(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039215
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】フィラー含有樹脂成形品内の流体浸透挙動の予測方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 23/046 20180101AFI20240314BHJP
B29C 45/76 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
G01N23/046
B29C45/76
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143598
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】青木 現
(72)【発明者】
【氏名】八木 敦史
【テーマコード(参考)】
2G001
4F206
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA11
2G001CA01
2G001DA09
2G001HA08
2G001HA13
2G001HA14
2G001LA02
2G001LA05
2G001LA06
2G001MA10
4F206AM23
4F206AP05
4F206AR06
4F206JA07
4F206JL02
4F206JL09
(57)【要約】
【課題】フィラー含有樹脂成形品内の流体浸透時の挙動を簡単に予測することができる方法を提供する。
【解決手段】フィラー含有樹脂成形品のCT画像を取得するステップ、要素数を削減した編集画像を複数得るステップ、所定の編集画像において所定フィラー割合の画像濃度閾値を決定するステップ、画像濃度閾値と、画像の各画素の画素濃度とに基づいて、編集画像を三値化画像に変換するステップ、所定の有限要素モデルを作成するステップ、有限要素モデルの属性を設定するステップ、計算に要する物性値を設定するステップ、境界条件を設定するステップ、及び熱伝導解析用モデルに基づいて、フィラー部及び空隙部の配置状態と拡散係数と、境界条件にて構造解析ソフトウェアのプログラムを実行して熱伝導解析を行い、樹脂成形品の濃度分布を算出するステップ、を有する予測方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラーを所定の割合Aで含む樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品の少なくとも一部について所定の方向に所定の間隔で複数のX線CT画像を取得するX線CT画像取得ステップS1と、
前記X線CT画像を編集して、下記ステップS9における計算に要する要素数を削減した編集画像を複数得るX線CT画像編集ステップS2と、
前記複数の編集画像から1又は2以上の編集画像を選択し、選択した編集画像において前記フィラーの割合が前記所定の割合Aになるように、前記フィラーと樹脂部分と外形部分と空隙部分とを判別するための画像濃度閾値を決定する閾値決定ステップS3と、
前記画像濃度閾値と、前記1又は2以上の編集画像の各画素の画素濃度とに基づいて、前記1又は2以上の編集画像を複数の三値化画像に変換する画像変換ステップS4と、
前記複数の三値化画像を順次積層し前記樹脂成形品のX線CT画像取得部分の有限要素モデルを再構成する有限要素モデル作成ステップS5と、
前記有限要素モデルにおける、樹脂部、フィラー部、空隙部、及び外形部のうちのいずれかの属性を、前記三値化画像から得られるフィラーと樹脂部分と外形部分と空隙部分との情報を元に設定し、少なくともフィラー部及び空隙部の配置状態を取得する要素属性設定ステップS6と、
前記有限要素モデルの属性に応じて計算に要する物性値を設定する要素物性設定ステップS7と、
前記有限要素モデルに対して計算に要する境界条件を設定する境界条件設定ステップS8と、
前記有限要素モデル作成ステップS5で得られる熱伝導解析用モデルに基づいて、前記要素属性設定ステップS6で得られるフィラー部及び空隙部の配置状態と、前記要素物性設定ステップS7で設定した拡散係数と、前記境界条件設定ステップS8で設定した境界条件とにより構造解析ソフトウェアのプログラムを実行して熱伝導解析を行い、前記樹脂成形品における濃度分布を算出する浸透状態計算ステップS9と、を有し、
前記閾値決定ステップS3における閾値の決定は、所定の階調数を閾値に設定する第1ステップと、設定した閾値から前記閾値決定ステップS3で選択した編集画像を三値化する第2ステップと、前記三値化した編集画像中において、樹脂部分とフィラー部分との含有割合を計算する第3ステップと、前記第3ステップで得られた樹脂部分又はフィラー部分の含有割合と、前記樹脂成形品の現物内のフィラーの割合又は樹脂の割合とを比較し、前記第1ステップで設定した閾値が適切か否かを判断する第4ステップと、前記第4ステップにおいて、前記第1ステップで設定した閾値が適切であると判断する場合は、前記第1ステップで設定した閾値を樹脂部分とフィラー部分とを判別するための画像濃度閾値として決定し、前記第4ステップにおいて、前記第1ステップで設定した閾値が適切でないと判断する場合は、閾値を変更して前記第2ステップに戻る第5ステップとを含む過程で行われる、フィラー含有樹脂成形品内の流体浸透挙動の予測方法。
【請求項2】
前記要素物性設定ステップS7において、比熱を1(J/kg・s)及び密度を1(kg/mm3)とし、熱伝導率に拡散係数値を設定し、前記境界条件設定ステップS8における境界条件として、初期条件温度を0℃、外表面部に固定温度100℃を設定する、請求項1に記載のフィラー含有樹脂成形品内の流体浸透挙動の予測方法。
【請求項3】
前記要素物性設定ステップS7における物性値を、弾性率、ポアソン比、せん断弾性率及び線膨張率のうちの少なくとも1つを異方性を考慮した値に設定し、前記境界条件設定ステップS8における境界条件として、製品全体に温度荷重を与える、請求項1に記載のフィラー含有樹脂成形品内の流体浸透挙動の予測方法。
【請求項4】
前記樹脂成形品内の薬液浸透による拡散係数を算出する、請求項2に記載のフィラー含有樹脂成形品内の流体浸透挙動の予測方法。
【請求項5】
前記樹脂成形品内の体積膨張率を算出する、請求項3に記載のフィラー含有樹脂成形品内の流体浸透挙動の予測方法。
【請求項6】
前記所定の割合Aを、前記樹脂組成物を調製する際における樹脂及びフィラーの仕込み比から計算する、請求項1~5のいずれか1項に記載のフィラー含有樹脂成形品内の流体浸透挙動の予測方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載のフィラー含有樹脂成形品内の流体浸透挙動の予測方法の各ステップを計算機に実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラー含有樹脂成形品内の流体浸透挙動の予測方法及びそれを計算機に実行させるプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車の分野では、車体の軽量化のために、熱可塑性樹脂の射出成形体からなる樹脂成形品によって、金属部品を代替する動きが進められている。熱可塑性樹脂の中でも、耐薬品性、特に耐燃料性に優れる組成物は、燃料油と直接接触する部品、例えば燃料ポンプモジュール、燃料ポンプインペラー等に代表される燃料搬送ユニット等の大型部品にも用いられている。
【0003】
しかし、それらの樹脂成形品を、自動車のように長期間にわたって用いられる製品に用いた場合、特に長期間にわたって樹脂成形品が燃料に浸漬したとき、燃料が内部に浸透して膨潤が発生することで、樹脂成形品の寸法が変化する。そして、場合によっては部品間のクリアランスが消失することにより、燃料供給に不具合が生じる原因になることが懸念される。そのため、燃料等の液体の膨潤挙動の予測及び解析の手法や、対策が求められている。
【0004】
また、昨今では、バイオディーゼル燃料のように燃料成分が多様化しており、自動車部品用の樹脂成形品では、耐薬品性、寸法安定性のさらなる向上が求められている。
【0005】
以上のような観点から、例えば特許文献1には、樹脂成形品の薬品浸漬による破壊箇所の予測方法が提案されている。
また、特許文献2には、異方性樹脂成形体の構造解析方法が提案されている。この方法ではフィラーを含有する樹脂成形体の熱膨張挙動、弾性率異方性について考慮して、荷重や強制変位に対する発生応力、発生ひずみの評価、熱による変形などを計算にて予測することが可能である。
更に、特許文献3には、樹脂成形品のX線CT画像などから得られたX線CT画像を用いて有限要素モデルを作成し、フィラーの配向状態、変形挙動、構造解析用の均質化された物性値を得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-059116号公報
【特許文献2】特開2016-203584号公報
【特許文献3】特開2011-000758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では薬品の膨潤挙動は求められておらず、同文献には、膨潤挙動の予測にまで踏み込んでの記載はなされていない。
また、特許文献2に記載の方法は、拡散係数自体の取得に関しては実測方法以外にないため、燃料等の薬品の浸漬による飽和膨潤に達する時間の予測は困難であり、飽和膨潤に達する時間も場合により数千時間かかる場合があった。
更に、特許文献3に示されている方法では、樹脂成形品内部の空隙の影響、外形の影響は考慮できず、十分な解析を行うことができなかった。
【0008】
また、樹脂成形品がフィラーを含有する場合、フィラーの変形、フィラーの配向、外形部の変形などを考慮する方法も知られていない。これらの理由により、燃料等の液体が浸透する部品において、計算によっても液体の浸透挙動を事前に予測することが困難であった。そのため、材料の選定、材料処方の最適化、製品形状の設計などは試作、実機による試験などが必要となり、製品開発において膨大な時間を要していた。
以上は、液体の浸透挙動について述べたが、液体ではなく、気体の場合であっても同様の問題が起こり得る。流体(液体又は気体)の浸透挙動について簡単に予測することができれば有用である。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、フィラーを含む樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品内の流体浸透時の挙動を簡単に予測することができる方法及びそれを計算機に実行させるプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、以下の知見を得て上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、先ず、フィラーを含む樹脂成形品内のX線CTによる3次元画像からフィラーの配置、形状を取得する。そして、その3次元画像を処理して、計算機支援工学(CAE)による構造解析用計算モデルを作成し、流体浸漬に伴う浸透挙動を予測する。その結果、製品形状の設計を変更したり、拡散係数が小さく、浸漬時間にともなう質量増加、膨潤による寸法変化が抑制される樹脂組成物を作製したりすることができる。
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
【0011】
(1)フィラーを所定の割合Aで含む樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品の少なくとも一部について所定の方向に所定の間隔で複数のX線CT画像を取得するX線CT画像取得ステップS1と、
前記X線CT画像を編集して、下記ステップS9における計算に要する要素数を削減した編集画像を複数得るX線CT画像編集ステップS2と、
前記複数の編集画像から1又は2以上の編集画像を選択し、選択した編集画像において前記フィラーの割合が前記所定の割合Aになるように、前記フィラーと樹脂部分と外形部分と空隙部分とを判別するための画像濃度閾値を決定する閾値決定ステップS3と、
前記画像濃度閾値と、前記1又は2以上の編集画像の各画素の画素濃度とに基づいて、前記1又は2以上の編集画像を複数の三値化画像に変換する画像変換ステップS4と、
前記複数の三値化画像を順次積層し前記樹脂成形品のX線CT画像取得部分の有限要素モデルを再構成する有限要素モデル作成ステップS5と、
前記有限要素モデルにおける、樹脂部、フィラー部、空隙部、及び外形部のうちのいずれかの属性を、前記三値化画像から得られるフィラーと樹脂部分と外形部分と空隙部分との情報を元に設定し、少なくともフィラー部及び空隙部の配置状態を取得する要素属性設定ステップS6と、
前記有限要素モデルの属性に応じて計算に要する物性値を設定する要素物性設定ステップS7と、
前記有限要素モデルに対して計算に要する境界条件を設定する境界条件設定ステップS8と、
前記有限要素モデル作成ステップS5で得られる熱伝導解析用モデルに基づいて、前記要素属性設定ステップS6で得られるフィラー部及び空隙部の配置状態と、前記要素物性設定ステップS7で設定した拡散係数と、前記境界条件設定ステップS8で設定した境界条件とにより構造解析ソフトウェアのプログラムを実行して熱伝導解析を行い、前記樹脂成形品における濃度分布を算出する浸透状態計算ステップS9と、を有し、
前記閾値決定ステップS3における閾値の決定は、所定の階調数を閾値に設定する第1ステップと、設定した閾値から前記閾値決定ステップS3で選択した編集画像を三値化する第2ステップと、前記三値化した編集画像中において、樹脂部分とフィラー部分との含有割合を計算する第3ステップと、前記第3ステップで得られた樹脂部分又はフィラー部分の含有割合と、前記樹脂成形品の現物内のフィラーの割合又は樹脂の割合とを比較し、前記第1ステップで設定した閾値が適切か否かを判断する第4ステップと、前記第4ステップにおいて、前記第1ステップで設定した閾値が適切であると判断する場合は、前記第1ステップで設定した閾値を樹脂部分とフィラー部分とを判別するための画像濃度閾値として決定し、前記第4ステップにおいて、前記第1ステップで設定した閾値が適切でないと判断する場合は、閾値を変更して前記第2ステップに戻る第5ステップとを含む過程で行われる、フィラー含有樹脂成形品内の流体浸透挙動の予測方法。
【0012】
(2)前記要素物性設定ステップS7において、比熱を1(J/kg・s)及び密度を1(kg/mm3)とし、熱伝導率に拡散係数値を設定し、前記境界条件設定ステップS8における境界条件として、初期条件温度を0℃、外表面部に固定温度100℃を設定する、前記(1)に記載のフィラー含有樹脂成形品内の流体浸透挙動の予測方法。
【0013】
(3)前記要素物性設定ステップS7における物性値を、弾性率、ポアソン比、せん断弾性率及び線膨張率のうちの少なくとも1つを異方性を考慮した値に設定し、前記境界条件設定ステップS8における境界条件として、製品全体に温度荷重を与える、前記(1)に記載のフィラー含有樹脂成形品内の流体浸透挙動の予測方法。
【0014】
(4)前記樹脂成形品内の薬液浸透による拡散係数を算出する、前記(2)に記載のフィラー含有樹脂成形品内の流体浸透挙動の予測方法。
【0015】
(5)前記樹脂成形品内の体積膨張率を算出する、前記(3)に記載のフィラー含有樹脂成形品内の流体浸透挙動の予測方法。
【0016】
(6)前記所定の割合Aを、前記樹脂組成物を調製する際における樹脂及びフィラーの仕込み比から計算する、前記(1)~(5)のいずれかに記載のフィラー含有樹脂成形品内の流体浸透挙動の予測方法。
【0017】
(7)前記(1)~(5)のいずれかに記載のフィラー含有樹脂成形品内の流体浸透挙動の予測方法の各ステップを計算機に実行させるプログラム。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、フィラーを含む樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品内の流体浸透時の挙動を簡単に予測することができる方法及びそれを計算機に実行させるプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態の樹脂成形品内の流体浸透挙動の予測方法のフローを示すフローチャートである。
【
図3】X線CT装置により撮影された画像の一例を示す図である。
【
図4】閾値決定ステップS3におけるフローを示すフローチャートである。
【
図5】図(a)は、画像編集後、閾値設定に基づき、樹脂部、フィラー部、外形部、空隙部に領域分けした画像を示すであり、図(b)は領域Xを拡大して示す図である。
【
図6】画像処理して、樹脂部、フィラー部、空隙部に領域を分けて物性値を設定した有限要素モデルを示す図であり、図(a)は樹脂部及びフィラー部を、図(b)はモデル内部にある空隙部を示している。
【
図7】一連の解析プログラムを実現するためのハードウェア資源の一例を示す図である。
【
図8】流体浸透による重量変化率、体積膨張率の測定に用いた試験片とX線CT撮影領域を示す図である。
【
図9】図(a)は、画像編集によって樹脂部、フィラー部、空隙部の混在した領域と外形部に領域分けした画像を示す図であり、図(b)は領域Yを拡大して示す図であり、図(c)は領域Zを拡大して示す図である。
【
図10】浸透解析時の固定温度を設定する領域を示す図である。
【
図11】重量変化率から算出した流体濃度の浸透時間依存性の解析値を示すグラフである。
【
図12】図(a)は実施例3、図(b)は実施例1による流体浸透状態を示す図である。
【
図13】膨潤解析時の拘束条件を設定する領域を示す図である。
【
図14】実施例4における膨潤解析時の変形状態を示す図である。
【
図15】拡散係数のガラス含有率依存性の実測値と解析値を示すグラフである。
【
図16】体積膨張率のガラス含有率依存性の実測値と解析値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<フィラー含有樹脂成形品内の流体浸透挙動の予測方法>
本実施形態のフィラー含有樹脂成形品内の流体浸透挙動の予測方法は、以下のステップS1~ステップS9を有する。
X線CT画像取得ステップS1:フィラーを所定の割合Aで含む樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品の少なくとも一部について所定の方向に所定の間隔で複数のX線CT画像を取得する。
X線CT画像編集ステップS2:X線CT画像を編集して、下記ステップS9における計算に要する要素数を削減した編集画像を複数得る。
閾値決定ステップS3:複数の編集画像から1又は2以上の編集画像を選択し、選択した編集画像においてフィラーの割合が所定の割合Aになるように、フィラーと樹脂部分と外形部分と空隙部分とを判別するための画像濃度閾値を決定する。
画像変換ステップS4:画像濃度閾値と、1又は2以上の編集画像の各画素の画素濃度とに基づいて、1又は2以上の編集画像を複数の三値化画像に変換する。
有限要素モデル作成ステップS5:複数の三値化画像を順次積層し樹脂成形品のX線CT画像取得部分の有限要素モデルを再構成する。
要素属性設定ステップS6:有限要素モデルにおける、樹脂部、フィラー部、空隙部、及び外形部のうちのいずれかの属性を、三値化画像から得られるフィラーと樹脂部分と外形部分と空隙部分との情報を元に設定し、少なくともフィラー部及び空隙部の配置状態を取得する。
要素物性設定ステップS7:有限要素モデルの属性に応じて計算に要する物性値を設定する。
境界条件設定ステップS8:有限要素モデルに対して計算に要する境界条件を設定する。
浸透状態計算ステップS9:有限要素モデル作成ステップS5で得られる熱伝導解析用モデルに基づいて、要素属性設定ステップS6で得られるフィラー部及び空隙部の配置状態と、要素物性設定ステップS7で設定した拡散係数と、境界条件設定ステップS8で設定した境界条件とにより構造解析ソフトウェアのプログラムを実行して熱伝導解析を行い、樹脂成形品における濃度分布を算出する。
そして、閾値決定ステップS3における閾値の決定は、以下の第1ステップ~第5ステップを含む過程で行われる。
第1ステップ:所定の階調数を閾値に設定する。
第2ステップ:設定した閾値から閾値決定ステップS3で選択した編集画像を三値化する。
第3ステップ:三値化した編集画像中において、樹脂部分とフィラー部分との含有割合を計算する。
第4ステップ:第3ステップで得られた樹脂部分又はフィラー部分の含有割合と、樹脂成形品の現物内のフィラーの割合又は樹脂の割合とを比較し、第1ステップで設定した閾値が適切か否かを判断する。
第5ステップ:第4ステップにおいて、第1ステップで設定した閾値が適切であると判断する場合は、第1ステップで設定した閾値を樹脂部分とフィラー部分とを判別するための画像濃度閾値として決定し、第4ステップにおいて、第1ステップで設定した閾値が適切でないと判断する場合は、閾値を変更して第2ステップに戻る。
本実施形態において、流体は液体及び気体を含む。液体とは、常温で液体のもののみならず、高温(例えば80~150℃)で液体となるものも含み、具体的には、燃料、水分、トルエン、エタノール、燃料、不凍液、グリース等が挙げられる。すなわち、常温では固体のものであっても、高温時に液体となって樹脂成形品に浸透し得るものをも含む。
同様に、気体とは、常温で気体のもののみならず、高温(例えば80~200℃)で気体となるものも含み、具体的には、燃料、水分、トルエン、エタノール、燃料、不凍液、グリース、水素等が挙げられる。すなわち、常温では固体又は液体のものであっても、高温時に気体となって樹脂成形品に浸透し得るものをも含む。
【0021】
本実施形態の樹脂成形品内の流体浸透挙動の予測方法の全体のフローを
図1に示す。
図1に示すように、本実施形態の方法は、ステップS1~S9を有している。
以下、各ステップについて説明する。
【0022】
[X線CT画像取得ステップS1]
X線CT画像取得ステップS1(以下、「ステップS1」とも呼ぶ。ステップS2以降も同様である。)は、フィラーを所定の割合Aで含む樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品の少なくとも一部について所定の方向に所定の間隔で複数のX線CT画像を取得するステップである。
【0023】
先ず、X線CT画像を取得する対象となる樹脂成形品を決定する。本実施形態において、予測対象となる樹脂成形品は、フィラーを所定の割合Aで含む樹脂組成物を成形してなる。割合Aとしては任意であり特に限定はない。
【0024】
本実施形態の流体浸透挙動の予測方法は、従来公知の様々な樹脂を予測対象とすることができる。また、複数の樹脂をブレンドした樹脂混合物も上記樹脂組成物に含まれる。
【0025】
上記樹脂組成物はフィラーを所定の割合Aで含む。フィラーの種類は、樹脂とフィラーの境界がはっきりと判り易くX線透過率が低い無機系のフィラーが好ましい。従来公知の無機フィラーとして、繊維状フィラー、粉粒状フィラー、板状フィラー等が挙げられる。好ましい繊維状フィラーとして、例えば、ガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等の無機質繊維状物質が挙げられる。また、粉粒状フィラーとしては、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ミルドガラスファイバー、ガラスバルーン、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、ウォラストナイトの如き珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、アルミナの如き金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムの如き金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き金属の硫酸塩、その他フェライト、炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられる。また、板状フィラーとしては、マイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔等が挙げられる。
【0026】
上記樹脂組成物には、核剤、着色剤、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤及び難燃剤等の添加剤を添加して、所望の特性を付与した樹脂組成物も含まれる。
【0027】
上記樹脂成形品は、従来公知の成形方法で得ることができる。従来公知の成形方法としては、例えば、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形、押出成形、ブロー成形等種々の成形方法を挙げることができる。
【0028】
ステップS1は、上記のようにして得られた樹脂成形品の少なくとも一部について、所定の方向に所定の間隔で複数のX線CT画像を取得する。「少なくとも一部」とは、得られた樹脂成形品全体を予測する対象としてもよいし、樹脂成形品の一部を予測する対象としてもよいことを指す。例えば、樹脂成形品内のフィラー配向、配置状態が一様な場合には、一部のみを予測すれば、他の部分もその予測した一部と同様のフィラー配向、配置状態であると予測することができる。従って、樹脂成形品内の一部のみで予測しても樹脂成形品全体としての変形挙動の解析に好ましく用いることができるが、フィラー配向、配置状態は一般的に一様ではないため、画像取得領域は広い範囲が望ましい。
【0029】
樹脂成形品の一部をX線CT画像取得の対象とする場合には、X線CT画像を取得する対象となる樹脂成形品から必要に応じて樹脂成形品を切り出し、X線CT画像を取得するための樹脂試験片を作製する。樹脂成形品全体をX線CT画像取得の対象とする場合には、樹脂成形品全体が樹脂試験片となる。
【0030】
X線CT画像の取得方法は特に限定されないが、例えば、
図2に示すようなX線CT装置1を用いて取得することができる。X線CT装置1は、樹脂試験片2にX線を照射するためのX線照射部11と、樹脂試験片2を透過したX線を投影データとして検出するX線検出部12と、樹脂試験片2を保持する試料台13と、試料台13を上下移動(
図2中の矢印方向の移動)及び回転移動(
図2中の白抜き矢印方向の移動)させるための回転駆動部14と、複数の角度方向の投影データをX線CT画像として再構成する画像処理部15とを備える。
【0031】
X線照射部11は、樹脂試験片2にX線を照射させるための部位である。X線を照射できるものであれば特に限定されず、従来公知のX線照射装置を使用することができる。例えば、X線管等が挙げられる。X線照射部11では、樹脂試験片2に照射するX線の照射条件を調整することができる。X線の照射条件としては、例えば、管電流、X線照射時間等がある。本実施形態においては、X線の照射条件は特に限定されず、予測の対象となる樹脂試験片の形状、含まれる樹脂の種類等に応じて適宜変更できる。
【0032】
X線検出部12は、樹脂試験片2を透過したX線を電気信号に変換した後、投影データとして検出する部位である。X線検出部12は、樹脂試験片2を間に挟んでX線照射部11に対向するように配置される。
【0033】
試料台13は、樹脂試験片2にX線が照射されるように樹脂試験片2を保持するための部位である。試料台はX線照射部11とX線検出部12との間に配置される。
【0034】
回転駆動部14は、試料台13を上下移動及び回転移動させて、樹脂試験片2に複数の角度方向からX線を照射させるための部位である。回転駆動部14は、試料台13に接続されている。回転駆動部14により、樹脂試験片2内の様々な位置に対して複数の方向からX線を照射できる。その結果、様々な角度から樹脂試験片2を透過したX線について、それぞれの投影データを得ることができる。
【0035】
画像処理部15は、複数の角度方向の投影データをX線CT画像として再構成する部位である。画像処理部15はX線検出部12に接続されている。X線検出部12で検出された投影データが画像処理部15に送られ、従来公知の画像処理を行うことでX線CT画像が得られる。従来公知の画像処理方法とは、例えば、各方向の投影データを一次元フーリエ変換し、これらを合成して二次元フーリエ変換像を作成してこれを逆フーリエ変換して再構成画像を得る方法が挙げられる。
【0036】
X線CT画像は、樹脂成形品内での所定の方向における所定の間隔でのX線CT画像である。従って、本ステップでは複数のX線CT画像が得られる。「所定の間隔」とは、X線CT画像を得る際に濃淡を平均化する範囲である。X線CT画像の間隔は特に限定されず、測定対象によって適宜変更して実施することができるが、繊維状フィラーを含む樹脂成形品内の薬液浸透挙動の予測方法を適切に予測するためには、X線CT画像の間隔はフィラーの平均直径以下、平均直径が不明な場合には20μm以下であることが好ましい。また、「所定の方向」はX線CT画像の画像面に垂直な方向であり、所定の方向は所望の方向に設定することができる。
【0037】
上記のようにして得られるX線CT画像の一例を
図3に示す。
図3にはモノトーンのX線CT画像が示されている。より黒い部分は樹脂成形品内でX線を透過しやすい部分であり、より白い部分は樹脂成形品内でX線を透過し難い部分である。X線CT画像には樹脂部分とフィラー部分と外形部、空隙部が含まれている。通常、樹脂部分はフィラー部分と比較してX線を透過しやすい。従って、
図3では、黒色部分が樹脂を表す傾向にあり、白色部分がフィラーを表す傾向にある。なお、下記の通り、X線CT画像にはノイズパターンも含まれることから、単純に黒色で表される部分が樹脂部分、白色で表される部分がフィラー部分であるとはいえない。
【0038】
樹脂部分とフィラー部分とはX線吸収率が異なるため濃淡のある画像が得られる。さらに、このようにX線吸収率の異なる複数の材料から構成されている樹脂試験片2のX線CT画像を得る場合、樹脂部分とフィラー部分との境界を挟んでX線吸収率が不連続的に変化する。このため、X線検出部12で得られる投影データにも不連続的(急峻)な変化が現れる。その結果、その一次元フーリエ変換像には不連続的な変化に起因する高周波成分が大きく現れる。この高周波成分に起因する数値計算誤差により、画像処理部15から得られる再構成画像にはアーチファクトと呼ばれる虚像(ノイズパターン)が出現する。このノイズパターンもX線CT画像に含まれる。このノイズパターンはX線CT画像を用いて流体浸透挙動を予測する上で大きな障害となっている。
【0039】
本実施形態においては、特許文献3に示されている樹脂部、フィラー部のみを特定の狭い画素数範囲で解析するのではなく、さらに外形部、空隙部も計算に加える。そのため、要素数が膨大になりやすく、計算に長時間要する傾向にある。そこで、以下のステップS2において、得られたX線CT画像を編集して要素数を削減する。
【0040】
[X線CT画像編集ステップS2]
X線CT画像編集ステップS2は、ステップS1で取得したX線CT画像を編集して、ステップS9における計算に要する要素数を削減した編集画像を複数得るX線CT画像編集ステップである。すなわち、ステップ2においては、後に示す浸透状態計算ステップS9にて計算可能な要素数に制限するため、得られたX線CT画像を編集し、なるべく外形部分が少なくなるように画像を回転、トリミングなどを行う。
【0041】
必要に応じて、対称的な形状の場合、形状の対称性に応じて2分の1モデル、4分の1モデルを用いる。そのため、不要な部分を画像の段階で削減することが望ましい。
【0042】
更に、外形部に対しては、要素作成しないが、空隙部と外形部は画素の明暗度が同じレベルとなる。外形部と空隙部の区別のため、画面の段階で編集し、手動で色分けすることで、後のステップにおける作業時間を短縮することが望ましい。
【0043】
[閾値決定ステップS3]
閾値決定ステップS3は、複数の編集画像から1又は2以上の編集画像を選択し、選択した編集画像においてフィラーの割合が所定の割合Aになるように、フィラーと樹脂部分と外形部分と空隙部分とを判別するための画像濃度閾値を決定するステップである。すなわち、ステップ3は、X線CT画像編集ステップS2で得られた編集画像の画像濃度において、どの程度の濃さの部分(どの程度黒い部分)までを樹脂部分と予測し、どの程度の薄さの部分(どの程度白い部分)までをフィラー部分、空隙部分と予測するための画像濃度の閾値を決定するステップである。
【0044】
ステップ3では、先ず、閾値を決定するための編集画像を選択する。選択する編集画像は、一又は二以上の編集画像である。先ず、一枚の編集画像から閾値を決定する過程を、具体的に
図4のフローチャートを用いて説明する。なお、閾値決定方法は下記の方法に限定されるものではない。
【0045】
X線CT画像は、上記の通り
図3に示されるような画像であり、白色の部分、黒色の部分、灰色の部分が含まれている。このX線CT画像は、上記閾値決定ステップS3で画像濃度を明度についての階調数(256階調)で表したものである。閾値となる階調数を境に樹脂部分として予測する部分と、フィラー部分として予測する部分、および外形部分と空隙部分に分ける。
【0046】
なお、外形部分と空隙部分は同一閾値となるため、X線CT画像を手動で編集することで外形部分を色分けする。
【0047】
先ず、
図4に示すように所定の階調数を閾値に設定する(第1ステップSS1)。次いで、第1ステップで設定した閾値から、上記のように選択した編集画像を三値化する(第2ステップSS2)。三値化した編集画像中に樹脂部分とフィラー部分との含有割合を計算する(第3ステップSS3)。第3ステップで得られた樹脂部分又はフィラー部分の含有割合と、実際の樹脂成形品内のフィラーの割合(所定の割合)又は樹脂の割合とを比較し、第1ステップで設定した閾値が適切か否かを判断する(第4ステップSS4)。第4ステップの結果から、第1ステップで設定した閾値が適切な閾値と判断できるものであれば、第1ステップで設定した閾値を樹脂部分とフィラー部分と外形部分と空隙部分を判別するための画像濃度閾値として決定する(SS6)。第1ステップで設定した閾値が適切な閾値であると判断できない場合には、閾値を変更する(第5ステップSS5)。第5ステップで閾値を変更後、再び第2ステップに戻る。第4ステップで適切な閾値と判断できるまで、第5ステップ、第2ステップ、第3ステップ、及び第4ステップを繰り返し行う。
【0048】
第1ステップでは、所定の階調数を閾値に設定する。第4ステップで適切な閾値であるか否かを判断するため、第1ステップではどのような値を閾値と設定しても問題がない。このため、この閾値を設定する際の設定方法は特に限定されず、例えば、目視等により閾値になりそうなおよその値を閾値として設定することができる。
【0049】
第2ステップでは、第1ステップで設定した閾値から、選択した一枚の編集画像を三値化する。例えば、後述する画像変換ステップと同様の方法で編集画像を三値化したスライス画像(三値化画像)に変換する。三値化画像を
図5に示した。
図5の詳細については後述する。
【0050】
第3ステップでは、三値化した編集画像中に樹脂部分とフィラー部分との含有割合を計算する。例えば、三値化した編集画像から、樹脂部分とフィラー部分との面積比を計算する方法で樹脂部分の含有割合とフィラー部分との含有割合とを計算することができる。含有割合は量比等で表すこともできるが、本実施形態では、このような面積比を用いる計算方法で上記含有割合を算出することが好ましい。
【0051】
第4ステップでは、第3ステップで得られた樹脂部分又はフィラー部分の含有割合と、実際の樹脂成形品内のフィラーの割合(所定の割合)又は樹脂の割合とを比較し、ステップ1で設定した閾値が適切か否かを判断する。「樹脂成形品内のフィラーの割合(所定の割合)又は樹脂の割合」とは、量から決定される割合、体積から決定される割合等であり、どのような割合であるかは特に限定されないが、樹脂組成物を調製する際における樹脂及びフィラーの仕込み比から計算した体積比を用いて各成分の割合を表すことが好ましい。樹脂成形品内の樹脂部分の体積とフィラー部分の体積との比が予め分かっていない場合には、樹脂成形品の比重を計測し、樹脂の比重、フィラーの比重より計算する方法で求めることができる。
【0052】
特に、第4ステップでは、第3ステップで樹脂部分又はフィラー部分の割合を面積比で表したものと、実際の樹脂成形品内の樹脂部分又はフィラー部分の割合を体積比で表したものとを比較することが好ましい。実際の樹脂成形品内の樹脂部分の占有体積、フィラー部分の占有体積との比と、三値化した編集画像内での樹脂部分の占有面積とフィラー部分の占有面積との比を比較することで、より適切な閾値を求めることができる。
【0053】
さらに、第3ステップで得られた各成分の含有割合と、樹脂成形品内のフィラーの割合(所定の割合)又は樹脂部分の割合との比較からステップ1で設定した閾値が適切な値であるか否かを判断する。本実施形態の特徴の一つは、「X線CT画像においてフィラーの割合が実際の樹脂成形品に含まれるフィラーの所定の割合Aになるように、フィラーと樹脂部分とを判別する閾値を決定すること」であり、この第4ステップがこの具体的な閾値を決定するステップに当たる。即ち、三値化した編集画像から計算した樹脂部分又はフィラー部分の含有割合と、実際の樹脂成形品内のフィラーの割合(所定の割合)又は樹脂の割合とを比較し、閾値が適切か否かを判断する点が本実施形態の特徴の一つである。例えば、第3ステップで各成分の割合を面積比で表し、樹脂成形品内のフィラーの割合(所定の割合)及び樹脂の割合を体積比で表したとすると、この面積比と体積比とが一致すれば閾値は適切な値であると判断できる。また、面積比と体積比とが異なる場合であっても、その差が微差であると判断できる場合には、第1ステップで設定した閾値は適切であると判断することがきる。どの程度の差が「微差」に当たるかは、対象となる樹脂成形品の種類等によって異なるものの、樹脂部分又はフィラー部分の割合同士を比較した場合に差が0.5%以内であれば適切な閾値と判断できる。
【0054】
第1ステップで設定した閾値が、適切な閾値と判断された場合には、この閾値を画像濃度閾値として次の画像変換ステップに進む。一方、第1ステップで設定した閾値が、適切な閾値と判断されなかった場合には、第5ステップに進み閾値を変更する。
【0055】
第5ステップでは、第4ステップにおいて設定した閾値が適切でないと判断された場合に閾値を変更する。第4ステップで樹脂部分が多くなりすぎるために適切な閾値でないと判断された場合には、樹脂部分が少なくなるように閾値を変更し、第4ステップでフィラー部分が多くなりすぎるために適切な閾値でないと判断された場合には、フィラー部分が少なくなるように閾値を変更する。通常、樹脂部分はフィラー部分と比較して、X線を透過しやすいため白色(明るい色)になる。従って、ステップ1で設定した閾値では樹脂部分が多くなり過ぎる場合には、より暗い階調数が閾値になるように変更する。一方、第1ステップで設定した閾値ではフィラー部分が多くなり過ぎる場合には、より明るい階調数が閾値になるように変更する。
【0056】
閾値を変更し、その閾値を用いて、さらに第2ステップから第4ステップを行う。変更した閾値が第4ステップで適切な閾値と判断された場合には、この変更した閾値を画像濃度閾値として次の画像変換ステップに進む。一方、適切な閾値と判断されなかった場合には、さらに閾値を変更し、適切な閾値が得られるまで第5ステップ(閾値の変更)、第2ステップ(変更した閾値を用いて編集画像を三値化画像に変換)、第3ステップ(三値化した編集画像から各成分の割合を計算)、第4ステップ(閾値が適切か否かの判断)を繰り返し行う。
【0057】
ステップ3では、例えば、上記のようにして画像濃度閾値を決定する。また、以下、複数の編集画像を用いて画像濃度閾値を決定する方法について説明する。
【0058】
複数の編集画像のそれぞれについて、画像濃度閾値を決定する。例えば、
図4に示すような上記第1ステップSS1から第5ステップSS5の方法で各編集画像について画像濃度閾値を決定することができる。このように複数の編集画像のそれぞれについて画像濃度閾値を求め、これらの画像濃度閾値の値から次の画像変換ステップに用いる画像濃度閾値を決定することでより適切な画像濃度閾値を決定することができる。
【0059】
上記複数の編集画像それぞれについての画像濃度閾値から画像変換ステップS4に用いる画像濃度閾値を決定する方法は特に限定されないが、求めた全ての画像濃度閾値を平均した値(画像濃度閾値の平均値)を画像変換ステップS4に用いる画像濃度閾値とする方法が好ましい。
【0060】
上記の通り、X線CT画像には樹脂部分、フィラー部分、空隙部分、外形部分、ノイズパターンが含まれる。本実施形態の流体浸透挙動の予測方法の大きな特徴の一つは、X線CT画像に含まれるノイズパターンも含めて樹脂部分とフィラー部分、外形部分、空隙部分とを分ける閾値を、編集画像において上記フィラーの割合が実際に樹脂成形品に含まれるフィラーの割合(所定の割合)になるように、フィラー部分と樹脂部分とを判別するための画像濃度閾値を決定することで、適切に樹脂成形品内でのフィラーの配向、配置状態を予測することができる点である。
【0061】
また、空隙部の周囲あるいは内部には微小な樹脂部、フィラー部が含まれる場合があり、適切な境界条件を与えないと計算がエラーとなる場合がある。このような微小な樹脂部、フィラー部数が多い場合には拘束条件を与える場合に多大な時間がかかる。また、空隙部を樹脂部に設定した場合、フィラー含有率が異なり、計算精度が悪くなる。本実施形態の流体浸透挙動の予測方法の特徴として、解析精度が良くなることが挙げられる。
【0062】
また、編集画像により、外形部をモデル化することにより、不均一な肉厚を有する場合でも外形の影響を精度良く考慮が可能となることで、解析精度が良くなることが挙げられる。
【0063】
[画像変換ステップS4]
画像変換ステップS4は、画像濃度閾値と、1又は2以上の編集画像の各画素の画素濃度とに基づいて、1又は2以上の編集画像を複数の三値化画像に変換するステップである。編集画像を三値化画像に変換する方法は特に限定されないが、上記閾値決定ステップで求めた閾値にて3色以上にて表示する方法等が挙げられる。
【0064】
より具体的には、閾値決定ステップS3で決定した各画素での画像濃度と上記画像濃度閾値とを比較して、それぞれの画素について、画素の画像濃度が画像濃度閾値以上の場合には白色を、画素の画像濃度が画像濃度閾値未満の場合には黒色を表示した三値化画像を
図5に示した。
図5に示す三値化画像は樹脂部分が黒色、フィラー部分が白色で、外形部分が斜線、空隙部分は市松模様で表されている。
図5において、(a)図内の領域Xを拡大したのが(b)図である。(b)図において、外表面20と市松模様部22が確認できる。
【0065】
上記X線CT画像取得ステップS1で説明した通り、X線CT画像は、所定の方向に所定の間隔で取得する。従って、X線CT画像及び編集画像は所定の厚みを有する。上記の三値化画像から編集画像表面での樹脂部分とフィラー部分との予測はできているが、三次元モデルを再構成するためには、編集画像の厚み方向の各位置で樹脂部分又はフィラー部分を予測する必要がある。厚み方向の各位置での予測方法は特に限定されないが、例えば、各編集画像において、表面で樹脂部分と予測した場合には、厚み方向は全て樹脂部分と予測し、表面でフィラー部分と予測した場合には、厚み方向は全てフィラー部分と予測する方法が好ましい。特に、この予測方法と、X線CT画像取得ステップで説明した通りX線CT画像(編集画像)の間隔を20μm以下に設定することとを組み合わせることで、より正確な三次元モデルを容易に得ることができる。
【0066】
[有限要素モデル作成ステップS5]
有限要素モデル作成ステップS5は、複数の三値化画像を順次積層し樹脂成形品のX線CT画像取得部分の有限要素モデルを再構成するステップである。上述のX線CT画像取得ステップS1から閾値決定ステップS3までを行った後、流体浸透解析の対象となる樹脂成形品の形状定義を行う。
【0067】
あらかじめ、外形部を除く樹脂部、フィラー部、空隙部の最大画素数幅、最大画素数長さ、X線CT画像(編集画像)の枚数を計測しておく。また、測定時の画素数間隔を記録しておく。
【0068】
画素数幅、長さ、枚数、およびその間隔に応じて節点を作成し、節点を8点組み合わせ、六面体一次要素を作成する。
【0069】
[要素属性設定ステップS6]
要素属性設定ステップS6は、有限要素モデルにおける、樹脂部、フィラー部、空隙部、及び外形部のうちのいずれかの属性を、三値化画像から得られるフィラーと樹脂部分と外形部分と空隙部分との情報を元に設定し、少なくともフィラー部及び空隙部の配置状態を取得するステップである。要素はそれぞれのX線CT画像(編集画像)内と1対1に対応しているため、X線CT画像にて決定された画素における樹脂部、フィラー部、空隙部、外形部を読み取り、位置関係が対応している要素にそれぞれ属性として樹脂部、フィラー部、空隙部、外形部を与える。なお、外形部は解析には用いないので、属性を与えず要素を削除してもよい。外形部を除いた有限要素モデルを
図6に示した。(a)図において、樹脂部が黒色、フィラー部は灰色で示している。空隙部はモデル内部にあるため、別途(b)図に示した。
【0070】
ここで、拡散挙動の解析には要素のそれぞれの属性に応じて物性値を与えるとともに、境界条件が必要となる。薬液浸透の挙動は、下記式(a)に示されるFickの拡散方程式に従うものとする。
【0071】
【数1】
(式(a)中、Cは濃度、Dは拡散係数、tは時間、xは位置である。)
【0072】
Fickの拡散方程式は、ポアソン方程式とも呼ばれ、非定常熱伝導方程式と同形であるため、例えば伝熱解析を行うことで、流体の拡散に関する挙動を予測することができる。より具体的には、流体の濃度を温度に置き換え、伝熱解析に用いられる比熱と密度の積と熱伝導率間の比率を拡散係数Dに置き換えることにより、簡単な実験と計算によって予測することができる。さらに、樹脂の結晶化度が高いほど拡散係数Dは小さくなるため、Fickの拡散方程式を用いることで、樹脂の結晶化度による影響も考慮することができる。
【0073】
流体浸透状態の計算は、濃度を熱に置き換えることにより、公知の構造解析用計算プログラムを用いることができる。より具体的には、Ansys Inc.社製のANSYS、Dassault Systems S.E社製のABAQUS等を用いることができる。
【0074】
次の2つのステップ(ステップS7、S8)において、属性に応じた要素の物性値の設定及び境界条件の設定を行う。
【0075】
[要素物性設定ステップS7]
要素物性設定ステップS7は、有限要素モデルの属性に応じて計算に要する物性値を設定するステップである。すなわち、要素のそれぞれの属性に応じて物性値を与える。
【0076】
本実施形態において、拡散係数を算出するには、有限要素モデルの属性に応じて計算に要する物性値として、比熱、熱伝導率、密度が必要であるが、比熱を1(J/kg・s)及び密度を1(kg/mm3)として、熱伝導率に拡散係数値を入力することができる。
【0077】
一方、体積膨張率を算出するには、異方性弾性率、ポアソン比、せん断弾性率及び異方性線膨張率のうちの少なくとも1つを設定する。そして、構造解析を行い、温度荷重を与え、フィラー長手方向に沿った方向、フィラー長手方向に垂直となる方向の寸法変化から飽和膨潤時の膨潤量を得る。樹脂部においては、弾性率、せん断弾性率、ポアソン比、線膨張率それぞれについては、等方性としても計算可能であるが、より解析精度を高めるためには異方性物性値を入力することが望ましい。
【0078】
[境界条件設定ステップS8]
境界条件設定ステップS8は、有限要素モデルに対して計算に要する境界条件を設定するステップである。
【0079】
本実施形態において、拡散係数を算出するには、計算に必要な境界条件として初期条件温度を0℃、外表面部に対して固定温度100℃を与える。そして有限要素法に基づく計算により、従来公知の方法で所望の浸漬時間における温度分布を得ることができる。
【0080】
一方、体積膨張率を算出するには、計算に必要な境界条件としてS7にて作成した有限要素モデル全体に温度荷重100℃を与える。また、自由膨張を仮定した境界条件として、各方向の切断面にて面に垂直になる方向に拘束する。そして有限要素法に基づく計算により、従来公知の構造解析用計算プログラムを用いることができる。より具体的には、Ansys Inc.社製のANSYS、Dassault Systems S.E社製のABAQUS等を用いることができる。
【0081】
なお、X線CT装置の解像度によっては、要素分割数が多大となり、用いる有限要素法のソフトの仕様によっては解析自体が不可、あるいは多大な時間を要する場合がある。有限要素法ソフトの仕様、計算するコンピュータシステムの仕様、計算コストに応じてモデル化範囲を小さくする必要がある。
【0082】
[要素物性設定ステップS7及び境界条件設定ステップS8のまとめ]
以上のステップS7及びステップS8は、上記の通り、拡散係数を算出する場合と、体積膨張率を算出する場合とで、それぞれ与える条件が異なる。そこで、それぞれの場合について以下にまとめて記す。
拡散係数を算出する場合、ステップS7において比熱および密度を1とし、熱伝導率に拡散係数値を設定し、ステップS8における境界条件として、初期条件温度を0℃、外表面部に固定温度100℃を設定する。
また、体積膨張率を算出する場合、ステップS7における物性値を、異方性弾性率、ポアソン比、せん断弾性率及び異方性線膨張率のうちの少なくとも1つとし、ステップS8における境界条件として、製品全体に温度荷重を与える。
【0083】
[浸透状態計算ステップS9]
浸透状態計算ステップS9は、有限要素モデル作成ステップS5で得られる熱伝導解析用モデルに基づいて、要素属性設定ステップS6で得られるフィラー部、空隙部の配置状態と、要素物性設定ステップS7で設定した拡散係数と、境界条件設定ステップS8で設定した境界条件とにより構造解析ソフトウェアのプログラムを実行して熱伝導解析を行い、樹脂成形品における濃度分布を算出するステップである。
浸透状態計算ステップS9の計算結果から、フィラー含有樹脂成形品の濃度分布又はフィラー含有樹脂成形品の膨潤による変形をシミュレートすることができる。
【0084】
以下では異方性を有する膨潤状態の計算方法について示す。
【0085】
本実施形態における流動解析用モデル及び構造解析用モデルの要素分割や、流体浸透量、膨潤状態の計算は、ソフトウェアとハードウェア資源(計算機)とが協働することによって実現されることが好ましい。
【0086】
図7は、一連の解析プログラムを実現するためのハードウェア資源の一例を示す。
図7に示すハードウェア資源は、情報処理装置30と、設計者からの各種要求を受け付ける入力装置60と、情報処理装置30が行った解析結果を出力する出力装置62とを備えている。また、情報処理装置30は、LAN(Local Area Network)等のネットワークインターフェイス64を介して、X線CT出力装置66に接続されている。
【0087】
情報処理装置30は、CPU(Central Processing Unit)32と、RAM(Random Access Memory)等により構成される主記憶装置33と、入力装置60及び出力装置62との間でデータ授受を行うI/Oインタフェース58と、ハードディスク等により構成される補助記憶装置40と、ネットワークNWに接続されている装置との間で行うデータ授受の制御を行うネットワークインターフェイス(NWインタフェース)64と、を備える。
【0088】
補助記憶装置40には、上述した一連のステップを情報処理装置30に実行させるための解析プログラム42が格納されている。解析プログラム42は、X線CT画像編集プログラム44と、閾値設定プログラム46と、画像変換プログラム48と、有限要素モデル作成プログラム50と、要素物性設定プログラム52と、境界条件設定プログラム54と、浸透状態計算プログラム56とを含んで構成される。本実施形態に係る構造解析方法は、CPU32が補助記憶装置40に格納されている解析プログラム42を主記憶装置33にロードして実行することにより実現される。
【0089】
上記の実施形態では、X線CT画像取得ステップS1から浸透状態計算ステップS9に至るまでの各ステップは、複数のプログラムが組み合わせられて実行されることで行われているが、これに限られることなく、最初から一体として構築されたプログラムでもよく、また、実行されるコンピュータの形態や規模、設置場所等も限定されるものではない。
【0090】
<プログラム>
本実施形態のプログラムは、以上の本実施形態のフィラー含有樹脂成形品内の流体浸透挙動の予測方法の各ステップを計算機に実行させるプログラムである。すなわち、
図7において説明した解析プログラムが、本実施形態のプログラムに相当する。従って、本実施形態のプログラムについては既に説明したので、ここでは説明を省略する。
【実施例0091】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0092】
[実施例1~2]
《X線CT画像取得ステップS1》
実施例1及び2において、それぞれ、ガラス繊維の含有率が10質量%、40質量%の樹脂成形品を準備した。具体的には、ガラス繊維10質量%、40質量%含有する強化ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を、射出成形により、ISO 527-1,2に準拠したダンベル状の試験片に成形した。当該試験片の形状を
図8に示す。
以下に、樹脂成形品の形状及び射出成形の際の成形条件を示す。
形状:ISO 527-1,2準拠 ダンベル状試験片 厚み 4mm 幅 10mm
長さ:170mm
金型温度:140℃
樹脂温度:320℃
充填率:28.5cm
3/s
保圧:50MPa/15sec
冷却時間:30sec
【0093】
〔重量変化率、体積膨張率の測定〕
先ず、試験片を180℃乾燥機中に2時間放置後、放冷した。次いで、100℃に保ったオートクレーブ上にて試験片をヨードベンゼン中に一定期間浸漬させた時の重量及び縦横幅の寸法変化率を測定した。試験片をヨードベンゼン中に浸漬させ取り出した後、23℃/50%Rhに24時間放置し、重量変化率および寸法変化率から計算した体積膨張率の浸漬時間依存性を測定した。
【0094】
〔拡散係数計算〕
重量変化率の浸漬時間依存性より、浸漬初期における重量変化率の時間依存性から重量変化率の時間に対する傾きmを求め式(b)から拡散係数を求めた。
【数2】
[式(b)中、Dは拡散係数[mm
2/s]、mは重量変化率の時間の平方根に対する傾き[1/√s]、lは距離[mm]であり、肉厚の半分の長さである。]
【0095】
次に、
図8に示すように、射出成形にて得られた樹脂成形品70を長さ20mmほどにて切り出し樹脂試験片70Aを作製し、X線CT装置による撮影により樹脂試験片のX線CT画像を取得した。樹脂試験片70AをX線CT装置の試料台に載せて撮影した。なお、撮影装置には市販のX線CT装置((株)コムスキャンテクノ社製 ScanXmate D090SS270)を用いた。撮影条件を以下に示す。
電圧:45kV
管電流:160mA
解像度:11μm
【0096】
《X線CT画像編集ステップS2》
次に、ステップS1で得られたX線CT画像の編集を行い、編集画像を得た。
図8に示すように樹脂試験片70Aは直方体状であり、計算する要素数を制限するため、外形部分が少なくなるように画像を回転、トリミングなどを行った。また、樹脂試験片70Aの形状は対称であるため、4分の1モデルを用いた。編集に際しては、画像処理ソフトImageJ(開発元 Wayne Rashand)を用いた。
【0097】
外形部と空隙部の区別のため、画面の段階で編集し、手動で色分けした。
図9に樹脂部、フィラー部は白黒256諧調、外形部は灰色(斜線)で示した。この段階では質量分率が決まっていないため、樹脂部、フィラー部、空隙部は明確に分かれていない。また、
図9に1/4モデルにおける画像使用領域を示す。
【0098】
《閾値決定ステップS3》
実施例1におけるガラス繊維の質量分率は10質量%であり、体積分率は5.57体積%である。また、実施例2におけるガラス繊維の質量分率は40質量%であり、体積分率は26.2体積%である。それぞれ、材料調製時の樹脂とフィラーの仕込み比から計算した。具体的には、以下の第1ステップ~第5ステップを行い、閾値を決定した。
第1ステップでは、暫定値にて閾値を設定し、第2ステップでは、第1ステップで設定した閾値から選択した一枚の編集画像を三値化した。第3ステップでは、第2ステップにて三値化した編集画像中の樹脂部分とフィラー部分との含有割合を計算し、第4ステップでは、第3ステップで得た樹脂部分又はフィラー部分の含有割合と、樹脂成形品の現物内の樹脂部分又はフィラー部分の含有割合、すなわち実施例1では体積分率5.57体積%、実施例2では体積分率26.2体積%とを比較し、第1ステップで設定した閾値が適切か否かを判断した。そして、適切な閾値と判断されなかった場合には、第5ステップに進み、各閾値(空隙と樹脂間、樹脂とフィラー間)を変更し、再び第2ステップに戻り、第4ステップで適切な閾値と判断できるまで(本ステップからの計算値と仕込み比から計算した値との差が0.5%以内になるまで)、第5ステップ、第2ステップ、第3ステップ、及び第4ステップを繰り返し行った。
【0099】
《画像変換ステップS4》
編集画像を三値化するために、画像を構成する各画素に対し、設定した画像濃度に関して、樹脂部とフィラー部を分ける閾値以上の明度を持つ場合に対してはフィラー部の物性を与え、樹脂部と外形部、空隙部を分ける閾値以上の明度を持つ場合に対しては樹脂部の物性を与え、それ未満を外形部、空隙部とし、各画素に色を割り当てた。
【0100】
《有限要素モデル作成ステップS5》
実施例1の場合、外形部を除く樹脂部、フィラー部、空隙部の最大画素数幅は195、最大画素数長さは360、編集画像の枚数は200であった。間隔は編集画像取得時の解像度を用いた。画素数及びその間隔に応じて節点を作成し、節点を8点組み合わせ、六面体一次要素を作成した。
【0101】
《要素属性設定ステップS6》
閾値決定ステップS3、画像変換ステップS4にて決定された画素における樹脂部、フィラー部、空隙部、外形部を読み取り、位置関係が対応している要素にそれぞれ属性として樹脂部、フィラー部、空隙部、外形部を与えた。以上の操作により得られた三値化した有限要素モデルを
図6に示した。
要素:六面体1次要素(要素数13858724)
【0102】
《要素物性設定ステップS7》
そして、三値化画像の一画素分の材料データを各要素に入力した。実施例1、2においては、等方性として、拡散係数5.0×10-6(mm2/s)を設定した。フィラー部、空隙部に対しては薬液が浸透しないと仮定して、樹脂部よりも十分小さい値1.0×10-30(mm2/s)を設定した。
物性値 比熱:1(J/kg・s)、熱伝導率:5.0×10-6(W/(mm・k))、密度:1(kg/mm3)
【0103】
《境界条件設定ステップS8》
境界条件として
図10にて斜線部で示す外表面部に対して固定温度100℃を与え、初期条件温度を0℃に設定した。
【0104】
《浸透状態計算ステップS9》
要素属性設定ステップS6で得たフィラー部、空隙部の配置状態と、要素物性設定ステップS7で得た拡散係数と、境界条件設定ステップS8で得た境界条件にて構造解析ソフトウェアのプログラムを実行して熱伝導解析を行い、フィラー含有樹脂成形品における流体の濃度分布を算出した。算出した流体の濃度分布からモデル全体の流体平均濃度を浸漬時間毎に計算した。計算結果を
図11に示す。
【0105】
上記の熱伝導解析における詳細な計算方法はVisual Basicによる数値解析プログラム、黒田英夫著、CQ出版、2002年4月20日、p118-149等にて周知であり、市販されている構造解析用計算プログラムで計算可能であるので、詳細説明は省略する。実施例1、2においては市販の構造解析用計算プログラムとして、(株)アライドエンジニアリング製のADVENTURE CLUSTERを用いた。
【0106】
実施例1の場合、計算時間は9072000秒の段階にて43分であった。
【0107】
[実施例3]
境界条件のみを変更したこと以外は、実施例1と同様にして
図10に示す有限要素モデル72を作成した。境界条件としては、
図10に示す外表面部に対して熱放射境界として、熱放射率を1に設定し、外気温度100℃、初期条件温度を0℃とした。
【0108】
計算時間は9072000秒の段階にて29時間であった。従って、境界条件として外表面を固定温度とした場合(実施例1)、計算時間が短縮されることが分かる。浸透状態の解析結果を
図12に示す。
図12に示す浸透状態の図は実施例1(
図12(b))も実施例3(
図12(a))も同様であるが、境界条件が異なるが故に浸透時間が異なる。
【0109】
[実施例4~5]
実施例4~5においては、ステップS1~S6までは実施例1と同様にして有限要素モデルを作成した。実施例4はガラス繊維の質量分率は10質量%、実施例5はガラス繊維の質量分率は40質量%である。次いで、樹脂部、フィラー部、空隙部それぞれに下記表1に示す弾性率、ポアソン比、線膨張率を入力した。樹脂部に対しては異方性物性を入力した。
【0110】
【0111】
境界条件として
図13に示す有限要素モデル74のようにモデル切断面に対し垂直な方向(X、Y、Z方向)を拘束した。有限要素モデル全体に温度荷重100℃を与えた。
【0112】
評価として、拘束していない面の角部の寸法変化から体積膨張率を算出して、飽和膨潤時における体積膨張率実測値と比較した。実施例4の場合の変形量分布図を
図14に示す。
【0113】
<実測値との比較>
図15に、測定した重量変化率の時間依存性から算出した拡散係数と、実施例1,2で得られた拡散係数とをグラフで示す。
図15に示す通り、実施例1、2において予測された流体の浸漬に伴うフィラー含有樹脂成形品の流体浸透時の拡散係数のフィラー質量依存性の傾向は、実測値とほぼ一致した。
【0114】
図16に、飽和膨潤時の体積膨張率の測定値と、実施例4、5で得られた体積膨張率とをグラフで示す。
図16に示す通り、実施例4、5において予測された流体の浸漬に伴うフィラー含有樹脂成形品の流体浸透時の体積膨張率のフィラー質量依存性の傾向は、実測値と同様であった。
【0115】
以上より、本実施形態の樹脂成形品内の流体浸透挙動の予測方法によれば、流体浸漬に伴うフィラー含有樹脂成形品の拡散係数の予測、及び、膨潤に伴う体積膨張率の予測が可能であることが分かる。