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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038748
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】マイクロ流路チップ
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20240313BHJP
   B01F 23/41 20220101ALI20240313BHJP
   B01F 23/45 20220101ALI20240313BHJP
   B01F 33/301 20220101ALI20240313BHJP
   B01F 33/302 20220101ALI20240313BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20240313BHJP
   G01N 35/08 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
B01J19/00 321
B01F23/41
B01F23/45
B01F33/301
B01F33/302
G01N37/00 101
G01N35/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143001
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】服部 篤紀
(72)【発明者】
【氏名】秀野 智大
【テーマコード(参考)】
2G058
4G035
4G036
4G075
【Fターム(参考)】
2G058DA07
4G035AB37
4G035AB40
4G035AE13
4G036AC70
4G075AA13
4G075AA39
4G075BB05
4G075BB10
4G075DA02
4G075DA18
4G075EB50
4G075FB12
(57)【要約】
【課題】流路中で2以上の液体が合流する際の気泡の発生が抑制されているマイクロ流路チップを提供すること。
【解決手段】第1液流路、第2液流路、及び合流部を有しており、第1液流路が、合流部の壁面に設けられた第1開口部を介して、合流部に接続しており、第2液流路が、合流部の壁面に設けられた第2開口部を介して、合流部に接続しており、かつ第1開口部と第2開口部とが、互いに離間している、マイクロ流路チップ。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1液流路、第2液流路、及び合流部を有しており、
前記第1液流路が、前記合流部の壁面に設けられた第1開口部を介して、前記合流部に流通しており、
前記第2液流路が、前記合流部の壁面に設けられた第2開口部を介して、前記合流部に流通しており、かつ
前記第1開口部と前記第2開口部とが、互いに離間している、
マイクロ流路チップ。
【請求項2】
前記第1開口部と前記第2開口部との間の距離Dcが、前記合流部に隣接する部位における前記第1液流路の幅D1及び前記第2液流路の幅D2の少なくともいずれかよりも大きい、請求項1に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項3】
前記第1開口部と前記第2開口部との間の距離Dcが、50μm以上である、請求項1又は2に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項4】
前記第1開口部と前記第2開口部との間の距離Dcが、100μm以上800μm以下である、請求項3に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項5】
前記第1液流路を構成する側部壁面と、前記第2液流路を構成する側部壁面とが、流路接続壁面を介して互いに接続している、請求項1又は2に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項6】
前記第1液流路の側部壁面と前記流路接続壁面とが、角部を形成して互いに接続しており、かつ/又は、
前記第2液流路の側部壁面と前記流路接続壁面とが、角部を形成して互いに接続している、
請求項5に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項7】
前記流路接続壁面が、平坦な平面であり、
前記合流部が、前記流路接続壁面に直交する参照平面に対して互いに対称な2つの部分からなる、
請求項5に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項8】
前記第1液流路と前記第2液流路とが、前記参照平面に対して互いに対称に配置されている、請求項7に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項9】
前記合流部の流れ方向における前記合流部の長さが、前記流路接続壁面の幅の1.5倍以上である、請求項5に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項10】
前記マイクロ流路チップは、前記第1液流路及び前記第2液流路をそれぞれ進行する第1の液体及び第2の液体を前記合流部で合流させるように構成されており、
前記第1の液体及び前記第2の液体の少なくともいずれかが、水溶液である、
請求項1又は2に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項11】
陰圧源を接続するための陰圧源接続部を有し、かつ、前記陰圧源から適用される陰圧によって、流路内で液体を進行させることができるように構成されている、請求項1又は2に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項12】
エマルジョン形成部をさらに有する、請求項1又は2に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項13】
エマルジョン保持流路をさらに有する、請求項1又は2に一項に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項14】
エマルジョン充填法で用いるための、請求項12に記載のマイクロ流路チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流路チップに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流路チップ内において、2以上の液体を合流させることがある。例えば、非特許文献1は、検出対象物質を含有するサンプル液にシース液を合流させて、細胞などの粒子をサイズ等の特性に応じて分離できること、サンプル液に検出用試薬を含有する反応液を合流させて、迅速な攪拌・混合や多段希釈を行うことで検出対象物質の検出処理ができることを示している。
【0003】
特許文献1は、2以上の反応液同士をマイクロ流路チップ内で合流させ混合することによって、標的分子に対する反応を行うことを記載している。このような構成によれば、2以上の反応液同士が合流するまで標的分子の反応が進行しないので、標的分子の反応を高効率かつ高精度に実施でき、反応生成物の検出を定量性高くかつ好感度に実施できる。
【0004】
特許文献1は、微小液滴法についても記載している。微小液滴法は、反応液を微小区画に分画し独立して反応を行なう技術であり、微小液滴中に反応液を分画する。この手法は、例えばマイクロ・ナノ粒子の作製などに応用が期待されており、特に、マイクロ流体装置を用いて、標的分子を1分子単位で微小区画化し、微小液滴内で反応を行なうことで、標的分子の有無をシグナルの有無で計測し、標的分子の数の絶対定量を行なうデジタル計測に利用されている。
【0005】
微小液滴法では、一般に、オイルなどの連続相と、この連続相に分散した水溶液の液滴とから構成されるエマルジョンが使用される。非特許文献2及び3は、このような微小液滴法において液滴を生成する方法について記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-170363号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Design of pressure-driven microfluidic networks using electric circuit analogy,Lab Chip, 2012, 12, 515-545
【非特許文献2】Centrifugal step emulsification applied for absolute quantification of nucleic acids by digital droplet RPA, Lab Chip, 2015, 15, 2759-2766
【非特許文献3】1-Million droplet array with wide-field fluorescence imaging for digital PCR、Lab on a Chip、2011、11、3838-3845
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
マイクロ流路チップ内で2以上の液体を合流させることによって、種々の検出・解析をより高精度に行うことができる。上述のとおり、例えば、分析用試料(特には標的分子)を含有する反応液と、検出用試薬を含有する反応液とを、別個にマイクロ流路チップに供給することによって、反応開始のタイミングを良好に制御することができる。
【0009】
特に、微小液滴法では、2以上の液体をチップ内で合流させた後に、この合流液体に対して非混和性である連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンを生成し、エマルジョン中の液滴内の流れを利用してすみやかに攪拌・混合することで、反応開始のタイミングをより良好に制御することができ、標的物質の高精度かつ簡便な検出を行うことができる。
【0010】
従来のマイクロ流路チップでは、チップ内で液体を合流する際に、気泡の発生が問題となる場合があった。流路中に気泡が存在すると、流路中での対象物質の検出処理(特には液滴中での検出反応)が阻害されるおそれがある。また、液体(特には水溶液)同士をチップ中で接触・合流させ混合する場合には、気泡の発生に伴って流路中における液体(特には水溶液)の進行が阻害されるという大きな問題が生じうる。これは、陰圧送液を行う場合に顕著である。すなわち、エマルジョン形成部を有するマイクロ流路チップにおいて、陰圧送液は、陽圧送液よりも装置構成を簡素化し想定時間を短縮する効果が期待できるが、流路閉塞が生じると、2液の合流及び/又は混合が、より顕著に阻害される。
【0011】
また、特に、後述するエマルジョン充填法を行う場合には、分散相液(特には水溶液)が、気体で充填された空の流路(例えば空気で充填された流路)を進行するため、分散相液同士を接触・合流・混合させる際に、気泡が発生しやすかった。
【0012】
さらに、生成された液滴をマイクロ流路チップ内に保持して検出を行う場合(オールインワンチップ)には、発生した気泡が液滴保持部に滞留して検出反応を阻害する傾向が顕著になる。
【0013】
上記のような背景において、本発明は、流路中で2以上の液体が合流する際の気泡の発生が抑制されているマイクロ流路チップを提供することを目的とする。特には、本発明は、気体(特には空気)で充填されている流路中で2以上の液体が合流する際の気泡の発生が抑制されているマイクロ流路チップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る上記の課題は、下記の本発明に係る態様によって解決することができる。
<態様1>
第1液流路、第2液流路、及び合流部を有しており、
前記第1液流路が、前記合流部の壁面に設けられた第1開口部を介して、前記合流部に流通しており、
前記第2液流路が、前記合流部の壁面に設けられた第2開口部を介して、前記合流部に流通しており、かつ
前記第1開口部と前記第2開口部とが、互いに離間している、
マイクロ流路チップ。
<態様2>
前記第1開口部と前記第2開口部との間の距離Dcが、前記合流部に隣接する部位における前記第1液流路の幅D1及び前記第2液流路の幅D2の少なくともいずれかよりも大きい、態様1に記載のマイクロ流路チップ。
<態様3>
前記第1開口部と前記第2開口部との間の距離Dcが、50μm以上である、態様1又は2に記載のマイクロ流路チップ。
<態様4>
前記第1開口部と前記第2開口部との間の距離Dcが、100μm以上800μm以下である、態様3に記載のマイクロ流路チップ。
<態様5>
前記第1液流路を構成する側部壁面と、前記第2液流路を構成する側部壁面とが、流路接続壁面を介して互いに接続している、請求項1~4のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ。
<態様6>
前記第1液流路の側部壁面と前記合流部の前記流路接続壁面とが、角部を形成して互いに接続しており、かつ/又は、
前記第2液流路の側部壁面と前記合流部の前記流路接続壁面とが、角部を形成して互いに接続している、
態様5に記載のマイクロ流路チップ。
<態様7>
前記流路接続壁面が、平坦な平面であり、
前記合流部が、前記流路接続壁面に直交する参照平面に対して互いに対称な2つの部分からなる、
請求項5又は6に記載のマイクロ流路チップ。
<態様8>
前記第1液流路と前記第2液流路とが、前記参照平面に対して互いに対称に配置されている、請求項7に記載のマイクロ流路チップ。
<態様9>
前記合流部の流れ方向における前記合流部の長さが、前記流路接続壁面の幅の1.5倍以上である、態様5~8のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ。
<態様10>
前記マイクロ流路チップは、前記第1液流路及び前記第2液流路をそれぞれ進行する第1の液体及び第2の液体を前記合流部で合流させるように構成されており、
前記第1の液体及び前記第2の液体の少なくともいずれかが、水溶液である、
態様1~9のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ。
<態様11>
陰圧源を接続するための陰圧源接続部を有し、かつ、前記陰圧源から適用される陰圧によって、流路内で液体を進行させることができるように構成されている、態様1~10のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ。
<態様12>
エマルジョン形成部をさらに有する、態様1~11のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ。
<態様13>
エマルジョン保持流路をさらに有する、態様1~12のいずれか一項に一項に記載のマイクロ流路チップ。
<態様14>
エマルジョン充填法で用いるための、態様12又は13に記載のマイクロ流路チップ。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、流路中で2以上の液体が合流する際の気泡の発生が抑制されているマイクロ流路チップを提供することができる。特には、本発明によれば、気体(特には空気)で充填されている流路中で2以上の液体が合流する際の気泡の発生が抑制されているマイクロ流路チップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明のうち比較的単純な実施態様に係るマイクロ流路チップ10の流路構造の基本構造を示した平面概略図である。
図2図2は、本発明の1つの実施態様に係るマイクロ流路チップの流路構造の一部を示した平面概略図である。
図3図3は、エマルジョン形成部及びエマルジョン保持流路を有する本発明に係る1つの実施態様の平面概略図である。
図4a図4aは、実施例1-2における合流部での2つの液体(反応液及び開始液)の合流のようすを示すタイムラプス画像(図中の1~5)、及び合流部周辺の流路構造の模式図(図中の6)である。
図4b図4bは、比較例1で用いたマイクロ流路チップの合流部周辺の流路構造の模式図である。
図5図5は、実施例1-2におけるエマルジョンの生成の様子を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
≪マイクロ流路チップ≫
本開示に係るマイクロ流路チップは、
第1液流路、第2液流路、及び合流部を有しており、
第1液流路が、合流部の壁面に設けられた第1開口部を介して、合流部に流通しており、
第2液流路が、合流部の壁面に設けられた第2開口部を介して、合流部に流通しており、かつ
第1開口部と第2開口部とが、互いに離間している。
【0018】
上記のとおり、マイクロ流路チップ内で2つ以上(特には2つ)の液体(特には水溶液)を合流させる場合、気泡の発生が問題となる場合があった。特に、(後述するエマルジョン充填法でのように)気体で満たされた流路中で液体を合流させる場合には、空の流路(例えば空気で満たされた流路)をそれぞれ進行する2以上の液(特に水溶液)が合流部で合流・混合される際に、気泡が発生するおそれがあった。
【0019】
この原因としては、2つ以上(特には2つ)の液体が合流部に到達するタイミングのずれが挙げられる。具体的には、例えば、一方の流路から合流部へと進入した液が、他方の流路からの液が合流部に進入する前に、他方の流路を塞ぎ、その結果として、他方の流路中に気体が発生し残留してしまうことがある。このような場合には、他方の流路が気泡で閉塞され、液の進行が阻害されてしまう。このような流路の閉塞は、特に液体が水溶液である場合や送液圧が陰圧である場合には、解消することが容易ではない。また、流路中の気泡は、マイクロ流路チップで行う検出処理などを阻害する場合がある。
【0020】
これに対して、本発明によれば、合流部に接続する流路の開口部が互いに離れているので、合流部への液の到達タイミングがずれたとしても、早く到達した一方の流路の液体が他の流路の開口部に達するまでの時間を遅らせることができるので、流路中に気体が残留することによる気泡の発生を抑制することができる。
【0021】
以下で、図面を用いて本発明を例示的に説明する。なお、図面は、本発明を説明するための例示的な概略図であり、縮尺どおりではない。図面は、本発明を限定するものではない。別段の指定がない限り、図中、Lは、長さ方向、Wは、幅方向を表す。
【0022】
図1は、本発明のうち比較的単純な実施態様に係るマイクロ流路チップ10の流路構造の基本構造を示した平面概略図である。
【0023】
図1のマイクロ流路チップ10は、液体を導入するための2つの導入口102及び103、これらの導入口にそれぞれ流通する第1液流路114及び第2液流路115、これらの流路が合流する合流部116、合流部116に流通する下流側流路130、並びに、下流側流路130に流通する排出口150を有する。
【0024】
図1のマイクロ流路チップ10は、流路内で2つの液体が合流するように構成されている。例えば、2つの導入口102及び103にそれぞれ第1の液体及び第2の液体を供給すると、毛管現象及び/又は液面差圧等によってこれらの液体がそれぞれ第1液流路114及び第2液流路115を進行し、合流部116で合流するようになっている。随意に、マイクロ流路チップに対して外部送液圧を加えてよく、例えば、導入口102及び103を介して陽圧を印加してよく、かつ/又は、排出孔150を介して陰圧を印加してよい。
【0025】
上記の2つの液体は、好ましくは、気体(特には空気)で充填されている流路中を進行する。すなわち、少なくとも第1液流路114及び第2液流路115並びに合流部116が気体で充填されている状態で、2つの液体を、それぞれ導入口102及び103に導入し、気体で充填されている第1液流路114及び第2液流路115をそれぞれ通して、気体で充填されている合流部116にまで進行させることができる。この合流部に到達した2つの液体は、合流するとともに、合流部116中に存在していた気体を置換しつつ、下流へとさらに進行する。
【0026】
本発明によれば、合流部116における第1液流路114の第1開口部と、合流部116における第2液流路115の第2開口部とが、互いに離間しており、これによって、流路閉塞及び気泡の発生が抑制されている。これについて、図2を参照してより詳細に説明する。
【0027】
図2は、本発明の1つの実施態様に係るマイクロ流路チップの流路構造の一部を示した平面概略図である。図2のマイクロ流路チップは、第1液流路214、第2液流路215、及び合流部216を有している。合流部216は、第1液流路214及び第2液流路215に対向する側で、出口流路217に接続している。
【0028】
合流部は、流路を構成する壁面に囲まれた空間として定義することができる。すなわち、使用状態のマイクロ流路チップを考慮したときに、合流部は、水平方向に延在する水平壁面(特には天井面及び床面)、及び複数の側部壁面によって囲まれた空間であってよい。
【0029】
なお「水平壁面」は、特には、流路を構成する壁面のうち、水平方向に主に延在する壁面であり、「側部壁面」は、特には、流路を構成する壁面のうち、水平方向及び鉛直方向に主に延在する壁面である。
【0030】
本発明によれば、合流部の壁面に、第1開口部及び第2開口部が設けられている。好ましくは、合流部の壁面のうち側部壁面に、第1開口部及び第2開口部が設けられている。
【0031】
図2の平面概略図を参照すると、合流部は、図面に対して平行に延在する天井部及び床部を有するとともに、図面に対して鉛直方向に延在する複数の側部壁面を有する。図2では、5つの側部壁面によって、水平方向における合流部216の空間が画定されている。
【0032】
図2のマイクロ流路チップでは、第1開口部224及び第2開口部225が、それぞれ、合流部216の壁面のうち、上流側で幅方向に延在する側部壁面に、設けられている。第1液流路214が、この第1開口部224を介して、合流部216に接続し、第2液流路215が、この第2開口部225を介して、合流部216に接続する。
【0033】
第1開口部224と、第2開口部225とは、本発明に従って、互いに離間している。このような構成によれば、2つの開口部が互いに離間していない場合と比較して、第1液流路及び/又は第2液流路を流れてくる液体による流路閉塞及び気泡の発生を抑制又は回避することができる。
【0034】
例えば、第1の液体及び第2の液体が、それぞれ、気体で充填されている第1液流路及び第2液流路を、毛管現象及び/又は液面差圧等によって、気体で充填されている合流部の方に進行する場合を考える。この場合に、第1の液体が第2の液体よりも早く合流部に到達したとすると、合流部における流路の開口部が互いに離間していない場合には、第1の液体が第1開口部を通過した後、直ぐに第2開口部を通過し、気体で充填されている第2液流路に進入(逆流)しうる。この場合、遅れて流れてくる第2の液体と、逆流した第1の液体とが、第2液流路中で対向する形となり、これらの液体の間に気体(空気)が残存し、結果として、気泡が発生するとともに、流路閉塞が生じてしまう。
【0035】
これに対して図2に示す本発明に係る態様では、例えば第1の液体が第2の液体よりも早く合流部に到達した場合であっても、第1開口部と第2開口部とが離間しているので、比較的早く到達した第1の液体が第2開口部を超えて第2液流路に進入する前に、遅れてくる第2の液体が第2開口部に到達する時間の余裕が生じる。したがって、図2に例示される本発明によれば、チップ内で合流する2つの液体の供給及び/又は進行のタイミングがずれた場合であっても、気泡の発生及び流路閉塞を効果的に抑制することができる。
【0036】
なお、図2の流路構造は、対称構造を有している。具体的には、マイクロ流路チップの使用状態を考慮したときに、図2の合流216は、鉛直方向に延在する参照平面に対して互いに対称な2つの部分からなる。
【0037】
また、図2では、第1液流路214と第2液流路215とが、上記の参照平面に対して互いに対称に配置されている。
【0038】
図2において、「参照平面」は、平坦な平面である流路接続壁面272に直交する平面であり、かつ、流路接続壁面272を水平方向で2等分する平面である。流路接続壁面の詳細については後述する。
【0039】
このように、合流部及び合流部に接続する流路を、水平方向での液体の全体的な流れ方向に対して対称的な構造とすることによって、合流部に流入する2つの液体を対称的に合流させることが可能となる。これによって、合流した液体から生成される液滴における均一な混合比を確保することが可能になる。
【0040】
本発明の構成について、下記でさらに詳細に説明する。
【0041】
<開口部の離間>
上述のとおり、本開示に係るマイクロ流路チップでは、第1開口部と第2開口部とが互いに離間している。すなわち、第1開口部と第2開口部とが互いに接していない。
【0042】
本開示に係る1つの実施態様では、第1開口部と第2開口部とが互いに離間しており、かつ、これらの間の距離Dcが、50μm~800μmであるようになっている。
【0043】
第1開口部と第2開口部との間の距離Dcは、これらの間の最短距離を計測することによって決定することができる。
【0044】
距離Dcは、好ましくは、60μm以上、70μm以上、80μm以上、90μm以上、100μm以上、200μm以上、若しくは300m以上、であってよく、かつ/又は、750μm以下、650μm以下、500μm以下、550μm以下、500μm以下、450μm以下、若しくは400μm以下であってよい。
【0045】
本開示に係る別の実施態様では、マイクロ流路チップの使用状態における水平方向を考慮したときに、第1開口部と第2開口部との間の距離Dcが、合流部に隣接する部位における第1液流路の幅D1及び第2液流路の幅D2のうちの少なくともいずれか一方よりも大きく、より好ましくはD1及びD2のいずれよりも大きい。なお、流路の「幅」は、当該流路内での液体の流れ方向に水平方向で直交する長さを計測することによって決定することができる。
【0046】
距離Dcの、流路幅D1又はD2に対する倍率は、1.5倍以上、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上であってよく、かつ/又は、50倍以下、25倍以下、20倍以下、15倍以下、若しくは12倍以下であってよい。
【0047】
(流路接続壁面)
開口部の間の離間は、例えば、第1液流路を構成する側部壁面と、第2液流路を構成する側部壁面とを、流路接続壁面を介して接続することによって、達成することができる。換言すると、第1液流路を構成する側部壁面と、第2液流路を構成する側部壁面とを、流路接続壁面を介して互いに接続することができ、それによって、第1開口部と第2開口部とを互いに離間させることができる。
【0048】
流路接続壁面は、水平方向及び鉛直方向に主に延在する壁面、特には幅方向及び鉛直方向に主に延在する壁面である。流路接続壁面は、合流部を構成する壁面(特には側部壁面)であってよい。「幅方向」は、後述するとおり、水平方向で流路の「合流方向」に直交する方向である。
【0049】
図2の例を参照して説明すると、第1液流路214の側部壁面と、第2液流路215の側部壁面とが、一定の幅Dcを有する流路接続壁面272を介して互いに接続しており、これによって、第1開口部214bと第2開口部215bとが距離Dcで互いに離間するようになっている。この流路接続壁面272は、合流部216の空間を画定する側部壁面の1つである。
【0050】
本開示に係る1つの実施態様では、流路接続壁面が、幅方向及び鉛直方向に主に延在する壁面であり、流路接続壁面の幅が、第1開口部の幅及び第2開口部の幅のうちの少なくとも1つよりも大きく、より好ましくは、第1開口部の幅及び第2開口部の幅のいずれよりも大きい。流路接続壁面が幅方向及び鉛直方向に主に延在する壁面である場合、流路接続壁面の幅の好ましい値については、開口部の間の距離Dcに関する上記の記載を参照することができる。
【0051】
流路接続壁面の「幅」は、使用状態のマイクロ流路チップを考慮したときの水平方向において、第1液流路と第2液流路との「合流方向」に直交する方向で計測することができる。
【0052】
「合流方向」は、合流部に流入する流路の開口部におけるそれぞれの流入方向を足し合わせた方向である。例えば、図2の態様では、合流方向は、第1液流路214の流入方向と第2液流路215の流入方向を足し合わせた方向、すなわち図中の長さ方向Lに一致する。ただし、合流方向は流路接続壁面などの流路構造を規定するための定義であり、送液時の合流部における流れの向きと必ずしも合致しない。
【0053】
送液時の合流部における流れの向きは、合流部内の流れ方向に対する上流から下流までの位置によって異なる場合があるが、一定方向に一致していることが好ましく、特に、前記の合流方向と一致していることが好ましい。これは、2液合流時に形成する界面の流れの向きに延在する平面となる(曲率や角を有しない)ため、界面付近で流れの乱れが起きにくく、理想的な層流状態になりやすい、すなわち混合比(特に液滴内混合比)を制御しやすいためである。マイクロ流路チップにおいては、上述したとおり、上記第1液流路、第2液流路、及び合流部が、対称構造であることが好ましい。
【0054】
(障壁)
本発明に係るマイクロ流路チップは、流路中で液体の進行を阻害する障壁(「障害」ともいう)を有することもきる。すなわち、第1液流路及び/又は第2液流路と合流部との間に1以上の障壁が設けられており、それによって、第1液流路及び/又は第2液流路中の液体の流れが、第1開口部及び/又は第2開口部で阻害されるようになっている。より具体的には、例えば、第1液流路及び/又は第2液流路から合流部への方向において、第1開口部及び/又は第2開口部の前後で、流路断面が急激に増加するようになっている。
【0055】
例えば、合流部に隣接する部位における第1液流路又は第2液流路の流路断面の面積に対して、第1液流路又は第2液流路に隣接する部位における合流部の流路断面の面積が、1.5倍以上、2倍以上、3倍以上、4倍以上、若しくは5倍以上になっている。この倍率の上限は特に限定されないが、例えば100倍以下、又は50倍以下であってよい。
【0056】
ただし、このような障壁は、合流部が気体で充填されている場合に、合流部への液体の進入を過度に遅らせる可能性もあるので、本発明において、このような障壁は必ずしも必須ではなく、用いる液体の種類などに応じて適宜採用することができる。
【0057】
(合流部と流路との接続:側部壁面)
第1液流路及び第2液流路それぞれの側部壁面と、合流部の側部壁面とは、角部を形成して互いに接続することもできる。この場合には、第1液流路及び/又は第2液流路を流れてくる液体が、開口部で停止又は減速しやすくなる場合があり、その結果として、2つの液体の合流のタイミングを調節することがより容易になりうる。
【0058】
第1液流路及び第2液流路のそれぞれの2つの側部壁面のうち、1つの側部壁面のみが合流部の側部壁面と角部を形成して接続していてもよく、あるいは、2つの側部壁面のいずれもが、合流部の側部壁面と角部を形成して接続してもよい。
【0059】
例えば、図2に示されている態様では、第1液流路214の2つの側部壁面のうち、1つの側部壁面のみが、合流部216の壁面(流路接続壁面272)と角部を形成して接続しており、もう一方の側部壁面(図中の最も上側の壁面)は、角部を形成することなく合流部の壁面と連続的に接続している。第2液流路215についても同様である。
【0060】
壁面が「角部を形成して接続」するとは、例えば、互いに接続している2つの壁面の延在方向が互いに異なることによって、これらの接続部において角が形成されていることを意味している。特には、これらの接続部において、壁面の延在方向が急激に変化する。図2の例を用いて説明すると、第1液流路214の側部壁面と、合流部の側部壁面である流路接続壁面272とが、90°の角度αで接続しており、それによって壁面に角が形成されている。第2液流路215についても同様である。
【0061】
合流部の側部壁面である流路接続壁面と、第1液流路又は第2液流路の側部壁面との間の角度は、45°以上、60°以上、75°以上、85°以上、若しくは89°以上であってよく、かつ/又は、150°以下、120°以下、105°以下、95°以下、若しくは92°以下であってよい。この角度は、略直角であってよい。
【0062】
また、2つの壁面の接続部に形成される角部の丸みを円と仮定したときの半径、いわゆる角Rは、例えば1.0mm以下、0.5mm以下、0.3mm以下、0.1mm以下、0.05mm以下、0.03mm以下、0.01mm以下、0.005mm以下、0.003mm以下、又は0.001mm以下であるのが好ましい。
【0063】
(合流部と流路との接続:水平壁面)
合流部と流路との間に段差構造が形成されていてもよい。すなわち、例えば、第1液流路及び/又は第2液流路が、合流部よりも低い流路高さを有し、それによって、段差構造が形成されていてもよい。この場合、第1液流路の水平壁面(天井面若しくは床面)及び/又は第2液流路の水平壁面(天井面若しくは床面)が、鉛直方向に延在する接続壁面を介して、合流部の水平方向壁面に接続してよい。
【0064】
流路の「水平壁面」は、略水平方向に延在する壁面を意味しており、特には「天井面」又は「床面」に対応する。
【0065】
このような段差構造は、合流部が気体で充填されている場合に、合流部への液体の進行を過度に阻害してしまうことがあり、その場合、液体を合流させるまでに過度の時間を要するおそれもある。本発明の1つの態様では、第1液流路及び第2液流路が、合流部との間に段差構造(特には鉛直方向における流路高さの急激な変化)を有しない。
【0066】
(合流部)
合流部は、マイクロ流路チップを構成する流路の一部であり、第1液流路及び第2液流路に流通する。第1液流路及び第2液流路を通ってそれぞれ流れる第1の液体及び第2の液体が、合流部に流入することができる。合流部の寸法は、用いる液体の種類等に応じて適宜設定することができる。例えば、合流部の幅(特には合流部における幅/高さの比)が過度に大きい場合には、合流部における2つの液体の合流界面の乱れや界面付近での対流が起こりうるので、合流部の幅(特には合流部における幅/高さの比)を一定以下とすることが有利な場合もある。同様のことは、第1開口部と第2開口部との間の離間距離についても当てはまる。
【0067】
本開示に係る1つの実施態様では、合流部が、第1液流路及び第2液流路と隣接する部位において、50μm~2000μmの幅を有する。この幅は、100μm以上、200μm以上、300μm以上、若しくは400μm以上であってよく、かつ/又は、2000μm以下、1800μm以下、1600μm以下、1400μm以下、1200μm以下、若しくは1000μm以下であってよい。
【0068】
「合流部の幅」は、合流部における液体の全体的な流れ方向に対して水平方向で直交する方向で、合流部を構成する2つの側部壁面の間の距離を計測することによって、決定することができる。
【0069】
本開示に係る1つの実施態様では、合流部が、第1液流路及び第2液流路と隣接する部位において、20μm~300μmの高さを有する。この高さは、30μm以上、40μm以上、50μm以上、若しくは60μm以上であってよく、かつ/又は、250μm以下、200μm以下、150μm以下、若しくは100μm以下であってよい。
【0070】
「合流部の高さ」は、鉛直方向の流路長さを計測することによって決定することができる。例えば、合流部を構成する2つの水平壁面の間(特には天井部と床部との間)の距離を計測することによって、合流部の高さを決定することができる。
【0071】
本開示に係る1つの実施態様では、第1液流路及び第2液流路と隣接する部位において、合流部の幅と高さとの比(幅/高さ)が、10未満である。この比は、好ましくは、9以下、8以下、7以下、若しくは6以下であってよく、かつ/又は、1超、2以上、3以上、4以上、若しくは5以上であってよい。
【0072】
また、合流部は、合流部の流れ方向で計測したときに、200μm~2000μmの長さを有することができる。この長さは、300μm以上、400μm以上、500μm以上、若しくは600μm以上であってよく、かつ/又は、1500μm以下、1200μm以下、若しくは1000μm以下であってよい。
【0073】
また、合流部は、合流部の流れ方向(合流部における液体の全体的な流れ方向)において、流路接続壁面の幅の1.5倍以上の長さを有することができる。この倍率は、好ましくは、2.0倍以上、2.5倍以上、3.0倍以上、3.5倍以上、若しくは4.0倍以上であり、かつ/又は、10.0倍以下、若しくは8.0倍以下である。
【0074】
流れ方向における合流部の長さがこの範囲である場合には、合流部の体積を比較的広く確保することができるので、第1液流路及び第2液流路のうちの一方の流路から流れてくる液体が他方の流路に向かって流れる傾向を弱めることができ、その結果として、流路閉塞及び気泡の発生をより効果的に抑制することができる。
【0075】
流路接続壁面の「幅」は、上述のとおり、使用状態のマイクロ流路チップを考慮したときの水平方向において、第1液流路と第2液流路との「合流方向」に直交する方向で計測することができる。また、「合流部の流れ方向」として、上述の、第1液流路と第2液流路との「合流方向」を用いることができる。
【0076】
合流部は、随意に、出口流路に流通してよく、合流部で形成される第1の液体及び第2の液体の混合液体が、この出口流路に流入する。合流部と出口流路とは、出口開口部を介して接続してよい。
【0077】
(第1液流路及び第2液流路)
第1液流路及び第2液流路は、液体(特には水溶液)がその中を流れるように構成されている。
【0078】
第1液流路及び第2液流路のそれぞれの寸法、形状などは、用いる液体の種類などによって適宜設定することができる。
【0079】
本開示に係る1つの実施態様では、第1液流路及び第2液流路が、それぞれ、合流部に隣接する流路部位において、10μm~200μmの幅を有する。この幅は、より好ましくは、20μm以上、30μm以上、40μm以上、若しくは50μm以上であり、かつ/又は、150μm以下、120μm以下、若しくは100μm以下である。
【0080】
流路の幅は、マイクロ流路チップの使用状態における液体の流れ方向に対して水平方向で直交する方向での長さを計測することによって、決定することができる。
【0081】
本開示に係る1つの実施態様では、第1液流路及び第2液流路が、それぞれ、合流部に隣接する流路部位において、10μm~200μmの高さを有する。この高さはより好ましくは、20μm以上、30μm以上、40μm以上、若しくは50μm以上であり、かつ/又は、150μm以下、120μm以下、若しくは100μm以下である。
【0082】
流路の高さは、マイクロ流路チップの使用状態において、流路の鉛直方向の長さを計測することによって決定することができる。
【0083】
本開示に係る1つの実施態様では、第1液流路及び/又は第2液流路に関して、合流部に隣接する流路部位の幅と高さとの比(幅/高さ)が、10未満である。この比は、好ましくは、9以下、8以下、7以下、若しくは6以下であってよく、かつ/又は、1超、2以上、3以上、4以上、若しくは5以上であってよい。
【0084】
本開示に係る1つの実施態様では、合流部への第1液流路の流入方向と、合流部への第2液流路の流入方向が、それぞれ、0°以上180°以下の角度を形成している。この角度は、好ましくは、5°以上、10°以上、20°以上、40°以上、若しくは60°以上であってよく、かつ/又は、170°以下、160°以下、150°以下、若しくは120°以下であってよい。
【0085】
合流部における液体の良好な混合の観点からは、第1液流路及び第2液流路が、合流部の流れ方向に対して水平方向で対称に配置されていることが好ましい。
【0086】
<マイクロ流路チップ>
本発明に係るマイクロ流路チップは、流路内で2以上の液体(特には2つの液体)が合流するように構成されている。
【0087】
マイクロ流路チップの流路内で2つの液体を合流させる態様は、特に限定されない。例えば、合流部の下流側に陰圧を適用し、それによって、第1の液体及び第2の液体を第1流路及び第2流路から合流部へと送液することによって、合流部又はその下流において、第1の液体と第2の液体とを合流させることができる。陰圧等の外部送液圧を適用せずに、毛管現象及び/又は液面差圧を介して、第1の液体及び第2の液体を流路内で進行させることもできる。
【0088】
(液体)
マイクロ流路チップ中で合流する液体は、特に限定されない。
【0089】
好ましくは、合流部で合流する2以上の液体(特には2つの液体)のうちの少なくともいずれかが、水溶液である。
【0090】
水溶液はその表面張力や粘性に起因して液体中の気泡を下方に押し出すのが困難であるため、液体として水溶液を用いた場合には、流路の閉塞及び気泡を解消することが困難となりうる。これに対して、本願によれば、流路中で2以上の液体が合流する際の流路の閉塞及び気泡の発生が抑制される。したがって、本発明は、液体として水溶液を用いる場合に、特に有利である。
【0091】
液体は、随意に、界面活性剤、有機溶剤、増粘剤、血清、酵素などを含有することができる。液体は、反応液であってよく、例えば、後述する検出処理において検出対象となる試料を含有する液体、検出用の試薬を含有する液体(特には水溶液)であってよい。
【0092】
また、本発明に係るマイクロ流路チップが微小液滴法で用いられる場合には、合流部で合流する2つの液体は、分散相液であってよい。
【0093】
<流路構造>
上述のとおり、本発明に係るマイクロ流路チップは、第1液流路、第2液流路、及び、これらの流路が流通する合流部を有している。
【0094】
マイクロ流路チップの流路構造は、マイクロ流路チップの使用用途に応じて種々の追加の構成を有することができる。基本的な流路構造の例については、図1に関して上述したとおりである。
【0095】
本開示に係るマイクロ流路チップは、例えば、基材、及び基材の上に配置されている上部構造体を有している。好ましくは、上部構造体が、流路構造、すなわち、第1液流路、第2液流路、及び合流部、並びにその他の構造(例えば導入口、排出口、下流側流路)を有している。基材は、ガラスからできていてよい。上部構造体は、樹脂からできていてよい。マイクロ流路チップは、例えば、樹脂製の上部構造体と、マイクロ流路チップの底部を構成するガラス基材とを貼り合わせて作製することができる。
【0096】
マイクロ流路チップを構成する流路の大きさ(幅及び深さなど)は、目的とする液滴の体積などを考慮して適宜決定することができ、特には、標的物質の反応形態を考慮して適宜決定することができる。例えば、後述する微小液滴法において、標的物質がDNAやRNAなどの核酸であり、標的物質の反応が当該核酸のデジタル増幅反応(1分子単位での増幅反応)である場合は、pLオーダー又はnLオーダーの液滴を作製することが必要なため、エマルジョン形成部の周辺の流路の幅及び深さが、それぞれ、0.1μm~1000μm、特には1μm~300μmの範囲であることが好ましい。
【0097】
マイクロ流路チップは、流路構造を正確かつ容易に作製可能なモールディング若しくはエンボッシングなどの鋳型を用いた技術、又は、フォトリソグラフィー、ソフトフォトリソグラフィー、ウェットエッチング、ドライエッチング、ナノインプリンティング、レーザー加工、電子線直接描画、積層造形法(Additive Manufacturing、AM)、機械加工など、当業者が通常用いる技術を組み合わせて作製することができる。
【0098】
マイクロ流路チップの作製に用いる材料として、PDMS(ポリジメチルシロキサン)及びアクリルなどのポリマー材料、ステンレスなどの金属材料、ガラス、シリコーン、セラミックスなどがあげられる。これらの中でも、ポリマー材料は、流路自体を安価に作製でき、ディスポーザブルな態様としやすい。したがって、ポリマー材料を少なくとも部分的に用いることが好ましい。
【0099】
なお、マイクロ流路チップを構成する流路は、液体(特には後述する分散相液)に対して親和性の低い流路壁面にすると好ましい。液体(特には後述する分散相液)に対して親和性の低い材料を用いてマイクロ流路チップを作製してもよく、液体(特には後述する分散相液)に対して親和性の低い材料で流路壁面に相当する部分を表面処理してもよい。例えば、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、アクリル、シクロオレフィンポリマー、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのポリマー材料を用いてマイクロ流路チップを作製してもよく、炭化水素系シラン化剤、フッ化炭素系シラン化剤等によって流路壁面の表面処理を行なってもよい。
【0100】
本発明に係るマイクロ流路チップは、例えば、反応制御、粒子分離、多段希釈、微小液滴法などに用いることができる。また、本発明に係るマイクロ流路チップの具体的な用途として、マイクロ化学反応プロセス技術、イムノアッセイや遺伝子検出等の診断技術、細胞・微生物・ウィルス等の分離・検出技術も挙げられる。
【0101】
<微小液滴法>
反応液を微小区画に分画し独立して反応を行なう技術として、微小液滴中に反応液を分画する微小液滴法が知られている。この手法は、例えばマイクロ・ナノ粒子の作製などに応用が期待されており、特に、マイクロ流体装置を用いて、標的分子を1分子単位で微小区画化し、微小液滴内で反応を行なうことで、標的分子の有無をシグナルの有無で計測し、標的分子の数の絶対定量を行なうデジタル計測に利用されている。
【0102】
特に、微小液滴法に関して、近年、装置の簡便化・迅速化の観点から、検出領域に液滴を単層に整列させて簡便にシグナルを測定する液滴アレイ測定が注目されている。
【0103】
本開示に係る1つの実施態様のマイクロ流路チップは、微小液滴法で用いるように構成されており、分散相液及び連続相液をマイクロ流路チップに供給することによって、エマルジョンの生成及び/又は保持を行うことができるように構成されている。
【0104】
(エマルジョン形成部)
好ましくは、マイクロ流路チップが、分散相液保持部、分散相液流路、連続相液保持部、連続相液流路、エマルジョン形成部、エマルジョン流路、及び排出口を有しており、
分散相液保持部が、分散相液流路を介して、エマルジョン形成部(「液滴生成部」ともいう。)に接続しており、
連続相液保持部が、連続相液流路を介して、エマルジョン形成部に接続しており、
エマルジョン流路が、排出口に接続している。
【0105】
この実施態様に係るマイクロ流路チップは:
分散相液保持部に分散相液を供給し、連続相液保持部に連続相液を供給し、かつマイクロ流路チップに外部送液駆動力(例えば排出口への陰圧)を適用したときに、エマルジョン形成部において、分散相液から構成される液滴及び連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンが生成され、このようにして生成されたエマルジョンが、エマルジョン流路に輸送されるように構成されている。
【0106】
また、この実施態様に係るマイクロ流路チップは、2つ以上の分散相液保持部、及びそれらにそれぞれ対応する2つ以上の分散相液流路を有することができる。
【0107】
すなわち、例えば、マイクロ流路チップが、第一分散相液保持部及び第二分散相液保持部を有し、分散相液流路が、第一分散相液保持部に接続されている第一分散相液流路、第二分散相液保持部に接続されている第二分散相液流路、及び分散相液合流部を含む。第一分散相液流路及び第二分散相液流路は、それぞれ、分散相液合流部を介して、エマルジョン形成部に接続することができる。
【0108】
この場合、第一分散相液流路、第二分散相液流路、及び分散相液合流部が、それぞれ、本発明に係る、第1液流路、第2液流路、及び合流部に対応する。本発明によれば、第一分散相液流路及び第二分散相液流路が、それぞれ、第1開口部及び第2開口部を介して分散相液合流部に流通しており、第1開口部と第2開口部とが、互いに離間している。
【0109】
(エマルジョン保持流路)
本開示に係るさらに好ましい実施態様では、
マイクロ流路チップが、液滴保持部であるエマルジョン保持流路をさらに有し、
エマルジョン形成部が、エマルジョン流路を介して、エマルジョン保持流路に接続し、
エマルジョン保持流路が、排出口に接続している。
【0110】
この場合、マイクロ流路チップは、
分散相液保持部に分散相液を供給し、連続相液保持部に連続相液を供給し、かつマイクロ流路チップに外部送液駆動力(例えば排出口への陰圧)を適用したときに、エマルジョン形成部において、分散相液から構成される液滴及び連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンが生成され、このようにして生成されたエマルジョンが、エマルジョン流路を介して、気体で充填された状態のエマルジョン保持流路に輸送されるように構成されている。
【0111】
本開示に係る特に好ましい実施態様に係るマイクロ流路チップは、エマルジョン充填法で用いるためのマイクロ流路チップである。
【0112】
「エマルジョン充填法」では、エマルジョン形成部で生成されるエマルジョン(液滴+連続相)が、気体で充填されているエマルジョン保持流路に輸送される。エマルジョン充填法では、エマルジョン形成部で生成されたエマルジョンが、気体で充填されているエマルジョン保持流路の中を排出口の方向に向かって移動し、エマルジョン保持流路を充填する。すなわち、エマルジョン保持流路を充填している気体とエマルジョンとによって形成される「気液界面」が、エマルジョン保持流路の下流(又は排出口)に向かって移動する。
【0113】
図3に示すマイクロ流路チップを用いて、エマルジョン形成部及びエマルジョン保持流路を有する態様について具体的に説明する。
図3のマイクロ流路チップ30は、平面型の構成を有しており、すなわち、エマルジョンの生成、輸送及び保持が、実質的に1つの平面内で行われるようになっている。図3のマイクロ流路チップ30は、第一分散相液保持部302、第二分散相液保持部303、(第一分散相液流路314、第二分散相液流路315、及び分散相液合流部316からなる)分散相液流路、連続相液保持部301、連続相液流路311、エマルジョン形成部320、エマルジョン流路330、エマルジョン保持流路340、及び排出口を350有している。なお、エマルジョン保持流路は随意の構成要素である。分散相液保持部302、303が、それぞれ、第一分散相液流路314及び第二分散相液流路315を介して、エマルジョン形成部320に接続しており、連続相液保持部301が、連続相液流路311を介して、エマルジョン形成部320に接続している。図3に係る態様では、連続相液流路311が、第一連続相液流路312及び第二連続相液流路313からなる。エマルジョン形成部320が、エマルジョン流路330を介して、エマルジョン保持流路340に接続しており、エマルジョン保持流路340が、排出口350に接続している。
【0114】
本開示に係る1つの態様によれば、検出対象となる物質を含有する水溶性反応液などの分散相液を、分散相液保持部302、303に供給し、オイルなどの連続相液を、連続相液保持部301に供給する。この時点で、マイクロ流路チップ30の各流路には気体(特には空気)が充填されている(すなわち、「空」のマイクロ流路チップを用いる)。
【0115】
なお、空のマイクロ流路チップとは、流路内が気体(特には空気)で充填された状態のことを指し、流路全体に液体(例えば、分散相液、連続相液など)がない状態、すなわち流路全体が気体で充填されている状態が好ましい。なお、マイクロ流路チップの流路内に表面処理や空気中の水の凝結等によって液体が残留・発生していてもこの限りではないが、少なくとも流路の一部が液体によって閉塞していないことが好ましく、特に、分散相液流路、連続相液流路、エマルジョン形成部が閉塞していないことが好ましい。
【0116】
本発明に係る1つの態様では、外部送液駆動力(特には陰圧)の適用の前に、エマルジョン保持流路が(少なくとも部分的に)気体で充填されている。この方法は、マイクロ流路チップの流路全体を連続相液であらかじめ充填する従来の方法とは異なっており、従来必要とされていた、連続相液の充填及び過剰な連続相液の除去といった準備工程を省略することができる。
【0117】
図3のマイクロ流路チップ30は、保持部に供給された液体(分散相液及び連続相液)を、毛細管力及び/又は液面差圧によってエマルジョン形成部にまで移動させることができるように構成されている。この場合には、追加的な装置を必要とすることなく、容易に、予備充填液並びに分散相液及び連続相液の移動を制御することができる。
【0118】
例えばマイクロ流路チップの流路構造(流路表面の特性、流路の圧力損失など)を適宜設定することによって、所望の毛細管力を得ることができる。また、例えば各相液保持部に供給される液量(特には液面高さ)を調節することによって、所望の液面差圧を得ることができる。
【0119】
毛細管力は、特には、キャピラリー力とも呼ばれる力であり、大きく開けた保持部内の気液界面とより小さい断面を有する流路内の気液界面の表面張力差によって発生する流路に侵入する方向に働く力である。よって、毛細管力は各流路の特性だけでなく保持部の構造も影響し、特にエマルジョン充填法ではエマルジョンの気液界面の移動を制御するため、送液(液滴生成)中及び送液停止後の液滴保持中においても毛細管力が大きく影響する。
【0120】
また、液面差圧は、静水圧とも呼ばれる力であり、一般に静止状態の液体中に重力によって発生する圧力、すなわち各保持部への各相液の供給量(重量)に依存した圧力を指す。
【0121】
本開示の1つの態様では、排出口350に外部送液駆動力(陰圧)を適用することによって、エマルジョン形成部320において、分散相液から構成される液滴及び連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンを生成し、このようにして生成されたエマルジョンを、エマルジョン流路330を介して、気体で充填された状態のエマルジョン保持流路340に輸送する。
【0122】
<エマルジョン>
生成されるエマルジョンは、分散性溶液であり、分散相液から構成される液滴、及び連続相液から構成される連続相を含む。エマルジョン中で、分散相液から構成される液滴が、連続相液から構成される連続相に分散している。
【0123】
(分散相液)
分散相液は、エマルジョンに含有される液滴を構成する液体である。
【0124】
分散相液は、例えば、水溶液である。分散相液は、随意に、界面活性剤、有機溶剤、増粘剤、血清、酵素などを含有することができる。分散相液は、反応液であってよく、例えば、後述する検出処理において検出対象となる試料を含有する液体、検出用の試薬を含有する液体、又はこれらの混合液であってよい。
【0125】
(連続相液)
連続相液は、エマルジョンに含有される連続相を構成する液体である。
【0126】
連続相液は、分散相液と混和しない非混和性液体であることが好ましい。例えば、分散相液が水溶液である場合、連続相液はオイルであってよく、この場合、ウォーターインオイル(W/O)型エマルジョンが形成される。
【0127】
連続相液がオイルである場合、オイルとしては、シリコーンオイル、鉱油、フッ素系分散媒、植物油、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0128】
フッ素系分散媒としては、フルオロカーボン、特には、ペルフルオロヘキサン、ヘキサフルオロベンゼン、ペルフルオロメチルシクロヘキサン、ペルフルオロオクタン、及びペルフルオロトリペンチルアミンが挙げられる。
【0129】
市販されているフルオロカーボンとしては、FC-3283(フロリナート(商品名)3M社製)、FC-40(フロリナート(商品名)3M社製)、及びHFE-7500(3MTMNovecTM高機能性液体、3M社製)が挙げられる。
【0130】
連続相液としてフッ素系分散媒、特に上記のフルオロカーボンを使用した場合には、特に安定かつ迅速な液滴生成が可能となる。また、極性溶媒や無極性溶媒に対して極めて相溶性が低い特徴を有するため、エマルジョン内の液滴の成分が連続相液を介して他の液滴に移動してしまう問題(クロストーク、コンタミ)を抑制することができる。また、炭化水素系分散媒やシリコーンオイルで表面張力や粘性の低い液体を選択する場合、一般的に可燃性等の危険物としてのリスクが増大するが、フッ素系分散媒は消火剤や冷却媒として利用されるほど安全性が高いのが特徴である。
【0131】
連続相液がオイル(特にはフッ素系分散媒)を含有する場合、オイル(特にはフッ素系分散媒)は、連続相液に対して、50.0~99.9質量%であってよく、又はさらには80~99.0質量%であってよい。
【0132】
なお、液滴の熱安定性の目的などのために、界面活性剤などの添加剤を連続相液に添加することもできる。これらの添加剤は、液滴における検出反応を阻害しないものであることが好ましい。界面活性剤としては、非イオン界面活性剤である、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールのブロックコポリマーであるPLURONIC(登録商標)およびTETRONIC(登録商標)やTween(登録商標)、Span、Zonyl(登録商標)など挙げられる。連続相液としてフッ素系分散媒を使用する場合、フッ素系界面活性剤、特にはフッ化炭素系界面活性剤を使用するのが好ましく、例えばパーフルオロポリエーテルとポリエチレングリコールのブロックコポリマー等が挙げられる。
【0133】
連続相液が界面活性剤を含む場合、界面活性剤は、連続相液に対して、1~20質量%であってよく、又はさらには2~10質量%であってよい。
【0134】
(液滴)
エマルジョンに含有される液滴は、分散相液から構成される。液滴は、例えば、分散相液が連続相液との接触を介してカプセル封入されることによって形成される。
【0135】
液滴は、例えば、検出対象となる試料を含有する。液滴中で、試料中に含有される標的物質と試薬とを反応させ、その反応の有無及び/又は反応の程度を示す検出可能なシグナル(例えば、蛍光シグナル)を介して、試料の分析を行うことができる。この反応は、例えば、化学反応、結合反応、表現型の変化、又はこれらの組み合わせであってよい。
【0136】
液滴の体積は、標的物質(標的分子)をおおむね1つ(例えば1分子)保持できるだけの体積を有することが好ましい。具体的には、平均体積が、0.00001nL以上、0.0001nL以上、0.001nL以上、0.01nL以上、0.1nL以上、0.5nL以上、若しくは1nL以上、かつ/又は、100nL以下、50nL以下、若しくは10nL以下であることが好ましい。なお、液滴内における標的物質の反応を均一に行なう観点から、形成する液滴の体積は単分散性が高いと好ましい。ここでいう単分散性とは、具体的には、液滴体積の変動係数(CV)が20%以下、10%以下、5%以下、2%以下、又は1%以下のことをいう。なお、下記では説明をわかりやすくするため、液滴を球状として取り扱うが、流路構造や周囲の流れによって液滴が非球状になっていても同様に考えてよい。
【0137】
液滴は、少なくとも標的物質の反応温度条件下で液滴の形状を維持できるだけの熱安定性を有していることが好ましい。具体例として、検出処理において、TRC法による核酸増幅を行う場合は、40℃~48℃の温度条件下で、PCR法による核酸増幅を行う場合は、50℃~100℃の温度条件下で、それぞれ、形状を維持できるだけの熱安定性を液滴が有していることが好ましい。
【0138】
<エマルジョン形成部及び随意にエマルジョン保持流路を有するマイクロ流路チップ>
分散相液保持部、分散相液流路、連続相液保持部、連続相液流路、エマルジョン形成部、エマルジョン流路、随意のエマルジョン保持流路、及び排出口は、互いに流体的に接続され、全体として1つの流路構造を形成する。
【0139】
特には、この流路構造は、分散相液保持部、連続相液保持部、及び排出口のみを介して、外部雰囲気(特には外部大気)に接続しうるようになっている。
【0140】
(分散相液保持部)
分散相液保持部は、エマルジョンを生成するための材料となる分散相液を保持する部分である。分散相液保持部は、導入口であってよく、分散相液保持部を介して、液体をマイクロ流路チップに導入することができる。分散相液保持部は、例えば、マイクロ流路チップの使用状態において鉛直方向に延在する穴部及び/又はウェルであってよく、この穴部及び/又はウェル内に、分散相液を供給しかつ保持することができるようになっている。分散相液保持部は、例えば、直径0.1mm~20mmの穴部及び/又はウェルから構成されていてよい。分散相液保持部が穴部及びウェルから構成される場合、鉛直方向に延在するウェルが、鉛直方向に延在する穴部を介して、分散相液流路に接続することができる。
【0141】
(分散相液の供給)
分散相液保持部に、分散相液を供給することができる。1つの実施態様では、分散相液は、予備充填液が分散相液保持部まで移動した後で、供給される。
【0142】
分散相液保持部に分散相液を供給するために、分散相液を保持するために別個に用意される別容器(相液保持容器)を用いることもできる。このような容器は、保管中及び操作中における液の流出を防止する観点から、分散相液を保持した状態で完全に又は可変的に密閉されていることが好ましい。
【0143】
また、分散相液の供給(及び/又は連続相液の供給)は、分注手段によって行うことができる。分注手段の使用は、分散相液の残量を抑制し、測定時間及び/又は試薬(分散相液)間のコンタミを抑制できる点で好ましい。
【0144】
例えば、分注手段を用いて各保持部に各相液を滴下し、又は、各保持部の壁面に沿って各相液を導入することができる。これは、送液を陰圧で行う場合に、特に有利である。従来の供給方法、特に、各保持部にチューブ又はマニフォールドを流体接続(密閉接続)させて各保持部への液導入及び送液圧力を同時に行う方法では、接続時の不意の圧力変動及び圧力の安定化までに要する時間に起因して、送液を開始する前に早期に液滴が生成してしまうことがあった。これに対して、分注手段を用い、かつ送液を陰圧で行う場合には、各保持部に相液供給用装置及び圧力源を接続する際の圧力の変動がなくなるので、送液を開始する前の早期の液滴生成を抑制することができる。
【0145】
分注手段は、保持部における圧力変動を生じないものであることが好ましい。分注手段は、例えばピペットであってよい。好ましくは、分注手段(特に、分注手段を構成する液吐出口)が、各保持部に対して流体接続(密閉接続)されておらず、空間的に離されている。
【0146】
例えば、分注手段は、ポンプ、アクチュエーター、ピペットを含む機構であってよく、別容器に保持された各相液をポンプによって吸い上げ、アクチュエーターによって各保持部までピペット先端を移動した後、ポンプによって各保持部に各相液を押し出す動作を行うことが好ましい。加えて、各相液が接触したピペット等の一部は、取り外し可能で使用毎に取り換えることができると、コンタミが抑制できるので好ましい。さらに、分注手段のポンプを送液手段として併用すると、装置構成が簡便化できるため好ましい。また、繰り返し使用が意図される場合、使い捨てのピペットを含む分注手段によって相液を添加しても良いし、共通のラインを使用して相液保持容器からマイクロ流路チップへ添加を行っても良い。後者の場合、連続相液への分散相液のコンタミ抑制のため、マイクロ流路チップへの接続部までの共用のラインを洗浄する工程を含んでいることが好ましい。また、ピペットを含まない分注手段として、外力によって、相液を保持した容器から直接保持部に各液体を添加(滴下)する方法も好ましい(例えば、容器の熱圧着した部位を圧力によって破断させ容器内の液体を押し出す手段など)。また、例えばTRC反応やPCR反応を行う場合、水溶液サンプルの精製手段や調製手段として分注手段を併用してもよい。
【0147】
(分散相液流路)
分散相液流路は、分散相液保持部とエマルジョン形成部とを接続している。分散相液流路は、分散相液がその中を通るように構成されている。
【0148】
分散相液流路の寸法は、使用する分散相液の種類及び特性などに応じて適宜設定することができる。分散相液流路は、例えば、10~500μm、又は50~200μmの幅を有することができ、1mm~500mm、又は10~200mmの長さを有することができる。また、分散相液流路は、1~200μm、又は10~100μmの流路高さを有することができる。分散相液流路は、1つ以上の場所で屈曲してもよく、蛇行形状を有してもよい。
【0149】
(連続相液保持部)
連続相液保持部は、エマルジョンを生成/保持するための連続相液を保持する部分である。連続相液保持部は、導入口であってよく、連続相液保持部を介して、液体をマイクロ流路チップに導入することができる。連続相液保持部の構造は、連続相液を保持することができれば特に限定されない。連続相液保持部は、穴部又はウェルであってよく、例えば垂直方向に延在する穴部又はウェルであってよく、この穴部又はウェル内に連続相液を供給し、かつ保持することができるようになっている。連続相液保持部は、例えば、直径0.1mm~20mmの穴部又はウェルであってよい。
【0150】
なお、連続相液は、一般に表面張力及び粘性が小さい液体を使用するため、連続相液保持部における界面形状の変化に伴う表面張力の変化量は小さい。したがって、連続相液保持部の形状は、送液に大きな影響を与えない。加えて、本発明において例えばエマルジョンを保持し検出反応などを行う場合、連続相液保持部の連続相液が枯渇しないように十分な量の連続相液を供給するため、送液中に保持部の連続相液の残量が少なくなり界面形状が変化しやすい状況になることもない。したがって、やはり、連続相液保持部の形状は、送液に大きな影響は与えにくい。
【0151】
(連続相液流路)
連続相液流路は、連続相液保持部とエマルジョン形成部とを接続している。連続相液流路は、連続相液がその中を通るように構成されている。
【0152】
連続相液流路の寸法は、使用する連続相液の種類及び特性などに応じて適宜設定することができる。連続相液流路は、例えば、10~500μm、又は50~200μmの幅を有することができ、1mm~500mm、又は10~200mmの長さを有することができる。また、連続相液流路は、1~200μm、又は10~100μmの流路高さを有することができる。連続相液流路は、1つ以上の場所で屈曲してもよく、少なくとも部分的に蛇行形状を有してもよい。
【0153】
マイクロ流路チップは、2つ以上の連続相液流路を有することができる。特には、本開示に係るマイクロ流路チップが、第一連続相液流路及び第二連続相液流路を有しており、これらの流路が、それぞれ、連続相液保持部とエマルジョン形成部とを接続している。
【0154】
図3の例示的な実施態様を参照すると、連続相液流路311が2つの流路(第一連続相液流路312及び第二連続相液流路313)から構成されている。これら2つの流路312、313は、エマルジョン形成部320において互いに対向するようになっており、かつ、エマルジョン形成部320に接続している分散相液流路(より正確には、分散相液合流部316)に対して実質的に直交するようになっている。図3の実施態様では、第一連続相液流路312と第二連続相液流路313とが、実質的に同一の構造及び流路長を有しており、それにより、それぞれの流路を移動する連続相液の速度が、実質的に同一となるようになっている。また、上述のようにエマルジョン生成前における分散相液同士の混合を抑制したい場合、分散相液合流部316の下流部とエマルジョン形成部320とを連結する流路の長さは比較的短い方が好ましく(例えば、3mm以下、より好ましくは0.5mm以下)、流路内で分散相液が別々に層流状態を保っているのが好ましい。
【0155】
(エマルジョン形成部)
エマルジョン形成部(「液滴生成部」ともいう)は、液滴を生成するように構成されている。エマルジョン形成部は、分散相液流路及び連続相液流路を介して、それぞれ分散相液及び連続相液の供給を受ける。また、エマルジョン形成部は、エマルジョン流路に接続されており、エマルジョン形成部で生成されたエマルジョンが、エマルジョン流路に送られる。
【0156】
エマルジョン形成部は、分散相液流路へと開く1又は複数の開口部、及び、連続相液流路へと開く1又は複数の開口部を有することができる。また、エマルジョン形成部は、エマルジョン流路へと開く1又は複数の開口部を有することができる。
【0157】
図3の例示的な実施態様を参照して、エマルジョン形成部について説明する。図3のエマルジョン形成部320では、2つの流路312、313から構成される連続相液流路311と、分散相液流路(より正確には、分散相液合流部316)とが、実質的に直交している。陰圧の適用の間に、連続相液が、2つの互いに実質的に対向する方向からエマルジョン形成部320へと流入し、かつ、分散相液が、連続相液の流入方向に対して実質的に直交する方向でエマルジョン形成部320に流入する。その結果、エマルジョン形成部320において、連続相に分散した液滴(すなわちエマルジョン)が生成される。このようにして生成されたエマルジョンが、エマルジョン流路330を通って、気体で充填されているエマルジョン保持流路340に進入する。
【0158】
エマルジョン形成部は、T-janction、Flow-Focus、co-flow、step-emulsificationなどの一般的な液滴生成法を利用した流路を適宜用いることができる。迅速にエマルジョンを生成するために、複数のエマルジョン形成部を並列して配置してもよい。また、エマルジョン中の液滴を攪拌させるための蛇行流路などを備えていてもよい。
【0159】
(エマルジョン流路)
エマルジョン流路は、生成されたエマルジョン(液滴及び連続相)が輸送される流路である。本開示に係る1つの態様では、エマルジョン流路は、エマルジョン形成部とエマルジョン保持流路とを接続する。エマルジョン流路のうちエマルジョン形成部に隣接する部位は、好ましくは、分散相液流路(特には分散相液合流部)に対向するように配置される。図3は、そのような態様のエマルジョン流路を示している。また、図3では、エマルジョン流路のうちエマルジョン形成部に隣接する部位が、連続相液流路のエマルジョン形成部への流入部に対して、実質的に直交している。図3の場合、エマルジョンが生成される際に、分散相液流路からエマルジョン形成部に流入してくる分散相液が液滴となり、そのまま流れの角度を変えずに、エマルジョン流路に進入する。
【0160】
エマルジョン流路は、エマルジョン形成部に隣接する部位の下流側(排出口の方向)で、拡張した幅及び/又は高さを有する流路を有することができ、かつ/又は蛇行していることができる。このような態様によれば、液滴中での攪拌を促進することができるので、好ましい。
【0161】
(エマルジョン保持流路)
本開示に係る1つの実施態様では、マイクロ流路チップが、液滴保持部であるエマルジョン保持流路を有する。エマルジョン保持流路は、エマルジョン流路を介してエマルジョン形成部に接続しており、エマルジョン形成部で生成されたエマルジョンを保持する機能を有している。また、エマルジョン保持流路は、随意に排出口連通流路を介して、排出口に接続されている。
【0162】
エマルジョン保持流路の幅及び長さは、保持する液滴の体積・数等に合わせて適宜設定することができ、例えば、幅と長さとがほぼ同等の幅広い単純な流路にしてもよく、連続した単一の長い流路を蛇行状又は渦巻き状に配列させてもよく、分岐させた直線流路を並行させてもよい。
【0163】
本発明において、エマルジョン保持流路の流路断面は、液滴の中心が流路の中心に沿って流れやすいため、円状、半円状、楕円状、凸型、凹型、長方形、台形が好ましい。
【0164】
エマルジョン充填法では、一般に、エマルジョン保持流路内の気液界面の移動を制御することでエマルジョン生成と保持を同時に行うため、送液中の気液界面の形状が維持される(移動しながらもその形状に変化が小さい)ように、流路断面形状が一定で屈曲の無い直線流路であることが望ましい。しかし、検出液滴数を増加させるために流路高さに対して流路幅を極端に大きくすると、意図した流路構造を有するチップを安定して製造するのが難しく、かつ/又は、流路の底面及び/若しくは上面が変形して流路側面から遠い流路領域の高さが送液圧やチップへの固定圧などによって変化して測定に悪影響を及ぼす可能性がある(ルーフコラップス)。対策として、例えば、流路高さに対する流路幅の比は、100以下、より好ましくは50以下、25以下、特に好ましくは10以下であるのが好ましい(下記のピラーが無い場合)。あるいは、流路中央に柱(ピラー)を設けることで、流路高さに対する、柱同士の間隔及び/又は柱と流路側面の間隔の比が、例えば、100以下、より好ましくは50以下、25以下、特に好ましくは10以下であるのが好ましい。一方で、イメージセンサなどによる一括検出処理を行う場合、エマルジョン保持流路が水平面で(例えば正方形や円形に近い形で)密にパッケージされていると、検出液滴数を増加させられるため好ましい。よって、同じ流路断面形状の連続した単一の長い流路を蛇行状又は渦巻き状に配列させてもよく、分岐させた直線流路を並行させてもよい。この場合、屈曲部が存在するため送液中に界面形状が変化しやすいが、屈曲部における断面形状を調整することでその影響を低減することが可能である。
【0165】
1つの実施態様では、保持されているエマルジョンに対して検出処理を行うことが意図されている。すなわち、エマルジョン保持流路に保持されたエマルジョンに対して、随意に、後述する検出処理を行うことができる。
【0166】
好ましくは、エマルジョン保持流路は、保持されているエマルジョンの大部分又は全部がマイクロ流路チップの外部雰囲気(特には外部大気)に触れないように、構成されている。好ましくは、エマルジョン保持流路に保持されている液滴のうち、検出処理の対象となっている液滴が、外部雰囲気(特には外部大気)に触れないようになっている。このために、例えば、エマルジョン保持流路の流路長を比較的長く設定し、エマルジョン保持流路の下流側末端部にのみでエマルジョンが外部雰囲気(特には外部大気)と接触しうるようにすることができる。
【0167】
好ましくは、エマルジョン保持流路に保持されるエマルジョンが、外部雰囲気(特には外部大気)に対して密封されるようになっている。
【0168】
好ましくは、エマルジョン保持流路は、エマルジョン保持流路に保持されているエマルジョンに対して検出処理を行うことに適している。
【0169】
好ましくは、エマルジョン保持流路は、外部大気に開放されていないエマルジョンに対して検出処理を行うことができるように構成されている。より具体的には、例えば、保持されているエマルジョンと検出手段との間に、エマルジョンを外部大気から隔離する構造が存在する。この構造は、例えば、光を透過する材料でできている。なお、この場合、エマルジョン保持流路に保持されているエマルジョンのうち、検出処理の対象とならないエマルジョン、例えばエマルジョン保持流路の排出側末端部に位置するエマルジョンが、外部大気に開放されていてもよい。
【0170】
好ましくは、エマルジョン保持流路の流路体積が、エマルジョン形成部で生成される液滴の合計体積以上(特には、検出処理において検出の対象となる液滴の合計体積以上)であり、かつ/又は、エマルジョン保持流路の流路体積が、1μL以上、5μL以上、若しくは10μL以上である。このようなエマルジョン保持流路によれば、検出処理を効率的に行うことができる。なお、エマルジョン保持流路の流路体積の上限は、例えば、1000μL以下であってよい。
【0171】
好ましくは、エマルジョン保持流路が、平均体積0.1nL~10nL、特には0.3~3nLの液滴の液滴を、500個以上、1000個以上、2500個以上、5000個以上、若しくは10000個以上、かつ/又は100000個以下、80000個以下、60000個以下、若しくは40000個以下、保持することができる流路体積を有する。エマルジョン保持流路に保持されたこれらの液滴に対して、検出処理を行うことができる。
【0172】
なお、液滴の平均体積は、デジタルカメラなどの画像取得装置を用いて明視野画像を取得し、取得された画像においてN=10以上の液滴に関して下記に基づいて算出することができる。
【0173】
球状の液滴の体積、及びディスク状の液滴の体積(それぞれVdrop及びVdisk[nL])は、それぞれ、下記の式(1)と式(2)で表わされる。なお、下記式(1)及び式(2)におけるDdrop、Ddiskは、それぞれ、マイクロ流路チップの通常の使用状態において、エマルジョン保持流路に保持されている液滴を上方から観察した場合の、球状の液滴の直径、及びディスク状の液滴の直径である。また、式(2)中、hは、エマルジョン保持流路の流路高さである。
【0174】
【数1】
【0175】
【数2】
【0176】
好ましくは、検出処理で使用される(カメラなどの)検出手段に対して、検出対象となるエマルジョン中の液滴が互いに重ならないようになっており、特には、検出方向に直交する平面で単層を形成している。この場合には、検出精度をさらに向上させることができる。
【0177】
特に好ましくは、エマルジョン保持流路の「流路高さ」が調節されており、それにより、マイクロ流路チップの使用状態において、エマルジョン保持流路に保持される液滴が垂直方向で互いに重ならない(すなわち、単一の液滴層が形成される)ようになっている。このようなエマルジョン保持流路で検出処理を行う場合には、検出精度がさらに向上する。なお、「流路高さ」は、通常、マイクロ流路チップの使用状態において、垂直方向(鉛直方向)での流路の長さである。
【0178】
好ましくは、エマルジョン保持流路の流路高さが、検出処理において検出の対象となる液滴の直径に応じた寸法を有することが好ましく、例えば、液滴の直径の1/10倍~10倍、1/4倍~4倍、又は1/2倍~2倍の流路高さを有することが好ましい。また、エマルジョン保持流路の流路高さは、流路幅の1/4倍以下であってよい。なお、流路の幅は、通常、マイクロ流路チップの使用状態において流路の長さ方向に直交する水平方向での長さである。液滴の直径は、流路の幅方向で計測することができる。
【0179】
また、エマルジョン充填法では、エマルジョン形成における連続相液と分散相液の流量比に依存してエマルジョン保持流路にエマルジョンが充填されるため、例えば、エマルジョン形成を安定させるため、分散相液に対する連続相液の流量比を大きくした場合、液滴を水平方向に密にパッケージするため流路高さを通常よりも大きく設計した方が好ましい。例えば、分散相液に対する連続相液の流量比が8~12である場合、エマルジョン保持流路の高さを、液滴の直径の2~4倍にすることができる。
【0180】
(送液の停止)
エマルジョン保持流路内にエマルジョンを保持するためには、例えば、エマルジョン保持流路内に所望の量のエマルジョンが充填された時点で、送液を停止し、かつ随意に排出口を閉じる。排出口を外部大気に(少なくとも部分的に)開放することによって、陰圧の適用を停止することもできる。送液の停止は、エマルジョン保持流路を充填していた気体がエマルジョンで完全に置換されてから行うこともできるが、好ましくは、エマルジョン保持流路を充填していた気体がエマルジョンで完全に置換されない間に送液の停止を行う。換言すると、流路内又は排出口内に気体―エマルジョン界面が存在する状態で、送液を停止させる。
【0181】
(排出口)
排出口は、エマルジョン流路、又は、随意の構成要素であるエマルジョン保持流路に接続する。また、排出口は、マイクロ流路チップに陰圧を適用するための陰圧源接続部としても機能しうる。
【0182】
好ましくは、排出口が、陰圧源と接続することに適しているように構成されている。この場合、排出口が、印加される圧力に対する耐性を有することがより好ましい。
【0183】
通常、排出口は、エマルジョン流路の下流側に位置し、又は、随意の構成要素であるエマルジョン保持流路の下流側に位置する。排出口がエマルジョン保持流路の下流側に位置する場合、この排出口に陰圧を適用することによって、エマルジョン保持流路の全長又は大部分を、生成されたエマルジョンで充填することができる。
【0184】
(送液)
本開示に係る1つの実施態様では、排出口への陰圧の適用によって、エマルジョン形成部において、分散相液から構成される液滴及び連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンを生成し、このようにして生成されたエマルジョンを、エマルジョン流路に輸送する。エマルジョン保持流路を有する態様では、このようにして生成されたエマルジョンを、エマルジョン流路を介して、随意の構成要素であるエマルジョン保持流路に輸送する。
【0185】
排出口に陰圧を適用して送液を行っている間に、分散相液保持部及び連続相液保持部は、外部雰囲気(特には外部大気)に開放されていることができる。
【0186】
なお、排出口に陰圧を適用して送液を行っている間に、各保持部を常圧にしている方が、装置の簡便性の観点からは好ましいが、陰圧の送液を安定化させるため、かつ/又はエマルジョンの保持のための密閉操作を兼ねるために、非常圧状態に圧力制御してもよい。
【0187】
陰圧の適用に関して、例えば、圧力タンク又はシリンジポンプを用いて、排出口を介して流体(気体又は連続相液)を吸引することができる。
【0188】
陰圧源として圧力タンクを用いる場合、圧力タンクの体積は、排出口から圧力タンクまでの流路の体積及びマイクロ流路チップの流路の体積の合計よりも大きいことが好ましい。圧力タンクは、外部雰囲気(外部大気)に開放しうるような設計とすることもできる。また、圧力タンクは例えば、ポンプで圧力タンク内の圧力を制御すると好ましい。また、圧力タンク内の圧力値をモニタリングできるように圧力センサを設けても良い。
【0189】
適用された陰圧の圧力値をモニタリングするための監視手段を用いて、送液状態の確認、例えばエマルジョンが問題なく生成しているかどうかを確認することができる。
【0190】
本開示に係る1つの実施態様では、排出口に陰圧制御手段が流体接続されており、陰圧制御手段が、陰圧源、接続部及び弁から構成されており、陰圧源が、一定の陰圧に制御されており、かつ、この弁が、陰圧源と接続部との間に配置されている。接続部を介して、陰圧制御手段を、排出口に接続することができる。この態様によれば、弁を開放することによって瞬時に陰圧を適用することができるので、陰圧の適用のタイミングをより正確に制御することが可能となる。
【0191】
弁の具体的態様については特に制限はない。送液停止時の逆流を防止するという観点からは、弁の開閉時の流路における圧力変動を抑制できるもの、例えば開閉動作が比較的遅いものが好ましい。弁は、例えば三方弁であってよく、マイクロ流路チップを陰圧源(例えば圧力タンク)及び外部雰囲気(特には外部大気)のいずれかに接続することができるようになっていてもよい。
【0192】
(マイクロ流路チップの設置)
マイクロ流路チップは、鉛直方向(天地方向)に水平に設置するのが一般的であるが、エマルジョンの保持等の観点から、一定方向に意図的に傾斜を設けて設置しても良い。例えば、連続相液が分散相液よりも比重が大きい場合(例:フッ素系分散剤を連続相液、水溶液を分散相液として使用)、液滴は比重差によって浮力を有するため、エマルジョン保持流路から液滴が流出しにくいように、意図的に傾斜を設けてマイクロ流路チップを設置しても良い。
【0193】
<検出処理>
マイクロ流路チップ中の液体、特にはエマルジョン中の液滴に対して、検出処理を行うことができる。検出処理は、例えば、液体(特には液滴)中での標的物質の反応、及び当該反応の検出(例えば反応生成物の検出)を含む。エマルジョン保持流路を有する態様では、検出処理は、通常、エマルジョン保持流路に保持されたエマルジョン中の液滴に対して行われる。
【0194】
標的物質(特には標的分子)としては、核酸、タンパク質、ペプチド、酵素、細胞、細菌、胞子、ウイルス、オルガネラ、高分子アセンブリ、薬物候補、脂質、炭水化物、代謝物、又はこれらの任意の組合せが挙げられる。
【0195】
標的物質の反応は、特に限定されない。標的物質の反応としては、酵素反応が挙げられ、より具体的には、キナーゼ、ヌクレアーゼ、ヌクレオチドシクラーゼ、ヌクレオチドリガーゼ、ヌクレオチドホスホジエステラーゼ、(DNA又はRNA)ポリメラーゼ、プレニルトランスフェラーゼ、ピロホスパターゼ、レポーター酵素、逆転写酵素、トポイソメラーゼ等を用いた酵素反応が例示できる。標的分子がDNAやRNAなどの核酸であり、標的分子の反応が当該核酸の増幅反応である場合、LAMP法、NASBA法、TMA法、TRC法といった核酸を等温増幅可能な反応が挙げられる。また、ワンステップRT-PCRの場合、逆転写反応に適した温度で液滴を作製することは、逆転写反応の反応効率、反応時間において好ましい。また、逆転写反応による生成物であるcDNAをサイクリングプローブ法により検出することも可能である。
【0196】
反応を行う場合、2種以上の反応液をエマルジョン形成部の上流(例えば分散相液合流部)で混合し、この混合物を用いて液滴を生成することが好ましい。なお、本発明において、反応液とは、標的物質及び標的物質を反応させるのに必要な成分のうち、少なくとも一部を含んだ溶液のことをいう。全ての反応液が混合することで標的物質の反応に必要な成分全てが揃えばよく、標的物質はいずれかの反応液に含まれていればよい。反応液は3種以上であっても問題はない。
【0197】
例えば、標的物質が特定配列を含む核酸(DNA、RNA)であり、標的物質の反応がこの特定配列を増幅させる反応である場合、反応液に含まれる成分としては、特定配列の一部と相同的な配列を含むプライマー、特定配列の一部と相補的な配列を含むプライマー、特定配列の一部と相同的又は相補的な配列を含む検出用プローブ、ポリメラーゼ、ヌクレオチド、塩類、及び緩衝液成分があげられる。なお、反応液内で、標的分子、反応基質、酵素などが分解、変質、非特異反応が生じないように組成が工夫されていることが好ましく、装置内での挙動を考慮して、グリセロール、界面活性剤などをさらに添加してもよい。
【0198】
<その他の手段>
(検出手段)
反応の検出のために、例えば、反応による生成物を検出可能な検出手段を用いることができる。
【0199】
検出方法は、反応生成物に応じて適宜適切な方法を選択することができ、例えば、光学的、X線、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)、FCS(蛍光相関分光法)、FP(蛍光偏光)/FCS、蛍光法、比色分析、化学ルミネセンス、生物発光、散乱、表面プラズモン共鳴、電気化学法、電気泳動、レーザー、質量分光測定、ラマン分光法、FLIPR(MolecularDevices社)など公知の方法を用いて検出することができる。なお、透過光を用いて検出する場合は、光を透過する材料でマイクロ流路チップを作製すると、マイクロ流路チップを光学検出器に載置するのみで、チップ内の液滴を移動させることなく反応生成物を検出できる点で好ましい。
【0200】
反応生成物の検出に用いる検出手段(検出器)として、標的物質の反応を記録・測定するためのイメージングセンサ及び随意にその構成部品を用いることができる。検出の一例として、検出対象となる個々のシグナルを空間的に分解するのに適切な照明及び解像度を有するカメラ又はイメージング装置があげられる。カメラ又はイメージング装置としては、公知のものを利用することができ、例えばカメラは、電荷結合素子(CCD)、電荷注入装置(CID)、フォトダイオードアレイ(PDA)又は相補型金属酸化物半導体(CMOS)を含む任意の一般的な半導体イメージセンサを使用することができる。また、検出の際、励起/放射された光の偏光を使用することによって改善することができる。例えば、蛍光シグナルを発する液滴を検出する場合、その検出領域を大きな視野を持つ光学ユニットによって一括で撮影することで、迅速かつハイスループットなシグナル検出を行なうことが可能になる。
【0201】
(温調手段)
温調手段は、マイクロ流路チップ内の液体を標的物質の反応に適した温度に保つ役割を有する。温調手段はマイクロ流路チップと近接(好ましくは密着)可能な形状であればよく、必ずしも平板状である必要はない。
【0202】
温調手段のうち、少なくともマイクロ流路チップと近接(好ましくは密着)する部分は、熱伝導性の高い金属材料で作製することが好ましい。なお、基材と上部構造体とを貼り合わせてマイクロ流路チップが作製されている場合、温調手段に接する基材及び/又は上部構造体の厚さを薄くすると、マイクロ流路チップに設けた流路への熱伝導をより効率的に行なえるので、好ましい。温調手段は、少なくとも、標的物質の反応場であるエマルジョン保持流路を温調できればよいが、相液供給部及び流路も温調できると、標的分子の非特異的反応を抑制できる点で好ましい。具体例として、標的物質の反応が核酸増幅反応の場合、各保持部や流路における温度を、エマルジョン保持流路における標的物質の反応温度よりも高くなるよう、温調手段で温調することで、プライマー/プローブ同士の非特異的なアニールを低減することができる。また、マイクロ流路チップの底面を温調手段によって反応温度に加熱し、かつ光を透過する材料でマイクロ流路チップ上面基板を作製し上面から透過光検出を行う場合、各相液供給前の空のマイクロ流路チップの位置並びに/又は流路構造及び/若しくはチップ内外のゴミの評価、各相液を供給する際の流路内の挙動並びに/又は送液中のエマルジョン生成の挙動の評価、並びに反応中のエマルジョンのシグナル検出結果を利用したデジタル検出の定量上限の向上を装置上簡便に行えるため好ましい。
【実施例0203】
以下で、実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、これらの記載に限定されない。
【0204】
≪実施例1-1≫
<マイクロ流路チップの作製>
フォトリソグラフィー及びソフトリソグラフィー技術を用いて、マイクロ流路チップを作製した。具体的な手順を以下に示す。
【0205】
(1)4インチベアシリコンウェハ(フィルテック社)上へ、フォトレジストSU-8 3050(Microchem社)を滴下後、スピンコーター(MIKASA社)を用いてフォトレジスト薄膜を形成した。
【0206】
(2)マスクアライナー(ウシオ電機社)と、マイクロ流路チップの流路パターンを形成したクロムマスクとを用いて、流路パターンをフォトレジスト膜へ形成させた後、SU-8 Developer(Microchem社)を用いて流路パターンを現像することで、マイクロ流路チップを構成する流路の鋳型を作製した。
【0207】
(3)SU-8への吸着を抑えるために、Trichloro(1H,1H,2H,2H-perfluoro-octyl)silane(Thermo Fisher Scientific社)による蒸着表面処理を行なった。
【0208】
(4)上記(3)の処理を行なった鋳型へ、SYLGARD SILICONE ELASTOMER KIT(東レ・ダウコーニング社)を用いて調製した未硬化のシロキサンモノマーと重合開始剤との混合物(重量比10:1)を流し込み、80℃で2時間加熱することで、流路の形状が転写されたポリマー(PDMS)基板を作製した。
【0209】
(5)得られたポリマー基板を鋳型から慎重に剥がし、カッターで成形後、パンチャーを用いて、分散相液保持部及び連続相液保持部、並びに排出口を形成した。
【0210】
(6)保持部及び排出口を形成したポリマー基板並びにカバーガラス(松浪硝子社)を酸素プラズマ発生装置(メイワフォーシス社)で表面処理後、PDMS基板のパターン面とカバーガラスとを貼り合わせた。作製したチップは、デシケーター内に保存した。
【0211】
作製したマイクロ流路チップは、縦34mm×横75mmの大きさであり、分散相液保持部としてはφ4mmの穴を、連続相液保持部としてはφ8mmの穴を、排出口としてはφ1.5mmの穴を、それぞれ有していた。
【0212】
(流路構造)
マイクロ流路チップは、2つの分散相液保持部、(第一分散相液流路、第二分散相液流路、及び分散相液合流部を有する)分散相液流路、連続相液保持部、2つの連続相液流路、エマルジョン形成部、エマルジョン流路、エマルジョン保持流路、及び排出口を有していた。2つの分散相液保持部が、第一又は第二分散相液流路を介して、エマルジョン形成部に接続しており、連続相液保持部が、2つの連続相液流路を介して、エマルジョン形成部に接続しており、エマルジョン形成部が、エマルジョン流路を介して、エマルジョン保持流路に接続しており、エマルジョン保持流路が、排出口に接続していた。
【0213】
実施例で使用したマイクロ流路チップは、下記の詳細な構造を有していた。
【0214】
第一分散相液流路及び第二分散相液流路は高さ80μm、幅100μm、長さ30mmの蛇行を含む流路であり、分散相液合流部で合流し、80μmの流路幅に狭窄され、エマルジョン形成部に合流する。
【0215】
第一分散相液流路、第二分散相液流路、及び分散相液合流部は、それぞれ、本発明に係る第1液流路、第2液流路、及び合流部である。第一分散相液流路及び第二分散相液流路が、それぞれ、第1開口部及び第2開口部を介して分散相液合流部に流通しており、第1開口部と第2開口部とが、互いに離間していた。
【0216】
2つの連続相液流路はそれぞれ屈曲部を二箇所有した高さ80μm、幅100μm、長さ30mmの直線流路であり、エマルジョン形成部において、分散相液合流部と2つの連続相液流路とが角度90度で十字に交差しており、反応液と非混和性液体(オイル)とが合流し、液滴を形成するようになっている。
【0217】
エマルジョン流路は、エマルジョン形成部に近接する部分で幅80μm×長さ100μm、その下流部分で幅200μm×長さ680μmの直線流路であり、さらにその下流部分ではR275μmの円弧曲線で構成された蛇行を含めた幅200μm×長さ11.5mmの撹拌用流路であり、エマルジョン保持流路に連結する。
【0218】
エマルジョン保持流路は、流路高さ130μm、幅2mm、長さ350mmの蛇行流路であり、幅2mm、長さ10mmの排出口連通流路を介して、排出口に直接つながっている。エマルジョン保持流路の体積は、91μLであった。
【0219】
(開口部)
実施例1-1で用いたマイクロ流路チップの合流部周辺の模式図を図4aに示す(図4aの6)。この模式図で見られるとおり、実施例1-1で用いたマイクロ流路チップは、第1液流路414及び第2液流路415とそれぞれ接続する合流部416を有しており、第1液流路414の第1開口部と、第2液流路の第2開口部とが、600μmの距離で、互いに離間していた。第1液流路及び第2液流路並びに合流部の流路高さは、いずれも80μmであった。すなわち、これらの間に段差構造は形成されていなかった。第1液流路及び第2液流路に隣接する部位における合流部の流路幅は800μm、合流部の流れ方向への流路長さは1100μmであった。合流部に隣接する流路部位におけるにおける第1液流路及び第2液流路の流路幅は、それぞれ100μmであった。
【0220】
なお、図4aの6で見られるとおり、第1液流路414及び第2液流路415それぞれに関して、2つの側部壁面のうち、一方の側部壁面のみが合流部の側部壁面と角部(約90°の角度を有する角部)を形成して接続しており、他方の側部壁面は、合流部の側部壁面と角部を形成せずに、連続的に接続していた。第1液流路414の流れ方向と、第2液流路415の流れ方向とは、互いに略平行であった。
【0221】
(流路閉塞性の評価)
上記の実施例1-1に係るマイクロ流路チップを用いて、流路閉塞性を調べた。
【0222】
具体的には、マイクロ流路チップの流路が気体で充填されている状態において、2つの分散相液保持部の一方のみに水溶液(後述する開始液と同じ組成を有する水溶液)を供給して、第1液流路である第一分散相液流路を通して分散相液合流部にまで進行させ、その一方で、第2液流路である第二分散相液流路には液体を流さずに空のまま(気体で充填されたまま)にした。
【0223】
そして、第一分散相液流路を通って合流部に進入した水溶液が、気体で充填されている第二分散相液流路に進入するまでの時間(流路閉塞時間)を計測した。
【0224】
その結果、流路閉塞時間は、22.5±3.7秒(n=8)であった。
【0225】
≪比較例1≫
(流路閉塞性の評価)
比較例1では、合流部周辺の流路構造が異なること以外は、実施例1-1のマイクロ流路チップと同様の構成を有するマイクロ流路チップを製造した。
【0226】
図4bに、比較例で用いたマイクロ流路チップの合流部周辺の流路構造を示す。比較例1に係るマイクロ流路チップでは、分散相液合流部416bにおいて、第1液流路である第一分散相液流路414bの開口部(第1開口部)と、第2液流路である第二分散相液流路415bの開口部(第2開口部)とが形成する角が、倍率50倍の顕微鏡で確認しても略直角であった(実質的に離間していなかった)。また、第一分散相液流路414bの流れ方向と、第二分散相液流路415bの流れ方向とが、平行ではなく、角度(90°)を形成していた。
【0227】
比較例1に係るこのマイクロ流路チップを用いて、実施例1-1と同様にして流路閉塞時間を計測したところ、4.4±3.2秒(n=7)で流路閉塞が起こった。
【0228】
上記の結果から、実施例1-1のマイクロ流路チップでは、合流部に到達した液体が合流部に進入して他方の流路を閉塞することが、効果的に抑制されていることがわかる。
【0229】
≪実施例1-2≫
(エマルジョンの生成及び保持)
次に、実施例1-1に係る上記のマイクロ流路チップを用いて、本発明に従って、エマルジョンの生成及び保持を行った。詳細を下記の(1)~(7)に示す。
【0230】
(分散相液)
(1)分散相液保持部に導入する分散相液として、下記の2種類の組成の水溶液(「開始液」及び「反応液」)を調製した。なお、下記組成の水溶液は、核酸増幅反応の1つであるTRC反応を使用する際の反応開始液の組成を模している。
【0231】
(開始液)
36.8mM 塩化マグネシウム
180.0mM 塩化カリウム
0.2%(w/v) Tween 20(「Tween」は登録商標)
18.0%(v/v) DMSO
5.0%(v/v) グリセロール
【0232】
(反応液)
0.2%(w/v) Tween 20(「Tween」は登録商標)
300nM トレハロース
5.0%(v/v) グリセロール
【0233】
(2)TRC反応温度である46℃で加熱したガラスヒーター(ブラスト社)を倒立型顕微鏡IX71(オリンパス社)に設置して、その上にマイクロ流路チップを設置してテープで固定した。
【0234】
(3)送液手段として、ペリスタポンプ(高砂工業)、電磁弁(高砂工業)、圧力センサ(キーエンス社)で構成された、200mL容量のタンク内の圧力を-1~-10kPaに制御できる装置を使用した。このタンクとマイクロ流路チップの排出口とをPTFEチューブ(ニチアス社)で接続し、タンク内の圧力を開放することによって、チップに圧力差(陰圧)を適用する。
【0235】
(4)2つの分散相液保持部に、反応液及び開始液を、2.0~20.0μLのピペットマンを使用して、それぞれ19μLずつ滴下した。反応液及び開始液は、それぞれ、気体で充填された第1分散相液流路及び第2分散相液流路を通って、気体で充填された合流部に向かって進行した。
【0236】
(5)反応液及び開始液を滴下してから60秒後に、連続相液保持部に、ピペットマン(ギルソン社)を使用して、連続相液としてのDroplet Generatorオイル for EvaGreen(Biorad社、以下、単にオイルとも表記する)を300μL滴下した。なお、上記のピペットマンは、最大許容誤差が±0.06μLに校正されたものを使用した。
【0237】
(6)オイル滴下から10秒後に、あらかじめ排出口に接続された上記タンク内の圧力を-5kPaに調整した状態で、陰圧を適用して、液滴生成及び保持を開始した。なお、送液中の各相液保持部は、大気圧開放された状態とした。
【0238】
(7)オイルと空気との界面(エマルジョンと空気との界面)がエマルジョン保持流路の下流末端部に到達した後(陰圧の適用から約140秒後)で、排出口に印加されていた陰圧を常圧開放し、送液を停止した。
【0239】
(2つの液体の合流)
デジタルCMOSカメラ(ORCA-FLASH(商品名)、浜松フォトニクス社)を用いて、合流部における2つの液体(反応液及び開始液)の合流のようすを明視野画像として取得した(図4a)。図4aは、タイムラプス画像であり、図中の数字(1~5)の順番で時間が経過している。図中のカッコ内の値は、経過時間(秒)である。
【0240】
図4aの1~5で見られるとおり、実施例1に係るマイクロ流路チップでは、気体で充填されている2つの流路をそれぞれ流れてくる2つの液体が、合流部への到達のタイミングにずれがあったにもかかわらず、気体で充填されている合流部において気泡を生ずることなく合流し、さらに、気泡を生ずることなく、出口流路を介してエマルジョン形成部へと送られた。
【0241】
より詳細には、図4aで見られるとおり、合流部に接続する流路のうちの一方の流路を流れる液体が、他方の流路を流れる液体よりも早く、合流部壁面の開口部に到達した(特に図4a中の1)。従来のマイクロ流路であれば、このような場合、先に到達した液体が直ぐに他方の流路の開口部に進入し、流路閉塞及び気泡が発生する。これに対して、図4aで見られるとおり、本発明に係るマイクロ流路チップでは、合流部の2つの開口部が互いに離間しているので、一方の流路を流れてきた液体が他方の流路に到達するためには、一定の時間を要する。この間に、他方の流路を流れてくる液体が合流部への開口部に到達することができるので、流路閉塞及びそれに伴う気泡の発生を生ずることなく、2つの液体を合流部で合流させることができると考えられる。
【0242】
(エマルジョンの生成)
デジタルCMOSカメラ(ORCA-FLASH(商品名)、浜松フォトニクス社)を用いて、送液開始時のエマルジョンの生成のようすを明視野画像として取得した(図5)。
【0243】
図5で見られるとおり、実施例1-2では、良好にエマルジョンの生成を行うことができた。
【0244】
以上のとおり、実施例1-2では、気体で充填されている流路内で2つの水溶液を合流させているにも関わらず、液体の合流に伴って気泡が発生することなく、マイクロ流路チップにおける良好な処理(液滴の生成)を行うことができた。
【符号の説明】
【0245】
10 マイクロ流路チップ
102、103 導入口
114 第1液流路
115 第2液流路
116 合流部
130 下流側流路
150 排出口

214 第1液流路
215 第2液流路
224 第1開口部
225 第2開口部
216 合流部
217 出口流路
272 流路接続壁

Dc 第1開口部と第2開口部との間の距離
D1 第1液流路の幅
D2 第2液流路の幅
α 第1液流路の側部壁面と合流部の側部壁面(流路接続壁面)
との間の角度

30 マイクロ流路チップ
301 連続相液保持部
302 第一分散相液保持部
303 第二分散相液保持部
311 連続相液流路
312 第一連続相液流路
313 第二連続相液流路
314 第一分散相液流路
315 第二分散相液流路
316 分散相液合流部
320 エマルジョン形成部(液滴生成部)
330 エマルジョン流路
340 エマルジョン保持流路(液滴保持部)
350 排出口

414、414b 第一分散相液流路(第1液流路)
415、415b 第二分散相液流路(第2液流路)
416、416b 分散相液合流部(合流部)

W 幅方向
L 長さ方向
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5