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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038604
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】熱電デバイス等の評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/18 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
G01N25/18 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142726
(22)【出願日】2022-09-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「クリーンエネルギー分野における革新的技術の国際共同研究開発事業/未利用熱等活用に資する革新的機器・デバイス開発/革新的高性能熱電発電デバイスと高度評価技術の国際共同研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】天谷 康孝
(72)【発明者】
【氏名】大川 顕次郎
(72)【発明者】
【氏名】太田 道広
(72)【発明者】
【氏名】舟橋 良次
(72)【発明者】
【氏名】山本 淳
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AB09
2G040BA18
2G040BA26
2G040CA02
2G040CA13
2G040CA22
2G040DA02
2G040EC09
2G040ZA08
(57)【要約】
【課題】熱電デバイス等のデバイスの評価精度を向上させる評価装置を提供する。
【解決手段】本評価装置は、評価対象のデバイスの上側に設けられる第1のヒータと、デバイスと、デバイスの下側に設けられる熱流計とが第1の方向に並べられた構成の、第1の方向に直交する第2の方向の側面を空間を空けて囲うシールドであって、上記構成において第1の方向に生じる温度分布と同じ又は類似の温度分布を形成するように、ガードヒータと第1の熱ガードと第1の熱ガードとは異なる熱抵抗を有する第2の熱ガードとが配置されるシールドを有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象のデバイスの上側に設けられる第1のヒータと、前記デバイスと、前記デバイスの下側に設けられる熱流計とが第1の方向に並べられた構成の、前記第1の方向に直交する第2の方向の側面を空間を空けて囲うシールドであって、
前記構成において前記第1の方向に生じる温度分布と同じ又は類似の温度分布を形成するように、ガードヒータと第1の熱ガードと前記第1の熱ガードとは異なる熱抵抗を有する第2の熱ガードとが配置される
シールドを有する評価装置。
【請求項2】
前記第1の熱ガードと前記第2の熱ガードとの接続部分の温度と、前記デバイスと前記熱流計との接続部分の温度とが同一又は近似するように前記第1の熱ガード及び前記第2の熱ガードが構成される
請求項1記載の評価装置。
【請求項3】
前記第1の熱ガードの熱抵抗Rg1、前記第2の熱ガードの熱抵抗Rg2、前記デバイスの熱抵抗R、及び前記熱流計の熱抵抗Rについて、
【数1】
が、所定の誤差範囲内において成立するように、
前記第1の熱ガード及び前記第2の熱ガードが構成される
請求項1記載の評価装置。
【請求項4】
前記第1の熱ガードに、窓が設けられている
請求項1記載の評価装置。
【請求項5】
前記第1の熱ガードが、前記デバイスの幅と同一又は近似する幅を有し、前記第1の方向において前記デバイスと同一又は近似の位置に配置される
請求項1記載の評価装置。
【請求項6】
前記構成が、
前記第1のヒータの上に設けられた断熱材と、
前記断熱材の上に設けられた第2のヒータと
をさらに含む請求項1記載の評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電デバイス等のデバイスの評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば非特許文献1には、図1に示すような熱電デバイスの評価装置が開示されている。図1は、評価装置の縦方向の断面を示しており、図1の評価装置では、熱電デバイス1700を、メインヒータ1600と、温度計1410及び1420を含む熱流計1400とで挟み、熱電デバイス1700より上部分を、熱電デバイス1700への突起を含む椀型のガードヒータ1300で囲っている。さらに、最上部のガードヒータ1100と、熱流計1400の下面に接する水冷プレート1500との空間は、同質の断熱材1200を隙間無く敷き詰めるようにしている。ガードヒータ1300でメインヒータ1600からの熱流の漏出を防止しつつ、断熱材1200により、メインヒータ1600と熱電デバイス1700と熱流計1400とから側方への熱流の漏出を防止している。但し、断熱材1200を隙間無く敷き詰めるので、熱電デバイス1700の交換に手間がかかるという問題等がある。
【0003】
また、例えば非特許文献2には、図2に示すような熱電デバイスの評価装置が開示されている。図2は、一部熱ガード2100を除去した状態における評価装置の側面を表している。図2の評価装置では、上から断熱材2200と、メインヒータ2300と、熱電デバイス2400と、温度計2510及び2520を有する熱流計2500と、水冷プレート2600とを配置しており、断熱材2200の一部と、メインヒータ2300と、熱電デバイス2400と、熱流計2500の一部の側面を囲うように、単一素材の熱ガード2100が配置されている。このような熱ガード2100を用いることで、囲っている部分の温度は均一化されるが、それ以外の部分については、周囲との温度差が生ずるので、側方への熱流漏出は防止できない。
【0004】
さらに、例えば非特許文献3には、図3に示しているような熱電デバイスの評価装置が開示されている。図3は、評価装置の縦方向の断面を示しており、図3の評価装置では、上から、椀型のガードヒータ3100と、断熱材3200と、メインヒータ3300と、熱電デバイス3400と、水冷台3500とが配置されている。ガードヒータ3100の下限は、熱電デバイス3400の上面となっており、熱電デバイス3400の側面をカバーするものでは無い。このように、ガードヒータ3100によりメインヒータ3300からの熱流が漏出することを防止するのみで、それ以外の部分については側方への熱流漏出については考慮されていない。
【0005】
なお、例えば非特許文献4には、熱電デバイスではなく平板状熱流センサの評価を行う場合に、当該熱流センサの周辺を断熱材で覆い、熱流センサの真上には主熱板を、主熱板の周りに保護熱板を配置すると共に、熱流センサの下部に水冷プレートを配置するようにしたものが開示されている。熱流センサを断熱材で覆うのは非特許文献1と同様である。
【0006】
熱電デバイスの発電効率評価では、投入した熱流を正確に測定することが前提となる。高さ10mm程度の熱電デバイスでは、特に高温において側面から熱輻射による周囲への熱の流出が無視できなくなる。そのため、まず、測定原理の仮定に反する二次元的な、側面から周囲への熱流を排除し、熱電デバイスの縦方向(すなわち厚み方向)に熱が貫流する一次元熱流を実現することが基本となる。
【0007】
側面からの熱の流出を防ぐ手段としては、非特許文献1及び4のような方法は、安価で広く普及している断熱材の極めて低い熱伝導特性及び伝達特性を利用し、熱の移動を妨ぐという点で優れた方法であるが、熱電デバイスの周囲を密に隙間なく断熱材で埋めるため、施工の手間を要し、また、測定の再現性を確保するのが一般に難しいとされている。一方、非特許文献2及び3では、上部のメインヒータ部分については考慮されているが、それ以外の部分については側方への熱流漏出に対しては十分な対策がなされていない。よって、評価精度上の問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】P. Ziolkowski et al., Energy Technology Volume8, Issue11, (2020)
【非特許文献2】梶川武信編、熱電変換技術ハンドブック NTS出版 第3章第4節特性と評価 1.2評価技術 pp.438-441(2008)
【非特許文献3】L Rauscher et al., Meas. Sci. Technol. Volume 16, pp.1054-1060 (2005)
【非特許文献4】NMIJ計測クラブ固体熱物性クラブ平成27年度全体会合@秋葉原コンベンションホールFeb. 05. 2016. p.15
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、一側面によれば、熱電デバイス等のデバイスの評価精度を向上させるための新規な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る評価装置は、評価対象のデバイスの上側に設けられる第1のヒータと、デバイスと、デバイスの下側に設けられる熱流計とが第1の方向に並べられた構成の、第1の方向に直交する第2の方向の側面を空間を空けて囲うシールドであって、上記構成において第1の方向に生じる温度分布と同じ又は類似の温度分布を形成するように、ガードヒータと第1の熱ガードと第1の熱ガードとは異なる熱抵抗を有する第2の熱ガードとが配置されるシールドを有する。
【発明の効果】
【0011】
一側面によれば、熱電デバイス等のデバイスの評価精度を向上させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、第1の従来技術の評価装置を説明するための図である。
図2図2は、第2の従来技術の評価装置を説明するための図である。
図3図3は、第3の従来技術の評価装置を説明するための図である。
図4図4は、第1の実施の形態に係る評価装置の主要部の側面図である。
図5図5は、第1の実施の形態に係る評価装置の主要部の縦方向の断面図である。
図6図6は、第1の実施の形態に係る評価装置の主要部の横方向の断面図である。
図7図7は、熱電デバイスと熱流計、並びに第1熱ガート及び第2熱ガードの熱抵抗の等価熱回路を表す図である。
図8図8は、第1の実施の形態に係る評価装置の主要部周辺の構成を示す断面図である。
図9図9は、第1の実施の形態に係る評価装置の主要部周辺の構成を示す断面図である。
図10図10は、第1の実施の形態に係る評価装置において試料部分の側面図である。
図11図11は、第1の実施の形態に係る評価装置の側面図である。
図12図12は、第1の実施の形態に係る評価装置の効果を説明するための図である。
図13図13は、第1の実施の形態に係る評価装置の効果を説明するための図である。
図14図14は、第1の実施の形態に係る評価装置の効果を説明するための図である。
図15図15は、第1の実施の形態に係る評価装置の効果を説明するための図である。
図16図16は、第2の実施の形態に係る評価装置の主要部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施の形態1]
熱輻射による周囲への熱流出は、試料とその周囲の温度差を理想的にゼロに近づけることによってその影響を排除できる。すなわち、試料中と等しい温度分布を、その周囲を取り囲むように設置した熱ガード(熱の流出を防ぐシールドとも呼ぶ)で実現すればよい。しかしながら、銅などの単一素材で製作された熱ガードでは、熱電デバイス中の、局所的に急峻な温度勾配(例えば10mm程度の距離に約400Kの温度差)を実現することは一般に困難である。本実施の形態では、以下で詳細述べるような複合材料による熱ガードを採用することで、側方へ熱流出、すなわち側面からの熱輻射による損失を抑制するものである。
【0014】
図4に、本実施の形態における評価装置の主要部の側面図を示す。なお、中央に配置される試料部分(試料を含む構成)と、その外側に空間を設けて配置されるシールド部分とに分かれているので、シールド部分の一部を除去した状態における側面図となっている。試料部分には、上から、ガードヒータ210と、断熱材220と、メインヒータ230と、熱電デバイス240と、熱流計250とが、一列に配置されている。なお、図中○印は、カートリッジ型ヒータ10を表している。図4では示されていないが、ガードヒータ210とメインヒータ230とには別々に温度計が設けられており、さらに、ガードヒータ210とメインヒータ230とにはそれぞれカートリッジ型ヒータ10が設けられており、それぞれが同じ温度になるように別々に温度制御される。ガードヒータ210の上面は、断熱材110に接しており、熱流計250の下面は、冷却プレート150に接している。熱流計250には、複数の温度計251(図4では4つの温度計)が設けられており、メインヒータ230から投入された熱流を、熱流計250で計測するようになっている。なお、断熱材220は、例えばアルミナセラミックからなる。
【0015】
シールド部分には、上から、断熱材110と、温度計121及びカートリッジ型ヒータ10を含むガードヒータ120と、第1熱ガード130と、第2熱ガード140と、水冷プレート150とが設けられている。ガードヒータ120の上面は、断熱材110に接しており、第2熱ガード140の下面は、冷却プレート150に接している。ガードヒータ120も、温度計121で温度を測定すると共に、カートリッジ型ヒータ10により、メインヒータ230とガードヒータ210の温度と同じ温度になるように、温度制御がなされる。ガードヒータ120は、ガードヒータ210と断熱材220とメインヒータ230の側面を覆うように形成される。これに対して、第1熱ガード130は、熱電デバイス240の側面を覆うように形成される。すなわち、第1熱ガード130の幅及び高さは、熱電デバイス240の幅及び高さと同じになっている。さらに、第2熱ガード140は、熱流計250の側面を囲うように形成される。
【0016】
図5に、本実施の形態における評価装置の主要部分を縦方向に切断した場合の側面図を示す。上でも述べたが、ガードヒータ210には、温度計211が設けられており、メインヒータ230には、温度計231が設けられている。さらに、熱流計250には、複数の温度計251とは別に温度計252も設けられている。以下で詳細に述べるように、第1熱ガード130は、第2熱ガード140よりも熱抵抗を大きくすべく、第2熱ガード150よりも薄く加工されている。
【0017】
試料部分は、熱電デバイス240より上には、ガードヒータ210及びメインヒータ230により高温になっており、冷却プレート150に接している熱流計250は低温になっており、熱電デバイス240の部分で急峻な温度勾配が形成されている。ガードヒータ120は、メインヒータ230及びガードヒータ210と同じ温度になるように制御されているので高温であり、第2熱ガード140は、冷却プレート150に接しているので低温になっている。そして、本実施の形態では、試料部分における温度分布(すなわち温度勾配)と同一又は類似の温度勾配を、シールド部分にも生じさせるために、第1熱ガード130を第2熱ガード140とは異なる材質(より具体的には材質と厚みなどの組み合わせ)で形成する。特に、熱電デバイス240において生ずる急峻な温度勾配と同様の温度勾配を生じさせるように、第1熱ガード140を形成する。
【0018】
図6に、本実施の形態に係る評価装置の主要部の、熱電デバイス240の上面における断面図を示す。このように、本実施の形態では、試料部分は矩形であり、それを覆うシールド部分についても矩形になっている。ここでは、熱電デバイス240の形状に応じて矩形となっているが、他の形状であっても良い。図5は、例えばA-A’線での断面図である。なお、試料部分と、シールド部分とには空間が空いており、断熱材などは充填されない。なお、試料部分と、第2熱ガード140及びガードヒータ120の内側との間の距離が長いと、試料部分とシールド部分との温度分布を同一又は類似にすることが難しくなるので、短い方が好ましい。例えば、熱電デバイス240の右辺と、当該辺に対向する第1熱ガード130の内側の一辺との距離は約25mm、当該辺に対向する第2熱ガード140の内側の一辺との距離は10mmとしたが、作業性が担保できれば、より短く10mm未満としても良い。なお、実験結果及び数値計算の結果からすると、例えば第1熱ガード130と当該第1熱ガード130と同じ高さに配置された熱電デバイス240との距離は、25mm以下、好ましくは10mm以下がよい。
【0019】
次に、第1熱ガード130及び第2熱ガード140の設計について、より詳細に説明する。上では、試料部分の周囲にシールド部分を設け、それらの温度差をゼロに近付けるように第1熱ガード130及び第2熱ガード140を形成するとしているが、その実現は容易ではない。それは、熱電デバイス240によってその高さわずか5mmから10mm程度に、約400Kの局所的に急峻な温度勾配が生じるからである。よって、一般的な銅などの単一素材で製作された熱ガードでは、部分的に急峻な温度勾配を実現することは困難である。しかし、第1熱ガード130及び第2熱ガード140の熱抵抗の比を、以下のように最適化することで、単一素材では困難であった局所的に急峻な温度分布を形成できるようになる。
【0020】
図7に、第1熱ガード130及び第2熱ガード140と、熱電デバイス240及び熱流計250との等価熱回路を示す。Rg1は、第1熱ガード130の熱抵抗を表し、Rg2は、第2熱ガード140の熱抵抗を表し、Rは、熱電デバイス240の熱抵抗を表し、Rは、熱流計250の熱抵抗を表している。また、Tは、ガードヒータ120、メインヒータ230及びガードヒータ210の目標温度を表し、Tは、冷却プレート150の温度を表す。さらに、Tcgは、第1熱ガード140と第2熱ガードとの接続部分の温度を表し、Tcsは、熱電デバイス240と熱流計250との接続部分の温度を表す。
【0021】
熱電デバイス240と熱流計250とは、熱的に直列に接続されている。また、第1熱ガード130及び第2熱ガード140は、熱的に直列に接続され、ガードヒータ120と第2熱ガード140との間の輻射による熱抵抗が、第1熱ガード130と並列に接続されていると見做せる。例えば、ガードヒータ120の温度が380℃、低温側の温度Tが30℃で、温度差350 ℃の時に輻射による熱伝達量は約6Wと計算される。しかし、第1熱ガード130を流れる熱流は700Wなので、熱回路として並列に入る輻射による熱流の寄与は第1熱ガード130の熱流よりも十分に小さい。熱回路の近似はこの温度範囲では全く問題ないと結論される。従って、電気回路の分圧回路と同じように、シールド側の低温側の温度と、試料部分の低温側の温度はそれぞれの熱抵抗の比として、近似的に次のように表すことができる。
【数1】
【0022】
高温側はほぼ熱浴と見做してよく、Tは共通であるので、この二つの温度が等しいとき(Tcg=Tcs)に、熱電デバイス240とその周囲に配置した第1熱ガード130の温度差が等しくなる。つまり、熱抵抗の間で満足すべき関係は(1)式と(2)式が等しいときで、次のとおりとなる。
【数2】
【0023】
このような(3)式を満たすように、第1熱ガード130及び第2熱ガード140の素材及び形状を決定する。なお、(3)式の左辺と右辺とが完全に一致せずとも、一定の誤差範囲であれば、効果を有する。この誤差範囲であれば、第1熱ガード130及び第2熱ガード140で形成される温度分布が、試料部分における温度分布と類似する範囲となる。
【0024】
次に、図8乃至図11を用いて、本実施の形態の評価装置の主要部に関係する他の部分について概要を説明する。図8に示すように、図4に示した主要部は、加圧部400で加圧されるようになっており、図4に示した主要部及び加圧部400が、冷却パイプ320が付設された真空チャンバー310内で収容されて、真空で測定が行われるようになっている。
【0025】
図9は、真空チャンバー310に関連する構成を除去した状態を表しており、これを用いて加圧部400の構成を説明する。下面板470と上面板460との間に、図4に示した主要部(断熱材110から冷却プレート150までの構成)とロードセル450とを挟み、支柱430で支えるようになっている。加圧用ネジ410を回転させて下面板470と上面板460との間を狭めることで、図4に示した主要部に圧力を加えて、評価中に、熱電デバイス240とメインヒータ230との間の熱抵抗を低減させる。なお、上面板460には、図4に示した主要部の大部分を覆うような熱リフレクタ(反射板)420が吊り下げられている。
【0026】
図10は、試料部分の概要を示す図である。試料部分は、おおよそ直方体であり、温度計211、231、251及び252などからのケーブルは、中継端子台260を介して外部に引き出される。
【0027】
なお、図11は、図4とは異なり、ガードヒータ120、第1熱ガード130及び第2熱ガード140の一部を除去しない状態における評価装置の主要部の側面を示す。第1熱ガード130には、窓は設けられておらず、完全に熱電デバイス240を囲っている。
【0028】
以下、本実施の形態に係る評価装置に対する評価について説明するが、評価装置の主要部の構成について具体例を示す。第2熱ガード140は、無酸素銅からなり、高さは40mm、厚みは15mmとした。第1熱ガード130は、ステンレス鋼(SUS304材)からなり、厚み3mm、高さ8mmとした。一方、熱電デバイス240としては、典型的な熱抵抗値をもつ高性能な酸化物素材を素材に用いた熱電デバイスを採用した。熱流計250についても、無酸素銅製の熱流計を採用した。このような例の場合、(3)式を略満たすことが確認できた。なお、第1熱ガード130の厚みはある程度薄くすることになるが、この例では上で述べたように3mmまで削ることで、(3)式を満たすことが出来た。なお、この厚みであれば、加圧中に反りもあまり発生せず、加圧部400で評価中に加えられる1MPa以上の極めて大きな圧縮応力にも十分耐えることが出来た。
【0029】
次に、本実施の形態に係る第1熱ガード130及び第2熱ガード140が上で述べたような効果を奏するかを確認する。上で述べたような効果を奏する場合には、熱電デバイス240の側面からの熱流の損失は抑制されるはずなので、熱電デバイス240へ投入した熱流と通過した熱流とは一致すると考えられる。そこで、メインヒータ230の電力量(高温側の熱流値)と熱電デバイス240下部の熱流計により熱流(低温側の熱流値)を測定し、比較した結果を、図12に示す。図12では、横軸は、高温側と低温側の温度差[K]を表しており、縦軸は熱流[W]を表している。黒三角は、高温側の熱流値を表しており、黒丸は、本実施の形態に係る低温側の熱流値を表しており、灰色菱形は、第1熱ガード130及び第2熱ガード140を設けない場合における低温側の熱流値を表している。高温側の熱流値と低温側の熱流値とが一致していれば、本実施の形態の効果が認められる。図12によれば、温度差80K程度から380K程度まで、略一致している。すなわち、輻射による損失はT=380Kのときに、デバイス形状を考慮すると約3%と推測される(輻射率1と仮定)が、それを上回るような乖離は観測されなかった。一方、第1熱ガード130及び第2熱ガード140を設けない場合には、温度差380Kになると、灰色菱形が、黒三角から離れており、実際の評価時に想定される400K程度の温度差では、本実施の形態の効果が認められる。
【0030】
また、第1熱ガード130の厚み3mmの場合と、厚み4mmの場合との比較を、図13に示す。図13においても、図12と同様に、横軸は、高温側と低温側の温度差[K]を表しており、縦軸は熱流[W]を表している。黒丸は、厚み3mmの場合における低温側の熱流値を表しており、黒三角は、厚み4mmの場合における低温側の熱流値を表している。この図からすると、厚み3mmの場合と4mmの場合とはほぼ同じであり、(3)式の右辺と左辺とが約22%ずれることになるが、この温度範囲であれば、問題が無いことが分かる。すなわち、(3)式を完全に満たさずとも、この程度の誤差範囲であれば、効果を認めることが出来る。
【0031】
なお、図14を用いて、本評価装置が、発電試験で正しく動作できたことを示す。すなわち、熱電デバイス240に温度差を与え、外部負荷抵抗をつないで、どの程度発電(すなわち熱エネルギから変換された電気エネルギを取り出す)するか表したものである。図14において、縦軸は、出力電力[W]又は端子電圧[V]を表しており、横軸は、負荷電流[mA]を表している。白丸で表される直線状のデータは、発生する端子電圧[右縦軸]、熱電デバイス240に流れる負荷電流との関係を表す電流-電圧直線である。熱電デバイス240には電池と同じように内部抵抗があるので、負荷電流が増えると電圧降下が生じ、端子電圧は単調に低下する。一方、黒丸で表される放物線状の曲線データは、電力(電圧×負荷電流)[左縦軸]と負荷電流の関係を表している。このような直線及び放物線のデータが得られれば、熱電デバイス240を正しく評価できていることが分かる。
【0032】
さらに、図15に、第1熱ガード130及び第2熱ガード140の断熱効果を数値計算で評価した結果を示す。図15の右側に示すように、熱電デバイス240は、例えば4列の熱電素子を並べることで構成されているが、図15の左側は、側面側に配置された第1列の熱電素子、内側に配置された第2列及び第3列の熱電素子、反対の側面側に配置された第4列の熱電素子について、各々の温度分布を示している。この数値計算の結果からすると、上段に示すように、本実施の形態のように第1熱ガード130及び第2熱ガード140を設ければ、4つの列の熱電素子について、それほど温度分布に差は無い。すなわち、側方への熱流漏洩は抑制されている。一方、下段に示すように、第1熱ガード130及び第2熱ガード140を設けない場合、4つの列の熱電対のうち、外側の第1列及び第4列については、明らかに内側の第2及び第3列よりも、低い温度分布を示している。すなわち、側方への熱流漏洩が発生しており、それによって熱電デバイス240の発電効率を正しく評価できていないことが分かる。
【0033】
以上のように、本実施の形態によれば、側方への熱流漏洩を抑制でき、熱電デバイスの発電効率をより精度良く測定できるようになる。
【0034】
また、加工性に優れ、且つ輻射率が低い金属素材で局所的に急峻な温度分布を熱ガード(すなわちシールド部分)を実現でき、試料部分における温度分布と同一又は類似の温度分布を実現できる。また、断熱材を用いないので、試料の交換や脱着、評価装置のメンテナンスの手間は、断熱材を敷き詰める方式よりも減ると期待される。
【0035】
さらに、本実施の形態は、熱電デバイスに限らず、熱流測定を要する、断熱材、熱流センサなどへの応用も可能と思われる。
【0036】
[実施の形態2]
第1の実施の形態では、第1熱ガード130にはステンレス鋼を用いており、加工性が高いので、輻射による熱流の損失を促す窓を設けるようにしても良い。すなわち、図16に示すように、第1熱ガード130の代わりに、窓131を有する第1熱ガード130bを設けるようにしても良い。第1熱ガード130bを設ける場合においても、(3)式を満たすようにする。
【0037】
また、金属の優れた加工性と組み立てが容易な構造の特徴を生かし、第1熱ガード130bのように側面に輻射による熱流の損失を促す窓131を設けることで、熱電デバイス240側面からの熱損失を評価することも可能となる。つまり、窓131を設けた場合と、窓131を設けない場合とで比較を行うことにより、熱電デバイス240側面からの熱損失量を推定することが可能になる。これにより、さまざま測定方式がある熱電デバイス240の評価を1台の評価装置で行うことが可能となり、異種方式間の極めて精密な相互比較が可能になる計測技術向上の面でも大きな効果が期待される。
【0038】
以上本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されない。特に、第1熱ガードの材質及びサイズについては、評価対象である熱電デバイスなどに応じて相対的に決定されるものであり、上で述べた例は一例に過ぎない。その他の素材及びサイズについても、一例に過ぎない。
【0039】
以上述べた実施の形態をまとめると以下のようになる。
【0040】
実施の形態に係る評価装置は、評価対象のデバイス(例えば熱電デバイス240)の上側に設けられる第1のヒータ(例えばメインヒータ230)と、デバイスと、デバイスの下側に設けられる熱流計(例えば熱流計250)とが第1の方向に並べられた構成(例えば試料部分)の、第1の方向に直交する第2の方向の側面を空間を空けて囲うシールド(例えばシールド部分)であって、上記構成において第1の方向に生じる温度分布(温度勾配とも呼ぶ)と同じ又は類似の温度分布を形成するように、ガードヒータ(例えばガードヒータ120)と第1の熱ガード(例えば第1熱ガード130)と第1の熱ガードとは異なる熱抵抗を有する第2の熱ガード(例えば第2熱ガード150)とが配置されるシールドを有する。
【0041】
上で述べたようなシールドを採用することで、熱電デバイスなどのデバイスの側方への熱流の漏出を抑制できるようになるため、発電効率などの評価を精度良く実施できるようになる。なお、断熱材を充填することは無く空間を空けて囲っているので、従来に比してデバイスの交換などの手間を削減できるという利点もある。
【0042】
なお、具体的には、第1の熱ガードと第2の熱ガードとの接続部分の温度と、上記デバイスと熱流計との接続部分の温度とが同一又は近似するように第1の熱ガード及び第2の熱ガードが構成されるようにしても良い。上記デバイスが熱電デバイスである場合には、熱電デバイスでは非常に急峻な温度勾配が生じており、第1の熱ガードと第2の熱ガードとの接続部分の温度を、上記デバイスと熱流計との接続部分の温度とが同一又は近似するように、第1及び第2の熱ガードを構成できれば、上で述べた温度分布を同一又は近似する具体的な構成が得られる。
【0043】
より具体的には、第1の熱ガードの熱抵抗Rg1、第2の熱ガードの熱抵抗Rg2、上記デバイスの熱抵抗R、及び熱流計の熱抵抗Rについて、
【数3】
が、所定の誤差範囲内において成立するように、第1の熱ガード及び第2の熱ガードが構成されるようにしても良い。
【0044】
上で述べた実施の形態では、22%程度(3)式の両辺がずれていても、温度分布はほぼ同じであるので、その程度の誤差範囲であれば、問題ないと推定される。
【0045】
また、上で述べた第1の熱ガードに、窓を設けるようにしても良い。これによって、側方の熱流漏洩の有無を比較するなどの評価を行うことが出来るようになる。なお、断熱材を充填しないような構成であるから、窓ありと窓無しの第1の熱ガードを交換するのも容易である。
【0046】
なお、上で述べた第1の熱ガードが、上記デバイスの幅と同一又は近似する幅を有し、第1の方向において上記デバイスと同一又は近似の位置に配置されるようにしても良い。なお、上記構成とシールドとの間に設ける空間は、側方への熱流漏出を抑制するという観点において狭い方が良いが、全体のサイズ、熱ガードなどの素材、操作性などを総合的に勘案した上で決定されるもので、一義的に決められるものでは無い。
【0047】
また、上で述べた構成が、第1のヒータの上に設けられた断熱材(例えば断熱材230)と、断熱材の上に設けられた第2のヒータ(例えばガードヒータ210)とをさらに含むようにしても良い。ガードヒータ、第1のヒータ及び第2のヒータにて、上記構成の上部の温度を目標のとおりに制御するものである。
【符号の説明】
【0048】
110,230 断熱材 120,210 ガードヒータ
130 第1熱ガード 140 第2熱ガード
150 冷却プレート 230 メインヒータ
240 熱電デバイス 250 熱流計
121,251,231,252 温度計
10 カートリッジ型ヒータ
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