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特開2024-38628工場施設における水関連設備の水害リスク対策作成システム、及び水害リスク評価方法
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  • 特開-工場施設における水関連設備の水害リスク対策作成システム、及び水害リスク評価方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038628
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】工場施設における水関連設備の水害リスク対策作成システム、及び水害リスク評価方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/0635 20230101AFI20240313BHJP
   G05B 19/418 20060101ALI20240313BHJP
   C02F 1/00 20230101ALI20240313BHJP
   G06Q 50/04 20120101ALN20240313BHJP
【FI】
G06Q10/0635
G05B19/418 Z
C02F1/00 V
C02F1/00 D
G06Q50/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142788
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】飯野 ゆりか
(72)【発明者】
【氏名】飯田 恵里沙
(72)【発明者】
【氏名】許 嘉▲ネイ▼
【テーマコード(参考)】
3C100
5L049
【Fターム(参考)】
3C100AA59
3C100AA62
3C100AA68
3C100BB13
3C100CC02
3C100CC03
3C100CC14
5L049CC03
(57)【要約】
【課題】 工場施設における水関連設備における水害リスクとその対策を提示可能な水害リスク対策作成システムを提供する。
【解決手段】 水処理システムの水害リスク対策作成システム1は、水処理システムの水害リスクを異なるエレメントごとに分類して、リスク項目やリスク対応などを記録した水処理システムのリスク情報データベース2と、このリスク情報データベース2の情報に対してアクセス可能な演算部3とからなる。この演算部3は、顧客CLから提供される水関連設備の水害リスク診断チェックシートの顧客リスク情報に基づいて、リスク情報データベース2の情報から同一または近似するリスク項目を選択し、現在のリスク状態を診断するとともに、リスク低減方法を提供する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各種水関連設備ごとの水害時のリスク項目、前記リスク項目に対する確認項目、及び前記リスク項目における1又は2以上のリスク事象を記録したリスク情報データベースと、
顧客の工場設備の水関連設備における各種水関連設備ごとの水害リスクを評価する演算部と
を有する工場施設における水関連設備の水害リスク評価システムであって、
前記演算部は、前記顧客の工場設備の水関連設備の構成と、この水関連設備のリスク項目に対するリスク情報データベースの確認項目との対比結果とに基づき、リスク情報データベースを検索して前記顧客の工場設備の水関連設備の水害リスクの評価を行う、工場施設における水関連設備の水害リスク対策作成システム。
【請求項2】
前記演算部は、前記水関連設備のリスク項目に対する確認項目の確認結果に基づき、前記水害リスクの可能性の大小及び前記顧客工場及び水関連設備への影響の軽重を判断し、前記水害リスクの可能性の大小及び影響の軽重の判断に基づき水害リスクをランク分けして評価する、請求項1に記載の工場施設における水関連設備の水害リスク対策作成システム。
【請求項3】
前記リスク情報データベースは、前記各リスク事象に対応して、それぞれ1又は2以上の改善項目データをさらに有しており、前記演算部は、前記水害リスクの評価結果のランク及び前記顧客の工場設備の水関連設備の構成に基づき、最適な改善策を前記1又は2以上の改善項目から選択する、請求項2に記載の工場施設における水関連設備の水害リスク対策作成システム。
【請求項4】
前記水害リスクの評価及び前記改善項目が、水害発生前、水害発生中、及び水害発生後の各時点についてである、請求項3に記載の工場施設における水関連設備の水害リスク対策作成システム。
【請求項5】
顧客工場施設における水関連設備の水害リスクを評価する工場施設における水関連設備の水害リスク評価方法であって、
各種水関連設備ごとの水害時のリスク項目、前記リスク項目に対する確認項目、及び前記リスク項目における1又は2以上のリスク事象をあらかじめ記録したリスク情報データベース作成工程と、
顧客工場施設における水関連設備のリスク項目に対するリスク情報データベースの確認項目との対比結果とに基づき、確認項目と対応させる評価対象データの確認工程と、
前記リスク情報データベースと評価対象データとを比較して、工場設備の水関連設備の水害リスクの評価を行う評価工程とからなり、
前記評価工程は、前記評価対象データに基づき、リスク情報データベースを検索して該当するリスク事象を抽出し、この抽出したリスク事象に基づいて、前記顧客の工場設備の水関連設備の水害リスクの評価を行う、工場施設における水関連設備の水害リスク評価方法。
【請求項6】
前記評価工程は、前記水関連設備のリスク項目に対する確認項目の確認結果に基づき、前記水害リスクの前記顧客工場及び水関連設備への影響の軽重を判断し、前記影響の軽重の判断に基づき水害リスクをランク分けして評価する、請求項5に記載の工場施設における水関連設備の水害リスク評価方法。
【請求項7】
前記リスク情報データベース作成工程において、リスク情報データベースにさらに前記各リスク事象に対応してそれぞれ1又は2以上の改善項目データを記録しておき、前記評価工程は、前記水害リスクの評価結果に基づき、最適な改善策を前記1又は2以上の改善項目から選択する、請求項6に記載の工場施設における水関連設備の水害リスク評価方法。
【請求項8】
前記評価工程における前記水害リスクの評価及び前記改善項目が、水害発生前、水害発生中、及び水害発生後の各時点についてである、請求項7に記載の工場施設における水関連設備の水害リスク評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場施設における水関連設備の水害リスクとその対策を提示可能な工場施設における水関連設備の水害リスク対策作成システム、及び水害リスク評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本では豪雨の発生頻度、特に短時間の集中的な降雨による豪雨の発生頻度が上昇している。この豪雨は、浸水、洪水、土砂崩れを引き起こし、物的及び人的に多大な被害をもたらす。そこで、豪雨の状況や洪水等をシミュレーションしたり、あるいは評価したりするシステムが種々提案されている。
【0003】
しかしながら、上述したような豪雨の状況や洪水等のシミュレーション又は評価は、どの時間にどの程度の降雨があるか、現在の主要河川の水位はどの程度で、あとどのくらいで洪水が発生するか、浸水高さはどの地域でどの程度か、といった水害自体をシミュレート・評価するものがほとんどである。
【0004】
一方、各種工場では、水害発生時でも製造機器や電力システムなどの被害を最小限に抑え、長期間事業を停止することがないようBCP(事業継続計画)を策定することが行われており、製造機器や電力システムなどの水害対策が策定されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように各種工場では、製造機器や電力システムの水害対策がなされていることが多いが、半導体・電子産業工場やその他各種ボイラ設備や冷却設備を有する工場では、各種用水の製造装置、純水・超純水製造装置、ボイラ設備や冷却塔などの水関連設備で水を多く必要とする。また、排水処理システムや排水回収システムなども水関連設備が停止すると、基準を満たした水質の排水の放出ができなくなったり、汚泥の滞留を招いたりするため、結局、用水処理装置だけでなく、工場設備自体も停止せざるを得なくなる。このため、製造機器や電力システムが無事でも用水系、排水処理系、ボイラシステム、冷却水システムなどの水関連設備が停止すると、工場設備が稼働できず甚大な影響を受ける。
【0006】
そこで、各種水関連設備それぞれに対する水害リスク診断と対策が必要であるが、水関連設備は各種工場ごとに設備構成が異なるばかりか、設置場所などにより水害リスク診断と対策が異なるため水害リスク診断と対策の立案は困難である、という問題点がある。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、工場施設における水関連設備におけるBCP(事業継続計画)を立案するための、水害リスクとその対策を提示可能な工場施設における水関連設備の水害リスク対策作成システム、及び水害リスク評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的に鑑み、本発明は第一に、各種水関連設備ごとの水害時のリスク項目、前記リスク項目に対する確認項目、及び前記リスク項目における1又は2以上のリスク事象を記録したリスク情報データベースと、顧客の工場設備の水関連設備における各種水関連設備ごとの水害リスクを評価する演算部とを有する工場施設における水関連設備の水害リスク評価システムであって、前記演算部は、前記顧客の工場設備の水関連設備の構成と、この水関連設備のリスク項目に対するリスク情報データベースの確認項目との対比結果とに基づき、リスク情報データベースを検索して前記顧客の工場設備の水関連設備の水害リスクの評価を行う、工場施設における水関連設備の水害リスク対策作成システムを提供する(発明1)。
【0009】
かかる発明(発明1)によれば、顧客の工場設備の水関連設備の構成とこの水関連設備のリスク項目とを、前記リスク項目に対するリスク情報データベースの確認項目、及び前記リスク項目における1又は2以上のリスク事象を記録したリスク情報データベースに照合して、水関連設備の水害リスクを判断することで、顧客工場の水関連設備の構成に応じた水害リスクの評価を迅速かつ的確に行うことができる。
【0010】
上記発明(発明1)においては、前記演算部は、前記水関連設備のリスク項目に対する確認項目の確認結果に基づき、前記水害リスクの可能性の大小及び前記顧客工場及び水関連設備への影響の軽重を判断し、前記水害リスクの可能性の大小及び影響の軽重の判断に基づき水害リスクをランク分けして評価することが好ましい(発明2)。
【0011】
かかる発明(発明2)によれば、水害リスクの可能性の大小及び影響の軽重をランク分けして評価することにより、水害リスクをわかりやすく提示することができる。
【0012】
上記発明(発明2)においては、前記リスク情報データベースは、前記各リスク事象に対応して、それぞれ1又は2以上の改善項目データをさらに有しており、前記演算部は、前記水害リスクの評価結果のランク及び前記顧客の工場設備の水関連設備の構成に基づき、最適な改善策を前記1又は2以上の改善項目から選択することが好ましい(発明3)。
【0013】
かかる発明(発明3)によれば、リスク情報データベースに改善項目データを保有させることにより、各水関連設備の水害リスクのランクに応じて改善項目を選択して提示することにより、水害リスクの評価だけでなく対策も講じることができる。
【0014】
上記発明(発明3)においては、前記水害リスクの評価及び前記改善項目が、水害発生前、水害発生中、及び水害発生後の各時点についてであることが好ましい(発明4)。
【0015】
かかる発明(発明4)によれば、水害発生中や水害発生後のみならず、水害発生前の改善項目を提示することで、水害リスクを事前に低減することができる。
【0016】
また、本発明は第二に、顧客工場施設における水関連設備の水害リスクを評価する工場施設における水関連設備の水害リスク評価方法であって、各種水関連設備ごとの水害時のリスク項目、前記リスク項目に対する確認項目、及び前記リスク項目における1又は2以上のリスク事象をあらかじめ記録したリスク情報データベース作成工程と、顧客工場施設における水関連設備のリスク項目に対するリスク情報データベースの確認項目との対比結果とに基づき、確認項目と対応させる評価対象データの確認工程と、前記リスク情報データベースと評価対象データとを比較して、工場設備の水関連設備の水害リスクの評価を行う評価工程とからなり、前記評価工程は、前記評価対象データに基づき、リスク情報データベースを検索して該当するリスク事象を抽出し、この抽出したリスク事象に基づいて、前記顧客の工場設備の水関連設備の水害リスクの評価を行う、工場施設における水関連設備の水害リスク評価方法を提供する(発明5)。
【0017】
かかる発明(発明5)によれば、顧客工場施設における水関連設備のリスク項目を、これに対応するリスク情報データベースの確認項目、及び前記リスク項目における1又は2以上のリスク事象を記録したリスク情報データベースに照合して、水関連設備の水害リスクを判断することで、顧客工場の水関連設備の構成に応じた水害リスクの評価を迅速に行うことができる。
【0018】
上記発明(発明5)においては、前記評価工程は、前記水関連設備のリスク項目に対する確認項目の確認結果に基づき、前記水害リスクの前記顧客工場及び水関連設備への影響の軽重を判断し、前記影響の軽重の判断に基づき水害リスクをランク分けして評価することが好ましい(発明6)。
【0019】
かかる発明(発明6)によれば、水害リスクの可能性の大小及び影響の軽重をランクで評価することにより、水害リスクをわかりやすく提示することができる。
【0020】
上記発明(発明6)においては、前記リスク情報データベース作成工程において、リスク情報データベースにさらに前記各リスク事象に対応してそれぞれ1又は2以上の改善項目データを記録しておき、前記評価工程は、前記水害リスクの評価結果に基づき、最適な改善策を前記1又は2以上の改善項目から選択することが好ましい(発明7)。
【0021】
かかる発明(発明7)によれば、リスク情報データベースに改善項目データを保有させることにより、各水関連設備の水害リスクのランクに応じて改善項目を選択して提示することにより、水害リスクの評価だけでなく対策も講じることができる。
【0022】
上記発明(発明7)においては、前記評価工程における前記水害リスクの評価及び前記改善項目が、水害発生前、水害発生中、及び水害発生後の各時点についてであることが好ましい(発明8)。
【0023】
かかる発明(発明8)によれば、水害発生中や水害発生後のみならず、水害発生前の改善項目を提示することで、水害リスクを事前に低減することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の工場施設における水関連設備の水害リスク対策作成システムによれば、各種水関連設備ごとの水害時のリスク項目、前記リスク項目に対する確認項目、及び前記リスク項目における1又は2以上のリスク事象を記録したリスク情報データベースを作成し、このリスク情報データベースのデータと顧客の工場設備の水関連設備の構成と、この水関連設備のリスク項目に対する確認項目の確認結果とを照合することにより、水関連設備の水害リスクを判断することで、顧客工場の水関連設備の構成に応じた水害リスクの評価を迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係る工場施設における水関連設備の水害リスク対策作成システムを概念的に示す図である。
図2】上記実施形態における水害リスク対策作成システムのリスク情報データベースの情報の構成を概略的に示す図である。
図3】リスク情報データベースにおける水関連設備の一要素である冷却塔の情報の一例を示す図である。
図4】上記実施形態における水害リスク対策作成システムの評価及び対策算定プロセスを示すフロー図である。
図5】上記実施形態における水害リスク診断チェックシートの一例を示す図である。
図6】上記実施形態における水害リスク診断レポートの一例を示す図である。
図7】上記実施形態における水害リスク低減方法(水害リスク対策)の一例を示す図である。
図8】上記実施形態における水害リスク診断結果(水害リスク評価)の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の工場設備における水関連設備の水害リスク対策作成システムの一実施形態について添付図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態を示したものであり、本発明の範囲がこれらの実施形態に限定されることはない。
【0027】
[水害リスク対策作成システム]
図1は、本実施形態の水関連設備の水害リスク対策作成システムを概念的に示している。図1において、水関連設備を構成する水処理システムの水害リスク対策作成システム1は、水関連設備を構成する個別の水処理システムごとに分類して、リスク項目やリスク対応などを記録した水処理システムのリスク情報データベース2と、このリスク情報データベース2の情報に対してアクセス可能な演算部3とからなる。この演算部3は、顧客(クライアント:CL)から提供される水関連設備の水害リスク診断チェックシートに基づく顧客リスク情報に基づいて、リスク情報データベース2の情報から同一または近似するリスク項目を選択し、現在のリスク状態を診断するとともに、リスク低減方法を提供する。本実施形態の水関連設備の水害リスク対策作成システム1では、リスク情報データベース2と演算部3とは、それぞれの機能がコンピュータなどの電子計算機に格納されており、この水害リスク対策作成システム1と通信可能な携帯端末4を介して、顧客CLの水害リスク診断チェックシートに基づく顧客リスク情報を入力すると、演算部3でリスク情報データベース2とデータ照会可能となっている。
【0028】
(水処理システムのリスク情報データベース)
水処理システムのリスク情報データベース2には、例えば図2に示すように既設の各種水関連設備としての水処理システムのシステム分類と、このシステム分類ごとの水害時のリスク項目を列挙し、これらリスク項目に対して、豪雨との関連性、確認項目としてのチェック項目(基準値)及びリスク項目が基準を超えたときの事象(リスク事象)が記録されている。さらに、この水処理システムのリスク情報データベース2には、改善項目データとして、上記各リスク事象に対応して、基準値の超過を防ぐための行動((1)早期復旧、(2)操業維持)、BCP対応、生産管理(現場対応)、重大度及び発生頻度をそれぞれ関連づけて記録している。
【0029】
<システム分類>
システム分類には、各種水関連設備を構成する水処理システムごとに分類する。例えば、「用水」、「排水」、「冷却塔」、「ボイラ」などである。
【0030】
<リスク項目>
リスク項目には、それぞれの水処理システムにおいて、水害時のリスクとなりうる事項を列挙して記録する。
【0031】
<豪雨との関連性>
それぞれのリスク項目が豪雨によりどのような事業場の影響が出るかを、例えば、「早期復旧」、「操業維持」などを記録する。
【0032】
<チェック項目>
それぞれのリスク項目において、リスク発生の有無を判断する事項を記録する。また、可能であれば、それぞれのチェック項目の事象において、リスク発生の有無を判断する基準値を記録する。
【0033】
<リスク項目が基値を超えたときの事象>
前述したそれぞれの基準値を超過したときにリスク項目において発生するリスク事象を記録する。
【0034】
<基準値超過を防ぐための行動>
前述した基値を超えたときの事象を忌避するために、改善項目データとして、それぞれのチェック項目の基準値の超過を防止する行動を、(1)早期復旧、(2)操業維持のいずれか一方又は両方について記録する。
【0035】
<BCP対応>
BCP(事業継続計画)への影響上対応が必要な事象に、「〇」を付して記録する。
【0036】
<生産管理(現場対応)>
基準値超過を防ぐために管理すべき水処理システムと、その対応を行う現場を記録する。
【0037】
<重大度>
基準値を超過したときの水処理システムの運転への影響が大きい順に「大」、「中」、「小」にランク分けして記録する。
【0038】
<発生頻度>
基準値を超過する事象が発生しやすい順に「高」、「中」、「低」にランク分けして記録する。
【0039】
例えば、水処理システムのシステム分類が「ボイラ」の場合には、図3に示すようなデータシートにデータを蓄積し、これを「用水」、「排水」、「ボイラ」などの各水処理システムについてそれぞれ作成し、統合することで水処理システムのリスク情報データベース2とする。
【0040】
[水害リスク評価方法]
演算部3は、上述した水処理システムのリスク情報データベース2の情報に基づき、図4に示すような流れで顧客CLの工場施設における水関連設備の水害リスク評価及び対策を策定する。以下、策定フローに基づいて詳述する。
【0041】
<リスク情報データベースの作成>
はじめに、すでに保有している水処理システムのリスクに関する知見や、顧客CLの工場施設における水関連設備の情況調査や顧客CLからの聞き取り調査により、上述したリスク情報データベース2の各項目を入力することで、リスク情報データベース2をあらかじめ作成しておく。
【0042】
<水関連設備の水害リスク診断チェックシートの作成と情報取得工程>
まず、水処理システム対応について顧客CLから相談を受けたら、顧客CLにヒアリングするなどして、図5に示すような水害リスク診断チェックシートを作成し、この水害リスク診断チェックシートのデータを、携帯端末4を介して入力して演算部3に情報を送信することで、情報を取得する(情報取得工程)。この水害リスク診断チェックシートは、各種水関連設備を構成する水処理システム、例えば、「用水」、「排水」、「冷却塔」、「ボイラ」などのそれぞれに対して、「大分類」、「中分類」、「小分類」に細分化する。ここで、「大分類」は、水質、装置などの包括的項目であり、「中分類」は水処理システムのリスク情報データベース2の「リスク項目」に相当するものであり、「小分類」は水処理システムのリスク情報データベース2の「基準値超過を防ぐための行動」を実施するための基準値を判断するための手段等であり、この「小分類」についての現時点での対策状況を「診断ポイント」に記入する。なお、顧客CLの水関連設備を構成する各水処理システムの装置の構成(フロー)についてもあらかじめ入手しておくことが望ましい。
【0043】
この水害リスク診断チェックシートの入力と情報取得工程とは、携帯端末4の画面に水害リスク診断チェックシートを表示して、この画面に入力することで演算部3の情報取得工程と同時に行ってもよいし、紙媒体などに印刷した水害リスク診断チェックシートに顧客CLに記載してもらい、これを携帯端末4に転記することで演算部3の情報取得工程としてもよい。
【0044】
<各リスク項目の確認工程>
水害リスク診断チェックシートのデータを入力したら、演算部3は、この入力情報の「中分類」は水処理システムのリスク情報データベース2の「リスク項目」に対応させるとともに「小分類」は水処理システムのリスク情報データベース2の「基準値超過を防ぐための行動」を実施するための基準値を判断するための手段に対応させるように顧客CLからの情報を整理する(情報整理工程)。続いて、演算部3は、これらの整理した情報をリスク情報データベース2と対比することで、水害リスク診断チェックシートの各リスク項目の確認を行う(確認工程)。例えば、水害リスク診断チェックシートの「中分類」をリスク情報データベースの「リスク項目」と対比するとともに、「小分類」をリスク情報データベース2の「基準値超過を防ぐための行動」と対比する。
【0045】
<軽重判断工程>
さらに、演算部3は、この各リスク項目のリスク状況から顧客CLの工場施設における水関連設備への影響の軽重を判断する。
【0046】
<水害リスク評価工程及び結果の出力>
続いて、演算部3は、これら確認工程の結果、好ましくはさらに軽重判断工程の結果に基づき、水害リスクの評価を行う(水害リスク評価工程)。
【0047】
そして、この評価結果と水処理システムのリスク情報データベース2とを再度比較して、評価結果が適切か否かを判断する。そして、適切でない場合には、確認工程における、顧客工場設備における水害リスク診断チェックシートの「中分類」とリスク情報データベース2の「リスク項目」との対比関係、及び/又は「小分類」をリスク情報データベース2の「基準値超過を防ぐための行動」との対比関係を見直し、この見直した結果に基づき各リスク項目影響の軽重を判断するとともに、水害リスクの評価をやり直し、適切な評価結果が出るまでこれを繰り返す。
【0048】
一方、評価結果が適切な場合には、この結果を、例えば、診断レポートとして出力する。この診断レポートは、携帯端末4の画面で顧客CLに提示してもよいし、紙媒体などに出力して顧客CLに提示してもよい。
【0049】
この診断レポートは、例えば、水害発生前の診断であれば、図6に示すように「用水」、「排水」、「冷却塔」、「ボイラ」などのそれぞれに水処理システムにおける「中分類」(リスク項目)に対する「予測値」(水害発生前予測値)、点数(水害発生前予測)、発生確率、判断基準を出力する。なお、図6に示す診断レポートは、水害リスクを事前に低減することを目的としたものであるが、水害発生中や水害発生後についても同様に改善項目の診断レポートを提示することで、水害リスクを事前に低減することができる。
【0050】
ここで、「予測値」は、「〇」:予測可能、「×」:予測不能などでランク分けして評価する。「発生確率」は、汎用的な各種リスクの算出法を適用することができるが、例えば、「予測値」と「発生頻度」とから水害に対する脆弱性に関連する「発生予測点数」を決定し、この「発生予測点数」とその水関連設備が設置されている地域の今後10年以内に豪雨が発生する確率(豪雨確率)とを用いて、算出することができる。さらに「判断基準」は、これら「予測値」(水害発生前予測値)、点数(水害発生前予測)及び発生確率に基づいて、総合的に判断する。
【0051】
<重要リスクの抽出と優先順位付け>
このようにして診断レポートを結果として出力したら、演算部3は、前述した診断レポートの軽重判断工程における軽重判断結果と、判断基準とから重要なリスクを抽出する(重要リスク抽出工程)。続いて、演算部3は、この抽出された重要リスクに対して、発生頻度を考慮に入れてリスクの評価を優先順位付けとして行う(リスクの優先順位付け工程)。
【0052】
<改善策の選択と出力>
続いて、演算部3は、リスクの優先順位が上位なものから順に、リスク情報データベース2の改善項目である「基準値超過を防ぐための行動」から選択し、これを改善策とする(改善策選択工程)。そして、これらの改善策を水処理システム分類ごとにまとめて「リスク低減策」として出力する。また、簡易レポートして、「リスク診断結果」を出力してもよい。
【0053】
(リスク低減策)
リスク低減策は、例えば、図7に示すように「用水」、「排水」、「冷却塔」、「ボイラ」などのそれぞれに水処理システムについて、「リスク項目」、「チェック項目」、「リスク項目が基値を超えたときの事象」に対応して「基準値超過を防ぐための行動」(対策)を関連付け、その対策の実施状況のチェック欄を設ける。
【0054】
(リスク診断結果)
リスク診断結果は、例えば、図8に示すように「用水」、「排水」、「冷却塔」、「ボイラ」などのそれぞれに水処理システムについて、「水質」、「装置」、「緊急水源」、「貯水設備」の観点で、優先度(≒リスク)の低い順に◎:(リスク上の問題なし)、○:(リスク上の問題はほとんどなし)、△:(リスク上懸念される問題あり)、×:(リスク上の問題あり)などにランク分けして評価し、評価が○、△、×のそれぞれについては、改善策を提案するととともに、その重要度を「大」、「中」、「小」などにランク分けして表記する。そして、水処理システムの項目の欄には、水処理システムのそれぞれの評価を「◎=3点」、「○=2点」、「△=1点」、及び「×=0点」とした場合に評価項目の数で平均して、「3点=S」、「2点以上3点未満=A」、「1点以上2点未満=B」及び「0点以上1点未満=C」などにランク分けして総合評価を記す。このように水処理システムの水害リスクをランク分けして評価するとともに重要度や総合評価もランク分けして評価することにより、顧客CLに対して、改善策の必要性をわかりやすくアピールすることができる。
【0055】
<報告書類作成>
最後に、これまでの検討結果について、「用水」、「排水」、「冷却塔」、「ボイラ」などの各水処理システムについてそれぞれまとめて報告書を作成する。この報告書は、例えば、水処理システムが「用水」の場合には、用水系のシステムフローを必要に応じて例示し、「水害時のリスク項目」、「豪雨との関連性」、「チェック項目」、「基準値」、「リスク項目が基準を超えたときの事象」、「基準値超過を防ぐための行動((1)早期復旧、(2)操業維持)」、「BCP対応」、「生産管理(現場対応)」、「予測値」(水害発生前予測値)、点数(水害発生前予測;重大度)、発生確率、目標値(判断基準)、低減方法について、それぞれ水処理システムのリスク情報データベース2と対応させて表示すればよい。ここで、「低減方法」は、「改善策」のことであり、(1)早期復旧、(2)操業維持の視点で分けていずれか一方又は両方を記載する。
【0056】
このようにして顧客CLの工場施設における水関連設備の水害リスクを評価し、対策を提示することができる。
【0057】
以上、本実施形態の工場施設における水関連設備の水害リスク対策作成システム、及び水害リスク評価方法について説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されず、種々の変更実施が可能である。例えば、水処理システムのリスク情報データベース2の項目は、上記実施形態に限定されず、種々の他の項目を追加したり入れ替えたりすることができる。また、水処理システムのリスク情報データベース2は、人為的に計算した仮想の施工案件データを含んでいてもよい。あるいは、水処理システムのリスク情報データベース2のデータがある程度増加したら、これらの水処理システムリスク対応データを教師案件データとして、AIなどを用いて機械学習することにより、オリジナルなデータを作成して、水処理システムのリスク情報データベース2を補強してもよい。なお、図2にリスク情報データベース2は、あくまでもデータベースを概念的に図示したものであり、これに限定されるものでないことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0058】
1 水関連設備の水害リスク対策作成システム
2 水処理システムのリスク情報データベース(リスク情報データベース)
3 演算部
4 携帯端末
CL 顧客(クライアント)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8