(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037736
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】推測装置、推測システム、推測プログラム及び推測方法
(51)【国際特許分類】
D21F 7/00 20060101AFI20240312BHJP
D21F 1/00 20060101ALI20240312BHJP
C02F 1/00 20230101ALI20240312BHJP
【FI】
D21F7/00
D21F1/00
C02F1/00 T
C02F1/00 V
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023199570
(22)【出願日】2023-11-27
(62)【分割の表示】P 2022019974の分割
【原出願日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2021021053
(32)【優先日】2021-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.THUNDERBOLT
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】豊岡 康広
(72)【発明者】
【氏名】田頭 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】桂 仁樹
(72)【発明者】
【氏名】原田 要
(72)【発明者】
【氏名】日▲高▼ 勝彦
(57)【要約】 (修正有)
【課題】水系におけるトラブルの発生や水系を介して製造される製品の品質を定量的に推測することができる推測装置、推測システム、推測プログラム及び推測方法を提供すること。
【解決手段】推測装置は、パラメータ情報取得部と、関係性モデル情報取得部と、推測部とを備える。パラメータ情報取得部は、水質パラメータ、設備又は水系に添加する原料の制御条件に関する制御パラメータ、及び見込結果と異なる意味を持つパラメータであって、設備若しく原料において、設備若しくは原料から派生して生じた結果のうちいずれか1種であるパラメータを2つ以上含むパラメータ情報を取得する。関係性モデル情報取得部は、事前に作成した、見込結果又は見込結果に関連する指標と、2つ以上のパラメータとの関係を示す関係性モデル情報を取得する。推測部は、パラメータ情報及び関係性モデル情報に基づいて、見込結果又は見込結果に関連する指標を推測する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系において又は前記水系から派生して今後生じ得る見込結果を推測するための推測装置であって、
パラメータ情報取得部と、関係性モデル情報取得部と、推測部とを備え、
前記パラメータ情報取得部は、前記水系の水質に関する水質パラメータ、前記水系、前記水系に関連する設備又は前記水系に添加する原料の制御条件に関する制御パラメータ、及び前記見込結果と異なる意味を持つパラメータであって前記水系、前記水系に関連する設備若しくは前記水系に添加する原料において又は前記水系、前記水系に関連する設備若しくは前記水系に添加する原料から派生して生じた結果に関する結果パラメータのうちいずれか1種であるパラメータを2つ以上含むパラメータ情報を取得し、
前記関係性モデル情報取得部は、事前に作成した、前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標と、2つ以上の前記パラメータとの関係を示す関係性モデル情報を取得し、
前記推測部は、前記パラメータ情報及び前記関係性モデル情報に基づいて、前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標を推測する
推測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の推測装置において、
前記関係性モデルは、前記見込結果に相当する事前確認結果又は前記事前確認結果に関連する指標と、2つ以上の前記パラメータとの回帰分析、時系列分析、決定木、ニューラルネットワーク、ベイズ、クラスタリング又はアンサンブル学習により求められるモデルである
推測装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の推測装置において、
前記水系は紙製品を製造する工程における水系である
推測装置。
【請求項4】
請求項3に記載の推測装置において、
前記水質パラメータは、前記水系のpH、電気伝導率、酸化還元電位、ゼータ電位、濁度、温度、泡高さ、生物化学的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)、吸光度、色、粒度分布、凝集度合い、異物量、水面の発泡面積、水中の汚れ面積、気泡の量、グルコースの量、有機酸の量、デンプンの量、カルシウムの量、全塩素の量、遊離塩素の量、溶存酸素量、カチオン要求量、硫化水素の量、過酸化水素の量及び系内の微生物の呼吸速度からなる群から選択される1種以上である、
推測装置。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の推測装置において、
前記制御パラメータは、抄紙機の運転速度(抄速)、原料脱水機のろ布回転速度、洗浄機のろ布回転速度、前記水系に対する薬品添加量、前記水系に添加する原料に対する薬品添加量、前記水系に関連する設備に対する薬品添加量、加熱用の蒸気量、加熱用の蒸気温度、加熱用の蒸気圧力、種箱からの流量、プレスパートのニップ圧、プレスパートのフェルトバキューム圧、製紙原料の配合比率、製紙原料の損紙配合量、製紙原料のスクリーンの目開き、叩解機のローターとステーターの間の隙間距離、フリーネス及び叩解度からなる群から選択される1種以上である
推測装置。
【請求項6】
請求項3~請求項5のいずれか1項に記載の推測装置において、
前記結果パラメータは、前記紙製品の単位重量(米坪)、歩留率、白水濃度、前記紙製品の含水率、前記紙製品を製造する設備内の蒸気量、前記紙製品を製造する設備内の蒸気温度、前記紙製品を製造する設備内の蒸気圧力、紙製品の厚さ、前記紙製品中の灰分濃度、前記紙製品の欠点の種類、前記紙製品の欠点の数、工程内における断紙の時期、フリーネス、叩解度及び曝気量からなる群から選択される1種以上である
推測装置。
【請求項7】
水系において又は前記水系から派生して今後生じ得る見込結果を推測するための推測システムであって、
パラメータ情報取得部と、関係性モデル情報取得部と、推測部とを備え、
前記パラメータ情報取得部は、前記水系の水質に関する水質パラメータ、前記水系、前記水系に関連する設備又は前記水系に添加する原料の制御条件に関する制御パラメータ、及び前記見込結果と異なる意味を持つパラメータであって前記水系、前記水系に関連する設備若しくは前記水系に添加する原料において又は前記水系、前記水系に関連する設備若しくは前記水系に添加する原料から派生して生じた結果に関する結果パラメータのうちいずれか1種であるパラメータを2つ以上含むパラメータ情報を取得し、
前記関係性モデル情報取得部は、事前に作成した、前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標と、2つ以上の前記パラメータとの関係を示す関係性モデル情報を取得し、
前記推測部は、前記パラメータ情報及び前記関係性モデル情報に基づいて、前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標を推測する
推測システム。
【請求項8】
水系において又は前記水系から派生して今後生じ得る見込結果を推測するための推測プログラムであって、
コンピュータを、パラメータ情報取得部、関係性モデル情報取得部及び推測部として機能させ、
前記パラメータ情報取得部は、前記水系の水質に関する水質パラメータ、前記水系、前記水系に関連する設備又は前記水系に添加する原料の制御条件に関する制御パラメータ、及び前記見込結果と異なる意味を持つパラメータであって前記水系、前記水系に関連する設備若しくは前記水系に添加する原料において又は前記水系、前記水系に関連する設備若しくは前記水系に添加する原料から派生して生じた結果に関する結果パラメータのうちいずれか1種であるパラメータを2つ以上含むパラメータ情報を取得し、
前記関係性モデル情報取得部は、事前に作成した、前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標と、2つ以上の前記パラメータとの関係を示す関係性モデル情報を取得し、
前記推測部は、前記パラメータ情報及び前記関係性モデル情報に基づいて、前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標を推測する
推測プログラム。
【請求項9】
水系において又は前記水系から派生して今後生じ得る見込結果を推測するための推測方法であって、
パラメータ情報取得工程と、関係性モデル情報取得工程と、推測工程とを備え、
前記パラメータ情報取得工程では、前記水系の水質に関する水質パラメータ、前記水系、前記水系に関連する設備又は前記水系に添加する原料の制御条件に関する制御パラメータ、及び前記見込結果と異なる意味を持つパラメータであって前記水系、前記水系に関連する設備若しくは前記水系に添加する原料において又は前記水系、前記水系に関連する設備若しくは前記水系に添加する原料から派生して生じた結果に関する結果パラメータのうちいずれか1種であるパラメータを2つ以上含むパラメータ情報を取得し、
前記関係性モデル情報取得工程では、事前に作成した、前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標と、2つ以上の前記パラメータとの関係を示す関係性モデル情報を取得し、
前記推測工程では、前記パラメータ情報及び前記関係性モデル情報に基づいて、前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標を推測する
推測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推測装置、推測システム、推測プログラム及び推測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙製品をはじめとして、様々な製品が水系の工程で製造されている。このような工程において、操業におけるトラブルの発生や製品への悪影響を防いだり、軽減したりする観点から、トラブルを事前に予測することが行われている。
【0003】
例えば紙製品の製造において、トラブルや紙製品の品質に影響を与えることが経験的に知られているパラメータの現在の値やその変化の傾向を確認して、各種操業の条件や、水系に添加する薬品の制御を行っていた。
【0004】
例えば、特許文献1には、紙を製造する水系において、水質に関わる2以上の水質パラメータを測定し、その測定値に基づいてかかる水系の水処理を行う方法が提案されている。そして、この特許文献1に示される方法によれば、高品質の紙の製造をすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、紙を製造する水系におけるトラブルの発生や紙製品の品質を定量的に推測することは開示されていない。一方で、各種操業の条件や系内に添加する薬品量の制御をより精密に行うためには、水系においてトラブルの発生や紙製品の品質を定量的に推測することが必要である。
【0007】
本発明では上記事情に鑑み、水系におけるトラブルの発生や水系を介して製造される製品の品質を定量的に推測することができる推測装置、推測システム、推測プログラム及び推測方法を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、水系において又は水系から派生して今後生じ得る見込結果を推測するための推測装置が提供される。この推測装置は、パラメータ情報取得部と、関係性モデル情報取得部と、推測部とを備える。パラメータ情報取得部は、水系の水質に関する水質パラメータ、水系、水系に関連する設備又は水系に添加する原料の制御条件に関する制御パラメータ、及び見込結果と異なる意味を持つパラメータであって水系、水系に関連する設備若しくは水系に添加する原料において又は水系、水系に関連する設備若しくは水系に添加する原料から派生して生じた結果に関する結果パラメータのうちいずれか1種であるパラメータを2つ以上含むパラメータ情報を取得する。関係性モデル情報取得部は、事前に作成した、見込結果又は見込結果に関連する指標と、2つ以上のパラメータとの関係を示す関係性モデル情報を取得する。推測部は、パラメータ情報及び関係性モデル情報に基づいて、見込結果又は見込結果に関連する指標を推測する。
【0009】
本発明は、次に記載の各態様で提供されてもよい。
前記推測装置において、前記関係性モデルは、前記見込結果に相当する事前確認結果又は前記事前確認結果に関連する指標と、2つ以上の前記パラメータとの回帰分析、時系列分析、決定木、ニューラルネットワーク、ベイズ、クラスタリング又はアンサンブル学習により求められるモデルである推測装置。
前記推測装置において、前記水系は紙製品を製造する工程における水系である推測装置。
前記推測装置において、前記水質パラメータは、前記水系のpH、電気伝導率、酸化還元電位、ゼータ電位、濁度、温度、泡高さ、生物化学的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)、吸光度、色、粒度分布、凝集度合い、異物量、水面の発泡面積、水中の汚れ面積、気泡の量、グルコースの量、有機酸の量、デンプンの量、カルシウムの量、全塩素の量、遊離塩素の量、溶存酸素量、カチオン要求量、硫化水素の量、過酸化水素の量及び系内の微生物の呼吸速度からなる群から選択される1種以上である、推測装置。
前記推測装置において、前記制御パラメータは、抄紙機の運転速度(抄速)、原料脱水機のろ布回転速度、洗浄機のろ布回転速度、前記水系に対する薬品添加量、前記水系に添加する原料に対する薬品添加量、前記水系に関連する設備に対する薬品添加量、加熱用の蒸気量、加熱用の蒸気温度、加熱用の蒸気圧力、種箱からの流量、プレスパートのニップ圧、プレスパートのフェルトバキューム圧、製紙原料の配合比率、製紙原料の損紙配合量、製紙原料のスクリーンの目開き、叩解機のローターとステーターの間の隙間距離、フリーネス及び叩解度からなる群から選択される1種以上である推測装置。
前記推測装置において、前記結果パラメータは、前記紙製品の単位重量(米坪)、歩留率、白水濃度、前記紙製品の含水率、前記紙製品を製造する設備内の蒸気量、前記紙製品を製造する設備内の蒸気温度、前記紙製品を製造する設備内の蒸気圧力、紙製品の厚さ、前記紙製品中の灰分濃度、前記紙製品の欠点の種類、前記紙製品の欠点の数、工程内における断紙の時期、フリーネス、叩解度及び曝気量からなる群から選択される1種以上である推測装置。
水系において又は前記水系から派生して今後生じ得る見込結果を推測するための推測システムであって、パラメータ情報取得部と、関係性モデル情報取得部と、推測部とを備え、前記パラメータ情報取得部は、前記水系の水質に関する水質パラメータ、前記水系、前記水系に関連する設備又は前記水系に添加する原料の制御条件に関する制御パラメータ、及び前記見込結果と異なる意味を持つパラメータであって前記水系、前記水系に関連する設備若しくは前記水系に添加する原料において又は前記水系、前記水系に関連する設備若しくは前記水系に添加する原料から派生して生じた結果に関する結果パラメータのうちいずれか1種であるパラメータを2つ以上含むパラメータ情報を取得し、前記関係性モデル情報取得部は、事前に作成した、前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標と、2つ以上の前記パラメータとの関係を示す関係性モデル情報を取得し、前記推測部は、前記パラメータ情報及び前記関係性モデル情報に基づいて、前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標を推測する推測システム。
水系において又は前記水系から派生して今後生じ得る見込結果を推測するための推測プログラムであって、コンピュータを、パラメータ情報取得部、関係性モデル情報取得部及び推測部として機能させ、前記パラメータ情報取得部は、前記水系の水質に関する水質パラメータ、前記水系、前記水系に関連する設備又は前記水系に添加する原料の制御条件に関する制御パラメータ、及び前記見込結果と異なる意味を持つパラメータであって前記水系、前記水系に関連する設備若しくは前記水系に添加する原料において又は前記水系、前記水系に関連する設備若しくは前記水系に添加する原料から派生して生じた結果に関する結果パラメータのうちいずれか1種であるパラメータを2つ以上含むパラメータ情報を取得し、前記関係性モデル情報取得部は、事前に作成した、前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標と、2つ以上の前記パラメータとの関係を示す関係性モデル情報を取得し、前記推測部は、前記パラメータ情報及び前記関係性モデル情報に基づいて、前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標を推測する推測プログラム。
水系において又は前記水系から派生して今後生じ得る見込結果を推測するための推測方法であって、パラメータ情報取得工程と、関係性モデル情報取得工程と、推測工程とを備え、前記パラメータ情報取得工程では、前記水系の水質に関する水質パラメータ、前記水系、前記水系に関連する設備又は前記水系に添加する原料の制御条件に関する制御パラメータ、及び前記見込結果と異なる意味を持つパラメータであって前記水系、前記水系に関連する設備若しくは前記水系に添加する原料において又は前記水系、前記水系に関連する設備若しくは前記水系に添加する原料から派生して生じた結果に関する結果パラメータのうちいずれか1種であるパラメータを2つ以上含むパラメータ情報を取得し、前記関係性モデル情報取得工程では、事前に作成した、前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標と、2つ以上の前記パラメータとの関係を示す関係性モデル情報を取得し、前記推測工程では、前記パラメータ情報及び前記関係性モデル情報に基づいて、前記見込結果又は前記見込結果に関連する指標を推測する推測方法。
もちろん、この限りではない。
【0010】
本発明によれば、水系におけるトラブルの発生や水系を介して製造される製品の品質を定量的に推測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る推測システムの概略図である。
【
図2】本実施形態に係る推測装置の機能構成を示す概略模式図である。
【
図3】本実施形態に係る推測装置のハードウェア構成を示す概略図である。
【
図4】合計30組のデータセットのトラブル発生回数A対見込結果に関連する指標aのプロットである。
【
図5】見込結果に関連する指標aに対する各パラメータの影響の大小を示すグラフである。
【
図6】本実施形態に係る推測方法のフローチャート図である。
【
図7】実施例1における紙を製造する設備の概略図模式である。
【
図8】実施例1の合計572組のデータセットの欠点数対欠点インデックスαのプロットである。
【
図9】欠点インデックスに対する各パラメータの影響の大小を示すグラフである。
【
図10】実施例2の合計60組のデータセットの紙力剤使用量原単位対紙力インデックス値のプロットである。
【
図11】紙力インデックスに対する各パラメータの影響の大小を示すグラフである。
【
図12】断紙の発生及び断紙インデックスの経時変化を示すグラフである。
【
図13】断紙の発生及び断紙インデックスの経時変化を示すグラフである。
【
図14】実施例4における紙を製造する設備の概略模式図である。
【
図15】実施例4の関係性モデル作成用の合計647組のデータセットの欠点数対欠点インデックスβ値のプロットである。
【
図16】実施例4の精度検証用の合計255組のデータセットの欠点数対欠点インデックスβ値のプロットである。
【
図17】実施例4の精度検証用の合計255組のデータセットから算出した欠点インデックスの経時変化を示すプロットである。
【
図18】欠点インデックスβに対する各パラメータの影響の大小を示すグラフである。
【
図19】実施例5の関係性モデル作成用の合計631組のデータセットの欠点数対欠点インデックスγ値のプロットである。
【
図20】実施例5の精度検証用の合計255組のデータセットの欠点数対欠点インデックスγ値のプロットである。
【
図21】実施例5の精度検証用の合計271組のデータセットから算出した欠点インデックスの経時変化を示すプロットである。
【
図22】欠点インデックスγに対する各パラメータの影響の大小を示すグラフである。
【
図23】実施例6の関係性モデル作成用の合計1216組のデータセットの欠点数対欠点インデックスδ値のプロットである。
【
図24】実施例6の精度検証用の合計490組のデータセットの欠点数対欠点インデックスδ値のプロットである。
【
図25】欠点インデックスδに対する各パラメータの影響の大小を示すグラフである。
【
図26】実施例7の関係性モデル作成用の合計1503組のデータセットの欠点数対欠点インデックスεのプロットである。
【
図27】実施例7の精度検証用の合計537組のデータセットの欠点数対欠点インデックスεのプロットである。
【
図28】欠点インデックスεに対する各パラメータの影響の大小を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図を用いて本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態に示した各構成要素は、互いに組み合わせ可能である。
【0013】
本実施形態のソフトウェアを実現するためのプログラムは、コンピュータが読み取り可能な非一時的な記録媒体(Non-Transitory Computer-Readable Medium)として提供されてもよいし、外部のサーバからダウンロード可能に提供されてもよいし、外部のコンピュータで当該プログラムを起動させてクライアント端末でその機能を実現(いわゆるクラウドコンピューティング)するように提供されてもよい。
【0014】
また、本実施形態において「部」とは、例えば、広義の回路によって実施されるハードウェア資源と、これらのハードウェア資源によって具体的に実現されうるソフトウェアの情報処理とを合わせたものも含みうる。また、本実施形態においては様々な情報を取り扱うが、これら情報は、例えば電圧・電流を表す信号値の物理的な値、0又は1で構成される2進数のビット集合体としての信号値の高低、又は量子的な重ね合わせ(いわゆる量子ビット)によって表され、広義の回路上で通信・演算が実行されうる。
【0015】
また、広義の回路とは、回路(Circuit)、回路類(Circuitry)、プロセッサ(Processor)、及びメモリ(Memory)等を少なくとも適当に組み合わせることによって実現される回路である。すなわち、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等を含むものである。
【0016】
<推測システム>
本実施形態に係る推測システムは、水系において又は水系から派生して今後生じ得る見込結果を推測するための推測システムである。具体的に、この推測システムは、パラメータ情報取得部と、関係性モデル情報取得部と、推測部とを備えるものである。これらのうち、パラメータ情報取得部は、水系の水質に関する水質パラメータ、水系、水系に関連する設備又は水系に添加する原料の制御条件に関する制御パラメータ、及び見込結果と異なる意味を持つパラメータであって水系、水系に関連する設備若しくは水系に添加する原料において又は水系、水系に関連する設備若しくは水系に添加する原料から派生して生じた結果に関する結果パラメータのうちいずれか1種であるパラメータを2つ以上含むパラメータ情報を取得するものである。関係性モデル情報取得部は、事前に作成した、見込結果又は見込結果に関連する指標と、2つ以上のパラメータとの関係を示す関係性モデル情報を取得するものである。推測部は、パラメータ情報及び関係性モデル情報に基づいて、見込結果又は見込結果に関連する指標を推測するものである。
【0017】
また、必須の構成要素ではないが、本実施形態に係る推測システムは、関係性モデル作成部及び出力部の一方又は両方を備えてもよい。なお、以下で説明する
図1には、これら全てを備える推測システムについて主として説明する。
【0018】
〔推測システムの機能的構成〕
図1は、本実施形態に係る推測システムの概略図である。この推測システム1は、推測装置2と、出力装置3とを備える。
【0019】
このうち、推測装置2は、推測システム1における推測のための情報処理を制御するものである。
図2は、本実施形態に係る推測装置の機能構成を示す概略模式図である。この
図2に示すように、本実施形態に係る推測装置2は、水系Wにおいて又は水系Wから派生して今後生じ得る見込結果を推測するための推測装置であり、パラメータ情報取得部21と、関係性モデル情報取得部22と、推測部23とを備える。また、本実施形態に係る推測装置2は、第2推測部24と、関係性モデル作成部25と、第2関係性モデル作成部26と、第2関係性モデル情報取得部27をさらに備える。なお、これらの各部は、ここでは一つの装置の内部に含まれているものとして記載しているが、各部はそれぞれが別な装置として含まれていてもよい。また、出力装置3は、出力部の一例であり、パラメータ情報測定装置4は、パラメータ情報測定部の一例であるが、以下では特に区別せず説明する。
【0020】
ここで、「水系において又は水系から派生して今後生じ得る見込結果」のうち、「水系において今後生じ得る見込結果」とは、かかる水系を運用、操業した場合においてその水系で生じる結果であり、対象とする水系によって異なるが、例えば水系の閉塞、意図しない微生物の増加、発泡、臭気の発生や悪化、生物化学的酸素要求量(BOD)の上昇、(COD)の上昇、懸濁物質(SS)の上昇、濁度の上昇、色度の上昇、透視度の低下、脱水汚泥量の増加、汚泥ケーキ含水率の上昇、熱交換器の効率低下、冷凍機の効率低下、チラーの効率低下、冷却塔の効率低下、ろ過器のろ材や活性炭の逆洗頻度の増加、ろ過器のろ材や活性炭の交換頻度増加、膜(MF膜、UF膜、RO膜等)の洗浄頻度の増加、膜の交換頻度の増加、イオン交換樹脂の再生頻度の増加、イオン交換樹脂の交換頻度の増加、設備や配管の腐食(微生物汚れ、残留塩素による)、薬品(消泡剤、排水凝集剤、凝結剤、COD低減剤、キレート剤、生物処理栄養剤、汚泥やスラッジの脱水剤、膜汚れ防止剤、スライムコントロール剤、スケール抑制剤、防食材、洗浄剤、pH調整剤(酸、アルカリ)、緩衝剤、酸化剤、還元剤、イオン交換樹脂再生薬剤等)の増加等が挙げられる。また、「水系から派生して今後生じ得る見込結果」とは、かかる水系を運用、操業した場合においてその水系に関連してその水系以外で生じる結果であり、対象とする水系によって異なるが、製品の性能の低下、製品の歩留の低下、不要副産物の増加等、製品の臭いの変化が挙げられる。また、「見込結果に関連する指標」とは、見込結果と一定の相関関係を有する指標(例えば、2つ以上のパラメータの関数)であればよく、一般的に知られた指標でなくかかる推測システムの使用者(オペレータ等)が独自に作ったものであってもよい。
【0021】
また、紙を製造する工程の「水系において今後生じ得る見込結果」としては、例えば抄紙機の汚れ、抄紙アプローチ系の汚れ、白水回収系の汚れ、ポンプエア噛み、スクリーン閉塞、抄紙速度低下、ワイヤーパートろ水不良、プレスパート脱水不良、ドライヤーパート乾燥不良、水系内の臭気、ドライヤー工程における剥離不良、ブローク系の汚れ、原料系の汚れ等が挙げられる。紙を製造する工程の「水系から派生して今後生じ得る見込結果」とは、例えばかかる水系から生産される紙製品に関するもの(欠点数、紙力、継手率、サイズ度、透気度、平滑度、灰分量、色調、白色度、地合、臭気、苛性化率、焼成率、カッパー価、フリーネス、水分率等)や、水系以外で生じ得る事象(プレスパート~ドライヤーパートにおける断紙等)が挙げられる。
【0022】
〔推測システムの機能〕
以下、推測システム1の各部の機能について具体的に説明する。
【0023】
[パラメータ情報取得部]
パラメータ情報取得部21は、水系Wの水質に関する水質パラメータ、水系W、水系Wに関連する設備又は水系Wに添加する原料の制御条件に関する制御パラメータ、及び見込結果と異なる意味を持つパラメータであって水系W、水系Wに関連する設備若しくは水系Wに添加する原料において又は水系W、水系Wに関連する設備若しくは水系Wに添加する原料から派生して生じた結果に関する結果パラメータのうちいずれか1種であるパラメータを2つ以上含むパラメータ情報を取得するものである。
【0024】
なお、ここでの水系は、一つの槽や流路に存在するものや連続的な流れが存在するものには限られず、複数の槽や流路を持つもの、具体的には、流路に枝分かれや複数の流路の水の合流が存在したり、槽から槽へバッチ単位で移動したり、途中での処理を施したりするものも一つの水系として考える。また、水質パラメータ、制御パラメータ又は結果パラメータに係る水系が、槽等によって区分けされている場合、その水系の一部についての水質パラメータ、制御パラメータ又は結果パラメータを用いればよく、水系全部についての水質パラメータ、制御パラメータ又は結果パラメータを用いてもよい。
【0025】
水質パラメータとしては、水系Wの水質に関するものであれば特に限定されない。また、制御パラメータは、水系W、水系Wに関連する設備又は水系Wに添加する原料の制御条件に関するものであれば特に限定されない。さらに、見込結果と異なる意味を持つパラメータであって水系W、水系Wに関連する設備若しくは水系Wに添加する原料において又は水系W、水系Wに関連する設備若しくは水系Wに添加する原料から派生して生じた結果に関するものであれば特に限定されない。なお、「見込結果と異なる意味を持つ」とは、評価指標(例えば物理量)が異なる場合(例えば、一方が長さで、もう一方が質量である場合)、評価指標は同じであるが評価の対象が異なる場合(例えば紙の質量と、添加剤の質量)や測定箇所が異なる場合(例えば、製紙原料系の酸化還元電位と、抄紙系の酸化還元電位)を含む一方、結果の意味合いが異なる場合(例えば、酸化還元電位が正の場合と、酸化還元電位が負の場合)については含まない。
【0026】
以下、水系Wが紙製品を製造する工程における水系である場合の水質パラメータ、制御パラメータ及び結果パラメータの具体例について説明する。
【0027】
水質パラメータとしては、例えば水系のpH、電気伝導率、酸化還元電位、ゼータ電位、濁度、温度、泡高さ、生物化学的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)、吸光度(例えば、UV吸光度)、色(例えば、RGB値)、粒度分布、凝集度合い、異物量、水面の発泡面積、水中の汚れ面積、気泡の量、グルコースの量、有機酸の量、デンプンの量、カルシウムの量、全塩素の量、遊離塩素の量、溶存酸素量、カチオン要求量、硫化水素の量、過酸化水素の量及び系内の微生物の呼吸速度からなる群から選択される1種以上を用いることが好ましい。
【0028】
制御パラメータとしては、例えば抄紙機の運転速度(抄速)、原料脱水機のろ布回転速度、洗浄機のろ布回転速度、水系に対する薬品添加量、水系に添加する原料に対する薬品添加量、水系に関連する設備に対する薬品添加量、加熱用の蒸気量、加熱用の蒸気温度、加熱用の蒸気圧力、種箱からの流量、プレスパートのニップ圧、プレスパートのフェルトバキューム圧、製紙原料の配合比率、製紙原料の損紙配合量、製紙原料のスクリーンの目開き、叩解機のローターとステーターの間の隙間距離、フリーネス及び叩解度からなる群から選択される1種以上を用いることが好ましい。なお、「水系に関連する設備」としては、水系Wが紙製品を製造する工程における水系である場合、例えば薬品を直接添加する抄紙機のワイヤーやフェルト等の設備が挙げられる。
【0029】
結果パラメータとしては、例えば紙製品の単位重量(米坪)、歩留率、白水濃度、紙製品の含水率、紙製品を製造する設備内の蒸気量、紙製品を製造する設備内の蒸気量、紙製品を製造する設備内の蒸気温度、紙製品を製造する設備内の蒸気圧力、紙製品の厚さ、紙製品中の灰分濃度、紙製品の欠点の種類、紙製品の欠点の数、工程内における断紙の時期、フリーネス、叩解度及び曝気量からなる群から選択される1種以上を用いることが好ましい。このうち、紙製品を製造する設備内の蒸気量としては、例えば抄紙機ドライヤーの蒸気量、クラフトパルプ黒液エバポレータの蒸気量、クラフトパルプ蒸解釜の黒液ヒーターの蒸気量、パルプ原料や白水加温のために吹き込んでいる蒸気量を用いることができる。
【0030】
なお、本来、同一の事項を示すパラメータであるが、目的によって分類が水質パラメータ、制御パラメータ及び結果パラメータのうち2以上に属するものがある。例えば、黒液エバポレータでは、ボイラから発生させた蒸気との間接熱交換で黒液を温め、加熱の結果、黒液からプロセス蒸気が発生する。このプロセス蒸気は次の工程の濃縮黒液の加温(濃縮)に使用される。黒液から発生したという観点から、発生したプロセス蒸気の量は、結果パラメータであるし、次の工程の濃縮黒液の加温(濃縮)に使用されるという観点から、制御パラメータとして用いられる。また、黒液を温めるためにボイラから発生させた蒸気は、制御パラメータとして用いられる。なお、パラメータ情報取得部で取得する2つ以上のパラメータは、全てのパラメータが実質的に同一のものにならないようにする。例えば、上述した黒液から発生したプロセス蒸気の全量を、次の工程の濃縮黒液の加温(濃縮)に使用する場合において、2つのパラメータ(この2つ以外にパラメータを用いない)として、結果パラメータとしての黒液から発生したプロセス蒸気と、制御パラメータとしての濃縮黒液の加温(濃縮)に使用する蒸気量とを用いることは除くものとする。このような場合において、結果パラメータとしての黒液から発生したプロセス蒸気と、制御パラメータとしての濃縮黒液の加温(濃縮)に使用する蒸気量とは実質的に同一だからである。ただし、黒液から発生したプロセス蒸気の一部を、次の工程の濃縮黒液の加温(濃縮)に使用する場合において、2つのパラメータとして、結果パラメータとしての黒液から発生したプロセス蒸気と、制御パラメータとしての濃縮黒液の加温(濃縮)に使用する蒸気量とを用いることはできる。このような場合において、結果パラメータとしての黒液から発生したプロセス蒸気と、制御パラメータとしての濃縮黒液の加温(濃縮)に使用する蒸気量とは実質的に同一でないからである。さらに、上述した黒液から発生したプロセス蒸気の全量を、次の工程の濃縮黒液の加温(濃縮)に使用する場合において、2つのパラメータとして、結果パラメータとしての黒液から発生したプロセス蒸気と、制御パラメータとしての濃縮黒液の加温(濃縮)に使用する蒸気量とを用いることに加え、さらに例えば水質パラメータとしての水系のpH等他のパラメータを組み合わせれば、複数のパラメータが実質的に同一であってもよい。加えて、例えばフリーネスや叩解度も同一のパラメータではあるが、制御パラメータ及び結果パラメータのいずれにも含まれ得るものである。
【0031】
これらのパラメータは、定量的なものであっても、定性的なものであってもよい。定性的なパラメータを用いる場合、数値を割り振って、定量的なデータとして扱ってもよい。
【0032】
なお、水質パラメータ、制御パラメータ及び結果パラメータは、それぞれ複数のパラメータを包含する概念である。「パラメータを2つ以上含むパラメータ情報」に関し、パラメータ情報に含まれる2つ以上のパラメータはそれぞれ独立して、水質パラメータ、制御パラメータ及び結果パラメータそれぞれのパラメータから選択することができ、水質パラメータ、制御パラメータ及び結果パラメータのいずれかのみから2つ以上を選択しても(例えば、水のpHと温度)、水質パラメータ、制御パラメータ及び結果パラメータの2又は3の組み合わせ(例えば、pHとプレスパートのプレス圧と紙製品の厚さ)から2つ以上を選択してもよい。ただし、全く同一のパラメータ(例えば、箇所Aの水のpHと箇所Aの水のpH)については選択しないものとする(ただし、例えば、測定箇所の異なる箇所Aの水のpHと箇所Bの水のpHであればよい)。
【0033】
[関係性モデル情報取得部]
関係性モデル情報取得部22は、事前に作成した、見込結果又は見込結果に関連する指標と、2つ以上のパラメータとの関係を示す関係性モデル情報を取得するものである。
【0034】
関係性モデルは、事前に作成されたものであって、見込結果又は見込結果に関連する指標と、2つ以上のパラメータとの関係を示すものである。なお、「事前」とは、見込結果又は見込結果に関連する指標を推定する以前をいい、かかる水系Wについて実操業中であっても、実操業の前であっても、見込結果又は見込結果に関連する指標を推定する以前であればいずれでもよい。
【0035】
関係性モデルとしては、特に限定されないが、例えば見込結果又は見込結果に関連する指標と、2つ以上のパラメータとの関係を示す関数、ルックアップテーブル又は見込結果又は見込結果に関連する指標と、2つ以上のパラメータとの関係の学習済モデル等が挙げられる。
【0036】
なお、パラメータ情報取得部21で取得するパラメータ情報に含まれる2つ以上のパラメータと、関係性モデルに使用するパラメータ情報に含まれるパラメータとは、そのうち2つ以上が共通するものとする。上述したとおり、水質パラメータ、制御パラメータ及び結果パラメータはそれぞれ複数のパラメータを包含する概念である。「パラメータのうち2つ以上が共通する」とは、水質パラメータ、制御パラメータ及び結果パラメータいずれかのパラメータのうちの2つ以上(例えば水質パラメータのみで2以上;水のpHと温度)が共通していてもよいし、水質パラメータ、制御パラメータ及び結果パラメータの組み合わせ(例えば水質パラメータ1つと制御パラメータ1つ;例えば水のpHとプレスパートのプレス圧)が共通していてもよいし、水質パラメータ、制御パラメータ及び結果パラメータ全て(例えば水質パラメータ1つと制御パラメータ1つと結果パラメータ1つ)が共通していてもよい。
【0037】
[推測部]
推測部23は、パラメータ情報及び関係性モデル情報に基づいて、見込結果又は見込結果に関連する指標を推測するものである。
【0038】
具体的に推測部23では、予め作成した関係性モデルに、かかる水系Wの現在のパラメータ情報を入力し、関係性モデルに代入又は照らし合わせ等をして、見込結果又は見込結果に関連する指標を推測(算出)する。
【0039】
[第2推測部]
第2推測部24は、推測部23において、見込結果そのものではなく、見込結果に関連する指標を推測した場合において、その指標から、見込結果を推測するものである。なお、第2推測部24を設ける場合において、便宜上、推測部23を「第1推測部」と呼ぶ。
【0040】
第1推測部23で見込結果に関連する指標(以下、「関連指標」と呼ぶこともある)を推測する場合においては、関連指標から見込結果を推測する必要がある。具体的に、この関連指標を、事前に用意した第2関係性モデルに入力し、見込結果を推測する。なお、第2関係性モデルを用いる場合、便宜上、第1推測部23で用いる関係性モデルを「第1関係性モデル」と呼ぶ。
【0041】
見込結果を推測する場合、例えば関連指標に閾値を設け、関連指標がその閾値より大きければ(又は小さければ)トラブルが発生すると推測することができる。
【0042】
トラブルが発生する可能性を推測する場合、例えば関連指標に複数の閾値を設け、例えば3段階に分けて、関連指標が1段階目にあるときは、トラブルの発生が確実に起こり、関連指標が2段階目にあるときは、トラブルが生成する可能性があり、関連指標が3段階目にあるときは、トラブルの発生が確実に起こらないと推測することができる。また、関連指標とトラブルの発生確率との関係を実操業の統計データから関数化又は学習済みモデル化し、トラブルの発生の確率を算出することができる。
【0043】
[関係性モデル作成部]
関係性モデル作成部25は、関係性モデルを作成するものである。この関係性モデルは、関係性モデル情報取得部22で取得し、かつ推測部23で見込結果又は見込結果に関連する指標の推測に用いるものであってよい。
【0044】
関係性モデルは、例えば次のようにして作成する。見込結果又は関連指標を推測するよりも前に、見込結果に対応する事前測定結果又は事前結果に関連する事前測定指標を測定する。また、同じ水系で、水質パラメータ、制御パラメータ及び結果パラメータのうちいずれか1種であるパラメータを2つ以上測定する。これらの事前測定結果又は事前測定指標及びパラメータのデータセットを複数、例えば測定を行う日や時間を変える等して事前測定結果又は事前測定指標及びパラメータに変動が生じるように用意する。次いで、事前測定結果又は事前測定指標を2以上のパラメータの関数と仮定し、事前測定結果又は事前測定指標と対比して、関数の形態や係数を確定し、関係性モデルを構築する。このとき、2以上のパラメータの関数と事前測定結果又は事前測定指標との対比によって関数の係数を確定するに際しては、回帰分析法(線形モデル、一般化線形モデル、一般化線形混合モデル、リッジ回帰、ラッソ回帰、エラスティックネット、サポートベクター回帰、射影追跡回帰等)、時系列分析(VARモデル、SVARモデル、ARIMAXモデル、SARIMAXモデル、状態空間モデル等)、決定木(決定木、回帰木、ランダムフォレスト、XGBoost等)、ニューラルネットワーク(単純パーセプトロン、多層パーセプトロン、DNN、CNN、RNN、LSTM等)、ベイズ(ナイーブベイズ等)、クラスタリング(k-means、k-means++等)、アンサンブル学習(Boosting、Adaboost等)等を用いることができる。
【0045】
一実施形態において、関係性モデルは、見込結果に相当する事前確認結果又は事前確認結果に関連する指標と、2つ以上のパラメータとの回帰分析により求められるモデルであることが好ましい。なお、回帰分析を行う場合の、サンプルセット数は特に限定されるものではない。
【0046】
関係性モデルの作成は、見込結果を推測する水系と同一の水系で行うことが好ましい。また、例えば同一の装置内でも、水系の水質が大きく変化するような場合(例えば、製紙工場の抄紙系において、製紙原料であるパルプを変更した場合等)には、水質が変化した後の水系についての関係性モデルを作成して用いることが好ましい。
【0047】
このような観点から、水系Wの操業中に、定期又は不定期に、見込結果又は関連指標及び2以上のパラメータを測定し、都度関係性モデルを作成したり、データを追加して関係性モデルを更新したりしてもよい。
【0048】
なお、関係性モデル作成部25は必須の構成要素ではないため、関係性モデルの作成は例えばオペレータ等が人的に(手動で)行ってもよい。
【0049】
[第2関係性モデル作成部]
第2関係性モデル作成部26は、第2関係性モデルを作成するものである。この第2関係性モデルは、後述する第2関係性モデル情報取得部26で取得し、かつ第2推測部24で見込結果を推測するためのものであってよい。
【0050】
ここで、第2関係性モデルとは、関連指標と見込結果との関係を示すモデルをいう。なお、第2関係性モデル作成部26を設ける場合において、便宜上、関係性モデル作成部25を「第1関係性モデル作成部」と呼ぶ。
【0051】
第2関係性モデルとしては、特に限定されないが、例えば関連指標と見込結果との関係を示す関数、ルックアップテーブル又は関連指標と見込結果との関係の学習済モデル等が挙げられる。
【0052】
第2関係性モデルは、例えば次のようにして作成する。見込結果を推測するよりも前に、見込結果に対応する事前測定結果及び事前結果に関連する事前測定指標を測定する。これらの事前測定結果及び事前測定指標のデータセットを複数、例えば測定を行う日や時間を変える等して事前測定結果及び事前測定指標に変動が生じるように用意する。次いで、事前測定結果を事前測定指標の関数として、推測モデルを構築する。または、例えば事前測定結果及び事前測定指標のデータセットを複数用意した後、事前測定結果が顕著に変化する点(事前測定指標)等で関連指標について閾値を設定して、第2関係性モデルを構築してもよい。
【0053】
第2関係性モデルの作成は、見込結果を推測する水系と同一の水系で行うことが好ましい。また、例えば同一の装置内でも、水系の水質が大きく変化するような場合(例えば、製紙工場の抄紙系において、製紙原料であるパルプを変更した場合等)には、水質が変化した後の水系についての第2関係性モデルを作成して用いることが好ましい。
【0054】
なお、第2関係性モデル作成部26は必須の構成要素ではなく、第2関係性モデルの作成は例えばオペレータ等が人的に(手動で)行ってもよい。
【0055】
[第2関係性モデル情報取得部]
第2関係性モデル情報取得部27は、第2関係性モデルを取得するものである。第2関係性モデルは、第2関係性モデル作成部26で作成したものであってよい。
【0056】
なお、第2関係性モデル取得部27を設ける場合において、便宜上、関係性モデル取得部22を「第1関係性モデル取得部」と呼ぶ。
【0057】
[関係性モデル評価部]
推測システム1、推測装置2は、関係性モデル評価部(図示せず。)を備えてもよい。
【0058】
関係性モデル評価部は、関係性モデル作成部25で作成した関係性モデルを評価し、見込結果又は関連指標に対する、それぞれのパラメータ情報の影響の大きさを評価するものである。
【0059】
パラメータごとに関係性モデルに対する影響の大きさは異なるものであり、関係性モデルに対する影響の小さいパラメータが多く含まれていても、精度が向上しないばかりか、演算等の効率が低下することがある。そこで、後述する関係性モデル情報調整部で、関係性モデルに対する影響の小さいパラメータ情報を除外するため、関係性モデル評価部では、それぞれのパラメータ情報の影響の大きさを評価する。
【0060】
それぞれのパラメータ情報の影響の大きさを評価する方法としては、特に限定されないが、例えば、見込結果が各パラメータの1次関数として関係性モデルが表される場合、その係数の絶対値の大きさによって比較評価すればよい。例えば、関係性モデルに対する影響順にパラメータ情報を並べて、影響の大きい順に所定の数のパラメータ情報以外を除外しても、影響の小さい順に所定の数のパラメータ情報を除外してもよく、また、閾値を設けこの閾値を下回るパラメータを関係性モデル調整部で除外する等してもよい。
【0061】
[関係性モデル調整部]
推測システム1、推測装置2は、関係性モデル情報調整部(図示せず。)を備えてもよい。
【0062】
上述したとおり、関係性モデル情報調整部は、関係性モデルに対する影響の小さいパラメータ情報を除外調整した上で、再度、関係性モデル情報作成部25に関係性モデル情報の作成を指示する。
【0063】
このような関係性モデル評価部、関係性モデル情報調整部を設ける場合、関係性モデル評価部の評価及び関係性モデル情報調整部の調整は、1回のみ行ってもよいし、2回以上繰り返し行ってもよい。
【0064】
[出力部]
出力部3は、推測部23が算出した見込結果若しくは関連指標又は第2推測部24が推測した見込結果の少なくともいずれかを出力するように構成されるものである。
【0065】
出力部3は、例えば見込結果又は関連指標を経時的に表示(見込結果又は関連指標対時間グラフ等)してもよい。
【0066】
出力部3は、例えば見込結果又は関連指標が一定の閾値を超えた場合等に警告を出力してもよい。
【0067】
[パラメータ情報測定部]
パラメータ情報測定部4は、水質パラメータ、制御パラメータ又は結果パラメータを測定するものである。
【0068】
なお、
図1におけるパラメータ情報測定装置4として、便宜上、1つのみを記載しているが、この例に限られず、2以上のパラメータ情報測定装置を用いてもよい。
【0069】
測定装置としては、測定すべきパラメータの内容により異なり、各種センサ等を選択することができる。測定装置としては、例えば、pH計、電気伝導率計、酸化還元電位計、濁度計、温度計、泡高さを測定するレベル計、COD計、UV計、粒度分布計、凝集センサ、デジタルカメラ(又はデジタルビデオカメラ)、内部気泡センサ、吸光光度計、フリーネス計、溶存酸素計、ゼータ電位計、残留塩素計、硫化水素計、リテンション・ろ水度計、カラーセンサ、過酸化水素計等を用いることができる。
【0070】
なお、制御パラメータ等は、装置の制御のために直接入力するものをそのまま用いる場合もあり、そのようなデータを装置から通信して授受してもよいし、装置のオペレータなどが制御パラメータの記録のために、装置以外に記録しておいてもよい。
【0071】
本実施形態に係る推測システム等の対象とする水系としては、特に限定されず、例えば紙製品を製造する工程における水系であってよい。具体的に、紙製品を製造する工程であれば、蒸解工程、洗浄工程、黒液濃縮工程、苛性化工程等が挙げられる。また、対象とする水系としては、紙製品を製造する工程以外の水系以外でもよく、例えば各種の配管、熱交換器、貯蔵タンク、窯、洗浄装置等が挙げられる。
【0072】
〔推測システムのハードウェア構成〕
図3は、本実施形態に係る推測装置のハードウェア構成を示す概略図である。
図3に示されるように、推測装置2は、通信部51と、記憶部52と、制御部53とを有し、これらの構成要素が推測装置2の内部において通信バス54を介して電気的に接続されている。以下、これらの構成要素についてさらに説明する。
【0073】
通信部51は、USB、IEEE1394、Thunderbolt、有線LANネットワーク通信等といった有線型の通信手段が好ましいが、無線LANネットワーク通信、3G/LTE/5G等のモバイル通信、Bluetooth(登録商標)通信等を必要に応じて含めることができる。すなわち、これら複数の通信手段の集合として実施することがより好ましい。これにより推測装置2と通信可能な他の機器との間で情報や命令のやりとりが実行される。
【0074】
記憶部52は、上述記載により定義される様々な情報を記憶する。これは、例えばソリッドステートドライブ(Solid State Drive:SSD)等のストレージデバイスとして、または、プログラムの演算に係る一時的に必要な情報(引数、配列等)を記憶するランダムアクセスメモリ(Random Access Memory:RAM)等のメモリとして実施され得る。また、記憶部52は、これらの組合せであってもよい。また、記憶部52は、後述する制御部53が読み出し可能な各種のプログラムを記憶している。
【0075】
制御部53は、推測装置2に関連する全体動作の処理・制御を行う。この制御部53は、例えば中央処理装置(Central Processing Unit:CPU、図示せず。)である。制御部53は、記憶部52に記憶された所定のプログラムを読み出すことによって、推測装置2に係る種々の機能を実現するものである。すなわち、ソフトウェア(記憶部52に記憶されている。)による情報処理がハードウェア(制御部53)によって具体的に実現されることで、
図3に示されるように、制御部53における各機能部として実行され得る。なお、
図3においては、単一の制御部53として表記されているが、実際にはこれに限るものではなく、機能ごとに複数の制御部53を有するように構成してもよく、また、単一の制御部と複数の制御部を組合せてもよい。
【0076】
〔関係性モデル作成の例〕
以下、関係性モデル作成の例について説明する。具体的には、水質パラメータx、水質パラメータy及び制御パラメータzを用いて、見込結果に関連する指標aを算出し、この見込結果に関連する指標aと見込結果としてのトラブル発生回数A(回数/日)を算出する場合について説明する。
【0077】
関係性モデルの作成にあたって、下記表1に示す水質パラメータx、水質パラメータy、制御パラメータzを測定するとともに、トラブル発生回数Aも測定し、合計30組のデータを取得する。取得したデータを下記表1に示す。
【0078】
見込結果に関連する指標aは、「パラメータ」をx、y、zとし、b
nをx,y,zの係数とし、a
0,b
0を定数として下記式(1)で表される。
【数1】
【0079】
トラブル発生回数Aの実測値と式(1)の見込結果に関連する指標aに基づいて負の二項回帰分析を行う。これより算出される見込結果に関連する指標aを表1にあわせて示す。また、
図4は、合計30組のデータセットのトラブル発生回数A対見込結果に関連する指標aのプロットである。トラブル発生回数Aと見込結果に関連する指標aとの相関係数は、r=0.78(p<0.05)であり、強い相関が認められる。
【0080】
【0081】
また、
図5は、見込結果に関連する指標aに対する各パラメータの影響の大小を示すグラフである。この例においては、制御パラメータz、水質パラメータx、水質パラメータyの順に見込結果に関連する指標aに対し影響が大きいといえる。各パラメータの標準化得点を用いて負の二項回帰分析を行うことにより、
図5の結果が得られる。なお、標準化得点は、(個別の数値-平均値)/標準偏差で求めることができる。
【0082】
なお、回帰分析に用いた見込結果に関連する指標aと、水質パラメータx、水質パラメータy及び制御パラメータzとの関数は、上記式(1)に限られず、一般式(2)を用いることができる。
【数2】
【0083】
以上のような推測システム1、推測装置2によれば、水系Wにおけるトラブルの発生や水系Wを介して製造される製品の品質を定量的に推測することができる。特に、トラブルの発生や製品の品質に影響を与えるパラメータの数が多くても、それぞれの影響をより正確に考慮してトラブルの発生や製品の品質を予測することができる。
【0084】
<推測プログラム>
本実施形態に係る推測プログラムは、推測プログラムは、水系において又は水系から派生して今後生じ得る見込結果を推測するための推測プログラムである。具体的に、この推測プログラムは、コンピュータを、パラメータ情報取得部、関係性モデル情報取得部及び推測部として機能させるものである。パラメータ情報取得部は、水系の水質に関する水質パラメータ、水系、水系に関連する設備又は水系に添加する原料の制御条件に関する制御パラメータ、及び見込結果と異なる意味を持つパラメータであって水系、水系に関連する設備若しくは水系に添加する原料において又は水系、水系に関連する設備若しくは水系に添加する原料から派生して生じた結果に関する結果パラメータのうちいずれか1種であるパラメータを2つ以上含むパラメータ情報を取得するものである。関係性モデル情報取得部は、事前に作成した、見込結果又は見込結果に関連する指標と、2つ以上のパラメータとの関係を示す関係性モデル情報を取得するものである。推測部は、パラメータ情報及び関係性モデル情報に基づいて、見込結果又は見込結果に関連する指標を推測するものである。
【0085】
なお、パラメータ情報取得部、関係性モデル情報取得部及び推測部については、上述した推測システムと同様のものを用いることができるため、ここでの説明は省略する。
【0086】
<推測方法>
本実施形態に係る推測方法は、水系において又は水系から派生して今後生じ得る見込結果を推測するための推測方法である。具体的に、この推測方法は、パラメータ情報取得工程と、関係性モデル情報取得工程と、推測工程とを備えるものである。パラメータ情報取得工程では、水系の水質に関する水質パラメータ、水系、水系に関連する設備又は水系に添加する原料の制御条件に関する制御パラメータ、及び見込結果と異なる意味を持つパラメータであって水系、水系に関連する設備若しくは水系に添加する原料において又は水系、水系に関連する設備若しくは水系に添加する原料から派生して生じた結果に関する結果パラメータのうちいずれか1種であるパラメータを2つ以上含むパラメータ情報を取得する。関係性モデル情報取得工程では、事前に作成した、見込結果又は見込結果に関連する指標と、2つ以上のパラメータとの関係を示す関係性モデル情報を取得する。推測工程では、パラメータ情報及び関係性モデル情報に基づいて、見込結果又は見込結果に関連する指標を推測する。
【0087】
図6は、本実施形態に係る推測方法のフローチャート図である。
図6に示すとおり、本実施形態に係る支援方法においては、パラメータ情報を取得する(パラメータ情報取得工程S1)とともに、関係性モデル情報を取得し(関係性モデル情報取得工程S2)、これらを入力情報として、見込結果又は見込結果に関連する指標を推測する(推測工程S3)。
【実施例0088】
以下、本発明について実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0089】
〔実施例1〕
洋紙生産設備の水系(原料系、抄紙系、回収系からなる連続した水系)の原料系1で酸化還元電位を、原料系2で酸化還元電位を、抄紙系で酸化還元電位、濁度、pH、水温を、回収系で泡高さをそれぞれ水質パラメータとして測定し、対応する紙製品の製造前24時間の平均値を用いた。
図7は、実施例1における紙を製造する設備の概略模式図である。また、結果パラメータとして紙製品の米坪を測定した。さらに、紙製品の欠点数を測定し、これらのデータセットを572組用意した。このデータセットのうち時系列順で前半65%(372組)のデータセットを用いて、24時間以内に発生する欠点数と、7つの水質パラメータ及び1つの結果パラメータの関数(以下、「欠点インデックスα」ということもある)の関係性モデルを作成した。より具体的に、欠点インデックスαの作成の手順としては、平均値から2標準偏差以上離れているパラメータを外れ値として除外した上で、IBM社のSPSS Modelerを使用して回帰分析を行った。回帰分析により得られた欠点インデックスαと欠点数との相関係数は0.71(p<0.05)であり強い相関が認められた。
【0090】
次に、将来発生する欠点数に対する欠点インデックスαの予測精度を検証するため、データセットのうち時系列順で後半35%(200組)のデータセットについて、水質パラメータ及びパラメータを上述の関係性モデルに当てはめて欠点インデックスαを算出し、欠点数との相関係数を算出したところ、その値は0.71(p<0.05)であった。このことから欠点数と欠点インデックスαとの間には強い相関があり、欠点インデックスαは将来発生する欠点数の予測に有効であることが確認された。
【0091】
図8は、実施例1の合計572組のデータセットの欠点数対欠点インデックスαのプロットである。なお、
図8において、関係性モデル作成用の372組のデータセットを円形、精度検証用の200組のデータセットを四角形でそれぞれ示した。
【0092】
図9は、欠点インデックスαに対する各パラメータの影響の大小を示すグラフである。欠点数を減らす処理を検討する際には、このようにして欠点インデックス(欠点数に比例)に対して影響の大きいパラメータを特定し、それが変動する原因を優先的に調査、改善することにより効率的に欠点数を減らすこともできる。
【0093】
〔実施例2〕
段ボール原紙(ライナー)生産設備の原料系1~3でpH、電気伝導率を、原料系2でpH、酸化還元電位を、原料系3でpH、電気伝導率、抄紙系:水温、電気伝導率をそれぞれ水質パラメータとして測定した(
図7参照)。また、水質パラメータ測定と同時間に製造された紙製品の紙力剤使用量原単位を測定し、これらのデータセットを60組用意した。これらのデータセットをランダムに7:3に区分し、70%(42組)を関係性モデル作成用データ、30%(18組)をモデル検証用データとして用いた。
【0094】
まず、関係性モデル作成用データを用いて、紙力剤使用量原単位の逆数を示す関係性モデルを「紙力インデックス」とし、上述した8個の水質パラメータの関数として作成した。より具体的に、紙力インデックス作成の手順としては、平均値から2標準偏差以上離れているパラメータを外れ値として除外した上で、IBM社のSPSS Modelerを使用して回帰分析を行った。回帰分析により得られた紙力インデックスと紙力剤使用量原単位との相関係数は-0.58(p<0.05)であり相関が認められた。
【0095】
次に、紙力インデックスの精度を検証するため、データセットのうち残りの30%のデータセットについて、水質パラメータから紙力インデックスを算出し、紙力剤使用量原単位との相関係数を算出したところ、その値は-0.59(p<0.05)であり、紙力剤使用量原単位と紙力インデックスとの間には相関があることが確認された。
【0096】
図10は、実施例2の合計60組のデータセットの紙力剤使用量原単位対紙力インデックス値のプロットである。なお、
図10において、関係性モデル作成用の42組のデータセットを円形、精度検証用の18組のデータセットを四角形でそれぞれ示した。
【0097】
図11は、紙力インデックスに対する各パラメータの影響の大小を示すグラフである。紙製品の強度(紙力)の安定化や、紙力剤使用量原単位の改善を検討する際には、このようにして紙力インデックス(紙力使用量原単位に比例)に対して影響の大きいパラメータを特定し、それが変動する原因を優先的に調査、改善することにより効率的に製品強度(紙力)を安定化させ、紙力剤使用量原単位を改善することもできる。
【0098】
〔実施例3〕
板紙生産設備の水系(原料系、抄紙系、回収水からなる連続した水系)の原料系で温度、pH、酸化還元電位、電気伝導度、濁度、静置上積み濁度、抄紙系でpH、酸化還元電位、電気伝導度、濁度、回収系で濁度をそれぞれ水質パラメータとして測定した(
図7参照)。制御パラメータとして操業稼働タイミング、抄紙速度、内添薬品添加量、フェルト含水率、紙中灰分、製品米坪、製品銘柄を用いた。さらに断紙タイミングを測定し、これらのデータセットを138,276組用意した。なお、水質パラメータ、制御パラメータ及び断紙タイミングは、同じ時間のものを用いた。このデータセットを用いて、実施例1及び実施例2と同様にして、24時間以内に発生する断紙と上述した水質パラメータ及び制御パラメータの関数(以下、「断紙インデックス」ということもある)の関係性モデルを作成した。具体的には、断紙発生指標作成の手順としては、平均値から2標準偏差以上離れているパラメータを外れ値として除外した上で、IBM社のSPSS Modelerを使用して回帰分析を行い、関係性モデルを作成した。なお、データセット数が膨大であるため、プロット図は省略する。
【0099】
同じ板紙生産設備の水系で、実操業(板紙生産)の際に、水質パラメータ及び制御パラメータを測定し、上述したようにして作成した関係性モデルを用いて、断紙インデックスを求めた。また、これに対応する実際の断紙発生回数を測定した。それぞれ日時を変えて合計2回測定を行った。
【0100】
図12及び
図13は、断紙の発生及び断紙インデックスの経時変化を示すグラフである。
図12及び
図13においては、縦軸に断紙の発生及び断紙インデックスを、横軸に時間を示している。円形が実際の断紙の発生の有無(0のときには断紙発生無、1のときには断紙発生有)を示しており(縦軸左)、四角形が断紙インデックスを示している(縦軸右)。
図12及び
図13から、断紙インデックスが1に近づくと実際に断紙が発生することが明らかである。断紙インデックスに対する閾値を適切に設けることで、断紙を予測することができることが分かった。
【0101】
[実施例4]
洋紙生産設備の水系(原料系、抄紙系、回収系、排水系からなる連続した水系)の原料系1でpH、濁度を、抄紙系で酸化還元電位を、排水系で電気伝導率をそれぞれ水質パラメータとして測定し、対応する紙製品の製造16時間前の測定値を用いた。
図14は、実施例4における紙を製造する設備の概略模式図である。また、制御パラメータとして紙製品の抄速を測定した。さらに、結果パラメータとして紙製品の米坪を測定した。あわせて紙製品の欠点数を測定し、これらのデータセットを647組用意した。このデータセットを用いて、欠点数と、4つの水質パラメータ、1つの制御パラメータ及び1つの結果パラメータの関数(以下、「欠点インデックスβ」ということもある)の関係性モデルを作成した。より具体的に、欠点インデックスβ作成の手順としては、平均値から2標準偏差以上離れているパラメータを外れ値として除外した上で、統計解析向けのプログラミング言語であるR言語のパッケージKFASを使用して状態空間モデルによる解析を行った。状態空間モデルにより得られた欠点インデックスβと欠点数との相関係数は0.62(p<0.05)であり、相関があることが確認された。
【0102】
将来発生する欠点数に対する欠点インデックスβの予測精度を検証するために、16時間毎に直近647組のデータセットを用いて、16時間先までの欠点インデックスβを算出する解析を1時間おきに1バッチ、合計16バッチ(16回)順に繰り返し、255組の欠点インデックスβを得た。なお、172~264時間の間、洋紙の生産を停止した。これらの欠点インデックスβと、16時間後までに実際に発生した欠点数との相関係数を算出したところ、その値は0.80(p<0.05)であった。このことから欠点数と欠点インデックスβとの間には強い相関があり、欠点インデックスβは将来発生する欠点数の予測に有効であることが確認された。
【0103】
図15は、実施例4の合計647組のデータ作成用のデータセットの欠点数対欠点イン デックスβ値のプロットである。また、
図16は、実施例4の合計255組の精度検証用のデータセットの欠点数対データ作成用の欠点インデックスβ値のプロットである。
【0104】
図17は、実施例4の精度検証用の合計255組のデータセットから算出した欠点インデックスの経時変化を示すプロットである。
【0105】
図18は、欠点インデックスβに対する各パラメータの影響の大小を示すグラフである。欠点数を減らす処理を検討する際には、このようにして欠点インデックスβ(欠点数に比例)に対して影響の大きいパラメータを特定し、それが変動する原因を優先的に調査、改善することにより効率的に欠点数を減らすこともできる。
【0106】
[実施例5]
洋紙生産設備の水系(原料系、抄紙系、回収系、排水系からなる連続した水系)の原料系でpH、濁度を、抄紙系で酸化還元電位を、排水系で電気伝導率をそれぞれ水質パラメータとして測定し用いた(
図14参照)。また、制御パラメータとして紙製品の抄速を測定した。さらに、結果パラメータとして紙製品の米坪を測定した。あわせて紙製品の欠点数を測定し、これらのデータセットを631組用意した。このデータセットを用いて、欠点数と、4つの水質パラメータ、1つの制御パラメータ及び1つの結果パラメータの関数(以下、「欠点インデックスγ」ということもある)の関係性モデルを作成した。より具体的に、欠点インデックスγ作成の手順としては、平均値から2標準偏差以上離れているパラメータを外れ値として除外した上で、統計解析向けのプログラミング言語であるR言語のパッケージvarsを使用して時系列分析の一種であるVARモデルによる解析を行った。VARモデルにより得られた欠点インデックスγと実際に発生した欠点数が連動することが確認された。
【0107】
将来発生する欠点数に対する欠点インデックスγの予測精度を検証するために、6時間毎に直近631組のデータセットを用いて、6時間先までの欠点インデックスγを算出する解析を1時間おきに1バッチ、合計46バッチ(46回)順に繰り返し、271組の欠点インデックスγを得た。これらの欠点インデックスγと、6時間後までに実際に発生した欠点数との相関係数を算出したところ、その値は0.64(p<0.05)であった。このことから欠点数と欠点インデックスγとの間には相関があり、将来発生する欠点数の予測に有効であることが確認された。
【0108】
図19は関係性モデル作成用の合計631組のデータセットの欠点数対欠点インデックスγ値のプロットである。
図20は、実施例5の精度検証用の合計255組のデータセットの欠点数対欠点インデックスγ値のプロットである。
【0109】
図21は、実施例5の精度検証用の合計271組のデータセットから算出した欠点インデックスの経時変化を示すプロットである。
【0110】
図22は、欠点インデックスγに対する各パラメータの影響の大小を示すグラフである。なお、
図22においては、有意水準10%で有意(p<0.10)であるパラメータのみを示した。欠点数を減らす処理を検討する際には、このようにして欠点インデックスγ(欠点数に比例)に対して影響の大きいパラメータを特定し、それが変動する原因を優先的に調査、改善することにより効率的に欠点数を減らすこともできる。
【0111】
[実施例6]
洋紙生産設備の水系(原料系、抄紙系、排水系からなる連続した水系)の原料系でpH、濁度を、抄紙系で酸化還元電位を、排水系で電気伝導率をそれぞれ水質パラメータとして測定し、対応する紙製品の製造16時間前の数値を用いた(
図14参照)。また、制御パラメータとして紙製品の抄速を測定した。また、結果パラメータとして紙製品の米坪と紙製品の欠点数を測定し、これらのデータセットを1706組用意した。このデータセットのうち時系列順で前半71%(1216組)のデータセットを用いて、16時間後に発生する欠点数と、4つの水質パラメータ、1つの制御パラメータ及び1つの結果パラメータの関数(以下、「欠点インデックスδ」ということもある)の関係性モデルを作成した。より具体的に、欠点インデックスδ作成の手順としては、平均値から2標準偏差以上離れているパラメータを外れ値として除外した上で、IBM社のSPSSModelerを使用してニューラルネットワークの一種である多層パーセプトロンによる解析を行った。多層パーセプトロンにより得られた欠点インデックスδと欠点数との相関係数は0.73(p<0.05)であり強い相関が認められた。
【0112】
次に、欠点インデックスδの将来発生する欠点数に対する予測精度を検証するため、データセットのうち時系列順で後半29%(490組)のデータセットについて、水質パラメータ及びパラメータを上述の関係性モデルに当てはめて欠点インデックスδを算出し、欠点数との相関係数を算出したところ、その値は0.73(p<0.05)であった。このことから欠点数と欠点インデックスδとの間には強い相関があり、将来発生する欠点数の予測に有効であることが確認された。
【0113】
図23は、実施例6の関係性モデル作成用の合計1216組のデータセットの欠点数対欠点インデックスδ値のプロットである。
図24は、実施例6の精度検証用の合計490組のデータセットの欠点数対欠点インデックスδ値のプロットである。実施例6のデータセットの欠点数対欠点インデックスδ値のプロットである。
【0114】
図25は、欠点インデックスδに対する各パラメータの影響の大小を示すグラフである。欠点数を減らす処理を検討する際には、このようにして欠点インデックスδ(欠点数に比例)に対して影響の大きいパラメータを特定し、それが変動する原因を優先的に調査、改善することにより効率的に欠点数を減らすこともできる。
【0115】
[実施例7]
洋紙生産設備の水系(原料系、抄紙系、排水系からなる連続した水系)の原料系でpH、濁度を、抄紙系で酸化還元電位を、排水系で電気伝導率をそれぞれ水質パラメータとして測定し、対応する紙製品の製造16時間前の数値を用いた(
図14参照)。また、制御パラメータとして種箱の流量と紙製品の抄速を測定した。また、結果パラメータとして紙製品の米坪と紙製品の欠点数を測定し、これらのデータセットを2040組用意した。このデータセットのうち時系列順で前半74%(1503組)のデータセットを用いて、16時間後に発生する欠点数と、4つの水質パラメータ、2つの制御パラメータ及び1つの結果パラメータの関数(以下、「欠点インデックスε」ということもある)の関係性モデルを作成した。より具体的に、欠点インデックスε作成の手順としては、平均値から2標準偏差以上離れているパラメータを外れ値として除外した上で、IBM社のSPSSModelerを使用して決定木及びアンサンブル学習の一種であるXGBoostによる解析を行った。XGBoostにより得られた欠点インデックスεと欠点数との相関係数は0.95(p<0.05)であり強い相関が認められた。
【0116】
次に、欠点インデックスεの将来発生する欠点数に対する予測精度を検証するため、データセットのうち時系列順で後半26%(537組)のデータセットについて、水質パラメータ及びパラメータを上述の関係性モデルに当てはめて欠点インデックスεを算出し、欠点数との相関係数を算出したところ、その値は0.57(p<0.05)であった。このことから欠点数と欠点インデックスεとの間には相関があり、将来発生する欠点数の予測に有効であることが確認された。
【0117】
図26は、実施例7の関係性モデル作成用の合計1503組のデータセットの欠点数対欠点インデックスεのプロットである。
図27は、実施例7の精度検証用の合計537組のデータセットの欠点数対欠点インデックスεのプロットである。
【0118】
図28は、欠点インデックスεに対する各パラメータの影響の大小を示すグラフである。欠点数を減らす処理を検討する際には、このようにして欠点インデックスε(欠点数に比例)に対して影響の大きいパラメータを特定し、それが変動する原因を優先的に調査、改善することにより効率的に欠点数を減らすこともできる。