(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038036
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】ブラジキニンB1受容体リガンドに対する抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20240312BHJP
C07K 16/26 20060101ALI20240312BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240312BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240312BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240312BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240312BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240312BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240312BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240312BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/26
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 N
A61P29/00
【審査請求】有
【請求項の数】41
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023216462
(22)【出願日】2023-12-22
(62)【分割の表示】P 2021112483の分割
【原出願日】2013-03-15
(31)【優先権主張番号】1350953
(32)【優先日】2013-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(31)【優先権主張番号】61/616,845
(32)【優先日】2012-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】ハン・リー
(72)【発明者】
【氏名】ドロシア・コミノス
(72)【発明者】
【氏名】ジエ・ジャーン
(72)【発明者】
【氏名】アラ・プリッツカー
(72)【発明者】
【氏名】マシュー・ディヴィソン
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・ボラン
(72)【発明者】
【氏名】ゴヴィンダン・スブラマニアン
(72)【発明者】
【氏名】シン・チェン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本開示は、カリジンまたはdes-Arg10-カリジンに特異的に結合する抗体を提供する。
【解決手段】a)カリジンもしくはdes-Arg10-カリジンに特異的に結合するが、ブラジキニンもしくはdes-Arg9-ブラジキニンには特異的に結合しない;b)カリジンもしくはdes-Arg10-カリジンに、1×10-10M未満のKDで特異的に結合する;c)カリジンもしくはdes-Arg10-カリジンに、1×104s-1未満のKoffで特異的に結合する;および/またはd)カリジンもしくはdes-Arg10-カリジンに特異的に結合し、ブラジキニンB1受容体への結合を阻害する単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)カリジンもしくはdes-Arg10-カリジンに特異的に結合するが、ブラジキニンもしくはdes-Arg9-ブラジキニンには特異的に結合しない;
b)カリジンもしくはdes-Arg10-カリジンに、1×10-10M未満のKDで特異的に結合する;
c)カリジンもしくはdes-Arg10-カリジンに、1×104s-1未満のKoffで特異的に結合する;
および/または
d)カリジンもしくはdes-Arg10-カリジンに特異的に結合し、ブラジキニンB1受容体への結合を阻害する
単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項2】
カリジンまたはdes-Arg10-カリジンのN末端のリジン残基に結合する、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項3】
カリジンまたはdes-Arg10-カリジンのブラジキニン-1受容体への結合を阻害する、請求項1または2に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項4】
マウスのカリジン様ペプチド(KLP)に特異的に結合する、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項5】
a)配列番号7[X1YX2X3DX4HAMX5Y]、
式中、
X1は、Y、F、またはHであり、
X2は、R、D、A、V、L、I、M、F、Y、またはWであり、
X3は、Y、F、W、またはHであり、
X4は、D、E、またはYであり、
X5は、DまたはEである、
b)配列番号63[X1EYDGX2YX3X4LDX5]、
式中、
X1は、WまたはFであり、
X2は、Nであり、またはアミノ酸はなく、
X3は、YまたはSであり、
X4は、DまたはPであり、
X5は、FまたはYである、
c)配列番号13、
d)配列番号32、
e)配列番号40、
f)配列番号47、および
g)配列番号55
からなる群から選択されるHCDR3アミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項6】
a)配列番号8[YFX1PX2NGNTGYNQKFRG]、
式中、
X1は、D、R、A、V、L、I、M、F、Y、またはWであり、
X2は、Y、D、E、N、またはQである、
b)配列番号64[WX1DPENGDX2X3YAPKFQG]、
式中、
X1は、IまたはVであり、
X2は、TまたはSであり、
X3は、GまたはDである、
c)配列番号14、
d)配列番号33、
e)配列番号41、
f)配列番号48、および
g)配列番号56
からなる群から選択されるHCDR2アミノ酸配列をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項7】
a)配列番号9[GYSFTDYX1IY]、
式中、
X1は、N、W、またはYである、
b)配列番号65[GFNIKDYYX1H]、
式中、
X1は、LまたはMである、
c)配列番号15、
d)配列番号34、
e)配列番号42、
f)配列番号49、および
g)配列番号57
からなる群から選択されるHCDR1アミノ酸配列をさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項8】
a)配列番号10[QQX1X2SX3PX4T]、
式中、
X1は、Y、F、またはHであり、
X2は、Y、F、H、またはWであり、
X3は、Y、F、T、またはHであり、
X4は、W、Y、F、H、またはLである、
b)配列番号66[QX1X2X3SX4PX5T]、
式中、
X1は、QまたはNであり、
X2は、Y、F、D、またはHであり、
X3は、Y、F、H、またはWであり、
X4は、Y、F、T、またはHであり、
X5は、W、Y、F、H、またはLである、
c)配列番号69[X1QGTHFPYT]、
式中、
X1は、LまたはMである、
d)配列番号16、
e)配列番号35、
f)配列番号43、
g)配列番号50、および
h)配列番号58、
からなる群から選択されるLCDR3アミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインをさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項9】
a)配列番号11[WASTRX1]、
式中、
X1は、E、D、Q、またはNである、
b)配列番号67[X2ASTRX2]、
式中、
X1は、WまたはGであり、
X2は、E、D、Q、またはNである、
c)配列番号17、
d)配列番号36、
e)配列番号51、
f)配列番号59
からなる群から選択されるLCDR2アミノ酸配列をさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項10】
a)配列番号12[KSSQSLLX1SSNQKNX2LA]、
式中、
X1は、W、H、Y、またはFであり、
X2は、HまたはYである、
b)配列番号68[KSSQSLLX1X2SX3QX4NX5LA]、
式中、
X1は、W、H、Y、またはFであり、
X2は、SまたはGであり、
X3は、NまたはDであり、
X4は、KまたはRであり、
X5は、HまたはYである、
c)配列番号70[KSSQSLLYSNGX1TYLN]、
式中、
X1は、KまたはEであり、
b)配列番号18、
c)配列番号37、
d)配列番号44、
e)配列番号52、および
f)配列番号60
からなる群から選択されるLCDR1アミノ酸配列をさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項11】
a)配列番号10[QQX1X2SX3PX4T]、
式中、
X1は、Y、F、またはHであり、
X2は、Y、F、H、またはWであり、
X3は、Y、F、T、またはHであり、
X4は、W、Y、F、H、またはLである、
b)配列番号66[QX1X2X3SX4PX5T]、
式中、
X1は、QまたはNであり、
X2は、Y、F、D、またはHであり、
X3は、Y、F、H、またはWであり、
X4は、Y、F、T、またはHであり、
X5は、W、Y、F、H、またはLである、
c)配列番号69[X1QGTHFPYT]、
式中、
X1は、LまたはMである、
d)配列番号16、
e)配列番号35、
f)配列番号43、
g)配列番号50、および
h)配列番号58
からなる群から選択されるLCDR3アミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項12】
a)配列番号11[WASTRX1]、
式中、
X1は、E、D、Q、またはNである、
b)配列番号67[X2ASTRX2]、
式中、
X1は、WまたはGであり、
X2は、E、D、Q、またはNである、
c)配列番号17、
d)配列番号36、
e)配列番号51、および
f)配列番号59
からなる群から選択されるLCDR2アミノ酸配列をさらに含む、請求項11に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項13】
a)配列番号12[KSSQSLLX1SSNQKNX2LA]、
式中、
X1は、W、H、Y、またはFであり、
X2は、HまたはYである、
b)配列番号68[KSSQSLLX1X2SX3QX4NX5LA]、
式中、
X1は、W、H、Y、またはFであり、
X2は、SまたはGであり、
X3は、NまたはDであり、
X4は、KまたはRであり、
X5は、HまたはYである、
c)配列番号70[KSSQSLLYSNGX1TYLN]、
式中、
X1は、KまたはEであり、
b)配列番号18、
c)配列番号37、
d)配列番号44、
e)配列番号52、および
f)配列番号60
からなる群から選択されるLCDR1アミノ酸配列をさらに含む、請求項12に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項14】
配列番号13、14、および15にそれぞれ記載のHCDR3、HCDR2、およびHCDR1領域のアミノ配列を含む重鎖可変領域、ならびにKabatによるH1、H5、H9、H11、H12、H16、H38、H40、H41、H43、H44、H66、H75、H79、H81、H82A、H83、H87、およびH108からなる群から選択される位置の1つまたはそれ以上のアミノ酸置換を含む、請求項1~4のいずれか1項に
記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項15】
配列番号16、17、および18にそれぞれ記載のLCDR3、LCDR2、およびLCDR1領域のアミノ配列を含む軽鎖可変領域、ならびにKabatによるL5、L9、L15、L18、L19、L21、L22、L43、L63、L78、L79、L83、L85、L100、およびL104からなる群から選択される位置の1つまたはそれ以上のアミノ酸置換をさらに含む、請求項14に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項16】
配列番号16、17、および18にそれぞれ記載のLCDR3、LCDR2、およびLCDR1領域のアミノ配列を含む軽鎖可変領域、ならびにKabatによるL5、L9、L15、L18、L19、L21、L22、L43、L63、L78、L79、L83、L85、L100、およびL104からなる群から選択される位置の1つまたはそれ以上のアミノ酸置換を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項17】
配列番号19、20、21、22、24、25、38、45、53、および61からなる群から選択されるアミノ酸配列に少なくとも90%の同一性を有する重鎖可変領域アミノ酸配列を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項18】
配列番号26、27、28、29、29、30、31、39、46、54、および62からなる群から選択されるアミノ酸配列に少なくとも90%の同一性を有する軽鎖可変ドメインアミノ酸配列をさらに含む、請求項17に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項19】
配列番号26、27、28、29、29、30、31、39、46、54、および62からなる群から選択されるアミノ酸配列に少なくとも90%の同一性を有する軽鎖可変領域アミノ酸配列を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項20】
配列番号19、20、21、22、24、25、38、45、53、および61からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項21】
配列番号26、27、28、29、29、30、31、39、46、54、および62からなる群から選択される軽鎖可変ドメインアミノ酸配列をさらに含む、請求項20に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項22】
配列番号26、27、28、29、29、30、31、39、46、54、および62からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項23】
配列番号19および26、配列番号20および27、配列番号21および28、配列番号22および28、配列番号23および29、配列番号24および30、配列番号25および31、配列番号38および39、配列番号45および46、配列番号53および54、または配列番号61および62に記載の、それぞれ重鎖および軽鎖の可変領域アミノ酸配列を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項24】
カリジンおよびdes-Arg10-カリジンに対する結合を、配列番号19および26、配列番号38および39、配列番号45および46、配列番号53および54、または配列番号61および62に記載の、それぞれ重鎖および軽鎖の可変領域アミノ酸配列を含む抗体と競合する、カリジンおよびdes-Arg10-カリジンに特異的に結合する抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項25】
カリジンまたはdes-Arg10-カリジンに対する結合を、請求項1~24のいずれか1項に記載の抗体と競合し、ブラジキニンまたはdesArg9-ブラジキニンに結合しない、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項26】
KDまたはDAKDのプロリン4のII型タイトターンを含むPro4キンクコンフォメーションを取る、カリジン(KD)またはdesArg10-カリジン(DAKD)のコンフォメーションエピトープに特異的に結合する、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項27】
KDまたはDAKDのPro4キンクコンフォメーションは、アミノ酸の疎水性側鎖と空間的に積み重なってアラインしているS字形のアミノ酸リピートをさらに含む、請求項26に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項28】
(a)カリジンもしくはdes-Arg10-カリジンに特異的に結合するが、ブラジキニンもしくはdes-Arg9-ブラジキニンには特異的に結合しない;
b)カリジンもしくはdes-Arg10-カリジンに1×10-10M未満のKDで特異的に結合する;
c)カリジンもしくはdes-Arg10-カリジンに1×104s-1未満のKoffで特異的に結合する;
および/または
d)カリジンもしくはdes-Arg10-カリジンに特異的に結合し、ブラジキニンB1受容体への結合を阻害する;
請求項26または27に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項29】
診断薬または治療薬にコンジュゲートしている、請求項1~28のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項30】
請求項1~29のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメントのアミノ酸配列をコードする、単離された核酸。
【請求項31】
請求項30に記載の核酸を含む組換え発現ベクター。
【請求項32】
請求項31に記載の組換え発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項33】
請求項32に記載の宿主細胞を、カリジンおよびdes-Arg10-カリジンに特異的に結合する抗体が宿主細胞によって生成される条件下で培養することを含む、カリジンおよびdes-Arg10-カリジンに特異的に結合する抗体を生成する方法。
【請求項34】
請求項1~28のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合性フラグメント、および1つまたはそれ以上の薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項35】
請求項34に記載の医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、カリジンまたはdes-Arg10-カリジン関連の疾患または障害を処置するための方法。
【請求項36】
疾患または障害は慢性疼痛である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
ペプチドは配列番号11に記載のアミノ酸配列からなり、des-Arg9-ブラジキニン、des-Arg10-カリジン、およびdes-Arg10-カリジン様ペプチドに特異的に結合する抗体が動物の免疫系によって生成されるように、ペプチドのアミノ末端のアルギニンはリンカー部分によって担体部分に間接的にカップリングしている、ペプチドを含む免疫原で動物を免疫化することを含む、des-Arg9-ブラジキニンおよびdes-Arg10-カリジン様ペプチドに特異的に結合する抗体を産生する方法。
【請求項38】
動物から、抗体、抗体をコードする核単離(nucleic isolating)、または抗体を発現する免疫細胞を単離することをさらに含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
担体部分はタンパク質である、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
タンパク質はキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
リンカー部分は[Gly-Gly-Gly]nを含み、nは少なくとも1である、請求項40に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2012年3月28日出願の米国仮出願第61/616,845号、および2013年2月4日出願の仏国特許出願第1350953号の優先権を主張するものである。これら出願の内容は、その全文を参照によって本明細書に各々組み入れる。
【背景技術】
【0002】
ブラジキニンB1受容体は、炎症性疾患および慢性疼痛の病原に結び付けられている。組織炎症および腎線維症を変調することにより、B1受容体は、末期腎不全の主な原因である急性腎損傷および慢性腎疾患の病原にも関連している。
【0003】
ヒトでは、ブラジキニンB1受容体の主なアゴニストはキニンである。キニンは、キニノゲンタンパク質のタンパク分解性の切断から生成される生理活性ペプチドである。ブラジキニンB1受容体の主なキニンアゴニストはデカペプチドのカリジン、およびノナペプチドのdes-Arg10-カリジン(カリジンからC末端アルギニンのタンパク分解性の切断により形成される)である。したがって、カリジンおよびdes-Arg10-カリジンのブラジキニンB1受容体に対する結合を阻害することができる薬剤には、ブラジキニンB1受容体媒介性の病態を処置または防止する可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、当技術分野において、ブラジキニンB1受容体媒介性のヒトの病態の処置において用いるための、カリジンおよびdes-Arg10-カリジンのブラジキニンB1受容体に対する結合を阻害する新規な薬剤が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、カリジンおよびdes-Arg10-カリジンに特異的に結合し、ブラジキニンB1受容体に対する結合を妨げる、抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。このような抗体は、カリジンおよびdes-Arg10-カリジン関連の疾患または障害(例えば、疼痛もしくは線維症)を処置するのに特に有用である。本発明はまた、医薬組成物、ならびに抗カリジンおよびdes-Arg10-カリジン抗体をコードする核酸、組換え発現ベクター、およびこのような抗体またはそのフラグメントを作成するための宿主細胞も提供する。in vitroまたはin vivoいずれかで、カリジンおよびdes-Arg10-カリジンを検出するための、またはカリジンおよびdes-Arg10-カリジン活性を変調するための、本発明の抗体またはそのフラグメントを用いる方法も、本発明によって包含される。本発明はまた、des-Arg9-ブラジキニンおよびdes-Arg10-カリジン様ペプチドに特異的に結合する抗体を作成する方法も提供する。
【0006】
したがって、一態様において、本発明は、
a)カリジンもしくはdes-Arg10-カリジンに特異的に結合するが、ブラジキニンもしくはdes-Arg9-ブラジキニンには特異的に結合しない;
b)カリジンもしくはdes-Arg10-カリジンに、1×10-10M未満のKDで特異的に結合する;
c)カリジンもしくはdes-Arg10-カリジンに、1×104s-1未満のKoffで特異的に結合する;または
d)カリジンもしくはdes-Arg10-カリジンに特異的に結合し、ブラジキニン
B1受容体への結合を阻害する
単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。
【0007】
一実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、カリジンまたはdes-Arg10-カリジンのN末端のリジン残基に結合する。
【0008】
別の一実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、カリジンまたはdes-Arg10-カリジンのブラジキニン-1受容体への結合を阻害する。
【0009】
別の一実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、マウスのカリジン様ペプチド(KLP)に特異的に結合する。
【0010】
別の一実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、
a)配列番号7[X1YX2X3DX4HAMX5Y]、
式中、
X1は、Y、F、またはHであり、
X2は、R、D、A、V、L、I、M、F、Y、またはWであり、
X3は、Y、F、W、またはHであり、
X4は、D、E、またはYであり、
X5は、DまたはEである、
b)配列番号63[X1EYDGX2YX3X4LDX5]、
式中、
X1は、WまたはFであり、
X2は、Nであり、またはアミノ酸はなく、
X3は、YまたはSであり、
X4は、DまたはPであり、
X5は、FまたはYである、
c)配列番号13、
d)配列番号32、
e)配列番号40、
f)配列番号47、および
g)配列番号55
からなる群から選択されるHCDR3アミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインを含む。
【0011】
別の一実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、
a)配列番号8[YFX1PX2NGNTGYNQKFRG]、
式中、
X1は、D、R、A、V、L、I、M、F、Y、またはWであり、
X2は、Y、D、E、N、またはQである、
b)配列番号64[WX1DPENGDX2X3YAPKFQG]、
式中、
X1は、IまたはVであり、
X2は、TまたはSであり、
X3は、GまたはDである、
c)配列番号14、
d)配列番号33、
e)配列番号41、
f)配列番号48、および
g)配列番号56
からなる群から選択されるHCDR2アミノ酸配列を含む。
【0012】
別の一実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、
a)配列番号9[GYSFTDYX1IY]、
式中、
X1は、N、W、またはYである、
b)配列番号65[GFNIKDYYX1H]、
式中、
X1は、LまたはMである、
c)配列番号15、
d)配列番号34、
e)配列番号42、
f)配列番号49、および
g)配列番号57
からなる群から選択されるHCDR1アミノ酸配列を含む。
【0013】
別の一実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、
a)配列番号10[QQX1X2SX3PX4T]、
式中、
X1は、Y、F、またはHであり、
X2は、Y、F、H、またはWであり、
X3は、Y、F、T、またはHであり、
X4は、W、Y、F、H、またはLである、
b)配列番号66[QX1X2X3SX4PX5T]、
式中、
X1は、QまたはNであり、
X2は、Y、F、D、またはHであり、
X3は、Y、F、H、またはWであり、
X4は、Y、F、T、またはHであり、
X5は、W、Y、F、H、またはLである、
c)配列番号69[X1QGTHFPYT]、
式中、
X1は、LまたはMである、
d)配列番号16、
e)配列番号35、
f)配列番号43、
g)配列番号50、および
h)配列番号58
からなる群から選択されるLCDR3アミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む。
【0014】
別の一実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、
a)配列番号11[WASTRX1]、
式中、
X1は、E、D、QまたはNである、
b)配列番号67[X2ASTRX2]、
式中、
X1は、WまたはGであり、
X2は、E、D、Q、またはNである、
c)配列番号17、
d)配列番号36、
e)配列番号51、および
f)配列番号59
からなる群から選択されるLCDR2アミノ酸配列を含む。
【0015】
別の一実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、
a)配列番号12[KSSQSLLX1SSNQKNX2LA]、
式中、
X1は、W、H、Y、またはFであり、
X2は、HまたはYである、
b)配列番号68[KSSQSLLX1X2SX3QX4NX5LA]、
式中、
X1は、W、H、Y、またはFであり、
X2は、SまたはGであり、
X3は、NまたはDであり、
X4は、KまたはRであり、
X5は、HまたはYである、
c)配列番号70[KSSQSLLYSNGX1TYLN]、
式中、
X1は、KまたはEであり、
b)配列番号18、
c)配列番号37、
d)配列番号44、
e)配列番号52、および
f)配列番号60
からなる群から選択されるLCDR1アミノ酸配列を含む。
【0016】
別の一実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、
a)配列番号10[QQX1X2SX3PX4T]、
式中、
X1は、Y、F、またはHであり、
X2は、Y、F、H、またはWであり、
X3は、Y、F、T、またはHであり、
X4は、W、Y、F、H、またはLである、
b)配列番号66[QX1X2X3SX4PX5T]、
式中、
X1は、QまたはNであり、
X2は、Y、F、D、またはHであり、
X3は、Y、F、H、またはWであり、
X4は、Y、F、T、またはHであり、
X5は、W、Y、F、H、またはLである、
c)配列番号69[X1QGTHFPYT]、
式中、
X1は、LまたはMである、
d)配列番号16、
e)配列番号35、
f)配列番号43、
g)配列番号50、および
h)配列番号58
からなる群から選択されるLCDR3アミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む。
【0017】
別の一実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、
a)配列番号11[WASTRX1]、
式中、
X1は、E、D、Q、またはNである、
b)配列番号67[X2ASTRX2]、
式中、
X1は、WまたはGであり、
X2は、E、D、Q、またはNである、
c)配列番号17、
d)配列番号36、
e)配列番号51、および
f)配列番号59
からなる群から選択されるLCDR2アミノ酸配列を含む。
【0018】
別の一実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、
a)配列番号12[KSSQSLLX1SSNQKNX2LA]、
式中、
X1は、W、H、Y、またはFであり、
X2は、HまたはYである、
b)配列番号68[KSSQSLLX1X2SX3QX4NX5LA]、
式中、
X1は、W、H、Y、またはFであり、
X2は、SまたはGであり、
X3は、NまたはDであり、
X4は、KまたはRであり、
X5は、HまたはYである、
c)配列番号70[KSSQSLLYSNGX1TYLN]、
式中、
X1は、KまたはEであり、
b)配列番号18、
c)配列番号37、
d)配列番号44、
e)配列番号52、および
f)配列番号60
からなる群から選択されるLCDR1アミノ酸配列を含む。
【0019】
別の一実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、配列番号13、14、および15にそれぞれ記載のHCDR3、HCDR2、およびHCDR1領域のアミノ配列を含む重鎖可変領域、ならびにKabatによるH1、H5、H9、H11、H12、H16、H38、H40、H41、H43、H44、H66、H75、H79、H81、H82A、H83、H87、およびH108からなる群から選択される位置の1つまたはそれ以上のアミノ酸置換を含む。
【0020】
別の一実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、配列番号16、17、および18にそれぞれ記載のLCDR3、LCDR2、およびLCDR1領域のアミノ配列を含む軽鎖可変領域、ならびにKabatによるL5、L9、L15、L18、L19、L21、L22、L43、L63、L78、L79、L83、L85、L100、およびL104からなる群から選択される位置の1つまたはそれ以上のアミノ酸置換を含む。
【0021】
別の一実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、配列番号19、
20、21、22、24、25、38、45、53、および61からなる群から選択されるアミノ酸配列に少なくとも90%の同一性を有する重鎖可変領域アミノ酸配列を含む。
【0022】
別の一実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、配列番号26、27、28、29、29、30、31、39、46、54、および62からなる群から選択されるアミノ酸配列に少なくとも90%の同一性を有する軽鎖可変ドメインアミノ酸配列を含む。
【0023】
別の一実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、配列番号26、27、28、29、29、30、31、39、46、54、および62からなる群から選択されるアミノ酸配列に少なくとも90%の同一性を有する軽鎖可変領域アミノ酸配列を含む。
【0024】
別の一実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、配列番号19、20、21、22、24、25、38、45、53、および61からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインを含む。
【0025】
別の一実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、配列番号26、27、28、29、29、30、31、39、46、54、および62からなる群から選択される軽鎖可変ドメインアミノ酸配列を含む。
【0026】
別の一実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、配列番号26、27、28、29、29、30、31、39、46、54、および62からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0027】
別の一実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、配列番号19および26、配列番号20および27、配列番号21および28、配列番号22および28、配列番号23および29、配列番号24および30、配列番号25および31、配列番号38および39、配列番号45および46、配列番号53および54、または配列番号61および62に記載の、それぞれ重鎖および軽鎖の可変領域アミノ酸を含む。
【0028】
別の一態様において、本発明は、カリジンおよびdes-Arg10-カリジンに対する結合を、配列番号19および26、配列番号38および39、配列番号45および46、配列番号53および54、または配列番号61および62に記載の、それぞれ重鎖および軽鎖の可変領域アミノ酸配列を含む抗体と競合する、カリジンおよびdes-Arg10-カリジンに特異的に結合する抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。
【0029】
別の一態様において、本発明は、カリジンまたはdes-Arg10-カリジンに対する結合を、請求項のいずれか1項に記載の抗体と競合し、ブラジキニンまたはdesArg9-ブラジキニンに結合しない、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。
【0030】
別の一態様において、本発明は、KDまたはDAKDのプロリン4にII型急カーブを含むPro4キンクコンフォメーションを取る、カリジン(KD)またはdesArg10-カリジン(DAKD)のコンフォメーションエピトープに特異的に結合する、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。一実施形態において、KDまたはDAKDのPro4キンクコンフォメーションは、アミノ酸の疎水性側鎖と空間的に積み重なってアラインしているS字形のアミノ酸リピートをさらに含む。別の一実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、(a)カリジンもしくはdes-Arg10-カリジンに特異的に結合するが、ブラジキニンもしくはdes
-Arg9-ブラジキニンには特異的に結合せず、b)カリジンもしくはdes-Arg10-カリジンに1×10-10M未満のKDで特異的に結合し、c)カリジンもしくはdes-Arg10-カリジンに1×104s-1未満のKoffで特異的に結合する、またはd)カリジンもしくはdes-Arg10-カリジンに特異的に結合し、ブラジキニンB1受容体への結合を阻害する。
【0031】
別の一態様において、本発明の抗体または抗原結合性フラグメントは、診断薬または治療薬にコンジュゲートしている。
【0032】
別の一態様において、本発明は、本発明の抗体またはその抗原結合性フラグメントのアミノ酸配列をコードする、単離された核酸を提供する。
【0033】
別の一態様において、本発明は、本発明の核酸を含む組換え発現ベクターを提供する。
【0034】
別の一態様において、本発明は、本発明の組換え発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0035】
別の一態様において、本発明は、本発明の宿主細胞を、カリジンおよびdes-Arg10-カリジンに特異的に結合する抗体が宿主細胞によって生成される条件下で培養することを含む、カリジンおよびdes-Arg10-カリジンに特異的に結合する抗体を生成する方法を提供する。
【0036】
別の一態様において、本発明は、本発明の抗体またはその抗原結合性フラグメント、および1つまたはそれ以上の薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物を提供する。
【0037】
別の一態様において、本発明は、本発明の医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、疾患または障害カリジンまたはdes-Arg10-カリジン関連の疾患または障害を処置するための方法を提供する。
【0038】
一実施形態において、疾患または障害は慢性疼痛である。
【0039】
別の一態様において、本発明は、ペプチドは配列番号11に記載のアミノ酸配列からなり、des-Arg9-ブラジキニン、des-Arg10-カリジン、およびdes-Arg10-カリジン様ペプチドに特異的に結合する抗体が動物の免疫系によって生成されるように、ペプチドのアミノ末端のアルギニンはリンカー部分によって担体部分に間接的にカップリングしている、ペプチドを含む免疫原で動物を免疫化することを含む、des-Arg9-ブラジキニンおよびdes-Arg10-カリジン様ペプチドに特異的に結合する抗体を産生する方法を提供する。
【0040】
別の一実施形態において、方法は、動物から、抗体、抗体をコードする核単離(nucleic isolating)、または抗体を発現する免疫細胞を単離することを含む。
【0041】
一実施形態において、担体部分はタンパク質である。別の一実施形態において、タンパク質はキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)である。別の一実施形態において、リンカー部分は[Gly-Gly-Gly]nを含み、nは少なくとも1である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】EE1抗体のキニンペプチドに対する結合を実証するELISAアッセイの結果を示す図である。
【
図2】抗体F151の示差走査熱量測定の結果を示す図である。
【
図3】マウスおよびヒト化F151抗体の可変領域のアミノ酸配列アラインメントを示す図である。同一の残基を全てアラインメントにおいて列挙し、相同の残基を記号「+」によって識別し、非相同の残基は空白のままである。
【
図4】F151抗体/カリジン複合体の抗原結合性部位の電子密度マップを示す図である。
【
図5】F151抗体/des-Arg
10-カリジン複合体の抗原結合性部位の電子密度マップを示す図である。
【
図6】カリジンに結合しているF151のFvサブユニットを示す、リボンおよび棒で表す図である。
【
図7】本発明の例示のマウス抗カリジン抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列アラインメントを示す図である。カリジンと相互作用するアミノ酸残基にアステリスクで印を付す。
【
図8】本発明の例示のマウス抗カリジン抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列アラインメントを示す図である。カリジンと相互作用するアミノ酸残基にアステリスクで印を付す。
【
図9】ホルマリン誘導性急性炎症性疼痛に対するEE1抗体の効果を決定するin vivo実験の結果を示す図である。
【
図10】CFA誘導性機械的過敏症に対するEE1抗体の効果を決定するin vivo実験の結果を示す図である。
【
図11】CFA誘導性熱的過敏症に対するEE1抗体の効果を決定するin vivo実験の結果を示す図である。
【
図12】CCI誘導性機械的過敏症に対するEE1抗体の効果を決定するin vivo実験の結果を示す図である。
【
図13】CCI誘導性熱的過敏症に対するEE1抗体の効果を決定するin vivo実験の結果を示す図である。
【
図14】ヒト化F151バリアントHC3a/LC3aを産生するためのVLおよびVH発現構築物の模式的マップを示す図であり、制限DNAエンドヌクレアーゼ部位を推定配列として太字体および下線で表した。パネルAは軽鎖を表し、パネルBは重鎖を表す。
【
図15】F151の重鎖(A)および軽鎖(B)のアミノ酸配列の、最も近いヒト生殖系列アミノ酸配列とのアラインメントを示す図である。
【
図16】F151の重鎖(A)および軽鎖(B)の、VH1サブファミリーの重鎖遺伝子座(1~08および1~18)ならびに軽鎖(V IV~B3)遺伝子座とのアラインメントを示す図である。CDRとバーニア領域を太字で示し、ヒト化変異に下線を付す。
【
図17】(C)プロリン4のII型タイトターンを含むF151抗体に結合しているカリジン(KD)の主鎖ポリペプチドバックボーンコンフォメーションの、(A)二次構造および(B)四次構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明は、カリジンおよびdes-Arg10-カリジンに特異的に結合し、ブラジキニンB1受容体に対する結合を妨げる抗体を提供する。このような抗体は、カリジンおよびdes-Arg10-カリジン関連の疾患または障害(例えば、疼痛)を処置するのに特に有用である。本発明はまた、医薬組成物、ならびに抗カリジンおよびdes-Arg10-カリジン抗体をコードする核酸、組換え発現ベクター、ならびにこのような抗体またはそのフラグメントを作成するための宿主細胞も提供する。in vitroまたはin vivoのいずれかで、本発明の抗体を用いてカリジンおよびdes-Arg10-カリジンを検出する方法、またはカリジンおよびdes-Arg10-カリジン活性を変調するための方法も、本発明によって包含される。
【0044】
I.定義
本発明がより容易に理解され得るために、ある種の語を最初に定義する。
【0045】
本明細書で用いられる、「カリジン」の語は、アミノ酸配列KRPPGFSPFR(配列番号1)を含み、またはこれからなるペプチドを意味する。
【0046】
本明細書で用いられる、「des-Arg10-カリジン」の語は、アミノ酸配列KRPPGFSPF(配列番号2)を含み、またはこれからなるペプチドを意味する。
【0047】
本明細書で用いられる、「マウスカリジン」または「カリジン様ペプチド」の語は、アミノ酸配列RRPPGFSPFR(配列番号3)を含み、またはこれからなるペプチドを意味する。
【0048】
本明細書で用いられる、「マウスdes-Arg10-カリジン」または「des-Arg10-カリジン様ペプチド」の語は、アミノ酸配列RRPPGFSPF(配列番号4)を含み、またはこれからなるペプチドを意味する。
【0049】
本明細書で用いられる、「ブラジキニン」の語は、アミノ酸配列RPPGFSPFR(配列番号5)を含み、またはこれからなるペプチドを意味する。
【0050】
本明細書で用いられる、「des-Arg9-ブラジキニン」の語は、アミノ酸配列RPPGFSPF(配列番号6)を含み、またはこれからなるペプチドを意味する。
【0051】
本明細書で用いられる、「抗体」の語は、4本のポリペプチド鎖、すなわちジスルフィド結合によって相互接続されている2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖、ならびにその多量体(例えば、IgM)を含む免疫グロブリン分子を意味する。各重鎖は、重鎖可変領域(略してVHまたはVH)および重鎖定常領域(CHまたはCH)を含む。重鎖定常領域はCH1、CH2、およびCH3の3つのドメインを含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(略してVL)および軽鎖定常領域(CLまたはCL)を含む。軽鎖定常領域は1個のドメイン(CL1)を含む。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存されている領域が挿入されている、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域にさらに細分することができる。VHおよびVLは各々、3個のCDRおよび4個のFRから構成されており、アミノ末端からカルボキシ末端まで以下の順番で配列されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。
【0052】
本明細書で用いられる、抗体の「抗原結合性フラグメント」の語は、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、あらゆる天然に存在する、酵素的に得ることができる、合成の、または遺伝子操作されたポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合性フラグメントは、抗体可変ドメインおよび場合により定常ドメインをコードするDNAのマニピュレーションおよび発現を伴う、タンパク分解性の消化または組換え遺伝子操作技術などのあらゆる適切な標準の技術を用いて、完全な抗体分子などに由来し得る。抗原結合性部分の非限定的な例には、(i)Fabフラグメント;(ii)F(ab’)2フラグメント;(iii)Fdフラグメント;(iv)Fvフラグメント;(v)単鎖Fv(scFv)分子、(vi)dAbフラグメント;および(vii)抗体の超可変領域を擬するアミノ酸残基からなる最小認識単位(minimal recognition unit)(例えば、単離された相補性決定領域(CDR))が含まれる。他の操作された分子、例えば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、およびミニボディも、「抗原結合性フラグメント」の表現の範囲内に包含される。
【0053】
本明細書で用いられる、「CDR」または「相補性決定領域」の語は、重鎖および軽鎖両方のポリペプチドの可変領域内に見出される、非隣接の抗原結合性部位を意味する。これら特定の領域は、Kabatら、J.Biol.Chem.、252巻、6609~6616頁(1977年)、およびKabatら、Sequences of protein of immunological interest.、(1991年)、およびChothiaら、J.Mol.Biol.、196:901~917頁(1987年)、およびMacCallumら、J.Mol.Biol.、262巻、732~745頁(1996年)によって記載されており、相互に対して比較した場合のアミノ酸残基の重複またはサブセットが定義に含まれる。上記に引用した各参考文献により規定されるCDRを包含するアミノ酸残基は、比較のために記載するものである。本発明の一実施形態において、「CDR」の語は、配列の比較に基づき、Kabatにより定義されるCDRである。
【0054】
本明細書で用いられる、「フレームワーク(FR)アミノ酸残基」の語は、Ig鎖のフレームワーク領域におけるアミノ酸を意味する。本明細書で用いられる、「フレームワーク領域」または「FR領域」の語は、可変領域の一部であるがCDRの一部ではない(例えば、KabatのCDRの定義を用いて)アミノ酸残基を含む。したがって、可変領域フレームワークは、アミノ酸の長さ約100~120の間であるが、CDRの外のアミノ酸だけを含む。
【0055】
本明細書で用いられる、「に対して特異的に結合する」の語は、抗体またはその抗原結合性フラグメントが抗原に対して、少なくとも約1×10-6M、1×10-7M、1×10-8M、1×10-9M、1×10-10M、1×10-11M、1×10-12M、またはそれを超えるKdで結合する能力を意味する。この語はまた、抗体またはその抗原結合性フラグメントが、抗原に対して、非特異的な抗原に対するその親和性よりも少なくとも2倍大きな親和性で結合する能力も意味することを包含する。しかしながら、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、配列において関連する2つ以上の抗原(例えば、カリジンまたはdes-Arg10-カリジンおよびマウスカリジンまたはdes-Arg10-カリジン)に特異的に結合することができることを理解されたい。
【0056】
本明細書で用いられる、「抗原」の語は、抗体またはその抗原結合性フラグメントによって認識される結合部位またはエピトープを意味する。
【0057】
本明細書で用いられる、「ベクター」の語は、それが連結している別の核酸を輸送することができる核酸分子を意味するものとされる。一タイプのベクターは「プラスミド」であり、その中にさらなるDNAセグメントがライゲートされ得る環状二本鎖DNAループを意味する。別の一タイプのベクターはウイルスベクターであり、さらなるDNAセグメントがウイルスゲノム中にライゲートされ得る。ある種のベクターは、その中にこれらが導入される宿主細胞で自律的に複製することができる(例えば、細菌のベクターは細菌の複製開始点および哺乳動物のエピソームベクターを有する)。他のベクター(例えば、哺乳動物の非エピソームベクター)は、宿主細胞中に導入される時に宿主細胞のゲノム中に組み入れられ得、それにより宿主のゲノムと一緒に複製される。さらに、ある種のベクターは、これらが作動可能に連結されている遺伝子の発現を指示することができる。このようなベクターを、本明細書において「組換え発現ベクター」(または単に「発現ベクター」)と呼ぶ。一般的に、組換えDNA技術において有用な発現ベクターはプラスミドの形態であることが多い。「プラスミド」および「ベクター」の語は、交換可能に用いることができる。しかしながら、本発明には、同等の機能をもたらす、ウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)など、このような他の形態の発現ベクターも含まれるものとされる。
【0058】
本明細書で用いられる、「宿主細胞」の語は、その中に組換え発現ベクターが導入される細胞を意味するものとされる。この語は、特定の対象の細胞だけではなくこのような細胞の子孫も意味するものとされることを理解されたい。変異または環境の影響のいずれかにより、継承される世代においてある種の修飾が起こり得るため、このような子孫は実際、親細胞と同一ではないことがあるが、依然として本明細書で用いられる「宿主細胞」の語の範囲内に含まれる。
【0059】
本明細書で用いられる「処置する」、「処置の」、および「処置」の語は、本明細書に記載する治療的または防止的措置を意味する。「処置」の方法は、疾患もしくは障害の、または再発性の疾患もしくは障害の1つまたはそれ以上の症状を防ぎ、治癒し、遅らせ、重症度を低減し、または回復させるために、あるいはこのような処置の非存在下で予想されるものを超えて対象の生存を延長するために、対象への、例えば、カリジンおよびdes-Arg10-カリジン関連の疾患もしくは障害(例えば、炎症性疾患)を有し、またはこのような疾患もしくは障害を有する素因がある対象への、本発明の抗体または抗原結合性フラグメントの投与を使用する。
【0060】
本明細書で用いられる「カリジンまたはdes-Arg10-カリジン関連の疾患または障害」の語には、変更されたレベルまたは活性のカリジンまたはdes-Arg10-カリジンが見出される、疾患状態および/または疾患状態に関連する症状が含まれる。例示のカリジンまたはdes-Arg10-カリジン関連の疾患または障害には、それだけには限定されないが、疼痛および線維症が含まれる。
【0061】
本明細書で用いられる、「有効量」の語は、対象に投与した場合に、本明細書に記載するカリジンまたはdes-Arg10-カリジン関連の疾患または障害の処置、予後診断、または診断をもたらすのに十分である、カリジンまたはdes-Arg10-カリジンに結合する抗体またはその抗原結合性フラグメントの量を意味する。治療有効量は、処置される対象および疾患状態、対象の体重および年齢、疾患状態の重症度、投与様式などに応じて変化し、当業者であれば容易に決定することができる。投与するための投与量は、例えば、本発明による抗体またはその抗原結合性フラグメント約1ngから約10,000mg、約1ugから約5,000mg、約1mgから約1,000mg、約10mgから約100mgの範囲であってよい。投与量レジメンは、最適の治療反応をもたらすように調節することができる。有効量はまた、抗体またはその抗原結合性フラグメントのあらゆる毒性作用または有害作用(すなわち、副作用)が最小化され、または有益な作用が上回る量でもある。
【0062】
本明細書で用いられる、「対象」の語は、あらゆるヒトまたは非ヒト動物を含む。
【0063】
本明細書で用いられる、「エピトープ」の語は、パラトープとして知られる抗体分子の可変領域において特定の抗原結合性部位と相互作用する、抗原決定基を意味する。単一の抗原は1つを超えるエピトープを有し得る。このように、異なる抗体は抗原上の異なる領域に結合し得、異なる生物学的作用を有し得る。エピトープはコンフォメーション的、または直鎖状のいずれかであってよい。コンフォメーション的なエピトープは、直鎖状ポリペプチド鎖の異なるセグメントから空間的に並置されたアミノ酸によって生成される。直鎖状のエピトープは、ポリペプチド鎖において隣接するアミノ酸残基によって生成されるものである。
【0064】
ここで、本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられる単数形の「一つの(a)」、「一つの(an)」、および「その(the)」は、文脈が明らかに別の方法で指示しなければ複数の指示対象も含むことに留意されたい。
【0065】
II.抗カリジンまたは抗des-Arg10-カリジン抗体
一態様において、本発明は、カリジンまたはdes-Arg10-カリジンに特異的に結合する抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。本発明の抗体の例示のVH、VL、およびCDRのアミノ酸配列を表1に記載する。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
ある実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、配列番号7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、32、33、34、35、36、37、40、41、42、43、44、47、48、49、50、51 52、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、および70からなる群から選択される1つまたはそれ以上のCDR領域アミノ酸配列を含む。
【0072】
他の実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、それぞれ、
a)配列番号7、8、および9、
b)配列番号13、14、および15、
c)配列番号32、33、および34、
d)配列番号40、41、および42、
e)配列番号47、48、および49、
f)配列番号55、56、および57、ならびに
g)配列番号63、64、および65
からなる群から選択される、HCDR3、HCDR2、およびHCDR1領域のアミノ酸配列を含む。
【0073】
他の実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、それぞれ、
a)配列番号10、11、および12、
b)配列番号16、17、および18、
c)配列番号35、36、および37、
d)配列番号43、17、および44、
e)配列番号50、51、および52、
f)配列番号58、59、および60、
g)配列番号66、67、および68、ならびに
h)配列番号69、25、および70、からなる群から選択される、LCDR3、LCDR2、およびLCDR1領域のアミノ酸配列を含む。
【0074】
他の実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、それぞれ、
a)配列番号7、8、9、10、11、および12、
b)配列番号13、14、15、16、17、および18、
c)配列番号32、33、34、35、36、および37、
d)配列番号40、41、42、43、17、および44、
e)配列番号47、48、49、50、51、および52、ならびに
f)配列番号55、56、57、58、59、および60
からなる群から選択される、HCDR3、HCDR2、HCDR1、LCDR3、LCDR2、およびLCDR1領域のアミノ酸配列を含む。
【0075】
他の実施形態において、本発明は、本明細書に開示するマウス抗体から1つまたはそれ以上のCDR領域(もしくは保存的に修飾されているそのバリアント)を含む、ヒト化抗体またはその抗原結合性フラグメントを提供する。ヒト化のあらゆる方法を用いて、本発明のヒト化抗体を産生することができる。適切な方法を本明細書に開示し、実施例4に具体的に例示する。
【0076】
特定の一実施形態において、ヒト化抗体またはその抗原結合性フラグメントは、
13、14、および15にそれぞれ記載のHCDR3、HCDR2、およびHCDR1領域のアミノ配列、ならびにH1、H5、H9、H11、H12、H16、H38、H40、H41、H43、H44、H66、H75、H79、H81、H82A、H83、H87、およびH108からなる群から選択される位置に1つもしくはそれ以上のアミノ酸置換を含む重鎖可変領域、ならびに/または、
16、17、および18にそれぞれ記載のLCDR3、LCDR2、およびLCDR1領域のアミノ配列、ならびにL5、L9、L15、L18、L19、L21、L22、L43、L63、L78、L79、L83、L85、L100、およびL104からなる群から選択される位置に1つもしくはそれ以上のアミノ酸置換を含む軽鎖可変領域(Kabatの番号付けの規則にしたがって)
を含む。
【0077】
他の実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、配列番号19、20、21、22、24、25、38、45、53、および/または61に記載のVH領域アミノ酸配列を含む。
【0078】
他の実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、配列番号26、27、28、29、29、30、31、39、46、54、および/または62に記載のVL領域アミノ酸配列を含む。
【0079】
他の実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、配列番号19および26、配列番号20および27、配列番号21および28、配列番号22および28、配列番号23および29、配列番号24および30、配列番号25および31、配列番号38および39、配列番号45および46、配列番号53および54、または配列番号61および62からなる群からそれぞれ選択されるVHおよびVL領域アミノ酸配列を含む。
【0080】
ある実施形態において、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、配列番号7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、32、33、34、35、36、37、40、41、42、43、44、47、48、49、50、51、52、55、56、57、58、59および60からなる群から選択される1つまたはそれ以上のCDR領域アミノ酸配列を含み、1つまたはそれ以上のCDR領域アミノ酸配列は、少なくとも1つまたはそれ以上の保存的なアミノ酸置換を含む。
【0081】
本発明はまた、本発明の抗体のCDRアミノ酸配列(例えば、配列番号8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、32、33、34、35、36、37、40、41、42、43、44、47、48、49、50、51、52、55、56、57、58、59および60)における「保存的なアミノ酸置換」、すなわち、カリジンまたはdes-Arg10-カリジンなどの抗原に対する抗体の結合を抑止しないアミノ酸配列の修飾も包含する。保存的なアミノ酸置換には、1クラスにおけるアミノ酸の同
じクラスのアミノ酸による置換が含まれ、クラスは、標準のDayhoff頻度交換マトリクスまたはBLOUSUMマトリクスなどによって決定される通り、天然において見出される相同のタンパク質における、アミノ酸側鎖の共通の物理化学的性質および高頻度の置換によって規定される。一般的な6つのクラスのアミノ酸側鎖がカテゴリー化されており、クラスI(Cys)、クラスII(Ser、Thr、Pro、Ala、Gly)、クラスIII(Asn、Asp、Gln、Glu)、クラスIV(His、Arg、Lys)、クラスV(Ile、Leu、Val、Met)、およびクラスVI(Phe、Tyr、Trp)が含まれる。例えば、Aspの、Asn、Gln、またはGluなどのクラスIIIの別の残基に対する置換が、保存的置換である。このように、抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体における予想される非必須アミノ酸残基が、同じクラスからの別のアミノ酸残基で置換されるのが好ましい。抗原の結合を排除しないアミノ酸の保存的置換を同定する方法は、当技術分野においてよく知られている(例えば、Brummellら、Biochem.、32巻、1180~1187頁(1993年);Kobayashiら、Protein Eng.、12巻(10)、879~884頁(1999年);およびBurksら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、94巻、412~417頁(1997年)を参照されたい)。
【0082】
別の一実施形態において、本発明は、それぞれ、配列番号19、20、21、22、24、25、38、45、53、または61に記載のVH領域のアミノ酸配列、または配列番号26、27、28、29、29、30、31、39、46、54、または62に記載のVL領域アミノ酸配列に対して、約80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性で、VHおよび/またはVL領域アミノ酸配列を含む、抗カリジンもしくはdes-Arg10-カリジン抗体またはこれらの抗原結合性フラグメントを提供する。
【0083】
別の一実施形態において、本発明は、配列番号19および25、配列番号38および39、配列番号45および46、配列番号53および54、または配列番号61および62にそれぞれ記載のVHおよびVL領域のアミノ酸配列を含む抗体またはその抗原結合性フラグメントと同じエピトープに結合し、および/または交差競合(cross compete)する、抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体を提供する。このような抗体は、例えば、表面プラズモン共鳴法(SPR)ベースの競合アッセイを含めたルーチンの競合結合アッセイを用いて同定することができる。
【0084】
ある実施形態において、本発明の抗体は、「Pro4キンク」コンフォメーションを取るカリジン(KD)またはdesArg10-カリジン(DAKD)のコンフォメーションのエピトープに結合する。
図17に示す通り、「Pro4キンク」コンフォメーションの特徴は、KDまたはDAKDの主鎖ポリペプチドバックボーンにおけるプロリン4のII型タイトターンである。当業者には知られている通り、II型タイトターンのコンフォメーションは3つの残基(X1-X2-X3)を含み、残基X1のカルボニルは、残基X3(典型的にはグリシンである)のアミドNと水素結合を形成する(参照によって本明細書に組み入れる、Richardson JS.「The anatomy and taxonomy of protein structure.」、Adv Protein Chem.、1981年、34巻、167~339頁を参照されたい)。したがって、ある実施形態において、II型タイトターンのコンフォメーションは、KDまたはDADKのPro3-Pro4-Gly5モチーフによって形成される。より具体的な実施形態において、「Pro4キンク」コンフォメーションは、KD(1~2および6~9)またはDAKDの残りのアミノ酸の全部または実質的に全部が、空間的に積み重なって疎水性側鎖とアラインするS字形リピートを取ることにより、さらに規定される。
【0085】
III.修飾された抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体
ある実施形態において、本発明の抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体は、1つまたはそれ以上の修飾を含み得る。本発明の抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体の修飾形態は、当技術分野において知られているあらゆる技術を用いて作成することができる。
【0086】
i)免疫原性の低減
ある実施形態において、本発明の抗カリジンもしくはdes-Arg10-カリジン抗体、またはこれらの抗原結合性フラグメントは、当技術分野において認められている技術を用いてこれらの免疫原性を低減するように修飾される。例えば、抗体またはそのフラグメントを、キメラ化、ヒト化、および/または脱免疫化(deimmunized)することができる。
【0087】
一実施形態において、本発明の抗体またはその抗原結合性フラグメントはキメラであってよい。キメラ抗体は、マウスモノクローナル抗体およびヒト免疫グロブリン定常領域に由来する可変領域を有する抗体など、抗体の異なる部分が異なる動物種に由来する抗体である。キメラ抗体またはそのフラグメントを生成するための方法は、当技術分野において知られている。例えば、その全文を参照によって本明細書に組み入れる、Morrison、Science、229巻、1202頁(1985年);Oiら、BioTechniques、4巻、214頁(1986年);Gilliesら、J.Immunol.Methods、125巻、191~202頁(1989年);米国特許第5,807,715号、第4,816,567号、および第4,816,397号を参照されたい。「キメラ抗体」を生成するために開発された技術(Morrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci.、81巻、851~855頁(1984年);Neubergerら、Nature、312巻、604~608頁(1984年);Takedaら、Nature、314巻、452~454頁(1985年))を、前記分子の合成に用いてもよい。例えば、マウス抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体分子の結合特異性をコードする遺伝子配列を、適切な生物活性のヒト抗体分子からの配列と一緒に融合してもよい。本明細書で用いられる、キメラ抗体は、マウスモノクローナル抗体およびヒト免疫グロブリン定常領域に由来する可変領域を有する分子、例えば、ヒト化抗体など、異なる部分が異なる動物種に由来する分子である。
【0088】
別の一実施形態において、本発明の抗体またはその抗原結合性フラグメントはヒト化されている。ヒト化抗体は、非ヒト抗体からの1つまたはそれ以上の相補性決定領域(CDR)およびヒト抗体分子からのフレームワーク領域を含む結合特異性を有する。しばしば、ヒトフレームワーク領域におけるフレームワーク残基は、抗原の結合を改変し、好ましくは改善するために、CDRドナー抗体から相当する残基で置換される。これらのフレームワーク置換は、当技術分野においてよく知られている方法により、例えば、特定の位置の普通ではないフレームワーク残基を同定するために、CDRとフレームワーク残基との相互作用をモデリングして抗原結合および配列比較に重要なフレームワーク残基を同定することにより、同定される(例えば、その全文を参照によって本明細書に組み入れる、Queenら、米国特許第5,585,089号;Riechmannら、Nature、332巻、323頁(1988年)を参照されたい)。抗体は、例えば、CDRグラフト化(EP239,400;PCT公開WO91/09967、米国特許第5,225,539号、第5,530,101号、および第5,585,089号)、ベニヤリング(veneering)またはリサーフェイシング(resurfacing)(EP592,106;EP519,596;Padlan、Molecular Immunology、28巻(4/5)、489~498頁(1991年);Studnickaら、Protein Engineering、7巻(6)、805~814頁(1994年);Roguska.ら、PNAS、91巻、969~973号(1994年))、および
鎖シャッフリング(米国特許第5,565,332号)を含めた、当技術分野において知られている様々な技術を用いてヒト化することができる。
【0089】
特定の一実施形態において、免疫認識の間および免疫認識時の抗体分子の柔軟性の影響に基づくヒト化方法が用いられる(その全文を参照によって本明細書に組み入れる、WO2009/032661を参照されたい)。タンパク質の柔軟性は、タンパク質分子の分子運動に関連する。タンパク質の柔軟性は、全タンパク質、タンパク質の一部分、または単一のアミノ酸残基が、相互に著しく異なるコンフォメーションのアンサンブル(ensemble)を取る能力である。タンパク質の柔軟性に関する情報は、タンパク質のX線結晶学実験(例えば、Kunduら、2002年、Biophys J、83巻、723~732号を参照されたい)、核磁気共鳴実験(例えば、Freedbergら、J Am Chem Soc、1998年、120巻(31)、7916~7923頁を参照されたい)を行うことにより、または分子動力学(MD)シミュレーションを作動することにより得ることができる。タンパク質のMDシミュレーションはコンピュータ上で行われ、原子の相互の物理的相互作用を算出することにより、ある期間にわたる全タンパク質原子の運動を決定することができる。MDシミュレーションの出力は、シミュレーションの期間にわたる、試験されるタンパク質の軌跡である。軌跡は、タンパク質のコンフォメーションのアンサンブルであり、スナップショットとも呼ばれ、シミュレーションの期間にわたって周期的に、例えば、1ピコ秒(ps)ごとにサンプリングされる。タンパク質のアミノ酸残基の柔軟性を定量化することができるのは、スナップショットのアンサンブルを分析することによる。このように、柔軟な残基は、その残基が内部に存在するポリペプチドとの関連では、異なるコンフォメーションのアンサンブルを取るものである。MD方法は当技術分野において知られており、例えば、Brooksら、「Proteins:
A Theoretical Perspective of Dynamics,Structure and Thermodynamics」(Wiley、New York、1988年)を参照されたい。Amber(Caseら(2005年)J Comp Chem、26巻、1668~1688頁を参照されたい)、Charmm(Brooksら、(1983年)J Comp Chem、4巻、187~217頁;およびMacKerellら(1998年)「The Encyclopedia of Computational Chemistry」、1巻、271~177頁、Schleyerら編集、Chichester:John Wiley&Sonsを参照されたい)、またはImpact(Rizzoら、J Am Chem Soc、2000年、122巻(51)、12898~12900頁を参照されたい)など、いくつかのソフトウエアによりMDシミュレーションが可能になる。
【0090】
ほとんどのタンパク質複合体は、比較的大きな、平面の埋もれた表面を共有し、結合パートナーが柔軟性であることがタンパク質複合体の可塑性の原因となり、そのためタンパク質複合体は相互にコンフォメーション的に適応できるようになることが示されている。(Structure(2000年)8巻、R137~R142頁)。したがって、「誘導適合」の例が、タンパク質-タンパク質の界面において支配的な役割を果たすことが示されている。さらに、タンパク質は、形状 サイズ、および組成の多様なリガンドに実際に結合すること(Protein Science(2002年)11巻、184~187頁)、ならびにコンフォメーションの多様性は異なるパートナーを認識する能力の不可欠な成分であると考えられること(Science(2003年)299巻、1362~1367頁)を示す、着実に増大するデータ本体が存在する。柔軟な残基は、タンパク質-タンパク質パートナーの結合に関与する(Structure(2006年)14巻、683~693頁)。
【0091】
柔軟な残基は、メモリーB細胞によって認識される可能性があり、免疫原性反応を誘発する可能性がある、相互作用エリアのアンサンブルを提供する様々なコンフォメーション
を取ることができる。このように、修飾された抗体により示されるコンフォメーションおよび認識エリアのアンサンブルが、それらのヒト抗体が取るアンサンブルにできるだけ類似するように、フレームワークから数々の残基を修飾することにより、抗体をヒト化することができる。これは、(1)親のmAbのホモロジーモデルを構築し、MDシミュレーションを作動することにより、(2)柔軟な残基、および非ヒト抗体分子の最も柔軟な残基の同一性を分析し、ならびに異種性または分解反応の起源である可能性がある残基またはモチーフを同定することにより、(3)親の抗体として認識エリアの最も類似するアンサンブルを示すヒト抗体を同定することにより、(4)変異させようとする柔軟な残基を決定し、異種性および分解の起源である可能性がある残基またはモチーフも変異させ、ならびに(5)知られているT細胞またはB細胞のエピトープの存在を調べることにより、限定された数の残基を修飾することにより実現することができる。柔軟な残基は、暗溶媒モデルを用いて本明細書において教示するMD算出を用いて見出すことができ、暗溶媒モデルはシミュレーションの期間にわたる水溶媒のタンパク質原子との相互作用の説明となる。
【0092】
柔軟な残基のセットを可変軽鎖および可変重鎖内で同定した後は、対象の抗体に近似する1セットのヒト重鎖および軽鎖可変領域フレームワークを同定する。これは、抗体ヒト生殖系列配列のデータベースに対して、柔軟な残基のセットに対するBLASTなどを用いて行うことができる。これは、親のmAbの動力学を一ライブラリーの生殖系列の基準配列の動力学と比べることによっても行うことができる。CDR残基および隣接する残基は、抗原に対する高親和性が確実に保存されるように、検索から除外する。次いで、柔軟な残基が置き換えられる。
【0093】
いくつかのヒトの残基が類似のホモロジーを示す場合、選択は、ヒト化抗体の溶液挙動に影響を及ぼす可能性がある残基の性質によっても駆動される。例えば、疎水性残基にわたって暴露される柔軟性ループでは、極性の残基が好ましい。不安定性および異種性の潜在的な起源である残基は、これらがCDRに見出されるとしてもやはり変異している。これら残基には、暴露されているメチオニンが含まれる、というのは、スルホキシド形成は、酸素ラジカル、酸に不安定な結合のタンパク分解性の切断(例えば、Asp-Proジペプチドの切断)(Drug Dev Res(2004年)61巻、137~154頁)、暴露されているアスパラギン残基とその後に続く小型のアミノ酸(例えば、Gly、Ser、Ala、His、Asn、またはCys)に見出される脱アミノ部位(J Chromatog(2006年)837巻、35~43頁)、およびN-グリコシル化部位(例えば、Asn-X-ser/Thr部位)に起因し得るからである。暴露されているメチオニンはLeuにより置換され、暴露されているアスパラギンはグルタミンまたはアスパラギン酸塩により置き換えられ、または後続の残基が変更されるのが典型的である。グリコシル化部位(Asn-X-Ser/Thr)に対して、AsnまたはSer/Thr残基のいずれかが変更される。
【0094】
得られる複合性の抗体配列を、知られているB細胞または直鎖状のT細胞エピトープの存在に対して点検する。例えば、公に入手できる免疫エピトープデータベース(IEDP)で検索を行う(PLos Biol(2005年)3巻(3)、e91)。知られているエピトープが複合性の配列内で見出されたら、別の一セットのヒト配列を回収し、置換する。このように、米国特許第5,639,641号の再浮上した方法と異なり、B細胞媒介性およびT細胞媒介性両方の免疫原性反応は、この方法によって対処される。この方法はまた、CDRグラフト化で時折観察される活性の喪失の問題を回避する(米国特許第5,530,101号)。さらに、安定性および溶解性の問題も、操作および選択プロセスにおいて考慮され、低免疫原性、抗原高親和性に対して最適化され、生物物理学的性質が改善された抗体がもたらされる。
【0095】
いくつかの実施形態において、脱免疫化を用いて、抗体またはその抗原結合性フラグメントの免疫性を低減することができる。本明細書で用いられる、「脱免疫化」の語は、抗体またはその抗原結合性フラグメントがT細胞のエピトープを修飾する改変を含む(例えば、WO9852976A1、WO0034317A2を参照されたい)。例えば、出発の抗体からVHおよびVL配列を分析してもよく、相補性決定領域(CDR)および配列内の他の主要な残基に関してエピトープの位置を示すヒトT細胞エピトープ「マップ」を各V領域から産生してもよい。最終の抗体の活性を改変する危険性の低い代替のアミノ酸置換を同定するために、T細胞エピトープマップから個々のT細胞のエピトープを分析する。アミノ酸置換の組合せを含むある範囲の代替のVHおよびVL配列をデザインし、これらの配列を引き続き、本明細書に開示する診断方法および処置方法において用いるために、ある範囲のカリジンまたはdes-Arg10-カリジン特異的抗体またはそのフラグメント中に組み入れ、次いでこれらを機能に対して試験する。12個と24個の間のバリアント抗体が産生され、試験されるのが典型的である。修飾されたV領域およびヒトC領域を含む完全な重鎖および軽鎖の遺伝子を、次いで、発現ベクター中にクローニングし、後続のプラスミドを、全抗体を生成するために細胞系中に導入する。次いで、抗体を適切な生化学アッセイおよび生物学的アッセイにおいて比較し、最適なバリアントを同定する。
【0096】
ii)エフェクター機能およびFc修飾
本発明の抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体は、1つまたはそれ以上のエフェクター機能を媒介する、抗体定常領域(例えば、IgG定常領域、例えば、ヒトIgG定常領域、例えば、ヒトIgG1もしくはIgG4定常領域)を含むことができる。例えば、補体のC1成分が抗体定常領域に結合すると、補体系を活性化し得る。補体の活性化は、オプソニン作用および細胞の病原体の溶解において重要である。補体の活性化はまた、炎症反応を刺激し、自己免疫過敏症にも関与し得る。さらに、抗体は、Fc領域によって様々な細胞上の受容体に結合し、抗体のFc領域上のFc受容体結合部位は細胞上のFc受容体(FcR)に結合する。IgG(ガンマ受容体)、IgE(イプシロン受容体)、IgA(アルファ受容体)、およびIgM(ミュー受容体)を含めた、様々なクラスの抗体に特異的である数々のFc受容体が存在する。抗体の、細胞表面上のFc受容体に対する結合は、抗体がコーティングする粒子の貪食および破壊、免疫複合体のクリアランス、抗体がコーティングする標的細胞のキラー細胞による溶解(抗体依存性細胞媒介性傷害またはADCCと呼ばれる)、炎症メディエーターの放出、胎盤通過、および免疫グロブリン生成の制御を含めた、数々の重要なおよび多様な生物学的応答を誘発する。好ましい実施形態において、本発明の抗体またはそのフラグメントは、Fc-ガンマ受容体に結合する。代替の実施形態において、本発明の抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体は、1つもしくはそれ以上のエフェクター機能(例えば、ADCC活性)を欠き、および/またはFc受容体に結合することができない定常領域を含み得る。
【0097】
本発明のある実施形態は、免疫原性がほぼ同じである非改変の全体の抗体と比べた場合、エフェクター機能の低減もしくは増強、非共有結合性に二量体化する能力、腫瘍部位に局在化する能力の増大、血清半減期の低減、または血清半減期の増大など、望ましい生化学的特徴をもたらすように、1つまたはそれ以上の定常領域ドメインにおける少なくとも1つのアミノ酸が欠失され、またはその他の点で改変されている、抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体を含む。例えば、本明細書に記載する診断方法および処置方法において用いるためのある種の抗体またはそのフラグメントは、免疫グロブリン重鎖に類似のポリペプチド鎖を含むが、1つまたはそれ以上の重鎖ドメインの少なくとも一部を欠く、ドメイン欠損抗体(domain deleted antibody)である。例えば、ある抗体において、修飾された抗体の定常領域の1ドメイン全体が欠失され、例えば、CH2ドメインの全部または部分が欠失される。
【0098】
他のある実施形態において、抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体は、異なる抗体アイソタイプに由来する定常領域(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4の2つ以上からの定常領域)を含む。他の実施形態において、抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体は、キメラのヒンジ(すなわち、異なる抗体アイソタイプのヒンジドメインに由来するヒンジ部分を含むヒンジ、例えば、IgG4分子からの上部ヒンジドメインおよびIgG1中央ヒンジドメイン)を含む。一実施形態において、抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体は、ヒトIgG4分子からFc領域またはその部分、および分子のコアヒンジ領域におけるSer228Pro変異(EU番号付け)を含む。
【0099】
ある種の抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体において、Fc部分は、当技術分野において知られている技術を用いて、エフェクター機能を増大または低減するように変異されていてよい。例えば、定常領域ドメインの欠失または不活性化(点変異もしくは他の手段による)により、循環性の修飾されている抗体のFc受容体結合が低減し、それにより腫瘍の局在化を増大し得る。他の場合では、本発明に一致する定常領域の修飾は補体の結合を加減し、ゆえに血清半減期およびコンジュゲートした細胞毒の非特異的な会合を低減し得る。定常領域のさらに他の修飾を用いて、抗原の特異性または柔軟性の増大により局在化を増強させる、ジスルフィド連結またはオリゴ糖部分を修飾してもよい。腫瘍の局在化、体内分布、および血清半減期など、得られた物理学的プロファイル、バイオアベイラビリティ、および修飾の他の生化学的効果は、過度の実験をせずに良く知られている免疫学的技術を用いて、容易に測定し、定量することができる。
【0100】
ある実施形態において、本発明の抗体において用いられるFcドメインはFcバリアントである。本明細書で用いられる、「Fcバリアント」の語は、前記Fcドメインが由来する野生型Fcドメインに対して少なくとも1つのアミノ酸置換を有するFcドメインを意味する。例えば、FcドメインがヒトIgG抗体に由来する場合、前記ヒトIgG1のFcドメインのFcバリアントは、前記Fcドメインに対して少なくとも1つのアミノ酸置換を含んでいる。
【0101】
Fcバリアントのアミノ酸置換は、Fcドメイン内のあらゆる位置(すなわち、EU規則のあらゆるアミノ酸位置)に位置していてよい。一実施形態において、Fcバリアントは、ヒンジドメインまたはその部分に位置するアミノ酸位置での置換を含む。別の一実施形態において、Fcバリアントは、CH2ドメインまたはその部分に位置するアミノ酸位置での置換を含む。別の一実施形態において、Fcバリアントは、CH3ドメインまたはその部分に位置するアミノ酸位置での置換を含む。別の一実施形態において、Fcバリアントは、CH4ドメインまたはその部分に位置するアミノ酸位置での置換を含む。
【0102】
本発明の抗体は、エフェクター機能および/またはFcR結合において改善(例えば、低減または増強)をもたらすことが知られている、技術分野で認められているあらゆるFcバリアントを用いることができる。前記Fcバリアントは、例えば、その各々を参照によって本明細書に組み入れる、国際PCT公開WO88/07089A1、WO96/14339A1、WO98/05787A1、WO98/23289A1、WO99/51642A1、WO99/58572A1、WO00/09560A2、WO00/32767A1、WO00/42072A2、WO02/44215A2、WO02/060919A2、WO03/074569A2、WO04/016750A2、WO04/029207A2、WO04/035752A2、WO04/063351A2、WO04/074455A2、WO04/099249A2、WO05/040217A2、WO05/070963A1、WO05/077981A2、WO05/092925A2、WO05/123780A2、WO06/019447A1、WO06/047350A2、およびWO06/085967A2、または米国特許第5,648,260号、第5,
739,277号、第5,834,250号、第5,869,046号、第6,096,871号、第6,121,022号、第6,194,551号、第6,242,195号、第6,277,375号、第6,528,624号、第6,538,124号、第6,737,056号、第6,821,505号、第6,998,253号、および第7,083,784号に開示されているあらゆる1つのアミノ酸置換を含むことができる。例示の一実施形態において、本発明の抗体は、EU268位にアミノ酸置換(例えば、H268DまたはH268E)を含むFcバリアントを含むことができる。別の例示の一実施形態において、本発明の抗体は、EU239位(例えば、S239DもしくはS239E)および/またはEU332位(例えば、I332DもしくはI332Q)にアミノ酸置換を含むFcバリアントを含むことができる。
【0103】
ある実施形態において、本発明の抗体は、抗体の抗原非依存的エフェクター機能、特に抗体の循環半減期を改変するアミノ酸置換を含むFcバリアントを含むことができる。このような抗体は、これら置換のない抗体と比べた場合、FcRnに対する結合の増大または低減のいずれかを表し、ゆえに血清における半減期のそれぞれ増大または低減を有する。FcRnに対して改善された親和性を有するFcバリアントは血清半減期がより長いことが予想され、このような分子は、慢性疾患または障害の処置など、投与した抗体の半減期が長いことが望ましい場合の哺乳動物の処置の方法において有用な適用がある。これとは対照的に、FcRn結合親和性の低減したFcバリアントは半減期がより短いことが予想され、このような分子は、例えば、in vivoの画像診断において、または長期間循環中に存在する場合に出発抗体に毒性の副作用がある場合においてなど、循環時間の短縮が有利であり得る場合に哺乳動物に投与するのに有用である。FcRn結合親和性の低下したFcバリアントはまた、胎盤を通過する可能性が低く、したがって妊婦における疾患または障害を処置するのにも有用である。さらに、低減したFcRn結合親和性が望ましいことがある他の適用には、脳、腎臓、および/または肝臓の局在化が望ましい適用が含まれる。例示の一実施形態において、本発明の改変された抗体は、脈管構造から腎糸球体の上皮を越えた輸送の低下を示す。別の一実施形態において、本発明の改変された抗体は、脳から血液脳関門(BBB)を超え、血管の間隙中への輸送の低下を示す。一実施形態において、FcRn結合の改変された抗体は、Fcドメインの「FcRn結合性ループ」内に1つまたはそれ以上のアミノ酸置換を有するFcドメインを含む。FcRn結合性ループは、280~299のアミノ酸残基(EU番号付けによる)からなる。FcRn結合活性を改変した例示のアミノ酸置換は、参照によって本明細書に組み入れる、国際PCT公開番号WO05/047327に開示されている。ある種の例示の実施形態において、本発明の抗体またはそのフラグメントは、以下の置換を1つまたはそれ以上有するFcドメインを含む:V284E、H285E、N286D、K290E、およびS304D(EU番号付け)。
【0104】
他の実施形態において、本明細書に記載する診断および処置方法において用いるための抗体は、グリコシル化を低減または排除するように改変されている、IgG1またはIgG4重鎖定常領域などの定常領域を有する。例えば、本発明の抗体は、抗体のグリコシル化を改変するアミノ酸置換を含むFcバリアントを含むこともできる。例えば、前記Fcバリアントは、低減したグリコシル化(例えば、N連結またはO連結したグリコシル化)を有することができる。例示の実施形態において、Fcバリアントは、アミノ酸の297位(EU番号付け)に通常見出されるN連結したグリカンのグリコシル化の低減を含む。別の一実施形態において、抗体は、グリコシル化モチーフの付近またはグリコシル化モチーフ内、例えば、アミノ酸配列NXTまたはNXSを含んでいるN連結したグリコシル化モチーフ内のアミノ酸置換を有する。特定の一実施形態において、抗体は、アミノ酸の228位または299位(EU番号付け)にアミノ酸置換を有するFcバリアントを含む。より詳しい実施形態において、抗体は、S228PおよびT299A変異(EU番号付け)を含むIgG1またはIgG4の定常領域を含む。
【0105】
グリコシル化の低減または改変を付与する例示のアミノ酸置換は、参照によって本明細書に組み入れる、国際PCT公開番号WO05/018572に開示されている。好ましい実施形態において、本発明の抗体またはそのフラグメントは、グリコシル化を排除するように修飾される。このような抗体またはそのフラグメントは、「アグリ(agly)」抗体またはそのフラグメント(例えば、「アグリ」抗体)と呼ばれることがある。理論によって拘泥しようとするものではないが、「アグリ」抗体またはそのフラグメントは、in vivoで安全性および安定性の改善されたプロファイルを有し得る。例示のアグリ抗体またはそのフラグメントは、Fcエフェクター機能を欠くIgG4抗体のアグリコシル化(aglycosylated)Fc領域を含み、それによりカリジンまたはdes-Arg10-カリジンを発現する正常の重要な器官に対するFc媒介性毒性に対する潜在性を排除する。さらに他の実施形態において、本発明の抗体またはそのフラグメントは、改変されたグリカンを含む。例えば、抗体は、Fc領域のAsn297のNグリカン上に少数のフコース残基を有することができ、すなわち、アフコシル化されている(afucosylated)。別の一実施形態において、抗体は、Fc領域のAsn297のNグリカン上に改変された数のシアル酸残基を有することができる。
【0106】
iii)共有結合性の付着
共有結合性の付着が、抗体がその同族のエピトープに特異的に結合するのを妨げないように、本発明の抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体を、抗体に対する分子の共有結合性の付着などにより修飾してもよい。例えば、限定的なものではないが、本発明の抗体またはそのフラグメントを、グリコシル化、アセチル化、ペグ化、リン酸化、アミド化、知られている保護基/ブロッキング基による誘導体化、タンパク分解性の切断、細胞のリガンドまたは他のタンパク質に対する連結などにより修飾してもよい。あらゆる多数の化学的修飾を、それだけには限定されないが、特異的な化学的切断、アセチル化、ホルミル化などを含めた知られている技術により行ってもよい。さらに、誘導体は、1つまたはそれ以上の非古典的なアミノ酸を含むことができる。
【0107】
本発明の抗体またはそのフラグメントは、N末端もしくはC末端で異種性のポリペプチドにさらに組換え的に融合していてもよく、またはポリペプチドもしくは他の組成物に対して化学的にコンジュゲートしていてもよい(共有結合性および非共有結合性のコンジュゲートを含む)。例えば、抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体は、検出アッセイにおける標識として有用な分子、および異種性のポリペプチド、薬物、放射性核種、または毒素などのエフェクター分子に組換え的に融合またはコンジュゲートしていてもよい。例えば、PCT公開WO92/08495、WO91/14438、WO89/12624、米国特許第5,314,995号、およびEP396,387を参照されたい。
【0108】
抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体は、in vivoの半減期を増大するために、または当技術分野において知られている方法を用いた免疫アッセイにおいて用いるために、異種性のポリペプチドに融合していてもよい。例えば、一実施形態において、PEGが本発明の抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体にコンジュゲートして、in vivoの半減期を増大することができる。Leong,S.R.ら、Cytokine、16巻、106頁(2001年);Adv.in Drug Deliv.Rev.、54巻、531頁(2002年);またはWeirら、Biochem.Soc.Transactions、30巻、512頁(2002年)。
【0109】
さらに、本発明の抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体は、ペプチドなどのマーカー配列に融合して、精製または検出を促進してもよい。好ましい実施形態において、マーカーのアミノ酸配列は、多くが市販されている数ある中で、pQEベクター(
QIAGEN、Inc.、9259 Eton Avenue、Chatsworth、Calif.、91311)において提供されるタグなどのヘキサヒスチジンペプチドである。例えば、Gentzら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、86巻、821~824頁(1989年)において記載されている通り、ヘキサヒスチジンは融合タンパク質の簡便な精製をもたらす。精製に有用な他のペプチドタグには、それだけには限定されないが、インフルエンザのヘマグルチニンタンパク質に由来するエピトープに対応する「HA」タグ(Wilsonら、Cell、37巻、767頁(1984年))および「フラグ」タグが含まれる。
【0110】
本発明の抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体は、例えば、分子の治療上の性質を改善するために、標的の検出を促進するために、または患者の画像作成もしくは治療のために、非コンジュゲート形態において用いてもよく、または様々な分子の少なくとも1つにコンジュゲートしていてもよい。本発明の抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体は、精製を行う場合は精製の前または後のいずれかに、標識化またはコンジュゲートすることができる。特に、本発明の抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体は、治療薬、プロドラッグ、ペプチド、タンパク質、酵素、ウイルス、脂質、生物学的応答調節剤、医薬品、またはPEGにコンジュゲートしていてもよい。
【0111】
本発明は、診断薬または治療薬にコンジュゲートしている、本発明の抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体をさらに包含する。抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体を診断的に用いて、例えば、臨床検査手順の部分として免疫細胞障害(例えば、CLL)の発症または進行をモニタリングして、所与の処置および/または防止のレジメンの有効性などを決定することができる。検出は、抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体の、検出可能な物質に対するカップリングにより促進され得る。検出可能な物質の例には、様々な酵素、補欠分子族、蛍光材料、発光材料、生物発光材料、放射性材料、様々なポジトロン放出断層撮影を用いたポジトロン放射性金属、および非放射性の常磁性金属イオンが含まれる。例えば、本発明による診断として用いるために抗体にコンジュゲートすることができる金属イオンについて、米国特許第4,741,900号を参照されたい。適切な酵素の例には、セイヨウワサビのペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、またはアセチルコリンエステラーゼが含まれ;適切な補欠分子族複合体の例には、ストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビオチンが含まれ;適切な蛍光材料の例には、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリド、またはフィコエリスリンが含まれ;発光材料の例にはルミノールが含まれ;生物発光材料の例には、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、およびエクオリンが含まれ;適切な放射性材料の例には、125I、131I、111In、または99Tcが含まれる。
【0112】
本明細書に開示する診断および処置方法において用いるための抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体は、細胞毒(例えば、放射性同位元素、細胞毒性薬物、もしくは毒素)、治療薬、細胞分裂阻害剤、生物学的毒素、プロドラッグ、ペプチド、タンパク質、酵素、ウイルス、脂質、生物学的応答調節剤、医薬品、免疫学的に活性なリガンド(例えば、得られる分子が新生物細胞およびT細胞などのエフェクター細胞の両方に結合する、リンホカインもしくは他の抗体)またはPEGにコンジュゲートしていてもよい。
【0113】
別の一実施形態において、本明細書に開示する診断方法および処置方法において用いるための抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体は、腫瘍細胞の増殖を低減する分子にコンジュゲートしていてもよい。他の実施形態において、開示する組成物は、薬物またはプロドラッグにカップリングしている抗体またはそのフラグメントを含み得る。本発明のなお他の実施形態は、リシン、ゲロニン(gelonin)、シュードモナス外
毒素、またはジフテリア毒素など、特定の生体毒素またはこれらの細胞毒性フラグメントにコンジュゲートしている、抗体またはそのフラグメントの使用を含む。どのコンジュゲートの抗体または非コンジュゲートの抗体を用いるかの選択は、癌のタイプおよびステージ、補助的処置の使用(例えば、化学療法または外部放射)、および患者の状態に依存する。当業者であれば、本明細書の教示に鑑みてこのような選択を容易に行うことができることが理解されよう。
【0114】
以前の研究において、同位元素で標識されている抗腫瘍抗体は、動物モデルにおいて、ある場合にはヒトにおいて、腫瘍細胞を破壊するのに上首尾に用いられていることが理解されよう。例示の放射性同位元素には、90Y、125I、131I、123I、111In、105Rh、153Sm、67Cu、67Ga、166Ho、177Lu、186Re、および188Reが含まれる。放射性核種は、核のDNAにおける多数の鎖切断を引き起こす電離放射線を生成し、細胞死をもたらすことによって作用する。治療用コンジュゲートを生成するのに用いられる同位元素は、路程の短い、高エネルギーアルファ粒子またはベータ粒子を生成するのが典型的である。このような放射性核種は、それに対してコンジュゲートが付着し、または侵入する、新生物細胞など、これらが極めて近接する細胞を死滅させる。これらは、非局在性細胞に対して効果が殆どまたは全くない。放射性核種は本質的に非免疫原性である。
【0115】
IV.抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体、またはそれらの抗原結合性フラグメントの発現
上記に記載した本発明の抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体を提供するための単離された遺伝物質をマニピュレーションした後は、遺伝子を、所望の量の請求する抗体またはそのフラグメントを生成するのに用いることができる宿主細胞中に導入するための発現ベクター中に挿入するのが典型的である。
【0116】
「ベクター」または「発現ベクター」の語は、明細書および特許請求の範囲の目的で本明細書において用いられて、細胞中の所望の遺伝子中に導入し、所望の遺伝子を発現するためのビヒクルとして本発明に従って用いられるベクターを意味する。当業者には知られている通り、このようなベクターは、プラスミド、ファージ、ウイルス、およびレトロウイルスからなる群から容易に選択することができる。一般的に、本発明に適合性であるベクターは、選択マーカー、所望の遺伝子のクローニングを促進するのに適切な制限部位、および真核細胞もしくは原核細胞に侵入し、および/または真核細胞もしくは原核細胞において複製する能力を含む。
【0117】
多数の発現ベクター系を、本発明の目的に用いることができる。例えば、1クラスのベクターは、ウシパピローマウイルス、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、レトロウイルス(RSV、MMTV、もしくはMOMLV)、またはSV40ウイルスなどの動物ウイルスに由来するDNAエレメントを利用する。その他は、内部リボソーム結合部位を有するポリシストロニック系の使用を伴う。さらに、トランスフェクションされた宿主細胞の選択を可能にするマーカーを1つまたはそれ以上導入することにより、DNAをその染色体中に組み込んでいる細胞を選択することができる。マーカーは、原栄養性を、栄養要求性の宿主に、殺生物剤(例えば、抗生物質)抵抗性または銅などの重金属に対する抵抗性を提供し得る。選択マーカー遺伝子は、発現させようとするDNA配列に直接連結されるか、または同時形質転換により同じ細胞中に導入されるかのいずれかであり得る。さらなるエレメントが、mRNAの最適合成にやはり必要とされ得る。これらのエレメントは、シグナル配列、スプライスシグナル、ならびに転写プロモーター、エンハンサー、および終止シグナルを含み得る。特に好ましい実施形態において、上記で論じた通り、クローニングされた可変領域遺伝子が、発現ベクター中に、重鎖および軽鎖の合成された定常領域遺伝子(好ましくはヒト)と一緒に挿入され
る。
【0118】
他の好ましい実施形態において、本発明の抗カリジンもしくはdes-Arg10-カリジン抗体またはこれらのフラグメントは、ポリシストロニック構築物を用いて発現され得る。このような発現系において、抗体の重鎖および軽鎖など、多数の対象の遺伝子生成物を、単一のポリシストロニック構築物から生成することができる。これらの系は、真核生物の宿主細胞において本発明のポリペプチドを比較的高レベルで提供するのに、内部リボソーム侵入部位(IRES)を用いるのが有利である。適合性のIRES配列が、本明細書に参照によって組み入れる、米国特許第6,193,980号に開示されている。当業者であれば、このような発現系を用いて、本出願に開示される全範囲のポリペプチドを効果的に生成することができる。
【0119】
より一般的には、抗体またはそのフラグメントをコードするベクターまたはDNA配列を調製した後、発現ベクターを適切な宿主細胞中に導入してもよい。すなわち、宿主細胞を形質転換してもよい。プラスミドの宿主細胞中への導入は、当業者にはよく知られている様々な技術によって遂行することができる。これらには、それだけには限定されないが、トランスフェクション(電気泳動および電気穿孔を含む)、プロトプラスト融合、リン酸カルシウム沈降、被覆されたDNAでの細胞融合、マイクロインジェクション、およびインタクトなウイルスへの感染が含まれる。Ridgway,A.A.G.、「Mammalian Expression Vectors」、チャプター24.2、470~472頁、Vectors、RodriguezおよびDenhardt編集(Butterworths、Boston、Mass.、1988年)を参照されたい。プラスミドの宿主中への導入が、電気穿孔によるのが最も好ましい。形質転換した細胞を、軽鎖および重鎖の生成に適切な条件下で増殖させ、重鎖および/または軽鎖のタンパク質合成に対してアッセイする。例示のアッセイ技術には、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、または蛍光標示式細胞分取器分析(FACS)、免疫組織化学などが含まれる。
【0120】
本明細書で用いられる「形質転換」の語は、広範な意味において用いられて、遺伝子型を変更し、引き続きレシピエント細胞における変化をもたらす、レシピエント宿主細胞中へのDNAの導入を意味する。
【0121】
これらの同じ系統に沿って、「宿主細胞」は、組換えDNA技術を用いて構築され、少なくとも1つの異種性の遺伝子をコードするベクターで形質転換されている細胞を意味する。組換え宿主からポリペプチドを単離するためのプロセスの記載において、「細胞」および「細胞培養物」の語は交換可能に用いられて、明らかに別の方法で特定されなければ、抗体の起源を意味する。換言すれば、「細胞」からのポリペプチドの回収は、回転させて落とした全細胞から、または培地および懸濁した細胞の両方を含む細胞培養物からのいずれかを意味し得る。
【0122】
一実施形態において、抗体の発現に用いる宿主細胞系は哺乳動物由来のものであり、当業者であれば、その中で発現させようとする所望の遺伝子生成物に最も適する特定の宿主細胞系を決定することができる。例示の宿主細胞系には、それだけには限定されないが、DG44およびDUXB11(チャイニーズハムスター卵巣系、DHFRマイナス)、HELA(ヒト子宮頚癌)、CVI(サル腎臓系)、COS(CVIのSV40 T抗原での誘導体)、R1610(チャイニーズハムスター線維芽細胞) BALBC/3T3(マウス線維芽細胞)、HAK(ハムスター腎臓系)、SP2/O(マウスミエローマ)、BFA-1c1BPT(ウシ内皮細胞)、RAJI(ヒトリンパ球)、293(ヒト腎臓)が含まれる。一実施形態において、細胞系は、それから発現される抗体のアフコシル化など、改変されたグリコシル化を提供する(例えば、PER.C6.RTM.(Cruc
ell)またはFUT8-ノックアウトCHO細胞系(Potelligent.RTM.細胞)(Biowa、Princeton、N.J.))。一実施形態において、NS0細胞を用いることができる。CHO細胞が特に好ましい。宿主細胞系は典型的に、商業的サービスである、米国組織培養コレクション(American Tissue Culture Collection)または出版されている文献から入手できる。
【0123】
in vitro生成により、大量の所望のポリペプチドを産出するためのスケールアップが可能になる。組織培養条件下で哺乳動物細胞を培養するための技術は当技術分野において知られており、均質懸濁(homogeneous suspension)培養(例えば、エアリフトリアクター中もしくは連続的スターラーリアクター中)、または固定化もしくは捕捉された細胞培養(例えば、ホローファイバー中、マイクロカプセル中、アガロースマイクロビーズ上、もしくはセラミックカートリッジ上)が含まれる。必要であれば、および/または所望により、ポリペプチドの溶液は、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、DEAE-セルロース上のクロマトグラフィー、および/または(免疫)アフィニティクロマトグラフィーなど、通例のクロマトグラフィー方法によって精製することができる。
【0124】
本発明の抗カリジンもしくはdes-Arg10-カリジン抗体またはこれらのフラグメントをコードする遺伝子は、細菌または酵母菌または植物細胞などの非哺乳動物細胞で発現させることもできる。これに関して、様々な非哺乳動物の単細胞微生物(例えば、細菌)、すなわち、培養物または発酵において増殖させることができるものも、形質転換することができることが理解されよう。細菌は形質転換を受けやすく、腸内細菌科のメンバー、例えば、大腸菌(Escherichia coli)またはサルモネラ(Salmonella);バシラス科(Bacillaceae)、例えば、枯草菌(Bacillus subtilis);肺炎球菌(Pneumococcus);連鎖球菌(Streptococcus)、およびインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)の系統が含まれる。細菌中で発現させる場合、ポリペプチドが封入体の一部になり得ることがさらに理解されよう。ポリペプチドを、単離し、精製し、次いで機能性分子に構築しなければならない。
【0125】
原核生物の他に、真核微生物も用いることができる。出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、すなわち通常のパン酵母が、真核微生物の中で最も一般的に用いられるが、数々の他の系統が一般的に利用できる。出芽酵母における発現には、例えば、プラスミドYRp7(Stinchcombら、Nature、282巻、39頁(1979年);Kingsmanら、Gene、7巻、141頁(1979年);Tschemperら、Gene、10巻、157頁(1980年))が一般的に用いられる。このプラスミドはすでに、ATCC No.44076またはPEP4-1(Jones、Genetics、85巻、12頁(1977年))など、トリプトファン中で増殖する能力を欠く酵母菌の変異株に対する選択マーカーを提供するTRP1遺伝子を含んでいる。酵母菌宿主細胞のゲノムに特徴的であるtrpIの破壊(lesion)の存在により、次いで、トリプトファンの非存在下の増殖によって形質転換を検出するための効果的な環境がもたらされる。
【0126】
V.医薬製剤、および抗カリジンまたはdes-Arg10-カリジン抗体の投与方法
別の一態様において、本発明は、抗カリジンもしくはdes-Arg10-カリジン抗体またはこれらのフラグメントを含む医薬組成物を提供する。
【0127】
本発明の抗体またはそのフラグメントを調製し、対象に投与する方法は、よく知られており、または当業者によって容易に決定される。本発明の抗体またはそのフラグメントの投与経路は、経口、非経口、吸入による、または局所的であってよい。本明細書で用いら
れる非経口の語は、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、直腸、または膣投与を含む。静脈内、動脈内、皮下、および筋肉内の形態の非経口投与が一般的に好ましい。これらの形態の投与は全て本発明の範囲内であることが明らかに企図されるが、投与のための形態は、注射用、特に、静脈内または動脈内の注射用または点滴用の溶液である。通常、注射に適する医薬組成物はバッファー(例えば、酢酸バッファー、リン酸バッファー、またはクエン酸バッファー)、界面活性剤(例えば、ポリソルベート)、場合により安定化剤(例えば、ヒトアルブミン)などを含むことができる。しかしながら、本明細書の教示に適合性である他の方法において、ポリペプチドを、有害な細胞の集団の部位で直接誘導体化し、それにより罹患組織の治療薬に対する暴露を増大してもよい。
【0128】
非経口投与のための調製物には、無菌の水溶液剤、または非水性溶液剤、懸濁剤、および乳剤が含まれる。非水性溶媒の例には、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルがある。水性担体は、水、アルコール/水性溶液、エマルジョン、または懸濁液を含み、食塩水および緩衝媒体が含まれる。本発明において、薬学的に許容される担体には、それだけには限定されないが、0.01M~0.1M、好ましくは0.05Mのリン酸バッファー、または0.8%食塩水が含まれる。他の通常の非経口用ビヒクルには、リン酸ナトリウム溶液、リンゲルのデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル、または不揮発性油が含まれる。静脈内ビヒクルには、液体および栄養の補充剤、電解質補充剤、例えば、リンゲルのデキストロースをベースにしたものなどが含まれる。保存剤および他の添加剤、例えば、抗微生物剤、抗酸化剤、キレート化剤、および不活性ガスなども、存在することができる。より具体的には、注射用使用に適する医薬組成物には、無菌の水溶液(水溶性の場合)、または無菌の注射用溶液もしくは分散液を即席で調製するための分散剤および無菌の粉末が含まれる。このような場合、組成物は無菌でなければならず、容易なシリンジ操作性(syringability)が存在する程度に液体でなければならない。組成物は製造および貯蔵の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染性の作用に対抗して保存されるのが好ましい。担体は、水、エタノール、多価アルコール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)を含む溶媒または分散媒体、ならびにこれらの適切な混合物であってよい。例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散物の場合は必要とされる粒子サイズの維持により、界面活性剤の使用により、適当な流動性を維持することができる。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって実現することができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖、多価アルコール、例えば、マンニトール、ソルビトール、または塩化ナトリウムが組成物中に含まれるのが好ましい。注射用組成物の長時間の吸収は、組成物中に、吸収を遅らせる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを含めることによりもたらすことができる。
【0129】
いずれにしても、無菌の注射用溶液剤は、必要とされる量の有効化合物(例えば、単独の、または他の有効薬剤と組み合わせた抗体)を、所望により、本明細書に列挙した成分の1つまたは組合せと一緒に適切な溶媒中に組み入れ、その後濾過滅菌することにより調製することができる。一般的に、分散剤は、有効化合物を無菌のビヒクル中に組み入れることにより調製され、無菌のビヒクルは、塩基性の分散媒体、および上記に列挙したものの中から必要とされる他の成分を含んでいる。無菌の注射用溶液を調製するための無菌の粉末の場合、好ましい調製方法は真空乾燥および凍結乾燥であり、凍結乾燥により、あらかじめ滅菌濾過したその溶液から、有効成分プラスあらゆるさらなる所望の成分の粉末が産生される。注射用の調製物を、当技術分野において知られている方法に従って無菌条件下で、処理加工し、アンプル、バッグ、ボトル、シリンジ、またはバイアルなどの容器中に充填し、密閉する。さらに、調製物を包装し、各々参照によって本明細書に組み入れる、同時係属中の米国出願番号第09/259,337号および米国出願番号第09/25
9,338号に記載されているものなどのキットの形態で販売してもよい。このような製品は、関連する組成物は、自己免疫障害または新生物障害に罹患し、またはかかりやすい対象を処置するのに有用であることを示すラベルまたは添付文書を有するのが好ましい。
【0130】
本発明の安定化した抗体またはそのフラグメントの、上記に記載した状態を処置するのに有効な投与量は、投与手段、標的部位、患者の生理学的状態、患者がヒトであるか、または動物であるか、投与する他の薬物療法、および処置が予防的であるか、または治療的であるかを含めた多くの様々な因子に応じて変化する。通常、患者はヒトであるが、トランスジェニック哺乳動物を含めた非ヒトの哺乳動物も処置することができる。処置の投与量は、安全性および有効性を最適化するために、当業者に知られているルーチンの方法を用いて滴定することができる。
【0131】
本発明の抗体での受動免疫に対して、投与量は、例えば、約0.0001mg/kg体重から100mg/kg体重(宿主の)、より通常的に0.01mg/kg体重から5mg/kg体重(例えば、0.02mg/kg体重、0.25mg/kg体重、0.5mg/kg体重、0.75mg/kg体重、1mg/kg体重、2mg/kg体重など)の範囲であってよい。例えば、投与量は、1mg/kg体重または10mg/kg体重、または1~10mg/kg体重の範囲内、好ましくは少なくとも1mg/kg体重であってよい。上記の範囲における投与量の中間値も、本発明の範囲内であることが意図される。
【0132】
対象に、このような投与量を毎日、1日おき、毎週、または経験的な分析によって決定されるあらゆる他のスケジュールに従って投与することができる。例示的な処置は、長期間、例えば、少なくとも6か月にわたる、複数投与量の投与を伴う。さらなる例示的な処置レジメンは、2週間ごとに1回、または1か月に1回、または3か月から6か月ごとに1回の投与を伴う。例示的な投与量スケジュールは、連日1~10mg/kgまたは15mg/kg、1日おきに30mg/kg、または毎週60mg/kgを含む。いくつかの実施形態において、結合特異性の異なる2つ以上のモノクローナル抗体を同時に投与するが、この場合、投与する各抗体の投与量は指摘する範囲内であり得る。
【0133】
本発明の抗体またはそのフラグメントは、複数の機会に投与することができる。単回投与量の間の間隔は、例えば、毎日、毎週、毎月、または毎年であってよい。間隔はまた、患者におけるポリペプチドまたは標的分子の血中レベルを測定することによって指摘される通り、不規則であってもよい。いくつかの方法では、投与量は、1~1000ug/mlまたは25~300ug/mlなど、抗体または毒素の血漿中のある濃度を実現するように調節される。あるいは、抗体またはそのフラグメントを徐放製剤として投与することができ、この場合、より頻度の少ない投与が必要とされる。投与量および頻度は、患者中の抗体の半減期に応じて変化する。一般的に、ヒト化抗体が最も長い半減期を示し、キメラ抗体および非ヒト抗体がその後に続く。一実施形態において、本発明の抗体またはそのフラグメントは、非コンジュゲート形態において投与することができる。別の一実施形態において、本発明の抗体は、コンジュゲート形態において複数回投与することができる。さらに別の一実施形態において、本発明の抗体またはそのフラグメントは、非コンジュゲート形態において、次いでコンジュゲート形態において、またはその反対で投与することができる。
【0134】
投与量および投与の頻度は、処置が予防的であるかまたは治療的であるかに応じて変化し得る。予防的適用では、本発明の抗体を含む組成物またはそのカクテルを、まだ疾患状態にはない患者に、患者の抵抗性を増強するために投与する。このような量を「予防的有効投与量」と規定する。この使用において、正確な量は、さらに患者の健康状態および全身の免疫に依存するが、一般的に1投与量当たり0.1mgから25mg、特に1投与量当たり0.5mgから2.5mgの範囲である。比較的低い投与量を、長期間にわたって
比較的まばらな間隔で投与する。患者の中には、生涯の残りの間処置を継続して受けるものもある。
【0135】
治療的適用では、疾患の進行が低減または終結するまで、好ましくは患者が疾患の症状の部分的または完全な回復を示すまで、比較的短い間隔の比較的高い投与量(例えば、1投与量あたり抗体約1mg/kgから400mg/kg、ラジオイムノコンジュゲートに対して5mgから25mgの投与量が、細胞毒-薬物コンジュゲート分子に対してより高投与量がより通常用いられる)が時として必要とされる。その後、患者に予防的レジメンを投与してもよい。
【0136】
一実施形態において、対象を、本発明のポリペプチドをコードする核酸分子(例えば、ベクター中)で処置してもよい。ポリペプチドをコードする核酸に対する投与量は、患者1人あたりDNA約10ngから1g、100ngから100mg、1ugから10mg、または30~300ugの範囲である。感染性のウイルスベクターに対する投与量は、1投与量あたりビリオン10~100個から、またはそれを超えて変化する。
【0137】
治療薬は、予防的処置および/または治療的処置に対して、非経口、局所、静脈内、経口、皮下、動脈内、頭蓋内、腹腔内、経鼻、または筋肉内の手段によって投与することができる。筋肉内注射または静脈内注入が、本発明の抗体の投与に好ましい。いくつかの方法において、治療用抗体またはそのフラグメントを、頭蓋中に直接注射する。いくつかの方法において、抗体またはそのフラグメントを、徐放用組成物または装置として、例えば、Medipat(商標)装置として投与する。
【0138】
本発明の薬剤は、処置(例えば、予防的もしくは治療的)を必要とする障害または状態を処置する上で有効である他の薬剤と組み合わせて、場合により投与することができる。好ましいさらなる薬剤は、当技術分野で認められており、特定の障害に標準的に投与される薬剤である。
【0139】
本発明の90Y標識化抗体の有効な単回処置線量(すなわち、治療有効量)は、約5mCiと約75mCiの間、より好ましくは約10mCiと約40mCiの間の範囲である。131I標識化抗体の有効な単回処置非骨髄切除(non-marrow ablative)線量は、約5mCiと約70mCiの間、より好ましくは約5mCiと約40mCiの間の範囲である。131I標識化抗体の有効な単回処置切除(ablative)線量(すなわち、骨髄自家移植を必要とし得る)は、約30mCiと約600mCiの間、より好ましくは約50mCiと500mCi未満の間の範囲である。キメラ修飾した抗体と組み合わせると、マウス抗体と相対して循環半減期がより長いため、ヨウ素131標識化キメラ抗体の有効な単回処置非骨髄切除(non-marrow ablative)線量は、約5mCiと約40mCiの間の範囲、より好ましくは約30mCi未満である。111In標識などに対する画像法の判断基準は、約5mCi未満であるのが典型的である。
【0140】
131Iおよび90Yで大量の臨床実験を獲得したが、他の放射標識が当技術分野で知られており、同様の目的で用いられている。さらに他の放射性同位元素が画像法に用いられている。例えば、本発明の範囲に適合性であるさらなる放射性同位元素には、それだけには限定されないが、123I、125I、32P、57Co、64Cu、67Cu、77Br、81Rb、81Kr、87Sr、113In、127Cs、129Cs、132I、197Hg、203Pb、206Bi、177Lu、186Re、212Pb、212Bi、47Sc、105Rh、109Pd、153Sm、188Re、199Au、225Ac、211A 213Biが含まれる。この点で、アルファ、ガンマ、およびベータ放射体は全て、本発明の範囲内で適合性である。さらに、本開示に鑑みて、当業者であ
れば、過度の実験をせずに、どの放射性核種が選択された経過の処置に適合性であるかを容易に決定することができることが提案される。この目的で、臨床上の診断においてすでに用いられているさらなる放射性核種には、125I、123I、99Tc、43K、52Fe、67Ga、68Ga、および111Inが含まれる。抗体は、標的化免疫療法において潜在的に用いるために様々な放射性核種でやはり標識化されている(Peirerszら、Immunol.Cell Biol.、65巻、111~125頁(1987年))。これらの放射性核種には、188Reおよび186Re、ならびにより低い度合いで199Auおよび67Cuが含まれる。米国特許第5,460,785号は、このような放射性同位元素に関するさらなるデータを提供するものであり、参照によって本明細書に組み入れる。
【0141】
先に論じた通り、本発明の抗体またはそのフラグメントは、哺乳動物の障害をin vivo処置するのに薬学的に有効な量において投与することができる。この点で、本開示の抗体またはそのフラグメントは、有効薬剤の投与を促進し、安定性を促進するように調合されることが理解されよう。本発明による医薬組成物が、薬学的に許容される、非毒性の、無菌の担体、例えば、生理食塩水、非毒性のバッファー、保存剤などを含むのが好ましい。本出願の目的では、治療薬にコンジュゲートしている、または非コンジュゲートの、本発明の抗体の薬学的に有効な量は、標的に対する効果的な結合を実現し、利益を実現するのに、例えば、疾患もしくは障害の症状を回復し、または物質もしくは細胞を検出するのに、十分な量を意味するよう持ちこたえられる。腫瘍細胞の場合、ポリペプチドは、好ましくは、新生物細胞または免疫反応性細胞上の選択された免疫反応性の抗原と相互作用することができ、これらの細胞の死滅の増大をもたらす。もちろん、本発明の医薬組成物は、薬学的に有効な量のポリペプチドを提供するために単回投与量または複数回投与量において投与することができる。
【0142】
本開示の範囲に沿って、本発明の抗体は、治療効果または予防効果を生成するのに十分な量において、前述の処置方法に従ってヒトまたは他の動物に投与することができる。本発明のポリペプチドは、知られている技術に従って、本発明の抗体を従来の薬学的に許容される担体または希釈剤と組み合わせることによって調製される従来の剤形において、このようなヒトまたは他の動物に投与することができる。当業者であれば、薬学的に許容される担体または希釈剤の形態および特徴は、それと一緒に組み合わせようとする有効成分の量、投与経路、および他のよく知られている変数によって指示されることを認識されよう。当業者であれば、本発明によるポリペプチドの1つまたはそれ以上の種を含むカクテルは、特に効果的であることが判明し得ることをさらに理解されよう。
【0143】
VI.カリジンまたはdes-Arg10-カリジン関連の疾患または障害を処置する方法
本発明の抗カリジンもしくはdes-Arg10-カリジン抗体またはこれらのフラグメントは、カリジンまたはdes-Arg10-カリジンの活性に拮抗するのに有用である。したがって、別の一態様において、本発明は、本発明の抗カリジンもしくはdes-Arg10-カリジン抗体またはこれらの抗原結合性フラグメントを1つまたはそれ以上含む医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することにより、カリジンまたはdes-Arg10-カリジン関連の疾患または障害を処置するための方法を提供する。
【0144】
処置を受け入れることができるカリジンまたはdes-Arg10-カリジン関連の疾患または障害には、制限なく、炎症、外傷、火傷、ショック、アレルギー、急性または慢性の疼痛、および腎線維症などの線維症などの病態生理学的状態が含まれる。ある例示の実施形態において、本発明の抗体は、末期腎不全の主な原因である、腎線維症および関連する急性腎損傷、ならびに慢性腎疾患を処置するために支給することができる。
【0145】
当業者であれば、ルーチンの実験により、カリジンまたはdes-Arg10-カリジン関連の疾患または障害を処置する目的で、有効な、非毒性量の抗体(またはさらなる治療薬)が何であるかを決定することができよう。例えば、ポリペプチドの治療有効量は、疾患のステージ(例えば、ステージI対ステージIV)、年齢、性別、医学上の合併症(例えば、免疫抑制性の状態または疾患)、および対象の体重、ならびに抗体が対象における所望の反応を誘発する能力などの因子に従って変動し得る。投与量レジメンは、最適の治療反応をもたらすように調節することができる。例えば、いくつかの分割された投与量を毎日投与してもよく、または投与量は、治療状況の緊急事態によって指摘される通り、比例的に低減してもよい。しかしながら、一般的には、有効投与量は、1日あたり体重1キログラムあたり約0.05ミリグラムから100ミリグラム、より好ましくは1日あたり体重1キログラムあたり約0.5ミリグラムから10ミリグラムの範囲であると予想される。
【0146】
VII.実施例
本発明を以下の実施例によりさらに説明するが、実施例をさらなる限定と解釈してはならない。配列表、図、および全ての参照、本出願を通して引用する、特許および公開されている特許出願の内容は、参照によって本明細書に明確に組み入れる。
【0147】
さらに、本発明に従って、当業者の範囲内で従来の分子生物学、微生物学、および組換えDNA技術を用いることができる。このような技術は、文献において十分に説明されている。例えば、Sambrook、FritschおよびManiatis、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版(1989年)Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York(本明細書における「Sambrookら、1989年」);DNA Cloning:A Practical Approach、第I巻および第II巻(D.N.Glover編集、1985年);Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait編集、1984);Nucleic Acid Hybridization[B.D.HamesおよびS.J.Higgins編集(1985年)];Transcription And Translation[B.D.HamesおよびS.J.Higgins編集(1984年)];Animal Cell Culture[R.I.Freshney編集(1986年)];Immobilized Cells And Enzymes[IRL Press(1986年)];B.Perbal,A Practical Guide To Molecular Cloning(1984年);F.M.Ausubelら(編集)、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley&Sons,Inc.(1994年)を参照されたい。
【0148】
〔実施例1〕
ハイブリドーマの生成:KLHに対するカリジンペプチドコンジュゲートでのマウスの免疫化およびヒトBKR1リガンドに対する抗体産生
目的は、カリジン(KD;配列番号1)およびdes-arg-カリジン(DAKD;配列番号2)のヒトBKR1に対する結合を阻害する、これらのリガンド(カリジンおよびdes-arg-カリジン)に対する交差反応性抗体を開発することであった。一般的に、ペプチドのC末端上またはN末端上いずれかのさらなるシステインによってKDにコンジュゲートしているKLHでのマウスの免疫化を用いて、ハイブリドーマを生成するための融合パートナーとしてマウスミエローマ細胞系と融合させるためのマウス脾細胞を得た。
【0149】
簡潔に述べると、免疫化のプロトコールは以下の通りであった:BALB/cマウス(
8~20週齢の未処置のメス)を、抗原としてリン酸緩衝食塩水(PBS)中KLH-KDおよびKD-KLH等量の混合物をマウス1匹あたり合計100ug、マウス1匹あたり全体積200μl中Sigmaアジュバント系(Sigmaカタログ番号6322)を1:1の比で混合して、腹腔内免疫化した(0日目)。21日目、マウスを、抗原としてPBS中KLH-KDおよびKD-KLH等量の混合物をマウス1匹あたり合計50ug、マウス1匹あたり全体積200μl中Sigmaアジュバント系(Sigmaカタログ番号6322)を1:1の比で混合して、追加免疫した。30日目、血液試料を、KD特異的抗体の力価を評価するために収集した。51日目、マウスを、抗原としてPBS中KLH-KDおよびKD-KLH等量の混合物をマウス1匹あたり合計50ug、マウス1匹あたり全体積200μl中Sigmaアジュバント系(Sigmaカタログ番号6322)を1:1の比で混合して、融合のために追加免疫した。55日目、マウスをCO2チャンバーによって屠殺し、心穿刺によって血液を回収し、脾臓をハイブリドーマ生成用に収集した。
【0150】
アデノシンホスホリボシルトランスフェラーゼ(APRT)が欠損しているマウスミエローマ細胞を、特異的な抗原で免疫化したマウスからの脾臓細胞と融合することにより、ハイブリドーマを作成した。HAT(ヒポキサンチン、アザセリン、およびチミジン)培地を用いた選択系により、APRT+である融合細胞の他は全て排除される。上首尾なハイブリドーマはまた、免疫グロブリン(Igh)重鎖、免疫グロブリン軽鎖遺伝子座の1つを保持し、機能的な抗体を分泌しなければならない。
【0151】
ハイブリドーマ生成培地(IMDM)を、以下のものを合わせることにより作成した:Iscoveのダルベッコ変法イーグル培地(HyClone SH30259.01)500ml、ウシ胎児血清(HyClone SH30070.03)50ml、L-グルタミン(Gibco Invitrogenカタログ番号25030)5ml、非必須アミノ酸(Gibco Invitrogenカタログ番号11140050)5ml、ピルビン酸ナトリウム(Gibco Invitrogenカタログ番号11360070)5ml、0.1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco Invitrogenカタログ番号15140148)5ml。培地を使用前に濾過した。増殖培地を、以下のものを合わせることにより作成した:無血清培地(Gibco Hybridoma
SFM#12045)1000ml、10%HyClone SuperLow IgG Defined FBS#SH30898.03 100ml、およびペニシリン/ストレプトマイシン10ml。凍結培地は、濾過滅菌した、熱不活性化したFBS(HyClone SH30070.03)45mlおよびDMSO5mlであった。含まれた他の材料は以下の通りである:HAT(50×)をSigma-Aldrich(#HO262)から入手した;ハイブリドーマ融合およびクローニングサプリメント(50×)(Roche Diagnostics 11 363 735 001)、トリパンブルー染色0.4%(Invitrogenカタログ番号15250-061またはT10282);75mM Hepes50w/v%中PEG1500(Rocheカタログ番号783641(10783641001)。HAT、ならびにハイブリドーマ融合およびクローニングサプリメント以外の試薬は全て、37℃で用いた。
【0152】
【0153】
簡潔に述べると、融合3日前または4日前、マウスを対象の抗原で、腹腔内または静脈内のいずれかで追加免疫した。融合の日、マウスをCO2チャンバー中で屠殺し、心穿刺により血液を採取し、脾臓を取り出し、ペトリ皿中無血清IMDM10ml中に配置した。融合パートナー細胞ミエローマ:FO(ATCC ref CRL-1646)/×63Ag8.653(ATCC ref CRL1580)を対数期に増殖させ、次いで融合1日前に分割し(1:2および1:5)、20ml遠心管中に採取し、回転させ、ペレットをIMDM10ml中に再懸濁した。ペレットを、無血清IMDM培地で2回洗浄した。遠心は全て1570rpmで5分間行った。最終の再懸濁は無血清IMDM10ml
中であった。結合組織を脾臓から切り離した。脾臓を、37℃に予め加温した無血清IMDM1mlと一緒に、1mlシリンジおよび25ゲージニードルによって注射した。脾細胞を、ピンセットにより弾性線維性外膜から絞り出し、無血清IMDM10mlで2回洗浄し(最初の回転を含む)、無血清IMDM10ml中に再懸濁した。細胞を、Countess自動セルカウンターで計数した。
【0154】
融合パートナー細胞および脾細胞を、1:2から1:10(細胞数による)の比で、50mlチューブ1本中で合わせ、970rpmで10分間(遅い回転)回転させて落として、ルーズなペレットを形成させた。「遅い」回転の後、ペレットを乱さないよう、しかしPEG1500を薄めないために細胞の上の液体の量を最小限にするよう注意しながら上清を取り出した。最後に残った培地を保存し、PEGを加えた後に戻し加えた(下記)。予め加温したPEG1500(37℃、全量1ml)を1分の期間にわたって細胞ペレットに滴下することにより滴下添加し、PEGを全滴加えた後、細胞を混合した。ペレットをPEGと一緒にさらに1分間インキュベートし、その後、10mlのうち最初の1mlを30秒かけて加えるよう、無血清IMDM培地10mlを1分間にかけて加えた。970rpmで10分間、遅く回転させた細胞および上清をデカントした。(2)の100mlトラフ中に以下のものを加えた:10%FBSを含むIMDM70ml、HAT2ml、ならびにハイブリドーマおよび融合クローニングサプリメント2ml。細胞を、10%FBSを含むIMDM10ml中に再懸濁し、(2)の50mlチューブ(チューブ1本あたり5ml細胞)に分割し、10%FBSを含むIMDM25mlを加えた。得られた30mlを、HBSS/HAT/クローニングサプリメント70mlを含むトラフに移し、200ul細胞/ウエルを(10)の96ウエルプレート中にピペッティングした。約10日から14日後、またはウエル中の培地が黄色に変わったら、ELISA(50ul)によるスクリーニングに融合を準備した。第1のスクリーニング後、ポジティブのクローンを選択し、番号付けし、10%FBSHIを含むIMDMの1ウエルあたり500ulにおいて、24ウエルプレートに移した。ハイブリドーマ上清を、N末端およびC末端ビオチン化ペプチドでコーティングしたストレプトアビジンプレート上でのELISAによってスクリーニングした(下記を参照されたい)。
【0155】
〔実施例2〕
ヒトBKR1リガンドに対する抗体を発現するハイブリドーマのキャラクタリゼーションおよび選択
ハイブリドーマの上清を、N末端およびC末端ビオチン化ペプチドでコーティングしたストレプトアビジンプレート上でのELISAによってスクリーニングし(例えば、表2に記載したものを参照されたい)、次いで抗体結合の動力学を、確認されたポジティブハイブリドーマクローンに対して決定した。
【0156】
ハイブリドーマ上清中の抗体がBKR1リガンドペプチドに結合する能力を、ELISAアッセイで評価した。DAKD-ビオチンまたはKD-ビオチンペプチドを、室温で1時間、リン酸緩衝食塩水(PBS)バッファー中96ウエルSAプレート上にコーティングし、非特異的な結合部位を、PBSバッファー中1%ウシ血清アルブミン(BSA)でブロックした。このプレートを用いて、粗製ハイブリドーマ上清の1次および2次スクリーニングを行った。ハイブリドーマ上清を、コーティングしたKDまたはDAKDペプチドに対して結合させるために、プレートに加えた。1時間インキュベート後、プレートを洗浄し、結合した抗体を、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート2次抗体(HRP-ヤギ抗マウスIgG(H+L):Jackson ImmunoResearch Labs#115-035-166)を用いて検出し、2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS)基質(Roche diagnostics#11 204 521 001)を用いて展開した。エクセルを用いてデータを分析した。ポジティブのシグナル(1:10000血清希釈ELISA
シグナルより2倍高い)を示す抗体を選択し、確認のため2回ずつ再スクリーニングした。確認されたポジティブのハイブリドーマクローンを選択し、Biacoreによる結合解離速度ランキングを受けさせた。
【0157】
抗体結合の動力学に対して、用いた機器は、リアルタリムにおける生体分子の相互作用分析(BIA)用にデザインされた、BIACORE2000またはBIACORE3000(GE Healthcare)であった。用いたセンサーチップは、カルボキシメチル化デキストランマトリックス上にストレプトアビジンが共有結合性に固定化されているSAチップ(GE Healthcare)であった。各センサーチップは平行な4つのフローセル(Fc)を有する。ビオチン化したあらゆるBKR1またはBKR2リガンドペプチドを、結合解離速度のスクリーニングおよび選択的スクリーニング用に、SAチップにおけるフローセル2から4(Fc2からFc4)の1つに固定化した。フローセル1(Fc1)を確保し、試験するリガンドペプチドに比べて等しい、または近いペプチド長を陰性対照として、ランダムペプチド(一終端をビオチン化したもの)で固定化した。スクリーニングアッセイにおいて、一過性に発現されたヒト化バリアントの一次スクリーニングによって選択されたハイブリドーマクローンの細胞培養物上清を、固定化したペプチド上に注射した。ハイブリドーマ細胞培養培地をブランクとしてチップの表面上にやはり注射してベースラインを確立した。Fc1およびブランクバッファーの作動のシグナルを差し引いた後、各ペプチドに対する上清からの抗体の解離速度を分析し、BIAevaluationソフトウエアを用いて格付けした。上位の(Kd<10-41/s)結合解離速度を実証した抗体クローンだけを、サブクローニングおよびさらなるキャラクタリゼーションに選択した。動力学分析において、試験抗体に対するスクリーニングにおいて同定された対応するビオチン-ペプチドをFc2からFc4において固定化し、ランダムペプチドを有するFc1を基準の細胞として用いた。スクリーニングから選択した精製した各抗体を、0.1nMから10nMの間のランニングバッファー(1×HBS-EPバッファー、GE Healthcare)中2倍の段階希釈中に作成した。結合の会合速度、解離速度、および全体の親和性を、BIAevaluationにおいて算出した。各抗体に対する抗体結合動力学を、Biacoreを用いて3回ずつのアッセイにおいて常に確認した。
【0158】
合計8匹のマウスを、KLH-KD/KD-KLHおよびKLH-DAKD/DAKD-KLHの混合で免疫化し、上記のプロトコールを用いて脾臓を融合した。DAKD-ビオチンおよびKD-ビオチンとのELISAにおける約7680個のハイブリドーマクローンの一次スクリーニング後、クローン76個だけがポジティブと確認され、ストレプトアビジン(SA)チップ上に固定化したDAKD-ビオチンおよびKD-ビオチンにわたるBiacore3000/2000における結合解離速度順位付けに選択した。これらのうち、結合解離速度が<=10-4であるハイブリドーマクローン8個をサブクローニングし、配列決定し、精製し、さらなるキャラクタリゼーションをした(表3を参照されたい)。
【0159】
【0160】
【0161】
表3に見られる結果に基づいて、独特の配列を有するクローン5個を動力学試験に選択した。これらの抗体は、DAKD-ビオチン、KD-ビオチン、DAKLP-ビオチン、およびKLP-ビオチンの結合に高度に選択性であった(表4を参照されたい)。これらは、他のキニンペプチドに、またはN末端がビオチン化されているペプチドに結合しない。
【0162】
【0163】
齧歯動物のBKR1リガンド、DABKおよびDAKDをブロックする抗体、ならびにキニンファミリーのペプチドの異なるメンバーに対して他の結合特異性を有する抗体を産生するための1アレイの免疫原(ペプチドのリストを参照されたい、表2)で、さらなる免疫化を行った。表5は、産生された抗体の重鎖および軽鎖の配列を列挙するものである。
【0164】
【0165】
【0166】
〔実施例3〕
マウス動物試験のためのサロゲート抗体の産生
マウス動物試験において用いるサロゲート抗体は、齧歯動物のBKR1リガンド、DA
BK、およびDAKLP(DAKDのマウス同等物)に結合し、中和することができることが必要とされた。必要とされるサロゲート抗体を産生するために、マウスを最初に、DABKおよび/またはDAKDで免疫化し、KLHをペプチドのN末端に直接コンジュゲートした。ELISAスクリーニングからビオチン-DABK/ビオチン-DAKD(ペプチドのN末端上の直接的なビオチン化)ポジティブのハイブリドーマクローンを、スケールアップおよび精製に選択した。ビオチン-DABK、ビオチン-DAKLP、およびビオチン-DAKDに対して高い結合親和性が実証された、ファミリー7に列挙する抗体(表12を参照されたい)を、Biacore直接結合アッセイに基づいて選択した(表10)。しかしながら、これらのファミリー7の抗体は、競合ELISAにおいて、天然の、非修飾のDABKおよびDAKDペプチドに対して結合を示さず、機能的薬物スクリーニングシステム(FDSS)(浜松ホトニクスK.K.、日本)でのカルシウム流入アッセイにおいて中和機能を欠いていた。さらに、ビオチン-DABKおよびビオチン-DAKDは、天然の、非修飾のDABKおよびDAKDペプチドに比べて、FDSSアッセイにおける生理活性を完全に失っていた(データは示さず)。
【0167】
KLHおよびビオチンの直接的なN末端コンジュゲートは、DABKおよびDAKDの天然のコンフォメーションの形成を妨げると仮定した。KLHコンジュゲートおよびビオチンコンジュゲートしたペプチドの天然のコンフォメーションを回復する目的で、リンカーをデザインし、ペプチドのコンフォメーション上のKLH/ビオチンコンジュゲート効果を「クッション」にしようと、DABKおよび/またはDAKDのN末端に付加した。モデリング結果に基づき、ポリグリシンリンカーが、単純で、非極性で、中性の性質であるという理由で最初に試みられ、試験された。FDSSアッセイの結果は、KLHならびにビオチンがコンジュゲートしたDABKおよびDAKDペプチドの生理活性を回復する能力に従って、gly-gly-gly(3G)リンカーが最善であったことを指摘していた(データは示さず)。それゆえ、マウスを免疫化するのにKLH-3G-DABKを選択した。また、ビオチン-3G-DABKおよびビオチン-3G-KDを、結合ベースのスクリーニングアッセイ(ELISAおよびBiacore)に用いた。DABK/DAKD特異的抗体(ファミリー3、表13を参照されたい)をいくつか、この新たなラウンドのサロゲート抗体ハイブリドーマ選択において同定した。上位の結合親和性、および天然のDABK/DAKDに対する中和活性、および他のペプチドに対する交差反応性がないことに基づいて、EE1を主要なサロゲート抗体として選択した(表6~12を参照されたい)。
【0168】
表13に列挙する異なる免疫原を用いて、特異性の異なる抗体が産生された。ファミリー4の抗体はBKR2受容体リガンド、BK、およびKDに特異的であった。ファミリー5の抗体は、BKおよびDABKのC末端に特異的に結合する。ファミリー6の抗体は、BK、DABK、およびDAKDに結合するが、KDに結合しない。
【0169】
より長いポリグリシンリンカー、ポリアラニンリンカー、ならびにポリエチレングリコール(PEG2)リンカーおよびアミノヘキサン酸(Ahx)リンカー(6-炭素の不活性なリンカー)などの既存のリンカーを含めたさらなるリンカーを、サロゲートEE1抗体に対する結合に対して、EE1におけるDABK/DAKD結合ポケット中に適合するリンカーの能力について評価した。リンカーペプチドは全て、Abgent(San Diego、CA)によって受注合成されたものであった。試験した、リンカーを有するビオチン化ペプチド(ビオチン-リンカー-DABK/DAKD)は全てEE1に良好に結合し、あらゆる不活性のN末端リンカーは、ビオチンおよび他の分子とコンジュゲートすると、DABKおよびDAKDペプチドが天然の生理活性のコンフォメーションを保持するのを助けることが指摘された。これとは対照的に、N末端に直接的なビオチンコンジュゲートを有するビオチン-DABKおよびビオチン-DAKDペプチドでは、EE1に対して結合せず、または不良な結合が観察された(
図1を参照されたい)。
【0170】
産生された抗体の結合の動力学を表5~11に概要する。次いで、産生された抗体を全てファミリーに分別し、これらの結合特異性を以下の表12に概要する。表13は、その結合特異性に基づいてファミリー1およびファミリー2中に配置された抗体の、重鎖および軽鎖の配列を提供するものである(表12を参照されたい)。
【0171】
【0172】
【0173】
【0174】
【0175】
【0176】
【0177】
【0178】
【0179】
〔実施例4〕
カルシウム動員を用いたdes-arg-キニンリガンド枯渇のキャラクタリゼーション
機能アッセイを用いて、産生された抗体の7つのファミリーをさらにキャラクタリゼーションした。ブラジキニンB1受容体シグナリングはGqが連結しており、それゆえ受容体の活性化は、GqのIP3活性化および下流のカルシウム動員を用いてモニタリングすることができる。HEK mBKR1(組換えマウスブラジキニンB1受容体)細胞またはMRC5(ブラジキニンB2受容体の内因性の発現(ATCC CCL-171))を用いてカルシウム動員を測定した。
【0180】
簡潔に述べると、マウスBdkrb1遺伝子(配列を以下に提供する)を、マウス肺cDNA(Biochain、カタログ番号C1334152)から、PCRプライマー804_cGWY_F:5’-AAAAGCAGGCTTAGGAGCGGCCGCCATGGCGTCCCAGGCCTCGCTG-3’(配列番号107)および804_cGWY_R:5’-CAAGAAAGCTGGGTCGGATCCTTATAAAGTTCCCAGAACCCTGGTC-3’(配列番号108)、ならびにPfuポリメラーゼ(Agilent Technologies、カタログ番号600264)を用いて増幅し、pDONR201中に、BPクロナーゼ酵素ミックス(Invitrogen、カタログ番号11789-020)を用いてクローニングした。並行して、pEAK8発現ベクター(EDGE Biosystems)を、N末端HAタグ(GCATACCCATACGACGTCCCAGACTACGCT、GenBank配列番号109CY100443)を、EcoRIおよびHindIII(ベクターpEAK8-nHA)で直線化したpEAK8中に挿入することにより修飾し、引き続きGatewayカセットB(Invitrogen、カタログ番号11828-029)を、EcoRIおよびNotIで消化し、クレノーポリメラーゼ(NEB、カタログ番号M0210S)で平滑末端化したpEAK8_nHA中に挿入し、ベクターpEAK8_nHA_DESTを得た。次に、マウスBdkrb1を、LRクロナーゼ(Invitrogen、カタログ番号11791-100)を用いて、pEAK8_nHA_DEST中にサブクローニングした。
次いで、293-PSC細胞に、Fugene6トランスフェクション試薬を用いて、pEAK8-Bdkrb1プラスミドをトランスフェクションした。細胞を、トランスフェクション24時間後、抗生物質(ピューロマイシン)選択下に置き、選択を維持して安定な細胞系を産生した。得られた安定な細胞系におけるBdkrb1遺伝子の存在を、リアルタイムRT-PCRを用い、アガロースゲル電気泳動により確認した。ブラジキニンB1受容体の細胞表面発現を、FACS機器上、ブラジキニンB1R上のN末端-HA-タグ(Covance、カタログ番号MMS-101P)に対する抗体を用いて行った。ブラジキニンB1受容体の機能活性が、選択的アゴニストでのカルシウム動員アッセイにおいて実証された。
【0181】
細胞中にサブクローニングしたBdkrb1遺伝子:
ATGGCGTCCCAGGCCTCGCTGAAGCTACAGCCTTCTAACCAAAGCCAGCAGGCCCCTCCCAACATCACCTCCTGCGAGGGCGCCCCGGAAGCCTGGGATCTGCTGTGTCGGGTGCTGCCAGGGTTTGTCATCACTGTCTGTTTCTTTGGCCTCCTGGGGAACCTTTTAGTCCTGTCCTTCTTCCTTTTGCCTTGGCGACGATGGTGGCAGCAGCGGCGGCAGCGCCTAACCATAGCAGAAATCTACCTGGCTAACTTGGCAGCTTCTGATCTGGTGTTTGTGCTGGGCCTGCCCTTCTGGGCAGAGAACGTTGGGAACCGTTTCAACTGGCCCTTTGGAAGTGACCTCTGCCGGGTGGTCAGCGGGGTCATCAAGGCCAACCTGTTCATCAGCATCTTCCTGGTGGTGGCCATCAGTCAGGACCGCTACAGGTTGCTGGTATACCCCATGACCAGCTGGGGGAACCGGCGGCGACGGCAAGCCCAAGTGACCTGCCTGCTCATCTGGGTAGCTGGGGGCCTCTTGAGCACCCCCACGTTCCTTCTGCGTTCCGTCAAAGTCGTCCCTGATCTGAACATCTCTGCCTGCATCCTGCTTTTCCCCCACGAAGCTTGGCACTTTGTAAGGATGGTGGAGTTGAACGTTTTGGGTTTCCTCCTCCCATTGGCTGCCATCCTCTACTTCAACTTTCACATCCTGGCCTCCCTGAGAGGACAGAAGGAGGCCAGCAGAACCCGGTGTGGGGGACCCAAGGACAGCAAGACAATGGGGCTGATCCTCACACTGGTAGCCTCCTTCCTGGTCTGCTGGGCCCCTTACCACTTCTTTGCCTTCCTGGATTTCCTGGTCCAGGTGAGAGTGATCCAGGACTGCTTCTGGAAGGAGCTCACAGACCTGGGCCTGCAGCTGGCCAACTTCTTTGCTTTTGTCAACAGCTGCCTGAACCCACTGATTTATGTCTTTGCAGGCCGGCTCTTTAAGACCAGGGTTCTGGGAACTTTATAA (GenBank NM_007539; 配列番号110)
【0182】
HEK mBKR1またはMRC5細胞を、増殖培地中、384ウエル透明底プレート中にプレーティングし、一夜付着させた。増殖培地を除去し、細胞をアッセイバッファー(HBSS、20mM HEPES、2.5mMプロベネシド)中で洗浄し、次いで0.04%プルロニック酸を含む0.5uM Fluo-4AM細胞透過性カルシウム感知色素で、37Cで1時間、色素添加した。AMエステルを切断し、カルシウム色素を細胞質中に保持した。1時間後、細胞を洗浄して過剰の色素を除去し、残余のバッファー20ulが細胞上に残存した。浜松からの機能的薬物スクリーニングシステム(FDSS)上、2×溶液として処置を加え、カルシウム動員を、少なくとも4分間動力学的にモニタリングした。B1RまたはB2R受容体の活性化により、Galpha q媒介性ホスホリパーゼCの活性化およびIP3媒介性カルシウム動員がもたらされる。Fluo-4色素は放出されたカルシウムをキレート化し、蛍光における頑強な変化が観察される。結果を、プレートにわたる細胞密度または色素添加間の差に対して標準化するための、最大-最小相対的蛍光単位としてエクスポートした。
【0183】
リガンドの力価を、各日、リガンドの濃度反応曲線を作動させることにより決定し、リガンドのEC70~80のおよその濃度を抗体とのインキュベートに選択した。検出曲線の直線範囲上にあり、アンタゴニストまたはリガンド枯渇性の抗体での低減を見るのに十分なウインドウが存在したことから、あるEC80濃度を選択した。抗体の用量反応曲線により、あるEC80濃度のリガンドに結合することが可能になり、リガンド枯渇の度合いを、蛍光における変化を用いてモニタリングした。結果をバッファーおよびEC80リガンド反応に対して標準化し、リガンド枯渇に対するEC50を算出した。次いで、結果をモル比として報告したが、モル比は、用いたリガンド濃度によって除したリガンド反応の50%の枯渇を低減する抗体濃度(すなわち、AbのEC50)に相当する。1単位の抗体は2単位のリガンドを枯渇させることができなければならないため、理論的な最大値は0.5でなければならないが、本発明者らは実際にもっと低い値を見ており、この値は
、抗体に対する化学量論的制約というよりむしろ、低いリガンド濃度に対する検出方法の非感受性を反映するものであり得る。これらの実験の結果を表14~16に示す。
【0184】
ファミリー1およびファミリー2の抗体(表13を参照されたい)はBiacoreによるより優れた結合の動力学(表13)ならびに、DAKDおよびKDペプチドに対するカルシウム動員により測定した中和活性(表14および表15)を実証するものである。抗体をその熱安定性およびヒト化に対する配列適合性に対してさらに分析した。F151は熱安定性であり、CDR領域に問題のある残基が存在せず、マウスリガンドKLPおよびDAKLPに対して交差反応性であったため、F151はヒト化に関して進歩していた。
【0185】
【0186】
【0187】
〔実施例5〕
F151の操作:不必要な配列モチーフのヒト化、安定化、および変異
1.ヒト化
用いたヒト化プロトコールは、その全文を参照によって本明細書に組み入れる、PCT
/US08/74381(US20110027266)に記載されている。マウスF151の可変軽鎖(VL)および可変重鎖(VH)配列を用いて、Molecular Operating Environment(MOE;v.2009.10;Chemical Computing Group)における抗-DAKD/KD F151 LCおよびHCのホモロジーモデルを構築した。以下のテンプレートを用いた:軽鎖フレームワーク-1SBS(フレームワーク領域における同一性93%)、重鎖フレームワーク-2VXT(フレームワーク領域における同一性84%)、L1-1LVE(同一性93%)、L2-1EEU(同一性100%)、L3-2R56(同一性93%)、H1-1NJ9(同一性95%)、H2-2VXU(同一性76%)、およびH3-1HIL(同一性49%)。テンプレートは、Rutgersおよびカリフォルニア大学サンディエゴ校によって管理されているウェブサイトである、rcsb.orgのワールドワイドウェブ上に見出されるRCSBタンパク質データバンク(RCSB Protein Data Bank)で入手できる(Berman,H.M、WestbrookJ.、Feng.Z.、Gilliland,G.、Bhat,T.N.、Weissig,H.、Shindyalov,I.N.、Bourne,P.E.、The Protein Data Bank、Nucleic Acids Research、2000年、28巻、235~242頁)。ホモロジーモデルは引き続き、MOEにおいて実行される標準的手段を用いてエネルギー最小化した。マウスF151の最小化3Dホモロジーモデルの分子動力学(MD)シミュレーションを、Generalized Bornで暗溶媒中1.1ナノ秒(ns)間、温度500Kのタンパク質バックボーン上の束縛で引き続き行った。10個の多様なコンフォメーションを、最後の1ns間、この最初のMD作動から100ピコ秒(ps)ごとに抽出した。これらの多様なコンフォメーションを、次いで、各々MDシミュレーションにかけ、2.3ns間、タンパク質バックボーン上、300Kの温度で束縛はなかった。10MDの各作動に対して、MD軌道から1psごとに1つの、最終の2,000のスナップショットを次に用いて、各マウスのF151アミノ酸に対して、基準のメドイド位置(medoid position)と比較して二乗平均偏差(rmsd)を算出した。所与のアミノ酸の10回の別々のMD作動に対する平均rmsdを、全てのF151マウスのアミノ酸の全体の平均rmsdと比べることにより、アミノ酸が十分に柔軟性であれば、MDの間に見られる通り、T細胞受容体と相互作用する可能性があり、免疫反応の活性化に反応性であると考えられることが決定される。62個のアミノ酸が、CDRおよび5Åのすぐ近傍を除いて、マウスF151抗体において柔軟性であると同定された。
【0188】
20ns(10×2ns)間、最も柔軟なマウスF151アミノ酸28個の動きを、次いで、ヒト生殖系列相動性モデル49個の対応する柔軟なアミノ酸の動きと比較し、この各々に対して10×2nsMDシミュレーションを作動した。49個のヒト生殖系列モデルを、7個の最も一般的なヒト生殖系列軽鎖(vk1、vk2、vk3、vk4、vラムダ1、vラムダ2、vラムダ3)、および7個の最も一般的なヒト生殖系列重鎖(vh1a、vh1b、vh2、vh3、vh4、vh5、vh6)を組織的に合わせることにより構築した。vk1-vh1bヒト生殖系列抗体の柔軟なアミノ酸は、マウスF151抗体の柔軟なアミノ酸に比べて、0.80の4D類似性を示し、そこで、柔軟なアミノ酸に着目してvk1-vh1b生殖系列抗体を用いてF151アミノ酸をヒト化した。マウスF151のvk1-vh1bアミノ酸間の対でのアミノ酸会合に対して、2つの対応するホモロジーモデルのアルファ炭素の最適な3Dの重ね合わせに基づいて、2つの配列をアラインした(vk1およびvh1bそれぞれとのF151 LCおよびF151 HCのアラインメントに対して
図15を参照されたい)。
【0189】
2.安定化
2つのアプローチを用いて抗体の安定性を改善した。
【0190】
a)知識ベースのアプローチ
出現度数の低い軽鎖および重鎖のアミノ酸対これらそれぞれの正準(canonical)配列は、CDRを除いて、最も頻繁に見出されるアミノ酸に変異することが提唱されていた(ΔΔGth>0.5kcal/mol;E.Monsellier、H.Bedouelle.、J.Mol.Biol.、362巻、2006年、580~593頁)。軽鎖(LC)および重鎖(HC)に対するコンセンサス変異のこの最初のリストを、最も近いヒト生殖系列(vk1-vh1b)において見出されるアミノ酸に制限した。CDRの最も近傍において示唆される変化(5オングストロームの「バーニア」ゾーン、J.Mol.Biol.、224巻、1992年、487~499頁)を考慮から除外した。これにより、LCにおける5つの安定化変異(表19を参照されたい)およびHCにおける4つの安定化変異(表20を参照されたい)がもたらされた。他の判断基準を考慮に入れて、抗DAKD/KD F151抗体を潜在的に安定化するためのこれらの変異を考慮した。これらの判断基準は、表面のハイドロパシーの好ましい変化、または分子メカニクスベースの予想される変異体の安定化であった。文献において成功であることが報告されたさらなる安定化変異(E.MonsellierおよびH.Bedouelle、J.Mol.Biol.、362巻、2006年、580~593頁;B.J.Steipeら、J.Mol.Biol、1994年、240巻、188~192頁)も考慮した(表16~22を参照されたい)。これらの変化の1つは、以下のHC2a、HC2b、およびHC2c配列における安定化変異(D89E)として組み入れられた。別の示唆される変化(Q62E)がバリアントHC2bに組み入れられた。
【0191】
b)3DおよびMDベースのアプローチ
3DおよびMDベースのアプローチは、以前に報告されている(Seco J、Luque FJ、Barril X.、J Med Chem.、2009年4月23日、52巻(8)、2363~71頁;Malin Jonssonら、J.Phys.Chem.B、2003年、107巻、5511~5518頁)。二成分の溶媒(水中20%イソプロパノール、20ns生成シミュレーション)中でFabの分子動力学的シミュレーションを分析することにより、抗体の疎水性領域を明確に同定した。次いで、凝集を防ごうと、リジン変異をこれらの領域の近傍に導入した。シュレディンガーのマエストロソフトウエア(v.8.5.207)内の疎水性表面マップを用いたさらなる分析が完了した。これら2つの技術の組合せを用いて、重鎖において1つ、軽鎖において1つの、2つのLys変異が示唆される。
【0192】
3.グラフト化によるヒト化
グラフト化技術を用いたヒト化は以前に報告されている(Peter T.Jones、Paul H.Dear、Jefferson Foote、Michael S.Neuberger、およびGreg Winter、Nature、1986年、321巻、522~525頁)。用いられたヒト化プロセスは、抗-DAKD/KD軽鎖および重鎖に最も近いヒト生殖系列を同定することによって始まった。これは、系統的に列挙された全てのヒト生殖系列(カッパおよびラムダ鎖に対するVおよびJドメインの全ての可能な組合せ;重鎖に対してV、D、およびJドメイン)に対して、BLAST検索を行うことにより行われる。
【0193】
以下の最も近いヒト生殖系列がそれぞれ、抗-DAKD/KD F151軽鎖(LC)および重鎖(HC)に83%および62%の配列同一性と同定された(
図16を参照されたい)。内部VBASE生殖系列を用いて、軽鎖はV IV-B3(同一性約83%)遺伝子座に近く、重鎖はVH1サブファミリーの1~08および1~18(同一性約62%)遺伝子座に近いことが見出される。CDR領域(MOEによって規定される)およびバーニア領域(FooteおよびWinter、J.Mol.Biol.、1992年、224巻、487~499頁において規定される)を太字体で示す。下線を付したヒト化変
異は、上記で規定したCDRおよびバーニアゾーンの残基を除外して、アラインした2つの配列の対での比較を行うことにより得た。ヒト化の別のバリアントでは、CDRだけを比較において除外した。
【0194】
4.不要な配列モチーフの変異
以下の配列のモチーフを考慮した:Asp-Pro(酸に不安定な結合)、Asn-X-Ser/Thr(グリコシル化、X=Pro以外のあらゆるアミノ酸)、Asp-Gly/Ser/Thr(柔軟性の領域におけるスクシンイミド/iso-asp形成)、Asn-Gly/His/Ser/Ala/Cys(暴露された脱アミド部位)、およびMet(暴露された領域における酸化)。マウスF151には暴露された不要な配列モチーフがないが、これらはいくつかのヒト化バリアントにおいて導入されるため、他の判断基準の中で、マウスF151のVLおよびVHドメインが他のマウス抗体から選択された。
【0195】
LC3a、LC3b、HC3a、およびHC3bは各々、同定された、潜在的に問題の多いスクシンイミド部位を有する。これらの部位は、関与する残基が潜在的にH-結合ネットワークに関与するので、提唱された配列において修飾されなかった(ホモロジーモデルの目視検査)。これらの位置は、数々の他の抗体構造にも見出される。さらに、HC3aおよびHC3bの両方において、グラフト化による厳密なヒト化は、Ser115のMetへの置換を含む。このメチオニンが暴露される。ロイシンは多くの近いヒト生殖系列配列間で一般的な残基であるので、この位置のロイシンへの置換は、ヒト化変異として示唆される。
【0196】
得られたヒト化された配列を配列類似性に対して、国際エピトープデータベース(IEDB)データベース(immuneepitope.comのワールドワイドウェブ上に見出される;バージョン2009年6月;Vita R、Zarebski L、Greenbaum JA、Emami H、Hoof I、Salimi N、Damle R、Sette A、Peters B.、The immune epitope database 2.0.、Nucleic Acids Res.、2010年1月;38(データベース発行):D854~62.Epub 2009年11月11日)に対してBLAST検索して、配列のどれもあらゆる知られているヒトB細胞またはT細胞のエピトープを含まないことが確実になった(70%の配列同一性をBLAST検索によって、ヒト種からの結果のみを考慮して、得られた結果に対するカットオフとして用いた)。
【0197】
5.マウスF151可変ドメインのオリジナル配列
CDRを太字体で強調し、バーニア領域(FooteおよびWinter、J.Mol.Biol.、1992年、224巻、487~499頁)に下線を付す。
【0198】
軽鎖(配列番号26)
【化1】
ジャーミナリティ(germinality)インデックス=Z46615_1_V_X67858_1_J[V IV-B3]と83%
【0199】
重鎖(配列番号19):
【化2】
ジャーミナリティインデックス=Z12316_1_VX97051_4_D_X97051_5_J[VH1 1-18]と62%
【0200】
6.操作した配列
a)背景
軽鎖に対して5バージョン(LC1、LC2a、LC2b、LC3a、およびLC3b)、および重鎖5バージョン(HC1、HC2a、HC2b、HC3a、およびHC3b)が提唱された。
【0201】
LC1は、4Dヒト化プロトコールを用いて同定されたヒト化変異5個を含む。LC2aは、さらなる5個の安定化変異を導入した。LC2bは、凝集を防ぐのを助けるため、リジン変異1個を付加した。LC3aは、最も近いヒト生殖系列配列に対するグラフト化に由来し、マウスCDRおよびバーニアゾーン残基を保持する変異を15個含む。LC3cは、さらなるヒト化変異1個とともにCDRグラフト化に由来する変異を16個含んでいた。
【0202】
HC1は、社内のプロトコールによって同定されるヒト化変異を6個有する。HC2aはさらなる安定化変異5個を導入し、HC2bはHC1に比べてさらなる安定化変異6個を含んでいる。HC2cは、凝集を防ぐのを助けるため、HC2aの安定化変異の他にLys変異を1個含む。HC3aは、最も近いヒト生殖系列配列に対するグラフト化に由来し、マウスCDRおよびバーニアゾーン残基を保持する変異を19個含む。HC3bは、CDRグラフト化に由来する変異を25個含む。
【0203】
合計6個の組合せが提唱された(表16に概要する):
LC1×HC1(ヒト化のみに対処する変異)
LC2a×HC2a(ヒト化および安定化に対処する変異)
LC2a×HC2b(ヒト化および安定化に対処する変異)
LC2b×HC2c(ヒト化、安定化、および「抗凝集」に対処する変異)
LC3a×HC3a(グラフト化+バーニアにより殆どヒト化に対処する変異)
LC3b×HC3b(グラフト化によりヒト化に対処する変異)
【0204】
【0205】
【0206】
【0207】
a)操作した軽鎖の配列
潜在的に問題のある、知られているT細胞またはB細胞のエピトープは、提唱された全てのバリアントにおいて見出されなかった。
【0208】
LC1(配列番号27)、ヒト化変異に下線を付し、CDRおよびバーニアゾーンを太字体とする:
【化3】
【0209】
LC2a(配列番号28)、ヒト化変異に下線を付し、CDRおよびバーニアゾーンを太字体とし、安定化変異をイタリック体とする(以下に示す、5位のT、12位のS、21位のI、69位のS、91位のT):
【化4】
【0210】
LC2b(配列番号29)、ヒト化変異に下線を付し、CDRおよびバーニアゾーンを太字体とし、安定化変異をイタリック体とし(以下に示す、5位のT、12位のS、21位のI、69位のS、91位のT)、抗凝集変異は89位のKである:
【化5】
【0211】
LC3a(配列番号30)、グラフト化変異に下線を付して示し、CDRおよびバーニアゾーンを太字体で示す:
【化6】
【0212】
LC3b(配列番号31)、グラフト化変異に下線を付して示し、CDRおよびバーニアゾーンを太字体で示す:
【化7】
52位のLは、ヒトに変異されるバーニア残基であることに留意されたい。
【0213】
c)操作した重鎖配列
HC1(配列番号20)、ヒト化変異に下線を付し、CDRおよびバーニアゾーンを太字体とする:
【化8】
【0214】
HC2a(配列番号21)、ヒト化変異に下線を付し、CDRおよびバーニアゾーンを太字体とし、安定化変異をイタリック体とする(以下に示す、1位のQ、9位のA、44位のG、80位のY、および90位のE):
【化9】
【0215】
HC2b(配列番号22)、ヒト化変異に下線を付し、CDRおよびバーニアゾーンを太字体とし、安定化変異をイタリック体とする(以下に示す、1位のQ、9位のA、44位のG、62位のE、80位のY、および90位のE):
【化10】
【0216】
IEDBデータベースにおいて、ヒトエピトープは配列HC2bに対して同定されなかった。
【0217】
HC2c(配列番号23)、ヒト化変異に下線を付し、CDRおよびバーニアゾーンを太字体とし、安定化変異をイタリック体とし(以下に示す、1位のQ、9位のA、44位のG、80位のY、および90位のE)、抗凝集変異は86位のKである:
【化11】
【0218】
HC3a(配列番号24)、グラフト化変異に下線を付して示し、CDRおよびバーニアゾーンを太字体で示す:
【化12】
【0219】
LC3b(配列番号25)、グラフト化変異に下線を付して示し、CDRおよびバーニアゾーンを太字体で示す:
【化13】
【0220】
以下のバーニア残基は、ヒトに変異されることに留意されたい:2位のV、48位のM、68位のV、70位のM、および74位のT。
IED8データベースにおいて、ヒトエピトープは、配列HC3bに対して同定されなかった。
HC3bジャーミナリティインデックス=Z12316_1_V_J00235_1_D_U42590_1_J[1-18/DP-14]と83%
【0221】
【0222】
【0223】
【0224】
【0225】
〔実施例6〕
ヒト化バリアントのキャラクタリゼーション
表16に表すインシリコモデリングに基づき、ヒト化F151の軽鎖(VL)および重鎖(VH)の可変領域のDNAを、HEK293発現に対してコドン最適化し、GeneArt(Life Technologiesの子会社)によって遺伝子合成した。合成したDNAフラグメントを、それぞれApaLI/BsiWI部位で軽鎖(CL)をコードするベクターであるpFF0362(A.ヒトカッパLCベクター)の定常領域中に、およびApaLI/ApaI部位で重鎖(CH1、CH2、およびCH3)をコードするベクターであるpFF0363(B.ヒトIgG1 HCベクター)の定常領域中にクローニングした。得られた、全長のLCを含むプラスミドpFF0640、およびヒト化F
151バリアントの全長のHCを含むpFF0466を、コトランスフェクションし、FreeStyle(商標)293発現系(Invitrogen/Life Technologies、カタログ番号K9000-01)において一過性に発現させた。
【0226】
表16に示す6つのヒト化バリアントを、結合の動力学(上記で論じた)、ならびに化学的性質および物理的性質、例えば、当技術分野においてルーチン的に用いられている熱安定性などの様々なパラメータによってキャラクタリゼーションした。
【0227】
キャラクタリゼーションは2段において行った。I段には、表24および
図2に示す示差走査熱量(DSC)が含まれた。簡潔に述べると、DSC実験に対して、抗体を、リン酸緩衝食塩水溶液に対して透析した。抗体濃度をUV吸収によって測定した。抗体を、PBSを用いて1mg/mLに希釈した。スキャンを、基準細胞中PBSで、0.3268mLキャピラリーセルを用いて、Calorimetry Sciences Corporation N-DSC II装置を用いて行った。スキャン速度は2℃/分であり、試料を20℃から100℃までスキャンした。
【0228】
HC3b/LC3bを除いて全てのバリアントが、親の抗体に対して匹敵する結合親和性を示した。バリアントHC3a/LC3aが、SECデータ、安定性、および凝集の欠如などの他の物理化学的性質に基づいて他のバリアントを凌いで選択された(表23~25を参照されたい)。
【0229】
【0230】
【0231】
【0232】
【0233】
親のF151の軽鎖および重鎖の、ヒト化F151バリアント(HC3a/LC3a)に対するアラインメントについて、
図3を参照されたい。
【0234】
〔実施例7〕
BRK1リガンドカリジンおよびdes-Arg10-カリジンに対するヒト化抗体F1
51の結晶構造
カリジンまたはdes-Arg10-カリジンに結合するヒト化F151(HC3a/LC3a)Fabの結晶構造を決定し、分子相互作用を分析した。
【0235】
カリジン粉末はPhoenix Pharmaceuticals(カタログ番号009-37)から購入した。Fabタンパク質の産生に対して、ヒト化F151 HC3aから重鎖(HC)VH領域のDNAを、6×Hisタグを付したCH1ベクターpFF0366中にクローニングした。ここで用いた軽鎖(LC)プラスミドは、F151ヒト化において用いたオリジナルのF151 LC3aのプラスミドと同じであった(実施例5を参照されたい)。2つのプラスミドを、Fab発現用にフリースタイルHEK293細胞中にコトランスフェクションした。Fabタンパク質を、コバルトレジンを用いて精製し、バッファーを50mM MES pH6.0、50mM NaClに交換した後、約9mg/mLに濃縮した。精製したF151 Fabタンパク質を、カリジンとモル比1:2で混合し、結晶化スクリーニング用に設定した。結晶化スクリーニングを、広範囲の条件で行った。Hampton ResearchスクリーニングキットPEG/ION
HTのB10、B12、およびG10条件下で、最善の結晶が観察された。結晶を、ウエルバッファー中20%グリセロールで凍結保護し、回折データ収集用に凍結した。両方の複合体に対するX線回折データを、Canadian Light Source、ビームラインCMCF-08IDで収集した。F151-KD複合体に対するRmergeは8.9%であり、I/s(I)=20.2であり、F151-DAKDに対してそれぞれ7.7%および18.5である。F151-KD構造をPhaserにおける分子置換によって、VL-VHおよびCL-CH1ドメインを独立の単位として処理して、PDBエントリー3QOSからのFab配位を用いて解析した。構造を、Rfactor0.205およびRfree0.228に対する空間群P212121における解像度2.07ÅのautoBusterによって練り上げた。F151-DAKD構造を、F151-KD配位を用いて解析した。構造をRfactor0.232およびRfree0.238に対する空間群P212121における解像度1.86ÅのautoBusterにおいて練り上げた。
【0236】
図4および
図5に示す電子密度マップは、カリジン(KD)およびDes-Arg
10-カリジン(DAKD)のF151 Fabに対する結合を示し、各アミノ酸の位置を明確に決定するものである。カリジンに関して、C最末端残基のArg
10に対する電子密度は存在しない。これはC末端残基のアルギニンがないDAKD(以下の表27に示す)が、F151に対してKDと等しく良好に結合するという観察に一致する。KDおよびDAKDに対する中和FDSS細胞アッセイにおけるF151のIC50値はそれぞれ、0.12nMおよび0.09nMである。両方の場合とも、電子密度は、ペプチドのC末端に向かって弱くなる。KDにおけるPhe
9は、DAKDにおけるPhe
9よりもわずかに良好な電子密度を有するので、F151に結合する場合は、KDのC末端にさらなるアルギニンが存在することで、このペプチドのC末端が安定する可能性があるが、このアルギニンはそれ自体、X線によって観察されるほど十分に安定ではない。2つの構造は本質的に同一であるので(KDとDAKDとの間のrmsは、C原子に対して0.139であり、全ての原子に対して0.328である)、以下の議論は全てF151-KD構造をベースとする。
【0237】
【0238】
KDは、
図6に示す通り、軽鎖と重鎖とのFvサブユニット間の界面に埋もれているそのN末端と結合する。軽鎖と重鎖との間の界面には、Tyr-L42、Tyr-L93、Tyr-L100、Trp_L102、Phe-L104およびTyr-H35、Trp-H47、Tyr-H50、Tyr-H99、Trp-H110を含む芳香族アミノ酸が充填されており、スタッキングおよび疎水性相互作用により相互に安定化している。CDRの軽鎖および重鎖各々からの残基が結合に寄与する。CDR上でマッピングされたKDとの相互作用に関与する軽鎖および重鎖に沿った残基を、
図7および
図8に示す。重鎖のCDR H3は最長のループであり、KDとの相互作用で最も頻繁に用いられており、KDに対するサイドカバーを形成する。ループは、主に、他の2つのCDR、重鎖のH1およびH2、すなわち、Asp-H101とArg-H52との間の塩橋(H1およびH3を安定化)、Tyr-H102とTyr-H54との間のアレーン-H相互作用(H2およびH3を安定化)、Asp-H108とTyr-H35との間のH-結合、ならびにHis-H105とTyr-L55との間のH-結合(H3およびL2を安定化)との相互作用により安定化された。
【0239】
産生される抗体間のKD相互作用性の残基を比較すると、抗体間に類似性が存在し、他者よりもKD相互作用に対して特定のアミノ酸の使用により関係するものがあったことが分かる。例えば、軽鎖において、F151、C63、およびI22は、それらのCDRにおいてより類似するアミノ酸を用いてKDに結合するが、B21およびI54はさらに類似していた。重鎖において、F151およびC63は相互に、ならびにB21、I22、およびI54から驚くほど独特であった。後3者は、類似性における群を形成すると思われる。C63はその重鎖において特に興味深く、H2およびH3におけるループ長が他者全てとさらに異なる。Fabを全体的に考慮すると、B21およびI54が最も緊密に関連していた。
【0240】
結晶構造において、KDは、Fabとの系統的な水素結合および疎水的相互作用に関与することを、本発明者らは見出した。KDのN末端はFab中に埋もれており、より集中的な相互作用を抱え持つが、C末端は本質的に溶媒に暴露されている。最初の4残基(Lys-Arg-Pro-Pro)を除いて、KDの他の残基はバルク溶媒中に徐々に伸長する。Lys1側鎖のアミジニウム(amidinium)基は、Glu-L61(L:軽鎖)によって塩橋により繋留され、アミノ末端のアミノ基Lys1はAsp-H108(H:重鎖)と塩橋を形成する。Lys1側鎖のアミジニウム基も、Tyr-L55の芳香環上にぶら下がり、陽イオン相互作用に関与する。Lys1に関与するこのような強力な相互作用は、FabにおけるKDのアミノ末端を密接に繋留する。これは、KDのF1
51に対する結合におけるLys1の重要性の説明にもなる。これ(すなわち、ブラジキニン)がなければ、hF151またはF151に対する検出可能な結合を測定することができない。Lys1同様、Arg2は、塩橋によりFabと相互作用する。Arg2のグアニジウム(guanidium)基はAsp-H104の側鎖と相互作用する。Arg2の側鎖はまた、Arg-H101の主鎖カルボニル酸素とH-結合している。また、Pro8の主鎖酸素は、Arg-H101の側鎖にH-結合している。Tyr-H102はPhe8およびPro9に半分インターカレートし、KDとの疎水性相互作用に関与する。直接的相互作用の他に、多くの水媒介性H-結合も、KDとFabとの間に見られる。チロシン残基が、他のアミノ酸に比べて相互作用において最も頻繁に用いられており、
図7および
図8においてアステリスクで印を付けた16残基中9残基がチロシンであるのに注目するのも興味深い。KDを取り囲むF151における全ての残基が、Asn-H33を除いて、リガンド結合において役割を果たしていると思われ、Asn-H33はPhe6側鎖に近いが、極性において不適合性であり、他の重要な相互作用がない。TrpまたはTyrなどの芳香族/疎水性残基での、Phe8との相互作用に対する置換は、アフィニティ成熟を考慮する場合に手っ取り早い選択であると思われる。これら2つの芳香族アミノ酸は、実際、他の抗体に見られる(C63におけるTrp、およびB21、I22、I54におけるTyr)。下記の表28は、
図7および
図8において印を付けた16個のKD相互作用性アミノ酸残基の詳しい分析を提供するものであり、抗原結合を攪乱してはならないCDR領域において行うことができる機能的置換を記載するものである。
【0241】
【0242】
【0243】
カリジン(KD)またはdesArg10-カリジン(DAKD)のコンフォメーションのエピトープの分析により、これが「Pro4キンク」コンフォメーションを取ることが明らかになった。
図17に示す通り、「Pro4キンク」コンフォメーションの特徴は、プロリン4でのKDまたはDAKDの主鎖ポリペプチドバックボーンにおけるII型タイトターンである(参照によって本明細書に組み入れる、Richardson JS.、「The anatomy and taxonomy of protein structure.」、Adv Protein Chem.、1981年、34巻、167~339頁を参照されたい)。「Pro4キンク」コンフォメーションは、KD(1~2および6~9)またはDAKDの全てまたは実質的に全ての残存するアミノ酸が、空間的に積み重なって疎水性側鎖とアラインするS字形リピートを取ることによってさらに規定され得る。
【0244】
〔実施例8〕
疼痛モデルにおける抗BKR1-リガンド抗体のin vivo薬理
本発明の本実施例は、(a)Saddi GM and Abbott FV.、Pain、2000年、89巻、53~63頁;(b)Chenら、Molecular Pain、2010年、2巻、6~13頁および(c)Bennett GJ and Xie YK.、Pain、1988年、33巻、87~107頁に記載されている修飾された手順による急性および慢性の疼痛の、様々な前臨床のモデルにおける、抗BKR1受容体-リガンド抗体のin vivoの有効性を説明するものである。
【0245】
動物
ホルマリン実験には成年オスOF1マウス(20~30グラム)を、CFAおよびCCI試験の両方には成年オスC57BI/6Jマウス(25~30グラム)を用いて実験を行った。マウスを、12時間の明暗周期下、温度制御した部屋において維持した。食事および水を自由に摂取させた。全ての実験に対して、マウスを実験室に少なくとも2時間気候順化させた後、試験を行った。試験に対して無作為化は行わなかった。行動試験を行う実験者は処置に対してブラインドではなかったが、試験の仮説について知らされなかった。手順は全て、サノフィ-アベンティス研究開発部の「動物ケアおよび使用委員会(Animal Care and Use Committee)」によって認可されたものであり、欧州指針(European directive)86/609/EEC実施のフランス制定法(省令第87~848 1987年10月19日、決定1988年4月19日)に従って行った。
【0246】
A.ホルマリン誘発性急性炎症性疼痛
ホルマリン試験を用いて、侵害受容性疼痛および炎症性疼痛を測定した。実際に、ホルマリンを足蹠内(intraplantar)注射すると、初期の急性侵害受容性行動反応(0~12分)が誘発され、脊髄興奮性に起因する第2の炎症媒介性反応(15~45分)が続く。
【0247】
ホルムアルデヒド(37%、Sigma)を食塩水で希釈(v/v)して、ホルムアルデヒド濃度2.5%を得た(すなわち、ホルマリン濃度およそ6.25%)。マウスを優しく押さえ、この溶液20μLを、後足の一本の背部中に皮下注射した。行動反応を、ホルマリン注射の直後に、次いで45分にわたり3分間隔で、以下の通りスコア付けした:(0)注射した足の通常の体重負荷、(1)注射した足を床に軽く休める、(2)注射した足を持ち上げる(lifting-elevation)、(3)注射した足を舐め、または噛む。群の大きさは、オスOF1マウス11~12匹であった。
【0248】
スコアを時間に対してプロットし、曲線下面積(AUC)を、初期相(0~12分)および後期相(15~45分)の両方に対して平均スコア(±SEM)から算出した。疼痛様行動の逆転を、AUCの%における変化として表した。
【0249】
EE1抗体は、オスOF1マウスにおけるホルマリン試験の後期相における疼痛様行動を阻害した。EE1抗体は、ホルマリンを足蹠内注射する48時間前に静脈内投与した場合、後期相のみにおいて疼痛様行動の投与量依存性の逆転を示し、
図9に示す通り、最小有効量(MED)=2.5mg/kgであった。実際に、2.5、10、および30mg/kgを投与した場合、表29に示す通り、EE1は後期相を、それぞれ35±5%、33±5%、および45±7%逆転した。
【0250】
これとは対照的に、F151は、ホルマリンを足蹠内注射する48時間前に投与した場合、ホルマリン試験の後期相における疼痛様行動を弱く阻害する。実際に、表29に示す通り、2.5および10mg/kgを投与した場合、F151は後期相を、それぞれ15±7%および21±5%逆転した。
【0251】
【0252】
B.CFA(フロイント完全アジュバント)誘発性慢性炎症性疼痛
鉱油およびマンナイド(mannide)モノオレエート(Sigma)中加熱殺菌結核菌1μg/μLを含むフロイント完全アジュバント(CFA)25μLを、短時間麻酔下(イソフルラン、3%)で、足蹠内投与することにより、慢性炎症を誘発した。群の大きさは、オスC57B/6マウス8匹だった。
【0253】
2.5mg/kgおよび30mg/kgのCFAを足蹠内注射して22時間後にEE1抗体を静脈内投与し、機械的過敏症および熱的過敏症を、CFA足蹠内投与後1日目(D1)、4日目(D4)および7日目(D7)に評価した。
【0254】
B1.機械的過敏症
機械的過敏症を、注射した足の足蹠表面上にVon Freyフィラメント(Bioseb、フランス)0.6gを10回適用した後の離脱反応の頻度(Frequency of withdrawal Response)(FR、%における)を測定することにより評価した。疼痛様行動に対するEE1抗体の効力を調査するために、本発明者らは機械的過敏症の逆転(%における)を、以下の通り算出した:
逆転のパーセントを各マウスに対して、(平均FR-アイソタイプ-対照投与後-FR-Ipsi投与後)/(平均FR-アイソタイプ-対照投与後-平均FR-sham投与後
)として算出した。
【0255】
CFAを足蹠内注射した後、D1、D4、およびD7に、無処置群に比べてアイソタイプ-対照1B7.11-処置群においてFRのVon Freyフィラメントに対する有意な増大が観察され、機械的過敏症の発生が実証された。EE1抗体を、足蹠内CFAの22時間後に静脈内投与した場合、アイソタイプ-対照1B7.11-処置群において得られたものと比べて、試験した様々な時間で、このFRを有意に低減することができた(
図10)。
【0256】
機械的過敏症の逆転は、EE1抗体2.5mg/kgおよび30mg/kgの静脈内投与に対してそれぞれ、D1に41±8%および22±8%、D4に36±9%および32±9%、ならびにD7に27±10%および50±9%であった(表30)。
【0257】
【0258】
B2.熱的過敏症
熱的過敏症に対して、足蹠装置(IITC、Woodland Hills、USA)を用いて放射熱に反応した足引っ込め潜伏時間(Paw Withdrawal Latencies)(PWL、秒における)の測定を評価した。
【0259】
疼痛様行動に対するEE1抗体の効力を調査するために、本発明者らは熱的過敏症の逆転(%における)を、以下の通り算出した:
逆転のパーセントを各マウスに対して、(PWL投与後-平均アイソタイプ-対照投与後)/(平均アイソタイプ-対照投与前-平均アイソタイプ-対照投与後)として算出した。
【0260】
熱的過敏症は、ベースライン時、CFAを足蹠内注射する前、全群間で差がなかった(データは示さず)。
【0261】
CFAを足蹠内注射した後、D1、D4、およびD7に、アイソタイプ-対照1B7.11-処置群のマウスにおいて注射した足の足引っ込め潜伏時間における有意な低減が観察され、CFAは熱的過敏症を誘発したことが実証された(データは示さず)。EE1抗体を、足蹠内CFA注射の22時間後に静脈内投与し(すなわち、足蹠内CFA注射後1日目)、EE1抗体は、試験した投与量を問わず、D1の足引っ込め潜伏時間を増大することができなかった(
図11)。しかしながら、EE1は、D4の足引っ込め潜伏時間を有意に増大し、この効果はD7にも存在した(
図11)。
【0262】
熱的過敏症の逆転は、EE1の2.5mg/kgおよび30mg/kg静脈内投与に対してそれぞれ、D4に41±15%および58±21%、ならびにD7に46±10%および52±17%であった(表31)。
【0263】
【0264】
C.CCI(慢性絞扼損傷)誘発性神経障害様疼痛(Bennettのモデル)
CCIモデルを末梢神経損傷のモデルとして用いた。簡潔に述べると、マウスをイソフルラン(3%)で麻酔し、小さく切開することにより右坐骨神経を大腿中央(mid thigh)レベルで暴露した。1mmのスペースで6.0クロムガット(Ethicon)の緩い結紮を3つ、坐骨神経周辺に配置した。筋肉および皮膚を閉じることにより、外科手術の手順を完了した。CCI外科手術の日を0日目とした。群の大きさは、オスC57BI/6マウス6~10匹であった。
【0265】
外科手術後11日目に、EE1抗体2.5および30mg/kgを静脈内投与し、機械的過敏症および熱的過敏症を、外科手術後12日目(D12)、14日目(D14)、および18日目(D18)に評価し、これらは処置後1日目(D1)、3日目(D3)、および7日目(D7)に相当するものであった。
【0266】
C1.機械的過敏症
スチール製のロッドをマウスの後ろ足に適用し力を増大する(10秒で5グラム)、Dynamic Plantar Aesthesiometer(Ugo-Basile、イタリア)を用いて、圧迫(gにおける)刺激の増大に対する後ろ足引っ込め閾値(損傷[すなわちIpsi]および非損傷[すなわちContra]両方の足に対する)を測定することにより、機械的過敏症を評価した。
【0267】
EE1抗体の疼痛様行動に対する効果を調査するために、本発明者らは、機械的過敏症の逆転を以下の通り決定した:逆転のパーセントを各マウスに対して、(Ipsi投与後-Ipsi投与前)/(Contra投与前-Ipsi投与前)として算出した。
【0268】
外科手術後、手術したマウスは、損傷した足に対する機械的刺激に対して頑強な鋭敏化を発症したが、非損傷の足には影響がなかった。11日目、損傷した足に対する機械的鋭敏化はプラトーに到達した(データは示さず)。
【0269】
EE1抗体を11日目に静脈内投与すると、D12、D14、およびD18に、CCI誘発性機械的過敏症の逆転に対するわずかな傾向を実証し、2.5および30mg/kgそれぞれ、D12に15.2±4.9%および15.2±5.7%、D14に26.8±5.7%および25.7±4.5%、ならびにD18に30.3±7.1%および20.8±5.9%であった(
図12および表32)。
【0270】
【0271】
C2.熱的過敏症
熱的過敏症に対して、足蹠装置(IITC、Woodland Hills、USA)を用いて放射熱に反応した足引っ込め潜伏時間(秒における)の測定を、注射した後ろ足に対して評価した。
【0272】
疼痛様行動に対するEE1抗体の効力を調査するために、本発明者らは熱的過敏症の逆転(%における)を、以下の通り算出した:
逆転のパーセントを各マウスに対して、(Ipsi投与後-平均アイソタイプ-対照投与後)/(平均無処置投与後-平均アイソタイプ-対照投与後)として算出した。
【0273】
外科手術後、手術したマウスは、損傷した足に対する熱的刺激に対して頑強な鋭敏化を発症したが、非損傷の足には影響がなかった。11日目、損傷した足に対する熱的鋭敏化はプラトーに到達した(データは示さず)。
【0274】
EE1抗体を11日目に静脈内投与すると、D12に、傾向が観察されたとしても、EE1抗体は損傷した足の足引っ込め潜伏時間を有意に増大しなかった。しかしながら、D14から、EE1抗体は後ろ足引っ込めを有意に増大した(
図13)。熱的過敏症の逆転は、EE1抗体2.5mg/kgおよび30mg/kg静脈投与に対してそれぞれ、D12に41±16%および56±24%、ならびにD14に51±16%および98±48%、ならびにD18に78±19%および84±22%であった(表33)。
【0275】
【配列表】
【外国語明細書】