(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038935
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】坩堝、坩堝の製造方法およびSiC単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20240313BHJP
C30B 19/04 20060101ALI20240313BHJP
C04B 41/87 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B19/04
C04B41/87 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143312
(22)【出願日】2022-09-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1. 公開日:令和4年7月20日 刊行物:19th International Conference on Silicon Carbide and Related Materials(ICSCRM2022)の予稿 ウェブサイト:https://icscrm-2022-switzerland.exordo.com/files/papers/391/final_draft/Abstract_ICSCRM2022_220719f.pdf 公開者:三谷武志、川西咲子、江藤数馬、加藤智久、Didir Chaussende、吉川健 内容:「Suppression of SiC-inclusions in 4H-SiC crystals grown from Si-Cr-C based solution saturated with SiC」のタイトルで、SiCライナー坩堝を用いたSiC単結晶の育成に関する研究について公開した。 2. 発行日:令和4年9月6日 刊行物:日本金属学会2022年秋期第171回講演大会セッション情報 ウェブサイト: https://confit.atlas.jp/guide/event/jim2022autumn/session/3E01-08/tables?zpiopJGhLRの「[S8.5]SiC飽和条件下での溶液成長によるSiC微結晶由来マクロ欠陥の抑制」の「pdfダウンロード」 公開者:三谷武志、川西咲子、Didir Chaussende、吉川健 内容:「SiC飽和条件下での溶液成長によるSiC微結晶由来マクロ欠陥の抑制」のタイトルで、SiCライナー坩堝を用いたSiC単結晶の育成に関する研究について公開した。
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「クリーンエネルギー分野における革新的技術の国際共同研究開発事業/分散型電力ネットワーク有効活用に資する革新的要素技術開発/SiC結晶の生産性と品質を飛躍的に向上する革新的溶液成長技術の開発 」委託研究、産業技術力強化法(平成12年法律第44号)第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】三谷 武志
(72)【発明者】
【氏名】江藤 数馬
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智久
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BE08
4G077CG07
4G077EG05
4G077HA12
4G077MA04
(57)【要約】
【課題】溶液法によるSiC単結晶成長に用いる坩堝であって、成長したSiC単結晶中に発生するSiCインクルージョンを抑制可能な坩堝、その坩堝の製造方法およびSiC単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】内部に底面11aおよび側面11bを有し上面が開口した容器11と、上記底面の全体とその底面と連続する上記側面とを覆うSiC多結晶層12と、を備え、上記側面に設けられたSiC多結晶層は、相対密度が99%以上のSiC多結晶である、坩堝10が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に底面および側面を有し上面が開口した容器と、
前記底面の全体と該底面に連続する前記側面とを覆うSiC多結晶層と、を備え、
前記側面に設けられたSiC多結晶層は、相対密度が99%以上のSiC多結晶である、坩堝。
【請求項2】
前記SiC多結晶層は、側面部分が底面部分よりも相対密度が高い、請求項1記載の坩堝。
【請求項3】
前記SiC多結晶層は、側面部分と底面部分とが相対密度が等しい、請求項1記載の坩堝。
【請求項4】
前記SiC多結晶層は、ドーピング元素を含む、請求項1~3のうちいずれか一項記載の坩堝。
【請求項5】
内部に底面および側面を有し上面が開口した容器を結晶成長装置に設置する第1の工程と、
SiC原料粉を昇華させて、前記容器の前記底面に連続する側面を覆うSiC多結晶層を形成する第2の工程と、を含む坩堝の製造方法。
【請求項6】
前記第2の工程において、前記容器の側面から離隔して該側面に対向するとともに前記SiC原料粉の収容部と連通する流路を形成し、前記SiC原料粉を昇華させたSiCガスを前記側面の表面に制限する治具を用いる、請求項5記載の坩堝の製造方法。
【請求項7】
前記治具は、前記容器の底面から離隔して該底面に対向して配置され、前記流路が該底面の表面まで延在して形成されてなり、
前記第2の工程において、前記SiC原料粉を昇華させたガスが前記流路を流通して前記底面に接触して前記底面を覆うSiC多結晶層を形成することを含む、請求項6記載の坩堝の製造方法。
【請求項8】
前記第1の工程の前または第2の工程の後に、SiC原料粉を固めたSiC固形層を前記底面を覆うように形成する工程をさらに含み、
前記SiC原料粉を昇華させたSiCガスを前記SiC固形層に含浸させる第4の工程をさらに含む請求項5記載の坩堝の製造方法。
【請求項9】
前記SiC原料粉はドーピング元素をさらに含む、請求項8記載の坩堝の製造方法。
【請求項10】
前記第4の工程において、前記SiC原料粉を2100℃以上で昇華させる、請求項8記載の坩堝の製造方法。
【請求項11】
前記第2の工程において、前記SiC原料粉はドーピング元素をさらに含む、請求項5~10のいずれか一項記載の坩堝の製造方法。
【請求項12】
請求項1記載の坩堝または請求項4記載の坩堝の製造方法によって製造された坩堝を準備する工程と、
前記坩堝の前記SiC多結晶層と接する内部に、SiおよびCを含む溶液を準備する工程と、
前記溶液にSiC種結晶の主面を接触させ、該主面に単結晶のSiC層を成長させる工程と、を含むSiC単結晶の製造方法。
【請求項13】
前記SiC多結晶層は、ドーピング元素を含む、請求項12記載のSiC単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC単結晶を形成するための坩堝、坩堝の製造方法およびSiC単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiC単結晶は、一般的に、昇華再結晶法(あるいは昇華法)および溶液成長法(あるいは溶液法)によって形成されている。溶液法は、黒鉛坩堝にSi原料および溶媒となるCr等の金属を投入して加熱することでSi-C溶液を作り、そこに種結晶のSiC単結晶を接触させて、種結晶上にSiC単結晶を成長させる。Si-C溶液の炭素源(C源)は黒鉛坩堝であり、SiC単結晶成長により炭素が消費されても黒鉛坩堝から炭素が供給される。一方、Si-C溶液のシリコン源(Si源)は最初に坩堝に投入するSi原料であり、SiC単結晶成長によりSiが消費されるとSi-C溶液のSiの総量は減少する。すなわち、黒鉛坩堝をC源、投入Si原料をSi源とすると、SiC単結晶成長に伴いSi-C溶液中のSiの割合は減少してしまう。このSi-C溶液の組成変動は、SiC以外のグラファイトや炭化物が溶液から析出する原因となり、黒鉛坩堝を用いた溶液成長を行う場合の成長環境の経時不安定化を引き起こす。
【0003】
特許文献1では、SiC原料粉の酸素濃度を低減して成形および焼成したSiC坩堝を用いて、溶液法によりSiC種結晶に育成したSiC単結晶は、ボイドの発生が抑制されることを開示している。
【0004】
特許文献2では、溶液法によるSiC単結晶成長に用いる黒鉛坩堝の課題と、それを解決するためにSiCを主成分とするSiC坩堝を用いることを開示する。
【0005】
非特許文献1では、溶液法によるSiC単結晶成長に用いるSi-C溶液の組成変動を抑制するために、黒鉛坩堝の内面にSiCとCとの組成が傾斜する構造を形成したSiC/C傾斜坩堝を用いることを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-031036号公報
【特許文献2】特開2015-110495号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S. Kawanishi et al., "Suppressing solvent compositional change during solution growth of SiC using SiC/C gradient crucible", Journal of Crystal Growth 576 (2021) 126382
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明者等は、黒鉛坩堝を用いた溶液法によるSiC単結晶成長では、成長するSiC単結晶にSiCインクルージョンが混入し、SiC単結晶の結晶性が低下してしまう現象の解決に着目した。SiCインクルージョンとは単結晶の一部に混入する結晶方位の異なる微小なSiC結晶粒であり、デバイス作製時の歩留まりを低下させる。本願発明者は、これは黒鉛坩堝から供給される炭素とSiCとして消費される炭素との供給と消費のバランスがとれておらず、供給過多でSi-C溶液中の炭素濃度が高くなりすぎて、Si-C溶液中の種結晶以外の場所で核発生して成長したSiC粒子が種結晶に成長しているSiC単結晶の表面に付着してしまうと推測している。そこで、SiC焼結体で形成されたSiC坩堝(市販品)を用いて単結晶成長を試みたが、SiC坩堝を構成する粒子が遊離して成長面に付着し、SiCインクルージョンを抑制できなかった。なお、特許文献1および2ではこのようなSiCインクルージョンの抑制効果について検討されていない。
【0009】
本発明は、溶液法によるSiC単結晶成長に用いる坩堝であって、成長したSiC単結晶中に発生するSiCインクルージョンを抑制可能な坩堝、その坩堝の製造方法およびSiC単結晶の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、内部に底面および側面を有し上面が開口した容器と、上記底面の全体とその底面と連続する上記側面とを覆うSiC多結晶層と、を備え、上記側面に設けられたSiC多結晶層は、相対密度が99%以上のSiC多結晶である、坩堝が提供される。
【0011】
上記態様によれば、本態様の坩堝を用いて溶液法によりSiC単結晶を成長させる際に、収容されるSi-C溶液が接触する側面が相対密度が99%以上の緻密に形成されたSiC多結晶層が形成されているので、SiCインクルージョンの原因となる微小なSiC結晶粒の発生を抑制することができる。
【0012】
本発明の他の態様によれば、内部に底面および側面を有し上面が開口した容器を結晶成長装置に設置する第1の工程と、SiC原料を昇華させて、上記容器の上記底面に連続する側面を覆うSiC多結晶層を形成する第2の工程と、を含む坩堝の製造方法が提供される。
【0013】
上記他の態様によれば、容器の側面に昇華したSiCガスが堆積して緻密なSiC多結晶のSiC多結晶層が形成される。これにより、溶液法によりSiC単結晶を成長させる際に、坩堝は、収容されたSi-C溶液が接触する側面が緻密なSiC多結晶であるSiC多結晶層が形成されているので、SiCインクルージョンの原因となる微小なSiC結晶粒の発生を抑制して、Si-C溶液に遊離して単結晶SiC中のSiCインクルージョンとなることを抑制することができる。
【0014】
本発明のその他の態様によれば、上記態様の坩堝または上記他の態様の坩堝の製造方法によって製造された坩堝を準備する工程と、上記坩堝の上記多結晶層と接する内部に、SiおよびCを含む溶液を準備する工程と、上記溶液にSiC種結晶の主面を接触させ、その主面に単結晶のSiC層を成長させる工程と、を含むSiC単結晶の製造方法が提供される。
【0015】
上記その他の態様によれば、上記態様の坩堝または上記他の態様の坩堝は、容器の内部の底面に連続する側面が緻密なSiC多結晶のSiC多結晶層に覆われているので、Si-C溶液に遊離する微細なSiC多結晶粒の発生を抑制して、SiC単結晶中のSiCインクルージョンとなることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る坩堝の概略断面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る坩堝の製造工程図(その1)である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る坩堝の製造工程図(その2)である。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る坩堝の概略断面図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る坩堝の製造工程図の一部である。
【
図6】本発明の一実施形態に係るSiC単結晶の製造方法のフローチャートである。
【
図7】本発明の一実施形態に係るSiC単結晶の製造方法に用いる結晶成長装置の説明図である。
【
図8】実施例2および比較例1の成長したSiC単結晶層の断面の透過顕微鏡写真である。
【
図10】本発明の第1実施形態に係る坩堝の変形例の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。なお、複数の図面間において共通する要素については同じ符号を付し、その要素の詳細な説明の繰り返しを省略する。
【0018】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る坩堝の概略断面図である。
図1を参照するに、坩堝10は、内部に底面11aおよび側面11bを有し上面が開口した容器11と、容器11の底面11aに連続する側面11bを覆う第1SiC多結晶層12と、底面11a全体を覆う第2SiC多結晶層13を備える。
【0019】
容器11は、炭素材料等からなり、より具体的には、例えば、等方性黒鉛等の耐熱材料から形成されており、例えば黒鉛坩堝である。容器11は、例えば、外形が円筒形であり、内部に円筒形の凹部が形成されている。
【0020】
容器11の内部の側面11bには、底面11aから連続し、側面11bの周方向にも連続して第1SiC多結晶層12が形成されており、第1SiC多結晶層12単独の形状は、おおよそ円環状である。
【0021】
第1SiC多結晶層12は、厚さが例えば、5mm~20mmであることが好ましく、結晶成長時の温度分布制御や溶液流れ制御の観点から10mm~15mmであることがより好ましい。
【0022】
第1SiC多結晶層12は、SiC多結晶が緻密に形成されており、SiC多結晶の下記の式(1)で表される相対密度が99%以上であり、高いほど好ましく、99.5~100%であることが好ましい。
第1SiC多結晶層12の相対密度(%)=第1SiC多結晶層12の密度/SiC単結晶の真密度×100 ・・・(1)
ここで、第1SiC多結晶層12の密度は、この層のほぼ全体を構成するSiC多結晶の密度であり、第1SiC多結晶層12を切り出して(例えば、内径10cm×外径11cm×高さ5cmの円環状)、アルキメデス法により測定したかさ密度である。SiC単結晶の真密度は、3.21g/cm3である。
【0023】
第1SiC多結晶層12は、個々のSiCの結晶粒が隣合うSiCの結晶粒と直接接触し、互いの結晶粒の粒界にSi相等のSiCと異なる相や、空隙あるいは空孔が少ない程好ましい。第1SiC多結晶層12は、溶液法によるSiC単結晶成長のためのSi-C溶液が接触する表面およびSi-C溶液が浸入する可能性のある所定の厚さの範囲において、SiC多結晶が緻密にまたは均一に形成されていることが好ましい。例えば、第1SiC多結晶層12の表面はSiC多結晶のみが露出していることが好ましい。これにより、溶液法によるSiC単結晶成長中において第1SiC多結晶層12の表面においてSiCの核形成を抑制して、SiCインクルージョンの発生を抑制することができる。
【0024】
第1SiC多結晶層12は、容器11の内部に円環状のSiC多結晶体を嵌め込んで配置してもよいが、容器11との密着性および熱伝導性が良好な点で容器11の側面11bに気相成長法によりSiC多結晶を堆積して形成することが好ましい。
【0025】
第1SiC多結晶層12は、溶液法によるSiC単結晶成長のためのSi-C溶液の成分変化を抑制する点で、SiC多結晶を占める割合(つまりSiC化率、重量換算)が99%以上含むことが好ましい。なおSiC化率の測定は、SiC多結晶層の断面を切り出して鏡面研磨し、光学顕微鏡、電子顕微鏡による形態観察および元素組成観察(例えば、エネルギー分散型X線分析(EDX)法)によってSiC、遊離Si、遊離C、気孔の分布を調査することによって行う。
【0026】
容器11の内部の底面11aには、全面に第2SiC多結晶層13が形成されており、その周縁部は、第1SiC多結晶層12と接触して一体となっている。第2SiC多結晶層13は、その表面が第1SiC多結晶層12の表面と連続している。第2SiC多結晶層13および第1SiC多結晶層12は、その表面が溶液法によりSiC単結晶を作製する際に収容するSi-C溶液に接触し、Si-C溶液にSiおよびCを供給するSiC源として機能する。
【0027】
第2SiC多結晶層13は、SiC多結晶が緻密に形成されており、下記の式(2)で表される相対密度が95%以上であることが好ましく、99%以上であることがさらに好ましく、99.5~100%あることが特に好ましい。
第2SiC多結晶層13の相対密度(%)=第2SiC多結晶層13の密度/SiC単結晶の真密度×100 ・・・(2)
ここで、第2SiC多結晶層13の密度は、上記式(1)の第1SiC多結晶層12の密度と同様の方法により測定する。
【0028】
第1SiC多結晶層12の相対密度と第2SiC多結晶層13の相対密度とは、高い方がより好ましく、さらに、第1SiC多結晶層12の相対密度は、第2SiC多結晶層13の相対密度よりも高い方が好ましい。
【0029】
第2SiC多結晶層13は、SiC原料粉を固めたSiC固形層にSiC原料を昇華させたSiCガスを含浸させて形成してもよい。SiC固形層の空隙にSiCガスが侵入するとともにSiC原料粉の粒子が成長して緻密な第2SiC多結晶層13が形成されている。第2SiC多結晶層13は、第1SiC多結晶層12と同様にSiC結晶粒が緻密に形成されていることが好ましい。
【0030】
坩堝10は、溶液法により成長するSiC単結晶にドーピング元素を含める用途の坩堝とする場合は、第1SiC多結晶層12および第2SiC多結晶層13にドーピング元素を含ませる。ドーピング元素は、例えば、窒素(N)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)であり、第1SiC多結晶層12および第2SiC多結晶層13のSiCに対して0.1ppm~1000ppmの範囲で含むことが好ましい。
【0031】
本実施形態によれば、坩堝10は、容器11の内部の底面11aに連続する側面11bを覆う第1SiC多結晶層12が相対密度が99%で、緻密にSiC多結晶が形成されており、底面11a全体を第2SiC多結晶層13が覆っているので、坩堝10を用いてSi-C溶液を収容してSiC単結晶を成長させる際に第1SiC多結晶層12および第2SiC多結晶層13の表面からSi-C溶液に遊離する微細なSiC多結晶粒の発生を抑制して、SiC単結晶に混入することを抑制することができる。
【0032】
[第1実施形態の製造方法]
図2および
図3は、本発明の第1実施形態に係る坩堝の製造工程図(その1およびその2)である。以下、
図2(a)および(b)、
図3(a)および(b)を参照しつつ第1実施形態に係る坩堝の製造方法を説明する。
【0033】
図2(a)の工程では、最初に、黒鉛材料からなる容器11を結晶成長装置20に設置する。容器11を上下を逆にして結晶成長装置20からのSiCガスが容器11の開口部から内部に流通するように配置する。黒鉛坩堝21の内部に治具23を配置する。治具23は、先端部の側面23bが、容器11の側面11bから離隔して対向するとともに黒鉛坩堝21のSiC原料粉22の収容部21aと連通する流路24を形成する。流路24を形成することで、次の工程で第1SiC多結晶層12を底面11aよりも側面11bに優先的に形成できる。治具23は、先端部の上面23aが容器11の底面11aから離隔して対向するとともに流路24と連通する流路25を形成してもよい。また、治具23の側面23bの形状は直線的の他、曲率を持った形状、例えば半球状でもよく、それらを組み合わせてもよい。治具23の側面23bの形状は、第1SiC多結晶層12の断面形状や厚さ等に応じて種々の形状を適用することが可能である。黒鉛坩堝21の収容部21aには、SiC原料粉22を充填する。
【0034】
図2(b)の工程では、次いで、結晶成長装置20の図示されない抵抗加熱または高周波加熱により、減圧不活性ガス雰囲気中で、黒鉛坩堝21を加熱してSiC原料粉22を例えば、2200℃~2400℃にして昇華させSiCガスを発生させる。SiCガスは、上昇して、治具23の先端部の側面23bと容器11の側面11bとにより形成される流路24を上昇する。容器11の側面11bに堆積して第1SiC多結晶層12を形成する。第1SiC多結晶層12は、上記式(1)で表す相対密度が99%以上に形成される。
【0035】
図3(a)の工程では、次いで、SiC原料粉と、例えば、ポリカルボシランを溶かした有機溶剤をバインダーとして混練した混練物を容器11の底部11aの全体に敷き詰めて圧力を印加して平坦化し、例えば200℃に加熱して固化して第2SiC多結晶層の前駆体27を形成する。
【0036】
図3(b)の工程では、次いで、
図3(a)の容器26を結晶成長装置20に設置し、抵抗加熱または高周波加熱(不図示)により、減圧不活性ガス雰囲気中で、SiC原料粉22を2200℃~2400℃に加熱して昇華させ発生したSiCガスを容器の底部の前駆体27に含浸させる。これにより、SiC多結晶が緻密に含まれる第2SiC多結晶層13が形成される。以上により、第1実施形態に係る坩堝が形成される。
【0037】
なお、坩堝10は、溶液法により成長するSiC単結晶にドーピング元素を含める用途の坩堝とする場合は、前駆体27を形成する際のSiC原料粉にドーピング元素を含ませたり、SiC原料粉22にドーピング元素を含ませたりして第1SiC多結晶層12および第2SiC多結晶層13を形成する。ドーピング元素は、例えば、窒素(N)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)であり、SiC原料粉22に含ませることが好ましく、第1SiC多結晶層12および第2SiC多結晶層13に重量換算で0.1ppm~1000ppm含ませることが好ましい。
【0038】
なお、本実施形態の製造方法の変形例として、第2SiC多結晶層13を先に形成し、その後で第1SiC多結晶層12を形成してもよく、この場合、
図3(a)および(b)の工程を行った後、
図2(a)および
図2(b)の工程を行う。
【0039】
本実施形態の製造方法によれば、容器11の側面11bに昇華したSiCガスが堆積して緻密なSiC多結晶の第1SiC多結晶層12が形成される。容器11の底部11aには、SiC原料粉を固化した前駆体27にSiCガスを含浸することで前駆体27中の空隙が充填され、SiC粒子自体も粒成長が起こり、SiC多結晶が緻密化された第2SiC多結晶層13が形成される。これにより、溶液法によりSiC単結晶を成長させる際に、坩堝10は、収容されたSi-C溶液が接触する側面および底面がそれぞれSiC多結晶が緻密に形成された第1SiC多結晶層12および第2SiC多結晶層13が形成されているので、SiCインクルージョンの原因となる微小なSiC結晶粒の発生を抑制することができる。
【0040】
[実施例1]
実施例1の坩堝は、以下のようにして形成した。市販の黒鉛坩堝(東洋炭素社製、等方性黒鉛坩堝IG11)を容器11として用いて、結晶成長装置20(竹内電機社製 昇華再結晶炉)に設置し、治具23を配置し、結晶成長装置20の黒鉛坩堝21にSiC原料粉22(太平洋セメント社製、高純度SiC粉末)を充填した。
【0041】
次いで、結晶成長装置20を高周波加熱により、減圧Ar雰囲気中で、2400℃に黒鉛坩堝21を加熱してSiC原料粉22を昇華させ、1440分間SiCガスを容器11の内部の側面11bに堆積させた。
【0042】
次いで、容器11の底部にSiC原料粉(太平洋セメント社製、高純度SiC粉末)90重量部、バインダー樹脂としてポリカルボシラン2重量部、溶剤としてキシレン8重量部を混練した混練物を容器11の底部の全体に厚さ5mmに敷き詰めて200℃30分間加熱して固化して第2SiC多結晶層13の前駆体27とした。
【0043】
次いで、容器11を結晶成長装置20(竹内電機製、昇華再結晶炉)に設置し、結晶成長装置20の黒鉛坩堝21にSiC原料粉22(太平洋セメント社製、高純度SiC粉末)を充填し、高周波加熱により、減圧Ar雰囲気中で、2400℃に黒鉛坩堝21を加熱してSiC原料粉22を昇華させ、600分間SiCガスを容器11の内部の底部の前駆体27に気相含浸させた。このようにして実施例1の坩堝を形成した。
【0044】
坩堝の内部の側面の第1SiC多結晶層12および底面の第2SiC多結晶層13からそれぞれ試料(サイズ10mm×10mm、厚さ5mm)を得て、アルキメデス法により密度を測定し、それぞれ密度が3.20g/cm3、3.19g/cm3であり、相対密度は99.7%、99.4%であった。
【0045】
[第2実施形態]
図4は、本発明の第2実施形態に係る坩堝の概略断面図である。
図4を参照するに、坩堝30は、内部に底面11aおよび側面11bを有し上面が開口した容器11と、容器11の底面11aと底面11aに連続する側面11bとを覆うSiC多結晶層32と、を備える。坩堝30は、
図1に示した第1実施形態に係る坩堝10において、容器11の側面11bに形成した第1SiC多結晶層12を底面11a全体まで形成してSiC多結晶層32とした以外は、第1実施形態に係る坩堝10と同様である。
【0046】
SiC多結晶層32は、第1実施形態の第1SiC多結晶層12と同様の相対密度を有する。すなわち、SiC多結晶層32は、相対密度が99%以上であり、99.5%~100%あることがさらに好ましい。また、SiC多結晶層32は、容器11の側面11bを覆う部分と底面11aを覆う部分とで相対密度が等しい。
【0047】
坩堝30は、溶液法により成長するSiC単結晶にドーピング元素を含める用途の坩堝とする場合は、SiC多結晶層32にドーピング元素を含ませる。ドーピング元素は、例えば、窒素(N)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)であり、SiC多結晶層32のSiCに対して0.1ppm~1000ppmの範囲で含むことが好ましい。
【0048】
本実施形態によれば、坩堝30は、容器11の内部の底面11aおよび底面11aに連続する側面11bを覆うSiC多結晶層32が相対密度が99%で、緻密にSiC多結晶が形成されているので、坩堝30を用いてSi-C溶液を収容してSiC単結晶を成長させる際にSiC多結晶層32からSi-C溶液に遊離する微細なSiC多結晶粒の発生を抑制して、SiC単結晶に混入することを抑制することができる。
【0049】
[第2実施形態の製造方法]
図5は、本発明の第2実施形態に係る坩堝の製造工程図の一部である。以下、
図5と先の
図2(a)を参照しつつ第2実施形態に係る坩堝の製造方法を説明する。
【0050】
最初に、
図2(a)およびその説明で示したように、黒鉛材料からなる容器11を結晶成長装置20に設置し、治具23を配置し、黒鉛坩堝21の収容部21aにSiC原料粉22を充填する。治具23は、先端部の上面23aが容器11の底面11aから離隔して対向するとともに流路24と連通する流路25を形成する。
【0051】
図5の工程では、次いで、結晶成長装置20の図示されない抵抗加熱または高周波加熱により、減圧不活性ガス雰囲気中で、黒鉛坩堝21を加熱してSiC原料粉22を2200℃~2400℃にして昇華させSiCガスを発生させる。SiCガスは、上昇して、流路24に流入し、さらに流路25に流入して、側面11bおよび底面11aにSiC多結晶層32を形成する。治具23の先端部の側面23bと容器11の側面11bとの距離(クリアランス)、上面23aと底面11aとの距離(クリアランス)や、容器11の側面11bおよび底面11aの温度分布等を制御することで底面11aおよび側面11bにSiC多結晶層32が形成されるようにする。
【0052】
なお、坩堝30は、溶液法により成長するSiC単結晶にドーピング元素を含める用途の坩堝とする場合は、SiC原料粉22にドーピング元素を第1実施形態と同様に含ませる。
【0053】
本実施形態の製造方法によれば、容器11の底面11aおよび側面11bに昇華したSiCガスが堆積して緻密なSiC多結晶のSiC多結晶層32が形成される。これにより、溶液法によりSiC単結晶を成長させる際に、坩堝30は、収容されたSi-C溶液が接触する側面および底面がそれぞれSiC多結晶が緻密に形成されたSiC多結晶層32が形成されているので、SiCインクルージョンの原因となる微小なSiC結晶粒の発生を抑制することができる。
【0054】
[SiC単結晶の製造方法]
図6は、本発明の一実施形態に係るSiC単結晶の製造方法のフローチャートである。
図7は、本発明の一実施形態に係るSiC単結晶の製造方法に用いる結晶成長装置の説明図である。以下、
図6を
図7と合わせて参照しつつSiC単結晶の製造方法を説明する。
【0055】
最初に、第1または第2実施形態に係る坩堝10,30を準備する(S100)。坩堝10および坩堝30のいずれでもSiC単結晶の製造方法は同様であるので、説明の便宜のため、第1実施形態に係る坩堝10を例に説明する。
【0056】
次いで、坩堝10の第1および第2SiC多結晶層12,13と接する内部にSi-C溶液41を準備する(S110)。Si-C溶液41は、Si単体、またはSiに加えてCの溶解を促進して結晶成長速度を向上するためや、結晶成長面の荒れを防止して結晶成長の安定性を向上するために金属元素を添加した溶媒を溶解することで準備される。また、溶媒はSi源の他にC源を含んでいてもよい。金属元素としては、Cr、Ti、Fe、Ni、La、Ce、Nd、Dy、Ga、B、Sn、Alなどを用いることができ、文献(例えば、R. Miyasaka et al., J. Cryst. Growth 460 (2017) 23-26、K. Suzuki et al., Jpn. J. Appl. Phys. 59, 025504 (2020)、三谷等 日本結晶成長学会誌 45, 45-2-02 (2018))に記載されるSi-C溶液を用いることができる。Si-C溶液41は、金属元素との組成が大きいほどSi-C溶液41中の炭素濃度を高めることができ、よりSiC単結晶の成長速度を高めることができる。
【0057】
C源としては、黒鉛やSiC原料を別途添加してもよい。一方、Si源とC源は坩堝10の第1および第2SiC多結晶層12,13でもよく、第1および第2SiC多結晶層12,13からSi-C溶液41に溶解するSiおよびCでもよい。この場合、溶媒にSi源とC源を含まなくともよい。
【0058】
次いで、結晶成長装置40の高周波コイル48に高周波電流を流して高周波加熱により坩堝10を加熱して、1600℃~2400℃の範囲でSi-C溶液を溶融し、SiC種結晶42の主面を上部からSi-C溶液の液面に接触させ、主面に単結晶のSiC層を成長させる(S120)。黒鉛製の坩堝軸43と黒鉛製のシード軸44を同方向または反対方向に回転させながら、シード軸44を結晶成長速度(例えば、50μm/h~1000μm/h)に応じて引き上げる。結晶成長により消費されSiおよびCは、第1および第2SiC多結晶層12,13の表面からSi-C溶液に供給される。なお、46は黒鉛製の上蓋である。
【0059】
本実施形態の製造方法によれば、坩堝10,30は、容器11の内部の底面に連続する側面が緻密なSiC多結晶のSiC多結晶層に覆われているので、Si-C溶液に遊離する微細なSiC多結晶粒の発生を抑制して、SiC単結晶中のSiCインクルージョンとなることを抑制することができる。
【0060】
[実施例2]
実施例1の坩堝を用いてSiC単結晶次いで、坩堝10の第1および第2SiC多結晶層12,13と接する内部にSi-C溶液を準備する。Si-C溶液41は、SiC多結晶から供給されるSi、Cを含み、用いた合金溶媒の組成はSi-50mol%Cr-1mol%Alである。次いで、結晶成長装置40の高周波コイル48に高周波電流を流して高周波加熱により坩堝10を加熱して温度1950℃に保持してSi-C溶液を溶融し、4H-SiC種結晶42(直径50.8mm)の主面(000-1)を上部からSi-C溶液の液面に接触させ、主面に単結晶のSiC層を成長させた。そのとき、坩堝軸43を5rpm、シード軸44を60rpmで回転させながら、シード軸44を100μm/hの速度で引き上げた。厚さ1.5mmのSiC単結晶層を得た。
【0061】
[比較例1]
比較例1の坩堝は、かさ密度1.77g/cm3の市販の黒鉛坩堝を用いた。坩堝以外は実施例2と同様の条件により種結晶の表面にSiC結晶層を成長させて、厚さ1.5mmのSiC単結晶層を得た。
【0062】
図8は、(a)が実施例2、(b)が比較例1の成長したSiC単結晶層の断面の透過顕微鏡写真である。
図8(a)を参照するに、実施例2は、SiC単結晶層中にSiCインクルージョンは発生していないことが分かった。SiC単結晶層中の中央部でも周縁部でも同様にSiCインクルージョンは発生していないことが分かった。一方、
図8(b)を参照するに、比較例1は、SiC単結晶層中に多数のSiCインクルージョンが発生していることが分かった。
【0063】
[比較例2]
比較例2の坩堝は、市販のSiC坩堝(東海高熱工業社製、製品名リクライトRS1000)を用いて、実施例2と同様にして、4H-SiC種結晶にSiC単結晶層成長を試みた。比較例2の坩堝の側壁および底面の厚みが5mm、SiC多結晶部分の相対密度が93.4%、SiC化率が99%以上であった。
【0064】
図9は、比較例2の断面反射顕微鏡写真であり、SiC結晶層成長の写真であり、種結晶にSiC結晶層が成長した部分の写真である。
図9を参照するに、比較例2は、種結晶に成長した非常に薄いSiC単結晶層上にSiC結晶粒が大小、多量に付着していることが分かった。コントラストが異なり明るく見えている箇所は溶液が巻き込まれて固化した場所である。比較例2では、表面に付着した多数のSiC結晶は、相対密度が93.4%と比較的粗なSiC坩堝の内部の表面が溶解する際に、SiC坩堝を構成するSiC粒子が遊離してSi-C溶液に放出され、それがSiC結晶粒として結晶成長面に付着したものと推察される。
【0065】
図10は、本発明の第1実施形態に係る坩堝の変形例の概略断面図である。
図10(a)を参照するに、変形例1の坩堝50は、容器11の底面11aに連続する側面11bを覆う第1SiC多結晶層52と、底面11a全体を覆う第2SiC多結晶層53を備える。第2SiC多結晶層53は、底面11a全体を覆っており、第1SiC多結晶層52は、側面11bと第2SiC多結晶層53の周縁部とを覆うように形成されている。この構成以外は、
図1に示した坩堝10と同様である。坩堝50は、容器11の内部の底面11aに連続する側面11bを覆う第1SiC多結晶層52が相対密度が99%で、緻密にSiC多結晶が形成されており、底面11a全体を第2SiC多結晶層53が覆っているので、坩堝50を用いてSi-C溶液を収容してSiC単結晶を成長させる際に第1SiC多結晶層52および第2SiC多結晶層53の表面からSi-C溶液に遊離する微細なSiC結晶粒の発生を抑制して、SiC単結晶に混入してSiCインクルージョンとなることを抑制することができる。
【0066】
坩堝50は、先に述べた第1実施形態の製造方法の工程の順序を変更して作製できる(図示を省略する。)。最初に、
図3(a)の工程を行い、第2SiC多結晶層53の前駆体を容器11の底面11aの全体を覆うように形成する。次いで、
図3(b)の工程を行い、第2SiC多結晶層53の前駆体にSiCガスを含浸させ、SiC多結晶が緻密に含まれる第2SiC多結晶層53を形成する。次いで、
図2(a)および
図2(b)の工程を順次行い、治具23を用いて、容器11の側面11bと第2SiC多結晶層53の周縁部とを覆う第1SiC多結晶層52を形成する。以上により、坩堝50が形成される。坩堝50の製造方法は、第1実施形態の坩堝10の製造方法と同様の効果が得られる。
【0067】
図10(b)を参照するに、変形例2の坩堝60は、容器11の底面11aを覆う第2SiC多結晶層63の表面63aが曲率を有する、例えば半球状の凹部が形成されている。この点以外は、
図1に示した第1実施形態の坩堝10と同様であり、同様の効果を有する。坩堝60は、第2SiC多結晶層63の表面63aが曲率を有しているので、Si-C溶液を収容してSiC単結晶を成長させる際に第2SiC多結晶層63の表面63aからSi-C溶液に遊離する微細なSiC結晶粒の発生を抑制して、SiC単結晶に混入してSiCインクルージョンとなることを抑制することができる。
【0068】
坩堝60は、先に述べた第1実施形態の製造方法の工程と同じ順序(
図2(a)~
図3(b))で作製する。但し、
図3(a)の工程では、混練物を容器11の底部11aの全体に敷き詰める際に、先端に凸の曲率を有する凸部の先端形状の治具を用いて圧力をかけて混練物を成形する。坩堝60の製造方法は、第1実施形態の坩堝10の製造方法と同様の効果が得られる。
【0069】
図10(c)を参照するに、変形例3の坩堝70は、容器11の底面11aを覆う第2SiC多結晶層73の表面73aが曲率を有する、例えば半球状の凹部が形成されている。この点以外は、
図10(a)に示した坩堝50と同様であり、同様の効果を有する。坩堝70は、第2SiC多結晶層73の表面73aが曲率を有しているので、Si-C溶液を収容してSiC単結晶を成長させる際に第2SiC多結晶層73の表面73aからSi-C溶液に遊離する微細なSiC結晶粒の発生を抑制して、SiC単結晶に混入してSiCインクルージョンとなることを抑制することができる。
【0070】
坩堝70は、
図10(a)に示した坩堝50の製造方法の工程と同じ順序で作製する。但し、
図3(a)の工程では、混練物を容器11の底部11aの全体に敷き詰める際に、先端に凸の曲率を有する凸部の先端形状の治具を用いて圧力をかけて混練物を成形する。また、
図2(a)および
図2(b)の工程では、治具23は、先端に凸の曲率を有する凸部の先端形状の治具を用いる。坩堝70の製造方法は、第1実施形態の坩堝10の製造方法と同様の効果が得られる。
【0071】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された本発明の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。例えば、容器11の内部の形状は、
図1に示した形状に限定されず、断面形状がU字状でもよく、側面11bと底面11aとが交わる部分は曲率を有して滑らかに接続されていてもよい。
【符号の説明】
【0072】
10,30,50,60,70 坩堝
11 容器
12,52 第1SiC多結晶層
13,63 第2SiC多結晶層
20,40 結晶成長装置
23 治具
32 SiC多結晶層