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特開2024-38927蓄熱システムおよび二酸化炭素回収システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038927
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】蓄熱システムおよび二酸化炭素回収システム
(51)【国際特許分類】
   F25J 3/04 20060101AFI20240313BHJP
   F25J 3/00 20060101ALI20240313BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20240313BHJP
【FI】
F25J3/04 101
F25J3/04 A
F25J3/00
C01B32/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143302
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】沖 裕壮
(72)【発明者】
【氏名】濱田 博之
(72)【発明者】
【氏名】吉葉 史彦
【テーマコード(参考)】
4D047
4G146
【Fターム(参考)】
4D047AA07
4D047AA08
4D047AB00
4D047AB01
4D047AB02
4D047BA08
4D047DA03
4D047DA10
4D047DB03
4D047EA00
4G146JA03
4G146JB09
4G146JC10
4G146LA10
(57)【要約】
【課題】余剰電力を活用して液化ガスをえることができると共に、設置場所の制限を低減した蓄熱システムおよび二酸化炭素回収システムを提供する。
【解決手段】空気を圧縮する空気圧縮機6と、前記空気圧縮機6で圧縮された空気を膨張させて冷却した冷却空気を得る冷却手段と、前記冷却空気から液化ガスを精製する精留塔10と、前記精留塔で精製された前記液化ガスを貯蔵する貯蔵手段と、を備え、前記空気圧縮機は、余剰電力によって動作する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気を圧縮する空気圧縮機と、
前記空気圧縮機で圧縮された空気を膨張させて冷却した冷却空気を得る冷却手段と、
前記冷却空気から液化ガスを精製する精留塔と、
前記精留塔で精製された前記液化ガスを貯蔵する貯蔵手段と、を備え、
前記空気圧縮機は、余剰電力によって動作する
ことを特徴とする蓄熱システム。
【請求項2】
前記空気圧縮機が余剰電力によって動作していない場合に、前記貯蔵手段に貯蔵された前記液化ガスを用いて少なくとも前記精留塔を冷却する予備冷却手段を具備することを特徴とする請求項1に記載の蓄熱システム。
【請求項3】
前記精留塔は、前記液化ガスとして、液体酸素および液体窒素を精製し、
前記予備冷却手段は、前記液体窒素を優先的に用いることを特徴とする請求項2に記載の蓄熱システム。
【請求項4】
前記予備冷却手段および前記精留塔は、断熱構造を有するコールドボックスに内包され、
前記予備冷却手段は、前記コールドボックス内を冷却することを特徴とする請求項2に記載の蓄熱システム。
【請求項5】
前記余剰電力の変化に応じて前記液化ガスの精製量を調整する制御手段をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の蓄熱システム。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載の蓄熱システムと、
前記貯蔵手段に貯蔵された前記液化ガスの冷熱を利用して、二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収手段と、
を備えることを特徴とする二酸化炭素回収システム。
【請求項7】
前記二酸化炭素回収手段は、排ガスに含まれる二酸化炭素を固化して回収することを特徴とする請求項6に記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項8】
前記排ガスを排出する排出設備を具備することを特徴とする請求項7に記載の二酸化炭素回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、余剰電力を用いて液化ガスを製造・貯蔵する蓄熱システムおよび当該システムによって精製した液化ガスを用いて二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンニュートラルを実現すべく、火力発電所や工場などで発生した全ての二酸化炭素を回収し貯蔵することが重要な課題となっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
火力発電所で発生した二酸化炭素を回収および貯蔵する方式は複数あるが、いずれの方式であっても二酸化炭素の回収に必要な動力が大きい。二酸化炭素の回収に動力を取られると送電できる電力が減り、送電端効率が低下し、発電コストが高騰することが課題である。
【0004】
こうした課題を解決するため、液化天然ガス(LNG)を利用するガスタービン火力発電所を想定した排ガス冷却式二酸化炭素回収システムTSS法が提案されている(非特許文献1参照)。本システムは、従来の二酸化炭素回収技術と異なり、二酸化炭素吸収液を用いない点で、大幅なコストダウンが期待できるが、実用化には至っていない。また、LNG基地の近郊に立地しない火力発電所や工場には適用し難いという課題がある。
【0005】
一方、最近、類似の排ガス冷却式二酸化炭素回収システムが開発されている(非特許文献2および3参照)。本システムは、電気で排ガスを冷却するシステムで、電動圧縮機で排ガスを圧縮し、膨張タービンでこれを一気に減圧して排ガスを冷却するもので、LNG基地の近郊でなくても立地が可能である。その反面、これらの技術には、排ガス冷却に動力が必要という課題がある。
【0006】
一方、製鉄所を含むコンビナートでは、空気から酸素を取り出す空気分離装置(ASU)が用いられてきた。空気分離装置は、電動圧縮機で空気を圧縮し、膨張タービンで冷却した液化空気から、その沸点の違いにより精留塔で液化酸素や液体窒素などの液化ガスを精製する設備である(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
近年、太陽光発電設備の導入拡大により、日中に変動型再生可能エネルギー(VRE)で発電される電力が増え、こうした再生可能エネルギーの電力需要の探索(上げDemand Response、上げDR)が検討されているが、実際には大きな用途が見つからないため、最大発電量を基準に太陽光発電の導入量が制約され、再生可能エネルギーの導入が頭打ちとなっているのが実状である。
【0008】
日中に過剰となる再エネ電力を何らかのエネルギーとして貯蔵しておき、エネルギーの必要な時間帯などにシフトして活用できるニーズ(上げDR)が見いだされれば、太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入量もいっそう拡大できるものと期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013-174182号公報
【特許文献2】特開2007-255802号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】中国電力株式会社、2001環境報告書、51頁、[online]、インターネット<URL:https://www.energia.co.jp/energy/energia/kankyou/pdf/2001/01kan1-14.pdf>
【非特許文献2】Cryogenic Carbon Capture、[2022年8月17日検索]、インターネット<URL:https://www.chartindustries.com/Products/Carbon-Capture>
【非特許文献3】Cryocap(登録商標) H2 - Cryogenic CO2 Separation、[2022年8月17日検索]、インターネット<URL:https://www.engineering-airliquide.com/cryocap-h2-cryogenic-co2-separation>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
カーボンニュートラル実現に向け、火力発電所や工場の排ガスを想定した排ガス冷却系の二酸化炭素回収システムが注目されているが、その普及には排ガス冷却動力の低減が必要で、有望視されるLNG冷熱の利用では、ごく限られた地点にしか技術が適用できないという制約があり、国内で発生する全ての二酸化炭素を回収する手法とはなり難い。
【0012】
また、余剰電力を用いた揚水発電も一般的に知られているが、設置場所に大きな制限があるという問題がある。
【0013】
本発明はこのような事情に鑑み、余剰電力を活用して液化ガスを得ることができると共に、設置場所の制限を低減した蓄熱システムおよび二酸化炭素回収システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する本発明の態様は、空気を圧縮する空気圧縮機と、前記空気圧縮機で圧縮された空気を膨張させて冷却した冷却空気を得る冷却手段と、前記冷却空気から液化ガスを精製する精留塔と、前記精留塔で精製された前記液化ガスを貯蔵する貯蔵手段と、を備え、前記空気圧縮機は、余剰電力によって動作することを特徴とする蓄熱システムにある。
【0015】
かかる態様では、余剰電力を液化ガスに変換して貯蔵することで、ピーク発電量で再生可能エネルギーの導入を抑制する必要がなくなるため、いっそうの低炭素化に貢献できる。また、蓄熱システムは、余剰電力を用いた揚水発電のように設置場所が制限されることなく、余剰電力を有効活用することができる。
【0016】
ここで、前記空気圧縮機が余剰電力によって動作していない場合に、前記貯蔵手段に貯蔵された液化ガスを用いて少なくとも前記精留塔を冷却する予備冷却手段を具備することが好ましい。これによれば、空気圧縮機が動作していない間に、液化ガスの貯蔵手段で少なくとも精留塔を冷却して低温に保つことができる。
【0017】
また、前記精留塔は、前記液化ガスとして、液体酸素および液体窒素を精製し、前記予備冷却手段は、前記液体窒素を優先的に用いることが好ましい。これによれば、液体酸素を他の用途に使用することができ、液体酸素を有効活用することができる。
【0018】
また、前記予備冷却手段および前記精留塔は、断熱構造を有するコールドボックスに内包され、前記予備冷却手段は、前記コールドボックス内を冷却することが好ましい。これによれば、コールドボックス内に、精留塔以外の設備、例えば、主熱交換器や膨張タービンが設置されていれば、空気圧縮機が動作していない間に、精留塔と共にこれらの設備を冷却することができる。
【0019】
また、前記余剰電力の変化に応じて前記液化ガスの精製量を調整する制御手段をさらに具備することが好ましい。これによれば、余剰電力の変化に応じて液化ガスの精製量を調整することで、余剰電力を効率よく液化ガスに変換して貯蔵することができる。
【0020】
また、本発明の他の態様は、上記態様に記載の蓄熱システムと、前記貯蔵手段に貯蔵された前記液化ガスの冷熱を利用して、二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収手段と、を備えることを特徴とする二酸化炭素回収システムにある。
【0021】
かかる態様では、蓄熱システムが余剰電力を用いて精製および貯蔵した液化ガスを用いて二酸化炭素を回収することができ、余剰電力の有効利用と二酸化炭素放出抑制による環境負荷低減を両立できる。
【0022】
ここで、前記二酸化炭素回収手段は、排ガスに含まれる二酸化炭素を固化して回収することが好ましい。これによれば、排ガスに含まれる二酸化炭素を固化することで、効率よく二酸化炭素を回収することができる。
【0023】
また、前記排ガスを排出する排出設備を具備することが好ましい。これによれば、排出設備からの排出ガスから効率よく二酸化炭素を回収することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、余剰電力を用いて液化ガスを精製・貯蔵することで、余剰電力を液化ガスに変換して貯蔵することができる。こうしてピーク時の余剰電力を貯蔵した冷熱を必要な時間にシフトして、あるいは必要な場所に移送して、二酸化炭素回収などに利用することで、安定した電力系統運用が可能となる。また、本発明の蓄熱システムでは、余剰電力を用いた揚水発電のように設置場所が制限されることがないため、幅広く余剰電力を有効活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施形態1に係る蓄熱システムの概略構成図である。
図2】発電量と空気圧縮装置の稼働状況を説明するグラフである。
図3】実施形態1に係る二酸化炭素回収システムの概略構成図である。
図4】天候に基づく発電量を示すグラフである。
図5】発電量と空気圧縮装置の稼働状況を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る蓄熱システム1の概略構成図である。
【0027】
蓄熱システム1は、空気分離装置(ASU)2と、液化ガス貯槽3と、液化ガス戻しライン4と、制御部5と、を具備する。
【0028】
空気分離装置2は、空気圧縮機6、吸着器7a、7b、主熱交換器8、膨張タービン9、精留塔10、コールドボックス11を備える。
【0029】
空気圧縮機6は、VRE由来の余剰電力によって動作する。また、空気圧縮機6は、余剰電力以外の発電所の所内電力などによっても動作することが可能である。
【0030】
空気圧縮機6で圧縮された空気は、吸着器7a、7bで二酸化炭素、水分等が除去される。吸着器7a、7bは、並列に同じ物が2塔あり、1塔は空気中の水分と二酸化炭素を除去し、もう一方は、水分や二酸化炭素が吸着された吸着剤に高温の不純窒素(精留塔10の余剰ガス)を流すことにより、水分や二酸化炭素を脱離し再生する。つまり、吸着器7a、7bは、吸着と再生との2塔を交互に切り替えることで連続的に空気を精製する。図1では、吸着器7aは空気中の水分と二酸化炭素を除去して主熱交換器8へ送る状態が示され、吸着器7bは精留塔10の不純窒素が供給され、再生されている状態が示されている。
【0031】
吸着器7a、7bで精製された空気は、主熱交換器8に供給されて主熱交換器8で予冷却される。また、主熱交換器8で予冷却された空気は、精留塔10と膨張タービン9とに供給される。
【0032】
膨張タービン9は、本実施形態の冷却手段であり、空気圧縮機6によって圧縮された空気を膨張させて冷却する。膨張タービン9で冷却された冷却空気は、精留塔10に供給される。
【0033】
精留塔10は、主熱交換器8から供給された予冷した空気と、膨張タービン9から供給された冷却空気とから空気中に含まれる窒素、酸素等の各種ガスの沸点に応じて、それらのガスを分離し、分離ガスと共に液体酸素、液体窒素等の液化ガスを精製する。
【0034】
これら主熱交換器8、膨張タービン9および精留塔10は、コールドボックス11内に据え付けられている。
【0035】
コールドボックス11は、主熱交換器8、膨張タービン9および精留塔10を内包し、これらを低温で保つように、黒曜石パーライトや真空壁などで断熱された断熱構造を有する。
【0036】
このような空気分離装置2の精留塔10で精製された液化ガスは、貯蔵手段の一例である貯蔵タンクである液化ガス貯槽3に貯蔵される。本実施形態では、精留塔10は、液化ガスとして液体酸素と液体窒素とを精製する。このため、本実施形態の液化ガス貯槽3は、液体酸素を貯蔵する液化ガス貯槽3aと、液体窒素を貯蔵する液化ガス貯槽3bと、を有する。以降、液体酸素を貯蔵する液化ガス貯槽3aと、液体窒素を貯蔵する液化ガス貯槽3bとを区別しない場合に、液化ガス貯槽3と称する。
【0037】
液化ガス戻しライン4は、液化ガス貯槽3の液化ガスを用いて、少なくとも精留塔10を冷却する。液化ガス戻しライン4は、液化ガス貯槽3aと精留塔10とを接続して液体酸素が通る液化ガス戻しライン4aと、液化ガス貯槽3bと精留塔10とを接続して液体窒素が通る液化ガス戻しライン4bと、を具備する。以降、液体酸素が通る液化ガス戻しライン4aと、液体窒素が通る液化ガス戻しライン4bとを区別しない場合に、液化ガス戻しライン4と称する。液化ガス戻しライン4の途中には、当該液化ガス戻しライン4を開閉するバルブ12が設けられている。本実施形形態では、液化ガス戻しライン4aには、バルブ12aが設けられ、液化ガス戻しライン4bには、バルブ12bが設けられており、液化ガス戻しライン4a、4bは、バルブ12a、12bによってそれぞれ独立して開閉可能となっている。
【0038】
液化ガス貯槽3a、3bに貯蔵された液化ガスは、バルブ12a、12bを開放することで、液化ガス戻しライン4a、4bを介して精留塔10に送られる。これにより、空気圧縮機6が動作していない間は、精留塔10を液化ガスによって予備冷却することができる。つまり、本実施形態では、空気圧縮機6が動作していない間の精留塔10を予備冷却する予備冷却手段として、液化ガス戻しライン4を有する。また、余剰電力によって空気圧縮機6が動作している間は、バルブ12a、12bが閉塞されて、液化ガスは液化ガス貯槽3に貯蔵された状態となる。
【0039】
液化ガス貯槽3に貯蔵された液化ガスによって、空気圧縮機6が動作していない間に、少なくとも精留塔10を冷却することで、空気圧縮機6が動作する際に低温の状態から液化ガスの精製を始めることができる。したがって、空気圧縮機6が動作していない間に、精留塔10が室温に戻った場合に比べて、無駄なエネルギーの消費を抑制することができると共に液化ガスを精製するまでの待機時間を短縮することができる。
【0040】
なお、本実施形態では、液化ガス戻しライン4は、液化ガス貯槽3に貯蔵された液化ガスを精留塔10に戻すようにしたが、特にこれに限定されない。例えば、液化ガス戻しライン4は、液化ガス貯槽3の液化ガスをコールドボックス11の内部に送ることで、コールドボックス11の内部を冷却するようにしてもよい。つまり、液化ガス貯槽3に貯蔵された液化ガスによって、コールドボックス11の内部を冷却することで、精留塔10に加えて、主熱交換器8、膨張タービン9を同時に冷却するようにしてもよい。これにより、空気圧縮機6が動作していない間に、精留塔10だけではなく、主熱交換器8および膨張タービン9を冷却することができ、空気圧縮機6が動作を始めてから液化ガスを精製するまでの待機時間をさらに短縮することができる。
【0041】
また、液化ガス戻しライン4に設けられたバルブ12の開閉は、制御手段である制御部5によって行われる。制御部5は、バルブ12a、12bの開閉を制御すると共に、蓄熱システム1の全体の制御を行う。つまり、制御部5は、空気圧縮機6への余剰電力の供給および停止を制御する。このような制御部5は、中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)、記憶手段の一例である読み出し及び書き込み可能なメモリー(RAM:Random Access Memory)、各種プログラムなど格納するための読み出し専用のメモリー(ROM:Read Only Memory)、周辺回路等とのインターフェイスをとるインターフェイス部などを含んで構成される。
【0042】
また、予備冷却手段は、予備冷却に液体窒素を優先的に用いることが好ましい。つまり、制御部5は、予備冷却に液体窒素を優先的に使用するようにバルブ12a、12bを制御する。これは、空気中の窒素の含有量は酸素よりも多く、精留塔10からは液体窒素の方が液体酸素に比べて多く精製されると共に、液体酸素の方が液体窒素に比べて多様な用途に使用できるからである。このため、予備冷却に液体窒素を優先的に用いることで、液体酸素を他の用途、例えば、詳しくは後述する排ガスから二酸化炭素を回収する目的に使用することができ、液体酸素を有効活用することができる。
【0043】
このような蓄熱システム1では、余剰電力によって空気分離装置2を動作させて液化ガスを精製するため、余剰電力が発生する際に、それを冷熱として一旦貯蔵し、夜間などに使用することで、電力系統の安定運用と余剰電力を用いた液化ガスの最適な製造を実現することができる。また、本実施形態の蓄熱システム1では、余剰電力を受電することができる場所であれば容易に設置することができる。したがって、本実施形態の蓄熱システム1は、余剰電力を用いた揚水発電等に比べて設置する場所が限定され難い。
【0044】
また、本実施形態の蓄熱システム1は、余剰電力によって液化ガスを精製し、冷熱を蓄熱することができる。したがって、液化ガスや、液化ガスの冷熱を用いる他の設備、例えば、石炭ガス化複合発電設備(IGCC)や、火力発電設備、製鉄所を含むコンビナート、二酸化炭素を回収する設備などにおいて使用することができる。このとき、本実施形態の蓄熱システム1から他の設備に液化ガスを供給することで、他の設備において独自に液化ガスを精製する必要がないため、他の設備において液化ガスを精製するための消費電力を抑制することができる。
【0045】
ここで、蓄熱システム1の運用について図2を参照して説明する。なお、図2は、時刻に対する太陽光発電による発電量と空気圧縮装置の稼働状況とを示すグラフである。
【0046】
図2に示すように、太陽光発電の発電量は、主に太陽光の光量によって上下する。つまり、太陽光発電の発電量は、日の出を示す時間帯A1と時間帯A2との境界の6時過ぎから徐々に増大し、日の入りを示す時間帯A2と時間帯A3の境界の18時頃に向かって徐々に減少する。このため、余剰電力は、太陽光発電が行われる時間帯A2で主に発生すると考えられる。したがって、空気分離装置2は、余剰電力が発生する時間帯A2で動作して、余剰電力を液化ガスに変換して蓄積する。
【0047】
また、余剰電力が発生しない時間帯A1およびA3では、液化ガス貯槽3に貯蔵された液化ガスを液化ガス戻しライン4によって精留塔10に戻すことで、精留塔10を予備冷却する。このため、時間帯A2で空気分離装置2を余剰電力で動作させた際に、精留塔10が予備冷却されていることから、精留塔10を液化ガスが精製される温度まで冷却する時間を短くすることができ、液化ガスを精製するまでの時間を短縮することができる。
【0048】
このような蓄熱システム1は、二酸化炭素回収システム100に用いられる。ここで本実施形態の二酸化炭素回収システム100について図3を参照して説明する。なお、図3は、二酸化炭素回収システムを説明するブロック図である。
【0049】
図3に示すように、本実施形態の二酸化炭素回収システム100は、上記の蓄熱システム1と、排ガスを排出する排出設備20と、排出設備20の排ガスから二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収手段30と、を具備する。
【0050】
排出設備20は、二酸化炭素を含む排ガスを排出する設備であり、例えば、石炭ガス化複合発電設備(IGCC)などの火力発電設備、製鉄所を含むコンビナート、二酸化炭素を含む排ガスを回収する収集ハブ、二酸化炭素を含む排ガスを貯蔵する収集ハブ等である。排出設備20の排ガスは、パイプラインを介して二酸化炭素回収手段30に送られる。
【0051】
二酸化炭素回収手段30は、排ガスを二酸化炭素の昇華温度以下に冷却すると、排ガス中の二酸化炭素が固体化(別称、ドライアイス化)する現象を利用して、排ガスから二酸化炭素を回収するものであり、ドライヤ31と、サブリメータ32と、ドライアイス捕集装置33と、溶融機34と、を具備する。
【0052】
ドライヤ31は、排ガスに含まれる水分を除去する装置である。また、ドライヤ31は、排ガスに含まれる水分と共に排ガスに含まれる、例えば、窒素酸化物等の他の不純物も除去するものであってもよい。このようなドライヤ31としては、シリコンオイル等の除湿用の冷媒中に排ガスを供給することで、排ガスに含まれる水分を冷却・固化し、固化した水分を除湿用の冷媒内で捕集する、所謂、バブリング方式のドライヤを用いることができる。なお、ドライヤ31においても、冷熱として蓄熱システム1で精製して貯蔵した液化ガスを用いることが好ましい。
【0053】
サブリメータ32は、排ガスを二酸化炭素の昇華温度以下まで冷却し、二酸化炭素を固体にする。このサブリメータ32の冷却用触媒に、蓄熱システム1で精製して液化ガス貯槽3に貯蔵された液化ガス、つまり、液体窒素(-196℃)および液体酸素(-183℃)が用いられる。サブリメータ32は、特に図示しないが、液化ガスを通す伝熱管を備えており、サブリメータ32内に導入された排ガスは、液化ガスによって冷却されて伝熱管の表面に固化(ドライアイス化)する。
【0054】
ドライアイス捕集装置33は、サブリメータ32で固化された二酸化炭素(ドライアイス)を捕集する。ドライアイス捕集装置33で捕集されたドライアイスは、溶融機34で加圧されることで液化され、液化された二酸化炭素(液炭酸)は、液炭酸貯槽(図示せず)で貯蔵されるか、パイプラインで直接、他の設備に送液されて有効利用される。ドライアイスを液炭酸貯槽に貯蔵する場合には、二酸化炭素回収システム100は、液炭酸貯槽を構成要素として備える。
【0055】
また、ドライヤ31およびサブリメータ32の脱炭酸ガスは、煙突から大気中に排出される。
【0056】
なお、サブリメータ32で冷却媒用媒体として液体窒素を用いた場合には、サブリメータ32で使用後の窒素ガスは、煙突から排出される。また、サブリメータ32で冷却用媒体として液体酸素を用いた場合には、サブリメータ32で使用後の液体酸素および酸素ガスは、貯蔵することで、または、パイプラインなどで近隣工場に送ることで、さまざまな工業用途に有効利用される。例えば、酸素ガスは、製鉄所に送って製鋼用に使うことで酸素製造動力を低減し製鉄コストを削減できる。また、将来的に酸素燃焼ボイラによる二酸化炭素回収型火力発電所の導入が検討される際にも酸素製造動力などを大幅に低減することができる。あるいは、サブリメータ32で使用後の液体酸素および酸素ガスは、石炭ガス化複合発電設備(IGCC)における酸素吹きによる石炭ガス化ガスの生成に用いることができる。また、サブリメータ32で使用後の液体窒素および窒素ガスも煙突から排出するだけではなく、石炭ガス化複合発電設備(IGCC)における各部シール用の窒素ガスとして利用するほか、貯蔵・運搬して液体窒素として利用したり、パイプラインなどで近隣工場に送ることで、さまざまな工業用途に有効利用してもよい
【0057】
なお、本実施形態の二酸化炭素回収システム100は、排ガスを排出する排出設備20を具備するものであるが、例えば、排出設備20を設けずに、排出設備20から排ガスをタンク等に貯蔵して搬送し、搬送したタンクに貯蔵された排ガスから二酸化炭素回収手段30が二酸化炭素を回収してもよい。
【0058】
また、本実施形態では、二酸化炭素回収手段30は、蓄熱システム1で精製した液化ガスの冷熱を利用して排ガスに含まれる二酸化炭素を回収するものであるが、特にこれに限定されない。二酸化炭素回収手段30は、蓄熱システム1で精製した液化ガスの冷熱を利用して空気中に含まれる二酸化炭素を直接回収する、所謂、DAC(Direct Air Capture)であってもよい。
【0059】
以上説明したように、本発明の実施形態1に係る蓄熱システム1は、余剰電力によって空気を圧縮する空気圧縮機6と、空気圧縮機6で圧縮された空気を膨張させて冷却した冷却空気を得る冷却手段である膨張タービン9と、冷却空気から液化ガスを精製する精留塔10と、精留塔10で精製された液化ガスを貯蔵する貯蔵手段である液化ガス貯槽3と、を備える。
【0060】
このように余剰電力を用いて空気圧縮機6を動作させて、液化ガスを精製および貯蔵することで、化石燃料を用いることなく、より環境に優しい液化ガスの精製を行うことができる。また、本実施形態の空気圧縮機6は、余剰電力で動作するため、余剰電力が発生した際に、余剰電力を液体ガスに変換して貯蔵した上で、時間や場所をシフトして有効利用できるため、再生可能エネルギーの最大電力で再生可能エネルギーの導入量を制約する必要がない。また、本実施形態の蓄熱システム1では、揚水発電のように設置場所が制限されることなく、必要な場所に容易に設置することができる。
【0061】
また、本実施形態の蓄熱システム1では、空気圧縮機6が余剰電力によって動作していない場合に、貯蔵手段である液化ガス貯槽3に貯蔵された液化ガスを用いて少なくとも精留塔10を冷却する予備冷却手段である液化ガス戻しライン4を具備することが好ましい。このように、空気圧縮機6が動作していない場合に、液化ガス戻しライン4によって精留塔10を冷却することで、空気圧縮機6を再動作させた際に、精留塔10が常温に戻るのを抑制してすぐに液化ガスの精製を始めることができる。
【0062】
また、本実施形態の蓄熱システム1では、精留塔10は、液化ガスとして、液体酸素および液体窒素を精製し、予備冷却手段は、液体窒素を優先的に用いることが好ましい。これによれば、液体酸素を他の用途に有効利用することができる。
【0063】
また、本実施形態の蓄熱システム1は、予備冷却手段および精留塔10は、断熱構造を有するコールドボックス11に内包され、予備冷却手段は、コールドボックス11内を冷却することが好ましい。これによれば、コールドボックス11内の主熱交換器8、膨張タービン9および精留塔10を冷却することができるため、空気圧縮機6を再動作させた際に、精留塔10が常温に戻るのを抑制してすぐに液化ガスの精製を始めることができる。
【0064】
また、本発明の実施形態1に係る二酸化炭素回収システム100は、上記に記載の蓄熱システム1と、貯蔵手段である液化ガス貯槽3に貯蔵された液化ガスの冷熱を利用して、二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収手段30と、を備える。このように二酸化炭素回収システム100は、蓄熱システム1が余剰電力を用いて精製および貯蔵した液化ガスを用いて二酸化炭素を回収する。すなわち、余剰電力の有効利用と二酸化炭素の排出による環境負荷を低減することを両立できる。
【0065】
また、本実施形態の二酸化炭素回収システム100では、二酸化炭素回収手段30は、排ガスに含まれる二酸化炭素を固化して回収することが好ましい。これによれば、二酸化炭素回収手段30によって排ガスに含まれる二酸化炭素を効率よく回収することができる。
【0066】
また、本実施形態の二酸化炭素回収システム100では、排ガスを排出する排出設備20を具備することが好ましい。排出設備20から排出された排ガスに含まれる二酸化炭素を回収することができる。
【0067】
なお、制御部5は、余剰電力の変化に応じて、液化ガスの精製量を調整するようにしてもよい。ここで、天候による太陽光発電の発電量について図4を参照して説明する。図4は、天候に基づく太陽光発電の発電量を示すグラフである。
【0068】
図4に示すように、太陽光発電は、太陽光の光量によって上下するため、天候が晴れの場合では発電量が多く、くもりの場合では発電量が晴れの時よりも少なく、雨の場合では発電量が最も少なくなる。この太陽光発電の発電量に基づいて余剰電力も上下する。このため、制御部5は、余剰電力の変化に基づいて液化ガスの精製量を調整する。つまり、制御部5は、余剰電力が多い場合には、液化ガスの精製量が多くなり、余剰電力が少ない場合には、液化ガスの精製量が少なくなるように調整する。例えば、晴れの時の液化ガスの精製量、言い換えると、空気分離装置2の負荷を100%とすると、曇りの時の空気分離装置2の負荷を50%とし、雨の時の空気分離装置2の負荷を0%とする。これにより、余剰電力を効率よく液化ガスに変換して貯蔵することができる。
【0069】
なお、このような制御部5による余剰電力の変化に応じた液化ガスの精製量の調整は、天気予報に基づいて制御するようにしてもよく、また、リアルタイムの余剰電力の情報に基づいて制御するようにしてもよい。
【0070】
また、制御部5は、天候不良によって余剰電力が少なく、蓄熱システム1の余剰電力による液化ガスの精製および貯蔵が不十分な場合には、余剰電力が発生していない時間帯に商用電源等を用いて空気圧縮機6を動作させて液化ガスを精製および貯蔵してもよい。つまり、図5に示すように、天候がくもり等で時間帯A2では余剰電力が少ない場合には、制御部5は、時間帯A2では、空気分離装置2の負荷を50%として駆動する。この時間帯A2で精製および貯蔵した液化ガスでは足りない場合には、時間帯A1およびA3では、商用電源等によって空気分離装置2を駆動する。このとき、時間帯A1およびA3における空気分離装置2の負荷を25%とする。これにより、天候が悪い日であっても、晴れの場合に1日を通して蓄熱システム1で精製および貯蔵される液化ガスと同じ量を精製および貯蔵することができる。蓄熱システム1の空気圧縮機6は、余剰電力だけではなく、商用電源等によって駆動するものも含まれる。
【0071】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。
【0072】
例えば、上述した蓄熱システム1の空気分離装置2は、石炭ガス化複合発電システムの一部を構成するものを用いるようにしてもよい。つまり、石炭ガス化複合発電システムが余剰電力の増大によって発電を停止した場合に、石炭ガス化複合発電システムに用いられている空気分離装置2を蓄熱システム1として動作させるようにしてもよい。これにより、蓄熱システム1に使用する空気分離装置2として、既存の休止中の設備を用いることで、蓄熱システム1の導入コストを低減することができる。
【0073】
また、上述した実施形態では、蓄熱システム1は、液化ガスとして液体酸素および液体窒素を貯蔵する貯蔵手段である液化ガス貯槽3を設けるようにしたが、これに限定されず、蓄熱システム1は、少なくとも液化ガスとして液体酸素を貯蔵する貯蔵手段を具備するものであれば、その他の液化ガスを貯蔵する手段を持たないものであってもよい。
【符号の説明】
【0074】
1…蓄熱システム、2…空気分離装置、3、3a、3b…液化ガス貯槽、4、4a、4b…液化ガス戻しライン、5…制御部、6…空気圧縮機、7a、7b…吸着器、8…主熱交換器、9…膨張タービン、10…精留塔、11…コールドボックス、12、12a、12b…バルブ、20…排出設備、30…二酸化炭素回収手段、31…ドライヤ、32…サブリメータ、33…ドライアイス捕集装置、34…溶融機、100…二酸化炭素回収システム
図1
図2
図3
図4
図5