(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038040
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】抗TGFベータ抗体およびそれらの使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/22 20060101AFI20240312BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240312BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240312BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240312BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20240312BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240312BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240312BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240312BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
C07K16/22 ZNA
C07K16/28
A61P37/02
A61P43/00 105
A61P19/08
A61P11/00
A61P13/12
A61K39/395 D
A61K39/395 N
C12N15/13
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023216508
(22)【出願日】2023-12-22
(62)【分割の表示】P 2023003484の分割
【原出願日】2018-01-19
(31)【優先権主張番号】62/448,800
(32)【優先日】2017-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17305061.8
(32)【優先日】2017-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】ゲイリー・シャピロ
(72)【発明者】
【氏名】ケビン・ブローワー
(72)【発明者】
【氏名】パトリック・フィン
(72)【発明者】
【氏名】リチャード・シー・グレゴリー
(72)【発明者】
【氏名】ラオ・コドゥリ
(72)【発明者】
【氏名】フェン・リウ
(72)【発明者】
【氏名】ナタリア・マリコフ
(72)【発明者】
【氏名】パーミンンダー・マンクゥ
(72)【発明者】
【氏名】ジャック・アール・ポラード
(72)【発明者】
【氏名】ファーウェイ・チウ
(72)【発明者】
【氏名】ヨアヒム・タイルハーバー
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・ウィンター
(72)【発明者】
【氏名】マルセラ・ユー
(57)【要約】 (修正有)
【課題】TGF-βによって媒介される状態の処置のためのTGF-β抗体を提供する。
【解決手段】患者において、免疫介在性疾患、線維性状態または先天性もしくは骨欠損を処置するための薬剤の製造における、ヒトTGF-β1、TGF-β2、およびTGF-β3に特異的に結合する抗TGF-β抗体の使用であって、前記抗体は、特定の配列における重鎖相補性決定領域(CDR)1~3および別の特定の配列における軽鎖CDR1~3を含み、前記抗体は、228位(EUナンバリング)にプロリンを有するヒトIgG4定常領域を含む、前記使用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1における重鎖相補性決定領域(CDR)1~3および配列番号2における軽鎖CDR1~3を含む、ヒトTGF-β1、TGF-β2、およびTGF-β3に特異的に結合する単離されたモノクローナル抗体であって、228位(EUナンバリング)にプロリンを有するヒトIgG4定常領域を含む前記抗体。
【請求項2】
配列番号1の1~120残基に相当する重鎖可変ドメイン(VH)アミノ酸配列および配列番号2の1~108残基に相当する軽鎖可変ドメイン(VL)アミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
配列番号1に記載の重鎖アミノ酸配列および配列番号2に記載の軽鎖アミノ酸配列を含む、請求項2に記載の抗体。
【請求項4】
F(ab’)2である、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗体の抗原結合断片。
【請求項5】
フレソリムマブと比較して半減期の延長または暴露の増加を示す、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体または断片。
【請求項6】
以下の:
a)CD4+T細胞の誘導性制御性T細胞(iTreg)への分化を阻害する;
b)CD8+T細胞増殖を増加させる;
c)ナチュラルキラー(NK)細胞のクラスタリングを増加させる;
d)MIP-2のレベルを増加させる;および
e)KC/GROのレベルを増加させる
特性の1つまたはそれ以上を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の抗体または断片。
【請求項7】
薬剤としての請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体または断片。
【請求項8】
1%より少ないハーフ抗体または断片を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体または断片を含む組成物。
【請求項9】
それを必要としている患者においてTGF-βシグナル伝達を阻害する方法であって、治療量の請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体または断片を患者に投与する工程を含む前記方法。
【請求項10】
患者はがんを有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
がんは、メラノーマ、肺がん、有棘細胞癌、結腸直腸がん、乳がん、卵巣がん、頭頚部がん、肝細胞癌、尿路上皮がん、および腎細胞癌からなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
がんは、ACTA2、VIM、MGPおよびZWINTの1つまたはそれ以上の過剰発現によって特徴づけられる、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
がんは間葉系腫瘍である、請求項10~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
抗体または断片は免疫抑制腫瘍微小環境を緩和する、請求項10~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
患者のがんを処置する方法であって、
(1)請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体または断片、および
(2)免疫チェックポイントタンパク質の阻害剤
を患者に投与する工程を含む前記方法。
【請求項16】
免疫チェックポイントタンパク質は、PD-1、PD-L1、またはPD-L2である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
免疫チェックポイントタンパク質の阻害剤は、抗PD-1抗体である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
抗PD-1抗体は、配列番号5における重鎖CDR1~3および配列番号6における軽鎖CDR1~3を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
抗PD-1抗体は、配列番号5の1~117残基に相当するVHアミノ酸配列および配列番号6の1~107残基に相当するVLアミノ酸配列を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
抗PD-1抗体は、配列番号5に記載の重鎖アミノ酸配列および配列番号6に記載の軽鎖アミノ酸配列を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
抗TGF-β抗体は、配列番号1に記載の重鎖アミノ酸配列および配列番号2に記載の軽鎖アミノ酸配列を含む、請求項15~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
がんは抗PD-1抗体処置に難治性である、請求項15~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
がんは、進行性または転移性のメラノーマ、または有棘細胞癌である、請求項15~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
がんは、固形腫瘍の間葉系サブタイプである、請求項15~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
がんは、ACTA2、VIM、MGP、およびZWINTの1つまたはそれ以上の過剰発現によって特徴づけられる、請求項15~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
がんは、メラノーマ、肺がん、有棘細胞癌、結腸直腸がん、乳がん、卵巣がん、頭頚部がん、肝細胞癌、尿路上皮がん、および腎細胞癌からなる群から選択される、請求項15~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
抗体または断片は免疫抑制腫瘍微小環境を緩和する、請求項15~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
抗TGF-β抗体および抗PD-1抗体は患者に同じ日に投与される、請求項17~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
抗TGF-β抗体および抗PD-1抗体は患者に隔週で投与される、請求項17~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
抗TGF-β抗体および抗PD-1抗体は、それぞれ0.05~20mg/kg体重の用量で投与される、請求項17~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
それを必要としている患者において免疫応答を増加させる方法であって、
(1)請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体または断片、および
(2)免疫チェックポイントタンパク質の阻害剤
を患者に投与する工程を含む前記方法。
【請求項32】
免疫チェックポイントタンパク質の阻害剤は抗PD-1抗体である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
抗PD-1抗体は:
a)配列番号5におけるHCDR1~3および配列番号6におけるLCDR1~3;
b)配列番号5の1~117残基に相当するVHアミノ酸配列および配列番号6の1~107残基に相当するVLアミノ酸配列;または
c)配列番号5に記載の重鎖アミノ酸配列および配列番号6に記載の軽鎖アミノ酸配列
を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
抗TGF-β抗体は配列番号1に記載の重鎖アミノ酸配列および配列番号2に記載の軽鎖アミノ酸配列を含む、請求項31~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
それを必要としている患者においてTGF-βシグナル伝達を阻害する上での使用のための、請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体または断片。
【請求項36】
患者はがんを有する、請求項35に記載の使用のための抗体または断片。
【請求項37】
がんは、メラノーマ、肺がん、有棘細胞癌、結腸直腸がん、乳がん、卵巣がん、頭頚部がん、肝細胞癌、尿路上皮がん、および腎細胞癌からなる群から選択される、請求項36に記載の使用のための抗体または断片。
【請求項38】
がんは、ACTA2、VIM、MGPおよびZWINTの1つまたはそれ以上の過剰発現によって特徴づけられる、請求項36または37に記載の使用のための抗体または断片。
【請求項39】
がんは間葉系腫瘍である、請求項36~38のいずれか1項に記載の使用のための抗体または断片。
【請求項40】
免疫抑制腫瘍微小環境を緩和する、請求項36~39のいずれか1項に記載の使用のための抗体または断片。
【請求項41】
免疫チェックポイントタンパク質の阻害剤と組み合わせて患者においてがんを処置する上での使用のための、請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体または断片。
【請求項42】
免疫チェックポイントタンパク質は、PD-1、PD-L1、またはPD-L2である、請求項41に記載の使用のための抗体または断片。
【請求項43】
免疫チェックポイントタンパク質の阻害剤は抗PD-1抗体である、請求項42に記載の使用のための抗体または断片。
【請求項44】
抗PD-1抗体は、配列番号5における重鎖CDR1~3および配列番号6における軽鎖CDR1~3を含む、請求項43に記載の使用のための抗体または断片。
【請求項45】
抗PD-1抗体は、配列番号5の1~117残基に相当するVHアミノ酸配列および配列番号6の1~107残基に相当するVLアミノ酸配列を含む、請求項43に記載の使用のための抗体または断片。
【請求項46】
抗PD-1抗体は、配列番号5に記載の重鎖アミノ酸配列および配列番号6に記載の軽鎖アミノ酸配列を含む、請求項43に記載の使用のための抗体または断片。
【請求項47】
抗TGF-β抗体は、配列番号1に記載の重鎖アミノ酸配列および配列番号2に記載の軽鎖アミノ酸配列を含む、請求項41~46のいずれか1項に記載の使用のための抗体または断片。
【請求項48】
がんは抗PD-1抗体処置に難治性である、請求項41~47のいずれか1項に記載の使用のための抗体または断片。
【請求項49】
がんは、進行性または転移性のメラノーマ、または有棘細胞癌である、請求項41~48のいずれか1項に記載の使用のための抗体または断片。
【請求項50】
がんは、固形腫瘍の間葉系サブタイプである、請求項41~49のいずれか1項に記載の使用のための抗体または断片。
【請求項51】
がんは、ACTA2、VIM、MGP、およびZWINTの1つまたはそれ以上の過剰発現によって特徴づけられる、請求項41~50のいずれか1項に記載の使用のための抗体または断片。
【請求項52】
がんは、メラノーマ、肺がん、有棘細胞癌、結腸直腸がん、乳がん、卵巣がん、頭頚部がん、肝細胞癌、尿路上皮がん、および腎細胞癌からなる群から選択される、請求項41~51のいずれか1項に記載の使用のための抗体または断片。
【請求項53】
免疫抑制腫瘍微小環境を緩和する、請求項41~52のいずれか1項に記載の使用のための抗体または断片。
【請求項54】
抗TGF-β抗体および抗PD-1抗体は患者に同じ日に投与される、請求項43~53のいずれか1項に記載の使用のための抗体または断片。
【請求項55】
抗TGF-β抗体および抗PD-1抗体は患者に隔週で投与される、請求項43~54のいずれか1項に記載の使用のための抗体または断片。
【請求項56】
抗TGF-β抗体および抗PD-1抗体は、それぞれ0.05~20mg/kg体重の用量で投与される、請求項43~55のいずれか1項に記載の使用のための抗体または断片。
【請求項57】
免疫チェックポイントタンパク質の阻害剤と組み合わせて、それを必要としている患者において免疫反応を増加させる上での使用のための、請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体または断片。
【請求項58】
免疫チェックポイントタンパク質の阻害剤は抗PD-1抗体である、請求項57に記載の使用のための抗体または断片。
【請求項59】
抗PD-1抗体は:
a)配列番号5におけるHCDR1~3および配列番号6におけるLCDR1~3;
b)配列番号5の1~117残基に相当するVHアミノ酸配列および配列番号6の1~107残基に相当するVLアミノ酸配列;または
c)配列番号5に記載の重鎖アミノ酸配列および配列番号6に記載の軽鎖アミノ酸配列
を含む、請求項58に記載の使用のための抗体または断片。
【請求項60】
抗TGF-β抗体は配列番号1に記載の重鎖アミノ酸配列および配列番号2に記載の軽鎖アミノ酸配列を含む、請求項57~59のいずれか1項に記載の使用のための抗体または断片。
【請求項61】
それを必要としている患者においてTGF-βシグナル伝達を阻害するための薬剤の製造のための、請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体または断片の使用。
【請求項62】
患者はがんを有する、請求項61に記載の使用。
【請求項63】
がんは、メラノーマ、肺がん、有棘細胞癌、結腸直腸がん、乳がん、卵巣がん、頭頚部がん、肝細胞癌、尿路上皮がん、および腎細胞癌からなる群から選択される、請求項62に記載の使用。
【請求項64】
がんは、ACTA2、VIM、MGPおよびZWINTの1つまたはそれ以上の過剰発現によって特徴づけられる、請求項62または63に記載の使用。
【請求項65】
がんは間葉系腫瘍である、請求項62~64のいずれか1項に記載の使用。
【請求項66】
抗体または断片は免疫抑制腫瘍微小環境を緩和する、請求項62~65のいずれか1項に記載の使用。
【請求項67】
免疫チェックポイントタンパク質の阻害剤と組み合わせて患者においてがんを処置するための薬剤の製造における使用のための、請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体または断片の使用。
【請求項68】
免疫チェックポイントタンパク質は、PD-1、PD-L1、またはPD-L2である、請求項67に記載の使用。
【請求項69】
免疫チェックポイントタンパク質の阻害剤は抗PD-1抗体である、請求項68に記載の使用。
【請求項70】
抗PD-1抗体は、配列番号5における重鎖CDR1~3および配列番号6における軽鎖CDR1~3を含む、請求項69に記載の使用。
【請求項71】
抗PD-1抗体は、配列番号5の1~117残基に相当するVHアミノ酸配列および配列番号6の1~107残基に相当するVLアミノ酸配列を含む、請求項69に記載の使用。
【請求項72】
抗PD-1抗体は、配列番号5に記載の重鎖アミノ酸配列および配列番号6に記載の軽鎖アミノ酸配列を含む、請求項69に記載の使用。
【請求項73】
抗TGF-β抗体は、配列番号1に記載の重鎖アミノ酸配列および配列番号2に記載の軽鎖アミノ酸配列を含む、請求項67~72のいずれか1項に記載の使用。
【請求項74】
がんは抗PD-1抗体処置に難治性である、請求項67~73のいずれか1項に記載の使用。
【請求項75】
がんは、進行性または転移性のメラノーマ、または有棘細胞癌である、請求項67~74のいずれか1項に記載の使用。
【請求項76】
がんは、固形腫瘍の間葉系サブタイプである、請求項67~75のいずれか1項に記載の使用。
【請求項77】
がんは、ACTA2、VIM、MGP、およびZWINTの1つまたはそれ以上の過剰発現によって特徴づけられる、請求項67~76のいずれか1項に記載の使用。
【請求項78】
がんは、メラノーマ、肺がん、有棘細胞癌、結腸直腸がん、乳がん、卵巣がん、頭頚部がん、肝細胞癌、尿路上皮がん、および腎細胞癌からなる群から選択される、請求項67~77のいずれか1項に記載の使用。
【請求項79】
抗体または断片は免疫抑制腫瘍微小環境を緩和する、請求項67~78のいずれか1項に記載の使用。
【請求項80】
抗TGF-β抗体および抗PD-1抗体は患者に同じ日に投与される、請求項69~79のいずれか1項に記載の使用。
【請求項81】
抗TGF-β抗体および抗PD-1抗体は患者に隔週で投与される、請求項69~80のいずれか1項に記載の使用。
【請求項82】
抗TGF-β抗体および抗PD-1抗体は、それぞれ0.05~20mg/kg体重の用量で投与される、請求項69~81のいずれか1項に記載の使用。
【請求項83】
免疫チェックポイントタンパク質の阻害剤と組み合わせて、それを必要としている患者において免疫応答を増加させるための薬剤の製造における使用のための、請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体または断片の使用。
【請求項84】
免疫チェックポイントタンパク質の阻害剤は抗PD-1抗体である、請求項83に記載の使用。
【請求項85】
抗PD-1抗体は:
a)配列番号5におけるHCDR1~3および配列番号6におけるLCDR1~3;
b)配列番号5の1~117残基に相当するVHアミノ酸配列および配列番号6の1~107残基に相当するVLアミノ酸配列;または
c)配列番号5に記載の重鎖アミノ酸配列および配列番号6に記載の軽鎖アミノ酸配列
を含む、請求項84に記載の使用。
【請求項86】
抗TGF-β抗体は配列番号1に記載の重鎖アミノ酸配列および配列番号2に記載の軽鎖アミノ酸配列を含む、請求項83~85のいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、両方とも2017年1月20日に出願した米国仮出願第62/448,800号および欧州出願第17305061.8号の優先権を主張するものである。2つの優先権出願の開示は、その全体を参照によって本明細書に組み入れる。
【0002】
配列表
本出願は、ASCIIフォーマットで電子的に出願され、その全体を参照によって本明細書に組み入れる、配列表を含む。2018年1月11日に作成された前記ASCIIコピーは、022548_WO011_SL.txtと名付けられ、サイズは30,458
バイトである。
【背景技術】
【0003】
トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)は、増殖、分化、生存、遊走、および上皮間葉転換を含む多くの重要な細胞の機能を制御するサイトカインである。それは、細胞外マトリックス形成、創傷治癒、胚発生、骨発生、造血、免疫および炎症応答、および悪性形質転換のような種々の生物学的プロセスを調節する。TGF-βの調節解除は、病的状態、例えば先天性欠損、がん、慢性炎症、ならびに自己免疫および線維性疾患をもたらす。
【0004】
TGF-βは、公知の3つのアイソフォーム-TGF-β1、2、および3がある。3つのアイソフォーム全てが、最初に前駆ペプチドとして転写される。切断後、成熟C末端はN末端と結合したままであり(潜在関連ペプチドまたはLAPと呼ばれる)、細胞から分泌される小さい潜在型複合体(SLC)を形成する。SLCがTGF-β受容体II(TGFβRII)に結合できないために、受容体エンゲージメントが妨げられる。N-およびC-末端の解離による活性化は、タンパク質切断、酸性pH、またはインテグリン構造変化(非特許文献1)を含む、いくつかのメカニズムの1つによって生じる。
【0005】
TGF-β1、2および3は、その機能が多面的であり、細胞および組織型にわたって異なるパターンで発現される。それらは、in vitroでの活性が類似しているが、特定の細胞型における個々のノックアウトは、それらが同じ受容体に結合する能力を共有するにもかかわらず、in vivoでの同一ではない役割を示唆する(非特許文献2)。TGF-βがTGFβRIIに結合すると、受容体の構成的なキナーゼ活性は、TGF-βRIをリン酸化および活性化し、SMAD2/3をリン酸化し、SMAD4への結合、核への局在、およびTGF-β応答遺伝子の転写を可能にする。同文献。この古典的シグナル伝達カスケードに加えて、非古典的な経路は、p38 MAPK、PI3K、AKT、JUN、JNK、およびNF-κBを含む他の因子を介してシグナルを伝達する。TGF-βシグナル伝達もまた、WNT、ヘッジホッグ、ノッチ、INF、TNF、およびRASを含む他の経路によって調節される。したがって、TGF-βシグナル伝達の最終結果は、細胞の状態および環境を統合するこれらのシグナル伝達経路の全てのクロストークである。同文献。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Connolly et al., Int J Biol Sci (2012) 8(7):964-78
【非特許文献2】Akhurst et al., Nat Rev Drug Discov (2012) 11(10):790-811
【非特許文献3】Bedinger et al., mAbs. (2016) 8(2):389-404
【非特許文献4】Larkin et al., N Engl J Med (2015) 373:23-34
【非特許文献5】Redman et al., BMC Med (2016) 14:20-30
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
TGF-βの多様な機能を考慮すると、ヒト患者に安全な汎TGF-β特異的治療抗体の必要性がある(非特許文献3)。しかしながら、TGF-βは種間で高度に保存されている。結果として、マウスのような動物におけるヒトTGF-βに対する抗体の産生は困難な仕事である。
【0008】
現在有効な処置がない患者の医学的必要性もある。例えば、抗PD1抗体ニボルマブ単独治療によって処置される第III相Checkmate-067研究において、進行性メラノーマ患者の50%より多くが治療への完全または部分的な応答を示さなかった(非特許文献4;非特許文献5)。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ヒトTGF-β1、TGF-β2、およびTGF-β3に特異的(すなわち、汎TGF-β特異的)に結合する改善したモノクローナル抗体を提供する。これらの抗体は、製造中にハーフ抗体(すなわち、重鎖1つおよび軽鎖1つを有する二量体複合体)を形成しにくい。それらはまた、半減期の延長のような優れた薬物動態プロファイルを示し、したがって患者に改善した臨床的有用性を与えることができる。本発明者らはまた、本発明の抗体および抗原結合断片によって引き起こされるようなTGF-β阻害が、腫瘍において免疫抑制微小環境を緩和し、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)、PD-1リガンド1(PD-L1)および2(PD-L2)を標的化する治療のような免疫治療の効能を増強することを発見した。
【0010】
一態様では、本発明は、配列番号1における重鎖相補性決定領域(CDR)1~3および配列番号2における軽鎖CDR1~3を含み、ヒトTGF-β1、TGF-β2、およびTGF-β3に特異的に結合する単離されたモノクローナル抗体を提供し、ここで該抗体は228位(EUナンバリング)に変異を有するヒトIgG4定常領域を含む。いくつかの実施形態では、変異は、セリンからプロリンへの変異(S228P)である。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号1の1~120残基に相当する重鎖可変ドメイン(VH)アミノ酸配列および配列番号2の1~108残基に相当する軽鎖可変ドメイン(VL)アミノ酸配列を含む。さらなる実施形態では、抗体は、配列番号1に記載の重鎖アミノ酸配列(C末端リジン有りまたは無し)および配列番号2に記載の軽鎖アミノ酸配列を含む。本発明はまた、上記抗体のF(ab’)2抗原結合断片を特徴とする。
【0011】
好ましい実施形態では、本発明の抗体または断片は、フレソリムマブと比較すると、半減期の延長、暴露の増加、または両方を示す。例えば、増加は、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%またはそれ以上の増加である。本発明の抗体または断片のような薬物の暴露は、時間に対する体内薬物の濃度の関数である。体内の薬物の濃度は、血液、血漿、または血清中の薬物のレベルによって示されることが多い。薬物の半減期およびエクスポージャー(バイオエクスポージャー(bio-exposure))は、以下の実施例7に示したように、周知の方法によって測定される。
【0012】
本発明は、本発明の抗体を含む組成物をさらに提供し、ここで該組成物は、1%より少ないハーフ抗体を含む。ハーフ抗体形成は、例えば、非還元条件下でのSDS-キャピラリー電気泳動または非還元SDS-PAGE分析、続いてデンシトメトリー、またはRP-HPLCを使用することによる、モノクローナル抗体調製物の純度分析によって決定さ
れる(Angal et al., Mol Immunol (1993) 30(1):105-8; Bloom et al., Protein Science (1997) 6:407-415; Schuurman et al., (2001) 38(1):1-8; and Solanos et al., Anal Chem (2006) 78:6583-94)。いくつかの実施形態では、この組成物は、薬学的に許容される賦形剤も含む医薬組成物である。
【0013】
別の態様では、本発明は、治療量の本発明の抗体または断片を患者に投与する工程を含む、それを必要としている患者(ヒト)においてTGF-βシグナル伝達を阻害する方法を提供する。いくつかの実施形態では、患者は、免疫介在性疾患(例えば、強皮症)、線維性状態(例えば、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)のような腎臓の線維性状態、または突発性肺線維症のような肺の線維性状態)または先天性もしくは骨欠損(例えば、骨形成不全症)を有する。いくつかの実施形態では、患者はがんを有する。いくつかの実施形態では、本方法で使用した抗体または断片は、CD4+T細胞の誘導性制御性T細胞(iTreg)への分化を阻害する。抗体または断片は、免疫抑制腫瘍微小環境を緩和し得る。抗体または断片のこの作用は、免疫システムの活性化および免疫治療の効能の増強を助ける。本明細書に記載の処置方法の効能は、例えば、患者において(例えば、患者の腫瘍組織において)以下の1つまたはそれ以上によって示される:(1)MIP2および/またはKC/GROレベルの増加、(2)INF-γ-陽性CD8+T細胞のようなCD8+T細胞の活性化または腫瘍組織への浸潤、および(3)ナチュラルキラー(NK)細胞のクラスタリングにおける増加。
【0014】
本発明は、(1)治療有効量の本発明の抗体または断片、および(2)治療有効量の免疫チェックポイントタンパク質の阻害剤を患者に投与する工程を含む、患者(ヒト)においてがんを処置する方法をさらに提供する。これら2つの薬剤は、同時に(例えば、単一組成物中または別々の組成物中で)、またはいずれかの順序で順に投与される。2つの薬剤は、例えば、同じ日に投与される。いくつかの実施形態では、治療剤(1)は治療剤(2)の前(例えば1日または数日前)に患者に投与される。
【0015】
いくつかの実施形態では、免疫チェックポイントタンパク質は、PD-1、PD-L1、またはPD-L2である。さらなる実施形態では、免疫チェックポイントタンパク質の阻害剤は、抗PD-1抗体である。さらなる実施形態では、抗PD-1抗体は、(1)配列番号5における重鎖CDR1~3および配列番号6における軽鎖CDR1~3、(2)配列番号5の1~117残基に相当するVHアミノ酸配列および配列番号6の1~107残基に相当するVLアミノ酸配列、または(3)配列番号5に記載の重鎖アミノ酸配列(C末端リジン有りまたは無し)および配列番号6に記載の軽鎖アミノ酸配列を含む。特定の一実施形態では、本方法は、配列番号1に記載の重鎖アミノ酸配列(C末端リジン有りまたは無し)および配列番号2に記載の軽鎖アミノ酸配列を含む抗TGF-β抗体、ならびに配列番号5に記載の重鎖アミノ酸配列(C末端リジン有りまたは無し)および配列番号6に記載の軽鎖アミノ酸配列を含む抗PD-1抗体をがん患者に投与する工程を含む。いくつかの実施形態では、患者は、抗PD-1抗体単独治療に難治性である。患者は進行性もしくは転移性のメラノーマ、または有棘細胞癌を有し得る。
【0016】
いくつかのレジメンでは、抗TGF-β抗体および抗PD-1抗体は、患者に2週間毎または3週間毎に投与される。いくつかのレジメンでは、2つの薬剤はそれぞれ、用量0.01~40(例えば、0.02~20、0.05~15、または0.05~20)mg/kg体重で投与される。
【0017】
本発明はまた、免疫チェックポイント阻害剤および本発明の抗体または断片を患者に投与する工程を含む、それを必要としている患者において免疫応答を増大する方法も提供す
る。いくつかの実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、(1)配列番号5におけるHCDR1~3および配列番号6におけるLCDR1~3;(2)それぞれ、配列番号5の1~117残基および配列番号6の1~107残基に相当するVHおよびVL;または(3)配列番号5のアミノ酸配列を有する重鎖(C末端リジン有りまたは無し)および配列番号6のアミノ酸配列を有する軽鎖を含むもののような、抗PD-1抗体である。
【0018】
本発明の方法は、限定はされないが、メラノーマ(例えば、転移性または進行性)、肺がん(例えば、非小細胞肺がん)、有棘細胞癌、結腸直腸がん、乳がん、卵巣がん、卵管がん、子宮がん、頭頚部がん(例えば、頭頚部扁平上皮癌)、肝臓がん(例えば、肝細胞癌)、尿路上皮がん、および腎臓がん(例えば、腎細胞癌)を含む、様々ながんの処置に使用される。いくつかの実施形態では、患者は、間葉系腫瘍または固形腫瘍の間葉系サブタイプを有する。そのような固形腫瘍の例としては、大腸(例えば、結腸直腸がん)、卵巣、頭頚部(例えば、頭頚部扁平上皮癌)、肝臓(例えば、肝細胞癌)、および尿路上皮システムにおけるものが挙げられる。
【0019】
いくつかの実施形態では、間葉系腫瘍を含むがんは、ACTA2(平滑筋α2アクチン)、VIM(ビメンチン)、MGP(マトリックスGlaタンパク質)、ZWINT(ZW10相互作用動原体タンパク質)、およびZEB2(ジンクフィンガーE-box結合ホメオボックス2)の1つまたはそれ以上の過剰発現により特徴づけられる。そのようなバイオマーカーの発現レベルは、例えば、腫瘍生検または循環腫瘍細胞のような患者からの生体サンプルにおけるmRNAレベルまたはタンパク質レベルで決定される。
【0020】
本発明はまた、本明細書に記載の状態の処置における使用のための上述の抗体、断片、または組成物ならびに、本明細書に記載の状態の処置のための薬剤の製造における上述の抗体、断片、または組成物の使用も提供する。
【0021】
本発明の抗体の重もしくは軽鎖、または両方をコードする核酸発現ベクター;抗体の重鎖および軽鎖コード配列を含む宿主細胞:ならびに適切な培養培地中で宿主細胞を培養し、抗体遺伝子を発現し、次いで抗体を回収する工程を含む宿主細胞を使用する抗体を作製する方法も本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1A】ヒトTGF-β1(A)、ヒトTGF-β2(B)、ヒトTGF-β3(C)、マウスTGF-β1(D)、またはマウスTGF-β2(E)1ng/mlによって処置されたミンク肺(Mv 1Lu)細胞の増殖におけるAb1、フレソリムマブ、および1D11の効果を示すグラフである。抗体濃度はμg/mlである。
【
図1B】ヒトTGF-β1(A)、ヒトTGF-β2(B)、ヒトTGF-β3(C)、マウスTGF-β1(D)、またはマウスTGF-β2(E)1ng/mlによって処置されたミンク肺(Mv 1Lu)細胞の増殖におけるAb1、フレソリムマブ、および1D11の効果を示すグラフである。抗体濃度はμg/mlである。
【
図1C】ヒトTGF-β1(A)、ヒトTGF-β2(B)、ヒトTGF-β3(C)、マウスTGF-β1(D)、またはマウスTGF-β2(E)1ng/mlによって処置されたミンク肺(Mv 1Lu)細胞の増殖におけるAb1、フレソリムマブ、および1D11の効果を示すグラフである。抗体濃度はμg/mlである。
【
図1D】ヒトTGF-β1(A)、ヒトTGF-β2(B)、ヒトTGF-β3(C)、マウスTGF-β1(D)、またはマウスTGF-β2(E)1ng/mlによって処置されたミンク肺(Mv 1Lu)細胞の増殖におけるAb1、フレソリムマブ、および1D11の効果を示すグラフである。抗体濃度はμg/mlである。
【
図1E】ヒトTGF-β1(A)、ヒトTGF-β2(B)、ヒトTGF-β3(C)、マウスTGF-β1(D)、またはマウスTGF-β2(E)1ng/mlによって処置されたミンク肺(Mv 1Lu)細胞の増殖におけるAb1、フレソリムマブ、および1D11の効果を示すグラフである。抗体濃度はμg/mlである。
【
図2】ヒト誘導性制御性T細胞(iTreg)分化へのAb1 50μg/mlの効果を示す棒グラフである。T細胞に提供された刺激は、抗CD3および抗CD28抗体プラスIL-2であった。
【
図3】ヒトTGF-β1 2ng/mlによって処置されたヒトCD4+T細胞培養におけるヒト誘導性制御性T細胞(iTreg)分化へのAb1の効果を示す棒グラフである。T細胞に提供された刺激は、抗CD3および抗CD28抗体プラスIL-2であった。
【
図4】T細胞刺激および抗PD-1処置後のJurkat T細胞におけるNFATc駆動ルシフェラーゼ発現へのAb1(30μg/ml)およびヒトTGF-β1(18ng/ml)の効果を示す棒グラフである。
【
図5】C57BL/6 MC38大腸マウスモデルを使用する示した処置群における中央絶対偏差(MAD)による値腫瘍体積中央値を示すグラフである。ビヒクル:PBS。「抗PD-1」:x-抗mPD-1 Mab(以下の発明を実施するための形態を参照)。「Ab1のアイソタイプコントロール」:抗HEL hlgG4。
【
図6】C57BL/6 MC38大腸マウスモデルを使用する示した処置の27日目のベースラインからの腫瘍体積変化を示す散布図である。コントロール:PBS。「抗PD-1 RPM114mlgG1」:x-抗mPD-1 Mab。
【
図7A】C57BL/6 MC38大腸マウスモデルを使用する各示した処置群の経時的な腫瘍体積を示すグラフである。グラフ中の各線は、1匹の動物を表す。「mpk」:mg/kg。「Ab1アイソタイプCtrl」:抗HEL hlgG4。αPD1:x-抗mPD-1 Mab。
【
図7B】C57BL/6 MC38大腸マウスモデルを使用する各示した処置群の経時的な腫瘍体積を示すグラフである。グラフ中の各線は、1匹の動物を表す。「mpk」:mg/kg。「Ab1アイソタイプCtrl」:抗HEL hlgG4。αPD1:x-抗mPD-1 Mab。
【
図7C】C57BL/6 MC38大腸マウスモデルを使用する各示した処置群の経時的な腫瘍体積を示すグラフである。グラフ中の各線は、1匹の動物を表す。「mpk」:mg/kg。「Ab1アイソタイプCtrl」:抗HEL hlgG4。αPD1:x-抗mPD-1 Mab。
【
図7D】C57BL/6 MC38大腸マウスモデルを使用する各示した処置群の経時的な腫瘍体積を示すグラフである。グラフ中の各線は、1匹の動物を表す。「mpk」:mg/kg。「Ab1アイソタイプCtrl」:抗HEL hlgG4。αPD1:x-抗mPD-1 Mab。
【
図7E】C57BL/6 MC38大腸マウスモデルを使用する各示した処置群の経時的な腫瘍体積を示すグラフである。グラフ中の各線は、1匹の動物を表す。「mpk」:mg/kg。「Ab1アイソタイプCtrl」:抗HEL hlgG4。αPD1:x-抗mPD-1 Mab。
【
図7F】C57BL/6 MC38大腸マウスモデルを使用する各示した処置群の経時的な腫瘍体積を示すグラフである。グラフ中の各線は、1匹の動物を表す。「mpk」:mg/kg。「Ab1アイソタイプCtrl」:抗HEL hlgG4。αPD1:x-抗mPD-1 Mab。
【
図8】LoVo腫瘍ライセートにおける活性なTGF-β1濃度へのAb1の効果を示すグラフである。
【
図9A】単回用量で5mg/kgのいずれかの抗体を与えられたラットの5つの群における経時的なAb1およびフレソリムマブの血清中濃度を示すグラフである。群(Gr.)1~3は、フレソリムマブの3つの異なるバッチ(B1、B2、およびB3)を与えられた。群4および5は、Ab1の2つの異なるバッチ(B1およびB2)を与えられた。
【
図9B】単回用量で1mg/kgのいずれかの抗体を与えられたサルにおける経時的なAb1およびフレソリムマブの血清中濃度を示すグラフである。
【
図9C】用量あたり1mg/kgのAb1の5回の毎週用量または示した研究期間、投与あたり1mg/kgのフレソリムマブの隔週投与を与えられたサルにおける経時的なAb1およびフレソリムマブの血清中濃度を示すグラフである。
【
図9D】単回用量で10mg/kgのいずれかの抗体を与えられたサルにおける経時的なAb1およびフレソリムマブの血清中濃度を示すグラフである。
【
図9E】用量あたり10mg/kgのAb1の5回の毎週用量または示した研究期間、投与あたり10mg/kgのフレソリムマブの隔週投与を与えられたサルにおける経時的なAb1およびフレソリムマブの血清中濃度を示すグラフである。
【
図10A】Ab1(+/-抗PD1)による処置後のMC38腫瘍におけるTGF-β1のレベルの変化を示すグラフである。
【
図10B】Ab1(+/-抗PD1)による処置後のMC38腫瘍におけるMIP-2のレベルの変化を示すグラフである。
【
図10C】Ab1(+/-抗PD1)による処置後のMC38腫瘍におけるKC/GROのレベルの変化を示すグラフである。
【
図11A】CD8
pos細胞のCellTrace Violet染色およびIFN-γ染色を定量するグラフである。
【
図11B】Ab1がTGFβ処置したCD8
+T細胞において増殖とIFN-γ産生の両方を回復したことを示すグラフである。
【
図12A】大腸がん、白血病、肺がん、リンパ腫、乳がん、メラノーマ、中皮腫、および腎がんの同系マウス腫瘍モデルの一覧にわたるCD8
+T細胞の相対的存在量(log2変換)を示すグラフである。
【
図12B】大腸がん、白血病、肺がん、リンパ腫、乳がん、メラノーマ、中皮腫、および腎がんの同系マウス腫瘍モデルの一覧にわたるTGFβ経路の活性化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、先の公知の抗体よりもハーフ抗体を形成しにくく、体内でのより高い暴露のような優れた薬物動態プロファイルも有する、改善した汎TGF-β特異的モノクローナル抗体を特徴とする。本抗体は、まとめて「Ab1および関連抗体」と呼ばれ、これらは配列番号1における重鎖CDR(HCDR)1~3および配列番号2における軽鎖CDR(LCDR)1~3を有し、ヒンジ領域の228残基(EUナンバリング)がセリンからプロリンに変異しているヒトIgG4定常領域を有する、共通の構造特徴を共有する。P228は、以下に示した配列番号1の配列において四角内およびボールド体である。
【0024】
抗体Ab1は、非グリコシル化の場合、推定分子量144KDである。その重および軽鎖アミノ酸配列はそれぞれ配列番号1および2である。これら2つの配列を以下に示す。可変ドメインはイタリック体である。CDRは四角内に示す。重鎖の定常ドメイン内のグリコシル化部位はボールド体である(N297)。
【0025】
【0026】
いくつかの実施形態では、抗TGF-β抗体のような本発明の抗体は、重鎖にC末端リジンを持たない。C末端リジンは、製造中に、または組換え技術により取り除かれる(すなわち、重鎖のコード配列はC末端リジンのコドンを含まない)。したがって、C末端リジンのない配列番号1の重鎖アミノ酸配列を含む抗体も本発明内で考慮する。
【0027】
Ab1および関連抗体は、ヒトTGF-β1、-β2、および-β3に特異的に結合する。「特異的に」により、本発明者らは、結合が、例えば、表面プラズモン共鳴(例えば、以下の実施例1を参照)またはBio-Layerインターフェロメトリーによって決定される、10-8M(例えば、1~5nM)より小さいような、10-7Mより小さいKDを有することを意味する。Ab1および関連抗体はまた、ミンク肺上皮細胞アッセイ(例えば、以下の実施例2を参照)でアッセイした場合に強いTGF-β中和能、またはA549細胞IL-11誘導アッセイにおいて決定される約0.05から1μg/mlのEC50を有し得る(例えば、その開示がその全体を参照によって本明細書に組み入れる、PCT国際公開第2006/086469号の実施例6を参照)。
【0028】
Ab1および関連抗体のこれらの抗原結合および中和特性は、先の抗TGF-β抗体フレソリムマブ(国際公開第2006/086469号に記載の生殖系IgG4 PET1073G12抗体)に匹敵する。リーダー配列を含むフレソリムマブの重および軽鎖配列は、それぞれ配列番号3および4に示される。配列番号3に示されるように、フレソリムマブは、228位(EUナンバリング、配列番号3において実際の247位に相当する)にプロリンを持たない。Ab1および関連抗体は、フレソリムマブよりもいくつかの改善された特性を有する。
【0029】
製造中に、フレソリムマブは、非還元変性条件下で、多くて6~18%のハーフ抗体を形成できる(すなわち、2つの軽鎖と複合体を形成した2つの重鎖を有する4量体よりも、1つの重鎖および1つの軽鎖を有する2量体)。対照的に、Ab1は実質的に少ないハーフ抗体(<1%)を産生する。したがって、Ab1および関連抗体は、製造中により純粋な薬物製品を生じる。
【0030】
さらに、Ab1および関連抗体は、フレソリムマブよりも改善した薬物動態(PK)プロファイルを有することができる。それらは、フレソリムマブよりもずっと長い半減期および低い排出速度による線形PK挙動を有することができ、フレソリムマブよりもin vivoで約1.7倍高い暴露をもたらす。例えば、ラットにおいて、Ab1は、フレソリムマブの4.3日と比較して平均7.1日の半減期、およびフレソリムマブの0.51ml/hr/kgと比較して0.30ml/hr/kgの排出速度(CL)を有することが示されている(実施例7、以下)。カニクイザルにおいて、Ab1は、フレソリムマブ
の4.5日と比較して平均13日の半減期、およびフレソリムマブの0.66ml/hr/kgと比較して0.40ml/hr/kgの排出速度(CL)を有することが示されている。同文献。これらの改善したPK特性は、Ab1および関連抗体が、フレソリムマブより少ない投与量および/または低頻度で患者に与えられ、同じまたはより良い臨床的効能を達成し、より少ない有害副作用および少ない抗薬物抗体反応を起こし、したがって、必要であればより長い期間の処置を可能にすることが示される。
【0031】
さらに、非ヒト霊長類におけるフレソリムマブの毒性研究中に、薬物暴露と貧血症のような有害事象との間の相関が観察された。しかしながら、等しいまたはより高い暴露でさえも、Ab1により行われた同様の研究ではそのような事象は観察されなかった。
【0032】
理論に縛られるものではないが、本発明者らは、Ab1および関連抗体の重鎖における228残基の変異は安定性の増加ならびに改善したPKおよび毒性プロファイルをもたらすと仮定する。
【0033】
Ab1および関連抗体の定常ドメインは、例えばKabat残基L248において(例えば、L248E変異を導入することにより)、必要に応じてさらに改変され、分子の何らかの望ましくないエフェクター機能を減らす。
【0034】
本明細書で使用する場合、用語「抗体」(Ab)または「免疫グロブリン」(Ig)は、ジスルフィド結合によって相互接続した2つの重(H)鎖(約50~70kDa)および2つの軽(L)鎖(約25kDa)を含む4量体タンパク質を指す。各重鎖は、重鎖可変ドメイン(VH)および重鎖定常領域(CH)を含む。各軽鎖は、軽鎖可変ドメイン(VL)および軽鎖定常領域(CL)から構成される。VHおよびVLドメインは、「フレームワーク領域」(FR)と呼ばれる、より保存される領域が散在する、「相補性決定領域」(CDR)と呼ばれる超可変性の領域にさらに細分される。各VHまたはVLは、3つのCDRおよび4つのFRからなり、以下の順にアミノ末端からカルボキシル末端に配置される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4。各領域へのアミノ酸の割り当ては、IMGT(登録商標)の定義(Lefranc et al., Dev Comp Immunol 27(1):55-77 (2003));またはKabatの定義、Sequences of Proteins of
Immunological Interest (National Institutes of Health, Bethesda, MD (1987 and 1991));Chothia & Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987);またはChothia et al., Nature 342:878-883 (1989)に従う。
【0035】
用語「ヒト抗体」は、可変ドメインおよび定常領域配列がヒト配列由来である抗体を指す。用語はヒト遺伝子由来の配列を有する抗体を包含するが、それらの配列は改変され、例えば免疫原性を減少、親和性を増加、および安定性を増加させる。用語は非ヒト細胞において組換えによって産生された抗体を包含し、ヒト細胞では典型的ではないグリコシル化を付与し得る。
【0036】
用語「キメラ抗体」は、2つの異なる動物種からの配列を含む抗体を指す。例えば、キメラ抗体は、別の種(例えばヒト、ウサギ、またはラット)由来の抗体の定常領域に結合するマウス抗体(すなわち、ハイブリドーマ技術を使用して免疫したマウスから得た抗体のように、マウス抗体遺伝子によってコードされる抗体)のVHおよびVLを含むことができる。
【0037】
用語、抗体の「抗原結合断片」は、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の断片を指す。いくつかの実施形態では、本発明の抗原結合断片はF(ab’)2断片であり、ヒンジ領域でジスルフィド結合によって連結されている2つのFab断片を含む二価の断片である(Fabは、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価の抗体断片で
ある)。いくつかの実施形態では、本発明の抗原結合断片はまた、CH2またはCH3ドメインも含み得る。
【0038】
本明細書に記載の抗体および抗原結合断片は単離される。用語「単離されたタンパク質」、「単離されたポリペプチド」または「単離された抗体」は、その起源または派生の源によって、(1)その自然の状態でそれを伴う自然に関連する成分と関連しない、(2)同じ種由来の他のタンパク質を実質的に含まない、(3)異なる種由来の細胞によって発現される、または(4)自然には生じない、タンパク質、ポリペプチドまたは抗体を指す。したがって、化学的に合成されたまたはそれが自然に生じる細胞とは異なる細胞系で合成されたポリペプチドは、その自然に関連する成分から「単離される」であろう。タンパク質は、当技術分野で周知のタンパク質精製技術を使用して、単離によって自然に関連する成分を実質的に含まないようにもされる。
【0039】
I.Ab1および関連抗体の使用
TGF-β受容体は免疫細胞上に広く発現され、自然および獲得免疫系の両方においてTGF-βの広範な効果をもたらす。TGF-βは、多くの疾患状態、例えば、先天性欠損症、がん、慢性炎症、自己免疫、および線維性疾患と関連する。治療量のAb1または関連抗体はこれらの状態の処置に使用される。「治療有効」量は、処置した状態の1つまたはそれ以上の兆候を緩和する本明細書に言及したAb1、関連抗体、または別の治療剤の量を指す。この量は、処置される状態または患者に基づいて変わり、十分に確立された原理を使用して医療専門家によって決定される。
【0040】
いくつかの実施形態では、Ab1または関連抗体は、40、20、または15mg/kgまたはそれ以下(14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1mg/kgのような)で投与される。いくつかのさらなる実施形態では、用量は0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、または0.5mg/kgであってよい。投与頻度は、例えば、毎日、2日毎、3日毎、4日毎、または5日毎、毎週、隔週、または3週間毎、毎月、または2月毎であってよい。抗体は、状態および製剤に適した、静脈内(例えば、0.5~8時間にわたる静脈点滴)、皮下、局所、または任意の他の投与経路によって投与される。
【0041】
Ab1および関連抗体は、ヒト抗体遺伝子に由来し、したがってヒトにおいて低い免疫原性を有する。Ab1の毒性研究は、以下の実施例8に詳述する。ラットにおいて、特定の心臓および肺への副作用が観察された。したがって、患者をAb1または関連抗体によって処置する場合、患者は有害事象をモニターされる。
【0042】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体の効能は、患者において(例えば、患者の腫瘍組織のような患部組織において)、以下の1つまたはそれ以上によって示される:(1)TGF-βのレベルまたは活性の減少、(2)MIP2および/またはKC/GROレベルの増加、(3)INF-γ-陽性CD8+T細胞のようなCD8+T細胞の活性化または腫瘍組織への浸潤、および(4)ナチュラルキラー(NK)細胞のクラスタリングの増加。
【0043】
A.非腫瘍学的な疾患状態
Ab1および関連抗体によって処置される状態としては、限定はされないが、骨欠損(例えば骨形成不全症)、糸球体腎炎、神経または皮膚の傷、肺または肺線維症(例えば、突発性肺線維症)、放射線誘発線維症、肝線維症、骨髄線維症、強皮症、免疫介在性疾患(関節リウマチ、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、ベルガー病、および移植拒絶)、ならびにデュピュイトラン拘縮が挙げられる。
【0044】
それらはまた、限定はされないが、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、糖尿病性(I型およびII型)腎症、放射線腎症、閉塞性腎症、びまん性全身性硬化症、先天性腎疾患(例えば、多発性嚢胞腎疾患、海綿腎、馬蹄腎)、糸球体腎炎、腎硬化症、腎石灰化症、全身性または糸球体高血圧、尿細管間質性腎症、尿細管性アシドーシス、腎結核、および腎梗塞を含む、腎不全の発生のリスクを処置、予防および減少させるためにも有用である。特に、限定はされないが:レニン阻害剤、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、AngII受容体アンタゴニスト(「AngII受容体遮断薬」としても公知)、およびアルドステロンアンタゴニストを含む、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系のアンタゴニストと組み合わせた場合に有用である。例えば、その開示がその全体を参照によって本明細書に組み入れる、国際公開第2004/098637号を参照。
【0045】
Ab1および関連抗体は、全身性硬化症、術後癒着、ケロイドおよび肥厚性瘢痕、増殖性硝子体網膜症、緑内障手術、角膜損傷、白内障、ペイロニー病、成人呼吸促拍症候群、肝硬変、心筋梗塞後瘢痕、血管形成術後の再狭窄、くも膜下出血後の瘢痕、椎弓切除後の線維症、腱および他の修復後の線維症、胆汁性肝硬変(硬化性胆管炎を含む)、心膜炎、肋膜炎、気管切開術、穿通性CNS損傷、好酸球性筋肉痛症候群、血管再狭窄、静脈閉塞症、膵炎および乾癬性関節症のような、ECMの沈着に関連する疾患および状態の処置に有用である。
【0046】
Ab1および関連抗体は、再上皮化の促進が有益である状態においてさらに有用である。そのような状態としては、限定はされないが、静脈性潰瘍、虚血性潰瘍(褥瘡)、糖尿病性潰瘍、移植部位、移植ドナー部位、擦過傷および熱傷のような皮膚の疾患、喘息、ARDSのような気管支上皮の疾患、細胞傷害性処置に関連する粘膜炎、食道潰瘍(反射性疾患)、胃食道逆流症、胃潰瘍、小腸および大腸病変(炎症性腸疾患)のような腸管上皮の疾患が挙げられる。
【0047】
Ab1および関連抗体のさらなる使用は、内皮細胞増殖が望ましい状態においてであり、例えば、アテローム性動脈硬化症の安定化、血管吻合の治癒の促進、または動脈疾患、再狭窄および喘息のような平滑筋細胞増殖の阻害が望ましい状態においてである。
【0048】
Ab1および関連抗体はまた、リーシュマニア菌種、クルーズトリパノソーマ、結核菌およびらい菌、ならびにトキソプラズマ原虫、ヒストプラズマ・カプスラーツム菌、カンジダ・アルビカンス、カンジダ・パラプロ-シス、およびクリプトコッカス・ネオフォルマンスによって引き起こされるもののような、マクロファージ媒介感染への免疫応答の増強にも有用である。それらは、例えば、腫瘍、AIDSまたは肉芽腫症によって引き起こされる免疫抑制を減らすのにも有用である。
【0049】
Ab1および関連抗体はまた、緑内障および線維性帯切除術後の瘢痕のような眼科的な状態の予防および/または処置にも有用である。
【0050】
B.腫瘍学的な疾患状態
TGF-βは、細胞増殖、上皮間葉転換(EMT)、マトリックスリモデリング、血管新生、および免疫機能を含む、いくつかの生物学的プロセスを調節する。これらのプロセスのそれぞれが腫瘍進行に貢献する。適応症にわたるがん患者におけるTGF-βの広範な有害な役割も、腫瘍微小環境内でのならびに全身的なその上昇によって示唆されている。例えば、Kadam et al., Mol. Biomark. Diagn. (2013) 4(3)参照。研究は、悪性の状態で、TGF-βがEMTを誘導することができ、生じる間葉系の表現型は細胞の遊走および侵入の増加をもたらすことを示した。
【0051】
Ab1および関連抗体は、限定はされないが、皮膚がん(例えば、切除不能なまたは転
移性のメラノーマを含むメラノーマ、有棘細胞癌および角化棘細胞腫)、肺がん(例えば非小細胞肺がん)、食道がん、胃がん、結腸直腸がん、膵臓がん、肝臓がん(例えば、肝細胞癌)、原発性腹膜がん、膀胱がん、腎がんまたは腎臓がん(例えば腎細胞癌)、尿路上皮癌、乳がん、卵巣がん、卵管がん、子宮頸がん、子宮がん、前立腺がん、精巣がん、頭頚部がん(例えば、頭頚部扁平上皮癌)、脳がん、神経膠芽腫、神経膠腫、中皮腫、白血病およびリンパ腫を含むがんのような、過剰増殖疾患の処置に有用である。
【0052】
いくつかの実施形態では、Ab1および関連抗体は、抗PD-1、抗PD-L1、または抗PD-L2治療剤に基づく先の治療が失敗した、または失敗すると予想される患者、すなわち、抗PD-1、抗PD-L1、または抗PD-L2治療に非応答者であるまたは非応答者であると予想される患者におけるがんの処置に有用である。いくつかの実施形態では、Ab1および関連抗体は、先の抗PD-1、抗PD-L1、または抗PD-L2治療から再発した患者におけるがんの処置に有用である。本明細書で使用する場合、用語「予想される」は、医学分野の当業者が、彼/彼女の一般的な医学知識および患者の特定の状態に基づき、治療を施すことなく、患者が応答者であるか非応答者であるか、および治療が失敗するかまたは有効でないかについて、予期できることを意味する。
【0053】
いくつかの実施形態では、がんは、限定はされないが、間葉系結腸直腸がん、間葉系卵巣がん、間葉系肺がん、間葉系頭部がんおよび間葉系頸部がんを含む、固形腫瘍の間葉系サブタイプである。上皮間葉転換(EMT)は、上皮細胞遺伝子を下方調節し、間葉系遺伝子発現を増強することによって細胞の遊走および侵入特性を促進する。EMTは、腫瘍進行および侵入のホールマークである。結腸直腸および卵巣がんの4分の1までが間葉系である。したがって、TGF-βの阻害およびEMTのその誘導により、Ab1または関連抗体は、間葉系固形腫瘍を処置するために使用される。いくつかの遺伝子マーカーおよび病理試験によって固形腫瘍の間葉系サブタイプが同定される。マーカーはACAT2、VIM、MGP、ZEB2、およびZWINTを含み、これはqRT-PCRまたは免疫組織化学によって検出される。そのようなマーカーは、抗TGF-β単独治療または本発明の組み合わせ治療のための患者を選択するために使用される。
【0054】
いくつかの実施形態では、Ab1および関連抗体は、進行した固形腫瘍を有する患者の処置に有用である。
【0055】
Ab1および関連抗体は、造血障害または多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群(MDS)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、および白血病、ならびにカポジ肉腫のような様々な肉腫のような悪性腫瘍の処置でも使用される。
【0056】
Ab1および関連抗体は、シクロスポリン媒介悪性腫瘍またはがん進行(例えば、転移)の阻害にも有用である。
【0057】
がん治療の文脈では、「処置」は、がん増殖の減速、がん進行もしくは再発の遅延、またはがん転移の減少、ならびに患者の平均余命を延長するためのがんの部分緩解をもたらす任意の医療行為を含むことが、当然理解される。
【0058】
C.腫瘍学における組み合わせ治療
がんにおける細胞傷害性T細胞浸潤のレベルは、良好な臨床結果と関連付けられることが観察された(Fridman et al., Nat Rev Cancer (2012) 12(4):298-306; and Galon et al., Immunity (2013) 39(1):11-26)。さらに、細胞傷害性T細胞(CD4+TH1)を補助するヘルパーT細胞およびそれらが産生するサイトカイン(例えば、IFN-γ)は、同様に患者のポジティブな結果と関連付けられることが多い。これに対して、Treg細胞の存在は、患者の予後不良と関連付けられることが示された(Fridman、上記)。
【0059】
TGF-βは、抗腫瘍免疫応答のほぼ全ての態様を抑制する。サイトカインは、iTreg分化を促進し、細胞傷害性(CD8+)細胞増殖および浸潤を減少させる。Ab1または関連抗体によるTGF-βの阻害は、上記のように免疫抑制腫瘍微小環境を緩和し、がん患者にポジティブな結果をもたらす。
【0060】
さらに、本発明者らは、免疫抑制腫瘍微小環境を緩和することによって、Ab1および関連抗体は、抗PD-1抗体のような、チェックポイント修飾薬が免疫応答をより誘導することを可能にすることができることを発見した。結果として、より多くの患者が、抗PD-1、抗PD-L1、または抗PD-L2処置のような免疫治療から恩恵を受ける。
【0061】
免疫チェックポイント分子を標的化する治療剤有りまたは無しで、Ab1および関連抗体はまた、化学治療(例えば、プラチナまたはタキソイドベースの治療)、放射線治療、およびがん抗原または発がん性駆動体を標的化する治療のような他のがん治療と併せても使用される。
【0062】
Ab1または関連抗体、および抗PD-1抗体のような免疫チェックポイント阻害剤を含む組み合わせによって処置されるがんは、上記の小節に列挙されるがんを含む。
【0063】
いくつかの実施形態では、進行性または転移性のメラノーマ、非小細胞肺がん、腎細胞癌、頭頚部扁平上皮癌、およびホジキンリンパ腫のように、がんは、先の抗PD-1、抗PD-L1、または抗PD-L2治療に難治性である。難治性患者は、応答のいかなる証拠もない、処置開始の12週間以内に例えば放射線学的に確認される、疾患が進行する患者である。
【0064】
いくつかの実施形態では、Ab1または関連抗体は、抗PD-1治療のような別のがん治療と併せて使用され、結腸直腸がん、非小細胞肺がん、卵巣がん、膀胱がん、頭頚部扁平上皮癌、腎細胞癌、肝細胞癌、および有棘細胞癌のような間葉系のがんを処置する。上記の考察も参照。
【0065】
抗PD-1抗体の例は、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、ピディリズマブ、MEDI0608(以前はAMP-514;例えば、国際公開第2012/145493号および米国特許第9,205,148号参照)、PDR001(例えば、国際公開第2015/112900号参照)、PF-06801591(例えば、国際公開第2016/092419号参照)およびBGB-A317(例えば、国際公開第2015/035606号参照)である。いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、国際公開第2015/112800号に開示されるものを含む(PCT公開の表1のH1M7789N、H1M7799N、H1M7800N、H2M7780N、H2M7788N、H2M7790N、H2M7791N、H2M7794N、H2M7795N、H2M7796N、H2M7798N、H4H9019P、H4xH9034P2、H4xH9035P2、H4xH9037P2、H4xH9045P2、H4xH9048P2、H4H9057P2、H4H9068P2、H4xH9119P2、H4xH9120P2、H4xH9128P2、H4xH9135P2、H4xH9145P2、H4xH8992P、H4xH8999PおよびH4xH9008Pと呼ばれるもの、およびPCT公開の表3のH4H7798N、H4H7795N2、H4H9008PおよびH4H9048P2と呼ばれるものなど)。国際公開第2015/112800号の開示は、その全体を参照によって本明細書に組み入れる。
【0066】
例えば、PCT公開に開示されるCDR、VHおよびVL配列、または重および軽鎖配列、ならびにPCT公開に開示される抗体と同じPD-1エピトープに結合する抗体およ
び抗原結合断片を有する抗体および抗原結合断片を含む国際公開第2015/112800号に開示の抗体および関連抗体は、本発明のAb1または関連抗体と併せて使用され、がんを処置する。関連する実施形態では、有用な抗PD-1抗体は、それぞれ配列番号5および6として以下に示した重および軽鎖アミノ酸配列;配列番号5および6のVHおよびVL配列(イタリック体で示す);または配列番号5および6の1つまたはそれ以上の(例えば、6個全て)CDR(四角で示す)を含み得る。
【0067】
【0068】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体のような本発明の抗体は、重鎖にC末端リジンを持たない。C末端リジンは、製造中に、または組換え技術により取り除かれる(すなわち、重鎖のコード配列は、C末端リジンのコドンを含まない)。したがって、C末端リジンのない配列番号5の重鎖アミノ酸配列を含む抗体も本発明内で考慮される。
【0069】
いくつかの実施形態では、本発明の抗TGF-β抗体または断片も、PD-L1およびCTLA-4のような免疫調節抗原に対する抗体と併せて使用される。例示的な抗PD-L1抗体は、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、LY3300054およびBMS-936559である。例示的な抗CTLA-4抗体は、イピリムマブまたはトレメリムマブである。
【0070】
D.処置の効能のバイオマーカー
Ab1および関連抗体の効能は、バイオマーカーまたは標的占有率によって決定される。例えば、腫瘍組織において、標的占有率は、Meso Scale Discovery(MSD)アッセイを使用して、生検における活性なTGF-βのレベルを評価することによってアッセイされる。血液中で、ターゲットエンゲージメントは、リンパ球(T細胞、B細胞、NK細胞)および単球のような末梢血単核細胞上の循環TGF-βの減少の効果を評価することによってアッセイされる。例えば、循環CD8+T細胞の増殖の増加は、フローサイトメトリーのマーカーとしてCD45+RO+CCR7+CD28+Ki67+を使用して評価される。循環NK細胞の活性化は、フローサイトメトリーのマーカーとしてCD3-CD56high/dimCD16+またはCD137+を使用して評価される。さらに、Ki-67、PD-1、およびICOSは、T細胞活性化に関連するPDマーカーとして使用される。
【0071】
Ab1または関連抗体による処置時の免疫調節は、例えば、NeoGenomicsプラットフォームを使用するマルチプレックス免疫組織化学染色(IHC)アッセイによる浸潤する免疫細胞および免疫マーカーの変化を評価することによってアッセイされる。特に、免疫マーカーのパネルのNeoGenomic’s MultiOmyx TIL Panel染色により、様々な免疫細胞の密度および局在の定量的な決定が可能になる。
免疫マーカーは、iTregの分化;CD8+T細胞の浸潤および増殖;ならびにCD8+T細胞によるIFNγの生成を示すことができる。Ab1は、CD4+T細胞のiTregへの分化を阻害し(例えば、下記の実施例3参照)、およびCD8+T細胞増殖およびそれらのIFNγの生成を増加させる(混合リンパ球反応アッセイに示すように;データは示さず)ことが示された。したがって、Ab1または関連抗体による処置の効能は、iTregの阻害、CD8+T細胞の増殖および腫瘍もしくは他の疾患組織への浸潤の誘導、IFNγ産生の増加、ならびに/またはCD8+T細胞のTreg細胞に対する比の増加によって示される。Ab1または関連抗体による処置時の免疫調節もまた、CD8+T細胞、Treg細胞、NK細胞、および他の免疫細胞のメチル化PCRベース定量的免疫細胞カウントによって末梢血においてアッセイされる。処置の効能は、腫瘍進行のような疾患進行における遅延または回復として臨床的に証明することができる。
【0072】
II.抗体作製方法
Ab1および関連抗体、ならびにPD-1、PD-L1またはPD-L2のような他の共標的を標的化する抗体が、当技術分野で十分に確立された方法によって作製される。抗体の重および軽鎖をコードするDNA配列は、遺伝子が転写および翻訳制御配列のような必要な発現制御配列に操作可能に連結されるように発現ベクターに挿入される。発現ベクターとしては、プラスミド、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、カリフラワーモザイクウイルス、タバコモザイクウイルスのような植物ウイルス、コスミド、YAC、EBV由来エピソームなどが挙げられる。抗体軽鎖コード配列および抗体重鎖コード配列は、別々のベクターに挿入され、同じまたは異なる発現制御配列(例えば、プロモーター)に操作可能に連結される。一実施形態では、両方のコード配列は同じ発現ベクターに挿入され、同じ発現制御配列(例えば、共通のプロモーター)に、別々の同じ発現制御配列(例えば、プロモーター)に、または異なる発現制御配列(例えば、プロモーター)に操作可能に連結される。抗体コード配列は、標準的な方法(例えば、抗体遺伝子断片およびベクターの相補的な制限部位のライゲーション、または制限部位が存在しない場合平滑末端ライゲーション)によって発現ベクターに挿入される。
【0073】
抗体鎖遺伝子に加えて、組換え発現ベクターは、宿主細胞において抗体鎖遺伝子の発現を制御する調節配列を有していてよい。哺乳動物宿主細胞発現の調節配列の例は、レトロウイルスLTR、サイトメガロウイルス(CMV)(CMVプロモーター/エンハンサーのような)、サルウイルス40(SV40)(SV40プロモーター/エンハンサーのような)、アデノウイルス(例えば、アデノウイルス主要後期プロモーター(AdMLP))、ポリオーマおよび天然免疫グロブリンおよびアクチンプロモーターのような強力な哺乳動物プロモーター由来のプロモーターおよび/またはエンハンサーのような哺乳動物細胞における高レベルのタンパク質発現を指示するウイルスエレメントを含む。
【0074】
抗体鎖遺伝子および調節配列に加えて、本発明の組換え発現ベクターは、宿主細胞においてベクターの複製を調節する配列(例えば、複製起点)および選択可能マーカー遺伝子のようなさらなる配列を有し得る。例えば、選択可能マーカー遺伝子は、ベクターが導入された宿主細胞に、G418、ハイグロマイシンまたはメトトレキサートのような薬物に対する耐性を与える。選択可能マーカー遺伝子は、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子(メトトレキサート選択/増幅によるdhfr宿主細胞における使用のための)、neo遺伝子(G418選択のため)、およびグルタミン酸合成遺伝子を含み得る。
【0075】
本発明の抗体をコードする発現ベクターは、発現のため、宿主細胞に導入される。宿主細胞は、抗体の発現に好適な条件下で培養され、次いで回収および単離される。宿主細胞は、哺乳動物、植物、細菌または酵母宿主細胞を含む。発現の宿主として利用可能な哺乳動物細胞系は当技術分野で周知であり、アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC)から入手可能な多くの不死化細胞系を含む。これらは、特に、チャイニーズハムスター卵巣(
CHO)細胞、NS0細胞、SP2細胞、HEK-293T細胞、293 Freestyle細胞(Invitrogen社)、NIH3T3細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、アフリカミドリザル腎臓細胞(COS)、ヒト肝細胞癌細胞(例えば、HepG2)、A549細胞、および多くの他の細胞系を含む。細胞系は、それらの発現レベルに基づいて選択される。使用される他の細胞系は、Sf9またはSf21細胞のような昆虫細胞系である。
【0076】
さらに、抗体の発現は、多くの公知の技術を使用して増強される。例えば、グルタミン合成酵素遺伝子発現システム(GSシステム)は、特定の条件下で発現を増強する一般的な手法である。
【0077】
宿主細胞の組織培養培地は、ウシ血清アルブミンのような動物由来成分(ADC)を含むまたは含まない。いくつかの実施形態では、無ADC培養培地が、ヒトの安全性のために好ましい。組織培養は、フェドバッチ法、連続的灌流法、または宿主細胞および所望の収率に適した任意の他の方法を使用して実施される。
【0078】
III.医薬組成物
本発明の抗体は、好適な保存安定性のために製剤化される。例えば、抗体は、薬学的に許容される賦形剤を使用する使用のために、凍結乾燥または保存または復元される。組み合わせ治療のため、2つまたはそれ以上の抗体のような治療剤は同時に処方され、例えば混合および単一組成物で提供される。
【0079】
用語「賦形剤」または「担体」は、本発明の化合物以外の任意の成分を記載するために本明細書で使用される。賦形剤の選択は、特定の投与の様式、可溶性および安定性への賦形剤の効果、ならびに投与剤形の性質のような因子に大きく依存する。「薬学的に許容される賦形剤」は、生理学的に適合性の、あらゆる溶媒、分散培地、コーティング、抗菌および抗真菌剤、等張および吸収遅延剤などを含む。薬学的に許容される賦形剤のいくつかの例は、水、生理食塩水、リン酸緩衝液、デキストロース、グリセリン、エタノールなど、ならびにそれらの組み合わせである。いくつかの場合、等張剤、例えば糖、マンニトール、ソルビトール、または塩化ナトリウムのようなポリアルコールは組成物に含まれる。薬学的に許容される物質のさらなる例は、抗体の貯蔵寿命または有効性を増強する、湿潤剤または少量の湿潤剤または乳化剤のような補助剤、保存剤または緩衝材である。
【0080】
本発明の医薬組成物は、単一単位用量として、または複数の単一単位用量として調製され、パッケージされ、またはバルクで販売される。本明細書で使用する場合、「単位用量」は、前もって決めた量の活性成分を含む医薬組成物の個々の量である。活性成分の量は、通常、対象に投与される活性成分の投与量または例えば、そのような投与量の2分の1または3分の1のような、このような投与量の便利な画分と等しい。
【0081】
本発明の医薬組成物は、典型的には非経口投与に好適である。本明細書で使用する場合、医薬組成物の「非経口投与」は、対象の組織の物理漂白および組織の漂白を介する医薬組成物の投与によって特徴づけられる任意の投与の経路を含み、したがって、通常血流への、筋肉への、または内蔵への直接投与をもたらす。したがって、非経口投与は、限定はされないが、組成物の注射による、外科的切開による組成物の適用による、組織浸透非外科的創傷による組成物の適用による等、医薬組成物の投与を含む。特に、非経口投与は、限定はされないが、皮下、腹腔内、筋肉内、胸骨内、静脈内、動脈内、くも膜下腔、脳室内、尿道内、頭蓋内、腫瘍内、および関節滑液嚢内注射または注入;ならびに腎臓透析点滴技術を含むと考えられる。局所灌流も考えられる。好ましい実施形態は、静脈内および皮下経路を含む。
【0082】
非経口投与に適した医薬組成物の製剤は、典型的には、滅菌水または滅菌等張生理食塩水のような薬学的に許容される担体と組み合わせて活性成分を含む。そのような製剤は、ボーラス投与または連続投与に適した形態で、調製され、パッケージされ、または販売される。注射可能製剤は、アンプルまたは保存剤を含む複数用量容器のような、単位投与剤形で調製され、パッケージされ、または販売される。非経口投与の製剤は、限定はされないが、懸濁液、液剤、乳状液、油性または水性ビヒクル、ペースト等を含む。そのような製剤は、限定はされないが、懸濁、安定、または分散剤を含む1つまたはそれ以上の追加の成分をさらに含み得る。非経口投与のための製剤の一実施形態では、活性成分は、復元した組成物の非経口投与の前に好適なビヒクル(例えば、滅菌パイロゲンフリー水)によって復元するための乾燥(すなわち粉末または顆粒)形態で提供される。非経口製剤はまた、塩、炭水化物および緩衝剤(例えば、pH3から9)のような賦形剤を含有し得る水溶液も含むが、いくつかの適用では、それらは、滅菌、パイロゲンフリー水のような好適なビヒクルと併せて使用される滅菌非水溶液としてまたは乾燥形態としてより好適に製剤化される。例示的な非経口投与形態は、滅菌水溶液、例えば、プロピレングリコールまたはデキストロース水溶液中の液剤または懸濁液を含む。そのような剤形は、所望であれば好適に緩衝される。有用な他の経口投与可能な製剤は、微結晶形態、またはリポソーム製剤中の活性成分を含むものを含む。非経口投与の製剤は、即時および/または調節放出されるように製剤化される。調節放出製剤は、遅延-、維持-、パルス-、制御-、標的化-、およびプログラム放出を含む。
【0083】
IV.例示的な実施形態
本発明のさらに特定の実施形態は以下のように記載される:
1.配列番号1における重鎖相補性決定領域(CDR)1~3および配列番号2における軽鎖CDR1~3を含む、ヒトTGF-β1、TGF-β2、およびTGF-β3に特異的に結合する単離されたモノクローナル抗体であって、228位(EUナンバリング)にプロリンを有するヒトIgG4定常領域を含む前記抗体。
2.配列番号1の1~120残基に相当する重鎖可変ドメイン(VH)アミノ酸配列および配列番号2の1~108残基に相当する軽鎖可変ドメイン(VL)アミノ酸配列を含む、実施形態1に記載の抗体。
3.配列番号1に記載の重鎖アミノ酸配列(C末端のリジン有りまたは無し)および配列番号2に記載の軽鎖アミノ酸配列を含む、実施形態2に記載の抗体。
4.F(ab’)2である、実施形態3に記載の抗体の抗原結合断片。
5.フレソリムマブと比較すると、半減期の延長、または暴露の増加を示す、実施形態1~4のいずれか1つに記載の抗体または断片。
6.以下の:
a)CD4+T細胞の誘導性制御性T細胞(iTreg)への分化を阻害する
b)CD8+T細胞増殖を増加させる;
c)ナチュラルキラー(NK)細胞のクラスタリングを増加させる;
d)MIP-2のレベルを増加させる;および
e)KC/GROのレベルを増加させる
特性の1つまたはそれ以上を有する、実施形態1~5のいずれか1つに記載の抗体または断片。
7.1%より少ないハーフ抗体を含む、実施形態1~6のいずれか1つに記載の抗体または断片を含む組成物。
8.薬剤としての実施形態1~6のいずれか1つに記載の抗体または断片。
9.それを必要としている患者においてTGF-βシグナル伝達を阻害する方法であって、治療量の実施形態1~6のいずれか1つに記載の抗体または断片を患者に投与する工程を含む前記方法。
10.患者はがんを有する、実施形態9に記載の方法。
11.がんは、メラノーマ、肺がん、有棘細胞癌、結腸直腸がん、乳がん、卵巣がん、
頭頚部がん、肝細胞癌、尿路上皮がん、および腎細胞癌からなる群から選択される、実施形態10に記載の方法。
12.がんは、ACTA2、VIM、MGPおよびZWINTの1つまたはそれ以上の過剰発現によって特徴づけられる、実施形態10または11に記載の方法。
13.がんは間葉系腫瘍である、実施形態10~12のいずれか1つに記載の方法。
14.抗体または断片は免疫抑制腫瘍微小環境を緩和する、実施形態10~13のいずれか1つに記載の方法。
15.患者のがんを処置する方法であって、
(1)実施形態1~6のいずれか1つに記載の抗体または断片、および
(2)免疫チェックポイントタンパク質の阻害剤
を患者に投与する工程を含む前記方法。
16.免疫チェックポイントタンパク質は、PD-1、PD-L1、またはPD-L2である、実施形態15に記載の方法。
17.免疫チェックポイントタンパク質の阻害剤は、抗PD-1抗体である、実施形態16に記載の方法。
18.抗PD-1抗体は、配列番号5における重鎖CDR1~3および配列番号6における軽鎖CDR1~3を含む、実施形態17に記載の方法。
19.抗PD-1抗体は、配列番号5の1~117残基に相当するVHアミノ酸配列および配列番号6の1~107残基に相当するVLアミノ酸配列を含む、実施形態17に記載の方法。
20.抗PD-1抗体は、配列番号5に記載の重鎖アミノ酸配列(C末端リジン有りまたは無し)および配列番号6に記載の軽鎖アミノ酸配列を含む、実施形態17に記載の方法。
21.抗TGF-β抗体は、配列番号1に記載の重鎖アミノ酸配列(C末端リジン有りまたは無し)および配列番号2に記載の軽鎖アミノ酸配列を含む、実施形態15~20のいずれか1つに記載の方法。
22.がんは抗PD-1抗体処置に難治性である、実施形態15~21のいずれか1つに記載の方法。
23.がんは、進行性もしくは転移性のメラノーマ、または有棘細胞癌である、実施形態15~22のいずれか1つに記載の方法。
24.がんは、固形腫瘍の間葉系サブタイプである、実施形態15~23のいずれか1つに記載の方法。
25.がんは、ACTA2、VIM、MGP、およびZWINTの1つまたはそれ以上の過剰発現によって特徴づけられる、実施形態15~24のいずれか1つに記載の方法。
26.がんは、メラノーマ、肺がん、有棘細胞癌、結腸直腸がん、乳がん、卵巣がん、頭頚部がん、肝細胞癌、尿路上皮がん、および腎細胞癌からなる群から選択される、実施形態15~25のいずれか1つに記載の方法。
27.抗体または断片は免疫抑制腫瘍微小環境を緩和する、実施形態15~26のいずれか1つに記載の方法。
28.抗TGF-β抗体および抗PD-1抗体は患者に同じ日に投与される、実施形態15~27のいずれか1つに記載の方法。
29.抗TGF-β抗体および抗PD-1抗体は患者に隔週で投与される、実施形態15~28のいずれか1つに記載の方法。
30.抗TGF-β抗体および抗PD-1抗体はそれぞれ0.05~20mg/kg体重の用量で投与される、実施形態15~29のいずれか1つに記載の方法。
31.それを必要としている患者において免疫応答を増加させる方法であって、実施形態1~6のいずれか1つに記載の免疫チェックポイント阻害剤および抗体または断片を患者に投与する工程を含む前記方法。
32.チェックポイント阻害剤は抗PD-1抗体である、実施形態31に記載の方法。
33.抗PD-1抗体は:
a)配列番号5のHCDR1~3および配列番号6のLCDR1~3;
b)それぞれ、配列番号5の1~117残基および配列番号6の1~107残基に相当するVHおよびVL;または
c)配列番号5に記載のアミノ酸配列を有する重鎖(C末端リジン有りまたは無し)および配列番号6に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖
を含む、実施形態32に記載の方法。
34.抗TGF-β抗体は配列番号1に記載の重鎖アミノ酸配列(C末端リジン有りまたは無し)および配列番号2に記載の軽鎖アミノ酸配列を含む、実施形態31~33のいずれか1つに記載の方法。
35.患者はがんを有する、実施形態31~34のいずれか1つに記載の方法。
36.患者は、免疫チェックポイント阻害剤による前の処置に難治性である、および/または固体腫瘍の間葉系サブタイプを有する、実施形態35に記載の方法。
37.がんは、メラノーマ、肺がん、有棘細胞癌、結腸直腸がん、乳がん、卵巣がん、頭頚部がん、肝細胞癌、尿路上皮がん、および腎細胞癌からなる群から選択される、実施形態35または36に記載の方法。
38.がんは、ACTA2、VIM、MGPおよびZWINTの1つまたはそれ以上の過剰発現によって特徴づけられる、実施形態35~37のいずれか1つに記載の方法。
39.抗体または断片は免疫抑制腫瘍微小環境を緩和する、実施形態35~38のいずれか1つに記載の方法。
40.上記の方法のいずれかで患者を処置する上での使用のための実施形態1~6のいずれか1つに記載の抗体または断片。
41.上記の方法のいずれかで患者を処置する薬剤の製造のための、実施形態1~6のいずれか1つに記載の抗体または断片の使用。
42.実施形態1~6のいずれか1つの抗体または断片の重鎖、軽鎖、または両方をコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子。
43.実施形態42の単離された核酸分子を含む発現ベクター。
44.実施形態43の発現ベクターを含む宿主細胞。
45.抗体または抗原結合断片の重鎖および軽鎖をそれぞれコードする第1および第2のヌクレオチド配列を含む宿主細胞を提供する工程と、
抗体または抗原結合断片の産生を可能にする条件下で宿主細胞を増殖する工程と、
抗体または抗原結合断片を回収する工程と
を含む、実施形態1~6のいずれか1つに記載の抗体または抗原結合断片を産生する方法。
46.
医薬組成物を産生する方法であって、
実施形態1~6のいずれか1つに記載の抗体または抗原結合断片を提供する工程と、
抗体または抗原結合断片を薬学的に許容される賦形剤と混合する工程と
を含む前記方法。
47.実施形態1~6のいずれか1つに記載の抗体または抗原結合断片および別の治療剤を含む製品またはキット。
48.他の治療剤は本明細書に記載の免疫チェックポイント阻害剤である、実施形態47に記載の製品またはキット。
【0084】
本発明を、以下の実施例でさらに記載するが、特許請求の範囲に記載した本発明の範囲を制限しない。
【0085】
〔実施例〕
この発明がよりよく理解されるように、以下の実施例を記載する。これらの実施例は例示のためだけであり、いかなる方法でも本発明の範囲を制限すると解釈されるべきではない。
【実施例0086】
Ab1のTGF-β結合特性
全てのヒトおよびマウスTGF-βアイソフォームへのAb1の親和性は、カルボキシメチル化(CM5)デキストランでコーティングしたSシリーズチップを使用するBiacore T200 Biosensor装置(GE Healthcare)での表面プラズモン共鳴によって決定した。一連の濃度のAb1(1.11、3.33、10、および30nM)を、固定化した組換えTGF-βに注射し、リアルタイムで結合相互作用を測定した。TGF-βホモダイマーを低密度で固定化し、結合活性効果を減らした。注射は3回実施し、結合アッセイを3回反復した。運動実験からのデータは、Biacore T200 Biaevaluation v2.0ソフトウェアを使用して処理した。得られたセンサーグラムは、1:1結合モデルを使用するカーブフィッティング分析のため、ゼロ化、アライン、ダブルリファレンス、およびクロップし、会合速度定数(ka)、解離速度定数(kd)、および平衡解離定数(KD)を決定した。
【0087】
組換えタンパク質は、内部で製造されるか(ヒトTGF-β1、2および3)またはR&D System社から得られた(マウスTGF-β1および2)。以下の表1は、アカゲザル、マウス、またはラットおよびヒトの間の3つの活性なTGF-βアイソフォームのアミノ酸配列相同性を示した(相同性は、全アミノ酸のうち保存されたアミノ酸のパーセンテージとして報告される)。
【0088】
【0089】
ヒトTGF-β3およびマウスTGF-β3はアミノ酸配列が同一であるため、これら2つのタンパク質に関して異なる親和性の測定は算出されなかった。同様に、マウスおよびラットTGF-β1および2はアミノ酸配列が同一であり、異なる親和性測定も算出されなかった。
【0090】
上記の方法によって決定された、Ab1のka、kd、およびKD値を以下の表2に示した。ヒトTGF-β1、2、および3へのAb1のKD値は、それぞれ1.48、3.00、および1.65nMと決定された。マウス/ラットTGF-β1および2へのAb1のKD値は、それぞれ2.80および1.88nMであると決定された。これらの結合特性は、フレソリムマブのものと類似していた。
【0091】
【0092】
上記のデータは、Ab1が強力なおよび選択的な汎TGF-β阻害剤であることを実証した。表面プラズモン共鳴を使用する測定は、Ab1が全てのヒトおよびマウスTGF-βアイソフォームに関して1から5nMの間の親和性を有することを実証した。高レベルの特異性が、正常ラット、カニクイザルおよびヒト組織を使用してGLP免疫組織化学(IHC)組織交差反応性試験によって確認された。