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特開2024-39216樹脂成形品中における充填材の配向状態の解析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039216
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】樹脂成形品中における充填材の配向状態の解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/046 20180101AFI20240314BHJP
【FI】
G01N23/046
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143601
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】青木 現
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA11
2G001CA01
2G001DA09
2G001HA07
2G001HA13
2G001HA14
2G001JA08
2G001LA05
2G001MA05
2G001PA12
(57)【要約】
【課題】繊維状充填材等の充填材を含む樹脂成形品中における充填材の配向状態を、簡易で、かつ、実用的な精度で解析が可能な解析方法を提供する。
【解決手段】充填材を所定の割合で含む樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品の少なくとも一部について所定の方向にスライス画像を取得するスライス画像取得ステップと、スライス画像から一又は二以上のスライス画像を選択し、該選択したスライス画像に対して、フーリエ変換を施すことによりパワースペクトル画像を取得するパワースペクトル画像取得ステップと、パワースペクトル画像に基づいて、各パワースペクトル画像における充填材の配向状態を解析して数値化する配向状態解析ステップと、を有する、樹脂成形品中における充填材の配向状態の解析方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填材を所定の割合で含む樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品の少なくとも一部について所定の方向にスライス画像を取得するスライス画像取得ステップと、
前記スライス画像から一又は二以上のスライス画像を選択し、選択したスライス画像に対してフーリエ変換を施すことによりパワースペクトル画像を取得するパワースペクトル画像取得ステップと、
前記パワースペクトル画像に基づいて、前記パワースペクトル画像における充填材の配向状態を解析して数値化する配向状態解析ステップと、
を有する、樹脂成形品中における充填材の配向状態の解析方法。
【請求項2】
前記配向状態解析ステップにおいて、前記パワースペクトル画像中の任意の位置における画素の明暗度から、下記数式1、下記数式2、及び下記数式3を用い、下記数式4に示す2次元テンソルTを求める、請求項1に記載の樹脂成形品中における充填材の配向状態の解析方法。
【数1】
[数式1~4中、F(x,y)は、画像のX位置、Y位置における画素の濃度を示し、x及びyはそれぞれ画素の横方向、縦方向の位置を示す。]
【請求項3】
前記配向状態解析ステップにおいて、前記2次元テンソルTから固有値a、b及び固有ベクトルを求め、前記固有値a、bから配向度を、前記固有ベクトルから配向角を求める、請求項2に記載の樹脂成形品中における充填材の配向状態の解析方法。
【請求項4】
前記配向状態解析ステップにおいて、前記固有値a、bの2成分から下記数式5に示す相対配向度を求める、請求項3に記載の樹脂成形品中における充填材の配向状態の解析方法。
相対配向度=a/b ・・・数式5
[数式5中、固有値a、bはa≧bである。]
【請求項5】
前記数式4における成分XX、YYを用いて下記数式6に示すX方向成分強度DX、下記数式7に示すY方向成分強度DYを求める、請求項3に記載の樹脂成形品中における充填材の配向状態の解析方法。
【数2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品中における充填材の配向状態の解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂製品(樹脂成形品)の設計期間短縮や試作費用の低減を目的として、各種樹脂製品の機械的強度試験等を数値解析法によって代用する試みが、様々な樹脂製品の設計現場において取り入れられている。
【0003】
数値解析法を用いない場合の問題点としては、機械的強度試験が樹脂製品やその試作品の破壊を伴う試験の場合、試験回数分の試作品を用意する必要があることや、樹脂製品の設計の時間的な制約により、試験のやり直しがきかない場合があること等が挙げられる。このため、樹脂製品の設計現場においては、樹脂製品の機械的強度試験等を数値解析法によって代用することが重要な課題となっている。
【0004】
特に、繊維状充填材等の充填材が含まれる樹脂組成物を用いて作製した樹脂製品では、繊維状充填材等の充填材の配向を考慮して強度を予測する必要がある。しかし、充填材の配向を考慮した強度の予測が十分にできない場合、その原因が、繊維配向状態の予測精度にあるか、又は繊維配向から物性値を予測する方法の精度にあるか、判別が難しい。このため、数値解析による予測は精度が懸念される。
【0005】
この充填材の配向を分析するための方法としては、特許文献1、2に記載されているような、X線CTを用いた方法が挙げられる。それとは反対に、非特許文献1に記載されているような、X線CTを用いず、切削加工などで、物理的に断面を形成し、SEM等の画像撮影から配向角、配向度を計算する方法が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-002547号公報
【特許文献2】特許第5844921号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Fiber orientation in injection-molded composites: A comparison of theory and experiment RANDY S. BAY Et al. POLYMER COMPOSITES, AUGUST 1992, Vol. 13, No. 4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された方法の問題点は、2値化プロセス、及び配向角、配向度を求める際に多大な時間を要すること、並びに画像を2値化する際に閾値設定が難しく、画像測定方法、閾値設定方法に依存して配向角、配向度が変わることが挙げられる。そのため、数値解析方法として、Autodesk社製、Moldflow Insight等にて求められる繊維配向の解析精度の検証が困難となっていた。
【0009】
また、特許文献2に記載された方法の問題点は、仮想円柱にフィッティングさせる際に多大な時間を要する上、繊維が湾曲している状態の配向度、配向角計算精度が懸念されることである。
【0010】
さらに、非特許文献1に記載された方法の問題点は、断面観察用のサンプル作成に多大な時間を要するとともに、切削する方向の解像度を幅広くする必要があり、切削する方向の分解能が劣ることが挙げられる。
【0011】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、繊維状充填材等の充填材を含む樹脂成形品中における充填材の配向状態を、簡易で、かつ、実用的な精度で解析が可能な解析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、X線CTで得られた樹脂成形品の画像に対し、時間を要する画像処理及びデータ処理を省き、樹脂成形品中における充填材の配向の傾向を、実用的な精度、処理時間にて解析可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)充填材を所定の割合で含む樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品の少なくとも一部について所定の方向にスライス画像を取得するスライス画像取得ステップと、
前記スライス画像から一又は二以上のスライス画像を選択し、選択したスライス画像に対してフーリエ変換を施すことによりパワースペクトル画像を取得するパワースペクトル画像取得ステップと、
前記パワースペクトル画像に基づいて、前記パワースペクトル画像における充填材の配向状態を解析して数値化する配向状態解析ステップと、
を有する、樹脂成形品中における充填材の配向状態の解析方法。
【0014】
(2)前記配向状態解析ステップにおいて、前記パワースペクトル画像中の任意の位置における画素の明暗度から、下記数式1、下記数式2、及び下記数式3を用い、下記数式4に示す2次元テンソルTを求める、前記(1)に記載の樹脂成形品中における充填材の配向状態の解析方法。
【0015】
【数1】
[数式1~4中、F(x,y)は、画像のX位置、Y位置における画素の濃度を示し、x及びyはそれぞれ画素の横方向、縦方向の位置を示す。]
【0016】
(3)前記配向状態解析ステップにおいて、前記2次元テンソルTから固有値a、b及び固有ベクトルを求め、前記固有値a、bから配向度を、前記固有ベクトルから配向角を求める、前記(2)に記載の樹脂成形品中における充填材の配向状態の解析方法。
【0017】
(4)前記配向状態解析ステップにおいて、前記固有値a、bの2成分から下記数式5に示す相対配向度を求める、前記(3)に記載の樹脂成形品中における充填材の配向状態の解析方法。
相対配向度=a/b ・・・数式5
[数式5中、固有値a、bはa≧bである。]
【0018】
(5)前記数式4における成分XX、YYを用いた下記数式6に示すX方向成分強度DX、下記数式7に示すY方向成分強度DYを求める、前記(3)に記載の樹脂成形品中における充填材の配向状態の解析方法。
【数2】
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、繊維状充填材等の充填材を含む樹脂成形品中における充填材の配向状態を、簡易で、かつ、実用的な精度で解析が可能な解析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】X線CT測定装置の模式図である。
図2】X線CT装置により撮影された樹脂成形品の画像の全体を示す図である。
図3】X線CT装置により撮影された樹脂成形品のスライス画像を示す図である。
図4図3に示す画像に対してフーリエ変換を施すことで得た(a)パワースペクトル画像、及び(b)パワースペクトル画像を座標に配置した状態を示す図である。
図5図3に示す画像に対してフーリエ変換を施すことで得た(a)パワースペクトル画像、(b)配向角の導出方法について説明する図である。
図6】実施例において用いた樹脂成形品の形状を示す斜視図である。
図7図5に示すパワースペクトル画像における、固有値(a、b)、配向角と主固有ベクトルの一例を示す図である。
図8】樹脂成形品の肉厚方向の位置に対する繊維状充填材の配向角の分布の一例を示すグラフである。
図9】樹脂成形品の肉厚方向の位置に対する繊維状充填材の配向度の分布の一例を示すグラフである。
図10】樹脂成形品の肉厚方向の相対位置に対するY方向成分強度分布を示すグラフである。
図11】Y方向成分強度平均値と引張強度との相関を示すグラフである。
図12図3に示す画像に対して2値化を施した図である。
図13図12示す画像に対してフーリエ変換を施すことで得たパワースペクトル画像を示す図である。
図14】X線CT画像を2値化した場合における、樹脂成形品の肉厚方向の位置に対する繊維状充填材の配向角の分布を示すグラフである。
図15】X線CT画像を2値化した場合における、樹脂成形品の肉厚方向の位置に対する繊維状充填材の配向度の分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施形態の樹脂成形品中における充填材の配向状態の解析方法(以下、「本実施形態の解析方法」と略すことがある。)は、充填材を所定の割合で含む樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品の少なくとも一部について所定の方向にスライス画像を取得するスライス画像取得ステップと、スライス画像から一又は二以上のスライス画像を選択し、選択したスライス画像に対してフーリエ変換を施すことによりパワースペクトル画像を取得するパワースペクトル画像取得ステップと、パワースペクトル画像に基づいて、前記パワースペクトル画像における充填材の配向状態を解析して数値化する配向状態解析ステップと、を有することを特徴としている。
【0022】
本実施形態の解析方法について説明する前に、先ず、解析する対象となる樹脂成形品について説明する。樹脂成形品は、樹脂材料と充填材とを含む樹脂組成物を成形してなり、樹脂部分と充填材部分とが含まれる。以下、樹脂部分に含まれる樹脂材料、及び充填材部分に含まれる充填材について説明する。
【0023】
[樹脂材料]
本実施形態の解析方法では、従来公知の様々な樹脂材料用いて、解析対象となる樹脂成形品を作製することができる。また、複数の樹脂をブレンドした樹脂混合物も上記樹脂材料に含まれる。
【0024】
[充填材]
上記の通り、樹脂成形品は充填材を所定の割合で含む。充填材の種類は、樹脂と充填材の境界がはっきりと判り易くX線透過率が低い無機系の充填材が好ましい。従来公知の無機充填材として、繊維状充填材、粉粒状充填材、板状充填材等が挙げられる。
好ましい繊維状充填材として、例えば、ガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等の無機質繊維状物質が挙げられる。
また、粉粒状充填材としては、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ミルドガラスファイバー、ガラスバルーン、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、ウォラストナイトの如き珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、アルミナの如き金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムの如き金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き金属の硫酸塩、その他フェライト、炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられる。
また、板状充填材としては、マイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔等が挙げられる。
【0025】
上記樹脂組成物には、核剤、着色剤、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤及び難燃剤等の添加剤を添加して、所望の特性を付与した樹脂組成物も含まれる。
【0026】
本実施形態において、樹脂成形品は、従来公知の成形方法で得ることができる。従来公知の成形方法としては、例えば、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形、押出成形、ブロー成形等種々の成形方法を挙げることができる。
【0027】
これらの中でも、繊維状充填材を含む樹脂成形品は、充填材の配向状態により物性等の異方性が大きい。その結果、より高い精度で繊維状充填材の配向を解析しなければ、解析結果を物性の評価に用いることができない。このため、従来の方法では、繊維状充填材を含む樹脂成形品を解析対象とする場合、解析精度を高めるためにより時間と手間がかかっている。一方、本実施形態の解析方法は、繊維状充填材を含む樹脂成形品を対象としても、解析精度を高めるための手間等をかけることなく、充填材の配向状態の傾向を適切に解析することができる。そのため、繊維状充填材を含む樹脂成形品を対象としても、その解析結果を物性の予測に使用することができる。上記繊維状充填材の中でもガラス繊維を含む場合は、特に充填材の配向状態を高い精度で解析しなければ、解析結果を物性の予測に使用することはできない。本実施形態の解析方法は、ガラス繊維を含む樹脂成形品を対象としても、解析精度を高めるための手間等をかけることなく、適切に充填材の配向状態の傾向を解析できる。
【0028】
また、充填材の含有量が多い場合、充填材が樹脂製品内で複雑に重なり合い、相互に大きく干渉し合う結果、従来の方法では、解析精度が大きく低下してしまい、解析結果を物性の予測に使用することができない。一方、本実施形態の解析方法は、充填材の含有量が多くても、容易、かつ、適切に充填材の配向状態の傾向を解析できるため、充填材の含有量が多い樹脂成形品を対象としても、解析結果を物性の予測に使用することができる。
【0029】
[その他の成分]
本実施形態において、樹脂組成物には、核剤、着色剤、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤及び難燃剤等の添加剤を添加して、所望の特性を付与した樹脂組成物も含まれる。
【0030】
[樹脂成形品の製造方法]
本実施形態に係る樹脂成形品は、従来公知の成形方法で得ることができる。従来公知の成形方法としては、例えば、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形、押出成形、ブロー成形等種々の成形方法を挙げることができる。
【0031】
<樹脂成形品中における充填材の配向状態の解析方法>
本実施形態の解析方法は、スライス画像取得ステップと、パワースペクトル画像取得ステップと、配向状態解析ステップとを有する。以下、本実施形態の解析方法の各ステップについて、さらに詳細に説明する。
【0032】
[スライス画像取得ステップ]
スライス画像取得ステップは、充填材を所定の割合で含む樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品の少なくとも一部について所定の方向に所定の間隔で一以上のスライス画像を取得するステップである。
【0033】
樹脂成形品の少なくとも一部について、所定の方向に所定の間隔で一以上のスライス画像を取得する。「少なくとも一部」とは、得られた樹脂成形品全体を充填材の配向状態を解析する対象としてもよいし、樹脂成形品の一部を充填材の配向状態を解析する対象としてもよいことを指す。例えば、樹脂成形品内の配向状態が一様な場合には、一部のみ配向状態を解析すれば、他の部分もその解析した一部と同様の配向状態であるとみなすことができる。また、ウエルド部等の脆弱部が予め分かっており、その部分のみの物性を評価したい場合には、その部分のスライス画像を一以上取得することで、全体のスライス画像を取得しなくても目的を達成できる。本実施形態の解析方法によれば、高い精度で樹脂成形品内の充填材の配向状態の傾向を容易に解析することができる結果、樹脂成形品の物性を容易に予測することができる。
【0034】
また、測定したい箇所が予め判明している等、必要がある場合には、スライス画像を取得する対象となる樹脂成形品から必要に応じて樹脂成形品を切り出し、スライス画像を取得するための樹脂試験片を作製する。なお、必要が無ければ、樹脂成形品から試験片を切り出す操作を行わず、樹脂成形品全体を、樹脂試験片として用いてもよい。
【0035】
スライス画像の取得方法は特に限定されないが、図1に示すようなX線CT装置1を用いて取得することができる。X線CT装置1は、樹脂試験片2にX線を照射するためのX線照射部11と、樹脂試験片2を透過したX線を投影データとして検出するX線検出部12と、樹脂試験片2を保持する試料台13と、試料台13を上下移動(図1中の矢印方向の移動)及び回転移動(図1中の白抜き矢印方向の移動)させるための回転駆動部14と、複数の角度方向の投影データをスライス画像として再構成する画像処理部15とを備える。
【0036】
X線照射部11は、樹脂試験片2にX線を照射させるための部位である。X線を照射できるものであれば特に限定されず、従来公知のX線照射装置を使用することができる。例えば、X線管等が挙げられる。X線照射部11では、樹脂試験片2に照射するX線の照射条件を調整することができる。X線の照射条件としては、例えば、管電流、X線照射時間等がある。本実施形態の解析方法では、X線の照射条件は特に限定されず、対象となる樹脂試験片の形状、含まれる樹脂の種類等に応じて適宜変更することができる。
【0037】
X線検出部12は、樹脂試験片2を透過したX線を電気信号に変換した後、投影データとして検出する部位である。X線検出部12は、樹脂試験片2を間に挟んでX線照射部11に対向するように配置される。
【0038】
試料台13は、樹脂試験片2にX線が照射されるように樹脂試験片2を保持するための部位である。試料台13はX線照射部11とX線検出部12との間に配置される。
【0039】
回転駆動部14は、試料台13を上下移動及び回転移動させて、樹脂試験片2に複数の角度方向からX線を照射させるための部位である。回転駆動部14は、試料台13に接続されている。回転駆動部14により、樹脂試験片2内の様々な位置に対して複数の方向からX線を照射できる。その結果、様々な角度から樹脂試験片2を透過したX線について、それぞれの投影データを得ることができる。
【0040】
画像処理部15は、複数の角度方向の投影データをスライス画像として再構成する部位である。画像処理部15はX線検出部12に接続されている。X線検出部12で検出された投影データが画像処理部15に送られ、従来公知の画像処理を行うことでスライス画像が得られる。従来公知の画像処理方法とは、例えば、各方向の投影データを1次元フーリエ変換し、これらを合成して2次元フーリエ変換像を作成してこれを逆フーリエ変換して再構成画像を得る方法が挙げられる。
【0041】
上記のような方法で得られたスライス画像は、樹脂成形品内での所定の方向における所定の間隔でのスライス画像である。「所定の間隔」とは、スライス画像を得る際に濃淡を平均化する範囲である。スライス画像の間隔は特に限定されず、測定対象等によって適宜変更して実施することができるが、繊維状充填材を含む樹脂成形品内の充填材の配向状態を適切に解析するためには、スライス画像の間隔は充填材の平均直径以下、平均直径が不明な場合には20μm以下であることが好ましい。また、「所定の方向」はスライス画像の画像面に垂直な方向であり、所定の方向は所望の方向に設定することができる。
【0042】
上記のようにして得られるスライス画像の一例を図2、3に示す。図2、3にはモノトーンの画像が示されている。図2は試験片の全体を、図3はそのうちの一枚を取り出したスライス画像となる。より黒い部分は樹脂成形品内でX線を透過しやすい部分であり、より白い部分は樹脂成形品内でX線を透過し難い部分である。スライス画像には樹脂部分とフィラー部分とが含まれている。通常、樹脂部分はフィラー部分と比較してX線を透過しやすい。したがって、図3では、黒色部分が樹脂を表す傾向にあり、白色部分が充填材を表す傾向にある。なお、下記の通り、スライス画像にはノイズパターンも含まれることから、単純に黒色で表される部分が樹脂部分、白色で表される部分がフィラー部分であるとはいえない。
【0043】
樹脂部分とフィラー部分とはX線吸収率が異なるため、濃淡のある画像が得られる。さらに、このようにX線吸収率の異なる複数の材料から構成されている樹脂試験片2のスライス画像を得る場合、樹脂部分とフィラー部分との境界を挟んでX線吸収率が不連続的に変化する。このため、X線検出部12で得られる投影データにも不連続的(急峻)な変化が現れる。その結果、その1次元フーリエ変換像には不連続的な変化に起因する高周波成分が大きく現れる。この高周波成分に起因する数値計算誤差により、画像処理部15から得られる再構成画像にはアーチファクトと呼ばれる虚像(ノイズパターン)が出現する。このノイズパターンもスライス画像に含まれる。このノイズパターンはスライス画像を用いて充填材の配向状態を、従来の方法を用いて解析する上で大きな障害となっている。従来の方法は一本一本の充填材の配向状態を解析する方法であるからである。そのため、特許文献1の方法では画像の明暗度の範囲にて閾値を設定し、画像を2値化し、樹脂部、フィラー部の2領域に分けた後パワースペクトルを求めている。
【0044】
X線CT画像は、上記の通り図3に示されるような画像であり、白色の部分、黒色の部分、灰色の部分が含まれている。特許文献1に記載の方法では、それぞれの画素について、画素の画像濃度が適宜設定した画像濃度閾値以上の場合には白色を、画素の画像濃度が画像濃度閾値未満の場合には黒色になるように二値化している。
ただし、灰色部分を樹脂部、充填材部分に帰属させる場合、閾値を設定させる必要があるが、閾値によっては樹脂部が実際の体積分率と異なる場合がある。また画像の鮮明度、画像処理によるノイズ処理方法は、作業者の主観に依存する場合がある。その結果、実際の体積分率とは異なり、配向度、配向角の算出精度に悪い影響を及ぼすことが想定される。
そこで、本実施形態においては、以下に示す通り、パワースペクトル画像を取得し、当該パワースペクトル画像に基づいて充填材の配向状態を解析する。
【0045】
[パワースペクトル画像取得ステップ]
パワースペクトル画像取得ステップは、スライス画像取得ステップで取得したスライス画像から一又は二以上のスライス画像を選択し、選択したスライス画像に対してフーリエ変換を施すことによりパワースペクトル画像を取得するステップである。
【0046】
パワースペクトル画像の一例を図4(a)に示す。図4(a)に示すパワースペクトル画像は、図3に示す2次元画像に対してフーリエ変換を施すことで得たパワースペクトルである。
【0047】
[配向状態解析ステップ]
配向状態解析ステップは、パワースペクトル画像取得ステップで取得したパワースペクトル画像に基づいて、パワースペクトル画像における充填材の配向状態を解析して数値化するステップである。本実施形態の解析方法によれば、2次元画像毎に配向状態の傾向を解析するため、解析範囲全体の配向状態の傾向をX線CTの1画素分の長さにて極めて分解能が良く、かつ、正確に捉えることでできる。特に、肉厚方向においては、例えば、従来は1mm当たり10枚程度、かつ、1枚の厚みも不正確であったのに対し、本実施形態では1mm当たり100枚というように分解能が大幅に向上する。
【0048】
配向状態解析ステップにおいて、充填材の配向状態を数値化するには、図4(a)に示すグレースケール表示されたパワースペクトル画像中の任意の位置における画素の明暗度から、下記数式1、下記数式2、下記数式3を用い、下記数式4で示す2次元テンソルTを求める。
【0049】
【数3】
[数式1~4中、F(x,y)は、画像のX位置、Y位置における画素の濃度を示し、x及びyはそれぞれ画素の横方向、縦方向の位置を示す。]
【0050】
得られた2次元テンソルTの各成分値から固有ベクトル、固有値a、bを求める。計算手法としては、ヤコビ法、プログラム言語 python等の数値計算ライブラリで容易に計算/実装できる。また、プログラムを組んで後記の数式5におけるa、bを求めることができる。
【0051】
充填材の配向角の導出方法の一例について図5を参照して説明する。図5(a)は、パワースペクトル画像を示し、図5(b)は、配向角の導出方法について説明するための座標を示す。図5(b)に示すように 、画像のY方向を流動方向(FD)として、90°近傍の場合は流動方向(FD)、0°あるいは180°の場合は流動垂直方向(TD)となる。求めた固有ベクトル、固有値の組み合わせにて、固有値の高い方が主ベクトルとなり、主ベクトルの示す方向をベクトルの各成分から計算し、配向角とする。ベクトルの各成分値V1x,V1y からエクセル、Visulal C#などのAtan2関数により容易に角度が計算することができる。なお、図4(a)及び図5(a)においては、パワースペクトル画像は同一であるが、図4(a)では楕円を付し、図5(a)では矢線を付した点でそれぞれ異なる。
【0052】
次いで、充填材の配向度の導出方法の一例について説明する。配向度は相対配向度として、楕円状に分布する明度の長径と短径との比で表すことができる。例えば、図4(a)に示すパワースペクトル画像を楕円として捉え、当該楕円を図4(b)に示すように座標で表す。そして、図4(b)に示す楕円の長径がa、短径がbの場合、配向度は下記数式5となる。
相対配向度=a/b ・・・数式5
パワースペクトル画像から図4(b)のような楕円領域を定める明度の閾値は一意的に定まるものではないため、a、bの数値にはばらつきが生じ、その結果、配向度は一定しない。しかし、本実施形態においては、上記の通り、a、bを計算プログラムから求めることが可能である。そうすることで、a、bの数値が一意的に定まり、一定の配向度を算出することができる。
なお、長径aが主ベクトルの固有値、短径bが主ベクトルの垂直な方向の固有値となる。また、配向度は固有値、あるいは2次元テンソルTの成分でも表現してもよい。配向関数の導出方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
【0053】
なお、配向度及び配向角の分布のみでは、流動方向、流動垂直方向の弾性率や強度などの物性値との相関が得られない。そこで、数式4により各画像から計算された2次元テンソルTの成分XX、YYを用いて、数式6に示すX方向成分強度DX、数式7に示すY方向成分強度DYを求める。そして、その肉厚方向の平均値を求めることにより、画像が示す各方向の配向強度が得られる。
【数4】
【0054】
以上の通り、本実施形態の解析方法においては、X線CT画像の2値化処理を省略することができるため、その分、短時間で解析することができる。また、2値化において設定が困難であった閾値の設定、及び楕円領域を定める明度の閾値の設定が不要となり、その結果、配向角及び配向度の算出結果のばらつきを抑えることができる。
【実施例0055】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
[実施例1]
(スライス画像取得ステップ)
実施例において用いた樹脂成形品の形状は図6に示すような平板であり、厚さが1mm、2mm、3mm、及び4mmの4種がある。これらの樹脂成形品は射出成形にて作製した。樹脂成形品の形状及び射出成形の際の成形条件を以下に示す。
形状 :縦80mm、横80mm、厚さ1、2、3、4mmt
樹脂 :ガラス繊維15質量%含有ポリブチレンテレフタレート樹脂
金型温度:60℃
樹脂温度:260℃
充填率 :17.3cm/s
保圧 :49MPa,5sec
冷却時間:7sec
【0057】
次に、上記各樹脂成形品から、幅12.5mm×長さ20mmに切り出した樹脂試験片を作製し、スライス画像を取得した。撮影装置には市販のX線CT装置((株)コムスキャンテクノ製、ScanXmate-D090SS270 )を用いた。撮影条件を以下に示す。なお、得られたスライス画像のうち、厚さ2mmtのものを図3に示した。
電圧 :50kV
管電流:150μA
画素サイズ:10.6μm
【0058】
(パワースペクトル画像取得ステップ)
パワースペクトル画像は、ポリプラスチックス(株)製、プログラムを用いて、各画像に対して連続的にフーリエ変換を施すことにより作製した。作製したパワースペクトル画像を図4に示した。
【0059】
(配向状態解析ステップ)
上記の各パワースペクトル画像のパワースペクトルから上記した数式1、数式2,数式3を用い、数式4で示される2次元テンソルTを算出した。得られたXX、YY、XYの内、最も値が大きい成分を1として各成分の比を求めた。例として2次元テンソルTのそれぞれの成分は XX=0.32468、YY=1、XY=-0.14789となった。X方向成分強度DXは0.245、Y方向成分強度DYは0.755となった。
【0060】
得られた2次元テンソルTから、固有値分解を行い、固有値、及びそれに対応する固有ベクトルを求めた。併せて、固有値(a、b)と、上記した数式5より相対配向度a/bを求めた。図5に示す画像においての角度、相対配向度、固有値、固有ベクトル(主固有ベクトル)例を表1、図7に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
画素の積層方向を肉厚方向として、固有値、固有ベクトルから配向角及び配向度の分布を求めた。肉厚方向の位置にて配向角、配向度を図8、9に示す。
【0063】
また、得られた2次元テンソルTから、流動方向に相当するY方向成分強度DYを求め、各肉厚における分布を求めた。肉厚方向の相対位置に対するY方向成分強度分布を図10に示す。図10において、横軸は肉厚方向の相対位置を示し、0が表層、0.5が中心、1が反対側の表層を示す。縦軸は、Y方向成分強度の相対値を示す。また、図10において、それぞれ、破線は肉厚1mm、実線は肉厚2mm、点線は肉厚3mm、一点鎖線は肉厚4mmの試験片に対するグラフである。
【0064】
また、得られたY方向成分強度分布の平均値をそれぞれの肉厚について求め、試験片の引張強度と比較した。Y方向成分強度分布の平均値と引張強度との相関を図11に示す。Y方向成分強度平均値と引張強度には良好な相関が見られた。これより、材料物性におけるフィラー配向の影響が分かることになり、弾性率や強度の分析から、材料設計や製品設計が容易となる。
【0065】
[参考例1]
パワースペクトル画像取得ステップの前に2値化処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして解析を行った。2値化処理は画像処理ソフトImageJ(開発元 Wayne Rashand)を用いた。2値化後の画像を図12に、フーリエ変換後のパワースペクトル画像を図13に、肉厚方向の位置にて配向角分布を図14に、配向度を図15に示す。参考例1の場合、配向度が1に近く、解析した画像の範囲の大部分がランダム配向に近い結果となった。これに対して、実施例1の場合(図8、9参照)、配向度が高く、図2、3に示す製品中央部の配向状態をより正確に再現している。本実施形態の解析方法によれば、充填材の配向状態の傾向を非常に正確に解析できることが確認された。しかも、2値化処理を要しないため、解析時間も短時間となる。具体的には、2値化処理をしていない実施例1は、2値化処理をした参考例1よりも、解析時間を約30分短縮することができた。
図1
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