(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037908
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】化合物
(51)【国際特許分類】
C07D 487/04 20060101AFI20240312BHJP
G02F 1/1337 20060101ALI20240312BHJP
C09K 19/56 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
C07D487/04 137
G02F1/1337 525
C09K19/56
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023211787
(22)【出願日】2023-12-15
(62)【分割の表示】P 2021502095の分割
【原出願日】2020-02-19
(31)【優先権主張番号】P 2019029354
(32)【優先日】2019-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】小西 玲久
(72)【発明者】
【氏名】森内 正人
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明の主目的は、液晶配向性やその他の特性を低下することなく、液晶配向膜の機械的強度を向上させることができる液晶配向剤を提供することである。
【解決手段】下記の化合物。
【効果】本発明の液晶配向剤を用いることで、液晶配向性やその他の特性を低下することなく、液晶配向膜の機械的強度を向上させた液晶配向膜を得ることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示素子の製造に用いられる液晶配向剤、この液晶配向剤から得られる液晶配向膜及びこの液晶配向膜を使用した液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、軽量、薄型かつ低消費電力の表示デバイスとして知られている。液晶表示素子は、電極を備えた透明な一対の基板により液晶層を挟持して構成される。液晶表示素子では、液晶が基板間で所望の配向状態となるように、有機材料からなる有機膜が液晶配向膜として使用されている。
近年、スマートフォンやタブレット型端末向けの高精細液晶表示素子において、高い表示品位が求められている中、液晶配向膜にも、液晶配向性の他に、種々の特性が高いレベルで要求されている。
【0003】
それらの要求を達成する為、液晶配向膜を作製するための液晶配向剤に、種々の特性を有する低分子化合物を添加する手法が広く用いられている。例えば、得られる液晶配向膜の機械的強度を向上させる為、液晶配向膜の硬度を向上させる低分子化合物を含有する液晶配向剤が提案されている(特許文献1、2参照)。この低分子化合物には、液晶配向膜作製工程において行われる加熱工程で、架橋反応を起こす基が含有されており、架橋により重合体同士が連結されることで、得られる液晶配向膜の機械的強度を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-544185号公報
【特許文献2】特許617911号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記手法の一般的な課題として、液晶配向性の低下が挙げられる。液晶配向膜中の重合体が3次元的に架橋することにより、液晶が一定方向に配向することを阻害してしまう。また、未反応の低分子化合物の存在も、液晶配向に悪影響を与えることがある。
【0006】
本発明の主目的は、液晶配向性やその他の特性を低下することなく、液晶配向膜の機械的強度を向上させることができる液晶配向剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の要旨は以下に示す通りである。
1.下記の(A)成分、(B)成分、及び有機溶剤を含有することを特徴とする液晶配向剤。
【0008】
(A)成分:ポリイミド前駆体及び該ポリイミド前駆体のイミド化重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種類の重合体。
【0009】
(B)成分:ヒドロキシアルキルアミド基を有する基及び下記式(1)の構造を有する化合物。
【0010】
【0011】
R1~R4は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1~5のアルキル基を表し、*は他の原子との結合を表す。
【発明の効果】
【0012】
本発明の液晶配向剤を用いることで、液晶配向性やその他の特性を低下することなく、液晶配向膜の機械的強度を向上させた液晶配向膜を得ることができる。
【0013】
本発明により、なぜ上述の効果が得られるかについては、必ずしも明らかではないが、概ね次のように考えられる。
【0014】
本発明の液晶配向剤が含有する(B)成分の化合物には、式(1)のように、ポリイミド骨格の構造を有している。このように、(A)成分の重合体に類似した構造を化合物が有している為、液晶が重合体に沿って配向することを阻害しないことが考えられる。また、偏光紫外線を照射して液晶を配向させる工程で得られる液晶配向膜においては、式(1)中のシクロブタン構造が偏光紫外線照射によって分解するため、液晶の配向を阻害しないことも考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<(A)成分>
本発明の液晶配向剤に含まれる(A)成分は、ポリイミド前駆体及び該ポリイミド前駆体のイミド化重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種類の重合体であり、その構造は特に限定されない。
【0016】
<テトラカルボン酸誘導体>
本発明の液晶配向剤に含有されるポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸誘導体と、ジアミンとの反応から得られ、ポリイミドは、ポリイミド前駆体をイミド化することにより得られる。以下に、用いられる材料の具体例及び製造方法を詳述する。
【0017】
ポリイミド前駆体の製造に用いられるテトラカルボン酸誘導体としては、テトラカルボン酸二無水物だけでなく、その誘導体である、テトラカルボン酸、テトラカルボン酸ジハライド化合物、テトラカルボン酸ジアルキルエステル、テトラカルボン酸ジアルキルエステルジハライドが挙げられる。
【0018】
テトラカルボン酸二無水物又はその誘導体としては、なかでも、下記式(2)で表されるものが好ましい。
【0019】
【0020】
式(2)中、X1の構造は特に限定されない。好ましい具体例としては、下記式(X1-1)~(X1-44)が挙げられる。
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
式(X1-1)~(X1-4)において、R11~R31は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、フッ素原子を含有する炭素数1~6の1価の有機基、又はフェニル基である。液晶配向性の点から、R3~R23は、水素原子、ハロゲン原子、メチル基、又はエチル基が好ましく、水素原子、又はメチル基が好ましい。
【0028】
式(X1-1)の具体例としては、下記式(X1-1-1)~(X1-1-6)が挙げられる。液晶配向性及び光反応の感度の点から、(X1-1-1)が特に好ましい。
【0029】
【0030】
<ジアミン>
ポリイミド前駆体の製造に用いられるジアミンは、下記式(3)で表される。
【0031】
【0032】
上記式(3)中、A1及びA2はそれぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1~5のアルキル基、炭素数2~5のアルケニル基、又は炭素数2~5のアルキニル基である。
【0033】
Y1の構造は特に限定されない。好ましい構造としては以下の(Y-1)~(Y-182)が挙げられる。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
上記式中、Meは、メチル基を表し、R1は水素原子または炭素数1~5の炭化水素基を表す。
【0055】
【0056】
なかでも、Y1の構造としては、(Y-7)、(Y-8)、(Y-16)、(Y-17)、(Y-18)、(Y-20),(Y-21)、(Y-22)、(Y-28)、(Y-35)、(Y-38)、(Y-43)、(Y-48)、(Y-64),(Y-66)、(Y-71)、(Y-72)、(Y-76),(Y-77)、(Y-80)、(Y-81)、(Y-82)、(Y-83)、(Y-156)、(Y-159)、(Y-160)、(Y-161)、(Y-162)(Y-168)、(Y-169)、(Y-170)、(Y-171)、(Y-173)、(Y-175)が好ましく、特には、(Y-7)、(Y-8)、(Y-16)、(Y-17)、(Y-18)、(Y-21)、(Y-22)、(Y-28)、(Y-38)、(Y-64)、(Y-66)、(Y-72)、(Y-76)、(Y-81)、(Y-156)、(Y-159)、(Y-160)、(Y-161)、(Y-162)、(Y-168)、(Y-169)、(Y-170)、(Y-171)、(Y-173)、(Y-175)が好ましい。
【0057】
<(B)成分>
本発明の液晶配向剤に含有される(B)成分は、ヒドロキシアルキルアミド基を有する基及び下記式(1)の構造を有する化合物である。
【0058】
【0059】
R1~R4は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1~5のアルキル基を表す。
好ましくは、水素原子もしくはメチル基である。*は他の原子との結合を表す。
【0060】
(B)成分中、ヒドロキシアルキルアミド基は、2個以上有していることが好ましい。ヒドロキシアルキルアミド基を2個以上有する基の構造は特に限定されないが、入手性等の点から、好ましい例として、下記式(4)で表される化合物が挙げられる。
【0061】
【0062】
X2は炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基を含むn+1価の有機基であり、nは2~6の整数であり、*は(1)との結合を表す。
【0063】
R5及びR6は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1~4のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数2~4のアルケニル基、又は置換基を有してもよい炭素数2~4のアルキニル基である。また、R5及びR6のうち少なくとも1つは、ヒドロキシ基で置換された炭化水素基を表す。
【0064】
式(4)中、nは、溶解性の観点から、2~4が好ましい。
【0065】
式(4)中、R5及びR6のうち少なくとも1つは、下記式(5)で表される構造であることが、反応性の観点から好ましく、下記式(6)で表される構造であることがさらに好ましい。
【0066】
【0067】
式(5)中、R7~R10は、それぞれ独立して、水素原子、炭化水素基、又はヒドロキシ基で置換された炭化水素基である。
【0068】
【0069】
(B)成分の好ましい具体例としては、下記の化合物が挙げられる。
【0070】
【0071】
(B)成分は、多すぎると液晶配向性やプレチルト角に影響を与え、少なすぎると本発明の効果が得られない。そのため、(B)成分の含有量は、(A)成分に対して、3~30質量%が好ましく、5~15質量%がより好ましい。
【0072】
<ポリアミック酸>
本発明に用いられるポリイミド前駆体であるポリアミック酸は、以下に示す方法で製造できる。具体的には、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを有機溶媒の存在下、-20℃~150℃、好ましくは0℃~50℃で、30分~24時間、好ましくは1~12時間反応させることによって合成できる。
【0073】
上記の反応に用いる有機溶媒は、モノマー及びポリマーの溶解性からN,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、又はγ-ブチロラクトンが好ましく、これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。ポリマーの濃度は、ポリマーの析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという観点から、1~30質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。
【0074】
上記のようにして得られたポリアミック酸は、反応溶液をよく撹拌させながら貧溶媒に注入することで、ポリマーを析出させて回収することができる。また、析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥することで精製されたポリアミック酸の粉末を得ることができる。貧溶媒は、特に限定されないが、水、メタノール、エタノール、ヘキサン、ブチルセロソルブ、アセトン、トルエン等が挙げられる。
【0075】
<ポリアミック酸エステル>
本発明に用いられるポリイミド前駆体の一つであるポリアミック酸エステルは、以下に示す(1)、(2)又は(3)の方法で製造できる。
【0076】
(1)ポリアミック酸から製造する場合
ポリアミック酸エステルは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンから得られるポリアミック酸をエステル化することによって合成できる。具体的には、ポリアミック酸とエステル化剤を有機溶剤の存在下で-20℃~150℃、好ましくは0℃~50℃において、30分~24時間、好ましくは1~4時間反応させることによって合成できる。
【0077】
エステル化剤としては、精製によって容易に除去できるものが好ましく、N,N-ジメチルホルムアミドジメチルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジエチルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジプロピルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジネオペンチルブチルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジ-t-ブチルアセタール、1-メチル-3-p-トリルトリアゼン、1-エチル-3-p-トリルトリアゼン、1-プロピル-3-p-トリルトリアゼン、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジンー2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリドなどが挙げられる。エステル化剤の使用量は、ポリアミック酸の繰り返し単位1モルに対し2~6モル当量が好ましい。
【0078】
上記の反応に用いる溶媒は、ポリマーの溶解性からN,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、又はγ-ブチロラクトンが好ましく、これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。反応液中のポリマーの濃度は、ポリマーの析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという観点から、1~30質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。
【0079】
(2)テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミンとの反応により製造する場合
ポリアミック酸エステルは、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミンから製造できる。具体的には、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミンとを塩基と有機溶剤の存在下で-20℃~150℃、好ましくは0℃~50℃において、30分~24時間、好ましくは1~4時間反応させることによって合成することができる。
【0080】
前記塩基には、ピリジン、トリエチルアミン、4-ジメチルアミノピリジンなどが使用できるが、反応が穏和に進行するためにピリジンが好ましい。塩基の使用量は、除去が容易な量で、かつ高分子量体が得やすいという観点から、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドに対し、2~4倍モルが好ましい。
【0081】
上記の反応に用いる溶媒は、モノマー及びポリマーの溶解性からN-メチル-2-ピロリドン、又はγ-ブチロラクトンが好ましく、これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。反応液中のポリマー濃度は、ポリマーの析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという観点から、1~30質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。また、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドの加水分解を防ぐため、ポリアミック酸エステルの合成に用いる溶媒はできるだけ脱水されていることが好ましく、窒素雰囲気中で、外気の混入を防ぐのが好ましい。
【0082】
(3)テトラカルボン酸ジエステルとジアミンとの反応により製造する場合
ポリアミック酸エステルは、テトラカルボン酸ジエステルとジアミンを重縮合することにより製造できる。具体的には、テトラカルボン酸ジエステルとジアミンを縮合剤、塩基、及び有機溶剤の存在下で0℃~150℃、好ましくは0℃~100℃において、30分~24時間、好ましくは3~15時間反応させることによって製造できる。
【0083】
前記縮合剤には、トリフェニルホスファイト、ジシクロヘキシルカルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、N,N’-カルボニルジイミダゾール、ジメトキシ-1,3,5-トリアジニルメチルモルホリニウム、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウム テトラフルオロボラート、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート、(2,3-ジヒドロ-2-チオキソ-3-ベンゾオキサゾリル)ホスホン酸ジフェニルなどが使用できる。縮合剤の添加量は、テトラカルボン酸ジエステルに対して2~3倍モルが好ましい。
【0084】
前記塩基には、ピリジン、トリエチルアミンなどの3級アミンが使用できる。塩基の使用量は、除去が容易な量で、かつ高分子量体が得やすいという観点から、ジアミン成分に対して2~4倍モルが好ましい。
【0085】
また、上記反応において、ルイス酸を添加剤として加えることで反応が効率的に進行する。ルイス酸としては、塩化リチウム、臭化リチウムなどのハロゲン化リチウムが好ましい。ルイス酸の添加量はジアミン成分に対して0~1.0倍モルが好ましい。
【0086】
上記3つのポリアミック酸エステルの製造方法の中でも、高分子量のポリアミック酸エステルが得られるため、上記(1)又は上記(2)の製造方法が特に好ましい。
【0087】
上記のようにして得られるポリアミック酸エステルの溶液は、よく撹拌させながら貧溶媒に注入することで、ポリマーを析出させることができる。析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥して精製されたポリアミック酸エステルの粉末を得ることができる。貧溶媒は、特に限定されないが、水、メタノール、エタノール、ヘキサン、ブチルセロソルブ、アセトン、トルエン等が挙げられる。
【0088】
<ポリイミド>
本発明に用いられるポリイミドは、前記ポリアミック酸又はポリアミック酸エステルをイミド化することにより製造できる。本発明で用いられるポリイミドイミド化率は100%に限らない。電気特性の観点から20~99%が好ましい。ポリアミック酸エステルからポリイミドを製造する場合、前記ポリアミック酸エステル溶液、又はポリアミック酸エステル樹脂粉末を有機溶媒に溶解させて得られるポリアミック酸溶液に塩基性触媒を添加する化学的イミド化が簡便である。化学的イミド化は、比較的低温でイミド化反応が進行し、イミド化の課程で重合体の分子量低下が起こりにくいので好ましい。
【0089】
化学的イミド化は、イミド化させたいポリアミック酸又はポリアミック酸エステルを、有機溶媒中において塩基性触媒と酸無水物の存在下で攪拌することにより行うことができる。またその際に下記(R-1)~(R-2)に示されるような化合物を反応させることにより、末端に特定構造を導入したポリイミド前駆体を得られる。有機溶媒としては前述した重合反応時に用いる溶媒を使用することができる。塩基性触媒としてはピリジン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン等を挙げることができる。中でもピリジンは反応を進行させるのに適度な塩基性を持つので好ましい。また、酸無水物としては無水酢酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等を挙げることができ、中でも無水酢酸を用いると反応終了後の精製が容易となるので好ましい。通常、従来のポリイミドの場合は無水酢酸を用いると主鎖末端としてアセチル基が生成するのに対して、本発明はアセチル化を抑制することができる。
【0090】
【0091】
R22、R22’は1価の有機基を表し、その具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、2,2,2-トリクロロエチル基、2-トリメチルシリルエチル基、1,1-ジメチルプロピニル基、1-メチル-1-フェニルエチル基、1-メチル-1-(4-ビフェニルイル)エチル基、1、1-ジメチル-2-ハロエチル基、1,1-ジメチル-2-シアノエチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、1-メチルシクロブチル基、1-アダマンチル基、ビニル基、アリル基、シンナミル基、8-キノリル基、N-ヒドロキシピペリジニル基、ベンジル基、p-ニトロベンジル基、3,4-ジメトキシ-6-ニトロベンジル基、2,4-ジクロロベンジル基、9-フルオニルメチル基等が挙げられる。
【0092】
イミド化反応を行うときの温度は、例えば-20℃~120℃であり、好ましくは0℃~100℃であり、反応時間は1~100時間で行うことができる。塩基性触媒の量はアミック酸基の0.5~30モル倍、好ましくは2~20モル倍であり、酸無水物の量はアミック酸基の1~50モル倍、好ましくは3~30モル倍である。得られる重合体のイミド化率は、触媒量、温度、反応時間を調節することで制御することができる。
【0093】
ポリアミック酸エステル又はポリアミック酸のイミド化反応後の溶液には、添加した触媒等が残存しているので、以下に述べる手段により、得られたイミド化重合体を回収し、有機溶媒で再溶解して、本発明の液晶配向剤とすることが好ましい。
【0094】
上記のようにして得られるポリイミドの溶液は、よく撹拌させながら貧溶媒に注入することで、重合体を析出させることができる。析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥して精製されたポリアミック酸エステルの粉末を得ることができる。
【0095】
前記貧溶媒は、特に限定されないが、メタノール、アセトン、ヘキサン、ブチルセルソルブ、ヘプタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エタノール、トルエン、ベンゼン等が挙げられる。
【0096】
<液晶配向剤>
本発明に用いられる液晶配向剤は、前記した(A)成分であるポリイミド前駆体及び該ポリイミド前駆体のイミド化重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体(以下、特定構造の重合体とする)、及び(B)成分であるヒドロキシアルキルアミド基を有する化合物が、溶媒中に溶解された溶液の形態を有する。
【0097】
特定構造重合体の分子量は、重量平均分子量で2,000~500,000が好ましく、より好ましくは5,000~300,000であり、さらに好ましくは、10,000~100,000である。また、数平均分子量は、好ましくは、1,000~250,000であり、より好ましくは、2,500~150,000であり、さらに好ましくは、5,000~50,000である。
【0098】
本発明の液晶配向剤中の重合体の濃度は、形成させようとする塗膜の厚みの設定によって適宜変更することができるが、均一で欠陥のない塗膜を形成させるという点からは、1質量%以上であることが好ましく、溶液の保存安定性の点からは、10質量%以下とすることが好ましい。特に好ましくは3~6.5質量%である。
【0099】
本発明の液晶配向剤に含有される溶媒(良溶媒ともいう)は、特定構造重合体が均一に溶解するものであれば特に限定されない。
【0100】
例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン又は4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンなどを挙げることができる。
【0101】
なかでも、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、又はγ-ブチロラクトンを用いることが好ましい。
【0102】
さらに、本発明の重合体の溶媒への溶解性が高い場合は、下記式[D-1]~式[D-3]で示される溶媒を用いることが好ましい。
【化38】
(D
1~D
3は炭素数1~6のアルキル基を表す。)
【0103】
本発明の液晶配向剤における良溶媒は、液晶配向剤に含まれる溶媒全体の20~99質量%であることが好ましい。なかでも、20~90質量%が好ましい。より好ましいのは、30~80質量%である。
【0104】
本発明の液晶配向剤は、本発明の効果を損なわない限り、液晶配向剤を塗布した際の液晶配向膜の塗膜性や表面平滑性を向上させる溶媒(貧溶媒ともいう)を用いることができる。下記に、貧溶媒の具体例を挙げるが、これらの例に限定されるものではない。
【0105】
例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、イソペンチルアルコール、tert-ペンチルアルコール、3-メチル-2-ブタノール、ネオペンチルアルコール、1-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、2-エチル-1-ブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、シクロヘキサノール、1-メチルシクロヘキサノール、2-メチルシクロヘキサノール、3-メチルシクロヘキサノール、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、1,2-ブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン、2-ヘプタノン、4-ヘプタノン、3-エトキシブチルアセタート、1-メチルペンチルアセタート、2-エチルブチルアセタート、2-エチルヘキシルアセタート、エチレングリコールモノアセタート、エチレングリコールジアセタート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、2-(メトキシメトキシ)エタノール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソアミルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、2-(ヘキシルオキシ)エタノール、フルフリルアルコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、1-(ブトキシエトキシ)プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノアセタート、エチレングリコールジアセタート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアセタート、ジエチレングリコールアセタート、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸メチルエチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸、3-メトキシプロピオン酸、3-メトキシプロピオン酸プロピル、3-メトキシプロピオン酸ブチル、乳酸メチルエステル、乳酸エチルエステル、乳酸n-プロピルエステル、乳酸n-ブチルエステル、乳酸イソアミルエステル、前記式[D-1]~式[D-3]で示される溶媒などを挙げることができる。
【0106】
なかでも、1-ヘキサノール、シクロヘキサノール、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル又はジプロピレングリコールジメチルエーテルを用いることが好ましい。
【0107】
貧溶媒は、液晶配向剤に含まれる溶媒全体の1~80質量%であることが好ましく、10~80質量%がさらに好ましく、20~70質量%がより好ましい。
【0108】
本発明の液晶配向剤には、上記の他、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、本発明に記載の重合体以外の重合体、液晶配向膜の誘電率や導電性などの電気特性を変化させる目的の誘電体若しくは導電物質、液晶配向膜と基板との密着性を向上させる目的のシランカップリング剤、液晶配向膜にした際の膜の硬度や緻密度を高める目的の架橋性化合物、さらには塗膜を焼成する際にポリイミド前駆体の加熱によるイミド化を効率よく進行させる目的のイミド化促進剤等を添加しても良い。
【0109】
<液晶配向膜>
<液晶配向膜の製造方法>
本発明の液晶配向膜は、上記液晶配向剤を基板に塗布し、乾燥し、焼成して得られる膜である。本発明の液晶配向剤を塗布する基板としては、透明性の高い基板であれば特に限定されず、ガラス基板、窒化珪素基板、アクリル基板、ポリカーボネート基板等のプラスチック基板等を用いることができる。さらに、液晶駆動のためのITO電極等が形成された基板を用いることが、プロセスの簡素化の点から好ましい。また、反射型の液晶表示素子では、片側の基板のみにならばシリコンウエハー等の不透明な物でも使用でき、この場合の電極は、アルミニウム等の光を反射する材料も使用できる。
【0110】
本発明の液晶配向剤の塗布方法としては、スピンコート法、印刷法、インクジェット法などが挙げられる。本発明の液晶配向剤を塗布した後の乾燥、焼成工程は、任意の温度と時間を選択することができる。通常は、含有される溶媒を十分に除去するために、50~120℃、好ましくは60~100℃で、1~10分間、好ましくは2~5分間乾燥させ、その後、150~300℃、好ましくは200~240℃で、5~120分間、好ましくは10~30分間焼成する。焼成後の塗膜の厚みは、特に限定されないが、薄すぎると液晶表示素子の信頼性が低下する場合があるので、5~300nm、好ましくは10~200nmである。
【0111】
得られた液晶配向膜を配向処理する方法としては、ラビング法、光配向処理法などが挙げられる。
【0112】
ラビング処理は、既存のラビング装置を利用して行うことができる。この際のラビング布の材質としては、コットン、ナイロン、レーヨンなどが挙げられる。ラビング処理の条件としては一般に、回転速度300~2000rpm、送り速度5~100mm/s、押し込み量0.1~1.0mmという条件が用いられる。その後、純水やアルコールなどを用いて超音波洗浄により、ラビングで生じた残渣が除去される。
【0113】
光配向処理法の具体例としては、前記塗膜表面に、一定方向に偏向した放射線を照射し、場合によっては、さらに150~250℃の温度で加熱処理を行い、液晶配向能を付与する方法が挙げられる。放射線としては、100~800nmの波長を有する紫外線及び可視光線を用いることができる。このうち、100~400nmの波長を有する紫外線が好ましく、200~400nmの波長を有するも紫外線が特に好ましい。また、液晶配向性を改善するために、塗膜基板を50~250℃で加熱しつつ、放射線を照射してもよい。前記放射線の照射量は、1~10,000mJ/cm2が好ましく、100~5,000mJ/cm2が特に好ましい。上記のようにして作製した液晶配向膜は、液晶分子を一定の方向に安定して配向させることができる。
【0114】
偏光された紫外線の消光比が高いほど、より高い異方性が付与できるため好ましい。具体的には、直線に偏光された紫外線の消光比は、10:1以上が好ましく、20:1以上がより好ましい。
【0115】
上記で、偏光された放射線を照射した膜は、次いで、水及び有機溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む溶媒で接触処理してもよい。
【0116】
接触処理に使用する溶媒としては、光照射によって生成した分解物を溶解する溶媒であれば、特に限定されるものではない。具体例としては、水、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、1-メトキシ-2-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノールアセテート、ブチルセロソルブ、乳酸エチル、乳酸メチル、ジアセトンアルコール、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸シクロヘキシルなどが挙げられる。これらの溶媒は2種以上を併用してもよい。
【0117】
汎用性や安全性の点から、水、2-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール及び乳酸エチルからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。水、2-プロパンール、又は水と2-プロパノールの混合溶媒が特に好ましい。
【0118】
本発明において、偏光された放射線を照射した膜と溶媒を含む溶液の接触処理は、浸漬処理、噴霧(スプレー)処理などの、膜と液とが、好ましくは十分に接触するような方法で行なわれる。なかでも、溶媒を含む溶液中に、好ましくは10秒~1時間、より好ましくは1~30分浸漬処理する方法が好ましい。接触処理は、常温でも加温してもよいが、好ましくは10~80℃、より好ましくは20~50℃で実施される。また、必要に応じて、超音波などの接触を高める手段を施すことができる。
【0119】
接触処理の後に、使用した溶液中の溶媒を除去する目的で、水、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトンなどの低沸点溶媒によるすすぎ(リンス)や乾燥のいずれか、又は両方を行ってよい。
【0120】
さらに、溶媒を含む溶液による接触処理をした膜は、溶媒の乾燥及び膜中の分子鎖の再配向を目的に、150℃以上で加熱してもよい。
【0121】
加熱の温度としては、150~300℃が好ましい。温度が高いほど、分子鎖の再配向が促進されるが、温度が高すぎると分子鎖の分解を伴う恐れがある。そのため、加熱温度としては、180~250℃がより好ましく、200~230℃が特に好ましい。
【0122】
加熱する時間は、短すぎると、分子鎖の再配向の効果が得られない可能性があり、長すぎると、分子鎖が分解してしまう可能性があるため、10秒~30分が好ましく、1~10分がより好ましい。
【0123】
<液晶表示素子>
本発明の液晶表示素子は、前記液晶配向膜の製造方法によって得られた液晶配向膜を具備することを特徴とする。
【0124】
本発明の液晶表示素子は、本発明の液晶配向剤から前記液晶配向膜の製造方法によって液晶配向膜付きの基板を得た後、公知の方法で液晶セルを作製し、それを使用して液晶表示素子としたものである。
【0125】
液晶セルの作製方法の一例として、パッシブマトリクス構造の液晶表示素子を例にとり説明する。尚、画像表示を構成する各画素部分に、TFT(Thin Film Transistor)などのスイッチング素子が設けられたアクティブマトリクス構造の液晶表示素子であってもよい。
【0126】
まず、透明なガラス製の基板を準備し、一方の基板の上にコモン電極を、他方の基板の上にセグメント電極を設ける。これらの電極は、例えば、ITO電極とすることができ、所望の画像表示ができるようにパターニング(Patterning)される。次いで、各基板の上に、コモン電極とセグメント電極を被覆するようにして絶縁膜を設ける。絶縁膜は、例えば、ゾル-ゲル法によって形成された、SiO2-TiO2からなる膜とすることができる。
【0127】
次に、各基板の上に、本発明の液晶配向膜を形成する。次に、一方の基板に他方の基板を互いの配向膜面が対向するようにして重ね合わせ、周辺をシール剤で接着する。シール剤には、基板間隙を制御するために、通常、スペーサーを混入しておく。また、シール剤を設けない面内部分にも、基板間隙制御用のスペーサーを散布しておくことが好ましい。シール剤の一部には、外部から液晶を充填可能な開口部を設けておく。
【0128】
次に、シール剤に設けた開口部を通じて、2枚の基板とシール剤で包囲された空間内に液晶材料を注入する。その後、この開口部を接着剤で封止する。注入には、真空注入法を用いてもよいし、大気中で毛細管現象を利用した方法を用いてもよい。次に、偏光板の設置を行う。具体的には、2枚の基板の液晶層とは反対側の面に一対の偏光板を貼り付ける。以上の工程を経ることにより、本発明の液晶表示素子が得られる。
【0129】
本発明において、シール剤としては、例えば、エポキシ基、アクリロイル基、(メタ)アクリロイル基、ヒドロキシル基、アリル基、アセチル基などの反応性基を有する、紫外線照射や加熱によって硬化する樹脂が用いられる。特に、エポキシ基と(メタ)アクリロイル基の両方の反応性基を有する硬化樹脂系を用いるのが好ましい。
【0130】
本発明のシール剤には、接着性、耐湿性の向上を目的として、無機充填剤を配合してもよい。使用しうる無機充填剤としては、特に限定されないが、具体的には、球状シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ、酸化チタン、チタンブラック、シリコンカーバイド、窒化珪素、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、マイカ、タルク、クレー、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、水酸化アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸リチウムアルミニウム、珪酸ジルコニウム、チタン酸バリウム、硝子繊維、炭素繊維、二硫化モリブデン、アスベスト等が挙げられる。好ましくは、球状シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ、酸化チタン、チタンブラック、窒化珪素、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、マイカ、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、珪酸カルシウム、又は珪酸アルミニウムが挙げられる。前記の無機充填剤は2種以上を混合して用いてもよい。
【実施例0131】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、下記における化合物の略号、及び各特性の測定方法は、以下のとおりである。
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
GBL:γ―ブチルラクトン
BCS:ブチルセロソルブ
THF:テトラヒドロフラン
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
<1HNMRの測定>
装置:フーリエ変換型超伝導核磁気共鳴装置(FT-NMR)「AVANCE 3」(BRUKER製)500MHz。
溶媒:重水素化クロロホルム(CDCl3)又は重水素化N,N-ジメチルスルホキシド([D6]-DMSO)。
標準物質:テトラメチルシラン(TMS)。
【0136】
[粘度]
ポリイミド及びポリアミック酸溶液の粘度は、E型粘度計(東機産業社製、VE-22H)を用い、サンプル量1.1mL、コーンロータTE-1(1°34’、R24)、温度25℃で測定した。
【0137】
[イミド化率の測定]
ポリイミド粉末20mgをNMRサンプル管(草野科学社製 NMRサンプリングチューブスタンダード φ5)に入れ、重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6、0.05%TMS(テトラメチルシラン)混合品)0.53mlを添加し、超音波をかけて完全に溶解させた。この溶液を日本電子データム社製NMR測定器(JNW-ECA500)にて500MHzのプロトンNMRを測定した。イミド化率は、イミド化前後で変化しない構造に由来するプロトンを基準プロトンとして決め、このプロトンのピーク積算値と、9.5から10.0ppm付近に現れるアミド酸のNH基に由来するプロトンピーク積算値とを用い以下の式によって求めた。
【0138】
イミド化率(%)=(1-α・x/y)×100
【0139】
[液晶セルの作製]
FFSモード液晶表示素子の構成を備えた液晶セルを作製した。
始めに、電極付きの基板を準備した。基板は、30mm×50mmの長方形で、厚みが0.7mmのガラス板である。基板上には第1層目として対向電極を構成する、ベタ状のパターンを備えたITO電極が形成されている。第1層目の対向電極の上には第2層目として、CVD法により成膜されたSiN(窒化珪素)膜が形成されている。第2層目のSiN膜の膜厚は500nmであり、層間絶縁膜として機能する。第2層目のSiN膜の上には、第3層目としてITO膜をパターニングして形成された櫛歯状の画素電極が配置され、第1画素及び第2画素の2つの画素を形成している。各画素のサイズは、縦10mmで横約5mmである。このとき、第1層目の対向電極と第3層目の画素電極とは、第2層目のSiN膜の作用により電気的に絶縁されている。
【0140】
第3層目の画素電極は、中央部分が屈曲した「くの字」形状の電極要素を複数配列して構成された櫛歯状の形状を有する。各電極要素の短手方向の幅は3μmであり、電極要素間の間隔は6μmである。各画素を形成する画素電極が、中央部分の屈曲した「くの字」形状の電極要素を複数配列して構成されているため、各画素の形状は長方形状ではなく、電極要素と同様に中央部分で屈曲する、太字の「くの字」に似た形状を備える。そして、各画素は、その中央の屈曲部分を境にして上下に分割され、屈曲部分の上側の第1領域と下側の第2領域を有する。
【0141】
各画素の第1領域と第2領域とを比較すると、それらを構成する画素電極の電極要素の形成方向が異なるものとなっている。すなわち、後述する液晶配向膜のラビング方向を基準とした場合、画素の第1領域では画素電極の電極要素が+10°の角度(時計回り)をなすように形成され、画素の第2領域では画素電極の電極要素が-10°の角度(時計回り)をなすように形成されている。すなわち、各画素の第1領域と第2領域とでは、画素電極と対向電極との間の電圧印加によって誘起される液晶の、基板面内での回転動作(インプレーン・スイッチング)の方向が互いに逆方向となるように構成されている。
【0142】
次に、得られた液晶配向剤を孔径1.0μmのフィルターで濾過した後、準備された上記電極付き基板と裏面にITO膜が成膜されている高さ4μmの柱状スペーサーを有するガラス基板に、スピンコートにて塗布した。80℃のホットプレート上で2分間乾燥させた後、IR式オーブンを用いて230℃、30分焼成を行い、厚み100nmの塗膜を形成させた。この塗膜面に偏光紫外線を300mJ/cm2となるように照射して配向処理を施した。再度IR式オーブンを用いて230℃、30分焼成を行って、液晶配向膜付き基板を得た。上記2枚の基板を一組とし、基板上にシール剤を印刷し、もう1枚の基板を、液晶配向膜面が向き合う配向方向が0°になるようにして張り合わせた後、シール剤を硬化させて空セルを作製した。この空セルに減圧注入法によって、液晶MLC-3019(メルク社製)を注入し、注入口を封止して、FFS駆動液晶セルを得た。その後、得られた液晶セルを110℃で1時間加熱し、一晩放置してから残像評価に使用した。
【0143】
AD-3とAD-4は文献登録の無い新規化合物であるため、以下に合成例を記載する。
(合成例1:AD-3の合成)
【化42】
【0144】
500mL四つ口フラスコに4-アミノフェニル酢酸(10.6g、70mmol)、DAH-1(7.5g、33.6mmol)、酢酸(120g)を仕込み、還流下で撹拌した。反応終了後、反応液を純水(800g)に注ぎ、沈殿物を濾別した。得られた粗物にTHF(120g)を加え、室温でリパルプ洗浄することで、[AD-3-1]を32.6g得た。
2L四つ口フラスコに[AD-3-1](30.0g、61mmol)、ビス[2-(トリメチルシリルオキシ)エチル]アミン(45.8g、184mmol)、(2,3-ジヒドロ-2-チオキソ-3-ベンゾオキサゾリル)ホスホン酸ジフェニル(47.0g、122mmol)、トリエチルアミン(45.8g、184mmol)、NMP(450g)を仕込み、室温で撹拌した。反応終了後、反応液を0.5mol/L-塩酸水溶液(2500g)に注ぎ、析出物を濾別した。得られた粗物にメタノール(300g)を加え、室温でリパルプ洗浄することで、[AD-3](白色固体)を30.3g得た。目的物の1H-NMRの結果を以下に示す。この結果から、得られた固体が、目的の[AD-3]であることを確認した。
1H NMR (500 MHz, [D6]-DMSO):δ7.32-7.38 (m,8H), 4.92-4.95 (t,2H), 4.69-4.72 (t,2H), 3.82 (s,4H), 3.55-3.59 (m,6H), 3.47-3.52 (m,8H), 3.36-3.39 (m,4H), 1.40 (s,6H)
【0145】
【0146】
2L四つ口フラスコに4-アミノ安息香酸(32.9g、24mmol)、DAH-1(26.9g、12mmol)、AcOH(540g)を仕込み、還流下で撹拌した。反応終了後、反応液を純水(3500g)に注ぎ、沈殿物を濾別した。得られた粗物にメタノール(1200g)を加え、室温でリパルプ洗浄することで、[AD-4-1]を40.4g得た。
【0147】
1L四つ口フラスコに[AD-4-1](40.4g、87mmol)、ビス[2-(トリメチルシリルオキシ)エチル]アミン(76.0g、305mmol)、(2,3-ジヒドロ-2-チオキソ-3-ベンゾオキサゾリル)ホスホン酸ジフェニル(83.7g、218mmol)、トリエチルアミン(30.9g、305mmol)、NMP(400g)を仕込み、室温で撹拌した。反応終了後、反応液をメタノール(600g)に注ぎ、析出物を濾別した。得られた粗物にメタノール(500g)を加え、トリフルオロ酢酸(7g)を加えて酸性にし、沈殿物を濾別した。さらに、粗物にDMF(400g)を加えて50℃で完全溶解させたのち、不溶物を濾別した。得られた濾液を酢酸エチル(2500g)に注ぎ、析出物を濾別、乾燥することで、[AD-4](白色固体)を48.8g得た。目的物の1H-NMRの結果を以下に示す。この結果から、得られた固体が、目的の[AD-4]であることを確認した。
1H NMR (500 MHz, [D6]-DMSO):δ7.56-7.58 (d,4H), 7.48-7.50 (d,4H), 4.84-4.87 (t,4H), 3.61-3.65 (m,6H), 3.55-3.56 (d,4H), 3.48-3.50 (d,4H), 3.35 (s,4H), 1.42 (s,6H)
【0148】
(製造例1)
撹拌装置付きおよび窒素導入管付きの200ml四つ口フラスコにDA-1(1.08g、10mmol)、DA-2(3.66g,15mmol)、DA-3(4.81g、15mmol)、DA-4(3.41g、10mmol)を加えた後、NMP132gを加え、窒素を送りながら撹拌し溶解させた。このジアミン溶液を撹拌しながらDAH-1(10.54g,47mmol)を加え,NMPを40.3g加えた後、さらに40℃条件下にて12時間攪拌することで樹脂固形分濃度12質量%のポリアミド酸溶液(PAA-1)を得た。このポリアミック酸溶液の25℃における粘度は380mPa・sであった。
【0149】
得られたポリアミド酸溶液(PAA-1)60.0gを、200mlの三角フラスコに分取し、これにNMPを20.0g加えた後、無水酢酸4.56g、ピリジン1.18gを加え、55℃で3時間反応させた。この反応溶液をメタノール300gに注ぎ、生成した沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄し、80℃で減圧乾燥しポリイミドの粉末を得た。このポリイミドのイミド化率は66%であった。得られたポリイミド粉末3.6gにNMP26.4gを加えて70℃にて20hr攪拌して溶解させることでポリイミド溶液(SPI-1)を得た。
【0150】
(製造例2)
撹拌装置付き及び窒素導入管付きの100mLの四つ口フラスコに、DA-5を3.99g(20mmol)、 DA-6を1.49g(5mmol)量り取り、次いで、NMPを78g加えて、窒素を送りながら撹拌し溶解させた。このジアミン溶液を撹拌しながらDAH-2を6.77g(23mmol)添加し、更に固形分濃度が12質量%になるようにNMPを加え、70℃で20時間撹拌してポリアミック酸溶液(PAA-2)(粘度:420mPa・s)を得た。
【0151】
(比較例1)
撹拌子を入れた50mLの三角フラスコに、製造例1で得られたポリイミド溶液(SPI-1)を5.63g量り取った。NMPを3.34g、GBLを2.03g、BCSを3.00g、AD-1の10%NMP溶液を1.01g加え、マグネチックスターラーで終夜撹拌し液晶配向剤(AL-1)を得た。
【0152】
(比較例2)
撹拌子を入れた50mLの三角フラスコに、製造例1で得られたポリイミド溶液(SPI-1)を5.63g量り取った。NMPを3.34g、GBLを2.03g、BCSを3.00g、AD-2の10%NMP溶液を1.01g加え、マグネチックスターラーで終夜撹拌し液晶配向剤(AL-2)を得た。
【0153】
(実施例1)
撹拌子を入れた50mLの三角フラスコに、製造例1で得られたポリイミド溶液(SPI-1)を5.63g量り取った。NMPを3.34g、GBLを2.03g、BCSを3.00g、AD-3の10%NMP溶液を1.01g加え、マグネチックスターラーで終夜撹拌し液晶配向剤(AL-3)を得た。
【0154】
(実施例2)
撹拌子を入れた50mLの三角フラスコに、製造例1で得られたポリイミド溶液(SPI-1)を5.63g量り取った。NMPを3.34g、GBLを2.03g、BCSを3.00g、AD-4の10%NMP溶液を1.01g加え、マグネチックスターラーで終夜撹拌し液晶配向剤(AL-4)を得た。
【0155】
(実施例3)
撹拌子を入れた50mLの三角フラスコに、製造例1で得られたポリイミド溶液(SPI-1)を1.13g量り取り、製造例2で得られたポリアミック酸溶液(PAA-2)を4.50g添加した。さらにNMPを0.86g、GBLを4.50g、BCSを3.00g、AD-3の10%NMP溶液を1.01g加え、マグネチックスターラーで終夜撹拌し液晶配向剤(AL-5)を得た。
【0156】
[長期交流駆動による残像評価]
上記の液晶セルを用い、60℃の恒温環境下、周波数30Hzで±5Vの交流電圧を120時間印加した。その後、液晶セルの画素電極と対向電極との間をショートさせた状態にし、そのまま室温に一日放置した。
【0157】
放置の後、液晶セルを偏光軸が直交するように配置された2枚の偏光板の間に設置し、電圧無印加の状態でバックライトを点灯させておき、透過光の輝度が最も小さくなるように液晶セルの配置角度を調整した。そして、第1画素の第2領域が最も暗くなる角度から第1領域が最も暗くなる角度まで液晶セルを回転させたときの回転角度を角度Δとして算出した。第2画素でも同様に、第2領域と第1領域とを比較し、同様の角度Δを算出した。そして、第1画素と第2画素の角度Δ値の平均値を液晶セルの角度Δとして算出した。
上記で得られた液晶セルの角度Δが0.15°以上を「×」とし、0.15°未満を「〇」と評価した。
【0158】
(比較例3、4、実施例4,5,6)
得られた液晶配向剤(AL-1、AL-2、AL-3、AL-4、AL-5)について、上記したようにして長期交流駆動による残像評価を行った。すなわち、液晶配向剤(AL-1、AL-2、AL-3、AL-4、AL-5)を使用し、それぞれ上記したようにしてFFSモード液晶表示素子の構成を備えた液晶セルを作製し、このFFS駆動液晶セルについて、長期交流駆動による残像評価を実施した。その結果を下記表1にまとめる。
【0159】
【0160】
[膜強度評価]
液晶配向剤を、全面にITO電極が付いたガラス基板のITO面にスピンコートにて塗布した。80℃のホットプレート上で2分間乾燥させた後、IR式オーブンを用いて230℃、30分焼成を行い、厚み100nmの塗膜を形成させた。この塗膜面に偏光紫外線を300mJ/cm2となるように照射して配向処理を施した。再度IR式オーブンを用いて230℃、30分焼成を行って、液晶配向膜付き基板を得た。この液晶配向膜を、レーヨン布でラビング(ローラー直径:120mm、ローラー回転数:1000rpm、移動速度:20mm/sec、押し込み長:0.6mm)した。本基板を顕微鏡にて観察を行い、膜面にラビングによるスジが見られなかったものを「〇」、スジがみられたものを「×」として評価した。
【0161】
(比較例5、6、実施例7,8,9)
得られた液晶配向剤(AL-1、AL-2、AL-3、AL-4、AL-5)について、上記の膜強度評価を行った。その結果を下記表2にまとめる。
【0162】
【0163】
以上の結果を下記表3にまとめる。
【0164】
【0165】
表3に示されるように、イミド環骨格を有し、かつアルキルアミド骨格も有するAD-3,AD-4を用いた液晶配向剤について、良好な配向性と高いラビング耐性が両立可能となった。