IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 千代田化工建設株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人横浜国立大学の特許一覧

特開2024-39107金属触媒およびそれを用いた環式化合物の加水素分解方法
<>
  • 特開-金属触媒およびそれを用いた環式化合物の加水素分解方法 図1
  • 特開-金属触媒およびそれを用いた環式化合物の加水素分解方法 図2
  • 特開-金属触媒およびそれを用いた環式化合物の加水素分解方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039107
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】金属触媒およびそれを用いた環式化合物の加水素分解方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/46 20060101AFI20240314BHJP
   C07C 9/14 20060101ALI20240314BHJP
   C07C 5/02 20060101ALI20240314BHJP
   B01J 29/035 20060101ALI20240314BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240314BHJP
【FI】
B01J23/46 Z
C07C9/14
C07C5/02
B01J23/46 311Z
B01J29/035 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143413
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】窪田 好浩
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 怜史
(72)【発明者】
【氏名】大類 有基
(72)【発明者】
【氏名】前川 裕城
(72)【発明者】
【氏名】今川 健一
(72)【発明者】
【氏名】程島 真哉
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BA07A
4G169BA07B
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BC71A
4G169BC71B
4G169BC74A
4G169BC74B
4G169CB02
4G169CB38
4G169DA06
4G169EC26
4G169FC08
4G169ZA32A
4G169ZA36B
4H006AA02
4H006AB99
4H006AC28
4H006BA22
4H006BA24
4H006BA55
4H006BC10
4H006BE20
4H039CA19
4H039CH50
(57)【要約】
【課題】水素キャリアとして利用される飽和環状化合物に含まれる五員環構造を有する環式化合物を選択的に加水素分解する。
【解決手段】水素キャリアとして利用される飽和環状化合物に含まれる五員環構造を有する環式化合物の加水素分解に用いられる金属触媒は、触媒担体としてのシリカ系担体と、その触媒担体に担持された金属としてのイリジウムまたはロジウムと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素キャリアとして利用される飽和環状化合物に含まれる五員環構造を有する環式化合物の加水素分解に用いられる金属触媒であって、
触媒担体としてのシリカ系担体と、
前記触媒担体に担持された金属としてのイリジウムまたはロジウムと、
を含む金属触媒。
【請求項2】
前記触媒担体に担持された金属はイリジウムであり、
前記金属として0.1~5重量%のイリジウムを含む、請求項1に記載の金属触媒。
【請求項3】
前記触媒担体に担持された金属はロジウムであり、
前記金属として0.5~2重量%のロジウムを含む、請求項1に記載の金属触媒。
【請求項4】
前記シリカ系担体は、アモルファスシリカを含む、請求項1に記載の金属触媒。
【請求項5】
前記シリカ系担体は、MFI型ゼオライトを含む、請求項1に記載の金属触媒。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の金属触媒を用いて、水素キャリアとして利用される前記飽和環状化合物に含まれる五員環構造を有する環式化合物の加水素分解を行う方法であって、
前記飽和環状化合物の脱水素反応により、芳香族化合物及びその不純物としての五員環構造を有する環式化合物を生成し、
前記不純物が混入した前記芳香族化合物の水素化反応を実行し、
前記芳香族化合物の前記水素化反応によって生成された前記飽和環状化合物と前記不純物との混合物に対し、前記金属触媒を用いて加水素分解を実行する、加水素分解方法。
【請求項7】
前記加水素分解は、前記飽和環状化合物と前記不純物との前記混合物を、50~99.8mol%の水素とともに触媒層温度が150℃~300℃に維持された前記金属触媒に供給することにより実行される、請求項5に記載の加水素分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、五員環構造を有する環式化合物の加水素分解に用いられる金属触媒およびそれを用いた環式化合物の加水素分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水素を貯蔵及び輸送する方法として有機ケミカルハイドライド法(Organic Chemical Hydride Method)が知られている(非特許文献1、2参照)。有機ケミカルハイドライド法は、例えばトルエンなどの芳香族化合物を水素と反応させる水素化反応(水素貯蔵反応)と、メチルシクロヘキサンなどの飽和環状化合物(水素化芳香族類)から水素を発生させることにより、トルエンなどの芳香族化合物を回収する脱水素反応(水素発生反応)と、を含む。有機ケミカルハイドライド法によれば、水素を取り込んだ飽和環状化合物を常温・常圧の液体状態で貯蔵及び輸送することができ、また、水素の利用場所において、飽和環状化合物の脱水素反応により必要量の水素を取り出すことができる。メチルシクロヘキサンなどの飽和環状化合物や、飽和環状化合物から水素を取り出した後に生成するトルエンなどの芳香族化合物は、水素の入れ物(水素キャリア)として繰り返し利用される。
【0003】
有機ケミカルハイドライド法における水素化反応や脱水素化反応では、目的物以外に種々の副生成物(不純物)が生じ得ることが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】岡田佳巳、エネルギー・資源、Vol.33,No.3,168(2018)
【非特許文献2】岡田佳巳、東京都高圧ガス協会会報、2019年8月号、9月号
【非特許文献3】崔協力、石井美香、難波哲哉、辻村拓、谷口貴章、第46石油・石油化学討論会、講演予稿、2A03(2016)
【特許文献1】特開2007-269522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の有機ケミカルハイドライド法では、水素化反応や脱水素反応の繰り返しにより、水素キャリアに混入する不純物の割合が徐々に増加し得る。そこで、例えば、不純物を含む水素キャリアに対して蒸留を行うことにより、そのような不純物を水素キャリアから除去(分離)することが考えられる。
【0006】
特に、水素キャリアに混入し得る不純物として、脱水素反応において生成されるシクロペンタン類などの五員環構造を有する環式化合物(以下、五員環化合物という。)が存在する(非特許文献3参照)。そのような五員環化合物の沸点は、水素キャリアの沸点に比較的近いため、それらの五員環化合物を蒸留によって水素キャリアから分離することは容易ではない。
【0007】
そこで、本願発明者らは、鋭意検討した結果、水素キャリアに混入した五員環化合物を選択的に加水素分解することができる金属触媒を開発し、その結果、水素キャリアから五員環化合物を加水素分解された軽質の炭化水素に変換し、容易に分離できることを見出した。
【0008】
本発明は、以上の背景に鑑み、水素キャリアとして利用される飽和環状化合物に含まれる五員環構造を有する環式化合物を選択的に加水素分解することができる金属触媒およびそれを用いた環式化合物の加水素分解方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、水素キャリアとして利用される飽和環状化合物に含まれる五員環構造を有する環式化合物の加水素分解に用いられる金属触媒であって、触媒担体としてのシリカ系担体と、前記触媒担体に担持された金属としてのイリジウムまたはロジウムと、を含む構成とする。
【0010】
この態様によれば、水素キャリアとして利用される飽和環状化合物に含まれる五員環構造を有する環式化合物を選択的に加水素分解することが可能となる。換言すれば、五員環構造を有する環式化合物を、水素キャリアに混入した状態で加水素分解する場合にも、水素キャリアの損失(意図しない化学反応)を抑制しつつ、適切に加水素分解することができる。
【0011】
上記の態様において、前記触媒担体に担持された金属はイリジウムであり、前記金属として0.1~5重量%のイリジウムを含むとよい。
【0012】
この態様によれば、適量のイリジウムが触媒担体に担持されることにより、五員環構造を有する環式化合物の加水素分解を安定的に行うことができる。
【0013】
上記の態様において、前記触媒担体に担持された金属はロジウムであり、前記金属として0.5~2重量%のロジウムを含むとよい。
【0014】
この態様によれば、適量のロジウムが触媒担体に担持されることにより、五員環構造を有する環式化合物の加水素分解を安定的に行うことができる。
【0015】
上記の態様において、前記シリカ系担体は、アモルファスシリカを含むとよい。
【0016】
この態様によれば、触媒担体としての適切な構造を有するシリカ系担体を用いることにより、五員環構造を有する環式化合物の加水素分解を安定的に行うことができる。
【0017】
上記の態様において、前記シリカ系担体は、MFI型ゼオライトを含むとよい。
【0018】
この態様によれば、触媒担体としての適切な構造を有するシリカ系担体を用いることにより、五員環構造を有する環式化合物の加水素分解を安定的に行うことができる。
【0019】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、上記金属触媒を用いて、水素キャリアとして利用される前記飽和環状化合物に含まれる五員環構造を有する環式化合物の加水素分解を行う方法であって、前記飽和環状化合物の脱水素反応により、芳香族化合物及びその不純物としての五員環構造を有する環式化合物を生成し、前記不純物が混入した前記芳香族化合物の水素化反応を実行し、前記芳香族化合物の前記水素化反応によって生成された前記飽和環状化合物と前記不純物との混合物に対し、前記金属触媒を用いて加水素分解を実行する構成とする。
【0020】
この態様によれば、有機ケミカルハイドライド法に基づくシステムにおいて、水素キャリアとして利用される飽和環状化合物に含まれる五員環構造を有する環式化合物を選択的に加水素分解することが可能となる。
【0021】
上記の態様において、前記加水素分解は、前記飽和環状化合物と前記不純物との前記混合物を、50~99.8mol%の水素とともに触媒層温度が150℃~300℃に維持された前記金属触媒に供給することにより実行されるとよい。
【0022】
この態様によれば、飽和環状化合物と不純物との前記混合物を、50~99.8mol%の水素とともに適切な触媒温度で加水素分解することにより、五員環構造を有する環式化合物を安定的に加水素分解することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
以上の態様によれば、水素キャリアとして利用される飽和環状化合物に含まれる五員環構造を有する環式化合物を選択的に加水素分解することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態に係る水素貯蔵・輸送システムの概略構成を示すブロック図
図2】メチルシクロヘキサンの脱水素反応における副生成物及びそれらの沸点の関係を示す説明図
図3】メチルシクロペンタンの加水素分解の説明図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、実施形態に係る金属触媒およびそれを用いた五員環構造を有する環式化合物(以下、五員環化合物という。)の加水素分解方法について説明する。ここでは、金属触媒およびそれを用いた加水素分解方法を、図1に示す有機ケミカルハイドライド法に基づく水素貯蔵・輸送システム1に適用した例について説明する。
【0026】
水素貯蔵・輸送システム1は、芳香族化合物に水素を付加することにより、有機ハイドライドとしての飽和環状化合物を生成する水素化プラント2と、その飽和環状化合物の脱水素化により水素と芳香族化合物を生成する脱水素プラント3とを備える。ここでは、飽和環状化合物としてメチルシクロヘキサン(必要に応じて「MCH」と略称する。)を用い、また、芳香族化合物としてトルエン(必要に応じて「TOL」と略称する。)を用いた例について説明する。
【0027】
水素化プラント2は、公知の手法に基づき、トルエンに水素(H)を付加する水素化反応を行うことによりメチルシクロヘキサンを生成する水素化反応装置11を有する。水素化プラント2には、貯蔵設備4が付設されている。貯蔵設備4は、水素化反応装置11によって生成されたメチルシクロヘキサンを貯蔵するMCH貯蔵タンク12を有する。また、貯蔵設備4は、脱水素プラント3側(貯蔵設備5)から輸送されるトルエンを貯蔵するためのTOL貯蔵タンク13を有する。
【0028】
脱水素プラント3は、公知の手法に基づき、メチルシクロヘキサンの脱水素反応を行うことにより水素及びトルエンを生成する脱水素反応装置21を有する。脱水素プラント3には、貯蔵設備5が付設されている。貯蔵設備5は、脱水素反応装置21によって生成されたトルエンを貯蔵するTOL貯蔵タンク22を有する。また、貯蔵設備5は、水素化プラント2側(貯蔵設備4)から輸送されるメチルシクロヘキサンを貯蔵するためのMCH貯蔵タンク23を有する。
【0029】
水素貯蔵・輸送システム1において、MCH貯蔵タンク12に貯蔵されたメチルシクロヘキサンは、公知の輸送手段(船舶、車両、パイプラインなど)を用いて脱水素プラント3に向けて輸送され、MCH貯蔵タンク23に貯蔵される。MCH貯蔵タンク23に貯蔵されたメチルシクロヘキサンは、脱水素反応装置21における脱水素反応に使用される。一方、TOL貯蔵タンク22に貯蔵されたトルエンは、公知の輸送手段を用いて水素化プラント2に向けて輸送され、TOL貯蔵タンク13に貯蔵される。TOL貯蔵タンク13に貯蔵されたトルエンは、水素化反応装置11における水素化反応に使用される。このように、メチルシクロヘキサンおよびトルエンは、水素の入れ物(水素キャリア)として繰り返し利用される。
【0030】
図2(A)に示すように、脱水素反応装置21における脱水素反応では、水素およびトルエンに加え、五員環化合物を含む副生成物が生成される。そのような五員環化合物には、ジメチルシクロペンタン類(例えば、1,1-ジメチルシクロペンタン、1,3-cis-ジメチルシクロペンタン、1,3-trans-ジメチルシクロペンタン、及び1,2-trans-ジメチルシクロペンタン)やエチルシクロペンタンなどが含まれる。一方、五員環化合物の沸点は、図2(B)に示すように、水素キャリアとしてのメチルシクロヘキサンおよびトルエンの沸点に比較的近いため、それらを蒸留によって水素キャリアから分離することは容易ではない。
【0031】
脱水素反応装置21において生成された五員環化合物は、トルエンに混入した状態でTOL貯蔵タンク13に貯蔵された後、水素化プラント2に送られる。したがって、水素化プラント2において生成されるメチルシクロヘキサンには、上述の脱水素反応に由来する五員環化合物が不純物として含まれ得る。この五員環化合物は、メチルシクロヘキサンに混入した状態で再び脱水素プラント3に送られ、水素貯蔵・輸送システム1内を循環する。なお、五員環化合物は、脱水素反応装置21における脱水素反応に限らず、水素化反応装置11における水素化反応によっても生成され得る。
【0032】
そこで、水素貯蔵・輸送システム1は、水素キャリアに混入した五員環化合物の加水素分解反応を行う加水素分解装置6を備える。加水素分解装置6は、金属触媒(以下、「加水素分解触媒」という。)を用いて、メチルシクロヘキサンに不純物として混入した状態の五員環化合物を、選択的に加水素分解することにより鎖状の軽質炭化水素へと転化させる。
【0033】
加水素分解装置6は、例えば、水素化プラント2によって生成された水素化反応の生成物(主としてメチルシクロヘキサン、例えば98wt%以上)の少なくとも一部を、貯蔵設備4に貯蔵される前に処理対象として抽出し、加水素分解反応を行うことができる。加水素分解装置6では、水素化反応の生成物中の五員環化合物が、より軽質の炭化水素(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなど)に分解される。それらの炭化水素は、蒸留その他の公知の処理によってメチルシクロヘキサンから除去(分離)することができる。五員環化合物が除去(または低減)されたメチルシクロヘキサンは、水素化プラント2の生成物に再び混合される。
【0034】
なお、加水素分解装置6の処理対象は、貯蔵設備4のMCH貯蔵タンク12から抽出されたメチルシクロヘキサン(不純物として五員環化合物を含む)でもよい。その場合、加水素分解装置6によって五員環化合物が除去されたメチルシクロヘキサンは、MCH貯蔵タンク12に戻される。また、加水素分解装置6は、脱水素反応装置21への原料の供給ライン(図示せず)に接続され、脱水素プラント3の一部を構成してもよい。
【0035】
あるいは、加水素分解装置6は、貯蔵設備5のMCH貯蔵タンク23から抽出されたメチルシクロヘキサン(不純物として五員環化合物を含む)でもよい。その場合、加水素分解装置6によって五員環化合物が除去されたメチルシクロヘキサンは、MCH貯蔵タンク23に戻される。また、加水素分解装置6は、水素化反応装置11の生成物の排出ライン(図示せず)に接続され、水素化プラント2の一部を構成してもよい。
【0036】
加水素分解装置6としては、例えば、固定床流通式反応装置が用いられる。加水素分解装置6は、温度調節器(例えば、電気式のヒータや、熱媒体を用いた熱交換器)を備える。加水素分解装置6における加水素分解反応では、その温度調節器によって、加水素分解触媒からなる触媒層の温度が、例えば150℃~300℃の範囲内に維持されることが好ましい。本実施形態に係る金属触媒は、触媒層の温度が、200℃の以下であっても良好な触媒性能を示す。また、加水素分解反応に用いられる反応原料は、例えば、メチルシクロヘキサン及び五員環化合物の混合物と共に50~99.8mol%の水素が含まれるとよい。
【0037】
また、加水素分解装置6に用いられる加水素分解触媒としては、例えば、触媒担体としてのシリカと、触媒担体に担持された金属としてのイリジウムまたはロジウムと、を含む加水素分解触媒を用いることができる。加水素分解触媒は、イリジウムを用いる場合には、0.1~5重量%のイリジウムを含むとよい。より好ましくは、加水素分解触媒は、0.5~2重量%のイリジウムを含むとよい。また、加水素分解触媒は、ロジウムを用いる場合には、0.5~2重量%のロジウムを含むとよい。触媒担体としてのシリカ系担体としては、主としてアモルファスシリカまたはMFI型ゼオライトを用いるとよい。
【0038】
水素貯蔵・輸送システム1で用いられる有機ハイドライドは、少なくとも触媒反応によって水素を可逆的に放出する有機化合物であればよく、上述のメチルシクロヘキサンに限定されない。水素貯蔵・輸送システム1では、有機ハイドライドとして、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン等の単環式水素化芳香族化合物や、テトラリン、デカリン、メチルデカリン等の2環式水素化芳香族化合物や、テトラデカヒドロアントラセン等の3環式水素化芳香族化合物等を単独、或いは2種以上の混合物として用いることができる。メチルシクロヘキサンの脱水素反応によって得られるトルエンについても、有機ハイドライドが変更された場合には、それに対応する他の芳香族化合物が用いられる。
【0039】
以下、実施例1-7及び比較例1に基づいて、本発明に係る加水素分解触媒およびそれを用いた五員環化合物の加水素分解方法について、好適な実施の形態を具体的に説明する。
【0040】
上述の加水素分解装置6は、水素化プラント2における水素化反応の生成物に不純物として混入した(あるいは、反応の副生成物として生成された)五員環化合物を、加水素分解触媒を用いて加水素分解することを前提としている。加水素分解装置6における反応原料(すなわち、加水素分解反応の対象)は、トルエンの水素化反応によって生成するメチルシクロヘキサンと五員環化合物との混合物となる。実施例1-6及び比較例1では、反応原料に含まれる(混入した)五員環化合物のモデル化合物として、メチルシクロペンタン(必要に応じて「MCP」と略称する。)を用いた。また、実施例7では、五員環化合物のモデル化合物として、エチルシクロペンタン(必要に応じて「ECP」と略称する。)を用いた。
【0041】
例えば図3に示すように、メチルシクロペンタン(MCP)の加水素分解では、MCPは、(1)-(3)の位置において環が開裂し、その開裂の位置に応じた鎖式化合物(ヘキサン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタン等)が生成し得る。また、それらの鎖式化合物は、更に分解されてC-Cアルカンが生成し得る。それら加水素分解反応による生成物は、五員環化合物とは異なり、蒸留その他の公知の処理によってメチルシクロヘキサンから容易に分離することが可能である。同様に、エチルシクロペンタンその他の五員環化合物の加水素分解反応による生成物についても、メチルシクロヘキサンから容易に分離することが可能である。
【0042】
表1は、実施例1-7及び比較例1に用いた各触媒試料の一覧を示す。詳細は後述するが、実施例1では、触媒担体としてのアモルファスシリカにロジウム(Rh)が担持された触媒が用いられる。実施例2、4、7、実施例3、及び実施例5では、アモルファスシリカに担持量の異なるイリジウム(Ir)が担持された触媒が用いられる。また、実施例6では、触媒担体としてのMFI型ゼオライトにイリジウム(Ir)が担持された触媒試料が用いられる。実施例6では、実質的にヘテロ元素としてアルミニウムまたはその他の金属を含まない純シリカMFI型ゼオライトが用いられる。また、比較例1として、アモルファスシリカに白金(Pt)が担持された触媒試料が用いられる。
【0043】
【表1】
【0044】
表2は、実施例1-7及び比較例1に用いた反応原料を示す。
【0045】
【表2】
【0046】
実施例1、2及び比較例1では、反応原料として、五員環化合物としてのメチルシクロペンタン(MCP)と、水素キャリアとしてのメチルシクロヘキサン(MCH)とを、それぞれ水素と共に反応装置に供給した場合の各触媒試料の性能を評価した。表2に示すように、実施例1、2及び比較例1において、反応原料にMCPを用いる場合、反応原料における水素/MCP比(mol/mol)は28である。また、反応原料にMCHを用いる場合、反応原料における水素/MCH比(mol/mol)は28である。
【0047】
実施例3-6では、加水素分解装置における実際の原料を想定して、五員環化合物としての10mol%のメチルシクロペンタンと、水素キャリアとしての90mol%のメチルシクロヘキサンとの混合原料を調製し、それを水素と共に反応装置に供給した場合の各触媒試料の性能を評価した。表2に示すように、実施例3-6において、反応原料における水素/(MCP+MCH)比(mol/mol)は30.3である。
【0048】
実施例7では、五員環化合物としての10mol%のエチルシクロペンタン(ECP)と、水素キャリアとしての90mol%のメチルシクロヘキサン(MCH)とからなる混合原料を調製し、それを水素と共に反応装置に供給した場合の触媒試料の性能を評価した。表2に示すように、実施例7おいて、反応原料における水素/(ECP+MCH)比(mol/mol)は28である。
【0049】
実施例1-7では、触媒層の温度が200℃程度となる温和な温度域で加水素分解反応が行われることを想定し、水素共存下にて五員環化合物の炭素-炭素結合を開裂する加水素分解反応を選択的に促進するイリジウム(Ir)やロジウム(Rh)を活性種として用いた。また、触媒担体には、異性化反応等の副反応を起こしうる固体酸性を示さないシリカ系の材料を用いた。
【0050】
(実施例1)
1.0 wt%-Rh/SiO2触媒の調製方法
300mLのナスフラスコ中に、塩化ロジウム・三水和物(RhCl3・3H2O、Rhとして39.1 wt%含有)0.0767 gと純水150 mLを加え、超音波照射により充分に溶解させた後、担体としてのアモルファスシリカ粉末(AEROSIL(登録商標)380、日本アエロジル(株)、BET比表面積380 m2/g)を3.0 g添加して室温で1時間攪拌し、Rh金属としての担持率が1 wt%となるようにシリカ上に含浸担持した。エバポレータにより40℃で蒸発乾固させた後、回収した生成物をオーブンに移し、80℃で一晩乾燥して粉末を回収した。その粉末を加圧成型してから適度に粉砕し、ふるいにかけることで500-600μmに整粒した。触媒の還元処理では、整粒した触媒約1.0 gを固定床流通装置に充填し、窒素流通下(30 mL/min)にて30分間かけて400℃に昇温し、その後、水素流通下(50 mL/min)に切り替えて還元処理を5時間行った後、水素流通の雰囲気を保ったまま室温まで冷却して、1.0 wt%-Rh/SiO2触媒を得た。
【0051】
1.0 wt%-Rh/SiO2触媒の性能評価試験方法
[メチルシクロペンタン(MCP)の加水素分解反応]
上記の1.0 wt%-Rh/SiO2触媒の性能評価試験を、以下の手順により実施した。触媒の前処理は1.0 wt%-Rh/SiO2触媒100.0 mgを固定床流通式反応装置に充填し、ヘリウム流通下(30 mL/min)にて30分間かけて400℃に昇温し、その後、水素流通下(50 mL/min)に切り替えて還元処理を1時間行った。還元処理後、MCPの加水素分解反応を、水素流量40 mL/min、H2/MCP = 28 mol/mol、W/F(触媒量とMCP流量の比率)= 28.5 g-cat. h/mol、反応温度200℃、全圧0.1 MPaの条件下で所定時間実施した。加水素分解反応を開始してから5分後に生成物をサンプリングし、FID-GC(水素炎イオン化検出器型ガスクロマトグラフ)分析によりMCPの転化率(%)および生成物の選択率(C-%)を求めて触媒性能の指標とした(結果については、後述する表3を参照)。
【0052】
[メチルシクロヘキサン(MCH)の加水素分解反応]
上記の1.0 wt%-Rh/SiO2触媒の性能評価試験を、以下の手順により実施した。触媒の前処理は1.0 wt%-Rh/SiO2触媒100.0 mgを固定床流通式反応装置に充填し、ヘリウム流通下(30 mL/min)にて30分間かけて400℃に昇温し、その後、水素流通下(50 mL/min)に切り替えて還元処理を1時間行った。還元処理後、MCHの加水素分解反応を、水素流量40 mL/min、H2/MCH = 28 mol/mol、W/F(触媒量とMCH流量の比率)= 28.5 g-cat. h/mol、反応温度200℃、全圧0.1 MPaの条件下で所定時間実施した。加水素分解反応を開始してから5分後に生成物をサンプリングし、FID-GC分析によりMCHの転化率(%)および生成物の選択率(C-%)を求めて触媒性能の指標とした(結果については、後述する表3を参照)。
【0053】
(実施例2)
1.0 wt%-Ir/SiO2触媒の調製方法
300 mLのナスフラスコ中に、塩化イリジウム・n水和物(IrCl3・n H2O、Irとして49.7 wt%含有)0.0604 gと純水150 mLを加え、超音波照射により充分に溶解させた後、担体としてのアモルファスシリカ粉末(AEROSIL380、日本アエロジル(株)、BET比表面積380 m2/g)を3.0 g添加して室温で1時間攪拌し、Ir金属としての担持率が1 wt%となるようにシリカ上に含浸担持した。エバポレータにより40℃で蒸発乾固させた後、回収した生成物をオーブンに移し、80℃で一晩乾燥して粉末を回収した。粉末を加圧成型してから適度に粉砕し、ふるいにかけることで500-600 μmに整粒した。触媒の還元処理では、整粒した触媒約1.0 gを固定床流通装置に充填し、窒素流通下(30 mL/min)にて30分間かけて400℃に昇温し、その後、水素流通下(50 mL/min)に切り替えて還元処理を5時間行った後、水素流通の雰囲気を保ったまま室温まで冷却して、1.0 wt%-Ir/SiO2触媒を得た。
【0054】
1.0 wt%-Ir/SiO2触媒の性能評価試験方法
[メチルシクロペンタン(MCP)の加水素分解反応]
上記の1.0 wt%-Ir/SiO2触媒の性能評価試験を、以下の手順により実施した。触媒の前処理は1.0 wt%-Ir/SiO2触媒100.0 mgを固定床流通式反応装置に充填し、ヘリウム流通下(30 mL/min)にて30分間かけて400℃に昇温し、その後水素流通下(50 mL/min)に切り替えて還元処理を1時間行った。還元処理後、MCPの加水素分解反応を、水素流量40 mL/min、H2/MCP = 28 mol/mol、W/F(触媒量とMCP流量の比率)= 28.5 g-cat. h/mol、反応温度200℃、全圧0.1 MPaの条件下で所定時間実施した。加水素分解反応を開始してから5分後に生成物をサンプリングし、FID-GC分析によりMCPの転化率(%)および生成物の選択率(C-%)を求めて触媒性能の指標とした(結果については、後述する表3を参照)。
【0055】
[メチルシクロヘキサン(MCH)の加水素分解反応]
上記の手順で調製した1.0 wt%-Ir/SiO2触媒の性能評価試験を、以下の手順により実施した。触媒の前処理は1.0 wt%-Ir/SiO2触媒100.0 mgを固定床流通式反応装置に充填し、ヘリウム流通下(30 mL/min)にて30分間かけて400℃に昇温し、その後、水素流通下(50 mL/min)に切り替えて還元処理を1時間行った。還元処理後、MCHの加水素分解反応を、水素流量40 mL/min、H2/MCH = 28 mol/mol、W/F(触媒量とMCH流量の比率)= 28.5 g-cat. h/mol、反応温度200℃、全圧0.1 MPaの条件下で所定時間実施した。加水素分解反応を開始してから5分後に生成物をサンプリングし、FID-GC分析によりMCHの転化率(%)および生成物の選択率(C-%)を求めて触媒性能の指標とした。
【0056】
(実施例3)
0.5 wt%-Ir/SiO2触媒の調製方法
300 mLのナスフラスコ中に、塩化イリジウム・n水和物(IrCl3・n H2O、Irとして49.7 wt%含有)0.0302 gと純水150 mLを加え、超音波照射により充分に溶解させた後、担体としてのアモルファスシリカ粉末(AEROSIL380、日本アエロジル(株)、BET比表面積380 m2/g)を3.0 g添加して室温で1時間攪拌し、Ir金属としての担持率が0.5 wt%となるようにシリカ上に含浸担持した。エバポレータにより40℃で蒸発乾固させた後、回収した生成物をオーブンに移し、80℃で一晩乾燥して粉末を回収した。粉末を加圧成型してから適度に粉砕し、ふるいにかけることで500-600 μmに整粒した。触媒の還元処理では、整粒した触媒約1.0 gを固定床流通装置に充填し、窒素流通下(30 mL/min)にて30分間かけて400℃に昇温し、その後水素流通下(50 mL/min)に切り替えて還元処理を5時間行った後、水素流通の雰囲気を保ったまま室温まで冷却して、0.5 wt%-Ir/SiO2触媒を得た。
【0057】
0.5 wt%-Ir/SiO2触媒の性能評価試験方法
[メチルシクロペンタン(MCP)及びメチルシクロヘキサン(MCH)の混合原料の加水素分解反応]
上記の0.5 wt%-Ir/SiO2触媒の性能評価試験を、以下の手順により実施した。触媒の前処理は0.5 wt%-Ir/SiO2触媒201.0 mgを固定床流通式反応装置に充填し、ヘリウム流通下(30 mL/min)にて30分間かけて400℃に昇温し、その後、水素流通下(50 mL/min)に切り替えて還元処理を1時間行った。還元処理後、MCP及びMCHの混合原料の加水素分解反応を、水素流量40 mL/min、H2/(MCP + MCH) = 30.3 mol/mol(H2:MCP:MCH = 30.3:0.1:0.9)、W/F(触媒量と(MCP+MCH)流量の比率)= 62.1 g-cat. h/mol、反応温度200℃、全圧0.1 MPaの条件下で所定時間実施した。加水素分解反応を開始してから5分後に生成物をサンプリングし、FID-GC分析によりMCPの転化率(%)及びMCHの転化率(%)並びに生成物の選択率(C-%)を求めて触媒性能の指標とした(結果については、後述する表4を参照)。
【0058】
(実施例4)
1.0 wt%-Ir/SiO2触媒の調製方法
実施例2の触媒と同様に1.0 wt%-Ir/SiO2触媒を得た。
【0059】
1.0 wt%-Ir/SiO2触媒の性能評価試験方法
[メチルシクロペンタン(MCP)及びメチルシクロヘキサン(MCH)の混合原料の加水素分解反応]
上記の1.0 wt%-Ir/SiO2触媒の性能評価試験を、以下の手順により実施した。触媒の前処理は1.0 wt%-Ir/SiO2触媒202.0 mgを固定床流通式反応装置に充填し、ヘリウム流通下(30 mL/min)にて30分間かけて400℃に昇温し、その後、水素流通下(50 mL/min)に切り替えて還元処理を1時間行った。還元処理後、MCP及びMCHの混合材料の加水素分解反応を、水素流量40 mL/min、H2/(MCP+MCH) = 30.3 mol/mol(H2:MCP:MCH= 30.3:0.1:0.9)、W/F(触媒量と(MCP+MCH)流量の比率)= 62.4 g-cat. h/mol、反応温度200℃、全圧0.1 MPaの条件下で所定時間実施した。加水素分解反応を開始してから5分後に生成物をサンプリングし、FID-GC分析によりMCPの転化率(%)及びMCHの転化率(%)並びに生成物の選択率(C-%)を求めて触媒性能の指標とした(結果については、後述する表4を参照)。
【0060】
(実施例5)
2.0 wt%-Ir/SiO2触媒の調製方法
300 mLのナスフラスコ中に、塩化イリジウム・n水和物(IrCl3・n H2O、Irとして49.7 wt%含有)0.1208 gと純水150 mLを加え、超音波照射により充分に溶解させた後、担体としてのアモルファスシリカ粉末(AEROSIL380、日本アエロジル(株)、BET比表面積380 m2/g)を3.0 g添加して室温で1時間攪拌し、Ir金属としての担持率が0.5 wt%となるようにシリカ上に含浸担持した。エバポレータにより40℃で蒸発乾固させた後、回収した生成物をオーブンに移し80℃で一晩乾燥して粉末を回収した。粉末を加圧成型してから適度に粉砕し、ふるいにかけることで500-600 μmに整粒した。触媒の還元処理では、整粒した触媒約1.0 gを固定床流通装置に充填し、窒素流通下(30 mL/min)にて30分間かけて400℃に昇温し、その後水素流通下(50 mL/min)に切り替えて還元処理を5時間行った後、水素流通の雰囲気を保ったまま室温まで冷却して、2.0 wt%-Ir/SiO2触媒を得た。
【0061】
2.0 wt%-Ir/SiO2触媒の性能評価試験方法
[メチルシクロペンタン(MCP)及びメチルシクロヘキサン(MCH)の混合原料の加水素分解反応]
上記の2.0 wt%-Ir/SiO2触媒の性能評価試験を、以下の手順により実施した。触媒の前処理は2.0 wt%-Ir/SiO2触媒204.0 mgを固定床流通式反応装置に充填し、ヘリウム流通下(30 mL/min)にて30分間かけて400℃に昇温し、その後、水素流通下(50 mL/min)に切り替えて還元処理を1時間行った。還元処理後、MCP及びMCHの混合原料の加水素分解反応を、水素流量40 mL/min、H2/(MCP+MCH) = 30.3 mol/mol(H2:MCP:MCH = 30.3:0.1:0.9)、W/F(触媒量と(MCP+MCH)流量の比率)= 63.0 g-cat. h/mol、反応温度200℃、全圧0.1 MPaの条件下で所定時間実施した。加水素分解反応を開始してから5分後に生成物をサンプリングし、FID-GC分析によりMCPの転化率(%)及びMCHの転化率(%)並びに生成物の選択率(C-%)を求めて触媒性能の指標とした(結果については、後述する表4を参照)。
【0062】
(実施例6)
1.0 wt%-Ir/silicalite-1触媒の調製方法
結晶性のシリカライト-1に1.0 wt%のIrを担持した触媒(1.0 wt%-Ir/silicalite-1)を調製した。担体としてのシリカライト-1は以下の手順により合成した。容量80 mLのペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)製の容器に、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)とヒュームドシリカ(Cab-O-Sil M5)を所定量加え、オイルバスにて80℃で2時間攪拌し、母ゲル溶液を得た。母ゲル溶液のモル組成は、SiO2:TPAOH:H2O = 1.0:0.24:10.44とした。このゲル溶液を容量23 mLのオートクレーブ中にて自己圧下、135℃、3時間、20 rpmにて水熱合成を行った。その後、遠心分離により生成物を回収してオーブンにて80℃で乾燥し、さらにマッフル炉にて550℃で焼成することで、シリカライト-1を合成した。また、合成した本試料はXRD分析によりMFI型構造を有していることと、窒素吸着等温線を解析することでBET比表面積371 m2/g、ミクロ細孔容積0.154 cm3/gであることを確認した。
【0063】
上記の手順で合成したシリカライト-1を用いて、以下の手順で1.0 wt%-Ir/Silicalite-1触媒を調製した。200 mLのナスフラスコ中に、塩化イリジウム・n水和物(IrCl3・n H2O,Irとして49.7 wt%含有)0.0302 gと純水75 mLを加え、超音波照射下により充分に溶解させた後、上記の手順で合成したシリカライト-1粉末を1.5 g添加して室温で1時間攪拌し、Ir金属としての担持率が1.0 wt%となるようにシリカ上に含浸担持した。エバポレータにより40℃で蒸発乾固させた後、回収した生成物をオーブンに移し80℃で一晩乾燥して粉末を回収した。粉末を加圧成型してから適度に粉砕し、ふるいにかけることで500-600 μmに整粒した。触媒の還元処理は整粒した触媒約1.0 gを固定床流通装置に充填し、窒素流通下(30 mL/min)にて30分間かけて400℃に昇温し、その後、水素流通下(50 mL/min)に切り替えて還元処理を5時間行った後、水素流通の雰囲気を保ったまま室温まで冷却して、1.0 wt%-Ir/silicalite-1触媒を得た。
【0064】
1.0 wt%-Ir/silicalite-1触媒の性能評価試験方法
[メチルシクロペンタン(MCP)及びメチルシクロヘキサン(MCH)の混合原料の加水素分解反応]
上記の1.0 wt%-Ir/silicalite-1触媒の性能評価試験を、以下の手順により実施した。触媒の前処理は1.0 wt%-Ir/silicalite-1触媒202.0 mgを固定床流通式反応装置に充填し、ヘリウム流通下(30 mL/min)にて30分間かけて400℃に昇温し、その後、水素流通下(50 mL/min)に切り替えて還元処理を1時間行った。還元処理後、MCP及びMCHの混合原料の加水素分解反応を、水素流量40 mL/min、H2/(MCP+MCH) = 30.3 mol/mol(H2:MCP:MCH= 30.3:0.1:0.9)、W/F(触媒量と(MCP+MCH)流量の比率)= 62.4 g-cat. h/mol、反応温度200℃、全圧0.1 MPaの条件下で所定時間実施した。加水素分解反応を開始してから5分後に生成物をサンプリングし、FID-GC分析によりMCPの転化率(%)及びMCHの転化率(%)並びに生成物の選択率(C-%)を求めて触媒性能の指標とした。(結果については、後述する表3を参照)。
【0065】
(実施例7)
1.0 wt%-Ir/SiO2触媒の調製方法
実施例2の触媒と同様に1.0 wt%-Ir/SiO2触媒を得た。
【0066】
1.0 wt%-Ir/SiO2触媒の性能評価試験方法
[エチルシクロペンタン(ECP)及びメチルシクロヘキサン(MCH)の混合原料の加水素分解反応]
上記の1.0 wt%-Ir/SiO2触媒の性能評価試験を、以下の手順により実施した。触媒の前処理は1.0 wt%-Ir/SiO2触媒202.0 mgを固定床流通式反応装置に充填し、ヘリウム流通下(30 mL/min)にて30分間かけて400℃に昇温し、その後、水素流通下(50 mL/min)に切り替えて還元処理を1時間行った。還元処理後、ECP及びMCHの混合原料の加水素分解反応を、水素流量40 mL/min、H2/(ECP+MCH) = 28 mol/mol(H2:ECP:MCH= 28.0:0.1:0.9)、W/F(触媒量と(ECP+MCH)流量の比率)= 57.6 g-cat. h/mol、反応温度200℃、全圧0.1 MPaの条件下で所定時間実施した。加水素分解反応を開始してから5分後に生成物をサンプリングし、FID-GC分析によりECPの転化率(%)及びMCHの転化率(%)並びに生成物の選択率(C-mol%)を求めて触媒性能の指標とした。(結果については、後述する表5を参照)。
【0067】
(比較例1)
1.0 wt%-Pt/SiO2触媒の調製方法
市販品(アルドリッチ、520691-25G)のシリカ担持白金触媒(1.0 wt%-Pt/SiO2)を触媒試料として使用した。
【0068】
1.0 wt%-Pt/SiO2触媒の性能評価試験方法
[メチルシクロペンタン(MCP)の加水素分解反応]
上記の市販1.0 wt%-Pt/SiO2触媒の性能評価試験を、以下の手順により実施した。触媒の前処理は1.0 wt%-Pt/SiO2触媒202.0 mgを固定床流通式反応装置に充填し、ヘリウム流通下(30 mL/min)にて30分間かけて400℃に昇温し、その後、水素流通下(50 mL/min)に切り替えて還元処理を1時間行った。還元処理後、MCPの加水素分解反応を、水素流量40 mL/min、H2/MCP = 28 mol/mol、W/F(触媒量とMCP流量の比率)= 28.5 g-cat. h/mol、反応温度200℃、全圧0.1 MPaの条件下で所定時間実施した。加水素分解反応を開始してから5分後に生成物をサンプリングし、FID-GC分析によりMCPの転化率(%)および生成物の選択率(C-%)を求めて触媒性能の指標とした。(結果については、後述する表3を参照)。
【0069】
[メチルシクロヘキサン(MCH)の加水素分解反応]
上記の市販1.0 wt%-Pt/SiO2触媒の性能評価試験を、以下の手順により実施した。触媒の前処理は1.0 wt%-Pt/SiO2触媒100.0 mgを固定床流通式反応装置に充填し、ヘリウム流通下(30 mL/min)にて30分間かけて400℃に昇温し、その後、水素流通下(50 mL/min)に切り替えて還元処理を1時間行った。還元処理後、MCHの加水素分解反応を、水素流量40 mL/min、H2/MCH = 28 mol/mol、W/F(触媒量とMCH流量の比率)= 28.5 g-cat. h/mol、反応温度200℃、全圧0.1 MPaの条件下で所定時間実施した。加水素分解反応を開始してから5分後に生成物をサンプリングし、FID-GC分析によりMCHの転化率(%)および生成物の選択率(C-%)を求めて触媒性能の指標とした。(結果については、後述する表3を参照)。
【0070】
表3は、実施例1、2及び比較例1の各触媒の性能試験結果を示す。各触媒の性能試験では、メチルシクロペンタン(MCP)及びメチルシクロヘキサン(MCH)を、それぞれ単独の反応原料として同一条件下で加水素分解反応を行った。
【0071】
【表3】
【0072】
表3に示すように、比較例1(1.0 wt%-Pt/SiO2触媒)では、原料にMCPを用いた場合、加水素分解反応は殆ど起こらず、MCPの転化率は1 %未満であった。また、原料にMCHを用いた場合もMCHの転化率は1 %未満であり、生成物は全てトルエン(TOL)であった。
【0073】
これにより、シリカに担持される活性種として白金を用いた場合、シクロヘキサン類(ここでは、メチルシクロヘキサン)の脱水素芳香族化反応には活性を示すものの、シクロペンタン類(ここでは、メチルシクロペンタン)の加水素分解反応の活性は極めて低い結果となった。
【0074】

一方、実施例1の1.0 wt%-Rh/SiO2触媒は、MCPの加水素分解反応に高い活性を示し、MCPの転化率は53 %であった。MCPの加水素分解によって得られた生成物は、直接開環生成物であるn-ヘキサン(n-C6H14(表中「n-C6」を参照))、3-メチルペンタン(3-CH3-C5H11(表中「3-MP」を参照))、2-メチルペンタン(2-CH3-C5H11(表中「2-MP」を参照))であった。また、原料にMCHを用いた場合、加水素分解反応は殆ど起こらず、MCHの転化率は1%未満であり、得られた生成物はトルエン(TOL)のみであった。
【0075】
実施例2の1.0 wt%-Ir/SiO2触媒では、メチルシクロペンタンの加水素分解反応の活性は、実施例1よりも更に向上し、メチルシクロペンタンの転化率は70%に達した。メチルシクロペンタンの加水素分解によって得られた生成物は、実施例1と同様に直接開環生成物であるn-ヘキサン、3-メチルペンタン、2-メチルペンタンであった。また、原料にメチルシクロヘキサン(MCH)を用いた場合、実施例1と同様に加水素分解反応は殆ど起こらず、原料転化率は1%未満であり、得られた生成物はトルエンのみであった。
【0076】
以上から、アモルファスシリカに担持された活性種としてのロジウムまたはイリジウムは、シクロペンタン類の加水素分解反応に高い活性を示す一方で、シクロヘキサン類の加水素分解反応の活性は低いことがわかった。
【0077】
表4は、実施例3-6の各触媒の性能試験結果を示す。各触媒の性能試験では、メチルシクロペンタン(MCP)及びメチルシクロヘキサン(MCH)の混合原料を用いて、同一条件下で加水素分解反応を行った。
【0078】
【表4】
【0079】
実施例3-5(X wt%-Ir/SiO2触媒, X = 0.5, 1.0, 2.0)では、アモルファスシリカ担体上のイリジウム金属の担持率を0.5-2.0 wt%の範囲で変化させた試料を用いて、性能評価を実施した。
【0080】
表4に示すように、実施例3-5の触媒では、メチルシクロペンタン(MCP)の転化率は8.7-51.3 %、メチルシクロヘキサン(MCH)の転化率は0.3-5.1 %となり、どちらも金属担持率が多いほど高くなった。また、実施例3-5のいずれの触媒においても、メチルシクロヘキサン(MCH)の加水素分解を抑制しつつ、MCPが高選択的に加水素分解されることが確認された。生成物分布に関しては、MCPに由来する反応生成物は、直接開環生成物であるn-ヘキサン(n-C6H14(表中「n-C6」を参照))、3-メチルペンタン(3-CH3-C5H11(表中「3-MP」を参照))、2-メチルペンタン(2-CH3-C5H11(表中「2-MP」を参照))と、分解生成物である軽質炭化水素類(C1-C5)であり、MCHに由来する反応生成物は、直接開環生成物であるn-へプタン(n-C7H16(表中「n-C7」を参照))、3-メチルヘキサン(3-CH3-C6H13(表中「3-MH」を参照))、2-メチルヘキサン(2-CH3-C6H13(表中「2-MH」を参照))と、脱水素生成物であるトルエン(TOL)であった。
【0081】
実施例6の1.0 wt%-Ir/silicalite-1触媒では、MFI型ゼオライトの一つであるシリカライト-1上にイリジウム金属を1.0 wt%担持した試料を用いて、性能評価を実施した。
【0082】
表4に示すように、実施例6の触媒では、MCPの転化率は、実施例4(1.0 wt%-Ir/SiO2触媒)と比べると低いものの、MCHの転化率は0.1 %と非常に低く抑えられ、より選択性に優れた触媒であることがわかった。また、生成物分布は、上述の実施例3-5と同様のパターンであった。なお、実施例6では、イリジウムを担持した触媒を用いたが、ロジウムを担持した触媒を用いた場合にも同様の効果が期待できると考えられる。
【0083】
表5は、実施例7の触媒の性能試験結果を示す。触媒の性能試験結果では、エチルシクロペンタン(ECP)及びメチルシクロヘキサン(MCH)の混合原料を用いて、加水素分解反応を行った。
【0084】
【表5】
【0085】
表5に示すように、実施例7の触媒では、ECPの転化率は39.8 %、MCHの転化率は2.8%となり、MCHの加水素分解を抑制しつつ、ECPが高選択的に加水素分解されることが確認された。生成物分布は、直接開環生成物であるn-へプタン(n-C7H16(表中「n-C7」を参照))、3-エチルペンタン(3-C2H5-C5H11(表中「3-EP」を参照))、3-メチルヘキサン(3-CH3-C6H13(表中「3-MH」を参照))、2-メチルヘキサン(2-CH3-C6H13(表中「2-MH」を参照))、3-メチルペンタン(3-CH3-C5H11(表中「3-MP」を参照))、2-メチルペンタン(2-CH3-C5H11(表中「2-MP」を参照))と分解生成物である軽質炭化水素類(C1-C5)、および脱水素生成物であるトルエン(TOL)であった。
【0086】
上述の表3-5に示された各触媒の性能試験結果から、アモルファスシリカあるいは結晶性のシリカライト-1のようなシリカ系担体上にイリジウムやロジウムを担持した金属触媒を加水素分解反応に用いることで、メチルシクロヘキサン中に含まれるシクロペンタン類を高選択的に加水素分解できることが見出された。
【0087】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。上述の実施形態に示した金属触媒およびそれを用いた環式化合物の加水素分解方法の各構成要素は、必ずしも全てが必須ではなく、少なくとも当業者であれば本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。
【0088】
例えば、本願発明に係る金属触媒およびそれを用いた環式化合物の加水素分解方法の適用は、上述の水素貯蔵・輸送システム1に設けられた加水素分解装置6には限定されない。それらは、飽和環状化合物に含まれる五員環構造を有する環式化合物を加水素分解する用途に広く適用できる。
【0089】
また、シリカ系担体としては、上述のアモルファスシリカやMFI型ゼオライトの他に、例えばメソポーラスシリカ(SBA-15など)を用いることができる。
【符号の説明】
【0090】
1 :輸送システム
2 :水素化プラント
3 :脱水素プラント
4 :貯蔵設備
5 :貯蔵設備
6 :加水素分解装置
11:水素化反応装置
12:MCH貯蔵タンク
13:TOL貯蔵タンク
21:脱水素反応装置
22:TOL貯蔵タンク
23:MCH貯蔵タンク
図1
図2
図3