(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038702
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の製造システム及び製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 15/22 20060101AFI20240313BHJP
C30B 29/06 20060101ALI20240313BHJP
C30B 15/26 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
C30B15/22
C30B29/06 502
C30B15/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142929
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金 大基
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB02
4G077BA04
4G077CF10
4G077EH04
4G077EH06
4G077HA06
4G077HA12
4G077PF04
4G077PF08
4G077PF13
(57)【要約】
【課題】結晶中心軸の結晶方位が<111>であるシリコン単結晶の直径を正確に求めることができるシリコン単結晶の製造システム及び製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも結晶軸方位が<111>であるシリコン単結晶3を、チョクラルスキー法により引上げるシリコン単結晶の引上げ装置10と、回転しながら引上げられるシリコン単結晶の直径を引上げ中に計測し、計測された複数の計測値から目的とする直径を求める直径計測装置30と、を備える。直径計測装置30は、計測された複数の計測値データの中から所定閾値以上の差を有する計測値データを除外し、残りの計測値データの全部又は一部を用いて前記直径を求め、前記引上げ装置10は、前記直径計測装置により求められた直径に基づいて、前記シリコン単結晶の直径を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも結晶軸方位が<111>であるシリコン単結晶を、チョクラルスキー法により引上げるシリコン単結晶の引上げ装置と、
回転しながら引上げられるシリコン単結晶の直径を引上げ中に計測し、計測された複数の計測値から目的とする直径を求める直径計測装置と、を備え、
前記直径計測装置は、計測された複数の計測値データの中から所定閾値以上の差を有する計測値データを除外し、残りの計測値データの全部又は一部を用いて前記直径を求め、
前記引上げ装置は、前記直径計測装置により求められた直径に基づいて、前記シリコン単結晶の直径を制御するシリコン単結晶の製造システム。
【請求項2】
前記直径計測装置は、前記計測された複数の計測値データの中から所定閾値以上の差を有する計測値データを除外するにあたり、
前記計測された複数の計測値データを昇順又は降順に並べ、
昇順に並べた場合は最小値側から所定個数の計測値データを除外し、
降順に並べた場合は最大値側から所定個数の計測値データを除外し、
次いで、残りの計測値データを平均して前記直径を求める請求項1に記載のシリコン単結晶の製造システム。
【請求項3】
前記直径計測装置は、引上げ中のシリコン単結晶の所定箇所を撮影するカメラを含み、
前記カメラは、前記シリコン単結晶が前記カメラに対して相対的に1回転する間に、前記引上げ中のシリコン単結晶を撮影して複数の撮影画像データを取得し、
前記複数の撮影画像データから前記複数の計測値データを生成する請求項1又は2に記載のシリコン単結晶の製造システム。
【請求項4】
除外する計測値データの前記所定個数は、前記引上げ中のシリコン単結晶の表面に現れる平坦部の領域を前記カメラで撮影する回数以上の数である請求項3に記載のシリコン単結晶の製造システム。
【請求項5】
前記所定個数は、前記直径計測装置に予め設定される請求項4に記載のシリコン単結晶の製造システム。
【請求項6】
チョクラルスキー法により、少なくとも結晶軸方位が<111>であるシリコン単結晶を引上げるシリコン単結晶の製造方法において、
回転しながら引上げられるシリコン単結晶の直径を引上げ中に計測し、
計測された複数の計測値データの中から所定閾値以上の差を有する計測値データを除外し、残りの計測値データの全部又は一部を用いて目的とする直径を求め、
求められた直径に基づいて、前記シリコン単結晶の直径を制御するシリコン単結晶の製造方法。
【請求項7】
前記計測された複数の計測値データの中から所定閾値以上の差を有する計測値データを除外するにあたり、
前記計測された複数の計測値データを昇順又は降順に並べ、
昇順に並べた場合は最小値側から所定個数の計測値データを除外し、
降順に並べた場合は最大値側から所定個数の計測値データを除外し、
次いで、残りの計測値データを平均して前記直径を求める請求項6に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項8】
カメラを用いて、前記シリコン単結晶が前記カメラに対して相対的に1回転する間に、前記引上げ中のシリコン単結晶の所定箇所を撮影して複数の撮影画像データを取得し、
前記複数の撮影画像データから前記複数の計測値データを生成する請求項6又は7に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項9】
除外する計測値データの前記所定個数は、引上げ中のシリコン単結晶の表面に現れる平坦部の領域を前記カメラで撮影する回数以上の数である請求項8に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項10】
前記所定個数を予め設定したうえで、該当する計測値データを除外する請求項9に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶の製造システム及び製造方法に関し、特に結晶中心軸の結晶方位が<111>であるシリコン単結晶の製造システム及び製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チョクラルスキー法(CZ法)によるシリコン単結晶の製造方法において、引上げ中の単結晶の直径を検出し、検出された直径に基づいて引上げ速度とヒータ供給電力(ヒータ温度)を制御することで、引上げられるシリコン単結晶の直径を一定に制御する方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、結晶中心軸の結晶方位が<111>であるシリコン単結晶では、引上げられるインゴット直胴部の外周の一部に結晶中心軸に沿った平坦部が形成されるので、カメラで検出される直胴部の直径が平坦部と平坦部でない部分で異なり、平坦部の直径を含めた直径に基づいて、誤った引上げ速度とヒータ供給電力(ヒータ温度)の制御をすると、狙いの直径を維持して引上げすることができないという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、結晶中心軸の結晶方位が<111>であるシリコン単結晶の直径を正確に求めることができるシリコン単結晶の製造システム及び製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも結晶軸方位が<111>であるシリコン単結晶を、チョクラルスキー法により引上げるシリコン単結晶の引上げ装置と、
回転しながら引上げられるシリコン単結晶の直径を引上げ中に計測し、計測された複数の計測値から目的とする直径を求める直径計測装置と、を備え、
前記直径計測装置は、計測された複数の計測値データの中から所定閾値以上の差を有する計測値データを除外し、残りの計測値データの全部又は一部を用いて前記直径を求め、
前記引上げ装置は、前記直径計測装置により求められた直径に基づいて、前記シリコン単結晶の直径を制御するシリコン単結晶の製造システムによって上記課題を解決する。
【0007】
また本発明は、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引上げるシリコン単結晶の製造方法において、
回転しながら引上げられるシリコン単結晶の直径を引上げ中に計測し、
計測された複数の計測値データの中から所定閾値以上の差を有する計測値データを除外し、残りの計測値データの全部又は一部を用いて目的とする直径を求め、
求められた直径に基づいて、前記シリコン単結晶の直径を制御するシリコン単結晶の製造方法によって上記課題を解決する。
【0008】
上記発明において、前記計測された複数の計測値データの中から所定閾値以上の差を有する計測値データを除外するにあたり、
前記計測された複数の計測値データを昇順又は降順に並べ、
昇順に並べた場合は最小値側から所定個数の計測値データを除外し、
降順に並べた場合は最大値側から所定個数の計測値データを除外し、
次いで、残りの計測値データを平均して前記直径を求めてもよい。
【0009】
上記発明において、前記直径計測装置は、引上げ中のシリコン単結晶の所定箇所を撮影するカメラを含み、
前記カメラは、前記シリコン単結晶が前記カメラに対して相対的に1回転する間に、前記引上げ中のシリコン単結晶を撮影して複数の撮影画像データを取得し、
前記複数の撮影画像データから前記複数の計測値データを生成してもよい。
【0010】
上記発明において、除外する計測値データの前記所定個数は、引上げ中のシリコン単結晶の表面に現れる平坦部の領域を前記カメラで撮影する回数以上の数であることがより好ましい。
【0011】
上記発明において、前記所定個数は、前記直径計測装置に予め設定しておいてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、計測された複数の計測値データの中から所定閾値以上の差を有する計測値データを除外し、残りの計測値データの全部又は一部を用いてシリコン単結晶の直径を求めるので、結晶中心軸の結晶方位が<111>であるシリコン単結晶の直径を正確に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るシリコン単結晶の製造システムの一実施の形態を示す縦断面図である。
【
図2】
図1のカメラによって撮影されるシリコン単結晶とシリコン融液との境界部の画像を模式的に示す斜視図である。
【
図3】結晶中心軸の結晶方位が<111>であるシリコン単結晶の一例を示す斜視図である。
【
図5】
図1の直径計測装置により計測された複数の計測値データの処理の一例を示す図である。
【
図6】
図1の直径計測装置により計測された複数の計測値データの処理の他の例を示す図である。
【
図7】
図1の直径計測装置により計測された複数の計測値データの処理のさらに他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明に係るシリコン単結晶の製造システムの一実施の形態を示す縦断面図である。
図1に示すように、本実施形態のシリコン単結晶の製造システム1は、シリコン単結晶の引上げ装置10(以下、単に引上げ装置10ともいう。)と、直径計測装置30とを備える。なお、本実施形態のシリコン単結晶の引上げ装置10は、少なくとも結晶軸方位が<111>であるシリコン単結晶を、チョクラルスキー法により引上げるものであればよいので、結晶方位が<111>以外の、たとえば<100>のシリコン単結晶を引き上げる場合に用いてもよい。
【0015】
本実施形態のシリコン単結晶の引上げ装置10は、水冷式のチャンバ11と、チャンバ11内においてシリコン融液2を保持する石英製坩堝12と、石英製坩堝12を保持する黒鉛製サセプタ13と、黒鉛製サセプタ13を支持する回転軸14と、黒鉛製サセプタ13の周囲に配置されたヒータ15と、石英製坩堝12の上方に配置された熱遮蔽体16と、石英製坩堝12の上方であって回転軸14と同軸上に配置された結晶引上げ軸である引上げワイヤー17と、チャンバ11の上方に配置された結晶引上げ機構18と、回転軸14及び黒鉛製サセプタ13介して石英製坩堝12を回転及び昇降駆動する駆動機構19と、引上げ装置10の各部を制御する制御部20と、を備える。
【0016】
チャンバ11は、メインチャンバ11aと、メインチャンバ11aの上部開口に連結された細長い円筒状のプルチャンバ11bとを含み、石英製坩堝12、黒鉛製サセプタ13、ヒータ15及び熱遮蔽体16はメインチャンバ11aに設けられている。プルチャンバ11bには、チャンバ11にアルゴンガス等の不活性ガス(パージガス)やドーパントガスを導入するためのガス導入口11cが設けられ、メインチャンバ11aの下部には、チャンバ11の雰囲気ガスを排出するためのガス排出口11dが設けられている。また、メインチャンバ11aの上部には覗き窓11eが設けられ、シリコン単結晶3の育成状況を覗き窓11eから観察することができる。
【0017】
石英製坩堝12は、円筒状の側壁部と底部とを有する容器である。黒鉛製サセプタ13は、加熱によって軟化した石英製坩堝12の形状を維持するため、石英製坩堝12の外表面に密着して石英製坩堝12を包むように保持する。石英製坩堝12及び黒鉛製サセプタ13は、チャンバ11内においてシリコン融液2を支持する二重構造のルツボを構成している。
【0018】
黒鉛製サセプタ13は回転軸14の上端部に固定され、回転軸14の下端部は、チャンバ11の底部を貫通してチャンバ11の外側に設けられた駆動機構19に接続されている。黒鉛製サセプタ13、回転軸14及び駆動機構19は、石英製坩堝12の回転機構及び昇降機構を構成している。そして、駆動機構19によって駆動される石英製坩堝12の回転及び昇降動作は、制御部20によって制御される。
【0019】
ヒータ15は、石英製坩堝12に充填されたシリコン原料を融解してシリコン融液2を生成すると共に、シリコン融液2の溶融状態を維持するために用いられる。ヒータ15はカーボン製抵抗加熱式ヒータであり、黒鉛製サセプタ13の石英製坩堝12を取り囲むように設けられている。さらにヒータ15の外側には、ヒータ15を取り囲むように断熱材11fが設けられ、これによりチャンバ11の保温性が高められている。ヒータ15の出力は、制御部20によって制御される。
【0020】
熱遮蔽体16は、シリコン融液2の温度変動を抑制して結晶成長界面近傍に適切な熱分布を与えるとともに、ヒータ15及び石英製坩堝12からの輻射熱によるシリコン単結晶3の加熱を防止するために設けられている。熱遮蔽体16は略円筒状の黒鉛製部材であり、シリコン単結晶3の引上げ経路を除いたシリコン融液2の上方の領域を覆うように設けられている。
【0021】
熱遮蔽体16の下端の開口の直径は、シリコン単結晶3の直径よりも大きく、これによりシリコン単結晶3の引上げ経路が確保されている。また熱遮蔽体16の下端部の外径は、石英製坩堝12の口径よりも小さく、熱遮蔽体16の下端部は石英製坩堝12の内側に位置するので、石英製坩堝12の側壁部の上端を熱遮蔽体16の下端よりも上方まで上昇させても、熱遮蔽体16が石英製坩堝12と干渉することはない。
【0022】
シリコン単結晶3の成長と共に石英製坩堝12内の融液量が減少するので、融液面と熱遮蔽体16との間隔(ギャップ)が一定になるように石英製坩堝12を上昇させる。このようなギャップ制御により、シリコン単結晶3の引上げ軸方向の結晶欠陥分布、酸素濃度分布、抵抗率分布等の安定性を向上させることができる。
【0023】
石英製坩堝12の上方には、シリコン単結晶3の引上げ軸である引上げワイヤー17と、引上げワイヤー17を巻き取ることによってシリコン単結晶3を引上げる結晶引上げ機構18が設けられている。結晶引上げ機構18は、引上げワイヤー17と共にシリコン単結晶3を回転させる機能を有する。結晶引上げ機構18は、制御部20によって制御される。結晶引上げ機構18は、プルチャンバ11bの上方に配置されており、引上げワイヤー17は、結晶引上げ機構18からプルチャンバ11b内を通って下方に垂下し、引上げワイヤー17の先端部は、メインチャンバ11aの内部空間まで達する。
【0024】
図1には、育成途中のシリコン単結晶3が引上げワイヤー17に吊設された状態が示されている。シリコン単結晶3の引上げ時には、引上げワイヤー17の先端に種結晶を装着し、この種結晶をシリコン融液2に浸漬した状態から、石英製坩堝12と種結晶とをそれぞれ回転させながら引上げワイヤー17を徐々に引上げることにより、シリコン単結晶3を成長させる。結晶引上げ速度は、制御部20によって制御される。
【0025】
制御部20は、後述する直径計測装置30から得られた結晶の直径データに基づいて結晶引上げ速度等を制御することにより、引上げ中の結晶直径をリアルタイムで制御する。具体的には、直径の計測値が目標直径よりも大きい場合には、結晶の引上げ速度を大きくし、目標直径よりも小さい場合には、結晶の引上げ速度を小さくする。また制御部20は、結晶引上げ機構18のセンサから得られたシリコン単結晶3の結晶長データと、カメラ31の撮影画像から求めた結晶直径データに基づいて、石英製坩堝12の移動量(ルツボ上昇速度)を制御する。
【0026】
直径計測装置30は、チャンバ11の外側に設置されたカメラ31と、カメラ31により撮影された撮影画像データを画像処理する画像処理プログラムがインストールされたコンピュータと、各種のデータを記憶するメモリとを含んで構成されている。
【0027】
カメラ31は例えばCCDカメラであり、チャンバ11に形成された覗き窓11eを介してチャンバ11の内部を撮影する。カメラ31の設置角度は、鉛直方向に対して所定の角度に設定され、カメラ31は、シリコン単結晶3の引上げ軸に対して傾斜した光軸を有する。すなわち、カメラ31は、熱遮蔽体16の開口、シリコン融液2の液面及び単結晶を斜め上方から撮影する。カメラ31の引上げ装置10に対する設置位置と設置角度は既知である。
【0028】
カメラ31は、画像処理プログラムを含む直径計測装置に接続され、直径計測装置30は制御部20に接続されている。直径計測装置30に含まれる画像処理プログラムは、カメラ31の撮影画像に写る単結晶の輪郭パターンから固液界面近傍における結晶直径を算出する。
【0029】
次に、直径計測装置30によるシリコン単結晶3の直径計測方法について説明する。シリコン単結晶3の引上げ工程中にその直径を制御するため、カメラ31でシリコン単結晶3と融液面との境界部を撮影し、境界部に発生するフュージョンリングの中心位置及びフュージョンリングの2つの輝度ピーク間距離からシリコン単結晶3の直径を求める。また、シリコン融液2の液面位置を制御するため、フュージョンリングの中心位置から液面位置を求める。制御部20は、シリコン単結晶3の直径が狙いの直径となるように引上げワイヤー17の引上げ速度、ヒータ15のパワー、石英製坩堝12の回転速度等の引上げ条件を制御する。また制御部20は、液面位置が所望の位置となるように石英製坩堝12の上下方向の位置を制御する。
【0030】
図2は、カメラ31によって撮影されるシリコン単結晶3とシリコン融液2との境界部の画像を模式的に示す斜視図である。
図2に示すように、直径計測装置30の画像処理プログラムは、シリコン単結晶3とシリコン融液2との境界部に発生するフュージョンリング4の中心C
0の座標位置と、フュージョンリング4上の任意の一点の座標位置とから、フュージョンリング4の半径r及び直径R=2rを算出する。すなわち、画像処理プログラムは、固液界面におけるシリコン単結晶3の直径Rを算出する。フュージョンリング4の中心C
0の位置は、シリコン単結晶3の引上げ軸の延長線5と融液面との交点である。
【0031】
カメラ31は、シリコン単結晶3と融液面との境界部を斜め上方から撮影するため、フュージョンリング4を真円として捉えることができない。しかし、カメラ31は、引上げ装置10において設計上の所定位置に所定角度で正確に設置され、これら位置及び角度が既知であるので、融液面に対する視認角度に基づいて略楕円状のフュージョンリング4を真円に補正することができ、補正されたフュージョンリング4からその直径を幾何学的に算出することができる。
【0032】
ちなみに、フュージョンリング4は、メニスカスで反射した光によって形成されるリング状の高輝度領域であり、シリコン単結晶3の全周に発生するが、覗き窓11eからシリコン単結晶3の裏側のフュージョンリング4まで見ることはできない。また、熱遮蔽体16の下側の開口16aとシリコン単結晶3との間の隙間からフュージョンリング4を見るとき、シリコン単結晶3の直径が大きい場合には、視認方向の最も手前側(
図2の下側)に位置するフュージョンリング4の一部も熱遮蔽体16の裏側に隠れて見ることができない場合がある。この場合、フュージョンリング4の視認できる部分は、視認方向から見て手前左側の一部4Lと、手前右側の一部4Rだけである。このようにフュージョンリング4の一部しか観察できない場合でも、その一部からその直径を算出することが可能である。
【0033】
このように、本実施形態のシリコン単結晶の製造システム1は、チャンバ11内を撮影するカメラ31を含む直径計測装置30を備え、カメラ31の撮影画像から固液界面近傍におけるシリコン単結晶3の直径を推定し、この直径が所望の直径(例えば300mmウェーハならば305~320mm)となるように、結晶引上げ速度等の結晶引上げ条件を制御する。
【0034】
ところで、結晶軸方位が<111>であるシリコン単結晶3を引き上げると、直胴部3aの外周上の一部に、
図3に示すように、中心軸に沿った平坦部3bが形成される。
図3は、結晶中心軸の結晶方位が<111>であるシリコン単結晶インゴットの一例を示す斜視図、
図4は、
図3のIV-IV線に沿う断面図である。上述したとおり、直径計測装置30は、回転しながら引上げられるシリコン単結晶3の固液界面近傍をカメラ31で撮影し、この撮影画像からフュージョンリング4上の任意の一点の座標位置を抽出してシリコン単結晶3の直径を計測する。そのため、
図4に示すように、平坦部3bの座標位置P1を抽出した場合の計測値から求められる直径D1と、平坦部3b以外の座標位置P2を抽出した場合の計測値から求められる直径D2とは、平坦部3bがあるぶんだけ、D1<D2となり、これらの直径D1,D2をそのまま用いると正確な直径を求めることができない。
【0035】
そのため、本実施形態の直径計測装置30は、以下の処理を行うことで、平坦部3bを除く直胴部3aの直径D2を求めることとしている。まず、カメラ31は、回転しながら引上げられるシリコン単結晶3が1回転する間に、固液界面近傍の複数個所を撮影し、これにより複数の撮影画像データを取得する。特に限定はされないが、カメラ31は、シリコン単結晶3が1回転する間に固液界面近傍の30~50箇所を撮影し、直径計測装置30は、得られた30~50の撮影画像データのそれぞれを画像処理して30~50個の計測値データを生成する。このうち、平坦部3bの撮影は2回以上であることが好ましく、安定的な直胴部の直径制御の観点からは3回以上であることがより好ましい。なお、カメラ31による撮影タイミングは、シリコン単結晶の円周方向に対して均等であることが好ましく、また平坦部3b以外の直胴部3aを撮影する回数は、平坦部3bを撮影する回数より多いことが好ましい。
【0036】
平坦部3bを含む撮影画像データが得られたら、直径計測装置30は、計測された複数の計測値データの中から所定閾値以上の差を有する計測値データを除外し、残りの計測値データの全部又は一部を用いて、シリコン単結晶の直径を求める。ここで、計測された複数の計測値データの中から所定閾値以上の差を有する計測値データを除外する方法について説明する。
【0037】
図4に示すように、平坦部3bの座標位置P1を抽出した場合の計測値から求められる直径D1と、平坦部3b以外の座標位置P2を抽出した場合の計測値から求められる直径D2との差は、300mmウェーハの場合、10mm前後あるのに対し、平坦部3b以外の座標位置P2を抽出した場合の計測値から求められる直径D2のバラツキは1mm以下であることが経験的にわかっている。そのため、得られた複数の計測値データの分布を観察すると
図5に示すようになる。
図5は、直径計測装置30により計測された複数の計測値データの処理の一例を示す図であり、縦軸は計測された直径を示し、横軸は測定箇所に相当するパラメータを示す。
【0038】
上述したとおり、平坦部3bが出現する<111>結晶方位のシリコン単結晶では、
図4に示す直径D1とD2の差が大きく、直径D2のバラツキがこれに比べて著しく小さいので、
図5に示すように所定閾値を比較的広範に設定することができる。すなわち、直径D1とD2の差が約10mmであるのに対し、直径D2のバラツキが1mm以下であるので、所定閾値をたとえば3~8mmの間の任意の値に設定することができる。
【0039】
そして、計測された複数の計測値データの中から所定閾値以上の差を有する計測値データを除外する方法は、特に限定されず、種々の数学的処理又は統計学的処理などを用いることができる。たとえば、
図5に示す複数の計測値データの中から、まず任意の1つの計測値データを抽出し、この任意の計測値データと、残りの全ての計測値データとの差を演算し、差が小さい計測値データと、差が大きい計測値データとに分類する。先に抽出された任意の1つの計測値データが仮に直径D1を測定したデータである場合には、差が大きい計測値データが、差が小さい計測値データより多いことになるので、抽出された任意の1つの計測値データと差が小さい計測値データとを除外する。逆に、先に抽出された任意の1つの計測値データが仮に直径D2を測定したデータである場合には、差が小さい計測値データが、差が大きい計測値データより多いことになるので、差が大きい計測値データを除外する。
【0040】
計測された複数の計測値データの中から所定閾値以上の差を有する計測値データを除外する方法はこれにのみ限定されない。
図6は、直径計測装置30により計測された複数の計測値データの処理の他の例を示す図である。本例では、まず計測された全ての計測値データを昇順、すなわち小さい順に並べる。
図6の縦軸は計測された直径を示し、横軸は昇順に並べ替えた計測値データを示す。
図6の左から右に向かって計測値が大きくなる。この昇順に並び替えた状態で最小値側から所定個数の計測値データを除外する。ここで除外する所定個数は、具体的には
図6に示す左側の2個であるが、直径計測装置30に予めこの所定個数を設定しておいてもよい。カメラ31によりシリコン単結晶の平坦部3bを撮影する回数が既知であり、それから得られる計測値データの個数も既知であるので、この個数を所定個数として直径計測装置30に設定しておく。
【0041】
またはこれに代えて、
図6に示すように昇順に並べた計測値データについて、隣り合う2つの計測値データの差を演算する。そして、その差が所定閾値以上となった場合の小さい方の計測値データが直径D1に相当し、大きい方の計測値データが直径D2に相当することになるので、この部分を境界にしてそれより小さい計測値データを除外する。
【0042】
計測された複数の計測値データの中から所定閾値以上の差を有する計測値データを除外する方法はこれにのみ限定されない。
図7は、直径計測装置30により計測された複数の計測値データの処理のさらに他の例を示す図である。本例では、まず計測された全ての計測値データを降順、すなわち大きい順に並べる。
図7の縦軸は計測された直径を示し、横軸は降順に並べ替えた計測値データを示す。
図7の左から右に向かって計測値が小さくなる。この降順に並び替えた状態で最大値側から所定個数の計測値データを除外する。ここで除外する所定個数は、具体的には
図7に示す右側の2個であるが、直径計測装置30に予めこの所定個数を設定しておいてもよい。カメラ31によりシリコン単結晶の平坦部3bを撮影する回数が既知であり、それから得られる計測値データの個数も既知であるので、この個数を所定個数として直径計測装置30に設定しておく。
【0043】
またはこれに代えて、
図7に示すように降順に並べた計測値データについて、隣り合う2つの計測値データの差を演算する。そして、その差が所定閾値以上となった場合の小さい方の計測値データが直径D1に相当し、大きい方の計測値データが直径D2に相当することになるので、この部分を境界にしてそれより小さい計測値データを除外する。
【符号の説明】
【0044】
1…シリコン単結晶の製造システム
10…シリコン単結晶の引上げ装置
11…チャンバ
11a…メインチャンバ
11b…プルチャンバ
11c…ガス導入口
11d…ガス排出口
11e…覗き窓
11f…断熱材
12…石英製坩堝
13…黒鉛製サセプタ
14…回転軸
15…ヒータ
16…熱遮蔽体
17…引上げワイヤー
18…結晶引上げ機構
19…駆動機構
20…制御部
30…直径計測装置
31…カメラ
2…シリコン融液
3…シリコン単結晶
3a…直胴部
3b…平坦部