(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000382
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】移動体給電システムおよび移動体装置
(51)【国際特許分類】
H02J 50/10 20160101AFI20231225BHJP
H02J 50/70 20160101ALI20231225BHJP
H02J 50/12 20160101ALI20231225BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20231225BHJP
B60M 7/00 20060101ALI20231225BHJP
B60L 5/00 20060101ALI20231225BHJP
B60L 53/67 20190101ALI20231225BHJP
B60L 53/12 20190101ALI20231225BHJP
【FI】
H02J50/10
H02J50/70
H02J50/12
H02J7/00 P
H02J7/00 301D
B60M7/00 X
B60L5/00 B
B60L53/67
B60L53/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099134
(22)【出願日】2022-06-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 公益社団法人応用物理学会東北支部,2021年(令和3年)応用物理学会東北支部第76回学術講演会予稿集,第92頁~第93頁,令和3年11月25日 2021年(令和3年)応用物理学会東北支部第76回学術講演会,令和3年12月3日
(71)【出願人】
【識別番号】000107804
【氏名又は名称】スミダコーポレーション株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114971
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修
(72)【発明者】
【氏名】金子 卓樹
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】デトモド ティタポーン
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 健治
(72)【発明者】
【氏名】大坊 真洋
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 旭飛
【テーマコード(参考)】
5G503
5H105
5H125
【Fターム(参考)】
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB01
5G503FA06
5G503GB08
5H105BA01
5H105BA09
5H105BB01
5H105BB05
5H105CC02
5H105CC19
5H105DD10
5H105EE13
5H105EE15
5H125AA01
5H125AA05
5H125AC04
5H125AC12
5H125AC25
5H125BE01
5H125DD02
5H125FF15
(57)【要約】
【課題】 比較的低コストで移動体装置への給電を実現する。
【解決手段】 1次導体1に交流電流が導通し、移動体装置(車両101など)は、ベクトルポテンシャルコイル2を備えており、そのベクトルポテンシャルコイル2は、1次導体1を導通する交流電流によって発生するベクトルポテンシャルを非接触で感受しそのベクトルポテンシャルによって誘起する電流を導通させる。さらに、1次導体1は、移動体装置の移動経路(道路102など)に沿って連続的に配置されている導線の一部または全部であり、ベクトルポテンシャルコイル2は、移動体装置(車両101など)が移動経路(道路102など)にあるときに連続的にベクトルポテンシャルを非接触で感受し電流を導通させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電流が導通する1次導体と、
前記1次導体を導通する交流電流によって発生するベクトルポテンシャルを非接触で感受し前記ベクトルポテンシャルによる電圧差から生じられた電流を導通させるベクトルポテンシャルコイルを備えた移動体装置とを備え、
前記1次導体は、前記移動体装置の移動経路に沿って連続的に配置されている導線の一部または全部であり、
前記ベクトルポテンシャルコイルは、前記移動体装置が前記移動経路にあるときに連続的に前記ベクトルポテンシャルを非接触で感受し前記電流を導通させること、
を特徴とする移動体給電システム。
【請求項2】
前記移動体装置は、車両であり、
前記移動経路は、道路であり、
前記1次導体は、前記道路の形状に応じた直線的または曲線的な形状を有すること、
を特徴とする請求項1記載の移動体給電システム。
【請求項3】
前記道路は、複数の車線を備え、
前記1次導体は、前記複数の車線のそれぞれに、互いに並行して配置されており、
前記交流電流は、それぞれ、前記複数の車線における前記1次導体を順方向または逆方向に導通し、
各時点において、前記順方向に導通する前記交流電流の総和と、前記逆方向に導通する前記交流電流の総和との差は、略ゼロとなること、
を特徴とする請求項2記載の移動体給電システム。
【請求項4】
前記移動経路は、駐車場における、前記車両のための1または複数の駐車スペースを含むことを特徴とする請求項2記載の移動体給電システム。
【請求項5】
前記1次導体は、前記交流電流がミアンダ状に導通するような形状を有することを特徴とする請求項2記載の移動体給電システム。
【請求項6】
前記移動体装置は、機関車または電車であり、
前記移動経路は、軌道であり、
前記1次導体は、前記軌道の形状に応じた直線的または曲線的な形状を有すること、
を特徴とする請求項1記載の移動体給電システム。
【請求項7】
移動体装置において、
当該移動体装置の移動経路に沿って連続的に配置されている導線の一部または全部である1次導体を導通する交流電流によって発生するベクトルポテンシャルを非接触で感受し前記ベクトルポテンシャルによる電圧差から生じられた電流を導通させるベクトルポテンシャルコイルを備え、
前記ベクトルポテンシャルコイルは、当該移動体装置が前記移動経路にあるときに連続的に前記ベクトルポテンシャルを非接触で感受し前記電流を導通させること、
を特徴とする移動体装置。
【請求項8】
前記移動体装置は、車両であり、
前記1次導体は、前記道路に埋設されており、
前記ベクトルポテンシャルコイルは、前記車両の車台またはボディー底部に配置されていること、
を特徴とする請求項7記載の移動体装置。
【請求項9】
前記移動体装置は、車両であり、
前記1次導体は、前記道路に埋設されており、
前記車両は、2次電池ユニットを備え、
前記2次電池ユニットは、前記車両の車台またはボディー底部に配置され、
前記ベクトルポテンシャルコイルは、前記2次電池ユニットの少なくとも上面に配置されていること、
を特徴とする請求項7記載の移動体装置。
【請求項10】
前記移動体装置は、車両であり、
前記1次導体は、前記道路に埋設されており、
前記車両は、2次電池ユニットを備え、
前記2次電池ユニットは、前記車両の車台またはボディー底部に配置され、
前記ベクトルポテンシャルコイルは、前記2次電池ユニットのケースの肉厚内に配置されていること、
を特徴とする請求項7記載の移動体装置。
【請求項11】
前記移動体装置は、磁気遮蔽性を有する部材で構成され、
前記ベクトルポテンシャルコイルは、前記移動体装置内に配置されていること、
を特徴とする請求項7記載の移動体装置。
【請求項12】
前記ベクトルポテンシャルコイルは、湾曲したコイル軸に沿って延びているソレノイドコイルであって、前記1次導体が前記湾曲の内側方向に位置するように配置されていることを特徴とする請求項7記載の移動体装置。
【請求項13】
前記ベクトルポテンシャルコイルの内部に配置され、前記ベクトルポテンシャルコイルのコイル軸に沿った形状の強磁性体部材をさらに備えることを特徴とする請求項12記載の移動体装置。
【請求項14】
前記強磁性体部材は、前記湾曲の外側に延びて閉磁路を形成することを特徴とする請求項13記載の移動体装置。
【請求項15】
前記ベクトルポテンシャルコイルは、互いに同一のコイル軸を有する、コイル径の互いに異なる内側ソレノイドコイルおよび外側ソレノイドコイルを備え、
前記内側ソレノイドコイルの一方のコイル端と前記外側ソレノイドコイルの一方のコイル端とが電気的に接続されていること、
を特徴とする請求項7記載の移動体装置。
【請求項16】
前記内側ソレノイドコイルの内部に配置され、前記コイル軸に沿った形状の強磁性体部材をさらに備えることを特徴とする請求項15記載の移動体装置。
【請求項17】
前記ベクトルポテンシャルコイルは、直線状のコイル軸に沿って巻回されており、また、前記コイル軸の方向に沿って、巻回方向の傾斜角が徐々に変化するように巻回されていることを特徴とする請求項7記載の移動体装置。
【請求項18】
前記ベクトルポテンシャルコイルとともに共振回路を構成するキャパシタをさらに備えることを特徴とする請求項7記載の移動体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体給電システムおよび移動体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
あるシステムでは、道路に所定間隔で複数の1次コイルが埋め込まれ、車両に2次コイルが設置され、車両(2次コイル)が1次コイル上を通過する際に、1次コイルと2次コイルの電磁結合によって、1次コイルから車両(2次コイル)へ電力が供給される(例えば特許文献1参照)。
【0003】
他方、ソレノイドコイルを円環状に巻回したベクトルポテンシャルコイルを使用した交流のベクトルポテンシャルの検出装置が開発されている(例えば特許文献2参照)。また、ベクトルポテンシャルが電磁シールドを透過する特性を利用したシールド透過装置が開発されている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2015-510746号公報
【特許文献2】特許第6950925号明細書
【特許文献3】国際公開WO2015/099147
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のシステムの場合、1次コイルの直上に2次コイルが位置する際には、両者の電磁結合の結合係数は比較的高くなるものの、2次コイルが1次コイルの直上からずれると、結合係数が急速に低下する。そのため、1次コイル上を通過する車両の2次コイルに十分な電力を供給するためには、非常に短い時間に大きな電流を1次コイルに導通させる必要があり、複数の1次コイルに電流を導通させる駆動回路のコストがかかり、ひいては、システムのコストが高くなってしまう。
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、比較的低コストで移動体装置への給電を実現する移動体給電システム、およびその移動体給電システムに使用可能な移動体装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る移動体給電システムは、交流電流が導通する1次導体と、1次導体を導通する交流電流によって発生するベクトルポテンシャルを非接触で感受しそのベクトルポテンシャルによる電圧差から生じられた電流を導通させるベクトルポテンシャルコイルを備えた移動体装置とを備える。1次導体は、前記移動体装置の移動経路に沿って連続的に配置されている導線の一部または全部であり、ベクトルポテンシャルコイルは、移動体装置が移動経路にあるときに連続的にベクトルポテンシャルを非接触で感受し電流を導通させる。
【0008】
本発明に係る移動体装置は、当該移動体装置の移動経路に沿って連続的に配置されている導線の一部または全部である1次導体を導通する交流電流によって発生するベクトルポテンシャルを非接触で感受しベクトルポテンシャルによる電圧差から生じられた電流を導通させるベクトルポテンシャルコイルを備える。ベクトルポテンシャルコイルは、当該移動体装置が移動経路にあるときに連続的にベクトルポテンシャルを非接触で感受し電流を導通させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、比較的低コストで移動体装置への給電を実現する移動体給電システム、およびその移動体給電システムに使用可能な移動体装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態1に係る移動体給電システムの一例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す移動体給電システムにおける1次導体およびベクトルポテンシャルコイルについて説明する斜視図である。
【
図3】
図3は、検証実験における送電側に対する受電側の位置ずれに対する受電効率の変化について説明する図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す移動体給電システムの電気的構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、
図1に示す移動体給電システムにおいて、複数車線の道路に沿った複数の1次導体の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、
図1に示す移動体給電システムにおいて、市街地の道路におけるミアンダ状の1次導体の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、
図1に示す移動体給電システムにおいて、駐車場における1次導体の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施の形態2に係る移動体装置におけるベクトルポテンシャルコイル2の配置の一例を示す断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施の形態2に係る移動体装置におけるベクトルポテンシャルコイル2の配置の別の例を示す断面図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施の形態3に係る移動体給電システムの一例を示す側面図である。
【
図11】
図11は、実施の形態3におけるベクトルポテンシャルコイルの設置位置の一例について示す正面図である。
【
図12】
図12は、実施の形態4に係る移動体装置におけるベクトルポテンシャルコイル2および強磁性体部材2Aの一例を示す正面図である。
【
図13】
図13は、実施の形態5に係る移動体装置におけるベクトルポテンシャルコイル2および強磁性体部材2Bの一例を示す正面図である。
【
図14】
図14は、実施の形態6に係る移動体装置におけるベクトルポテンシャルコイル2の一例を示す正面図である。
【
図15】
図15は、実施の形態7に係る移動体装置におけるベクトルポテンシャルコイル2および強磁性体部材2Cの一例を示す正面図である。
【
図16】
図16は、実施の形態8に係る移動体装置におけるベクトルポテンシャルコイル2および強磁性体部材2Dの一例を示す正面図である。
【
図17】
図17は、実施の形態9に係る移動体装置におけるベクトルポテンシャルコイル2の一例を示す正面図である。
【
図18】
図18は、実施の形態10に係る移動体装置におけるベクトルポテンシャルコイル2の一例を示す上面図である。
【
図19】
図19は、実施の形態11に係る移動体装置における共振回路について説明する回路図である。
【
図20】
図20は、実施の形態11における電源装置6の出力電圧のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
実施の形態1.
【0013】
図1は、本発明の実施の形態1に係る移動体給電システムの一例を示す斜視図である。
【0014】
図1に示す移動体給電システムは、1次導体1と、ベクトルポテンシャルコイル2を備えた車両101とを備え、ベクトルポテンシャルを利用して1次導体1からベクトルポテンシャルコイル2へ電力を供給する。
【0015】
1次導体1には交流電流が導通する。車両101は、移動経路としての道路102上を移動する移動体装置の一種であり、ここでは、電動自動車である。また、ベクトルポテンシャルコイル(以下、VPコイルともいう)2は、1次導体1を導通する交流電流によって発生するベクトルポテンシャルを非接触で感受しベクトルポテンシャルによって誘起する電流(交流電流)を導通させる。なお、車両101が走行しておらず停車中であっても、1次導体1に交流電流が導通していれば、VPコイル2において上述の交流電流が誘起される。
【0016】
1次導体1は、移動体装置の移動経路(ここでは車両101の通行可能な道路102など)に沿って連続的に配置されている(非巻回の)導線の一部または全部である。実施の形態1では、1次導体1は、道路102の形状に応じた直線的または曲線的な形状を有する。1次導体1は、例えば
図1に示すように、道路102(車線)の中央の所定深さDの位置に埋設されている。なお、例えば、1次導体1には、被覆された導線が使用され、地面とは絶縁されている。
【0017】
VPコイル2は、車両101(移動体装置)が移動経路(ここでは、1次導体1が設置されている道路102)にあるときに連続的にベクトルポテンシャルを非接触で感受し電流を導通させる。
【0018】
図2は、
図1に示す移動体給電システムにおける1次導体1およびベクトルポテンシャルコイル2について説明する斜視図である。
【0019】
この実施の形態では、例えば
図2に示すように、VPコイル2は、湾曲したコイル軸に沿って延びているソレノイドコイルであって、1次導体1が、コイル軸の湾曲の内側方向に位置するように配置されている。また、1次導体1に対する垂直面1P内でコイル軸(VPコイル2の巻回中心線)が延びるようにVPコイル2が配置されている。ここでは、コイル軸の形状は、開曲線状とされ、VPコイル2の一端から他端までコイル軸の各位置についての、1次導体1から見た角度が単調に増加または減少するような形状を有する。したがって、湾曲内側方向において、VPコイル2は開口部13を形成する。
【0020】
なお、コイル軸の形状は、1次導体1(つまり、1次導体1を導通する交流電流)を中心とした円弧状であることが好ましく、また、コイル軸の曲率中心に1次導体1が配置されるようにVPコイル2が配置されることが好ましい。このため、コイル軸の曲率(曲率半径)は、1次導体1の埋設深さDおよび道路102の路面からのVPコイル2の設置高さに応じて設定されるようにしてもよい。さらに、VPコイル2は、交流電流(つまり、1次導体1)から近い位置に配置されるのが好ましく、例えば、1次導体1から1m以下、あるいは0.5m以下の位置にVPコイル2が配置されるようにVPコイル2は車両101に設置される。
【0021】
また、この実施の形態では、コイル軸の円弧の中心角θ(円弧を外周とした扇形の中心角)が180度以下とされる。この中心角θに比例して、感受されるベクトルポテンシャルが大きくなるため、この中心角θが大きいほうが好ましい。この中心角θは、0度より大きく360度未満のいずれかの角度とされ、さらに、(a)0度より大きく180度以下のいずれかの角度とされてもよく、(b)0度より大きく90度以下のいずれかの角度とされてもよく、(c)0度より大きく45度以下のいずれかの角度とされてもよく、あるいは、(d)0.5度以上であり360度未満のいずれかの角度とされてもよく、さらに、(e)0.5度以上であり180度以下のいずれかの角度とされてもよく、(f)0.5度以上であり90度以下のいずれかの角度とされてもよく、(e)0.5度以上であり45度以下のいずれかの角度とされてもよく、(f)0.5度以上であり25度以下のいずれかの角度とされてもよく、あるいは、(g)2度以上であり360度未満のいずれかの角度とされてもよく、さらに、(h)2度以上であり180度以下のいずれかの角度とされてもよく、(i)2度以上であり90度以下のいずれかの角度とされてもよく、(j)2度以上であり45度以下のいずれかの角度とされてもよく、(k)2度以上であり25度以下のいずれかの角度とされてもよく、あるいは、(l)5度以上であり360度未満のいずれかの角度とされてもよく、さらに、(m)5度以上であり180度以下のいずれかの角度とされてもよく、(n)5度以上であり90度以下のいずれかの角度とされてもよく、(o)5度以上であり45度以下のいずれかの角度とされてもよく、(p)5度以上であり25度以下のいずれかの角度とされてもよい。
【0022】
なお、コイル軸の形状については円の一部である円弧が理想的な曲線であるが、製造や配置の都合上で、必ずしも円弧である必要はなく、なめらかな曲線の形状であればよく、その凹側(内側)方向に1次導体1が配置されれば、比較的大きなベクトルポテンシャルを感受できる。
【0023】
ここで、VPコイル2に誘起する交流電流について説明する。例えば
図2に示すように、交流電流I(t)の方向(つまり、1次導体1の方向)に平行にベクトルポテンシャルVP(t)が(同じ向きで)発生し、その交流電流I(t)(つまり、1次導体1)からの距離に反比例して、ベクトルポテンシャルVP(t)の強度は小さくなる。ベクトルポテンシャルVP(t)の時間微分が、電界に比例し、その電界を巻線の経路で線積分した結果が誘導電圧になる。そのため、VPコイル2において、1次導体1に近い部分には高い電圧が、1次導体1から遠い部分には低い電圧が発生し、それらは同相であるので、両者の電圧差が誘導電圧となり、VPコイル2の巻数を増やせば、それに比例した電圧が発生する。したがって、1次導体1の交流電流I(t)によるベクトルポテンシャルVP(t)が時間変化することでVPコイル2に交流電流が誘起する。
【0024】
また、上述の特許文献3で示されているようにベクトルポテンシャルの誘導電圧は電磁シールドによって減衰しないため、車両101のボディーや車台が磁気遮蔽性を有していても、1次導体1の交流電流によるベクトルポテンシャルが時間変化することでVPコイル2に交流電流が誘起する。
【0025】
ここで、数式を用いてベクトルポテンシャルに関する理論的な説明を行う。
【0026】
【0027】
この式は、磁束Φの関係式であり、Bは磁束密度であり、∇×AはベクトルポテンシャルAの回転である。最後の項は、ストークスの定理によるものであり、磁束をベクトルポテンシャルで表すことができる。
【0028】
【0029】
この式は、磁束を用いたファラデーの電磁誘導を、ベクトルポテンシャルで表現したものである。ファラデーの電磁誘導は、コイルの内側にある磁束が時間変化すると、それに比例した電圧が発生するというものである。マイナスの符号は、磁束の変化を妨げる方向に電圧が発生するというレンツの法則を意味している。ここで、磁束をベクトルポテンシャルで表すと上述の磁束Φの関係式を用いて周回積分となり、周回積分は閉じた線積分である。しかし、ベクトルポテンシャルで表した場合は、積分経路は必ずしも閉じている必要はなく、線積分の積分経路の長さに応じた電圧が発生する(つまり、周回積分ではなく、角度が0からθまでの周回しない(一周しない)線積分で、その部分の電圧が与えられる)。すなわち、積分経路に開口部13があっても電圧が発生する。そのため、コイルの内部に磁束がなくても、ベクトルポテンシャルが誘起されれば、電圧の誘導が可能となる。なお、θはコイル軸による円弧の中心角であり、例えばθがπの時は、出力電圧V2が一周の時の半分になる。
【0030】
次式は、ベクトルポテンシャル収束コイルの形状パラメーターと磁性材料の特性により、1次導体1を導通する電流からVPコイル2の両端に発生する開放電圧を求める理論式である。ここで、VPコイル2は円弧状であり、1次導体1がその円弧を含む円の中心にあるものとする。
【0031】
【0032】
ここで、V2はVPコイル2の出力電圧であり、NはVPコイル2の巻層数であり、rはVPコイル2の巻線コイル半径であり、dはVPコイル2のコイル線の直径であり、RはVPコイル2の曲げ半径であり、I0は1次導体1の電流振幅であり、ωは上述の交流電流の角周波数であり、μ0は真空透磁率であり、μreは後述の強磁性体部材の実効比透磁率であり、θはVPコイル2の円弧角度(中心角)であり(0<θ<360[deg])、kは巻線隙間率であり、tは時間である。
【0033】
例えば、この式において、N=2、r=0.1m、d=0.002m、R=0.5m、I0=100A、ω=2π×1000rad/s、μre=100、θ=π/4rad、およびk=0.01の場合、VPコイル2の出力電圧V2(振幅)は、約310Vとなる。
【0034】
また、この式において、N=10、r=0.1m、d=0.002m、R=1m、I0=100A、ω=2π×50rad/s、μre=100、θ=π/4rad、およびk=0.01の場合、VPコイル2の出力電圧V2(振幅)は、約77Vとなる。
【0035】
ここで、当該VPコイル2によるベクトルポテンシャルの、電磁シールドの透過についての検証実験の結果について説明する。
【0036】
発明者らは、VPコイル2と従来の渦巻き状のコイルとを用いて検証実験を行った。具体的には、VPコイル2については、直線状の導体部分(1次導体1)に5Aおよび20kHzの交流電流を導通させ、他の導体部分は2mm厚の鋼管で電磁シールドを施した状態で、直線状の導体部分の垂直面に平行になるようにVPコイル2(中心角:約180度)を配置し、VPコイル2と直線状の導体部分との間に5mm厚の鉄板がある場合およびない場合について、VPコイル2の出力電力を測定した。また、渦巻き状のコイルについては、送電側の渦巻き状コイルと受電側の渦巻き状コイルを互いに対向するように配置し、送電側の渦巻き状コイルに5Aおよび20kHzの交流電流を導通させ、受電側の渦巻き状コイルの出力電力を測定した。
【0037】
VPコイル2についての測定では、VPコイル2に接続する負荷抵抗を10.2Ωから50.8Ωまで変化させた際に、42.1~44.1%の電力透過率(シールドなしの場合の出力電力とシールドありの場合の出力電力との比率)が確認された。このように、磁束が遮蔽されている状態でも、ベクトルポテンシャルで電力が伝達されることが確認された。
【0038】
なお、この実施の形態では、車両101は、磁気遮蔽性を有する部材(スチール、ステンレスなど)で構成されており、VPコイル2は、車両101内に配置されている。
【0039】
他方、渦巻き状のコイルについての測定では、送電側コイルと受電側コイルとの間に同様の鉄板を挿入した場合および挿入しなった場合において、受電側コイルに接続する負荷抵抗を0.15Ωから1.00Ωまで変化させて受電側コイルの出力電力を測定した。その結果、鉄板によるシールドありの場合の受電側コイルの出力電力は、使用した測定器の測定限界以下であり、電力透過率は略0%であった。
【0040】
図3は、検証実験における送電側に対する受電側の位置ずれに対する受電効率の変化について説明する図である。
図3に示すように、位置ずれに対する受電効率の変化の測定に関し、VPコイル2についての測定では、1次導体1に垂直な平面をX-Y平面とし、1次導体1をZ軸に沿ってX-Y平面の原点(0,0)に配置し、VPコイル2の両端がX軸方向に配列しVPコイル2のコイル軸を含む平面がX-Y平面と平行になるようにVPコイル2を配置し、1次導体1を固定したままで、X軸方向およびY軸方向において、VPコイル2の位置(Xi,Yj)を2次元的に移動させた場合(i=1,・・・,m、j=2,・・・,n)のVPコイル2の出力電力を測定し、基準点(0,Y1)での電力に対する各位置(Xi,Yj)での電力の比率(受電効率)を導出した。
【0041】
同様に、渦巻き状コイルについての測定では、送電側コイルの巻回面に垂直な平面をX-Y平面とし、送電側コイルの中心がX-Y平面の原点(0,0)に配置されるように送電側コイルを配置し、送電側コイルを固定したままで、X軸方向およびY軸方向において、受電側コイルの位置(Xi,Yj)を2次元的に移動させた場合(i=1,・・・,m、j=2,・・・,n)の受電側コイルの出力電力を測定し、基準点(0,Y1)での電力に対する各位置(Xi,Yj)での電力の比率(受電効率)を導出した。
【0042】
これにより、2次元的な受電効率の分布が得られた。なお、受電効率については、基準点(0,Y1)を100%としており、基準点(0,Y1)から離れるほど低下する。
図3は、VPコイル2についての位置ずれに対する受電効率の分布および渦巻き状コイルについての位置ずれに対する受電効率の分布を等高線で表現している。
図3に示すように、VPコイル2については、位置ずれが生じても受電効率の低下が比較的小さい。つまり、VPコイル2の場合、例えばVPコイル2が設置される移動体の位置が、1次導体1からずれていても、受電効率が比較的低下せずに済む。
【0043】
図4は、
図1に示す移動体給電システムの電気的構成の一例を示すブロック図である。
【0044】
図4に示すように、車両101は、上述のVPコイル2の他、車輪を駆動するモータ3、モータ3のコントローラなどといった電装系を含む内部装置4、2次電池ユニット5、および電源装置6を備える。また、インフラストラクチャとして、1次導体1が敷設されるとともに、1次導体1に上述の交流電流を導通させる配電装置1Aが設置される。配電装置1Aは、所定の周波数かつ所定の振幅で交流電流を導通させる。例えば、1次導体1および配電装置1Aは、道路リンクごとに設けられてもよいし、所定距離ごとに設けられてもよい。
【0045】
2次電池ユニット5は、モータ3の駆動電力を蓄積する1または複数の2次電池モジュールを備えている。
【0046】
電源装置6は、VPコイル2に誘起される電流に基づいて、モータ3、内部装置4、2次電池ユニット5などに電力供給する。電源装置6は、AC/DCコンバータ回路、および2次電池ユニット5の充電回路を内蔵し、VPコイル2に誘起された交流電力をAC/DCコンバータ回路で直流電力に変換し、充電回路で、その直流電力に基づき2次電池ユニット5の充電を行い、その直流電力および/または2次電池ユニット5に蓄積された電力をモータ3、内部装置4などに供給するようにしてもよい。
【0047】
なお、VPコイル2は、1つのソレノイドコイルでもよいし、VPコイル2は、複数のソレノイドコイルでもよい。複数のVPコイル2を使用する場合には、必要に応じて、複数のVPコイル2は電気的に直列または並列に結線される。複数のVPコイル2は、水平方向に配列されていてもよいし、垂直方向に配列されていてもよい。また、電源装置6が複数のVPコイル2に対して複数のAC/DCコンバータ回路をそれぞれ備え、複数のAC/DCコンバータ回路の出力を直列または並列に接続し、直列または並列された出力で、モータ3、内部装置4、2次電池ユニット5に電力供給するようにしてもよい。
【0048】
図5は、
図1に示す移動体給電システムにおいて、複数車線の道路に沿った複数の1次導体1の一例を示す図である。
【0049】
例えば
図5(A)に示すように道路102が複数の車線111A,111B,112A,112Bを備えている場合(道路102が片側2車線の対面道路である場合)、1次導体1-1A,1-1B,1-2A,1-2Bが、複数の車線111A,111B,112A,112Bのそれぞれに配置される。また、1次導体1-1A,1-1B,1-2A,1-2Bは、互いに並行して配置されている。直線状の道路102であっても曲線状の道路であっても、1次導体1-1A,1-1B,1-2A,1-2Bのうちの任意の2本は、各地点において互いに略同一の間隔となるように配置されている。そして、1次導体1-1A,1-1B,1-2A,1-2Bの一部または全部は、必要に応じて電気的に直列にまたは並列に接続される。さらに、互いに同一の周波数で交流電流I1(t),I2(t),I3(t),I4(t)が、それぞれ、複数の車線111A,111B,112A,112Bにおける1次導体1-1A,1-1B,1-2A,1-2Bを順方向(所定方向)または逆方向(所定方向の逆方向)に導通する。ここで、交流電流I1(t),I2(t),I3(t),I4(t)について、順方向に導通する交流電流I1(t),I3(t)の総和と、逆方向に導通する交流電流I2(t),I4(t)の総和との差が略ゼロとなるように、各電流の向きおよび振幅が設定される。これにより、順方向に導通する交流電流による磁場と逆方向に導通する交流電流による磁場とが互いに逆相となるため、外部(周辺地域など)に対する磁場やEMC(Electromagnetic Compatibility)ノイズが抑制される。
【0050】
また、例えば
図5(B)に示すように道路102が奇数(ここでは、3つ)の車線111A,111B,112を備えており、1次導体111A,111B,112が互いに並行して敷設されている場合でも、それらの車線111A,111B,112の交流電流I5(t),I6(t),I7(t)について、順方向に導通する交流電流I5(t),I6(t)の総和と、逆方向に導通する交流電流I7(t)の総和との差が略ゼロとなるように、各電流の向きおよび振幅が設定される。これにより、順方向に導通する交流電流による磁場と逆方向に導通する交流電流による磁場とが互いに逆相となるため、外部に対する磁場やEMCノイズが抑制される。
【0051】
なお、上述のように、道路102が複数の車線を有する場合、道路102における車線数に拘わらず、順方向に導通する交流電流の総和と、逆方向に導通する交流電流の総和との差が略ゼロとなるように、各電流の向きおよび振幅を設定することで、外部に対する磁場やEMCノイズが抑制される。また、互いに隣接する2つの車線における交流電流は、互いに同相であっても逆相であってもよい。
【0052】
図6は、
図1に示す移動体給電システムにおいて、市街地の道路におけるミアンダ状の1次導体1の一例を示す図である。
【0053】
例えば、市街地では、複数の建物103の周囲に略格子状の道路102があり、その道路102において、例えば
図6に示すように、ミアンダ状の1次導体1が敷設される。つまり、この場合、1次導体1は、交流電流がミアンダ状に導通するような形状を有する。
【0054】
図7は、
図1に示す移動体給電システムにおいて、駐車場における1次導体1の一例を示す図である。
【0055】
上述の移動経路が、駐車場における、車両101のための1または複数の駐車スペースを含む場合、例えば
図7に示すように、1次導体1は、駐車場201において、複数の駐車スペース201A(例えば各駐車スペース201Aの中央)を駐車車両(駐車中の車両101)の向きに沿うように敷設される。これにより、駐車中の車両101に電力供給が行われる。
【0056】
次に、実施の形態1に係る移動体給電システムの動作について説明する。
【0057】
配電装置1Aは、移動経路(道路102、駐車スペース201Aなど)に沿って敷設された1次導体1に交流電流を導通させる。この交流電流に基づく磁場やベクトルポテンシャルが1次導体1の周囲(道路102上、駐車スペース201A上など)に発生している。
【0058】
そして、車両101が1次導体1の上に位置するとき(走行中または停止中)、1次導体1を導通する交流電流I(t)によって、VPコイル2の設置位置に、時間変化するベクトルポテンシャルVP(t)が発生しており、この時間変化するベクトルポテンシャルVP(t)によってVPコイル2に交流電流が誘起する。
【0059】
車両101において、電源装置6は、VPコイル2に誘起した交流電流に基づく交流電力を直流電力に変換し、その直流電力を、モータ3、内部装置4、2次電池ユニット5などに供給する。また、電源装置6は、VPコイル2から電力が十分得られない期間(1次導体1が敷設されていない区間を走行中のときなど)においては、2次電池ユニット5から得られる電力をモータ3や内部装置4に供給する。
【0060】
以上のように、上記実施の形態1によれば、1次導体1に交流電流が導通し、移動体装置としての車両101は、VPコイル2を備えており、そのVPコイル2は、1次導体1を導通する交流電流によって発生するベクトルポテンシャルを非接触で感受しそのベクトルポテンシャルによって誘起する電流を導通させる。さらに、1次導体1は、移動体装置の移動経路としての道路102、駐車スペース201Aなどに沿って連続的に配置されている導線の一部または全部であり、VPコイル2は、移動体装置としての車両101が移動経路としての道路102、駐車スペース201Aなどにあるときに連続的にベクトルポテンシャルを非接触で感受し電流を導通させる。
【0061】
これにより、給電用の1次側コイルを所定間隔で多数配置する必要がなく、移動経路に沿って1次導体1を連続的に敷設することで走行中でも連続的に給電可能となり、給電用の1次側コイルによって瞬間的に大電力を給電する場合に比べ、1次側の設備規模が小さくなり、比較的低コストで移動体装置(ここでは車両101)への給電が実現される。
【0062】
また、給電用の1次側コイルによって瞬間的に大電力を給電する場合に比べ、1次側に導通する交流電流の振幅の変化が少ないため、給電に起因する輻射ノイズが少なくて済む。
【0063】
実施の形態2.
【0064】
図8は、本発明の実施の形態2に係る移動体装置におけるベクトルポテンシャルコイル2の配置の一例を示す断面図である。
図9は、本発明の実施の形態2に係る移動体装置におけるベクトルポテンシャルコイル2の配置の別の例を示す断面図である。
【0065】
例えば
図8または
図9に示すように、実施の形態2に係る移動体装置としての車両101では、VPコイル2が2次電池ユニット5とともに車両101の車台やボディー底部101A(ボディー内部であってボディー底部101Aの上)に配置される。車両101(電動自動車)における動力用の2次電池ユニット5の重量が大きいため、通常、2次電池ユニット5は、車両101の車台またはボディー底部101Aに設置される。
【0066】
実施の形態2では、例えば
図8に示すように、VPコイル2は、2次電池ユニット5の少なくとも上面において2次電池ユニット5の外形に沿って配置されている。ここでは、VPコイル2は、2次電池ユニット5の上面および側面に配置されている。
【0067】
また、実施の形態2では、例えば
図9に示すように、VPコイル2は、2次電池ユニット5における蓄電部材121のケース122の肉厚内に配置されるようにしてもよい。この場合、ケース122は、下部容器122Aとフタ122Bとを備え、下部容器122Aおよびフタ122Bの一方または両方の肉厚内に配置される。
【0068】
実施の形態2においても、実施の形態1と同様に、1次導体1に対する垂直面1P内でコイル軸(VPコイル2の巻回中心線)が延びるようにVPコイル2が配置されている。
【0069】
なお、実施の形態2に係る移動体装置および移動体給電システムのその他の構成および動作については、実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【0070】
以上のように、上記実施の形態2によれば、比較的重量の大きい2次電池ユニット5とともにVPコイル2が車台またはボディー底部101Aに配置されるため、VPコイル2が1次導体1の近くに配置される。さらに、VPコイル2とともに電源装置6を2次電池ユニット5に設置することで、VPコイル2と電源装置6との間の配線、および電源装置6と2次電池ユニット5との間の配線が短くなる。
【0071】
実施の形態3.
【0072】
図10は、本発明の実施の形態3に係る移動体給電システムの一例を示す側面図である。実施の形態3に係る移動体給電システムでは、移動体装置が機関車または電車であり、移動経路は、軌道であり、1次導体は、その軌道の形状に応じた直線的または曲線的な形状を有する。ここでは、
図10に示すように、1次導体は、トロリー線などの架線301であり、移動体装置が電車302とされる。なお、非接触で電力供給が行われるため、実施の形態3に係る移動体給電システムでは、1次導体(架線301)は、トロリー線などの裸線ではなく被覆導線としてもよい。なお、電車302は、上述の車両101と同様の電気的構成(
図4)を有する。
【0073】
図11は、実施の形態3におけるベクトルポテンシャルコイル2の設置位置の一例について示す正面図である。
【0074】
例えば
図11に示すように、この実施の形態では、VPコイル2は、当該電車302の妻壁302Bに配置されている。この実施の形態では、妻壁302Bの内側にVPコイル2が設置されるが、妻壁302Bの外側にVPコイル2を設置してもよい。
【0075】
さらに、この実施の形態では、VPコイル2は、実施の形態1と同様のものであって、例えば
図11に示すように、湾曲したコイル軸に沿って延びているソレノイドコイルであって、架線301(1次導体)が、コイル軸の湾曲の内側方向に位置するように配置されている。また、架線301に対する垂直面内でコイル軸(VPコイル2の巻回中心線)が延びるようにVPコイル2が配置されている。
【0076】
なお、コイル軸の形状は、架線301(つまり、架線301を導通する交流電流)を中心とした円弧状であることが好ましく、また、コイル軸の曲率中心に架線301が配置されるようにVPコイル2が配置されることが好ましい。このため、コイル軸の曲率(曲率半径)は、VPコイル2の設置高さに応じて設定されるようにしてもよい。さらに、VPコイル2は、交流電流(つまり、架線301から近い位置に配置されるのが好ましく、例えば、架線301から2m以下、あるいは1m以下の位置にVPコイル2が配置される。
【0077】
なお、ここでは、コイル軸が湾曲しているVPコイル2が使用されているが、その代わりに、コイル軸が直線状である1または複数のVPコイル2(後述)を使用してもよい。その場合、電車302の屋根の外側または内側にそのVPコイル2を配置してもよい。
【0078】
この実施の形態では、当該電車302の躯体は、磁気遮蔽性を有する部材(スチール製、ステンレス製などの屋根、妻壁、側壁など)で構成されていてもよく、VPコイル2は、そのような躯体内に配置されていてもよい。
【0079】
なお、実施の形態3に係る移動体装置および移動体給電システムのその他の構成および動作については、実施の形態1または2と同様であるので、その説明を省略する。また、ここでは、電車302にVPコイル2が設けられているが、機関車でも同様である。
【0080】
以上のように、上記実施の形態3によれば、実施の形態1と同様に、軌道(レールなどの敷設されている経路)に沿って1次導体1を連続的に敷設すればよく、給電の1次側に給電用のコイルを多数配置する必要がないため、比較的低コストで移動体装置(ここでは電車302など)への給電が実現される。
【0081】
実施の形態4.
【0082】
図12は、実施の形態4に係る移動体装置(上述の車両101、電車302など)におけるベクトルポテンシャルコイル2および強磁性体部材2Aの一例を示す正面図である。
【0083】
実施の形態4では、例えば
図12に示すように、VPコイル2の内部に、強磁性体部材2Aが配置されている。この強磁性体部材2Aは、VPコイル2のコイル軸に沿った形状を有する。また、強磁性体部材2Aは、導電性のある強磁性材料(例えばパーマロイなどといった金属磁性体)の部材であり、強磁性体部材2Aの一方の端部2A1に、VPコイル2の一方のコイル端が電気的に接続されている。これにより、VPコイル2の他方のコイル端、およびその他方のコイル端に近接する強磁性体部材2Aの他方の端部から電源装置6までの2本の配線をまとめて敷設することができ、2本の配線の敷設が簡単になる。
【0084】
具体的には、例えば、VPコイル2は、円弧状に形成された強磁性体部材2Aとしての強磁性体の太線の周囲に細い銅線を巻きつけることで形成されている。
図12に示すように、この細い銅線の一端は、強磁性体部材2A(端部2A1)に電気的に接続され、他端は、一方の端子に接続される。そして、強磁性体部材2Aは、電流の戻り経路を兼ねており、他方の端子に接続される。なお、強磁性体部材2Aの代わりに同様の形状の常磁性体の部材を使用してもよい。強磁性体の場合の方が、実効透磁率に応じてベクトルポテンシャルが増強される。
【0085】
なお、実施の形態4に係る移動体装置のその他の構成および動作については実施の形態1~3のいずれかと同様であるので、その説明を省略する。
【0086】
実施の形態5.
【0087】
図13は、実施の形態5に係る移動体装置(上述の車両101、電車302など)におけるベクトルポテンシャルコイル2および強磁性体部材2Bの一例を示す正面図である。
【0088】
実施の形態5では、例えば
図13に示すように、VPコイル2の内部に、強磁性体部材2Bが配置されている。この強磁性体部材2Bは、VPコイル2のコイル軸に沿った形状を有し、さらに、VPコイル2の湾曲(VPコイル2のコイル軸の部分)の外側に延びて閉磁路を形成している。
【0089】
強磁性体部材2Bは、導電性のある強磁性材料(例えばパーマロイなどといった金属磁性体)の部材であり、VPコイル2の一方のコイル端側の接続点2B1において、VPコイル2の一方のコイル端が、強磁性体部材2Bに電気的に接続されている。
【0090】
また、VPコイル2の他方のコイル端側の接続点2B2において、引き出し線が電気的に接続されており、VPコイル2の他方のコイル端、およびその引き出し線から電源装置6まで2本の配線をまとめて敷設することができ、2本の配線の敷設が簡単になる。
【0091】
なお、この強磁性体部材2Bには、VPコイル2の湾曲の外側においてギャップ2B3が形成されており、ギャップ2B3によって、強磁性体部材2Bにおける、VPコイル2の湾曲の外側の部分を電流が導通しないようになっている。
【0092】
また、強磁性体部材2Bにおける内側部分と外側部分との移行部分は、磁束の漏洩や曲げ加工による透磁率減少の影響を小さくするために、急峻な屈曲箇所のないように、連続的に滑らかな曲線状とされることが好ましい。また、強磁性体部材2Bは複数部材を連結して形成されるようにしてもよい。
【0093】
なお、実施の形態5に係る移動体装置のその他の構成および動作については実施の形態4と同様であるので、その説明を省略する。
【0094】
実施の形態6.
【0095】
図14は、実施の形態6に係る移動体装置(上述の車両101、電車302など)におけるベクトルポテンシャルコイル2の一例を示す正面図である。
【0096】
実施の形態6では、例えば
図14に示すように、VPコイル2は、互いに同一のコイル軸を有する、コイル径の互いに異なる内側ソレノイドコイル2-1および外側ソレノイドコイル2-2を備え、内側ソレノイドコイル2-1の一方のコイル端と外側ソレノイドコイル2-2の一方のコイル端とが電気的に接続されている。内側ソレノイドコイル2-1および外側ソレノイドコイル2-2は、それぞれ1本のVPコイルとして機能するものであり、したがって、実施の形態6のVPコイル2は、電気的には、2本のVPコイルを同相で直列接続した構成となっている。なお、内側ソレノイドコイル2-1および外側ソレノイドコイル2-2は、内側ソレノイドコイル2-1によって発生するベクトルポテンシャルおよび磁界と外側ソレノイドコイル2-2によって発生するベクトルポテンシャルおよび磁界とがそれぞれ同一方向となるように巻回され接続されている。
【0097】
したがって、内側ソレノイドコイル2-1の他方のコイル端および外側ソレノイドコイル2-2の他方のコイル端から電源装置6まで2本の配線をまとめて敷設することができ、2本の配線の敷設が簡単になる。
【0098】
なお、実施の形態6に係る移動体装置のその他の構成および動作については実施の形態1~3のいずれかと同様であるので、その説明を省略する。
【0099】
実施の形態7.
【0100】
図15は、実施の形態7に係る移動体装置(上述の車両101、電車302など)におけるベクトルポテンシャルコイル2および強磁性体部材2Cの一例を示す正面図である。
【0101】
実施の形態7では、例えば
図15に示すように、VPコイル2は、実施の形態6と同様の内側ソレノイドコイル2-1および外側ソレノイドコイル2-2を備える。さらに、実施の形態7では、例えば
図15に示すように、VPコイル2(内側ソレノイドコイル2-1)の内部に、強磁性体部材2Cが配置されている。この強磁性体部材2Cは、上述の強磁性体部材2Aと同様のものである。ただし、VPコイル2と強磁性体部材2Cとは電気的に接続されておらず、強磁性体部材2Cは、導電性を有していなくてもよい。
【0102】
なお、実施の形態7に係る移動体装置のその他の構成および動作については実施の形態6と同様であるので、その説明を省略する。
【0103】
実施の形態8.
【0104】
図16は、実施の形態8に係る移動体装置(上述の車両101、電車302など)におけるベクトルポテンシャルコイル2および強磁性体部材2Dの一例を示す正面図である。
【0105】
実施の形態8では、例えば
図16に示すように、VPコイル2は、実施の形態6,7と同様の内側ソレノイドコイル2-1および外側ソレノイドコイル2-2を備える。さらに、実施の形態8では、例えば
図16に示すように、VPコイル2(内側ソレノイドコイル2-1)の内部に、強磁性体部材2Dが配置されている。この強磁性体部材2Dは、VPコイル2のコイル軸に沿った形状を有し、さらに、VPコイル2の湾曲(VPコイル2のコイル軸の部分)の外側に延びて閉磁路を形成している。なお、VPコイル2と強磁性体部材2Dとは、電気的に接続されておらず、上述のようなギャップを設ける必要はない。また、強磁性体部材2Dは、導電性を有していなくてもよい。
【0106】
なお、実施の形態8に係る移動体装置のその他の構成および動作については実施の形態7と同様であるので、その説明を省略する。
【0107】
実施の形態9.
【0108】
図17は、実施の形態9に係る移動体装置(上述の車両101、電車302など)におけるベクトルポテンシャルコイル2の一例を示す正面図である。
【0109】
実施の形態9では、例えば
図17に示すように、VPコイル2は、直線状のコイル軸に沿って巻回されているが、コイル軸の方向に沿って、巻回方向の傾斜角(コイル軸方向と巻回方向とのなす角度)A0~A5が徐々に変化するように巻回されている。具体的には、VPコイル2の中心の傾斜角が90度となっており、中心から離れるほど、傾斜角が小さくなっている(A0>A1>A2>A3>A4>A5)。これにより、湾曲したVPコイル2と同様に効率的に上述のベクトルポテンシャルを感受できる。
【0110】
なお、実施の形態9に係る移動体装置のその他の構成および動作については実施の形態1~3のいずれかと同様であるので、その説明を省略する。
【0111】
実施の形態10.
【0112】
図18は、実施の形態10に係る移動体装置(上述の車両101、電車302など)におけるベクトルポテンシャルコイル2の一例を示す上面図である。
【0113】
実施の形態10では、例えば
図18に示すように、VPコイル2は、直線状のコイル軸に沿って巻回されている。なお、この実施の形態では、複数のVPコイル2が配置されており、この複数のVPコイル2は電気的に直列または並列に結線される。また、(例えば後述のように)電源装置6が複数のVPコイル2に対して複数のAC/DCコンバータ回路をそれぞれ備え、複数のAC/DCコンバータ回路の出力を直列または並列に接続し、直列または並列された出力で、蓄電用のキャパシタや上述の電子機器に電力供給するようにしてもよい。なお、
図18では、4つのVPコイル2が設けられているが、1本~3本のいずれかでもよく、5本以上でもよい。
【0114】
ここでは、1次導体(1次導体1、架線301など)に対する垂直面1Pにおいて、コイル軸が延びるように各VPコイル2が配置されており、その1次導体の方向に沿って、複数のVPコイル2が配列されている。つまり、複数のVPコイル2のコイル軸が単一平面に含まれるように、複数のVPコイル2は配列されている。
【0115】
なお、実施の形態10に係る移動体装置のその他の構成および動作については実施の形態1~3のいずれかと同様であるので、その説明を省略する。
【0116】
実施の形態11.
【0117】
図19は、実施の形態11に係る移動体装置(上述の車両101、電車302など)における共振回路について説明する回路図である。
【0118】
例えば
図19に示すように、実施の形態11に係る移動体装置(車両101、電車302など)では、VPコイル2に並列にキャパシタC1,C3が接続されている。なお、キャパシタC1,C3は、VPコイル2ごとに設けられており、
図19では、2つのVPコイル2に2つのキャパシタC1,C3がそれぞれ接続されている。
【0119】
また、
図19に示す電源装置6は、各VPコイル2について、AC/DCコンバータ回路151として、全波整流回路(ダイオードD1~D4のダイオードブリッジおよびダイオードD5~D6のダイオードブリッジ)並びに平滑用のキャパシタC2,C4を備える。そして、2つのVPコイル2の全波整流回路および平滑用のキャパシタC2,C4の出力が直列に接続されており、電源装置6の出力とされている。電源装置6の出力電圧は、2次電池ユニット5、負荷Z(モータ3、内部装置4など)などに印加される。なお、ここでは、VPコイル2が2個であるが、1個または3個以上でもよく、直列接続する段数が増えるほど高電圧が得られる。また、それらのAC/DCコンバータ回路151の出力を並列接続してもよく、その場合には、大電流が得られる。また、上述の全波整流回路は、より低電圧でも動作する能動型のFETブリッジでもよい。
【0120】
ここで、出力電圧のシミュレーション結果について説明する。
図20は、実施の形態11における電源装置6の出力電圧のシミュレーション結果を示す図である。
図20は、一次導線とVPコイルとの結合係数が0.1であり、長さLenの一次導線(直線導体)の自己インダクタンスL00(=μ0×Len/8π)が5μHであり、一次導線の交流電流の周波数が1kHzである場合の出力電圧のシミュレーション結果を示している。
図20における破線は、一段目の電圧(ダイオードD3,D4とダイオードD5,D6との接続点の電圧)の時間遷移を示しており、
図20における実線は、電源装置6の出力電圧(つまり、二段目の電圧)の時間遷移を示している。
図20に示すように、段数に応じた直流出力電圧が得られることがわかる。
【0121】
なお、実施の形態11に係る移動体装置のその他の構成および動作については実施の形態1~10のいずれかと同様であるので、その説明を省略する。
【0122】
以上のように、上記実施の形態11では、1次導体の交流電流の周波数と同一の共振周波数を有する、VPコイル2を含めた共振回路が設けられており、VPコイル2に導通する交流電流を大きくなる。
【0123】
なお、上述の実施の形態に対する様々な変更および修正については、当業者には明らかである。そのような変更および修正は、その主題の趣旨および範囲から離れることなく、かつ、意図された利点を弱めることなく行われてもよい。つまり、そのような変更および修正が請求の範囲に含まれることを意図している。
【0124】
例えば、上記実施の形態では、電車302の前方および後方の妻壁の一方に1または複数のVPコイル2が配置されているが、電車302の前方および後方の妻壁の両方に1または複数のVPコイル2を配置してもよい。
【0125】
また、上記実施の形態において、移動体装置の躯体は、アルミやFRP(Fiber Reinforced Plastics)で構成されていてもよく、また、移動体装置の躯体がFRPである場合には、その躯体にVPコイル2を内蔵させて、躯体と一体的にVPコイル2を形成してもよい。
【0126】
また、上記実施の形態において、VPコイル2は、1次導体の交流電流による磁束密度の変化を感受して交流電流を誘起するようにしてもよい。
【0127】
また、上記実施の形態では、VPコイル2は妻壁または屋根に配置されているが、その代わりに、床に配置されていてもよい。例えば、1次導体がレール側に敷設されている場合には、VPコイル2の湾曲内側方向にその1次導体が位置するように配置されるようにVPコイル2が床に配置されるようにしてもよい。
【0128】
また、上記実施の形態6~8では、VPコイル2が、径方向において、内側ソレノイドコイル2-1および外側ソレノイドコイル2-2の2層構造となっているが、層数が偶数であれば、4層以上の層数でもよい。その場合、すべての層のソレノイドコイル2-iが電気的に直列接続されるように、ソレノイドコイル2-iのいずれかの端部で次層のソレノイドコイル2-(i+1)に接続される。
【0129】
また、上記実施の形態において、交流電流の周波数は、商用電源と同一である50Hzまたは60Hzとしてもよいし、商用電源より高い周波数(例えば、100Hz~1kHzのいずれか、あるいは1kHz~10kHzのいずれか)としてもよい。配電装置1Aが商用電源より高い周波数の交流電流を供給する場合、その周波数の発電所を増設し、その周波数の交流電力を配電装置1Aに供給するようにしてもよいし、商用電源の交流電力に対して周波数変換を行って、その周波数の交流電力を配電装置1Aに供給するようにしてもよい。
【0130】
また、上記実施の形態において、上述の1次導体は、移動経路において、通過する移動体装置より下に配置されても上に配置されてもよく、また、通過する移動体装置の側方に配置されてもよい。VPコイル2は、1次導体の配置位置に応じて、1次導体に近接するように移動体装置に配置され、また、VPコイル2が湾曲したコイル軸を有する場合には、湾曲内側方向に1次導体が配置されるように、VPコイル2は配置される。
【0131】
また、上記実施の形態において、上述の機関車や電車302は各種鉄道の車両であって、上述の機関車や電車302には、1組のレール上を移動するものの他、モノレールの車両、特定の経路において、ゴムタイヤの車輪によって案内レールに沿って走行する方式の案内軌条式鉄道の車両、磁気浮上式鉄道の車両なども含まれる。
【0132】
また、上記実施の形態においては、1つの移動経路(車線など)について1本の1次導体1が敷設されているが、その代わりに、1つの移動経路(車線など)について複数本の1次導体1を敷設してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明は、例えば、電動自動車などの移動体装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0134】
1 1次導体
2 ベクトルポテンシャルコイル
2-1 内側ソレノイドコイル
2-2 外側ソレノイドコイル
2A,2B,2C,2D 強磁性体部材
5 2次電池ユニット
6 電源装置
101 車両(移動体装置の一例)
102 道路(移動経路の一例)
111A,111B,112A,112B 車線(移動経路の一例)
122 ケース
201A 駐車スペース
301 架線(1次導体の一例)
302 電車