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特開2024-39094炭酸カルシウムの製造方法及び製造システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039094
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】炭酸カルシウムの製造方法及び製造システム
(51)【国際特許分類】
   C01F 11/18 20060101AFI20240314BHJP
【FI】
C01F11/18 A ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143381
(22)【出願日】2022-09-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイトのアドレス:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の成果報告書データベースのURL:https://seika.nedo.go.jp/pmg/PMG01C/PMG01CG01 ウェブサイトの掲載日:2022年(令和4年)6月24日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度~令和3年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/次世代火力発電技術推進事業/カーボンリサイクル技術の共通基盤技術開発/カルシウム含有廃棄物からのCa抽出およびCO2鉱物固定化技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】菊池 定人
(72)【発明者】
【氏名】大泉 理紗
(72)【発明者】
【氏名】小西 正芳
(72)【発明者】
【氏名】比嘉 充
(72)【発明者】
【氏名】谷口 育雄
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA16
4G076AB28
4G076AC04
4G076BA13
4G076BA25
4G076BB03
4G076BC02
4G076BD01
4G076BE11
4G076CA02
4G076CA40
(57)【要約】      (修正有)
【課題】カルシウム含有廃棄物を利用し、得られる炭酸カルシウム中に含まれるアルカリの含有量を制御することができる、炭酸カルシウムの製造方法及び製造システムを提供する。
【解決手段】カルシウム含有廃棄物に塩酸水を添加して、カルシウムを溶解させ、カルシウムイオンを含む水溶液を生成するカルシウム溶解工程と、カルシウムイオンを含有する水溶液の水素イオン濃度指数を調整し、Mg等を水溶液から分離する分離工程と、分離工程を経て得られたカルシウムイオン含有水溶液に、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液を添加して反応させて炭酸カルシウムを生成する炭酸カルシウム調製工程を備え、炭酸カルシウム調製工程において、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液の添加速度を制御することで、特定の式で示すκが3000以下となるようにする、炭酸カルシウムの製造方法(製造システム)である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム含有廃棄物から炭酸カルシウムを生成する炭酸カルシウム製造する方法において、カルシウム含有廃棄物に塩酸水を添加して、カルシウムを溶解させ、カルシウムイオンを含む水溶液を生成するカルシウム溶解工程と、前記カルシウムイオンを含有する水溶液の水素イオン濃度指数を調整し、Si、Al、Mg、及び重金属からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む成分を該水溶液から分離する分離工程と、該分離工程を経て得られたカルシウムイオン含有水溶液に、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液を添加して反応させて炭酸カルシウムを調製する炭酸カルシウム調製工程を備え、当該炭酸カルシウム調製工程において、以下の式で示すκが3000以下となるように、前記炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液の添加速度を制御することを特徴とする、炭酸カルシウムの製造方法。
κ=(CaCOの生成速度(γcc)×(反応後の溶液中のカリウム又はナトリウム濃度))/(1-α)
但し、上記式中、
CaCOの生成速度(γcc)=〔(炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液添加速度)×(炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液濃度)〕/反応後溶液量 (mmol-CaCO/L/min)
α(カルシウム反応率)=CO/Ca(α≦1、COは、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウム溶液中の炭酸イオン含量、Caは、カルシウムイオン溶液中のカルシウム含量)
【請求項2】
請求項1記載の炭酸カルシウムの製造方法において、κが30以下になるように炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液の添加速度及び濃度を制御することを特徴とする、炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の炭酸カルシウム製造方法において、カルシウム含有廃棄物に塩酸水を添加して、カルシウムを溶解させ、カルシウムイオンを含む水溶液を生成することを特徴とする、炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は3記載の炭酸カルシウムの製造方法において、前記炭酸カルシウムを調製する工程に用いる炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウム水溶液は、水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムを含む水溶液に二酸化炭素を接触させて生成されることを特徴とする、炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の炭酸カルシウム製造方法において、該二酸化炭素は、セメント製造設備から排出される二酸化炭素を含有する燃焼排ガスを使用することを特徴とする、炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項6】
請求項1又は3記載の炭酸カルシウム製造方法において、該カルシウム含有廃棄物には、セメント製造設備の脱塩バイパス部分から得られる脱塩ダストを含むことを特徴とする、炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項7】
カルシウム含有廃棄物から炭酸カルシウムを生成する炭酸カルシウム生成システムにおいて、カルシウム含有廃棄物に塩酸水を添加して、カルシウムを溶解させ、カルシウムイオンを含む水溶液を生成するカルシウム溶解手段と、前記カルシウムイオンを含有する水溶液の水素イオン濃度指数を調整し、Si、Al、Mg、及び重金属からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む成分を該水溶液から分離する分離手段と、該分離手段を経て得られた水溶液と、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液とを用いて、炭酸カルシウムを調製する炭酸カルシウム調製手段とを備え、当該炭酸カルシウム調製手段にて、以下の式で示すκが3000以下となるように、前記炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液の添加速度を制御することを特徴とする、炭酸カルシウムの製造システムである。
κ=(CaCOの生成速度(γcc)×(反応後の溶液中のカリウム又はナトリウム濃度))/(1-α)
但し、上記式中、
CaCOの生成速度(γcc)=〔(炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液添加速度)×(炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液濃度)〕/反応後溶液量(mmol-CaCO/L/min)
α(カルシウム反応率)=CO/Ca(α≦1、COは、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウム溶液中の炭酸イオン含量、Caは、カルシウムイオン溶液中のカルシウム含量)
【請求項8】
請求項7記載の炭酸カルシウム製造システムにおいて、κが30以下になるように炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液の添加速度及び濃度を制御することを特徴とする、炭酸カルシウム製造システム。
【請求項9】
請求項7又は8記載の炭酸カルシウムの製造システムにおいて、前記調製手段にて用いられる炭酸カルシウム調製手段に用いる炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウム水溶液は、水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムを含む水溶液に二酸化炭素を接触させて生成される、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウム生成手段を更に備えることを特徴とする、炭酸カルシウム製造システム。
【請求項10】
請求項9記載の炭酸カルシウム製造システムにおいて、該二酸化炭素は、セメント製造設備から排出される二酸化炭素を使用することを特徴とする、炭酸カルシウム製造システム。
【請求項11】
請求項10記載の炭酸カルシウム製造システムにおいて、該カルシウム含有廃棄物には、セメント製造設備の脱塩バイパス部分から得られる脱塩ダストを含むことを特徴とする、炭酸カルシウム製造システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸カルシウムの製造方法及び製造システムに関し、特に、カルシウムイオン含有溶液と、アルカリ溶液との反応速度を制御することで得られる炭酸カルシウム中のアルカリ含有量を制御する、炭酸カルシウムの製造方法及び製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウムは、プラスチック、紙、塗料などの充填材、また農薬・肥料などの土壌改良剤、食品添加物や化粧品原料など、幅広い産業分野で利用されている。
炭酸カルシウムは、水酸化カルシウム水溶液に二酸化炭素を吹き込むことで合成したり、塩化カルシウム等のカルシウムイオンを含む水溶液と炭酸ナトリウム水溶液を混合させることで合成される。
【0003】
特開2012-96975号公報(特許文献1)に示すように、温室効果ガスである二酸化炭素を削減するため、二酸化炭素を固定化するプロセスの中で炭酸カルシウムを生成する場合がある。特許文献1では、大量のカルシウム等を供給するため、廃コンクリートや鉄鋼スラグ等の廃材や岩石などカルシウム含有廃棄物が利用されている。
【0004】
また、特許文献1では、カルシウム含有廃棄物からカルシウムを溶解させる方法として硝酸が利用されるが、この段階でカルシウムのみが溶出されるだけでなくマグネシウムなどの他の元素も水溶液中に溶解する。特許文献1では、硝酸カルシウムや硝酸マグネシウムなどを含む水溶液に、水酸化ナトリウムと二酸化炭素とを接触して生成される炭酸ナトリウムの水溶液を導入し、炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムを析出させている。
【0005】
特開2021-79377号公報(特許文献2)では、第1の接触工程および第2の接触工程を含み、前記第1の接触工程は、水酸化ナトリウムを含む溶液と、二酸化炭素を含む気体とを接触させ、前記第2の接触工程は、前記第1の接触工程後、前記溶液に、第2族元素の塩化物、および2価の金属元素の塩化物の少なくとも一方を添加する、二酸化炭素の固定方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、カルシウム含有廃棄物を用いたカルシウム溶液と、例えば水酸化ナトリウムを含む溶液と二酸化炭素を含む気体とを接触させて得られた炭酸ナトリウム溶液を、制御することなく単純に混合して炭酸カルシウムを合成すると、得られる生成物中にアルカリが多く含まれてしまうという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-96975号公報
【特許文献2】特開2021-79377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、カルシウム含有廃棄物を利用して得られる炭酸カルシウム中に含まれるアルカリの含有量を制御することができる、炭酸カルシウムの製造方法及び製造システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の炭酸カルシウム製造方法及び製造システムは、以下の技術的特徴を有する。
(1)本発明の炭酸カルシウムの製造方法は、カルシウム含有廃棄物から炭酸カルシウムを製造する方法において、カルシウム含有廃棄物に塩酸水を添加し、カルシウムを溶解させてカルシウムイオンを含む水溶液を生成するカルシウム溶解工程と、前記カルシウムイオンを含有する水溶液の水素イオン濃度指数を調整し、Si、Al、Mg及び重金属からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む成分を該水溶液から分離する分離工程と、該分離工程を経て得られたカルシウムイオン含有水溶液に、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液を添加して反応させて炭酸カルシウムを調製する炭酸カルシウム調製工程を備え、当該炭酸カルシウム調製工程において、以下の式で示すκが3000以下となるように、前記炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液の添加速度を制御することを特徴とする、炭酸カルシウムの製造方法である。
κ=(CaCOの生成速度(γcc)×(反応後の溶液中のカリウム又はナトリウム濃度))/(1-α)
但し、上記式中、
CaCOの生成速度(γcc)=〔(炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液添加速度)×(炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液濃度)〕/反応後溶液量(mmol-CaCO/L/min)
α(カルシウム反応率)=CO/Ca(α≦1、COは、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウム溶液中の炭酸イオン含量、Caは、カルシウムイオン溶液中のカルシウム含量)
【0010】
(2)上記(1)に記載の炭酸カルシウム生成方法において、κが30以下になるように炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液の添加速度及び濃度を制御することを特徴とする。
【0011】
(3)上記(1)に記載の炭酸カルシウム製造方法において、カルシウム含有廃棄物に塩酸水を添加して、カルシウムを溶解させ、カルシウムイオンを含む水溶液を生成することを特徴とする。
【0012】
(4)上記(1)又は(3)に記載の炭酸カルシウムの製造方法において、前記炭酸カルシウムを調製する工程に用いる炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウム水溶液は、水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムを含む水溶液に二酸化炭素を接触させて生成されることを特徴とする。
【0013】
(5)上記(4)に記載の炭酸カルシウム製造方法において、該二酸化炭素は、セメント製造設備から排出される二酸化炭素を含有する燃焼排ガスを使用することを特徴とする。
【0014】
(6)上記(1)又は(3)記載の炭酸カルシウム製造方法において、該カルシウム含有廃棄物には、セメント製造設備の脱塩バイパス部分から得られる脱塩ダストを含むことを特徴とする。
【0015】
(7)本発明の炭酸カルシウムの製造システムは、カルシウム含有廃棄物から炭酸カルシウムを生成する炭酸カルシウム生成システムにおいて、カルシウム含有廃棄物に塩酸水を添加して、カルシウムを溶解させ、カルシウムイオンを含む水溶液を生成するカルシウム溶解手段と、前記カルシウムイオンを含有する水溶液の水素イオン濃度指数を調整し、Si、Al、Mg、及び重金属からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む成分を該水溶液から分離する分離手段と、該分離手段を経て得られた水溶液と、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液とを用いて、炭酸カルシウムを調製する炭酸カルシウム調製手段とを備え、当該炭酸カルシウム調製手段にて、以下の式で示すκが3000以下となるように、前記炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液の添加速度を制御することを特徴とする、炭酸カルシウムの製造システムである。
κ=(CaCOの生成速度(γcc)×(反応後の溶液中のカリウム又はナトリウム濃度))/(1-α)
但し、上記式中、
CaCOの生成速度(γcc)=〔(炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液添加速度)×(炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液濃度)〕/反応後溶液量(mmol-CaCO/L/min)
α(カルシウム反応率)=CO/Ca(α≦1、COは、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウム溶液中の炭酸イオン含量、Caは、カルシウムイオン溶液中のカルシウム含量)
【0016】
(8)上記(7)に記載の炭酸カルシウム製造システムにおいて、κが30以下になるように炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液の添加速度及び濃度を制御することを特徴とする。
【0017】
(9)上記(7)又は(8)に記載の炭酸カルシウムの製造システムにおいて、前記調製手段にて用いられる炭酸カルシウム調製手段に用いる炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウム水溶液は、水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムを含む水溶液に二酸化炭素を接触させて生成される、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウム生成手段を更に備えることを特徴とする。
【0018】
(10)上記(9)に記載の炭酸カルシウム製造システムにおいて、該二酸化炭素は、セメント製造設備から排出される二酸化炭素を使用することを特徴とする。
【0019】
(11)上記(7)に記載の炭酸カルシウム製造システムにおいて、該カルシウム含有廃棄物には、セメント製造設備の脱塩バイパス部分から得られる脱塩ダストを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法は、調製される炭酸カルシウム中に含まれるアルカリ量を制御して、所望するアルカリ量を含む炭酸カルシウムを製造することが可能となり、特にアルカリ含有量が低減された炭酸カルシウムを調製することが可能となる。
したがって、本発明の方法により得られた、アルカリ含有量が低減された炭酸カルシウムをセメント原料等として利用することができる。
また、炭酸カルシウムを製造するにあたり、カルシウムを、カルシウム含有廃棄物を用いて製造するとともに、二酸化炭素も燃焼排ガスを用いていることができ、廃棄物の有効利用を促進することができることとなる。
特に、水素イオン濃度指数を調整するだけで、カルシウムを含む水溶液中からMg等の不純物を容易に除去することができるため、炭酸カルシウムの生成工程を複雑化させることもない。
また、本発明の製造システムは、上記本発明の製造方法を有効に実施することを可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の炭酸カルシウムの製造方法の一例のフロー図である。
図2】本発明の炭酸カルシウムと二酸化炭素とを用いて炭酸カルシウムを製造する一例の図である。
図3】炭酸カルシウムを調製するにあたり、指標となるκと、得られた炭酸カルシウム中に含まれるアルカリ含有量(NaO)との関係を示す図である。
図4図3の一部を拡大して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の炭酸カルシウムの製造方法及び製造システムについて、図面を参照しながら好適例により説明する。
本発明の製造方法は、図1に示すように、カルシウム(Ca)含有廃棄物から炭酸カルシウムを生成する炭酸カルシウム生成方法(炭酸カルシウム製造システム)において、カルシウム含有廃棄物に塩酸水を添加して、カルシウムを溶解させ、カルシウムイオンを含む水溶液を生成するカルシウム溶解工程(カルシウム溶解手段)と、前記カルシウムイオンを含有する水溶液の水素イオン濃度指数を調整し、Si、Al、Mg、及び重金属からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む成分を該水溶液から分離する分離工程(分離手段)と、該分離工程(分離手段)を経て得られた水溶液と、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液を用いて、炭酸カルシウムを調製する炭酸カルシウム調製工程(炭酸カルシウム調製手段)とを備える製造方法(製造システム)である。
なお、図1中、二重線矢印は固体の流れ、一重線矢印は液体の流れを示す。
【0023】
特に、上記本発明の製造方法(製造システム)において、カルシウムイオン含有水溶液に、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液を添加して反応させて炭酸カルシウムを生成するにあたり(炭酸カルシウム調製手段において)、以下の式で示すκが3000以下、好ましくは30以下となるように、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液の添加速度を制御するものである。
κ=〔(炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液添加速度)×(炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液濃度)〕/(1-α)
但し、上記式中、
CaCOの生成速度(γcc)=(NaCO溶液添加速度×NaCO溶液濃度)/反応後溶液量 (mmol-CaCO/L/min)
α(カルシウム反応率)=CO/Ca(α≦1、COは、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウム溶液中の炭酸イオン含量、Caは、カルシウムイオン溶液中のカルシウム含量)
【0024】
このようなκとの指標を設けて、カルシウムイオン含有水溶液に、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液を添加する速度及び濃度を制御することで、調製される炭酸カルシウム中のアルカリ含有量を制御して低減させることが可能となる。
添加速度が遅いほど、また、濃度が薄いほど、指標κが小さくなり、得られる炭酸カルシウム中に含有されるアルカリ含量が低減されることとなる。
【0025】
本発明に使用されるカルシウムイオンを含む水溶液を調製するためのカルシウム材料は、カルシウムを含む材料であれば特に限定されないが、例えばカルシウム(Ca)含有廃棄物を用いることができ、一般ごみや産廃ごみなどの焼却灰、火力発電所等から排出されるフライアッシュ、スラグ、廃コンクリート、生コンスラッジ、バイオ灰、セメント製造設備の脱塩バイパス部分から得られる脱塩ダストなどが例示できる。
特に、後述するように、セメント製造設備における脱塩バイパス部分から得られる脱塩ダストは、塩化カリウム成分をも含有するものであり、本発明に好適に用いることが可能である。
【0026】
Ca含有廃棄物は、粒度を1000μm以下、より好ましくは500μm以下、100μm以上の範囲に調整される。これにより、Caを抽出し易くすることが可能となる。
【0027】
Ca溶解工程(Ca溶解手段)では、粒度調整したCa含有廃棄物に塩酸水を添加して、好ましくは、水素イオン濃度指数をpH5以下、pH0.5以上の範囲になるようにする。
この際に、必要に応じて洗浄水を添加してもよい。洗浄は、固液分離の際、固形分に含まれる液体を清水と置換するために実施されるものである。
【0028】
Ca含有廃棄物からのCa抽出に要する反応時間としては、例えば、120分以下、より好ましくは30分以上、60分以下である。また、多段階で、特に多段向流で溶解抽出を行うことも可能である。
【0029】
Caを抽出する際の塩酸を含む水溶液の温度は、常温以上が好ましく、より好ましくは20℃以上、70℃以下の範囲である。例えば、後述する後述するバイポーラ膜電気透析(BMED)処理する場合には、利用する膜が有機膜であるため、前記水溶液の温度は、当該膜の耐熱温度も考慮して設定されることが望ましい。
【0030】
Ca溶解工程(Ca溶解手段)で、残渣とCaイオン含有水溶液に分離し、当該残渣は、例えば、セメント製造設備において、セメント原料として使用することが可能である。
【0031】
Ca溶解工程(Ca溶解手段)で得られたCaイオンを含有する水溶液は、Ca以外の不純物イオンを含んでおり、分離工程(分離手段)では、水素イオン濃度指数を調整することで、不純物イオンを分離することができる。
Ca溶解工程(Ca溶解手段)から得られたCaイオンを含有する水溶液のpHを、例えば、pH5~6に、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを用いて調整することで、Caイオンを含有する水溶液中に含まれるSiやAlイオンを、ゲルとして除去することが可能である。また、必要に応じて、清水等の洗浄水を添加して、固形分を洗浄することも可能である。これらのゲルはセメント原料として利用することができる。
【0032】
次いで、SiやAlイオンを除去した後のCaイオン含有水溶液のpHを、例えばpH7~10に、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを用いて調整することで、PbやCrイオンなどの重金属を分離することができる。また、必要に応じて、清水等の洗浄水を添加することも可能であり、かかる洗浄により、固形分を洗浄する。
【0033】
なお、重金属を除去する前に、必要に応じて、Caイオン含有水溶液に凝集剤を添加することも可能である。例えば、高分子凝集剤または無機凝集剤があげられる。無機凝集剤としては、ポリ硫酸第二鉄、等の鉄塩、または硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム等のアルミ塩がある。高分子凝集剤としては、アニオン、ノニオン、カチオン性等のpHおよび粒子性状により適したものを用いればよく、ポリアクリルアミド系、ポリアクリル酸ソーダ系、ポリアクリル酸エステル系等を例示できる。
【0034】
さらに、前記重金属イオンが除去されたCaイオン含有水溶液のpHを11~12に、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを用いて調整することで、含有されるMgイオンを、ゲルとして除去することが可能となる。また、必要に応じて、清水等の洗浄水を添加することも可能であり、かかる洗浄により、固形分を洗浄する。
【0035】
Caイオン含有水溶液から、上記不要な不純物を分離除去した水溶液に、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液を添加する際に、該炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液の添加速度を制御し、混合液のpHを11.5~13、好ましくは12~12.5として、アルカリ(NaO、KO)含量が制御された炭酸カルシウムが製造される(炭酸カルシウム製造手段)。次いで、炭酸カルシウムと、塩化カリウム及び/又は塩化ナトリウム水溶液とに分離して、炭酸カルシウムを回収する。実際に、熱分析装置(TG)を用いて、550℃~800℃の重量減少から炭酸カルシウムの純度を計算すると、95.7%の値が得られた。
【0036】
図2は、図1を概略化し、二酸化炭素を固定して、炭酸カリウム/炭酸ナトリウムを生成する工程(システム)組み込んだ概要図である。
なお、図2中、二重線矢印は固体の流れ、一重線矢印は液体の流れ、点線は気体の流れを示す。
【0037】
カルシウムイオンを含む水溶液を調製するための一例としてのCa溶解工程(Ca溶解手段)で使用する塩酸水は、特に塩酸水であれば限定されないが、例えば、塩化カリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水溶液をバイポーラ膜電気透析(BMED)処理(BMED処理手段)により生成する塩酸水を用いることも例示することができる。
また、この塩化カリウム及び/又は塩化ナトリウムは、図1の炭酸カルシウムを回収後の塩化カリウム及び/又は塩化ナトリウムを含む水溶液も使用可能である。
炭酸カルシウム製造工程後に炭酸カルシウムと分離される塩化カリウム及び/又は塩化ナトリウムは、必要に応じて、MF膜(ろ過膜)により微粒子を除去し、RO膜(逆浸透膜)により水溶液を濃縮するなどの前処理を施されることも可能である。
【0038】
例えば、バイポーラ膜電気透析(BMED)は電気で動作し、塩酸水以外に同時に水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムを含む水溶液を生成する。
【0039】
また、図2に示すように、水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムを含む水溶液に二酸化炭素を接触させ、二酸化炭素を吸収し、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液を生成させる。
この炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液は、図1の炭酸カルシウム製造工程に適用して、炭酸カルシウムの製造に用いる。
当該二酸化炭素は、例えば、火力発電設備などの燃焼排ガスや、セメント製造設備での排ガスに含まれている二酸化炭素を使用することができ、また、大気中の二酸化炭素を直接吸収させて利用することも可能である。
【0040】
上記した本発明の製造方法の上記炭酸カルシウム製造工程(製造手段)では、カルシウムイオンを含有する水溶液と、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液の反応速度、具体的には添加速度及び濃度を制御することで、得られる炭酸カルシウム中に含まれるアルカリ(NaO、KO)含量を制御することができる。
具体的には、以下の式で表される指標κが3000以下、好ましくは30以下となるようにすることで、アルカリ含量が低減された炭酸カルシウムを調製することが可能となり、セメント原料等に有効に利用することができる。
κ=(CaCOの生成速度(γcc)×(反応後の溶液中のカリウム又はナトリウム濃度))/(1-α)
但し、上記式中、
CaCOの生成速度(γcc)=〔(炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液添加速度)×(炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む水溶液濃度)〕/反応後溶液量 (mmol-CaCO/L/min)
α(カルシウム反応率)=CO/Ca(α≦1、COは、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウム溶液中の炭酸イオン含量、Caは、カルシウムイオン溶液中のカルシウム含量)
【0041】
以下に、具体的にカルシウムイオン溶液に炭酸ナトリウムを添加した例を、表1に示し、その結果を表1、図3及び図4に表す。図4は、図3の一部を拡大して示すものである。
なお、表1中では、過剰に炭酸ナトリウムを添加しているが、α>1では炭酸カルシウムが生成しないため、炭酸カルシウム中の酸化アルカリの増加はないものである。また、上記式中、αが1の場合には、1-αが0となってしまうため、表1の例においては、便宜上、α=1の場合には、(1.001―α)として計算した。
【0042】
【表1】
【0043】
表1、図3及び図4中の炭酸カルシウム中の酸化ナトリウム含量値は、エネルギー分散型蛍光エックス線分析装置(Epsilon3、マルバーン・パナリティカル社製)により測定した値を示す。
【0044】
表1、図3及び図4の結果より、カルシウム反応率(α)が、1に近づくほど、得られる炭酸カルシウム中に取り込まれるナトリウム含量が増加することがわかる。すなわち、カルシウムイオンを含有する水溶液に、炭酸ナトリウムを含む水溶液の速度を遅くして、炭酸カルシウムの生成速度を遅くすることで、得られる炭酸カルシウム中に含まれるアルカリ含量が低減されることとなる。
【0045】
本発明の方法(システム)により得られた炭酸カルシウムは、炭酸マグネシウムなどの不純物を含まない、純度の高い、アルカリ含量が制御された炭酸カルシウムが得られ、得られる炭酸カルシウム中のアルカリ含量が0.13%以下、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.8%以下であると、セメント原料等として、アルカリ含量が低減された炭酸カルシウムを有効に利用することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上説明したように、本発明の方法(システム)によれば、カルシウム含有廃棄物を利用し、純度の高い、アルカリ含量が制御された炭酸カルシウムを生成することが可能な炭酸カルシウムを製造することができ、得られた炭酸カルシウムは、プラスチック、紙、塗料などの充填材(フィラー)や化粧品原料などに適用することが可能となる。
また、アルカリ含量が低減された炭酸カルシウムは、セメント原料として利用できるだけでなく、セメントの増量材としても利用可能である。

図1
図2
図3
図4