(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038780
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】排気弁駆動装置
(51)【国際特許分類】
F01L 1/30 20060101AFI20240313BHJP
F01L 1/12 20060101ALI20240313BHJP
F01L 5/02 20060101ALI20240313BHJP
F01L 9/10 20210101ALI20240313BHJP
F01L 9/16 20210101ALI20240313BHJP
【FI】
F01L1/30
F01L1/12 A
F01L5/02
F01L9/10
F01L9/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143053
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】株式会社三井E&S
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100205730
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 重輝
(74)【代理人】
【識別番号】100213551
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 智貴
(72)【発明者】
【氏名】高橋 元幸
【テーマコード(参考)】
3G016
3G018
【Fターム(参考)】
3G016CA59
3G016DA22
3G016DA24
3G016GA03
3G018AA11
3G018AB12
3G018AB16
3G018CA09
3G018DA51
3G018DA57
3G018GA37
(57)【要約】
【課題】ディーゼルエンジンなどの内燃機関に使用される排気弁駆動装置において、駆動消費動力を抑える。
【解決手段】燃焼室の排気口を開閉する排気弁棒3と、排気弁棒3を開放方向に付勢する油圧機構8と、排気弁棒3を閉塞方向に付勢する第1の空気バネ5aと、排気弁棒3を開放方向に付勢する第2の空気バネ5bとを備え、第2の空気バネ5bは、排気弁棒3の移動範囲の一部区間のみにおいて、排気弁棒3を付勢して加速させ、一部区間外では、排気弁棒3を付勢しない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室の排気口を開閉する弁体を有し、前記燃焼室から離れる方向であって前記排気口を閉塞させる閉塞方向、及び、前記燃焼室に進入する方向であって前記排気口を開放させる開放方向に移動可能に支持された排気弁棒と、
前記排気弁棒を、前記開放方向に付勢する油圧機構と、
前記排気弁棒に対して、前記閉塞方向の力を作用させる第1の空気バネと、
前記排気口を閉塞させる位置と前記排気口を全開させる位置とに亘る前記排気弁棒の移動範囲のうちの一部区間のみにおいて、前記排気弁棒に対して、前記開放方向の力を作用させる第2の空気バネと
を備え、
前記第2の空気バネは、前記排気口が閉塞される位置から、前記排気口が全開される位置に至る開放過程における所定の途中位置までは、前記排気弁棒に対して、前記開放方向の力を作用させて前記排気弁棒を加速させ、前記開放過程の前記途中位置以降は、前記排気弁棒に対して、力を作用させない
ことを特徴とする排気弁駆動装置。
【請求項2】
前記開放過程の前記途中位置は、前記排気弁棒の慣性力が、前記閉塞方向から前記開放方向へ変わる位置付近である
ことを特徴とする請求項1記載の排気弁駆動装置。
【請求項3】
内燃機関の燃焼室の排気口を開閉する弁体を有し、前記燃焼室から離れる方向であって前記排気口を閉塞させる閉塞方向、及び、前記燃焼室に進入する方向であって前記排気口を開放させる開放方向に移動可能に支持された排気弁棒と、
前記排気弁棒を、前記開放方向に付勢する油圧機構と、
前記排気弁棒に対して、前記閉塞方向の力を作用させる第1の空気バネと、
前記排気口を閉塞させる位置と前記排気口を全開させる位置とに亘る前記排気弁棒の移動範囲のうちの一部区間のみにおいて、前記排気弁棒に対して、前記開放方向の力を作用させる第2の空気バネと
を備え、
前記第2の空気バネは、
前記排気口が閉塞される位置から、前記排気口が全開される位置に至る開放過程における所定の途中位置までは、前記排気弁棒に対して、前記開放方向の力を作用させて前記排気弁棒を加速させ、前記開放過程の前記途中位置以降は、前記排気弁棒に対して、力を作用させず、
前記排気口が全開される位置から、前記排気口が閉塞される位置に至る閉塞過程における所定の途中位置までは、前記排気弁棒に対して、力を作用させず、前記閉塞過程の前記途中位置以降は、排気弁棒に対して、前記開放方向の力を作用させて前記排気弁棒を減速させる
ことを特徴とする排気弁駆動装置。
【請求項4】
前記開放過程の前記途中位置は、前記排気弁棒の慣性力が、前記閉塞方向から前記開放方向へ変わる位置付近であり、
前記閉塞過程の前記途中位置は、前記排気弁棒の慣性力が、前記開放方向から前記閉塞方向へ変わる位置付近である
ことを特徴とする請求項3記載の排気弁駆動装置。
【請求項5】
前記第1の空気バネは、第1の空気バネシリンダ内の密閉空間の体積を、前記排気弁棒に取り付けた第1の円環状ピストンによって圧縮及び膨張させるように構成され、
前記第2の空気バネは、前記第1の円環状ピストンに向けて押上棒が取り付けられた第2の円環状ピストンによって、第2の空気バネシリンダ内の密閉空間の体積を圧縮及び膨張させるように構成され、
前記排気弁棒の位置が前記排気口を閉塞させる位置と前記途中位置との間であるときには、前記第1の円環状ピストンが前記押上棒に接触していることによって、前記排気弁棒に対して力を作用させ、
前記排気弁棒の位置が前記途中位置と前記排気口を開放させる位置との間であるときには、前記第2の円環状ピストンがストッパに当接して停止し、前記第1の円環状ピストンが前記押上棒から離間することによって、前記排気弁棒に対して力を作用させない
ことを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の排気弁駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気弁駆動装置に関し、詳しくは、ディーゼルエンジンなどの内燃機関に使用され、駆動消費動力を抑えた排気弁駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンなどの内燃機関においては、燃焼室で燃料を燃焼(爆発)させた後、燃焼室の排気口からの排気のために、特許文献1に記載されているように、排気弁駆動装置が使用されている。
【0003】
従来の排気弁駆動装置は、
図6に示すように、図示しない燃焼室の排気口上に設置され、排気口からの排気を導く排気筒101を有する筐体100を備えている。排気筒101の端部である排気筒端部101aは、燃焼室の排気口に突合される。燃焼室の排気口及び排気筒端部101aから、
図6中矢印eで示すように、燃焼室から排ガスが排気される。
【0004】
この排気弁駆動装置は、筐体100により、排気筒端部101aに対する進退方向に移動可能に支持された排気弁棒103を備えている。排気弁棒103は、先端部が排気筒端部101aを開閉する弁体102となっており、油圧で駆動される。
【0005】
弁体102は、円盤状に構成されており、弁座101b(円形の排気筒端部101aの周囲部)に燃焼室側から押接されることによって、排気筒端部101aを閉塞する。弁体102は、弁座101bが燃焼室側に離間されることによって、排気筒端部101aを開放する。
【0006】
排気弁棒103は、先端部分である弁体102を燃焼室内に位置させ、弁体102から続く棒状の軸部103aを、排気筒101内を経て燃焼室の外方に延在させ、筐体100により支持されている。弁体102は、
図6中矢印gpで示す燃焼室内ガス圧によって、
図6中矢印cで示すように、弁座101bに押圧される。排気弁棒103の軸部103aは、
図6中矢印opで示す駆動用高圧油の油圧によって、燃焼室の方向(矢印oで示す開放方向)に駆動される。排気弁棒103の基端部分には、駆動用高圧油の油圧opを受けて排気弁棒103を開放方向に移動させるアクチュエータ104が取り付けられている。
【0007】
排気弁棒103には、空気バネ105が設けられている。空気バネ105は、排気弁棒103の周囲に設けた空気バネシリンダ106内の密閉空間の体積を、排気弁棒103に取り付けた円環状ピストン107によって圧縮及び膨張させるように構成されている。空気バネシリンダ106内には、
図6中矢印p1で示すように空気が供給され空気圧が高まる。
【0008】
この排気弁駆動装置では、図示しない駆動油圧ポンプに駆動用高圧油が出し入れされ、この駆動用高圧油が高圧管を介して送られることで、アクチュエータ104が動かされる。駆動用高圧油により動かされたアクチュエータ104は、排気弁棒103と一体で作動することにより、排気筒端部101aの開放を行う。駆動油圧ポンプは、比例制御弁を有し、この比例制御弁が、図示しない機関制御装置から排気弁開放信号又は排気弁閉塞信号を送られて排気筒端部101aを開放又は閉塞するように構成されている。
【0009】
図7(a)は、この排気弁駆動装置において、排気弁棒103に作用する力(排気弁作用力パターン)及び排気筒端部101a(弁体102)の開度を示すグラフである。
図7(b)は、この排気弁駆動装置において、駆動用高圧油の圧力変化及び排気筒端部101a(弁体102)の開度を示すグラフである。
図7(a)においては、排気筒端部101aの開放方向を正(+)とし閉塞方向を負(-)で示し、排気筒端部101a(弁体102)の開度(破線)、排気弁棒103の慣性力(一点鎖線)、弁体102に作用する燃焼室内ガス圧gp(二点鎖線)及び空気バネ105の力(細線)を示している。
図7(b)においては、排気筒端部101aの開放方向を正(+)とし閉塞方向を負(-)で示し、駆動用高圧油の圧力(細線)を示している。
【0010】
この排気弁駆動装置では、
図7(a)(b)中に(a)~(g)で示す以下の弁作動ステップ(a)~(g)により、排気筒端部101aの開閉が行われる。
(a)排気弁開放信号で比例制御弁を作動させる。
(b)駆動油(圧力源)(圧力p)を駆動油圧ポンプに送り込み 高圧管を介して、アクチュエータ104に駆動用高圧油の油圧opを開弁時最大油圧Pomaxまで掛け、燃焼室内ガス圧gp、排気弁棒103の慣性力、及び、空気バネ105の力に抗して、排気筒端部101aの開放を開始する。
(c)排気筒端部101aを開放させる過程では、燃焼室内ガス圧gpは低減し、排気弁棒103の慣性力も小さくなり、駆動用高圧油の油圧opは低下する。
(d)排気筒端部101aが開放(全開)に近づくと、空気バネ105の力及び駆動用高圧油の油圧opの制御によって排気弁棒103を減速させ、排気筒端部101aの開放(全開)に達する。
(e)排気筒端部101aの開放(全開)を維持したのち、排気弁閉塞信号が比例制御弁に入力され、空気バネ105の力により、排気弁棒103は、排気筒端部101aを閉塞させる方向への移動を開始する。
(f)排気筒端部101aの閉塞に近づき、排気弁棒103の慣性力が負(-)になっても、空気バネ105の力が作用し続けるため、駆動用高圧油の油圧opを閉弁時ピーク油圧Pcmaxまでの間で制御して排気弁棒103を減速させ、弁体102の着座速度を抑える。
(g)弁体102は、空気バネ105の力と、駆動用高圧油の制御された油圧opとによって、弁座101bに緩やかに着座する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した排気弁駆動装置において、駆動消費動力は、駆動用高圧油の最大圧力(Pomax)によって決まる駆動油(圧力源)の圧力pと消費流量(v)とを掛けた値(=p・v)に比例する。
したがって、駆動用高圧油の最大圧力(Pomax)を下げて駆動油(圧力源)の圧力pを下げるか、及び/又は、排気筒端部101aの開放時の消費流量(v)を減らすことにより、駆動消費動力を抑えることができる。
【0013】
しかしながら、駆動用高圧油の最大圧力(Pomax)は、排気弁駆動装置の作動期間に生じる燃焼室内ガス圧gpの最大値及び空気バネ105の力より若干高めの圧力に設定する必要がある。駆動油圧ポンプからアクチュエータまでの圧力損失があることや、燃焼室内ガス圧gp及び空気バネ105の力に抗して排気筒端部101aを開放するためである。
また、排気弁駆動装置の作動中には、空気バネ105の力を、排気弁棒103の作動時に生じる慣性力に負けないように設定することにより、駆動油圧系のキャビテーション発生を抑える必要がある。
【0014】
したがって、駆動用高圧油の最大圧力(Pomax)は、むやみに下げることはできない。また、排気筒端部101aの開放時の消費流量(v)も、排気弁棒103のストロークを維持するならば、減らすことができない。
よって、従来の排気弁駆動装置において、駆動消費動力を抑えることは困難である。
【0015】
そこで、本発明の課題は、ディーゼルエンジンなどの内燃機関に使用される排気弁駆動装置であって、駆動消費動力を抑えた排気弁駆動装置を提供することにある。
【0016】
さらに本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題は以下の各発明によって解決される。
1.
内燃機関の燃焼室の排気口を開閉する弁体を有し、前記燃焼室から離れる方向であって前記排気口を閉塞させる閉塞方向、及び、前記燃焼室に進入する方向であって前記排気口を開放させる開放方向に移動可能に支持された排気弁棒と、
前記排気弁棒を、前記開放方向に付勢する油圧機構と、
前記排気弁棒に対して、前記閉塞方向の力を作用させる第1の空気バネと、
前記排気口を閉塞させる位置と前記排気口を全開させる位置とに亘る前記排気弁棒の移動範囲のうちの一部区間のみにおいて、前記排気弁棒に対して、前記開放方向の力を作用させる第2の空気バネと
を備え、
前記第2の空気バネは、前記排気口が閉塞される位置から、前記排気口が全開される位置に至る開放過程における所定の途中位置までは、前記排気弁棒に対して、前記開放方向の力を作用させて前記排気弁棒を加速させ、前記開放過程の前記途中位置以降は、前記排気弁棒に対して、力を作用させない
ことを特徴とする排気弁駆動装置。
2.
前記開放過程の前記途中位置は、前記排気弁棒の慣性力が、前記閉塞方向から前記開放方向へ変わる位置付近である
ことを特徴とする前記1記載の排気弁駆動装置。
3.
内燃機関の燃焼室の排気口を開閉する弁体を有し、前記燃焼室から離れる方向であって前記排気口を閉塞させる閉塞方向、及び、前記燃焼室に進入する方向であって前記排気口を開放させる開放方向に移動可能に支持された排気弁棒と、
前記排気弁棒を、前記開放方向に付勢する油圧機構と、
前記排気弁棒に対して、前記閉塞方向の力を作用させる第1の空気バネと、
前記排気口を閉塞させる位置と前記排気口を全開させる位置とに亘る前記排気弁棒の移動範囲のうちの一部区間のみにおいて、前記排気弁棒に対して、前記開放方向の力を作用させる第2の空気バネと
を備え、
前記第2の空気バネは、
前記排気口が閉塞される位置から、前記排気口が全開される位置に至る開放過程における所定の途中位置までは、前記排気弁棒に対して、前記開放方向の力を作用させて前記排気弁棒を加速させ、前記開放過程の前記途中位置以降は、前記排気弁棒に対して、力を作用させず、
前記排気口が全開される位置から、前記排気口が閉塞される位置に至る閉塞過程における所定の途中位置までは、前記排気弁棒に対して、力を作用させず、前記閉塞過程の前記途中位置以降は、排気弁棒に対して、前記開放方向の力を作用させて前記排気弁棒を減速させる
ことを特徴とする排気弁駆動装置。
4.
前記開放過程の前記途中位置は、前記排気弁棒の慣性力が、前記閉塞方向から前記開放方向へ変わる位置付近であり、
前記閉塞過程の前記途中位置は、前記排気弁棒の慣性力が、前記開放方向から前記閉塞方向へ変わる位置付近である
ことを特徴とする前記3記載の排気弁駆動装置。
5.
前記第1の空気バネは、第1の空気バネシリンダ内の密閉空間の体積を、前記排気弁棒に取り付けた第1の円環状ピストンによって圧縮及び膨張させるように構成され、
前記第2の空気バネは、前記第1の円環状ピストンに向けて押上棒が取り付けられた第2の円環状ピストンによって、第2の空気バネシリンダ内の密閉空間の体積を圧縮及び膨張させるように構成され、
前記排気弁棒の位置が前記排気口を閉塞させる位置と前記途中位置との間であるときには、前記第1の円環状ピストンが前記押上棒に接触していることによって、前記排気弁棒に対して力を作用させ、
前記排気弁棒の位置が前記途中位置と前記排気口を開放させる位置との間であるときには、前記第2の円環状ピストンがストッパに当接して停止し、前記第1の円環状ピストンが前記押上棒から離間することによって、前記排気弁棒に対して力を作用させない
ことを特徴とする前記1~4の何れかに記載の排気弁駆動装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ディーゼルエンジンなどの内燃機関に使用される排気弁駆動装置であって、駆動消費動力を抑えた排気弁駆動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態の排気弁駆動装置の概略構成を示すブロック図
【
図2】実施形態の排気弁駆動装置の構成を示す縦断面図
【
図3】実施形態の排気弁駆動装置の概略構成(閉弁状態)を示す縦断面図
【
図4】実施形態の排気弁駆動装置の概略構成(開弁状態)を示す縦断面図
【
図5】(a)実施形態の排気弁駆動装置における排気弁作用力パターン及び弁体の開度を示すグラフ、(b)実施形態の排気弁駆動装置における駆動用高圧油の圧力変化及び弁体の開度を示すグラフ
【
図7】(a)従来の排気弁駆動装置における排気弁作用力パターン及び弁体の開度を示すグラフ、(b)従来の排気弁駆動装置における駆動用高圧油の圧力変化及び弁体の開度を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る排気弁駆動装置は、特に船舶に搭載されるディーゼルエンジンなどの内燃機関に使用される。
【0021】
以下、本発明について好ましい実施の形態について説明する。
図1は、実施形態の排気弁駆動装置の概略構成を示すブロック図である。
【0022】
この実施形態の排気弁駆動装置は、
図1に示すように、油圧機構を構成する駆動油圧ポンプ8と、この駆動油圧ポンプ8から送られる駆動用高圧油の油圧によって動かされ、図示しない燃焼室の排気口を開閉する排気弁棒3と、この排気弁棒3を移動可能に支持する筐体10とを備えて構成され、排気口の開閉を行う装置である。
【0023】
駆動油圧ポンプ8は、比例制御弁9を有し、この比例制御弁9に、機関制御装置11から排気弁開放信号又は排気弁閉塞信号が送られると、比例制御弁9を介して駆動油(圧力源)が供給される。比例制御弁9へは、駆動油入口アキュムレータ(蓄圧器)17aを有する供給管17により駆動油(圧力源)が供給され、また、駆動油出口アキュムレータ16aを有する排出管16により駆動油(圧力源)が排出される。駆動油圧ポンプ8は、供給された駆動油(圧力源)により駆動用高圧油として出し入れする。なお、駆動油(圧力源)の圧力Pを高くし、駆動油圧ポンプ8のシリンダを小径化し、駆動油を減圧して駆動用高圧油として使用することで、駆動油圧ポンプ8をコンパクトとすることができる。
【0024】
駆動油圧ポンプ8から送出された駆動用高圧油は、高圧管12を介して筐体10に送られ、アクチュエータ4を動かす。駆動用高圧油により動かされたアクチュエータ4は、排気弁棒3と一体で作動し、燃焼室の排気口を開放させる開放方向に付勢する。
【0025】
図2は、実施形態の排気弁駆動装置の構成を示す縦断面図である。
【0026】
この排気弁駆動装置は、
図2に示すように、燃焼室の排気口上に設置され、排気口からの排気を導く排気筒1を有する筐体10を備えている。排気筒1の端部である排気筒端部1aは、燃焼室の排気口に突合される。燃焼室の排気口及び排気筒端部1aからは、
図2中矢印Eで示すように、燃焼室から排ガスが排気される。
【0027】
この排気弁駆動装置は、筐体10により、排気筒端部1aに対する進退方向に移動可能に支持された排気弁棒3を備えている。排気弁棒3は、先端部が排気筒端部1aを開閉する弁体2となっており、油圧機構により駆動される。
【0028】
弁体2は、円盤状に構成されており、弁座1b(円形の排気筒端部1aの周囲部)に燃焼室側から押接されることによって、排気筒端部1aを閉塞する。弁体2は、弁座1bから燃焼室側に離間されることによって、排気筒端部1aを開放する。
【0029】
排気弁棒3は、先端部分である弁体2を燃焼室内に位置させ、弁体2から続く棒状の軸部3aを、排気筒1内を経て燃焼室の外方に延在させ、筐体10により支持されている。弁体2は、
図2中矢印GPで示す燃焼室内ガス圧によって、
図2中矢印Cで示すように、弁座1bに押圧される。排気弁棒3の軸部3aは、
図2中矢印OPで示す駆動用高圧油の油圧によって、燃焼室に進入する方向(矢印Oで示す開放方向)に駆動される。排気弁棒3の基端部分には、駆動用高圧油の油圧OPを受けて排気弁棒3を開放方向に移動させるアクチュエータ4が取り付けられている。
【0030】
排気弁棒3の移動範囲は、弁体2が排気筒端部1aを閉塞させる位置と排気筒端部1aが全開となる位置とに亘る範囲である。
【0031】
図3は、実施形態の排気弁駆動装置の概略構成(閉弁状態)を示す縦断面図である。
図4は、実施形態の排気弁駆動装置の概略構成(開弁状態)を示す縦断面図である。
【0032】
排気弁棒3には、
図2、
図3及び
図4に示すように、第1の空気バネ5a及び第2の空気バネ5bが設けられている。第1の空気バネ5aは、排気弁棒3の軸部3aの略中央部の周囲に設けた第1の空気バネシリンダ6内の密閉空間の体積を、排気弁棒3に取り付けた第1の円環状ピストン7によって圧縮及び膨張させるように構成されている。第1の空気バネシリンダ6内は、
図2、
図3及び
図4中矢印P1で示す空気圧が供給され、圧力P1となっている。
【0033】
第1の空気バネ5aは、弁体2が排気筒端部1aを閉塞している位置から、弁体2が排気筒端部1aを開放(全開)させる位置に亘るストロークX1の全移動範囲において、第1の空気バネシリンダ6内は密閉空間となっており、これら全ての移動範囲に亘って、排気弁棒3に対して、燃焼室から離れる方向であって排気筒端部1a(排気口)を閉塞させる閉塞方向(矢印C)の力を作用させる。
【0034】
第2の空気バネ5bは、第1の空気バネ5aよりもアクチュエータ4に近い箇所の軸部3aの周囲に設けた第2の空気バネシリンダ13内の密閉空間の体積を、第2の円環状ピストン14によって、圧縮及び膨張させるように構成されている。第2の空気バネシリンダ13内は、
図2、
図3及び
図4中矢印P2で示す空気圧が供給され、圧力P2となっている。
【0035】
第2の空気バネ5bは、弁体2が排気筒端部1aを閉塞させる位置と排気筒端部1aが全開となる位置とに亘る排気弁棒3の移動範囲のうちの一部区間のみにおいて、排気弁棒3に対して、排気筒端部1aを開放させる開放方向(矢印O)の力を作用させる。
【0036】
第2の空気バネ5bは、弁体2が排気筒端部1aを閉塞させる位置から、排気筒端部1aが所定の開度(0%<開度<100%)になる途中位置に亘る区間(<X1)において、排気弁棒3に対して、排気筒端部1aを開放させる開放方向(矢印O)の力を作用させる。
【0037】
第2の空気バネ5bの第2の円環状ピストン14には、第1の空気バネ5aの第1の円環状ピストン7に向けて、押上棒15が取り付けられている。第2の空気バネ5bの第2の円環状ピストン14は、
図3に示すように、押上棒15の下端を、第1の空気バネ5aの第1の円環状ピストン7が押し上げることによって、第2の空気バネシリンダ13内を圧縮させる。
【0038】
第2の空気バネ5bは、排気筒端部1aが閉塞される位置から、排気筒端部1aが全開される位置に至る開放過程における所定の途中位置までは、排気弁棒3に対して、開放方向の力を作用させて排気弁棒3を加速させ、開放過程の途中位置以降は、排気弁棒3に対して、力を作用させない
【0039】
第2の空気バネ5bは、押上棒15の下端が第1の空気バネ5aの第1の円環状ピストン7に接触していることによって、排気弁棒3に対して、排気筒端部1aを開放させる開放方向(矢印O)の力を作用させる。この開放方向(矢印O)の力は、排気筒端部1aを開放させるときの排気弁棒3を加速させ、排気筒端部1aを閉塞させるときの排気弁棒3を減速させる。
【0040】
第2の空気バネ5bは、排気筒端部1aが所定の開度(0%<開度<100%)になった途中位置では、
図4に示すように、第2の円環状ピストン14が筐体10内のストッパ14aに当接して停止し、第2の空気バネシリンダ13内をこれ以上拡張させない。このとき、第1の空気バネ5aの第1の円環状ピストン7は、押上棒15の下端から離間する。第2の空気バネ5bは、第1の空気バネ5aの第1の円環状ピストン7が押上棒15の下端から離れると、排気弁棒3に対して力を作用させなくなる(非作用となる)。
【0041】
弁体2が排気筒端部1aを閉塞している位置から、排気筒端部1aが所定の開度(0%<開度<100%)になる途中位置までにおいて、第2の空気バネ5bが排気弁棒3に対して作用させる力は、駆動用高圧油の油圧OPに負圧が生じない力である。
【0042】
開放過程において、第2の空気バネ5bが非作用となる排気筒端部1aが所定の開度(0%<開度<100%)になる開放過程における途中位置は、排気弁棒3が開放方向に移動するときの慣性力が、負(閉塞方向)から正(開放方向)へ変わる位置乃至その位置付近である。
また、閉塞過程において、第2の空気バネ5bが作用し始める排気筒端部1aが所定の開度(0%<開度<100%)になる閉塞過程における途中位置は、排気弁棒3が開放方向に移動するときの慣性力が、正(開放方向)から負(閉塞方向)へ変わる位置乃至その位置付近である。
【0043】
排気筒端部1aが開放(全開)されている位置から、閉塞に向かう閉塞過程においては、途中位置までは第2の空気バネ5bが作用せず、第1の空気バネ5aのみが作用する。
【0044】
排気筒端部1aの閉塞に向かう閉塞過程(
図4→
図3)においては、第1の空気バネ5aの第1の円環状ピストン7が押上棒15の下端に当接して押し上げ始めると、第2の空気バネ5bによる減速方向の力が作用して排気弁棒3が減速され、弁体2の弁座1bへの着座速度が抑えられ、より緩やかな着座が実現される。
【0045】
駆動油(圧力源)の圧力Pは、排気筒端部1aの開放時に生じる最大油圧(Pomax)、すなわち、〔(燃焼室内ガス圧GP)+(第1の空気バネ5a及び第2の空気バネ5bの力の合計)+(排気弁棒3の慣性力)〕に依存し、第2の空気バネ5bにより、空気バネ力の合計が削減されることで、最大油圧(Pomax)を低減させ、駆動油(圧力源)の圧力Pを下げることができ、駆動消費動力の削減が実現される。
【0046】
排気筒端部1aの閉塞時については、油圧のピーク値(Pcmax)を第2の空気バネ5bの力の相当分だけ低減させることができ、例えば、アクチュエータ4のピストンリング等の機器の耐久性を増すことができる。
【0047】
図5(a)は、実施形態の排気弁駆動装置において、排気弁棒3に作用する力(排気弁作用力パターン)及び排気筒端部1a(弁体2)の開度を示すグラフである。
図5(b)は、実施形態の排気弁駆動装置において、駆動用高圧油の圧力変化及び排気筒端部1a(弁体2)の開度を示すグラフである。
図5(a)においては、排気筒端部1aの開放方向を正(+)とし閉塞方向を負(-)で示し、排気筒端部1a(弁体2)の開度(破線)、排気弁棒3の慣性力(一点鎖線)、弁体2に作用する燃焼室内ガス圧GP(二点鎖線)、第1の空気バネ5aの力(細線)、及び、第2の空気バネ5bの力(太線)を示している。
図5(b)においては、排気筒端部1aの開放方向を正(+)とし閉塞方向を負(-)で示し、駆動用高圧油の圧力(細線)を示している。
【0048】
この排気弁駆動装置では、
図5(a)(b)中に(A)~(G)で示す以下の弁作動ステップ(A)~(G)により、排気筒端部1aの開閉が行われる。
(A)排気弁開放信号で比例制御弁9を作動させる。
(B)駆動油(圧力源)を駆動油圧ポンプ8に送り込み 高圧管12を介して、アクチュエータ4に駆動用高圧油の油圧OPを開弁時最大油圧Pomaxまで掛け、燃焼室内ガス圧GP、排気弁棒3の慣性力、及び、第1の空気バネ5aの力に抗して、排気筒端部1aの開放を開始する。
このとき、第2の空気バネ5bの力が作用し、開弁作動に必要な力(駆動用高圧油の油圧OP)を、第2の空気バネ5bの力の相当分だけ削減することができ、駆動消費動力を抑えることができる。
(C)排気筒端部1aを開放させる過程では、燃焼室内ガス圧GPは低減し、排気弁棒3の慣性力も小さくなり、駆動用高圧油の油圧OPは低下する。 排気筒端部1aを開放させる過程の後半では、第2の空気バネ5bの力が非作用となり、弁速度が減速される。
(D)排気筒端部1aが開放(全開)に近づくと、第1の空気バネ5aの力及び駆動用高圧油の油圧OPの制御によって排気弁棒3を減速させ、排気筒端部1aの開放(全開)に達する。
(E)排気筒端部1aの開放(全開)を維持したのち、排気弁閉塞信号が比例制御弁9に入力され、第1の空気バネ5aの力により、排気弁棒3は、排気筒端部1aを閉塞させる方向への移動を開始する。このとき、第2の空気バネ5bは非作用であり、排気弁棒3は、第1の空気バネ5aの力により加速される。
(F)排気筒端部1aの閉塞に近づき、排気弁棒3の慣性力が負(閉塞方向(-))になると、第2の空気バネ5bが作用し始め、排気弁棒3は減速される。駆動用高圧油の油圧OPを閉弁時ピーク油圧Pcmaxまでの間で制御して排気弁棒3をさらに減速させ、弁体2の着座速度を抑える。
このとき、第2の空気バネ5bの力の作用により、排気弁棒3の減速に必要な力(駆動用高圧油の油圧OP)を、第2の空気バネ5bの力の相当分だけ削減することができ、機器(例えば、アクチュエータ4のピストンリング等)の耐久性を増すことができる。
(G)弁体2は、第1の空気バネ5a及び第2の空気バネ5bの力の合計と、駆動用高圧油の制御された油圧OPとによって、弁座1bに緩やかに着座する。第1の空気バネ5aの力と第2の空気バネ5bの力とは方向が逆なので、これら力の合計は、第2の空気バネ5bの力から第1の空気バネ5aの力を引いた(相殺した)力である。
【0049】
この排気弁駆動装置において、駆動消費動力は、駆動用高圧油の最大圧力(Pomax)によって決まる駆動油(圧力源)の圧力Pと消費流量(V)とを掛けた値(=P・V)に比例する。
したがって、駆動用高圧油の最大圧力(Pomax)を下げるか、及び/又は、排気筒端部1aの開放時の消費流量(V)を減らすことにより、駆動消費動力を抑えることができる。
【0050】
この排気弁駆動装置においては、駆動用高圧油の最大圧力(Pomax)は、第2の空気バネ5bの力の相当分だけ、従来よりも低くすることができ、駆動油(圧力源)の圧力Pを下げることができる。よって、この排気弁駆動装置においては、駆動消費動力を抑えることができる。
図5に示した実施形態においては、
図7に示した従来の排気弁駆動装置に対して、最大圧力(Pomax)が約70%程度に抑えられていることが確認できる。したがって、本発明に係る排気弁駆動装置は、駆動消費動力を抑えることができることが確認できる。
【符号の説明】
【0051】
1 排気筒
1a 排気筒端部
2 弁体
3 排気弁棒
4 アクチュエータ
5a 第1の空気バネ
5b 第2の空気バネ
6 第1の空気バネシリンダ
7 円環状ピストン
8 駆動油圧ポンプ
9 比例制御弁
10 筐体
11 機関制御装置
12 高圧管
13 第2の空気バネシリンダ
14 円環状ピストン
14a ストッパ
15 押上棒