、平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(MASTERSIZER3000、Malvern Panalytical製)により測定した値である。
【0033】
[実施例1]
酸素含有量4質量%、平均粒径3μmの粗製h-BN粉末(ABN、日新リフラテック(株)製)0.25g(0.01モル)、二酸化珪素粉末(沈降型非晶質 特級、関東化学(株)製)0.6052g(0.01モル)およびアセトン(3.0g)を加えたものをメノウ乳鉢で撹拌混合し、この混合粉末を80℃の乾燥機中で乾燥させた。
乾燥した粉末をBN坩堝に入れ、真空加圧焼成炉(VESTA、(株)島津製作所製)を用いて加熱処理を行い、鱗片状h-BNを得た。加熱処理条件は、炉内の真空度を10-1Pa程度まで真空引きした後、0.9MPaの窒素ガスを炉内に導入し、室温から2000℃まで5℃/分で昇温して、2000℃で5時間保持した後、5℃/分で降温した。
得られた焼成物の組成を粉末X線回折法で調べたところ、h-BN以外の結晶相は確認されなかった。得られた回折線を図1に示す。
このh-BN粉末の粒子形状を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察したところ、平均長径5μmの鱗片状粒子が確認された。そのSEM像を図2に示す。
得られたh-BNの潤滑性を評価するため、h-BN粉末をガラス板に乗せ、ガラス板を45°に傾けることでh-BN粉末の流動性を観察したところ、h-BN粉末は、ガラス板上を滑り落ちた。それらの結果を表1に示した。
【0034】
[実施例2]
実施例1における二酸化珪素粉末の添加量を0.3026g(粗製h-BN1モルに対して0.5モル)とした以外は実施例1と同様に行ってh-BNを得た。
得られた焼成物の組成を実施例1と同様にして粉末X線回折法で調べたところ、h-BN以外の結晶相は確認されなかった。得られた回折線を図1に示す。
また、実施例1と同様にして評価を行い、それらの結果を表1に示した。
【0035】
[実施例3]
実施例1における二酸化珪素粉末の添加量を0.9079g(粗製h-BN1モルに対して1.5モル)とした以外は実施例1と同様に行ってh-BNを得た。
得られた焼成物の組成を実施例1と同様にして粉末X線回折法で調べたところ、h-BN以外の結晶相は確認されなかった。得られた回折線を図1に示す。
また、実施例1と同様にして評価を行い、それらの結果を表1に示した。
【0036】
[比較例1]
実施例1において、加熱処理温度を1700℃にした以外は実施例1と同様に行って、h-BNを得た。
得られた焼成物の組成を粉末X線回折法で調べたところ、h-BNの回折線以外に2θ=15~30°付近にアモルファスピークが確認された。得られた回折線を図1に示す。
h-BNの粒子形状をSEMで観察したところ、平均長径は0.4μmであり、ab軸方向への結晶成長は確認されなかった。
また、実施例1と同様にして潤滑性の評価を行ったところ、h-BN粉末は、ガラス板上を滑ることなく留まった。評価結果を表1に示した。
【0037】
[比較例2]
実施例1において、二酸化珪素を用いなかった以外は実施例1と同様に行って、h-BNを得た。
得られたh-BNの粒子形状をSEMで観察したところ、平均長径は0.6μmであり、ab軸方向への結晶成長は確認されなかった。
また、実施例1と同様にして潤滑性の評価を行ったところ、h-BN粉末は、ガラス板上を滑ることなく留まった。評価結果を表1に示した。
【0038】
[比較例3]
酸素含有量が0.4質量%である粗製h-BN粉末(商品名:RBN、日新リフラテック(株)製)を用いた以外は実施例1と同様にしてh-BNを得た。
得られたh-BNの粒子形状をSEMで観察したところ、平均長径は1μmであり、ab軸方向への結晶成長は確認されなかった。
また、実施例1と同様にして潤滑性の評価を行ったところ、h-BN粉末は、ガラス板上を滑ることなく留まった。評価結果を表1に示した。
【0039】
[比較例4]
ホウ酸100質量部、メラミン150質量部、炭酸カルシウム10質量部を混合した後、窒素雰囲気下、1200℃で加熱処理し、3モル/L塩酸中で洗浄した後に乾燥して得られた酸素含有量が11.2質量%である粗製h-BN粉末を用いた以外は実施例1と同様にしてh-BNを得た。
得られたh-BNの粒子形状をSEMで観察したところ、平均長径は2μmであり、ab軸方向への結晶成長は確認されなかった。
また、実施例1と同様にして潤滑性の評価を行ったところ、h-BN粉末は、ガラス板上を滑ることなく留まった。評価結果を表1に示した。
【0040】
【表1】
*:粗製h-BN粉末および二酸化珪素粉末の合計量に対する二酸化珪素粉末の割合
潤滑性:〇:ガラス板上を滑り落ちた、×:ガラス板上を滑ることなく留まった
図1
図2