(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037714
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】粘度持続性が増強された植物ペースト組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 29/00 20160101AFI20240312BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20240312BHJP
A23L 7/10 20160101ALI20240312BHJP
A23L 27/10 20160101ALI20240312BHJP
【FI】
A23L29/00
A23L19/00 D
A23L19/00 A
A23L7/10 F
A23L27/10 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023145316
(22)【出願日】2023-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2022142399
(32)【優先日】2022-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】嘉藤 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 直美
【テーマコード(参考)】
4B016
4B023
4B035
4B047
【Fターム(参考)】
4B016LC06
4B016LE04
4B016LG03
4B016LK09
4B016LK12
4B016LK20
4B016LP04
4B016LP10
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4B023LE14
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4B047LG41
4B047LP02
4B047LP14
(57)【要約】
【課題】常温保存中に粘度が低下する度合いが低減された植物ペースト組成物の提供。
【解決手段】植物及び/又は果実由来のペーストと澱粉及び/又は膨化米粉を含む植物ペースト組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物体及び/又は果実由来のペーストと、膨化米粉、又は膨化米粉及び澱粉を含む植物ペースト組成物。
【請求項2】
植物ペースト組成物の水分含量に対する膨化米粉及び澱粉の総量が、4重量%~25重量%である、請求項1に記載の植物ペースト組成物。
【請求項3】
植物体及び/又は果実由来のペーストの配合量が、植物ペースト組成物全体に対して20重量%~70重量%である、請求項1に記載の植物ペースト組成物。
【請求項4】
水分含量が、植物ペースト組成物全体に対して20重量%~70重量%である、請求項1に記載の植物ペースト組成物。
【請求項5】
澱粉に対する膨化米粉の配合割合が5重量%~100重量%である、請求項1に記載の植物ペースト組成物。
【請求項6】
植物ペースト組成物が密閉容器に封入されている請求項1に記載の植物ペースト組成物
【請求項7】
植物ペースト組成物に含まれる植物体及び/又は果実由来のペーストが、梅又は梅干し由来のペーストである請求項1~6のいずれかに記載の植物ペースト組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の植物ペースト組成物を含む食品。
【請求項9】
おにぎり又は巻き寿司である請求項8に記載の食品。
【請求項10】
膨化米粉を植物ペースト組成物の原料に混合することを含む、植物ペースト組成物の粘度を増強する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘度持続性が増強された植物ペースト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
植物由来の素材・材料をペースト状に加工した植物ペーストを含む組成物(植物ペースト組成物)は、他の食品の味を引き立たせたり、栄養を補給するものとし用いられている。また、植物ペースト組成物は、粘性を有し、かかる特性により食品における滞留性に優れ、食感・風味を増強する。
一般の植物ペーストとしては、従来、大根、ニンジン、カボチャ、ショウガ、サツマイモ、レンコン、ゴボウ、リンゴ、レモン等のペーストが知られている。これらの植物ペーストは、保存安定性が比較的悪いためチルド流通を主とする冷蔵ペーストあるいは冷凍されて流通する冷凍ペーストとして流通している場合がある。
これらの植物ペーストの賞味期限・消費期限は対象の植物にもよるが、0℃以下になると病原性微生物に対する一定の増殖抑制効果があるものの、-5℃以下で2~3カ月程度、-12℃以下で1年程度と言われている(非特許文献1)。一方、室温保存における保存安定性の向上あるいは他食品への調味効果を付与するために、植物ペースト組成物に食塩等の調味料、糖類、酸味料、α化澱粉やセルロース等の増粘剤等を配合した植物ペースト組成物が知られている(特許文献1)。
【0003】
上記保存安定性を高め調味効果が付与された植物ペースト組成物を容器に詰めた容器入りペースト状調味ソースが市販されているが、使用時に該調味ソースを容器から取り出すときには、該調味ソースが飛散しないようにするために適度な粘度が必要であり、コーンスターチを用いて適度な粘度を付与する技術が知られている(特許文献2)。
市販されている植物ペースト組成物としては、生姜ペースト、にんにくペーストや練り梅ペースト等の調味効果が付与された植物ペースト組成物がある。これらの市販の植物ペースト組成物は、容器からの出しやすさを付与したり、あるいはペースト状組成物の組成を均一とするために粘度をつけており、キサンタンガム等のガム類やα化澱粉類を増粘剤として配合している。増粘剤としてガム類のみを配合した場合、植物ペースト組成物が、煮凝りのような食感となってしまい植物ペースト組成物としては違和感が残る性状となることから、このような欠点の低減が指向されたα化澱粉のみあるいはα化澱粉とガム類とを混合して粘度を付与した植物ペースト組成物が市販されている。 市販されている植物ペースト組成物に関連する発明も知られており、例えば特許文献3には、梅の加工品(ペースト状を含む)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62―269660号公報
【特許文献2】特開2010-68768号公報
【特許文献3】特開昭63-14679号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000705220)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
α化澱粉を増粘剤として用いた植物ペースト組成物は、流通時あるいは店舗での展示・陳列期間において、例えば約20℃~約30℃の常温で保存することになるが、保存期間中に以下の問題が生じることが、本発明者らにより見いだされた:
・保存中に粘度・粘性が低下する
・保存中に粘度・粘性以外の物性がペーストとは異なり不自然(展延性に乏しい煮凝り状)となる
・透明でジェルのようになり、製造時の通常の植物ペースト組成物とは異なる外観になる。
このような背景のもと、本発明においては、上記問題点のうち、少なくとも、常温保存中に植物ペースト組成物の粘度が低下するという課題の解決を指向した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み、上記のような粘度の低下の程度が小さい植物ペースト組成物について、本発明者は検討したところ、従来の植物ペースト組成物に用いられていなかった成分を用いることにより上記課題が解決できる可能性があることを見出し、さらに鋭意研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、少なくとも、以下の発明に関する:
[1]
植物体及び/又は果実由来のペーストと、膨化米粉、又は膨化米粉及び澱粉、を含む植物ペースト組成物。
[2]
植物ペースト組成物の水分含量に対する膨化米粉及び澱粉の総量が、4重量%~25重量%である、[1]に記載の植物ペースト組成物。
[3]
植物体及び/又は果実由来のペーストの配合量が、植物ペースト組成物全体に対して20重量%~70重量%である、[1]又は[2]に記載の植物ペースト組成物。
[4]
水分含量が、植物ペースト組成物全体に対して20重量%~70重量%である、[1]~[3]のいずれかに記載の植物ペースト組成物。
[5]
澱粉に対する膨化米粉の配合割合が5重量%~100重量%である、[1]~[4]のいずれか記載の植物ペースト組成物。
[6]
植物ペースト組成物が密閉容器に封入されている[1]~[5]のいずれかに記載の植物ペースト組成物
[7]
植物ペースト組成物に含まれる植物体及び/又は果実由来のペーストが、梅又は梅干し由来のペーストである[1]~[6]のいずれかに記載の植物ペースト組成物。
[8]
[1]~[7]のいずれかに記載の植物ペースト組成物を含む食品。
[9]
おにぎり又は巻き寿司である[8]に記載の食品。
[10]
膨化米粉を植物ペースト組成物の原料に混合することを含む、植物ペースト組成物の粘度を増強する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、常温保存の際に生じえる粘度の低下の程度が小さい植物ペースト組成物を提供することができる。本発明によれば、添加物(ガム類)を用いないか、又は使用量を削減した植物ペースト組成物を提供することもできる。
本発明の好ましい態様においては、長期保存後でも植物ペースト組成物により自然な物性と外観を付与することができる。
本発明が上記の効果を奏する理由は明らかではないが、膨化米粉中の米紛の形状・構成及び/又は成分の作用により、植物ペースト組成物における、粘度以外の何らかの物性が変化するか又はかかる物性が長期にわたり維持されることにより、上記の効果が奏されると推察される。
【0009】
上記のような作用メカニズムによる植物ペースト組成物の粘度の増強は、これまで知られていなかった。
例えば特許文献3においては、粘度を付与する材料として用いられているのは、天然ガム又は澱粉であって、膨化米粉については記載も示唆もなされていない。
【0010】
膨化米粉は、保水性に優れ、増粘効果があり、食感の改良効果を有し、パン、ピザ、ギョウザの皮、バッター粉素材、水産練製品に用いられることは知られている。しかしながら、膨化米粉を植物ペースト組成物に用いることや、膨化米粉を用いることにより、粘度の低下の程度が小さい植物ペースト組成物を提供することができることについては、これまで知られていなかった。
そもそも、植物ペースト組成物の粘度が、澱粉などの増粘剤を加えても低下するという課題を解決することさえ、これまで試みられることはなかった。
【0011】
これらのことを併せ考えれば、本発明は、その構成が従来技術から想到し得ないものであるばかりでなく、本発明が奏する効果は、当業者が従来技術から予測できない格別顕著なものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明についてさらに説明する。
【0013】
●本発明の植物ペースト組成物
本発明の植物ペースト組成物は、植物体及び/又は果実由来のペースト(本明細書において、単に「植物ペースト」と記載することがある)と膨化米粉及び任意に澱粉を含む植物ペースト組成物である。
「植物ペースト」は、原料植物の植物体及び/又は果実の摩砕物、粉砕物、搾汁液及び/又は発酵物等(植物ペーストの原料)に、必要な範囲で増粘剤(膨化米粉以外の増粘剤)及び水を加えてペースト状にし、粘度を高めた調製物である。植物ペーストの原料自体がペースト状である場合(梅肉等)には、かかる植物ペーストの原料自体も「植物ペースト」に包含される。
本発明における「ペースト組成物」とは、ペースト状の組成物を意味する。
例えば付着性により組成物の性状を評価する場合、少なくとも、付着性が約200J/m2~約6000 J/m2であれば、測定対象はペースト状であると判断してよい。粘度は、食品用テクスチャー測定装置により付着性を定量的に測定して特定してもよい。食品用テクスチャー測定装置は限定されず、クリープメーターを用いてよい。クリープメーターとしては、RHEONERII(CREEP METER RE2-33005、山電社製)が例示される。
本発明における「植物ペースト組成物」とは、植物体及び/又は果実からの部位又は成分を含むペースト組成物である。植物体及び果実は、採取されたままのものでも、採取後に加工されたものであってもよい。
本発明における「植物体」は果実以外の植物の部位を示し、茎、葉、根及び種子が、少なくとも包含される。
【0014】
本発明の植物ペースト組成物は、植物体及び/又は果実由来のペーストと膨化米粉(「パフ加工米粉」と称されることもある)及び任意に澱粉を含む、ペースト状の調製物である。
本発明の植物ペースト組成物においては、膨化米粉が、原料である植物体及び/又は果実由来のペーストに添加されているのであって、原料である植物体及び/又は果実由来のペースト組成物の製造の最中に添加されたものであっても、膨化米粉が同組成物の製造の最中に添加されたものでなくてもよい。
本発明の植物ペースト組成物は、必要な原料及び成分を、いかなる順番で混合したものであってもよい。
【0015】
本発明の植物ペースト組成物は、食品に用いられずそのままの状態、又は食品に用いられた状態において、常温(例えば約20℃~約30℃)保存後に粘度が低下する程度が小さい植物ペースト組成物である。本発明の植物ペースト組成物は、食品に用いられた際に、常温以下における保存後においても、粘度が低下する程度は小さい。
本願発明の植物ペースト組成物は、常温保存時に、例えば30日間粘度の低下が小さく、好ましくは60日間粘度の低下が小さく、より好ましくは90日間粘度の低下が小さく、さらにより好ましくは180日間粘度の低下が小さい。
【0016】
本発明の植物ペースト組成物において、「粘度が低下する程度が小さい」とは、例えば保存前の粘度からの低下の度合いが、30日間の常温保存後に30%以下であることを意味する。本発明の植物ペースト組成物において、30日間の常温保存後に、保存前の粘度からの低下の度合いが30%以下であるものは好ましく、10%以下であるものはより好ましい。
本発明の植物ペースト組成物において、「粘度が低下する程度が小さい」とは、α化澱粉を用いた場合の粘度の低下に比較して、粘度の低下が小さいことを意味する場合もある。
【0017】
本発明の植物ペースト組成物において、植物体及び/又は果実ペーストの配合量は限定されないところ、かかる配合量として、植物ペースト組成物全体に対して20重量%~70重量%が例示される。当該重量%は、仕込み値ならびに植物ペースト組成物を調製後及び保存後の重量%を意味し得る。
【0018】
調製された本発明の植物ペースト組成物は、食品に用いられずそのまま保存される場合、瓶、チューブ、バッグ等の密閉可能な容器に保存してよい。
【0019】
<植物体及び/又は果実由来のペースト>
本発明の植物ペースト組成物の原料である植物体及び/又は果実由来のペーストは、添加が予定される膨化米粉を含まない、粘度の維持が必要とされる、植物体及び/又は果実から得られるペースト状の材料を意味する。
【0020】
本発明において用いられる植物体及び/又は果実由来のペーストは、果実以外の植物の部位から得られるペースト、及び果実から得られるペーストを包含する。本明細書においては、植物体及び/又は果実由来のペーストを、「植物ペースト」と称することがある。
これらの植物体及び/又は果実由来のペーストは、所望の植物の植物体及び/又は果実を所望の大きさに細断してそのまま用いて得てよい。また、植物体及び/又は果実由来のペーストは、所望の植物の植物体及び/又は果実を圧搾、発酵、乾燥のような加工を経て得てよい。
植物が梅の場合には、植物ペーストは、梅果実又は梅干しを裏ごししてペースト状にして得てよい。
本発明の植物ペースト組成物に用いられる原料である植物体及び/又は果実由来のペーストは、限定されず、本技術分野における通常の方法により製造されたものでよい。
【0021】
本発明の植物ペースト組成物及び原料である植物体及び/又は果実由来のペーストにおいて用いられる植物は限定されず、梅、レモン、ココナッツ、イチゴ、オレンジ、ブルーベリー、イネが例示される。本発明の植物ペースト組成物は、これらの植物の植物体及び/又は果実由来のペーストを含む植物ペースト組成物のうち、pHが適宜7以下に調整された植物ペースト組成物において好適に適用され、pH5以下の植物ペースト組成物においてさらに好適に適用され、pH4以下の植物ペースト組成物において最も好適に適用される。
なお、植物をそのまま植物ペーストとして用いた場合、レモンや梅干しからの植物ペーストのようなpH4以下の植物ペーストは、そのまま本発明の植物ペースト組成物に用いることができ、pH4以上の植物ペーストの場合は、酢酸や高酸度酢、クエン酸などの有機酸を用いて適宜pHを調整して、本発明の植物ペースト組成物に用いてよい。
本発明の植物ペースト組成物において、梅由来のペースト、梅干し由来のペースト及びレモン由来のペーストを用いることは好ましく、梅由来のペースト又は梅干し由来のペーストを用いることはより好ましい。
植物体及び/又は果実由来のペーストに含まれる植物体及び果実から得られる原料として、搾汁液又は果汁を用いてもよい。すなわち、本発明の植物ペースト組成物に用いられる植物ペーストは、原料として植物繊維を除去したものを用いてもよい。例えば植物がレモンの場合は、果汁を用いることは好ましい。
本発明の植物ペースト組成物に用いられる植物体及び/又は果実由来のペーストは、元々含まれている澱粉分解酵素等の酵素を失活させる処理がなされていてよい。かかる処理により、本発明の植物ペースト組成物の保存の際に生じえる粘度の低下を抑制しえるからである。かかる処理として、加熱及びブランチング等が例示される。
【0022】
<膨化米粉>
本発明において用いられる膨化米粉は、米の粒を加熱後粉砕して得られる粉末で本発明における所期の効果を奏するものであれば限定されない。所期の効果は、植物ペースト組成物又は該植物ペースト組成物を用いた食品において、常温(例えば約20℃~約30℃)における保存の際に生じえる粘度の低下を抑制し、粘度を増強する効果である。
【0023】
膨化米粉は、内部に多数の細孔を有する(パフ化された/膨化された)米の粒を粉砕して得られる粉末である。膨化米粉は、例えば米の全粒又は割砕された米の粒を加圧加熱ガスの存在下で数秒間加圧加熱した後、常温・常圧下に急激に放出することにより加工(パフ化/膨化)することにより得られる。
【0024】
本発明の植物ペースト組成物に用いられる膨化米粉の原料としての膨化米は、原料米を瞬間膨化装置などを用いて高圧、高温状態より急激に常圧状態にして膨化させたもので、多孔質構造を有し、糊化度、水溶性全糖が高く、さくさくとした食感があり、バッチ方式、瞬間連続膨化方式、エクストルーダー方式などにより得られるものである。
膨化米の製造、すなわち米の粒の膨化は、本技術分野において通常用いられる方法で行ってよい。膨化処理を行う場合の温度や圧力等の条件は、使用する装置に応じ適宜設定してよく、例えば、気流加熱方式による膨化食品製造装置(特公昭46-34747号参照)を使用する場合においては、ゲージ圧力4~7kg/cm2の範囲で、飽和蒸気温度よりも80~130℃高い過熱水蒸気を用いて、原料である米の粒を数秒間、例えば2秒間~8秒間、加圧加熱すればよい。
【0025】
本発明の植物ペースト組成物に用いられる膨化米粉は、上記の膨化米を粉砕したものである。すなわち、同膨化米粉は、上記製造方法により得られる膨化米を、通常の粉砕物を得る粉砕機、例えばスイングカッター、ハンマーミル、ピンミル、マスコロイダーなどを用いて粉砕して得られる粉砕物(粉末)である。
前記膨化米粉の粒度は限定されず、撹拌や振盪などにより水や液状の調味料に容易に溶け込む程度の粒度であればよい。
【0026】
本発明において用いられる膨化米粉として、パフゲンC-1(キッコーマン食品株式会社製、登録商標:キッコーマン株式会社)が例示されるが、本発明の所期の効果を奏するものであれば、膨化米粉は限定されない。パフゲンC-1は、上記気流加熱方式による膨化食品製造装置を用いて得た膨化米を粉末化した膨化米粉末であり、本発明の植物ペースト組成物に好適に用いられる。
【0027】
本発明の植物ペースト組成物において用いられる膨化米粉の量(澱粉が併用される場合は澱粉との総量)は所期の効果が達成される量であればよく、限定されない。かかる量として、例えば、植物ペースト組成物中の水分含量に対する膨化米粉及び澱粉の総量として、4重量%~25重量%が例示され、4重量%~15重量%は好ましく、4重量%~13重量%はより好ましい。
本発明の植物ペースト組成物において用いられる膨化米粉の量(澱粉が併用される場合は澱粉との総量)は、植物ペースト組成物全体に対しては、例えば2.0重量%~20重量%であり、3.0重量%~18重量%の量は好ましく、3.5重量%~15重量%の量はより好ましい。
【0028】
本発明の植物ペースト組成物において用いられる膨化米粉の量は、その他の併用される成分の量に応じて改変してよい。
また、本発明の植物ペースト組成物は、用いられる膨化米粉由来ではない澱粉を、粘度付与剤として含んでよいし、含まなくてもよい。用いられる膨化米粉由来ではない澱粉を含む場合、澱粉に対する膨化米粉の配合割合は、重量による比で5.0%~100%であってよく、10%~100%は好ましい。
【0029】
<その他の成分>
本発明の植物ペースト組成物には、その他の成分として、水、調味成分、粘度付与剤といった成分を、本発明の効果を損なわない範囲で含んでよい。
本発明の植物ペースト組成物における水分含量は限定されず、植物ペースト組成物全体に対して20重量%~70重量%であってよい。かかる水分は、植物ペースト由来の水分であってよく、植物ペースト由来のものではない植物ペースト以外のものから添加された水分であってもよい。
【0030】
調味成分としては、本発明の効果を損なわない、本技術分野において用いられるものを用いてよく、
砂糖及び液糖等の甘味料、
クエン酸等の酸味料、
グルタミン酸ナトリウム等のだし類やうま味調味料、
食塩等の塩分
香料(レモンの香料のような、果実香を付与する香料等)
等が例示される。
調味成分が添加された本発明の植物ペースト組成物は、調味植物ペーストである。
粘度付与剤としては、上記した澱粉以外に、ガム類が例示される。
【0031】
●本発明の植物ペースト組成物の製造方法
本発明の植物ペースト組成物の製造方法は、限定されないところ、例えば原料である植物ペーストに適宜その他の成分を混和し、得られた混和物に膨化米粉を添加し、添加された膨化米粉が均一になるように全体を混合して本発明の植物ペースト組成物を得る方法が例示される。
【0032】
本発明の植物ペースト組成物を製造する際の植物ペーストへの膨化米粉の添加は、用いられる膨化米粉のすべてを一回で添加して行ってもよいし、用いられる膨化米粉の全量を何回かに分けて添加して行ってもよい。
膨化米粉の添加の後に、他の成分を添加してもよい。
【0033】
膨化米粉の添加は、膨化米粉をそのまま添加して行ってもよいし、膨化米粉を水や、他の成分を含む液体組成物(調味液を包含する)に懸濁させ、膨化米粉を含む該水又は液体組成物を添加して行ってもよい。膨化米粉を懸濁し、原料である植物ペーストに添加するために用いられる水又は液体組成物の量は限定されない。
膨化米粉による水分吸収により、液体組成物の水分への影響を避ける必要がある場合には、膨化米粉をそのまま添加してよい。
【0034】
本発明の植物ペースト組成物の製造において用いられる膨化米粉の量は、所期の効果が達成される量であればよく、限定されない。かかる量として、植物ペースト組成物全体に対して、膨化米粉の量が、例えば2.0重量%~20重量%になる量であり、3.0重量%~18重量%になる量は好ましく、3.5重量%~15重量%になる量はより好ましい。
上記の量は本発明の植物ペースト組成物を製造する際の仕込み量であり、最終製品としての本発明の植物ペースト組成物又は保存後の本発明の植物ペースト組成物においては、これらの量は変わっていてよい。
【0035】
本発明の植物ペースト組成物を得る際の原料である植物ペーストに膨化米粉を混合する工程においては、撹拌して混合することは好ましい。
撹拌する回数は限定されず、50回以上撹拌することはより好ましい。
【0036】
●本発明の植物ペースト組成物を用いた食品
本発明はさらに、本発明の植物ペースト組成物を用いたおにぎりや巻き寿司、ドリンク、菓子・ケーキ類及びドレッシングといった食品も提供する。
本発明の食品の製造方法は限定されず、本技術分野における通常の方法を用いてよい。
【0037】
●植物ペースト組成物の粘度を維持する方法
本発明により、膨化米粉を植物ペースト組成物に混合することを含む、植物ペースト組成物の粘度を維持する方法も提供される。すなわち、常温保存後に食されることが予定されている植物ペースト組成物の原料である植物ペーストに膨化米粉を添加し、好ましくは撹拌して均一に混ぜ合わせることにより、長期の常温保存を経ても、植物ペースト組成物の粘度を良好に保つことができる。植物ペーストは澱粉を含んでいてもよい。
膨化米粉の種類、各種成分の量、撹拌の回数等は、上記において本発明の植物ペースト組成物について述べた事項が、本発明の植物ペースト組成物の粘度を増強する方法に適用される。
【0038】
粘度が低下する度合いを評価する方法は限定されないところ、例えば所定の期間の常温保存を経た後の植物ペースト組成物の粘度を、常温保存前の同成分からなる植物ペースト組成物と目視により比較して判断することにより、行ってよい。
あるいは、粘度を、食品用テクスチャー測定装置により付着性を定量的に測定して特定してもよい。食品用テクスチャー測定装置は限定されず、クリープメーターを用いてよい。クリープメーターとしては、RHEONERII(CREEP METER RE2-33005、山電社製)が例示される。
例えば付着性により組成物の性状を評価する場合、少なくとも、付着性が約200J/m2~約6000 J/m2であれば、測定対象はペースト状であると判断してよい。
これらの評価は、例えば本発明の植物ペースト組成物ではない植物ペースト組成物との比較を指標として行ってもよい。
【0039】
粘度の増強や低下する度合いは常温保存を経た後の植物ペースト組成物について行えばよく、保存前の植物ペースト組成物については考慮する必要はない。すなわち本発明の植物ペースト組成物が奏する効果は、常温保存後の喫食時における粘度について奏されていればよい。
【実施例0040】
以下に具体的な実施例及び試験例により本発明をより詳細に説明するが、これらは如何なる意味においても本発明を限定するものではない。
[実施例]膨化米粉入り植物ペースト組成物の製造
表1に記載の各原料を材料として所定量にて混和し、植物ペースト組成物を得た。
なお、材料として、以下のものを用いた(以下において同じ):
・醸造酢(高酸度酢):高酸度酢HA100(マルカン酢社製)
・α化澱粉:ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン(マツノリン(松谷化学工業社製))
・膨化米粉:パフゲンC-1(キッコーマン食品社製)
【表1】
【0041】
[試験例1]
植物ペースト組成物の粘度を増強する効果の評価(1)
[材料と方法]
実施例1において製造した植物ペースト組成物以外に、比較例に相当する植物ペースト組成物を作製し、ナイロン製の小袋に20g充填して卓上シーラーで密封後、低温(5℃:A)と室温(25℃:B)にて6ヶ月間保存した。各サンプルに用いた材料及び保存の温度は、下表のとおりであった。
【表2】
【0042】
保存後の各サンプルについて、付着性を調査した。付着性は、RHEONERII(CREEP METER RE2-33005、山電社製)を用いて、セルにサンプルを摺り切りで満たし(22~23g)、25℃における付着性を測定して得た。
低温保存のサンプルについては、25℃に加温した後に付着性の測定に供した。
なお、いずれのサンプルも、作製直後におけるpHは、4.0以下であった。
【0043】
[結果]
結果は下記表に示すとおりであった。
いずれの処理による植物ペースト組成物においても、常温保存後の粘度は、保存前に比較して低下せず、増大していた。
これに対し比較例においては、常温保存後の粘度は、保存前より低下していた。
したがって、本願発明の植物ペースト組成物においては、常温保存後の粘度の低下の度合いは、従来技術より小さいことが明らかになった。
【表3】
【0044】
なお、付着性と粘度の関係については、約100 J/m2では液状に近くペースト状ではなく、ペースト状であるために必要な粘度は約100J/m2より大きい粘度であり、少なくとも、約200J/m2である組成物はペースト状である。また、約6000 J/m2の場合は、流動性が小さいペースト状である場合がある。したがって、少なくとも、付着性が約100J/m2より大きく、約6000 J/m2未満である組成物は、ペースト状である。
上記実施例の付着性は219 J/m2(実施例1-A及び1-B)~2575 J/m2(実施例2-B)の範囲であるから、いずれの実施例におけるサンプルもペースト状であったといえる。
また、実施例にかかる本発明の植物ペースト組成物においては、いずれにおいても、粘度以外の物性及び外観も比較例を上回っていた。
【0045】
[試験例2]
植物ペースト組成物の粘度を増強する効果の評価(2)
[材料と方法]
下表記載の配合にて、梅肉を用いてpH4.0以下のペースト状練り梅を製造し、ナイロン製の小袋に30g充填して卓上シーラーで密封後、低温(5℃:A)と室温(25℃:B)にて6か月間保存した。梅肉としては、市販の梅肉(A社製無添加梅ペースト)を用いた。
付着性の試験は、保存前後のサンプルに関して、低温保管のサンプルは25℃に加温した後、付着性を、RHEONERII(CREEP METER RE2-33005、山電社製)を用いて、セルにサンプルを摺り切りで満たし(22~23g)、25℃における付着性を測定した。
【表4】
【0046】
[結果]
結果は、1ヶ月保存後については下記表5に示すとおりであった。
本願発明の植物ペースト組成物においては、常温保存後の粘度は、保存前に比較して低下せず、増大していた(実施例5-B)。また、実施例にかかる本発明の植物ペースト組成物においては、実施例5-A及び実施例5-Bのいずれにおいても、粘度以外の物性及び外観も比較例を上回っていた。
実施例6-A及び6-Bは、それぞれ実施例5-A及び実施例5-Bと同等以上の効果を奏する。
これに対し比較例においては、常温保存後の粘度は、保存前より低下していた。
6ヶ月の25℃保管後においては、いずれの組成物においても粘度は作製直後より低下していたが、本願発明の植物ペースト組成物における低下の度合いは比較例における低下の度合いより明らかに小さかった。
したがって、本願発明の植物ペースト組成物においては、常温保存後の粘度の低下の度合いは、従来技術より小さいことが一層明らかになった。
【表5】
【0047】
[試験例3]梅肉ペースト組成物の粘度を増強する効果の評価(3)
[材料と方法]
下表6記載の配合にて、梅肉を用いてpH4.0以下のペースト状練り梅を製造し、ナイロン製の小袋に30g充填して5袋ずつ卓上シーラーで密封後、低温(5℃:A)と室温(25℃:B)にて6か月間保存した。梅肉としては、市販の梅肉(B社製無添加梅ペースト)を用いた。
付着性の試験は、保存前後のサンプルに関して、低温保管のサンプルは25℃に加温した後、付着性を、RHEONERII(CREEP METER RE2-33005、山電社製)を用いて、セルにサンプルを摺り切りで満たし(22~23g)、25℃における粘度(付着性)を測定した。
用いた梅肉中の成分(澱粉分解酵素当と推察される)の影響のため、全体として保存後の粘度は低下していた。
試験は5反復により行い、各比較例及び実施例の粘度の数値を、保管前の粘度から計算して低下率求め、該低下率の平均値及び標準偏差を用いて有意差の評価をt-検定により行った。
【表6】
【0048】
[結果]
結果は下記表7に示すとおりであった。
梅肉の配合量を50%とした本願発明の梅肉ペースト組成物において、常温保存後の粘度は、保存前の比較例と比較して有意に低下が抑制されていた(実施例7-B、9及び10)。
とくに、添加される澱粉としてα化澱粉を含まない本願発明の梅肉ペースト組成物(実施例7-B)は、粘度の維持において、α化澱粉を含む本願発明の梅肉ペースト組成物(実施例8~10)を上回った。
また、本発明の梅肉ペースト組成物において、実施例8及び9との対比により示されるように、α化澱粉に対する膨化米粉の量を相対的に増大させることにより、粘度の低下は一層抑制された。
さらに、梅肉の配合量を50%から35%に変えた場合でも、比較例4及び実施例10に示すように、粘度の低下の抑制効果が確認された。
したがって、本願発明の梅肉ペースト組成物においては、常温保存後の粘度の低下の度合いを、従来技術より有意に小さくしえることが明らかになった。
【表7】
本発明によれば、保存中に粘度が低下する程度が小さい植物ペースト組成物が提供される。したがって本発明は、植物ペースト組成物製造産業及び食品産業の発展に寄与するところ大である。