(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037734
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】アンテナユニット、およびアンテナユニットの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01Q 1/22 20060101AFI20240312BHJP
H01Q 1/38 20060101ALI20240312BHJP
C03C 27/04 20060101ALI20240312BHJP
E06B 3/67 20060101ALI20240312BHJP
E06B 7/28 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
H01Q1/22 C
H01Q1/38
C03C27/04 D
E06B3/67 Z
E06B7/28 Z
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023198781
(22)【出願日】2023-11-24
(62)【分割の表示】P 2022123221の分割
【原出願日】2018-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2017150241
(32)【優先日】2017-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】392026693
【氏名又は名称】株式会社NTTドコモ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】平松 徹也
(72)【発明者】
【氏名】園田 龍太
(72)【発明者】
【氏名】加賀谷 修
(72)【発明者】
【氏名】岡 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 晃
(72)【発明者】
【氏名】宮地 健介
(72)【発明者】
【氏名】上田 明頌
(72)【発明者】
【氏名】河野 義幸
(72)【発明者】
【氏名】安藤 潤
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 拓
(57)【要約】
【課題】ガラス板を通して電磁波の送受信を行うことができるガラス用アンテナユニットを提供する。
【解決手段】本発明に係るガラス用アンテナユニットは、ガラス板に取り付けられるガラス用アンテナユニットであって、アンテナと、前記ガラス板と前記アンテナとの間に空気が流動可能な空間が形成されるように、前記アンテナを前記ガラス板に固定する固定部と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板の室内側に設置され、前記室内側から前記ガラス板を通して電磁波の送受信を行うガラス用アンテナユニット。
【請求項2】
前記ガラス板に取り付けられるガラス用アンテナユニットであって、
アンテナと、
前記ガラス板と前記アンテナとの間に空気が流動可能な空間と、
を有する請求項1に記載のガラス用アンテナユニット。
【請求項3】
前記ガラス板に取り付けられるガラス用アンテナユニットであって、
アンテナと、
前記ガラス板と前記アンテナとの間に空気が流動可能な空間が形成されるように、前記アンテナを前記ガラス板に固定する固定部と、
を有する請求項1に記載のガラス用アンテナユニット。
【請求項4】
前記固定部の厚さが、0.5mm~100mmである請求項3に記載のガラス用アンテナユニット。
【請求項5】
前記ガラス板と前記アンテナとの間に、前記空気を、2m3/時間以上の風量で吹き込む手段をさらに有する請求項2~4の何れか一項に記載のガラス用アンテナユニット。
【請求項6】
前記アンテナは、平板状のアンテナまたは平板状の基板に設けられたアンテナである、請求項2~5の何れか一項に記載のガラス用アンテナユニット。
【請求項7】
前記平板状のアンテナまたは前記平板状の基板の前記ガラス板側の主面の平均日射吸収率が、60%以下である請求項6に記載のガラス用アンテナユニット。
【請求項8】
前記平板状のアンテナまたは前記平板状の基板の前記ガラス板側の主面の算術平均粗さRaが、1.2μm以下である請求項6または7に記載のガラス用アンテナユニット。
【請求項9】
前記平板状のアンテナまたは前記平板状の基板の前記ガラス板側の主面に誘電体層をさらに有する請求項6~8の何れか一項に記載のガラス用アンテナユニット。
【請求項10】
前記誘電体層の前記ガラス板側の主面の算術平均粗さRaが、1.2μm以下である請求項9に記載のガラス用アンテナユニット。
【請求項11】
前記平板状のアンテナまたは前記平板状の基板の前記ガラス板側とは反対側の主面に設けられる電磁遮蔽層を有する請求項6~10の何れか一項に記載のガラス用アンテナユニット。
【請求項12】
前記平板状の基板の前記ガラス板とは反対側の主面に1つ以上の電磁波吸収エレメントを有する請求項6~11の何れか一項に記載のガラス用アンテナユニット。
【請求項13】
前記アンテナの可視光透過率が、40%以上である請求項2~12の何れか一項に記載のガラス用アンテナユニット。
【請求項14】
前記アンテナは、収容容器内に設けられたアンテナである、請求項2~13の何れか一項に記載のガラス用アンテナユニット。
【請求項15】
ガラス板と、
前記ガラス板の室内側に設置され、前記室内側から前記ガラス板を通して室外側と電磁波の送受信を行うガラス用アンテナユニットを備えた、アンテナ付きガラス板。
【請求項16】
ガラス板と、
請求項2~14のいずれか一項に記載のガラス用アンテナユニットと、
を有するアンテナ付きガラス板。
【請求項17】
前記ガラス板の前記ガラス用アンテナユニット側の主面にコーティング層をさらに有し、
前記ガラス用アンテナユニットの前記アンテナは、平板状のアンテナ、または平板状の基板に設けられたアンテナであり、
前記コーティング層は、前記平板状のアンテナまたは前記平板状の基板に対応する位置に、少なくとも、前記平板状のアンテナ、または前記平板状の基板と同じ大きさの開口部を有する請求項15または16に記載のアンテナ付きガラス板。
【請求項18】
前記平板状のアンテナまたは前記平板状の基板が、平面視において、矩形状に形成され、
前記開口部の面積が、下記式(1)の値以上である請求項17に記載のアンテナ付きガラス板。
a×b ・・・(1)
(但し、式(1)中、aは、平板状のアンテナまたは平板状の基板の一方の辺の長さであり、bは、平板状のアンテナ、または平板状の基板の他方の辺の長さである。)
【請求項19】
前記ガラス板の前記ガラス用アンテナユニット側とは反対方向の主面に撥水処理層をさらに有する請求項15~18の何れか一項に記載のアンテナ付きガラス板。
【請求項20】
前記ガラス板の前記ガラス用アンテナユニット側の主面の前記ガラス用アンテナユニットが設けられる領域と異なる領域に電磁遮蔽層を有する請求項15~19の何れか一項に記載のアンテナ付きガラス板。
【請求項21】
アンテナと、前記アンテナの一部に設けられた固定部とを含むガラス用アンテナユニットを、ガラス板と前記アンテナとの間に空気が流動可能な空間が形成されるように、前記固定部を介して前記ガラス板に取り付ける工程と、
を含むことを特徴とするガラス用アンテナユニットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス用アンテナユニット、アンテナ付きガラス板、およびガラス用アンテナユニットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、インターネット通信、ラジオ放送、GPS(Global Positioning System)など、無線技術を利用した多様な通信システムが開発されている。これらの通信システムに対応するためには、それぞれの通信システムに使用される電磁波の送受信が可能なアンテナが必要とされる。
【0003】
建物の外壁面に設置して使用されるアンテナユニットとして、例えば、比誘電率の異なる3つの層を有し、それぞれの層を所定の厚さに設定して、良好な電波透過性能を有する電波透過体を用いたアンテナユニットが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の電波透過体は、最外層である第1層にガラスなどの表面仕上げ材を用い、最外層の内側に、空気層などの第2層を用い、その内側に、多孔質体やアクリル樹脂など第3層を用いている。そして、電波透過体は、比誘電率が第1層、第3層、第2層の順に小さい。
【0006】
本発明の一態様は、ガラス板を通して電磁波の送受信を行うことができるガラス用アンテナユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るガラス用アンテナユニットは、ガラス板の室内側に設置され、前記室内側から前記ガラス板を通して電磁波の送受信を行う。
【0008】
本発明の一態様に係るガラス用アンテナユニットは、ガラス板に取り付けられるガラス用アンテナユニットであって、アンテナと、前記ガラス板と前記アンテナとの間に空気が流動可能な空間が形成されるように、前記アンテナを前記ガラス板に固定する固定部と、を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様に係るガラス用アンテナユニットは、ガラス板を通して電磁波の送受信を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ガラス用アンテナユニットをガラス板に適用した状態を示す透視斜視図である。
【
図2】ガラス用アンテナユニットの透視斜視図である。
【
図3】
図1に示すガラス用アンテナユニットを、ガラス板を通して見た透視斜視図である。
【
図4】固定部の他の形態の一例を示す透過斜視図である。
【
図5】ガラス用アンテナユニットの他の形態の一例を示す断面図である。
【
図6】ガラス用アンテナユニットの他の形態の一例を示す断面図である。
【
図8】
図7のA-A方向から見た部分断面図である。
【
図9】窓フレームの内枠からのアンテナユニットの位置と、最大引張応力比との関係を示す図である。
【
図10】コーティング層に開口部を形成した状態の一例を示す図である。
【
図11】コーティング層に開口部を形成した状態の他の一例を示す図である。
【
図12】アンテナ付きガラス板の他の形態の一例を示す部分断面図である。
【
図13】ガラス用アンテナユニットの施工方法の工程の一部を示す説明図である。
【
図15】例3-1のTE波の透過損失の測定結果を示す図である。
【
図16】例3-1のTM波の透過損失の測定結果を示す図である。
【
図17】例3-2のTE波の透過損失の測定結果を示す図である。
【
図18】例3-2のTM波の透過損失の測定結果を示す図である。
【
図19】例4の電磁波の透過損失の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、理解の容易のため、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。本明細書では、3軸方向(X軸方向、Y軸方向、Z軸方向)の3次元直交座標系を用い、ガラス板の幅方向をX方向とし、厚さ方向をY方向とし、高さ方向をZ方向とする。ガラス板の下から上に向かう方向を+Z軸方向とし、その反対方向を-Z軸方向とする。以下の説明において、+Z軸方向を上といい、-Z軸方向を下という場合がある。
【0012】
<ガラス用アンテナユニット>
一実施形態に係るガラス用アンテナユニット(以下、単に、アンテナユニットともいう)について説明する。なお、「ガラス用アンテナユニット」における「ガラス用」とは、ガラスを通して電磁波の送受信を行う用途に用いられることを示す。
【0013】
図1は、アンテナユニットをガラス板に適用した状態を示す透視斜視図であり、
図2は、アンテナユニットの透視斜視図であり、
図3は、
図1に示す、アンテナユニットを固定部側から見た透視斜視図である。
【0014】
図1~
図3に示すように、アンテナユニット10は、アンテナ11と、アンテナ11が設けられる平板状の基板(アンテナ設置用基板)12と、アンテナ設置用基板12に取り付けられた固定部13Aとを有する。アンテナユニット10は、固定部13Aにより、アンテナ設置用基板12とガラス板20との間に空間Sが形成されるように、ガラス板20に取り付けられる。なお、ガラス板20は、ガラス板20が窓ガラスの場合、ガラス板20の外縁が窓フレーム21に挟持された状態で保持されている。
図1において、アンテナユニット10は、ガラス板20の室内側の主面に取り付けられている。そして、ガラス板20の室内側とは反対側の主面に日光などが照射される。
【0015】
なお、本実施形態では、アンテナユニット10は、
図1においては固定部13Aによってガラス板20(窓ガラス)に固定されているが、これに限定されない。例えば、アンテナユニット10を天井から吊り下げたり、ガラス板20(窓ガラス)の周辺に存在する突起物(例えば、窓フレーム21や窓サッシ等)に固定させたりすることも可能である。
【0016】
アンテナ11は、アンテナ設置用基板12の第1主面121に設けられる。アンテナ設置用基板12の第1主面121上に設けたセラミックス層14上に少なくとも一部重なるように金属材料を印刷することにより、アンテナ11が形成されてもよい。これにより、アンテナ11は、アンテナ設置用基板12の第1主面121上に、セラミックス層14が形成されている部分とそれ以外の部分とに跨って設けられる。
【0017】
アンテナ11を形成する金属材料としては、金、銀、銅又は白金などの導電性材料を用いることができる。また、アンテナ11は、例えば、パッチアンテナやダイポールアンテナなどを用いることができる。
【0018】
アンテナ11を形成する別の材料としては、フッ素添加錫酸化物(FTO)やインジウム錫酸化物(ITO)等が挙げられる。
【0019】
セラミックス層14は、印刷などによりアンテナ設置用基板12の第1主面121上に形成することができる。セラミックス層14を設けることにより、アンテナ11に取り付けられる配線(不図示)を覆い隠すことができ、意匠性がよい。なお、本実施形態では、セラミックス層14は、第1主面121上に設けなくてもよいし、アンテナ設置用基板12の第2主面122上に設けられてもよい。セラミックス層14をアンテナ設置用基板12の第1主面121上に設けられることが、アンテナ11とセラミックス層14をアンテナ設置用基板12に同一工程で印刷により設けられるため、好ましい。
【0020】
セラミックス層の材料は、ガラスフリットなどであり、その厚さは、1~20μmであることが好ましい。
【0021】
なお、本実施形態では、アンテナ11は、アンテナ設置用基板12の第1主面121に設けているが、アンテナ設置用基板12の内部に設けられてもよい。この場合、アンテナ11は、例えば、コイル状にしてアンテナ設置用基板12の内部に設けることができる。
【0022】
アンテナ設置用基板12が、一対のガラス板と、一対のガラス板同士の間に設けられる樹脂層とを含む合わせガラスの場合、アンテナ11は合わせガラスを構成するガラス板と樹脂層との間に設けてもよい。
【0023】
また、アンテナ11は、アンテナ自体を平板状に形成してもよい。この場合、アンテナ設置用基板12を用いず、平板状のアンテナを固定部13Aに直接取り付けるようにしてもよい。
【0024】
アンテナ11は、アンテナ設置用基板12に設ける以外に、収容容器の内部に設けられてもよい。この場合、アンテナ11は、例えば、平板状のアンテナを上記収容容器の内部に設けることができる。収容容器の形状は特に限定されず、矩形であってよい。
【0025】
アンテナ11は、光透過性を有することが好ましい。アンテナ11が光透過性を有すれば、意匠性がよく、また、平均日射吸収率を低下させることができる。アンテナ11の可視光透過率は40%以上であることが好ましく、60%以上であることが、透明性の点で窓ガラスとしての機能を維持できる点で好ましい。なお、可視光透過率は、JIS R 3106(1998)により求めることができる。
【0026】
アンテナ11は、光透過性を有するためにメッシュ状に形成することが好ましい。なお、メッシュとは、アンテナ11の平面に網目状の透孔が空いた状態をいう。
【0027】
アンテナ11がメッシュ状に形成される場合、メッシュの目は方形であってもよいし、菱形でもよい。メッシュの線幅は、5~30μmが好ましく、6~15μmがより好ましい。メッシュの線間隔は、50~500μmが好ましく、100~300μmがより好ましい。
【0028】
アンテナ11の開口率は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。アンテナ11の開口率は、電磁遮蔽層16の開口部を含めた面積当たりの開口部の面積の割合である。アンテナ11の開口率を大きくするほど、アンテナ11の可視光透過率を高くすることができる。
【0029】
アンテナ11の厚さは、400nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましい。アンテナ11の厚さの下限は特に限定されないが、2nm以上であってよく、10nm以上であってよく、30nm以上であってよい。
【0030】
また、アンテナ11がメッシュ状に形成される場合、アンテナ11の厚さは、2~40μmであってよい。アンテナ11がメッシュ状に形成されることにより、アンテナ11が厚くても、可視光透過率を高くすることができる。
【0031】
アンテナ設置用基板12は、ガラス板20に対して平行に設けられている。アンテナ設置用基板12は、平面視において、矩形に形成されており、第1主面121および第2主面122を有する。第1主面121が、取り付けられるガラス板20の主面と対向するように設けられ、第2主面122が、ガラス板20の主面側とは反対方向となるように設けられている。
【0032】
なお、本実施形態では、アンテナ設置用基板12は、ガラス板20(窓ガラス)に対して、所定の角度を有するように設けられてもよい。アンテナユニット10は、アンテナユニット10が成す面の法線方向(Y軸の正方向)に対して角度を成す方向にチルト角を設定し、電磁波を放射する場合がある。例えば、アンテナユニット10が、ビルのガラス窓等の地表面よりも上方に設置され、地表面にエリアを形成するために地表面に向けて電磁波を放射する場合などである。アンテナ設置用基板12とガラス板20(窓ガラス)との角度は、電波の伝達方向を良好とできる点で0度以上であってよく、5度以上であってよく、10度以上であってよい。また、電波を室外へ伝達するために、アンテナ設置用基板12とガラス板20(窓ガラス)との角度は、50度以下であってよく、30度以下であってよく、20度以下であってよい。
【0033】
アンテナ設置用基板12を形成する材料は、アンテナ11に求められるパワーや指向性などアンテナ性能に応じて設計され、例えば、ガラス、樹脂または金属などを用いることができる。アンテナ設置用基板12は、樹脂などで光透過性を有するように形成されていてもよい。アンテナ設置用基板12を光透過性を有する材料で形成することで、ガラス板20をアンテナ設置用基板12を通して見ることができるので、ガラス板20から見える視界を遮ることを低減することができる。
【0034】
アンテナ設置用基板12としてガラスを用いる場合、ガラスの材質としては、例えば、ソーダライムシリカガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラスまたは無アルカリガラスを挙げることができる。
【0035】
アンテナ設置用基板12として用いられるガラス板は、フロート法、フュージョン法、リドロー法、プレス成形法または引き上げ法など公知の製造方法を用いて製造することができる。ガラス板の製造方法としては、生産性およびコストに優れている点から、フロート法を用いることが好ましい。
【0036】
ガラス板は、平面視において、矩形に形成される。ガラス板の切断方法としては、例えば、ガラス板の表面にレーザ光を照射してガラス板の表面上で、レーザ光の照射領域を移動させることで切断する方法、またはカッターホイールなどの機械的に切断する方法を挙げることができる。
【0037】
本実施形態では、矩形とは、長方形や正方形の他、長方形や正方形の角に丸みを形成した形を含む。ガラス板の平面視での形状は、矩形に限定されず、円形などでもよい。また、ガラス板は、単板に限定されず、合わせガラスであってもよく、複層ガラスであってもよい。
【0038】
アンテナ設置用基板12として樹脂を用いる場合、樹脂は、透明な樹脂が好ましく、液晶ポリマー(LCP)、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリカーボネート、アクリル系樹脂またはフッ素樹脂等が挙げられる。低誘電率である点からフッ素樹脂が好ましい。
【0039】
フッ素樹脂としては、エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体(以下、「ETFE」ともいう。)、ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系共重合体(以下、「FEP」ともいう。)、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-プロピレン共重合体、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)-テトラフルオロエチレン系共重合体(以下、「PFA」ともいう。)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン系共重合体(以下、「THV」ともいう。)、ポリフッ化ビニリデン(以下、「PVDF」ともいう。)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、ポリフッ化ビニル、クロロトリフルオロエチレン系重合体、エチレン-クロロトリフルオロエチレン系共重合体(以下、「ECTFE」ともいう。)またはポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0040】
フッ素樹脂としては、ETFE、FEP、PFA、PVDF、ECTFEおよびTHVからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、透明性、加工性および耐候性に優れる点から、ETFEが特に好ましい。
【0041】
また、フッ素樹脂として、アフレックス(登録商標)を用いてもよい。
【0042】
アンテナ設置用基板12の厚さは、25μm~10mmが好ましい。アンテナ設置用基板12の厚さは、アンテナ11の配置される場所に応じて、任意に設計することができる。
【0043】
アンテナ設置用基板12が樹脂の場合、樹脂はフィルムまたはシート状に成形したものを使用することが好ましい。フィルムまたはシートの厚さは、アンテナ保持の強度に優れる点から、25~1000μmが好ましく、100~800μmより好ましく、100~500μmが特に好ましい。
【0044】
アンテナ設置用基板12がガラスの場合、アンテナ設置用基板12の厚さは、1.0~10mmがアンテナ保持の強度の面で好ましい。
【0045】
アンテナ設置用基板12の第1主面121の算術平均粗さRaは、1.2μm以下であることが好ましい。これは、第1主面121の算術平均粗さRaが1.2μm以下であれば、後述するように、アンテナ設置用基板12とガラス板20との間に形成される空間Sで空気が流動し易くなるためである。第1主面121の算術平均粗さRaは、より好ましくは0.6μm以下であり、さらに好ましくは0.3μm以下である。算術平均粗さRaの下限は特に限定されないが、例えば、0.001μm以上である。
【0046】
なお、算術平均粗さRaは、日本工業規格 JIS B0601:2001に基づいて測定することができる。
【0047】
アンテナ11が平板状のアンテナである場合は、アンテナ11のガラス板側の主面の算術平均粗さRaが、好ましくは1.2μm以下であり、より好ましくは0.6μm以下であり、さらに好ましくは0.3μm以下である。また、アンテナ11が収容容器の内部に設けられる場合は、収容容器のガラス板側の主面の算術平均粗さRaが、好ましくは1.2μm以下であり、より好ましくは0.6μm以下であり、さらに好ましくは0.3μm以下である。算術平均粗さRaの下限は特に限定されないが、例えば、0.001μm以上である。
【0048】
固定部13Aは、ガラス板20とアンテナ設置用基板12との間に空気が流動可能な空間Sを形成させるものであり、かつアンテナ設置用基板12をガラス板20に固定するためのものである。固定部13Aは、アンテナ設置用基板12の第1主面121に取り付けられている。本実施形態では、固定部13Aは、アンテナ設置用基板12のX軸方向の両端に、Z軸方向に沿って矩形状に設けられている。本実施形態において、ガラス板20とアンテナ設置用基板12との間に空気が流れる空間Sを形成するのは、アンテナ設置用基板12に対向する位置にあるガラス板20の表面温度の局所的な上昇を抑制するためである。ガラス板20の外側の主面に日光が照射されると、ガラス板20が加熱される。このとき、アンテナユニット10の付近で空気の流動が妨げられると、アンテナユニット10の温度が上昇するため、アンテナユニット10が取り付けられたガラス板20の表面の温度は、ガラス板20の他の表面の温度よりも上昇し易い傾向にある。この温度上昇を抑制するため、ガラス板20とアンテナ設置用基板12との間に空間Sを形成している。この点に関する詳細は、後述する。
【0049】
固定部13Aを形成する材料としては、アンテナ設置用基板12およびガラス板20の接触面に固定できる材料であれば特に限定されず、例えば、接着剤や弾性系シールを用いることができる。接着剤やシール材を形成する材料として、例えば、シリコーン系樹脂、ポリサルファイド系樹脂またはアクリル系樹脂など公知の樹脂を用いることができる。また、固定部13Aは、アルミニウムなどの金属、またはAES(アクリロニトリル・エチレン・スチレン共重合体)などの樹脂で形成したスペーサーを用いてもよい。スペーサーを用いる場合は、例えば、シリコンシーラントなどの接着剤により、スペーサーはアンテナ設置用基板12およびガラス板20の接触面に固定される。
【0050】
固定部13Aの平均厚さtは、0.5mm~100mmであることが好ましい。平均厚さtが小さすぎると、アンテナ設置用基板12とガラス板20とで形成される空間Sの厚さが小さく(薄く)なり、空間S内を空気がスムーズに流通しなくなる。なお、アンテナ設置用基板12とガラス板20との間の空間Sを僅かとすることで、空間Sの厚さは薄くなるが、空間Sは断熱層として機能することができる。また、空間Sの厚さが僅かであっても、ある程度の量の空気は、流動する。すなわち、日光がガラス板20に照射されることにより、ガラス板20の温度が上昇し、空間S内の空気の温度も上昇する。そして、空気の温度が上昇するほど、空気はより膨張するので、結果として、空間S内の上方の空気は上昇して空間Sの上側から外側に流出する。そして、空間S内の下部側から空気が順次上昇してくる。よって、空間Sの厚みが僅かの場合であっても、空間S内の空気の温度が上昇するにつれて、空気は流動する傾向にある。
【0051】
一方、固定部13Aの平均厚さtを大きくすると、空間Sはその分だけ大きく(厚く)なるので、空間S内の空気の流れは好適になる。しかし、ガラス板20の主面とアンテナ設置用基板12との間隔が離れる(大きくなる)ことになるので、電磁波の透過性能に支障が生じる可能性がある。また、アンテナユニット10がガラス板20の主面から大きく突出することになるので、アンテナユニット10がガラス板20の障害物になってしまう。
【0052】
固定部13Aの平均厚さtが上記範囲内であれば、多少の温度上昇により、空間S内に流入した空気は空間Sを通過することができる。これにより、ガラス板20は、空間Sを流れる空気により、暖められることを抑制することができるので、アンテナ設置用基板12の第1主面121の過昇温を抑制することができる。
【0053】
固定部13Aの平均厚さtは、より好ましくは2mm~16mmであり、さらに好ましくは4mm~14mmであり、特に好ましくは6mm~12mmである。固定部13Aの平均厚さtは、熱割れを抑制するために、2mm以上であってよく、4mm以上であってよく、6mm以上であってよく、15mm以上であってよく、20mm以上であってよく、30mm以上であってよく、50mm以上であってよい。また、固定部13Aの平均厚さtは、意匠性を向上させるために、80mm以下であってよく、60mm以下であってよく、55mm以下であってよい。
【0054】
なお、本実施形態において、厚さとは、アンテナ設置用基板12およびガラス板20の接触面に対する固定部13Aの垂直方向(Y軸方向)の長さをいう。本実施形態において、固定部13Aの平均厚さtとは、固定部13Aの厚さの平均値をいう。例えば、固定部13Aの断面において、Z軸方向に任意の場所で数カ所(例えば、3か所程度)測定した時、これらの測定箇所の厚さの平均値をいう。
【0055】
アンテナ設置用基板12が、ガラス板20(窓ガラス)に対してある角度を有する場合、固定部13Aは断面において、台形状に構成されてもよい。
【0056】
アンテナ設置用基板12が、ガラス板20(窓ガラス)に対してある角度を有する場合、固定部13Aの厚さの最短値が0.5mm~100mmであることが好ましい。また、固定部13Aの厚さの最短値は、熱割れを抑制するために、2mm以上であってよく、4mm以上であってよく、6mm以上であってよく、15mm以上であってよく、20mm以上であってよく、30mm以上であってよく、50mm以上であってよい。固定部13Aの厚さの最短値は、意匠性を向上させるために、80mm以下であってよく、60mm以下であってよく、55mm以下であってよい。
【0057】
空間Sは、上述の通り、固定部13Aにより、ガラス板20とアンテナ設置用基板12との間に形成され、空気を流動可能とした空間である。そのため、空間Sの厚さは、固定部13Aの平均厚さtと略同じ厚さになる。
【0058】
なお、ガラス板20の主面が、例えば、日光の照射に加え、ガラス板20の近傍に熱源が設置される状況などにある場合には、空間Sを自然流動する空気量だけでは、温度上昇を十分抑制することができない場合もある。その場合には、空気を強制的に空間Sに吹き込んでもよい。空間Sに吹き込まれる、アンテナ設置用基板12の単位面積あたりの空気の風量(以下、単に、空気の風量ともいう。)は、2m3/時間以上であることが好ましい。空気の風量が2m3/時間(hour)以上であれば、アンテナ設置用基板12に対向する位置にあるガラス板20の主面の温度が上昇するのを低減することができる。空気の風量は、より好ましくは5m3/時間以上である。空気の風量の上限は特に限定されないが、例えば10m3/時間以下である。空気を強制的に空間Sに吹き込む手段として、例えば送風機を用いてもよい。
【0059】
このように、アンテナユニット10は、空間Sを形成することで、アンテナ設置用基板12の第1主面121の平均日射吸収率を低下させることができる。これにより、ガラス板20の表面温度が上昇するのを抑えることができる。アンテナ設置用基板12の第1主面121の平均日射吸収率は、アンテナ設置用基板12の大きさや空間Sの厚さなどに依存し、好ましくは60%以下であり、より好ましくは40%以下であり、さらに好ましくは25%以下である。
【0060】
本実施形態において、平均日射吸収率とは、アンテナ設置用基板12の第1主面121の日射吸収率の平均値をいう。例えば、第1主面121のアンテナを有する部分とアンテナを有さない部分とにおいて、面積を求め、それぞれ任意の場所で数カ所ずつ(例えば、3か所ずつ)日射吸収率を測定することにより、日射吸収率の平均値を求めることができる。日射吸収率は、JIS R 3106(1998)により求めることができる。
【0061】
アンテナ11が平板状のアンテナである場合は、アンテナ11のガラス板側の主面の平均日射吸収率が、好ましくは60%以下であり、より好ましくは40%以下であり、さらに好ましくは25%以下である。また、アンテナ11が収容容器の内部に設けられる場合は、収容容器のガラス板側の主面の平均日射吸収率が、好ましくは60%以下であり、より好ましくは40%以下であり、さらに好ましくは25%以下である。
【0062】
アンテナユニット10では、アンテナ設置用基板12の下側(-Z軸方向)から空間S内に空気が流入する。空間S内に流入した空気は、アンテナ設置用基板12の上側(+Z軸方向)に向かって空間S内を自由に流動することができる。空間Sを流れる空気は、アンテナ設置用基板12に対向する位置にあるガラス板20の主面に接触しながら、アンテナ設置用基板12の上側(+Z軸方向)から流出する。空間S内の空気がアンテナ設置用基板12に対向する位置にあるガラス板20の主面に接触することで、アンテナ設置用基板12に対向する位置にあるガラス板20の主面が外気や太陽光などにより過度に昇温するのが抑えられる。また、固定部13Aが上下方向に連続して形成されているので、その分、空間S内の上部と下部との温度差が大きくなる。そのため、いわゆる煙突効果により、空間S内を流れる空気の流動速度を大きくすることができる。
【0063】
アンテナユニット10は、ガラス板20とアンテナ設置用基板12との間に空気が流動可能な空間Sが形成されるように、アンテナ設置用基板12に固定部13Aを設けている。これにより、ガラス板20が外気や太陽光などにより加温されても、アンテナ設置用基板12に対向する位置にあるガラス板20の主面が過度に昇温するのを抑制することができる。そのため、アンテナ設置用基板12に対向する位置にあるガラス板20に熱割れが生じる可能性を低減することができる。よって、アンテナユニット10は、ガラス板20に損傷を生じさせることなく、ガラス板20に安定して設置することができる。
【0064】
以下に、アンテナユニット10の他の形態について説明する。
【0065】
これまで、固定部13Aをアンテナ設置用基板12の2カ所に設けられている実施形態について説明したが、空間Sを空気が流動可能であれば、固定部13Aの態様は、限定されない。固定部13Aの他の形態の一例を
図4に示す。
図4は、固定部13Aの他の形態の一例を示す透過斜視図である。
図4に示すように、固定部13Bを、アンテナ設置用基板12の第1主面121のX軸方向の両端であって、そのZ軸方向の両端にそれぞれ設け、アンテナ設置用基板12を4箇所で固定するようにしてもよい。また、4つの固定部13Bのうち、-Z軸方向に設ける固定部13Bはアンテナ設置用基板12の下端の例えば中央付近に1つだけとして、アンテナ設置用基板12をガラス板20に3つの固定部13Bで固定するようにしてもよい。また、4つの固定部13Bのうち、対角に位置する2つだけとして、アンテナ設置用基板12をガラス板20に2つの固定部13Bで固定するようにしてもよい。
【0066】
固定部は、
図3に示すようにアンテナ設置用基板12の辺の全体に設けられてもよく、
図4に示すようにアンテナ設置用基板12の辺の一部分に設けられてもよい。
【0067】
また、
図3において、固定部13Aは、アンテナ設置用基板12のX軸方向の両端に、Z軸方向に沿って矩形状に設けられているが、空間Sを空気が流動可能であれば、アンテナ設置用基板12のX軸方向の両端およびZ軸方向の両端のうち、3カ所に設けてもよい。固定部13Aを3カ所に設ける場合、例えば、上述のように、空間Sに送風機を用いて空気を強制的に通風することにより、空間Sに空気を流動させられる。固定部を、アンテナ設置用基板12の4辺に沿って枠状に設けると、空間Sを空気が流動できないが、固定部を上述した形態とすることにより、空間Sに空気が流動可能となる。
【0068】
本実施形態では、アンテナユニット10は、ガラス板20と、アンテナ設置用基板12の第1主面121との間に、空間Sのみを形成しているが、これに限定されない。アンテナユニットの他の形態の一例の断面状態を
図5に示す。
図5に示すように、アンテナユニット10は、アンテナ設置用基板12のガラス板20側の第1主面121に、誘電体層15をさらに有していてもよい。この場合でも、ガラス板20と誘電体層15との間には空間Sが形成されるようにする。誘電体層15は、第1主面121の全面でもよいし、アンテナ設置用基板12に対応する部分だけでもよい。アンテナ設置用基板12の第1主面121に誘電体層15を設けることで、電磁波の透過性能を高めることができる。誘電体層15は、単層でもよいし、複数層でもよい。
【0069】
誘電体層15は、アンテナ設置用基板12と空間Sとの間の比誘電率を有することが好ましく、誘電体層15の比誘電率は、例えば、5.0以下が好ましく、3.5以下がより好ましい。誘電体層15を形成する材料は、アンテナ設置用基板12と空間Sとの間の比誘電率を有する材料であればよく、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、繊維強化プラスチック(FRP)などを用いることができる。誘電体層15は、例えば、接着剤により貼付するなど公知の方法で形成することができる。
【0070】
誘電体層15の厚さは、ガラス板20とアンテナ設置用基板12との間に配置できればよく、例えば、0.2mm~1.5mmであることが好ましく、0.3mm~1.3mmがより好ましく、0.7mm~1.2mmがさらに好ましい。なお、この場合、空間Sが形成できるように、固定部13Aは、0.7mm~100mmとする。
【0071】
なお、誘電体層15がアンテナ設置用基板12の第1主面121に設けられる場合、誘電体層15の算術平均粗さRaは、アンテナ設置用基板12の第1主面121の算術平均粗さRaと同様であることが好ましい。誘電体層15の算術平均粗さRaの上限値は、1.2μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.6μm以下であり、さらに好ましくは0.3μm以下である。算術平均粗さRaの下限値は、特に限定されないが、0.001μm以上であることが好ましい。なお、この場合には、ガラス板20の第1主面121の算術平均粗さRaは、特に限定されない。
【0072】
本実施形態では、アンテナユニット10は、
図6に示すように、アンテナ設置用基板12のガラス板20側とは反対側の第2主面122に設けられた電磁遮蔽層16を有してもよい。電磁遮蔽層16は、電磁波と室内の電子機器から生じる電磁波との電磁波干渉を低減することができる。電磁遮蔽層16は、単層でもよく、複数層でもよい。電磁遮蔽層16としては、公知の材料を用いることができ、例えば、銅やタングステンなどの金属膜、または透明導電膜を用いた透明基板などを用いることができる。
【0073】
透明導電膜として、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、フッ素添加錫酸化物(FTO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、酸化珪素を添加したインジウム錫酸化物(ITSO)、酸化亜鉛(ZnO)、またはPやBを含むSi化合物などの透光性を有する導電性材料を用いることができる。
【0074】
電磁遮蔽層16は、光透過性を有するためにメッシュ状に形成することが好ましい。ここで、メッシュとは、電磁遮蔽層16の平面に網目状の透孔が空いた状態をいう。電磁遮蔽層16がメッシュ状に形成される場合、メッシュの目は方形であってもよく、菱形であってもよい。メッシュの線幅は、5~30μmが好ましく、6~15μmがより好ましい。メッシュの線間隔は、50~500μmが好ましく、100~300μmがより好ましい。
【0075】
電磁遮蔽層16の形成方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、スパッタ法や蒸着法などを用いることができる。
【0076】
電磁遮蔽層16の表面抵抗率は、20Ω/□以下であることが好ましく、より好ましくは10Ω/□以下であり、さらに好ましくは5Ω/□以下である。電磁遮蔽層16の大きさは、アンテナ設置用基板12の大きさ以上であることが好ましい。アンテナ設置用基板12の第2主面122側に電磁遮蔽層16を設けることで、室内への電波の透過を抑制することができる。電磁遮蔽層16の表面抵抗率は、電磁遮蔽層16の厚さ、材質、開口率による。開口率は、電磁遮蔽層16の開口部を含めた面積当たりの開口部の面積の割合である。
【0077】
電磁遮蔽層16の可視光透過率は、意匠性の向上の点で、40%以上が好ましく、60%以上がより好ましい。また、電磁遮蔽層16の可視光透過率は、室内への電波の透過を抑制するために、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましい。
【0078】
また、電磁遮蔽層16の開口率が大きいほど可視光透過率が高くなる。電磁遮蔽層16の開口率は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。また、電磁遮蔽層16の可視光開口率は、室内への電波の透過を抑制するために、95%以下が好ましい。
【0079】
電磁遮蔽層16の厚さは、400nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましい。電磁遮蔽層16の厚さの下限は特に限定されないが、2nm以上であってよく、10nm以上であってよく、30nm以上であってよい。
【0080】
また、電磁遮蔽層16がメッシュ状に形成される場合、電磁遮蔽層16の厚さは、2~40μmであってよい。電磁遮蔽層16がメッシュ状に形成されることにより、電磁遮蔽層が厚くても、可視光透過率を高くすることができる。
【0081】
なお、電磁遮蔽層16は、第2主面122に設ける例に限られない。例えば、アンテナユニット10は、アンテナユニット10が成す面の法線方向(Y軸の正方向)に対して角度を成す方向にチルト角を設定する。この場合、放射した電磁波の一部は、ガラス板20と室外との境界面において、境界面の法線方向(例えば、Y軸の負方向)に対して角度を成して反射する。例えば、Y軸の負方向に対して角度を成す反射波は、ガラス板20の室内側(Y軸の負方向側)の面において、アンテナユニット10が設けられる領域と異なる領域から室内へ透過する可能性がある。このような反射波が、室内へ透過することを防ぐために、電磁遮蔽層16は、ガラス板20の室内側の面のアンテナユニット10が設けられる領域と異なる領域に設けられてもよい。例えば、電磁遮蔽層16は、ガラス板20の室内側の面のアンテナユニット10が設けられる領域よりも、Z軸の正方向および/または負方向に設けられてもよい。ガラス板20に対して電磁遮蔽層16を設ける位置および/または領域は、アンテナユニット10を設ける高さ、アンテナユニット10が形成するエリア、および、アンテナユニット10の放射方向(例えば、チルト角)の少なくとも1つに応じて設定されてもよい。
【0082】
また、電磁遮蔽層16をガラス板20の室内側に設ける場合、ガラス板20と電磁遮蔽層16との間には、空間Sと同様の空間が形成されてもよい。
【0083】
なお、電磁遮蔽層16の代わりに、透光性を維持しながら、室内への電磁波の透過を抑制する構造が、第2主面122に設けられてもよい。例えば、第2主面122に1つ以上の電磁波吸収エレメントが設けられてもよい。電磁波吸収エレメントは、例えば、金属を線状(長尺状)に成型した構造を有する。
【0084】
なお、電磁波吸収エレメントは、金属に限らず、複数の原料が配合されて成る材料であってもよい。例えば、複数の原料は、金属、合金、カーボン、および/または、各種の有機物等であってもよく、それぞれの導電率が異なってもよい。また、電磁波吸収エレメントは、透光性の有する材料を用いて構成されてもよい。
【0085】
複数の電磁波吸収エレメントは、例えば、長手方向が同一の方向を向き、長手方向と直交する方向に所定の間隔を隔てて並ぶように、第2主面122に複数配置されてよい。例えば、電磁波吸収エレメントの長手方向が、アンテナユニット10から放射される電磁波の偏波面の方向に沿った方向に配置されてよい。
【0086】
電磁波吸収エレメントは、第2主面122に設ける例に限られず、例えば、ガラス板20の室内側の面のアンテナユニット10が設けられる領域と異なる領域に設けられてもよい。電磁波吸収エレメントを設ける位置および/または範囲は、アンテナユニット10を設ける高さ、アンテナユニット10が形成するエリア、および、アンテナユニット10の放射方向(例えば、チルト角)の少なくとも1つに応じて設定されてもよい。
【0087】
なお、本実施形態では、アンテナユニット10を、アンテナ設置用基板12と固定部13Aとを一体とした状態でガラス板20に取り付けているが、これに限定されない。例えば、ガラス板20に固定部13Aのみを先に取り付けた後、アンテナ設置用基板12を固定部13Aに取り付けて、アンテナユニット10をガラス板20上で完成させるようにしてもよい。
【0088】
<アンテナ付きガラス板>
一実施形態に係るガラス用アンテナユニットを適用したアンテナ付きガラス板について説明する。
図7は、アンテナ付きガラス板の斜視図であり、
図8は、
図7のA-A方向から見た部分断面図である。
図7および
図8に示すように、アンテナ付きガラス板30は、上述のアンテナユニット10と、ガラス板31とを有し、アンテナユニット10は、ガラス板31に取り付けられている。
【0089】
ガラス板31は、建物などの窓に用いられる公知のガラス板である。
図7および
図8に示すガラス板31は、平面視において、矩形に形成されており、第1主面311および第2主面312を有する。ガラス板31の厚さは、建物などの要求に応じて設定される。本実施形態では、ガラス板31の第1主面311を室外側とし、第2主面312を室内側とする。なお、本実施形態では、第1主面311および第2主面312をまとめて、単に主面という場合がある。本実施形態では、矩形とは、長方形や正方形の他、長方形や正方形の角を面取りした形を含む。ガラス板31の平面視での形状は、矩形に限定されず、円形などでもよい。また、ガラス板31は、単板に限定されず、合わせガラスであってもよく、複層ガラスであってもよい。
【0090】
ガラス板31の材質としては、例えば、ソーダライムシリカガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、または無アルカリガラスを挙げることができる。
【0091】
ガラス板31は、フロート法、フュージョン法、リドロー法、プレス成形法、または引き上げ法など公知の製造方法を用いて製造することができる。ガラス板31の製造方法としては、生産性およびコストに優れている点から、フロート法を用いることが好ましい。
【0092】
ガラス板31は、平面視において、例えば矩形に形成される。ガラス板31の切断方法としては、例えば、ガラス板31の表面にレーザ光を照射してガラス板31の表面上で、レーザ光の照射領域を移動させることで切断する方法、またはカッターホイールなどの機械的に切断する方法を挙げることができる。
【0093】
ガラス板31の外縁が窓フレーム33に挟持された状態で保持されている。ガラス板31は、ガラス板31の外縁を接着剤などを用いて窓フレーム33に保持させてもよい。窓フレーム33を形成する材料としては、公知の材料を用いることができ、例えば、ステンレスやアルミニウムなどの金属材料を用いることができる。
【0094】
アンテナユニット10は、平面視において、窓フレーム33から所定の距離L以上離れた位置に設けることが好ましい。所定の距離Lは、20mmであることが好ましい。例えば、窓ガラスが直接日光に晒されると、ガラス板31の温度が上昇して高温になる。一方、窓フレーム33は、ガラス板31に比べて温度が低いため、窓フレーム33内に位置するガラス板31は、さらに窓フレーム33よりも温度が低くなっている。すなわち、アンテナユニット10に対向する位置にあるガラス板31の部分は、窓フレーム33内に位置するガラス板31の部分よりも温度が高い。そのため、アンテナユニット10に対向する位置にあるガラス板31の部分と、窓フレーム33内に位置するガラス板31の部分との間に大きな熱膨張差を生じて、アンテナユニット10に対向する位置にあるガラス板31の部分に大きな熱歪みが生じる。場合によっては、アンテナユニット10に対向する位置にあるガラス板31の部分またはその近傍に熱割れが発生する可能性がある。特に、ガラス板31の第2主面312にアンテナユニット10が取り付けられることで、アンテナユニット10に対向する位置にあるガラス板31の第2主面312上の空気の流れが妨げられる。この場合、アンテナユニット10に対向する位置にあるガラス板31の部分の温度は一層高くなる。その結果、アンテナユニット10に対向する位置にあるガラス板31の部分またはその近傍に生じる熱歪みが更に大きくなる可能性がある。
【0095】
ここで、アンテナユニット10がガラス板31に取り付けられる窓フレーム33の内枠からの位置と、ガラス板31に発生する応力(最大引張応力)との関係の一例を
図9に示す。なお、
図9では、アンテナユニット10の大きさは、幅(X軸方向)400mm×高さ(Z軸方向)400mmとする。アンテナ設置用基板12の平均日射吸収率は、約90%とする。ガラス板31は、FL-8(旭硝子社製)とする。ガラス板31に発生する最大引張応力は、アンテナユニット10が取り付けたガラス板31に生じる最大引張応力とアンテナユニット10が取り付けられていないガラス板31に生じる最大引張応力との比(最大引張応力比)で評価する。
図9中の縦軸は、ガラス板31の最大引張応力比を示す。
図9中の横軸は、窓フレーム33の内枠からのアンテナユニット10の距離である。
【0096】
図9に示すように、アンテナユニット10が窓フレーム33の内枠から約20mmの位置で、最大引張応力比が最大値(約1.4)となり、ガラス板31に発生する熱歪みは最も大きくなる。そして、アンテナユニット10の設置位置が窓フレーム33の内枠から20mmよりも離れるに従い、最大引張応力比は小さくなる傾向にある。よって、アンテナユニット10は、窓フレーム33の内枠から20mm以上離れた位置に設置すれば、ガラス板31に発生する熱歪みは小さくなる。また、アンテナユニット10は、窓フレーム33の内枠から20mm以上であれば、アンテナユニット10が窓フレーム33から離れた位置にあるため、アンテナユニット10が施工し易くなり、好ましい。
【0097】
本実施形態では、アンテナユニット10を窓フレーム33から20mm以上離れている位置に設けることで、アンテナユニット10に対向する位置にあるガラス板31の部分と窓フレーム33内に位置するガラス板31の部分との温度勾配を小さくすることができる。さらに、アンテナユニット10のアンテナ設置用基板12とガラス板31との間に形成される空間Sに空気の流動を生じさせる。これにより、アンテナユニット10に対向する位置にあるガラス板31の部分と窓フレーム33内に位置するガラス板31の部分との温度勾配をより小さくすることができる。
【0098】
所定の距離Lは、25mmがより好ましく、30mmがさらに好ましく、40mmが特に好ましく、50mmが最も好ましい。すなわち、アンテナユニット10は、平面視において、窓フレーム33から25mm以上離れた位置に設けることがより好ましく、30mm以上離れた位置に設けることがさらに好ましく、40mm以上離れた位置に設けることが特に好ましく、50mm以上離れた位置に設けることが最も好ましい。
【0099】
アンテナ付きガラス板30は、アンテナユニット10を備えているため、アンテナユニット10に対向する位置にあるガラス板31の部分に熱割れが生じる可能性を低減することができる。そのため、アンテナ付きガラス板30は、既存または新設の建物や家などの窓ガラス用のガラス板として好適に用いることができる。
【0100】
アンテナ付きガラス板30は、アンテナユニット10を、ガラス板31の室内側である第2主面312に設けることができる。これにより、アンテナユニット10が、建物の外観を損なうのを防ぐことができると共に、外気に晒されるのを防ぐことができるので、耐久性を向上させることができる。さらに、アンテナ付きガラス板30は、アンテナユニット10を、ガラス板31の上方でかつ左右のいずれか一方の端部側に設けている。そのため、アンテナユニット10のアンテナ設置用基板12に接続される配線を、ガラス板31から天井裏や壁などに通すことで、ガラス板20や建物の室内の壁に露出する配線を少なくすることができる。
【0101】
アンテナ付きガラス板30は、アンテナユニット10をガラス板31に設けるため、建物の屋上などに設ける必要がない。そのため、アンテナ付きガラス板30は、建物の屋上など高所で設置するための作業を不要とすることができるので、建物に簡単に設置することができる。また、例えば、アンテナユニット10が破損して交換が必要な場合などでも、アンテナユニット10の交換を容易に短時間で行うことができる。
【0102】
アンテナ付きガラス板30は、多数のアンテナユニット10をガラス板31に設けることができる。この場合でも、アンテナユニット10は、ガラス板31の室内側である第2主面312に設けられるため、多数のアンテナユニット10をガラス板31に設けても、アンテナ付きガラス板30は建物の外観を損ねるのを低減できる。また、アンテナ付きガラス板30は、多数のアンテナユニット10をガラス板31に設けることで、電磁波の送受信を安定して行うことができる。
【0103】
アンテナは、小型化に伴い、建物内に設置することも可能である。アンテナを建物に設置する際には、建物の外観を損ねないようにしつつ電磁波の送受信を安定して行うことができるように、アンテナの適切な設置場所を選定しながら設置する。
【0104】
無線通信の高速化及び大容量化を図るため、第5世代移動通信システム(5G)用の周波数帯のように、使用する周波数帯域の高周波化および広帯域化が進んでいる。そのため、高周波および広帯域の周波数帯域を持つ電磁波が携帯電話やインターネット通信などに使用された場合に、電磁波の送受信を安定して行うことができるようにするためには、従来よりも多数のアンテナを設置することが重要である。なお、5Gの周波数帯とは、3.7GHz帯(3.6~4.2GHz)、4.5GHz帯(4.4~4.9GHz)、28GHz帯(27.5~29.5GHz)を包含する3.6~29.5GHzの周波数を意味する。
【0105】
本実施形態によれば、アンテナ付きガラス板30は、多数のアンテナユニット10をガラス板31に設けることで、建物の外観を損ねるのを低減しつつ電磁波の送受信を安定して行うことができる。これにより、高周波および広帯域の周波数帯域を持つ電磁波の送受信を安定して行うことができるため、無線通信の高速化及び大容量化に対応できる。
【0106】
(他の形態)
以下に、アンテナ付きガラス板30の他の形態について説明する。
【0107】
本実施形態では、アンテナ付きガラス板30は、
図10に示すように、ガラス板31に、熱線反射機能などを有するコーティング層35を設けてもよい。この場合、コーティング層35は、アンテナユニット10のアンテナ設置用基板12、または平板状のアンテナに対向する位置に開口部351Aを有するのが好ましい。これにより、アンテナ付きガラス板30は、電波透過性能の低下を抑制することができる。
【0108】
開口部351Aは、少なくとも、アンテナ設置用基板12、または平板状のアンテナと同じ大きさであることが好ましい。
【0109】
また、アンテナが収容容器の内部に設けられる場合は、コーティング層35は、アンテナユニット10の収容容器に対向する位置に開口部351Aを有するのが好ましく、開口部351Aは、少なくとも、収容容器と同じ大きさであることが好ましい。
【0110】
コーティング層35としては、例えば、導電膜を用いることができる。導電膜としては、例えば、透明誘電体、金属膜、および透明誘電体を順次積層した積層膜、ITO、またはフッ素添加錫酸化物(FTO)などを用いることができる。金属膜としては、例えば、Ag、Au、Cu、およびAlからなる群から選択される少なくとも1種を主成分とする膜を用いることができる。
【0111】
開口部351Aの面積は、下記式(1)の値以上とすることが好ましい。これにより、アンテナ付きガラス板30は、電波透過性能の低下をより抑制することができる。
a×b ・・・(1)
(但し、式(1)中、aは、アンテナ設置用基板12、平板状のアンテナまたは収容容器の一方の辺の長さであり、bは、アンテナ設置用基板12、平板状のアンテナまたは収容容器の他方の辺の長さである。)
【0112】
なお、ここでは、上記式(1)のaおよびbは、アンテナ設置用基板12、平板状のアンテナまたは収容容器が、平面視において、矩形状の場合であるが、これに限定されない。アンテナ設置用基板12が、平面視において、円形の場合には、上記式(1)のaおよびbは、アンテナ設置用基板12、平板状のアンテナまたは収容容器の直径とし、同じ値とすることができる。アンテナ設置用基板12が、平面視において、楕円形の場合には、上記式(1)のaは、アンテナ設置用基板12、平板状のアンテナまたは収容容器の短軸とし、bは、長軸とすることができる。
【0113】
また、アンテナ11がアンテナ設置用基板12の内部に設けられる場合は、上記と同様、上記式(1)のaは、アンテナ設置用基板12の一方の辺の長さであり、bは、アンテナ設置用基板12の他方の辺の長さである。アンテナ11がガラス板20に平行な面を有する収容容器の内部に設けられる場合も、上記式(1)のaは、収容容器の一方の辺の長さであり、bは、収容容器の他方の辺の長さである。アンテナ11が平板状に形成される場合には、上記式(1)のaは、平板状のアンテナの一方の辺の長さとし、bは、平板状のアンテナの他方の辺の長さとする。
【0114】
開口部351Aは、アンテナユニット10に対応した大きさとする以外に、一部残していてもよい。開口部351Aの形態の他の一例を
図11に示す。
図11に示すように、コーティング層35は、スリット状に形成した開口部351Bを有してもよい。この場合でも、アンテナ付きガラス板30は、電波透過性能の低下を抑制することができる。なお、開口部351Bの大きさは、その外周にアンテナユニット10の固定部13Aが位置するように形成する。
【0115】
スリット状の開口部351Bの幅は、λ/200以上であることが好ましい。スリット状の開口部351Bは、周期構造にする必要はないが、スリット状の開口部351B同士の間隔は、λ/2以下であることが好ましい。スリット状の開口部351Bは、電磁波の電界方向に垂直に形成することが好ましい。これにより、アンテナ付きガラス板30は、電波透過性能の低下をより安定して抑制することができる。電磁波として水平偏波と垂直偏波の両偏波を使う場合は、開口部351Bは、格子状に形成されていることが好ましい。これにより、アンテナ付きガラス板30は、電波透過性能の低下をより安定して抑制することができる。なお、不定形にコーティング層35を除去する場合は、スリット状の開口部351B同士の間隔は、電界方向にλ/2で連続させないことが好ましい。これにより、アンテナ付きガラス板30は、電波透過性能の低下を抑制することができる。
【0116】
アンテナ付きガラス板30は、
図12に示すように、ガラス板31のアンテナユニット10側とは反対方向(外側)の第1主面311に撥水処理層36を有していてもよい。第1主面311に撥水処理層36を設けることで、ガラス板20の電波透過性能を改善することができる。
【0117】
<ガラス用アンテナユニットの施工・製造方法>
次に、一実施形態に係るアンテナユニットの施工・製造方法について説明する。なお、ここでいうアンテナユニットの施工・製造方法は、いわゆる建築後の建物の窓ガラス(ガラス板)や、新規で建築中の建物の窓ガラス(ガラス板)に適用することができる。
【0118】
まず、建物の窓ガラスに、アンテナユニット10を取り付けるための現地確認を予め行う。現地確認は、例えば、ガラスの種類の選別や設置場所の方位の確認などを行った後、建物の窓ガラス40の電波特性の確認などである。現地確認を行うことで、固定部13Aの取り付け位置、または固定部13Aの厚さ(空間Sの厚さ)などを決定する。
【0119】
その後、
図13に示すように、アンテナユニット10を、窓ガラス40とアンテナ設置用基板12との間に空気が流動可能な空間Sが形成されるように、固定部13Aを介して窓ガラス40に取り付ける。
【0120】
これにより、既存の建物の窓ガラス40に、
図2に示すようなアンテナユニット10を施工することができる。
【0121】
また、アンテナユニット10の施工・製造方法は、ガラス板31の室内側である第2主面312に、熱線反射機能などを有するコーティング層35(
図10参照)を設けたガラス板31に適用することもできる。この場合、
図10および
図11に示すように、ガラス板31の、少なくともアンテナユニット10のアンテナ設置用基板12に対応する位置のコーティング層35を取り除く。そして、
図10に示すような開口部351A、または
図11に示すようなスリット状の開口部351Bを形成することが好ましい。これにより、開口部351Aまたは開口部351Bは、少なくとも、アンテナユニット10と同じ大きさを有するため、アンテナ付きガラス板30は、電波透過性能の低下を抑制することができる。
【0122】
開口部351A、351Bの形成時期は、特に限定されないが、例えば、開口部351A、351Bの形成のし易さの点から、開口部351A、351Bは、建物の窓ガラス40へのアンテナユニット10の取り付ける前に形成しておくことが好ましい。
【0123】
コーティング層35は、研磨またはレーザなど公知の方法で取り除くことができる。
【0124】
開口部351A、351Bは、上述の通り、面積が上記式(1)の値以上となるように形成することが好ましい。これにより、アンテナ付きガラス板30は、電波透過性能の低下をより抑制することができる。
【0125】
<アンテナ付きガラス板の製造方法>
次に、アンテナ付きガラス板30の製造方法について説明する。まず、アンテナユニット10と、主面が形成された、矩形状のガラス板31とを準備する。ガラス板31は、公知の製造方法を用いて得たガラス素板を公知の切断方法を用いることで、平面視において、矩形に形成することができる。
【0126】
その後、アンテナユニット10を、ガラス板31とアンテナ設置用基板12との間に空気が流動可能な空間Sが形成されるように、固定部13Aを介してガラス板31に取り付ける。
【0127】
これにより、
図7に示すようなアンテナ付きガラス板30を製造することができる。
【0128】
また、ガラス板31の第2主面312に、コーティング層35(
図10参照)を設けることができる。この場合、コーティング層35の、アンテナユニット10のアンテナ設置用基板12に対向する位置に、
図10に示すような開口部351A、または
図11に示すようなスリット状の開口部351Bを形成するのが好ましい。
【実施例0129】
以下、下記の条件で、アンテナユニットの製造を行い、アンテナ付きガラス板を評価した例を示す。例1-1~例1-14は実施例であり、例1-15~例1-17は参考例である。
【0130】
<例1>
[例1-1]
アンテナユニット10のアンテナ設置用基板12(
図2参照)の大きさを幅(X軸方向)400mm×高さ(Z軸方向)400mmとし、固定部13A(
図2参照)の平均厚さを1.0mmとし、空間S(
図2参照)には、空気が自然に通風できるようにする。これにより、
図7に示すアンテナ付きガラス板30を作製した。アンテナ設置用基板12(
図2参照)は、第1主面121の平均日射吸収率が、20%、40%、60%、90%のものを用意した。アンテナ付きガラス板30に照射される日射量は825W/m
2、アンテナ付きガラス板30を設置した建物の外気温は約5℃、室内の温度は約20℃、建物の外側の熱伝達率は15.1W/m
2k、建物の内側の熱伝達率は8.0W/m
2k、アンテナ付きガラス板30の窓フレーム33の温度は約10.2℃であった。それぞれのアンテナ収容基板の、アンテナ設置用基板12側の第2主面312の温度、空間Sを流れる、アンテナ設置用基板12の単位面積あたりの空気の風量、およびガラス板31の端(エッジ)に発生する応力を測定した。
【0131】
ガラス板31の端に発生する応力の計算は、「旭硝子 板ガラス建材総合カタログ 技術資料編」に基づいて行った。すなわち、それぞれのアンテナ設置用基板の、
図14に示すガラス板31の中央部の温度t
g、窓フレーム33の温度t
sを測定した。その後、各種係数(基本応力係数k
0、影係数k
1、カーテン影係数k
2、面積係数k
3、エッジ温度係数f)を求めた。
【0132】
各種係数は、次のように定義される。
基本応力係数k0は、0.47MPa/℃である。
ガラス面の日射が一様ではなく、部分的に影ができるとガラス板内の温度分布が変わり、影のない場合と比較して熱応力が大きくなる。影係数k1は、この応力増を影のない場合と比較して、その比率を示したものである。
日射量が同一であっても、ガラスの室内側にカーテンあるいはブラインドがあると、これらによる日射の反射・再放熱が強まるので、これらのない場合と比較して、ガラス中央部の温度は上昇し、温度差が大きくなる。カーテン影係数k2は、この比率を示したものである。
温度差が同一であっても、ガラス面積が大きくなると、熱膨張量の絶対値も大きくなり、ガラス面積の小さい場合に比べ、熱応力は大きくなる。面積比率k3は、これを、ガラス面積1.0m2に対する比率として示したものである。
エッジ温度係数fは、下記式(i)により規定される。
f=(tg-te)/(tg-ts) ・・・(i)
【0133】
各種係数は、主に実験結果を基に定められた値から、その時のガラス板31の条件を考慮して選択される。その後、ガラス板31の中央部の温度tg、窓フレーム33の温度ts、各種係数を用いて、下記式(ii)より、ガラス板31の端に発生する応力σを計算した。
σ=k0×k1×k2×k3×f×(tg-ts) ・・・(ii)
【0134】
[例1-2および1-3]
例1-1において、固定部13Aの平均厚さを2.0mm、または3.0mmに変更したこと以外は、例1-1と同様にして
図7に示すアンテナ付きガラス板30を作製した。アンテナ収容基板の平均日射吸収率が、20%、40%、60%、90%の場合における、ガラス板31のアンテナ設置用基板12側の第2主面312の温度Tg、空間Sを流れる、アンテナ設置用基板12の単位面積あたりの空気の風量、およびガラス板31の端に発生する応力を測定した。
【0135】
[例1-4]
例1-1において、アンテナ設置用基板12の大きさを幅(X軸方向)400mm×高さ(Z軸方向)800mmとし、固定部13Aの平均厚さを6.0mmに変更したこと以外は、例1-1と同様にして
図7に示すアンテナ付きガラス板30を作製した。アンテナ収容基板の平均日射吸収率が、20%、40%、60%、90%の場合における、ガラス板31のアンテナ設置用基板12側の第2主面312の温度Tg、空間Sを流れる、アンテナ設置用基板12の単位面積あたりの空気の風量、およびガラス板31の端に発生する応力を測定した。
【0136】
[例1-5]
例1-1において、アンテナ設置用基板12の大きさを幅(X軸方向)100mm×高さ(Z軸方向)100mmとし、固定部13Aの平均厚さを0.5mmに変更したこと以外は、例1-1と同様にして
図7に示すアンテナ付きガラス板30を作製した。アンテナ収容基板の平均日射吸収率が、20%、40%、60%、90%の場合における、ガラス板31のアンテナ設置用基板12側の第2主面312の温度Tg、空間Sを流れる、アンテナ設置用基板12の単位面積あたりの空気の風量、およびガラス板31の端に発生する応力を測定した。
【0137】
[例1-6]
例1-1において、アンテナ設置用基板12の大きさを幅(X軸方向)100mm×高さ(Z軸方向)100mmとしたこと以外は、例1-1と同様にして
図7に示すアンテナ付きガラス板30を作製した。アンテナ収容基板の平均日射吸収率が、20%、40%、60%、90%の場合における、ガラス板31のアンテナ設置用基板12側の第2主面312の温度Tg、空間Sを流れる、アンテナ設置用基板12の単位面積あたりの空気の風量、およびガラス板31の端に発生する応力を測定した。
【0138】
[例1-7および1-8]
例1-1において、アンテナ設置用基板12の大きさを幅(X軸方向)100mm×高さ(Z軸方向)100mmとし、固定部13Aの平均厚さを2.0、または3.0mmに変更したこと以外は、例1-1と同様にして
図7に示すアンテナ付きガラス板30を作製した。アンテナ収容基板の平均日射吸収率が、20%、40%、60%、90%の場合における、ガラス板31のアンテナ設置用基板12側の第2主面312の温度Tg、空間Sを流れる、アンテナ設置用基板12の単位面積あたりの空気の風量、およびガラス板31の端に発生する応力を測定した。
【0139】
[例1-9~例1-11]
例1-1において、空間Sに送風機を用いて空気を強制的に通風させ、風量を変更したこと以外は、例1-1と同様にして
図7に示すアンテナ付きガラス板30を作製した。アンテナ収容基板の平均日射吸収率が、20%、40%、60%、90%の場合における、ガラス板31のアンテナ設置用基板12側の第2主面312の温度Tg、空間Sを流れる、アンテナ設置用基板12の単位面積あたりの空気の風量、およびガラス板31の端に発生する応力を測定した。
【0140】
[例1-12~例1-14]
例1-1において、固定部13Aの平均厚さを5.0mm、15.0mmまたは25.0mmに変更したこと以外は、例1-1と同様にして
図7に示すアンテナ付きガラス板30を作製した。アンテナ収容基板の平均日射吸収率が、20%、40%、60%、90%の場合における、ガラス板31のアンテナ設置用基板12側の第2主面312の温度Tg、空間Sを流れる、アンテナ設置用基板12の単位面積あたりの空気の風量、およびガラス板31の端に発生する応力を測定した。
【0141】
[例1-15]
例1-15は、ガラス板31にアンテナ設置用基板12を直接設けた例である。例1-1において、固定部13Aの平均厚さを0.0mmとし、空間Sが形成されないようにしたこと以外は、例1-1と同様にしてアンテナ付きガラス板30を作製した。アンテナ収容基板の平均日射吸収率が、20%、40%、60%、90%の場合における、ガラス板31のアンテナ設置用基板12側の第2主面312の温度Tg、空間Sを流れる、アンテナ設置用基板12の単位面積あたりの空気の風量、およびガラス板31の端に発生する応力を測定した。
【0142】
[例1-16]
例1-16は、ガラス板31とアンテナ設置用基板12とガラスとの間に形成した空間Sを密閉した例である。例1-1において、空間Sを空気が通風しないように密閉したことに変更したこと以外は、例1-1と同様にしてアンテナ付きガラス板30を作製した。アンテナ収容基板の平均日射吸収率が、20%、40%、60%、90%の場合における、ガラス板31のアンテナ設置用基板12側の第2主面312の温度Tg、空間Sを流れる、アンテナ設置用基板12の単位面積あたりの空気の風量、およびガラス板31の端に発生する応力を測定した。
【0143】
[例1-17]
例1-17は、ガラス板31とアンテナ設置用基板12とガラスとの間に形成した空間Sを密閉した例である。例1-1において、固定部13Aの平均厚さを6.0mmとし、空間Sを空気が通風しないように密閉したことに変更したこと以外は、例1-1と同様にしてアンテナ付きガラス板30を作製した。アンテナ収容基板の平均日射吸収率が、20%、40%、60%、90%の場合における、ガラス板31のアンテナ設置用基板12側の第2主面312の温度Tg、空間Sを流れる、アンテナ設置用基板12の単位面積あたりの空気の風量、およびガラス板31の端に発生する応力を測定した。
【0144】
それぞれの例における、アンテナ設置用基板12の大きさ、固定部13Aの平均厚さ、空間Sの通風の有無、ガラス板31のアンテナ設置用基板12側の第2主面312の温度、空間Sを流れる、アンテナ設置用基板12の単位面積あたりの空気の風量、およびガラス板31の端に発生する応力を、表1に示す。なお、表1中のハッチング箇所は、ガラス板31の熱割れが生じる可能性がある部分を示す。ガラス板31に熱割れが生じさせる可能性がある応力としては、ガラス板31が短期間許容できる応力である17.7MPaを基準とした。
【0145】
【0146】
表1から明らかなように、例1-12~例1-14では、アンテナ設置用基板12の平均日射吸収率が40%~90%で、ガラス板31の端に発生する応力は大きく、ガラス板31に熱割れが生じる可能性が高かった。そのため、例1-12~例1-14のようなアンテナ付きガラス板では、熱割れが生じないように対策する必要があるといえる。
【0147】
これに対し、例1-1~例1-14では、例1-15~例1-17に比べて、全般的に、ガラス板31の温度は下がり、ガラス板31の端に発生する応力は、小さくなっていた。これは、ガラス板31とアンテナ設置用基板12との間に空間Sを設け、空気が流動できるようにしたことで、ガラス板31の温度を低下させることができたためと考えられる。特に、アンテナ設置用基板12の平均日射吸収率が90%未満の場合には、ガラス板31の端に発生する応力は、ガラス板31が短期間許容できる応力(17.7MPa)よりも小さく、ガラス板31に熱割れが生じる可能性を低減することができるといえる。
【0148】
また、例1-9~1-11は、ガラス板31の温度はより下がっており、ガラス板31の端に発生する応力は、より小さくなっていた。これは、空間Sに空気を強制的に流通させるようにしたことで、ガラス板31の温度を低下させることができたためといえる。
【0149】
<例2>
[例2-1]
アンテナ設置用基板12のガラス板31側の第1主面121に誘電体層15を設けたアンテナユニット10を作製した。このアンテナユニット10を、固定部13Aを介してガラス板31に取り付け、アンテナ付きガラス板を作製し、第1層をガラス板31とし、第2層を空間Sとし、第3層を誘電体層とした。ガラス板31としては、ソーダライムガラスを用い、誘電体層15としては、ポリカーボネート系樹脂を用いて形成した。ガラス板31の厚さは、約8.0mmとし、空間Sの厚さは約0.5mmとし、誘電体層の厚さは、約10mmとした。作製したガラス板31のアンテナユニット10側とは反対方向からガラス板31に電磁波を入射し、電磁波の透過損失(TL)を測定した。電磁波として、TE波とTM波を測定した。TE波の透過損失の測定結果を
図15に示し、TM波の透過損失の測定結果を
図16に示す。
図15および
図16中、ガラス板(60°)は、ガラス板31の透過損失である。なお、ソーダライムガラスの比誘電率は7-j0.1、空気の比誘電率は1.0、誘電体層の比誘電率は2.8-j0.017である。
【0150】
[例2-2]
例2-1において、アンテナ設置用基板12のガラス板31側の第1主面121に誘電体層15を設けたアンテナユニット10を作製した。アンテナユニット10を、固定部13Aを介さずにガラス板31に直接取り付けたこと以外は、例2-1と同様にして行い、アンテナ付きガラス板の電磁波の透過性能を測定した。TE波の透過損失の測定結果を
図17に示し、TM波の透過損失の測定結果を
図18に示す。
【0151】
例2-1および2-2における第1層~第3層の種類と厚さを表2に示す。
【0152】
【0153】
図15~
図18から明らかなように、例2-1の方が、例2-2よりも、透過損失の幅が小さくなっており、透過損失の性能が改善された。よって、ガラス板31とアンテナ設置用基板12との間に空間を設ければ、電磁波の透過性能を高めることができるといえる。
【0154】
<例3>
アンテナ設置用基板12のガラス板20側とは反対側の第2主面122に電磁遮蔽層16を設け、
図6に示すようなアンテナユニット10を作製した。このアンテナユニット10を、固定部13Aを介してガラス板31に取り付け、アンテナ付きガラス板を作製した。電磁遮蔽層16としては、厚さが約6mmのガラス板に透明導電膜を形成したものを用い、電磁遮蔽層16の表面抵抗率は、50Ω/□、20Ω/□、10Ω/□、5.0Ω/□および3.0Ω/□とした。作製した電磁遮蔽層16に電磁波を垂直に入射し、電磁波の透過損失(TL)を測定した。電磁遮蔽層16に入射した電磁波の透過損失の測定結果を
図19に示す。
図19に示すように、電磁遮蔽層16の表面抵抗率が10Ω/□以下であれば、透過損失を約20dB以上とすることができることが確認された。
【0155】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更などを行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0156】
本出願は、2017年8月2日に日本国特許庁に出願した特願2017-150241号に基づく優先権を主張するものであり、特願2017-150241号の全内容を本出願に援用する。