(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038641
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】触覚電気刺激装置及び触覚電気刺激方法
(51)【国際特許分類】
G06F 3/01 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
G06F3/01 560
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142820
(22)【出願日】2022-09-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、研究領域「人とインタラクションの未来」、研究題目「経皮電気刺激による感覚編集インタフェースの構築」、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】青山 一真
(72)【発明者】
【氏名】荻原 秀斗
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 智浩
(72)【発明者】
【氏名】葛岡 英明
(72)【発明者】
【氏名】鳴海 拓志
【テーマコード(参考)】
5E555
【Fターム(参考)】
5E555AA08
5E555BA38
5E555BB38
5E555BC04
5E555BE17
5E555CA50
5E555CB45
5E555DA24
5E555DD06
5E555FA00
(57)【要約】
【課題】ユーザの動きに干渉することなく、様々な位置で触覚を誘導することができる触覚電気刺激装置及び触覚電気刺激方法を提供する。
【解決手段】触覚電気刺激装置20は、人の関節の周りに配置される複数の陰極電極Eと、人に配置される陽極電極24と、陰極電極の各々に電気信号を出力する信号出力部22とを備え、陰極電極の各々に電気信号を出力することにより関節を通る神経束に電気刺激を発生させ、当該電気刺激により、電気信号を出力した陰極電極位置よりも中枢神経から遠い位置に触覚を誘導する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の関節の周りに配置される複数の陰極電極と、
前記人に配置される陽極電極と、
前記陰極電極の各々に電気信号を出力する信号出力部と
を備え、
前記陰極電極の各々に電気信号を出力することにより前記関節を通る神経束に電気刺激を発生させ、当該電気刺激により、前記電気信号を出力した陰極電極位置よりも中枢神経から遠い位置に触覚を誘導する、触覚電気刺激装置。
【請求項2】
前記陽極電極は、前記複数の陰極電極よりも中枢神経に近い位置に配置される、請求項1に記載の触覚電気刺激装置。
【請求項3】
前記関節は、少なくとも手首の関節、足首の関節、手指の関節、及び足指の関節のうちの1つである、請求項1に記載の触覚電気刺激装置。
【請求項4】
前記関節は、少なくとも肘、肩、膝の関節のうちの1つである、請求項1に記載の触覚電気刺激装置。
【請求項5】
前記電気信号の電流量及び/又は持続時間を設定する信号制御部をさらに備える、請求項1に記載の触覚電気刺激装置。
【請求項6】
前記複数の陰極電極の位置は、前記関節を通る神経束内の電流密度分布に基づいて決定される、請求項1に記載の触覚電気刺激装置。
【請求項7】
前記信号出力部と前記陰極電極の各々とはスイッチを介して接続され、前記スイッチのオン・オフを制御する信号制御部をさらに備える、請求項1に記載の触覚電気刺激装置。
【請求項8】
前記信号出力部を複数備える、請求項1に記載の触覚電気刺激装置。
【請求項9】
人の関節の周りに配置される複数の陰極電極と、人に配置される陽極電極とを備える触覚電気刺激装置が、
前記陽極電極と前記複数の陰極電極のうちの各々との間に出力する電気信号の電流量を設定することと、
前記陽極電極と前記複数の陰極電極のうちの各々との間に前記電気信号を出力することと
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触覚電気刺激装置及び味覚電気刺激方法に関する。
【背景技術】
【0002】
経皮的電気神経刺激は、電気刺激によって触覚を誘導する技術として知られている。バーチャルリアリティやヒューマンコンピュータインタラクションの分野において、電気神経刺激による触覚提示デバイスの開発が行われている。例えば、拡張現実の分野で触覚提示デバイスを利用する場合、ユーザは仮想オブジェクトだけでなく実際のオブジェクトとも相互作用するので、触覚提示デバイスが指等の対話部位を覆うことなく触覚を誘導する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】MiM Taylor and C Douglas Creelman, Pest: Efficient estimates on probability functions, The Journal of the Acoustical Society of America, 41(4A):782-787, 1967.
【非特許文献2】Jacob O Wobbrock, Leah Findlater, Darren Gergle, and James J Higgins, The aligned rank transform for nonparametric factorial analyses using only anova procedures, In Proceedings of the SIGCHI conference on human factors in computing systems, pages 143-146, 2011.
【非特許文献3】PA Hasgall, F Di Gennaro, C Baumgartner, E Neufeld, B Lloyd, MC Gosselin, D Payne, A Klingenbock, and N Kuster, It'is database for thermal and electromagnetic parameters of biological tissues. Version 4.0, 2018.
【非特許文献4】Abhishek Datta, Varun Bansal, Julian Diaz, Jinal Patel, Davide Reato, and Marom Bikson, Gyri-precise head model of transcranial direct current stimulation: improved spatial focality using a ring electrode versus conventional rectangular pad, Brain stimulation, 2(4):201-207, 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、指の両側面を走る2本の求心性神経の各々に沿って当接される2個の刺激電極と、2個の刺激電極よりも掌側に当接される1個のアース電極と、刺激電極の各々に、刺激電極端子の各々に対応する波高と周波数の少なくとも一方を制御した所定の電気信号を与える電気信号発生部とを有しており、刺激電極の各々に電気信号を与えることにより、2本の求心性神経に電気刺激を発生させ、電気刺激により、指の末節位置に触覚を生じさせることを特徴とする空間透明型触覚提示装置が開示されている。
【0006】
特許文献1に記載の空間透明型触覚提示装置では、電気刺激位置とは異なる指の末節位置に触覚を知覚させることができ、オブジェクトとの対話部位である指は覆われていない。しかしながら、特許文献1に記載の空間透明型触覚提示装置では電極が指の動きを妨害するおそれがあり、また、知覚させる触覚の位置は指の特定の位置に限られていた。
【0007】
そこで、本発明は、ユーザの動きに干渉することなく、様々な位置で触覚を誘導することができる触覚電気刺激装置及び触覚電気刺激方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る触覚電気刺激装置は、人の関節の周りに配置される複数の陰極電極と、人に配置される陽極電極と、陰極電極の各々に電気信号を出力する信号出力部とを備え、陰極電極の各々に電気信号を出力することにより関節を通る神経束に電気刺激を発生させ、当該電気刺激により、電気信号を出力した陰極電極位置よりも中枢神経から遠い位置に触覚を誘導する。
【0009】
この態様によれば、触覚電気刺激装置は、軽量で小型の電極を関節に配置することで、ユーザの動きに干渉することなく、様々な位置で触覚を誘導することができる。触覚電気刺激装置は、ユーザが実際のオブジェクトと対話していない場合だけでなく、ユーザが実際のオブジェクトと対話している場合にも触覚を生じさせ、オブジェクトの手触りや質感を変化させることができる。さらに、触覚電気刺激装置は、配置された複数の陰極電極のうちの1つを選択して刺激することで、刺激した陰極電極位置に応じて高精度に制御される位置に触覚を誘導することができる。
【0010】
上記触覚電気刺激装置において、陽極電極は、複数の陰極電極よりも中枢神経に近い位置に配置されてもよい。この態様によれば、利用局面に応じて最適な位置に陽極電極を配置することができる。
【0011】
上記触覚電気刺激装置において、関節は、少なくとも手首の関節、足首の関節、手指の関節、及び足指の関節のうちの1つであってもよい。この態様によれば、手首又は足首よりも中枢神経に近い部位に誘導される触覚を低減しながら、所望の手や足の位置に触覚を誘導することができる。
【0012】
上記触覚電気刺激装置において、関節は、少なくとも肘、肩、膝の関節のうちの1つであってもよい。この態様によれば、触覚電気刺激装置は、利用局面に応じて最適な部位に陰極電極を配置することができる。
【0013】
上記触覚電気刺激装置において、電気信号の電流量及び/又は持続時間を設定する信号制御部をさらに備えてもよい。この態様によれば、触覚電気刺激装置は、利用局面に応じて最適な電流量及び/又は持続時間を設定することができる。
【0014】
上記触覚電気刺激装置において、複数の陰極電極の位置は、関節を通る神経束内の電流密度分布に基づいて決定されてもよい。この態様によれば、触覚電気刺激装置は、関節を通る神経束内の電流密度分布に応じて誘導される所望の位置に触覚を生じさせることができる。
【0015】
上記触覚電気刺激装置において、信号出力部と陰極電極の各々とはスイッチを介して接続され、スイッチのオン・オフを制御する信号制御部をさらに備えてもよい。この態様によれば、触覚電気刺激装置は、複数の陰極電極の中から刺激する陰極電極を容易に制御することができる。
【0016】
上記触覚電気刺激装置において、信号出力部を複数備えてもよい。この態様によれば、触覚電気刺激装置は、複数の陰極電極の2以上の陰極電極を同時に刺激することができる。
【0017】
本発明の他の態様に係る方法は、人の関節の周りに配置される複数の陰極電極と、人に配置される陽極電極とを備える触覚電気刺激装置が、陽極電極と複数の陰極電極のうちの各々との間に出力する電気信号の電流量を設定することと、陽極電極と複数の陰極電極のうちの各々との間に前記電気信号を出力することとを含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ユーザの動きに干渉することなく、様々な位置で触覚を誘導することができる触覚電気刺激装置及び触覚電気刺激方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る触覚電気刺激装置の構成図である。
【
図3】実験1の各条件における陰極電極の位置を示す図である。
【
図4】手の領域と手以外の腕の領域とを示す図である。
【
図5a】実験1の各条件の触覚の領域と最大感覚点とを示す図である。
【
図5b】実験1の各条件の触覚の領域と最大感覚点とを示す図である。
【
図6a】実験1の各条件の触覚の領域サイズを示す図である。
【
図6b】実験1の各条件の触覚の領域サイズを示す図である。
【
図7a】実験1の各条件の最大感覚点のx方向の座標位置を示す図である。
【
図7b】実験1の各条件の最大感覚点のy方向の座標位置を示す図である。
【
図7c】実験1の各条件の最大感覚点のz方向の座標位置を示す図である。
【
図8】実験2の各条件における陰極電極の位置を示す図である。
【
図9】実験2の3Dモデルの座標系を示す図である。
【
図10】実験2のシミュレーションの各条件の尺骨神経、正中神経、橈骨神経の横断面上の電流密度分布を示す図である。
【
図11】実験2の各条件の触覚の領域と最大感覚点とを示す図である。
【
図12】実験2の各条件の触覚の領域サイズを示す図である。
【
図13】実験2の各条件の最大感覚点の位置を示す図である。
【
図14b】実験2の各条件の最大感覚点のx方向の座標位置を示す図である。
【
図14c】実験2の各条件の最大感覚点のy方向の座標位置を示す図である。
【
図14d】実験2の各条件の最大感覚点のz方向の座標位置を示す図である。
【
図15】実験3の各条件における陰極電極の位置を示す図である。
【
図16】本発明の一実施形態に係る触覚電気刺激装置の概要を示す図である。
【
図17】実験3の各条件の触覚の領域と最大感覚点とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。さらに、当業者であれば、以下に述べる各要素を均等なものに置換した実施形態を採用することが可能であり、係る実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【0021】
(概要)
図1を用いて、本発明の概要について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る触覚電気刺激装置の構成図である。触覚電気刺激装置20は、被験者1の体表(皮膚)から神経を電気的に刺激する装置であり、信号制御部21及び信号出力部22を備える。
【0022】
信号制御部21は、後述の信号出力部22から出力される電気信号の電流量、持続時間を設定する。また、信号制御部21は、後述のスイッチSWのオン・オフを制御する。信号出力部22は、信号制御部21の設定に基づいて、陽極電極24と陰極電極Eとの間に電気信号を出力する。
【0023】
信号出力部22の正極端子には導線23が接続され、その先端に陽極電極24が設けられている。陽極電極24は、被験者1の身体部位の適所に配置可能であり、後述の陰極電極Eの配置位置に応じて調整して配置される。また、信号出力部22の負極端子には導線25が接続されている。導線25は、スイッチSWを介して複数の陰極電極Eのうちの所望の陰極電極Eに接続可能である。
図1では、10個の陰極電極Eが示されているが、他の任意の数の陰極電極Eを用いることができる。なお、陰極電極Eと信号出力部22の負極端子との間に用いられるスイッチは、トランジスタ、リレー等、任意のスイッチを採用することができる。
【0024】
(1)実験1:神経束刺激によって誘導される触覚に対する電極位置の影響
神経が皮膚表面近くを走る手首、肘、上腕に配置した電極のうちのいずれかを刺激した場合に、誘導される触覚の領域を測定した。
図2は、手の神経束の神経支配を示す図である。
【0025】
(1-1)実験方法
手順1:初めに、非特許文献1に開示されるパラメータ推定法(PEST法)により、電気刺激に応じて手に触覚を感じるかどうかを繰り返し被験者1に答えさせることによって被験者毎の電流強度の閾値(T)を決定した。電気刺激の持続時間は1000msで、PEST法の各パラメータは、初期電流強度(0.25mA)、初期電流ステップ(0.375mA)、ステップ減少率(0.7)、最小電流ステップ(0.13mA)に設定した。
【0026】
手順2:
図3に示す6か所の電極位置に配置した電極Eのそれぞれについて、手順1で決定した閾値(T)を用いて設定した5つの刺激電流値条件(閾値(T)の電流強度、閾値(T)の1.4倍の電流強度、閾値(T)の(1.4)
2倍の電流強度、閾値(T)の(1.4)
3倍の電流強度、最大電流強度)で1回ずつ、各被験者に対して合計30回の試験を実施した。
【0027】
実験参加者は11人の成人であり、体に電気を流すことを実験前に十分に説明し、合意の上で実験を行った。なお、最大電流強度は、安全性の観点や被験者に不快感を与えない観点から、5mAに設定した。本実施形態では、触覚電気刺激装置20は、刺激波形として、刺激電流値まで直線的に増加し、刺激電流値を2000ms保持する台形波を用いた。
【0028】
手順3:触覚電気刺激装置20により被験者1に電気刺激を与えた際に、被験者1が感じた触覚の領域と最も触覚が強い最大感覚点とを記述するよう、被験者1に指示した。
【0029】
本実施形態では、被験者1に入力ペンを介して触覚の領域と最大感覚点とを記述させるために、事前に
図4に示されるような、左上腕から指先までの三次元ビューと陰極電極Eの位置とを含むビューを表示可能なソフトウェアを用いた。なお、
図4で示されるように、三次元ビューは、内部的に手の領域と手以外の腕の領域とに区分されており、手の平面図の領域は67177ピクセル、腕の平面図の領域は235510ピクセルで構成されている。当該ソフトウェアは、領域モードと最大感覚点モードの2つの描画モードを有する。領域モードでは、被験者1は表示された三次元ビュー上に、触覚の領域を描画することができ、最大感覚点モードでは、被験者1は表示された三次元ビュー上に、最も触覚が強い最大感覚点をプロットすることができる。
【0030】
(1-2)実験結果
図5に、各条件の触覚の領域と最大感覚点とを示す。
図5中のTは、手順1で決定した閾値(T)である。各電極位置での平均閾値は、E-MWが1219(±277)μA、E-MEが2128(±587)μA、E-MUが2457(±873)μA、E-UWが2081(±490)μA、E-UEが1156(±257)μA、E-UUが2112(±264)μAである。
【0031】
図6(a)、(b)は、各条件の触覚の領域サイズを示す。
図6(a)は腕の触覚の領域を示し、
図6(b)は手の触覚の領域を示している。
図6において、横軸は電流値を示し、縦軸は触覚の平均領域サイズを示す。図中のプロットは被験者間の平均値であり、エラーバーは、標準誤差を示している。
【0032】
正規分布に従わないデータについて交互作用を検証するために、出願人らは、非特許文献2に記載の整列ランク変換を事前に腕の触覚の領域サイズ及び手の触覚の領域サイズに適用し、2要因の分散分析(analysis of variance:ANOVA)を実施した。腕に関するANOVAの結果は、電極位置因子(F (5,50)=63.52, p<.001, ηp
2=0.23)、電流値因子(F (4,40)=23.72, p<.001, ηp
2=0.28)及び交互作用効果(F (20,200)=5.11, p<.001, ηp
2=0.29)で有意な主効果を示した。手に関するANOVAの結果も、電極位置因子(F (5,50)=15.13, p<.001, ηp
2=0.23)、電流値因子(F (4,40)=52.18, p<.001, ηp
2=0.45)及び相互作用効果(F (20,200)=1.99, p=0.008, ηp
2=0.14)で有意差を示した。
【0033】
図7(a)、(b)、(c)は、各条件の最大感覚点のx、y、z方向の座標位置を示す。
図7に示されるように、x軸は親指方向をプラス、小指方向をマイナスとし、手首中央を0としている。y軸は手方向をプラス、腕方向をマイナスとし、手と腕との境界を0としている。z軸は掌方向をプラス、手の甲方向をマイナスとし、手首中央を0としている。
図7において、横軸は陰極位置を示し、縦軸は触覚のx、y、z方向の座標位置を示す。図中のプロットは被験者間の平均値であり、エラーバーは、標準誤差を示している。
【0034】
正規分布に従わないデータについて交互作用を検証するために、出願人らは、非特許文献2に記載の整列ランク変換を事前にx、y、z方向の座標位置に適用し、ANOVAを実施した。x座標に関するANOVAの結果は、電極位置因子(F (5,50)=76.55, p<.001, ηp
2=0.60)で有意差を示したが、電流値因子(F (4,40)=0.20, p=0.94, ηp
2=0.003)と相互作用効果(F (20,200)=0.60, p=0.91, ηp
2=0.046)では有意差は示されなかった。Holm法による電極位置因子の多重比較検定においては、E-MWとE-MUの間、及びE-UEとE-UWの間以外のすべての組み合わせの間で有意差(ps<.05)があることが示された。
【0035】
y座標に関するANOVAの結果は、電極位置因子(F (5,50)=13.34, p<.001, ηp
2=0.21)で有意差を示したが、電流値因子(F (4,40)=1.42, p=0.23, ηp
2=0.022)と相互作用効果(F (20,200)=0.42, p=0.99, ηp
2=0.033)では有意差は示されなかった。Holm法による電極位置因子の多重比較検定においては、E-MWと残りの条件の間、及びE-UUとE-UEの間で有意差(ps<.05)があることが示された。
【0036】
z座標に関するANOVAの結果は、電極位置因子(F (5,50)=7.53, p<.001, ηp
2=0.13)で有意差を示したが、電流値因子(F (4,40)=1.92, p=0.11, ηp
2=0.030)と相互作用効果(F (20,200)=0.59, p=0.92, ηp
2=0.045)では有意差は示されなかった。Holm法による電極位置因子の多重比較検定においては、E-MWとE-UUの間、E-MWとE-MEの間、E-MEとE-UEの間、E-MUとE-UEの間、E-UWとE-UEの間、及びE-UEとE-UUの間で有意差(ps<.05)があることが示された。
【0037】
(1-3)考察
図5及び
図6(a)、(b)は、電気刺激により誘導される触覚の領域サイズが、刺激電流値強度に従って増加することを示す。また、腕の触覚の面積は、手首を刺激した条件が他の条件と比較して小さかった。
【0038】
図5及び
図7(a)、(b)、(c)は、陰極電極位置がE-MU、E-ME、E-MWである正中神経刺激が、親指側の触覚を誘導し、陰極電極位置がE-UU、E-UE、E-UWである尺骨神経刺激が、小指側の触覚を誘導することを示す。また、最大感覚点のy座標は、手首を刺激した条件が他の条件と比較して大きかった。
【0039】
誘導される領域の観点から、手に触覚を提供する場合、腕に誘導される触覚を低減するために、刺激位置として手首を用いることが好ましいと考えられる。また、最大感覚点の観点からも、上腕刺激及び肘刺激では前腕又は手首付近に最大感覚点があるのに対して、手首刺激では手に最大感覚点があるので、手に触覚を提供する場合、刺激位置として手首を用いることが好ましいと考えられる。
【0040】
(2)実験2:手首の多電極刺激による触覚の位置制御
手に誘導される触覚の位置をより細かく制御するために、手首の周りに複数の陰極電極を配置し、刺激位置により、手の触覚を神経支配する3つの神経束、すなわち、尺骨神経、正中神経、橈骨神経の各々内の電流密度分布を変化させることで、誘導される触覚の位置制御を試みる。
【0041】
(2-1)事前シミュレーション
実験に先立ち、尺骨神経、正中神経、橈骨神経の各神経束内の電流密度分布を変えるために、3Dモデルの手首の周りに、
図8に示すE1~E13の計13個の陰極電極を配置し、各陰極電極を刺激した際の各神経束の電流密度分布をシミュレーションした。陽極電極は、尺骨茎状突起の上に配置した。表1に、3Dモデルに配置した各電極の座標位置を示す。座標位置は、皮膚と接している電極表面の中心位置の座標である。ここで、
図9に示すように、x軸は身体の左右中心を0としている。y軸は足の裏を0としている。z軸は身体の前後中心を0としている。
【0042】
【0043】
3Dモデルは、固有の男性のMRI及びCTのデータに基づいて構築した。続いて、
図8に示すように、構築した3Dモデルから左手と左腕の部分を抜き出し、3Dモデルの要素を、骨、軟骨、血管、皮膚、筋肉、正中神経の分枝、尺骨神経、橈骨神経、前方へ走る橈骨神経の分枝、及び他の神経を含む10のグループに分類した。その後、血管内の充満領域を血液と分類し、残りの領域を内部組織と分類した。
【0044】
シミュレーションにはCOMSOL Multiphysicsを用い、表2に示すように、3Dモデルの要素ごとに導電率を割り当てた。これらの導電率は、非特許文献3に記載のIT’IS Foundationのデータベース及び経頭蓋直流電流刺激をシミュレートした非特許文献22の研究に基づいて定義した。
【0045】
【0046】
(2-2)シミュレーション結果
図10(a)は、E1、E5及びE9の座標によって形成される平面で手首を切断したときの、尺骨神経、正中神経、橈骨神経の横断面上の電流密度分布を示す。右側の色分布に示されるように、赤色が高い電流密度を示し、青色が低い電流密度を示し、緑色や黄色が中央付近の電流密度を示す。なお、電流密度が0.12 A/m
2を超える部分は赤色で示されている。
【0047】
シミュレーションの結果、各神経束に形成される電流密度分布は、刺激する陰極電極の位置に依存することが分かった。さらに、電流密度の高い領域は、陰極電極の近くに位置している。例えば、
図10(a)には、E1~E4のいずれかを刺激した条件下では、これらの電極の近くに位置する橈骨神経上の電流密度が緑色から赤色で示されており、橈骨神経により高い電流密度分布が見られた。一方、E5~E10のいずれかを刺激した条件下では、正中神経及び尺骨神経上の電流密度が水色から赤色で示されており、正中神経及び尺骨神経に高い電流密度分布が見られた。
【0048】
全体として、刺激される陰極電極の条件により、電流密度分布の違いが観察された。なお、E11~E13のいずれかを刺激した条件下では、いずれの神経束上にも高い電流密度領域は存在しなかった。このシミュレーションにより、各神経束に形成される電流密度分布が陰極電極の位置に依存することを確認した。
【0049】
(2-3)実験方法
手順1:初めに、実験1と同様、非特許文献1に開示されるパラメータ推定法(PEST法)により、電気刺激に応じて手に触覚を感じるかどうかを繰り返し被験者1に答えさせることによって被験者毎の電流強度の閾値(T)を決定した。電気刺激の持続時間は1000msで、PEST法の各パラメータは、初期電流強度(0.25mA)、初期電流ステップ(0.375mA)、ステップ減少率(0.7)、最小電流ステップ(0.13mA)に設定した。
【0050】
手順2:10個の陰極電極E1~E10を12mm間隔で手首に配置して、各電極位置について手順1で決定した閾値(T)を用いて設定した5つの刺激電流値条件(閾値(T)の電流強度、閾値(T)の1.4倍の電流強度、閾値(T)の(1.4)2倍の電流強度、閾値(T)の(1.4)3倍の電流強度、最大電流強度)で1回ずつ、各被験者に対して合計50回の試験を実施した。
【0051】
実験参加者は11人の成人であり、体に電気を流すことを実験前に十分に説明し、合意の上で実験を行った。なお、最大電流強度は、安全性の観点や被験者に不快感を与えない観点から、5mAに設定した。本実施形態では、触覚電気刺激装置20は、刺激波形として、刺激電流値まで直線的に増加し、刺激電流値を2000ms保持する台形波を用いた。
【0052】
E1は、手の甲側の人差指と親指の間に配置しており、これは、
図8のE1の位置に概ね対応している。E1から12mm間隔で配置したE2~E10についても、
図8のE2~E10の位置に概ね対応している。なお、シミュレーションにてE11~E13のいずれかを刺激した条件下では、いずれの神経束上にも高い電流密度領域は存在しなかったため、E1~E10を用いて実験した。陽極電極は、尺骨茎状突起の上に配置した。
【0053】
手順3:触覚電気刺激装置20により被験者1に電気刺激を与えた際に、被験者1が感じた触覚の領域と最も触覚が強い最大感覚点とを記述するよう、被験者1に指示した。
【0054】
本実施形態では、10個の陰極ゲル電極及び1個の陽極ゲル電極を用いた。陽極電極には短軸が約19mm、長軸が約36mmの楕円形の電極、陰極電極には一辺が約8mmの四角形の電極を用いたが、他の任意のサイズ、形状の電極を用いてもよい。
【0055】
また、本実施形態では、10個の陰極電極をバンド(図示せず)で固定することにより所定の位置に配置したが、別の実施形態では、粘着式の電極を用いる等、他の任意の方法で複数の陰極電極を配置することができる。
【0056】
(2-4)実験結果
図11に、各条件の触覚の領域と最大感覚点とを示す。
図11中のTは、手順1で決定した閾値(T)である。各電極位置での平均閾値は、E1が1038(±521)μA、E2が716(±231)μA、E3が637(±221)μA、E4が721(±277)μA、E5が671(±245)μA、E6が648(±293)μA、E7が814(±335)μA、E8が875(±268)μA、E9が794(±283)μA、E10が898(±175)μAである。図中のプロットは被験者間の平均値であり、エラーバーは、標準誤差を示している。
図11は、電気刺激により誘導された触覚の領域と最大感覚点とが、陰極電極の位置に応じて移動していることを示している。
【0057】
図12は、各条件の触覚の領域サイズを示す。
図12において、横軸は電流値を示し、縦軸は触覚の平均領域サイズを示す。図中のプロットは被験者間の平均値であり、エラーバーは、標準誤差を示している。
図12は、より高い電流値が触覚をより広い範囲で誘導することを示している。また、
図12は、E5を刺激した条件下で誘導される触覚の領域が最大であることも示している。
【0058】
正規分布に従わないデータについて交互作用を検証するために、出願人らは、非特許文献2に記載の整列ランク変換を事前に触覚の領域サイズに適用し、ANOVAを実施した。ANOVAの結果は、電極位置因子(F (9,90)=15.9, p<.001, ηp
2=0.24)、及び電流値因子(F (4,40)=53.70, p<.001, ηp
2=0.32)の主効果で有意差を示したが、交互作用効果(F (36,360)=1.15, p<.25, ηp
2=0.084)では有意差は示されなかった。
【0059】
Holm法による電極位置因子の多重比較検定では、E5と他のすべての電極位置との間、E3とE9の間、E7とE9の間、E8とE9の間で有意差があることが示された。Holm法による電流値置因子の多重比較検定では、閾値(T)の(1.4)2倍と閾値(T)の(1.4)3倍とを除く、すべての組み合わせ間で有意差があることが示された。
【0060】
図13及び
図14は、各条件の最大感覚点のx、y、z方向の座標位置を示す。
図14(a)に示されるように、x軸は親指方向をプラス、小指方向をマイナスとし、手首中央を0としている。y軸は手方向をプラス、腕方向をマイナスとし、手と腕との境界を0としている。z軸は掌方向をプラス、手の甲方向をマイナスとし、手首中央を0としている。
図14において、横軸は陰極位置を示し、縦軸は触覚のx、y、z方向の座標位置を示す。図中のプロットは被験者間の平均値であり、エラーバーは、標準誤差を示している。
図13、
図14は、電気刺激により誘導された触覚の最大感覚点が、陰極電極の位置に応じて移動していることを示している。
【0061】
正規分布に従わないデータについて交互作用を検証するために、出願人らは、非特許文献2に記載の整列ランク変換を事前にx、y、z方向の座標位置に適用し、ANOVAを実施した。x座標に関するANOVAの結果は、電極位置因子(F (9,90)=215.85, p<.001, ηp
2=0.81)で有意差を示したが、電流値因子(F (4,40)=0.49, p=0.74, ηp
2=0.004)と相互作用効果(F (36,360)=0.42, p=1.00, ηp
2=0.032)では有意差は示されなかった。Holm法による電極位置因子の多重比較検定においては、E1とE4の間、E2とE4の間、E6とE10の間、E7とE8の間、E7とE9の間、E7とE10の間、E8とE9の間、及びE9とE10の間を除くすべての組み合わせの間で有意差(ps<.05)があることが示された。
【0062】
y座標に関するANOVAの結果は、電極位置因子(F (9,90)=8.59, p<.001, ηp
2=0.15)で有意差を示したが、電流値因子(F (4,40)=1.97, p=0.10, ηp
2=0.017)と相互作用効果(F (36,360)=0.40, p=1.00, ηp
2=0.031)では有意差は示されなかった。Holm法による電極位置因子の多重比較検定においては、E5と他のすべての陰極位置との間、E3とE7の間、及びE7とE9の間で有意差(ps<.05)があることが示された。
【0063】
z座標に関するANOVAの結果は、電極位置因子(F (9,90)=62.06, p<.001, ηp
2=0.55)で有意差を示したが、電流値因子(F (4,40)=0.66, p=0.62, ηp
2=0.006)と相互作用効果(F (36,200)=0.40, p=1.00, ηp
2=0.031)では有意差は示されなかった。Holm法による電極位置因子の多重比較検定においては、E1とE9の間、E1とE10の間、E2とE8の間、E3とE5の間、E4とE6の間、E4とE7の間、E6とE7の間、及びE9とE10の間を除くすべての組み合わせ間で有意差(ps<.05)があることが示された。
【0064】
(2-5)考察
実験2の結果は、陰極電極の位置に応じて手に誘導される触覚の位置が移動することを示している。この結果は、刺激位置により、手の触覚を神経支配する3つの神経束、すなわち、尺骨神経、正中神経、橈骨神経の各々内の電流密度分布を変化させることで生じたものであると考えられる。従って、電極の密度を増加させ、神経束の電流密度分布をより正確に変化させることで、誘導される触覚の位置をより正確に制御できると考えられる。
【0065】
(3)実験3:指の付け根の多電極刺激による触覚の位置制御
指の付け根に複数の陰極電極を配置し、刺激位置により、指の触覚を神経支配する神経束内の電流密度分布を変化させることで、誘導される触覚の位置制御を試みる。
(3-1)実験方法
手順1:初めに、実験1と同様、非特許文献1に開示されるパラメータ推定法(PEST法)により、電気刺激に応じて手に触覚を感じるかどうかを繰り返し被験者1に答えさせることによって被験者毎の電流強度の閾値(T)を決定した。
【0066】
手順2:
図15は、モデル化した指の断面における陰極電極位置を示す。
図15に示す8か所の陰極電極位置について手順1で決定した閾値(T)の2倍の電流強度で1回ずつ、各被験者に対して合計8回の試験を実施した。実験参加者は6人の成人であり、体に電気を流すことを実験前に十分に説明し、合意の上で実験を行った。なお、本実施形態では、触覚電気刺激装置20は、刺激波形として、刺激電流値まで直線的に増加し、刺激電流値を2000ms保持する台形波を用いた。
【0067】
本実施形態では、人差指の付け根について実験した。具体的には、
図16に示すような等間隔に配置した4個の陰極電極を用いて指の付け根を包み、
図15の白色プロットで示す4か所の陰極電極位置についてそれぞれ試験を行い、さらに、4個の陰極電極を45度回転させて黒色プロットで示す4か所の陰極電極位置についてそれぞれ試験を行った。陽極電極は、手の甲に配置した。
【0068】
手順3:触覚電気刺激装置20により被験者1に電気刺激を与えた際に、被験者1が感じた触覚の領域と最も触覚が強い最大感覚点とを記述するよう、被験者1に指示した。
【0069】
本実施形態では、4個の陰極電極及び1個の陽極電極を用いた。陰極電極には一辺が約1mmの四角形の電極を用いたが、他の任意のサイズ、形状の電極を用いてもよい。
【0070】
(3-4)実験結果
図17に、各条件の触覚の領域と最大感覚点とを示す。
図17(a)は、
図15の白色プロットで示す4か所の陰極電極位置を刺激した際の触覚の領域を示し、
図17(b)は、
図15の黒色プロットで示す4か所の陰極電極位置を刺激した際の触覚の領域を示している。
図17(a)は、P-Cを刺激した際の触覚の領域が掌側の中央であり、S-Mを刺激した際の触覚の領域が掌から右側の側面であり、B-Cを刺激した際の触覚の領域が手の甲側の中央であり、S-Lを刺激した際の触覚の領域が掌から左側の側面であることを示している。
図17(b)は、P-Lを刺激した際の触覚の領域がS-Lを刺激した際の触覚の領域とP-Cを刺激した際の触覚の領域との間の領域であり、P-Mを刺激した際の触覚の領域がS-Mを刺激した際の触覚の領域とP-Cを刺激した際の触覚の領域との間の領域であり、B-Mを刺激した際の触覚の領域がS-Mを刺激した際の触覚の領域とB-Cを刺激した際の触覚の領域との間の領域であり、B-Lを刺激した際の触覚の領域がS-Lを刺激した際の触覚の領域とB-Cを刺激した際の触覚の領域との間の領域であることを示している。すなわち、
図17は、電気刺激により誘導された触覚の領域が、陰極電極の位置に応じて移動していることを示している。
【0071】
図17(c)は、各条件の最大感覚点のx、y方向の座標位置を示す。
図17(c)に示されるように、x軸は小指方向をプラス、親指方向をマイナスとし、指中央を0としている。y軸は指先方向をプラスとし、指と掌との境界を0としている。
図17において、横軸はx方向の座標位置を示し、縦軸はy方向の座標位置を示す。図中のプロットは被験者間の平均値であり、エラーバーは、標準誤差を示している。
【0072】
図17(c)は、電気刺激により誘導された触覚の最大感覚点のx座標が、陰極電極の位置のx座標に関連付けられていることを示している。フリードマン検定を行ったところ、陰極電極位置に関して誘導された触覚の最大感覚点のx座標、y座標は共に有意差(p<0.01)を示した。さらに、
図17(c)は、掌側を刺激した場合、手の甲側を刺激した場合と比較して指先に近い領域に触覚が誘導されている可能性を示している。
【0073】
なお、本実施形態では、刺激波形として、刺激電流値まで直線的に増加し、刺激電流値を所定の持続期間保持する台形波を用いたが、刺激電流は直流電流でも交流電流でもよく、任意の刺激波形を用いることができる。
【0074】
以上、本実施形態によれば、触覚電気刺激装置20は、軽量で小型の電極を関節に配置することで、ユーザの動きに干渉することなく、様々な位置で触覚を誘導することができる。触覚電気刺激装置20は、ユーザが実際のオブジェクトと対話していない場合だけでなく、ユーザが実際のオブジェクトと対話している場合にも触覚を生じさせ、オブジェクトの手触りや質感を変化させることができる。さらに、触覚電気刺激装置20は、配置された複数の陰極電極のうちの1つを選択して刺激することで、刺激した陰極電極位置に応じて高精度に制御される位置に触覚を誘導することができる。
【0075】
また、一実施形態では、手首に複数の陰極電極を配置することで、腕に誘導される触覚を低減しながら、所望の手の位置に触覚を誘導することができる。なお、複数の陰極電極を配置する部位は手首や指の付け根に限定されるものではなく、誘導される触覚の位置に応じて、任意の関節に陰極電極を配置することができる。
【0076】
また、本実施形態では、特定の関節に複数の陰極電極を配置する例について説明してきたが、別の実施形態では、複数の関節のそれぞれに、複数の陰極電極を配置するようにしてもよい。
【0077】
さらに、本実施形態では、複数の陰極電極のうちのいずれか1つを選択して刺激を与えたが、別の実施形態では、例えば、複数の信号出力部を用いて複数の陰極電極の2以上の陰極電極を同時に刺激するようにしてもよい。さらに別の実施形態では、スイッチSWを高速に切り替えることで、2以上の陰極電極を連続で刺激するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0078】
20…触覚電気刺激装置、21…信号制御部、22…信号出力部、23…導線、24…陽極電極(陽極)、25…導線、E1~E10…陰極電極(陰極)、SW1~SW10…スイッチ